JP2009144081A - プリプレグ、その製造方法及びfrp - Google Patents

プリプレグ、その製造方法及びfrp Download PDF

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Koji Kiuchi
孝司 木内
Yoshio Natsuume
伊男 夏梅
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Abstract

【課題】 サイジング剤処理した強化繊維の使用が可能で、且つ高強度で靭性に優れたFRPを得ることができるプリプレグ、このプリプレグの製造方法及びプリプレグを用いたFRPを提供する。
【解決手段】 シクロオレフィンモノマーとヘテロ環構造を含有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒とを含有する重合性組成物をサイジング剤で処理した強化繊維に含浸させ、重合してなるプリプレグ、および該プリプレグを硬化してなるFRPを用いる。該プリプレグは同プリプレグまたは他材料と積層して硬化してなるFRP積層体として用いることもできる。該プリプレグは、シシクロオレフィンモノマーとヘテロ環構造を含有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒とを含んでなる重合性組成物をサイジング剤で処理した強化繊維に含浸させた後に重合することで製造できる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、スポーツ用途、自動車や航空機などの乗物用構造体用途、一般産業用途に適した軽量で且つ強度と靭性に優れるFRPを製造することができるプリプレグ、このプリプレグの製造方法およびプリプレグを用いたFRPに関する。
エポキシ樹脂等の樹脂を炭素繊維等の高強度・高弾性繊維で強化したFRP(繊維強化複合材料)は、機械特性に優れるため、釣竿やゴルフクラブ用シャフトなどのスポーツ用途から自動車や航空機等の乗物用構造体用途、一般産業用途までの幅広い用途で用いられている。このようなFRPの成形方法のひとつに、プリプレグと呼ばれる予め強化繊維にマトリックス樹脂となる重合性組成物を含浸させるとともに、この重合性組成物を半硬化状態にした後架橋可能な中間材料を用いる方法がある。例えば、特許文献1には、炭素繊維とエポキシ樹脂とからなるプリプレグを型となるテーパー付きのマンドレルに複数層巻き付けて加熱成形することによって釣竿やゴルフクラブ用シャフトを得ている。
一方、近年、釣竿やゴルフクラブ用シャフトなどのスポーツ用途におけるFRPは、操作性向上の観点から軽量化が要求されている。そこで、軽量化の手段のひとつとして、強化繊維やマトリックス樹脂等の材料自体の強度を高めることが行なわれており、特に強化繊維の強度向上や配向設計に努力がなされている。また、マトリックス樹脂の含有量を低くして、単位重量あたりの強度・弾性率を高くするという手段も一般的に行なわれている。しかしながら、マトリックス樹脂の含有量が低いプリプレグで釣竿を成形した場合、マトリックス樹脂であるエポキシ樹脂の靭性が充分でなく、強化繊維が高強度・高弾性であっても、小さな曲げひずみ領域においても破壊しやすくなってしまい、必ずしも釣竿の重量に対する曲げ強度の向上の効果は得られない問題があった。
そこで、上記のような軽量化且つ高強度化という相反する性能を付与する検討がなされている。例えば、特許文献2には、ノルボルネン系モノマーとトリシクロヘキシルフォスフィンを配位子とするルテニウム系メタセシス重合触媒とからなる重合性組成物を強化繊維に含浸させ、次いで−10℃〜20℃の養生温度で1〜1000時間の期間養生させて半硬化のプリプレグを作製し、該プリプレグをマンドレルに複数層巻き付けてから加熱硬化(100℃×1時間)させて得られる管状体が軽量で且つ高強度であることが開示されている。しかしながら、本法では、強化繊維がエポキシ樹脂やポリエステル樹脂などのサイジング剤で処理されていると重合阻害を起こすため、サイジング剤を洗い落としてから使用している。サイジング剤は、もともと、強化繊維の繊維の配向の乱れや解れてバラバラになってしまうのを防くだけでなく、強化繊維とマトリックス樹脂との界面の弾性率を低くしてFRPの強度や靭性を向上させる役割も担っており、サイジング剤を除去することによりそれらの効果も薄れることから充分な強度や靭性を発揮できない問題があった。
特開平10−66480号公報 特開2003−171479号公報
本発明の目的は、サイジング剤処理した強化繊維の使用が可能で、且つ高強度で靭性に優れたFRPを得ることができるプリプレグ、このプリプレグの製造方法及びプリプレグを用いたFRPを提供することにある。
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討の結果、重合性組成物として、シクロオレフィンモノマーとメタセシス重合触媒として特定構造のルテニウム触媒とを用いることにより、エポキシ樹脂等でサイジング処理した強化繊維に含浸させても、充分に重合反応が進むこと、しかも得られるFRPの強度と靭性の特性が共に優れることを見出した。また、重合性組成物に架橋剤を配合させてプリプレグ及びFRPを製造すると、強度と靭性との特性が格段に向上し、しかも外観性、耐熱性、耐薬品性に優れるFRPが製造できることがわかった。本発明者らは、これらの知見に基づいて本発明を完成するに至ったものである。
かくして本発明によれば、下記(1)〜(8)が提供される。
(1) シクロオレフィンモノマーとヘテロ環構造を含有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒とを含有する重合性組成物をサイジング剤で処理した強化繊維に含浸させ、重合してなるプリプレグ。
(2) 前記サイジング剤が、エポキシ樹脂である(1)記載のプリプレグ。
(3) 前記重合性組成物が、架橋剤を含むものである(1)または(2)記載のプリプレグ。
(4) 揮発成分が30重量%以下である(1)乃至(3)のいずれかに記載のプリプレグ。
(5) シクロオレフィンモノマーとヘテロ環構造を含有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒とを含んでなる重合性組成物をサイジング剤で処理した強化繊維に含浸させた後に重合することを特徴とするプリプレグの製造方法。
