JP2009132673A - 炭酸エステルの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】本発明は、圧力が比較的低い温和な反応条件下でも、一価アルコールと二酸化炭素を固体触媒存在下で反応させて高い反応率を可能にする炭酸エステルの製造方法を提供する。
【解決手段】固体触媒とアセトニトリルの存在下で、一価アルコールと二酸化炭素とを反応させて、炭酸エステルと水を生成すると共に、前記アセトニトリルと前記生成した水との水和反応によりアセトアミドを生成させて、前記生成した水を反応系から除去又は低減することで、前記炭酸エステルの生成を促進させる。
【選択図】なし

Description

本発明は、一価アルコールと二酸化炭素を、固体触媒の存在下で反応させて炭酸エステルを製造する方法に関するものである。
炭酸エステルとは、炭酸CO(OH)2の2原子の水素のうち1原子、あるいは2原子をアルキル基またはアリール基で置換した化合物の総称であり、RO-C(=O)-OR'(R、R'は飽和炭化水素基や不飽和炭化水素基を表す)の構造を持つものである。
炭酸エステルは、オクタン価向上のためのガソリン添加剤、排ガス中のパーティクルを減少させるためのディーゼル燃料添加剤等の添加剤として使われるほか、ポリカーボネートやウレタン、医薬・農薬等の樹脂・有機化合物を合成する際のアルキル化剤、カルボニル化剤、溶剤等、あるいはリチウム電池の電解液、潤滑油原料、ボイラー配管の防錆用の脱酸素剤の原料として使われるなど、非常に有用な化合物である。
従来の炭酸エステルの製造方法としては、ホスゲンをカルボニルソースとしてアルコールと直接反応させる方法が主流である。この方法は、極めて有害で腐食性の高いホスゲンを用いるため、その輸送や貯蔵等の取扱に細心の注意が必要であり、製造設備の維持管理及び安全性の確保のために多大なコストがかかっていた。また、本方法で製造する場合、原料や触媒中に塩素などのハロゲンが含まれており、得られる炭酸エステル中には、簡単な精製工程では取り除くことのできない微量のハロゲンが含まれる。ガソリン添加剤、軽油添加剤、電子材料向け用途にあっては、腐食の原因となる懸念も存在するため、微量に存在するハロゲンを極微量にするための徹底的な精製工程が必須となる。さらに、最近では、人体に極めて有害なホスゲンを利用することから、本製造方法での製造設備の新設が許可されないなど行政指導が厳しくなされてきており、ホスゲンを用いない新たな製造方法が強く望まれている。
こうした中、非特許文献1に記載されているように、ホスゲンを用いない炭酸エステルの製造法として、二酸化炭素をエチレンオキシドなどと反応させて環状炭酸エステルを合成し、更にメタノールと反応させて炭酸ジメチルを得る方法が実用化されてきている。この方法は、塩酸などの腐食性物質を使用したり、発生することがほとんど無く、地球温暖化ガスとして削減を求められている二酸化炭素を骨格に入れることにより削減効果が期待できる環境にやさしい優れた方法であるが、特許文献1に記載されているように、副生するエチレングリコールなどの有効利用が大きな課題であり、またエチレンオキシドの原料であるエチレンや、エチレンオキシドの安全な輸送は困難であるため、これらエチレンとエチレンオキシドの製造工程用プラントに隣接して炭酸エステル製造工程用プラントを立地しなければならないといった制約もある。
また、特許文献2に記載されているように、メタノールと一酸化炭素を塩化第一銅触媒の存在下、液相で酸素酸化することで炭酸ジメチルを製造する方法も開示されている。しかし、本方法では人体に有害な一酸化炭素を取り扱うことや、ホスゲンを用いる製造法と同様、触媒中にハロゲンを含むことにより、得られる炭酸エステルからのハロゲンの精製工程が必須であること、及びCO2が少なからず副生するなどの問題が指摘されている。
さらに、非特許文献2に記載されているように、メチルナイトライトと一酸化炭素からPd-Cu系触媒存在下、炭酸ジメチルを製造する方法も実用化されている。本方法では、原料となるメチルナイトライトを炭酸ジメチル製造時に副生する一酸化窒素にメタノールと酸素を反応させて生成するという方法で供給するものであり、プロセスが複雑であることや、人体に有害な一酸化炭素を取り扱うことなどの課題がある。
それに対し、メタノールと二酸化炭素を固体触媒存在下で反応させて炭酸エステルを直接合成しようとする試みがなされている(例えば非特許文献3)。しかし、本反応は平衡反応であるが、平衡が原料系に大きく偏っているため、メタノール転化率が高々1%程度に留まり、反応率、生産性が低いという克服すべき大きな課題があった。
