JP2009174407A - スクロール圧縮機 - Google Patents

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Abstract

【課題】大きな設計変更を行うことなくラップ壁面の摺動状態の悪化を防止することのできる高効率かつ高信頼性のスクロール圧縮機を提供すること。
【解決手段】旋回スクロールラップ外壁9dと固定スクロールラップ内壁6cとの接点または旋回スクロールラップ内壁9eと固定スクロールラップ外壁6fとの接点のうち少なくともいずれか一方において、流体の圧縮に寄与する接点の数が一つになるクランク角が存在するとともに、流体の圧縮に寄与しない接点も含めた全接点が全てのクランク角で複数個存在することにより、接点の数を十分確保するために圧縮に寄与する渦巻きラップの巻数を増やす必要がない。
【選択図】図2

Description

本発明は、空調機、冷凍機、ブロワ、給湯機等に使用されるスクロール圧縮機に関するものである。
鏡板上に渦巻きラップを形成した固定スクロールと旋回スクロールをかみ合わせ複数の圧縮室を形成し、旋回スクロールに偏心部を有するクランク軸を連結させ、オルダムリングを用いて自転を防止し旋回運動をさせることで、中心に向かって容積を減少させながら圧縮を行っていくスクロール圧縮機において、旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁、および旋回スクロールラップ内壁と固定スクロールラップ外壁は全てのクランク角において常に接点を持つ。この接点での圧縮室間の流体漏れを防止して圧縮効率を向上させるために、ラップの壁面同士を接触させて隙間を可能な限り小さくする方法が一般的にとられる。
しかしながら、ラップ壁面同士の接触によって異常摩耗や焼き付きが発生しやすくなるため、何らかの対策を施す必要が生じることがほとんどである。
その一つの対策として、ラップ壁面を接触させることをやめてオイルによってシール性を保つ方法があるが、圧縮室内のシールオイルを増やす必要があるためオイル粘性損失の増加による機械効率低下や高温オイルが冷媒を加熱、膨張させることによる体積効率と圧縮効率低下を招きやすく、様々な運転条件下での最適オイル量コントロールも容易ではなく、高効率化には不向きである。
一方、ラップ壁面同士を接触させる構成ではシールオイルの供給を極小化できるため、容易に高効率化が可能であることから、ラップ壁面を常に接触させながら、その摺動状態を改善させるための様々な対策がとられてきた。
その最も一般的な対策は、例えば旋回スクロールをアルミ材、固定スクロールを鋳鉄材とする等、双方を異なる材質とするものである。
しかし、圧縮機を軽量、小型化する場合等、旋回スクロールと固定スクロールの双方ともにアルミ材とせざるを得ないときは別の対策を施す必要がある。
この問題を解決するために、図7に示す特許文献1のスクロール圧縮機では、アルミ製の旋回スクロール101と固定スクロール102のうちいずれか一方に硬質アルマイト処理を施し、ラップ壁面での異常摺動を抑制している。
特許第1522887号公報
圧縮機を軽量、小型化する場合等には、旋回スクロールと固定スクロールの双方ともにアルミ材としながら、いずれか一方に硬質アルマイト処理を施せばラップ壁面での異常摺動を抑制することが可能であるが、特に軽量、小型化の必要がない場合には、双方を異なる材質とすることでラップ壁面同士の異常摺動をある程度は抑制することができる。
しかしながら、昨今のインバータ化による高速化や二酸化炭素冷媒の採用による高負荷化によって圧縮機の運転範囲は拡大傾向にあり、ラップ壁面の摺動状態はどんどん厳しく
なっている状況の中、旋回スクロールと固定スクロールを異材質とするだけでは不十分である。
その理由の一つとして旋回スクロールと固定スクロールの熱膨張率の差が挙げられる。旋回スクロールと固定スクロールの渦巻きラップの形状は加工ごとのばらつきを含めた幾何公差があるため、相対的な中心位置と角度が最適になるように現物合せで圧縮機構部を組み立てることでラップ壁面の隙間を適正に保って効率の低下を防ぐことができる。
