以下では図面等を参照して本発明の実施の形態について詳しく説明する。
図1は本実施形態における自動変速機の変速制御装置の構成を示す機能ブロック図である。図2は自動変速機の構成を示すスケルトン図である。図1に示すように、本変速制御装置は、コントローラ1、タービン25及びタービンシャフト10の回転速度NTを検出する入力軸回転速度センサ12、出力軸28の回転速度No(車速)を検出する出力軸回転速度センサ13、ATF(自動変速機用オイル)の温度を検出する油温センサ14(油温検出手段)、図示しないエンジンのスロットル開度を検出するスロットルセンサ30、エンジンの吸気量を検出するエアフローセンサ31及びエンジン回転速度NEを検出するエンジン回転速度センサ32の各種センサと、自動変速機7の油圧回路11とをそなえて構成され、コントローラ1により、上記各センサ12、13、14、30、31、32等からの検出信号に基づいて所望の目標変速段を決定するとともに、油圧回路11を介して目標変速段を達成するための変速制御を行う。
自動変速機7の変速段は、自動変速機7内に設けられたプラネタリギヤユニット、複数の油圧クラッチ及び油圧ブレーキ等の摩擦要素の係合関係により決まる。例えば、図1においては、自動変速機7は4段変速の場合について示しており、摩擦要素として第1クラッチ15、第2クラッチ17、第3クラッチ19、第1ブレーキ22、第2ブレーキ23をそなえている。この自動変速機7の詳細を図2に示す。図2において、各摩擦要素を示す符号は図1に示すものと対応している。
コントローラ1による摩擦要素15、17、19、22、23の制御は、図1に示す油圧回路11を介して行なわれる。つまり、油圧回路11には、図示しない複数のソレノイドバルブが備えられ、これらのソレノイドバルブを適宜駆動(デューティ制御)することによって、オイルポンプから送り出されるATFが摩擦要素15、17、19、22、23へ供給される。コントローラ1では、スロットルセンサ30により検出されるスロットル開度と、出力軸回転速度センサ13により検出される出力軸28の回転速度Noに基づいて演算される車速とに基づき目標変速段を決定し、決定した目標変速段への変速に関与する摩擦要素15、17、19、22、23のソレノイドバルブに対して駆動信号(デューティ率信号)を出力する。なお、ATFは、図示しないレギュレータ弁により所定の油圧(ライン圧)に調圧されており、このライン圧に調圧されたATFが各摩擦要素15、17、19、22、23を作動させるべく油圧回路11へ供給される。
ところで、コントローラ1内には変速マップ3が設けられている。また、自動変速機7には運転モードを切り換える切換レバー(図示せず)が装着されており、運転者がこの切換レバーを操作することにより、パーキングレンジ、走行レンジ(例えば、1速段〜4速段)、ニュートラルレンジ及び後退レンジ等の変速レンジの選択を手動で行えるようになっている。
走行レンジには自動変速モードと手動変速モード(マニュアルシフトモード)の2つの変速モードがあり、自動変速モードが選択された場合には、スロットル開度θTHと車速Vとに基づき予め設定された変速マップ3に従って変速判断を行い、この判断に従い自動的に変速が実施される。一方、マニュアルシフトモードが選択された場合には、変速段はこの変速マップ3にかかわらず運転者によって選択された変速段に変速され、その後固定される。
変速マップ3には、例えば図4に示すような特性が記憶される。そして、自動的に変速が実施される通常の変速時は、図4に示す変速マップ3に基づいて車速センサ13で検出される車速V及びスロットルセンサ30で検出されるスロットル開度θTHに応じた目標変速段が設定され、上述の第1〜第3クラッチ15、17、19及び第1、第2ブレーキ22、23等の摩擦要素が、各々に設定されたソレノイドバルブによって制御され、図3に示すような締結あるいは解放の組み合わせにより、自動的に各変速段が確立される。なお、図3の○印が各クラッチあるいは各ブレーキの結合を示している。
図3に示すように、例えば第1クラッチ15、第2ブレーキ23が締結され、第2クラッチ17、第3クラッチ19、第1ブレーキ22が解放されていると2速段が達成される。また、2速段から3速段への変速は、締結していた第2ブレーキ23を解放するとともに、第2クラッチ17を締結することにより達成される。これらの摩擦要素15、17、19、22、23の係合状態は、コントローラ1によって制御され、これらの摩擦要素15、17、19、22、23の係合関係によって変速段が決まり、また、締結及び解放のタイミングを適宜はかりながら変速制御が行われる。
変速時においては、各ソレノイドバルブに対しコントローラ1から駆動信号が出力され、この駆動信号に基づき各ソレノイドバルブが所定のデューティ値(デューティ率)で駆動されて、シフトフィーリングの良い最適な変速制御が実行される。
次に、本実施形態の要部について詳しく説明すると、本装置は、各摩擦要素(以下単に「クラッチ」という)の現在の熱的負荷状態(温度)を常に算出するとともに、変速判断したときは、変速時の当該クラッチの上昇温度TINHを推測し、これらの結果に基づいて変速の禁止又は許可を実行するものである。
具体的には、運転点が変速マップ3のアップシフト線とダウンシフト線とを連続して且つ繰り返し横切ると、例えば3速と4速との間で3−4変速と4−3変速とが繰り返されて、3−4−3−4−・・・のような連続する変速が行われることが考えられる。或いはドライバによる変速レバー操作により3速と4速とが頻繁に切り換えられた場合にも、上述と同様に3−4−3−4−・・・のような連続変速が行われることが考えられる。
このような連続変速が行われると特定のクラッチ(3−4の連続変速の場合には、第1クラッチ15及び第2ブレーキ23;図3参照)が締結と解放とを繰り返すことになるが、このように締結と解放とを短時間で繰り返し実行すると、当該クラッチの熱容量が大きくなり(温度が上昇し)、クラッチ又はブレーキが焼き付くことが考えられる。
また、従来技術のように、変速種や締結解放状態や入力トルクを考慮せずに、単純にタイマでクラッチの熱的負荷状態を予測して変速を禁止するようにしたものでは、クラッチ等の正確な温度を得ることはできない。このため、変速の禁止を判断する閾値は、最も大きな発熱が生じるような変速を行っても、クラッチが焼損温度に達しないように十分な余裕代をとった値に設定されるので、変速を許容できる状態であるのにも関わらず変速を禁止してドライバビリティが損なわれることが考えられる。
そこで、本実施形態では、各クラッチ毎に熱的負荷状態(現在の温度)を算出するとともに、変速を判断した際には各クラッチ毎の温度の上昇を予測し、的確に変速の禁止と許容とを判断するように構成されている。すなわち、図5に示すように、コントローラ1内には変速マップ3以外にも、各クラッチの現在の温度を算出する現在温度演算手段101(熱的負荷演算手段)と、次の変速で発生するクラッチの上昇温度TINHを予測する予測上昇温度演算手段102と、クラッチの現在温度と予測上昇温度とに基づいて次の変速での該クラッチの予測温度TESを求める予測温度演算手段103と、この予測温度TESと所定の閾値とを比較する比較手段109と、比較手段109により予測温度TESが所定値以上か否かに基づいて、次変速を許可、禁止又は他の変速に切り換える変速禁止切換手段104とを有している。
まず、現在温度演算手段101について説明をする。
この現在温度演算手段101は、各クラッチの現在の温度を逐次算出し更新するものであって、エンジン始動時には初期値として油温センサ14で得られるATFの温度TOILが設定される。これは、エンジン始動時には変速機7の各クラッチの温度は略油温TOILとみなすことができるからである。