その課題を解決すべく、炭酸エステル(炭酸ジメチル)と共に副生する水を系外へ除いて反応制約を解除しようとする試みがなされ、例えば触媒と共に水和剤としてアセタール(非特許文献4)や、2,2-ジメトキシプロパン(非特許文献5)を用いた研究が報告されているが、反応圧力が高くなるに従って反応が進行する特性を有することから、低圧では反応収率が非常に低く、極めて高圧でないと高い生産性が得られない。これは、アセタールや2,2-ジメトキシプロパンの水和反応は液相で触媒作用を受けずに進行すると予想されることからCO2圧力には依存せず、炭酸ジメチルを直接合成する反応の反応速度が全体の反応速度を決定するためと推察されるが、反応圧力がアセタールを用いた場合に300気圧(30MPa)、2,2-ジメトキシプロパンを用いた場合に60気圧(6MPa)という各々高圧でメタノール転化率が高くなることから、昇圧に必要な動力エネルギーが非常に大きくなりエネルギー効率が悪くなるなどの問題があった。
また、副生した水を系外に除去すべくモレキュラーシーブ(固体脱水剤)を用いた研究(非特許文献6)が報告されているが、反応部(高温)と脱水部(常温)を分離して循環させるプロセスになることからエネルギー消費が大きく、また大量の固体脱水剤を必要とする問題点があった。
尚、炭酸エステルの直接合成反応に用いられる固体触媒は、これまでにジメトキシジブチルスズ等のスズ化合物、タリウムメトキシド等のタリウム化合物、酢酸ニッケル等のニッケル化合物、五酸化バナジウム、炭酸カリウム等のアルカリ炭酸塩、及び、Cu/SiO2等種々の化合物が検討されている。
一方、水和剤としてアセトニトリルを用いた反応として、固体触媒存在下、二価アルコールであるプロピレングリコールと二酸化炭素から環状炭酸エステル(プロピレンカーボネート)を直接合成する反応系に関する研究が報告されている(非特許文献7)。しかし、本反応系でも反応圧力の影響が顕著であり、反応圧力が高くなるにしたがって反応が進行する特性を有するため低圧では反応収率が極端に低いが、環状炭酸エステルの直接合成反応が平衡的に有利な高圧で収率が上昇することから、反応圧力は100気圧以上が望ましいことが確認されており、上記と同様エネルギー効率が悪くなるなどの問題があった。
WO2004/014840号公報 EP365,083号公報 化学工学 第68巻 第1号 41頁(2004) 触媒, vol.36, p.127(1994) Catal. Lett., vol.58(1999) Polyhedron, vol.19, p.573(2000) Appl. Catal. A Gen, vol.237, p.103(2002) ECO INDUSTRY, vol.6, p.11(2001) Catalysts Letters, vol.112, p.187(2006)
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、アルコールと二酸化炭素を固体触媒存在下で反応させて炭酸エステルを直接合成する際に、圧力が比較的低い温和な反応条件下でも、高い反応率を可能にする炭酸エステルの製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、炭酸エステルの製造に際し、一価アルコールと二酸化炭素から炭酸エステルを直接合成する方法に着目し、更に、炭酸エステルと共に副生する水を系外へ除く水和剤として、従来二価アルコールから環状炭酸エステルを製造する際に用いられていたアセトニトリルを採用したところ、従来公知のアルコールと二酸化炭素から炭酸エステルを製造する方法における反応と異なり、反応系の圧力が低いほど(高圧から大気圧に近づくほど)反応が進行する現象を初めて見出して発明を為した。
また、固体触媒として触媒を構成する元素、組成に着目して鋭意検討したところ、酸性度が比較的低く塩基性度が比較的高い酸塩基複合機能を有する固体触媒が、水和剤にアセトニトリルを用いた場合に固体触媒存在下で水和反応によりアミドを生成する反応が促進されて反応系からの脱水が効率よく進み、比較的低圧の温和な条件下でも反応平衡制約を受けることなく炭酸エステルを高い収率で得られることを見出した。さらに、その中でも酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物からなる群から選ばれた一種または二種以上からなる酸化物が固体触媒として非常に有効であることを見出し、本発明に至った。
本発明について、以下に、その特徴を示す。
(1)固体触媒とアセトニトリルの存在下で、一価アルコールと二酸化炭素を反応させて炭酸エステルを製造することを特徴とする炭酸エステルの製造方法である。また、
(2)固体触媒とアセトニトリルの存在下で、一価アルコールと二酸化炭素とを反応させて、炭酸エステルと水を生成すると共に、前記アセトニトリルと前記生成した水との水和反応によりアセトアミドを生成させて、前記生成した水を反応系から除去又は低減することで、前記炭酸エステルの生成を促進させることを特徴とする炭酸エステルの製造方法である。また、
