JP2009156117A - エンジンの制御方法及び制御装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】HCCI燃焼の際に吸排気の負のオーバーラップ(NVO)期間を設けるとともに、この期間において気筒2内に燃料を噴射(NVO噴射)して予混合気の圧縮自己着火を促進するようにしたエンジン1において、過早な着火を引き起こすことなく適正に自己着火を促進する。
【解決手段】HCCI領域(H)内の相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)において、エンジン負荷の上昇に応じて徐々にNVO期間を短くするとともに、NVO噴射量も徐々に減少させる。負荷の上昇に伴いNVO噴射の要求量が減少し、インジェクタ18の最小噴射量未満になれば、その最小噴射量に維持するとともに、さらなるエンジン負荷の上昇に対してはNVO期間の短縮度合いを大きくして、早めに内部EGRガス量を減らすことにより対処する。
【選択図】 図8
【解決手段】HCCI領域(H)内の相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)において、エンジン負荷の上昇に応じて徐々にNVO期間を短くするとともに、NVO噴射量も徐々に減少させる。負荷の上昇に伴いNVO噴射の要求量が減少し、インジェクタ18の最小噴射量未満になれば、その最小噴射量に維持するとともに、さらなるエンジン負荷の上昇に対してはNVO期間の短縮度合いを大きくして、早めに内部EGRガス量を減らすことにより対処する。
【選択図】 図8
Description
本発明は、エンジンの気筒内の予混合気を圧縮して自己着火により燃焼させるための制御技術に関し、特に、自己着火の起き難い相対的に低負荷側の運転領域において、気筒の排気行程ないし吸気行程で吸排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ期間を設けて、気筒内の温度を高めるようにしたものに係る。
近年、エンジンのさらなる燃費改善や排気清浄化を図るために、気筒内の予混合気を圧縮して自己着火により燃焼させるという新しい燃焼形態が提案されており、一般には、予混合圧縮着火燃焼(以下、HCCI燃焼ともいう)という呼称で知られている。この新しい燃焼形態では、従来一般的な火花点火による燃焼(以下、SI燃焼ともいう)とは異なり、気筒内の多数の箇所で予混合気が一斉に自己着火して燃焼を始めることから、熱効率が極めて高くなる。
また、従来のSI燃焼を実現できない超希薄な予混合気や多量のEGRによって希釈した予混合気であっても、ピストンにより圧縮された気筒内の温度が所定以上に高くなれば自己着火するようになり、燃焼期間そのものは短いものの激しい燃焼にはならないことから、窒素酸化物の生成も格段に少なくなる。
但し、エンジンが相対的に低負荷側の運転領域にあるときには、圧縮上死点(TDC)近傍においても予混合気の温度が自己着火温度に至らない可能性があるので、従来より、気筒の排気行程から吸気行程にかけて吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ(Negative Valve Ovealap:NVO)期間を設けて、高温の既燃ガスを多量に残留させることにより(以下、内部EGRともいう)気筒内の温度を高めることが行われている。
また、例えば特許文献1に記載のエンジンでは、前記NVO期間中に燃料の一部を噴射する(以下、NVO噴射ともいう)ことによって、自己着火し易い活性化混合気を形成するようにしている。すなわち、高温の既燃ガス中に噴射された燃料は直ちに気化するとともに、分子の鎖が切れてラジカルを生成したり、アルデヒド程度まで部分酸化反応したりして自己着火し易い混合気となり、これが圧縮行程終盤以降における予混合気全体の自己着火を促進するものと考えられている。
さらに、前記従来例のエンジンでは、NVO噴射の量をエンジン負荷の上昇に連れて減少させるようにしている。これは、負荷の上昇に伴い燃料噴射の総量が増大して着火しやすくなるため、NVO噴射量は少なくて済むことと、それに拘わらず噴射量を増やすとすれば、その後の吸気行程における新気の充填効率が低下してしまい、出力の確保が難しくなるとともに、予混合気の自己着火のタイミングが早くなりすぎてエンジンの運転効率が低下し、さらにはノッキングを引き起こす虞れもあるからである。
特開2001−82229号公報
ところで一般にエンジンの燃料噴射弁には芯弁の作動速度等、物理的な限界によって決まる最小噴射量があり、それよりも少ない分量の燃料は安定して噴射することができない。この点、NVO噴射は元々の要求量が少ないこともあって、前記従来例のようにエンジン負荷の上昇に連れて噴射量を減らすようにすると、前記燃料噴射弁の最小噴射量に達することがある。
そうなると、それ以上にエンジン負荷が上昇してもNVO噴射量を減らすことはできないから、負荷に対して相対的にNVO噴射量の多すぎる状態になってしまい、過早な着火タイミングとなる虞れがある一方で、仮にNVO噴射を辞めてしまえば、これによる自己着火の促進は図れなくなる。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、所謂負のオーバーラップ(NVO)期間を設けるとともに、この期間において既燃ガスの残留する気筒内に燃料を噴射し、これにより予混合気の圧縮による自己着火を促進するようにしたエンジンにおいて、NVO期間の長さとNVO噴射量との関係に着目して、過早な着火を引き起こすことなく適正に自己着火を促進することにある。
前記の目的を達成するために本発明では、例えば従来例のようにエンジン負荷の上昇に応じて要求されるNVO噴射量が減少し、燃料噴射弁の最小噴射量に至ったとしても、その後はNVO噴射量を最小噴射量に維持するとともに、さらなるエンジン負荷の上昇に対してはNVO期間を短縮し、内部EGRガス量を減らすことによって対処するようにしたものである。
