JP2008029320A - キナーゼの活性測定方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】細胞から細胞質を分離して膜貫通型キナーゼを含む試料を調製する工程と、前記試料中の膜貫通型キナーゼとこれに対応する基質とを接触させ、膜貫通型キナーゼの活性により基質をリン酸化させる工程と、標識物質をリン酸化した基質(リン酸化基質)に結合させる工程と、リン酸化基質に結合した標識物質の検出結果に基づいて膜貫通型キナーゼの活性を測定する工程と、を含む測定方法を提供する。
【選択図】なし
Description
なお、膜貫通型キナーゼの中には、リガンドが結合することによってホモ2量体又はヘテロ2量体を形成するものがあることが知られている。上述した方法により調製された試料には、このような2量体を形成可能な程度に立体構造を保持した状態で膜貫通型キナーゼが含まれている。したがって、上述した方法により調製された試料を用いることにより、より正確に膜貫通型キナーゼの活性を測定することができる。例えばHER1は、リガンドであるEGFが結合することによって2分子のHER1が結合し、2量体を形成する。上記の反応用試料には、立体構造を保持した状態の2量体が含まれる。
なお、ホモジナイズ試薬及び/または可溶化処理液に、プロテアーゼインヒビター、脱リン酸化酵素阻害剤、SH基の酸化を防ぐための試薬(以下、SH基安定剤とする)等を添加して用いてもよい。
リン酸化したGST−EGFR substrateを回収する際には、あらかじめGST−EGFR substrateとグルタチオンビーズとを結合させて酵素反応に用いてもよいし、酵素反応後にGST−EGFR substrateとグルタチオンビーズとを結合させてもよい。
アフィニティータグとしてヒスチジンを選択した場合、固相は例えばニッケルアガロースビーズを用いることができる。ヒスチジンとニッケルとの結合は例えば、Glycine−HCl等の酸や、イミダゾールを用いて解離させることができる。
アフィニティータグとしてマルトース結合タンパク質を選択した場合、固相は例えばアミロース磁性ビーズを用いることができる。マルトース結合タンパク質とアミロースとの結合は例えば、遊離のアミロースを添加することにより解離させることができる。
アフィニティータグとしてFLAGペプチドを選択した場合、固相は、シグマ社のFLAGアフィニティーゲルを用いることができる。FLAGペプチドとFLAGアフィニティーゲルの結合は例えば、Glycine−HCl等の酸や、3×FLAGペプチド(シグマ社)を用いて解離させることができる。
アフィニティータグとしてMycタグを選択した場合、固相は例えばMyc抗体を結合したアガロースビーズを用いることができる。また、アフィニティータグとしてHAタグを選択した場合、HA抗体を結合したアガロースビーズを用いることができる。MycタグとMyc抗体との結合、HAタグとHA抗体との結合はどちらも例えば、酸やアルカリを加えてタンパク質を変性させることにより、解離させることができる。この時、変性したタンパク質を元の状態に戻すことのできる酸またはアルカリを選択することが好ましい。具体的には例えば、酸では塩酸等、アルカリでは水酸化ナトリウム等が挙げられる。
アフィニティータグとしてStrepタグを選択した場合、固相としてはIBA GmbH社のStrep−Tactin固相化ゲルカラムを用いることができる。StrepタグとStrep−Tactinの結合は例えば、ストレプトアビジンと可逆的に反応するデスチオビオチンを用いて解離させることができる。
または、リン酸化基質に特異的に結合可能な抗体(以下、リン酸化基質認識抗体とする)と、リン酸化基質認識抗体に結合可能であり、標識物質を有する抗体(以下、リン酸化基質認識抗体に結合可能な抗体を二次抗体とする)とを用いることにより、リン酸化基質認識抗体と二次抗体を介して、標識物質をリン酸化基質に実質的に結合させることもできる。
または、リン酸化基質認識抗体と、ビオチンを有する二次抗体と、標識物質を有するアビジンとを用い、リン酸化基質認識抗体と二次抗体とビオチンとアビジンを介して、標識物質をリン酸化基質に実質的に結合させることもできる。この場合、二次抗体がアビジンを有し、ビオチンが標識物質を有していてもよい。
または、ビオチンを有するリン酸化基質認識抗体と、標識物質を有するアビジンを用いてもよいし、アビジンを有するリン酸化基質認識抗体と、標識物質を有するビオチンを用いてもよい。
標識物質を検出することにより、リン酸化された基質を検出することができ、これにより最終的に膜貫通型キナーゼの活性を測定することができる。
また、リン酸化基質を含む溶液をチューブに収容し、蛍光物質を有するリン酸化基質認識抗体を加えてリン酸化基質と結合させ、蛍光強度を測定することにより、基質のリン酸化を検出することもできる。