(3)前記固体触媒が、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの化合物からなる群から選ばれた一種または二種以上からなることを特徴とする(1)又は(2)に記載の炭酸エステルの製造方法である。また、
(4)前記一価アルコールがメタノールであり、炭酸エステルとして炭酸ジメチルを製造することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。また、
(5)前記反応時の圧力が5MPa以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。また、
(6)前記反応時の圧力が2MPa以下であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。また、
(7)前記反応時の圧力が0.1〜1MPaであることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の炭酸エステルの製造方法である。
本発明によれば、一価アルコールと二酸化炭素とを比較的圧力の低い温和な条件下で反応させて、高い反応率で炭酸エステルを得ることができる。
以下、具体例を示して、本発明を更に詳細に説明する。
本発明の炭酸エステルの製造方法は、固体触媒とアセトニトリルの存在下、一価のアルコールと二酸化炭素とを直接反応させて炭酸エステルを生成するものである。下記反応式Iに示すように(反応式Iでは一価アルコールとしてメタノールの場合を例に説明する)、一価アルコールと二酸化炭素とを反応させると炭酸エステルの他に水も生成するが、アセトニトリルが存在することで、生成した水との水和反応によりアセトアミドを生成し、生成した水を反応系から除去又は低減することができる。すなわち、副生した水をアセトニトリルと水和反応させてアセトアミドを生成することで、反応系内から水を除去又は低減して、炭酸エステルの生成を促進させることが可能となる。
Figure 2009132673
ここで、一価アルコールとしては、第一級アルコール、第二級アルコール、及び第三級アルコールからなる群から選ばれた一種又は二種以上のアルコールを用いることができる。尚、一価アルコールに何を用いるかは、製造すべき炭酸エステルの種類に応じて適宜決めれば良い。例えば、炭酸ジメチル(DMC)を製造する場合は、メタノールを用いればよい。
また、固体触媒としては、従来検討されているスズ化合物、タリウム化合物、ニッケル化合物、バナジウム化合物、Cu/SiO2、アルカリ炭酸塩などの触媒でも良いが、特に酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物からなる群から選ばれた一種または二種以上からなるものが好適である。
本発明者らが鋭意検討した結果、炭酸エステルの直接合成に用いる触媒は、酸塩基複合機能を有することが必要であり、特に酸性度が比較的低く且つ塩基性度が比較的高い性質を有することが好ましい。酸性度が高すぎると炭酸エステルよりもむしろエーテルを多量に合成することになり好ましくない。適度な酸塩基複合機能触媒においては、塩基性点上でR-O-M(Mは触媒)の形でアルコールが解離吸着して、CO2との間でRO-C(=O)-O…Mを形成し、他方酸性点上ではHO-R…Mの形でアルコールが吸着して、両吸着種の間でRO-C(=O)-ORが生成される機構が考えられる。
次に、本反応系の触媒として望ましい比較的低い酸性度且つ比較的高い塩基性度を有する固体触媒の酸性度及び塩基性度に関する測定方法を以下に示す。酸性度は、一般に、対象とする化合物に室温又は前処理後の降温過程でNH3雰囲気下に曝してNH3を吸着させた後、TPD(温度制御脱着)法と呼ばれる温度を一定速度で昇温させた際に脱着したNH3量を定量することで測定できる。一方、塩基性度は、一般に、上記酸性度測定法で用いたNH3の代わりにCO2を用い、TPDにより脱着したCO2量を定量することにより測定できる。このようにして測定可能な触媒のうち、比較的低い酸性度且つ比較的高い塩基性度を有する化合物として、酸化スズや酸化チタン、酸化ニッケルなどの各種金属塩の固体触媒が好適であるが、上記の酸性度と塩基性のバランスが最も取れていると考えられる酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物から選ばれた一種または二種以上からなるものがより一層好適である。
また、この固体触媒は、メカニズムは明らかではないが、一価アルコールと二酸化炭素との反応による炭酸エステルの合成に対し触媒活性を示すと共に、炭酸エステル合成時に副生する水とアセトニトリルの水和反応に対しても触媒活性を示すものと思われる。従って、本触媒表面上では炭酸エステル合成反応と水和反応の両者が進行する状態になるが、炭酸エステルの合成反応には平衡的に不利な低圧の条件下でも、アセトニトリルの水和反応は触媒作用を受けて進行し、炭酸エステルの合成反応で副生した水を触媒表面から速やかに脱離することにより炭酸エステルの合成反応の平衡が生成系にシフトして、反応圧力の低い温和な条件下でも炭酸エステル合成反応が平衡制約を受けることなく炭酸エステルの高い生産性を可能にするものと推察する。逆に高圧下では、触媒表面に多量のCO2分子が吸着するために、炭酸エステル合成時に生成する水分子との接触が困難になるため、アセトニトリルとの水和反応が進行しにくくなり、平衡制約に近い状態でしか炭酸エステルを生産することができず、結果的に高圧下では生産性が高くならなくなるものと考えられる。
