JP2009190988A - p38MAPキナーゼ活性化抑制剤 - Google Patents

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Abstract

【課題】優れた保湿効果や肌荒れ改善効果、p38MAPキナーゼ活性化抑制効果、DNA損傷改善効果、及びミトコンドリア機能障害改善効果を示す新規な組成物を提供する。
【解決手段】皮膚保湿剤組成物、p38MAPキナーゼ活性化抑制剤組成物、DNA損傷改善剤組成物、ミトコンドリア機能賦活剤組成物、それらを含有する皮膚外用剤又は化粧料は、アムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有する。
【選択図】なし

Description

本発明は、アムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有することを特徴とする、皮膚の老化の進行を抑制し得る保湿剤組成物、p38MAPキナーゼ活性化抑制剤組成物、DNA損傷改善剤組成物、及びミトコンドリア機能賦活剤組成物に関する。また、本発明は、これらの組成物を含有する皮膚外用剤又は化粧料に関する。更に、本発明は、その化粧料を皮膚に適用する美容方法に関する。
肌荒れや皮膚の老化の原因は様々であり、その発症機構も複雑であるが、近年特に注目されている原因の一つとして皮膚の保湿機能の低下がある。保湿機能が低下した皮膚は乾燥して、弾力性も失われる。このような乾燥肌は、アトピー性皮膚炎などの様々な皮膚疾患を招くおそれがあり、さらにはしみやたるみ等の皮膚の老化を進行させるおそれがある。このため、皮膚の状態改善目的の皮膚外用剤や美容目的の化粧料には、皮膚の老化の進行を抑制することを期待して、保湿効果や肌荒れ改善効果を有する有効成分として、例えば、プロリン等のアミノ酸、多糖類、アロエエキス等の植物エキスなどが配合されている。しかし、これらの有効成分を含有する従来の皮膚外用剤や化粧料の保湿効果や肌荒れ改善効果は、必ずしも充分とはいえず、より優れた保湿効果や肌荒れ改善効果を示す有効成分の開発が望まれている。
ところで、正常なヒトの体細胞の分裂能力には限界があり、一定の回数分裂を繰り返すと分裂寿命を迎え増殖を停止する。この現象は細胞老化と呼ばれ、細胞分裂に伴うテロメア長の短縮など細胞の内外から生じる様々なストレスにより引き起こされる現象であると考えられている。この現象に関連して、高齢者から採取した細胞は若い人から採取した細胞に比べ分裂可能回数が少ないことや、遺伝的早老症の患者から採取した細胞は同年齢の正常人から採取した細胞に比べ明らかに分裂可能回数が少ないことが報告されており(非特許文献1)、これらの報告は細胞老化が個体老化と密接な関係があることを示唆している。また、ストレス制御やDNA修復などが細胞老化と密接に関係していることからも、細胞老化が個体老化の一因となっていると考えられている。
このような細胞老化に関連して、さまざまなストレスに応答して活性化される細胞内因子の一つであるストレス応答MAPキナーゼ経路が注目されており、中でもp38MAPキナーゼは、酸化や紫外線などによって活性化され、活性化したp38が細胞内に蓄積することにより細胞老化を誘導することが報告されている(非特許文献2)。逆に、p38MAPキナーゼの活性化を抑制することにより細胞老化が遅延することも報告されており、既にp38MAPキナーゼ活性化阻害剤が市販されている〔SB203580、SB220025、(Calbiochem社)〕。これらの阻害剤は、炎症性サイトカインであるIL−1、IL−6あるいはIL−8の産生や細胞にアポトーシスを誘発するTNFの産生を抑制するため、炎症性患者の治療薬として公知であるが、皮膚の老化の進行を抑制するために、常に副作用のない新たなp38MAPキナーゼ活性化抑制剤の開発が強く望まれている。
また、肌荒れや皮膚の老化には紫外線が大きく関与していることも知られている。紫外線は表皮細胞のDNA断片化などのDNA損傷を引き起こし、過度のDNA損傷が起きると細胞死に至る。このため、紫外線により表皮細胞が受けるダメージを低減するための物質の探索や、損傷したDNAの修復を促す物質の探索がなされており、そのような物質としてビタミンEやその誘導体などが知られているが、皮膚の老化の進行を抑制するために、より効果の高いDNA損傷改善剤の開発が強く望まれている。
