(第1の実施形態)
以下、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した第1の実施形態を図面に従って説明する。
図1は、本実施形態のEPS1の概略構成図である。同図に示すように、ステアリングホイール(ステアリング)2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック5に連結されており、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック5の往復直線運動に変換される。そして、このラック5の往復直線運動により転舵輪6の舵角が変更されるようになっている。
また、EPS1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与する操舵力補助装置としてのEPSアクチュエータ10と、該EPSアクチュエータ10の作動を制御する制御手段としてのECU11とを備えている。
本実施形態のEPSアクチュエータ10は、その駆動源であるモータ12がラック5と同軸に配置された所謂ラック型のEPSアクチュエータであり、モータ12が発生するアシストトルクは、ボールねじ機構(図示略)を介してラック5に伝達される。尚、本実施形態のモータ12は、ブラシレスモータであり、ECU11から三相(U,V,W)の駆動電力の供給を受けることにより回転する。そして、モータ制御装置としてのECU11は、このモータ12が発生するアシストトルクを制御することにより、操舵系に付与するアシスト力を制御する(パワーアシスト制御)。
本実施形態では、ECU11には、トルクセンサ14及び車速センサ15が接続されている。そして、ECU11は、これらトルクセンサ14及び車速センサ15によりそれぞれ検出される操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、EPSアクチュエータ10の作動、即ちパワーアシスト制御を実行する。
次に、本実施形態のEPSの電気的構成について説明する。
図2は、本実施形態のEPSの制御ブロック図である。同図に示すように、ECU11は、モータ制御信号を出力するモータ制御信号出力手段としてのマイコン17と、モータ制御信号に基づいてモータ12に三相の駆動電力を供給する駆動回路18とを備えている。
尚、本実施形態の駆動回路18は、直列に接続された一対のスイッチング素子を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータであり、マイコン17の出力するモータ制御信号は、駆動回路18を構成する各スイッチング素子のオンduty比を規定するものとなっている。そして、モータ制御信号が各スイッチング素子のゲート端子に印加され、同モータ制御信号に応答して各スイッチング素子がオン/オフすることにより、車載電源(図示略)の直流電圧が三相(U,V,W)の駆動電力に変換されてモータ12に供給されるようになっている。
本実施形態では、ECU11には、モータ12に通電される各相電流値Iu,Iv,Iwを検出するための電流センサ21u,21v,21w、及びモータ12の回転角(電気角)θを検出するための回転角センサ22が接続されている。そして、マイコン17は、これら各センサの出力信号に基づき検出されたモータ12の各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θ、並びに上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて駆動回路18にモータ制御信号を出力する。
詳述すると、本実施形態のマイコン17は、上記操舵トルクτ及び車速Vに基づいて、操舵系に付与すべきアシスト力(目標アシスト力)を決定し、当該アシスト力をモータ12に発生させるべく、上記検出された各相電流値Iu,Iv,Iw及び回転角θに基づく電流制御を実行することにより上記モータ制御信号を生成する。
具体的には、マイコン17は、操舵系に付与するアシスト力、即ちモータトルクの制御目標値として電流指令値を演算する電流指令値演算手段としての電流指令値演算部23と、電流指令値演算部23により算出された電流指令値に基づいてモータ制御信号を生成するモータ制御信号生成手段としてのモータ制御信号生成部24とを備えている。
電流指令値演算部23は、上記トルクセンサ14及び車速センサ15により検出された操舵トルクτ及び車速Vに基づき、モータトルクの制御目標値に対応する電流指令値として、d/q座標系のq軸電流指令値Iq*を演算し、モータ制御信号生成部24に出力する。一方、モータ制御信号生成部24には、電流指令値演算部23の出力するq軸電流指令値Iq*とともに、各電流センサ21u,21v,21wにより検出された各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角センサ22により検出された回転角θが入力される。そして、モータ制御信号生成部24は、これら各相電流値Iu,Iv,Iw、及び回転角θ(電気角)に基づいて、d/q座標系における電流フィードバック制御を実行することによりモータ制御信号を生成する。
さらに詳述すると、本実施形態のモータ制御信号生成部24は、d/q座標系における電流フィードバック制御(d/q軸電流F/B)の実行により三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する第1電流制御部24aを備えている。そして、通常時には、この第1電流制御部24aにより演算される各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づいて、モータ制御信号を生成する。
図3に示すように、第1電流制御部24aに入力された各相電流値Iu,Iv,Iwは、回転角θとともに3相/2相変換部25に入力され、同3相/2相変換部25によりd/q座標系のd軸電流値Id及びq軸電流値Iqに変換される。そして、q軸電流値Iqは、電流指令値演算部23から入力されたq軸電流指令値Iq*とともに減算器26qに入力され、d軸電流値Idは、d軸電流指令値Id*(Id*=0)とともに減算器26dに入力される。
各減算器26d,26qにおいて演算されたd軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqは、それぞれ対応するF/B制御部27d,27qに入力される。そして、これら各F/B制御部27d,27qにおいて、電流指令値演算部23が出力するd軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*に実電流値であるd軸電流値Id及びq軸電流値Iqを追従させるべくフィードバック制御が行われる。
即ち、F/B制御部27d,27qは、入力されたd軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqに所定のF/Bゲイン(PIゲイン)を乗ずることにより、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を演算する。演算されたこれらd軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*は、回転角θとともに2相/3相変換部28に入力され、同2相/3相変換部28において三相の相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に変換される。そして、第1電流制御部24aは、その各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*をPWM変換部30へと出力する。
PWM変換部30は、入力された各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*に基づきduty指令値αu,αv,αwを生成し、更に、これら各duty指令値αu,αv,αwに示されるオンduty比を有するモータ制御信号を生成する。そして、図2に示すように、マイコン17は、このモータ制御信号生成部24において生成されたモータ制御信号を、駆動回路18を構成する各スイッチング素子(のゲート端子)に出力することにより、同駆動回路18の作動、即ちモータ12への駆動電力の供給を制御する構成となっている。
[異常発生時の制御態様]
図2に示すように、本実施形態のECU11では、マイコン17には、EPS1に何らかの異常が生じた場合に、該異常の態様を特定するための異常判定部31が設けられている。そして、ECU11(マイコン17)は、この異常判定部31により特定(判定)された異常の態様に応じて、モータ12の制御モードを変更する。
詳述すると、異常判定部31には、EPSアクチュエータ10の機械系統の異常を検出するための異常信号S_trが入力されるようになっており、同異常判定部31は、この入力される異常信号S_trに基づいて、EPS1における機械系統の異常を検出する。また、異常判定部31には、検出された各相電流値Iu,Iv,Iw、回転角速度ω、及び上記モータ制御信号生成部24(第1電流制御部24a)において演算されたq軸電流偏差ΔIq、並びに各相のduty指令値αu,αv,αw等が入力される。そして、異常判定部31は、これら各状態量に基づいて、制御系における異常の発生を検出する。
具体的には、本実施形態の異常判定部31は、トルクセンサ14の故障や駆動回路18の故障等、制御系全般に関する異常の発生を検出するために、q軸電流偏差ΔIqを監視する。即ち、q軸電流偏差ΔIqと所定の閾値とを比較し、q軸電流偏差ΔIqが(所定時間以上継続して)当該閾値以上となった場合には、制御系に異常が発生したものと判定する。