この最適芯出し作業は通常、冷時に行われるため、圧縮運転中の熱時には旋回スクロールと固定スクロールのうち、熱膨張率の大きい材質の方が大きく膨張し、旋回スクロールラップの外壁と内壁のいずれか一方のみが接触摺動するようになる。
したがって、旋回スクロールラップを固定スクロールラップに押し付ける径方向の力(以降、押接力と呼ぶ)が冷時には旋回スクロールラップ外壁と内壁とで分散され、一つの接点あたりの押接力が小さかったものが、熱時には旋回スクロールラップ外壁と内壁のいずれか一方でのみ接触するようになり、一つの接点あたりの押接力が大きくなる。その結果、ラップ壁面の負荷が上昇して異常摺動を招いてしまう。
特に、昨今の圧縮機の運転範囲拡大に伴い、この異常摺動現象が発生しやすいのが現状である。その上、構成上の問題から渦巻きラップの巻数が限られる場合、旋回スクロールラップ外壁または内壁の接点が一つになるクランク角が存在することもあり、このクランク角では一つの接点で旋回スクロールに加わる押接力を全て受けることになって容易に異常摩耗や焼き付き等が発生してしまう。
また、旋回スクロールと固定スクロールが同材質の場合でも、圧縮機構部の最適芯出し作業時の組立誤差によって旋回スクロールと固定スクロールの相対角度が最適角度からずれることは稀ではなく、この場合も旋回スクロールラップ外壁と内壁のいずれか一方のみが接触して異常摺動を招くことはある。そこで、ラップ壁面の摺動状態を改善するために、ラップ壁面の表面を改善するだけでなく、ラップ壁面に加わる負荷を更に低減する必要がある。
一方、ラップ壁面に加わる押接力を分散させるために単純に圧縮に寄与する渦巻きラップの巻数を増やして同一クランク角における接点数を増やす方法では、圧縮機構部が大型化してしまうという大きなデメリットがあり、大型化しないように設計したとしてもラップ厚みが小さくなってラップ強度が低下するという問題や、吸込み完了時の圧縮室内容積である行程容積と吐出部での吐出室に連通する直前の圧縮室吐出直前容積との比、すなわち設計容積比を適正に設定できないことによる圧縮効率が低下するという問題等も生じ、得策ではない。
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁との接点または旋回スクロールラップ内壁と固定スクロールラップ外壁との接点のうち少なくともいずれか一方において、流体の圧縮に寄与する接点の数が一つになるクランク角が存在するとともに、流体の圧縮に寄与しない接点も含めた全接点が全てのクランク角で複数個存在することにより、大きな設計変更やラップ強度の低下、圧縮効率の低下等を招くことなくラップ壁面の摺動状態の悪化を防止することのできる高効率かつ高信頼性のスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
前記従来の課題を解決するために、本発明のスクロール圧縮機は、旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁との接点または旋回スクロールラップ内壁と固定スク
ロールラップ外壁との接点のうち少なくともいずれか一方において、流体の圧縮に寄与する接点の数が一つになるクランク角が存在するとともに、流体の圧縮に寄与しない接点も含めた全接点が全てのクランク角で複数個存在するものである。
従来の構成ではラップ壁面の接点が一つになってラップ壁面の信頼性が損なわれ、それを改善するために大きな設計変更やラップ強度の低下、圧縮効率の低下等を招いていたものが、本構成によれば、流体の圧縮に寄与しない接点を設けることで、大きな設計変更や設計容積比の変更等を行うことなくラップ壁面の摺動状態悪化を防止することができ、高信頼性と高効率とを両立することが可能である。
本発明のスクロール圧縮機は、旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁との接点または旋回スクロールラップ内壁と固定スクロールラップ外壁との接点のうち少なくともいずれか一方において、流体の圧縮に寄与する接点の数が一つになるクランク角が存在するとともに、流体の圧縮に寄与しない接点も含めた全接点が全てのクランク角で複数個存在することにより、高信頼性と高効率を両立することが可能である。