また、細胞内のエネルギー生産の中心であるミトコンドリアは、加齢による老化や光老化と密接な関わりがあると考えられている。ミトコンドリア電子伝達系において酸化的リン酸化反応過程で生じたプロトンがミトコンドリア内膜を介して輸送されると電位差(ミトコンドリア膜電位)が生じ、このミトコンドリア膜電位をエネルギーとして利用することでATP合成酵素によりATPが産生される。加齢により老化した細胞や紫外線によるダメージを受けた細胞では、ミトコンドリア膜電位の低下や電子伝達系の異常、ATP産生の低下などの機能障害が認められる。従って、ミトコンドリアの機能障害を抑制することにより、加齢による老化や光老化によって起こる細胞の機能低下を防ぐことができると考えられる。これまで、代表的なミトコンドリア機能障害改善剤としてグルタチオンが知られているが、経皮吸収性が低いことや、不安定であるという理由から皮膚外用剤には不向きであった。そこで、皮膚の老化の進行を抑制することを期待でき、皮膚外用剤としても使用可能な、安全かつ安定でより効果の高いミトコンドリア機能障害を改善するミトコンドリア機能賦活剤の開発が強く望まれている。
(井出利憲, 実験医学 第16巻18号 18-24, 1998) (H.Iwasa, et al., Genes Cells 8:131-144, 2003)
本発明の目的は、優れた保湿効果や肌荒れ改善効果、p38MAPキナーゼ活性化抑制効果、DNA損傷改善効果、及びミトコンドリア機能賦活効果を示す新規な組成物を提供することである。
本発明者らは、上記現況に鑑み、広く植物由来成分の探索を行った結果、アムラ(Emblica officinalis)の抽出物が、予想外にも、いままでに知られていない優れた保湿効果や肌荒れ改善効果、p38MAPキナーゼ活性化抑制効果、DNA損傷改善効果、及びミトコンドリア機能賦活効果を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、アムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚保湿剤組成物、p38MAPキナーゼ活性化抑制剤組成物、DNA損傷改善剤組成物、及びミトコンドリア機能賦活剤組成物に関する。また、本発明は、それらの組成物を含有する、保湿用、p38MAPキナーゼ活性化抑制用、DNA損傷改善用、もしくはミトコンドリア機能賦活用の皮膚外用剤又は化粧料に関する。更に、本発明は、その化粧料を皮膚に適用する美容方法に関する。
本発明で使用するアムラ(Emblica officinalis)抽出物は、保湿効果や肌荒れ改善効果、p38MAPキナーゼ活性化抑制効果、DNA損傷改善効果、及びミトコンドリア機能賦活効果を示すので、皮膚の老化の進行を抑制することができる。従って、アムラ(Emblica officinalis)抽出物を含有する組成物は、それらの効果を示す。また、本発明の美容方法においては、前述の本発明の効果を示す化粧料が表皮に適用される。従って、本発明の美容方法によれば、皮膚の老化の進行を抑制し、皮膚の状態を改善し、優れた美容効果を得ることができる。
本発明は、アムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有する皮膚保湿剤組成物、p38MAPキナーゼ活性化抑制剤組成物、DNA損傷改善剤組成物、及びミトコンドリア機能賦活剤組成物に関する。また、本発明は、これらの組成物を含有する皮膚外用剤又は化粧料、換言すれば、アムラ抽出物を含有し、保湿用、p38MAPキナーゼ活性化抑制用、DNA損傷改善用、もしくはミトコンドリア機能賦活用の皮膚外用剤又は化粧料に関する。更に、本発明は、その化粧料を皮膚に適用する美容方法に関する。
本発明に用いるアムラ(学名 Emblica officinalis; 別名;Phyllanthus emblica)は、別名、マラッカノキあるいはアンマロクと称され、トウダイグサ科に属する、インドから東南アジアにかけて分布する落葉の亜高木である。その果実は、インド古来の医学アーユル・ヴェーダのトリ・パラ(三果混合薬)の一つとして、慢性咳、肺病に効き、また肝機能を強化するという薬効の高いことで知られており、一般的には「アムラ」の呼称で特定されている。なお、本発明で使用する植物の種類や産地は特に限定されない。