上記推察に関し、アセトニトリルの反応の観点から説明すれば、アセトニトリルは、液相で本発明における固体触媒の触媒作用を受けて、その表面で水和反応が促進される。従って、高圧になると固体触媒の表面がCO2で覆われてしまい、主反応で生成した水分子との水和反応に対して触媒作用を受けにくい状態になるため、水和反応速度が低下するものと推察される。一方、非特許文献4、5に記載されたアセタールや2,2-ジメトキシプロパンは、液相で触媒作用を何ら受けず、主反応で生成した水分子と水和反応を起こす。従って、主反応が高圧で優位に進行するため、高圧下で水和反応が起こりはじめるものと推察される。
また、本発明における固体触媒の製造法について、下記に例を挙げると、先ず、酸化セリウム(CeO2)の場合は、セリウムアセチルアセトナート水和物、水酸化セリウム、硫酸セリウム、酢酸セリウム、硝酸セリウム、硝酸アンモニウムセリウム、炭酸セリウム、蓚酸セリウム、過塩素酸セリウム、燐酸セリウム、ステアリン酸セリウムなどの各種セリウム化合物を空気雰囲気下で焼成することにより調製することができる。また市販の試薬の酸化セリウムを用いる場合は、そのまま若しくは空気雰囲気下で乾燥または焼成することでも使用できる。さらに、セリウムを溶解させた溶液から沈殿させ、濾過、乾燥、焼成することでも使用できる。一方、酸化ジルコニウム(ZrO2)の場合は、ジルコニウムエトキシド、ジルコニウムブトキシド、炭酸ジルコニウム、水酸化ジルコニウム、燐酸ジルコニウム、酢酸ジルコニウム、塩化酸化ジルコニウム、酸化二硝酸ジルコニウム、硫酸ジルコニウムなどの各種ジルコニウム化合物を空気雰囲気下で焼成することにより調製することができる。また市販の試薬の酸化ジルコニウムを用いる場合は、そのまま若しくは空気雰囲気下で乾燥または焼成することでも使用できる。さらに、ジルコニウムを溶解させた溶液から沈殿させ、濾過、乾燥、焼成することでも使用できる。
また、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物の場合は、セリウムとジルコニウムを含んだ溶液に塩基を添加して共沈により水酸化物を形成後、濾過、水洗したものを空気雰囲気下で乾燥、焼成することにより調製することができる。また、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの粉末同士を物理混合して焼成することでも調製できるが、最終調製品の比表面積が高くならないため、反応がより進み易い共沈法が好ましい。これらの方法により、具体的にはCeO2-ZrO2のような酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物からなる固体触媒を得ることができる。尚、酸化セリウムからなる触媒や酸化ジルコニウムからなる触媒を調製する場合を含めて、これら各触媒の調製時の焼成温度は、最終調製品の比表面積が高くなる温度を選択することが好ましく、出発原料にもよるが、例えば300℃から1100℃が好ましい。また、本発明における固体触媒については、上記の元素以外に触媒製造工程等で混入する不可避的不純物を含んでも構わないが、できるだけ不純物が混入しないようにするのが望ましい。
ここで本発明における固体触媒は、粉体、または成型体のいずれの形態であってもよく、成型体の場合には球状、ペレット状、シリンダー状、リング状、ホイール状、顆粒状などいずれでもよい。
また、本発明で用いる二酸化炭素は、工業ガスとして調製されたものだけではなく、各製品を製造する工場や製鉄所、発電所等からの排出ガスから分離回収したものも用いることができる。
本発明の固体触媒を用いた炭酸エステルの直接合成反応は、用いる反応器や反応形態等について特に制限されず、例えば回分反応器、半回分反応器、連続槽型反応器、管型反応器等のような流通反応器のいずれを用いてもよい。
反応温度については、50〜300℃とすることが好ましい。反応温度が50℃未満の場合は、反応速度が低く、炭酸エステル合成反応、アセトニトリルによる水和反応共にほとんど進行せず、炭酸エステルの生産性が低い。また反応温度が300℃を超える場合は、各反応の反応速度は高くなるが、炭酸エステルや水和反応により得られるアミドのモノマーが他のモノマーに変性したり、高分子化を起こしやすくなるため、炭酸エステルの収率が低くなる。さらに好ましくは100〜300℃である。但し、この温度は固体触媒の種類や量、原料(一価アルコール、アセトニトリル)の量や比により異なると考えられるため、適宜最適条件を設定することが望ましい。