具体的に請求項1の発明は、エンジンが相対的に低負荷側の第1運転領域にあるとき、気筒の排気行程ないし吸気行程において吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ(NVO)期間を設けるとともに、既燃ガスの残留する気筒内に燃料の少なくとも一部を直接、噴射供給することで、圧縮行程の後期以降における予混合気の自己着火を促進するエンジン制御方法であって、エンジン負荷の上昇に応じて排気弁の閉時期を遅角させる排気弁閉時期遅角工程と、前記負のオーバーラップ期間中の燃料噴射量をエンジン負荷の変化によらず所定量に維持する噴射量維持工程と、を有するものである。
前記の方法により、まず、エンジンが第1運転領域にあってHCCI燃焼状態とするときには、気筒の排気行程ないし吸気行程において所定期間(NVO期間)、吸気弁及び排気弁の双方が閉じられて、気筒内に多量の既燃ガス(内部EGRガス)が残留するようになる。そうして高温の既燃ガスが残留する気筒内に燃料が直接、噴射(NVO噴射)されて自己着火し易い活性化混合気が形成されるとともに、その後の吸気行程等において供給される燃料も吸気や内部EGRガスと混合されつつ分散して、気筒内には概ね均一な予混合気が形成される。
続いて圧縮行程におけるピストンの上昇に伴い予混合気が圧縮されて、その温度及び圧力が上昇し、TDC近傍の所定のタイミングにて自己着火が誘発される。この際、前記のように予混合気中に活性化混合気が含まれていることによって、その圧縮による自己着火が促進されることになり、相対的に低負荷側の第1運転領域においても予混合気を確実に自己着火させることができる。
ここで、予混合気の自己着火のタイミングは種々の要因により変化し、NVO噴射の量によっても変化するもので、それを適切なタイミングとするためには、上述した従来例(特許文献1)のようにエンジン負荷の上昇に応じてNVO噴射量を減少させるのが好ましいが、何らかの理由でエンジン負荷の変化によらずNVO噴射量を維持する場合には(噴射量維持工程)、エンジン負荷の上昇に対して排気弁の閉時期は遅角させ(排気弁閉時期遅角工程)、NVO期間を短くして内部EGRガス量を減らすことにより、気筒内温度の上昇を抑えるようにすればよい。
すなわち、例えばエンジンが前記第1運転領域にあるときには、基本的にエンジン負荷の上昇に応じてNVO噴射量を減少させるとともに(噴射量減少工程)、第1運転領域内で相対的に高負荷側の特定領域においては、エンジン負荷の上昇に対応して求められるNVO噴射量が燃料噴射弁の最小噴射量未満になっても、それは最小噴射量に維持する一方で、さらなるエンジン負荷の上昇に対しては排気弁の閉時期を遅角させることで対処するのである(請求項3)。
好ましいのは、第1運転領域の全般において基本的には、エンジン負荷の上昇に応じて排気弁の閉時記を遅角させて(排気弁閉時期遅角工程)、NVO期間を短くするとともに、これにより内部EGRガス量が減少することに対応してNVO噴射量も減少させて、両者のバランスを取ることである。こうした場合、前記のように第1運転領域内で相対的に高負荷側の特定領域においてNVO噴射量を最小噴射量に維持せざるを得なくなれば、さらなるエンジン負荷の上昇に対しては排気弁閉時期の遅角度合いを相対的に大きくすることで、適切に対応できる(請求項2)。
また、前記第1運転領域の高負荷側に隣接する第2運転領域においては、第1運転領域よりも気筒内の温度は高い傾向にあるので、NVO噴射は行わないが、こうした場合に、エンジンが負荷の上昇に応じて第1運転領域から第2運転領域へ移行するときには、その第1運転領域内の高負荷側の特定領域において最小噴射量に維持されているNVO噴射量がステップ状に急減して、零まで変化することになる。
そこで、このときには前記特定領域においてエンジン負荷の上昇に応じて徐々に遅角させてきた排気弁の閉時期をステップ状に変化させて、一気に進角させることが好ましい(排気弁閉時期進角工程)。こうすれば、NVO噴射量が急減してもそれに対応するようにNVO期間が急増するから、予混合気の着火性が低下する虞れはない(請求項4)。
別な観点から本発明は、エンジンが相対的に低負荷側の第1運転領域にあるとき、気筒の排気行程ないし吸気行程において吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ期間を設けるとともに、既燃ガスの残留する気筒内に燃料の少なくとも一部を直接、噴射供給することで、圧縮行程の後期以降における予混合気の自己着火を促進するようにしたエンジンの制御装置であって、エンジンが所定運転状態にあるときには負荷の上昇に応じて排気弁の閉時期を遅角させる排気弁閉時期制御手段と、前記所定運転状態において負のオーバーラップ期間中の燃料噴射量をエンジン負荷の変化によらず所定量に維持する噴射量制御手段と、を備えるものである(請求項5の発明)。
この構成の制御装置によれば、上述した請求項1の発明に係るエンジン制御方法が容易に実行可能であり、その発明の作用効果が容易且つ確実に得られる。
そして、前記噴射量制御手段を、エンジンが第1運転領域中に予め設定された特定領域にあるときに、エンジン負荷の変化によらず負のオーバーラップ期間中の燃料噴射量を所定量に維持するものとし、また、前記排気弁閉時期制御手段は、前記第1運転領域においてエンジン負荷の上昇に応じて排気弁の閉時期を遅角させるとともに、前記特定領域ではエンジン負荷の上昇に対する排気弁閉時期の遅角度合いを相対的に大きくするものとすれば、上述した請求項2に係る発明の作用が得られる。
その場合に、前記噴射量制御手段を、エンジンが第1運転領域にあるとき、その負荷の上昇に応じて燃料噴射量を減少させてゆき、燃料噴射量の制御目標値が燃料噴射弁の最小噴射量未満になる高負荷側の特定領域では、当該最小噴射量に燃料噴射量を維持するものとすれば、上述した請求項3に係る発明の作用が得られる。
さらに、前記噴射量制御手段を、エンジンが第1運転領域の高負荷側に隣接する第2運転領域にあるときには、負のオーバーラップ期間中における燃料の噴射を行わないものとし、また、前記排気弁閉時期制御手段は、エンジンが負荷の上昇に応じて前記第1運転領域から第2運転領域へ移行するときには排気弁の閉時期を進角させるものとすれば、上述した請求項4に係る発明の作用が得られる。
