JP2009183311A - 殺菌飲用乳、飲用乳の殺菌方法、飲用乳包装体およびその製造方法 - Google Patents

殺菌飲用乳、飲用乳の殺菌方法、飲用乳包装体およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】コクの高さと、飲用後のキレのよさとを両立した、従来にはない極めて良好な風味を呈し、しかも加熱臭の少ない殺菌飲用乳、飲用乳の殺菌方法、飲用乳包装体の製造方法を提供する。
【解決手段】インフュージョン式の直接加熱殺菌法により殺菌され、次の式1及び式2の条件、
(式1)1.8≦H≦9
(式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
[ただし、上式において、Hは被加熱指標であって、
H=0.83F−0.20L−1.90R×10−3−3.01OD
であり、Fはフロシン含量(μg/g)、Lはラクチュロース含量(mg/100g)、Rはレンネッタビリティー(秒)、ODは420nmにおける吸光度を表す。また、σは、脂肪球の平均粒子径(μm)を表す。]
を満たす殺菌飲用乳。
【選択図】図1

Description

本発明は、従来にない極めて良好な風味を有する殺菌飲用乳に関する。本発明において殺菌飲用乳とは、殺菌された飲用乳である。また、飲用乳とは、不当景品類および不当表示防止法に基づく「飲用乳の表示に関する公正競争規約」に規定されている飲用乳であって、乳脂肪含量が0.5質量%以上のものを意味する。このような本発明の飲用乳としては、例えば、牛乳、特別牛乳、低脂肪牛乳、成分調整牛乳、加工乳、及び乳飲料(各用語については、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令を参照のこと。)を例示することができる。ただし、この中でも「牛乳」が、本発明の効果を最も享受することができるため好ましい。
殺菌後の飲用乳の風味については、従来より、様々な研究が行われている。飲用乳は、通常は、殺菌後にビンや紙パック等の各種の容器に充填され、そのまま商品(飲用乳包装体)として出荷される。
出荷された飲用乳の風味は、常に向上させることが必要であり、より風味の優れた飲用乳を開発することを、市場からは求められている。
従来、飲用乳の風味は、専ら乳脂肪の含量や、無脂乳固形分の含量によって決定されると考えられていた。例えば、乳脂肪の含量が多いほど、また、無脂乳固形分の含量が多いほど、飲用乳の風味はコクの高いものとなる。ただし、この場合は、飲用した後に口中に乳脂肪や無脂乳固形分が残りやすくなるため、飲用後の後味が良くなく、いわゆるキレのない風味となる欠点もある。
いずれにせよ、このように、従来、飲用乳の風味は、成分を調整しない限り、大きく変動させることはできないものとされていた。
ところで、飲用乳を殺菌する工程にあっては、様々な殺菌装置が使用されているが、このように殺菌を行うと、飲用乳が熱によるダメージを受けることを避けることができず、例えば、加熱臭(cooked flavor)の発生などによる風味の変化は避けることはできないといわれている。このように、殺菌条件が飲用乳の風味に及ぼす影響については、従来から種々の研究がなされており、例えば、ラクチュロース含量や、レンネッタビリティー、吸光度などの指標によって評価できるか否か、について検討されている(非特許文献1)。
従来、飲用乳を殺菌する方法としては、超高温加熱処理法(以下、UHT法と記載する。)が主流となっている。このUHT法には、間接加熱殺菌法と、直接加熱殺菌法との2種類がある。
間接加熱殺菌法は、飲用乳を殺菌温度まで加熱する操作において、加熱に熱交換器を使用することを特徴としており、飲用乳を伝熱壁を介して熱媒と接触させ、この伝熱壁を通して飲用乳を加熱する。これに対して、直接加熱殺菌法は、飲用乳と加圧蒸気とを直接接触させて加熱する。
この直接加熱殺菌法としては、飲用乳のなかに加圧蒸気を吹き込む方式(インジェクション方式)と、蒸気を充満させた容器の中に飲用乳を放出する方式(インフュージョン方式)とが存在している。
このインフュージョン方式の直接加熱殺菌法の手順は次のとおりである。すなわち、まず、未殺菌の飲用乳を予備加熱して中間温度まで上昇させ、次いで、加圧蒸気を充満させた加熱容器の内部に飲用乳を放出する。この際に、飲用乳は蒸気と接触して蒸気が飲用乳の中に流入するため、所定の殺菌温度に加熱される。加熱された飲用乳は、所定長さの保持管を通過して、所定時間保持されて殺菌される。その後、加熱された飲用乳は吸引室に送られる。吸引室は所定の陰圧になるように吸引されており、このため、送られた飲用乳は減圧沸騰し、加熱時に流入した蒸気が抜かれるとともに温度が低下し、殺菌前の中間温度付近まで温度降下する。その後は、所定の冷却を行えば、殺菌飲用乳を得ることができる(以上、非特許文献2、非特許文献3、特許文献1参照。)。
この場合、吸引室にて減圧沸騰して急冷した後に、均質機によって所定の均質圧力で均質化処理を行うことが普通である。
また、殺菌後の飲用乳は、びんや、紙パックに充填されて密封され、飲用乳包装体として、市場に流通される。
なお、このような殺菌飲用乳包装体については、品質管理としては、専門の風味パネラーによって、風味がチェックされている。