(6) 前記重合製組成物が、架橋剤を含むものである(5)記載の製造方法。
(7) (1)乃至(4)のいずれかに記載のプリプレグを硬化してなるFRP。
(8) (1)乃至(4)のいずれかに記載のプリプレグを、同プリプレグまたは他材料と積層して硬化してなるFRP積層体。
本発明によれば、サイジング剤処理した強化繊維が使用可能で、かつ強度と靭性に優れるFRP及びそれを与えるプリプレグを容易に製造することができる。また、本発明のFRPは、強度と靭性に優れるため、自動車や航空機などの乗物用構造体、及びスポーツ、土木、建築などの分野において好適に使用することができる。
(シクロオレフィンモノマー)
本発明に使用されるシクロオレフィンモノマーは、炭素原子で形成される環構造を有し、該環中に炭素−炭素二重結合を有する化合物である。その例として、ノルボルネン系モノマーおよび単環シクロオレフィンなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環を含むモノマーである。ノルボルネン系モノマーとしては、格別な限定はないが、例えば、2−ノルボルネン、ノルボルナジエンなどの二環体、ジシクロペンタジエン、ジヒドロジシクロペンタジエンなどの三環体、テトラシクロドデセン、エチリデンテトラシクロドデセン、フニルテトラシクロドデセンなどの四環体、トリシクロペンタジエンなどの五環体、テトラシクロペンタジエンなどの 七環体、及びこれらのアルキル置換体(メチル、エチル、プロピル、ブチル置換体など)、アルキリデン置換体(例えば、エチリデン置換体)、アリール置換体(例えば、フェニル、トリル置換体)、並びにエポキシ基、メタクリル基、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、シアノ基、ハロゲン基、エーテル基、エステル結合含有基などの極性基を有する誘導体などが挙げられる。単環シクロオレフィンとしては、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、1,5−シクロオクタジエンなどの単環シクロオレフィン及び置換基を有するそれらの誘導体が挙げられる。
これらのシクロオレフィンモノマーは、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
(重合触媒)
本発明においては、メタセシス重合触媒としてヘテロ環構造を含有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒(以下、「特定ルテニウム触媒」ということがある。)を用いることを特徴とする。かかる特定の触媒は、強化繊維をエポキシ樹脂やポリエステル樹脂等でサイジング処理していても、シクロオレフィンモノマーの重合活性を落とさない特性を有している。ヘテロ環構造を構成するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子等が挙げられ、好ましくは窒素原子である。また、ヘテロ環構造としては、イミダゾリンやイミダゾリジン構造が好ましく、かかるヘテロ環構造を有する化合物の具体例としては、1,3−ジ(1−アダマンチル)イミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルオクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン、1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジシクロヘキシルイミダゾリジン−2−イリデン、1,3−ジイソプロピル−4−イミダゾリン−2−イリデン、1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデンなどが挙げられる。
好ましいルテニウム触媒の例としては、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)(3−メチル−2−ブテン−1−イリデン)(トリシクロペンチルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−オクタヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン[1,3−ジ(1−フェニルエチル)−4−イミダゾリン−2−イリデン](トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−2,3−ジヒドロベンズイミダゾール−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(トリシクロヘキシルホスフィン)(1,3,4−トリフェニル−2,3,4,5−テトラヒドロ−1H−1,2,4−トリアゾール−5−イリデン)ルテニウムジクロリド、(1,3−ジイソプロピルヘキサヒドロピリミジン−2−イリデン)(エトキシメチレン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3−ジメシチルイミダゾリジン−2−イリデン)ピリジンルテニウムジクロリドなどの、配位子としてヘテロ環構造を有する化合物と中性の電子供与性化合物が結合したルテニウム錯体化合物が挙げられる。
これらのルテニウム触媒は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられ、その使用量は、(触媒中の金属原子:シクロオレフィンモノマー)のモル比で、通常1:2,000〜1:2,000,000、好ましくは1:5,000〜1:1,000,000、より好ましくは1:10,000〜1:500,000の範囲である。
重合触媒は必要に応じて、少量の不活性溶剤に溶解又は懸濁して使用することができる。かかる溶媒としては、n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン、流動パラフィン、ミネラルスピリットなどの鎖状脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、トリメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、ジシクロヘプタン、トリシクロデカン、ヘキサヒドロインデン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;インデン、テトラヒドロナフタレンなどの脂環と芳香環とを有する炭化水素;ニトロメタン、ニトロベンゼン、アセトニトリルなどの含窒素炭化水素;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどの含酸素炭化水素;などが挙げられる。これらの中では芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、および脂環と芳香環とを有する炭化水素の使用が好ましい。