また、異常判定部31は、各相電流値Iu,Iv,Iw、回転角速度ω、及び各相のduty指令値αu,αv,αwに基づいて、動力線(モータコイルを含む)の断線や駆動回路18の接点不良等に起因する通電不良相の発生等を検出する。この通電不良相発生の検出は、X相(X=U,V,W)の相電流値Ixが所定値Ith以下(|Ix|≦Ith)、且つ回転角速度ωが断線判定の対象範囲内(|ω|≦ω0)である場合に、該相に対応するduty指令値αxが所定値Ith及び判定対象範囲を規定する閾値ω0に対応する所定範囲(αLo≦αx≦αHi)にない状態が継続するか否かにより行われる。
尚、この場合において、上記相電流値Ixの閾値となる所定値Ithは「0」近傍の値に設定され、回転角速度ωの閾値ω0は、モータの最高回転数に相当する値に設定される。そして、duty指令値αxに関する閾値(αLo,αHi)は、それぞれ通常制御においてduty指令値αxが取り得る下限値よりも小さな値、及び上限値よりも大きな値に設定されている。
即ち、図4のフローチャートに示すように、異常判定部31は、検出される相電流値Ix(の絶対値)が所定値Ith以下であるか否かを判定し(ステップ101)、所定値Ith以下である場合(|Ix|≦Ith、ステップ101:YES)には、続いて回転角速度ω(の絶対値)が所定の閾値ω0以下であるか否かを判定する(ステップ102)。そして、回転角速度ωが所定の閾値ω0以下である場合(|ω|≦ω0、ステップ102:YES)には、duty指令値αxが上記の所定範囲(αLo≦αx≦αHi)内にあるか否かを判定し(ステップ103)、所定範囲内にない場合(ステップ103:NO)には、該X相に通電不良が生じているものと判定する(ステップ104)。
そして、相電流値Ixが所定値Ithよりも大きい場合(|Ix|>Ith、ステップ101:NO)、回転角速度ωが閾値ω0よりも大きい場合(|ω|>ω0、ステップ102:NO)、又はduty指令値αxが上記所定範囲内にある場合(αLo≦αx≦αHi、ステップ103:YES)には、X相に通電不良が生じていないと判定する(X相正常、ステップ105)。
つまり、X相(U,V,W相の何れか)に通電不良(断線)が生じた場合、当該相の相電流値Ixは「0」となる。ここで、X相の相電流値Ixが「0」又は「0に近い値」となる場合には、このような断線発生時以外にも以下の二つのケースがありうる。
− モータの回転角速度が最高回転数に達した場合
− 電流指令自体が略「0」である場合
この点を踏まえ、本実施形態では、先ず、判定対象であるX相の相電流値Ixを所定値Ithと比較することにより、当該相電流値Ixが「0」であるか否かを判定する。そして、断線時以外に相電流値Ixが「0」若しくは「0に近い値」をとる上記二つのケースに該当するか否かを判定し、当該二つのケースに該当しない場合には、X相に断線が発生したものと判定する。
即ち、相電流値Ixが「0」近傍の所定値Ith以下となるほどの回転角速度ωではないにも関わらず、極端なduty指令値αxが出力されている場合には、当該X相に通電不良が生じているものと判定することができる。そして、本実施形態では、U,V,Wの各相について、順次、上記判定を実行することにより、通電不良が発生した相を特定する構成となっている。
尚、説明の便宜のため図4のフローチャートでは省略したが、上記判定は、電源電圧がモータ12を駆動するために必要な規定電圧以上である場合を前提として行われる。そして、最終的な異常検出の判断は、所定ステップ104において通電不良が生じているものと判定される状態が所定時間以上継続したか否かにより行われる。
本実施形態では、ECU11(マイコン17)は、この異常判定部31における異常判定の結果に基づいて、モータ12の制御モードを切り替える。具体的には、異常判定部31は、上記のような通電不良検出を含む異常判定の結果を異常検出信号S_tmとして出力し、電流指令値演算部23及びモータ制御信号生成部24は、その入力される異常検出信号S_tmに応じた電流指令値の演算、及びモータ制御信号の生成を実行する。そして、これにより、マイコン17におけるモータ12の制御モードが切り替えられるようになっている。
さらに詳述すると、本実施形態のECU11は、通常時の制御モードである「通常制御モード」、及びモータ12の駆動を停止すべき異常が発生している場合の制御モードである「アシスト停止モード」、並びにモータ12の各相の何れかに通電不良が生じた場合の制御モードである「二相駆動モード」、以上の大別して3つの制御モードを有している。そして、異常判定部31の出力する異常検出信号S_tmが「通常制御モード」に対応するものである場合には、電流指令値演算部23及びモータ制御信号生成部24は、それぞれ、上記通常時における電流指令値の演算、及びモータ制御信号の生成を実行する。
一方、異常判定部31の出力する異常検出信号S_tmが「アシスト停止モード」である場合には、電流指令値演算部23及びモータ制御信号生成部24は、モータ12の駆動を停止すべく、それぞれ電流指令値の演算、及びモータ制御信号の生成を実行する。尚、「アシスト停止モード」が選択される場合としては、機械系統の異常やトルクセンサ14に異常が発生した場合のほか、電力供給系統における異常発生時については、過電流が生じた場合等が挙げられる。また、「アシスト停止モード」には、直ちにモータ12の駆動を停止する場合のほか、モータ12の出力を徐々に低減する、即ちアシスト力を徐々に低減した後に停止させる場合があり、この場合、モータ制御信号生成部24は、その電流指令値として出力するq軸電流指令値Iq*の値(絶対値)を徐々に低減する。そして、マイコン17は、モータ12の停止後、駆動回路18を構成する各スイッチング素子を開状態とし、図示しない電源リレーを開放する構成となっている。
また、「二相駆動モード」に対応する異常検出信号S_tmには、通電不良発生相を特定する情報が含まれている。そして、異常判定部31の出力する異常検出信号S_tmがこの「二相駆動モード」に対応するものである場合、モータ制御信号生成部24は、当該通電不良発生相以外の二相を通電相としてモータ駆動を継続すべく、そのモータ制御信号の生成を実行する。
詳述すると、図2に示すように、本実施形態のモータ制御信号生成部24は、上記d/q座標系における電流フィードバック制御の実行により各相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を演算する第1電流制御部24aに加え、相電流フィードバック制御の実行により各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する第2電流制御部24bを備えている。そして、異常判定部31から入力される異常検出信号S_tmが上記「二相駆動モード」に対応するものである場合には、この第2電流制御部24bにより演算される各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づいてモータ制御信号の出力を実行する。
さらに詳述すると、図3に示すように、本実施形態の第2電流制御部24bは、検出された通電不良発生相以外の残る二相のうちの一相を制御相として選択する制御相選択部32と、当該制御相として選択される相についての相電流指令値Ix*(X=U,V,Wの何れか)を演算する相電流指令値演算部33とを備えている。そして、当該制御相として選択された相電流値Ixとその相電流指令値Ix*(Ix**)との偏差に基づく相電流フィードバック制御の実行により、通電不良発生相以外の二相を通電相としたモータ駆動を実行すべく各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。
具体的には、相電流指令値演算部33が出力する相電流指令値Ix*は、ガード処理部34に入力される。そして、ガード処理が施された後の相電流指令値Ix**は、制御相選択部32において制御相として選択された相の相電流値Ixとともに、減算器35に入力される。減算器35は、相電流指令値Ix*から相電流値Ixを減算することにより相電流偏差ΔIxを演算し、その演算された相電流偏差ΔIxをF/B制御部36に出力する。そして、F/B制御部36は、入力された相電流偏差ΔIxに所定のF/Bゲイン(PIゲイン)を乗ずることにより、当該制御相についての相電圧指令値Vx*を演算する。
F/B制御部36において演算された相電圧指令値Vx*は、相電圧指令値演算部37に入力される。そして、相電圧指令値演算部37は、その制御相についての相電圧指令値Vx*に基づいて各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する。
即ち、通電不良発生相は通電不能であり、また二相駆動時の各通電相の位相はπ/2(180°)ずれることになる。従って、通電不良発生相の相電圧指令値は「0」、残る他方の通電相の相電圧指令値は、上記制御相に関する相電圧指令値Vx*の符号を反転することにより演算可能である。そして、本実施形態の第2電流制御部24bは、このようにして演算された各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を上記PWM変換部30へと出力する構成となっている。
ここで、本実施形態の相電流指令値演算部33は、二相駆動時、その通電不良発生相に対応する所定の回転角を除いて、要求トルク、即ちモータトルクの制御目標値(q軸電流指令値Iq*)に対応するモータ電流(q軸電流値Iq)が発生するような相電流指令値Ix*を演算する。
具体的には、相電流指令値演算部33は、その通電不良発生相に応じて、以下の(1)〜(3)式に基づいて、残る二相のうちの一相の相電流指令値Ix*を演算する。
即ち、上記(1)〜(3)式により、通電不良発生相に対応する所定の回転角θA,θBを漸近線として、正割曲線(cosθの逆数(セカント:secθ))、又は余割曲線(sinθの逆数(コセカント:cosecθ))状に変化する相電流指令値Ix*が演算される(図5参照)。そして、このような正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流指令値Ix*に基づき相電流フィードバック制御を実行することにより、理論上、その漸近線に相当する所定の回転角θA,θBを除いて、要求トルク(q軸電流指令値Iq*)に対応したモータ電流(q軸電流値Iq)を発生させることができる(図6参照)。
