JP6938098B2 - 自動変速機の変速制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、自動車に用いて好適な自動変速機の変速制御装置に関する。
特許文献1には、連続変速の際に摩擦係合要素の発熱による耐久性の低下を回避するために、変速要求が来たときは、この変速に伴う発熱温度を予測し、予測された発熱温度が耐久性の低下を表す所定温度以上か否かを判断し、所定温度以上のときは変速を禁止する技術が開示されている。
特開2007−263172号公報
しかしながら、発熱温度を予測する際に、実際に生じる発熱温度と、予測された発熱温度との間に乖離があり、特にスロットル開度に依存することを見出した。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたもので、連続変速の際に発熱温度を精度よく予測することが可能な自動変速機の変速制御装置を提供することを目的とする。
本発明では、複数の摩擦係合要素の係合状態を変更することにより目標変速段への変速を行なう自動変速機の変速制御装置であって、
変速を判断したときには、該摩擦係合要素の現在の熱的負荷状態を算出するとともに、次変速で発生する該摩擦係合要素の発熱状態を予測して、該現在の熱的負荷状態と該予測した次変速の発熱状態とに基づいて該次変速の許可または禁止を決定するものであって、
次変速で発生する該摩擦係合要素の発熱状態を予測するときは、該予測された発熱状態をスロットル開度に応じて補正する補正係数を有することとした。
よって、スロットル開度に応じた変速制御の変速性能に応じた発熱状態を算出することができ、精度の高い発熱状態を予測できる。
実施例1の自動変速機の変速制御装置の要部構成を示す模式図である。 本発明が適用される自動変速機の構造を示すスケルトン図である。 実施例1の自動変速機の変速制御装置の各変速段における摩擦締結要素の係合状態を示す図である。 実施例1の自動変速機の変速制御装置の変速マップを示す図である。 実施例1の自動変速機の変速制御装置の要部の構成を機能に着目して示す模式図である。 実施例1の自動変速機の変速制御装置のクラッチ温度初期値について説明する図である。 実施例1の自動変速機の変速制御装置のクラッチ温度の特性について説明する図である。 実施例1の自動変速機の変速制御装置のリセット判定タイマについて説明する図である。 実施例1の自動変速機の変速制御装置の作用について説明するための図である。 実施例1の自動変速機の変速制御装置の作用について説明するためのフローチャートである。 実施例1の自動変速機の変速制御装置の作用について説明するタイムチャートである。 実施例1のスロットル開度に応じた補正係数を表すマップである。
図1は、実施例1の自動変速機の変速制御装置の構成を示す機能ブロック図、図2は実施例1の自動変速機の構成を示すスケルトン図である。図1に示すように、本変速制御装置は、コントローラ1,タービン25及びタービンシャフト10の回転数NTを検出する入力軸回転数センサ(タービン軸回転数センサ)12,出力軸28の回転数Noを検出する出力軸回転数センサ(車速センサ)13,ATF(自動変速機用オイル)の温度を検出する油温センサ14,図示しないエンジンのスロットル開度を検出するスロットルセンサ30,エンジンの吸気量を検出するエアフローセンサ31及びエンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ32の各種センサと、自動変速機7の油圧回路11と、を有する。コントローラ1は、上記各センサ12,13,14,30,31,32等からの検出信号に基づいて所望の目標変速段を決定するとともに、油圧回路11を介して目標変速段を達成するための変速制御を行なう。なお、図1においては、便宜上、左側(エンジンから遠い側)をフロント側、右側(エンジン側)をリア側とする。
自動変速機7の変速段は、自動変速機7内に設けられたプラネタリギヤユニット,複数の油圧クラッチ及び油圧ブレーキ等の摩擦係合要素の係合関係により決まる。例えば、図1においては、自動変速機7は4段変速の場合について示しており、摩擦係合要素として第1クラッチ15,第2クラッチ17,第3クラッチ19,第1ブレーキ22,第2ブレーキ23をそなえている。なお、この自動変速機7の詳細を図2に示す。また、図2において、各摩擦係合要素を示す符号は図1に示すものと対応している。
