JP2009110950A - 膜−電極接合体の製造方法、膜−電極接合体および燃料電池 - Google Patents
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Abstract
【課題】膜と触媒層が良好に接合され、燃料電池とした場合に出力低下の原因となる膜と触媒層の界面の抵抗を低減することができる膜−電極接合体の製造方法、この製造方法にて得られる膜−電極接合体、およびそれを用いた燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明に係る膜−電極接合体の製造方法は、カチオン交換基を含有する炭化水素系高分子電解質膜の両面に少なくとも触媒層を接合することにより燃料電池用の膜−電極接合体を得る膜−電極接合体の製造方法であって、前記触媒層を接合する工程の前に、前記炭化水素系高分子電解質膜の少なくとも表面における炭化水素系高分子電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンとするイオン置換工程を有することを特徴とする。
【選択図】 なし
【解決手段】本発明に係る膜−電極接合体の製造方法は、カチオン交換基を含有する炭化水素系高分子電解質膜の両面に少なくとも触媒層を接合することにより燃料電池用の膜−電極接合体を得る膜−電極接合体の製造方法であって、前記触媒層を接合する工程の前に、前記炭化水素系高分子電解質膜の少なくとも表面における炭化水素系高分子電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンとするイオン置換工程を有することを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
本発明は、膜−電極接合体の製造方法、並びに、これにより製造される膜−電極接合体及び固体高分子型燃料電池に関する。
固体高分子型燃料電池は、近年、住宅用や自動車用等の用途における発電機としての実用化が期待されている。該固体高分子型燃料電池に用いられるイオン伝導膜(高分子電解質膜)に用いられる高分子電解質は、従来、主として用いられてきた「ナフィオン」(デュポン社の登録商標)に代表されるフッ素系高分子電解質に代わり、廉価で、かつ機械強度や耐熱性に優れる炭化水素系高分子電解質が注目されている。
周知のように、燃料電池は、セルという基本的な最小単位から構成されている。各単位セルは、電解質膜、該電解質膜の両側に設けられた触媒層、これら触媒層の外側に設けられるガス拡散層によって構成されている。各単位セルは、前記ガス拡散層の外側に設けられるセパレータによって隔離されて積層され、一つの燃料電池を構成する。
前記電解質膜の両側に設けられる触媒層または触媒層とガス拡散層は、単位セルの電極部分を構成している。したがって、単位セルにおいて、電極と呼称した場合、触媒層のみを意味する場合もあれば、触媒層とガス拡散層からなる一体化物を意味する場合もある。かかる単位セルにおいて、一方の電極部分(アノード)に燃料(水素分子、メタノール水溶液など)が供給され、燃料が、前記アノード内の細かい孔(拡散層)を通って触媒層に達すると、この触媒層中で酸化反応が生じて、水素イオンと電子が放出される。水素イオンは、電解質膜中に入り、電解質膜中を他方の電極部分(カソード)の方向に移動する。電子は、アノードを経て外部回路に達し、外部回路を通ってカソード側の触媒層に到達する。
カソードでは、外部回路を経て到達した電子と、アノードから電解質膜中を移動してきた水素イオンと、そして外部から導入された酸素分子(空気)がカソード側の触媒層中で反応して水となり、系外に排出される。
また、上述のように燃料電池の単位セルにおける電極とは、触媒層のみを示す場合もあれば、触媒層とガス拡散層との接合体を示す場合もある。そして、かかる電極により電解質膜が挟まれてなる組立体を、膜−電極接合体(MEA=Membrane Electrode Assembly)と呼称している。したがって、膜−電極接合体は、電解質膜が触媒層あるいは触媒層とガス拡散層により挟まれてなる組立体を意味する。すなわち、膜−電極接合体は、電解質の両面に少なくとも触媒層が形成されてなる組立体である。
かかる膜−電極接合体の製造方法としては、高分子電解質膜上に直接触媒層を形成する方法と、予め電解質膜以外の他の基材上に触媒層を形成させた後に、該触媒層と電解質膜を接合させる方法の2つがある。後者の方法としては、カーボンペーパー等のガス拡散層となる基材上に触媒層を形成した後に、これを高分子電解質膜と接合する方法や、平板支持基材上に触媒層を形成して、これを高分子電解質膜に転写した後、前記支持基材を剥離する方法等がある。
前述の後者の製造方法は、前者の方法よりは、簡便であり生産性にも優れている。しかし、炭化水素系電解質膜を用いた場合、炭化水素系電解質膜の弾性率が高いために、この製造方法では、膜と触媒層を良好に接合することが困難であり、接合不良であれば、接合界面に大きな抵抗が生じ、燃料電池の特性が膜物性から予想される特性よりも低くなる問題があった。
上述の接合性を良好に行なう方法として、弾性率の低い高分子電解質を表面に積層させる方法(特許文献1)や高分子電解質膜に溶媒を含有させた状態で、触媒層を圧着させる方法が開示されている(特許文献2)。
ところが、上記特許文献1の方法では、高分子電解質膜として、少なくとも、弾性率の低い表面層とそれ以外の層とからなる複数層とする必要があり、各層の膜厚が薄くなるため、膜厚の制御が難しくなり、製膜工程が複雑になり、製造工数が増えるという欠点がある。また、上記特許文献2の方法では、膜厚や膜内部のモルフォロジー変化により膜物性の変化を引き起こしたり、添加溶媒による触媒の被毒が懸念されるなどの問題があり、更なる改善が求められている。
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、その課題は、膜と触媒層が良好に接合され、それ故、燃料電池とした場合に出力低下の原因となる膜と触媒層の界面の抵抗を低減することができる膜−電極接合体の製造方法を提供することにある。また、当該製造方法にて得られる膜−電極接合体、およびそれを用いた固体高分子型燃料電池を提供することも、本発明の課題である。
前記課題を解決するために、本発明に係る膜−電極接合体の製造方法は、カチオン交換基を含有する炭化水素系高分子電解質膜の両面に少なくとも触媒層を接合することにより燃料電池用の膜−電極接合体を得る膜−電極接合体の製造方法であって、前記触媒層を接合する工程の前に、前記炭化水素系高分子電解質膜の少なくとも表面における炭化水素系高分子電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンとするイオン置換工程を有することを特徴とする。
なお、前記イオン置換処理する電解質膜の表面としては、電解質膜の一方の片面側の表面でも良いし、他方の片面側の表面でも良いし、両面の表面でも良いが、両面の表面であることが好ましい。
なお、前記イオン置換処理する電解質膜の表面としては、電解質膜の一方の片面側の表面でも良いし、他方の片面側の表面でも良いし、両面の表面でも良いが、両面の表面であることが好ましい。
上述のように、本発明に用いる電解質膜は、炭化水素系高分子電解質から得られる炭化水素系高分子電解質膜であるが、本明細書の記載においては、冗長とならないように、必要に応じて、高分子電解質膜、さらには電解質膜と略記する場合がある。また、同様に本発明の電解質膜を形成するために使用する炭化水素系高分子電解質についても、高分子電解質と略記する場合がある。
前記構成の膜−電極接合体の製造方法において、前記アンモニウムイオンが炭素数3以上のアルキル基を含むことが、好ましい。
また、前記構成の膜−電極接合体の製造方法において、前記アンモニウムイオンが4級アンモニウムイオンを含むことが、好ましい。
前記イオン置換工程としては、アンモニウムイオンを含む溶液に前記炭化水素系高分子電解質膜の表面を接触させることにより行われること工程であることが、好ましい。
前記アンモニウムイオンを含む溶液に前記炭化水素系高分子電解質膜の表面を接触させる工程としては、前記アンモニウムイオンを含む溶液に前記炭化水素系膜の表面を浸漬することにより行われる工程であることが、好ましい。
前記イオン置換工程としては、前記炭化水素系高分子電解質における全てのカチオン交換基数に対して、その1〜90%のカチオン交換基の対イオンを、アンモニウムイオンとする工程であることが、好ましい。