第1の発明は、固定スクロールの一部をなす鏡板の一面に直立して形成された渦巻き状の固定スクロールラップに対して、旋回スクロールの一部をなすラップが支持円板上に直立するとともに、固定スクロールラップに類似した形状の旋回スクロールラップを互いに噛み合わせて、両スクロール間に三日月形の一対の圧縮空間を形成し、クランク軸と自転防止部材によって旋回スクロールを旋回させ、各圧縮空間が吸入側より吐出側に向けて連続移行する複数個の圧縮室に区画されて流体を圧縮すべく容積変化するスクロール圧縮機であって、旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁との接点または旋回スクロールラップ内壁と固定スクロールラップ外壁との接点のうち少なくともいずれか一方において、流体の圧縮に寄与する接点の数が一つになるクランク角が存在するとともに、流体の圧縮に寄与しない接点も含めた全接点が全てのクランク角で複数個存在することにより、接点の数を十分確保するために圧縮に寄与する渦巻きラップの巻数を増やす必要がなく、大きな設計変更やラップ強度の低下、圧縮効率の低下等を招くことなくラップ壁面の摺動状態の悪化を防止することができ、高信頼性と高効率を両立することが可能である。
第2の発明は、特に、第1の発明のスクロール圧縮機において、吸込み完了時の圧縮室内容積である行程容積が、旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁とで形成される第1の圧縮室の方が、前記旋回スクロールラップ内壁と前記固定スクロールラップ外壁とで形成される第2の圧縮室よりも大きい非対称スクロールとすることにより、吸込み完了時のクランク角における旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁との接点のうち最も外側の接点が固定スクロール外周部付近に設けられた吸入口に近づき、吸入口から圧縮が開始されるまでの流体通路の距離、すなわち吸入室の長さが対称スクロールよりも短くなることで、流体が高温の固定スクロールから受熱する吸入加熱現象による体積効率の低下を抑制することができ、圧縮機の高効率化が可能である。
しかしながら、非対称スクロールでは旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁とで形成される第1の圧縮室の設計容積比が旋回スクロールラップ内壁と固定スクロールラップ外壁とで形成される第2の圧縮室の設計容積比よりも大きくなるため、対称スクロールの場合よりも渦巻きラップの巻数を減少させて適正な設計容積比を設定する必要がある。
このとき、旋回スクロールラップ内壁の接点の数が一つになるクランク角範囲が拡大し
、一つの接点あたりの押接力が増加して信頼性を損ねやすいが、本構成によって非対称スクロールでも圧縮に寄与しない接点を設けて、全クランク角で複数の接点を持つようにすることができ、体積効率向上による更なる高効率化を行いながらラップ壁面の信頼性を確保することが可能である。
第3の発明は、特に、第1または2の発明のスクロール圧縮機において、旋回スクロールの材質と固定スクロールの材質とが異なることにより、旋回スクロールと固定スクロールのラップ壁面の摺動状態が悪化しても容易に焼き付きが発生することがなく、高信頼性を維持しやすい。
しかしながら、異材質の場合、熱膨張率も異なることが多く、運転中の熱時に旋回スクロールと固定スクロールのいずれかが他方よりも大きく熱膨張して旋回スクロールラップ外壁または内壁のいずれかのみが接点を持って摺動し、一つの接点あたりの押接力が増加して信頼性を損ねやすいが、本構成によって全クランク角で複数の接点を持つようにすれば、ラップ壁面の信頼性をより一層高く維持することが可能である。