(重合性組成物)
本発明に使用される重合性組成物は、上記シクロオレフィンモノマーと特定ルテニウム触媒を必須成分として、必要に応じて、架橋剤、重合調整剤、連鎖移動剤、重合反応遅延剤、エラストマー材料、老化防止剤、充填剤及びその他の添加剤を添加することができる。
(架橋剤)
本発明においては、重合性組成物に架橋剤を加えることで、得られるFRPの強度と靭性との特性が格段に向上し、しかも、外観性、耐熱性、耐薬品性にも優れるので好適である。使用される架橋剤としては、プリプレグを硬化できるものであれば格別な制限はないが、通常、ラジカル発生剤が用いられる。ラジカル発生剤としては、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤などが挙げられ、好ましくは有機過酸化物や非極性ラジカル発生剤である。
有機過酸化物としては、例えば、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどのヒドロペルオキシド類;ジクミルペルオキシド、t−ブチルクミルペルオキシド、α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンなどのジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどのジアシルペルオキシド類;2,2−ジ(t−ブチルペルオキシ)ブタン、1,1−ジ(t−ヘキシルペルオキシ)シクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)−2−メチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルペルオキシ)シクロヘキサンなどのペルオキシケタール類;t−ブチルペルオキシアセテート、t−ブチルペルオキシベンゾエートなどのペルオキシエステル類;t−ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナートなどのペルオキシカルボナート類;t−ブチルトリメチルシリルペルオキシドなどのアルキルシリルペルオキシド類;などが挙げられる。中でも、重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドおよびペルオキシケタール類が好ましい。
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4’−ビスアジドベンザル(4−メチル)シクロヘキサノン、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)シクロヘキサノンなどが挙げられる。
非極性ラジカル発生剤としては、2,3−ジメチル−2,3−ジフェニルブタン、3,4−ジメチル−3,4−ジフェニルヘキサン、1,1,2−トリフェニルエタン、1,1,1−トリフェニル−2−フェニルエタンなどが挙げられる。
本発明に使用される架橋剤がラジカル発生剤の場合の1分半減期温度は、硬化の条件により適宜選択されるが、通常、100〜300℃、好ましくは150〜250℃、より好ましくは160〜230℃の範囲である。ここで1分間半減期温度は、ラジカル発生剤の半量が1分間で分解する温度である。例えば、ジ−t−ブチルペルオキシドでは186℃、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)−3−ヘキシンでは194℃である。
これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜10重量部、より好ましくは0.5〜5重量部の範囲である。
重合調整剤は、重合活性を制御したり、重合反応率を向上させる目的で使用される。重合調整剤の具体的としては、トリアルコキシアルミニウム、トリフェノキシアルミニウム、ジアルコキシアルキルアルミニウム、アルコキシジアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウム、ジアルコキシアルミニウムクロリド、アルコキシアルキルアルミニウムクロリド、ジアルキルアルミニウムクロリド、トリアルコキシスカンジウム、テトラアルコキシチタン、テトラアルコキシスズ、テトラアルコキシジルコニウムなどが挙げられる。重合調整剤の使用量は、(特定ルテニウム触媒中の金属原子:重合調整剤)のモル比で、通常、1:0.05〜1:100、好ましくは1:0.2〜1:20、より好ましくは1:0.5〜1:10の範囲である。
連鎖移動剤としては、例えば、置換基を有していてもよい鎖状のオレフィン類を用いることができる。その具体例としては、例えば、1−ヘキセン、2−ヘキセンなどの脂肪族オレフィン類;スチレン、ジビニルベンゼン、スチルベンなどの芳香族基を有するオレフィン類;ビニルシクロヘキサンなどの脂環式炭化水素基を有するオレフィン類;エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;メチルビニルケトン、1,5−ヘキサジエン−3−オン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン−3−オン、メタクリル酸ビニル、メタクリル酸アリル、メタクリル酸3−ブテン−1−イル、メタクリル酸3−ブテン−2−イル、メタクリル酸スチリル、アクリル酸アリル、アクリル酸3−ブテン−1−イル、アクリル酸3−ブテン−2−イル、アクリル酸1−メチル−3−ブテン−2−イル、アクリル酸スチリル、エチレングリコールジアクリレート、アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル、アリルアミン、2−(ジエチルアミノ)エタノールビニルエーテル、2−(ジエチルアミノ)エチルアクリレート、4−ビニルアニリンなどが挙げられる。
