JP2009089672A - がんの再発リスクの判定方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】がん患者から採取した腫瘍組織中の細胞で発現している膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいてがんの再発リスクを判定することができる方法を提供する。
【解決手段】腫瘍細胞の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいて、がんの再発リスクを判定する。膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値は、がん患者から採取した腫瘍組織中の細胞から細胞質を分離して、様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料を調製する試料調製工程と、前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼと、少なくとも2種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対する基質とを接触させて、前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの活性により前記基質をリン酸化する接触工程と、前記リン酸化された基質を検出する検出工程と、前記検出結果に基づいて、前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの活性値を測定する測定工程と、によって得られる。
【選択図】図4

Description

本発明は、がんの再発リスクの判定方法に関する。より詳しくは、がん患者から採取した腫瘍組織中の細胞の分子を分析し、その分析結果に基づいてがんの再発リスクを判定する方法に関する。
最近、臨床において、がんの再発リスクを様々なパラメータに基づいて判定することが行われている。例えば、非特許文献1では、早期乳がんの再発リスクを、チロシンキナーゼ活性を有する増殖因子受容体の一種であるHER2の発現量に基づいて判定することが提案されている。また、特許文献1では、サイクリン依存性キナーゼの活性値と発現量との比に基づいてがんの再発リスクを判定する方法が提案されている。
国際公開WO2005/116241号パンフレット Joensuu H. et al., Clinical Cancer Research, vol.9, 2003, 923−930
臨床におけるがんの再発リスクの判定は、術後の治療方針等に影響するものであるため、正確且つ安定に行われる必要があり、このため、上記パラメータ以外の、細胞のがん化等に関係するパラメータを用いてがんの再発リスクを判定することが検討されている。
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、がん患者から採取した腫瘍組織中の細胞で発現している膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいてがんの再発リスクを判定することができる方法を提供することを課題としている。
本発明は、腫瘍細胞の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいて、がんの再発リスクを判定することを特徴とするがんの再発リスクの判定方法である。
本発明者らは、細胞増殖に関わる膜貫通タンパク質であって、その発現や活性の異常ががんの原因になることが知られているチロシンキナーゼについて研究を重ねた結果、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値という、今までとは違う新しいパラメータを用いれば、がんの再発リスクを判定することができることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
上記判定が、前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と閾値とを比較し、前記活性値が閾値よりも小さい場合に、がんの再発リスクが低いと判定するものであってもよい。
上記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値は、がん患者から採取した腫瘍組織中の細胞から細胞質を分離して、様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料を調製する試料調製工程と、前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼと、少なくとも2種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対する基質とを接触させて、前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの活性により前記基質をリン酸化する接触工程と、前記リン酸化された基質を検出する検出工程と、前記検出結果に基づいて、前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの活性値を測定する測定工程と、によって得られる。
上記試料調製工程は、前記腫瘍組織中の細胞を緩衝液中で破砕し、破砕された細胞と界面活性剤を含む溶液とを混合し、得られた混合液の上清を採取することにより膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料を調製するものであってもよい。
上記試料調製工程において、界面活性剤が、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。
上記膜貫通型チロシンキナーゼは、インスリン様増殖因子受容体(insulin−like growth factor receptor;IGFR)、血小板由来増殖因子受容体(platelet−derived growth factor receptor;PDGFR)、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(human epithelial growth factor receptor;HER)及び血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor;VEGFR)を含むことができる。
上記基質は、特定の膜貫通型チロシンキナーゼに対して特異性の高い複数種類の基質の混合物、又は、様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対するユニバーサル基質であることが好ましく、ユニバーサル基質が、グルタミン酸残基及びチロシン残基を含むアミノ酸配列からなるペプチドを含むことがさらに好ましい。
上記判定方法は、前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と、さらに、前記腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の発現量及び活性値に基づいて得られるCDKのパラメータとに基づいて、がんの再発リスクを判定することができる。
上記判定は、前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と第一の閾値とを比較し、前記CDKのパラメータと第二の閾値とを比較し、前記活性値が第一の閾値よりも小さく、且つ、前記CDKのパラメータが第二の閾値よりも小さい場合に、がんの再発リスクが小さいと判定することができる。
上記CDKのパラメータは、前記腫瘍細胞の第一のサイクリン依存性キナーゼ(第一CDK)の活性値と発現量との比(第一CDK比活性)並びに前記腫瘍細胞の第二のサイクリン依存性キナーゼ(第二CDK)の活性値と発現量との比(第二CDK比活性)に基づいて得られる、前記第一CDK比活性と前記第二CDK比活性との比(CDK比活性比)であることができる。
上記CDK比活性比は、前記腫瘍細胞から第一CDKの活性値及び第二CDKの活性値を測定する活性測定工程と、前記腫瘍細胞から第一CDKの発現量及び第二CDKの発現量を測定する発現測定工程と、前記第一CDKの活性値と発現量との比(第一CDK比活性)、及び前記第二CDKの活性値と発現量との比(第二CDK比活性)を算出する比活性算出工程と、前記比活性算出工程により得られた第一CDK比活性と第二CDK比活性との比(CDK比活性比)を算出する比活性比算出工程と、によって得られ、前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値及び前記CDK比活性比に基づいてがんの再発リスクを判定することができる。
本発明によれば、腫瘍細胞に存在する様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼの活性値を反映した膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値という新しいパラメータを用いることにより、がんの再発リスクを判定することができる。
本発明の第1の実施形態の判定方法は、腫瘍細胞に存在する膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいて、がんの再発リスクを判定することを特徴とするがんの再発リスクの判定方法である。
上記判定方法が適用されるがんは、造血器由来の悪性腫瘍、上皮細胞由来の癌腫、肉腫等である。造血器由来の悪性腫瘍としては、白血病、悪性リンパ腫等を例示することができる。癌腫としては、乳がん、胃がん、大腸がん、食道がん、前立腺がん等を例示することができる。肉腫としては、骨肉腫、軟部肉腫等を例示することができる。
判定に用いられる細胞は、がん患者から採取された腫瘍組織に含まれる細胞であればよい。判定に用いられる細胞は、初期がん、早期がん又は進行がんの腫瘍組織中の細胞のいずれでもよい。例えば、乳がんの場合、好ましくは、ステージ分類において「ステージI」〜「ステージIIIA」の悪性腫瘍の細胞である。本発明は、早期がんだけでなく、進行がんの再発リスクを判定することができることが1つの大きな特徴である。
ステージ分類とは悪性腫瘍の悪性度を示す分類である。例えば乳がんの場合、悪性度の低い順にステージI、IIA、IIB、IIIA、IIIB及びIVに分類される。このステージ分類は、TNM分類に基づいている。TNM分類とは、国際対がん連合(UICC)による悪性腫瘍の病期分類である。「T」は原発腫瘍の規模を示し、T0(原発巣が確認できない)〜T4(腫瘤が対外へ露出)に分けられる。「N」は近傍リンパ節への浸潤度合いを示し、N0(リンパ節転移なし)〜N3(体の正中に近いところにあるリンパ節(胸骨傍リンパ節)に転移が疑われる)に分けられる。「M」は遠隔転移の有無を表し、M0(遠隔転移なし)及びM1(遠隔転移あり)に分けられる。