尚、図5及び図6は、U相が通電不良相、V,W相の二相が通電相となった場合の例であり、上記の各漸近線に相当する二つの回転角のうち、電気角0°〜360°の範囲において、その値の小さい方を回転角θA、大きい方を回転角θBとすると、この場合、該各回転角θA,θBは、それぞれ「90°」「270°」となる。そして、V相が通電不良発生相である場合の所定の回転角θA,θBは、それぞれ「30°」「210°」となり、W相が通電不良発生相である場合の所定の回転角θA,θBは、それぞれ「150°」「330°」となる(図示略)。
また、実際には、各相のモータコイル12u,12v,12wに通電可能な電流(の絶対値)には上限があるため、本実施形態では、上記ガード処理部34において、相電流指令値演算部33から出力された相電流指令値Ix*を所定範囲内(−Ix_max≦Ix*≦Ix_max)に制限するガード処理が実行される。尚、「Ix_max」は、X相(U,V,W相)に通電可能な電流値の最大値であり、この最大値は、駆動回路18を構成する各スイッチング素子の定格電流等により規定される。このため、そのガード処理が行われる範囲(電流制限範囲:θ1<θ<θ2,θ3<θ<θ4)において、当該ガード処理後の相電流指令値Ix**は、その通電可能な上限値(Ix_max)又は下限値(−Ix_max)で一定となる。
つまり、本実施形態のマイコン17は、二相駆動時、各通電相に対して正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電すべく、相電流フィードバック制御を実行することにより、その漸近線に相当する所定の回転角θA,θB近傍に設定された電流制限範囲(θ1<θ<θ2,θ3<θ<θ4)を除き、要求トルクに対応するモータ電流を発生させる。そして、これにより、通電不良相の発生時においても、大きなトルクリップルの発生を招くことなく、良好な操舵フィーリングを維持したまま、アシスト力付与を継続する構成となっている。
次に、マイコンによる上記異常判定及び制御モードの切り替え、並びに二相駆動時におけるモータ制御信号生成の処理手順について説明する。
図7のフローチャートに示すように、マイコン17は、先ず何らかの異常が発生したか否かを判定し(ステップ201)、異常が発生したと判定した場合(ステップ201:YES)には、続いてその異常が制御系の異常であるか否かを判定する(ステップ202)。次に、ステップ202において、制御の異常が発生したと判定した場合(ステップ202:YES)、現在の制御モードが二相駆動モードであるか否かを判定し(ステップ203)、二相駆動モードではない場合(ステップ203:NO)には、当該制御系の異常が、通電不良相の発生であるか否かを判定する(ステップ204)。そして、通電不良相が発生したと判定した場合(ステップ204:YES)には、当該通電不良相以外の残る二相を通電相とするモータ制御信号の出力を実行する(二相駆動モード、ステップ205)。
上述のように、この二相駆動モードにおけるモータ制御信号の出力は、通電不良発生相に応じた所定の回転角θA,θBを漸近線として正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流指令値を演算し、その相電流指令値に基づく相電流フィードバック制御を実行することにより行われる。
即ち、図8のフローチャートに示すように、マイコン17は、先ず、通電不良発生相がU相であるか否かを判定し(ステップ301)、U相である場合(ステップ301:YES)には、上記(1)式に基づいて、V相についての相電流指令値Iv*を演算する(ステップ302)。次に、マイコン17は、その相電流指令値Iv*についてガード処理演算を実行し、当該ガード処理後の相電流指令値Iv**を所定範囲内に制限する(ステップ303)。そして、そのガード処理後の相電流指令値Iv**に基づく相電流フィードバック制御の実行によりV相についての相電圧指令値Vv*を演算し(ステップ304)、当該相電圧指令値Vv*に基づいて、各相の相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する(Vu**=0,Vv**=Vv*,Vw**=-Vv*、ステップ305)。
一方、上記ステップ301において、通電不良発生相がU相ではないと判定した場合(ステップ301:NO)、マイコン17は、通電不良発生相がV相であるかを判定し(ステップ306)、通電不良発生相がV相である場合(ステップ306:YES)には、上記(2)式に基づいて、U相についての相電流指令値Iu*を演算する(ステップ307)。次に、マイコン17は、その相電流指令値Iu*についてガード処理演算を実行し、当該ガード処理後の相電流指令値Iu**を所定範囲内に制限する(ステップ308)。そして、そのガード処理後の相電流指令値Iv**に基づく相電流フィードバック制御を実行し(ステップ309)、該相電流フィードバック制御の実行により演算された相電圧指令値Vu*に基づいて、各相の相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する(Vu**=Vu*,Vv**=0,Vw**=-Vu*、ステップ310)。
また、上記ステップ306において、通電不良発生相がV相ではないと判定した場合(ステップ306:NO)、マイコン17は、上記(3)式に基づいて、V相についての相電流指令値Iv*を演算し(ステップ311)、続いてガード処理演算を実行することにより、当該ガード処理後の相電流指令値Iv**を所定範囲内に制限する(ステップ312)。そして、そのガード処理後の相電流指令値Iv**に基づく相電流フィードバック制御を実行し(ステップ313)、該相電流フィードバック制御の実行により演算された相電圧指令値Vv*に基づいて、残る二相(V,W相)の相電圧指令値Vu**,Vw**を演算する(Vu**=-Vv*,Vv**=Vv*,Vw**=0、ステップ314)。
そして、マイコン17は、上記ステップ305、ステップ310、又はステップ314において演算された各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**に基づくモータ制御信号を生成し、駆動回路18に出力する(ステップ315)。
尚、上記ステップ201において、特に異常はないと判定した場合(ステップ201:NO)には、マイコン17は、上述のように、d/q座標系での電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号の出力を実行する(通常制御モード、ステップ206)。また、上記ステップ202において、制御系以外の異常が発生したと判定した場合(ステップ202:NO)、ステップ203において、既に二相駆動モードであると判定した場合(ステップ203:YES)、又は上記ステップ203において、通電不良相の発生以外の異常が発生したと判定した場合(ステップ203:NO)には、マイコン17は、アシスト停止モードへと移行する(ステップ207)。そして、モータ12の駆動を停止するためのモータ制御信号の出力、及び電源リレーの開放等を実行する。
[二相駆動時の回転角補正制御]
次に、本実施形態における二相駆動時の回転角補正制御の態様について説明する。
図3に示すように、本実施形態では、二相駆動時、相電流フィードバック制御を実行することにより各相電圧指令値Vu**,Vv**,Vw**を演算する第2電流制御部24bには、その相電流指令値Iv*を生成する際に基礎となる回転角θを補正する回転角補正制御部40が設けられている。そして、相電流指令値演算部33には、電流指令値演算部23の出力するq軸電流指令値Iq*とともに、この回転角補正制御部40において補正された後の回転角θ´が入力されるようになっている。
詳述すると、図9に示すように、本実施形態の回転角補正制御部40には、回転角速度ω及び操舵トルクτが入力されるようになっており、同回転角補正制御部40は、これら各状態量、即ち回転角速度ωに基づく第1補正量ε1を演算する第1補正量演算部41、及び操舵トルクτに基づく第2補正量ε2を演算する第2補正量演算部42を有している。そして、回転角補正制御部40は、これら第1補正量ε1及び第2補正量ε2に基づいて、上記回転角θの補正を実行する。
具体的には、第1補正量演算部41は、入力される回転角速度ωと同符号(同方向)を有し、且つ当該回転角速度ωの絶対値が大きいほど、より大きな絶対値を有する第1補正量ε1、即ちモータ12の回転角速度ωが速いほど、より大きくその位相を「モータ回転方向」に進めるべく回転角θを補正するような第1補正量ε1を演算する。
尚、この第1補正量ε1の演算においては、「ω=0」付近、即ち「フィードバック制御における位相遅れの問題」の影響が小さな領域においては、当該回転角速度ωの変化に対して第1補正量ε1の値が変化しない(ε1=0)となるような所謂「不感帯」が設定されている。
また、第2補正量演算部42は、ステアリング2に入力された操舵トルクτと同符号(同方向)を有する所定値(絶対値)を第2補正量ε2として演算、即ち当該「ステアリング操作の方向(操舵方向)」に位相をずらすべく回転角θを補正するような第2補正量ε2を演算する。
本実施形態では、これら第1補正量ε1及び第2補正量ε2(ε2´)は、回転角センサ22により検出された回転角θとともに、加算器43に入力される。そして、回転角補正制御部40は、この加算器43において、回転角θに対し第1補正量ε1及び第2補正量ε2(ε2´)を加算した値を、補正後の回転角θ´として相電流指令値演算部33へと出力する構成となっている。