標識物質が酵素である場合、固相酵素免疫検定法(以下、ELISA法とする)によって基質のリン酸化を検出することができる。ELISA法には、直接吸着法とサンドイッチ方が含まれる。
直接吸着法では、リン酸化基質を固相の表面に吸着させ、酵素を有するリン酸化基質認識抗体を加え、リン酸化基質と結合させる。次に、リン酸化基質認識抗体が有する酵素を、基質を加えて発色反応させ、この発色を検出すればよい。
サンドイッチ法では、固相にリン酸化基質認識抗体を結合させ(以下、固相抗体とする)、リン酸化基質を加えて固相抗体と結合させる。次に、酵素を有するリン酸化基質認識抗体(以下、標識抗体とする)を加え、リン酸化基質と結合させる。標識抗体の有する酵素を、基質を加えて発色反応させ、この発色を検出すればよい。
例えば酵素がアルカリホスファターゼである場合、基質としてニトロテトラゾリウムブルークロライド(NBT)及び5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシルホスフェイト(BCIP)の混合溶液を用いて反応させ、発色させることができる。酵素がペルオキシダーゼである場合、基質としてジアミノベンジジン(DAB)を用いて反応させ、発色させることができる。
サンドイッチ法を用いる場合、固相抗体と標識抗体とは、リン酸化基質の異なる部位に結合することが好ましい。すなわち、リン酸化基質に複数の抗体結合部位があるか、用いる2種類の抗体がリン酸化基質の異なる抗原決定基を認識することが好ましい。
標識物質が放射性同位元素である場合、放射線免疫検定法(以下、RIAとする)によって基質のリン酸化を検出することができる。具体的には、放射性同位元素を有するリン酸化基質認識抗体をリン酸化基質に結合させ、放射線をシンチレーションカウンター等によって測定し、基質のリン酸化を検出することができる。
1.反応用試料の調製法
乳癌由来の培養細胞(MDA−MB468)を、225cm2のフラスコにおいて80%コンフルエント(約107個)となるよう培養した。この培養細胞と細胞処理液(20mM HEPES pH7.4、20mM MnCl2、1mM DTT、0.2%プロテアーゼインヒビター(以下、PIとする)、10% グリセロール、100μM Na3VO4、及び50mM NaFを含む)1mlとを混合し、ペッスルを用いて加圧することにより細胞膜を破壊し、細胞溶液を調製した。PIは、プロテアーゼインヒビターカクテルFor Mammalian Tissues(シグマ社)を用いた。得られた細胞溶液を遠心分離し、上清を廃棄した。沈殿物と、細胞膜可溶化液(20mM HEPES pH7.4、20mM MnCl2、1mM DTT、1% NP−40、0.2% PI、10% グリセロール、100μM Na3VO4、及び50mM NaFを含む)とを混合し、ペッスルを用いて加圧することにより細胞膜を可溶化し、遠心分離して上清を回収した。この上清を、反応用試料として以下の反応に用いた。
i)サンプル1、サンプル2の調製
上記の方法で得た反応用試料25μlと、基質溶液1(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl2、1mM DTT、0.1% NP−40、0.2% PI、10% グリセロール、100μM Na3VO4、50mM NaF 、200μM ATP、及び5μg 基質を含む)25μlとを混合し、25℃で30分間インキュベートした。これをサンプル1とした。
反応用試料25μlと、基質溶液2(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl2、1mM DTT、0.1% NP−40、0.2% PI、10% グリセロール、100μM Na3VO4、及び5μg 基質を含む)25μlとを混合し、25℃で30分間インキュベートした。これをサンプル2とした。基質は、粒径45〜165μmのセファロース4Bビーズ(アマシャム社)に結合した GST EGFR−substrate(ストラタジーン社)を用いた。
ii)サンプル3、サンプル4の調製
サンプル1またはサンプル2と、反応停止液(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl2、1mM DTT、0.1% NP−40、0.2% PI、10% グリセロール、100μM Na3VO4、及び10μM PD168393(EGFR 阻害剤、カルビオケム社)を含む)50μlと、をそれぞれ混合し、遠心分離した。サンプル1の上清をサンプル3、サンプル2の上清をサンプル4とした。
iii)サンプル5、サンプル6の調製