腫瘍組織は、例えば、手術により摘出された腫瘍組織、生検により採取された腫瘍組織などが挙げられる。
上記判定方法により、がんの再発リスク(再発のしやすさ)を判定することができる。
再発とは、生体から腫瘍を摘出して一定期間経過した後、同じ部位に悪性腫瘍が再現する場合、及び腫瘍細胞が原発巣から分離して遠隔組織へ運ばれそこで自立的に増殖する場合をいう。再発が起こるか否かは腫瘍細胞の増殖能、生存能、移動能等に左右される。
膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値は、腫瘍細胞の細胞膜に存在する様々な膜貫通型チロシンキナーゼを、単離・精製することなく、包括的に測定した活性値である。この包括的な活性値は、例えば、特定の膜貫通型チロシンキナーゼに対して特異性の高い各基質の混合物又は様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対するユニバーサル基質を用いることにより測定することができる。
このようにして得られた膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値は、腫瘍細胞の細胞膜に存在する様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼの活性値を反映したものである。ゆえに、腫瘍細胞を使用して膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を測定することにより、得られた膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいて、がんの再発リスクを判定することが可能になる。そして、このようにして得られたがんの再発リスクの判定結果は、がんの術後の治療方針等を検討する上で非常に有用な情報となる。
膜貫通型チロシンキナーゼは、細胞膜に存在する膜貫通型のチロシンキナーゼのことであって、細胞の増殖、細胞の生存、細胞の分化や血管新生等において重要な役割を果たしている。例えば、膜貫通型チロシンキナーゼには細胞のがん化に関わるものが多く、その発現量の異常や酵素活性の異常が細胞のがん化を引き起こすことが知られている。細胞膜に存在するチロシンキナーゼであれば特に限定されない。具体的には、例えば、インスリン様増殖因子受容体(insulin−like growth factor receptor;IGFR)、血小板由来増殖因子受容体(platelet−derived growth factor receptor;PDGFR)、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(human epithelial growth factor receptor;HER)、血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor;VEGFR)等の増殖因子受容体が挙げられる。なお、HERファミリーは、HER1、HER2、HER3及びHER4を含む。
膜貫通型チロシンキナーゼは、細胞の細胞膜から回収される。細胞は、生体から採取された生体試料に含まれる細胞であってもよいし、生体から採取された細胞を株化した培養細胞であってもよい。具体的には、細胞として腫瘍細胞を使用することができる。そして、腫瘍細胞は、がん患者から採取された生体試料(腫瘍組織)に含まれる腫瘍細胞であってもよいし、がん患者から採取された腫瘍細胞を株化した培養細胞であってもよい。
膜貫通型チロシンキナーゼを回収する方法は、細胞から細胞質を分離して様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料を調製するような方法であれば特に限定されない。例えば、以下の方法により膜貫通型チロシンキナーゼを回収することができる。まず、細胞の細胞膜を適当な緩衝液(以下、ホモジナイズ試薬とする)中で破砕し、遠心分離によって上清と沈殿物とを分離して上清を除去する。この上清には、細胞質由来のタンパク質等が含まれており、沈殿物には種々の膜貫通型チロシンキナーゼを保持した細胞膜の断片が含まれている。この沈殿物と、界面活性剤を含む溶液(以下、可溶化処理液とする)とを混合し、遠心分離によって上清と沈殿物とを分離する。上清には界面活性剤によりミセル化した、種々の膜貫通型チロシンキナーゼを含む細胞膜が含有されており、沈殿物には不溶性タンパク質及びDNA等が含有されている。そして、この上清を、膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料とする。このようにして調製された試料中では、断片化された細胞膜に種々の膜貫通型チロシンキナーゼが貫通した状態で、その細胞膜が界面活性剤によりミセル化されている。
なお、膜貫通型チロシンキナーゼは、リガンドが結合することによってホモ二量体又はヘテロ二量体を形成することが知られている。上述した方法により調製された試料には、ホモ二量体又はヘテロ二量体を形成可能な程度に立体構造を保持した状態で膜貫通型チロシンキナーゼが含まれている。したがって、上述した方法により調製された試料を用いることにより、より正確に、腫瘍の再発リスク(すなわち、がんの再発リスク)を判定することが可能になる。
ホモジナイズ試薬は、細胞を破砕する際に、膜貫通型チロシンキナーゼが変性するのを防ぐために用いられる。pHとしては、膜貫通型チロシンキナーゼを変性させたり失活させたりすることなく、安定した状態で回収できる範囲であれば特に限定されず、好ましくは4.0〜9.0、より好ましくは4.5〜8.5、さらに好ましくは5.0〜8.0である。
ホモジナイズ試薬は、緩衝剤を含むことが好ましい。緩衝剤としては、例えば、リン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、MOPS(3−モルホチノプロパンスルホン酸)、HEPES〔2−[4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル]エタンスルホン酸〕、Tris〔トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン〕、トリシン〔N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]グリシン〕等が挙げられる。
可溶化処理液も、上記のような緩衝剤を含み、ホモジナイズ試薬と同程度のpHであることが好ましい。なお、ホモジナイズ試薬及び/又は可溶化処理液に、プロテアーゼインヒビター、脱リン酸化酵素阻害剤、SH基の酸化を防ぐための試薬(以下、SH基安定剤とする)等を添加して用いてもよい。
細胞膜の破砕の方法としては、細胞膜を断片化することができれば特に限定されない。例えば、ピペットによる吸引排出、ボルテックスミキサーによる攪拌、ブレンダーによる破砕、ペッスルによる加圧、超音波処理装置による超音波処理等が挙げられる。
可溶化処理液に含まれる界面活性剤は、断片化した細胞膜を可溶化(ミセル化)するために用いることができる。ただし、細胞膜に含まれる膜貫通型チロシンキナーゼを分解したり変性したりしないものを用いることが好ましい。電荷を有する界面活性剤は、膜貫通型チロシンキナーゼに結合して立体構造を変化させる可能性があるため、膜貫通型チロシンキナーゼに実質的に結合しない非イオン性界面活性剤を用いることが好ましい。このような非イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシルエーテル、セチルエーテル、ステアリルエーテル、p−t−オクチルフェニルエーテル等を基本構造として有するものが挙げられる。具体的には、ノニデットP−40(NP−40、Shell International Petroleum Company Limitedの登録商標)、Triton−X(Union Carbide Chemicals and Plastics Inc.の登録商標)、トゥイーン(ICI Americas Inc.の登録商標)、Brij(ICI Americas Inc.の登録商標)、Emulgen(花王株式会社の登録商標)等が挙げられる。可溶化処理液中の界面活性剤の濃度としては、好ましくは0.05〜5%、より好ましくは0.1〜3%、さらに好ましくは0.1〜1%である。
プロテアーゼインヒビターは、膜貫通型チロシンキナーゼが、細胞に含まれるプロテアーゼによって分解されることを防ぐために用いることができる。プロテアーゼインヒビターとしては、例えば、EDTA、EGTA等のメタロプロテアーゼインヒビター、PMSF、トリプシンインヒビター、キモトリプシン等のセリンプロテアーゼインヒビター、ヨードアセトアミド、E−64等のシステインプロテアーゼインヒビター等が挙げられる。これらのプロテアーゼインヒビターは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また、プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ社)のような、あらかじめ複数のプロテアーゼインヒビターが混合された市販品を用いることもできる。
脱リン酸化酵素阻害剤は、膜貫通型チロシンキナーゼの酵素活性が、細胞内に含まれる脱リン酸化酵素によって低下させられることを防ぐために用いることができる。脱リン酸化酵素阻害剤としては、例えば、オルトバナジン酸ナトリウム(NaVO)、フッ化ナトリウム(NaF)、オカダ酸等が挙げられる。脱リン酸化酵素阻害剤は、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
SH基安定剤は、膜貫通型チロシンキナーゼの失活を防ぐために用いることができる。酵素に含まれるSH基は、酸化されてより安定なジスルフィドを形成しやすい。ジスルフィドの形成は、酵素の構造を変化させるため、酵素の失活の原因となることがある。SH基の酸化は、SH基を含有する試薬によって防ぐことができる。SH基安定剤としては、例えば、ジチオスレイトール(DTT)、2−メルカプトエタノール、グルタチオン、システイン、ホモシステイン、補酵素A、ジヒドロリポ酸等が挙げられる。ホモジナイズ試薬及び/又は可溶化処理液中のSH基安定剤の濃度は、SH基安定剤としてDTTを用いる場合には、好ましくは0.05〜2mM、より好ましくは0.07〜1.7mM、さらに好ましくは0.1〜1.5mMである。SH基安定剤として2−メルカプトエタノールを用いる場合には、好ましくは0.1〜15mM、より好ましくは0.3〜13mM、さらに好ましくは0.5〜12mMである。
本実施形態では、細胞から細胞質を分離して複数種類の膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料を調製し、この試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を測定する。
この膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を測定するために、少なくとも2種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対する基質を利用する。具体的には、試料に含まれる膜貫通型チロシンキナーゼと、少なくとも2種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対する基質とを接触させる。この接触によって、試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの活性により基質をリン酸化する。そして、リン酸化された基質を検出し、得られた検出結果に基づいて膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を測定することができる。好ましくは、膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料と、少なくとも2種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対する基質と、リン酸基供与体と、を混合して接触させ、チロシンキナーゼ活性によりリン酸化された基質を検出する。膜貫通型チロシンキナーゼは、自己リン酸化により活性化され、それにより基質をリン酸化してシグナルを伝える。しかしながら、自己リン酸化されていても、基質をリン酸化するとは限らない。ゆえに、基質のリン酸化を検出する方が、より正確に活性値を測定することができる。
上述した少なくとも2種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対する基質としては、特定の膜貫通型チロシンキナーゼに対して特異性の高い各基質の混合物を使用することができる。この混合物は、膜貫通型チロシンキナーゼに対する特異性が異なる複数種類の基質を含む。特定の膜貫通型チロシンキナーゼに対して特異性の高い基質としては、例えば、HER1に対して特異性の高い基質であるGrb2、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ヒストンH2B(HH2B)、ホスホリパーゼC ガンマ等を用いることができる。また、GST EGFR−substrate(スタラタジーン社)のような市販の基質をHER1に対して特異性の高い基質として用いることもできる。GST EGFR−substrate(ストラタジーン社)のような市販の基質をHER1に対して特異性の高い基質として用いることもできる。GST EGFR−substrateは、GSTと、HER1の酵素活性によってリン酸化されるよう人為的に作製された基質との融合タンパク質である。測定において異なる基質の混合物を使用することにより、試料中の種々の膜貫通型チロシンキナーゼからなる膜貫通型チロシンキナーゼ活性値を測定することが可能になる。
また、上述した少なくとも2種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対する基質としては、複数種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対するユニバーサル基質を使用することができる。例えば、ユニバーサル基質は、各膜貫通型チロシンキナーゼに対する共通の基質である。ユニバーサル基質は、第1の膜貫通型チロシンキナーゼ、第1膜貫通型チロシンキナーゼとは異なる第2の膜貫通型チロシンキナーゼ、第1及び第2膜貫通型チロシンキナーゼとは異なる第3の膜貫通型チロシンキナーゼ、並びに第1、第2及び第3膜貫通型チロシンキナーゼとは異なる第4の膜貫通型チロシンキナーゼによりリン酸化されうる。言い換えると、ユニバーサル基質は、様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼによりリン酸化されうる。そのような基質としては、膜貫通型チロシンキナーゼの種類に関わらず、チロシンキナーゼによりリン酸化されるように人為的に作製された、公知の合成ペプチドが挙げられる。例えば、Norio Sasaki et al., 1985, The Journal of Biological Chemistry, Vol.260, No.17, 9793−9804、 Sergei Braun et al., 1984, The Journal of Biological Chemistry, Vol 259, No.4, 2051−2054、及びM. Adbel−Ghany et al., 1990, Proceeding of The National Academy of Science, Vol.87, 7061−7065等の文献において、チロシンキナーゼの基質として使用されている合成ペプチドが挙げられる。これらの文献に開示されている合成ペプチドは、グルタミン酸(以下、Gluと省略する)及びチロシン残基(以下、Tyrと省略する)を含むアミノ酸配列からなり、Tyrが2種類以上のチロシンキナーゼによりリン酸化され得るよう人為的に作製された合成ペプチドである。上記アミノ酸配列としては、具体的には、4つのGluと1つのTyrとからなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列(以下、アミノ酸配列aとする)、1つのGluと1つのTyrとからなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列(以下、アミノ酸配列bとする)、6つのGluと1つのTyrと3つのアラニン残基(以下、Alaと省略する)とからなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列(以下、アミノ酸配列cとする)、1つのGluと1つのTyrと1つのAlaとからなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列(以下、アミノ酸配列dとする)、2つのGluと1つのTyrと6つのAlaと5つのリジン残基(以下、Lysと省略する)とからなる配列が2回以上繰り返されたアミノ酸配列(以下、アミノ酸配列eとする)等が例示できる。なお、Tony Hunter, 1982, The Journal of Biological Chemistry, Vol.257, No.9, 4843−4848の文献において、チロシンキナーゼによるTyrのリン酸化には酸性アミノ酸残基が重要であるという報告があり、これより、特に、酸性のアミノ酸残基であるGluを多く含有するアミノ酸配列aやアミノ酸配列cが好ましい。測定においてこのような基質を使用することにより、試料中に含まれる種々の膜貫通型チロシンキナーゼからなる膜貫通型チロシンキナーゼ活性値を測定することが可能になる。
なお、より正確にがんの再発リスクを評価するためには、できるだけ多くの種類の膜貫通型チロシンキナーゼの活性値を含む膜貫通型チロシンキナーゼ活性値を測定することが好ましい。ゆえに、上述したユニバーサル基質を使用することが好ましい。
膜貫通型チロシンキナーゼが触媒する酵素反応では、自己リン酸化により活性化した膜貫通型チロシンキナーゼの酵素活性により、リン酸基供与体のリン酸化基が基質に取り込まれる。ここで、リン酸基供与体としては、例えば、アデノシン三リン酸(ATP)、アデノシン5’−O−(3−チオトリホスフェート)(ATP−γS)、32P標識したアデノシン5’−O−(3−チオトリホスフェート)(γ−〔32P〕−ATP)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン一リン酸(AMP)等が挙げられる。
上記基質は、アフィニティータグを有することが好ましい。アフィニティータグと、アフィニティータグと結合可能な結合物質を有する固相(以下、結合物質付固相とする)を用いて、基質を回収することができる。具体的には、アフィニティータグを有する基質と、結合物質付固相とが結合した複合体を回収し、回収した複合体におけるアフィニティータグと、結合物質付固相が有する結合物質との結合を解離させることにより、基質を回収することができる。
アフィニティータグは、結合物質に結合可能であり、基質の膜貫通型チロシンキナーゼへの結合や基質のリン酸化を妨害しない物質であれば特に限定されない。アフィニティータグとしては、例えば、ポリペプチド、ハプテン等を用いることができる。具体的には、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(以下、GSTとする)、ヒスチジン、マルトース結合タンパク質、FLAGペプチド(シグマ社)、Mycタグ、HAタグ、Strepタグ(IBA GmbH社)、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン等を用いることができる。
アフィニティータグを有する基質としては、例えば、基質とアフィニティータグとの融合タンパク質を用いることができる。融合タンパク質としては、アフィニティータグと基質とを結合させたものを用いてもよいし、アフィニティータグと基質との融合タンパク質を発現する組換え遺伝子を有するベクターを宿主に導入し、宿主が産生した融合タンパク質を回収して用いてもよい。
結合物質は、アフィニティータグと解離可能に結合できるものであれば特に限定されない。結合物質としては、例えば、グルタチオン、ニッケル、アミロース、FLAG抗体(シグマ社)、Myc抗体、ヘマグルチニン(HA)抗体、Strep−Tactin(IBA GmbH社)等が挙げられる。
固相は、結合物質と結合可能である担体であれば特に限定されない。固相の材質としては、例えば、多糖類、プラスチック、ガラス等が挙げられる。固相の形状としては、例えば、ビーズ、ゲル等が挙げられる。固相の具体例としては、セファロースビーズ、アガロースビーズ、磁性ビーズ、ガラスビーズ、シリコーンゲル等が挙げられる。また、上述したビーズやゲルをカラムに充填して用いることもできる。
アフィニティータグと結合物質付固相との組み合わせとしては、以下のような例が挙げられる。
アフィニティータグとしてGSTを選択した場合、結合物質付固相は、例えばグルタチオンセファロースビーズ(以下、グルタチオンビーズとする)を用いることができる。膜貫通型チロシンキナーゼの酵素活性によってリン酸化したGST−substrateとグルタチオンビーズとを結合させる。これを回収し、還元型グルタチオンを添加すると、GSTとグルタチオンビーズとの結合を解離させることができる。これにより、リン酸化したGST−substrateを回収することができる。リン酸化したGST−substrateを回収する際には、あらかじめGST−substrateとグルタチオンビーズとを結合させてから酵素反応に用いてもよいし、酵素反応後にGST−substrateとグルタチオンビーズとを結合させてもよい。