これらの連鎖移動剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができ、その添加量は、シクロオレフィンモノマー全体に対して、通常0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%である。連鎖移動剤の添加量がこの範囲であるときに、重合反応率が高く、しかも硬化可能なプリプレグを効率よく得ることができる。連鎖移動剤の添加量が少なすぎると、重合と同時に架橋が進行し、プリプレグとならない場合がある。逆に添加量が多すぎると、硬化が困難になる場合がある。
本発明に用いる重合性組成物は、重合反応遅延剤を含有していると、その粘度増加を抑制でき、容易に強化繊維に均一に重合性組成物を含浸できるので、好ましい。重合反応遅延剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィン、ビニルジフェニルホスフィン、アリルジフェニルホスフィン、トリアリルホスフィン、スチリルジフェニルホスフィンなどのホスフィン化合物;アニリン、ピリジンなどのルイス塩基;等を用いることができる。
これら重合反応遅延剤の中でも、室温以下での重合反応の進行を抑制する効果が大きいので、ホスフィン化合物が好ましく、トリフェニルホスフィン、トリエチルホスフィン、ジシクロヘキシルホスフィンおよびビニルジフェニルホスフィンがより好ましい。重合反応遅延剤の量は、(ルテニウム金属原子:重合反応遅延剤)のモル比で、通常、1:0.01〜1:100、好ましくは1:0.1〜1:10、より好ましくは1:0.1〜1:5の範囲である。
本発明に使用される重合性組成物は、エラストマー材料を加えることにより格段とエネルギー吸収性を向上させることができ好適である。エラストマー材料としては、例えば、天然ゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、クロロプレン、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン三元共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの水素添加物が挙げられる。これらのエラストマー材料は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。その使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常0.1〜100重量部、好ましくは1〜50重量部、より好ましくは3〜30重量部の範囲である。
本発明に使用される重合性組成物は、老化防止剤として、フェノール系老化防止剤、アミン系老化防止剤、リン系老化防止剤及びイオウ系老化防止剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の老化防止剤を添加することにより、重合反応を阻害しないで、得られるFRPの耐酸化劣化性を高度に向上させることができ好適である。これらの中でも、フェノール系老化防止剤とアミン系老化防止剤が好ましく、フェノール系老化防止剤が特に好ましい。
フェノール系老化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデン−ビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、3,9−ビス(2−(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ)−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、テトラキス(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[すなわち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)]、6−(4−ヒドロキシ−3−メチル−5−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどが挙げられる。
アミン系老化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、1−[2−〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]−4−〔3−3,5−ジ−tブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ〕−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸−ビス−(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)などが挙げられる。
リン系老化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、テトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4’−ビフェニレンジホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(イソデシルホスファイト)、などが挙げられる。
イオウ系老化防止剤は、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどを挙げられる。
これらの老化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。老化防止剤の使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して大して、通常0.0001〜10重量部、好ましくは0.001〜5重量部、より好ましくは0.01〜1重量部の範囲である。
本発明においては、重合性組成物に充填剤を加えることにより、機械強度と耐熱性を格段に向上させることができ好適である。充填剤としては、工業的に一般に使用されるものであれば格別な限定はなく、無機系充填剤や有機系充填剤のいずれも用いることができが、好適には無機系充填剤である。
