JP2009173482A - 膨潤性層状複水酸化物およびその製造方法とそれを用いたゲル状物質、ゾル状物質ならびにナノシート - Google Patents

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Abstract

【課題】水によって大きなサイズ(例えば、結晶の径が0.1〜1μmサイズ)のLDHを容易に剥離し、LDHナノシートのゾルおよびゲルを得るため、高純度の膨潤性LDH複合体を合成する方法を提供する。
【解決手段】水酸化物の層と層間に陰イオンを有する層状複水酸化物であって、下記一般式(式1)で表されることを特徴とする層状複水酸化物。(式1)QR(OH)2(z+1)(A)・mHO……(1)(ここで、Qは1価金属または2価金属であり、Rは3価金属または4価金属であり、Aは脂肪族カルボン酸アニオンであり、mは0より大きい実数であり、zは1.8≦z≦4.2の数値範囲である。)
【選択図】図1

Description

本発明は、水やプロトン性極性溶媒によってゲル化し膨潤性を示す層状複水酸化物(Layered Double Hydroxide;以降では単にLDHと称する。)および、その製造方法とそれを用いて作られるゲル状物質、ゾル状物質、ナノシートならびにフィルムに関する。
LDHは、水酸化物の層と層間に陰イオンを有する層状化合物であり、この構造の鉱物の代表であるハイドロタルサイトから名前を取って、ハイドロタルサイトもしくはハイドロタルサイト様物質とも通称されている。
従来、いくつかの粘土鉱物などにおいては、水や有機溶媒と接触することによって、層間にそれらの溶媒分子が侵入し、層間距離が増してゲル化し(膨潤現象)、さらに無限に膨潤し、層が1層1層バラバラになって(剥離現象)、透明感のあるゾル状態(溶液のような状態)になる事が知られている。また、近年、層状の無機化合物で層と層の間に適当な有機イオンを導入することによって、水中でチタン酸などの層状化合物の層が剥離し、ナノシート化することが知られており、ナノシートの電荷を利用して、正電荷および負電荷のシートを交互に一層一層積み上げること(交互積層)によって、積層をコントロールできるため、ナノ積層構造を形成する1つの有力な手法として注目されている。
このように多くのナノシート化が行われている中で、LDHが注目されているのは、次の理由による。
(1)多くの層状化合物は、ナノシート化したときには、層は陰イオン性を示すが、LDHは、層が陽イオン性であり、このような正電荷を有したカチオン性ナノシートの事例は少なく、アニオン性ナノシートと交互積層できること(非特許文献1および特許文献1)、
(2)LDHは、いろいろな2価の金属イオンと3価の金属イオンから成り立ち、磁性や電気伝導性などで特長ある金属イオンを自由に入れることができ、物質設計の範囲が大きなこと(物質設計の自由度)(非特許文献2−4)、
(3)LDH自体、その合成が比較的簡単であること(合成の容易性)。
このようなLDHに特有の利点により、LDHを膨潤・剥離させて、カチオン性ナノシートを作製する試みがこれまで行われてきた。たとえば、LDHの層間に親油性のある長鎖アルキル基をもつアニオンを導入し有機溶媒を作用させたりしていた。しかし剥離に時間がかかったり、有機溶媒を使用することや室温ではできないなど欠点があった(非特許文献1)。
最近、非プロトン性極性溶媒系:(aprotic polar solvent)の1つであるフォルムアミド(FA:分子式は、HCONH)によって剥離が行われている。これは、当初、アラニン、ロイシン、セリン、リシン、ヒスチジン等のアミノ酸のアニオンを包接したLDHについて、FAを作用させることによって剥離が起こることが知られていた(非特許文献5および特許文献2)が、これらに限らず、FAを用いた場合、アミノ酸以外にも、p−トルエンスルホン酸イオンなどの有機質アニオン、さらに、硝酸イオンや過塩素酸イオンなどの無機質アニオンが層間にあるLDHもFAによる剥離を起こすことがわかり、広く使用されるようになった(非特許文献1、6,7および特許文献1)。ただ、FAは、難蒸発性の有機溶媒であり、しかも人体に有害であるため、他の方法が求められていた。特に、交互積層は水中で行うことが多いため、水での剥離と水中でのLDHナノシートが期待されていた。
水によるLDHの剥離については、乳酸アニオン(CH−CH(OH)−COO)をLDHに導入した複合体で行ったとする報告が出ている(非特許文献8および特許文献3)。しかしながら、これらに記載されている技術は、「再構築法」といって500℃程度の高温で熱処理して構造変化したLDHを、乳酸アニオンを含む水溶液に入れて、沈殿させるとともに乳酸アニオンを包接させるという方法をとるため、得られたLDHの結晶性は低く、結晶形は不定で、結晶子サイズも数十ナノメートル程度と小さい。そのため、大面積で良質なLDHナノシートが得られないという問題があった。また、非特許文献1に記載されているように、このようなプロセスでは炭酸イオンの混入が多く、実に50%近い量で炭酸イオンが含まれている。(なお、特許文献3では、一般的にカルボン酸イオンを包接したLDHがその範囲とされているが、実証されているのは、乳酸アニオンのみである(非特許文献8)。LDHに通常、包接される有機アニオンのほとんどがカルボン酸イオンであり、カルボン酸イオンを包接したLDHのうち膨潤性を示すものはごく一部にすぎない。)
このように、層間にカルボン酸に代表される有機アニオンを包接することによって、層間の親水性と疎水性のバランスをとり、膨潤性を付与させる試みがなされていたが、まだ、最適なLDH複合体が明らかでなく、また、良質の膨潤性LDH複合体は、得られていなかった。
(用語の説明1)プロトン性極性溶媒および非プロトン性極性溶媒:
極性溶媒とは、分子内で正電荷と負電荷の偏りがあり極性を示す分子からなる比誘電率の高い溶媒で、2つに分類できる。
(1)プロトン性極性溶媒系(protic polar solvent)):水,アルコール類,カルボン酸などのように解離して容易にプロトン(H)を放出するプロトン供与性を持つ溶媒。
(2)非プロトン性極性溶媒系:(aprotic polar solvent):DMSO(ジメチルスルホキシド),DMF(ジメチルホルムアミド),FAなど、酸素のローンペアでカウンターカチオンに配位し溶媒和することで、裸のアニオン種が生成する溶媒。
(用語の説明2)イオン交換:
物質構造中のイオンである陽イオン(カチオン)や陰イオン(アニオン)が溶液など外部環境に存在する同種類の電荷を持つイオンと可逆的に入れ替わる事。粘土鉱物などの場合、層間のカチオンが、また、LDHの場合、層間のアニオンがイオン交換する。本発明で扱っているLDHについては、イオン交換とは、層間のアニオン(陰イオン)の交換を意味している。
特開2007−31189(特願2005−214340) 特開2005−89269 特開2006−52114 特開2005−255441(特願2004−67514) リ リャン、マ ルンジ、海老名 保男、井伊 伸夫、佐々木 高義、Chem. Mater. 17, 4386-4391 (2005). Cavani, F., Trifiro, F., Vaccari, A., Catal. Today 11, 173 - 301 (1991). Miyata, S., Clays Clay Miner. 31,305 - 311(1983). Reichle, W. T., Solid States Ionics 22,135 - 141(1986). Hibino,T.,Chem.Mater.16,5482-5488(2004). リ リャン、マ ルンジ、海老名 保男、井伊 伸夫、高田和典、佐々木 高義、Langmuir,2007,23,861-867(2007). 岡本 健太郎, 佐々木 高義, 藤田 武敏, 井伊 伸夫、 J. Mater. Chem., 16, 1608 - 1616 (2006). Hibino, T., Kobayashi, M.,J.Mater. Chem.15, 653-656(2005). 井伊 伸夫, Matsumoto, T., Kaneko, Y., Kitamura, K., Chem. Mater. 16, 2926 - 2932 (2004). 井伊 伸夫, Okamoto, K., Kaneko, Y., Matsumoto, T., Chem. Lett. 34, 932 - 933 (2005).
