JP2009121523A - 免振装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】地震時における上部構造体1の免振を損なうことなく、非地震要因の上部構造体1自体の微振動も有効に抑制する。
【解決手段】上部構造体1とその下方の下部構造体3との間の上下方向隙間に介装される免振装置10である。前記上部構造体1と前記下部構造体3との水平方向の相対移動を許容しつつ前記上部構造体1の重量を支持する支承部20と、前記上部構造体1と前記下部構造体3との水平方向の相対振動を所定の減衰定数で減衰する低減衰ダンパー30と、前記低減衰ダンパー30と並列に前記上下方向隙間Gに介装されて、前記相対振動を前記所定の減衰定数よりも大きな減衰定数で減衰する高減衰ダンパー40と、を備える。前記相対移動の往路及び復路のそれぞれにおいて相対移動量が規定値δを超えると、前記高減衰ダンパー40は減衰力を発生しなくなる。
【選択図】 図2

Description

本発明は、上部構造体とその下方の下部構造体との間の上下方向隙間に介装される免振装置に関する。
地震時に地盤から建物に伝播する揺れを低減し、建物の構造躯体の安全性を高め、建物内部の人や物への被害を防ぐ装置として免振装置が普及している。この免振装置は、下部構造体としての基礎と上部構造体としての建物との間に介装され、これにより、地震時の地動入力に対する建物の振動応答を低減するようにしている。そして、通常、免振装置としては、建物を水平方向に相対移動可能に支持する積層ゴムや滑り支承等が使用される。
一方、半導体工場のような精密生産施設には、建物内に微振動を嫌う嫌振機器が多数配置され、更に加振力を発生する設備機器も多数配置されている。そのため、平常時の建物の振動は、建物内部の加振力に対する微振動応答が支配的であり、その微振動応答をいかに低減させるかが重要となる。
但し、このような嫌振機器を有する建物についても、地震による機器破損防止の観点から、望ましくは上述の免振装置を適用して建物を免振化するのが良いが、当該免振装置を適用すると、平常時に支配的な建物内部の加振力や風荷重による微振動が増幅されてしまう虞がある。
そこで、この問題を解決すべく、特許文献1の免振装置では、建物の水平振動を許容しつつ建物の自重を支持する滑り支承に並列させて鉛ダンパーを設置し、これにより、地震時には、鉛ダンパーが大きく塑性変形することで前記滑り支承の免振作用を有効に発揮可能にする一方、建物自体の微振動に対しては、鉛ダンパーの高い剛性によって非免振状態にして微振動の増幅を抑えるようにしている。
特開2006−153232号
しかしながら、本願出願人が鋭意検討した結果、地震のように地面から建物に入力される振動ではない非地震要因の微振動、すなわち、建物内部の加振源や風等によって建物自体が微振動している場合についても、建物を非免振状態にするよりは、むしろ免振状態を維持しつつ大きな減衰定数で減衰する方が、微振動を効果的に抑制できて好ましいことが判明した。
図1は、その説明図である。図1の横軸は、建物上部に付与される水平方向の加振力の振動数であり、図1の縦軸は、前記加振力に対する建物上部の水平方向の加速度応答である。つまり、このグラフは、建物上部に前記加振力を加えた際に建物上部にて何倍の加速度の微振動になって応答されるかを示している。そして、図中の実線が非免振の場合であり、図中の点線が、免振下において80%の減衰定数で減衰させた場合である。
図1から明らかなように、非免振にするよりも、免振下において80%の減衰定数で減衰した方が、大きな山部の無い平坦な応答曲線になっており、もって、この方が、微振動の抑制効果が高いことがわかる。また、参考として一点鎖線で示す20%の減衰定数との対比においても、80%の方が高い抑制効果を示しており、もって、減衰定数を大きくすれば微振動の抑制効果の向上を図れることがわかる。
但し、通常、地震用に使用される減衰ダンパーの減衰定数は10〜20%であり、これと比べて上記の80%という値は格段に大きな値である。このため、単純にこのような大きな減衰定数のダンパーを上記地震用の減衰ダンパーの代わりに適用すると、地震時においては、当該ダンパーの大きな減衰力を通じて地盤の振動が建物に伝わり易くなり、つまり、地盤と一体的に建物が大きく揺れ易くなり、その結果、地震時における免振作用が大きく損なわれてしまう虞がある。
