特許文献3に示すように、樹脂材料で形成された振動板に透湿防止膜を新たに設けると、通常の振動板製造工程に対して工数が増えるとともに材料費が増加して大きなコストアップとなってしまう。
また、樹脂層を有する振動板は、高温を加えて処理する製造方法では樹脂層が変質してしまうおそれがある。
さらに、圧電素子と当接する振動板凸部は圧電素子端部と接着剤接合されるのが一般的であるが、接合する材料によっては接着剤の接着性が余りよくないものが多く、接着剤選定を困難にしている。すなわち、接着剤は、圧電素子の機械振動変位をダンピングすることなく振動板に伝えるとともに、硬化特性(温度、時間など)、密着力、長期信頼性などを全て満足する必要があるため、接着する相手材料を選ぶことが多い。このため透湿防止の機能を有する材料を接着することは困難となることが多い。
この発明は、このような短所を改善し、透湿防止機能を有し、効率よく製造された長尺の振動板を有する液滴吐出ヘッドとその製造方法及び画像形成装置を提供することを目的とするものである。
この発明の液滴吐出ヘッドは、ノズルと、前記ノズルに連通する加圧液室と、前記加圧液室の少なくとも一壁面を形成し、樹脂層を有する振動板と、前記振動板の前記加圧液室が形成された側とは反対側に設けられた圧電素子とを有する液滴吐出ヘッドにおいて、前記振動板は、無機材料で形成され、前記圧電素子と接合される凸形状部と、前記圧電素子の伸縮に応じて変位するダイアフラム部とを有し、前記ダイアフラム部は、前記樹脂層と、前記樹脂層の圧電素子側の表面に形成され、前記凸形状部と同じ材料の無機材料層とを有することを特徴とする。
この発明の他の液滴吐出ヘッドは、ノズルと、前記ノズルに連通する加圧液室と、前記加圧液室の少なくとも一壁面を形成し、樹脂層を有する振動板と、前記振動板の前記加圧液室が形成された側とは反対側に設けられた圧電素子とを有する液体吐出ヘッドにおいて、前記振動板は、前記圧電素子と接合される第1の無機材料からなる凸形状部と、前記圧電素子の伸縮に応じて変位するダイアフラム部とを有し、前記ダイアフラム部は、前記樹脂層と、前記樹脂層の圧電素子側の表面に形成され、前記第1の無機材料とは異なる無機材料の第2の無機材料層とを有することを特徴とする。
前記ダイアフラム部に形成された無機材料層は、金属材料で形成されていることを特徴とする。
この発明の液滴吐出ヘッドの製造方法は、無機材料層と樹脂層が積層された積層板の前記無機材料層上に感光性樹脂層を設ける工程と、前記感光性樹脂層を露光現像してパターニングを行う工程と、前記感光性樹脂層のパターニング形状にそって前記無機材料層をエッチングする工程と、前記パターニングされた感光性樹脂層を除去する工程とにより凸形状部とダイアフラム部を有する振動板を形成する液滴吐出ヘッドの製造方法において、前記エッチング工程は、前記ダイアフラム部に凸形状形成部材である無機材料層を層状に一部残してエッチングを終了することを特徴とする。
この発明の第2の液滴吐出ヘッドの製造方法は、無機材料からなる板状の第1の無機材料層の一方の面に、第1の無機材料層と異なる無機材料からなる第2の無機材料層を被覆する工程と、前記第1の無機材料層に形成された前記第2の無機材料層の表面に樹脂層を形成する工程と、前記第1の無機材料層の前記第2の無機材料層が形成された面と反対面に感光性樹脂層を設ける工程と、前記感光性樹脂を露光現像してパターニングを行う工程と、前記感光性樹脂層のパターニング形状にそって前記第1の無機材料層をエッチングする工程と、前記パターニングされた感光性樹脂層を除去する工程とにより凸形状部とダイアフラム部を有する振動板を形成することを特徴とする。
前記第2の無機材料層は、セラミック材料又はエッチングにおけるエッチングレートが前記第1の無機材料層のエッチングレートよりも小さい材料で形成されていることを特徴とする。
この発明の第3の液滴吐出ヘッドの製造方法は、樹脂層と第1の無機材料層が積層された積層板の前記第1の無機材料層の表面に感光性樹脂層を設けた後、露光現像してパターニングを行う工程と、前記感光性樹脂層のパターニング形状にそって前記第1の無機材料層をエッチングする工程と、前記エッチングした第1の無機材料層の面と前記感光性樹脂層のパターニング面に第2の無機材料層を被覆する工程と、前記第2の無機材料層を被覆した前記感光性樹脂層を除去する工程とにより凸形状部とダイアフラム部を有する振動板を形成することを特徴とする。