本発明は、このような実情に鑑み、水によって大きなサイズ(例えば、結晶の径が0.1〜1μmサイズ)のLDHを容易に剥離し、LDHナノシートのゾルおよびゲルを得るため、高純度の膨潤性LDH複合体を合成する方法、を提供することである。
上記課題を解決するために以下の発明を提供するものである。
発明1は、水酸化物の層と層間に陰イオンを有する層状複水酸化物であって、
下記一般式(式1)で表されることを特徴とする層状複水酸化物。
(式1)
R(OH)2(z+1)(A)・mHO……(1)
(ここで、Qは1価金属または2価金属であり、Rは3価金属または4価金属であり、Aは脂肪族カルボン酸アニオンであり、mは0より大きい実数であり、zは1.8≦z≦4.2の数値範囲である。)
発明2は、発明1の層状複水酸化物において、Qが2価金属の、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、および、Caからなる群から選択されることを特徴とする。
発明3は、発明1又は2の層状複水酸化物において、前記Rが3価金属の、Al、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、および、Laからなる群から選択されることを特徴とする。
発明4は、発明1の層状複水酸化物において、前記Qが1価金属のLiであることを特徴とする。
発明5は、発明1、2,4のいずれかの層状複水酸化物において、前記Rが4価金属の、Tiであることを特徴とする。
発明6は、発明1から5のいずれかの層状複水酸化物において、前記Aのカルボン酸アニオン;C2n+1COO(ここで、nは0より大きい整数)が、n=1のCHCOOおよび、n=2のCHCHCOOであることを特徴とする。
発明7は、発明1から6のいずれかの層状複水酸化物の製造方法であって、下記一般式(式2)で表される組成を有する層状複水酸化物を出発物質とし、これを脂肪族カルボン酸陰イオン(A)を含む下記(式3)で示す塩を溶解させた水や有機溶媒の溶液中で、XとAを陰イオン交換することによって合成することを特徴とする。
(式2)
R(OH)2(x+1)(X)・mHO……(2)
(式中、zは、1.8≦z≦4.2の数値範囲を示し、Qは、2価の金属イオン。Rは、3価の金属イオン。mは0より大きい実数である。(X):Cl,Br,NO , ClO
(式3)
[Ln+1/n[A]……(3)
(ここで、Ln+はn価の陽イオンであり、nは1≦n≦3の数値範囲である。)
発明8は、発明7の製造法において、Qが2価金属の、Mg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、および、Caからなる群から選択されることを特徴とする発明2の層状複水酸化物の製造方法。
発明9は、発明7の製造法において、前記Rが3価金属の、Al、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、および、Laからなる群から選択されることを特徴とする発明3の層状複水酸化物の製造方法。
発明10は、発明7の製造法において、前記Qが1価金属の、Liであることを特徴とする発明4の層状複水酸化物の製造方法。
発明11は、発明7の製造法において、前記Rが4価金属の、Tiであることを特徴とする発明5の層状複水酸化物の製造方法。
発明12は、発明7から11のいずれかの製造法において、前記カルボン酸陰イオン(A)を含む塩[Ln+1/n[A](ここで、Ln+はn価の陽イオンであり、nは1≦n≦3の数値範囲である。)で、[Ln+]が、Na、Li、K、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ca2+およびAl3+からなる群から選択されることを特徴とする。
発明13は、層状複水酸化物を膨潤させて得られるゲル状およびゾル状物質であって、発明1から6のいずれかの層状複水酸化物に、プロトン性極性溶媒を添加して膨潤させたものであることを特徴とする。
発明14は、層状複水酸化物から得られた複水酸化物ナノシートであって、発明1から6のいずれかの層状複水酸化物にプロトン性極性溶媒を添加して得られた下記一般式(式5)で表される構造を有することを特徴とする。
(式5)
[QR(OH)2(z+1)……(5)
(ここで、Qは1価金属または2価金属であり、Rは3価金属または4価金属であり、zは1.8≦z≦4.2の数値範囲である。)
発明15は、発明14の複水酸化物ナノシートにおいて、その厚さが0.6nm以上8nm以下であることを特徴とする。
発明16は、発明13のゲル状およびゾル状物質において、そのプロトン性極性溶媒が、水、および、水と50モル%未満の他の極性溶媒の混合溶媒、からなる群から選択されることを特徴とする。
発明17は、発明14又は15の複水酸化物ナノシートにおいて、そのプロトン性極性溶媒が、水、および、水と50モル%未満の他の極性溶媒の混合溶媒、からなる群から選択されることを特徴とする。
本発明者は、アルキル鎖の長さを変化させたカルボン酸アニオンを包接したLDHを合成して、その膨潤性を調べることにより、短いアルキル鎖の脂肪族カルボン酸を包接したLDHが水に対し膨潤性を示すことを知見するに至ったものである。
本発明は、このような知見に基づき、上記構成を採用することで、水に対し膨潤性を持つ高純度なLDH複合体とLDHナノシート水溶液を方法を提供するに至った。
LDHにおける膨潤現象は、次のように解釈できる。通常、水分子は、基本層の水素基と水素結合しており、上記アニオン中間層と調和した状態を維持する。しかしながら、層間の包接物によって、層間が適度に親水性の環境であり、しかも層間が適度に広がっており、更なる水分子を入れる充分な余地があるならば、既に存在する水との水素結合により、さらに水分子が導入され。それにより、さらに層間距離も広がり、層同士の相互作用もさらに弱まり、無限膨潤に至る。
層間に包接するアニオンとして最も一般的に用いられるのはカルボン酸アニオンであるが、これまで、水による剥離を引き起こすため、層間を広げて水分子が入りやすくするように嵩高のカルボン酸アニオンを導入したり、または、層間に水分を引き寄せるため親水性の基をもつカルボン酸アニオンを導入したりすることが試みられていた。乳酸アニオン(CH−CH(OH)−COO)はその例(特許文献3)で、カルボン酸に親水性の水酸基(OH基)が導入されたものである。