第4の発明は、特に、第1〜3のいずれか1つの発明のスクロール圧縮機において、旋回スクロールまたは固定スクロールの流体の圧縮に寄与しない接点を持つラップの高さを、流体の圧縮に寄与するラップの高さよりも小さくすることにより、圧縮に寄与しない接点をもつラップ部の加工性が非常に容易になり、加工時間増加によるコストアップを抑制することが可能である。
さらに、素材成型時に圧縮に寄与しない接点を持つラップの高さを圧縮に寄与するラップの高さよりも低く設定しておくことで、圧縮に寄与しない接点を持つラップ部の上面を加工する必要がないため、より一層加工性が容易になる。
第5の発明は、特に、第1〜4のいずれか1つの発明のスクロール圧縮機において、旋回スクロールまたは固定スクロールの流体の圧縮に寄与しない接点を持つラップ部を外周巻終りに設けることにより、効率の悪化を招くことなく高信頼性を確保することが可能である。
すなわち、圧縮に寄与しない接点を持つラップ部を中心巻始め部に設けた場合、吐出室容積が増加することになり、設計容積比よりも運転条件から決定される運転容積比の方が大きい不足圧縮の時、吐出室と圧縮室が連通する瞬間に逆流、再膨張するため、圧縮効率の低下を招きやすいものが、圧縮に寄与しない接点を持つラップ部を外周巻終りに設けた場合には圧縮効率の低下が生じることはない。
第6の発明は、特に、第5の発明のスクロール圧縮機において、旋回スクロールまたは固定スクロールの流体の圧縮に寄与しない接点を持つラップの外壁および内壁の両方またはいずれか一方に径方向に連続的に変化する微小な逃しを設けることにより、流体を閉じ込む瞬間またはその直前の新たな接点が発生するとき、瞬間的に強い押接力を以って接触し始めることによる強い衝撃を受けることがないため、衝撃による異常摩耗を回避することが可能であると同時に、衝撃による騒音の悪化を招くこともない。
第7の発明は、特に、第1〜6のいずれか1つの発明のスクロール圧縮機において、作動流体として二酸化炭素を用いることにより、オゾン層破壊係数がゼロの自然冷媒である二酸化炭素でヒートポンプサイクルを構成した場合、高圧冷媒であるために特に圧縮比が高くなりやすく、ラップ壁面に加わる押接力が非常に大きくなるが、その場合でも一つの接点あたりの押接力を小さく維持することができるため、信頼性の確保に対してより一層効果的である。
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が限定されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の縦断面図である。
図1において、鉄製の密閉容器1の内部全体は吐出管2に連通する高圧雰囲気となり、その中央部に電動機3、上部に圧縮機構が配置され、電動機3の回転子3aに固定されたクランク軸4の一端を支承する圧縮機構の本体フレーム5が密閉容器1に固定されており、その本体フレーム5に固定スクロール6が取り付けられている。
クランク軸4に設けられた主軸方向の油通路7は、その一端が給油ポンプ装置8に通じ、他端が最終的に旋回スクロール9の偏心軸受10に通じている。固定スクロール6と噛み合って圧縮室11を形成する旋回スクロール9は、渦巻き状の旋回スクロールラップ9aと偏心軸受10とを直立させたラップ支持円板9bとからなり、固定スクロール6と本体フレーム5との間に配置されている。
固定スクロール6は、鏡板6aと渦巻き状の固定スクロールラップ6bとからなり、固定スクロールラップ6bの中央部に吐出口12と吐出口12に通じる吐出室13、外周部に吸入口14および圧縮が開始されるまでの流体通路である吸入室15が配置されている。
クランク軸4の主軸から偏心してクランク軸4の上端部に配置された偏心軸16は、旋回スクロール9の偏心軸受10と係合摺動すべく構成されている。旋回スクロールラップ支持円板9bの背面9cと、旋回スクロール9の軸方向への移動を規制する本体フレーム5に設けられたスラスト拘束面5aとの間は、微小な隙間が設けられている。本体フレーム5のスラスト拘束面5aには環状シール部材17が遊合状態で装着されており、その環状シール部材17はその内側の背面室18と外側の背圧室19とを仕切っている。