前記炭化水素系高分子電解質膜の厚みとしては、5〜200μmとすることが、好ましい。
前記触媒層を接合する工程に続いて、前記対イオンをアンモニウムイオンとしたカチオン交換基の少なくとも一部を水素イオンとする第2のイオン置換工程を有することが、好ましい。
前記触媒層を接合する工程としては、熱プレスにより行う工程であることが、好ましい。
前記構成の膜−電極接合体の製造方法において、対イオンをアンモニウムイオンとする前の炭化水素系高分子電解質膜における炭化水素系高分子電解質の全てのカチオン交換基数に対して90%以上のカチオン交換基がプロトン型であることが、好ましい。
前記構成の膜−電極接合体の製造方法において、炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質の実質的に全てのカチオン交換基がプロトン型であるとした場合の120℃における前記炭化水素系高分子電解質膜の弾性率が、750〜2000MPaであることが、好ましい。
前記炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質としては、下記一般式(1):
上記式(1)中のAr1は、2価の芳香族基を示しており、該2価の芳香族基は、より正確に換言すれば、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、及び置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基からなる群から選ばれる少なくとも一種を有していてもよい。また、本願明細書において、上記オキシ基とは、−O−で示される基を意味し、チオキソ基とは、−S−で示される基を意味する。
また、前記炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質としては、カチオン交換基を有するブロックと、実質的にイオン交換基を有さないブロックとからなるブロック共重合体が、好適に用いられる。
前記カチオン交換基を有するブロックとしては、下記一般式(2):
上記式(2)中のAr11は、2価の芳香族基を示しており、該2価の芳香族基は、より正確に換言すれば、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基、置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基、及び置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基からなる群から選ばれる少なくとも一種を有していてもよい。また、本願明細書において、上記オキシ基とは、−O−で示される基を意味し、チオキソ基とは、−S−で示される基を意味する。
前記カチオン交換基を有するブロックとしては、下記一般式(3):
本発明に係る膜−電極接合体は、前記製造方法によって得られたものであることを特徴とする。
また、本発明に係る燃料電池は、前記膜−電極接合体を有することを特徴とする。
本発明によれば、炭化水素系高分子電解質膜の高弾性率という特徴を失うことなく、該炭化水素系高分子電解質膜と触媒層が良好に接合された膜−電極接合体の簡便な製造方法を提供できる。そして、本発明の製造方法により得られる膜−電極接合体は、高分子電解質膜と触媒層の界面における密着度の低さに基づく抵抗が生じにくく、優れた燃料電池を提供できるため、工業的に極めて有用である。
前述のように、本発明の膜−電極接合体の製造方法は、カチオン交換基を含有する炭化水素系高分子電解質膜の両面に少なくとも触媒層を接合することにより燃料電池用の膜−電極接合体を得る膜−電極接合体の製造方法であって、前記触媒層を接合する工程の前に、前記炭化水素系高分子膜の少なくとも表面における炭化水素系高分子電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンとするイオン置換工程を有することを特徴とする。そして、前記触媒層を接合する工程に続いて、前記対イオンをアンモニウムイオンとしたカチオン交換基の少なくとも一部を水素イオンにする第2のイオン置換工程を有することを特徴とする。
したがって、以下に、本発明で用いる高分子電解質、及びこの高分子電解質を用いた電解質膜の製造方法、上記対イオンをアンモニウムイオンとするイオン置換工程、このイオン置換工程によって処理された電解質膜を用いた膜−電極接合体の製造方法、膜−電極接合体に組み込まれた後の高分子電解質膜に対してなされる第2のイオン置換工程、そして、前記第2のイオン置換工程の結果得られた膜−電極接合体を用いた燃料電池について、順次、説明する。
(炭化水素系電解質および炭化水素系電解質膜)
本発明に適用する電解質膜製造用の炭化水素系高分子電解質とは、高分子を構成する原子の数の50%以上が炭素または水素である高分子であり、かつイオン伝導に係るカチオン交換基を有する高分子のことを示す。カチオン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、スルホニルアミド基(−SO2NHSO2−)、フェノール性水酸基等が挙げられるが、中でもイオン伝導性に優れたスルホン酸基又はホスホン酸基がより好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。
本発明に適用する電解質膜製造用の炭化水素系高分子電解質とは、高分子を構成する原子の数の50%以上が炭素または水素である高分子であり、かつイオン伝導に係るカチオン交換基を有する高分子のことを示す。カチオン交換基としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、スルホニルアミド基(−SO2NHSO2−)、フェノール性水酸基等が挙げられるが、中でもイオン伝導性に優れたスルホン酸基又はホスホン酸基がより好ましく、スルホン酸基が特に好ましい。
上記炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質としては、下記一般式(1)で表される構造単位を有するものが好ましい。
上記置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、イソブチル基、n−ペンチル基、2,2−ジメチルプロピル基、シクロペンチル基、n−ヘキシル基、シクロヘキシル基、2−メチルペンチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、アダマンチル基、イコシル基等の炭素数1〜20のアルキル基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換し、その総炭素数が1〜20のアルキル基等が挙げられる。
また、上記置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、tert−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、n−ペンチルオキシ基、2,2−ジメチルプロピルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、2−メチルペンチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、デシルオキシ基、アダマンチルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、イコシルオキシ基等の炭素数1〜20のアルコキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換し、その総炭素数が1〜20のアルコキシ基等が挙げられる。
上記置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ビフェニル基等のアリール基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換し、その総炭素数が6〜20のアリール基等が挙げられる。