上清を廃棄した後、サンプル3の沈殿物またはサンプル4の沈殿物と、第1洗浄液(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl2、1mM DTT、0.1% NP−40、0.2% PI、10% グリセロール、100μM Na3VO4、及び100nM PD168393を含む)200μlとをそれぞれ混合し、遠心分離した。上清を廃棄した後、サンプル3の沈殿物またはサンプル4の沈殿物と、第2洗浄液(25mM Tris pH7.4、0.2% PI 、100μM Na3VO4、及び150mM NaClを含む)200μlとをそれぞれ混合し、遠心分離した。上清を廃棄した後、サンプル3の沈殿物またはサンプル4の沈殿物と、溶出液(50mM Tris pH8.0、10mM 還元型グルタチオン、100μM Na3VO4、及び0.2% PIを含む)190μlとをそれぞれ混合した。サンプル3の沈殿物と溶出液との混合液をサンプル5、サンプル4の沈殿物と溶出液との混合液をサンプル6とした。
iv)サンプル7、サンプル8の調製
サンプル5及びサンプル6を遠心分離した。サンプル5の上清をサンプル7、サンプル6の上清をサンプル8とした。
v)サンプル9、サンプル10の調製
ivで得たサンプル5の沈殿物をサンプル9、サンプル6の沈殿物をサンプル10とした。
SDS−PAGEにて、サンプル1〜10に含まれるタンパク質の分離を行った。サンプル1及びサンプル2に12.5μlずつ、サンプル3〜6、サンプル9及び10に10μlずつ、サンプル7及び8に5μlずつ、SDS サンプルバッファー pH6.8(200mM Tris、40% グリセロール、8% SDS、及び10% 2−メルカプトエタノールを含む)を加え、100℃で5分間ボイルした。各サンプルをポリアクリルアミドゲル(PAGミニ「第一」4/20(13W)(第一化学薬品株式会社))の各ウエルに注入し、泳動槽(カセット電気泳動槽「第一」DPE−1020(ミニ2連式)(第一化学薬品株式会社))を用いて25mAで70分間電気泳動した。電気泳動によって分離したタンパク質を、ミニトランスブロットセル(バイオラッド社)を用いて100Vで1時間電圧をかけ、ポリアクリルアミドゲルからポリビニリデンフロライド(PVDF)メンブレン(Immobilon−FL 0.45μm ポアサイズ(ミリポア社))に転写した。
このPVDFメンブレンを、4%ブロックエース(大日本住友製薬株式会社)溶液で60分間ブロッキングした。ブロッキングしたPVDFメンブレンを、一次抗体溶液(0.4%ブロックエース及び0.5μg/ml Anti−Phosphotyrosine clone 4G10(upstate社)を含む)2ml中で60分間振蕩した後、TBS−T(25mM Tris、150mM NaCl及び0.1% Tween−20を含む)で3回洗浄した。次に、このPVDFメンブレンを、二次抗体溶液(0.4%ブロックエース及び2.7μg/ml抗マウスイムノグロブリン・ウサギポリクローナル抗体 FITC標識(DAKO社)を含む)2ml中で60分間振蕩した後、TBS−Tで3回洗浄した。このPVDFメンブレンを乾燥させ、画像解析装置(Pharos FX system(バイオラッド社))を用いて解析し、蛍光を検出した。
図1は、ウエスタンブロッティングの結果を示す蛍光写真である。サンプル1〜10の各写真において、奇数番号のサンプルはATPを含まない反応液を用いた。偶数番号のサンプルはATPを含む反応液を用いた。
サンプル1、3、5、及び7にバンドが見られないのは、反応液にATPが含まれず、基質がリン酸化されなかったためであると考えられる。サンプル1、サンプル3におけるリン酸化は、内在するATPからのリン酸基の供与によるものであると考えられる。
p−HER1の枠内に見られるバンドは、自己リン酸化したHER1である。p−GST−substrateの枠内に見られるバンドは、HER1の活性化によってリン酸化された基質(EGFR−substrate)である。サンプル2及びサンプル4のレーンのほぼ中央に見られるバンドは、リン酸化されたチロシンを有する何らかのタンパク質であると考えられる。
サンプル2及び4の結果より、複数のリン酸化基質が混在していても、ウエスタンブロッティングによって分離し、目的の基質のリン酸化を検出できることがわかった。また、リン酸化基質は、酵素反応後に遠心分離した反応液の上清に含まれることがわかった。
サンプル5及び6は、セファロースビーズに結合した基質以外のタンパク質を除去し、セファロースビーズに結合した基質を回収したものである。サンプル6の結果より、セファロースビーズに結合したリン酸化基質のみを回収できたことがわかった。
サンプル7及び8は、セファロースビーズに結合した基質を溶出し、基質を回収したものである。サンプル8の結果より、リン酸化基質をビーズから解離させ、リン酸化基質のみを回収できたことがわかった。
サンプル9及びサンプル10は、タンパク溶出後のセファロースビーズであり、リン酸化されたチロシンを含むタンパクを示すバンドはみられなかった。この結果より、基質が有するGSTとセファロースビーズとの結合を解離させることができたことがわかった。
以上より、本実施例の測定法を用いて、キナーゼの活性化による基質のリン酸化の有無を検出できることがわかった。