無機系充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン等の炭素粒子;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化すず、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の無機酸化物粒子;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の無機炭酸塩粒子;硫酸カルシウム等の無機硫酸塩粒子;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等の無機ケイ酸塩粒子;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩粒子、窒化アルミニウム、炭化ケイ素粒子やウィスカー等が挙げられる。有機系充填剤としては、例えば、木粉、デンプン、有機顔料、ポリスチレン、ナイロン、ポリエチレンやポリプロピレンのようなポリオレフィン、塩化ビニル、廃プラスチック等の粒子化合物が挙げられる。
これらの充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、シクロオレフィンモノマー100重量部に対して、通常1〜1,000重量部、好ましくは10〜500重量部、より好ましくは50〜350重量部の範囲である。
その他の添加剤としては、例えば、難燃剤、着色剤、光安定剤、顔料、発泡剤、高分子改質剤などが挙げられる。難燃剤としては、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物系難燃剤、三酸化アンチモンなどのアンチモン化合物などが挙げられる。着色剤としては、染料、顔料などが用いられる。染料の種類は多様であり、公知のものを適宜選択して使用すればよい。
これらのその他の添加剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、本発明の効果を損ねない範囲で適宜選択される。
本発明に使用される重合性組成物は、上記成分を混合して得ることができる。混合方法としては、常法に従えばよく、例えば、特定ルテニウム触媒を適当な溶媒に溶解若しくは分散させた液(触媒液)を、シクロオレフィンモノマーに必要に応じてその他の添加剤を配合した液(モノマー液)に添加し、攪拌することによって調製することができる。
(強化繊維)
本発明に使用される強化繊維は、サイジング剤処理されていることを特徴とする。サイジング剤としては、強化繊維で一般的に使用されているものであれば格別な限定はないが、通常はエポキシ樹脂が用いられている。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールS型エポキシ樹脂などのフェノール類グリシジルエーテル化合物、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテルなどの脂肪族グリシジルエーテル化合物、芳香族グリシジルアミン系エポキシ樹脂及び脂環型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのサイジング剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いることができる。サイジング剤の付着量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、強化繊維に対して、通常0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%、より好ましくは1〜3重量%の範囲である。サイジング剤処理がされていないものは、繊維の形状が崩れ、機械強度や靭性が劣化し、また、外観性、耐熱性、耐薬品性性等の特性も劣る問題もある。
本発明に使用される強化繊維の種類としては、格別な制限はないが、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)繊維、アラミド繊維、超高分子ポリエチレン繊維、ポリアミド(ナイロン)繊維、液晶ポリエステル繊維などの有機繊維;ガラス繊維、炭素繊維、アルミナ繊維、タングステン繊維、モリブデン繊維、ブデン繊維、チタン繊維、スチール繊維、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、シリカ繊維などの無機繊維;などを挙げることができる。これらの中でも、有機繊維、ガラス繊維、および炭素繊維が好ましく、炭素繊維がより好ましい。特に、炭素繊維は、得られるFRPの機械強度と耐衝撃性を高度に向上させることができ好適である。炭素繊維の種類としては、格別な限定はなく、例えば、アクリル系、ピッチ系、レーヨン系等の各種の従来公知の方法で製造される炭素繊維が使用でき、中でも、アクリル系炭素繊維(PAN系炭素繊維)が重合阻害を起こさず、機械強度と靭性等の特性を高度に付与でき好適である。
本発明に使用される強化繊維の強度特性は、格別な限定はなく使用目的に応じて適宜選択される。引張強度としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張強度で、通常0.5〜50GPa、好ましくは1〜10GPa、より好ましくは2〜8GPaの範囲である。引張弾性率としては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張弾性率で、通常100〜1,000GPa、好ましくは200〜800GPa、より好ましくは300〜700GPaの範囲である。伸びとしては、JIS R7601に従って測定されるストランド引張伸びで、通常0.1〜10%、好ましくは0.5〜5%、より好ましくは1〜3%の範囲である。強化繊維の強度特性がこれらの範囲にあるときに、外観性、強度、靭性等の特性が高度にバランスされ好適である。
本発明に使用される強化繊維の断面形状は、格別な限定はなく、使用目的に応じて円形や楕円形等いずれの形状のものも用いることができる。例えば、断面形状が円形であると、樹脂を含浸させる際、フィラメントの再配列が起こりやすくなり、繊維間への樹脂の浸み込みが容易になり、また、繊維束の厚みを薄くすることが可能となるためにドレープ製に優れたプリプレグを得やすい利点等がある。なお、断面形状が実質的に円形であるとは、その断面の外接円半径Rと内接円半径rとの比(R/r)を変形度として定義した場合に、この変形度が1.1以下であるものを意味する。
本発明に使用される強化繊維の長さは、格別な限定無く使用目的に応じて適宜選択され、短繊維、長繊維のいずれをも用いることができるが、より高い機械強度と靭性を得たい場合は、繊維の長さが1mm以上、好ましくは0.5cm以上、より好ましくは1cm以上、もっとも好ましくは連続繊維とするのがよい。