特許第3268778号公報
岩附慧二,外4名,「牛乳の官能特性に及ぼす殺菌条件の影響」,日本食品科学工学会誌,社団法人日本食品科学工学会,平成11年8月15日,第46巻,第8号,p.535−542 山内邦男ら編,「ミルク総合事典」,株式会社朝倉書店,1998年5月1日,p.153−155 岩附慧二,外1名,「新しい殺菌技術」,乳業技術,財団法人日本乳業技術協会,平成12年10月20日,第50巻,p.161−185
しかしながら、一般にUHT法は、飲用乳を高温で加熱殺菌するために、加熱によるタンパク質の変性量が特に高く、殺菌後の飲用乳は、低温で殺菌したものと比較して風味が異なり、加熱臭を呈することは常識であった。この加熱臭については賛否両論があり、消費者によっては好まれない場合もある。近年は、消費者のニーズも多様化しているため、加熱臭を低減した、スッキリした風味の飲用乳も求められている。
このようなUHT法の特性を克服し、加熱臭を低減することも課題であるが、併せて、飲用乳の風味を調節するためには、前記したように、乳脂肪含量や、無脂乳固形分含量を上げることにより、成分を調整する必要がある点も問題となっている。すなわち、近年の消費者の嗜好からいえば、とくに飲用乳が牛乳である場合には、成分の調整は可及的に避けることが消費者ニーズに合致しており、飲用乳の成分調整は、簡単に実行できるものとはいえない。
さらに、成分の調整に関しては、飲用乳の乳脂肪含量又は無脂乳固形分含量を上げることによるコクを増加させたとしても、その反面、飲用後の後味は悪くなる問題があり、たとえ成分の調整を行ったとしても、コクが高いとともに飲用後の後味がよい(キレがよい)風味を有する殺菌飲用乳は、実用化が困難であった。
結局のところ、従来のUHT法による殺菌飲用乳においては、殺菌後の飲用乳に加熱臭は避けることができず、また、成分を調整しない限り、風味のよい飲用乳を得ることはできないものとされていた。そして、仮に、成分を調整したとしても、コクの高さと、飲用後のキレのよさとは、たがいに相反する要素であり、これらを両立した飲用乳を得ることは困難であった。
一方、飲用乳の包装体についていえば、製造した殺菌飲用乳に対する品質の管理の点では、専門の試験員による風味試験を行っているが、各試験員に共通する判断基準を整備することも求められており、可及的に個人差の出にくい風味判定基準に基づいた品質管理も望まれている。
本発明の目的は、コクの高さと、飲用後のキレのよさとを両立した、従来にはない極めて良好な風味を呈し、しかも加熱臭の少ない殺菌飲用乳を提供することである。
本発明の他の目的は、コクの高さと、飲用後のキレのよさとを両立した、従来にはない極めて良好な風味を呈し、しかも加熱臭の少ない殺菌飲用乳を得ることができ、かつ、個人差の少ない風味評価基準に基づく品質管理が可能な飲用乳の殺菌方法を提供することである。
また、本発明の他の目的は、そのような殺菌方法を利用した、飲用乳包装体の製造方法、および該方法により得られる飲用乳包装体を提供することである。
本発明者らは、飲用乳のUHT法による殺菌について鋭意研究を行った結果、UHT法の中でも、インフュージョン式の直接加熱殺菌法を採用した場合において、殺菌飲用乳の物性を「被加熱指標」として表現し、その被加熱指標が、所定の範囲にあり、しかも、殺菌飲用乳の脂肪球の平均粒子径が、前記被加熱指標によって特定される所定の範囲に入っている場合には、飲用乳の成分調整を特段に行うことなしに、コクの高さと、飲用後のキレのよさとを両立した風味が得られ、しかも、加熱臭を大幅に低減できることを発見し、本発明に到達した。
そして、この知見を、飲用乳の殺菌方法、飲用乳包装体の製造方法に応用すれば、従来、風味パネラーに頼るしかなかった風味評価を、機械的な測定により実施でき、より個人差の少ない統一基準に基づいた殺菌・製造が可能であることを見い出し、本発明に到達した。
すなわち、前記の課題を解決するための本発明の第一の発明は、インフュージョン式の直接加熱殺菌法により殺菌され、次の式1及び式2の条件、
(式1)1.8≦H≦9
(式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
[ただし、上式において、Hは被加熱指標であって、
H=0.83F−0.20L−1.90R×10−3−3.01OD
であり、Fはフロシン含量(μg/g)、Lはラクチュロース含量(mg/100g)、Rはレンネッタビリティー(秒)、ODは420nmにおける吸光度を表す。また、σは、脂肪球の平均粒子径(μm)を表す。]
を満たす殺菌飲用乳、である。
この殺菌飲用乳は、生乳を成分調整を行わずに殺菌した牛乳であることが好ましい。
また、本発明の第二の発明は、殺菌前の飲用乳を予備加熱し、予備加熱した飲用乳を蒸気が充満した加熱容器内部に放出して所定の殺菌温度まで加熱し、加熱した飲用乳を所定時間保持して殺菌し、殺菌した飲用乳を吸引室内部に導入し、導入した飲用乳を吸引室にて減圧沸騰させて急冷し、所定の均質圧力で均質化処理を行うことにより殺菌処理する飲用乳の殺菌方法において、殺菌処理後の飲用乳が、次の式1及び式2の条件、
(式1)1.8≦H≦9
(式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