本発明で利用するアムラの抽出物は、いずれも植物体の葉、茎、幹、樹皮、幼芽、花、果実、種子、根等の植物体の一部位又は複数部位の混合あるいは全草から抽出したものである。好ましくは、植物体の果実や樹皮から抽出して得られるものがよい。抽出は、前記植物体の各部位を生のまま用いてもよいが、乾燥、細切、粉砕、圧搾または発酵等の前処理を適宜に施した後、低温ないし加温下で溶媒を用いて抽出することが好ましい。その抽出方法は特に限定されないが、例えば、上記植物体の一部位、または2種以上の部位を、低温もしくは室温〜加温下の溶媒中に浸漬する方法が挙げられる。抽出時間は抽出溶媒の種類や抽出温度に応じて設定されるが、1時間から2週間程度が好ましい。
抽出溶媒としては、例えば水、低級1価アルコール(メチルアルコール、エチルアルコール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール等)、液状多価アルコール(グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール等)、低級エステル(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、炭化水素(ベンゼン、ヘキサン、ペンタン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、エーテル類(ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジプロピルエーテル等)、アセトニトリル等が挙げられ、それらの一種又は二種以上を用いることができる。また、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等を用いてもよい。必要に応じて、本発明の効果に影響のない範囲で更に、脱臭、脱色等の精製処理を行ってもよい。更に、必要により防腐防黴剤(フェノキシエタノール、パラオキシ安息香酸エステル類等)を添加後、低温下に1〜2昼夜保存した後ろ過をして用いてもよい。
アムラの好ましい抽出方法の具体例としては、0〜100vol%のエチルアルコール水溶液又は1,3−ブチレングリコール水溶液にアムラを投入し、室温又は30℃〜60℃に加温しながら1〜10日間撹拌して抽出を行った後、ろ過し、得られたろ液を更に1週間程室温下に放置して熟成させ、再びろ過を行い、アムラ抽出液を得るという方法が挙げられる。
本発明の各組成物、各皮膚外用剤又は化粧料中におけるアムラ抽出物の含有量は、乾燥固形分として好ましくは0.00001〜10質量%、より好ましくは0.00001〜2質量%である。アムラ抽出物の含有量がこの範囲内であれば、アムラ抽出物を安定に配合することができ、皮膚への安全性も高く、かつ高い薬効を発揮することができる。また、アムラ抽出物を抽出液形態として使用する場合は、溶質であるアムラ抽出物の乾燥固形物の含有量が上記範囲内であれば、その抽出液濃度は何ら限定されるものではない。
また、本発明において、アムラ抽出物は、通常用いられる各種の薬効剤、例えば、保湿剤、美白剤、抗炎症剤、抗酸化剤、細胞賦活剤、紫外線防止剤、血行促進剤等から選ばれる薬効剤の一種又は二種以上と併用することができる。それにより、本発明の効果をより高めることが可能である。
保湿剤としては、例えば、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩、アラニン、アルギニン、アルギン酸、アルギン酸ソーダ、キシリトール、グリシン、グルコース、シスチン、システイン、セリン、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、1,3−ブチレングリコール、1,2−ペンタンジオール、ヘキシレングリコール、キシリトール、ソルビトール、POEメチルグルコシド、マルチトール、マルトース、マンニトール、リシン、ハチミツ、ローヤルゼリー、コンドロイチン硫酸、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸ナトリウム、アセチルヒアルロン酸ナトリウム、ムコイチン硫酸、カロニン酸、トラネキサム酸、ベタイン、トレハロース、キトサン、尿素、セラミド、アテロコラーゲン、コレステリル−12−ヒドロキシステアレート、乳酸ナトリウム、胆汁酸塩、dl−ピロリドンカルボン酸塩、可溶性コラーゲン、ジグリセリン(EO)PO付加物、アシタバ抽出物、アスパラガス抽出物、イザヨイバラ抽出物、クインスシード抽出物、グアバ葉抽出物、セイヨウノコギリソウ抽出物、メリロート抽出物等が挙げられる。