このコントローラ1による摩擦係合要素15,17,19,22,23の制御は、図1に示す油圧回路11を介して行なわれる。つまり、油圧回路11には、図示しない複数のソレノイドバルブがそなえられ、これらのソレノイドバルブを適宜駆動(デューティ制御)することによって、オイルポンプから送り出されるATFが摩擦係合要素15,17,19,22,23へ供給される。コントローラ1では、スロットルセンサ30により検出されるスロットル開度と、出力軸回転数センサ13により検出される出力軸28の回転数Noに基づいて演算される車速とに基づき目標変速段を決定し、決定した目標変速段への変速に該当する摩擦係合要素15,17,19,22,23のソレノイドバルブに対して駆動信号(デューティ率信号)を出力する。なお、ATFは、図示しないレギュレータ弁により所定の油圧(ライン圧)に調圧されており、このライン圧に調圧されたATFが各摩擦係合要素15,17,19,22,23を作動させるべく油圧回路11へ供給される。
ところで、コントローラ1内には変速マップ3が設けられている。また、自動変速機7には運転モードを切り換える切換レバー(図示せず)が装着されており、運転者がこの切換レバーを操作することにより、パーキングレンジ、走行レンジ(例えば、1速段〜4速段)、ニュートラルレンジ及び後退レンジ等の変速レンジの選択を手動で行えるように構成されている。
また、この走行レンジには自動変速モードと手動変速モード(マニュアルシフトモード)の2つの変速モードがあり、自動変速モードが選択された場合には、スロットル開度θTHと車速Vとに基づき、予め設定された変速マップ3に従って自動的に変速が実施される(以下、通常変速又はスタンダード変速という)。一方、マニュアルシフトモードが選択された場合には、変速段はこの変速マップ3にかかわらず選択された変速段に変速され、その後、選択された変速段に固定される。
図3は、実施例1の自動変速機の締結表、図4は、実施例1の自動変速機の変速マッップである。変速マップ3には、例えば図4に示すような特性が記憶されている。そして、通常変速時は、図4に示す変速マップ3に基づいて車速センサ13で検出される車速V及びスロットルセンサ30で検出されるスロットル開度θTHに応じた目標変速段が設定され、上述の第1〜第3クラッチ15、17、19及び第1〜第2ブレーキ22、23等の摩擦係合要素が、各々に設定されたソレノイドバルブによって制御され、図3の締結表に示す締結・解放の組み合わせにより、自動的に各変速段が確立される。なお、図3の○印が各クラッチあるいは各ブレーキの締結を示している。
図3に示すように、例えば第1クラッチ15,第2ブレーキ23が締結され、第2クラッチ17,第3クラッチ19,第1ブレーキ22が解放されていると2速段が達成される。また、2速段から3速段への変速は、締結していた第2ブレーキ23を解放するとともに、第2クラッチ17を締結することにより達成される。これらの摩擦係合要素15,17,19,22,23の係合状態は、コントローラ1によって制御され、これらの摩擦係合要素15,17,19,22,23の係合関係によって変速段が決まり、また、締結,解放のタイミングを適宜はかりながら変速制御を行なう。変速時は、各ソレノイドバルブに対しコントローラ1から駆動信号が出力され、この駆動信号に基づき各ソレノイドバルブが所定のデューティ値(デューティ率)で駆動されて、シフトフィーリングの良い最適な変速制御が実行される。
〔連続変速プロテクション制御〕
次に、本発明の要部について詳しく説明する。実施例1の自動変速機の変速制御装置は、各摩擦係合要素の現在の熱的負荷状態(温度)を常に算出するとともに、次回の変速時の当該摩擦係合要素の上昇温度を推測し、これらの結果に基づいて次回の変速の禁止又は許可を実行する連続変速プロテクション制御を実行する。
具体的には、運転点が変速マップ3のアップシフト線とダウンシフト線とを連続して且つ繰り返し横切ると、例えば3速と4速との間で3−4変速と4−3変速とが繰り返されて、3−4−3−4−・・・のような連続する変速が行われることが考えられる。或いはドライバによる変速レバー操作により3速と4速とが頻繁に切り換えられた場合にも、上述と同様に3−4−3−4−・・・のような連続変速が行われることが考えられる。