前記第2の無機材料層は、スパッタ法あるいは真空蒸着法又はプラズマCVD法のいずれかで形成されていることを特徴とする。
この発明の画像形成装置は、液滴を液滴吐出ヘッドから吐出して記録媒体に付着させて記録する画像形成装置であって、前記液滴吐出ヘッドは、前記いずれかに記載の液滴吐出ヘッドであることを特徴とする。
この発明は、樹脂層を有する振動板の圧電素子の端面を接着接合する凸形状部を形成するための無機材料層の一部を利用し、かつ、凸形状部を形成のための工程をそのまま利用して圧電素子の伸縮に応じて変位するダイアフラム部に樹脂層の透湿防止膜となる無機材料層の薄層を形成することにより、製造コストを抑えながら樹脂層の透湿を防止できる振動板を形成することができ、安価で信頼性の高い液滴吐出ヘッドを得ることができる。
また、樹脂層を有する振動板の圧電素子と接合される凸形状部を第1の無機材料層で形成し、圧電素子の伸縮に応じて変位するダイアフラム部は、樹脂層と、樹脂層の圧電素子側の表面に形成され、第1の無機材料とは異なる無機材料の第2の無機材料層と形成することにより、ダイアフラム部の厚さを精度良く均一にすることができ、画像品質に影響を及ぼす吐出滴の吐出特性を安定させて、高品質な画像を安定して形成することができる。
また、ダイアフラム部に形成された無機材料層を金属材料で形成することにより、透湿防止と耐食性を向上することができ、耐久性を高めることができる。
また、無機材料からなる第1の無機材料層と第1の無機材料層と異なる無機材料からなる第2の無機材料層及び樹脂層からなる振動板のダイアフラム部に形成された第2の無機材料層をセラミック材料又はエッチングレートが第1の無機材料層のエッチングレートよりも小さい材料で形成することにより、第1の無機材料層の凸形状部をエッチングで形成するとき、第2の無機材料層がエッチングされることを抑制して、樹脂層と第2の無機材料層で形成するダイアフラム部の厚さがばらつくことはなく特性の均一な振動板を得ることができる。
また、樹脂層に第2の無機材料層を形成するとき、第2の無機材料層を、スパッタ法あるいは真空蒸着法又はプラズマCVD法のいずれかで形成することにより、熱により樹脂層が変質することを防止でき、ダイアフラム部を均一にすることができ、安定した吐出特性を得ることができる。
この発明の画像形成装置は、液滴を吐出して記録媒体に付着させる液滴吐出ヘッドの振動板のダイアフラム部を樹脂層と無機材料層の積層体で形成することにより、画像品質に影響を及ぼす吐出滴の吐出特性を長期間安定させて、長期間にわたり記録品質の低下や故障などを防止して、信頼性の高い画像形成装置を提供することができる。
図1は、この発明の画像形成装置における記録ユニットを構成する液滴吐出ヘッド34の構成を示し、(A)は液室長手方向に沿う部分断面図、(B)は液室短手方向(ノズルの並び方向)の部分断面図である。液室吐出ヘッド34は、例えば単結晶シリコン基板を異方性エッチングして形成した流路板101と、流路板101の下面に接合した例えば金属材料層と樹脂材料層等で形成した振動板102と、流路板101の上面に接合したノズル板103とを接合して積層し、これらによって液滴(インク滴)を吐出するノズル104が連通する流路であるノズル連通路105と液室106と液室106にインクを供給するための共通液室108に連通するインク供給口109などを形成している。
また、振動板102を変形させて液室106内のインクを加圧するための圧力発生手段(アクチュエータ手段)である電気機械変換素子としての2列{(B)では1列のみ図示}の積層型圧電素子121と、圧電素子121を接合固定するベース基板122とを備えている。圧電素子121の間には支柱部123を設けている。この支柱部123は圧電素子部材を分割加工することで圧電素子121と同時に形成した部分であるが、駆動電圧を印加しないので単なる支柱となる。また、圧電素子121には図示しない駆動回路(駆動IC)を搭載したFPCケーブル12を接続している。
そして、振動板102の周縁部をフレーム部材130に接合し、このフレーム部材130には、圧電素子121及びベース基板122などで構成されるアクチュエータユニットを収納する貫通部131と共通液室108となる凹部及び共通液室108に外部からインクを供給するためのインク供給穴132を形成している。このフレーム部材130は、例えばエポキシ系樹脂などの熱硬化性樹脂或いはポリフェニレンサルファイトで射出成形により形成している。