以上、説明したように本発明に係るエンジンの制御方法等によると、吸排気弁の作動に所謂負のオーバーラップ(NVO)期間を設けて、多量の内部EGRガスにより気筒内の温度を高めるとともに、その気筒内に燃料を噴射(NVO噴射)することによって予混合気の圧縮自己着火を促進する場合に、基本的に、エンジン負荷の上昇に応じて排気弁閉時期を遅角させ、NVO期間を短くするとともに、これによる内部EGRガスの減少に対応するようにNVO噴射量も減少させることで、予混合気の自己着火タイミングを適切に制御することができる。
そうして負荷の上昇に伴い減少されるNVO噴射量が燃料噴射弁の最小噴射量に達すれば、それ以降は最小噴射量に維持するとともに、排気弁の遅角によるNVO期間の短縮度合いを大きくすることで、さらなるエンジン負荷の上昇に対して相対的にはNVO噴射量が多くなりすぎても、これにより着火タイミングが過早なものにならないようにして適正に自己着火を促進することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
(全体構成)
図1は本発明に係るエンジン制御装置Aの全体構成を示し、符号1は、車両に搭載された多気筒ガソリンエンジンである。このエンジン1の本体は、複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)が設けられたシリンダブロック3上にシリンダヘッド4が配置されてなり、各気筒2内にはピストン5が嵌挿されて、その頂面とシリンダヘッド4の底面との間に燃焼室6が形成されている。ピストン5はコネクティングロッドによってクランク軸7に連結されており、クランク軸7の一端側にはその回転角(クランク角)を検出するためのクランク角センサ8が配設されている。
図1は本発明に係るエンジン制御装置Aの全体構成を示し、符号1は、車両に搭載された多気筒ガソリンエンジンである。このエンジン1の本体は、複数の気筒2,2,…(1つのみ図示する)が設けられたシリンダブロック3上にシリンダヘッド4が配置されてなり、各気筒2内にはピストン5が嵌挿されて、その頂面とシリンダヘッド4の底面との間に燃焼室6が形成されている。ピストン5はコネクティングロッドによってクランク軸7に連結されており、クランク軸7の一端側にはその回転角(クランク角)を検出するためのクランク角センサ8が配設されている。
前記シリンダヘッド4には、各気筒2毎に燃焼室6の天井部に開口するように吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。吸気ポート9は燃焼室6の天井部から斜め上方に向かって延びて、シリンダヘッド4の一側面に開口しており、排気ポート10は反対側の他側面に開口している。吸気ポート9及び排気ポート10は、それぞれ吸気弁11及び排気弁12によって開閉されるようになっており、これら吸排気弁11,12は、シリンダヘッド4に配設された動弁機構13のカム軸(図示せず)によりクランク軸7の回転に同期して駆動されるようになっている。
前記動弁機構13には、吸気側及び排気側にそれぞれ、弁リフト量を連続的に変更可能な公知のリフト可変機構14(以下、VVLと略称する)と、弁リフトのクランク回転に対する位相角を連続的に変更可能な公知の位相可変機構15(以下、VVTと略称する)と、が組み込まれており、それらの作動によって吸排気弁11,12のリフト特性を変更し、気筒2への吸気の充填量や残留既燃ガス(内部EGRガス)の量を調整することができる。尚、VVL14については既に種々の構造のものが実用化されているので、詳しい説明は省略するが、一例として特開2006−329022号公報、2006−329023号公報等に記載されているものを利用することができる。
また、各気筒2の燃焼室6の天井部に電極を臨ませて点火プラグ16が配設され、点火回路17によって所定の点火タイミングにて通電されるようになっている。一方、燃焼室6の吸気側の周縁部に先端を臨ませて気筒2内に燃料直接、噴射するインジェクタ18(燃料噴射弁)が配設されている。このインジェクタ18により気筒2の吸気行程において燃料が噴射されると、その燃料噴霧は吸気と混ざり合いながら、ピストン5の下降に伴い容積の拡大する気筒2内に広く分散して、概ね均一な予混合気を形成する。
尚、図示は省略するがインジェクタ18には、供給する燃料の圧力状態を変更可能な燃料供給ラインが接続されており、前記のように気筒2の吸気行程で燃料を噴射するときには相対的に低圧の燃料を供給し、後述の如くNVO期間に高温の内部EGRガス中に燃料を噴射するときには相対的に高圧の燃料を供給することができる。
図においてエンジン1の右側に位置するシリンダヘッド4の一側には吸気系が配設され、各気筒2の吸気ポート9には吸気通路20が連通している。この吸気通路20は、エンジン1の各気筒2の燃焼室6に対して図外のエアクリーナにより濾過した空気を供給するためのものであり、サージタンク21の上流の共通通路には電気式スロットル弁22とが配設されている。サージタンク21の下流で吸気通路20は各気筒2毎に分岐して、それぞれ吸気ポート9に連通している。
一方、シリンダヘッド4の他側には排気系が配設され、各気筒2の排気ポート10にはそれぞれ、各気筒2毎に分岐した排気通路25(排気マニホルド)が接続されている。この排気マニホルドの集合部には排気中の酸素濃度を検出するセンサ26が配設されている。また、排気マニホルドよりも下流側には、排気中の有害成分を浄化するための触媒27等が配設されている。
上述の如く構成されたエンジン1の運転制御を行うために、パワートレインコントロールモジュール30(以下、PCMという)が設けられている。これは、周知の如くCPU、メモリ、I/Oインターフェース回路等を備えており、図2にも示すように、クランク角センサ8等からの信号を入力するとともに、吸気通路20における空気の流量を計測するエアフローセンサ31からの信号と、図示しないアクセルペダルの操作量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ32からの信号と、車両の走行速度を検出する車速センサ33からの信号と、を少なくとも受け入れる。