また、アフィニティータグとしてヒスチジンを選択した場合、結合物質付固相は、例えばニッケルアガロースビーズを用いることができる。ヒスチジンとニッケルとの結合は、例えば、Glycine−HCl等の酸や、イミダゾールを用いて解離することができる。
アフィニティータグとしてマルトース結合タンパク質を選択した場合。結合物質付固相は、例えばアミロース磁性ビーズを用いることができる。マルトース結合タンパク質とアミロースとの結合は、例えば、遊離のアミロースを添加することにより解離させることができる。
アフィニティータグとしてFLAGペプチドを選択した場合、結合物質付固相は、シグマ社のFLAGアフィニティーゲルを用いることができる。FLAGペプチドとFLAGアフィニティーゲルとの結合は、例えば、Glycine−HCl等の酸や、3×FLAGペプチド(シグマ社)を用いて解離させることができる。
アフィニティータグとしてMycタグを選択した場合、結合物質付固相は、例えばMyc抗体を結合したアガロースビーズを用いることができる。また、アフィニティータグとしてHAタグを選択した場合、結合物質付固相は、HA抗体を結合したアガロースビーズを用いることができる。MycタグとMyc抗体との結合、HAタグとHA抗体との結合はどちらも、例えば、酸やアルカリを加えてタンパク質を変性させることにより、解離させることができる。この時、変性したタンパク質を元の状態に戻すことのできる酸又はアルカリを選択することが好ましい。具体的には、例えば、酸では塩酸等、アルカリでは水酸化ナトリウム等が挙げられる。
アフィニティータグとしてStrepタグを選択した場合、結合物質付固相としてはIBA GmbH社のStrep−Tactin固相化ゲルカラムを用いることができる。StrepタグとStrep−Tactinとの結合は、例えば、ストレプトアビジンと可逆的に反応するデスチオビオチンを用いて解離させることができる。
試料中の膜貫通型チロシンキナーゼと基質とを酵素反応させた後、基質を回収する前に、加熱処理、冷却処理、又はEDTA等を用いて酵素反応を停止させてもよい。基質の回収工程において、さらに酵素反応が進んでしまうことがあり、試料ごとに測定結果にバラつきを生じさせる原因となる可能性があるが、酵素反応を停止させることにより、これを回避することができる。
リン酸化された基質を検出するため、標識物質を用いる。標識物質としては、例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素等が挙げられるが、これに限定されない。蛍光物質としては、例えば、フルオレセイン、クマリン、エオシン、フェナントロリン、ピレン、ローダミン等が挙げられる。酵素としては、例えば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ等が挙げられる。放射性同位元素としては、例えば、32P、33P、131I、125I、H、14C、35S等が挙げられる。
リン酸化された基質を検出するため、リン酸化された基質に標識物質を結合させる。例えば、標識物質を有し且つリン酸化された基質に特異的に結合可能な抗体を用いることにより、リン酸化された基質に標識物質を結合させることができる。
あるいは、リン酸化された基質に特異的に結合可能な抗体(以下、リン酸化基質認識抗体とする)と、リン酸化基質認識抗体に結合可能な抗体(以下、二次抗体とする)であって且つ標識物質を有する抗体を用いることにより、リン酸化された基質に標識物質を結合させることができる。この場合、リン酸化基質認識抗体と二次抗体とを介して、標識物質をリン酸化された基質に実質的に結合させることができる。
あるいは、リン酸化基質認識抗体と、ビオチンを有する二次抗体と、標識物質を有するアビジンとを用いることにより、リン酸化された基質に標識物質を結合させることができる。この場合、リン酸化基質認識抗体と二次抗体とビオチンとアビジンとを介して、標識物質をリン酸化された基質に実質的に結合させることができる。なお、二次抗体がアビジンを有し、ビオチンが標識物質を有していてもよい。
あるいは、ビオチンを有するリン酸化基質認識抗体と、標識物質を有するアビジンとを用いてもよいし、アビジンを有するリン酸化基質認識抗体と、標識物質を有するビオチンとを用いてもよい。
標識物質が発するシグナルを検出することにより、リン酸化された基質を検出することができ、これにより膜貫通型チロシンキナーゼの活性を測定することができる。
上述したリン酸化基質認識抗体及び二次抗体は、動物に抗原を接触させて免疫を促し、この動物の血液を精製して得られた抗体、遺伝子組換えによって得られた抗体、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等を用いることができる。また、これらの抗体のうち少なくとも2種類を混合したものを用いることもできる。ここでいう抗体とは、抗体のフラグメント及びその誘導体も含む。具体例としては、Fabフラグメント、F(ab’)フラグメント、F(ab)2フラグメント、sFvフラグメント等(Blazar et al., 1997, Journal of Immunology, 159:5821−5833及びBird et al., 1988, Science, 242:423−426)が挙げられる。抗体のクラスはIgG、IgM等を用いることができるが、これに限定されない。
リン酸化された基質の検出方法は、標識物質の種類により適宜選択される。標識物質が蛍光物質である場合、ウエスタンブロッティングによって基質のリン酸化を検出することができる。リン酸化された基質をメンブレンで分離し、リン酸化基質認識抗体を加えてリン酸化された基質と結合させ、さらに蛍光物質を有する二次抗体をリン酸化基質認識抗体に結合させ、この結合を検出すればよい。リン酸化された基質を、上述したアフィニティータグを用いてあらかじめ分離した場合は、ウエスタンブロッティングの代わりにスロットブロット法を用いて基質のリン酸化を検出することもできる。標識物質として、蛍光物質の代わりに酵素を用いることもできる。酵素を用いる場合、二次抗体の有する酵素を、基質に加えて発光反応させ、この発色を検出すればよい。
また、リン酸化された基質を含む溶液をチューブに収容し、蛍光物質を有するリン酸化基質認識抗体を加えてリン酸化された基質と結合させ、蛍光強度を測定することにより、基質のリン酸化を検出することもできる。
標識物質が酵素である場合、固相酵素免疫検定法(以下、ELISA法とする)によって基質のリン酸化を検出することができる。ELISA法には、直接吸着法及びサンドイッチ法が含まれる。
直接吸着法では、リン酸化された基質を固相の表面に吸着させ、酵素を有するリン酸化基質認識抗体を加え、リン酸化された基質と結合させる。次に、リン酸化基質認識抗体が有する酵素を、基質に加えて発色反応させ、この発色を検出すればよい。
サンドイッチ法では、固相にリン酸化基質認識抗体を結合させ(以下、固相抗体とする)、リン酸化された基質に加えて固相抗体と結合させる。次に、酵素を有するリン酸化基質認識抗体(以下、標識抗体とする)を加え、リン酸化された基質と結合させる。標識抗体の有する酵素を、基質に加えて発色反応させ、この発色を検出すればよい。
例えば、酵素がアルカリホスファターゼである場合、基質としてニトロテトラゾリウムブルークロライド(NBT)及び5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルホスフェイト(BCIP)の混合溶液を用いて反応させ、発色させることができる。酵素がペルオキシダーゼである場合、基質としてジアミノベンジジン(DAB)を用いて反応させ、発色させることができる。
サンドイッチ法を用いる場合、固相抗体と標識抗体とは、リン酸化された基質の異なる部位に結合することが好ましい。すなわち、リン酸化された基質に複数の抗体結合部位があるか、用いる2種類の抗体がリン酸化された基質の異なる抗原決定基を認識することが好ましい。
標識物質が放射性同位元素である場合、放射線免疫検出法(以下、RIAとする)によって基質のリン酸化を検出することができる。具体的には、放射性同位元素を有するリン酸化基質認識抗体をリン酸化された基質に結合させ、放射線をシンチレーションカウンター等によって測定し、基質のリン酸化を検出することができる。
このようにして、本実施形態の方法では、試料中の種々の膜貫通型チロシンキナーゼからなる膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を測定する。そして、得られた包括的な活性値は、細胞に存在する様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼの活性を反映したものである。ゆえに、上述した方法において、がん患者から採取した腫瘍組織中の細胞を使用して包括的な活性値を測定する場合、得られた包括的な活性値に基づいて、腫瘍の再発リスク(すなわち、がんの再発リスク)を精度よく評価することが可能になる。
がんの再発リスクは、上述したような方法で得られた、試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいて評価することができる。具体的には、得られた膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と所定の閾値とを比較し、前記活性値が閾値より小さい場合に、がんの再発リスクが低いと評価することができる。
閾値は、測定対象の腫瘍細胞の種類等によって適宜決められる。閾値は、例えば、再発の有無が既知の複数のがん患者から得られた膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいて設定することができる。具体的には、複数のがん患者から採取した悪性腫瘍の細胞の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値の情報と当該がん患者の再発の有無の情報とに基づいて、当該がん患者の集団を再発リスクが異なる群(例えば、再発リスクが高い群と低い群)に区別できる膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値の値を選択し、それを閾値とすればよい。例えば、測定対象が乳がん由来の腫瘍細胞の場合、次のような方法で閾値を設定することができる。複数の乳がん患者から採取された乳がん細胞の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値の情報と当該乳がん患者の摘出手術後5年間の再発の有無の情報に基づいて、当該乳がん患者の集団を再発リスクが高い群(高リスク群)と低い群(低リスク群)とに区別できる膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値の値を選択すればよい。
また、複数の閾値を設定することにより、当該がん患者の集団を再発リスクが高い群(高リスク群)、中程度の群(中リスク群)、低い群(低リスク群)など多段階にがんの再発リスクを評価することも可能である。