ここで、流路板101は、例えば結晶面方位(110)の単結晶シリコン基板を水酸化カリウム水溶液(KOH)などのアルカリ性エッチング液を用いて異方性エッチングすることによりノズル連通路105と液室106となる凹部や穴部を形成したものであるが、単結晶シリコン基板に限られるものではなく、その他のステンレス基板や感光性樹脂などを用いることもできる。
振動板102は、従来ニッケルの金属プレートから形成したもの、例えばエレクトロフォーミング法(電鋳法)で作製したものが使用されてきたが、この発明では金属と樹脂板とを積層した部材を用いている。この振動板102に圧電素子121及び支柱部123を接着剤接合し、更にフレーム部材130を接着剤接合している。
ノズル板103は各液室106に対応して直径10〜30μmのノズル104を形成し、流路板101に接着剤接合している。このノズル板103は、金属部材からなるノズル形成部材の表面に所要の層を介して最表面に撥水層を形成したものである。
圧電素子121は、圧電材料151と内部電極152とを交互に積層した積層型圧電素子(ここではPZT)である。この圧電素子121の交互に異なる端面に引き出された各内部電極152には個別電極153及び共通電極154が接続されている。この圧電素子121の圧電方向としてd33方向の変位を用いて液室106内インクを加圧する構成としているが、圧電素子121の圧電方向としてd31方向の変位を用いて加圧液室106内インクを加圧する構成とすることもできる。また、1つの基板122に1列の圧電素子121が設けられる構造とすることもできる。
このように構成した液滴吐出ヘッド34においては、例えば圧電素子121に印加する電圧を基準電位から下げることによって圧電素子121が収縮し、振動板102が下降して液室106の容積が膨張することにより、液室106内にインクが流入し、その後、圧電素子121に印加する電圧を上げて圧電素子121を積層方向に伸長させ、振動板102をノズル104方向に変形させて液室106の容積/体積を収縮させることにより、液室106内の記録液が加圧され、ノズル104から記録液の滴が吐出(噴射)される。その後、圧電素子121に印加する電圧を基準電位に戻すことによって振動板102が初期位置に復元し、液室106が膨張して負圧が発生して共通液室108から液室106内に記録液が充填される。そこで、ノズル104のメニスカス面の振動が減衰して安定した後、次の液滴吐出のための動作に移行する。なお、このヘッドの駆動方法については上記の例(引き−押し打ち)に限るものではなく、駆動波形の与えた方によって引き打ちや押し打ちなどを行なうこともできる。
この液滴吐出ヘッド34に使用する振動板102について具体的に説明する。図2の部分断面図に示すように、振動板102は樹脂層201と無機材料層202とが積層されて形成されている。樹脂層201の材料は、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、アラミド樹脂などが適用できるが、エッチング液への耐性、使用液に対する耐性、振動膜としての特性などからポリイミド樹脂がより適している。この樹脂層201の成膜方法は、蒸着等の真空成膜法、浸漬法、ロールコート法、スプレー法、注型法などを利用して行うことができる。無機材料層202は液室106に対向する部分には、表面に圧電素子121の端面が接着接合される島状突起である凸部202aが形成され、その周囲は掘り込んだ凹部204が形成されている。この凹部204に相当する部分は、樹脂層201がダイアフラムとして機能する構成となっており、圧電素子121の伸縮で容易に変位可能な形状となっている。無機材料層202の凹部204は樹脂層201までは達しておらず、無機材料の薄層203が残された形状となっている。この薄層203は、液室106に記録液が充填されたときに、樹脂層201を透過して記録液の水分が圧電素子121の周辺に到達することの無いようにするための透湿防止膜として機能している。
この無機材料層202の材料については、透湿が少なく凹部204が形成できるものなら適用可能であるが、鉄、銅、アルミニウム、ニッケルなどの金属が適しており、中でもステンレス鋼が耐食性などに優れ好適である。また、薄層203の厚みは、透湿防止が可能な範囲でできるだけ薄い方が圧電素子121の変位に影響を与えないので良いが、ピンホールなどの発生防止も考えると0.5μm〜4μm程度にするのが良い。また、薄層203の形成方法によっては、薄層203の厚さバラツキが少なかったり、ピンホール等の心配がない場合は、例えば0.05μm程度の厚さとしても良い。なお、樹脂層201は例えばポリイミドで6μm、無機材料層202は例えばステンレス箔で20μmとしている。