実施例1で調製したサンプル7、サンプル8を用いて、スロットブロットによるリン酸化チロシンの検出を行った。
以上の結果から、スロットブロットによって、キナーゼの活性化による基質のリン酸化の有無を検出できることがわかった。
実施例1と同様の方法で得た反応用試料を用いて、HER1阻害剤によるHER1のキナーゼ活性への影響を調べた。
なお、Grb2は以下の方法で作製した。Grb2mRNAの塩基配列を基に設計したフォワードプライマー(5’CGCGGATCCCATATGGAAGCCATCGCCAAATATG 3’:配列番号1)及びアウタープライマー(5’CCCAAGCTTTTAGACGTTCCGGTTCAC 3’:配列番号2)、ヒトcDNA、及びProof Start(キアゲン社)を用いて、PCRを行った。得られた増幅産物(以下、Grb2cDNAとする)及びプラスミドベクターであるpGEM3Z(プロメガ社)を制限酵素(Sma)処理した。Grb2cDNAを、ligation kit(TAKARA社)を用いてpGEM3Zに組み込み、増幅用組換えプラスミドを作製した。この増幅用組換えプラスミドをプラスミド増幅用大腸菌(DH5−α)にトランスフォームし、この大腸菌を16時間培養した。培養した大腸菌を溶菌して増幅用組換えプラスミドを回収した。
p−HER1の枠内に見られるバンドは、自己リン酸化したHER1である。なお、PD+のレーンにもリン酸化を示すバンドが現われているが、これは細胞を反応用試料として調製する以前に既に起こっていたリン酸化がシグナルとして検出されたものと思われる。PD−のレーンのp−Grb2の枠内に見られるバンドは、HER1の酵素活性によってリン酸化されたGrb2である。PD+のレーンのp−Grb2の枠内にバンドが見られないのは、HER1の酵素活性がPD168393によって阻害されたためであると考えられる。
PD−のレーンのほぼ中央に見られるバンドは、HER1の活性化によってリン酸化された何らかのタンパク質であると考えられる。一方、PD+のレーンの同じ位置にバンドが見られないのは、HER1の酵素活性がPD168393によって阻害されたためであると考えられる。
以上の結果から、本実施例の測定法を用いて、HER1の酵素活性に対するHER1阻害剤阻害能を推定しうることがわかった。
4つのグルタミン酸残基と1つのチロシン残基からなる配列が5回繰り返されたアミノ酸配列(配列番号3)からなるペプチド(以下、poly(Glu、Tyr)ペプチドとする)とGSTとの融合タンパク質を作製し、この融合タンパク質を、複数種類のチロシンキナーゼによりリン酸化されうる基質として用いた。以下、この融合タンパク質をGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質とする。
ここでは、市販の受容体型チロシンキナーゼの細胞内ドメイン(intracellular domain;ICD)を用いて、実施例4で作製したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質をリン酸化し、ウエスタンブロッティングによりリン酸化したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を検出した。なお、受容体型チロシンキナーゼは、細胞外ドメイン、膜貫通ドメイン、細胞内ドメインから構成されており、細胞内ドメインにチロシンキナーゼの活性を示す部位が存在する。
緩衝液1(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl2、1% NP40、1mM DTT、0.2%プロテアーゼインヒビター(以下、PIとする)、10% グリセロール、200μM Na3VO4及び50mM NaFを含む)50μlと市販の受容体型チロシンキナーゼのICD 0.5pmolを混合し、これを反応用試料として以下の酵素反応に用いた。本実施例では、ICDとして、PDGF Recepter β Kinase(以下、PDGFR-βとする)、VEGF Recepter 1 Kinase(以下、VEGFR1とする)、VEGF Recepter 2 Kinase(VEGFR2)、EGF Recepter 1 Kinase(以下、HER1とする)、ErbB2 Kinase(以下、HER2とする)、ErbB4 Kinase(以下、HER4とする)、IGF-1Receptor Kinase(IGF1R)(全てCell Signaling Technology社)を用いた。なお、緩衝液1とPDGFR-βとを混合したものを反応用試料iとし、緩衝液1とVEGFR1とを混合したものを反応用試料ii、緩衝液1とVEGFR2とを混合したものを反応用試料iii、緩衝液1とHER1とを混合したものを反応用試料iv、緩衝液1とHER2とを混合したものを反応用試料v、緩衝液1とHER3とを混合したものを反応用試料vi、緩衝液1とIGF1Rとを混合したものを反応用試料viiとする。