上記置換基を有していてもよい炭素数6〜20のアリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、アントラセニルオキシ基、ビフェニルオキシ基等のアリールオキシ基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換し、その総炭素数が6〜20のアリールオキシ基等が挙げられる。
上記置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、2−ナフトイル基等の炭素数2〜20のアシル基、及びこれらの基にフッ素原子、ヒドロキシル基、ニトリル基、アミノ基、メトキシ基、エトキシ基、イソプロピルオキシ基、フェニル基、ナフチル基、フェノキシ基、ナフチルオキシ基等が置換し、その総炭素数が20以下であるアシル基が挙げられる。
また、上記炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質としては、高い発電性能と耐久性を両立させるという観点から、カチオン交換基を有するブロックと、実質的にイオン交換基を有さないブロックとからなるブロック共重合体であることが好ましい。
本発明において、「ブロック型高分子電解質」とは、化学的に性質の異なる2種類以上のブロックが、直接結合あるいは連結基を介して結合した共重合体からなる電解質のことをいう。本発明に用いるブロック型高分子電解質を構成する共重合体は、化学的に性質の異なる2種類以上のブロックとして、カチオン交換基を有するブロックと、実質的にイオン交換基を有さないブロックとを有するブロック共重合体であることが好ましい。
また、本発明の高分子電解質で用いるブロック共重合体は、膜化した際にミクロ相分離構造を形成するものが好ましく、このようなミクロ相分離構造を形成するブロック共重合体からなる高分子電解質は、特性に優れた燃料電池を与える。ここでいう「ミクロ相分離構造」とは、高分子電解質を膜化した際に、異種のポリマーセグメント同士が化学結合で結合されていることにより、分子鎖サイズのオーダーでの微視的相分離が生じてできる構造を指す。例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)で見た場合に、カチオン交換基を有するブロックの密度が高い微細な相(ミクロドメイン)と、イオン交換基を実質的に有さないブロックの密度が高い微細な相(ミクロドメイン)とが混在し、各ミクロドメイン構造のドメイン幅、すなわち恒等周期が数nm〜数100nmであるような構造を指す。好ましくは5nm〜100nmのミクロドメイン構造を有するものが挙げられる。
このようなブロック共重合体の具体的な例としては、特開2001−250567号公報に記載のスルホン化された芳香族ポリマーブロックを有するブロック共重合体、特開2003−31232号公報、特開2004−359925号公報、特開2005−232439号公報、特開2003−113136号公報等の特許文献に記載の「ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホンを主鎖構造とし、スルホン酸基を有するブロックを有するブロック共重合体」を挙げることができる。
上記ブロック共重合体のカチオン交換基を有するブロックとしては、下記一般式(2)で表される構造を含むブロックであることが好ましく、構造単位1つ当たりのカチオン交換基数で表して、平均して0.5個以上有するものであり、好ましくは平均して1.0個以上有することが好ましい。
ここで、上記一般式(2)の芳香族基Ar11の置換基であるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基およびアシル基の具体的な例示は、上記一般式(1)におけるそれらと同等である。
ここで、dは当該ブロックの重合度を表す数であり、5以上の整数である。このdは、5〜1000の範囲がより好ましく、さらに好ましくは10〜1000であり、特に好ましくは20〜500である。dの値が5以上であると、燃料電池用の高分子電解質として、プロトン伝導度が十分であるので好ましい。一方、dの値が1000以下であれば、該ブロックの製造がより容易であるので好ましい。
上記一般式(2)で表されるブロックの好適な例としては、下記一般式(3a)または(3b)で表されるブロックであることが好ましい。
上記のようなイオン交換基を有するブロックを有すると、本発明の高分子電解質膜が高水準のプロトン伝導度と吸水寸法安定性が確保されることに加え、膜強度をより向上させることができるため、好ましい。
また、R1は上記のとおり、置換基を表すが、とりわけ好ましくは水素原子であり、実質的にフェニレン基、ナフタレンジイル基が、カチオン交換基以外の置換基を有さないものが好ましい。
上記一般式(3a)で表されるブロックの具体例としては、カチオン交換基をスルホン酸基で代表させて示すと、下記の式(3a−1)〜(3a−30)で示される構造単位の群から選ばれる一つの構造単位がd個連結してなるブロックを挙げることができる。ここで、dは、上記一般式(2)におけるdと同義の数、すなわち5以上の整数である。
また、上記一般式(3b)で表されるブロックの具体例としては、カチオン交換基をスルホン酸基で代表させて示すと、下記の(3b−1)〜(3b−28)で示される構造単位の群から選ばれる構造単位がd個連結してなるブロックを挙げることができる。ここで、dは一般式(2)におけるdと同等の定義の数、すなわち5以上の整数である。
さらに、上記一般式(3a)で表されるブロックを構成する構造単位、上記一般式(3b)で表されるブロックを構成する構造単位を併せ持つブロックでもよく、それらがd個連結してなるブロックであればよい。
また、カチオン交換基としては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、スルホニルイミド基が例示され、これらを併せ持つものでもよい。中でも強酸基であるスルホン酸基をカチオン交換基として含むと、特に好ましい。
上記一般式(3a)で表されるブロックの中でも、下記一般式(4)で表されるブロックであることが好ましい。
次に、上記イオン交換基を実質的に有さないブロックについて説明する。
ここで、「イオン交換基を実質的に有さない」とは、このブロックを主として構成する繰り返し単位のほとんどがイオン交換基を有していないことを意味する。具体的には、このブロックを構成している構造単位1個当たり、イオン交換基が平均して0.1個以下であり、0.05個以下であることが好ましく、構造単位中にイオン交換基が全く含まれていないことが、特に好ましい。
ここで、「イオン交換基を実質的に有さない」とは、このブロックを主として構成する繰り返し単位のほとんどがイオン交換基を有していないことを意味する。具体的には、このブロックを構成している構造単位1個当たり、イオン交換基が平均して0.1個以下であり、0.05個以下であることが好ましく、構造単位中にイオン交換基が全く含まれていないことが、特に好ましい。
このイオン交換基を実質的に有さないブロックの中でも、とりわけ好ましくは、下記一般式(5)で表されるブロックである。
上記式(5)中のAr22は、2価の芳香族基を示しており、該2価の芳香族基は、より正確に換言すれば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、及び炭素数2〜20のアシル基からなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。また、本願明細書において、上記オキシ基とは、−O−で示される基を意味し、チオキソ基とは、−S−で示される基を意味する。
ここで、一般式(5)の芳香族基Ar22の置換基であるアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、およびアシル基の具体的な例示は、上記一般式(1)と同等である。
また、eは5以上の整数であり、5〜1000の範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜1000であり、特に好ましくは20〜500である。eの値が5以上であると、燃料電池用の高分子電解質として、膜強度に優れるものが得られるため好ましい。一方、eの値が1000以下であれば、該ブロックの製造がより容易であるので好ましい。
上記イオン交換基を実質的に有さないブロックとしては、特に、下記一般式(6)で表されるブロックであると、好適である。