ここで、図6はエンジン始動時におけるクラッチの温度の初期値として油温TOILを適用することの妥当性について検証した図であって、図中VSPは車速を示している。
図示するように、1速から2速に変速する際に締結されるクラッチ(本実施形態では第2ブレーキ23に相当;図3参照)の温度を意図的に焼き付くおそれのある温度(焼損温度)に保持しておき、この状態で車速を一定勾配で低下させる。そして、1速にダウンシフトした後、車速VSP=0となると、イグニッションオフ(IGN−OFF)としてエンジンを停止する(図中のt1参照)。ここで、IGN−OFF後、エンジンを再始動(IGNON)する(t2参照)とともに、アクセル全開として2速へアップシフトさせる(t3参照)。
そして、ここでは1速へのダウンシフト(t0参照)から2速へのアップシフト(t3参照)まで10秒程度要する場合をシミュレーションしたが、クラッチの温度は、t0から所定勾配で低下していくため、10秒程度あれば、確実にオイルパン内の油温TOIL程度に低下していることが確認できた。
このように、エンジン停止後すぐに再始動しても、クラッチの温度は油温TOIL程度になっていることが試験的に確認できたので、エンジン始動時の初期温度として油温TOILを設定することに何ら問題はない。
また、現在温度演算手段101は、上述のようにしてクラッチの温度の初期値を設定すると、これ以降は、クラッチの現在の状態に応じて異なる手法でクラッチ温度Tcを算出するようになっている。すなわち、クラッチでは、締結時と解放時とでは熱的負荷(発熱量Tup)が異なり、また、変速過渡時と定常時とでも熱的負荷が異なる。また、ダウンシフトとアップシフトとでもクラッチに生じる熱的負荷は異なる。このため、図5に示すように、現在温度演算手段101は、クラッチの締結及び解放の過渡時の発熱を算出する発熱量演算手段105と、締結及び解放の定常時の放熱量演算手段106とを有しており、さらに発熱量演算手段105には、締結過渡時の発熱を算出する締結過渡時発熱量演算手段107と解放過渡時の放熱量を算出する解放過渡時発熱量演算手段108とが設けられている。
なお、本実施形態では、「締結過渡」とは、締結するクラッチのトルクフェーズ中あるいはイナーシャフェーズ中を指すものとし、「解放過渡」とは解放するクラッチのトルクフェーズ中あるいはイナーシャフェーズ中を指すものとして使用する。また、「締結定常」とは、対象のクラッチが締結完了状態で、かつトルクフェーズ中あるいはイナーシャフェーズ中ではないことを指し、これは変速指令中あるいは非変速中であるか否かを問わない。さらに、「解放定常」とは、対象のクラッチが完全解放状態であることを指す。
ここで、図7は実際のアップシフト時のクラッチの締結及び解放にともなう温度変化の特性を示す図であって、図示するように、クラッチ締結開始から締結終了までの期間が最も温度が上昇する。また、このときには温度変化の勾配も最も大きい。また、クラッチが締結して定常状態となると一定の勾配で温度が低下していく。そして、クラッチが解放開始となると、それまでの温度低下と、クラッチの相対回転による摩擦熱による温度上昇とが相殺されて略一定の温度となり、クラッチの温度変化が微小となる(図7ではクラッチ温度Tc一定として示す)。
また、クラッチの解放が終了する(解放定常時)と、所定の勾配で温度が低下する。なお、このときのクラッチ解放後(解放定常時)の温度低下勾配は、クラッチ締結後(締結定常時)の温度低下勾配よりも大きくなる(傾きが大きい)。
そこで、現在温度演算手段101では、このような温度変化特性を考慮してクラッチの温度Tcを算出する。ここで、現在温度演算手段101によるクラッチの温度TC算出について具体的に説明すると、この現在温度演算手段101では変速マップ3からの情報に基づき現在の変速段や変速判断時には目標変速段が入力されるようになっており、さらにはタービン回転速度センサ12及びエンジン回転速度センサ32からはタービン回転速度NT及びエンジン回転速度NEが入力される。
そして、複数のクラッチのうち、締結定常又は解放定常のクラッチ(つまり、変速機7が非変速動作中であるか、又は変速動作中であっても当該クラッチは関与しない変速動作の場合、たとえば2→3速変速中の第3クラッチ19及び第1ブレーキ22)は、クラッチが定常状態であって、クラッチが容量をもった状態で摺接するような状態ではないので、クラッチに摩擦熱が生じず温度が上昇することはない。このため、放熱量演算手段106により放熱量が算出される。
ここで、放熱量演算手段106では、下式(1)、(2)に基づき放熱量(温度低下代)Tdownを算出する。なお、コントローラ1の制御上は、発熱量Tupを+、放熱量を−として扱っているので、下式(1)、(2)では放熱量Tdown<0となる。
解放状態:Tdown=−A×tc(t≦t1)、Tdown=−B×tc(t1≦t)・・・(1)
ただしAは変数、Bは定数、tcはインターバル、tは変速終了後の経過時間、t1は所定時間
締結状態:Tdown=−C×tc(t≦t1)、Tdown=−D×tc(t1≦t)・・・(2)
ただしCは変数、Dは定数、tcはインターバル、tは変速終了後の経過時間、t1は所定時間
すなわち放熱量演算手段106では、変速が終了して定常状態になってから所定時間t1経過するまでは、変数である勾配A、Cでクラッチ温度Tcが低下するものとして放熱量Tdownを算出し、変速が終了してから所定時間t1経過後は定数である勾配B、Dでクラッチ温度Tcが低下するものとして放熱量Tdownを算出する。変数A、Cはクラッチの現在温度Tcと油温TOILとの温度差に基づいて決定される値であり、温度差が大きいほど大きな勾配となるような値に設定されている。また、定数である勾配B、CはB>Cと設定されており、図7に示すように、解放定常時のほうが急な勾配で温度低下するように設定されている。これは、締結定常時に比べて解放定常時の方が潤滑油がクラッチのフェーシング面に供給され易く、その結果大きな放熱を行えるためである。
そして、前回算出したクラッチの現在温度Tcに今回算出した放熱量Tdownを加算することで新たなクラッチの現在温度Tcが算出される。
ここで、クラッチの締結または解放定常時には、計算上は式(1)、(2)より所定勾配でクラッチ温度Tcが低下することになるので、対象となるクラッチが長時間定常状態を維持すると実際にはありえない温度(例えば油温TOILよりも低い温度)を算出してしまう。
そこで、放熱量演算手段106には、クラッチの締結または解放定常状態が所定時間継続すると、式(1)、(2)による放熱量Tdownの計算をリセットする(或いは、下限値をクリップする)機能が設けられている。すなわち、放熱量演算手段106には図示しないリセット判定タイマが設けられており、締結定常又は解放定常の開始が判定されるとタイマがカウントをスタートする。
クラッチの状態が、締結定常又は解放定常であって且つこの状態が所定時間継続したことがタイマによりカウントされると、式(1)、(2)に基づくクラッチ温度Tcの算出をキャンセルする。また、この場合には、クラッチ温度Tcは十分に低下して、油温TOILに等しくなっているはずなので、これ以降はクラッチ温度Tcを現在の油温TOILと一致させる。
また、タイマのカウントが所定時間を越えなくても、現クラッチ温度Tcが油温TOIL以下となると、これ以降はクラッチ温度Tc=油温TOILと設定する。
一方、タイマのカウント開始から所定時間以内にクラッチの状態が解放過渡又は締結過渡に変化すると、タイマがリセットされてカウントが初期値に戻る。これにより、クラッチが過渡状態から再び定常状態になると初期値からカウントが開始される。
ここで、図8を用いてN段とN+1段との間で連続変速が行われた場合のリセット判定タイマの作用について説明すると、(a)はクラッチ温度Tcの変化について説明する図であって、(b)はリセット判定タイマのカウントについて示す図である。