美白剤としては、例えば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸エチル、L−アスコルビン酸ジパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸モノパルミチン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−硫酸ナトリウム、L−アスコルビン酸リン酸エステル、L−アスコルビン酸ステアリン酸エステル、L−アスコルビン酸−2−グルコシド、DL−α−トコフェロール−L−アスコルビン酸リン酸ジエステルジカリウム等のビタミンC類、胎盤抽出物、コウジ酸、エラグ酸、カミツレ抽出物、トコトリエノール、グルタチオン、アルブチン、トラネキサム酸、ウワウルシ抽出物、ユキノシタ抽出物、アセロラ抽出物、エイジツ抽出物、フェルラ酸、アデノシンリン酸二ナトリウム、リノール酸、4−n−ブチルレゾルシン、ハイドロキノン、パンテテイン−s−スルホン酸カルシウム、油溶性カンゾウ抽出物等が挙げられる。
抗炎症剤としては、例えば、アミノカプロン酸、アラントイン、インドメタシン、ビサボロール、サポニン、塩化リゾチウム、アズレン、グアイアズレン、グアイアズレンスルホン酸塩、グリチルリチン酸及びその誘導体、グリチルレチン酸及びその誘導体、サリチル酸及びその誘導体、ヒノキチオール、感光素、トラネキサム酸及びその誘導体、酸化亜鉛、ウコン抽出物、ゲンノショウコ抽出物、ボタン抽出物、レイシ抽出物、ワレモコウ抽出物等が挙げられる。
抗酸化剤としては、例えば、アスタキサンチン、β−カロテン、γ−オリザノール、カイネチン、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、フラボノイド、SOD、カタラーゼ、フラーレン、フィチン酸、フェルラ酸、没食子酸プロピル、ローズマリー抽出物、ユビキノン、α−リポ酸等が挙げられる。
細胞賦活剤としては、例えば、アミノ酪酸、イチョウ抽出物、ウイキョウ抽出物、オランダカラシ抽出物、ニンジン抽出物、クララ抽出物、クロレラ抽出物、サフラン抽出物、ダイズ抽出物、タイソウ抽出物、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、パントテン酸及びその誘導体、ビオチン、レチノール、ロイシン、感光素、リボフラビン及びその誘導体、ピリドキシン及びその誘導体等が挙げられる。
紫外線防御剤としては、例えば、オキシベンゾン、オキシベンゾンスルホン酸、テトラヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノン、ジヒドロキシジメトキシベンゾフェノンスルホン酸ナトリウム、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸塩、シノキサート、ジパラメトキシケイ皮酸モノ−2−エチルヘキサン酸グリセリル、ジイソプロピルケイ皮酸メチル、メトキシケイ皮酸メチル、パラメトキシケイ皮酸オクチル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル・ジイソプロピルケイ皮酸エステル混合物、パラアミノ安息香酸グリセリル、パラジメチルアミノ安息香酸アミル、パラジメチル安息香酸オクチル、パラアミノ安息香酸(PABA)、パラアミノ安息香酸エチル、サリチル酸エチレングリコール、サリチル酸オクチル、サリチル酸フェニル、サリチル酸ホモメンチル、ウロカニン酸、ウロカニン酸エチル、エチルヘキシルトリアゾン、ドロメトリゾール、ドロメトリゾールトリシロキサン、4−メトキシ−4'−tert−ブチルジベンゾイルメタン、酸化チタン、タルク、カルミン、ベントナイト、カオリン、酸化亜鉛等が挙げられる。