上記式(6)中のAr2、Ar3、Ar4、Ar5は互いに独立に2価の芳香族基を表しており、これらの2価の芳香族基は、より正確に換言すれば、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリール基,炭素数6〜20のアリールオキシ基、及び炭素数2〜20のアシル基からなる群から選ばれる少なくとも一種で置換されていてもよい。また、Y、Y’は、互いに独立にオキシ基またはチオキソ基を表しており、本願明細書において、オキシ基とは−O−で示される基を意味し、チオキソ基とは−S−で示される基を意味する。
上記式(6)中のnは該ブロックに係る重合度を表す正の整数である。nは5以上の整数であり、5〜1000の範囲が好ましく、さらに好ましくは10〜1000であり、特に好ましくは20〜500である。nの値が5以上であると、燃料電池用の高分子電解質として、膜強度に優れるものが得られるため好ましい。一方、nの値が1000以下であれば、該ブロックの製造がより容易であるので好ましい。
上記一般式(6)で表されるブロックの好適な代表例としては、下記式(6−1)〜(6−22)で示されるブロックが挙げられる。
具体的に、本発明に適用するに好適なブロック共重合体としては、下記(表1)に示した(7−1)〜(7−18)が例示される。なお、下記(表1)において、「カチオン交換基を有するブロック(3a−1)、(3a−4)、(3a−19)、および(3a−25)」とは、それぞれ、先に式(3a−1)、(3a−4)、(3a−19)、(3a−25)を用いて説明したブロックを意味し、同様に、「実質的にイオン交換基を有さないブロック(6−1)、(6−2)、(6−9)、(6−10)、(6−21)、(6−22)」とは、それぞれ、先に式(6−1)、(6−2)、(6−9)、(6−10)、(6−21)、(6−22)を用いて説明したブロックを意味する。
とりわけ好ましいブロック共重合体としては、下記一般式(8)で示されるものを挙げることができる。
なお、上記ブロック共重合体としては、カチオン基を有するブロックと、実質的にイオン基を有さないブロックの存在比を調整することにより、上記ブロック共重合体のイオン交換容量が、0.5〜4.0meq/gの範囲となることが好ましく、より好ましくは0.8〜3.5meq/gの範囲となることが好ましい。上記イオン交換容量は、滴定法によって求めることができる。
上記炭化水素系高分子電解質は、その構造などにより最適分子量範囲を適宜求めることができるが、一般的にはGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法によるポリスチレン換算の数平均分子量で表して、1000〜1000000が好ましい。この数平均分子量の下限としては5000以上、とりわけ10000以上が好ましく、一方、上限としては500000以下、とりわけ300000以下が好ましい。
上記平均分子量が、1000以上であると、膜強度がより向上する傾向にあり、1000000以下であると、該高分子電解質の溶媒に対する溶解性が良好となり、得られる溶液の溶液粘度が低下することから、溶液キャスト法による製膜が容易になるため、上記の分子量範囲が好ましい。
(高分子電解質膜の膜化方法)
高分子電解質膜の製膜法としては、溶媒キャスト法、スピンコート法など公知の方法を用いることができるが、通常の溶媒キャスト法が、操作が簡便である点で好ましい。ここで、溶液キャスト法とは、高分子電解質を、適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法である。製膜に用いる溶媒は、適用する高分子電解質が溶解可能であり、且つ膜化した後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」という)、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」という)、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。
高分子電解質膜の製膜法としては、溶媒キャスト法、スピンコート法など公知の方法を用いることができるが、通常の溶媒キャスト法が、操作が簡便である点で好ましい。ここで、溶液キャスト法とは、高分子電解質を、適当な溶媒に溶解し、その溶液をガラス板上に流延塗布し、溶媒を除去することにより製膜する方法である。製膜に用いる溶媒は、適用する高分子電解質が溶解可能であり、且つ膜化した後に除去し得るものであるならば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」という)、N,N−ジメチルアセトアミド(以下、「DMAc」という)、N−メチル−2−ピロリドン(以下、「NMP」という)、ジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」という)等の非プロトン性極性溶媒、あるいはジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の塩素系溶媒、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルが好適に用いられる。
これらの溶媒は単独で用いることもできるが、必要に応じて2種以上の溶媒を混合して用いることもできる。中でも、DMF、DMAc、NMP、DMSO等が高分子電解質の溶解性が高く好ましい。
上述のように成膜化して得られた炭化水素系高分子電解質膜は、硫酸や塩酸などで酸処理することにより、全てのカチオン交換基数に対して90%以上のカチオン交換基をプロトン型とすることが好ましく、実質的に全てのカチオン交換基をプロトン型とすることがより好ましい。さらに、残存溶媒を除去するために、水洗工程を経ることが好ましい。
本発明の炭化水素系高分子電解質膜の厚みは、特に制限されないが、好ましくは5〜200μmであり、さらに好ましくは8〜100μm、特に好ましくは10〜80μmである。実用に耐える膜強度を得るには、5μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減つまり発電性能向上のためには、200μmより薄い方が好ましい。
さらに、本発明に用いられる高分子電解質膜は、上記に例示した高分子電解質に加え、所望の特性に応じて、プロトン伝導性を著しく低下させない範囲で他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、通常の高分子に使用される可塑剤、安定剤、離型剤、保水剤等の添加剤が挙げられる。
特に、燃料電池の動作中に、高分子電解質膜に隣接する触媒層において過酸化物が生成し、この過酸化物が拡散しながらラジカル種に変化し、これが高分子電解質膜を構成している高分子電解質を劣化させることがある。かかる不都合を回避するために、高分子電解質には、ラジカル耐性を付与し得る安定剤を添加することが好ましい。
電解質膜の機械的強度を向上させる目的で、高分子電解質と所定の支持体とを複合化した複合膜を、後述のイオン置換工程を行う際に用いることもできる。支持体としては、フィブリル形状や多孔膜形状等の基材が挙げられる。
炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質の実質的に全てのカチオン交換基がプロトン型であるとした場合の電解質膜の120℃の弾性率が750〜2000MPaであると、ハンドリング性や、実際の燃料電池中での形態安定性及び耐久性に優れているために好ましい。
(イオン置換工程(対イオンをアンモニウムイオンとする工程))
上記電解質膜の対イオンをアンモニウムイオンとする主な処理方法としては、アンモニウムイオンを含む溶液に上記炭化水素系高分子電解質膜を接触させる方法が好ましく、この接触方法としては、
(i)アンモニウムイオンを含む溶液に浸漬させる方法
(ii)電解質膜の表面に、アンモニウムイオンを含む溶液をスプレーする方法
の2つがあげられる。これらの方法は、電解質膜の触媒層との接合表面近傍のカチオン交換基の対イオンを選択的にアンモニウムイオンとすることができるため好ましい。
これらの方法に用いるアンモニウムイオンを含む溶液において、アンモニウムイオンを溶解させる溶媒としては、水もしくはアルコールが用いられるが、好ましくは水が用いられる。
上記電解質膜の対イオンをアンモニウムイオンとする主な処理方法としては、アンモニウムイオンを含む溶液に上記炭化水素系高分子電解質膜を接触させる方法が好ましく、この接触方法としては、