カルボン酸のような有機アニオンは疎水性を持ち、特に長鎖のアルキル鎖を持つカルボン酸アニオンは、アルキル鎖同士の疎水的な親和性(疎水的相互作用)によって、層間でいろいろな構造を持つことが知られており(例えば、Cの数が12,14,18のカルボン酸アニオン(これらは界面活性剤である)がその例で、層間で入れ子の様な構造や2層構造を形成することが知られている。)、層間は拡大するものの水分子を引き寄せて膨潤することはない。また、短いアルキル鎖を持つカルボン酸アニオンでは、疎水性は弱まり、アルキル鎖同士の疎水的な親和性も弱くなるが、嵩高くないため層間の拡大は小さい。このように、膨潤性は、包接物の親水性・疎水性・嵩高さの微妙なバランスによって決定されるといえる。
本発明者は、カルボン酸アニオンとして、アルキル鎖が短いカルボン酸イオンを用いることによって充分に親水性と疎水性のバランスが取れ、あえて新たに親水性基を付加する必要はないと、考えた。また、適度な嵩高さもあると考えた。そして、その実証のため、アルキル鎖の長さを変化させたカルボン酸アニオンを包接したLDHを合成して、その膨潤性を調べたのであり、最も短いギ酸アニオン(n=0)や、やや長い酪酸アニオン(n=3)よりも、中間の長さの酢酸(n=1)およびプロピオン酸(n=2)アニオンにおいて、最も顕著な膨潤性を示すことを知見するに至ったものである。そして、カルボン酸にさらに親水性の基を導入したものを使用する必要がないことを知見するに至り、本発明を得るに至った。
本発明においては、イオン交換により膨潤性LDH複合体を合成するため、どのような方法によっても、それが良結晶性LDHであれば利用できる。一般的に合成されているLDHは層間に炭酸イオン(CO 2−)を含む炭酸イオン型で、合成が容易であり、結晶性も良く、実際、工業的に最も多く製造されているLDHのほとんどがこの炭酸イオン型である。既に本発明者は、炭酸イオン型のLDH(CO 2−LDH)を簡単な化学的手法によって、イオン交換が容易な塩素イオンを含む陰イオン交換性LDHに変換する方法について、報告および特許出願している(特許文献4)(非特許文献9,10)。そしてこの方法によって得られた陰イオン交換性LDHから、陰イオン交換によって、水によって膨潤するLDH複合体が得られる。イオン交換は結晶の形状やサイズを変化させることなく行われ、さらにナノシートもその形状を継承するため、自由なサイズ・形状のナノシートを得ることができる。
本発明は、1)簡単に手に入る炭酸型のLDHから容易に、イオン交換によって、結晶形や結晶サイズを変化させることなく、膨潤性LDHが得られること、2)試薬は全て容易かつ安価に入手できるものであり、毒性・危険性のないこと、など多くの利点があり、その意義は大きい。
このようにして得られたLDHナノシートは、交互積層の構成成分としてだけでなく、LDHの層が一層一層、別れて水中で存在するため、反応性の向上が期待でき、これまで、通常のイオン交換では包接できなかった巨大なアニオンや分子などと複合体を形成することが期待できる。また、LDHナノシートによる巨大な分子のラッピングなど、新たな有機無機ハイブリッドやナノ構造の構築といった新しい応用分野にまで波及・発展することが考えられる。
以下、本発明の実施の形態について、説明する。図1に発明を実施するための最良の合成スキームを示した。
膨潤性のLDH複合体の化学式を下記一般式(式1)で表した。
(式1)
;QR(OH)2(z+1)(A(1−y)(X・mHO …… (1)
(ここで、Qは1価金属または2価金属であり、Rは3価金属または4価金属であり、Aは脂肪族カルボン酸アニオンであり、mは0より大きい実数であり、zは1.8≦z≦4.2の範囲である。XはAに置換せずに残った陰イオン、yは、Xの残存分を示し、0≦y<1である。)
これは、イオン交換が最も完全に行われた場合(100%の置換率)は、y=0となるが、実験条件を緩和させることにより、部分的に陰イオン(X)が置換されずに残留した化合物が得られるのは当然のことである。また、生成物を分離、ろ別、乾燥の操作段階で空気中・雰囲気中のCOを取り込み、二次的に数%程度の微量の炭酸イオンが取り込まれることがある。実際、20%程度の炭酸イオン・塩素イオンが混在していても、水に対して膨潤する。また、実用上完全に0となる必要がない場合があるので、実用上、完全な置換体が要求されない時においても、当該請求の範囲外とはしない。
しかしながら、実施例3においても記載しているように、純度が低下することによってコロイド溶液の透明度など、性能が低下するため、少なくともアニオンサイトにおいて炭酸イオン・塩素イオン等の不純物アニオンは、20%以下にするのが望ましいし、本発明の合成プロセスでは、この純度を達成できる。すなわち、実用上は、yが0.2以下、より好ましくは0.1以下とする。
本発明において、アルキル鎖が短いカルボン酸イオンでは、親水性・疎水性・嵩高さのバランスが取れており、あえて新たに親水性基を付加する必要はないとの考えに基づき、最適なカルボン酸アニオンの選択のため、アルキル鎖の長さを変化させたカルボン酸アニオンを包接したLDHを合成した。そして、その膨潤性を調べることにより、酢酸およびプロピオン酸アニオンをカルボン酸アニオン;C2n+1COO(ここで、nは0より大きい整数)が、n=1の酢酸アニオン(CHCOO)および、n=2のプロピオン酸アニオン(CHCHCOO)包接したLDH複合体において、水に対し最も顕著な膨潤性を示すことを知見するに至った。
また、炭酸型や塩素型LDHから、結晶形状・サイズを保ったまま、室温条件でイオン交換によってこれらの膨潤性LDH複合体が合成することができる、最良の例を見出すに至った。
本発明者らは、乳酸イオンでなくとも単純なカルボン酸アニオンである酢酸アニオンやプロピオン酸アニオンを含有するLDHが、水によって瞬時に膨潤し、さらに剥離して、LDHナノシートが得られることを創意工夫によって見出した。このような発見は、従来の「水に対して親和性がある基(親水基)を持つカルボン酸アニオンを含有するLDHでなければ、水によって剥離しない」という常識を覆すものであり、また、最も良く知られている簡単なカルボン酸である酢酸アニオンを包接するLDHで可能であるという新知見である。
また、このような膨潤性のLDHは、出発物の形状を保つことが可能なイオン交換で合成できることが分かった。これにより、結晶性の良いLDHを出発原料として用いることができるので、乳酸アニオンを含むLDHの製造に見られた「再構築」などのプロセスが不要で、より確実なイオン交換により、容易にサイズや形状を制御したLDHナノシートが得られるため、極めて簡便な方法であり得る。