上述したように、膜貫通型チロシンキナーゼは細胞のがん化に関わるものである。また、上記の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値は、細胞膜に存在する様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼの活性値である。以上のことから、この膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を用いることにより、腫瘍細胞のがん化を精度よく捉えることができる。
よって、この第一の実施形態の判定方法を用いると、精度よく再発リスクを判定することができる。
また、本発明の第2の実施形態の判定方法は、上述した膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と、さらに、前記腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の発現量及び活性値に基づいて得られるCDKのパラメータ(CDKパラメータ)とに基づいて、がんの再発リスクを判定するものである。
上記判定は、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と第一の閾値とを比較し、CDKパラメータと第二の閾値とを比較することにより行われる。
膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と第一の閾値との比較は、上述した第1の実施形態で示した方法と同様に行うことができる。なお、本実施形態では、上記の第1の実施形態で示した「閾値」を「第一の閾値」と表記する。
本実施形態では、さらに、CDKパラメータと第二の閾値とを比較する。
このCDKパラメータは、腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の発現量及び活性値に基づいて得られるCDKのパラメータであればよい。CDKパラメータとしては、例えば、腫瘍細胞のCDKの活性値と発現量との比(CDK比活性)が挙げられる。さらに、腫瘍細胞の第一のサイクリン依存性キナーゼ(第一CDK)の活性値と発現量との比(第一CDK比活性)並びに腫瘍細胞の第二のサイクリン依存性キナーゼ(第二CDK)の活性値と発現量との比(第二CDK比活性)に基づいて得られる、第一CDK比活性と第二CDK比活性との比(CDK比活性比)が挙げられる。CDKパラメータとしては、CDK比活性比がより好ましい。
CDKは、がん患者における悪性腫瘍の状態を正確に反映するパラメータとして知られている。CDKとは、サイクリンというタンパク質が結合することによって活性化される酵素の総称で、その種類に応じて細胞周期の特定時期で機能している。CDKの種類としては、CDK1、CDK2、CDK3、CDK4、CDK5、CDK6、CDK7等が挙げられる。本実施形態では少なくとも2種類のCDK(第一CDK及び第二CDK)を用いることが好ましく、CDK1及びCDK2の組み合わせを用いることが特に好ましい。すなわち、第一CDKがCDK1であり、第二CDKがCDK2であるか、又は、第一CDKがCDK2であり、第二CDKがCDK1であることが好ましい。
そして、好ましいCDKパラメータとしては、CDK1比活性とCDK2比活性の組み合わせ、又は、CDK2比活性とCDK1比活性との比(CDK比活性比)が挙げられ、特にCDK2比活性とCDK1比活性との比(CDK比活性比)が好ましい。
第一CDK比活性は、腫瘍細胞の第一のサイクリン依存性キナーゼ(第一CDK)の活性値と発現量との比であって、第一CDKの活性値を発現量で除することにより得られる値(活性値/発現量=比活性)を用いることができる。第二CDK比活性は、腫瘍細胞の第二のサイクリン依存性キナーゼ(第二CDK)の活性値と発現量との比であって、第二CDKの活性値を発現量で除することにより得られる値(活性値/発現量=比活性)を用いることができる。
CDK比活性比は、それぞれ上記のようにして求められた第一CDK比活性と第二CDK比活性との比である。第一CDK比活性と第二CDK比活性との比としては、第一CDK比活性を第二CDK比活性で除することにより得られる値、第二CDK比活性を第一CDK比活性で除することにより得られる値等を用いることができる。
CDK比活性比は、腫瘍細胞から第一CDKの活性値及び第二CDKの活性値を測定する活性測定工程と、腫瘍細胞から第一CDKの発現量及び第二CDKの発現量を測定する発現測定工程と、第一CDKの活性値と発現量との比(第一CDK比活性)、及び前記第二CDKの活性値と発現量との比(第二CDK比活性)を算出する比活性算出工程と、比活性算出工程により得られた第一CDK比活性と第二CDK比活性との比(CDK比活性比)を算出する比活性比算出工程と、によって得られる。
第二の閾値は、測定対象の腫瘍細胞等によって適宜決められる。第二の閾値は、例えば、再発の有無が既知の複数のがん患者から得られたCDKパラメータに基づいて設定することができる。具体的には、複数のがん患者から採取した悪性腫瘍の細胞のCDKパラメータの情報と当該がん患者の再発の有無の情報とに基づいて、当該がん患者の集団を再発リスクが異なる群(例えば、再発リスクが高い群と低い群)に区別できるCDKパラメータの値を選択し、それを第二の閾値とすればよい。例えば、測定対象が乳がん由来の腫瘍細胞の場合、次のような方法で第二の閾値を設定することができる。複数の乳がん患者から採取された乳がん細胞のCDKパラメータの情報と当該乳がん患者の摘出手術後5年間の再発の有無の情報に基づいて、当該乳がん患者の集団を再発リスクが高い群(高リスク群)と低い群(低リスク群)とに区別できるCDKパラメータの値を選択すればよい。
また、上記第一の閾値と組み合わせることによって、当該がん患者の集団を再発リスクが異なる群に区別できるCDKパラメータの値を選択し、それを第二の閾値とすればよい。例えば、測定対象が乳がん由来の腫瘍細胞の場合、次のような方法で閾値を設定することができる。上記第一の閾値により区別された高リスク群及び/又は低リスク群を、さらに、再発リスクが高い群(高リスク群)と低い群(低リスク群)とに区別できるCDKパラメータの値を選択し、それを第二の閾値とすればよい。
また、複数の第二の閾値を設定することにより、当該がん患者の集団を再発リスクが高い群(高リスク群)、中程度の群(中リスク群)、低い群(低リスク群)など多段階にがんの再発リスクを評価することも可能である。
CDKの活性値及び発現量の測定に供される測定用試料は、上記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値の測定に使用した腫瘍組織中の細胞を用いて調製される。CDKの活性値や発現量が測定できれば、その調製方法は特に限定されない。測定用試料としては、細胞可溶化液を用いることができる。細胞可溶化液とは、がん患者から採取した腫瘍組織に緩衝液を添加し、緩衝液中で腫瘍組織中の腫瘍細胞を物理的及び/又は化学的に破砕することにより得られる試料のことである。CDKの活性値又は発現量を測定する場合、細胞可溶化液を遠心分離して得られる上清を測定用試料として用いることが好ましい。ここで用いられる緩衝液には、界面活性剤やプロテアーゼインヒビター等を適宜含有させてもよい。
CDKの活性値及び発現量の測定方法は特に限定されず、従来公知の方法で測定することができる。例えば、上記特許文献1に開示の方法、特開2007−61088号公報に開示の方法等を用いることができる。
再発リスクの判定は、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と第一の閾値とを比較し、CDKパラメータと第二の閾値とを比較することにより行われる。例えば、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値が第一の閾値よりも小さく、且つ、CDKパラメータが第二の閾値よりも小さい場合に、がんの再発リスクが小さいと判定することができる。
上述したように、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を用いることにより、腫瘍細胞のがん化を精度よく捉えることができる。
さらに、CDKは細胞の増殖に深く関わるため、CDKパラメータを用いることにより、腫瘍細胞の増殖能を精度よく捉えることができる。ここで、細胞の増殖能は、がんの再発リスクを左右する1つの大きな要素である。
よって、この第二の実施形態の判定方法を用いると、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値とCDKパラメータの両方を用いることにより、さらに精度よく再発リスクを判定することができる。
上記本実施形態の方法は、コンピュータにおいて実行させることが好ましい。以下、上記第二の実施形態の判定方法を実施するためのコンピュータシステム(図1)及び判定フロー(図2)について説明する。なお、ここで説明する第二の実施形態の判定方法では、CDKパラメータとして、CDK2比活性とCDK1比活性との比(CDK比活性比)が使用されている。
図1に示すシステム100は、コンピュータ本体110、必要データをコンピュータ本体110に入力する入力デバイス130、及び入出力データ等を表示するディスプレイ120を備え、さらに必要に応じて外部記録媒体140が含まれ得る。ここで、本実施形態のプログラム140aは、外部記録媒体140に記録されていてもよいし、コンピュータ本体110に備え付けの記憶装置110b〜110dに保存されていてもよい。コンピュータ本体110内において、CPU110a、記憶装置110b〜110d、入出力インターフェイス110f、画像出力インターフェイス110h、読出装置110eは、それぞれバス110iにて、データの送受信可能なように接続されている。
図2は、上記第一の判定方法による再発リスク判定を実行するためのプログラムの動作を示すフローチャートであり、このプログラムは記憶装置(ハードディスク)110dに格納されている。
まず、入力デバイス130により検体の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値(以下、第一パラメータという)及びCDKのパラメータであるCDK2比活性とCDK1比活性との比(CDK2比活性/CDK1比活性:CDK比活性比)(以下、第二パラメータという)が入力されると、CPU110aが入出力インターフェイス110fを介してこれらのパラメータデータを取得し、RAM110cに記憶させる(ステップS11)。
CPU110aは、予めプログラムのデータとして記憶装置(ハードディスク)110dに記憶されていた第一パラメータに対応する第一の閾値、及び第二パラメータに対応する第二の閾値を呼び出す。そして、第一の閾値と第一パラメータデータとの比較、及び第二の閾値と第二パラメータデータとの比較を実行する(ステップS12)。