(i)アンモニウムイオンを含む溶液に浸漬させる方法
(ii)電解質膜の表面に、アンモニウムイオンを含む溶液をスプレーする方法
の2つがあげられる。これらの方法は、電解質膜の触媒層との接合表面近傍のカチオン交換基の対イオンを選択的にアンモニウムイオンとすることができるため好ましい。
これらの方法に用いるアンモニウムイオンを含む溶液において、アンモニウムイオンを溶解させる溶媒としては、水もしくはアルコールが用いられるが、好ましくは水が用いられる。
本発明の膜−電極接合体の製造方法において、触媒層を電解質膜に接合する前に、電解質膜の少なくとも表面における炭化水素系高分子電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンとすることにより、電解質膜が柔軟化され、電解質膜と触媒層との接合性が向上すると考えられる。前記イオン置換処理する電解質の表面としては、電解質膜の一方の片面側の表面でも良いし、他方の片面側の表面でも良いし、両面の表面でも良いが、両面の表面であることが好ましい。電解質膜の触媒層を接合させる表面近傍のカチオン交換基を選択的にアンモニウムイオンとすると、表面から選択的に柔軟化し、目的とする電解質膜と触媒層との接合性の向上だけでなく、触媒層接合時の電解質膜の変形を抑えることができると考えられる。さらに、後述の触媒層接合後の第2のイオン置換工程(アンモニウムイオンとしたカチオン交換基の少なくとも一部を水素イオンとする工程)に要する時間が短くなるため、好ましい。
上記(i)の方法は、アンモニウムイオンを含む溶液に浸漬させることで、表面のカチオン交換基の対イオンから選択的にアンモニウムイオンに交換する方法である。浸漬時間としては、膜種や溶液温度によって最適値は異なるものの、2秒〜24時間、好ましくは5秒〜2時間、より好ましくは5秒〜300秒である。該範囲の浸漬時間であると、電解質膜の表面のカチオン交換基の対イオンが充分量アンモニウムイオンに交換され十分な触媒層接合性向上効果を得ることが可能であり、かつアンモニウムイオンへの交換が電解質膜表面近傍に留まりやすいため好ましい。
溶液中のアンモニウムイオン量としては、膜の表面のカチオン交換基の対イオンがアンモニウムイオンへ交換するだけ存在していれば十分である。浸漬時間によっても多少異なるが、膜のカチオン交換基量に対して、0.5〜100当量が好ましい。溶液の温度としては、特に限定はなく室温で十分であるが、加熱することもできる。
上記(ii)の方法は、アンモニウムイオンを含む溶液を、電解質膜表面にスプレーすることで、表面のカチオン交換基の対イオンを選択的にアンモニウムイオンに交換する方法である。アンモニウムイオンの塗布量としては、電解質膜の表面のカチオン交換基の対イオンがアンモニウムイオンに交換するだけの量で十分であり、膜のカチオン交換基量に対して、0.01〜0.5当量、より好ましくは0.05〜0.3当量である。
上記アンモニウムイオンへの置換を電解質膜表面に留めたい場合は、上記(i)、(ii)のいずれの方法でも、イオン交換後に、表面に付着しているアンモニウムイオンを含む溶液を洗い流した方が好ましい。その際に用いる溶媒は膜を溶解させないものであれば、特に限定はされない。
ここで、カチオン交換基の対イオンと交換するアンモニウムイオンを提供しうる化合物を「イオン交換剤」と呼ぶこととする。
アンモニウムイオンとしては、電解質膜と触媒層との接合性を向上させる観点から、炭素数が3以上であるアルキル基を含むことが好ましい。アルキル基を含むアンモニウムイオンとしては、アルキルアンモニウムイオンやアルキルイミダゾリウムイオン、アルキルピリジニウムイオンなどが好ましく、中でもアルキルアンモニウムイオンがより好ましい。また、電解質膜と触媒層との接合性を向上させる観点から、4級アンモニウムイオンが好ましく、中でも4級アルキルアンモニウムイオンが好ましい。
上記4級アルキルアンモニウムイオンとしては、テトラメチルアンモニウムイオン、トリエチルメチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、トリエチルヘキシルアンモニウムイオン、ヘキシルトリメチルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、テトラオクチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、ベンジルトリメチルアンモニウムイオン等が挙げられる。
前記イオン交換剤としては、上記イオンのフッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、水酸化物が挙げられる。また、イオン交換剤の分子量が小さいと、対イオンをアンモニウムイオンとするイオン置換工程に要する時間や、触媒層接合後の第2のイオン置換工程(対イオンをアンモニウムイオンとしたカチオン交換基の少なくとも一部を水素イオンとする工程)に要する時間が短くなるため、イオン交換剤の分子量は1000以下が好ましく、500以下がより好ましい。
上記対イオンをアンモニウムイオンとするイオン置換工程は、高分子電解質膜のイオン交換容量や厚みにも依存するが、前記炭化水素系高分子電解質における全てのカチオン交換基数に対して、その1〜90%のカチオン交換基量の対イオンをアンモニウムイオンとすることが好ましく、3〜80%がより好ましく、5〜50%が特に好ましい。
(膜−電極接合体)
本発明の膜−電極接合体(MEA)は、上述のイオン置換工程により膜面の対イオンをアンモニウムイオンとした電解質膜に少なくとも触媒層を接合することで製造することができる。電解質膜の少なくとも表面における電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンとした後、電解質膜の両面に触媒層を形成させる方法としては、大きく分けて電解質膜上に直接触媒層を形成させる方法と、予め電解質膜以外の他の基材上に触媒層を形成させた後に、該触媒層と電解質膜を接合させる方法の2つがある。後者の方法は、簡便であり、生産性に優れているという点で好ましい。
本発明の膜−電極接合体(MEA)は、上述のイオン置換工程により膜面の対イオンをアンモニウムイオンとした電解質膜に少なくとも触媒層を接合することで製造することができる。電解質膜の少なくとも表面における電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンとした後、電解質膜の両面に触媒層を形成させる方法としては、大きく分けて電解質膜上に直接触媒層を形成させる方法と、予め電解質膜以外の他の基材上に触媒層を形成させた後に、該触媒層と電解質膜を接合させる方法の2つがある。後者の方法は、簡便であり、生産性に優れているという点で好ましい。
本発明に用いられる触媒層には触媒物質が含まれる。該触媒物質としては、水素またはメタノールと酸素との酸化還元反応を活性化できるものであれば、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、白金、白金−ルテニウム合金のような貴金属類や、錯体系電極触媒(例えば、高分子学会燃料電池材料研究会編、「燃料電池と高分子」、103〜112頁、共立出版、2005年11月10日発行に記載されている)が挙げられる。中でも、白金や白金ルテニウム合金の微粒子を用いることが好ましい。通常、燃料極(アノード)側の触媒層(第1の触媒層)の触媒として白金または白金ルテニウム(微粒子)が用いられ、空気極側(カソード)の触媒層(第2の触媒層)の触媒として白金(微粒子)が用いられる。また、該触媒物質を表面に担持させた導電性材料を用いると、触媒層での水素イオンと電子の輸送を容易にできるため、好ましい。該導電性材料としては、カーボンブラックやカーボンナノチューブなどの導電性カーボン材料、酸化チタンなどのセラミック材料などの公知の材料が挙げられる。
また、本発明に適用する触媒層には、高分子電解質が含まれることが好ましい。該高分子電解質としては、イオン伝導性があり、かつ上記触媒物質を結着させるバインダーとして働くものであれば、特に制限はなく、従来知られているデュポン社製のナフィオン(商品名)や脂肪族高分子電解質、芳香族高分子電解質が挙げられる。触媒物質や高分子電解質以外に、触媒層の撥水性を高める目的で、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)などの撥水材が、また触媒層のガス拡散性を高める目的で、炭酸カルシウムなどの造孔材が、さらに得られる膜−電極接合体の耐久性を高める目的で金属酸化物などの安定剤などが含まれる場合もある。