血行促進剤としては、例えば、サンショウ抽出物、ショウキョウ抽出物、センキュウ抽出物、チンピ抽出物、トウガラシ抽出物、トウキ抽出物、ボタン抽出物、ノニル酸ワレニルアミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸β−ブトキシエチルエステル、カプサイシン、カンタリスチンキ、イクタモール、カフェイン、タンニン酸、α−ボルネオール、ニコチン酸トコフェロール、イノシトールヘキサニコチネート、アセチルコリン、セファランチン、γ−オリザノール等が挙げられる。
また、本発明の各組成物、皮膚外用剤又は化粧料には、前記成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲内で、外用剤に通常用いられる成分である水、油脂類、ロウ類、炭化水素類、脂肪酸類、高級アルコール類、エステル類、植物抽出エキス類、水溶性高分子、界面活性剤、金属石鹸、アルコール、多価アルコール、pH調整剤、防腐剤、香料、粉体、増粘剤、色素、キレート剤等の成分を適宜配合することができる。
本発明の各組成物、各皮膚外用剤又は化粧料の剤形は、特に限定されず、例えば、低粘度液体、ペースト、クリーム、フォーム、乳液、パック、軟膏、粉剤、エアゾール、貼付剤等が挙げられる。なお、本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品のいずれにも適用することができる。具体的には、例えば、化粧水、化粧クリーム、乳液、美容液、化粧パック、化粧洗浄料、浴用剤、メーキャップ化粧料等に適用することができる。
本発明の各組成物、各皮膚外用剤又は化粧料の表皮に対する適用量は、少なすぎると発明の効果が得られず、多すぎても添加量に見合った効果が得られない。従って、アムラ抽出物(乾燥固形分)換算で、表皮単位面積(1cm)当たり、好ましくは0.0002〜1340μg/cm・day、より好ましくは0.0002〜270μg/cm・dayとする。
また、本発明の各化粧料は、美容方法に好ましく適用できる。この美容方法は、具体的には、美容目的で、保湿、p38MAPキナーゼ活性化抑制、DNA損傷改善、又はミトコンドリア機能賦活のために当該化粧料を皮膚に適用する美容方法である。この美容方法において、化粧料を皮膚に適用する手法、即ち、それらに含まれているアムラ抽出物を表皮に適用する手法としては、通常の美容手法、例えば、素手による塗布やエアロゾルのスプレーなどを採用することができる。
次に、製造例、試験例、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制約されるものではない。
アムラ抽出物の製造例
アムラの果実100gを粉砕し、50vol%含水エタノール1000mLを加え混合する。室温にて2日間抽出した後ろ過して抽出物を得た。
試験例1(保湿作用)
アムラ抽出物の保湿効果を「角層水分量測定法」を用いて測定した。これは、皮膚の乾燥が角層中の水分量に起因しており、そのため皮膚の保湿状態を判定する方法として角層を対象とした測定が有用だからである。角層水分量測定法は高周波インピーダンス法ともいわれ、角層水分量測定に汎用されている方法である。この方法によれば、プローブを通じて3.5MHzの高周波電流を角層に流すことによりコンダクタンス(電気伝導度)が得られるが、コンダクタンスの数値が上昇するほど、角層の水分含有量が増大することを意味する。
実用での皮膚外用剤等に配合される濃度を考慮して、製造例で得たアムラ抽出物の1%水溶液を試験液として調製した。また、陽性対照として、代表的な保湿剤であるグリセリンおよび1,3−ブチレングリコール(1,3−BG)の各1%水溶液を調製した。さらに対照として精製水を用いた。
室温24℃、湿度62%の風のない室内に被験者を入れ、20分間馴化した後、試験液で処理した。具体的には、前腕内側部に1cm当たり10μLの試験液を塗布し、10分間放置した。この処理の前後で、SKICON−200 (IBS(株)製)を用いて表皮コンダクタンスを測定(n=5)し、平均コンダクタンスを算出し、更に処理後のコンダクタンス値に対する処理前のコンダクタンス値の比から保湿能を求めた。したがってこの値が大きいほど保湿能が高いことになる。得られた結果を表1に示す。
Figure 2009190988
表1が示す通り、アムラ抽出物の1%水溶液は、対照の精製水に対してのみならず、保湿性に優れていると評価されている1,3−ブチレングリコール及びグリセリンのそれぞれ1%水溶液に対しても高い保湿能を示した。以上の結果より、アムラ抽出物は有効な保湿剤であることが明らかとなった。