そして、このような連続変速が行われると、特定の摩擦係合要素(3−4の連続変速の場合には、第1クラッチ15及び第2ブレーキ23;図3参照)が締結と解放とを繰り返すことになるが、このように締結と解放とを短時間で繰り返し実行すると、当該摩擦係合要素の熱容量が大きくなり(温度が上昇し)、クラッチ又はブレーキが焼き付くことが考えられる。また、変速種や締結解放状態や入力トルクを考慮せずに、単純にタイマで摩擦係合要素の熱的負荷状態を予測して変速を禁止するようにしたものでは、クラッチ等の正確な温度を得ることはできない。このため、変速を許容できる状態であるのにも関わらず変速を禁止してドライバビリティを損なってしまったり、変速を禁止しなければならない状態であるにも関わらず変速を許容して摩擦係合要素を焼損してしまうことが考えられる。そこで、本装置では、各摩擦係合要素毎に熱的負荷状態(現在の温度)を算出するとともに、変速を判断した際には摩擦要素毎の温度の上昇を予測し、的確に変速の禁止と許容とを判断するように構成した。
図5は、実施例1のコントローラ内の制御構成を表すブロック図である。コントローラ1内には変速マップ3以外にも、各摩擦係合要素の現在の温度を算出する現在温度算出手段101と、次変速で発生する摩擦係合要素の上昇温度を予測する予測上昇温度算出手段102と、摩擦係合要素の現在温度と予測上昇温度とに基づいて次変速での該摩擦係合要素の予測温度を求める予測温度算出手段103と、この予測温度と所定の閾値と比較する比較手段109と、比較手段109により予測温度が所定値以上と判定されると、次変速を禁止する変速禁止手段104とを有している。
現在温度算出手段101は、各摩擦係合要素の現在の温度を逐次算出し更新するものであって、エンジン始動時には初期値として油温センサ14で得られるATFの温度TOIL が設定される。これは、エンジン始動時には変速機7の各摩擦係合要素の温度は略油温とみなすことができるからである。
ここで、図6はエンジン始動時における摩擦係合要素の温度の初期値として油温TOIL を適用することの妥当性について検証した図である。図6中のVSPは車速を示している。図示するように、1速から2速に変速する際に締結される摩擦係合要素(実施例1では第2ブレーキ23に相当;図3参照)の温度を意図的に焼き付くおそれのある温度(250℃)に保持しておき、この状態で車速を一定勾配で低下させる。そして、1速にダウンシフトした後、車速VSP=0となると、イグニッションオフ(IGN−OFF)としてエンジンを停止する(図6中のt1参照)。ここで、IGN−OFF後、エンジンを再始動(IGN−ON)する(t2参照)とともに、アクセル全開として2速へのアップシフトさせる(t3参照)。
そして、ここでは1速へのダウンシフトt0から2速へのアップシフトt3まで10秒程度要する場合をシミュレーションしたが、摩擦係合要素の温度は、t0から所定勾配(100℃/5sec)で低下していくため、10秒程度あれば、確実にオイルパン内の油温程度に低下していることが確認できた。このように、エンジン停止後すぐに再始動しても、摩擦係合要素の温度は油温TOIL 程度になっていることが試験的に確認できたので、エンジン始動時の初期温度として油温TOIL を設定することに何ら問題はない。
また、現在温度算出手段101は、上述のようにして摩擦係合要素の温度の初期値を設定すると、これ以降は、クラッチやブレーキの摩擦係合要素(以下、クラッチと略す)の現在の状態に応じて異なる手法でクラッチ温度を算出するようになっている。すなわち、クラッチ等の摩擦係合要素では、締結時と解放時とでは熱的負荷(発熱量)が異なり、また、締結時であっても変速過渡時と定常時とではやはり熱的負荷が異なる。また、ダウンシフトとアップシフトとでもクラッチに生じる熱的負荷は異なる。このため、図5に示すように、現在温度算出手段101は、クラッチの締結及び解放の過渡時の発熱を算出する発熱量算出手段105と、締結及び解放の定常時の放熱量算出手段106とを有しており、さらに発熱量算出手段105には、締結過渡時の発熱を算出する締結過渡時発熱量算出手段107と解放過渡時の放熱量を算出する解放過渡時発熱量算出手段108とが設けられている。