[ただし、上式において、Hは被加熱指標であって、
H=0.83F−0.20L−1.90R×10−3−3.01OD
であり、Fはフロシン含量(μg/g)、Lはラクチュロース含量(mg/100g)、Rはレンネッタビリティー(秒)、ODは420nmにおける吸光度を表す。また、σは、脂肪球の平均粒子径(μm)を表す。]
の範囲に入るように、殺菌温度及び/又は均質圧力を調節して処理することを特徴とする飲用乳の殺菌方法、である。
また、本発明の第三の発明は、未殺菌の飲用乳を調製し、調製した飲用乳を前記の殺菌方法によって殺菌し、殺菌した飲用乳を容器に充填密封し、飲用乳包装体となすことを特徴とする飲用乳包装体の製造方法、である。
また、本発明の第四の発明は、前記の飲用乳包装体の製造方法により得られる飲用乳包装体、である。
本発明の殺菌飲用乳は、コクの高さと、飲用後のキレのよさとを両立した、従来にはない極めて良好な風味を呈し、しかも加熱臭が少ない。
本発明の飲用乳の殺菌方法は、コクの高さと、飲用後のキレのよさとを両立した、従来にはない極めて良好な風味を呈し、しかも加熱臭の少ない殺菌飲用乳を得ることができる。また、個人差の影響のない機械的な風味評価を行いつつ殺菌ができるので、品質の安定とともに、人件費の抑制からくるコストダウンが可能となる。
本発明の飲用乳包装体の製造方法は、コクの高さと、飲用後のキレのよさとを両立した、従来にはない極めて良好な風味を呈し、しかも加熱臭の少ない飲用乳の包装体を得ることができる。また、個人差の影響のない機械的な風味評価を行いつつ殺菌ができるので、品質の安定とともに、人件費の抑制からくるコストダウンが可能となる。
図1は官能検査の総合結果を示すグラフである。 図2は、硫化水素(H2S)のピーク面積の比較結果を示すグラフである。 図3は、ジメチルサルファイド(DMS)のピーク面積の比較結果を示すグラフである。 図4は、二硫化炭素(CD)のピーク面積の比較結果を示すグラフである。 図5は、ジメチルジサルファイド(DMDS)のピーク面積の比較結果を示すグラフである。 図6は、2−ペンタノンのピーク面積の比較結果を示すグラフである。 図7は、2−ヘプタノンのピーク面積の比較結果を示すグラフである。 図8は、2−ノナノンのピーク面積の比較結果を示すグラフである。 図9は、香気成分量(香気量)の比較結果を示すグラフである。
本発明のひとつの発明は、特定の範囲の物性を有することを特徴とする殺菌飲用乳である。本発明の飲用乳は、まず、被加熱指標という概念によって特定されることが、ひとつの特徴である。
被加熱指標とは、殺菌飲用乳の物理化学的な物性を示す数値であり、フロシン含量(μg/g)、ラクチュロース含量(mg/100g)、レンネッタビリティー(秒)、及び、420nm(ナノメートル)における吸光度、によって表現される数である。これらの各量は、次のように測定される。
[フロシン含量F(μg/g)の測定]
フロシン含量の測定には公知の方法を採用することができる。例えば、財団法人日本乳業技術協会編,「生乳機能性成分分析事業実施報告書 生乳使用割合特定法の開発」,平成12年3月、に記載されているので、以下に引用する。
試料1mlをマイクロピペットを用いて、予め塩酸5mlを秤取してあるテフロン(登録商標)パッキンを付したスクリューキャップ付き試験管に秤取し、直ちに撹拌して加熱ブロックに装着後、110℃、10時間の処理を行う(加熱ブロック終了後の処理は72時間以内に実施する。)。加熱終了後、メンブランフィルター(0.45μm)で試料をろ過し不溶物を除去する。ろ液に2mlをマイクロピペットを用いて濃縮管に分取しロータリーエバポレーターにて濃縮乾固させる(加熱温度は45〜50℃)。濃縮管内の乾固物を水2mlで完全に溶解させ、フロシン測定用内部標準物質1mlを加えた後、メンブランフィルター(0.45μm)でろ過したものを高速液体クロマトグラフ(HPLC)注入試料とする。このように前処理して調製した注入試料をマイクロシリンジ又はオートサンプラーを用いて10μlHPLCに注入し、フロシン及びフロシン測定用内部標準物質のピーク面積を求める。
[ラクチュロース含量L(mg/100g)の測定]
以下、ラクチュロース含量L、レンネッタビリティーR、吸光度ODについては、公知の方法で測定することができる。例えば、非特許文献1(岩附ら,「牛乳の官能特性に及ぼす殺菌条件の影響」,日本食品科学工学会誌,第46巻,第8号,1999年8月,p535−542)に記載されているので、以下に引用する。
試料5gを水にて10倍に希釈後、超音波により10分間抽出処理し、分画分子量10000の限外ろ過膜(ミリポア製)によりろ過する。その後、ホウ酸錯イオンのアニオン交換クロマトグラフィーによるアルギニン蛍光法により測定する。なお、蛍光検出器での測定は、励起波長320nm、測定波長430nmで行う。
[レンネッタビリティーR(秒)の測定]
試料50mlを37℃の恒温槽で5分間保持した後、1%レンネット溶液(HA−LA Rennet POWDER(NaCl含)、CHR.HANSEN'S、デンマーク)を2ml添加し、37℃における凝固発生時間(秒)を測定する。
[吸光度ODの測定]