本発明は、かかる従来の課題に鑑みて成されたもので、地震時における上部構造体の免振を損なうことなく、非地震要因の上部構造体自体の微振動も有効に抑制可能な免振装置を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために請求項1に示す免振装置は、
上部構造体とその下方の下部構造体との間の上下方向隙間に介装される免振装置であって、
前記上部構造体と前記下部構造体との水平方向の往復の相対移動を許容しつつ前記上部構造体の重量を支持する支承部と、
前記上部構造体と前記下部構造体との水平方向の相対振動を所定の減衰定数で減衰する低減衰ダンパーと、
前記低減衰ダンパーと並列に前記上下方向隙間に介装されて、前記相対振動を前記所定の減衰定数よりも大きな減衰定数で減衰する高減衰ダンパーと、を備え、
前記相対移動の往路及び復路のそれぞれにおいて相対移動量が規定値を超えると、前記高減衰ダンパーは減衰力を発生しなくなることを特徴とする。
上記請求項1に示す発明によれば、地震時における上部構造体の免振を損なうことなく、非地震要因の上部構造体自体の微振動も有効に抑制可能となる。
詳しくは、次のとおりである。一般に地震時における上部構造体と下部構造体との相対移動量は、非地震要因の微振動のそれと比べて非常に大きい。一方、上記の高減衰ダンパーによれば、相対移動の往路及び復路のそれぞれにおいて相対移動量が規定値を超えると、減衰力を発生しなくなる。よって、微振動の想定振幅量等に基づいて前記規定値を適宜設定すれば、地震の場合に、その相対移動の往路及び復路の大半において高減衰ダンパーの減衰力を発生させないように調整することができる。つまり、地震時には、専ら低減衰ダンパーの小さい減衰定数で上部構造体の振動は減衰され、その結果、上部構造体の免振を損なうことなく振動を抑制可能である。
他方、微振動の場合には、その相対移動の往路及び復路の大半が前記規定値内になるので、高減衰ダンパーが有効に機能し得て、つまり、大きな減衰定数で上部構造体の微振動を減衰し、もって微振動も有効に抑制可能となる。
請求項2に示す発明は、請求項1に記載の免振装置であって、
前記上部構造体及び前記下部構造体の両者に固定された状態において、前記高減衰ダンパーは、前記相対移動に応じた減衰力を発生し、
前記相対移動量が前記規定値を超えると、前記高減衰ダンパーの前記上部構造体との固定又は前記下部構造体との固定のうちの少なくとも一方の固定が解除されることを特徴とする。
上記請求項2に示す発明によれば、固定解除という簡単な方法を用いることで、高減衰ダンパーに、上述の「相対移動量が規定値を超えると減衰力を発生しなくなる」という動作を行わせることができる。
請求項3に示す発明は、請求項2に記載の免振装置であって、
前記高減衰ダンパーは、前記上部構造体及び前記下部構造体のうちの一方の構造体の取り付け面に取り付けられた容器と、該容器に収容された粘性材と、該粘性材に接触しつつ、もう一方の構造体の取り付け面に取り付けられた抵抗板と、を有し、
前記減衰力は、前記抵抗板が前記容器に対して移動する際に生じる前記粘性材の剪断抵抗力であり、
前記相対移動の前記相対移動量が前記規定値に達して前記抵抗板が前記容器の側壁に当たると、前記抵抗板又は前記容器のうちの少なくとも一方が、前記取り付け面に対して滑り動作をすることを特徴とする。
上記請求項3に示す発明によれば、簡単に高減衰ダンパーを構成できるとともに、当該高減衰ダンパーに、上述の「相対移動量が規定値を超えると減衰力を発生しなくなる」という動作を確実に行わせることができる。
また、高減衰ダンパーの減衰力は、前記抵抗板が前記容器に対して移動する際に生じる前記粘性材の剪断抵抗力であるので、前記減衰力の大きさは相対移動の速さに比例する。よって、前記相対移動の開始時や前記相対移動の折り返し時に大きな減衰力が作用して上部構造体を相対移動不能に拘束してしまうことを有効に防ぎ得て、その結果、上部構造体の免振状態を確実に確保することができる。
請求項4に示す発明は、請求項1乃至3のいずれかに記載の免振装置であって、
前記相対振動の振幅量が所定値以下の場合には、前記低減衰ダンパーは減衰力を発生しないことを特徴とする。
上記請求項4に示す発明によれば、低減衰ダンパーの種類によらずに、微振動下における上部構造体の免振状態を確実に確保することができる。
すなわち、低減衰ダンパーの種類によっては、相対移動の開始時や相対移動方向の折り返し時に、大きな減衰力が働いて上部構造体を相対移動不能なロック状態にしてしまうことが起こり得て、その場合には、微振動下において上部構造体を免振状態に維持できなくなる。