反応圧力については、0.1〜5MPa(絶対圧)とすることが好ましい。反応圧力が0.1MPa(絶対圧)未満の場合は、0.1MPa(絶対圧)の場合よりも収率が低下するのに加え、減圧にするための動力エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪くなる。また反応圧力が5MPaを超える場合は、アセトニトリルによる水和反応が進行しにくくなって炭酸エステルの収率が悪くなるばかりでなく、昇圧に必要な動力エネルギーが必要となり、エネルギー効率が悪くなる。また、炭酸エステルの収率を高くする観点から、反応圧力は0.1〜2MPa(絶対圧)がより好ましく、0.1〜1MPa(絶対圧)がさらに好ましい。尚、0.1MPa(絶対圧)未満と大気圧よりも減圧した場合には、一価アルコールと二酸化炭素の反応が進行しにくくなって炭酸エステルの収率が低下するだけでなく、減圧装置が必要となり、設備が複雑且つコスト高となるため、0.1MPa(絶対圧)以上とすることが好ましい。
さらに、このアセトニトリルによる水和反応では、アミドが副生し、さらにそのアミドが原料のアルコールと反応してエステルを副生することになる。この中から目的とする炭酸エステルを単離する場合には、各化合物の沸点差を利用した蒸留操作が好適に用いられるが、他の手法でも構わない。また、反応時間については、あまり時間をかけすぎると上記アミド以外の副生物(例えばカルバミン酸メチルなど)が多量に生成することがあり、最適条件を適宜設定することが望ましい。
また水和反応に用いるアセトニトリルは、原料のアルコールの体積の0.5倍以上5倍以下で反応前に予め反応器中に導入するのが望ましい。0.5倍未満で導入した場合には、水和反応に寄与するアセトニトリル量が少ないために炭酸エステルの収率が悪くなる恐れがある。一方5倍を超えて導入した場合には、反応終了後、生成物である炭酸エステルと反応に関与しなかった多量のアセトニトリルとの分離が困難になることや、必要以上に多量に加えることは経済的でない。さらに、固体触媒に対する一価アルコール及びアセトニトリルの量は、固体触媒の種類や量、一価アルコールの種類やアセトニトリルとの比により異なると考えられるため、適宜最適条件を設定することが望ましい。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
(実施例1)
酸化セリウム(第一稀元素製:不純物濃度0.02%以下)を873Kで空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。そこで、70mlのオートクレーブ(反応器)に磁気攪拌子、上記固体触媒(3mmol)、メタノール(100mmol)及びアセトニトリル(120mmol)を導入し、約5gのCO2でオートクレーブ内の空気を3回パージした後、表1に示した圧力になるようにCO2を導入して、そのオートクレーブをバンドヒーター、及びホットスターラーにより423Kまで攪拌しながら昇温し、目的の温度に達した時間を反応開始時間とした。そして、423Kで2時間反応させた後、オートクレーブを水冷し、室温まで冷えたら減圧して内部標準物質の2-プロパノールを加え、生成物を採取し、GC(ガスクロマトグラフィ)で分析した。このようにして、反応圧力(CO2の導入量)を変えて表1に示す試験No.1〜5の実験を行った。
Figure 2009132673
以上の結果より、低圧ほど炭酸ジメチル(DMC)生成量が多く、高収率で得られることが確認された。
(実施例2)
酸化セリウム(粉末状固体触媒)を1mmol、アセトニトリルを300mmol用いる他は実施例1と同様にして、下記表2の各圧力で反応を行った。尚、反応圧力が0.1MPa以下の条件では、CO2/He=20/80の混合ガスを用い、表2に示す所定のCO2分圧(CO2量)になるように導入した。その結果を表2に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、炭酸ジメチルは常圧付近で最も高い収率で得られることが確認された。
(実施例3)
アセトニトリル(AN)を下記表3に示すような量にする他は実施例2と同様にして、反応圧力が0.5MPaになるようにCO2量を40mmol導入した後、423Kで2hr反応を行った。その結果を表3に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、炭酸ジメチルの生成量はアセトニトリルの添加量と共に増加したが、アセトニトリルの添加量が300mmol以上では炭酸ジメチルの生成量はほとんど増加しないことが確認された。
(実施例4)