本発明の層状複水酸化物は、以下のようにして製造するのが望ましい。
下記一般式(式2)で表される組成を有するLDHを出発物質とし、これを脂肪族カルボン酸陰イオン(A)を含む下記(式3)で示す塩を溶解させた水や有機溶媒の溶液中で、XとAを陰イオン交換することによって合成する。
(式2)
R(OH)2(x+1)(X)・mHO……(2)
(式中、zは、1.8≦z≦4.2の数値範囲を示し、Qは、2価の金属イオン。Rは、3価の金属イオン。mは0より大きい実数である。(X):Cl,Br,NO , ClO
(式3)
[Ln+1/n[A]……(3)
(ここで、Ln+はn価の陽イオンであり、nは1≦n≦3の数値範囲である。)
前記(式1)及び(式2)におけるQは、一価の場合はLi、二価の場合はMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、および、Caからなる群から選択されるのが好ましい。
前記(式1)及び(式2)におけるRは、三価の場合はAl、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、および、Laからなる群から選択され、四価の場合はTiとされるのが好ましい。 なお、下記実施例では、Mg−Alを含むLDHにつき、詳細に記している。これは、FAによる膨潤・剥離が他のCo、Ni、ZnとAl、Co、Niより成るLDHにおいても、同様に起こることが知られていることからも、わかるように、構成する元素の種類にほとんど影響されない。そのため、他のLDHにおいても、同様に起こることは、容易に想像できるからである。
また、前記(式3)で示す塩としては、[Ln+]が、Na、Li、K、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ca2+およびAl3+からなる群から選択されるのが好ましい。
下記実施例では、[Ln+]が、Naである前記(式3)で示す塩を使用している。これは、Na塩が、最も安価で入手が容易、しかも水への溶解度が大きいことによるものである。しかし、アニオン交換においては、溶液内に存在する[Ln+]のみが肝要であり、他の陽イオンを含む塩であっても、それが水に充分溶ける(すなわち[Ln+]を溶液内に発生させる)という条件を満たすならば他の塩も使用できるのであって、これに該当する塩を列挙している。
イオン交換に用いたLDHの組成は、下記一般式(式2)で表している。
R(OH)2(x+1)(X)・mHO……(2)
(式中、zは、1.8≦z≦4.2の数値範囲を示し、Qは、2価の金属イオン。Rは、3価の金属イオン。mは0より大きい実数である。(X):Cl,Br,NO , ClO
ここでzは、1.8≦z≦4.2の数値範囲と規定しているが、これは、LDHの組成範囲としてよく知られている組成範囲である(非特許文献2−4)。また、実施例では、(X)として、Clを使っているが、これは、炭酸イオン型のLDHから、脱炭酸イオンによって得られるのが、Cl型であるため(非特許文献9、10)で、脱炭酸イオン以外の方法で良質なLDHが得られるなら、アニオン交換がさらに容易であることが知られているNO ,Br, ClO (非特許文献3,4)を含むLDHでも全く問題ないからである。
さらに一般式(式2)で表される組成を有するLDHをイオン交換し得られる膨潤性のLDH複合体の組成を下記一般式(式1)で表している。
(式1)
R(OH)2(z+1)(A(1−y)(X・mHO …… (1)
(ここで、Qは1価金属または2価金属であり、Rは3価金属または4価金属であり、Aは脂肪族カルボン酸アニオンであり、mは0より大きい実数であり、zは1.8≦z≦4.2の範囲である。XはAに置換せずに残った陰イオン、yは、Xの残存分を示し、0≦y<1である。)
この一般式で、zは1.8≦z≦4.2の範囲であるとしているが、これは、実施例にも記載したようにアニオン交換反応によってLDHの層の組成に変化が無いためである。また、FAによる膨潤・剥離が、このzの値にほとんど影響されないところから、本件においても同様であることは、容易に類推できるからである。
本発明で得られるナノシートは、実施例3においても明らかにしているように、1nm余であり、一層一層がバラバラになった状態である。このように質の良いナノシートを含むコロイド溶液を得ることに成功したものである。
本発明の解決手段は、前述した通りであるが、以下、実施例に基づいて具体的に説明する。但しこれら実施例は、本発明を容易に理解するための一助として示したものであり、決して本発明を限定する趣旨ではない。
本実施例ならびに以下の全ての実施例において使用したLDHは、以下の通りである。LDHとして、2価の金属イオンとしてMgイオン、3価の金属イオンとしてAlイオンを含むLDHを使用し、Mg/Al比がほぼ3のものをLDH3で表した。LDH3として、一般式MgAl(OH)(CO 2−0.5・2HOで示される市販のハイドロタルサイト(DHT−6,協和化学工業株式会社製。粒径分布は約0.1〜1μm、Mg/Alモル比は、2.97(±0.02))。また、LDHは、水と接した湿潤な状態で、空気中の二酸化炭素を溶かして生じる炭酸イオンを良く吸着し、炭酸型のLDHに変化してしまうため、生じたLDHの洗浄や反応液の調製には、煮沸処理によって二酸化炭素を除去したイオン交換水(以下、「脱ガス水」と称する)を用いた。
(炭酸型から塩素イオン型への変換)
LDH3を16.1mgとり、それに、酢酸比(酢酸モル量の、酢酸および酢酸ナトリウム合計モル量に対する比率)が0.1の0.1mol/L酢酸緩衝液について、各種のNaCl濃度(0〜25重量%)に調整した酢酸緩衝液−NaCl混合溶液10mlを加え、25℃で1日、緩やかに振りながら反応させた。その後、窒素気流中、0.2ミクロンのメンブランフィルターでろ過し、脱ガス水で、沈殿物を充分に洗浄した。ろ別した沈殿物をかき集めて回収し、直ちに減圧し、真空下で1時間以上、乾燥して、白色粉末を得た。得られたLDHは、粉末X線回折から算出した底面間隔0.798nmおよびFTIRプロファイルから、ClLDHであることが分かり、また、その回折ピーク形より結晶性にほとんど変化無く、良質なClLDHが合成されていることが分かった。化学分析によるCl含有量は、LDH3では、11重量%で、ClLDH3のCl含有量の理論値(11.5重量%)と良い一致を示していた。SEM写真も得られたClLDHの結晶形状や結晶径は出発物である炭酸型LDHと同等であった。これらのことより、その結晶外形・結晶構造・結晶性が、出発原料の炭酸型LDHと同様であった。なお、炭酸型から塩素イオン型への変換(脱炭酸イオン)には、発明者が既に出願した特許文献4に記載しているような塩酸とNaClの混合溶液を使用する方法も適用が可能で、ここに記した脱炭酸イオン法は特許文献4の方法を改良したものである。