図8(a)に示すように、連続変速が発生すると、クラッチが締結されるたびにクラッチ温度Tcが上昇する。なお、クラッチの締結定常時及び解放定常時にはクラッチ温度Tcは低下するが、連続変速が短時間で行われるような場合にはクラッチ締結過渡時の温度上昇に比べれば温度低下は少ない。
一方、図8(b)に示すように、変速開始(過渡時)となる毎にタイマのカウントがリセットされ、この例の場合、クラッチが締結定常状態に移行するとタイマのカウントが継続される。タイマカウントが所定値に達すると、図8(a)に示すように、これ以降はクラッチ温度Tcが油温TOILまで低下したと判定して、クラッチ温度Tcをオイルパン温度TOILに設定するようになっている。また、タイマカウントは設定値又は設定値よりも大きい値に設定された最大値に保持される。
次に、クラッチの締結または解放過渡時の温度算出(発熱)について説明する。
この場合には発熱量演算手段105においてクラッチの現在の温度が随時算出される。まず、タービン回転速度センサ12等の情報に基づいてクラッチが過渡状態であると判定されると、発熱量演算手段105ではクラッチが解放過渡時であるのか締結過渡時であるのかを判定する。
クラッチの状態が締結過渡時であると判定されると(例えば2→3変速中の第2クラッチ17)、発熱量演算手段105に設けられた締結過渡時発熱量演算手段107によりクラッチの発熱量Tupが算出される。
締結過渡時発熱量演算手段107では、変速マップ3からの情報に基づいて、現在進行している変速がアップシフトであるか、又は、ダウンシフトであるかを判定する。ここで、クラッチが締結過渡状態であっても、アップシフトとダウンシフトとでは発熱量が大きく異なり、アップシフト時の締結過渡はダウンシフト時に比べて発熱量が大きい。一方、ダウンシフト時にはクラッチの締結過渡であってもあまり発熱量はアップシフトに比べて大きくない。
これは、ダウンシフトでは、解放側クラッチが解放されるとエンジン回転が自力で上昇し、同期したタイミングで締結側クラッチが締結されるため、締結側クラッチの発熱量Tupはアップシフト時に比べて小さいからである。
そこで、本実施形態では、締結過渡状態であると判定された場合であって、アップシフトと判定された場合には、下式(3)に基づいてクラッチの発熱量TUPを算出し、ダウンシフトと判定された場合には下式(4)に基づいて発熱量TUPを設定する。
TUP=(ΔN×Tin×Δt/1000)×A×α ・・・・(3)
TUP=0 ・・・・(4)
ただし、式(3)において、ΔNはクラッチの相対回転速度、Tinはクラッチの伝達トルク、Δtは微小変速時間、Aはエネルギー量を温度に換算するための定数、αはマッチング定数(補正係数)である。なお、クラッチの相対回転速度ΔNは、タービン回転速度センサ12で得られるタービン回転速度NTと、出力軸回転速度センサ13で得られる出力軸回転速度Noと、変速機の各歯車のギア比とに基づいて算出される。また、クラッチの伝達トルクは、各クラッチに対するソレノイドバルブのデューティ値、即ち油圧値から算出される。
また、締結過渡時であってもダウンシフト時には発熱量Tupは僅かであるので、本実施形態においては、式(4)で示すように、ダウンシフト時発熱量TUP=0と設定される。これは、上記したように、クラッチが締結過渡となると、潤滑油による温度低下(放熱)と、比較的小さな発熱よる温度上昇とが相殺されるため、略一定の温度となるためである。
このようにアップシフト時には変速中に積分して発熱量TUPを毎周期ごとに算出するとともに、算出された発熱量TUPに対して前回の制御周期で算出されたクラッチ温度Tcを加算することで現クラッチ温度Tcが算出される。なお、上述したように、クラッチ温度Tcの初期値は、油温センサ14で得られたATF温度TOILに設定される。
一方、クラッチの状態が解放過渡時であると判定されると(例えば2→3変速中の第2ブレーキ23)、発熱量演算手段105に設けられた解放過渡時発熱量演算手段108によりクラッチの発熱量Tupが算出される。
解放過渡時発熱量演算手段108では、変速マップ3からの情報に基づいて、現在進行している変速がアップシフトであるか、又は、ダウンシフトであるかを判定する。ここで、クラッチが解放過渡状態であっても、アップシフトとダウンシフトとでは発熱量が大きく異なり、締結過渡とは逆に、ダウンシフト時の解放過渡はアップシフト時に比べて発熱量が大きい。一方、アップシフト時にはクラッチの解放過渡であってもダウンシフトに比べて発熱量は大きくない。
そこで、アップシフトであると判定された場合には、前述の式(4)に基づいて発熱量Tupを算出し、ダウンシフトであると判定された場合には、式(3)に基づいて発熱量Tupを算出する。
コントローラ1では、以上のようにして現在のクラッチの温度Tcを算出しつつ、変速を判断したときには、現在の温度状態から次の変速を実行したときに、該変速に関与するクラッチの上昇温度TINHを予測する。
この上昇温度TINHの予測は、コントローラ1に設けられた予測上昇温度演算手段102により実行される。ここで、図5に示すように、予測上昇温度演算手段102は、アップシフト時のクラッチ上昇温度TINHを予測するUP変速時用予測上昇温度演算手段111と、通常ダウンシフト時のクラッチ上昇温度TINHを予測する通常DOWN変速時用予測上昇温度演算手段112と、後述するPYDOWN変速時のクラッチ上昇温度TINHを予測するPYDOWN変速時用予測上昇温度演算手段113と、新同期変速時のクラッチ上昇温度TINHを予測する新同期変速時用予測上昇温度演算手段114とを備えている。
コントローラ1でアップシフト判断又はダウンシフト判断があると、実際のアップシフト指令又はダウンシフト指令に先立ち上昇温度TINHが予測される。各予測上昇温度演算手段における演算方法についてはそれぞれ後述する。
このようにして予測上昇温度演算手段102により次に行われる変速時における予測上昇温度TINHが算出されると、図5に示すように、この予測上昇温度TINH及び現在温度演算手段101で算出された現在のクラッチ温度Tcが予測温度演算手段103に入力される。
予測温度演算手段103では、現在のクラッチ温度Tcに予測上昇温度TINHを加算して、次に行われる変速時の変速完了時における予測温度TESが算出される。
また、図5に示すように、コントローラ1には閾値記憶手段110が設けられており、この閾値記憶手段110には、UP焼損温度とDOWN焼損温度とが記憶されている。UP焼損温度は、クラッチ温度Tcが超えるとクラッチが焼損してしまう温度であり、アップシフト(以下、UP変速とも記載)時に変速後のクラッチ温度Tcが超えるか否かを判断するために使用される。またDOWN焼損温度はダウンシフト(以下、DOWN変速とも記載)時に変速後のクラッチ温度Tcが超えるか否かを判断するために使用される、UP焼損温度より低い温度であり、UP焼損温度からPYUP変速による最大発熱量Tupによる温度上昇分を差し引いた温度である。なお、PYUP変速とは通常のUP変速より発熱量Tupが少ない変速態様で、変速判断した変速を実行することであり、これについては後述する。
比較手段109において予測温度TESとUP焼損温度又はDOWN焼損温度とが比較され、予測温度TESがUP焼損温度又はDOWN焼損温度以上であると判定されると、変速禁止切替手段104によって変速判断されたアップシフト又はダウンシフトが禁止又は他の変速に切り換えられる。ここで、他の変速とは通常の変速態様で行われるアップシフトに対するPYUP変速や通常の変速態様で行われるダウンシフトに対するPYDOWN変速のことである。一方、予測温度TESがUP焼損温度又はDOWN焼損温度より低いと判定されると、当該変速判断された変速が許可され、通常の変速態様でアップシフト或いはダウンシフトが実行される。