反応用試料i 25μlと、実施例4において調製したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を含む基質溶液3(20mM HEPES pH7.4、10mM MnCl2、1mM DTT、1% NP40、0.2% PI、10% グリセロール、200μM Na3VO4、50mM NaF、40μM ATP、及び5μg GST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を含む)25μlとを混合し、25℃で60分間インキュベートした。この反応液に、実施例1で用いたSDSサンプルバッファー 25μlを加え、100℃で5分間ボイルして酵素反応を停止した。このようにして調製された溶液をSDS用試料i(+)とする。同様にして、反応用試料ii〜viiからSDS用試料ii(+)〜vii(+)を調製した。
実施例1と同様にして、ウエスタンブロッティングにより、SDS用試料i(+)〜vii(+)及びSDS用試料i(−)〜vii(−)に含まれるリン酸化されたGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を検出した。
図4は、ウエスタンブロッティングの結果を示す蛍光写真である。図中のiはチロシンキナーゼとしてPDGFR-βを、iiはVEGFR1を、iiiはVEGFR2を、ivはHER1を、vはHER2を、viはHER4を、viiはIGF1Rを用いた場合の結果を示す。また、i〜viiの各写真において、−はATPを含まない基質溶液4を用いて調製したSDS用試料から得られた結果である。+はATPを含む基質溶液3を用いて調製したSDS用試料から得られた結果である。P-ICDは、自己リン酸化したチロシンキナーゼが出現する位置を示し、P-GST-poly(Glu、Tyr)はリン酸化したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質が出現する位置を示す。
ここでは、乳癌由来の培養細胞の細胞膜から抽出した受容体型チロシンキナーゼを用いて、実施例4で作製したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質をリン酸化し、ウエスタンブロッティングによりリン酸化したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を検出した。
乳癌由来の培養細胞(MDA−MB231)を、225cm2のフラスコにおいて80%コンフルエント(約107個)となるよう培養した。この培養細胞と細胞処理液(20mM HEPES pH7.4、0.2% PI、10% グリセロール、200μM Na3VO4、及び50mM NaFを含む)1mlとを混合し、ペッスルを用いて加圧することにより細胞膜を破壊し、細胞溶液を調製した。得られた細胞溶液を遠心分離し、上清を廃棄した。沈殿物と、細胞膜可溶化液(20mM HEPES pH7.4、1% NP40、0.2% PI、10% グリセロール、200μM Na3VO4、及び50mM NaFを含む)とを混合し、ペッスルを用いて加圧することにより細胞膜を可溶化し、遠心分離して上清を回収した。この上清を、反応用試料として以下の酵素反応に用いた。同様にして、乳癌由来の培養細胞であるMDA−MB468及びSKBr3から、それぞれ反応用試料を調製した。ここで、MDA−MB231から調製したものを反応用試料i、MDA−MB468から調製したものを反応用試料ii、SKBr3から調製したものを反応用試料iiiとする。なお、いずれも反応用試料も、含有されるタンパク質濃度が0.8mg/mlとなるように調製された。
上記の方法で得た反応用試料i 25μlと、基質溶液5(20mM HEPES pH7.4、20mM MnCl2、2mM DTT、1% NP40、0.2% PI、10% グリセロール、200μM Na3VO4、50mM NaF、100μM ATP、及び5μg GST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を含む)25μlとを混合し、25℃で30分間インキュベートした。この反応液に、実施例1で使用したSDSサンプルバッファー25μlを加え、100℃で5分間ボイルして酵素反応を停止した。このようにして調製された溶液をSDS用試料iとする。同様にして、反応用試料ii及び反応用試料iiiからSDS用試料ii及びSDS用試料iiiを調製した。
実施例1と同様にして、ウエスタンブロッティングにより、SDS用試料(i〜iii)に含まれるリン酸化されたGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を検出した。