(各種のカルボン酸アニオンの包接)
ClLDHを、20mg使用し、それぞれ、2.5 mol/Lのギ酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、酪酸ナトリウム水溶液(10mL)を加え、25℃で1日、イオン交換反応させて、LDHにそれぞれのカルボン酸アニオンを包接した(大量に合成する際には、この割合を保ち、試薬量を変えた)。
以上によって得られた生成物をそれぞれ、F3,A3,P3,B3で略称する。沈殿物を、窒素気流中、0.2ミクロンのメンブランフィルターでろ過し、沈殿物を充分に洗浄した。ろ別した沈殿物をかき集めて回収し、直ちに減圧し、真空下で1時間以上、乾燥して、白色粉末を得た。得られたF3,A3,P3,B3の赤外吸収スペクトルを図2に示す。また、窒素雰囲気(RH〜0%)での粉末X線回折のプロファイルを図3に示す。これらは、アニオン交換が充分に行われ、目的とするLDH複合体が得られていることが分かる。このように1回アニオン交換して得られたLDHについて、CHN分析より求めたアニオン交換率は、90%(F3),80%(A3),63%(P3),73%(B3)であった。アニオン交換率とは、得られたLDH中、アニオンサイト{(A(1−y)(X
(ここで、、Aは脂肪族カルボン酸アニオンであり、XはAに置換せずに残った陰イオン、yは、Xの残存分を示し、0≦y<1である。)において、(1−y)を%で表したものである。
粉末X線回折の結果、底面間隔(窒素雰囲気)は、0.782nm(F3),0.854nm(A3),0.893nm(P3),2.12nm(B3)であった。B3は、かなり大きな底面間隔を示しているが、これは、実施例2で詳述するようにセカンドステージ相が出現しているためである。
なお、P3については、上記、2.5 mol/Lの溶液では、アニオン交換率は、64%と低かったため、6.25 mol/Lの溶液を使ったものを別途、合成した。この場合のアニオン交換率は83%で、図2,3の該当するデータおよび膨潤性の検査など実施例1でのデータにはこのP3試料を使った結果を示した。
得られたLDH複合体の水に対する反応性を調べ、水に対する膨潤性を検査した。水を加えることによって、A3,P3のみ、直にゲルを形成し、また更なる水の滴下によって、コロイド溶液を生じた。他のF3,B3では、透明度の低いケンダク液が得られたのみでゲル化も観察されなかった。ゲル化したA3(A3の250mgに水を2mL加えて生じたゲル)を図4に示した。亜半透明でゼリー状になっていることが分かる。P3についても同様であった。溶液の透過度を定量的に調べるため、F3,A3,P3,B3について、0.01mol/Lの水溶液を作り、可視紫外光分光器(JASCO V−570)でその透過度を調べた(測定波長=589nm、1x1cmの標準石英キュベット使用)。図5にその透過度のグラフを示し、また、図6に実際の溶液の写真を示した。図6では、赤色LED光を照射しているが、水(右端の液体)はチンダル現象を示さず、P3、A3については、剥離により透明性が高いがナノシート形成のためチンダル現象を起こしていることが分かる。他の試料(左の2つの溶液)は粉末状態でのケンダク状態のために散乱光が生じている。このように、A3,P3が透過度の高いコロイド溶液を形成した。B3にもある程度の透明感は認められた(図5)が、ゲル化することは観察されなかった。これより、A3,P3が、水に対し膨潤性があり、しかも剥離の可能性が大きいことが分かった。
実施例1で、酢酸アニオンおよびプロピオン酸アニオンを含むLDH(それぞれA3,P3)が水に対して膨潤性を示すことが明らかになったので、これらの2つのLDH複合体について純度を上げ、より詳しく組成分析、粉末X線回折、走査型電子顕微鏡、熱分析をおこない、粉末状態のキャラクタリゼーションを行った。
アニオン交換率を高め、純度を向上させるため、イオン交換(2.5 mol/L溶液)を2回行った。なお、合成において、イオン交換後の洗浄はメチルアルコールで行ったが、これは、洗浄に水を使用すると生成物がゲル化してコロイド溶液が生じろ過が著しく困難になるためである。メタノールでは、酢酸ナトリウムや反応生成物の塩化ナトリウムのみを溶かして洗浄できるので、このような問題はない。
これにより、CHN分析結果から、A3では、置換率が80%から96%に、P3では、64%から88%に向上したことがわかった。また、組成について、誘導結合プラズマ発光分析装置ICP−AESSPS1700HVR(SEIKO、Japan)を用いて、Mg,Al,Na分析を行い、イオンクロマトグラフ法でCl分析を行った。これらの結果を、総合することによって、A3,P3の組成式を求めた。
式(6)
A3: Mg2.9Al(OH)7.8{(CHCOO0.96(Cl0.02(CO 2−0.01}・mHO ・・・・ (6)

式(7)
P3: Mg2.9Al(OH)7.8{(CHCHCOO0.88(Cl0.04(CO 2−0.04}・mHO ・・・・(7)
ここで、mは、水の量であるが、この値は雰囲気の相対湿度によって変化する。この値は別法で求めたので、後で記述する。なお、これらの組成式は、便宜上、Alを1に、また、アニオンサイトの負電荷を(−1)になるように合わせたもので、構造式(単位格子中の基本的な組成式)は、これから簡単に求めることができる。
粉末X線回折による構造解析を行った。相対湿度によって水和相(HD)、非水和相(NH)、セカンドステージ相(ss)が生じるため、測定雰囲気の相対湿度を変化させその変化を示した。後述するように、非水和相は余分な水層を層間に有しないのであり、層間アニオン同士の間を埋めるように存在するものと考えられる。一方、水和相においては、非水和相に比べ、水分子の大きさである約0.25nmの整数倍の厚さの不連続な増加があることより、層間アニオンと層の間に水の層を形成していると考えられる。セカンドステージ相とは、これら2つの相が1層ずつ交互に積層した相で、非水和相から水和相に移行する中間の相として出現し、底面間隔は両相の底面間隔の合計に近い値を示す特徴がある。