試料22gを37℃で30分間保持し、食塩8gを添加・溶解した後、ろ過し、ろ液1mlに酸性飽和食塩水(飽和食塩水1リットルに氷酢酸4mlを添加したもの)10mlを添加し、分光光度計(U−2000形ダブルビーム分光光度計、日立製作所製)を用いて、420nmにおける吸光度(ディスポセル、光路長10mm、室温)を測定する。
以上のように測定した各数値により、被加熱指標Hは、次の式によって表すことができる。
H=0.83F−0.20L−1.90R×10−3−3.01OD
この被加熱指標Hは、飲用乳が殺菌時に加熱される程度に相関しているものと考えられる。
従来、ラクチュロース含量、レンネッタビリティー、及び、吸光度については、なんらかの加熱の指標になるのではないかと指摘されていたが(前記非特許文献1)、フロシン含量に着目したことによって、殺菌飲用乳についても、トータルな被加熱指標Hとして、総合的な評価をすることが可能になったのである。
一方、本発明の飲用乳では、脂肪球の平均粒子径という概念によって特定されることが、もうひとつの特徴である。
脂肪球の平均粒子径σは、レーザー回折式の粒度分布計によって測定されるメジアン径で表される平均粒子径であり、例えば、レーザー回折式粒度分布計(LA−500、堀場製作所製)によって測定することができる。
本発明の飲用乳は、被加熱指標H、及び脂肪球の平均粒子径σの値が、次の式1、式2、
(式1) 1.8≦H≦9
(式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
によって特定される範囲に入っていることを特徴とする。
このような範囲で特定される飲用乳は、後記試験例に記載するごとく、コクがありながら、キレのよい風味を呈し、両者が両立した極めて風味のよい飲用乳である。このように両者が両立した飲用乳の風味は、搾りたてに近い味わいであり、消費者に最も好まれる風味である。
とくに、式2のように、好ましい脂肪球の平均粒子径σの範囲が、被加熱指標Hのような指標によって特定される点は、本発明者らが初めて発見した事実である。この発見によって、従来にもまして風味が極めて良好な飲用乳を創出しえたのである。
このような飲用乳は、インフュージョン式の直接加熱殺菌法によって殺菌される必要がある。インフュージョン式の殺菌法においては、前記のように、飲用乳を加圧蒸気を充満させた加熱容器の内部に放出し、その後に、吸引室にて減圧沸騰し、急冷するが、このようなインフュージョン式の直接加熱殺菌法であれば、加熱の際の昇温が速く、ほぼ一瞬で所定の殺菌温度まで到達し、冷却についても、減圧沸騰によってほぼ瞬間的に急冷することができる。このようなインフュージョン式の特徴と、被加熱指標H、脂肪球の平均粒子径との間が関連づけられて、風味の極めて良好な飲用乳といえるものと考えられるのである。
そして、このような飲用乳は、後記試験例に示すごとく、加熱臭の原因となる香気物質がすくなく、香気成分の量、それ自体も少ないため、消費者に強くおいしさをアピールできる飲用乳といえる。
このような本発明においては、飲用乳が牛乳である場合に、最も効果を享受することができる。特に、牛乳は、法規上、乳脂肪や無脂乳固形分の含量を調節することに限度があり、このように成分調整を行わない牛乳であれば、特に有効である。このような牛乳は、生乳のみを原料とし、成分調整を行わずに殺菌するものである。
本発明のもうひとつの発明は、飲用乳の殺菌方法である。この殺菌方法を行うために使用する殺菌装置は、従来公知のインフュージョン式の直接加熱式殺菌装置を使用することができる。この殺菌方法においては、殺菌処理後の飲用乳について、前記したと同様に、次の式1及び式2の条件、
(式1)1.8≦H≦9
(式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
の範囲に入るように殺菌の条件を調節する。
この範囲に入るようにするためには、加熱容器内部における殺菌温度を調節することにより、被加熱指標Hの値を変化させて調節することが可能である。また、これにかえて、又は併行して、均質化処理における均質圧力を調節し、殺菌飲用乳における脂肪球の平均粒子径を変化させて調節することが可能である。
一般に、殺菌温度の高低は、雑菌を殺滅する効果に関係しているため、殺菌温度を変動させると、殺菌効果が影響を受ける可能性がある。従って、できれば、殺菌温度は可及的に変動させずに、均質化圧力のほうを変動させることが好ましい。すなわち、殺菌温度は一定としておき、均質化圧力を調整することにより、殺菌飲用乳が、前記の式1、式2の範囲に入るようにするのである。そして、均質化圧力のみでは、前記式1、式2の範囲に入らない場合は、殺菌温度を変化させる。このような手順が好ましい。
なお、ここでいう「調節」とは、殺菌機を運転している間に、殺菌後の飲用乳の物性が、前記の式1、式2の範囲に入るように細かく制御する態様のほか、殺菌後の飲用乳の物性が前記の式1、式2の範囲に入るように予め殺菌機の殺菌温度及び/又は均質圧力を設定する作業を行う(反復して行う)ことも包含される。
このような本発明の殺菌方法によれば、風味が極めて良好な殺菌飲用乳を得ることが可能である。そして、品質管理という面で、個人差による影響がない、機械的な風味評価を行いながら殺菌ができるので、品質の安定とともに、人件費の抑制からくるコストダウンが可能となる。