次に、上記回転角補正(位相補正)の作用・効果について説明する。
上述のように、二相駆動時、各通電相に対して正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流を通電する構成においては、その通電相となる各相電流値の符号が、その漸近線に対応する各回転角θA,θBを挟んで反転する(図5参照)。そのため、電流指令値としての相電流指令値Ix*と実電流である相電流値Ixとの間に位相のずれが生じた場合(図10参照)には、モータ12の回転角θが、上記漸近線に対応する所定の回転角θA,θBを通過する際、当該所定の回転角θA,θBの近傍に、その電流制御における電流指令値の符号と実電流値の符号とが一致しなくなる領域が発生する。つまり、モータ12を逆方向に回転させるような電流の発生する領域が存在することになり、その逆方向の電流の発生、即ち操舵方向とは逆向きのアシストトルク(逆アシストトルク)の発生によりモータ12の円滑な回転が妨げられ、ひいては操舵フィーリングの低下を招くおそれがある。
即ち、電流フィードバック制御においては、モータの「がた」のような機械的要因や演算時間の遅れ、或いは電流制御の位相遅れ等といった時間的遅れ要素の存在により、その電流指令値に対する実電流の位相が遅れる傾向がある。そして、このような位相遅れの大きさは、モータの回転角速度の上昇に応じて拡大する。
この点を踏まえ、本実施形態の回転角補正制御部40では、回転角センサ22により検出され当該回転角補正制御部40に入力される回転角θに対し、モータ12の回転角速度ω(の絶対値)が大きいほど、より大きくモータ回転方向に位相を進めるべく当該回転角θを補正するような第1補正量ε1を加算する。
つまり、電流フィードバック制御における位相遅れは、その回転角速度ωが速いほど、大きなものとなる。従って、上記回転角速度ωに応じて、当該位相遅れを補償すべくその操舵方向(モータ回転方向)に位相を進める回転角補正を実行することにより、モータ12の回転角θが上記漸近線に対応する所定の回転角θA,θBを通過する際、電流指令値の符号と実電流値との符号が不一致となる領域を縮小することができる。そして、これにより、「操舵方向とモータ回転方向とが一致する場合」においては、その位相遅れの発生に起因する操舵方向に対しモータ12を逆回転させるような電流の発生、即ち逆アシストトルクの発生を抑制して、その円滑なるモータ回転を確保する構成となっている。
一方、このような第1補正量ε1の加算が有効に機能する場合、即ち「操舵方向とモータ回転方向とが一致」するような通常操舵時においては、上記第2補正量ε2の加算による回転角θの補正は、上記第1補正量ε1の加算よる補正を単に「底上げする」意味合いの強いものである。
しかしながら、その操舵トルクτの方向(符号)に応じて「操舵方向に位相をずらす値」を有する当該第2補正量ε2の加算による回転角θの補正は、ある特定の条件下においては、その二相駆動時における良好な操舵フィーリングの実現を担保するために必要な、もう一つの重要な役割を果たすものとなっている。
詳述すると、上述のように、本実施形態では、二相駆動時、その正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流指令値Ix*によって、電力供給線や各スイッチング素子等の許容範囲を超えるような相電流値Ixが発生することを防止すべく、相電流指令値Ix*を所定範囲内(−Ix_max≦Ix*≦Ix_max)に制限する電流制限が行われる。従って、その漸近線に相当する所定の回転角θA,θB近傍に設定された電流制限範囲(θ1<θ<θ2,θ3<θ<θ4)おいては、相電流指令値Ix*(相電流値Ix)の値が、その通電可能な上限値(Ix_max)又は下限値(−Ix_max)で一定の値となる(図5参照)。
ところが、本来、このような正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流の通電によりモータ制御をする場合において、一定のモータトルクを発生させるためには、理論上、その相電流値Ix(の絶対値)は、上記所定の回転角θA,θB近傍において無限大まで増大しなければならない。従って、上記のような電流制限を実行した場合には、その電流制限範囲において、その発生するモータトルクがアシスト力目標値を下回ることになり、ひいては、これが円滑なモータ回転の妨げとなる可能性がある。
即ち、図11に示すように、二相駆動時、上記電流制限に伴うモータトルク(アシストトルク)の低下より、当該所定の回転角θA,θB近傍には、操舵方向のトルク(操舵トルクとアシストトルクとの和)が戻し方向の反力トルク(軸力)を下回る区間が存在する。そして、当該区間においては、その電流制限に起因する操舵方向のトルクの低下により、その操舵速度が減速することになる(減速区間:θa<θ<θa´,θb<θ<θb´)。
ここで、この減速区間への突入速度を「ωin」、脱出速度を「ωout」、及びモータ慣性を「Jm」とし、当該減速区間における減速エネルギーを「−En」とすると、エネルギー保存法則から、次の(4)式が成立する。
尚、この場合における「突入速度」とは、例えば、図11中、操舵方向が「左から右」である場合における回転角θaにおける回転角速度ωの値あり、「脱出速度」とは、同じく回転角θa´における回転角速度ωの値である。
従って、脱出速度ωoutが「0」を超える、即ちこの減速区間を停止することなく通過するためには、その突入速度ωinが次の(5)式に示される臨界速度ωcrよりも速くなけらばならない。
つまり、図12に示すように、その回転角速度ωが臨界速度ωcr以下であるような低速操舵時(ω≦ωcr)には、上記減速区間を通過することができず、例えば、当該減速区間の脱出位置である回転角θa´よりも手前(突入角となる回転角θa側)の回転角θpで、その回転角速度ωは「0」となる。ここで、この減速区間では、操舵方向のトルク(操舵トルクとアシストトルクとの和)よりも戻し方向のトルク(反力トルク)の方が大きい(「操舵トルク」+「アシストトルク」<「反力トルク(軸力)」)。そのため、モータは、同回転角θpで一度停止した後、戻し方向へと逆回転する。そして、その操舵トルクに特別の変化がない場合、最終的には、操舵方向のトルクと戻し方向のトルクとが釣り合う回転角θaにおいて回転停止する、即ち所謂「引っ掛かり」の発生した状態となるおそれがある。
この点を踏まえ、本実施形態では、操舵トルクτの方向(符号)に応じて、その操舵方向に位相をずらすような第2補正量ε2を当該回転角θに加算する(図9参照)。即ち、上記第2補正量ε2の加算による回転角θの補正は、上記のような引っ掛かり発生の抑制をその主たる目的とするものとなっている。
図13(a)(b)は、上記当該回転角補正制御部40内の加算器43において(図9参照)、回転角θに加算される各補正量(第1補正量ε1及び第2補正量ε2)の合計を、その操舵トルクτの方向(符号)毎に表した図である。
同図に示すように、操舵方向(操舵トルクτの符号)とモータ回転方向(回転角速度ωの符号)とが一致するような通常操舵時においては、基本的に、その補正量の符号は回転角速度ωの符号と同一、つまりモータの回転方向に対してその位相を進めるものとなっている。
しかしながら、本実施形態では、上記のように、回転角速度ωに応じて演算される第1補正量ε1とともに、第2補正量ε2として「操舵方向に位相をずらすような値(操舵トルクτと同符号)」が演算され、加算される構成となっている(図9参照)。このため、操舵方向とモータ回転方向とが一致せず、且つ回転角速度ωが低い領域、即ち上記減速区間の存在によるモータ回転の停止及び逆回転の発生するような上記引っ掛かりの発生する蓋然性の高い状況下においては、モータ12の回転方向に対してその位相を遅らせるような回転角補正が行われる。
即ち、上記「電流フィードバック制御における位相遅れ」の問題は、こうした減速区間の存在に起因した引っ掛かりが発生するような回転角速度ωの低い領域では特段の問題とはならない。従って、上記構成により、あえて、その位相をずらすように回転角θを補正することで、低速操舵時には、当該回転角θが上記漸近線に対応する所定の回転角θA,θBを通過する際に、その操舵方向とは逆方向にモータ12を回転させるような電流を発生させる、つまり操舵方向とは逆向きのアシストトルクを発生させることができる。そして、本実施形態では、上記減速区間の存在によりモータ12の回転が停止し、及び逆回転が発生した場合には、このような第2補正量ε2に基づく回転角補正により発生する逆アシストトルクを利用してモータ12の回転を加速することにより、上記のような引っ掛かりの発生を抑制する構成となっている。
つまり、本実施形態では、図14に示すように、減速区間においてモータ12が反転動作を繰り返すなかで、上記逆アシストトルクとして与えられるエネルギーを回転角速度ωに変換し、臨界速度ωcrを超える突入速度ωinを獲得させる。そして、これにより、当該減速区間の通過が可能な状態することにより、ステアリング操作に対するモータ回転の追従性が著しく低下するような引っ掛かりの発生を抑制する構成となっている。
さらに詳述すると、同図に示すように、減速区間への突入速度ωin(例えば、同図中、回転角θaにおける回転角速度ω)が臨界速度ωcr以下である場合には、上述のように当該減速区間を通過することができない。そして、途中の回転角θp1で停止した後、戻し方向へと逆回転することになる。しかし、上記第2補正量ε2に基づく回転角補正による逆アシストトルクの付与によりその逆回転を補助することで、当該逆回転時には、その突入速度ωinよりも速い回転角速度ωで減速区間への突入位置(回転角θa(θp0))を通過することになる。そして、当該突入位置よりも大きく戻し方向に位置する回転角θp2まで戻された後、再び操舵方向へと回転する。