図7はA3の,そして、図8はP3の相対湿度によるX線回折パターンの変化を示している。測定は、X線粉末回折装置Rint1200(リガク、日本)を用い、回折条件は、CuKα線(λ=1.5405nm)、40kV/30mA、走査速度2°(2θ)/分で、測定は25℃で行った。相対湿度は、25℃で窒素ガスと水を飽和させた窒素ガスを混合する装置(SHINYEI SRG−1R−1)を用いて調整し、相対湿度の値は、湿度温度測定器(VAISALA社製 HMI41)でモニターした。
図7,8より、相対湿度を増加することにより、非水和相からセカンドステージ相を経て水和相に不連続的な底面間隔を示しながら移行する様子が観察される。また、同じ相においても、相対湿度の増加により水分含有量が増加し、底面間隔が連続的に漸増することが分かる。
窒素雰囲気下(RH〜0%)の状態では、A3、P3共に非水和相が出現する。他相の混在が無いため、プロファイルが単純になる。また、高角で(110)反射も観察できるため、単位格子のa軸長を正確に求めることができる。そのため、窒素雰囲気下において、粉末状態で2θが70°高角までX線測定した(A3は図9、P3は図10)。反射ピークより、LDH構造を示す菱面体晶系単位格子に一致することを確認した。また、これらの反射からLDHの格子長を求めた。A3については、単位格子のa軸長が0.306nmであり、c軸長が0.854nmであった。これは、RH〜0%で測定をしているため、非水和相の底面距離である。また、P3については、単位格子のa軸長が0.306nmであり、c軸長が0.893nmであった。A3に比べカルボン酸アニオンの長さが増えているためc軸長もやや増加している。これも非水和相の底面距離である。出発物の炭酸型LDHのa軸長、ピーク形状(強度、半値幅など)とほとんど変わりがないことから結晶性に優れた膨潤性LDH複合体が得られたことがわかる。
走査型電子顕微鏡(JEOL、Japan)を用いて、A3、P3の形状観察を行った。観察は、加速電圧10kVであった。A3、P3のSEM像をそれぞれ、図12、図13に示す。出発物の塩素型のLDHについては、図11に示した。SEM像から、直径が約0.1〜1μmの大きさを有する円板状の結晶で、出発物の炭酸型、塩素型のLDHの形状を継承しているものであり、イオン交換によって外形を保ちつつ、変換が行われたことを示している。(ちなみに再構築法では、このような定形で大きな結晶を製造することは一般的に困難である。)
A3、P3の25〜1000℃までの熱分析挙動を示す(図14、図15)(リガク社製TG8120)。測定は、空気雰囲気で行った。25〜100℃、100℃〜300℃、300℃〜500℃の3つの段階で、減量が生じた。水和相の水分など脱離しやすい層間の水分、有機成分の分解・脱離、水酸化物層のOH(構造水)の脱離などが起こり、段階的に減量が生じている。DTAより350〜400℃に発熱ピークが観察されたが、これは有機物の炭素成分の燃焼のためである。600℃でほとんどの減量が終了する。これは、構造が欠陥ペリクレース構造に変化するとされる温度と一致している。1000℃までの重量減少量は、組成式(式(6)および(7))から予想される値と良く一致していた。25〜100℃の間でかなりの減量があったが、これは層間の脱離しやすい水分(特に水和相の水分)によるもので、RH〜0%の窒素雰囲気下では保持した試料では、25〜100℃の著しい減量は観察されない。
A3について、25℃で相対湿度と重量変化を調べた(図16)。重量変化は、窒素雰囲気中での重量を基準にした。これより、室温においてもRH=95%まで変化させると、約22%近い重量の水分が入ることが分かった。これは、塩素型のLDHに比べ10倍近い変化であった。このような重量変化と熱分析の結果より、式(6)における水の量は、窒素雰囲気中(RH〜0%)でm=1.5、RH=45%でm=2.7、RH=90%でm=5.6であることがわかった。RH〜0%でも層間には、脱離しにくい水分が残っており、非水和相においても層間の分子や層とネットワークを作って、比較的、強固に結びついている水分子が存在していると考えられる。
なお、この様に雰囲気の湿度によって大量の水分子を層間から出し入れするため、A3、P3を粉末状態で外気にさらしておくと、外気の湿度変化に伴い、炭酸ガスの浸入が生じ、1週間〜1ヶ月程度で、次第に炭酸型LDHへの変質が起こることが観察された(粉末X線回折ならびにFTIRスペクトルによる)。これを防ぐためには、密閉したガラス瓶で保存する必要がある。このように保存されたものでは、2ヶ月程度の保存でも全く変質は見られなかった。
以上、膨潤性のLDHであるA3、P3を純度良く製造した。またこれらの固体状態での性質について明らかにした。
A3、P3のとの反応によって生じるコロイド溶液の性質とその中に含まれるLDHのシートの形状について調べた。
コロイド溶液の粘度測定は、粘度測定装置(CBC Material,VM−10A)を用いて行った。濃度と粘度(Static Viscosity)をプロットした図を示す(図17)。A3は、0.25mol/Lの濃度で4.5 mPa・sの粘度を示したが、これは、ほぼ人間の血液の粘度に相当する。P3もほぼ、同様であった。
コロイド溶液の透過度の濃度による変化を可視分光器で測定した。濃度と吸光度(Absorbance)をプロットした図を示す(図18)。0.1mol/Lといった高い濃度においても、吸光度は、0.3〜0.45であり、これは、透過度(Transmittance)に直すと、35〜50%になる。A3、P3以外の試料では、この1/10の濃度でもこれ以下の透過度であることから、これらのコロイド溶液の透過度の高さが良く分かる。P3の方が、吸光度が大きいがあるが、これは、P3の純度がA3に比べやや低いため、剥離しない部分が光の透過を妨げるためである。
(XRD)ガラス板上にA3を広げ、粉末状態でX線回折測定を行い、次に同試料に水を少量滴下しゲル状態になった状態で、X線回折測定を行った(図19(a)および(b))。さらに、ゲルを窒素気流中および真空中で乾燥させた後、X線回折測定を行った(図19(c))。その結果、粉末状態で明らかであった反射ピークは、ゲル状態で消失し、また、さらに乾燥させることによってそれらの反射ピークの再出現が観察され、ゲル状態においてLDHの層が剥離し、乾燥によって再度、積層されたことがわかる。P3も全く同じ挙動を示し、A3、P3共に、水によって層の剥離が起こることが証明された。