そして、PCM30は、前記各種センサからの信号等に基づいて、エンジン1の運転状態(例えば負荷状態及びエンジン回転速度)を判定し、これに応じてVVL14、VVT15、点火回路17、インジェクタ18等を少なくとも制御する。すなわち、PCM30は、主にVVL14の作動によって吸排気弁11,12のリフト量を調整し、気筒2への吸気(空気)の充填量を制御するとともに、主にVVT15の作動によって吸排気弁11,12のオーバーラップ期間を調整し、内部EGRガス量を制御する。
それらVVL14及びVVT15の制御によって吸排気弁11,12のリフトカーブLin,Lexは、図3に模式的に示すようにそれぞれ最小リフトから最大リフトまでの間で連続的に変化する。吸排気弁11,12のリフト量は、エンジン1の負荷(目標トルク)や回転速度が高いほど大きくなり、これに伴いオーバーラップ期間(正のオーバーラップ期間)が生じるようになる。
そうして主にVVL14の制御によって気筒2への吸気の充填量を広い範囲で変更することができるので、この実施形態のエンジン1ではスロットル弁22の制御によらず出力を制御することができる。従って、吸気通路20に設けられたスロットル弁22は、主にフェールセーフのためのものであり、通常はエンジン1の部分負荷域においても全開とされて、ポンピングロスの低減が図られる。
また、PCM30は、インジェクタ18を後述の如き所定のタイミングで作動させることにより、気筒2内の空燃比や混合気の形成状態を切換えるとともに、前記のように主にVVT15の作動によって気筒2の内部EGRガス量を制御し、さらに点火プラグ16の作動状態を切換えることで、エンジン1の燃焼状態を以下に述べるHCCI燃焼とSI燃焼とのいずれかに切換えるようになっている。
(エンジン制御の概要)
具体的には図4に制御マップの一例を示すように、相対的に低負荷且つ低回転側の運転領域(H)においては、気筒2内に形成した予混合気に点火することなく、これをピストン5の上昇により圧縮して自己着火させるようにする。すなわち、図5に模式的に示すように、気筒2の吸気行程においてインジェクタ18により燃料を噴射(メイン噴射)させ、吸気や内部EGRガスと十分に混合させて、概ね均一な予混合気を形成した上で燃焼させるようにする。
具体的には図4に制御マップの一例を示すように、相対的に低負荷且つ低回転側の運転領域(H)においては、気筒2内に形成した予混合気に点火することなく、これをピストン5の上昇により圧縮して自己着火させるようにする。すなわち、図5に模式的に示すように、気筒2の吸気行程においてインジェクタ18により燃料を噴射(メイン噴射)させ、吸気や内部EGRガスと十分に混合させて、概ね均一な予混合気を形成した上で燃焼させるようにする。
その際、図示のように、気筒2の排気行程ないし吸気行程において排気弁12が閉じてから吸気弁11が開くまでの期間、即ち吸排気弁11,12の双方が閉じる所謂負のオーバーラップ(Negative Valve Ovealap:NVO)期間を設けて、多量の内部EGRガスによって気筒2内の温度を高めることにより、予混合気の自己着火を促進するようにする。NVO期間が長いほど内部EGRガス量が多くなり、予混合気の自己着火のタイミングは進角する。
そのような予混合気の圧縮による自己着火については従来よりHCCI(Homogenious Charge Compression Ignition)と呼ばれており、気筒2内の燃焼室6における多数の箇所で予混合気が略一斉に自己着火して燃焼を開始するものと考えられている。このような燃焼によると、従来一般的な火炎伝播による燃焼(Spark Ignition:SI燃焼)に比べて燃焼期間が短くなり、熱効率が高くなる。
そうして予混合気が自己着火するHCCI燃焼は、SI燃焼の実現が困難な超希薄な予混合気や多量の内部EGRガスによって希釈した予混合気であっても実現可能であり、前記のように燃焼期間は短くても燃焼温度は低いことから、窒素酸化物の生成は非常に少ない。言い換えると、あまり希薄でない予混合気や希釈度合いの低い予混合気では自己着火のタイミングが早くなりすぎて、所謂ノッキングを起こしてしまう。
つまり、HCCI燃焼はかなり希薄な予混合気か、或いは多量のEGRによって希釈した予混合気によって実現されるものであり、あまり高い出力は得られないので、前記の制御マップ(図4)に示すように、相対的に高負荷側乃至高回転側の運転領域(S)においては従来同様、SI燃焼が行われる(以下、運転領域(H)をHCCI領域と呼び、運転領域(S)をSI領域と呼ぶ)。
ところで、前記HCCI燃焼による熱効率が最も高くなるのは、予混合気が気筒2のTDC近傍にて一斉に自己着火して、それによる熱発生のピークがTDCよりも少し遅角側になるときである。このときには、HCCI燃焼による気筒2内の温度上昇とピストン5の下降に伴う気筒2内容積の増大とが相殺し合うことから、比較的燃料噴射量の多いときであっても燃焼が過度に激しくはならない、というメリットもある。
そうした適切なタイミングで予混合気を安定的に自己着火させるために、この実施形態では、エンジン1がHCCI領域(H)における低負荷ないし中負荷で且つ低回転ないし中回転の第1運転領域(図4に斜めハッチングを入れて示す領域h1)にあるときには、前記図5に模式的に示すように、気筒2の圧縮行程終盤に、即ち吸排気弁11,12のNVO期間中にインジェクタ18により少量の燃料を噴射(NVO噴射)させるようにしている。
こうしてNVO噴射をすることで、特許文献1に記載されているが、高温の内部EGRガスに曝された燃料噴霧においてラジカルが生成されたり、部分酸化反応が進んだりして、自己着火し易い活性化混合気が形成されるとともに、その際に発生する熱によって混合気の温度が高められ、相対的に負荷が低くて気筒2の圧縮温度や圧縮圧力があまり高くならない状態でも、混合気の圧縮による自己着火を促進できるものと考えられている。