図5は、ウエスタンブロッティングの結果を示す蛍光写真である。図中のiはMDA−MB231の細胞膜から抽出した受容体型チロシンキナーゼを、iiはVEGFR1をMDA−MB468の細胞膜から抽出した受容体型チロシンキナーゼを、iiiはSKBr3の細胞膜から抽出した受容体型チロシンキナーゼを用いた場合の結果を示す。P-GST-poly(Glu、Tyr)はリン酸化したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質が出現する位置を示す。
ここでは、乳癌由来の培養細胞の細胞膜から抽出した受容体型チロシンキナーゼを用いて、実施例4で作製したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質をリン酸化し、ELISAによりリン酸化したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を検出した。
乳癌由来の培養細胞(MDA−MB468)を、225cm2のフラスコにおいて80%コンフルエント(約107個)となるよう培養した。この培養細胞と実施例6で使用した細胞処理液 1mlとを混合し、ペッスルを用いて加圧することにより細胞膜を破壊し、細胞溶液を調製した。得られた細胞溶液を遠心分離し、上清を廃棄した。沈殿物と、実施例6で使用したと細胞膜可溶化液を混合し、ペッスルを用いて加圧することにより細胞膜を可溶化し、遠心分離して上清を回収した。この上清を細胞膜可溶化液で希釈し、タンパク質濃度が0.02g/ml、0.04g/ml及び0.08g/mlとなる反応用試料それぞれ調製した。このようにして調製した各反応用試料及びタンパク質を含有しない反応用試料として細胞膜可溶化液を以下の酵素反応に用いた。
ELISA用のプレートとして、グルタチオンコートプレート(Reacti-Bind Clear Glutathione Coated Plates, 8-well Strip(PIERCE社))を用いた。まず、プレートの各ウェルをTBS−T(25mM Tris、150mM NaCl及び0.05% Tween−20を含む)で3回洗浄した。次に、各ウェルに、実施例4において調製したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を含む基質溶液6(5μg/mlのGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を含むTBS)50μlを入れ、軽く震蕩しながら25℃で1時間インキュベートした。インキュベート後、各ウェルをTBS-Tで2回洗浄し、さらに20mM HEPES pH7.4(0.05% Tween20を含む)で1回洗浄した。このようにして、ELISA用プレートのウェルの表面にGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を結合させた。このELISA用プレートを以下の酵素反応に使用した。
各反応溶液 50μlをELISA用プレートの別々のウェルに入れ、25℃でおよそ30分間インキュベートした。インキュベーション後、各ウェルに反応停止液(1mM EDTAを含むTBS-T)100μlを添加し、さらにTBS-Tで3回洗浄した。次に、各ウェルをStartingBlock T20 (TBS) Blocking Buffer(PIERCE社)300μlで洗浄した後、StartingBlock T20 (TBS) Blocking BufferでHRP標識一次抗体(p-Tyr (PY20), sc-508 HRP(SANTA Cruz Biotechnology社))を1000倍希釈した一次抗体液を各ウェルに100μl入れ、25℃でおよそ1時間30分間軽く震蕩しながらインキュベートした。インキュベーション後、各ウェルをTBS-Tで5回洗浄し、TMB溶液(3,3',5,5'-Tetramethylbenzidine (TMB) Liquid Substrate System for ELISA (Sigma社))150μlを各ウェルに入れ、室温で遮光しながら5〜30分の間で適度に呈色させたのち、VersaMax(Molecular Device社)で吸光度(650nm)を測定した。
図7は、ELISAの結果を示すグラフである。図中の縦軸は吸光度(650nm)を、横軸は1ウェル(50μl)あたりのタンパク質量(μg)を示す。
ここでは、実施例6と同様の方法で得た反応用試料(i〜iii)を用いて、種々の阻害剤による膜貫通型チロシンキナーゼのキナーゼ活性への影響を調べた。
実施例6と同様の方法で得た反応用試料(i〜iii)を用いた。