この点につき、上記の免振装置によれば、前記相対振動の振幅量が所定値以下の場合には、前記低減衰ダンパーは減衰力を発生しないので、微振動の想定振幅量に基づいて前記所定値を設定することにより、微振動下における上部構造体のロック状態を回避可能となる。その結果、微振動下においても上部構造体の免振状態を確実に確保することができる。
請求項5に示す発明は、請求項4に記載の免振装置であって、
前記低減衰ダンパーは、水平方向に前記所定値の2倍の大きさの遊びをもって前記上部構造体及び前記下部構造体に連結されていることを特徴とする。
上記請求項5に示す発明によれば、前記低減衰ダンパーは前記所定値の2倍の大きさの遊びをもって前記上部構造体及び前記下部構造体に連結されているので、前記所定値以下の振幅量の微振動下においては減衰力を一切発生せず、もって、上部構造体の相対移動を何等拘束しない。よって、上述した低減衰ダンパーの種類によっては起こり得る上部構造体のロック状態を回避することができて、結果、微振動下においても上部構造体の免振状態を確実に確保可能となる。
請求項6に示す発明は、請求項1乃至5のいずれかに記載の免振装置であって、
前記低減衰ダンパーの減衰定数は、10〜20%の範囲の任意値であり、
前記高減衰ダンパーの減衰定数は、50%以上100%未満の任意値であることを特徴とする。
上記請求項6に示す発明によれば、地震時においては低減衰ダンパーによって有効に振動を減衰する一方、微振動時においては高減衰ダンパーによって有効に振動を減衰することができる。
請求項7に示す発明は、請求項1乃至6のいずれかに記載の免振装置であって、
前記規定値は、零を含まず1センチメートル以下の任意値であることを特徴とする。
上記請求項7に示す発明によれば、地震時においては概ね高減衰ダンパーを機能させずに低減衰ダンパーによって有効に振動を減衰する一方、微振動時においては高減衰ダンパーによって有効に振動を減衰することができる。
請求項8に示す発明は、請求項1乃至7のいずれかに記載の免振装置であって、
前記支承部は、金属板とゴム板とを上下に交互に重ね合わせてなる積層ゴムであり、
前記ゴム板は、天然ゴムを素材とし、
前記積層ゴムの上端部は前記上部構造体に固定されるとともに、前記積層ゴムの下端部は前記下部構造体に固定されており、前記積層ゴムは、前記相対移動に応じて水平方向に剪断弾性変形することを特徴とする。
上記請求項8に示す発明によれば、前記支承部に積層ゴムを用いるとともに、そのゴム板には天然ゴムを用いているので、当該支承部の水平剛性は低く、水平方向に滑らかに剪断変形する。よって、前記相対移動の開始時や前記相対移動の折り返し時に、上部構造体を相対移動不能なロック状態に拘束してしまうことを有効に回避し得て、その結果、微振動下においても上部構造体の免振状態を確実に確保可能となる。
また、前記支承部たる積層ゴムは、前記相対移動に伴って剪断弾性変形するので、当該弾性変形時には、逆向きの弾発力を生じる。よって、相対移動した上部構造体は、前記弾発力を復元力として、速やかに下部構造体における所定の基準位置へと振動しながら復帰し、もって、上部構造体と下部構造体との水平方向の大きな位置ずれは防止される。
本発明に係る免振装置によれば、地震時における上部構造体の免振を損なうことなく、非地震要因の上部構造体自体の微振動も有効に抑制可能となる。
===第1実施形態の免振装置10===
図2は、建物1に適用された第1実施形態の免振装置10の概念図であり、一部を縦断面視で示している。
免振装置10は、建物1と、地面に設けられた建物1の基礎3との間の上下方向隙間Gに介装されている。そして、免振装置10は、建物1と基礎3との水平方向の往復の相対移動を許容しつつ建物1の重量を支持する支承部20と、建物1と基礎3との水平方向の相対振動を所定の減衰定数で減衰する低減衰ダンパー30と、前記低減衰ダンパー30と並列に前記上下方向隙間Gに介装されて、前記相対振動を前記低減衰ダンパー30の減衰定数よりも大きな減衰定数で減衰する高減衰ダンパー40と、を備えている。
なお、ここで減衰定数とは、ダンパーの振動減衰能力の大きさを示す一般的指標であり、つまり、減衰ダンパーの減衰係数Cと、建物1の質量mと、支承部20の水平剛性kとを用いて、次式1で表されるものである。
減衰定数h=C/(2√(m×k)) ・・・式1
以下、免振装置10の各構成要素について説明する。
<<<支承部20>>>