また、NVO噴射の量は、基本的にはそれが多いほど活性化混合気が多くなり、反応熱による温度上昇も大きくなると考えられるが、NVO噴射量が内部EGRガス量に対して多すぎると、気化潜熱による冷却作用が悪い影響を及ぼすこともあり得るので、内部EGRガス量に対応して適切な範囲があると考えられる。特にエンジン1の高負荷側では元々の気筒内温度が高いので、内部EGRガスやNVO噴射によって気筒内温度が高くなり過ぎると、過早な着火タイミングとなる虞れがある。
それらの点を考慮してこの実施形態では、前記したVVT15の制御によってNVO期間の長さをエンジン負荷に対応づけて制御し、負荷の上昇に応じて気筒2の内部EGRガス量を徐々に減少させるとともに、NVO噴射量も徐々に減少させるようにしている(図8のグラフを参照)。つまり、エンジン負荷の変化に対し、NVO期間の長さとNVO噴射量とを互いに対応づけて適切なバランスとなるように変更し、予混合気の自己着火タイミングを適切に制御するものである。
尚、図4の制御マップに示すように、HCCI領域(H)は、NVO噴射を行う相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)と、その高負荷側に隣接しNVO噴射を行わない第2運転領域(h2)とに分かれており、この二つの領域h1、h2は、エンジン1の低回転側ほど高負荷側になるように傾斜する境界線によって区分されている。
ここで、一般に直噴エンジンに用いられるインジェクタには、芯弁の作動速度等、物理的な限界によって決まる最小噴射量があり、それよりも少ない分量の燃料は安定して噴射することができない。すなわち、例えば芯弁をその開作動のストローク途中で閉じようとしても、機械的な摩擦や燃料の圧力等の影響により狙い通りに作動させることができず、開弁期間のバラつきが大きくなるとともに、そのバラつきが個々のインジェクタによってもかなり異なるものとなってしまうからである。
この点につき上述のようなNVO噴射はその要求量が元々少ないこともあって、前記のように第1運転領域(h1)においてエンジン負荷の上昇に応じて噴射量を減らすようにした場合、第2運転領域(h2)に移行する前に前記の最小噴射量に達してしまう。すなわち、例えば図4のマップ上に示す等回転速度線a−aに沿ってエンジン負荷が上昇したとすると、隣接する第2運転領域(h2)との境界線に沿って第1運転領域(h1)の最高負荷域に区画される特定の領域(図では破線で区画した領域α)において前記最小噴射量に達することになる。
そうしてNVO噴射の要求量がインジェクタ18の最小噴射量に達してしまえば、それ以上はエンジン負荷が上昇しても噴射量を減らすことはできないから、負荷に対して相対的には噴射量の多すぎる状態になってしまい、気筒2内温度が高くなりすぎて、予混合気の自己着火のタイミングが過早になる虞れがある。一方で、仮にNVO噴射を辞めてしまえば、これによる自己着火の促進が図れない。
斯かる点に鑑みてこの実施形態では、一例を前記図4のマップに示すように、第1運転領域(h1)内の最高負荷域である特定領域(α)においては、エンジン負荷が上昇してもNVO噴射量はインジェクタ18の最小噴射量に維持するとともに、負荷の上昇に対する排気弁12閉時期の遅角度合いを大きくし、即ちNVO期間の短縮度合いを大きくして、その分、早く内部EGRガス量を減少させることによって、気筒2内温度の上昇を抑えるようにしている。
(具体的な制御手順)
以下にエンジン制御の具体的な手順を、図6及び図7のフローチャートに基づいて説明すると、まず、図6におけるスタート後のステップS1では、クランク角センサ8、エアフローセンサ31、アクセル開度センサ32、車速センサ33等からの信号を入力し、続くステップS2ではエンジン1がHCCI領域(H)にあるかどうか判定する。すなわち、クランク角センサ8からの信号によりエンジン回転速度を演算し、例えば車速及びアクセル開度に基づいて、或いはエアフローセンサ31からの信号とエンジン回転速度とに基づき内部EGR量を加味して、エンジン1への要求トルク(負荷)を演算する。そうして求めたエンジン回転速度と要求トルクとに基づき、図4の制御マップを参照してHCCI領域(H)にあるかどうか判定する。
以下にエンジン制御の具体的な手順を、図6及び図7のフローチャートに基づいて説明すると、まず、図6におけるスタート後のステップS1では、クランク角センサ8、エアフローセンサ31、アクセル開度センサ32、車速センサ33等からの信号を入力し、続くステップS2ではエンジン1がHCCI領域(H)にあるかどうか判定する。すなわち、クランク角センサ8からの信号によりエンジン回転速度を演算し、例えば車速及びアクセル開度に基づいて、或いはエアフローセンサ31からの信号とエンジン回転速度とに基づき内部EGR量を加味して、エンジン1への要求トルク(負荷)を演算する。そうして求めたエンジン回転速度と要求トルクとに基づき、図4の制御マップを参照してHCCI領域(H)にあるかどうか判定する。
その判定がNOであればエンジン1はSI領域(S)にあるので、後述のステップS18〜S22(図7参照)に進んでSI燃焼のための制御を実行する一方、ステップS2の判定がYESでHCCI領域(H)にあれば、ステップS3に進む。ここではHCCI領域において相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)にあるかどうか判定し、この判定がNOであれば相対的に高負荷側の第2運転領域(h2)にあるので、後述するステップS15(図7参照)に進む一方、ステップS3の判定がYESで第1運転領域(h1)にあればステップS4に進んで、今度は、第1運転領域(h1)内の特定領域(α)にあるかどうか判定する。
そして、特定領域(α)にない(NO)と判定すればステップS5に進んで、VVL14及びVVT15の制御によって、エンジン負荷に対応したNVO期間になるように吸排気弁11,12の作動タイミングを制御する。これは、例えば目標トルク及びエンジン回転速度に基づき、予め実験的に設定してあるマップを参照して、所要の内部EGR量となるような吸排気弁11,12のNVO期間を決定しておき、そうなるように主にVVT15を制御するものである。この実施形態ではNVO期間を、特定領域(α)を含めた第1運転領域(h1)全体でエンジン負荷の上昇に連れて徐々に短くなるように設定しており、そうなるように排気弁12の閉時期を徐々に遅角させるようにしている。