試験例2(p38MAPキナーゼ活性化抑制作用)
p38MAPキナーゼは既述の通り、環境ストレスにより活性化されリン酸化を受ける。この時発現する「リン酸化p38タンパク質」量を計測することで、活性化の抑制を評価できる。
ヒト新生児皮膚線維芽細胞(NB1RGB細胞)を、10%FBS含有DMEM培地を含む直径10cmのシャーレに5×105個ずつ播種し、5vol%CO環境下、37℃で2日間培養した。培養後、製造例で得たアムラ抽出物を最終濃度で0.1vol%となるよう添加し1時間培養した。培養後、シャーレをPBSで2回洗浄した後に1%FBS含有DMEMをシャーレに入れた。そこに過酸化水素を最終濃度100μMとなるように添加し30分間培養した。
培養後、細胞溶解用緩衝液{150mM 塩化ナトリウム、0.5vol% NP−40、50mM Tris−HCl(pH7.5)、3mM EDTA、1μg/mL ロイペプチン、1mM ベンジルスルホニル=フルオリド、1vol% ホスファターゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク社製)}により細胞抽出液を調製し、定法に従いウェスタンブロット法によりリン酸化p38タンパク質の発現量を計測した。その際、一次抗体はマウス抗p38抗体(SantaCruz社製)およびマウス抗リン酸化p38抗体(CellSignaling社製)を使用し、二次抗体は西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase)標識抗マウスIgG抗体(Zymed社製)を使用した。ペルオキシダーゼ活性の測定はECLウエスタンブロッティング検出試薬(GEヘルスケア社製)およびルミフィルム化学発光検出フィルム(ロシュ社製)を用いた。検出したバンドをイメージスキャナー(キャノン製)を用いて取り込み、画像解析ソフト(ImageJ:NIH)により解析し数値化した。対照であるアムラ抽出物無添加時のリン酸化p38タンパク質の発現量を100とし、アムラ抽出物添加時のリン酸化p38タンパク質の発現量の相対値を算出し、これをリン酸化p38発現率とした。またこの値は同時にp38MAPキナーゼ活性化率でもある。得られた結果を表2に示す。
Figure 2009190988
表2から明らかなように、本発明を特徴づけるアムラ抽出物を添加することにより、p38MAPキナーゼの活性化が抑制された。従って、アムラ抽出物は有効なp38MAPキナーゼ活性化抑制剤であることが明らかとなった。
試験例3(DNA損傷改善作用)
コメットアッセイ〔Single Cell Gel Electrophoresis Assay (COMET Assay)〕により、DNA損傷改善効果を評価した。コメットアッセイ法は、単一細胞ゲル電気泳動法とも呼ばれ、単離した細胞を寒天ゲル中に封入して、細胞膜および核酸を溶解した後、DNAを電気泳動して泳動パターンを観察する方法である。コメットアッセイでは、DNA損傷(断片化)の大きな細胞ほど、細胞から漏れ出すDNAの泳動距離(移動距離)が長く、尾を引いたような泳動像を示す。したがって、尾の引きが短い(移動距離が短い)程、DNAの損傷が抑制されたことになる。
ヒト新生児皮膚線維芽細胞(NB1RGB細胞)を、5%FBS含有MEM−α培地(インビトロジェン社製)を含む直径10cmのシャーレに3×10個ずつ播種し、5vol%CO環境下、37℃でコンフルエントになるまで培養した。培養後、製造例で得たアムラ抽出物を最終濃度で1%となるよう添加し1時間インキュベートした。インキュベート後、培地を吸引除去しPBSでリンスした後に2mLのPBSに置換した。100mJ/cmのUVBを照射してDNA損傷を生じさせた後、細胞をトリプシンでシャーレから剥離して細胞浮遊液とし、コメットアッセイを行った。
次にエチジウムブロマイド染色後に蛍光顕微鏡で撮影し、解析ソフト(CometScore、TriTek社)を用いDNAの移動距離を計測してDNA損傷を評価した。なお、アムラ抽出物を無添加かつUVB未照射細胞(試料名;未照射)と、アムラ抽出物を無添加かつUVB照射細胞(試料名;UVB照射)についても同様の試験を行った。DNA損傷の評価結果を表3に示す。