この振動板102の製造方法について図3を参照して説明する。まず、図3(A)に示すように、凹部204が形成されていない無機材料層202と樹脂層201とを積層する。この積層の方法は、例えばステンレス箔に樹脂フィルムを接着剤接合、熱溶着をしても良いし、ステンレス鋼箔に液状樹脂材料を塗布して成膜しても良い。こうして形成された積層部材の無機材料層202の表面に、図3(B)に示すように、感光性樹脂層205を均一に積層する。感光性樹脂層205は、周知のフォトリソグラフィープロセスで使用される液体レジストを塗布しても良いし、ドライフィルムレジストをラミネートしても良い。その後、所定パターンで露光、現像することでエッチングする部分を露出させる。このエッチングする部分を露出させた感光性樹脂層205でカバーされた無機材料層202をエッチングすることにより、図3(C)に示すように、無機材料層202に凹部204と凹部204の底面の薄層203が得られる。このエッチングは、ウエットエッチングでも良いし、ドライエッチングでも良いが、ここでは塩化第二鉄を使用するウエットエッチングを利用した。このエッチングするとき、エッチング条件を厳密に管理して薄層203を所定厚さ残した状態で停止する。その後、残っている感光性樹脂層205を除去することにより、図2に示す振動板102を作製することができる。
このように圧電素子121の端面を接着接合する凸部202aを形成するための無機材料層202の一部を利用し、かつ、凸部202aを形成のための工程をそのまま利用して樹脂層201の透湿防止膜となる薄層203を形成することができ、製造コストを抑えながら樹脂層201の透湿を防止できる振動板102を形成することができる。
次に第2の振動板102aについて説明する。第2の振動板102aは、図4の部分断面図に示すように、樹脂層201と無機材料層202の間に別に第2の無機材料層206を介在して構成している。この振動板102aの第2の無機材料層206は、無機材料層202に対して島状突起である凸部202aを形成するためにエッチングするエッチング液に対するエッチングレートが小さい材料となっている。すなわち無機材料層202のエッチングをして凹部204を形成している工程で第2の無機材料層206が露出した時点でエッチングが殆ど進まなくなるため、エッチングの進行バラツキを考慮して十分にエッチングしても、樹脂層201と第2の無機材料層206で形成するダイアフラム部の厚さがばらつくことはなく特性の均一な振動板102aを得ることができる。
この第2の無機材料層206はエッチングされないか、あるいはエッチングレートが非常に小さい材料であって、かつ透湿の小さい材料である必要があり、塩化第二鉄でもエッチングされない金属膜チタンやアルミナ等のセラミック材料を使用すれば良い。
ここで第2の無機材料層206は無機材料層202に形成しても良いし、樹脂層201に形成しても良い。樹脂層201がフィルム状のものであれば、無機材料層202に形成しても良いし樹脂層201に形成しても良いが、樹脂層201が液状材料を無機材料層202にコートする方法の場合は、無機材料層202に形成すれば良い。また、第2の無機材料層206の形成方法としては、選択する材料種によってスパッタリング法、真空蒸着法、プラズマCVD法、薄膜印刷法等から適切な方法を選択すれば良いが、膜厚が薄く精度良く成膜できるスパッタリング法、真空蒸着法、プラズマCVD法がより好適である。
次に第2の振動板102aの製造方法を図5の工程図を参照して説明する。図5(A)に示すように、所定長さにカットされたシート状形態又はロール状形態の無機材料層202を準備し、図5(B)に示すように、無機材料層202の片側表面に第2の無機材料層206をコートする。この第2の無機材料層206の形成方法としては、選択する材料種によってスパッタリング法、真空蒸着法、プラズマCVD法、薄膜印刷法等から適切な方法を選択することができる。次に図5(c)に示すように、第2の無機材料層206の表面に樹脂層201を形成する。この樹脂層201の積層の方法は、第2の無機材料層206の表面に樹脂フィルムを接着剤接合、熱溶着をしても良いし、液状樹脂材料を薄層塗布した後、加熱乾燥定着させる方法で成膜しても良い。