このとき、その戻し方向への逆回転によって、操舵系は捩れた状態となり、トルクセンサ14により検出される操舵トルクτは、その絶対値が大きなものとなる。そして、その操舵トルクτに基づき演算される大きなアシスト力よって再び操舵方向に加速されることにより、前回突入時よりも速い突入速度ωin、即ち前回突入時の最大到達点である回転角θp1よりも進み方向に位置する回転角θp3まで到達可能な突入速度ωinを獲得する。
そして、その再突入時の突入速度ωinが臨界速度ωc以下である場合、即ち最大到達点である回転角θp3が減速区間内である場合には、こうした反転動作及び逆アシスト付与による加速を繰り返すことにより、臨界速度ωcrよりも速い突入速度ωinを獲得し、当該減速区間を通過する構成となっている(図15参照)。
次に、上記のように構成された回転角補正制御の効用について検証する。
図16及び図17は、ともに、二相駆動時における操舵トルクτとモータ12の回転角速度ωとの関係、即ちステアリング操作に対するモータ回転の追従性を示すグラフであり、図16は上記回転角補正制御を行わない場合のグラフ、図17は上記回転角補正制御を行った場合のグラフである。尚、これら各図において、破線に示す波形Lは操舵トルクτの推移を示し、実線に示す波形Mはモータの回転角速度ωの推移を示している。
図16に示すように、上記回転角補正制御を行わない従来の構成では、左右に比較的ゆっくりステアリング操作を行った場合(区間t2)、及び左右に素早くステアリング操作を行った場合(区間t3)の何れにおいても、その操舵トルクτの推移に対するモータの回転角速度ωの追従性が低い。そして、特に、ゆっくりとステアリング操作を行った場合(区間t1)、即ち低速操舵時には、操舵トルクτの値がその検出限界(|τ0|)まで到達しているにも関わらず、極めて小さな回転角速度ωしか出ていない。つまり、モータがほとんど回転せず、その追従性が著しく低下した所謂引っ掛かりが発生した状態となっている。
これに対し、図17に示すように、上記回転角補正制御を行った場合には、左右に比較的ゆっくりステアリング操作を行った場合(区間t5,t7)、及び左右に素早くステアリング操作を行った場合(区間t6,t8)、ともに操舵トルクτの推移に対するモータの回転角速度ωの追従性が高い。
つまり、このように「操舵方向とモータ回転方向とが一致する」ような、ある程度の操舵速度を有するステアリング操作の場合には、上記回転角速度ωに応じた第1補正量ε1の加算による回転角θの補正(図9参照)が有効に機能している。そして、これにより、その円滑なモータ回転が担保されることによって、上記ステアリング操作に対する優れた追従性が実現されているものと推察することができる。
また、ゆっくりステアリング操作を行った場合(低速操舵時、区間t4)においても、そのステアリング操作に対する追従性の向上が確認できる。そして、その際には、操舵トルクτ及び回転角速度ωに振動が見られることから、こうした減速区間の存在に起因するモータ回転の停止及び逆回転が発生するような低速操舵時には、上記操舵方向と同方向(操舵トルクτの符号と同符号)の値を有する第2補正量ε2の加算による回転角θの補正(図9参照)が有効に機能していると推察できる。
つまり、低速操舵時において「操舵方向とモータ回転方向とが不一致」となった場合、当該第2補正量ε2の加算による補正は、操舵方向とは逆向きのモータ回転方向に対してその位相を遅らせる補正、即ちそのモータ12の逆回転をアシストするような逆アシストトルクを発生させるものとなる。そして、同図中に見られる操舵トルクτ及び回転角速度ωの振動は、こうした減速区間におけるモータ12の反転動作、及び上記逆アシスト付与によるモータ回転の加速を示すものであり、同図中、区間t4のような低速操舵時には、この一連の加速メカニズムにより、モータ回転が加速され、その結果、引っ掛かりの発生が抑制されていると考えることができる。
[回転角補正に起因する振動及び引っ掛かりの抑制制御]
次に、本実施形態における上記回転角補正に起因する振動及び引っ掛かりの抑制制御の態様について説明する。
このように、本実施形態では、二相駆動時には、上記回転角速度ωに応じた第1補正量ε1、及び操舵トルクτの方向(符号)に応じた第2補正量ε2の加算による回転角θの補正を実行する。そして、これにより、幅広い操舵速度領域における円滑なモータ回転を確保して、その良好な操舵フィーリングの実現を図る構成となっている。
しかしながら、現実には、その回転角補正量が常に最適な値となるように予め設計することは困難であり、当該回転角補正量に過不足が生ずることで、その本来の目的に反する結果となってしまう可能性がある。
つまり、本実施形態のように、回転角θを補正することによる「位相のずれ」を利用し、当該「位相のずれ」に基づく逆アシストトルクの発生を制御することにより、そのモータ回転の円滑化を図る場合、その効用は、その回転角補正量が最適である場合に最大化する。そして、その回転角補正量に過不足が生じた場合、即ち最適値から乖離した場合には、その乖離が進むほどその効用は小さなものとなり、その乖離が更に大きくなった場合には、本来の目的に反し、モータの円滑な回転を妨げるような逆アシストトルクの発生を誘発してしまうことになる。そして、こうした補正量の過不足は、とりわけ、その第2補正量ε2の加算による影響が大きく、特に、低速操舵時において、その影響がより顕著に現れやすい傾向がある。
即ち、二相駆動時、電流制限の実行により、その漸近線に対応する所定の回転角θA,θBにおいては、相電流指令値Ix*(相電流値Ix)の値が、その通電可能な上限値(Ix_max)又は下限値(−Ix_max)で一定の値となる(図5参照)。そのため、本実施形態のように「位相のずれ(位相遅れ)」を利用して逆アシストトルクを発生させる構成では、基本的に、当該位相のずれにより生ずる逆アシストトルクの絶対値は略一定である。従って、図18(a)(b)に示すように、そのモータ逆回転時の逆アシスト付与により与えられるエネルギーの総量は、当該逆アシストトルクの発生区間(逆アシスト区間)の長さ、即ちその「位相のずれ幅」を規定する回転角θの補正量εtにより決定されることになる。
具体的には、例えば、図18(a)に示す例と図18(b)に示す例とを比較した場合、図18(b)に示す例の方が、その補正量εt(の絶対値)が大きい。従って、図18(b)に示す例の方が、より逆アシスト区間が長くなり、その結果、その逆アシスト付与により与えられるエネルギーの総量もまた大となる。
これに対し、低速操舵時、そのモータ回転を加速するために上記逆アシストトルクとして与えるべき最適なエネルギーの総量は、その状況に応じて変化する。それゆえ、予めその回転角補正量が最適となるように第2補正量ε2を決定することは、極めて難しい課題となる。
即ち、その逆アシスト付与量の不足による引っ掛かりの抑制を確実なものとするならば、上記第2補正量ε2の設定値には、比較的大きな値(絶対値)を選択することが望ましい。しかしながら、「ステアリング操作をアシストする方向にモータトルクを発生させる」というEPSの機能を考慮すれば、本来、その操舵方向に対して逆向きのモータ回転が発生すること自体、好ましいものではない。つまり、モータ12の反転動作は、本質的に、運転者に違和感を与えやすいものであり、その反転動作量が大きいほど、運転者は、それを振動として感じやすくなる。従って、こうした加速制御における振動の発生を抑制する観点からすれば、第2補正量ε2として設定すべき値は、その過大な反転動作の発生、即ち操舵系に生ずる振動を増大させることの無いような最小限の値に留めることが望ましいことになる。
また、上述のように「操舵方向とモータ回転方向とが一致」する通常操舵状態においては、第2補正量ε2は、所謂「底上げ」としての意味合いの強いものである。ところが、この第2補正量ε2による回転角補正は、モータ12の回転角速度ωに基づく第1補正量ε1に不感帯が設定された低速領域、即ち本来、位相遅れ補償のための回転角補正を実行する必要性の低い通常操舵状態における低速操舵時にも実行される(図13(a)(b)参照)。そして、こうした通常操舵状態における第2補正量ε2による回転角補正は、そのステアリング操作を妨げる方向に作用する逆アシストトルクの発生を誘発する可能性がある。従って、こうした円滑なモータ回転を妨げるような逆アシストトルクの発生、及びこれに伴う振動の発生を抑制する観点からも、第2補正量ε2として大きな値(絶対値)を有する固定値を用いることにはデメリットがある。
このような背反する課題に対処すべく、本実施形態の回転角補正制御部40は、上述のような電流制限により生じたステアリング操作に対するモータ12の著しい追従性の低下、即ち引っ掛かりの発生を検出する検出手段としての機能を備えている。そして、当該引っ掛かりの発生が検出された場合には、その回転角補正制御において加算する第2補正量ε2を、通常時の値(絶対値)よりも大きな値(ε2´)へと変更する構成となっている。
即ち、初期値としての第2補正量ε2には、比較的小さな値(絶対値)を設定値として選択する。これにより、操舵方向とモータ回転方向とが一致する通常操舵状態においては、その位相のずれによるモータ回転を妨げるような逆アシストトルクの発生を抑制することが可能になり、且つ上記加速制御の実行時においても、その回転角補正量の過大を要因とした振動の発生を抑えることができる。そして、実際に引っ掛かりが発生した場合には、その第2補正量ε2を通常時よりも大きな値(ε2´)に切り替えることにより、その逆アシスト付与により与えるエネルギー総量を増大させて、引っ掛かりの解消を図る。
そして、本実施形態では、このように「操舵方向に位相をずらすような値(操舵トルクτと同符号)」を有する第2補正量ε2,ε2´を切り替えることにより、上記意図的な位相のずれを利用した逆アシスト付与によるモータ回転の円滑化と、その逆アシスト付与により生ずる振動の抑制との両立を図る構成となっている。