反応温度を下記表4に示す他は実施例2と同様にして、反応圧力が0.5MPaになるようにCO2量を40mmol導入した後、各反応温度で2hr反応を行った。その結果を表4に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、本条件下では、温度の上昇に伴い反応速度が上昇したが、443Kを超えると反応速度は低下した。従って、炭酸ジメチルの生成量は443K前後で最も高い収率で得られることが確認された。
(実施例5)
固体触媒の酸化セリウムを0.09g(0.5mmol)用い、反応時間を下記表5に示すようにする他は実施例2と同様にして、反応圧力が0.5MPaになるようにCO2量を40mmol導入した後、423Kで反応を行った。その結果を表5に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間に伴い生成量が増加したが、48hr経過後はほぼ一定となり、48hrでほぼ反応が終了することが確認された。
(実施例6)
反応時間を下記表6に示すようにする他は実施例2と同様にして、反応圧力が0.5MPaになるようにCO2量を40mmol導入した後、423Kで反応を行った。その結果を表6に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間に伴い生成量が増加したが、24hr経過後はほぼ一定となり、24hrでほぼ反応が終了することが確認された。
(実施例7)
固体触媒の酸化セリウムを0.51g(3mmol)用い、反応時間を下記表7に示すようにする他は実施例2と同様にして、反応圧力が0.5MPaになるようにCO2量を40mmol導入した後、423Kで反応を行った。その結果を表7に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間に伴い生成量が増加したが、16hr経過後はほぼ一定となり、16hrでほぼ反応が終了することが確認された。尚、48hr反応時に炭酸ジメチルの生成量が減少したのは、経過時間に伴い副生物が多量に生成したためと思われる。
(実施例8)
反応時間を下記表8に示すようにする他は実施例2と同様にして、反応圧力が0.2MPaになるようにCO2量を16mmol導入した後、423Kで反応を行った。その結果を表8に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間に伴い生成量が増加したが、24hr経過後はほぼ一定となり、24hrでほぼ反応が終了することが確認された。
(実施例9)
メタノールを200mmol、アセトニトリルを600mmol用い、反応時間を下記表9に示すようにする他は実施例2と同様にして、反応圧力が0.2MPaになるようにCO2量を16mmol導入した後、423Kで反応を行った。その結果を表9に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、本条件下では、炭酸ジメチルは反応時間に伴い生成量が増加したが、24hr経過後はほぼ一定となり、24hrでほぼ反応が終了することが確認された。特に本条件下、24hr経過後で、炭酸ジメチルが最も高い収率で得られることが判明した。
(実施例10)
固体触媒として酸化ジルコニウム(ナカライテスク製:不純物濃度0.08%以下)を673Kで空気雰囲気下、3時間焼成したものを3mmol用い、また、メタノールとCO2との反応温度を443Kにした以外は実施例1と同様にして、表10に示す反応圧力及びCO2量で試験No.55〜57の実験を行った。その結果を表10に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、低圧ほどDMC生成量が多く、高収率で得られることが確認された。
(実施例11)
硫酸セリウムと硝酸ジルコニウムをセリウムが20原子量%となるように溶解させた溶液に水酸化ナトリウムを導入して沈殿物を生成させた後、この沈殿物を濾過、水洗した後、1273Kで空気雰囲気下、3時間焼成し、粉末状の固体触媒を得た。この固体触媒3mmolを用いて、また、メタノールとCO2との反応温度を443Kにした以外は実施例1と同様にして、表11に示す反応圧力及びCO2量で試験No.58〜60の実験を行った。その結果を表11に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、低圧ほどDMC生成量が多く、高収率で得られることが確認された。
(実施例12)
メタノールの代わりにエタノール(100mmol)を用いたほかは、実施例1と同様にして、表12に示す反応圧力及びCO2量で試験No.61〜63の実験を行った。その結果を表12に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、炭酸ジメチルほどではないが、炭酸ジエチル(DEC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。