また、図5に示すように、コントローラ1には連続チェンジマインド変速許可回数演算手段120が備えられる。チェンジマインドとは、n段からn+1段又はn−1段への変速動作中に新たにn段への変速判断されることである。変速判断がチェンジマインドであると判定された場合には、クラッチの上昇温度TINHを予測することなく、現在のクラッチ温度Tcに基づいて連続チェンジマインド変速許可回数を演算する。
その後、比較手段109において現在のチェンジマインド連続変速回数と連続チェンジマインド変速許可回数とが比較され、現在のチェンジマインド連続変速回数が連続チェンジマインド変速許可回数以上であると判定されると、変速判断したアップシフト又はダウンシフトの実行が禁止される。一方、現在のチェンジマインド連続変速回数が連続チェンジマインド変速許可回数より小さいと判定されると、変速判断したアップシフト又はダウンシフトの実行が許可される。
以上の制御により、クラッチが焼き付くおそれのある場合には次の変速のアップシフト又はダウンシフトを禁止、又は通常の変速態様から他の変速態様での実行へ切り換えるとともに、クラッチが焼き付かないと判定できる場合にはアップシフト又はダウンシフトを許容するので、クラッチの熱的負荷状態に応じた適切な変速の禁止及び許可を行うことができる。
ここで、上述のPYUP変速及びPYDOWN変速について説明する。PYUP変速及びPYDOWN変速は、それぞれ通常のアップシフト及びダウンシフトの変速態様に対して、同一の入力トルクで比較すると変速時間が短縮され、その分発熱量Tupが少ない変速態様である。具体的には、変速時間の短縮は油圧の上昇勾配及び低下勾配を大きくすることでなされる。
なお以下の明細書中において、「アップシフト」という記載は、変速段をHigh側の変速段へ切り換えるということを意味するために使用し、「UP変速」という記載は、通常の変速態様で行うアップシフトであって、主にその他の変速態様で行うアップシフト(例えばPYUP変速)との差異を明確にする場合に使用する。同様に、「ダウンシフト」という記載は、変速段をLow側の変速段へ切り換えるということを意味するために使用し、「DOWN変速」という記載は、通常の変速態様で行うダウンシフトであって、主にその他の変速態様で行うダウンシフト(例えばPYDOWN変速)との差異を明確にする場合に使用する。
初めにPYUP変速について図9を参照しながら説明する。図9はPYUP変速におけるギア比、解放側クラッチの油圧指令値、締結側クラッチの油圧指令値及びエンジントルクの変化を示すタイムチャートであり、破線が通常の変速態様(通常UP変速)を示し、実線が発熱量が少ない変速態様(PYUP変速)を示す。
図9の実線に示すように、締結側クラッチは通常の変速態様(通常UP変速)に対して、トルクフェーズ中(t1〜t2)の油圧の上昇勾配及びイナーシャフェーズ中(t2〜t3)の油圧の上昇勾配が大きくなるように制御される。また解放側クラッチはトルクフェーズ中(t1〜t2)の油圧の低下勾配が大きくなるように制御される。これは締結側クラッチが容量を持ち始めても、まだ解放側クラッチが容量を持っていると、インターロックを生じるおそれがあるからである。
これにより、ギア比がn段からn+1段へと変化するまでに、通常の変速態様(通常UP変速)ではt4−t1時間だけ要するのに対して、PYUP変速ではt3−t1時間しか要しないので、t4−t3時間だけ短縮することができる。よって、締結側クラッチの発熱量Tupが短縮された時間分だけ低下する。
なお、アップシフトではイナーシャフェーズ中にエンジントルクの低減制御を行っているが、PYUP変速ではトルクダウン量をより大きく設定しているので、PYUP変速によって締結側クラッチをより短時間で締結しても、変速ショックの悪化を抑制することができる。
同様にPYDOWN変速について図10を参照しながら説明する。図10はPYDOWN変速におけるギア比、解放側クラッチの油圧指令値、締結側クラッチの油圧指令値の変化を示すタイムチャートであり、破線が通常の変速態様(通常DOWN変速)を示し、実線が発熱量が少ない変速態様(PYDOWN変速)を示す。
図10の実線に示すように、解放側クラッチは通常変速に対して、変速開始からイナーシャフェーズ開始まで(t1〜t2)の油圧の低下勾配、及びイナーシャフェーズ中(t2〜t3)の油圧の上昇勾配が大きくなるように制御される。また締結側クラッチはイナーシャフェーズ中(t2〜t3)の油圧の上昇勾配が大きくなるように制御される。
これにより、ギア比がn段からn−1段へと変化するまでに、通常変速ではt6−t1時間だけ要するのに対して、PYDOWN変速ではt4−t1時間しか要しないので、t6−t4時間だけ短縮することができる。よって、解放側クラッチの発熱量Tupが短縮された時間分だけ低下する。
以上のように図5を参照しながら説明したコントローラ1で行う制御について、以下、図11〜図18のフローチャートを用いてより詳細に説明する。なお、図11〜図18に示すフローチャートは各クラッチ毎に実行される。
初めに図11を参照しながら現在温度演算手段101の制御内容について説明する。
ステップS1では、現在のエンジン回転速度NE、タービン回転速度NT、油温TOIL、車速No等の情報を取り込む。
ステップS2では、クラッチの状態が締結定常状態、解放過渡状態、解放定常状態又は締結過渡状態であることが判定される。
クラッチの状態が締結定常状態であればステップS3へ進み、リセット判定タイマをカウントアップして、ステップS4へ進んで締結時放熱量Tdownを演算する。なお、締結時放熱量Tdownの演算については後述する。
クラッチの状態が解放過渡状態であればステップS5へ進み、変速種がアップシフトであるかダウンシフトであるかが判定される。ダウンシフトであればステップS6へ進み、リセット判定タイマをクリアして、ステップS7へ進んで解放時発熱量Tupを演算する。解放時発熱量Tupは、上述の式(3)に基づいて演算される。変速種がアップシフトであればステップS8へ進み、リセット判定タイマをクリアして、ステップS9へ進んで発熱量Tupを式(4)に基づいて0とする。
クラッチの状態が解放定常状態であればステップS10へ進み、リセット判定タイマをカウントアップして、ステップS11へ進んで解放時放熱量Tdownを演算する。なお、解放時放熱量Tdownの演算については後述する。
クラッチの状態が締結過渡状態であればステップS12へ進み、変速種がアップシフトであるかダウンシフトであるかが判定される。ダウンシフトであればステップS8へ進み、リセット判定タイマをクリアして、ステップS9へ進んで発熱量Tupを式(4)に基づいて0とする。変速種がアップシフトであればステップS13へ進み、リセット判定タイマをクリアして、ステップS14へ進んで締結時発熱量Tupを演算する。締結時発熱量Tupは、上述の式(3)に基づいて演算される。
ステップS15では、リセット判定タイマがクラッチリセット設定時間(第2の所定時間)以上であるか否かを判定する。リセット判定タイマがクラッチリセット設定時間以上であればステップS16へ進み、クラッチの現在温度Tcを油温TOILとして処理を終了する。
リセット判定タイマがクラッチリセット設定時間より小さい場合には、ステップS17へ進んでクラッチの現在温度Tcに発熱量Tup又は放熱量Tdownを加算する。なお、放熱量Tdownは負の値である。ここで、クラッチリセット設定時間とは、クラッチの締結または解放定常状態が所定時間継続したことにより、クラッチ温度Tcが十分に低下して油温TOILと等しくなっていると判断することができる程度の時間である。