支承部20は、所謂積層ゴム(金属板の一例としての鋼板とゴム板とを上下に交互に積み重ねて接合一体化したもの)22を本体し、その上端及び下端のフランジ部24,24が、建物1及び基礎3にそれぞれ固定されている。そして、建物1と基礎3との水平方向の相対移動に伴って、積層ゴム22が水平方向に剪断弾性変形することにより、建物1は水平免振される。なお、この免振時においては、剪断弾性変形に伴って積層ゴム22には変形方向と逆向きの弾発力が生じるが、当該弾発力は、基礎3上の所定の基準位置から変位した建物1を前記基準位置へと復帰させるための復元力として機能し、これにより建物1は水平振動する。
ここで、望ましくは、積層ゴム22として天然ゴム系のものを用いると良い。つまり、ゴム板の素材を天然ゴムにすると良い。この理由は、天然ゴムを用いれば積層ゴム22の水平剛性を格段に低くできて、これにより、積層ゴム22は、地震時だけでなく、微振動時のような小さな加振力に対しても滑らかに剪断変形するようになり、その結果、当該微振動時にあっても建物1と基礎3とを相対移動不能なロック状態に拘束せずに建物1を確実に免振状態に維持できるからである。具体的には、積層ゴム22は、水平方向の復元力特性が実用範囲で線形であり、履歴ループより求まる透過粘性減衰定数は1〜2%のものが好ましい。
<<<低減衰ダンパー30>>>
低減衰ダンパー30は、主に地震時に機能するダンパーである。よって、その減衰定数は、地震時の振動を効果的に減衰すべく10〜20%という低い数値範囲の任意値に設定され、ここでは20%に設定されている。
図1に示すように、ここでは、低減衰ダンパー30として所謂オイルダンパー30が適用されている。オイルダンパー30は、オイルが封入されたシリンダー32と、シリンダー32内に水平方向に摺動可能に嵌合されつつシリンダー32内を2つのシリンダー室32a,32bに隔成するピストン34と、ピストン34に貫通形成されて2つのシリンダー室32a,32bを連通するオリフィス34aと、を備えている。また、シリンダー32及びピストン34は、それぞれ、クレビス36や連結ピン37等の連結部材を介して建物1及び基礎3に連結されている。よって、建物1と基礎3との間で相対振動が生じると、シリンダー32に対してピストン34は相対移動するが、その際には、一方のシリンダー室32a(32b)から他方のシリンダー室32b(32a)へと移動すべくオリフィス34aを通過するオイルの粘性抵抗力が振動の減衰力として働き、これにより、建物1と基礎3との相対振動が減衰される。
この低減衰ダンパー30の減衰定数の設定は、オリフィス径やオイルの粘度、シリンダー32やピストン34のサイズ等の仕様を適宜調整することで行われる。
なお、10〜20%という低い減衰定数であれば、当該低減衰ダンパー30が地震時に建物1の免振状態を阻害することは殆どない。
<<<高減衰ダンパー40>>>
高減衰ダンパー40は、主に建物1内部の加振力や風荷重等による建物1自体の微振動時に機能するダンパーである。よって、当該微振動を効果的に減衰すべく、その減衰定数は、50%以上100%未満という高い数値範囲の任意値に設定され、ここでは80%に設定されている。
但し、このように減衰定数を大きくすると、前述したように、その大きな減衰力を通じて地盤の振動が建物1に伝わり易くなり、結果、地震時において、支承部20による建物1の免振作用を大きく損ねてしまう。
そのため、この高減衰ダンパー40にあっては、微振動時には減衰力を発生するが、当該微振動よりも振幅の大きい振動となる地震時には、減衰力を概ね発生しないようにしている。すなわち、建物1と基礎3との相対移動の往路及び復路のそれぞれにおいて相対移動量が、微振動時の想定振幅量から定まる所定の規定値δを超えるまでは減衰力を発生するが、規定値δを超えたら減衰力を発生しないようにしている。
具体的には、微振動時の想定振幅量は、通常、数十ミクロン〜数百ミクロンであって最大でも0.5センチメートルである。また、ここで相対移動量とは、相対移動の往路又は復路における片道の移動距離のことを言い、つまり、振動の振幅量で言えば、その2倍の値に相当する。よって、ここでは、上記の規定値δを、微振動時の想定振幅量の最大値に基づいて1センチメートル(=0.5センチメートル×2倍)に設定している。
そして、このように設定すれば、一般に地震時の想定振幅量に基づく相対移動量は数センチメートル〜数十センチメートルであるので、当該地震時には、その相対移動の往路及び復路のそれぞれにおいて最初の1センチメートルだけは高減衰ダンパーは減衰力を発生するが、1センチメートルを超えると減衰力を消失し、もって、地震時には、その相対移動の往路及び復路の大半において高減衰ダンパー40は減衰力を発生しなくなる。その結果、地震時には、高減衰ダンパー40をほぼ機能させずに、専ら低減衰ダンパー30の小さい20%の減衰定数で建物1の振動を減衰し、それにより、建物1の免振を損なうことなく地震時の振動を抑制可能にしている。