尚、VVL14の制御は、前記VVT15の制御と同様に目標トルク及びエンジン回転速度に基づき、予め実験的に設定してあるマップを参照して、所要の吸気充填量となるような吸排気弁11,12のリフト量を決定して、そうなるようにVVL14を制御すればよい。この吸気充填量は、気筒2への燃料供給量に対応して適切な空燃比となるように予め実験等により求めて、前記マップに設定されている。
続いてステップS6では、予めNVO期間内に含まれるように設定されているNVO噴射のタイミング(図5を参照)になったかどうか判定する。この判定がNOの間は待機し、判定がYESになればステップS7に進んでインジェクタ18を作動させ、活性化混合気を形成するためのNVO噴射を実行する。すなわち、例えば目標トルク及びエンジン回転速度に基づき、予め実験的に設定してある噴射量マップを参照してNVO噴射量の目標値を決定し、それに対応するパルス幅の噴射制御信号をインジェクタ18に出力する。
前記噴射量マップは、目標トルク及びエンジン回転速度に対応してNVO噴射及びメイン噴射の各噴射量の最適値を予め実験等により設定したものであり、この実施形態では、上述したようにNVO噴射量を、特定領域(α)を除いた第1運転領域(h1)においてエンジン負荷の上昇に連れて徐々に減少するように設定し、特定領域(α)ではインジェクタ18の最小噴射量に維持するようにしている。
例えば図4のマップ上の等回転速度線a−aに沿って、要求トルク(エンジン負荷)の変化に対するNVO、メインのそれぞれの噴射量の変化を見ると、図8の上側のグラフに示すようになる。すなわち、NVO噴射は、HCCI領域(H)内でも相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)でのみ行われ、その量は基本的に負荷の上昇に連れて徐々に減少するが、特定領域(α)に入ればインジェクタ18の最小噴射量で一定になる。また、メイン噴射はHCCI領域(H)の全域で行われ、その量は要求トルクの増大に応じて増大する。
前記ステップS7に続くステップS8では、予め吸気弁11の開期間内に含まれるように設定されているメイン噴射のタイミング(図5を参照)になったかどうか判定し、判定がNOの間は待機する一方、判定がYESになればステップS9に進んでインジェクタ18を作動させて、メイン噴射を実行した後にリターンする。尚、メイン噴射のタイミングは、一例として吸気弁11の開弁直後に設定されており、吸気弁11の傘部と吸気ポート9との隙間から気筒2内に流入する高速の吸気流によって、燃料噴霧の吸気との混合が促進されることになる。
つまり、HCCI領域(H)において相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)では、基本的にエンジン負荷やエンジン回転速度の上昇に応じてNVO期間を短縮するとともに、これに対応するようにNVO噴射量も減少させるようにしており、これらの組み合わせによって気筒2の温度状態を適切に調整して、予混合気をTDC近傍で安定的に自己着火させることができる。
そうしてエンジン負荷の上昇に応じてNVO噴射量を減少させてゆき、エンジン1が第1運転領域(h1)内の特定領域(α)に入ると、NVO噴射の要求量はインジェクタ18の最小噴射量に達する。このとき前記フローのステップS4では特定領域(α)にある(YES)と判定してステップS10に進み、前記ステップS5と同じマップを参照してVVL14及びVVT15を制御することで、所要のNVO期間となるように吸排気弁11,12の作動タイミングを制御する。
前記NVO期間のマップに設定されているVVT15の制御は、エンジン負荷の上昇に対する排気弁12閉時期の変化を前記図4の等回転速度線a−aに沿って見ると、図8の下側のグラフに示すように、第1運転領域(h1)においてはエンジン負荷の上昇に連れて排気弁12の閉時期が徐々に遅角し、特に領域(α)ではエンジン負荷の上昇に対する遅角度合いが大きくなっている。また、第2運転領域(h2)に移行すると一旦、ステップ状に進角した後に、再び負荷の上昇に連れて遅角するようになる。
前記ステップS10に続いてステップS11では、前記ステップS6と同様にNVO噴射タイミングになったかどうか判定し、判定がNOの間は待機する一方、判定がYESになればステップS12に進んで、前記ステップS7と同様にインジェクタ18を作動させる。前記したように特定領域(α)においてNVO噴射量はインジェクタ18の最小噴射量に維持される。そして、ステップS13では、前記ステップS8と同様にメイン噴射タイミングになったかどうか判定し、判定がNOの間は待機する一方、判定がYESになればステップS14に進んで、前記ステップS9と同様にインジェクタ18を作動させた後にリターンする。
つまり、エンジン1が負荷の上昇によって第1運転領域(h1)内の特定領域(α)に入れば、NVO噴射の要求量がインジェクタ18の最小噴射量に達して、それよりも減らすことができなくなるので、この最小噴射量でNVO噴射を行うとともに、さらなるエンジン負荷の上昇に対しては排気弁12の閉時期の遅角度合いを大きくし、相対的に早くNVO期間を短縮することによって対処するものである。
こうしてエンジン負荷の上昇に対し相対的に早くNVO期間を短縮し、その分、早く内部EGRガス量を減らすことで、前記のように最小噴射量に維持されるNVO噴射量が負荷の上昇に対して相対的には多くなりすぎたとしても、このことによる気筒内温度の上昇を抑えて、予混合気の着火タイミングが過早なものにならないようにすることができる。
一方で、エンジン1がHCCI領域(H)において相対的に高負荷側の第2運転領域(h2)にあり、前記ステップS3でNOと判定して進んだ図7のフローのステップS15では、前記ステップS5,S10と同じくVVL14及びVVT15を制御して、所要のNVO期間となるように吸排気弁11,12の作動タイミングを制御する。そして、ステップS16、S17で前記ステップS8,S9と同様にメイン噴射を実行して、しかる後にリターンする。