本発明に使用される強化繊維の形態は、特に限定されず、織物、不織布、マット、ニット、組み紐、一方向ストランド、ロービング、チョップド等から適宜選択できる。これらの中でも、機械強度と耐衝撃性がより高い水準にある繊維強化樹脂を得るためには、繊維が織物、一方向ストランド、ロービング等連続繊維の形態であるのが良い。織物形態としては、従来公知のものが利用でき、例えば、平織、繻子織、綾織、3軸織物などの繊維が交錯する織り構造の全てが利用できる。また、織物形態としては、2次元だけでなく、織物の厚み方向に繊維が補強されているステッチ織物、3次元織物等も利用できる。
本発明に使用される強化繊維は、織物等で使用する場合は繊維束糸条として利用する。その場合の繊維束糸条1本中のフィラメント数は、格別な限定はないが、繊維束糸条1本中のフィラメント数は、1,000〜100,000本、好ましくは2,000〜20,000本、より好ましくは5,000〜15,000の範囲である。
これらの強化繊維は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その使用量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、得られるプリプレグ中の強化繊維含有量が、通常10〜90重量%、好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%の範囲になるように選択される。強化繊維含有量がこの範囲にあるときに機械強度、靭性の特性が高度にバランスされ好適である。
(プリプレグ)
本発明のプリプレグは、前記重合性組成物を上記強化繊維に含浸させた後に重合してなるものである。重合方法は特に限定されないが、塊状重合が好ましい。塊状重合により、種々の形状の繊維強化樹脂(プリプレグ)を得ることができる。
重合性組成物の強化繊維への含浸は、例えば、重合性組成物の所定量を、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、ダイコート法、スリットコート法等の公知の方法により強化繊維に塗布し、必要に応じてその上に保護フィルムを重ね、上側からローラーなどで押圧することにより行うことができる。重合性組成物を強化繊維に含浸させた後、含浸物を所定温度に加熱することにより、重合性組成物を塊状重合させることができ、それによってシート状又はフィルム状のプリプレグが得られる。
含浸を型内で行う場合は、型内に強化繊維を設置し、該型内に重合性組成物を注ぎ込み、次いで重合を行う。この方法によれば、任意の形状のプリプレグを得ることができる。その形状としては、シート状、フィルム状、柱状、円柱状、多角柱状等が挙げられる。ここで用いる型としては、従来公知の成形型、例えば、割型構造すなわちコア型とキャビティー型を有する成形型を用いることができ、それらの空隙部(キャビティー)に重合性組成物を注入して塊状重合させる。コア型とキャビティー型は、目的とするプリプレグの形状にあった空隙部を形成するように作製される。また、成形型の形状、材質、大きさなどは特に制限されない。また、ガラス板や金属板などの板状成形型と所定の厚さのスペーサーとを用意し、スペーサーを2枚の板状成形型で挟んで形成される空間内に重合性組成物を注入し、該型内で重合を行うことにより、シート状又はフィルム状のプリプレグを得ることができる。
重合性組成物は従来のエポキシ樹脂等と比較して低粘度であり、強化繊維に対する含浸性に優れるので、重合で得られる樹脂を強化繊維材に均一に含浸させることができる。
また、塊状重合を行う場合には、重合性組成物は反応に関与しない溶媒等の含有量が少ないので、強化繊維に含浸させた後に溶媒を除去するなどの工程が不要であり、生産性に優れ、残存溶媒による臭気、フクレ、ボイド等も生じない。特に、アクリル系炭素繊維は、その表面で重合反応を阻害することがなく、予備乾燥等が不要であるので、本発明の製造方法は生産性に優れる。さらに、重合で得られる樹脂は未反応のモノマーの含有量が少なく、臭気が少なく、また耐熱性が優れる。
強化繊維がチョップなどの短繊維である場合には、強化繊維を重合性組成物に混合し、次いで塊状重合を行う方法が挙げられる。強化繊維は、モノマー液と触媒液を混合する前にモノマー液及び/又は触媒液に添加してもよいし、モノマー液と触媒液とを混合した後に添加してもよい。
炭素繊維が連続繊維の場合には、一方向に引き揃えられた炭素繊維に重合性組成物を含浸し、塊状重合を行なうことができる。炭素繊維が一方向に引き揃えられていることにより、繊維方法の配向制御により任意の力学物性を有する成形体の設計が可能となり、また、力学特性、低バラツキ性、寸法安定性に優れるため、炭素繊維の方向角度を変えて積層することにより、均一な機械的特性の成形品が得られるようになり好適である。
上記いずれの方法においても、重合性組成物を重合させるための加熱温度は、通常50〜250℃、好ましくは100〜200℃、より好ましくは120〜170℃の範囲であり、また、前記架橋剤がラジカル発生剤を用いる場合は、通常ラジカル発生剤の1分半減期温度以下、好ましくは10℃以下、より好ましくは20℃以下である。重合時間は適宜選択すればよいが、通常、10秒間から20分間、好ましくは5分間以内である。重合性組成物をこの範囲温度に加熱することにより未反応モノマーの少ないプリプレグが得られるので好適である。
本発明のプリプレグの厚みは、使用目的に応じて適宜選択されるが、通常0.001〜10mm、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.05〜0.5mmの範囲である。この範囲であるときに、積層する金属層形状への追従が容易になり、また機械強度や耐衝撃の特性が充分に発揮され好適である。
本発明のプリプレグの揮発成分量は、200℃×1時間で揮発される量で、通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下、もっとも好ましくは5重量%以下である。プリプレグの揮発成分量が過度に多いと、プリプレグのベタ付きが発生し操作性が悪くなり、また、硬化後の成形物(FRP)にボイドが発生し機械強度を低下させたり、ブリードや耐熱性、耐薬品性の低下等の問題が生じるおそれがある。
(FRP及びFRP積層体)