なお、本実施例1では、「締結過渡」とは、締結する摩擦要素のトルクフェーズ中あるいはイナーシャフェーズ中を指すものとし、「解放過渡」とは解放する摩擦要素のトルクフェーズ中あるいはイナーシャフェーズ中を指すものとして使用する。また、「締結定常」とは、対象の摩擦要素が締結完了状態で、かつトルクフェーズ中あるいはイナーシャフェーズ中ではないことを指し、これは変速指令中あるいは非変速中であるか否かを問わない。さらに、「解放定常」とは、対象の摩擦要素が完全解放状態であることを指す。
図7は、実際のアップシフト時のクラッチの締結及び解放にともなう温度変化の特性を示す図である。図7に示すように、クラッチ締結開始から締結終了までの期間が最も温度が上昇する。また、このときには温度変化の勾配も最も大きい。また、クラッチが締結して定常状態となると一定の勾配で温度が低下していく。そして、クラッチが解放開始となると、それまでの温度低下と、クラッチの相対回転による摩擦熱による温度上昇とが相殺されて略一定の温度となり、クラッチの温度変化が微小となる(図7ではクラッチ温度一定として示す)。
また、クラッチの解放が終了する(解放定常時)と、所定の勾配で温度が低下する。なお、このときのクラッチ解放後(解放定常時)の温度低下勾配は、クラッチ締結後(締結定常時)の温度低下勾配よりも大きくなる(傾きが大きい)。そこで、現在温度算出手段101では、このような温度変化特性を考慮してクラッチの温度を算出する。ここで、現在温度算出手段101によるクラッチの温度算出について具体的に説明する。現在温度算出手段101では、変速マップ3からの情報に基づき現在の変速段や変速判断時には目標変速段が入力される。更に、タービン回転数センサ12及びエンジン回転数センサ14からはタービン回転数NT及びエンジン回転数NEが入力される。
そして、複数の摩擦要素のうち、締結定常又は解放定常のクラッチ(つまり、変速機7が非変速動作中であるか、又は変速動作中であっても当該クラッチは関与しない変速動作の場合、たとえば2→3速変速中の第3クラッチ19及び第1ブレーキ22)は、クラッチが定常状態であって、クラッチが容量をもった状態で摺接するような状態ではないので、クラッチに摩擦熱が生じず温度が上昇するようなことがない。このため、クラッチは定常状態となり、放熱量算出手段106により放熱量が算出される。
ここで、放熱量算出手段106では、下式(1),(2)に基づき放熱量(温度低下代)Tdownを算出する。なお、コントローラ1の制御上は、発熱量を+,放熱量を−として扱っているので、下式(1),(2)では放熱量Tdown<0となる。
解放状態:Tdown=−B×t、ただしBは定数、tはインターバル・・・(1)
締結状態:Tdown=−C×t、ただしCは定数、tはインターバル・・・(2)
つまり、放熱量算出手段106では、定常時には所定の勾配(B,C)でクラッチ温度が低下するものとして放熱量を算出する。また、上記の定数B,Cについては、実施例1においては、B>Cと設定されており、図7に示すように、解放定常時のほうが急な勾配で温度低下するように設定されている。これは、締結定常時に比べて解放定常時の方が、潤滑油が摩擦要素に供給され易く、その結果大きな放熱を行えるためである。そして、前回算出したクラッチの現在温度Tcに今回算出した放熱量を加算することで、新たなクラッチの現在温度が算出される。
ところで、クラッチの締結または解放定常時には、計算上は式(1),(2)より所定勾配でクラッチ温度が低下することになるので、対象となるクラッチが長時間定常状態を維持すると実際にはありえない温度(例えば油温よりも低い温度)を算出してしまうことになる。
そこで、放熱量算出手段106には、クラッチの締結または解放定常状態が所定時間継続すると、式(1),(2)による放熱量の計算をリセットする(或いは、下限値をクリップする)機能が設けられている。すなわち、放熱量算出手段106には、図示しないリセット判定タイマ(以下、単にタイマという)が設けられており、締結定常又は解放定常の開始が判定されるとタイマがカウントをスタートする。