ステップS18では、クラッチの現在温度Tcが油温TOIL以下であるか否かを判定する。クラッチの現在温度Tcが油温TOIL以下であればステップS16へ進んで、クラッチの現在温度Tcを油温TOILとする。クラッチの現在温度Tcが油温TOILより高い場合には、処理を終了する。すなわち、クラッチ温度Tcが油温TOILより低くなることは実際には考えにくいので、演算されるクラッチ温度Tcが油温TOILより低くなるような場合には、クラッチ温度Tcを油温TOILとするものである。
ここで、図11のステップS4における締結時放熱量Tdownの演算について図12のフローチャートを参照しながら説明する。なお、ステップS11における解放時放熱量Tdownも以下に説明する締結時放熱量Tdownの演算と同様の方法で演算される。
ステップS101では、変速終了直後か否かを判定する。変速終了直後であればステップS102へ進み、変速終了直後でなければステップS103へ進む。
ステップS102では、クラッチの現在温度Tcと油温TOILとの温度差に基づいて温度低下勾配(第1の低下勾配)を設定する。温度低下勾配は上述の式(1)、(2)におけるA、Cであり、クラッチの現在温度Tcと油温TOILとの温度差が大きいほど大きくなるように設定される。
ステップS103では、タイマをカウントする。
ステップS104では、タイマが所定値(第1の所定時間)以上であるか否かを判定する。タイマが所定値以上であればステップS105へ進み、温度低下勾配を一定の所定勾配(第2の低下勾配)に設定する。
ステップS106では、変速開始からの時間(上記タイマの値)と温度低下勾配とから今回の締結時放熱量Tdownを算出して処理を終了する。ここで、所定値は上述の式(1)、(2)におけるt1であり、放熱開始時の温度によらず温度低下勾配がほぼ一定となるまでに要する時間であり、例えば5secに設定される。
次に図13、図14を参照しながら予測上昇温度演算手段102、予測温度演算手段103、閾値演算手段110、連続チェンジマインド変速許可回数演算手段115、比較手段109及び変速禁止切替手段104の制御内容について説明する。
ステップS21では、変速判断があったか否かを判定する。変速判断があった場合はステップS22へ進み、変速判断がない場合は処理を終了する。
ステップS22では、上記変速判断された変速種がチェンジマインドであるか否かを判定する。チェンジマインドの場合はステップS50へ進み、チェンジマインドでない場合にはステップS23へ進む。チェンジマインドとは、n段からn+1段又はn−1段への変速動作中に新たにn段への変速判断されることである。
ステップS23では、変速種がアップシフトであるかダウンシフトであるかが判定される。アップシフトであればステップS24へ進み、ダウンシフトであればステップS29へと進む。
ステップS24では、UP変速時用予測上昇温度を演算する。UP変速時用予測上昇温度とは、アップシフト時に締結するクラッチの予測される上昇温度TINHであり、詳細な演算方法については後述する。
ステップS25では、現在のクラッチ温度TcにUP変速時用予測上昇温度を加算してUP変速時用予測温度TESを求める。
ステップS26では、UP変速時用予測温度TESがUP焼損温度以上であるか否か、言い換えるとUP変速時用予測温度TESがUP焼損温度以上の温度領域に入る状態となるかを判定する。UP変速時用予測温度TESがUP焼損温度より低ければ、ステップS27へ進んで通常の変速態様でUP変速を行い、UP変速時用予測温度TESがUP焼損温度以上であれば、ステップS28へ進んで発熱量が少ない変速態様であるPYUP変速を行う。ここで、通常の変速態様である通常UP変速とは、運転者が変速ショックを体感しないような油圧の設定によって実行される変速態様のことであり、PYUP変速とは通常のUP変速より当該クラッチへの供給油圧の上昇率を高くすることによって、クラッチの締結に要する時間を短縮した変速である。なお、PYUP変速の際には、エンジンのトルクダウン量を通常UP変速より大きくする。これにより、変速ショックの悪化を抑制できるとともに、入力トルクが下がることで発熱量Tupも下げることができる。
一方、ステップS23において変速種がダウンシフトであると判定されると、ステップS29へ進んでDOWN焼損温度を演算する。DOWN焼損温度の詳細な演算方法については後述する。
ステップS30では、アクセル踏み込みによるダウンシフトであるか否かを判定する。アクセル踏み込みによるダウンシフトであればステップS40へ進み、アクセル踏み込みによるダウンシフトでなければステップS31へ進む。
ステップS31では、通常DOWN変速時用予測上昇温度を演算する。通常DOWN変速時用予測上昇温度とは、通常のダウンシフト時に解放するクラッチの予測される上昇温度TINHであり、詳細な演算方法については後述する。
ステップS32では、現在のクラッチ温度Tcに通常DOWN変速時用予測上昇温度を加算して通常DOWN変速時用予測温度TESを求める。
ステップS33では、通常DOWN変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度以上であるか、言い換えると通常DOWN変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度以上の温度領域に入る状態となるかを判定する。通常DOWN変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度より低ければ、ステップS34へ進んで通常DOWN変速を行い、通常DOWN変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度以上であれば、ステップS35へ進む。
ステップS35では、PYDOWN変速時用予測上昇温度を演算する。PYDOWN変速時用予測上昇温度とは、PYDOWN変速時に解放するクラッチの予測される上昇温度TINHであり、詳細な演算方法については後述する。PYDOWN変速とは、通常の変速態様である通常DOWN変速より当該クラッチへの供給油圧の低下率を高くすることによって、クラッチの解放に要する時間を短縮した変速である。
ステップS36では、現在のクラッチ温度TcにPYDOWN変速時用予測上昇温度TINHを加算してPYDOWN変速時用予測温度TESを求める。
ステップS37では、PYDOWN変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度以上であるか否か、言い換えるとPYDOWN変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度以上の温度領域に入るかを判定する。PYDOWN変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度より低ければステップS38へ進んでPYDOWN変速を行い、PYDOWN変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度以上であればステップS39へ進んで変速判断したダウンシフトの実行を禁止する。
一方、ステップS30においてアクセル踏込みによるダウンシフトであると判定されると、ステップS40へ進んでステップS21において変速判断ありと判定される前のアクセル開度が所定開度以下であり、かつアクセル開度の変化速度が所定速度以上であるか否かを判定する。上記条件を満たす場合にはステップS46へ進み、上記条件を一方でも満たさない場合にはステップS41へ進む。所定開度はほぼゼロであり、所定速度はアクセルペダルの急踏み込みと判断できる程度の値に設定される。すなわち、上記条件はアクセル開度がほぼ全閉状態から急踏み込みされた場合に成立し、このような場合は第1の同期制御が行われる場合であるのでステップS46へ進み、上記条件が非成立の場合は第2の同期制御が行われる場合であるのでステップS41へ進む。