給油ポンプ装置8によって吸い上げられたオイルはクランク軸4の油通路7を通り旋回スクロール9の偏心軸受10と偏心軸16との間に形成された軸方向の内部空間20へ導かれ、一方は旋回スクロール9のラップ支持円板背面9cに設けられた絞り部21を経由して固定スクロール6と本体フレーム5とによって囲まれて形成される背圧室19へと通じ、旋回スクロール9を固定スクロールラップ6bに押さえつける機能を持った背圧調整弁22、オイル供給通路22aを通って吸入室15へと導かれる。もう一方は偏心軸受10、背面室18、主軸受23を通り圧縮機構外部へ排出される。
吐出口12の出口側を開閉する逆止弁装置24が固定スクロール6の鏡板6aの平面上に取り付けられており、その逆止弁装置24は薄鋼板製のリード弁24aと弁押さえ24bとからなる。
クランク軸4の下端は密閉容器1内に溶接や焼き嵌めして固定された副軸受け25により軸受けされ、安定に回転することができる。副軸受け25はジャーナル軸受け構成となっており、給油ポンプ装置8によって吸い上げられたオイルの一部が副軸受け25へと供給される。
圧縮機構にて圧縮されたガスは圧縮機構外周部付近に設けられた下向きガス流路26を通り、図示された点線矢印のごとく回転子3a上部へと導かれる。ここで主軸受け23などを潤滑後排出されたオイルと合流し、回転子3a内部に設けられた回転子通路3bを介
して回転子3a下部へと到達後、ガスとオイルの混合流が遠心力によって固定子3c下部コイルエンドに衝突し、気液分離される。気液分離後のガスは固定子3c外周に設けられた固定子通路3dを介して電動機3上部へと導かれ、圧縮機構に設けられた図示されていない上向きガス流路を通って圧縮機構上側空間へ到達後、吐出管2から密閉容器1外部へと吐出される。
旋回スクロール9はアルミニウム合金製で、表面には陽極酸化皮膜が形成されている。固定スクロール6は鋳鉄製で、インボリュート曲線で構成された固定スクロールラップ6bの内壁6cが吸入口14付近まで延長された非対称スクロールであり、吸入口14と圧縮室11との間に設けられた吸入圧力流体の流路である吸入室15の長さを極小化することで吸入加熱の低減が図られている。
図2は図1における旋回スクロール9の斜視図で、旋回スクロールラップ9aの外壁9dと内壁9eは外周巻終り部9fまでインボリュート曲線のままであるとともに、外周巻終り部9fの上面9gは他のラップ部の上面9hよりも低く設定されて流体の圧縮には寄与していない。
以上のように構成されたスクロール圧縮機について、以下その動作、作用を説明する。
スクロール圧縮機は類似した二つの渦巻きラップを互いに噛み合わせて相対的に旋回運動を行い、ラップで形成された三日月形の圧縮室の容積が徐々に縮小することによって圧縮を行うものである。
図3は固定スクロール6と旋回スクロール9とが組み合わされて旋回運動を行う圧縮過程を示したもので、図3(a)は旋回スクロール9のラップ外壁9d側で流体を閉じ込んだ瞬間のクランク角を示し、以後、90度のクランク角毎に(b)、(c)、(d)を示している。
図3(b)に示すとおり、旋回スクロールラップ外壁9d側の第1の圧縮室11aは、旋回スクロールラップ外壁9dと固定スクロールラップ内壁6c、固定スクロールラップ底面6d、図2に示す旋回スクロールラップ底面9iの四つの面によって形成され、圧力の異なる周囲の圧縮室との間をオイルによってシールされている。
圧縮機運転中、旋回スクロール9は固定スクロール6に圧力差によって軸方向に強く押し付けられ、固定スクロールラップ上面6eと旋回スクロールラップ底面9iとの間にはほとんど隙間が生じないが、旋回スクロールラップ上面9hと固定スクロールラップ底面6dとの間には熱時にも摺動しないように微小な軸方向隙間が設けられている。
一方、旋回スクロール9に加わる圧力、遠心力および偏芯軸受け10の油膜力のバランスにより、旋回スクロール9はクランク軸4の偏芯方向に力が発生し、この押接力によって径方向にも固定スクロール6に強く押し付けられているため、第1の圧縮室11aの両端部での旋回スクロール外壁接点27a、27bでの径方向隙間はほとんど生じない。