次に、図5(D)に示すように、無機材料層202の表面に感光性樹脂層211を積層する。この感光性樹脂層211は、周知のフォトリソグラフィープロセスで使用される液体レジストを塗布しても良いし、ドライフィルムレジストをラミネートしても良い。次に、図5(E)に示すように、感光性樹脂層211に所定のパターンが形成されたフォトマスク212を通して紫外光213を照射して感光性樹脂層211を選択的に露光する。次に、図5(F)に示すように、露光した感光性樹脂層211を現像して露光部211aを残し、図5(G)に示すように、感光性樹脂層の露光部211aでカバーされた無機材料層202を選択的にエッチングして島状の凸部202aを形成する。このエッチングはウエットエッチングでも良いし、ドライエッチングでも良いが、ここでは塩化第二鉄を使用するウエットエッチングを利用した。この工程で無機材料層202のエッチングが進み第2の無機材料層206が露出した時点で事実上深さ方向へのエッチングは停止し、第2の無機材料層206が現れた状態が得られる。次に、図5(H)に示すように、感光性樹脂層の露光部211aを除去することにより、樹脂層201に第2の無機材料層206が積層され、さらに島状の凸部202aが形成された振動板102aを得ることができる。
このように、樹脂層201と第2の無機材料層206でダイアフラム部を形成することにより、ダイアフラム部の厚さを精度良く均一にすることができ、画像品質に影響を及ぼす吐出滴の吐出特性を安定させて、高品質な画像を安定して形成することができる。
次に第3の振動板102bについて説明する。第3の振動板102bは、図6の部分断面図に示すように、樹脂層201と無機材料層202で形成された島状突起である凸部202aの表面を除いた部分に例えばニッケル材料で形成された無機材料層210を有し、樹脂層201と無機材料層210でダイアフラム部を形成している。
この第3の振動板102bの製造方法を図7の工程図を参照して説明する。まず、図7(A)に示すように、所定長さにカットされた無機材料層202を準備し、図7(B)に示すように、無機材料層202の片側表面に樹脂層201を形成する。樹脂層201の積層の方法は、無機材料層202の上に樹脂フィルムを接着剤接合または熱溶着をしても良いし、液状樹脂材料を薄層塗布した後、加熱乾燥定着させる方法で成膜しても良い。次に、図7(C)に示すように、無機材料層202の表面に感光性樹脂層211を積層する。この感光性樹脂層211は周知のフォトリソグラフィープロセスで使用される液体レジストを塗布しても良いし、ドライフィルムレジストをラミネートしても良い。次に、図7(D)に示すように、所定パターンの形成されたフォトマスク212を通して紫外光213を照射して感光性樹脂層211を選択的に露光した後、図7(E)に示すように、露光した感光性樹脂層211を現像して露光部211aを残す。次に、図7(F)に示すように、残った感光性樹脂層211の露光部211aでカバーされた無機材料層202を選択的にエッチングして島状突起である凸部202aを形成する。このエッチングはウエットエッチングでも良いし、ドライエッチングでも良いが、塩化第二鉄を使用するウエットエッチングを利用した。このエッチング工程で無機材料層202のエッチングが進んで樹脂層201が露出した時点で、樹脂層201はエッチング液にエッチングされないため、エッチングは停止し、エッチングした凹部に均一に樹脂層201が現れた状態が得られる。次に、図7(G)に示すように、島状突起である凸部202a側から無機材料をコーティングし無機材料層210を形成する。この無機材料層210の形成方法は、第2の振動板102aと同様な方法で、選択する材料種によってスパッタリング法、真空蒸着法、プラズマCVD法、薄膜印刷法等から適切な方法を選択すれば良い。その後、図7(H)に示すように、感光性樹脂層211の露光部211aを除去することにより、島状突起である凸部202aの表面は無機材料層210がないが露出した状態になり、第3の振動板102bを得ることができる。
このように樹脂層201と無機材料層210でダイアフラム部を形成することにより、ダイアフラム部の厚さを精度良く均一にすることができる。また、島状突起である凸部202aの表面には無機材料層210が設けられていないから、後工程で液滴吐出ヘッドを組み立てるとき、圧電素子を接着するときの接着剤の選択肢が増え、信頼性の高い接着接合が可能となる。すなわち無機材料層210の材料は、樹脂層201との密着性とか透湿防止性能を優先して選定されるが、そういう条件で選定される材料は必ずしも接着剤接合に適したものにならないことが多く、これを考慮する結果、凸部202aの表面には無機材料層210が設けないようにしたのである。この無機材料層210としてはニッケル材料に限らず種々な無機材料が選択できる。