他方、微振動時には、その相対移動の往路及び復路は、前記規定値δたる1センチメートルの範囲内に収まるので、微振動に係る相対移動の往路及び復路の全域において高減衰ダンパー40は大きな減衰力を発生し、これにより、80%という大きな減衰定数で建物1の微振動を有効に抑制される。ちなみに、当該微振動時には、高減衰ダンパー40だけでなく積層ゴム22及び低減衰ダンパー30も機能するが、これらの減衰定数は高減衰ダンパー40と比べて格段に小さく、その減衰力の影響は無視できるので、何等問題は生じない
図3は、上記の相対移動量に応じて減衰力を消失させる機能を備えた高減衰ダンパー40の具体的構成の説明図であり、縦断面視で示している。
図3に示すように、ここでは、高減衰ダンパー40として所謂粘性体ダンパーが使用されている。
粘性体ダンパー40は、基礎3上面の取り付け面3aに取り付けられた容器42と、容器42内に充填された粘性材43と、粘性材43に接触しつつ、建物1下面の取り付け面1aに取り付けられた抵抗板44と、を有している。また、粘性材43としては動粘度が数千〜数百万センチストークスの高粘度オイルやシリコン等を用いている。よって、容器42に対して抵抗板44が水平方向に相対移動すると、粘性材43に剪断抵抗力が生じ、これが減衰力となって建物1と基礎3との相対振動を減衰する。
ここで、容器42の内法は、容器42内に収容される前記抵抗板44よりも、前記規定値δ分だけ水平方向に大きい寸法に設定されており、これにより、容器42内において抵抗板44は水平方向に前記規定値δ分だけ相対移動可能であるが、これ以上の相対移動は不可能に規制される。また、抵抗板44の方は、建物1の取り付け面1aにボルト止め等にて移動不能に完全に固定されているが、容器42の方は、基礎3の取り付け面3aに完全には固定されてはおらず、つまり、容器42の下面と基礎3の取り付け面3aとの間の最大静止摩擦力によって固定されているのみである。そのため、この最大静止摩擦力を超える大きさの水平力が容器42に作用した際には、容器42は、基礎3の取り付け面3aとの固定が解除されて、取り付け面3a上を水平方向に滑って基礎3に対して相対移動する。
よって、図4A乃至図4Cに示すように、建物1と基礎3との相対移動の往路において相対移動量が前記規定値δに達するまでは、抵抗板44と容器42とは相対移動して、その相対移動の速さに基づいて前記粘性材は減衰力Fを発生するが、図4Cに示すように前記相対移動量が規定値δに達して前記抵抗板44が前記容器42の側壁42bに衝突すると、容器42と取り付け面3aとの固定が解除されて、図4D及び図4Eに示すように容器42は抵抗板44に押されて一体となって取り付け面3aを滑り、その結果、往路における残りの経路(図4C乃至図4Eを参照)では減衰力が消失される。
同様に、相対移動の復路においては、図4E乃至図4Gに示すように相対移動量が前記規定値δに達するまでは、抵抗板44と容器42とは相対移動して、その相対移動の速さに基づいて前記粘性材は減衰力Fを発生するが、図4Gに示すように前記相対移動量が規定値δに達して前記抵抗板44が前記容器42の側壁42bに衝突すると、容器42と取り付け面3aとの固定が解除されて、図4H及び図4Iに示すように容器42は抵抗板44に押されて一体となって取り付け面3aを滑り、その結果、復路における残りの経路(図4G乃至図4Iを参照)では減衰力が消失される。
なお、上記の最大静止摩擦力の大きさの調整は、前記取り付け面3a及びこれと接触する容器42の下面の粗度調整や、これら接触面へのコーティング処理等により行われ、これにより、最大静止摩擦力は、微振動時における粘性材の想定剪断抵抗力の最大値よりも大きい値に設定される。このようにすれば、微振動時において容器42は基礎3にしっかりと固定され、確実に減衰力を発生するようになる。
また、この高減衰ダンパー40の減衰定数の設定は、例えば、粘性材43の動粘度、抵抗板44の平面サイズ、容器42の立体サイズ、抵抗板44と容器42の底面との上下方向の距離等の仕様を適宜調整することで行われる。
ちなみに、この粘性体ダンパー40が発生する減衰力は、前記抵抗板44が前記容器42に対して相対移動する際に生じる前記粘性材43の剪断抵抗力であるので、前記減衰力の大きさは純粋に相対移動の速さに比例する。よって、微振動に係る相対移動の開始時や前記相対移動の折り返し時に、大きな減衰力が作用して建物1を相対移動不能なロック状態に拘束してしまうことを有効に防ぎ得て、その結果、大きな減衰定数の設定下においても建物1の免振状態を確実に維持可能となる。