なお、第1の同期制御及び第2の同期制御とは、ダウンシフト時にエンジンの回転速度と締結されるクラッチの回転速度とを同期させてから当該クラッチを締結する制御であり、第1の同期制御では解放する側のクラッチを引き摺ることなく急解放する、すなわち当該クラッチへの供給油圧をステップ的に低下させるのに対して、第2の同期制御では出力トルクの抜け感を無くすことを目的に、当該クラッチを引き摺りながら解放する、すなわち当該クラッチへの供給油圧を漸減させる点で異なる。
ステップS41では、新同期変速時用予測上昇温度TINHを演算する。新同期変速時用予測上昇温度とは、第2の同期制御による変速時に解放するクラッチの予測される上昇温度TINHであり、詳細な演算方法については後述する。
ステップS42では、現在のクラッチ温度Tcに新同期変速時用予測上昇温度TINHを加算して新同期変速時用予測温度TESを求める。
ステップS43では、新同期変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度以上であるか否かを判定する。新同期変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度より低ければステップS44へ進んで第2の同期制御による変速を行い、新同期変速時用予測温度TESがDOWN焼損温度以上であればステップS45へ進んで変速判断したダウンシフトを禁止する。
一方、ステップS40において変速指令ありと判定される前のアクセル開度が所定開度以下であり、かつアクセル開度の変化速度が所定速度以上であると判定された場合には、ステップS46へ進んで現在のクラッチ温度Tcを読み込む。
ステップS47では、現在のクラッチ温度TcがDOWN焼損温度以上であるか否かを判定する。現在のクラッチ温度TcがDOWN焼損温度より低ければ、ステップS48進んで第1の同期制御による変速を行い、現在のクラッチ温度TcがDOWN焼損温度以上であれば、ステップS49へ進んでダウンシフトを禁止する。
一方、ステップS22においてチェンジマインドありと判定されると、図14のステップS50へ進んで変速種がアップシフトであるかダウンシフトであるかを判定する。アップシフトであると判定されるとステップS51へ進み、ダウンシフトであると判定されるとステップS57へ進む。ここで、本ステップS50ではステップS23と同様に、アップシフトであることは締結過渡状態のアップシフトのみを指し、ダウンシフトであることは解放過渡状態のダウンシフトのみを指す。
ステップS51では、現在のクラッチ温度Tcを読み込む。
ステップS52では、UP変速時のクラッチ温度Tcによる連続チェンジマインド変速許可回数を読み込む。連続チェンジマインド変速許可回数は図15のマップを参照してクラッチ温度Tcに基づいて決定される。
図15のマップは、クラッチ温度Tcに応じてS領域、A領域、B領域及びC領域の4つの領域に分かれており、現在のクラッチ温度Tcがどの領域にあるかによってチェンジマインド変速許可回数が決定される。S領域は、クラッチ温度TcがUP焼損温度以上の領域である。A領域は、クラッチ温度TcがUP焼損温度未満、DOWN焼損温度以上の領域である。B領域は、クラッチ温度TcがDOWN焼損温度未満、UP焼損温度からアップシフト時の最大発熱量Tupを差し引いた温度以上の領域である。C領域は、クラッチ温度TcがUP焼損温度からアップシフト時の最大発熱量Tupを差し引いた温度未満の領域である。
現在のクラッチ温度TcがS領域にあるとき、クラッチ焼けが起きるのでチェンジマインドは禁止され、連続チェンジマインド変速許可回数は0回に設定される。A領域にあるとき、チェンジマインドを1回でも行うとS領域に入る可能性があるのでチェンジマインドは禁止され、連続チェンジマインド変速許可回数は0回に設定される。B領域にあるとき、ダウンシフト中のアップシフトのチェンジマインドは次にダウンシフトが起きてもこのダウンシフトを制限可能であるので、連続チェンジマインド変速許可回数は1回に設定される。C領域にあるとき、チェンジマインドは制限する必要がないが、ここでは例えば連続チェンジマインド変速許可回数は5回に設定される。
図14に戻ってステップS53では、現在のチェンジマインド連続変速回数が連続チェンジマインド変速許可回数より少ないか否かを判定する。現在のチェンジマインド連続変速回数が連続チェンジマインド変速許可回数より少なければ、ステップS54へ進んで連続変速回数をインクリメントして、ステップS55へ進んでアップシフトを行う。現在のチェンジマインド連続変速回数が連続チェンジマインド変速許可回数以上であれば、ステップS56へ進んでアップシフトを禁止する。
一方、ステップS50において変速種がダウンシフトであると判定されると、ステップS57へ進んで現在のクラッチ温度Tcを読み込む。
ステップS58では、ダウンシフト時のクラッチ温度Tcによる連続チェンジマインド変速許可回数を読み込む。ダウンシフト時の連続チェンジマインド変速許可回数はステップS52において求めたアップシフト時の連続チェンジマインド変速許可回数と同様に求められる。ただし、クラッチ温度TcがB領域にあるときはアップシフト時とは異なる。アップシフト中のダウンシフトのチェンジマインドは、次にエンジンのオーバーレブ防止のために強制的にアップシフトさせる可能性があるので、このアップシフトを考慮してチェンジマインドは禁止される。
ステップS59では、現在のチェンジマインド連続変速回数が連続チェンジマインド変速許可回数より少ないか否かを判定する。現在のチェンジマインド連続変速回数が連続チェンジマインド変速許可回数より少なければ、ステップS60へ進んで連続変速回数をインクリメントして、ステップS61へ進んでダウンシフトを行う。現在のチェンジマインド連続変速回数が連続チェンジマインド変速許可回数以上であれば、ステップS62へ進んでダウンシフトを禁止する。
次に図13のステップS24におけるUP変速時用予測上昇温度TINHの演算について図16のフローチャート及び図20のタイムチャートを参照しながら説明する。図20のタイムチャートは、(a)目標変速段NxtGP、(b)現在の変速段CurGP、(c)タービン回転速度NT、(d)アウトプット回転速度No(車速)、(e)加速度、(f)相対回転速度、(g)クラッチの伝達トルク、(h)クラッチへの供給油圧の変化を示す。t1〜t2は前処理時間、t2〜t3はトルクフェーズ目標時間、t3〜t4はイナーシャフェーズ目標時間であり、前処理時間とは変速指令からクラッチのピストンストロークの完了までの時間である。
ステップS201では、前処理開始時の加速度(図20(e);t1)を演算する。前処理開始時の加速度は、前処理開始時の車速と所定時間前の車速とに基づいて演算される。
ステップS202では、前処理時間(t2−t1)を読み込む。前処理時間は、車速とトルクとに基づいて決定される時間であり、本実施例では変速制御のもつ前処理時間バックアップタイマを読み込む。
ステップS203では、トルクフェーズ開始時車速(図20(d);t2)を演算する。トルクフェーズ開始時車速は、前処理開始時の加速度に前処理時間を乗算したものを前処理開始時の車速に加算することで演算される。
ステップS204では、トルクフェーズ開始時タービントルクを演算する。トルクフェーズ開始時タービントルクは、トルクフェーズ開始時車速と変速比からタービン回転速度NTを求め、タービン回転速度NTに基づいて予め記憶されている回転−トルク変換マップを参照して演算される。
ステップS205では、トルクフェーズ開始時の車速とタービントルクに基づいて、変速制御の持つトルクフェーズ目標時間(t3−t2)を読み込む。