また、旋回スクロールラップ内壁9eと固定スクロールラップ外壁6fとで形成される第2の圧縮室11b、および他のクランク角での圧縮室11でも同様に径方向隙間はほとんど生じない。
したがって、旋回スクロール9を固定スクロール6に対して径方向に押し付けずに常に隙間を確保している構成のスクロール圧縮機と比較して、圧縮室11間の径方向隙間での流体漏れが最小限となるため、圧縮効率を高く維持することができる。
しかしながら、旋回スクロールラップの壁面9d、9eと固定スクロールラップの壁面6c、6f同士が押接力によって強く摺動するため、異常摺動に対する対策が必要である。
図3(b)において、旋回スクロールラップ壁面9d、9eと固定スクロールラップ壁面6c、6fとの接点は、旋回スクロールラップ外壁9dの第1接点27aと第2接点27b、第3接点27cの三ヶ所、旋回スクロールラップ内壁9eの第1接点28aと第2接点28bの二ヶ所の合計五ヶ所存在し、一つの接点27、28あたりの押接力は旋回スクロール9全体に加わる全押接力の概ね1/5に低減される。
図3(d)では接点27、28が四ヶ所存在し、一つの接点27、28あたりの押接力は旋回スクロール9全体に加わる全押接力の概ね1/4に低減される。
一方、図3(a)のクランク角では、圧縮室11を形成して流体の圧縮に寄与している接点は、旋回スクロールラップ外壁9dの第1接点27aと第2接点27bの二ヶ所、旋回スクロールラップ内壁9eの第1接点28aと第2接点28bの二ヶ所の合計四ヶ所に加え、流体の圧縮に寄与しない旋回スクロールラップ外周巻終り部9fにラップ外壁9dの第0接点29が存在し、一つの接点27、28、29あたりの押接力は旋回スクロール9全体に加わる全押接力の概ね1/5に低減される。
同様に、図3(c)のクランク角では、圧縮室11を形成して流体の圧縮に寄与している接点は、旋回スクロールラップ外壁9dの第1接点27aと第2接点27bの二ヶ所、旋回スクロールラップ内壁9eの第1接点28aの一ヶ所の合計三ヶ所に加え、流体の圧縮に寄与しない旋回スクロールラップ外周巻終り部9fにラップ内壁9eの第0接点29が存在し、一つの接点27、28、29あたりの押接力は旋回スクロール9全体に加わる全押接力の概ね1/4に低減される。
このように、正常な運転状態や組立精度の場合には旋回スクロール9全体に加わる押接力が分散されて概ね1/5から1/4となるため、異常摺動によって異常摩耗や焼き付き等を引き起こす可能性は低い。
しかしながら、本実施の形態では固定スクロール6よりも旋回スクロール9の方が熱伝導率が大きいため、例えば運転中の液戻りが発生すると、旋回スクロール9の温度が固定スクロール6の温度よりも低くなってインボリュート曲線が縮小し、旋回スクロールラップ内壁9eのみが接触するという現象が発生する。
また、組立ばらつきにより、図3における固定スクロール6に対する旋回スクロール9の相対角度が最適角度から反時計回りにずれた場合も同様に旋回スクロールラップ内壁9eのみが接触することになる。
その結果、流体の圧縮に寄与しない第0接点29が存在しない従来の構成では、図3(c)のクランク角では旋回スクロールラップ内壁9eの第1接点28aのみで全押接力を受けることになり、正常な運転状態や組立精度の場合の概ね4から5倍の力で押し付けられて摺動するため、異常摩耗や焼き付きが発生する可能性が非常に高くなる。
そこで、本構成ではさらにもう一つの第0接点29を加え、正常な運転状態や組立精度ではない場合でも少なくとも二ヶ所で全押接力を受けることで、一つの接点あたりの押接力を正常な運転状態や組立精度の場合の概ね2から2.5倍に抑制でき、異常摺動による異常摩耗や焼き付きのリスクを低減して信頼性を向上させることが可能である。
なお、本実施の形態では旋回スクロールラップ内壁9eと固定スクロールラップ外壁6fとの接点での摺動に対して有効であるが、信頼性維持のために旋回スクロール9と固定スクロール6を異材質とし、軽量化を目的として体積の大きい固定スクロール6をアルミニウム合金等の軽量な材料、旋回スクロール9を鋳鉄等の安価な材料とした場合には、同様の作用によって旋回スクロールラップ外壁9dと固定スクロールラップ内壁6cの接点での摺動に対して有効である。