また、このような本発明の殺菌方法を利用すれば、飲用乳包装体を製造することができる。すなわち、未殺菌の飲用乳を公知の方法で調製し、この飲用乳を前記の本発明の殺菌方法で殺菌する。このように殺菌した殺菌飲用乳を、公知の方法により容器に充填密封し、飲用乳包装体を得ることができる。
この場合の容器も、公知のものでよく、びん、紙パック等を例示することができる。
次に、実施例をもって、本発明をさらに詳しく説明する。
試験実施例として、官能試験を行った試験例を示す。
[試験例1]
1.試料の調製
試料1
能力200リットル/hのインフュージョン式直接加熱殺菌機を使用し、生乳(乳脂肪含量3.80質量%、無脂乳固形分8.63質量%)を殺菌した。
加熱温度120℃、保持時間2秒間とし、付属のホモゲナイザーの均質圧力を変更しながら、試料1として8種類のサンプルを調製した。
この試料1の各サンプルの脂肪球の平均粒子径を測定したところ、0.4μm、0.6μm、0.8μm、1.0μm、1.2μm、1.4μm、1.6μm、1.8μmであった。
また、試料1の物性(脂肪球の平均粒子径以外)を、前記した各測定方法によって測定したところ(以下、各試験例について同じ。)、フロシン含量は5.50μg/gであり、ラクチュロース含量は4.15mg/100gであり、レンネッタビリティーは410秒であり、420nmにおける吸光度(OD)は、0.44であった。この結果、試料1の被加熱指標Hの値は、1.63と算出された。
試料2
前記試料1と同一の生乳を同一の殺菌機を使用して殺菌したが、加熱温度を130℃に変更したことを除き、試料1と同一の条件とし、ホモゲナイザーの均質圧力を変更しながら、試料2として8種類のサンプルを調製した。
この試料2の各サンプルの脂肪球の平均粒子径を測定したところ、0.4μm、0.6μm、0.8μm、1.0μm、1.2μm、1.4μm、1.6μm、1.8μmであった。
また、試料2の物性(脂肪球の平均粒子径以外)は、フロシン含量は6.17μg/gであり、ラクチュロース含量は4.60mg/100gであり、レンネッタビリティーは540秒であり、420nmにおける吸光度(OD)は、0.39であった。この結果、試料1の被加熱指標Hの値は、2.00と算出された。
試料3
前記試料1と同一の生乳を同一の殺菌機を使用して殺菌したが、加熱温度を140℃に変更したことを除き、試料1、試料2と同一の条件とし、ホモゲナイザーの均質圧力を変更しながら、試料3として8種類のサンプルを調製した。
この試料3の各サンプルの脂肪球の平均粒子径を測定したところ、0.4μm、0.6μm、0.8μm、1.0μm、1.2μm、1.4μm、1.6μm、1.8μmであった。
また、試料3の物性(脂肪球の平均粒子径以外)は、フロシン含量は10.84μg/gであり、ラクチュロース含量は7.33mg/100gであり、レンネッタビリティーは641秒であり、420nmにおける吸光度(OD)は、0.29であった。この結果、試料3の被加熱指標Hの値は、5.44と算出された。
試料4
前記試料1と同一の生乳を同一の殺菌機を使用して殺菌したが、加熱温度を143℃に変更したことを除き、試料1〜試料3と同一の条件とし、ホモゲナイザーの均質圧力を変更しながら、試料4として8種類のサンプルを調製した。
この試料4の各サンプルの脂肪球の平均粒子径を測定したところ、0.4μm、0.6μm、0.8μm、1.0μm、1.2μm、1.4μm、1.6μm、1.8μmであった。
また、試料4の物性(脂肪球の平均粒子径以外)は、フロシン含量は14.96μg/gであり、ラクチュロース含量は9.04mg/100gであり、レンネッタビリティーは697秒であり、420nmにおける吸光度(OD)は、0.25であった。この結果、試料4の被加熱指標Hの値は、8.53と算出された。
試料5
前記試料1と同一の生乳を同一の殺菌機を使用して殺菌したが、加熱温度を145℃に変更したことを除き、試料1〜試料4と同一の条件とし、ホモゲナイザーの均質圧力を変更しながら、試料5として8種類のサンプルを調製した。
この試料5の各サンプルの脂肪球の平均粒子径を測定したところ、0.4μm、0.6μm、0.8μm、1.0μm、1.2μm、1.4μm、1.6μm、1.8μmであった。
また、試料5の物性(脂肪球の平均粒子径以外)は、フロシン含量は16.13μg/gであり、ラクチュロース含量は10.12mg/100gであり、レンネッタビリティーは713秒であり、420nmにおける吸光度(OD)は、0.20であった。この結果、試料5の被加熱指標Hの値は、9.41と算出された。
2.官能試験
(方法)
10人の男女のパネラーにより、試料1〜試料5の各々8種類づつのサンプルを全て飲用し、官能評価を行った。評価項目は、次の7項目とし、
・かなりすっきり
・すっきり
・ややすっきり
・おいしい
・ややこってり
・こってり
・かなりこってり
各項目について、該当すると評価したパネラーの人数を評価した。
この評価項目においては、「かなりすっきり」、「すっきり」が多い場合は、そのサンプルはキレがあるがコクのない風味であることを意味しており、逆に「かなりこってり」、「こってり」が多い場合は、そのサンプルはコクがあるがキレがない風味であることを意味している。そして、いずれにもかたよらず、「おいしい」という評価項目が多い場合は、そのサンプルは、コクがあり、しかもキレがあるという、両者が両立したサンプルであることを意味する。