LDHナノシートの厚さは、剥離の程度によって異なる。LDHナノシートの厚さを調べるため、表面トポグラフィをSeiko E−Sweep原子間力顕微鏡(AFM)を用いて調べた。表面トポグラフィ用の試料は、Si基板を酸洗浄した後、カチオン性高分子(PEI)さらにアニオン性高分子(PSS)を1層ずつ付着して、アニオン性の表面を形成し、その上にカチオン性のLDHナノシートを吸着させることによって調製された。測定は、シリコンチップを備えたカンチレバーで、20N/mのタッピングモードで行った。図20はA3の、また図21はP3の、LDHナノシートのAMF像を示している。出発物の外形を保っており、LDHナノシートの厚さは、1.2nm程度であり、単層のシートであることが分かった。(FAで得られるナノシートが0.8〜1nm程度であるのに比べ、やや大きい値であるが、これは、カルボン酸アニオンがナノシートの表面に付着しているため、と考えられる。)その他にも、2〜6層程度の厚さのナノシートも観察されたが、単層のシートが形成されていることから、剥離の程度がかなり高いことが推定された。
実施例1で記載した、カルボン酸アニオン以外にも、アルキル鎖が枝分かれしたイソ酪酸アニオン(CH−CH(CH)−COO)、OH基が酢酸アニオンに結合したグリコール酸アニオン(CH(OH)−COO)についても、全く同様な方法で合成し、キャラクタリゼーションを行ったが、膨潤・ゲル化などの性質は見られなかった。
A3のコロイド溶液(20mL、0.15mol/L)をポリエチレン容器に入れ、窒素ガスでパージした後、中程度(0.01mPa)の真空中でゆっくり乾燥させることによって膜を形成した。アセトンに浸漬して容器から剥がし、乾燥させることにより、A3の自立膜(厚さ:10〜25μm)を得ることができた(図22)。この膜は亜透明(25μmの厚さの膜で透過度が、約80%)で柔軟性があり、はさみで切ることができた。そして、この膜を、Cl,NO ,ClO などの無機アニオンのナトリウム塩、および、p−トルエンスルホン酸アニオンのような有機アニオンのナトリウム塩を大過剰に含む水溶液中でアニオン交換した結果、アニオン交換された自立膜が得られた(ただし、得られた自立膜は柔軟性を失い、脆い)。粘土鉱物においてこのような自立膜は知られているが、アニオン交換性のLDHについては報告が無い。このことは、LDHナノシートを含むコロイド溶液の可能性を示唆している。
以上、説明してきたように、本発明によれば、水を溶媒としたLDHナノシートを含むコロイド溶液を容易に製造することができる。当該ナノシートは、新規なカチオン性のナノ材料として有用であり得る。また、当該ナノシートは、バラバラの状態であるため、反応性の向上が期待でき、これまで、通常のイオン交換では包接できなかった巨大なアニオンや分子などと有機無機ハイブリッドを形成することが期待できる。また、水溶性ポリマーとの複合による弾性に富むゲル材料、LDHナノシートによる巨大な分子のラッピングといった新たな用途や、触媒・センサにおけるナノ構造の構築といった新しい応用分野にまで波及・発展することが考えられる。
本発明の膨潤性LDHの合成ならびにナノシートを得る方法を示すフローチャートであり、実施例1における、炭酸型の層状複水酸化物(LDH)から脱炭酸、アニオン交換を経て、膨潤性LDH、さらにそのナノシートを製造する、最良の実施形態に対応するプロセスの概念図。 実施例1おける各種のカルボン酸アニオンを包接した層状複水酸化物(LDH)F3,A3,P3,B3のフーリエ変換赤外分光スペクトル(透過度)。比較のため塩素イオン型LDH(CL)のスペクトルを示した。F3,A3,P3,B3は、それぞれ、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸のアニオン。 実施例1おける各種のカルボン酸アニオンを包接した層状複水酸化物(LDH)F3,A3,P3,B3の粉末X線回折プロファイル。窒素雰囲気中(相対湿度RH〜0%)で測定したもの。B3のみ回折強度は、2倍のスケールで表している。P3,B3のプロファイル中の、*マークは、交換しなかったClLDHによる回折ピークを示している。また、B3は、ss相で、他は、非水和相(NH)である。ss相は、が非水和相(NH)と水和相(HD)が一層ずつ交互に積層した相。 実施例1におけるA3に水を加えて得られたゲルの写真。瓶を横にしても、高粘性のため形を保っている。 実施例1における、F3,A3,P3,B3の0.01mol/L水溶液の透過度(波長:589nm)。 実施例1における、F3,A3,P3の0.01mol/L水溶液の写真。右から、水、P3、A3、F3、炭酸型LDH(比較のため)で、光は赤色LED光を照射している(右から左への照射)。 実施例2における各種の相対湿度でのA3の粉末X線回折プロファイル。右に各相対湿度での相を示している(NH:非水和相、HD:水和相、ss:セカンドステージ相)。 実施例2における各種の相対湿度でのP3の粉末X線回折プロファイル。右に各相対湿度での相を示している。 実施例2における窒素雰囲気でのA3の粉末X線回折プロファイル。回折ピークは指数付けされている。高角で(110)反射が観察される。 実施例2における窒素雰囲気中でのP3の粉末X線回折プロファイル。高角で(110)反射が観察される。*マークは、イオン交換されずに残ったClLDHによる回折ピークを示している。 実施例2における試料(出発物の炭酸型LDH3)のSEM(走査電子顕微鏡)像写真。図中のバーは1μm。 実施例2における試料(A3)のSEM(走査電子顕微鏡)像写真。 図11と結晶外形・結晶径に変化は見られない。図11と同一倍率で、図中のバーは1μm。 実施例2における試料(P3)のSEM(走査電子顕微鏡)像写真。 図11と結晶外形・結晶径に変化は見られない。図11と同一倍率で、図中のバーは1μm。 実施例2におけるA3の熱重量分析(TG)−示差熱分析(DTA)測定結果のグラフ。 実施例2におけるP3の熱重量分析(TG)−示差熱分析(DTA)測定結果のグラフ。 実施例2における相対湿度の変化に伴うA3の重量変化。窒素雰囲気中での重量を基準とした変化の割合(%)。比較として、塩素イオン型LDH(CL;破線)の変化も示している。 