また、圧縮効率の向上等の様々な目的から、吸込み完了時の圧縮室11内容積である行程容積と吐出部での吐出室13に連通する直前の圧縮室吐出直前容積との比、すなわち設計容積比が、第1の圧縮室11aと第2の圧縮室11bとで概ね等しい場合、旋回スクロールラップ外壁9dの一つの接点27でのみ押接力を受ける可能性が高く、特に有効である。
さらに、前述のとおり組立ばらつきが生じて旋回スクロール9と固定スクロール6との相対角度が最適角度からずれた場合には、旋回スクロール9と固定スクロール6の材質が概ね同一であっても同様の効果が得られる。
上記構成は、圧縮機の用途や使用する流体の種類、設計の狙い等により、運転条件や組立ばらつきによって旋回スクロールラップ9aと固定スクロールラップ6bとの接点27、28が一つになるクランク角が図らずも存在してしまうときに効果的で、設計容積比やラップ厚み、クランク軸4の偏芯量等の大きな設計変更の必要がなく、他部位の信頼性や圧縮機効率を低下させることなくラップ摺動部の信頼性を向上させることが可能である。
なお、図4の旋回スクロール9の斜視図に示すように、旋回スクロールラップ9aの中心巻始め部9jに流体の圧縮に寄与しない接点29を設けることでも同様の効果が得られるが、常に吐出圧力である吐出室13の容積が大きくなってしまうため、設計容積比よりも運転条件から決定される運転容積比の方が大きい場合に不足圧縮となり、再膨張と再圧縮によって圧縮効率が低下しやすいというデメリットがある。
流体の圧縮に寄与しない接点29を旋回スクロールラップ9aの外周巻終り部9fと中心巻始め部9jの両方に設けても同様の効果が得られる。
また、外周巻終り部9fまたは中心巻始め部9jの上面9gを他のラップ部の上面9hよりも低く設定することで、加工性が非常に容易であるため加工時間増加によるコストアップを抑制することが可能であり、素材成型時に予め低く設定しておけば外周巻終り部9fまたは中心巻始め部9jの上面9gを加工する必要がないため、より一層加工性が容易になる。
図5は旋回スクロール9正面図であり、旋回スクロールラップ9aの外周巻終り部9fの拡大図を図6に示す。
図6において、流体の圧縮に寄与する接点27、28の終了点27d、28cよりもさらに外周側に流体の圧縮に寄与しない外周巻終り部9fの接点終了点29aがあり、さらに外周側に旋回スクロールラップ9aの巻終り端点30がある。
旋回スクロールラップ9aの中心部のインボリュート開始点から外周巻終り部9fの接点終了点29aまではインボリュート曲線のままであり、外周巻終り部9fの接点終了点29aから巻終り端点30までは旋回スクロールラップ9aの厚みが薄くなる方向にインボリュート曲線から連続的に離れる微小な逃がし31を設けている。
吸入室15の流体を圧縮室11に閉じ込む直前の、外周巻終り部9fの接点終了点29aが固定スクロールラップ6bと接触し始める時、連続的に変化する微小な逃がし31を設けることで微小な逃がし31に存在するオイルに動圧が発生して圧力の高い油膜が形成されるため、瞬間的に強い押接力を以って接触し始めることによる強い衝撃を受けることがなく、衝撃による異常摩耗を回避することが可能であると同時に、衝撃による騒音の悪化を招くこともない。
旋回スクロールラップ9aが固定スクロールラップ6bに押し付けられる押接力は、高圧冷媒である二酸化炭素を作動流体として用いた場合に特に大きくなるため、以上のような流体の圧縮に寄与しない接点29を持つ構成はより効果的であり、自然冷媒の使用によるオゾン層保護を実施しながら高効率と高信頼性を維持することが可能である。