すなわち、HCCI領域(H)において相対的に高負荷側の第2運転領域(h2)では、予混合気の自己着火を促進するためにNVO噴射を行う必要はなく、仮にNVO噴射を行うと過早な着火等の不具合を招く虞れがあるので、NVO噴射は行わず、メイン噴射のみを行うようにしている。
そうして第1運転領域(h1)の高負荷側に隣接する第2運転領域(h2)においてはNVO噴射を行わないようにしており、一方で、上述したように第1運転領域(h1)内の最高負荷域である特定領域(α)ではNVO噴射量を一定に維持していることから、エンジン1が負荷の上昇に応じて第1運転領域(h1)から第2運転領域(h2)へ移行するときには、特定領域(α)にて維持されているNVO噴射量がステップ状に零まで急減することになる(図8の上側のグラフを参照)。
これに対し、前記ステップS15において制御される排気弁12の閉時期は、図8の下側のグラフに示すようにステップ状に急変化して、一気に進角するようになるから、前記のようにNVO噴射量が急に零になって、それによる着火の促進効果が失われても、内部EGRガス量の急増によって気筒2内の温度が高まり、予混合気の着火性を確保することができる。
さらに、エンジン1がSI領域(S)にあり、前記ステップS2でNOと判定されて進んだ図7のフローのステップS18では、上述の如きHCCI燃焼ではなくて、従来一般的なSI燃焼とする。すなわち、ステップS18ではVVL14及びVVT15を制御して、エンジン1の負荷及び回転速度に対応した適切なバルブオーバーラップ状態(正のオーバーラップ)になるように吸排気弁11,12の作動タイミングを制御し、ステップS19、S20では主に吸気行程の所定のタイミングでインジェクタ18を作動させてメイン噴射を実行する。
それからステップS21,S22においてインジェクタ18によるメイン噴射によって気筒2内に形成される概ね均一な混合気に点火する。すなわち、まずステップS21では一例としてTDC前の所定の点火タイミングになったかどうか判定し、NOの間は待機する一方、YESになればステップS22に進んで点火回路17を作動させ、しかる後にリターンする。
前記図6のフローのステップS5,S10は、エンジン1がHCCI領域(H)の相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)にあるとき、負荷の上昇に応じて排気弁12の閉時期を遅角させる排気弁閉時期遅角工程に対応しており、この実施形態ではエンジン1が特定領域(α)にあるときに、その負荷の上昇に対する排気弁12の閉時期の遅角度合いを相対的に大きくするようにしている。
また、同ステップS7は、前記特定領域(α)を除く第1運転領域(h1)において、エンジン負荷の上昇に応じてNVO噴射量を減少させる噴射量減少工程に対応し、同ステップS12は、前記特定領域(α)においてNVO噴射量をエンジン負荷の変化によらずインジェクタ18の最小噴射量に維持する噴射量維持工程に対応している。
さらに、エンジン1の負荷の上昇に応じて同ステップS3の判定がYESからNOに切り替わって図7のフローのステップS15に進んだときに、排気弁12の閉時期をステップ状に急変させて、一気に進角させるという手順が、第1運転領域(h1)から第2運転領域(h2)への移行に伴い排気弁12の閉時期を進角させる排気弁閉時期進角工程に対応している。
前記図6、7のフローの制御は、PCM30のメモリに電子的に格納されている制御プログラムがCPUにより実行されることによって実現するものであり、その意味でPCM30は、前記のようにNVO期間の長さを変化させるべく少なくとも排気弁12の閉時期を制御する排気弁閉時期制御手段30aと、前記のようにNVO噴射量を制御する噴射量制御手段30bとを、それぞれソフトウエア・プログラムの形態で備えている。
したがって、この実施形態に係るエンジン制御装置Aによると、エンジン1がHCCI領域(H)にあるとき、吸排気弁11,12の作動に所謂負のオーバーラップ(NVO)期間を設けて、多量の内部EGRガスにより気筒2内の温度を高めることによって予混合気の圧縮自己着火を促進するとともに、特に低負荷側の第1運転領域(h1)では、NVO期間に気筒2内に存する高温の内部EGRガス中に燃料を噴射(NVO噴射)することで、予混合気の活性を高めて、その圧縮による自己着火を促進することができる。
また、前記第1運転領域(h1)において基本的にはエンジン1の負荷や回転速度の上昇に応じて排気弁12の閉時期を徐々に遅角させ、NVO期間を徐々に短縮するとともに、NVO噴射の量も徐々に減らすことによって、予混合気の自己着火のタイミングを狙い通りTDC近傍の適切な時期に制御することができる。
さらに、そうしてエンジン負荷等の上昇に連れて減少するNVO噴射量がインジェクタ18の最小噴射量に達すれば、それ以降は最小噴射量に維持するとともに、排気弁12の遅角によるNVO期間の短縮度合いを大きくして、内部EGRガス量を早めに減少させることで、さらなるエンジン負荷の上昇に対して相対的にはNVO噴射量が多くなりすぎても、自己着火のタイミングは過早なものにはならず、適正な自己着火の促進が図られる。
こうして、HCCI領域(H)の内、相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)全体で、予混合気の自己着火のタイミングを最適化して、HCCI燃焼による燃費やエミッションの改善効果を十分に得ることができる。
さらにまた、エンジン1が前記第1運転領域(h1)から高負荷側に隣接する第2運転領域(h2)に移行するときには、NVO噴射量が一気に零まで変化することになるが、これに対しては排気弁12の閉時期を一気に進角させて、内部EGRガス量を急増させることにより、予混合気の着火性を確保することができる。
(他の実施形態)
本発明の構成は、前記した実施形態のものに限定されることなく、それ以外の種々の構成を包含する。すなわち、前記の実施形態では、NVO噴射量がインジェクタ18の最小噴射量によって制限されることに対応して、噴射量を維持するとともに、これに対応してNVO期間の変化の度合いを大きくするようにしているが、これに限らず、本発明は、何らかの理由によってNVO噴射量をエンジン負荷の変化によらず維持する場合に適用可能である。