次に振動板101,102a,102bのいずれかを使用した液滴吐出ヘッド34を備えた画像形成装置にについて、図8〜図10の構成図を参照して説明する。図8は画像形成装置を前方側から見た斜視説明図、図9は画像形成装置の機構部の全体構成を示す概略構成図、図10は機構部の要部平面図である。
図8に示すように、画像形成装置は、装置本体1と、装置本体1に装着された記録用紙を装填するための給紙トレイ2と、装置本体1に着脱自在に装着されて画像が記録(形成)された記録用紙を排紙してストックするための排紙トレイ3とを備えている。装置本体1の前面の一端部側(給排紙トレイ部の側方)には、前面から装置本体1の前方側に突き出し、上面よりも低くなったインクカートリッジを装填するためのカートリッジ装填部4を有し、このカートリッジ装填部4の上面は操作ボタンや表示器などを設ける操作/表示部5としている。
このカートリッジ装填部4には、色の異なる液体(インク)、例えば黒(K)インク、シアン(C)インク、マゼンタ(M)インク、イエロー(Y)インクをそれぞれ収容した複数の液体カートリッジ10k、10c、10m、10y(色を区別しないときは液体カートリッジ10という。)を、装置本体1の前面側から後方側に向って挿入して装填可能とし、このカートリッジ装填部4の前面側には、液体カートリッジ10を着脱するときに開く前カバー(カートリッジカバー)6を開閉可能に設けている。
この画像形成装置の機構部は、図10の要部平面図に示すように、フレーム20を構成する左右のメイン側板21A、21Bに横架した主ガイドロッド31と従ガイドロッド32とでキャリッジ33を主走査方向に摺動自在に保持し、図示しない主走査モータによってタイミングベルトを介して図10で矢示方向(キャリッジ主走査方向)に移動走査する。このキャリッジ33には、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(K)の各色の液滴を吐出する複数のノズル列を有する液滴吐出ヘッド34を複数のノズル(吐出口)を主走査方向と交叉する方向に配列し、液滴吐出方向を下方に向けて装着している。液滴吐出ヘッド34は、圧電素子などの圧電アクチュエータを、液滴を吐出するための圧力を発生する圧力発生手段として備えたものとして使用できる。
また、キャリッジ33には、各液滴吐出ヘッド34に各色の液体を供給するための各色の液体タンク35(一体でもよい)を搭載している。この各色の液体タンク35には各色の可撓性を有する供給チューブ36を介して、カートリッジ装填部4に装着された各色の液体カートリッジ10から各色の液体が補充供給される。このカートリッジ装填部4には液体カートリッジ10内の液体を送液するための送液手段である供給ポンプユニット35が設けられている。なお、供給チューブ36は前ステー29上に保持部材37にて途中部分が保持されている。
また、図9に示すように、給紙トレイ2の用紙積載部(圧板)41上に積載した記録用紙42を給紙するための給紙部として、用紙積載部41から記録用紙42を1枚ずつ分離給送する半月コロ(給紙コロ)43及び給紙コロ43に対向し、摩擦係数の大きな材質からなる分離パッド44を備え、この分離パッド44は給紙コロ43側に付勢されている。そして、給紙部から給紙された記録用紙42を液滴吐出ヘッド34の下方側に送り込むために、記録用紙42を案内するガイド部材45と、カウンタローラ46と、搬送ガイド部材47と、先端加圧コロ49を有する押さえ部材48とを備えるとともに、給送された記録用紙42を静電吸着して液滴吐出ヘッド34に対向する位置で搬送するための搬送手段である搬送ベルト51を備えている。
この搬送ベルト51は、無端状ベルトであり、搬送ローラ52とテンションローラ53との間に掛け渡されて、ベルト搬送方向(副走査方向)に周回するように構成している。また、この搬送ベルト51の表面を帯電させるための帯電手段である帯電ローラ56を備えている。この帯電ローラ56は、搬送ベルト51の表層に接触し、搬送ベルト51の回動に従動して回転するように配置されている。さらに、搬送ベルト51の裏側には、液滴吐出ヘッド34による印写領域に対応してプラテン部となるガイド部材57を配置している。この搬送ベルト51は、図示しない副走査モータによってタイミングを介して搬送ローラ52が回転駆動されることによってベルト搬送方向に周回移動する。