詳述すると、図9に示すように、本実施形態の回転角補正制御部40は、ステアリング操作に対するモータ12の追従性の低下、即ち引っ掛かりの発生を検出する検出手段としての引っ掛かり判定部45を備えている。本実施形態では、この引っ掛かり判定部45には、操舵トルクτ、モータ12の回転角θ及び回転角速度ωが入力されるようになっており、同引っ掛かり判定部45は、これら各状態量に基づいて、引っ掛かりの発生の有無を判定する。そして、引っ掛かり判定部45は、その判定結果を引っ掛かり検出信号S_msとして第2補正量演算部42に出力する。尚、本実施形態の引っ掛かり判定部45は、引っ掛かりを検出した場合に、その引っ掛かり検出信号S_msを「ON」とする。
具体的には、図19のフローチャートに示すように、本実施形態の引っ掛かり判定部45は、先ず操舵トルクτ(の絶対値)が所定の閾値τ1を超えるか否かを判定する(ステップ401)。尚、本実施形態では、このステップ401における所定の閾値τ1には、上記操舵トルクτの検出限界(図16参照、|τ0|)に対応する値、詳しくは同検出限界よりも僅かに小さな値が設定されている。
次に、このステップ401において、操舵トルクτ(の絶対値)が所定の閾値τ1を超えると判定した場合(τ>τ1、ステップ401:YES)、引っ掛かり判定部45は、続いて、モータ12の回転角速度ω(の絶対値)が所定の閾値ω1に満たないか否かを判定する(ステップ402)。尚、本実施形態では、このステップ402における所定の閾値ω1には、「0」近傍の値が設定されている。
ここで、本実施形態では、このステップ402において、回転角速度ω(の絶対値)が所定の閾値ω1に満たないと判定した場合(ω<ω1、ステップ402:YES)、引っ掛かり判定部45は、更に、回転角θが上記電流制限範囲(図11参照、θ1<θ<θ2,θ3<θ<θ4)内にあるか否かを判定する(ステップ403)。そして、このステップ403において、回転角θが上記電流制限範囲内にあると判定した場合(ステップ403:YES)には、引っ掛かりが発生したものと判定して、その出力する引っ掛かり検出信号S_msを「ON」とする(ステップ404)。
尚、上記ステップ401において、操舵トルクτが所定の閾値τ1以下であると判定した場合(τ≦τ1、ステップ401:NO)、又は上記ステップ402において、回転角速度ωが所定の閾値ω1以上である判定した場合(ω≧ω1、ステップ402:YES)には、引っ掛かり判定部45は、引っ掛かりが発生していないものと判定する。そして、その出力する引っ掛かり検出信号S_msを「OFF」とする(ステップ405)。同様に、上記ステップ403において、回転角θが上記電流制限範囲内にはないと判定した場合(ステップ403:NO)にも、その出力する引っ掛かり検出信号S_msを「OFF」とする(ステップ405)。
つまり、操舵トルクτの値がその検出限界(|τ0|)に対応するまでに増大しているにも関わらず、極めて小さな回転角速度ωしか出ていないということは、ステアリング操作に対するモータ12の追従性が著しく低下している、即ち引っ掛かりが発生していると判定することができる。そして、このとき、上記電流制限範囲内に回転角θがある場合には、その引っ掛かりが上記電流制限の実行に起因するものである可能性が極めて高い。
そして、本実施形態の第2補正量演算部42は、このような引っ掛かり判定部45の判定結果を示す引っ掛かり検出信号S_msが「ON」となった場合には、その出力する第2補正量ε2を、通常時の値よりも大きな値(ε2´)に切り替える構成となっている。
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)回転角補正制御部40は、ステアリング操作の方向に位相をずらすべく回転角θを補正するような第2補正量ε2を演算する第2補正量演算部42を備え、その演算された第2補正量ε2を回転角θに加算することにより回転角補正を実行する。また、回転角補正制御部40は、電流制限の実行により生じた上記減速区間の存在に起因するステアリング操作に対するモータ回転の著しい追従性の低下、即ち引っ掛かりの発生を検出する検出手段としての引っ掛かり判定部45を備える。そして、第2補正量演算部42は、当該引っ掛かりの発生が検出された場合には、その出力する第2補正量ε2を、通常時の値(絶対値)よりも大きな値(ε2´)へと変更する。
即ち、回転角θの補正により生ずる「位相のずれ」に基づいて、その逆アシストトルクの発生を制御することによりモータ回転の円滑化を図る場合、その効用は、その回転角補正量が最適である場合に最大化するが、その回転角補正量に過不足が生じた場合、即ち最適値から乖離した場合には、その乖離が進むほど、その効用は小さなものとなる。そして、その乖離が更に大きくなった場合には、本来の目的に反して、モータの円滑な回転を妨げるような逆アシストトルクの発生を誘発してしまうという問題があり、特に、上記第2補正量ε2に基づく回転角補正が主体となる低速操舵時においては、その影響がより顕著に現れやすくなる。このため、その回転角補正量が常に最適となるよう、当該第2補正量ε2の値を予め設定することは極めて困難である。
しかしながら、上記構成によれば、操舵方向とモータ回転方向とが一致する通常操舵状態においては、その位相のずれによるモータ回転を妨げるような逆アシストトルクの発生を抑制することが可能になり、且つ上記加速制御の実行時においても、その回転角補正量の過大を要因とした振動の発生を抑制することができる。そして、実際に引っ掛かりが発生した場合には、その加速制御における逆アシスト付与量を増大させて速やかに引っ掛かりの解消を図ることができる。その結果、簡素な構成にて、モータ回転の更なる円滑化を図り、より優れた操舵フィーリングを実現することができるようになる。
(2)引っ掛かり判定部45は、モータ12の回転角θが電流制限範囲内にある場合にのみ、その出力する引っ掛かり検出信号S_msを「ON」、即ち引っ掛かりの発生を検出した旨の判定をする。
上記構成によれば、縁石への接触やステアリングエンドへの到達等、物理的な要因による可能性を排除して、第2補正量ε2の増大による上記加速制御の強化が有効な状況、即ち電流制限の実行により生ずる減速区間の存在を起因とした引っ掛かりの発生を、より高精度に検出することができる。その結果、より円滑なモータ回転を実現して更なる操舵フィーリングの向上を図ることができるようになる。
(第2の実施形態)
以下、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。
尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、二相駆動時における回転角補正制御の態様のみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
図20に示すように、本実施形態の回転角補正制御部50には、上記第1の実施形態の回転角補正制御部40における第1補正量演算部41及び第2補正量演算部42(図9参照)に代えて、逆アシスト補正量演算部51が設けられている。
本実施形態では、この逆アシスト補正量演算部51には、操舵トルクτ、モータ12の回転角θ及び回転角速度ωが入力されるようになっている。そして、同逆アシスト補正量演算部51は、これらの各状態量に基づいて、上記減速区間の存在に起因するモータ回転の停止及び逆回転の発生を検知し、その逆回転をアシストする方向のモータトルク、即ち逆アシストトルクが発生するように、その位相をずらすべく回転角補正が行われるような逆アシスト補正量εraを演算する。
詳述すると、本実施形態では、逆アシスト補正量演算部51の出力する逆アシスト補正量εraは一定の値(絶対値)を有するものとなっている。そして、上記入力される各状態量に基づいて、逆アシストトルクが発生する方向にその位相をずらすべく当該逆アシスト補正量εraの符号を決定する。即ち、逆アシスト補正量εra(εra´)の加算による回転角補正により逆アシストトルクが発生するように、モータ回転方向に対して「進み位相補正」又は「遅れ位相補正」を行うべくその符号を決定する。そして、上記予め設定された一定の値(絶対値)に、該決定された符号を付した値を逆アシスト補正量εraとして出力する構成となっている。
具体的には、逆アシスト補正量演算部51は、モータ回転が停止及び逆回転した場合には、回転角θと上記漸近線に相当する所定の回転角θvとの位置関係に基づいて(θv=θA,θB)、その補正後の回転角θ´を当該所定の回転角θv側にずらすように上記「進み位相補正」又は「遅れ位相補正」が行われるように、その逆アシスト補正量εraの符号を決定する。
即ち、本来、パワーアシスト制御は、そのステアリング操作をアシストすべく、操舵方向に作用するモータトルクが発生するように、そのモータ回転を制御するものである。ところが、上述のように、二相駆動時、正割曲線又は余割曲線状に変化する相電流の通電を行うものにおいては、その漸近線に相当する所定の回転角θvにおいて各相電流の方向が反転するため、当該各相電流の反転タイミングにずれが生じた場合には、操舵方向とは逆向きのモータトルク、即ち逆アシストトルクが発生することになる。そして、上記第1の実施形態では、その第2補正量ε2の加算によって、予め操舵方向に位相をずらすような回転角補正を行うことにより、上記減速区間の存在に起因するモータ回転の停止及び逆回転が発生した場合には、その位相のずれにより生ずる逆アシストトルクを利用して、モータ回転を加速する構成となっている。
つまり、上記第1の実施形態は、予め「逆回転時においてはモータ回転方向に対して遅れ位相補正」となるような回転角補正を実行しておくことで、図21(a)に示すように、操舵方向とモータ回転方向とが一致せず、且つ回転角θが上記漸近線に相当する所定の回転角θvよりもモータ回転方向にある場合に、上記逆アシストトルクが発生するようになっていた。即ち、上記第1の実施形態では、減速区間の存在によりモータ12が逆回転した場合において、当該逆回転により回転角θが上記所定の回転角θvよりも反操舵方向側へと戻された場合にのみ、逆アシストトルクが発生する構成となっている(図14参照)。