ステップS206では、トルクフェーズ開始時伝達トルク(図20(g);t2)を演算する。トルクフェーズ開始時伝達トルクは、クラッチのリターンスプリングと釣り合うトルクであり、トルクフェーズ開始時には油圧が供給されていないので、トルクフェーズ開始時伝達トルクはゼロである。
ステップS207では、イナーシャフェーズ開始時車速(図20(d);t3)を演算する。イナーシャフェーズ開始時車速は、前処理開始時の加速度にトルクフェーズ目標時間を乗算したものにトルクフェーズ開始時車速を加算して演算される。
ステップS208では、イナーシャフェーズ開始時タービントルクを演算する。イナーシャフェーズ開始時タービントルクは、イナーシャフェーズ開始時車速と変速比からタービン回転速度NTを求め、タービン回転速度NTに基づいて回転−トルク変換マップを参照して演算される。
ステップS209では、イナーシャフェーズ開始時伝達トルク(図20(g);t3)を演算する。イナーシャフェーズ開始時伝達トルクは、イナーシャフェーズ開始時タービントルクに分担比を乗算して演算される。なお分担比とは、ある変速段において当該変速段で締結している複数のクラッチがそれぞれ受け持っているトルクの、入力トルクに対する比率である。
ステップS210では、トルクフェーズ平均伝達トルク(図20(g))を演算する。トルクフェーズ平均伝達トルクは、トルクフェーズ開始時伝達トルクにイナーシャフェーズ開始時伝達トルクを加算したものを2で除算して演算される。すなわち、トルクフェーズ開始時伝達トルクとイナーシャフェーズ開始時伝達トルクとの平均値として演算される。
ステップS211では、イナーシャフェーズ開始時油圧(図20(h);t2)を演算する。イナーシャフェーズ開始時油圧は以下の式に従って演算される。
(イナーシャフェーズ開始時油圧)=(イナーシャフェーズ開始時伝達トルク)/(A×μ×D×N)+F/A・・・(8)
ここで、Aは面積、μは摩擦係数、Dは有効径、Nはフェーシング枚数、Fはリターンスプリングの荷重である。
ステップS212では、イナーシャフェーズ開始時タービントルクとイナーシャフェーズ開始時車速に基づいて、変速制御のマップからイナーシャフェーズ開始時油圧傾きを読み込む。
ステップS213では、イナーシャフェーズ平均油圧を演算する。イナーシャフェーズ平均油圧は、イナーシャフェーズ開始時油圧とイナーシャフェーズ開始時油圧傾きとイナーシャフェーズ目標時間に基づいて演算される。なお、イナーシャフェーズ目標時間は定数である。
ステップS214では、イナーシャフェーズ平均油圧に基づいてイナーシャフェーズ平均伝達トルク(図20(g))を演算する。
ステップS215では、トルクフェーズ開始時相対回転速度(図20(f);t2)を演算する。トルクフェーズ開始時相対回転速度は以下の(9)式に従って演算される。
(トルクフェーズ開始時相対回転速度)={A×(トルクフェーズ開始時アウトプット回転速度No)+B×(トルクフェーズ開始時タービン回転速度NT)}×2π/60・・・(9)
ここで、A、Bは相対回転演算定数であり共線図から求めておく。
ステップS216では、イナーシャフェーズ開始時相対回転速度(図20(f);t3)を演算する。イナーシャフェーズ開始時相対回転速度は以下の(10)式に従って演算される。
(イナーシャフェーズ開始時相対回転速度)={A×(イナーシャフェーズ開始時アウトプット回転速度No)+B×(イナーシャフェーズ開始時タービン回転速度NT)}×2π/60・・・(10)
ステップS217では、トルクフェーズ平均相対回転速度(図20(f))を演算する。トルクフェーズ平均相対回転速度は、トルクフェーズ開始時相対回転速度にイナーシャフェーズ開始時相対回転速度を加算したものを2で除算して演算される。すなわち、トルクフェーズ開始時相対回転速度とイナーシャフェーズ開始時相対回転速度との平均値として演算される。
ステップS218では、イナーシャフェーズ平均相対回転速度(図20(f))を演算する。イナーシャフェーズ平均相対回転速度は、イナーシャフェーズ開始時相対回転速度を2で除算して演算される。イナーシャフェーズ終了時は相対回転速度がゼロとなるので、イナーシャフェーズ開始時相対回転速度を2で除算することで、イナーシャフェーズ開始時と終了時との平均値として演算される。
ステップS219では、発熱量Tupを演算する。発熱量Tupは以下の(11)式に従って演算される。
(発熱量Tup)={(トルクフェーズ時間)×(トルクフェーズ平均相対回転速度)×(トルクフェーズ平均伝達トルク)+(イナーシャフェーズ時間)×(イナーシャフェーズ平均相対回転速度)×(イナーシャフェーズ平均伝達トルク)}/1000×(Q−T変換係数)・・・(11)
ここでQ−T変換係数は、時間、相対回転速度、トルクを乗算すると単位は[J]となるので、これを[℃]に変換するための係数である。なお、単位変換時は[kJ]に直してから係数をかけるため、予め1000で除算している。
次に、図13のステップS29におけるDOWN焼損温度の演算について図17のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS301では、n−1段へ変速後の車速を演算する。
ステップS302では、n−1段へ変速後の加速度を演算する。ステップS301で求めた車速からタービン回転速度NTを求め、これから回転−トルク変換マップを参照してタービントルクを求め、タービントルクに基づいて加速度が演算される。
ステップS303では、n−1段時のn段への変速車速を演算する。n−1段時のn段への変速車速とは、n段へのUP変速が判断される車速であり、変速マップを参照して演算される。
ステップS304では、n−1段時のn段への変速車速到達時間を演算する。n−1段時のn段への変速車速到達時間は、ステップS302で演算された加速度に基づいて演算される。
ステップS305では、放熱係数を演算する。放熱係数はダウンシフトによる発熱量Tupと現在のクラッチ温度Tcに基づいて演算され、ダウンシフト終了後の温度が高いほど大きくなるように演算される。
ステップS306では、n−1段時のn段への変速車速到達までの放熱量Tdownを演算する。放熱量Tdownは、放熱係数にn−1段時のn段への変速車速到達時間を乗算することで演算される。
ステップS307では、ダウン焼損温度を演算する。ダウン焼損温度は、ベースとなるダウン焼損温度に、n−1段時のn段への変速車速到達までの放熱量Tdownによる温度低下分を加算した値と、UP焼損温度とのうち、低い方の値として演算される。
さらにここで、図13のステップS31における通常DOWN変速時用予測上昇温度TINHの演算について図18のフローチャート及び図21のタイムチャートを参照しながら説明する。図21のタイムチャートは、(a)タービン回転速度NT、(b)アウトプット回転速度No(車速)、(c)加速度、(d)相対回転速度、(e)クラッチの伝達トルクの変化を示す。t1〜t2はイナーシャフェーズ目標時間である。
ステップS401では、イナーシャフェーズ開始時車速(図21(b);t1)を演算する。イナーシャフェーズ開始時車速は、前処理開始時の加速度に前処理時間を乗算したものを前処理開始時の車速に加算することで演算される。
ステップS402では、イナーシャフェーズ開始時タービントルクは、イナーシャフェーズ開始時車速と変速比からタービン回転速度NTを求め、タービン回転速度NTに基づいて回転−トルク変換マップを参照して演算される。
ステップS403では、イナーシャフェーズ開始時伝達トルク(図21(e);t1)を演算する。イナーシャフェーズ開始時伝達トルクは、イナーシャフェーズ開始時タービントルクに分担比を乗算して演算される。