実施例3における膨潤性LDH水溶液(コロイド溶液)の20℃における粘度、(a)A3,(b)P3。濃度による粘度の変化を示している。 実施例3における膨潤性LDH(A3およびP3)のコロイド溶液の25℃における吸光度(ABS)。使用波長は、589nm、濃度による吸光度の変化を示している。 実施例3におけるA3の粉末X線回折プロファイル(窒素雰囲気中)。(a)ガラス基板上の粉末、(b)同粉末に水を滴下してゲル状態にしたもの、(c)同ゲルを基板上で乾燥させたもの。(b)は、2.5倍、(c)は、1/2のスケールである。(b)では反射ピークが消失し、乾燥により(c)のように、再度、出現する。 実施例3におけるA3のLDHナノシートのAMF像を示す図。(a)基板に垂直な方向から見た図、(b)(a)に示した直線に沿った横断面の高さを示している。(c)LDHナノシートを斜めから見た3次元的像。 実施例3におけるP3のLDHナノシートのAMF像を示す図。(a)基板に垂直な方向から見た図、(b)(a)に示した直線に沿った横断面の高さを示している。(c)LDHナノシートを斜めから見た3次元的像。 実施例4におけるA3のLDHナノシートを含むコロイド溶液を乾燥させて作製した亜透明性フィルム(自立膜)の写真。厚さは約25μm。下図では、フィルムを曲げて柔軟性を示している。

Claims (17)

  1. 水酸化物の層と層間に陰イオンを有する層状複水酸化物であって、下記一般式(式1)で表されることを特徴とする層状複水酸化物。
    (式1)
    R(OH)2(z+1)(A(1−y)(X・mHO……(1)
    (ここで、Qは1価金属または2価金属であり、Rは3価金属または4価金属であり、Aは脂肪族カルボン酸アニオンであり、mは0より大きい実数であり、zは1.8≦z≦4.2の範囲である。XはAに置換せずに残った陰イオン、yは、Xの残存分を示し、0≦y<1である。)
  2. 請求項1に記載の層状複水酸化物において、Qが2価金属のMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、および、Caからなる群から選択されることを特徴とする。
  3. 請求項1又は2に記載の層状複水酸化物において、前記Rが3価金属のAl、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、および、Laからなる群から選択されることを特徴とする。
  4. 請求項1に記載の層状複水酸化物において、前記Qが1価金属のLiであることを特徴とする。
  5. 請求項1、2,4のいずれかに記載の層状複水酸化物において、前記Rが4価金属のTiであることを特徴とする。
  6. 請求項1から5のいずれかに記載の層状複水酸化物において、前記Aのカルボン酸アニオン;C2n+1COO(ここで、nは0より大きい整数)が、n=1のCHCOOおよび、n=2のCHCHCOOであることを特徴とする。
  7. 請求項1から6のいずれかに記載の層状複水酸化物の製造方法であって、下記一般式(式2)で表される組成を有する層状複水酸化物を出発物質とし、これを脂肪族カルボン酸陰イオン(A)を含む下記(式3)で示す塩を溶解させた水や有機溶媒の溶液中で、XとAを陰イオン交換することによって合成することを特徴とする。
    (式2)
    R(OH)2(x+1)(X)・mHO……(2)
    (式中、zは、1.8≦z≦4.2の数値範囲を示し、Qは、2価の金属イオン。Rは、3価の金属イオン。mは0より大きい実数である。(X):Cl,Br,NO , ClO
    (式3)
    [Ln+1/n[A]……(3)
    (ここで、Ln+はn価の陽イオンであり、nは1≦n≦3の数値範囲である。)
  8. 請求項7に記載の製造法において、Qが2価金属のMg、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、および、Caからなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の層状複水酸化物の製造方法。
  9. 請求項7に記載の製造法において、前記Rが3価金属のAl、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、および、Laからなる群から選択されることを特徴とする請求項3に記載の層状複水酸化物の製造方法。
  10. 請求項7に記載の製造法において、前記Qが1価金属のLiであることを特徴とする請求項4に記載の層状複水酸化物の製造方法。
  11. 請求項7に記載の製造法において、前記Rが4価金属のTiであることを特徴とする請求項5に記載の層状複水酸化物の製造方法。
  12. 請求項7から11のいずれかに記載の製造法において、前記カルボン酸陰イオン(A)を含む前記式3で示す塩で、[Ln+]が、Na、Li、K、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ca2+およびAl3+からなる群から選択されることを特徴とする。
  13. 層状複水酸化物を膨潤させて得られるゲル状およびゾル状物質であって、請求項1から6のいずれかに記載の層状複水酸化物に、プロトン性極性溶媒を添加して膨潤させたものであることを特徴とする。
  14. 層状複水酸化物から得られた複水酸化物ナノシートであって、請求項1から6のいずれかに記載の層状複水酸化物にプロトン性極性溶媒を添加して得られた下記一般式(式5)で表される構造を有することを特徴とする。
    (式5)
    [QR(OH)2(z+1)……(5)
    (ここで、Qは1価金属または2価金属であり、Rは3価金属または4価金属であり、zは1.8≦z≦4.2の数値範囲である。)
  15. 請求項14に記載の複水酸化物ナノシートにおいて、その厚さが0.6nm以上8nm以下であることを特徴とする。
  16. 請求項13に記載のゲル状およびゾル状物質において、そのプロトン性極性溶媒が、水、および、水と50モル%未満の他の極性溶媒の混合溶媒、からなる群から選択されることを特徴とする。
  17. 請求項14又は15に記載の複水酸化物ナノシートにおいて、そのプロトン性極性溶媒が、水、および、水と50モル%未満の他の極性溶媒の混合溶媒、からなる群から選択されることを特徴とする。
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