しかしながら、図21(b)に示すように、操舵方向とモータ回転方向とが一致せず、且つ上記漸近線に相当する所定の回転角θvの方が回転角θよりもモータ回転方向にある場合には、反対に「モータ回転方向に対して進み位相補正(操舵方向に対して遅れ位相補正)」を実行することによって、逆アシストトルクを発生させることができる。
そして、本実施形態では、図22に示すように、このような回転角θと上記漸近線に相当する所定の回転角θvとの位置関係に基づいて、そのモータ回転方向に対する「進み位相補正」又は「遅れ位相補正」を切り替えることにより、より効果的に逆アシスト付与によるモータ回転の加速制御を実行する構成となっている。
次に、本実施形態における逆アシスト補正量出力の処理手順について説明する。
図23のフローチャートに示すように、逆アシスト補正量演算部51は、先ず、操舵方向とモータ回転方向とが不一致であるか否かを判定し(ステップ501)、不一致である場合(ステップ501:YES)には、続いて回転角θが上記電流制限範囲内(θ1<θ<θ2,θ3<θ<θ4)にあるか否かを判定する(ステップ502)。尚、上記ステップ501における回転方向の判定は、操舵トルクτ及びモータ12の回転角速度ωの符号が一致するか否かに基づいて行われ、その場合における「不一致」には、上記第1の実施形態と同様に、モータ12が停止している場合(回転角速度ω=0)も含まれる。
次に、上記ステップ502において、回転角θが上記電流制限範囲内にあると判定した場合(ステップ502:YES)、逆アシスト補正量演算部51は、続いて、現在の回転角θが上記所定の回転角θvよりもモータ回転方向、即ち操舵方向に対して逆回転方向側にあるか否かを判定する(ステップ503)。
尚、このステップ503において、「モータ回転方向側にある(ステップ503:YES)」とは、モータ回転方向に向かって、回転角θが上記所定の回転角θvよりも奥側(図22中左側)にある場合であり、「モータ回転方向側にない(ステップ503:NO)」とは、回転角θが上記所定の回転角θvよりも手前(図22中右側)にある場合を示す。
そして、モータ回転方向側にないと判定した場合(ステップ503:NO、図21(b)参照)には、その出力する逆アシスト補正量εraの符号を、当該逆アシスト補正量εraの加算による回転角補正が、モータ回転方向に対して進み位相補正となるように決定して同逆アシスト補正量εraを出力する(進み位相出力、ステップ504)。
一方、モータ回転方向側にあると判定した場合(ステップ503:YES、図21(a)参照)には、その出力する逆アシスト補正量εraの符号を、当該逆アシスト補正量εraの加算による回転角補正が、モータ回転方向に対して遅れ位相補正となるように決定して同逆アシスト補正量εraを出力する(遅れ位相出力、ステップ505)。
そして、上記ステップ501において、操舵方向とモータ回転方向とが一致すると判定した場合(ステップ501:NO)、又は上記ステップ502において、回転角θが上記電流制限範囲にはないと判定した場合(ステップ502:NO)には、逆アシスト補正量演算部51は、その逆アシスト補正量εraの出力自体を実行しない(ステップ506)。
[回転角補正に起因する振動及び引っ掛かりの抑制制御]
次に、本実施形態における上記回転角補正に起因する振動及び引っ掛かりの抑制制御の態様について説明する。
上述のように、モータ12に逆回転が生じた場合に、回転角補正に伴う位相のずれにより生ずる逆アシストトルクを利用して、その逆回転を加速する構成においては、その回転角補正量として予め最適な値を設定することは極めて困難である。
この点を踏まえ、図20に示すように、本実施形態の回転角補正制御部50には、引っ掛かり抑制ゲイン演算部55が設けられており、同引っ掛かり抑制ゲイン演算部55は、上記第1の実施形態における引っ掛かり判定部45と同様の引っ掛かり判定を実行する(図19参照、ステップ401〜ステップ403)。そして、当該引っ掛かりの発生を検出した場合には、上記逆アシスト補正量演算部51により演算された逆アシスト補正量εraを増大させるような引っ掛かり抑制ゲインKmsを演算するように構成されている。
詳述すると、本実施形態では、この引っ掛かり抑制ゲイン演算部55により演算された引っ掛かり抑制ゲインKmsは、逆アシスト補正量εraとともに乗算器57に入力され、同逆アシスト補正量εraに乗ぜられる。即ち、本実施形態の引っ掛かり抑制ゲイン演算部55は、上記判定により引っ掛かりの発生を検出した場合には、引っ掛かり抑制ゲインKmsとして「1」よりも大きなの値を出力するようになっている。具体的には、本実施形態の引っ掛かり抑制ゲイン演算部55は、引っ掛かりが解消されたと判定されるまで、その出力する引っ掛かり抑制ゲインKmsの値を漸次増大、即ち徐々に増大させるように構成されている(図24参照)。
そして、本実施形態の回転角補正制御部50は、この引っ掛かり抑制ゲインKmsを乗ずることにより補正された後の逆アシスト補正量εra´を回転角θに加算することにより、その回転角補正量の増大を実行する構成となっている。
以上、本実施形態によれば、以下のような作用・効果を得ることができる。
(1)回転角補正制御部50には、逆アシスト補正量演算部51が設けられており、同逆アシスト補正量演算部51は、上記減速区間の存在に起因するモータ回転の停止及び逆回転の発生を検知して、一定の値(絶対値)を有する逆アシスト補正量εraを演算する。そして、逆アシスト補正量演算部51は、回転角θと上記漸近線に相当する所定の回転角θvとの位置関係に基づいて(θv=θA,θB)、その加算による補正後の回転角θ´を当該所定の回転角θv側にずらすような「進み位相補正」又は「遅れ位相補正」が行われるよう当該逆アシスト補正量εraの符号を決定して出力する。
上記構成によれば、二相駆動時、その減速区間の存在によりモータ12が逆回転した場合において、当該逆回転により回転角θが上記所定の回転角θvよりも反操舵方向側へと戻された場合にのみならず、未だ回転角θが所定の回転角θvよりも操舵方向側にある段階から、逆アシストトルクを発生させることができる。その結果、より効果的にモータ12の回転を加速させることができるようになる。
(2)回転角補正制御部50には、引っ掛かり抑制ゲイン演算部55が設けられており、同引っ掛かり抑制ゲイン演算部55は、上記第1の実施形態における引っ掛かり判定部45と同様の引っ掛かり判定を実行する。そして、当該引っ掛かりの発生を検出した場合には、上記逆アシスト補正量演算部51により演算された逆アシスト補正量εraを増大させるような引っ掛かり抑制ゲインKmsを演算する。
上記構成によれば、予め比較的小さな値(絶対値)を有する逆アシスト補正量εraを初期値として設定することが可能になる。これにより、操舵方向とモータ回転方向とが一致する通常操舵状態においては、その位相のずれによるモータ回転を妨げるような逆アシストトルクの発生を抑制することが可能になり、且つ上記加速制御の実行時においても、その回転角補正量の過大を要因とした振動の発生を抑制することができる。そして、実際に引っ掛かりが発生した場合には、当該逆アシスト補正量εraを増大させ、その加速制御における逆アシスト付与量を増大させることにより、速やかに引っ掛かりの解消を図ることができる。その結果、簡素な構成にて、モータ回転の円滑化を図り、より優れた操舵フィーリングを実現することができるようになる。
(3)引っ掛かり抑制ゲイン演算部55は、引っ掛かりが解消されたと判定されるまで、その出力する引っ掛かり抑制ゲインKmsの値を漸次増大、即ち徐々に増大させるように構成される。
上記構成によれば、容易且つ簡素な構成にて、引っ掛かり抑制ゲインKmsの最適化を図ることができるとともに、その逆アシスト補正量εraの増大に伴う逆アシストトルクの変化を穏やかなものとすることができる。その結果、引っ掛かり後の動き出しを円滑化して、更なる操舵フィーリングの向上を図ることができるようになる。
(第3の実施形態)
以下、本発明を電動パワーステアリング装置(EPS)に具体化した第2の実施形態を図面に従って説明する。
尚、本実施形態と上記第1の実施形態との主たる相違点は、モータ回転の追従性低下を検出する引っ掛かり判定の態様のみである。このため、説明の便宜上、第1の実施形態と同一の部分については同一の符号を付すこととして、その説明を省略する。
さて、上記第1の実施形態(及び第2の実施形態)では、基本的に、操舵トルクτ(の絶対値)が所定の閾値τ1を超えたにも関わらず(図19参照、ステップ401:YES)、回転角速度ω(の絶対値)が所定の閾値ω1に満たないと判定した場合(同図参照、ステップ402:YES)に、引っ掛かりが発生したものと判定した。これは、操舵トルクτの値がその検出限界(|τ0|)に対応するまでに増大しているにも関わらず、極めて小さな回転角速度ωしか出ていないということは、ステアリング操作に対するモータ12の追従性が著しく低下している、即ち「引っ掛かりが発生していると判定できる」という考えに基づくものである。
しかしながら、例えば、凍結路等の低μ路走行時には、その路面摩擦力の低下に伴い操舵トルク自体も小さくなる。このため、引っ掛かり発生時においても、操舵トルクτの値が上記所定の閾値τ1まで上昇せず、その速やかな検出が図られないという問題がある。
この点を踏まえ、本実施形態では、引っ掛かり判定部45(図9参照)は、モータ12の回転角θが一定となった場合、その時点からの操舵トルクτの変化量を監視する。そして、その変化量が所定の閾値(γ)を超えた場合に、引っ掛かりが発生していると判定する。
即ち、図25に示すように、引っ掛かり発生によりモータ12の回転角(電気角)θが一定となった場合、通常は、その引っ掛かり(引っ掛かり感)を解消すべくステアリング操作が行なわれることで、そのステアリング2に入力される操舵トルクτが増大する。そして、この傾向は、路面抵抗の大小に関わらず普遍である。そこで、本実施形態では、この増大する操舵トルクτの変化量に注目し、その引っ掛かり発生時における値(基準値τst)からの増加分が所定の閾値γを超える場合に、引っ掛かりが発生していると判定する。そして、これにより、低μ路走行時においても、その速やかな引っ掛かり検出が可能な構成となっている。