Figure 2009190988
表3から明らかなように、UVBを照射するとDNAの移動距離が長くなり、DNA損傷が起こっていることがわかる。これに対し、本発明を特徴づけるアムラ抽出物を添加することにより、DNAの移動距離が短縮しDNA損傷改善作用が認められた。なお、同じ試験をさらに2回行ったところ、上記試験結果と同様にアムラ抽出物はDNA損傷を改善する結果が認められた。したがって、アムラ抽出物は有効なDNA損傷改善剤であることが明らかとなった。
試験例4(ミトコンドリア機能賦活作用)
ヒト新生児皮膚線維芽細胞におけるミトコンドリア機能賦活効果を、ミトコンドリア膜電位を指標に下記の条件にて測定した。
ヒト新生児皮膚線維芽細胞(NB1RGB細胞)を、5%FBS含有MEM−α培地(インビトロジェン社製)を含む直径6cmのシャーレに3×10個ずつ播種し、5vol%CO環境下、37℃で24時間培養した。培養後、製造例で得たアムラ抽出物を最終濃度で0.01%となるよう添加し、アムラ抽出物を添加した培地に置換して24時間培養した後、培地を吸引除去し、アムラ抽出物を添加した新鮮な培地に置換して、さらに24時間培養した。
培養後、細胞をトリプシンで剥がして細胞浮遊液とし、10μg/mL蛍光色素Rhodamine123(ローダミン123)で15分間染色を行う。この色素負荷条件下では、ミトコンドリア膜電位の低下に対して蛍光強度の上昇が観察されるようになる。反対に、ミトコンドリア膜電位の増強に対して蛍光強度は減少することになる。(木本哲也,“蛍光色素を用いた細胞内シグナルのイメージング観察”,日本比較内分泌学会ニュース,Vol.2002:104_31−104_39,2002)。ローダミン123染色後、遠心分離によって細胞を収集し上清を吸引除去する。次にPBSを加えて細胞を懸濁後同様の操作を行い吸引除去する。この操作を再度繰り返した後、PBSを加えて100000個/mLの濃度で細胞懸濁液を調製する。この細胞懸濁液を96ウェルプレートに100μLずつ分注する。蛍光プレートリーダでローダミン123の蛍光強度を測定することによってミトコンドリア膜電位を評価した。得られた評価結果を表4に示す。
Figure 2009190988
表4から明らかなように、アムラ抽出物はローダミン123蛍光強度を減少させる結果が認められた。すなわちアムラ抽出物はミトコンドリア膜電位を増強したことがわかった。なお、同じ試験をさらに2回行ったところ、上記試験結果と同様にアムラ抽出物はミトコンドリア膜電位を増強する結果が認められた。したがって、アムラ抽出物はミトコンドリア膜電位を増強する有効なミトコンドリア機能賦活剤であることが明らかとなった。
実施例1(外用クリーム剤の調製)
表5の配合成分のうち、成分(1)〜(6)を加熱混合して75℃の混合物1Aを調製し、それとは別に、成分(12)に成分(7)〜(10)を加えて加熱混合して75℃の混合物1Bを調製した。得られた混合物1Aと混合物1Bとを、ホモミキサーを用いて混合乳化し、室温まで放冷することで混合物1Cを調製した。得られた混合物1Cに、成分(11)を均一に混合して外用クリーム剤を得た。
Figure 2009190988
実施例2(化粧水の調製)
表6の配合成分のうち、成分(1)〜(6)を室温下で混合溶解して混合物2Aを調製し、それとは別に、成分(7)〜(13)を室温下で混合溶解して混合物2Bを調製した。得られた混合物2Aと混合物2Bとを、撹拌機を用いて均一に混合することで化粧水を得た。
















Figure 2009190988
実施例3(乳液の調製)
表7の配合成分のうち、成分(1)〜(8)を加熱混合して75℃の混合物3Aを調製し、それとは別に、成分(15)に成分(9)〜(13)を加えて加熱混合して75℃の混合物3Bを調製した。得られた混合物3Aと混合物3Bとを、ホモミキサーを用いて混合乳化し、室温まで放冷することで混合物3Cを調製した。得られた混合物3Cに、成分(14)を均一に混合して乳液を得た。
Figure 2009190988
実施例4(パック剤の調製)
表8の配合成分のうち、成分(1)〜(6)を混合しながら70℃に加熱し溶解して混合物4Aを調製し、それとは別に、成分(7)〜(10)を室温下で混合溶解して混合物4Bを調製した。得られた混合物4Aと混合物4Bとを、撹拌機を用いて混合し、室温まで放冷することでパック剤を得た。