本発明の膜−電極接合体を構成する触媒層の外側には、燃料を効率よくかつ均一に拡散させるために、ガス拡散層を設けることが好ましい。該ガス拡散層は導電性のものであれば特に限定されないが、多孔質性のカーボン不織布またはカーボンペーパーが、安価で取り扱いも容易なため、好ましい。
電解質膜上、または電解質膜以外の他の基材上に、触媒層を形成させる方法としては、特に制限はなく、ダイコーター、スクリーン印刷、スプレー法、インクジェット法等の既存の方法を使用することができる。
予め電解質膜以外の他の基材上に触媒層を形成させた後に、該触媒層と電解質膜を接合させる方法としては、上述のガス拡散層となる基材上に触媒層を形成した後に、該触媒層付き拡散層を電解質膜と接合する方法や、平板支持基材上に触媒層を形成した後に、電解質膜に触媒層のみを転写し、該支持基材を剥離する方法等が挙げられる。
上記電解質膜以外の他の基材としては、該触媒層を電解質膜に形成させる時に、膨潤あるいは溶解しないものであれば、特に制限はなく、例えば、上述のガス拡散層や、ガラス、ステンレス材、ステンレスベルト、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルム等が好適に用いられる。該基材表面は必要に応じ、離型処理、鏡面処理、エンボス処理、或いは艶消し処理等施しても良い。
予め他の基材上に触媒層を形成させ、該触媒層を電解質膜に接合させる方法の場合、接合の際に温度や圧力をかける熱プレス法を行う方が好ましい。加熱温度としては、膜が変性しない温度領域や圧力領域であれば、特に限定されないが、通常、温度は、接合性が向上し、かつ電解質膜が変質しない、30℃以上300℃以下が好ましく、50℃以上250℃以下がより好ましい。また圧力は電解質膜が変形しない、5kgf/cm2以上300kgf/cm2以下が好ましく、30kgf/cm2以上200kgf/cm2以下がより好ましい。
以上のようにして、本発明の製造方法にて得られた高分子電解質膜の両面に少なくとも触媒層を接合してなる膜−電極接合体が得られる。
(第2のイオン置換工程)
上述のようにして、少なくとも触媒層を電解質膜に接合することにより膜−電極接合体を形成した後に、対イオンがアンモニウムイオンに交換されているカチオン交換基の少なくとも一部をプロトン型にする(アンモニウムイオンを水素イオンに交換する)工程(第2のイオン置換工程)を行うことが好ましい。プロトン型にする方法として、特に限定はされないが、酸溶液に接触させる方法が簡便であり好ましい。接触させる方法としては、浸漬する方法が好ましい。酸溶液としては、カチオン交換基をプロトン型にするものであれば、特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸などが簡便で取扱いが容易であることから好ましい。また、上記酸処理において、該膜−電極接合体の形態を損なわない範囲で、浸漬に用いる酸水溶液を攪拌してもよい。
上述のようにして、少なくとも触媒層を電解質膜に接合することにより膜−電極接合体を形成した後に、対イオンがアンモニウムイオンに交換されているカチオン交換基の少なくとも一部をプロトン型にする(アンモニウムイオンを水素イオンに交換する)工程(第2のイオン置換工程)を行うことが好ましい。プロトン型にする方法として、特に限定はされないが、酸溶液に接触させる方法が簡便であり好ましい。接触させる方法としては、浸漬する方法が好ましい。酸溶液としては、カチオン交換基をプロトン型にするものであれば、特に限定されないが、硫酸、塩酸、硝酸などが簡便で取扱いが容易であることから好ましい。また、上記酸処理において、該膜−電極接合体の形態を損なわない範囲で、浸漬に用いる酸水溶液を攪拌してもよい。
上記第2のイオン置換工程は、電解質膜に触媒層を接合し、次にガス拡散層を接合する場合では、電解質膜に触媒層を接合した後の、ガス拡散層を接合する前に、行う方が効率的である。それは、ガス拡散層が撥水性のカーボンを含むため、ガス拡散層を接合した後では、酸水溶液の浸透効率が幾分落ちるからである。しかし、ガス拡散層までの接合が完了した後でも酸処理は可能であるので、ガス拡散層までの接合が完了した後に、上記第2のイオン置換工程を行っても良い。また、触媒層に予めガス拡散層を接合した後、これらの接合体を電解質膜に接合する場合では、当然、電解質膜へ触媒層−ガス拡散層接合体を接合した後に、上記第2のイオン置換工程を行うことになる。
上記酸処理工程後、酸が処理後の膜−電極接合体内部に残存することもあるため、この酸処理に引き続き、水洗を行うことが好ましい。このようにすると、内部に残存する酸性分を除去することができる。水洗方法としては、酸処理後の膜−電極接合体を流水に所定時間曝す方法が有効である。また、このようにして酸処理、必要に応じて水洗を行った後、乾燥させてもよい。
上述のように、触媒層を電解質膜に接合した後に、アンモニウムイオンに交換されているカチオン交換基をプロトン型に変更することにより、得られた膜−電極接合体においては、触媒層と電解質膜との大きな接合度を保ったまま、電解質膜の硬度が向上すると考えられる。そのため、前記第2のイオン置換工程を行った場合の本発明の膜−電極接合体は、耐久性が高く、機械的強度に優れたものとなると考えられる。
(燃料電池)
本発明の燃料電池は、上述の触媒層と電解質膜とが大きな接合度を持って接合されてなる膜−電極接合体を用いて構成される。したがって、本発明の固体高分子型燃料電池は、発電性能に優れる高性能な燃料電池である。
本発明の燃料電池は、上述の触媒層と電解質膜とが大きな接合度を持って接合されてなる膜−電極接合体を用いて構成される。したがって、本発明の固体高分子型燃料電池は、発電性能に優れる高性能な燃料電池である。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するための好適な例示であり、なんら本発明を限定するものではない。
本発明の実施例の具体的説明に移る前に、各製造例、各実施例および各比較例で得られた高分子電解質膜の分子量、弾性率、イオン交換容量、膜−電極接合体における接合性等の諸特性値を測定する各測定方法を以下に説明する。
本発明の実施例の具体的説明に移る前に、各製造例、各実施例および各比較例で得られた高分子電解質膜の分子量、弾性率、イオン交換容量、膜−電極接合体における接合性等の諸特性値を測定する各測定方法を以下に説明する。
[分子量測定]
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でポリスチレン換算の数平均分子量および重量平均分子量を求めた。
GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
カラム TOSOH社製 TSK−GEL GMHHR−M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMAc(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、下記条件でポリスチレン換算の数平均分子量および重量平均分子量を求めた。
GPC測定装置 TOSOH社製 HLC−8220
カラム TOSOH社製 TSK−GEL GMHHR−M
カラム温度 40℃
移動相溶媒 DMAc(LiBrを10mmol/dm3になるように添加)
溶媒流量 0.5mL/min
[弾性率測定方法]
日本工業規格(JIS K 7127)に準拠して120℃下において実施した引張り試験から弾性率を求めた。
日本工業規格(JIS K 7127)に準拠して120℃下において実施した引張り試験から弾性率を求めた。
[高分子電解質膜のイオン交換容量(IEC)]
得られた高分子電解質膜を110℃にて乾燥させ、ハロゲン水分率計(メトラートレド社製、商品名「HR73」)で絶乾重量を求めた、この高分子電解質膜を、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、この高分子電解質膜が浸漬された溶液に0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定し、中和点を求めた。中和点に要する0.1mol/L塩酸の量と、上記絶乾重量とから、イオン交換容量を求めた。