(判定)
上記の各評価項目のうち、「おいしい」という項目の評価人数が最も多いサンプルを「○」と判定し、「おいしい」という項目が2番目以上に多く、かつ絶対数(評価人数)が3以上であるサンプル、及び、「おいしい」という項目の人数が最も多いものの、他の評価項目に同数の評価人数が集まったサンプルを、いずれも「△」と判定し、それ以外のサンプルを「×」と判定した。
3.結果
この試験の結果を、次の表1〜表5に示す。
試料1の試験結果は、表1のとおりであった。
Figure 2009183311
試料2の試験結果は、表2のとおりであった。
Figure 2009183311
試料3の試験結果は、表3のとおりであった。
Figure 2009183311
試料4の試験結果は、表4のとおりであった。
Figure 2009183311
試料5の試験結果は、表5のとおりであった。
Figure 2009183311
以上の試験結果をまとめた総合結果を図1に示す。図1は官能検査の総合結果を示すグラフである。図1において、縦軸は脂肪球の平均粒子径(μm)を示し、横軸は被加熱指標Hを示す。なお、横軸は対数目盛である。
図1において、官能試験の結果が「○」であったサンプルの範囲を斜線部で示している。
図1から、被加熱指標Hの好適な範囲は、縦線Aと縦線Bとによって囲まれた範囲、すなわち、次の式1、
(式1)1.8≦H≦9
の範囲であった。なお、好ましくは2≦H≦8.5の範囲である。
また、脂肪球の平均粒子径σの好適な範囲は、
σ=−0.025H+0.65 (線C)
よりも上の範囲であり、かつ、
σ=−0.025H+1.65 (線D)
よりも下の範囲であるから、結局、次の式2、
(式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
の範囲となる。なお、図1のグラフは横軸が対数目盛であるため、線C及び線Dは1次関数であるにもかかわらず曲線となっている。
この試験の結果、コクが良くキレがある殺菌飲用乳は、次の式1及び式2の条件、
(式1)1.8≦H≦9
(式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
を満たす範囲のものであることが判明した。
また、飲用乳を殺菌する場合には、式1、式2の範囲に入るように殺菌温度及び/又は均質化圧力を調節して行えば、風味のよい殺菌飲用乳を得られることが明らかである。
[試験例2]
次に試験実施例として、香気成分のうち、硫黄化合物の比較を行った試験例を示す。
1.試料の調製
前記試験例において、試料3と同一の殺菌条件で殺菌し、脂肪球の平均粒子径が0.8μmのサンプルである殺菌牛乳を製造し、本発明の試料とした。
これとは別に、比較試料として、殺菌前の生乳を比較試料とした。
また、能力200リットル/hのプレート式殺菌機(間接加熱式UHT)を使用して、前記本発明の試料と同一の殺菌温度、同一の保持時間、同一の均質化条件で生乳を殺菌し、従来品の比較試料とした。
なお、インフュージョン方式が上述したように直接加熱殺菌法であるのに対して、プレート式熱交換方式は間接加熱殺菌法である。
2.試験方法
各試料10mlづつをバイアルに入れ、40℃で30分加温後、スタティック法により、バイアルのヘッドスペースを5ml、ガスクロマトグラフィー(GC6890:アジレントテクノロジー社製)により分析した。検出器は、硫黄化学発光検出器(横河アナリティカルシステムズ社製)を使用した。
各試料について、硫化水素(H2S)、ジメチルサルファイド(DMS)、二硫化炭素(CD)、及び、ジメチルジサルファイド(DMDS)のガスクロマトグラムのピーク面積を比較した。
3.試験結果
この試験の結果は次のとおりであった。
すなわち、硫化水素(H2S)のピーク面積は、生乳が0、本発明が840、従来品が6400であった。また、ジメチルサルファイド(DMS)のピーク面積は、生乳が480、本発明が0、従来品が2380であった。また、二硫化炭素(CD)のピーク面積は、生乳が0、本発明が60、従来品が240であった。さらに、ジメチルジサルファイド(DMDS)のピーク面積は、生乳が0、本発明が160、従来品400であった。以上の結果を、図2〜図5に示す。
図2は、硫化水素(H2S)のピーク面積の比較結果を示すグラフである。本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して硫化水素の量が大幅に低減されており、ほぼ生乳に近いレベルまで低減されていることが明らかである。
図3は、ジメチルサルファイド(DMS)のピーク面積の比較結果を示すグラフである。本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比してDMSの量が大幅に低減されており、生乳よりも低減されていることが明らかである。試験の結果、ジメチルサルファイド(DMS)のピーク面積は、生乳の200%以下であれば、風味が非常に良好であり、とくに好ましいことが判明した。