本発明の構成は、前記した実施形態のものに限定されることなく、それ以外の種々の構成を包含する。すなわち、前記の実施形態では、NVO噴射量がインジェクタ18の最小噴射量によって制限されることに対応して、噴射量を維持するとともに、これに対応してNVO期間の変化の度合いを大きくするようにしているが、これに限らず、本発明は、何らかの理由によってNVO噴射量をエンジン負荷の変化によらず維持する場合に適用可能である。
また、前記の実施形態では、NVO噴射をHCCI領域(H)の内、相対的に低負荷側の第1運転領域(h1)でのみ行うようにしているが、これはHCCI領域(H)の全域に亘って行うようにしてもよい。
さらに、前記の実施形態では、吸排気弁11,12のリフト特性をVVL14及びVVT15の作動によって連続的に変更するようにしているが、これに限るものではない。例えば、リフト量及び位相角のいずれか一方は段階的に切換わるような構造としてもよいし、吸排気弁11,12を個別に電磁アクチュエータによって開閉するような動弁機構を用いてもよい。また、本発明に係るエンジンがガソリンエンジンに限らないことは言うまでもない。
以上、説明したように本発明は、相対的に低負荷側でHCCI燃焼を行うようにしたエンジンにおいて、NVO噴射により着火の安定性を高め且つそのタイミングを最適化して、HCCI燃焼による燃費やエミッションの改善効果を十分に得ることができるので、極めて有用である。
A エンジン制御装置
1 エンジン
2 気筒
11 吸気弁
12 排気弁
18 インジェクタ(燃料噴射弁)
30 PCM
30a 排気弁閉時期制御手段
30b 噴射量制御手段
H HCCI領域
h1 第1運転領域
α 特定領域
h2 第2運転領域
1 エンジン
2 気筒
11 吸気弁
12 排気弁
18 インジェクタ(燃料噴射弁)
30 PCM
30a 排気弁閉時期制御手段
30b 噴射量制御手段
H HCCI領域
h1 第1運転領域
α 特定領域
h2 第2運転領域
Claims (8)
- エンジンが相対的に低負荷側の第1運転領域にあるとき、気筒の排気行程ないし吸気行程において吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ期間を設けるとともに、既燃ガスの残留する気筒内に燃料の少なくとも一部を直接、噴射供給することで、圧縮行程の後期以降における予混合気の自己着火を促進する、エンジンの制御方法であって、
エンジン負荷の上昇に応じて排気弁の閉時期を遅角させる排気弁閉時期遅角工程と、
前記負のオーバーラップ期間中の燃料噴射量をエンジン負荷の変化によらず所定量に維持する噴射量維持工程と、
を有することを特徴とするエンジンの制御方法。 - 噴射量維持工程は、エンジンが第1運転領域中に予め設定された特定領域にあるときに、その負荷の変化によらず負のオーバーラップ期間中の燃料噴射量を所定量に維持するものであり、
排気弁閉時期遅角工程は、前記第1運転領域においてエンジン負荷の上昇に応じて排気弁の閉時期を遅角させるものであって、前記特定領域ではエンジン負荷の上昇に対する排気弁閉時期の遅角度合いを相対的に大きくする、請求項1に記載のエンジンの制御方法。 - エンジンが第1運転領域の特定領域以外にあるとき、エンジン負荷の上昇に応じて負のオーバーラップ期間中の燃料噴射量を減少させる噴射量減少工程をさらに有し、
噴射量維持工程は、燃料噴射量の制御目標値が燃料噴射弁の最小噴射量未満になる特定領域においても当該最小噴射量に燃料噴射量を維持するものである、請求項2に記載のエンジンの制御方法。 - エンジンが第1運転領域の高負荷側に隣接する第2運転領域にあるときには、負のオーバーラップ期間中における燃料の噴射を行わないようにし、
エンジンが負荷の上昇に応じて前記第1運転領域から第2運転領域へ移行するときに、排気弁の閉時期を進角させる排気弁閉時期進角工程をさらに有する、
請求項2又は3のいずれかに記載のエンジンの制御方法。 - エンジンが相対的に低負荷側の第1運転領域にあるとき、気筒の排気行程ないし吸気行程において吸気弁及び排気弁の双方を閉じる負のオーバーラップ期間を設けるとともに、既燃ガスの残留する気筒内に燃料の少なくとも一部を直接、噴射供給することで、圧縮行程の後期以降における予混合気の自己着火を促進するようにしたエンジンの制御装置であって、
エンジンが所定運転状態にあるときに負荷の上昇に応じて排気弁の閉時期を遅角させる排気弁閉時期制御手段と、
前記所定運転状態において負のオーバーラップ期間中の燃料噴射量をエンジン負荷の変化によらず所定量に維持する噴射量制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジンの制御装置。 - 噴射量制御手段は、エンジンが第1運転領域中に予め設定された特定領域にあるときに、エンジン負荷の変化によらず負のオーバーラップ期間中の燃料噴射量を所定量に維持するものであり、
排気弁閉時期制御手段は、前記第1運転領域においてエンジン負荷の上昇に応じて排気弁の閉時期を遅角させるとともに、前記特定領域ではエンジン負荷の上昇に対する排気弁閉時期の遅角度合いを相対的に大きくするものである、
請求項5に記載のエンジンの制御装置。 - 噴射量制御手段は、エンジンが第1運転領域にあるとき、その負荷の上昇に応じて燃料噴射量を減少させてゆき、燃料噴射量の制御目標値が燃料噴射弁の最小噴射量未満になる特定領域でも当該最小噴射量に燃料噴射量を維持するものである、請求項6に記載のエンジンの制御装置。
- 噴射量制御手段は、エンジンが第1運転領域の高負荷側に隣接する第2運転領域にあるときには、負のオーバーラップ期間中における燃料の噴射を行わないものであり、
排気弁閉時期制御手段は、エンジンが負荷の上昇に応じて前記第1運転領域から第2運転領域へ移行するときには、排気弁の閉時期を進角させるものである、
請求項6又は7のいずれかに記載のエンジンの制御装置。
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