反応用試料25μをそれぞれ4本のチューブに収容した。4本のうち、1本にはHER1及びHER2の阻害剤であるPD158780(カルビオケム社)100μMを含む反応液(20mM HEPES pH7.4、20mM MnCl2、2mM DTT、0.1% NP−40、0.2% PI、10% glycerol、100μM Na3VO4、100μM ATP、及び5μg GST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を含む)25μlを、別の1本にはHER1及びHER2の阻害剤であるW4557(カルビオケム社)100μMを含む反応液25μlを、別の1本にはHER1及びHER2の阻害剤であるAG1478(カルビオケム社)100μMを含む反応液25μlを、残りの1本には阻害剤を含まない反応液25μlを添加し、25℃で30分間インキュベートした。PD158780を含む反応液をPD、W4557を含む反応液をW、AG1478を含む反応液をAG、阻害剤を含まない反応液をCとする。
このPD、W、AG、Cを用いて、実施例6と同様の方法でウエスタンブロッティングを行った。結果は、ウエスタンブロッティングの蛍光写真において検出されたリン酸化したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質のバンドの蛍光強度を、専用の解析ソフトを用いて数値化したグラフで示した。
図9及び10において、Cに比べて、PD、W及びAGの蛍光強度が低下していた。これは、PD158780、W4557、AG1478の各阻害剤によって、MDA−MB468及びSKBr3の細胞膜に存在する一部の膜貫通型チロシンキナーゼの酵素活性が阻害されたためであると考えられる。一方、図8では、PD、W及びAGの蛍光強度の低下がみられなかった。これは、PD158780、W4557、AG1478の各阻害剤によって、MDA−MB231の細胞膜に存在する膜貫通型チロシンキナーゼの酵素活性が阻害されなかったためであると考えられる。以上の結果から、本実施例の測定法を用いて、膜貫通型キナーゼの酵素活性に対する阻害剤の阻害能を推定しうることがわかった。
ここでは、実施例6と同様の方法で得た反応用試料iiiを用いて、HER3及びHER4のリガンドによる膜貫通型チロシンキナーゼのキナーゼ活性への影響を調べた。
実施例6と同様の方法で得た反応用試料iiiを用いた。
2本のチューブに反応用試料iiiをそれぞれ25μlずつ収容した。そのうちの1本にはHER3のリガンドであるHeregulin(シグマ社)100ngを含む反応液(20mM HEPES pH7.4、20mM MnCl2、2mM DTT、0.1% NP−40、0.2% PI、10% glycerol、100μM Na3VO4、100μM ATP、及び5μg GST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質を含む)25μlを、他の1本にはリガンドを含まない反応液25μlを添加し、25℃で30分間インキュベートした。Heregulinを含む反応液をH、Heregulinを含まない反応液をCとする。
このH及びCを用いて、実施例6と同様の方法でウエスタンブロッティングを行った。そして、蛍光写真において検出されたリン酸化したGST-poly(Glu、Tyr)融合タンパク質のバンドの蛍光強度を、専用の解析ソフトを用いて数値化した。
図11において、Cに比べてHの蛍光強度が高くなっていた。これは、HeregulinによってSKBr3の細胞膜に存在する膜貫通型チロシンキナーゼが活性化されたためであると考えられる。HeregulinはHER3及びHER4のリガンドである。HeregulinがHER3の細胞外ドメインに結合すると、HER3とHER3以外のHER(HER1、HER2又はHER4)との二量体化が誘導され、それによりチロシンキナーゼ活性を示すことが知られている。また、HeregulinがHER4の細胞外ドメインに結合することによりHER4を活性させることが知られている。SKBr3では、HER2及びHER3の発現が強く見られるのに対し、HER1及びHER4の発現は極めて少量であることが知られている。以上のことから、図11における蛍光強度の増加は、HeregulinがHER3の細胞外ドメインに結合し、HER3がHER2と複合体を形成することにより生じていることが考えられる。
Claims (19)
- 生体から採取された細胞の細胞膜に存在する膜貫通型のキナーゼの活性を測定する方法であって、
前記細胞から細胞質を分離して膜貫通型キナーゼを含む試料を調製する工程と、
前記試料中の膜貫通型キナーゼとこれに対応する基質とを接触させ、前記膜貫通型キナーゼの活性により基質をリン酸化させる工程と、
標識物質を前記リン酸化した基質(リン酸化基質)に結合させる工程と、
前記リン酸化基質に結合した標識物質の検出結果に基づいて前記膜貫通型キナーゼの活性を測定する工程と、を含む測定方法。 - 前記調製工程において、
前記細胞を緩衝液中で破砕し、
破砕された細胞を含む前記緩衝液と、界面活性剤とを混合し、
得られた混合液の上清を採取することにより、膜貫通型キナーゼを含む試料を調製する、請求項1に記載の測定方法。 - 前記緩衝液のpHが4.0〜9.0である請求項2に記載の測定方法。