図4は、二硫化炭素(CD)のピーク面積の比較結果を示すグラフである。本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して二硫化炭素(CD)の量が大幅に低減されており、ほぼ生乳に近いレベルまで低減されていることが明らかである。
図5は、ジメチルジサルファイド(DMDS)のピーク面積の比較結果を示すグラフである。本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比してジメチルジサルファイド(DMDS)の量が大幅に低減されており、ほぼ生乳に近いレベルまで低減されていることが明らかである。
以上の図2〜図5をみれば明らかなように、本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して、香気成分中における硫黄化合物の量が、いずれも圧倒的に少なく、この事実は、本発明の飲料乳は、従来品と比して、ゆで卵のような臭いが少ないことを意味している。
[試験例3]
次に試験実施例として、香気成分のうち、ケトン類の比較を行った試験例を示す。
1.試料の調製
前記試験例2と同一の試料を使用した。すなわち、前記試験例2と同様に、本発明の試料、生乳の試料、従来品の試料を調製した。
2.試験方法
各試料10mlづつをバイアルに入れ、室温で30分間放置した後、固相マイクロ抽出法により、香気成分抽出し、ガスクロマトグラフィーマススペクトロメトリー(GC−MS、GC6890:アジレントテクノロジー社製)により分析した。
各試料について、2−ペンタノン、2−ヘプタノン、及び2−ノナノンのガスクロマトグラムのピーク面積を比較した。
3.試験結果
この試験の結果は次のとおりであった。
すなわち、2−ペンタノンのピーク面積は、生乳が0、本発明が3.1×10、従来品が17.8×10であった。また、2−ヘプタノンのピーク面積は、生乳が0、本発明が10.2×10、従来品が92.5×10であった。さらに、2−ノナノンのピーク面積は、生乳が0、本発明が4.76×10、従来品は14.6×10であった。以上の結果を、図6〜図8に示す。
図6は、2−ペンタノンのピーク面積の比較結果を示すグラフである。本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して2−ペンタノンの量が大幅に低減されており、ほぼ生乳に近いレベルまで低減されていることが明らかである。
図7は、2−ヘプタノンのピーク面積の比較結果を示すグラフである。本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して2−ヘプタノンの量が大幅に低減されており、ほぼ生乳に近いレベルまで低減されていることが明らかである。
図8は、2−ノナノンのピーク面積の比較結果を示すグラフである。本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して2−ノナノンの量が大幅に低減されており、ほぼ生乳に近いレベルまで低減されていることが明らかである。
以上の図6〜図8をみれば明らかなように、本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して、香気成分中におけるケトン類のピーク面積が、いずれも圧倒的に少なく、この事実は、本発明の飲料乳が、従来品と比して、搾りたてのようなさわやかな香気を呈していることを意味している。
[試験例4]
次に試験実施例として、香気成分それ自体の量の比較を行った試験例を示す。
1.試料の調製
前記試験例2及び試験例3と同一の試料を使用した。すなわち、前記試験例2及び試験例3と同様に、本発明の試料、生乳の試料、従来品の試料を調製した。
2.試験方法
各試料に対し、内部標準物質としてヘプタン酸エチル(ethyl heptanoate)を0.1ppm添加した後、フラッシュエバポレーターを用いて減圧蒸留した。留分をポラパックQ(porapak Q)を充填したカラムに流し、香気成分を吸着させた。
次いで、ジエチルエーテル(diethyl ether)にて香気成分を溶出させた後、香気成分を常法どおり濃縮し、ガスクロマトグラフィー用試料とした。
ガスクロマトグラフィー(GC6890:アジレントテクノロジー社製)により各試料の香気成分の量(ppb)を分析した。
3.試験結果
この試験の結果を、図9に示す。図9は、香気成分の量(香気量)の比較結果を示すグラフである。すなわち、香気成分の量は、生乳が51ppb、本発明が35ppb、従来品が203ppbであった。
図9からは、本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して香気成分の量がはるかに少なくなっており、しかも、生乳よりも少ないレベルであることが明らかである。試験の結果、香気成分の量は、100ppb以下であれば、風味が非常に良好であり、とくに好ましいことが判明した。
このように、本発明の殺菌飲用乳は、従来品に比して、香気成分の量が圧倒的に少なく、このことは、本発明の飲料乳は、従来品と比して、より生乳にちかい風味を呈するものであることを意味している。
以上の各試験例の結果、本発明の殺菌飲用乳は、加熱臭が少なく、余計な臭いが少なく、搾りたてに近い香気を呈している、すぐれたものであることが明らかとなった。