以上のように、本発明にかかるスクロール圧縮機は、旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁との接点または旋回スクロールラップ内壁と固定スクロールラップ外壁との接点のうち少なくともいずれか一方において、流体の圧縮に寄与する接点の数が一つになるクランク角が存在するとともに、流体の圧縮に寄与しない接点も含めた全接点が全てのクランク角で複数個存在することにより、大きな設計変更や設計容積比の変更等を行うことなくラップ壁面の摺動状態悪化を防止することができ、高信頼性と高効率とを両立することが可能であり、HFC系冷媒やHCFC系冷媒を用いたエアーコンディショナーやヒートポンプ式給湯機のほかに、自然冷媒の二酸化炭素を用いたエアーコンディショナーやヒートポンプ式給湯機などの用途にも適用できる。
本発明の実施の形態1におけるスクロール圧縮機の縦断面図 本発明の実施の形態1における旋回スクロールの斜視図 本発明の実施の形態1における圧縮過程図 本発明の実施の形態1における別の旋回スクロールの斜視図 本発明の実施の形態1における旋回スクロールの正面図 本発明の実施の形態1における旋回スクロールラップの外周巻終り部の拡大図 従来のスクロール圧縮機の圧縮機構部を示す断面図
符号の説明
3 電動機
4 クランク軸
6 固定スクロール
6a 鏡板
6b 固定スクロールラップ
6c 固定スクロールラップ内壁
6f 固定スクロールラップ外壁
9 旋回スクロール
9a 旋回スクロールラップ
9b ラップ支持円板
9d 旋回スクロールラップ外壁
9e 旋回スクロールラップ内壁
9f 旋回スクロールラップ外周巻終り部
11 圧縮室
11a 第1圧縮室
11b 第2圧縮室
12 吐出口
13 吐出室
15 吸入室
27 旋回スクロールラップ外壁接点
28 旋回スクロールラップ内壁接点
29 旋回スクロールラップ外周巻終り部第0接点
31 逃がし

Claims (7)

  1. 固定スクロールの一部をなす鏡板の一面に直立して形成された渦巻き状の固定スクロールラップに対して、旋回スクロールの一部をなすラップが支持円板上に直立するとともに、前記固定スクロールラップに類似した形状の旋回スクロールラップを互いに噛み合わせて、両スクロール間に三日月形の一対の圧縮空間を形成し、クランク軸と自転防止部材によって前記旋回スクロールを旋回させ、前記各圧縮空間が吸入側より吐出側に向けて連続移行する複数個の圧縮室に区画されて流体を圧縮すべく容積変化するスクロール圧縮機であって、前記旋回スクロールラップ外壁と前記固定スクロールラップ内壁との接点または前記旋回スクロールラップ内壁と前記固定スクロールラップ外壁との接点のうち少なくともいずれか一方において、流体の圧縮に寄与する接点の数が一つになるクランク角が存在するとともに、流体の圧縮に寄与しない接点も含めた全接点が全てのクランク角で複数個存在することを特徴とするスクロール圧縮機。
  2. 吸込み完了時の圧縮室内容積である行程容積が、旋回スクロールラップ外壁と固定スクロールラップ内壁とで形成される第1の圧縮室の方が、前記旋回スクロールラップ内壁と前記固定スクロールラップ外壁とで形成される第2の圧縮室よりも大きい非対称スクロールである請求項1に記載のスクロール圧縮機。
  3. 旋回スクロールの材質と固定スクロールの材質とが異なる請求項1または2に記載のスクロール圧縮機。
  4. 旋回スクロールまたは固定スクロールの流体の圧縮に寄与しない接点を持つラップの高さが、流体の圧縮に寄与するラップの高さよりも小さい請求項1〜3のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
  5. 旋回スクロールまたは固定スクロールの流体の圧縮に寄与しない接点を持つラップ部を外周巻終りに設けた請求項1〜4のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
  6. 旋回スクロールまたは固定スクロールの流体の圧縮に寄与しない接点を持つラップの外壁および内壁の両方またはいずれか一方に径方向に連続的に変化する微小な逃しを設けた請求項5に記載のスクロール圧縮機。
  7. 作動流体として二酸化炭素を用いた請求項1〜6のいずれか1項に記載のスクロール圧縮機。
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