さらに、液滴吐出ヘッド34で記録された記録用紙42を排紙するための排紙部として、搬送ベルト51から記録用紙42を分離するための分離爪61と、排紙ローラ62及び排紙コロ63とを備え、排紙ローラ62の下方に排紙トレイ3を備えている。
また、装置本体1の背面部には両面ユニット71が着脱自在に装着されている。この両面ユニット71は搬送ベルト51の逆方向回転で戻される記録用紙42を取り込んで反転させて再度カウンタローラ46と搬送ベルト51との間に給紙する。この両面ユニット71の上面は手差しトレイ72としている。
また、図10に示すように、キャリッジ33の走査方向一方側の非印字領域には、液滴吐出ヘッド34のノズルの状態を維持し、回復するための回復手段を含む維持回復機構81を配置している。この維持回復機構81には、液滴吐出ヘッド34の各ノズルを一括してキャピングするためのキャップ部材82と、ノズル面をワイピングするためのブレード部材であるワイパーブレード83と、増粘した液体を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け84などを備えている。そして、この維持回復機構81による維持回復動作で生じる記録液の廃液、キャップ82に排出された液体、あるいはワイパーブレード83に付着してワイパークリーナ85で除去された液体、空吐出受け94に空吐出されたインクは図示しない廃液タンクに排出されて収容される。
また、図10に示すように、キャリッジ33の走査方向他方側の非印字領域には、記録中などに増粘した液体を排出するために記録に寄与しない液滴を吐出させる空吐出を行うときの液滴を受ける空吐出受け88を配置し、この空吐出受け88には液滴吐出ヘッド34のノズル列方向に沿った開口部89などを備えている。
このように構成した液滴吐出ヘッド34を備えた画像形成装置においては、給紙トレイ2から記録用紙42が1枚ずつ分離給紙され、略鉛直上方に給紙された記録用紙42はガイド45で案内され、搬送ベルト51とカウンタローラ46との間に挟まれて搬送され、更に先端を搬送ガイド37で案内されて先端加圧コロ49で搬送ベルト51に押し付けられ、略90度搬送方向を転換される。このとき、図示しない制御部のACバイアス供給部から帯電ローラ56に対してプラス出力とマイナス出力とが交互に繰り返すように、つまり交番する電圧が印加され、搬送ベルト51が交番する帯電電圧パターン、すなわち、周回方向である副走査方向に、プラスとマイナスが所定の幅で帯状に交互に帯電されたものとなる。このプラス、マイナス交互に帯電した搬送ベルト51上に記録用紙42が給送されると、記録用紙42が搬送ベルト51に吸着され、搬送ベルト51の周回移動によって記録用紙42が副走査方向に搬送される。そこで、キャリッジ33を移動させながら画像信号に応じて液滴吐出ヘッド34を駆動することにより、停止している記録用紙42に液滴を吐出して1行分を記録し、記録用紙42を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号又は記録用紙42の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了して、記録用紙42を排紙トレイ3に排紙する。
また、印字(記録)待機中にはキャリッジ33は維持回復機構81側に移動されて、キャップ部材82で液滴吐出ヘッド34の吐出面がキャッピングされて、ノズルを湿潤状態に保つことにより液体乾燥による吐出不良を防止する。また、キャップ部材82で液滴吐出ヘッド34の吐出面をキャッピングした状態で、図示しない吸引ポンプによってノズルから記録液を吸引し、増粘した液体を排出する回復動作を行う。また、記録開始前、記録途中などに記録と関係しない液体を吐出する空吐出動作を行う。これによって、液滴吐出ヘッド34の安定した吐出性能を維持する。
この画像形成装置の液滴吐出ヘッド34に振動板101,102a,102bのいずれかを使用することにより、高品質の液滴吐出ヘッド34を低コストで製造することができ、高画質な画像を形成することができる。
また、振動板101,102a,102bのいずれかを使用した液滴吐出ヘッド34は、プリンタ、ファクシミリ装置、複写装置、これらの複合機などにも適用することができるとともに、インク以外の液体、例えばDNA試料やレジスト、パターン材料などを吐出する液滴吐出装置等にも適用することができる。