ステップS404では、イナーシャフェーズ終了時車速(図21(b);t2)を演算する。イナーシャフェーズ終了時車速は、現在の加速度と前処理時間とイナーシャフェーズ目標時間に基づいて演算される。
ステップS405では、イナーシャフェーズ終了時タービントルクを演算する。イナーシャフェーズ終了時タービントルクは、イナーシャフェーズ終了時車速と変速比からタービン回転速度NTを求め、タービン回転速度NTに基づいて回転−トルク変換マップを参照して演算される。
ステップS406では、イナーシャフェーズ終了時伝達トルク(図21(e);t2)を演算する。イナーシャフェーズ終了時伝達トルクは、イナーシャフェーズ終了時タービントルクに分担比と安全率を乗算して演算される。なお安全率とは、ダウンシフト時であってクラッチを解放する際の油圧を決定するための定数であり、イナーシャフェーズ終了時タービントルクと車速に基づいて求められる。
ステップS407では、イナーシャフェーズ平均伝達トルク(図21(e))を演算する。イナーシャフェーズ平均伝達トルクは、イナーシャフェーズ開始時伝達トルクにイナーシャフェーズ終了時伝達トルクを加算したものを2で除算して演算される。すなわち、イナーシャフェーズ開始時伝達トルクとイナーシャフェーズ終了時伝達トルクとの平均値として演算される。
ステップS408では、イナーシャフェーズ平均相対回転速度(図21(d))を演算する。イナーシャフェーズ平均相対回転速度は以下の(12)式に従って演算される。
(イナーシャフェーズ平均相対回転速度)={A×(イナーシャフェーズ開始時アウトプット回転速度No)+B×(イナーシャフェーズ開始時タービン回転速度NT)}×π/60・・・(12)
ここで、A、Bは相対回転演算定数であり共線図から求めておく。
ステップS409では、発熱量Tupを演算する。発熱量Tupは以下の(13)式に従って演算される。
(発熱量Tup)={(イナーシャフェーズ時間)×(イナーシャフェーズ平均相対回転速度)×(イナーシャフェーズ平均伝達トルク)}/1000×(Q−T変換係数)・・・(13)
また、図13のステップS35におけるPYDOWN変速時用予測上昇温度TINHの演算については、上述の通常DOWN変速時用予測上昇温度TINHの演算と同様であるが、ステップS404で用いるイナーシャフェーズ目標時間が通常DOWN変速時用より短くなる点が異なる。
次に、図13のステップS41における新同期変速時用予測上昇温度TINHの演算について図19のフローチャートを参照しながら説明する。
ステップS501では、タービン回転速度NTとアウトプット回転速度Noとの相対回転速度を演算する。
ステップS502では、解放されるクラッチの目標伝達トルクを演算する。
ステップS503では、目標変速時間を演算する。
ステップS504では、予測発熱量Tupを演算する。予測発熱量Tupは、相対回転速度と目標伝達トルクと目標変速時間とを乗算することで演算される。
次に、本実施形態における自動変速機の変速制御装置の作用について図22のタイムチャートを参照しながら説明する。なお、アップシフト及びダウンシフトは、説明がない限り、変速ショックを重視した通常の変速態様による変速を意味している。図22はあるクラッチの温度の変化を示すタイムチャートであり、n速段とn+1速段との間でアップシフトとダウンシフトが繰り返され、その後放熱する様子を示している。
時刻t1においてUP変速が指令されると、UP変速時用予測上昇温度TINHが演算され、これに現在のクラッチ温度Tcを加算して得られるUP変速後の予測温度TESがUP焼損温度を超えていないので、アップシフトが行われる。
時刻t2においてダウンシフトが指令されると、DOWN変速時用予測上昇温度TINHが演算され、これに現在のクラッチ温度Tcを加算して得られるダウンシフト後の予測温度TESがDOWN焼損温度を超えていないので、ダウンシフトが行われる。
その後、同様にアップシフトとダウンシフトとが繰り返され、時刻t3においてアップシフトが判断されると、アップシフト後の予測温度TESが演算され、この予測温度TESがUP焼損温度を超えるので、発熱量の少ない変速態様であるPYUP変速が行われる。これにより、クラッチの発熱量Tupが低下するのでクラッチの温度がUP焼損温度を超えて焼損することは回避される。
その後、当該クラッチは締結定常状態となり、徐々に放熱される。このときの放熱量Tdown、すなわち温度低下勾配は、時刻t3以後行われたアップシフト直後のクラッチの温度と油温TOILとの温度差に基づいて決定される。
時刻t4において、ダウンシフト判断されると、通常の変速態様でダウンシフトを実行した場合の変速後の予測温度TESが演算され、この予測温度TESがDOWN焼損温度を超えるので、発熱量の少ない変速態様であるPYDOWN変速後の予測温度TESが演算される。しかし、PYDOWN変速後の予測温度TESもDOWN焼損温度を超えるので、変速判断したダウンシフトの実行が禁止される。
時刻t5において、再度ダウンシフト判断されると、通常の変速態様でダウンシフトを実行した場合の変速後の予測温度TESが演算され、この予測温度TESがDOWN焼損温度を超えるので、PYDOWN変速後の予測温度TESが演算される。一方、発熱量の少ない変速態様のPYDOWN変速後の予測温度TESはDOWN焼損温度を超えないので、PYDOWN変速が行われる。
その後、当該クラッチは解放定常状態となり、徐々に放熱される。このときの放熱量Tdown、すなわち温度低下勾配は、時刻t5以後行われたダウンシフト終了直後のクラッチの温度と油温TOILとの温度差に基づいて決定される。
時刻t5以降、クラッチリセット設定時間が経過すると、又はクラッチの温度が油温TOIL以下となると、クラッチの温度を油温TOIL(一定値)として保持する。
以上のように本実施形態では、放熱時の温度低下勾配を、タイマが所定値となるまでは変速終了時のクラッチ温度Tcと油温TOILとの温度差に基づいて設定される温度低下勾配とし、タイマが所定値以上となると、変速終了時のクラッチ温度Tc及び油温TOILに関係なく一定の所定勾配とするので、放熱開始からタイマが所定値となるまでの比較的クラッチ温度Tcが高い領域では、現在温度の推定精度が向上して運転性の悪化を防止することができる。また、タイマが所定値となった後は、クラッチ温度Tcが低くなっており、放熱開始時のクラッチ温度Tcにかかわらず温度低下勾配はほぼ一定と考えられるので、一定の所定勾配を用いることでデータ容量を削減することができる(請求項1に対応)。
また、クラッチの現在温度Tcと油温TOILとの温度差に基づいて設定される温度低下勾配は、変速終了時のクラッチ温度Tcが高いほど大きな勾配に設定されるので、現在のクラッチ温度Tcをより精度良く演算することができる(請求項2に対応)。
さらに、所定勾配は、クラッチの現在温度Tcと油温TOILとの温度差に基づいて設定される温度低下勾配より小さな勾配に設定されるので、現在のクラッチ温度Tcをより精度良く演算することができる(請求項3に対応)。
さらに、リセット判定タイマがクラッチリセット設定時間以上となると、クラッチ温度Tcを油温TOILとする。ここで、放熱開始からある程度の時間が経過すると、クラッチ温度Tcが油温TOIL付近の温度まで低下していると判断できるので、この場合にはクラッチ温度Tcの演算を中止することで演算負荷を低下させることができる(請求項4に対応)。
さらに、演算されるクラッチ温度Tcが油温TOIL以下となると、演算を中止してクラッチ温度Tcを油温TOILとするので、クラッチ温度Tcが油温TOIL以下という、現実にはあり得ない温度が演算されることを防止することができる(請求項5に対応)。
以上説明した実施形態に限定されることなく、その技術的思想の範囲内において種々の変形や変更が可能である。