次に、CPU110aは、比較結果に基づいて再発リスクの予測判定を行う(ステップS13)。CPU110aは、第一パラメータが第一の閾値未満であり、且つ第二パラメータが第二の閾値未満である場合には、再発リスク「低」と判定する。
そして、CPU110aは、上記の判定結果をRAM110cに格納するとともに、画像出力インターフェイス110hを介してディスプレイ120に出力する(ステップS14)。
なお、本実施形態においては、各種パラメータデータや活性値等を、入力デバイス130を用いて入力したが、これに限定されるものではなく、例えば、操作者による入力ではなく、各種パラメータデータや活性値等が測定装置から入出力インターフェイス110fを介して自動的に取得されるようにしてもよい。また、CDK比活性比として、CDK2比活性/CDK1比活性の値を入力したが、CDK1の発現量と活性値及びCDK2の発現量と活性値を入力し、CPU110aがこれらの値からCDK2比活性/CDK1比活性の値を算出して、この値を閾値との比較に用いてもよい。また、ディスプレイ120に出力するのは判定結果だけで限られず、例えば、第一パラメータ及び第二パラメータをそれぞれの閾値と比較した結果を判定結果と一緒に出力してもかまわない。
以下、本発明の方法について、実施例に基づき、より具体的に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されない。
以下の実施例では、複数種類の膜貫通型チロシンキナーゼの種類に対するユニバーサル基質を使用した。まず、基質を作製する方法を説明する。
チロシンキナーゼの基質の作製
4つのグルタミン酸残基と1つのチロシン残基とからなる配列が5回繰り返されたアミノ酸配列(配列番号1)からなるペプチド(以下、poly(Glu,Tyr)ペプチドとする)とGSTとの融合タンパク質を作製し、この融合タンパク質を、膜貫通型チロシンキナーゼの種類にかかわらず膜貫通型チロシンキナーゼによりリン酸化され得る基質として用いた。以下、この融合タンパク質をGST−poly(Glu,Tyr)基質とする。
GST−poly(Glu,Tyr)基質は、以下の方法で作製した。poly(Glu,Tyr)ペプチドのアミノ酸配列(配列番号1)をコードするDNA(配列番号2)、このDNAの塩基配列を基に設計したセンスプライマー(配列番号3)及びアンチセンスプライマー(配列番号4)及びKODplusDNApolymerase(東洋紡株式会社)を用いてPCRを行った。PCRにより得られた増幅産物(以下、poly(Glu,Tyr)DNAとする)及びGST融合タンパク質発現用のプラスミドベクターであるpGEX−4T−3(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を制限酵素(BamH1及びEcoR1)で処理し、poly(Glu,Tyr)DNAをpGEX−4T−3に組み込み、組換えプラスミドを作製した。この組換えプラスミドを大腸菌JM109にトランスフォームし、この大腸菌を液体培地(LB培地)中で培養液の吸光度(600nm)が0.6になるまで培養した。この培養した大腸菌に1mM IPTG(培養液中の濃度)を添加して4時間培養し、発現を誘導した。次に、大腸菌を溶菌し、グルタチオンセファロース4B(GEヘルスケアバイオサイエンス株式会社)を用いてGST−poly(Glu,Tyr)基質を回収した。このGST−poly(Glu,Tyr)基質のアミノ酸配列を配列番号5に示した。
次に、作製したGST−poly(Glu,Tyr)基質が、種々の膜貫通型チロシンキナーゼによりリン酸化されることを確認した。
参考例
GST−poly(Glu,Tyr)基質のリン酸化の検出
市販の膜貫通型チロシンキナーゼの細胞内ドメイン(intracellular domain;ICD)を用いてGST−poly(Glu,Tyr)基質をリン酸化し、ウエスタンブロッティングによりリン酸化したGST−poly(Glu,Tyr)基質を検出した。なお、膜貫通型チロシンキナーゼは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内ドメインから構成されており、細胞内ドメインにチロシンキナーゼの活性を示す部位が存在する。
(反応用試料の調製)
緩衝液1(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl、1% NP−40、1mM DTT、0.2%プロテアーゼインヒビター(以下、PIとする)、10%グリセロール、200μM NaVO及び50mM NaFを含む)50μlと市販の膜貫通型チロシンキナーゼのICD 0.5pmolとを混合し、これを反応用試料として以下の酵素反応に用いた。ここでは、ICDとして、PDGF Receptor β Kinase(以下、PDGFR−βとする)、VEGF Receptor 1 Kinase(以下、VEGFR1とする)、VEGF Receptor 2 Kinase(以下、VEGFR2とする)、EGF Receptor 1 Kinase(以下、HER1とする)、ErbB2 Kinase(以下、HER2とする)、ErbB4 Kinase(以下、HER4とする)、IGF−1Receptor Kinase(以下、IGF1Rとする)(全てCell Signaling Technology社)を用いた。なお、緩衝液1とPDGFR−βとを混合したものを反応用試料iとし、緩衝液1とVEGFR1とを混合したものを反応用試料iiとし、緩衝液1とVEGFR2とを混合したものを反応用試料iiiとし、緩衝液1とHER1とを混合したものを反応用試料ivとし、緩衝液1とHER2とを混合したものを反応用試料vとし、緩衝液1とHER4とを混合したものを反応用試料viとし、緩衝液1とIGF1Rとを混合したものを反応用試料viiとする。
(酵素反応)
反応用試料i25μlと、GST−poly(Glu,Tyr)基質を含む基質溶液1(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl、1mM DTT、1% NP−40、0.2% PI、10%グリセロール、200μM NaVO、50mM NaF、40μM ATP及び5μg GST−poly(Glu,Tyr)基質を含む)25μlとを混合し、25℃で60分間インキュベートした。この反応液に、SDSサンプルバッファーpH6.8(200mM Tris、40%グリセロール、8% SDS、及び10% 2−メルカプトエタノールを含む)25μlを加え、100℃で5分間ボイルして酵素反応を停止した。このようにして調製された溶液をSDS用試料i(+)とする。同様にして、反応用試料ii〜viiからSDS用試料ii(+)〜vii(+)を調製した。
また、反応用試料i 25μlと、ATPを含まない基質溶液2(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl、1mM DTT、1% NP−40、0.2% PI、10%グリセロール、200μM NaVO、50mM NaF、及び5μg GST−poly(Glu,Tyr)基質を含む)25μlとを混合し、25℃で60分間インキュベートした。この反応液に、上述したSDSサンプルバッファー25μlを加え、100℃で5分間ボイルして酵素反応を停止した。このようにして調製された溶液をSDS用試料i(−)とする。同様にして、反応用試料ii〜viiからSDS用試料ii(−)〜vii(−)を調製した。基質溶液2は、ATPが含有されていない点を除いて、基質溶液1と同じ組成である。そして、SDS用試料i(−)〜vii(−)は、SDS用試料i(+)〜vii(+)のネガティブコントロールとして使用した。
(リン酸化されたGST−poly(Glu,Tyr)基質の検出)
各SDS用試料をポリアクリルアミドゲル〔PAGミニ「第一」4/20(13W)(第一化学薬品株式会社)〕を別々のウェルに注入し、泳動槽〔カセット電気泳動槽「第一」DPE−1020(ミニ2連式)(第一化学薬品株式会社)〕を用いて25mAで70分間電気泳動した。電気泳動によって分離したタンパク質を、ミニトランスブロットセル(バイオラッド社)を用いて100Vで1時間電圧をかけ、ポリアクリルアミドゲルからポリビニリデンフロライド(PVDF)メンブレン〔Immobilon−FL 0.45μm ポアサイズ(ミリポア社)〕に転写した。このPVDFメンブランを、4%ブロックエース(大日本住友製薬株式会社)溶液で60分間ブロッキングした。ブロッキングしたPVDFメンブランを、一次抗体溶液〔0.4%ブロックエース及び0.5μg/ml Anti−Phosphotyrosine clone 4G10(upstate社)を含む〕2ml中で60分間振とうした後、TBS−T(25mM Tris、150mM NaCl及び0.1% Tween−20を含む)で3回洗浄した。次に、このPVDFメンブランを、二次抗体溶液〔0.4%ブロックエース及び2.7μg/ml抗マウスイムノグロブリン・ウサギポリクローナル抗体 FITC標識(DAKO社)を含む〕2ml中で60分間振とうした後、TBS−Tで3回洗浄した。このPVDFメンブランを乾燥させ、画像解析装置〔Pharos FX system(バイオラッド社)〕を用いて解析し、蛍光を検出した。このようにしてウエスタンブロッティングにより、SDS用試料i(+)〜vii(+)及びSDS用試料i(−)〜vii(−)に含まれるリン酸化されたGST−poly(Glu,Tyr)基質を検出した。
図3は、ウエスタンブロッティングの結果を示す蛍光写真である。図中のiは膜貫通型チロシンキナーゼとしてPDGFR−βを、iiはVEGFR1を、iiiはVEGFR2を、ivはHER1を、vはHER2を、viはHER4を、viiはIGF1Rを用いた場合の結果を示す。また、i〜viiの各写真においては、−は、ATPを含まない基質溶液2を用いて調製したSDS用試料から得られた結果である。+は、ATPを含む基質溶液1を用いて調製したSDS用試料から得られた結果である。P−ICDは、自己リン酸化した膜貫通型チロシンキナーゼが発現する位置を示し、P−GST−poly(Glu,Tyr)は、リン酸化したGST−poly(Glu,Tyr)基質が出現する位置を示している。
図3のi〜viiの全ての+において、リン酸化したGST−poly(Glu,Tyr)基質が出現する位置に単一のバンドが見られた。これより、上記(1)で作製されたGST−poly(Glu,Tyr)基質が、多くの種類の膜貫通型チロシンキナーゼによりリン酸化されることがわかった。
なお、図3のii、iii、iv、vi及びviiの−において、リン酸化したGST−poly(Glu,Tyr)基質が出現する位置にバンドが見られないのは、酵素反応において反応液にATPが含まれず、GST−poly(Glu,Tyr)基質がリン酸化されなかったためであると考えられる。一方、図1のi及びvの−において、リン酸化したGST−poly(Glu,Tyr)基質が出現する位置に非常に薄いバンドが見られたが、この原因としては、検出に用いた抗体が非特異的に結合したため、又は、測定で使用した製品に微量のATPが混在していたため、等が考えられる。