===第2実施形態及び第3実施形態===
第1実施形態の免振装置10では、水平方向に遊びを設けずに低減衰ダンパー30を建物1及び基礎3に連結していた。しかし、低減衰ダンパー30の種類によっては、相対移動の開始時や相対移動方向の折り返し時に、大きな減衰力が働いて建物1を相対移動不能なロック状態に拘束してしまうことがあり、その場合には、微振動下において建物1を免振状態に維持し難くなる。
そこで、この第2実施形態においては、低減衰ダンパー30aは、水平方向に遊びをもって建物1及び基礎3に連結されている(図5を参照)。なお、これ以外の点は第1実施形態と同じである。
遊びの大きさは、微振動時の想定振幅量の最大値(特許請求の範囲の「所定値」に相当し、以下では所定値とも言う)に基づいて設定され、ここでは、当該最大値たる所定値λの2倍の大きさに設定されている。よって、振幅量が前記所定値λ以下の微振動においては、上記の遊びの作用により低減衰ダンパー30aには建物1と基礎3との相対移動が入力されずに減衰力は発生せず、その結果、微振動下における低減衰ダンパー30aによる免振の阻害は確実に防がれる。
図5は、この遊びを有した連結構造の一例の説明図であって、低減衰ダンパー30aを縦断面視で示している。
低減衰ダンパー30aの一対のクレビス35,35は、それぞれに、建物1のブラケット1b及び基礎3のブラケット3bに連結ピン37を介して連結されている。詳しくは、クレビス35の孔35hにブラケット1b,3bの孔hを一致させた状態で、これらの孔35h,hに連結ピン37を串刺し状に差し込んで連結されている。
但し、ブラケット1b,3bの孔hに対しては、所謂しまり嵌めの如く連結ピン37が隙間無く嵌入されているが、他方、クレビス35の孔35hにあっては、連結ピン37との間に前記所定値λの大きさの隙間が水平方向に形成された長孔状になっており、これによって、連結ピン37とクレビス35とは、前記所定値λだけ水平方向に相対移動が許容されている。そして、当該隙間は、一対のクレビス35,35の各々に対して設けられており、その結果、低減衰ダンパー30aは、上述のような全体として水平方向に前記所定値λの2倍の大きさの遊びをもって建物1及び基礎3に連結されている。
なお、望ましくは、クレビス35の孔35hの内周面を、その全周に亘ってゴム等の弾性体や粘弾性体からなるシート部材で覆うと良く、そうすれば、連結ピン37と孔35hとの衝突音の発生を防ぐことができる。
また、上記の隙間は、一対のクレビス35,35の両者に設けずに、何れか一方のクレビス35にのみ設けるようにしても良く、その場合の隙間の大きさは、前記所定値λの2倍の大きさに設定されるのは言うまでもない。更には、上記の隙間をクレビス35の孔35hの方に形成せずに、ブラケット1b,3bの孔hに形成しても良い。
図6A及び図6Bは、第3実施形態の説明図である。この第3実施形態では、低減衰ダンパー30bに、所謂摩擦ダンパーを用いている。但し、上述の第2実施形態と同じ考え方に基づき、微振動下において建物1の免振を低減衰ダンパー30bが阻害しないようにするための工夫がなされている。すなわち、建物1と基礎3との相対振動の振幅量が前記所定値λ以下の場合には、摩擦ダンパー30bが減衰力を発生しないように構成されている。
図6Aに示すように、この摩擦ダンパー30bは、建物1に固定されるテフロン等の摩擦板38と、摩擦板38に対向して基礎3に固定されるステンレス等の滑動板39とを有している。そして、建物1と基礎3との相対移動が無い状態、つまり、支承部20の積層ゴム22が水平方向に剪断変形していない相対変位量が零の状態においては(図6A)、これら摩擦板38と滑動板39との間には、所定の大きさの隙間Sが形成されている。
但し、ここで、図6Bのように建物1と基礎3とが水平方向に相対移動すると、その相対変位量の増加につれて、前記積層ゴム22はその剪断変形により全高が低くなり、これにて建物1は全体的に下方へ沈み込む(図6B中の実線及び2点鎖線を参照)。よって、当該隙間Sは、相対変位量の増加に伴って徐々に小さくなっていき、所定の相対変位量に達して以降は零となる。つまり、それ以上の相対変位量においては、図6Cのように摩擦板38と滑動板39とが摺動しながら相対移動するようになってこれら摩擦板38,滑動板39同士の間で摩擦力が発生し、この摩擦力が減衰力Fとして機能する。