本発明のFRPは、上記プリプレグを、必要に応じて、賦形した後に、硬化することで製造することができる。また、本発明のFRP積層体は、上記プリプレグを、同プリプレグ同士または他材料と積層して、必要に応じて賦形した後に、硬化することで製造することができる。
本発明のプリプレグ同士の積層は、一方向の炭素繊維を用いたプリプレグの場合は、積層の層構成を使用目的に応じて適宜選択されるが、擬似等方積層が、均等な物性、ソリ抑制等を達成できるため好適である。擬似等方積層とは、例えば、[+45°/0°/−45°/90°]s、[0°/±60°]sと積層するように、FRPの物性に異方性が生じないようにするために各層の配向角度をFRP全体として等方的に積層する方法である。
積層してもよい他材料としては、使用目的に応じて適宜選択されるが、例えば、熱可塑性樹脂材料、金属材料などが挙げられ、特に金属材料が好適に用いられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、液晶ポリエステルなどのポリエステル;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブリレンなどのポリオレフィン;ポリスチレン、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリメチレンメタクリレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホンなどが挙げられる。金属材料としては、本発明に使用される金属層としては、ステンレス鋼や鉄、炭素鋼、ステンレス合金、アルミニウム合金、チタン合金、マグネシウム合金、その他種々の金属及び合金が用いられる。これらの中でも、ステンレス鋼、アルミニウム合金、チタン合金が好ましく、特にアルミニウム合金やチタン合金が軽量で高強度のため好適である。
硬化させる方法は、常法に従えばよく、例えば、平板成形用のプレス枠型を有する公知のプレス機、シートモールドコンパウンド(SMC)やバルクモールドコンパウンド(BMC)などのプレス成形機を用いて熱プレスを行なうことができる。加熱温度は、前記架橋剤の架橋の起こる温度であり、ラジカル発生剤を用いた場合は、該ラジカル発生剤の1分半減期温度以上、好ましくは1分半減期温度より5℃以上高い温度、より好ましくは1分半減期温度より10℃以上高い温度である。通常は、100〜300℃、好ましくは150〜250℃の範囲である。加熱時間は、0.1〜180分、好ましくは1〜120分、より好ましくは2〜20分の範囲である。プレス圧力としては、通常0.1〜20MPa、好ましくは1〜10MPa、より好ましくは2〜5MPaである。また、熱プレスは、真空または減圧雰囲気下で行ってもよい。
かくして得られる本発明のFRPは、機械強度と靭性に優れるので、例えば、OAやAV機器、自動車や鉄道などの車両用構造体材、航空機内装部品などをはじめとして、ゴルフシャフトや釣竿等のスポーツ用途、その他一般産業用途に好適に用いられる。具体的の用途としては、例えば、釣竿、ゴルフクラブ用シャフト、テニスラケット、スキーストック等のスポーツ用途;ディスプレイ、FDDキャリッジ、シャーシ、HDD、MO、モーターブラッシュホルダー、パラボラアンテナ、ノートパソコン、携帯電話、デジタルスチルカメラ、PDA、ポータブルMD、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイなどの電気・電子機器;電話、ファクシミリ、VTR、コピー機、テレビ、アイロン、ヘアドライヤー、炊飯器、電子レンジ、音響機器、掃除機、トイレタリー用品、レザーディスク、コンパクトディスク、照明、冷蔵庫、エアコン、タイプライター、ワードプロセッサーなどのオフィスオートメーション機器および家電機器;アンダーカバー、スカッフプレート、ピラートリム、プロペラシャフト、ドライブシャフト、ホイール、ホイールカバー、フェンダー、ドアミラー、ルームミラー、フェシャー、バンパー、バンパービーム、ボンネット、トランクフード、エアロパーツ、プラットフォーム、カウルルーバー、ルーフ、インストルメントパネル、スピラーおよび各種モジュールなどの自動車部品;ランディングギアポッド、ウイングレッド、スポイラー、エッジ、ラダー、フェイリングなどの航空機部品およびパネルなどの建材などが挙げられる。これらの中でも、自動車や航空機などの乗物用部材として特に好適である。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例および比較例における部および%は、特に断りのない限り重量基準である。
実施例および比較例における各特性は、下記の方法に従い測定、評価した。
(1)揮発成分量:プリプレグの中央部分を一部切り取り、200℃×1時間で揮発する成分量をガスクロマトグラフィーで測定した。全重量中の揮発成分量を以下の基準により判定した。
◎:1重量%以下
○:1重量%超、5重量%以下
△:5重量%超、30重量%以下
×:30重量%超
(2)外観:プリプレグを目視で観察し、下記基準で判断した。
◎:粉落ち、形状崩れ、泡立ちのいずれも全く認められない
○:粉落ち、形状崩れ、泡立ちのいずれも殆ど認められない
△:粉落ち、形状崩れ、泡立ちのいずれかが認められる
×:粉落ち、形状崩れ、泡立ちの全てが認められるか、1つだけでも程度が酷いもの
(3)機械的強度:JIS K−7073に規定する試験方法に従い、標点間距離を150mmとし、クロスヘッド速度2.0mm/分でFRP積層体の引張強度を測定し、比較例1で作製したFRP積層体の引張強度を100として、下記基準で判断した。
◎:150以上
○:110以上、150未満
△:90以上、110未満
×:90未満
(4)靭性:FRP積層体を90°に曲げ、その曲げ部分の表面観察を行い下記基準で判断した。
◎:粉落ち、形状崩れのいずれも全く認められない
○:粉落ち、形状崩れのいずれも殆ど認められない
△:粉落ち、形状崩れのいずれかが認められる
×:両方認められるか、いずれか一方だけでも程度が酷いもの
実施例1
ガラス製フラスコ中で、ベンジリデン(1,3−ジメシチル−4−イミダゾリジン−2−イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド51部と、トリフェニルホスフィン79部とを、トルエン952部に溶解させて触媒液を調製した。これとは別に、ポリエチレン製の瓶にシクロオレフィンモノマーとして、ジシクロペンタジエン(DCP)を100部入れ、ここに連鎖移動剤としてアリルメタクリレートを0.74部、フェノール系老化防止剤として3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシアニソール1.0部を加えた後、上記触媒液をシクロオレフィンモノマー100gあたり0.12mlの割合で加えて撹拌し、重合性組成物を調製した。