実施例1
本例では、がん患者から採取した腫瘍細胞から膜貫通型チロシンキナーゼを含む反応用試料を調製し、GST−poly(Glu,Tyr)基質を用いて測定用試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を測定し、この活性値に基づいてがんの再発リスクを判定した。
(1)反応用試料の調製
乳がん患者31名(患者1〜31)から摘出した腫瘍組織31検体(約8〜125mm)から下記のようにして反応用試料1〜31を調製した。なお、31検体についての、病理医の判定結果(TNM分類、リンパ節転移の状態、がん組織の大きさ、術後5年間の再発の有無及び再発場所)を表1に示す。患者1〜31には、早期がん(ステージI又はIIA)だけでなく、進行がん(ステージIIB又はIIIA)も含まれている。
表1中、「LN」は、手術時のリンパ節転移の状態を示し、「a」は所属リンパ節に転移が認められなかったもの、「b」は所属リンパ節のうち1〜3個に転移が認められたもの、「c」は所属リンパ節のうち4個以上に転移が認められたものに分類される。「T」は、手術時の原発巣のサイズを示し、腫瘍径2cm以下を「a」、腫瘍径2〜5cmを「b」、腫瘍径5cm以上を「c」で示す。
反応用試料1〜31の調製方法は以下のとおりである。
各腫瘍組織と細胞処理液(20mM HEPES pH7.4、0.2% PI、10%グリセロール、200μM NaVO、及び50mM NaFを含む)1mlとを混合し、ペッスルを用いて加圧することにより細胞膜を破壊し、細胞溶液を調製した。得られた細胞溶液を遠心分離し、上清を廃棄して沈殿物を回収した。回収した沈殿物を細胞膜可溶化液(20mM HEPES pH7.4、1% NP−40、0.2% プロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ社)、10%グリセロール、200μM NaVO、及び50mM NaFを含む)とを混合し、ペッスルを用いて加圧することにより細胞膜を可溶化し、遠心分離して上清を回収した。この上清を反応用試料として用いた。
(2)キナーゼ反応
各チューブに反応溶液(20mM HEPES pH7.4、200μM NaVO、50mM NaF、1mM DDT、10mM MnCl、0.2% PI、10%グリセロール及び200μM ATPを含む)50μlを入れ、その中に上記(1)で調製した反応用試料1〜31をそれぞれ10μg、及び参考例(1)において調製したGST−poly(Glu,Tyr)基質5μgを加え、25℃で30分間インキュベートした。インキュベート後、50μlの10mM EDTAを添加して、反応を停止させた。こうして得られた溶液を測定用試料1〜31とする。
(3)SDS−PAGE及びウエスタンブロッティング
測定用試料1〜31にそれぞれ4×SDS−PAGEサンプルバッファー33μlを添加し、100℃で5分間加熱した。そして、加熱した測定用試料1〜31をそれぞれ13μlずつ電気泳動槽(Bio−Rad社、Cat.No.303111)にセットしたプレキャストゲル(PAGEミニ第一4/20)の別々のウェルに注入し、電気泳動を行った。電気泳動終了後、硝子板からウェルを外し、ミリポア社製Immobilon−FLメンブラン(Cat.No.S1EJ084E03)にゲルのタンパク質を転写した。タンパク質転写後のメンブランをブロックエース(大日本住友製薬製、Cat.No.UK−B80)に漬け、1時間室温でブロッキングした。その後、1×TBS−T(20mM Tris−HCl pH7.4、150mM NaCl、0.1% Tween20)で5分間洗浄することを3回繰り返した。そのメンブランを、1/10希釈したブロックエースで2000倍に希釈した一次抗体〔anti−phosphotyrosine clone 4G10(UPSTATE社、Cat.No.05−321)〕液に漬け、1時間室温で振とうさせた。その後、1×TBS−Tで5分間洗浄することを3回繰り返した。そして、1/10希釈したブロックエースで1000倍に希釈した二次抗体〔polyclonal rabbit anti−mouse immunogloblins/FITC(DAKO社、Cat.No.F0261)〕液に漬け、1時間室温で振とうさせ、1×TBS−Tで5分間洗浄することを3回繰り返した。メンブランを乾燥させ、シグナルをイメージャー(Bio−Rad社製、MOLECULAR IMAGER FX)で検出し、バンドの濃さを数値化したものを活性値とした。
(4)閾値の設定
乳がん患者31名を手術後5年間に再発したか否かで再発グループと非再発グループとに分け、患者のグループ(横軸)に対して乳がん患者31名について測定した膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を縦軸としたグラフを作成した。そのグラフを図4に示す。そして、再発グループと非再発グループとを高値群と低値群とに分離できる活性値を閾値とした。閾値は100000であり、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値が閾値(100000)より小さい場合を再発リスクが小さい(再発リスク「低」)と判断した。
(5)再発リスク判定
表1及び図4に示された結果から、乳がん患者31例のうち術後5年間で再発を起こしたのは10例であった(再発率32%)。一方、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいて再発リスクを判定した場合、図4に示された結果から、乳がん患者31例のうち7例が再発リスク「低」と判定され、この7例のうち術後5年間で再発を起こしたのは1例であった(再発率14%)。
以上より、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と閾値とを比較することにより再発リスクが低い群を分類することができ、再発を起こすか否かを予測することができる。また、この予測結果を、早期がんだけでなく進行がんの患者の治療方針を決定する際の指標とすることができる。
実施例2
本例では、実施例1と同じがん患者から採取した腫瘍細胞を用い、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値とCDK比活性比とを測定し、この活性値及びCDK比活性比に基づいてがんの再発リスクを判定した。
なお、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値は実施例1で測定した値を使用する。
(1)CDK測定用試料の調製
実施例1で使用した腫瘍組織31検体について、緩衝液中の腫瘍組織が約150mg/mlとなるように緩衝液A〔0.1w/v% ノニデットP−40(カルビオケム社)、50mM Tris−HCl pH7.4、5mM EDTA、50mM NaF、1mM NaVO及び100μl/mlプロテアーゼインヒビターカクテル(シグマ社)を含む〕と腫瘍組織とをチューブに収容した。
電動ホモジナイザを用いて、緩衝液A中で腫瘍組織をホモジナイズし、腫瘍細胞を破砕して細胞可溶化液を調製した。次に、細胞可溶化液を4℃で15000rpm、5分間遠心分離し、上清をCDK測定用試料として用いた。
(2)CDK1及びCDK2の発現量の測定
PVDFメンブレン(ミリポア社製)をセットしたブロッターの各ウェルに、CDK測定用試料を50μlずつ収容し、ウェルの底面、すなわちメンブレンの裏面から負圧約250mmHgで約30秒間吸引してメンブレンにCDK測定用試料中のタンパク質を吸着させた。
ウェルに洗浄液B(250mM Tris−HCl、pH7.4及び150mM NaClを含む)を100μl収容し、負圧500mmHgで15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。
洗浄後、ブロッキング試薬B(4% BSA、25mM Tris−HCl、pH7.4及び150mM NaClを含む)を各ウェルに40μl収容し、15分間静置した後、負圧500mmHgで15秒間吸引してメンブレンをブロッキングした。
ブロッキング後、ウェルにCDK1に特異的に結合するウサギ抗CDK1抗体(一次抗体:サンタクルズ社)溶液40μlを収容し、室温で約30分間静置してメンブレンのCDK1と一次抗体とを反応させた後、ウェル底面から負圧500mmHgで約15秒間吸引した。
ウェルに洗浄液Bを100μl収容し、負圧500mmHgで15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。
ウェルにビオチン化した抗ウサギCDK1抗体(二次抗体:サンタクルズ社)溶液40μlを収容し、室温で約30分間静置してメンブレンの一次抗体と二次抗体とを反応させた後、ウェル底面から負圧500mmHgで約15秒間吸引した。
ウェルに洗浄液Bを100μl収容し、負圧500mmHgで15秒間吸引してメンブレンを洗浄した。
ウェルにFITCで標識したストレプトアビジンを含む標識溶液50μlを収容し、室温で約30分間静置して、メンブレンの二次抗体をFITCで標識した後、ウェル底面から負圧500mmHgで約15秒間吸引した。
ウェルに洗浄液Bを50μl収容し、負圧500mmHgで15秒間吸引した。これを5回繰り返し、メンブレンを洗浄した。
メンブレンをブロッターからとりはずし、20%メタノールで約5分間濯ぎ、約20分間室温で乾燥させた後、メンブレンに吸着されたタンパク質の蛍光強度を、蛍光イメージアナライザMolecular Imager FX(バイオラッド社)によって分析、測定した。測定値は検量線をもとに算出した。
検量線は、0.005%ノニデットP−40及び50μg/ml BSAを含む洗浄液B中に、5種類の濃度の組換えCDK1を溶解した溶液を、上記と同様に処理したウェルに50μlずつ注入し、上記と同様の実験手順でFITC標識し、蛍光強度を測定して、蛍光強度とCDK1発現量との関係を表すことにより作成した。
CDK2発現量の測定は、一次抗体としてウサギ抗CDK1抗体ではなくウサギ抗CDK2抗体を用いること以外は、上述のCDK1の発現量測定と同様の実験手順で行った。
(3)CDK1及びCDK2の活性測定
1.5mlエッペンドルフチューブに緩衝液Aを500μl収容し、さらにCDK測定用試料を添加した。CDK測定用試料は、チューブに収容した混合液中の全タンパク質量が100μgとなるように調節して添加された。
ここに抗CDK1抗体(サンタクルズ社)2μg及び20μlのプロテインAをコートしたセファロースビーズ(バイオラッド社)を加えて4℃で1時間静置してCDK1と抗CDK1抗体とを反応させた。
反応後、ビーズをビーズ洗浄用緩衝液(0.1w/V% ノニデットP−40及び50mM Tris−HCl、pH7.0を含む)で3回洗浄し、15μlの緩衝液A中に再懸濁させて、抗CDK1抗体を介してCDK1が結合したセファロースビーズを含む試料を得た。