よって、図6Bのように前記所定値λだけ相対変位した際に前記隙間Sが零になるように、図6Aに示す前記相対変位量が零の状態の隙間Sの大きさを設定すれば、建物1と基礎3との相対振動の振幅量が前記所定値λ以下の場合に、摩擦ダンパー30bが減衰力Fを発生しないようにすることができる。なお、建物1の下面から突出して一体に形成されるブロック31の下面と摩擦板38との間にゴム板等の弾性体を介装すれば、摩擦板38と滑動板39との摺動の偏りがなくなり、結果、摩擦力をより適正に発生させることができる。
===その他の実施の形態===
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、かかる実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で以下に示すような変形が可能である。
上述の実施形態では、免振装置10の支承部20として積層ゴムを例示したが、何等これに限るものではなく、上下一対の滑り板からなる滑り支承や、上下一対の滑り板の間に鋼球を挟んでなる転がり支承を適用しても良い。但し、滑り支承や転がり支承の場合には、その仕様によっては、微振動時に建物1と基礎3とを相対移動不能なロック状態に拘束してしまうことがある。よって、望ましくは、支承部20として積層ゴムを、それも天然ゴム系の積層ゴムを用いると良い。
上述の実施形態では、免振装置10を建物1と基礎3との間の上下方向隙間Gに介装したが、なんらこれに限るものではない。例えば、建物1が多層階からなる場合には、上部構造体としての上層階の床スラブと、下部構造体としての下層階の天井スラブとの間の上下方向隙間に免振装置10を介装しても良い。
上述の実施形態では、高減衰ダンパー40として粘性体ダンパーを例示したが、何等これに限るものではなく、オイルダンパーや摩擦ダンパー、鋼材ダンパー等を用いても良い。但し、これらダンパーの場合には、その仕様によっては、微振動に係る相対移動の開始時や前記相対移動の折り返し時に、大きな減衰力が作用して建物1を相対移動不能なロック状態に拘束してしまい、微振動時において建物の免振状態を確保できない虞があるので、好ましくは、粘性体ダンパーを用いると良い。
上述の実施形態では、低減衰ダンパー30としてオイルダンパーや摩擦ダンパーを例示したが、何等これに限るものではなく、粘性体ダンパーや鋼材ダンパーを適用しても良い。
上述の実施形態では、高減衰ダンパー40の抵抗板42の方を建物1に完全に固定する一方、容器44の方を最大静止摩擦力により基礎3に固定していたが、当該固定態様を逆にしても良い。すなわち、抵抗板42の方を建物1の取り付け面1aに最大静止摩擦力にて固定する一方、容器44の方は基礎3の取り付け面3aにボルト止め等にて完全に固定しても良い。また、抵抗板42と容器44との取り付け対象を逆にしても良い。すなわち、容器44を建物1側に取り付けるとともに、抵抗板42を基礎3側に取り付けても良い。
上述の実施形態では、高減衰ダンパー40が滑り始める規定値δの一例として1センチメートルを例示したが、零を除外すれば何等これに限るものではなく、例えば、前記規定値δを、零を含まず1センチメートル以下の任意値に設定しても良い。
上述の実施形態では、相対移動量の規定値δと振動振幅の所定値λの大小関係を規定しなかったが、δ=2λとするのが好ましく、この場合、微振動時の高減衰ダンパー40の作用から、地震時の低減衰ダンパー30の作用への移行がよりスムーズに行われる。なお、δ>2λの場合は、低減衰ダンパーの種類によって相対移動の開始時や相対移動方向の折り返し字に大きな減衰が働いて建物1を相対移動不能なロック状態に拘束してしまう場合には微振動として高減衰ダンパーが働く振幅量は2λまでの範囲となり、δ<2λの場合は、相対移動量がδを超えて2λまでの範囲では低減衰ダンパーが作用しない範囲となる。
上述の第3実施形態では、摩擦ダンパー30bは、建物1に固定される摩擦板38と、摩擦板38に対向して基礎3に固定される滑動板39とを有しているとして例示したが、これに限らず、建物1に固定される滑動板39と、滑動板39に対向して基礎3に固定される摩擦板38とを有しているものとしてもよい。この場合、ブロック31は基礎3の上面から突出して一体に形成され、このブロック31の上面に摩擦板38が設置される。