次いで、得られた重合性組成物100部をポリエチレンナフタレートフィルム(厚さ75μm)の上に流延し、その上に炭素繊維(連続繊維平織、繊維目付量:190g/m、繊維引張強度4,900MPa、繊維引張弾性率:294GPa、サイジング剤:エポキシ樹脂2重量%)を敷いて、さらにその上に上記重合性組成物80部を流延し、その上からさらにポリエチレンナフタレートフィルムを被せ、ローラーを用いて重合性組成物を炭素繊維に含浸させた。次いで、これを120℃で10分間重合反応を行い、厚さ0.13mmのプリプレグを得た。プリプレグの炭素繊維含有割合は70%で、外観性と揮発成分量を評価し、その結果を表1に示した。
このプリプレグを6枚重ね、200℃のオーブン15分間で樹脂を硬化させFRP積層体を製造した。得られたFRP積層体の機械的強度と靭性を評価し、その結果を表1に示した。
実施例2
重合性組成物に架橋剤としてジ−t−ブチルペルオキシド(1分間半減期温度186℃)1.2部を加えた以外は実施例1と同様に行い、各特性を評価して、その結果を表1に示した。
実施例3
重合性組成物に架橋剤ジ−t−ブチルペルオキシド1.2部と充填材剤としてシリカ(アドマファイン社製、平均粒径0.5μm)50部を加えた以外は実施例1と同様に行い、各特性を評価して、その結果を表1に示した。
実施例4
シクロオレフィンモノマーとして、ジシクロペンタジエン100部に代えてテトラシクロドデセン100部を用いた以外は実施例2と同様にして、重合性組成物を調製した。次に、一方向に配列させた連続炭素繊維(引張強度4,900MPa、引張弾性率235GPa、サイジング剤:エポキシ樹脂1.3重量%)に重合性組成物を含浸させ、150℃で5分間加熱して、厚み0.15mmのプリプレグを作製した。プリプレグの炭素繊維含有量は70%で、外観性と揮発成分量を評価し、その結果を表1に示した。
上記プリプレグを用いて、炭素繊維の配向方向(0°方向)と、炭素繊維の配向方向から右に45°ずれした方向(45°方向)に、それぞれ250×250mmの大きさのサイズに切り出した。切り出したプリプレグを16層で擬似等方に積層して([−45°/0°/+45°/90°]2s)、200℃×10分間加熱して16積層繊維強化複合材料積層体(FRP積層体)を得た。得られたFRP積層体の機械的強度と靭性を評価し、その結果を表1に示した。
比較例1
ジシクロペンタジエン100重量部とエチリデンノルボルネン10重量部の混合物と、トルエン200重量部に(3,3−ジメチルブチニリデン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムシクロリド10重量部溶解させた溶液とを、(3,3−ジメチルブチニリデン)ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムシクロリドのノルボルネン系モノマーに対するモル比が1/10,000になるように、混合攪拌して重合性組成物を得た。
得られた重合性組成物を含浸ローラーを用いて炭素繊維(連続繊維平織、繊維目付量:190g/m、繊維引張強度4,900MPa、繊維引張弾性率:294GPa、サイジング剤未処理)に良く含浸させ、厚さ50μmのPETフィルムで両面を挟んだ後、更に厚さ4mmのガラス板で挟んでガラス板をクリップ止めし、10℃の恒温層で24時間養生し厚さ0.13mmのプリプレグを得た。尚、用いたガラス板は予め10℃にしておいたものを用いた。プリプレグの炭素繊維含有割合は70重量%で、外観性と揮発成分量を評価して表1に示した。
次いで、このプリプレグを6枚重ね、200℃のオーブン15分間で硬化させFRP積層体を製造した。得られたFRP積層体の機械的強度と靭性を評価し、その結果を表1に示した。
比較例2
養生時間の24時間を1,000時間に変える以外は比較例1と同様に行い、プリプレグ及びFRP積層体を得た。各特性を評価し、その結果を表1に示した。
比較例3
炭素繊維をサイジング剤未処理品からエポキシ樹脂2重量%処理品に変えた以外は比較例1と同様に行なったが、重合が進まず、プリプレグが作製できなかった。
Figure 2009144081
表1の結果から、本発明のプリプレグは外観性と揮発性に優れ、FRPは強度と靭性に優れることがわかる(実施例1〜4)。特に、重合性組成物に架橋剤を配合させると、外観性、揮発性、強度、靭性のいずれかの特性も高度にバランスされることが判り(実施例2〜4)、また、多量に充填材を配合しても、各特性が劣ることがないこと(実施例3)、および、一方向炭素繊維を使ったプリプレグの16層擬似等方FRP積層板はソリもなく各特性にも優れること(実施例4)がわかる。一方、ヘテロ環構造を有さないルテニウム触媒を用いて重合したものは、外観性、揮発性、強度、靭性のいずれの特性が劣るものであった(比較例1〜2)。

Claims (8)

  1. シクロオレフィンモノマーとヘテロ環構造を含有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒とを含有する重合性組成物をサイジング剤で処理した強化繊維に含浸させ、重合してなるプリプレグ。
  2. 前記サイジング剤が、エポキシ樹脂である請求項1記載のプリプレグ。
  3. 前記重合性組成物が、架橋剤を含むものである請求項1または2記載のプリプレグ。
  4. 揮発成分が30重量%以下である請求項1乃至3のいずれかに記載のプリプレグ。
  5. シクロオレフィンモノマーとヘテロ環構造を含有する化合物を配位子として有するルテニウム触媒とを含んでなる重合性組成物をサイジング剤で処理した強化繊維に含浸させた後に重合することを特徴とするプリプレグの製造方法。
  6. 前記重合製組成物が、架橋剤を含むものである請求項5記載の製造方法。
  7. 請求項1乃至4のいずれかに記載のプリプレグを硬化してなるFRP。
  8. 請求項1乃至4のいずれかに記載のプリプレグを、同プリプレグまたは他材料と積層して硬化してなるFRP積層体。
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