また、塩交換率Y(%)を下記式(B)に基づいて求めた。
Y=(1−H/T)×100 ……(B)
T:塩置換処理前の高分子電解質膜のグラム当たりの全イオン交換基量
H:塩置換処理後の高分子電解質膜のグラム当たりの対イオンがプロトンであるイオン交換基量
得られた高分子電解質膜を110℃にて乾燥させ、ハロゲン水分率計(メトラートレド社製、商品名「HR73」)で絶乾重量を求めた、この高分子電解質膜を、0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液5mLに浸漬した後、50mLのイオン交換水を加え、2時間放置した。その後、この高分子電解質膜が浸漬された溶液に0.1mol/Lの塩酸を徐々に加えることで滴定し、中和点を求めた。中和点に要する0.1mol/L塩酸の量と、上記絶乾重量とから、イオン交換容量を求めた。
また、塩交換率Y(%)を下記式(B)に基づいて求めた。
Y=(1−H/T)×100 ……(B)
T:塩置換処理前の高分子電解質膜のグラム当たりの全イオン交換基量
H:塩置換処理後の高分子電解質膜のグラム当たりの対イオンがプロトンであるイオン交換基量
[電極シートの作成]
市販の5重量%ナフィオン溶液(溶媒:水と低級アルコールの混合物)6.3mLに50重量%白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製)を1.0g投入し、さらに水1.0gとジエチレングリコール8.2gを加えた。得られた混合物を1時間超音波処理したのち、スターラーで5時間攪拌し、触媒層形成用の触媒インクを得た。
市販の5重量%ナフィオン溶液(溶媒:水と低級アルコールの混合物)6.3mLに50重量%白金が担持された白金担持カーボン(SA50BK、エヌ・イー・ケムキャット製)を1.0g投入し、さらに水1.0gとジエチレングリコール8.2gを加えた。得られた混合物を1時間超音波処理したのち、スターラーで5時間攪拌し、触媒層形成用の触媒インクを得た。
得られた触媒インクをバーコーターを用いてPTFEシート上に流延塗布し、80℃で3時間常圧で、その後、2時間真空下で乾燥させた。これによりPTFEシート上に触媒層が形成されてなる電極シートを得た。得られた電極シート上の触媒層における白金付着量は0.6mg/cm2であった。
[接合性評価法]
上記電極シートの触媒層が後述のイオン置換処理された電解質膜のサンプルの表面に接するように、サンプルの電解質膜と上記電極シートを重ね、熱プレス法により135℃、100kgf/cm2にて5分間加圧、加熱した。その後、PTFEシートを触媒層から剥離することにより膜−電極接合体を得た。この膜−電極接合体における電解質膜に対する触媒層の接合度を下記式(C)に基づいて求めた。
(CWafter/CWbefore)×100 ・・・・・(C)
CWafter:膜に転写された触媒層の重量
CWbefore:ホットプレス前の電極シート上の触媒層重量
上記電極シートの触媒層が後述のイオン置換処理された電解質膜のサンプルの表面に接するように、サンプルの電解質膜と上記電極シートを重ね、熱プレス法により135℃、100kgf/cm2にて5分間加圧、加熱した。その後、PTFEシートを触媒層から剥離することにより膜−電極接合体を得た。この膜−電極接合体における電解質膜に対する触媒層の接合度を下記式(C)に基づいて求めた。
(CWafter/CWbefore)×100 ・・・・・(C)
CWafter:膜に転写された触媒層の重量
CWbefore:ホットプレス前の電極シート上の触媒層重量
[高分子電解質膜表面のスルホン酸基の対イオンがアンモニウムイオンに置換されていることの確認]
各実施例で得られた高分子電解質膜の膜表面のスルホン酸基の対イオンがアンモニウムイオンに置換されていることを、以下に示すX線光電子分光法(XPS)による測定により確認した。
[XPS測定]
SSI(Surface Science Instruments)社製のXPS測定装置(商品名「SSX−100」)を用いてワイドスキャンスペクトルを測定し、試料表面における組成比分析を行った。
X線:AlKα線(1486.6eV)
X線スポット径:1000μm
中和条件:中和電子銃・Niメッシュ使用
各実施例で得られた高分子電解質膜の膜表面のスルホン酸基の対イオンがアンモニウムイオンに置換されていることを、以下に示すX線光電子分光法(XPS)による測定により確認した。
[XPS測定]
SSI(Surface Science Instruments)社製のXPS測定装置(商品名「SSX−100」)を用いてワイドスキャンスペクトルを測定し、試料表面における組成比分析を行った。
X線:AlKα線(1486.6eV)
X線スポット径:1000μm
中和条件:中和電子銃・Niメッシュ使用
(炭化水素系高分子電解質膜の製造例1)
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、DMSO:600mL、トルエン:200mL、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム:26.5g(106.3mmol)、末端クロロ型である下記一般式(9):
アルゴン雰囲気下、共沸蒸留装置を備えたフラスコに、DMSO:600mL、トルエン:200mL、2,5−ジクロロベンゼンスルホン酸ナトリウム:26.5g(106.3mmol)、末端クロロ型である下記一般式(9):
得られたブロック共重合体(A)を10重量%となるようにDMSOに溶解後、ガラス基板上に流延塗布し、80℃で常圧乾燥した。得られた高分子電解質膜を1mol/Lの塩酸に3時間浸漬し、実質的に全てのカチオン交換基をプロトン型にし、流水で3時間洗浄することで、厚みが30μmの高分子電解質膜(M1)を得た。高分子電解質膜(M1)のイオン交換容量(IEC)は2.2meq/gであった。また弾性率は1150MPaであった。
(実施例1)
30mgの上記高分子電解質膜(M1)を、臭化トリブチルアンモニウム1g(酸基に対して大過剰)を溶かした200mLの水溶液に、室温で、2時間浸漬させた。この処理膜を500mLの純水で5分間浸漬洗浄し、乾燥させることにより、表面のカチオン交換基の少なくとも一部の対イオンをアンモニウムイオンに交換した電解質膜(M−a)を得た。得られた電解質膜(M−a)の接合度、塩交換率を測定した。
30mgの上記高分子電解質膜(M1)を、臭化トリブチルアンモニウム1g(酸基に対して大過剰)を溶かした200mLの水溶液に、室温で、2時間浸漬させた。この処理膜を500mLの純水で5分間浸漬洗浄し、乾燥させることにより、表面のカチオン交換基の少なくとも一部の対イオンをアンモニウムイオンに交換した電解質膜(M−a)を得た。得られた電解質膜(M−a)の接合度、塩交換率を測定した。
(実施例2〜5)
上記実施例1において高分子電解質膜(M1)の臭化トリブチルアンモニウム水溶液への浸漬時間のみを以下のように変えて同様の実験を行なった。
実施例2:2秒
実施例3:10秒
実施例4:30秒
実施例5:180秒
上記実施例1において高分子電解質膜(M1)の臭化トリブチルアンモニウム水溶液への浸漬時間のみを以下のように変えて同様の実験を行なった。
実施例2:2秒
実施例3:10秒
実施例4:30秒
実施例5:180秒
(実施例6)
30mgの前記高分子電解質膜(M1)を、n-ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイド1g(酸基に対して大過剰)を溶かした200mLの水溶液に、室温で、2時間浸漬させた。この処理膜(M1)を500mLの純水で5分間浸漬洗浄し、乾燥させることにより、表面のカチオン交換基の少なくとも一部の対イオンをアンモニウムイオンに交換した電解質膜(M−b)を得た。得られた電解質膜(M−b)を膜−電極接合体に用いた場合の接合度と、膜の塩交換率(イオン交換率)を測定した。
30mgの前記高分子電解質膜(M1)を、n-ヘキシルトリメチルアンモニウムブロマイド1g(酸基に対して大過剰)を溶かした200mLの水溶液に、室温で、2時間浸漬させた。この処理膜(M1)を500mLの純水で5分間浸漬洗浄し、乾燥させることにより、表面のカチオン交換基の少なくとも一部の対イオンをアンモニウムイオンに交換した電解質膜(M−b)を得た。得られた電解質膜(M−b)を膜−電極接合体に用いた場合の接合度と、膜の塩交換率(イオン交換率)を測定した。