Figure 2009190988
実施例5(乳液状ファンデーションの調製)
表9の配合成分のうち、成分(1)〜(6)を室温下で混合溶解し、更に、成分(12)〜(16)を加えて加熱混合して70℃の混合物5Aを調製した。それとは別に、成分(7)〜(11)及び(18)を加熱混合して70℃の混合物5Bを調製した。得られた混合物5Bに混合物5Aを添加し、ホモミキサーを用いて乳化し、室温まで放冷して混合物5Cを調製した。得られた混合物5Cに、成分(17)を均一に混合して乳液状ファンデーションを得た。
Figure 2009190988
[評価試験]
実施例1または比較例1(実施例1の処方における本発明のアムラ抽出物を精製水に置換して調製したもの)に示すクリームについて、皮膚の老化予防・改善効果等を以下に説明するように試験評価した。
(評価方法)
肌の乾燥、肌荒れ、老化症状(しわ、たるみ)が顕著に認められる女性被験者(28〜65才)20名を一群とし、各群に実施例1及び比較例1のそれぞれのクリームを、毎日2回(朝の洗顔の際と夜の入浴後)、2ヶ月にわたって顔に使用してもらい、使用前後の肌状態の改善の程度を、美容専門技術者が観察し、以下の評価基準に従って評価した。得られた結果(評価点の平均)を表10に示す。
(評価基準)
評価ランク(評価点) <内容>
非常に良い(5): 肌の乾燥、肌荒れ、しわ、たるみの各症状に対し改善効果が非常に高い
良い (4): 肌の乾燥、肌荒れ、しわ、たるみの各症状に対し改善効果がやや高い
普通 (3): 肌の乾燥、肌荒れ、しわ、たるみの各症状に対し改善効果は普通
やや悪い (2): 肌の乾燥、肌荒れ、しわ、たるみの各症状に対し改善効果がほとんどない
悪い (1): 肌の乾燥、肌荒れ、しわ、たるみの各症状に対し改善効果が全くない
Figure 2009190988
表7から明らかなように、肌の乾燥、肌あれ、しわ、たるみにおいて、本発明を特徴づけるアムラ抽出物を配合した実施例1のクリームを使用した場合には、比較例1のクリームを使用した場合よりも、より顕著な改善効果が認められた。
また、実施例2〜5の化粧水、乳液、パック剤、乳液ファンデーションについても実施例1と同様に評価したところ、各実施例において、本発明を特徴づけるアムラ抽出物を含まない対応する剤よりもより顕著な改善効果が認められた。
以上のように、本発明の実施例においては、従来の比較例よりも、肌の乾燥、肌荒れ、しわ、たるみ、といった皮膚の老化症状等に対し優れた予防・改善効果を有することが明らかになった。
本発明の保湿剤組成物、p38MAPキナーゼ活性化抑制剤組成物、DNA損傷改善剤組成物、及びミトコンドリア機能賦活剤組成物、並びにそれらの組成物を含有する皮膚外用剤又は化粧料は、保湿効果、p38MAPキナーゼ活性化抑制効果、DNA損傷改善効果、ミトコンドリア機能賦活効果を示すアムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有する。従って、本発明の組成物、皮膚外用剤及び化粧料は、皮膚の老化の進行を抑制するために有用である。

Claims (7)

  1. アムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有することを特徴とする皮膚保湿剤組成物。
  2. アムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有することを特徴とするp38MAPキナーゼ活性化抑制剤組成物。
  3. アムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有することを特徴とするDNA損傷改善剤組成物。
  4. アムラ(Emblica officinalis)抽出物を有効成分として含有することを特徴とするミトコンドリア機能賦活剤組成物。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする皮膚外用剤。
  6. 請求項1〜4のいずれかに記載の組成物を含有することを特徴とする化粧料。
  7. 美容目的で、請求項6記載の化粧料を皮膚に適用することを特徴とする美容方法。
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