[試験例5]
殺菌方法としてインフュージョン方式を用いて製造した紙容器入り牛乳(飲用乳包装体)と、プレート式熱交換方式を用いて製造した紙容器入り牛乳について、風味の経時変化を比較した。
1.試料の調製
試料a
大流量型のインフュージョン式直接加熱殺菌機を使用し、生乳(乳脂肪含量3.85質量%、無脂乳固形分8.72質量%)を殺菌した。このときの加熱時間、保持時間、および均質化条件を調節し、次のように試料aを調製した。
すなわち、脂肪球の平均粒子径(σ)が0.8μmであり、物性(脂肪球の平均粒子径以外)が、前記した各測定方法による測定結果として、フロシン含量が8.09μg/gであり、ラクチュロース含量が6.01mg/100gであり、レンネッタビリティーが540秒であり、420nmにおける吸光度(OD)が0.266である試料を、試料aとした。この試料aの被加熱指標Hは3.69と算出された。
試料b
均質機を備えた大流量型のプレート式殺菌機(間接加熱式UHT)を使用し、生乳(乳脂肪含量3.85質量%、無脂乳固形分8.72質量%)を殺菌した。このときの加熱時間、保持時間、および均質化条件を調節し、次のように試料bを調製した。
すなわち、脂肪球の平均粒子径(σ)が0.8μmであり、物性(脂肪球の平均粒子径以外)が、前記した各測定方法による測定結果として、フロシン含量が30.41μg/gであり、ラクチュロース含量が17.82mg/100gであり、レンネッタビリティーが1420秒であり、420nmにおける吸光度(OD)が0.031である試料を、試料bとした。この試料bの被加熱指標Hは18.88と算出された。
紙容器入り牛乳(飲用乳包装体)の製造
上記で調製した試料aおよび試料bを、それぞれ市販のゲーブルトップ(切妻屋根状)紙容器用充填機により1000ml容量のゲーブルトップ紙容器に充填して紙容器入り牛乳を試験製造した。充填量は1本当たり1000mlとした。
2.官能試験
このようにして製造した紙容器入り牛乳を10℃で、所定期間保存した後に開封して、風味を官能評価した。
すなわち、男女各5名のパネラー10名により、紙容器入り牛乳の形態で所定期間保存した試料a、bをそれぞれ飲用してもらい、官能評価を行った。評価項目は、次の3項目とし、それぞれ5段階で点数評価した。
・おいしさ 「おいしい:5点」から「おいしくない:1点」まで5段階評価
・加熱臭 「有り:5点」から「無し:1点」まで5段階評価
・後味の残り 「残る:5点」から「残らない:1点」まで5段階評価
評価の結果として、各項目について評価点数の平均値を算出した。その結果を下記表6に示す。評価を行った日は、製造の翌日、製造後7日目、製造後11日目の3通りとした。
Figure 2009183311
表6の結果より、本発明にかかる飲用殺菌乳(試料a)は、プレート式熱交換方式を用いた殺菌法により得られた殺菌乳(試料b)と比べて、おいしさの経時変化が少なく、加熱臭も少なく、後味の残りも少なかった。

Claims (5)

  1. インフュージョン式の直接加熱殺菌法により殺菌され、次の式1及び式2の条件、
    (式1)1.8≦H≦9
    (式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
    [ただし、上式において、Hは被加熱指標であって、
    H=0.83F−0.20L−1.90R×10−3−3.01OD
    であり、Fはフロシン含量(μg/g)、Lはラクチュロース含量(mg/100g)、Rはレンネッタビリティー(秒)、ODは420nmにおける吸光度を表す。また、σは、脂肪球の平均粒子径(μm)を表す。]
    を満たす殺菌飲用乳。
  2. 殺菌飲用乳が、生乳を成分調整を行わずに殺菌した牛乳である請求項1に記載の殺菌飲用乳。
  3. 殺菌前の飲用乳を予備加熱し、予備加熱した飲用乳を蒸気が充満した加熱容器内部に放出して所定の殺菌温度まで加熱し、加熱した飲用乳を所定時間保持して殺菌し、殺菌した飲用乳を吸引室内部に導入し、導入した飲用乳を吸引室にて減圧沸騰させて急冷し、所定の均質圧力で均質化処理を行うことにより殺菌処理する飲用乳の殺菌方法において、殺菌処理後の飲用乳が、次の式1及び式2の条件、
    (式1)1.8≦H≦9
    (式2)−0.025H+0.65 ≦ σ ≦ −0.025H+1.65
    [ただし、上式において、Hは被加熱指標であって、
    H=0.83F−0.20L−1.90R×10−3−3.01OD
    であり、Fはフロシン含量(μg/g)、Lはラクチュロース含量(mg/100g)、Rはレンネッタビリティー(秒)、ODは420nmにおける吸光度を表す。また、σは、脂肪球の平均粒子径(μm)を表す。]
    の範囲に入るように、殺菌温度及び/又は均質圧力を調節して処理することを特徴とする飲用乳の殺菌方法。
  4. 未殺菌の飲用乳を調製し、調製した飲用乳を請求項3に記載の殺菌方法によって殺菌し、殺菌した飲用乳を容器に充填密封し、飲用乳包装体となすことを特徴とする飲用乳包装体の製造方法。
  5. 請求項4記載の方法で得られる飲用乳包装体。
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