建物上部に付与される水平方向の加振力の振動数と、前記加振力に対する建物上部の水平方向の加速度応答との関係を示す図である。 建物1に適用された第1実施形態の免振装置10の概念図である。 相対移動量に応じて減衰力を消失させる機能を備えた高減衰ダンパー40の具体的構成の説明図である。 図4A乃至図4Iは、高減衰ダンパー40が、相対移動量に応じて減衰力を消失させる様子を示す図である。 第2実施形態に係る低減衰ダンパー30aを建物1及び基礎3に連結する連結構造の一例の説明図である。 図6A乃至図6Cは、第3実施形態に係る低減衰ダンパー30bの説明図である。
符号の説明
1 建物、1a 取り付け面、1b ブラケット、
3 基礎、3a 取り付け面、3b ブラケット、
10 免振装置、20 支承部、 22 積層ゴム、24 フランジ部、
30 オイルダンパー(低減衰ダンパー)、
30a オイルダンパー(低減衰ダンパー)、
30b 摩擦ダンパー(低減衰ダンパー)、
31 ブロック、32 シリンダー、
32a シリンダー室、32b シリンダー室、
34 ピストン、34a オリフィス、
35 クレビス、35h 孔、36 クレビス、37 連結ピン、
38 摩擦板、39 滑動板、40 粘性体ダンパー(高減衰ダンパー)、
42 容器、42b 側壁、43 粘性材、44 抵抗板、
F 減衰力、G 上下方向隙間、S 隙間、h 孔

Claims (8)

  1. 上部構造体とその下方の下部構造体との間の上下方向隙間に介装される免振装置であって、
    前記上部構造体と前記下部構造体との水平方向の往復の相対移動を許容しつつ前記上部構造体の重量を支持する支承部と、
    前記上部構造体と前記下部構造体との水平方向の相対振動を所定の減衰定数で減衰する低減衰ダンパーと、
    前記低減衰ダンパーと並列に前記上下方向隙間に介装されて、前記相対振動を前記所定の減衰定数よりも大きな減衰定数で減衰する高減衰ダンパーと、を備え、
    前記相対移動の往路及び復路のそれぞれにおいて相対移動量が規定値を超えると、前記高減衰ダンパーは減衰力を発生しなくなることを特徴とする免振装置。
  2. 請求項1に記載の免振装置であって、
    前記上部構造体及び前記下部構造体の両者に固定された状態において、前記高減衰ダンパーは、前記相対移動に応じた減衰力を発生し、
    前記相対移動量が前記規定値を超えると、前記高減衰ダンパーの前記上部構造体との固定又は前記下部構造体との固定のうちの少なくとも一方の固定が解除されることを特徴とする免振装置。
  3. 請求項2に記載の免振装置であって、
    前記高減衰ダンパーは、前記上部構造体及び前記下部構造体のうちの一方の構造体の取り付け面に取り付けられた容器と、該容器に収容された粘性材と、該粘性材に接触しつつ、もう一方の構造体の取り付け面に取り付けられた抵抗板と、を有し、
    前記減衰力は、前記抵抗板が前記容器に対して移動する際に生じる前記粘性材の剪断抵抗力であり、
    前記相対移動の前記相対移動量が前記規定値に達して前記抵抗板が前記容器の側壁に当たると、前記抵抗板又は前記容器のうちの少なくとも一方が、前記取り付け面に対して滑り動作をすることを特徴とする免振装置。
  4. 請求項1乃至3のいずれかに記載の免振装置であって、
    前記相対振動の振幅量が所定値以下の場合には、前記低減衰ダンパーは減衰力を発生しないことを特徴とする免振装置。
  5. 請求項4に記載の免振装置であって、
    前記低減衰ダンパーは、水平方向に前記所定値の2倍の大きさの遊びをもって前記上部構造体及び前記下部構造体に連結されていることを特徴とする免振装置。
  6. 請求項1乃至5のいずれかに記載の免振装置であって、
    前記低減衰ダンパーの減衰定数は、10〜20%の範囲の任意値であり、
    前記高減衰ダンパーの減衰定数は、50%以上100%未満の任意値であることを特徴とする免振装置。
  7. 請求項1乃至6のいずれかに記載の免振装置であって、
    前記規定値は、零を含まず1センチメートル以下の任意値であることを特徴とする免振装置。
  8. 請求項1乃至7のいずれかに記載の免振装置であって、
    前記支承部は、金属板とゴム板とを上下に交互に重ね合わせてなる積層ゴムであり、
    前記ゴム板は、天然ゴムを素材とし、
    前記積層ゴムの上端部は前記上部構造体に固定されるとともに、前記積層ゴムの下端部は前記下部構造体に固定されており、前記積層ゴムは、前記相対移動に応じて水平方向に剪断弾性変形することを特徴とする免振装置。
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