(実施例13)
メタノールの代わりにプロパノール(100mmol)を用いたほかは、実施例1と同様にして、表13に示す反応圧力及びCO2量で試験No.64〜66の実験を行った。その結果を表13に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチルほどではないが、炭酸ジプロピル(DPC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。
(実施例14)
メタノールの代わりにイソプロパノール(100mmol)を用いたほかは、実施例1と同様にして、表14に示す反応圧力及びCO2量で試験No.67〜69の実験を行った。その結果を表14に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピルほどではないが、炭酸ジイソプロピル(DIPC)の生成量は低圧ほど多く、高収率で得られることが確認された。
(実施例15)
メタノールの代わりにt-ブチルアルコール(100mmol)を用いたほかは、実施例1と同様にして、表15に示す反応圧力及びCO2量で試験No.70〜72の実験を行った。その結果を表15に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジプロピル、炭酸ジイソプロピルほどではないが、炭酸ジターシャリーブチル(DTBC)の生成量は低圧ほど多く、比較的高収率で得られることが確認された。
(比較例1)
アセトニトリルを用いないほかは実施例1と同様にして、表16に示す反応圧力及びCO2量で試験No.73〜77の実験を行った。その結果を表16に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、アセトニトリルを用いない場合には、炭酸ジメチル直接合成反応の平衡制約により、生成量がごくわずかにとどまった。
(比較例2)
アセトニトリルの代わりに2,2-ジメトキシプロパンを30mmol用いたほかは実施例1と同様にして、表17に示す反応圧力及びCO2量で試験No.78〜80の実験を行った。その結果を表17に示す。
Figure 2009132673
以上の結果より、低圧ではDMC生成量が少なかったが、10MPaという高圧で高い生産量を示した。
上記実施例では、アミド等の副生物が生じたが、蒸留により炭酸エステルを単独で回収することができた。また、上記実施例では、固体触媒として酸化セリウム(CeO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化セリウムと酸化ジルコニウムの化合物(CeO2-ZrO2)に限定して記述したが、アセトニトリルを水和剤として添加する本発明においては、他の固体触媒、特に、酸性度が比較的低く塩基性度が比較的高い酸塩基複合機能を有する固体触媒でも同様に、比較的低圧下においても炭酸エステルの製造を効率よく行うことが可能である。

Claims (7)

  1. 固体触媒とアセトニトリルの存在下で、一価アルコールと二酸化炭素とを反応させて、炭酸エステルを製造することを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
  2. 固体触媒とアセトニトリルの存在下で、一価アルコールと二酸化炭素とを反応させて、炭酸エステルと水を生成すると共に、前記アセトニトリルと前記生成した水との水和反応によりアセトアミドを生成させて、前記生成した水を反応系から除去又は低減することで、前記炭酸エステルの生成を促進させることを特徴とする炭酸エステルの製造方法。
  3. 前記固体触媒が、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、及び酸化セリウムと酸化ジルコニウムとの化合物からなる群から選ばれた一種または二種以上からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の炭酸エステルの製造方法。
  4. 前記一価アルコールがメタノールであり、炭酸エステルとして炭酸ジメチルを製造することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
  5. 前記反応時の圧力が5MPa以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
  6. 前記反応時の圧力が2MPa以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
  7. 前記反応時の圧力が0.1〜1MPaであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭酸エステルの製造方法。
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