この試料に、CDK1の基質溶液(10μgヒストンH1(アップステイトバイオテクノロジー社)10μg、5mM ATP−γS(シグマ社)、20mM Tris−HCl、pH7.4及び0.1% TritonX−100を含む)を添加した。基質溶液は、チューブに収容した混合液の総量が50μlとなるように調節して添加された。これを37℃で10分間振とうしてキナーゼ反応を行い、ヒストンH1にモノチオリン酸基を導入した。
キナーゼ反応後、2000rpmで20秒間遠心分離してビーズを沈殿させ、上清18μlを採取した。
この上清に、結合緩衝液(150mM Tris−HCl、pH9.2及び5mM EDTAを含む)15μlと、10mM ヨードアセチルビオチン溶液(100mM Tris−HCl、pH7.5及び1mM EDTAを含む)とを添加して室温で90分間、暗所で静置することにより、モノチオリン酸基が導入された基質(モノチオリン酸化基質)の硫黄原子にヨードアセチルビオチンを結合させた。
ヨードアセチルビオチンとモノチオリン酸基との反応の停止は、2−メルカプトエタノールを添加することより行った。
ヨードアセチルビオチンが結合したモノチオリン酸化基質0.4μgを含む試料を、スロットブロッターを用いてPVDFメンブレン上にブロットした。
このPVDFメンブレンを1w/v% BSAを含む溶液でブロッキングし、ストレプトアビジン−FITC(ベクター社)を添加して37℃で1時間反応させた。
反応後、PVDFメンブレンを50mMの洗浄液Bで3回洗浄した。
洗浄後、蛍光イメージアナライザMolecular Imager FX(バイオラッド社)を用いてPVDFメンブレンの蛍光分析を行った。活性値は、検量線に基づいて算出された。
検量線は、2種類の濃度のタンパク質(ビオチン標識免疫グロブリン)を含む溶液をPVDFメンブレンにブロットし、上記と同様の方法でFITC標識し、タンパク質の蛍光強度を蛍光イメージアナライザで測定することによって作成した。したがって、測定されるCDK1の活性1U(ユニット)は、前記タンパク質1ngのときの蛍光量と同等の蛍光強度を示す値をいう。
CDK2の活性値は、抗CDK2抗体(サンタクルズ社)を用いること以外はCDK1の活性値の測定と同様にして測定された。
(4)CDK比活性の算出
上記で測定したCDK活性値及びCDK発現量から、下記式により、CDK比活性(mU/ng)を算出した。
CDK比活性=CDK活性値/CDK発現量
(5)閾値の設定
CDK1比活性とCDK2比活性との比(CDK2比活性/CDK1比活性=CDK比活性比)に対応する第二の閾値を設定し、この第二の閾値とCDK比活性比とを比較した結果と、実施例1の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と閾値(第一の閾値)とを比較した結果とを組み合わせてがんの再発リスクの判定を行った。
乳がん患者31名のCDK比活性比(横軸)に対して膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値を縦軸としたグラフを作成した。そのグラフを図5に示す。第一の閾値は、実施例1と同じく100000とした。そして、第二の閾値は、15に設定した。この値は、CDK比活性比を高値群と低値群とに分離できる値である。膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値が第一の閾値(100000)より小さく、且つ、CDK比活性比が第二の閾値(15)より小さい場合に、再発リスクが小さい(再発リスク「低」)と判断した。
(6)再発リスク判定
図5に示された結果から、乳がん患者31例のうち28例が、そのCDK比活性比が第二の閾値(15)未満であった。その28例のうち、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値が第1の閾値(100000)未満であった例は6例であり、この6例が再発リスク「低」と判断された。そして、この6例のうち術後5年間で再発を起こしたのは0例であった。
以上より、膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と第一の閾値との比較結果と、CDKのパラメータであるCDK比活性比と第二の閾値との比較結果とを組み合わせることにより再発リスクが低い群を分類することができ、再発を起こすか否かをより精度よく予測することができる。
本実施形態の方法を実施するためのコンピュータシステムの概略図である。 第一の実施形態の判定方法に基づいた判定フローである。 本実施形態で作製されたGST−poly(Glu,Tyr)基質の、膜貫通型チロシンキナーゼによるリン酸化を検出した結果である。 患者のグループ(横軸)と膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値(縦軸)との関係を示すグラフである。 CDK比活性比(横軸)と膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値(縦軸)との関係を示すグラフである。
符号の説明
100 システム
110 コンピュータ本体
110a CPU
110b〜110d 記憶装置
110e 読出装置
110f 入出力インターフェイス
110h 画像出力インターフェイス
110i バス
120 ディスプレイ
130 入力デバイス
140 外部記録媒体

Claims (12)

  1. 腫瘍細胞の膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値に基づいて、がんの再発リスクを判定することを特徴とするがんの再発リスクの判定方法。
  2. 前記判定が、前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と閾値とを比較し、前記活性値が閾値よりも小さい場合に、がんの再発リスクが低いと判定する請求項1に記載の方法。
  3. 前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値が、
    がん患者から採取した腫瘍組織中の細胞から細胞質を分離して、様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料を調製する試料調製工程と、
    前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼと、少なくとも2種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対する基質とを接触させて、前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの活性により前記基質をリン酸化する接触工程と、
    前記リン酸化された基質を検出する検出工程と、
    前記検出結果に基づいて、前記試料中の膜貫通型チロシンキナーゼの活性値を測定する測定工程と、によって得られる請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記試料調製工程が、前記腫瘍組織中の細胞を緩衝液中で破砕し、破砕された細胞と界面活性剤を含む溶液とを混合し、得られた混合液の上清を採取することにより膜貫通型チロシンキナーゼを含む試料を調製する請求項3に記載の方法。
  5. 前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤である請求項4に記載の方法。
  6. 前記膜貫通型チロシンキナーゼが、インスリン様増殖因子受容体(insulin−like growth factor receptor;IGFR)、血小板由来増殖因子受容体(platelet−derived growth factor receptor;PDGFR)、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(human epithelial growth factor receptor;HER)及び血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor receptor;VEGFR)を含む請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
  7. 前記基質が、特定の膜貫通型チロシンキナーゼに対して特異性の高い複数種類の基質の混合物、又は、様々な種類の膜貫通型チロシンキナーゼに対するユニバーサル基質である請求項3〜6のいずれか1項に記載の方法。
  8. 前記ユニバーサル基質が、グルタミン酸残基及びチロシン残基を含むアミノ酸配列からなるペプチドを含む請求項7に記載の方法。
  9. 前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と、さらに、前記腫瘍細胞のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の発現量及び活性値に基づいて得られるCDKのパラメータとに基づいて、がんの再発リスクを判定する請求項1に記載の方法。
  10. 前記判定が、
    前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値と第一の閾値とを比較し、
    前記CDKのパラメータと第二の閾値とを比較し、
    前記活性値が第一の閾値よりも小さく、且つ、前記CDKのパラメータが第二の閾値よりも小さい場合に、がんの再発リスクが小さいと判定する請求項9に記載の方法。
  11. 前記CDKのパラメータが、前記腫瘍細胞の第一のサイクリン依存性キナーゼ(第一CDK)の活性値と発現量との比(第一CDK比活性)並びに前記腫瘍細胞の第二のサイクリン依存性キナーゼ(第二CDK)の活性値と発現量との比(第二CDK比活性)に基づいて得られる、前記第一CDK比活性と前記第二CDK比活性との比(CDK比活性比)である請求項9又は10に記載の方法。
  12. 前記CDK比活性比が、
    前記腫瘍細胞から第一CDKの活性値及び第二CDKの活性値を測定する活性測定工程と、
    前記腫瘍細胞から第一CDKの発現量及び第二CDKの発現量を測定する発現測定工程と、
    前記第一CDKの活性値と発現量との比(第一CDK比活性)、及び前記第二CDKの活性値と発現量との比(第二CDK比活性)を算出する比活性算出工程と、
    前記比活性算出工程により得られた第一CDK比活性と第二CDK比活性との比(CDK比活性比)を算出する比活性比算出工程と、によって得られ、
    前記膜貫通型チロシンキナーゼの包括的な活性値及び前記CDK比活性比に基づいてがんの再発リスクを判定する請求項11に記載の方法。
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