- 前記界面活性剤が、前記膜貫通型キナーゼと実質的に結合しない非イオン性界面活性剤である請求項2または3に記載の測定方法。
- 前記基質がアフィニティータグを有し、
前記アフィニティータグを有する基質と、前記アフィニティータグと結合可能な結合物質を有する固相とを接触させて複合体を形成させる工程と、
この複合体を回収する工程と、
結合物質とアフィニティータグとの結合を解離させることにより、前記複合体から前記基質を回収する工程とをさらに含む請求項1〜4のいずれかに記載の測定方法。 - 前記標識物質が、前記リン酸化基質に結合することができる一次抗体と、前記第一抗体に結合することができる二次抗体と、を介して前記リン酸化基質に結合する請求項1〜5のいずれかに記載の測定方法。
- 前記膜貫通型キナーゼが膜貫通型チロシンキナーゼである請求項1〜6のいずれかに記載の測定方法。
- 前記膜貫通型チロシンキナーゼが、インシュリン様成長因子受容体(insulin-like growth factor receptor;IGFR)、血小板由来増殖因子受容体(platelet-derived growth factor receptor;PDGFR)、ヒト上皮細胞増殖因子受容体(human epithelial growth factor receptor;HER)及び血管内皮増殖因子受容体(vascular endothelial growth factor;VEGFR)からなる群より選択される少なくとも1つである請求項7に記載の測定方法。
- 前記基質が、膜貫通型チロシンキナーゼに対応する基質である請求項7または8に記載の測定方法。
- 前記基質が、増殖因子受容体結合タンパク質2(Grb2)、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、ヒストンH2B(HH2B)、及びホスホリパーゼC ガンマからなる群より選択される少なくとも1つである請求項9に記載の測定方法。
- 前記基質が、複数種類の膜貫通型チロシンキナーゼによりリン酸化されうる基質である請求項9に記載の測定方法。
- 前記基質が、グルタミン酸残基及びチロシン残基を含むアミノ酸配列からなるペプチドを含む請求項11に記載の測定方法。
- 前記アミノ酸配列が、
グルタミン酸残基及びチロシン残基からなり、グルタミン酸残基とチロシン残基の比率が4:1であるアミノ酸配列A、
グルタミン酸残基及びチロシン残基からなり、グルタミン酸残基とチロシン残基の比率が1:1であるアミノ酸配列B、
グルタミン酸残基、チロシン残基及びアラニン残基からなり、グルタミン酸残基とアラニン残基とチロシン残基の比率が6:1:3であるアミノ酸配列C、
グルタミン酸残基、チロシン残基及びアラニン残基からなり、グルタミン酸残基とアラニン残基とチロシン残基の比率が1:1:1であるアミノ酸配列D、及び
グルタミン酸残基、チロシン残基、アラニン残基及びリジン残基からなり、グルタミン酸残基とチロシン残基とアラニン残基とリジン残基の比率が2:1:6:5であるアミノ酸配列E、
からなる群から選択される少なくとも一つである請求項12に記載の測定方法。 - 前記標識物質が、蛍光または酵素である請求項1〜13のいずれかに記載の測定方法。
- 細胞の細胞膜に存在する膜貫通型キナーゼの活性を、請求項1に記載の方法により測定して第1の測定結果を取得し、
膜貫通型キナーゼ阻害剤と接触させた前記細胞の前記膜貫通型キナーゼの活性を、請求項1に記載の方法により測定して第2の測定結果を取得し、
第1及び第2測定結果に基づいて細胞に対する膜貫通型キナーゼ阻害剤の影響を推定することを特徴とする膜貫通型キナーゼの阻害剤の影響を推定する方法。 - 細胞の細胞膜に存在する膜貫通型キナーゼの活性を、請求項1に記載の方法により測定して第1の測定結果を取得し、
膜貫通型キナーゼリガンドと接触させた前記細胞の前記膜貫通型キナーゼの活性を、請求項1に記載の方法により測定して第2の測定結果を取得し、
第1及び第2測定結果に基づいて細胞に対する膜貫通型キナーゼリガンドの影響を推定することを特徴とする膜貫通型キナーゼリガンドの影響を推定する方法。 - 生体から採取された細胞の細胞膜に存在する膜貫通型のキナーゼの活性を測定する試薬キットであって、
前記膜貫通型キナーゼに対応する基質と、
前記膜貫通型キナーゼの活性により前記基質に導入されうるリン酸基を含むリン酸基供与体と、
リン酸基を導入した前記基質に結合可能な標識物質と、を備える試薬キット。 - pHが4.0〜9.0であり、前記細胞を破砕するために添加される緩衝液と、
細胞膜を可溶化しうる界面活性剤と、をさらに備える請求項17に記載の試薬キット。 - 前記リン酸基供与体が、ATPまたはADPである請求項17または18に記載の試薬キット。
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