(比較例1)
高分子電解質膜(M1)をアンモニウム水溶液により処理せず、そのままの高分子電解質膜(M1)を膜−電極接合体に用いた場合の接合度と、膜の塩交換率(イオン交換率)を測定した。
高分子電解質膜(M1)をアンモニウム水溶液により処理せず、そのままの高分子電解質膜(M1)を膜−電極接合体に用いた場合の接合度と、膜の塩交換率(イオン交換率)を測定した。
実施例2〜4で得られた高分子電解質膜の表面のスルホン酸基の対イオンがアンモニウムイオンとなっていることを、XPS測定により確認した。XPS測定装置を用いて、各実施例2〜4の高分子電解質膜の表面の炭素原子数に対する窒素原子数の比を測定した。
測定の結果、実施例2の高分子電解質膜の表面の炭素原子数に対する窒素原子数の比は、0.022であり、実施例3の高分子電解質膜の表面の炭素原子数に対する窒素原子数の比は、0.031であり、実施例4の高分子電解質膜の表面の炭素原子数に対する窒素原子数の比は、0.056であった。
この結果より、実施例2〜4の高分子電解質膜の表面のスルホン酸基の対イオンがアンモニウムイオンとなっていることが確認された。
測定の結果、実施例2の高分子電解質膜の表面の炭素原子数に対する窒素原子数の比は、0.022であり、実施例3の高分子電解質膜の表面の炭素原子数に対する窒素原子数の比は、0.031であり、実施例4の高分子電解質膜の表面の炭素原子数に対する窒素原子数の比は、0.056であった。
この結果より、実施例2〜4の高分子電解質膜の表面のスルホン酸基の対イオンがアンモニウムイオンとなっていることが確認された。
(実施例7)
上記実施例1で作成した膜−電極接合体と拡散層であるカーボンクロスをJARI標準セル((財)日本自動車研究所が開発した固体高分子形燃料電池標準セル)に組み込み、燃料電池セルとした。該セルを80℃に保ち、アノードには相対湿度100%の水素ガスを21.0mL/(min・cm2)で、カソードには相対湿度100%の空気ガスを66.6mL/(min・cm2)を流し、その発電特性を測定した。測定結果の電流−電圧曲線を図1に示した。
上記実施例1で作成した膜−電極接合体と拡散層であるカーボンクロスをJARI標準セル((財)日本自動車研究所が開発した固体高分子形燃料電池標準セル)に組み込み、燃料電池セルとした。該セルを80℃に保ち、アノードには相対湿度100%の水素ガスを21.0mL/(min・cm2)で、カソードには相対湿度100%の空気ガスを66.6mL/(min・cm2)を流し、その発電特性を測定した。測定結果の電流−電圧曲線を図1に示した。
上記実施例1〜6および比較例1から明らかなように、本発明の製造方法により電解質膜(実施例1〜6)は、触媒層の接合前に、少なくともその表面のカチオン交換基の少なくとも一部の対イオンがアンモニウムイオンへ交換され、それによって、電解質膜への触媒層の接合度が大幅に向上されている。これに対して、比較例1では発電特性の評価が実施不可能な程、電解質膜への触媒層の密着性が低くなっている。本発明による電解質膜の触媒層への接合度は、実施例1で得た膜−電極接合体を用いた燃料電池の発電特性が、実施例7に示すように、良好なものであることによっても、確認できる。さらに、本発明の製造方法により触媒層を接合した後の膜−電極接合体に対して、接合前にその表面のカチオン交換基の少なくとも一部の対イオンがアンモニウムイオンへ交換された電解質膜の表面のアンモニウムイオンの少なくとも一部を水素イオンに交換すれば、電解質膜の硬度を向上させることが可能となり、電解質膜の機械的特性を向上し得る。
以上説明したように、本発明の膜−電極接合体の製造方法は、触媒層を接合する前の炭化水素系高分子電解質膜の少なくとも表面における炭化水素系高分子電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンに交換した上で触媒層を接合し、前記高分子電解質膜と触媒層との接合強度を向上させることを特徴としている。従って、本発明によれば、炭化水素系高分子電解質膜の高弾性率という特徴を失うことなく、該炭化水素系高分子電解質膜と触媒層が良好に接合された膜−電極接合体を簡便に製造することができる。そして、本発明の製造方法により得られる膜−電極接合体は、高分子電解質膜と触媒層の界面における密着度の低さに基づく抵抗が生じにくく、優れた燃料電池を提供できるため、工業的に極めて有用である。
Claims (17)
- カチオン交換基を含有する炭化水素系高分子電解質膜の両面に少なくとも触媒層を接合することにより燃料電池用の膜−電極接合体を得る膜−電極接合体の製造方法であって、
前記触媒層を接合する工程の前に、前記炭化水素系高分子電解質膜の少なくとも表面における炭化水素系高分子電解質のカチオン交換基の一部または全部の対イオンをアンモニウムイオンとするイオン置換工程を有することを特徴とする膜−電極接合体の製造方法。 - 前記アンモニウムイオンが炭素数3以上のアルキル基を含むことを特徴とする請求項1に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記アンモニウムイオンが4級アンモニウムイオンを含むことを特徴とする請求項1または2に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記イオン置換工程が、アンモニウムイオンを含む溶液に前記炭化水素系高分子電解質膜の表面を接触させることにより行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記アンモニウムイオンを含む溶液に前記炭化水素系高分子電解質膜の表面を接触させる工程が、前記アンモニウムイオンを含む溶液に前記炭化水素系高分子電解質膜の表面を浸漬することにより行われることを特徴とする請求項4に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記イオン置換工程が、前記炭化水素系高分子電解質における全てのカチオン交換基数に対して、その1〜90%のカチオン交換基の対イオンを、アンモニウムイオンとする工程であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記炭化水素系高分子電解質膜の厚みを5〜200μmとすることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記触媒層を接合する工程に続いて、前記対イオンをアンモニウムイオンとしたカチオン交換基の少なくとも一部を水素イオンとする第2のイオン置換工程を有することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記触媒層を接合する工程を熱プレスにより行うことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記対イオンをアンモニウムイオンとする前の炭化水素系高分子電解質膜における炭化水素系高分子電解質の全てのカチオン交換基数に対して90%以上のカチオン交換基がプロトン型であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質の実質的に全てのカチオン交換基がプロトン型であるとした場合の120℃における前記炭化水素系高分子電解質膜の弾性率が、750〜2000MPaであることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質が、下記一般式(1):
- 前記炭化水素系高分子電解質膜を構成する炭化水素系高分子電解質が、カチオン交換基を有するブロックと、実質的にイオン交換基を有さないブロックとからなるブロック共重合体である請求項1〜12のいずれか1項に記載の膜−電極接合体の製造方法。
- 前記カチオン交換基を有するブロックが、下記一般式(2):
- 請求項1〜15のいずれか1項に記載の製造方法によって得られたものであることを特徴とする膜−電極接合体。
- 請求項16に記載の膜−電極接合体を有することを特徴とする燃料電池。
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2008
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