詳述すると、図26のフローチャートに示すように、引っ掛かり判定部45は、操舵トルクτ、及びモータ12の回転角θを取得すると(ステップ601)、続いて、後述する操舵トルク変化量の監視中であること示すフラグが既にセットされているか否かを判定する(ステップ602)。そして、このステップ602において、未だフラグがセットされていないと判定した場合(ステップ602:NO)には、モータ12の回転角微分値dθを演算し(ステップ603)、その回転角微分値dθが所定の閾値β以下であるか否かを判定する(ステップ604)。
ここで、この所定の閾値βには、ゼロ近傍の値が設定されている。即ち、回転角微分値dθが所定の閾値β以下であるということは、モータ12の回転角θが一定となったことを意味する。そして、本実施形態の引っ掛かり判定部45は、回転角微分値dθが閾値β以下である場合(dθ≦β、ステップ604:YES)には、操舵トルク変化量の監視中であることを示すフラグセット(ステップ605)、及びカウンタリセット(T=0、ステップ606)をする。そして、更に上記ステップ601で取得した操舵トルクτの値を、その監視の基準値τstとして記憶する(ステップ607)。
尚、上記ステップ602において、既にフラグがセットされている判定した場合(ステップ602:YES)には、上記ステップ603〜ステップ607の処理は実行されない。また、上記ステップ604において、回転角微分値dθが閾値βよりも大きいと判定された場合(dθ>β、ステップ604:NO)、即ちモータ12の回転角θが一定ではないと判定した場合には、上記ステップ605〜ステップ607、及び以下に示すステップ608以降の処理は実行されない。
次に、上記ステップ605〜ステップ607の処理を実行し、又は上記ステップ602において既にフラグがセットされていると判定した場合(ステップ602:YES)には、引っ掛かり判定部45は、上記ステップ601の実行により取得した現在の操舵トルクτと上記ステップ607において記憶された基準値τstとを比較する。具体的には、その差分値(|τ−τst|)が所定の閾値γを超えるか否かを判定する(ステップ608)。そして、当該差分値が所定の閾値γを超える場合(|τ−τst|>γ、ステップ608:YES)には、引っ掛かりが発生したものと判定する(ステップ609)。
また、引っ掛かり判定部45は、上記ステップ608において現在の操舵トルクτと基準値τstとの差分値が所定の閾値γ以下であると判定した場合(|τ−τst|≦γ、ステップ608:NO)には、上記カウンタをインクリメントし(T=T+1、ステップ610)、そのカウンタ値Tが所定値T0以上であるか否かを判定する(ステップ611)。そして、カウンタ値Tが所定値T0以上である場合(T≧T0、ステップ611:YES)には、タイムオーバーと判定して、上記フラグをリセットし、その操舵トルク変化量の監視を終了する(ステップ612)。尚、上記ステップ611において、カウンタ値Tが所定値T0に満たないと判定した場合(T<T0、ステップ611:NO)には、このステップ612の処理は実行されない。
このように、本実施形態の引っ掛かり判定部45は、上記ステップ601〜ステップ602の処理を所定の演算周期で実行する。そして、これにより、モータ12の回転角θが一定となった場合における操舵トルクτの変化量を監視し、当該操舵トルク変化量に基づく引っ掛かり判定を実行する構成となっている。
なお、上記各実施形態は以下のように変更してもよい。
・上記各実施形態では、モータ制御装置としてのECU11は、大別して、「通常制御モード」、「アシスト停止モード」、及び「二相駆動モード」の3つの制御モードを有することとした。しかし、異常発生時におけるモータ制御の形態は、これらのモードに限るものではない。つまり、通電不良相発生時に該通電不良発生相以外の二相を通電相としてモータ制御を実行する構成であれば、どのようなものに適用してもよい。また、異常検出(判定)の方法についても、本実施形態の構成に限るものではない。
・上記各実施形態では、電流指令値演算部23は、二相駆動時、通電不良発生相以外の二相のうちの一相についての相電流指令値を出力し、モータ制御信号生成部24は、当該相についての相電圧指令値を演算した後に、これに基づいて他相の相電圧指令値を演算することとした。しかし、これに限らず、電流指令値演算部23が、通電不良発生相以外の二相の両方についての相電流指令値を出力する構成としてもよい。
・また、上記各実施形態では、上記(1)〜(3)式に基づいて、U相又はW相の異常時には、V相の相電流指令値Iv*を演算し、V相の異常時には、U相の相電流指令値Iu*を演算することとした。しかし、これに限らず、U相又はV相の異常時には、W相の相電流指令値(Iw*)を演算し、W相の異常時には、U相の相電流指令値(Iu*)を演算する等の構成としてもよい。尚、この場合における各相電流指令値は、上記(1)〜(3)式の符号を逆にすることで演算可能である。
・更に、通電不良発生時における相電流指令値は、必ずしも上記(1)〜(3)式により演算した場合と完全には同一でなくともよい。即ち、所定の回転角を漸近線として略正割曲線又は略余割曲線状に変化する、或いはこれに近似して変化するような相電流指令値を演算しても、上記各実施形態に近い効果を得ることができる。但し、上記(1)〜(3)式に基づき相電流指令値を演算した場合が、最も要求トルクに近いモータ電流を発生させることが可能であり、該各式に基づき演算される相電流指令値に近い値が演算される方法ほど、より顕著な効果が得られることはいうまでもない。
・上記第2の実施形態では、逆アシスト制御を実行するための位相補償制御として、進み位相補正及び遅れ位相補正の両方を行うこととした(図21(a)(b)参照)。しかし、これに限らず、進み位相補正及び遅れ位相補正の何れか一方のみを行う構成としてもよい。
・上記各実施形態では、回転角補正制御部40(50)は、第2電流制御部24b内に設けれらることとしたが、当該第2電流制御部24bの外部に設ける構成としてもよい。
・上記第2の実施形態では、意図的に逆アシストトルクを発生させるような回転角補正を行う際には、回転角θが電流制限範囲内にあることを条件とした(図23参照、ステップ502)。しかし、このような条件判定は、必ずしも行わなくとも良い。
・上記第1の実施形態では、引っ掛かり判定部45の出力する引っ掛かり検出信号S_msが「ON」である場合には、第2補正量演算部42が、その出力する第2補正量ε2を、通常時の値よりも大きな(ε2´)に切り替えることにより、その回転角補正量の増大を行うこととした。しかし、これに限らず、回転角θ(又はθ´)を増大するための補正量を加算する、或いは上記第2の実施形態のようにゲイン(又は補正係数)を乗ずることにより補正する構成としてもよい。また、その場合、引っ掛かりが解消されたと判定されるまで、その出力する引っ掛かり抑制ゲインKmsの値を漸次増大、即ち徐々に増大させる構成としてもよい。
・上記第1の実施形態では、操舵トルクτの値がその検出限界(|τ0|)に対応するまでに増大しているにも関わらず(τ>τ1)、極めて小さな回転角速度ωしか出ていない場合(ω<ω1)、且つ回転角θが上記電流制限範囲内にある場合(図19参照、ステップ401〜ステップ403の全てがYES)に引っ掛かりが発生したものと判定した。しかし、これに限らず、例えば電流制限範囲内にあるか否かの判定は行わなくともよい。これは、特段の言及は無いが、上記第2の実施形態及び第3の実施形態についても同様である。
・また、上記第3の実施形態における引っ掛かり判定の方法を、上記第2の実施形態の構成に適用してもよい。
・さらに、電流制御の形態としては、必ずしも、上記各実施形態のような三相交流座標(U,V,W)における相電流フィードバック制御でなくともよい。例えば、以下に示す(6)〜(8)式により、通電不良発生相に応じた所定の回転角θA,θBを漸近線として、正接曲線(タンジェント)状に変化するd軸電流指令値Id*を演算する。そして、該d軸電流指令値Id*に基づくd/q座標系の電流フィードバック制御の実行によりモータ制御信号を生成する構成に適用してもよい(図27参照、同図はU相通電不良時の例)。また、フィードバック制御に限らず、オープン制御の実行によりモータ制御信号の出力を実行するものに適用してもよい。
1…電動パワーステアリング装置(EPS)、10…EPSアクチュエータ、11…ECU、12…モータ、12u,12v,12w…モータコイル、17…マイコン、18…駆動回路、23…電流指令値演算部、24…モータ制御信号生成部、24a…第1電流制御部、24b…第2電流制御部、31…異常判定部、33…相電流指令値演算部、36…F/B制御部、37…相電圧指令値演算部、40,50…回転角補正制御部、41…第1補正量演算部、42…第2補正量演算部、43…加算器、45…引っ掛かり判定部、51…逆アシスト補正量演算部、55…引っ掛かり抑制ゲイン演算部、57…乗算器、Ix,Iu,Iv,Iw…相電流値、Ix*,Iu*,Iv*,Iw*…相電流指令値、Ix_max…最大値、Vx*,Vu*,Vv*,Vw*,Vu**,Vv**,Vw**…相電圧指令値、Id…d軸電流値、Iq…q軸電流値、Id*…d軸電流指令値、Iq*…q軸電流指令値、θ,θ´,θA,θB,θv,θa,θa´,θb,θb´,θp,θp0,θp1,θp2,θp3…回転角、dθ…回転角微分値、β…閾値、ω…回転角速度、ωin…突入速度、ωout…脱出速度、ωcr…臨界速度、ω1…閾値、εt…補正量、ε1…第1補正量、ε2,ε2´…第2補正量、τ…操舵トルク、τ1…閾値、γ…閾値、S_ms…引っ掛かり検出信号、Kms…引っ掛かり抑制ゲイン、εra,εra´…逆アシスト補正量。