そして、クラッチの状態が、締結定常又は解放定常であって且つこの状態所定時間継続したことがタイマによりカウントされると、式(1),(2)に基づくクラッチ温度の算出をキャンセルする。また、この場合には、クラッチ温度は十分に低下して、油温に等しくなっているはずなので、これ以降はクラッチ温度を現在の油温TOIL と一致させる(クラッチ温度のリセット)。
また、タイマのカウントが所定時間を越えなくても、現クラッチ温度が油温TOIL 以下となると、これ以降はクラッチ温度=油温TOIL と設定する。
一方、タイマのカウント開始から所定時間以内にクラッチの状態が解放過渡又は締結過渡に変化すると、タイマがリセットされてカウントが初期値に戻る。これにより、クラッチが過渡状態から再び定常状態になると初期値からカウントが開始される。
図8は、N段とN+1段との間で連続変速が行われた場合のリセット判定タイマの作用を表すタイムチャートである。図8中の(a)は、クラッチ温度の変化について説明する図であり、(b)は、リセット判定タイマのカウントについて示す図である。
図8(a)に示すように、連続変速が発生すると、クラッチが締結されるたびにクラッチ温度が上昇する。なお、クラッチの締結定常時及び解放定常時にはクラッチ温度は低下するが、連続変速が短時間で行われるような場合にはクラッチ締結過渡時の温度上昇に比べれば温度低下は少ない。
一方、図8(b)に示すように、変速開始(過渡時)となる毎にタイマのカウントがリセットされ、この例の場合、クラッチが締結定常状態に移行するとタイマのカウントが継続される。そして、タイマカウントが所定値に達すると、図8(a)に示すように、これ以降はクラッチ温度が油温まで低下したと判定して、クラッチ温度をオイルパン温度に設定する。また、タイマカウントは設定値又は設定値よりも大きい値に設定された最大値に保持される。
次に、クラッチの締結または解放過渡時の温度算出(発熱)について説明する。
この場合には発熱量算出手段105においてもクラッチの現在の温度が随時算出される。まず、タービン回転数センサ12等の情報に基づいてクラッチが過渡状態であると判定されると、発熱量算出手段105ではクラッチが解放過渡時であるのか締結過渡時であるのかを判定する。
そして、クラッチの状態が締結過渡時であると判定されると(例えば2→3変速中の第2クラッチ17)、発熱量算出手段105に設けられた締結過渡時発熱量算出手段107によりクラッチの発熱量が算出される。
また、この締結過渡時発熱量算出手段107では、変速マップ3からの情報に基づいて、現在進行している変速がアップシフトであるか、又は、ダウンシフトであるかを判定する。ここで、クラッチが締結過渡状態であっても、アップシフトとダウンシフトとでは熱的負荷が大きく異なり、アップシフト時の締結過渡は、ダウンシフト時に比べて熱的負荷が大きい。一方、ダウンシフト時には、クラッチの締結過渡であってもあまり熱的負荷は大きくない。
これは、ダウンシフトでは、解放側クラッチが解放されるとエンジン回転自力で上昇し、同期したタイミングで締結側クラッチが締結されるため、締結側クラッチの発熱量はアップシフト時に比べて小さな発熱で済むからである。そこで、実施例1では、アップシフトと判定された場合のうち、締結過渡時には下式(3)に基づいてクラッチの発熱量TUPを算出するとともに、ダウンシフトと判定された場合、またはアップシフトと判定された場合のうち解放過渡時には下式(4)に基づいて発熱量TUPを設定する。
TUP=(ΔN×Tin×Δt/1000)×A×α・・・・(3)
TUP=0 ・・・・(4)
ただし、式(3)において、ΔNはクラッチの相対回転数、Tinはクラッチの伝達トルク、Δtは微小変速時間、Aはエネルギー量を温度に換算するための定数、αはマッチング定数(補正係数)である。なお、クラッチの相対回転ΔNは、タービン回転数センサ14で得られるタービン回転数NTと、出力軸回転数センサ13で得られる出力軸回転数Noと、変速機の各歯車のギア比とに基づいて算出される。また、クラッチの伝達トルクは、各摩擦係合要素に対するソレノイドバルブのデューティ値、即ち油圧値から算出される。
また、締結過渡時であってもダウンシフト時には発熱量は僅かであるので、実施例1では、式(4)で示すように、ダウンシフト時発熱量TUP=0と設定される。これは、上記したように、クラッチが解放過渡となると、潤滑油によるの温度低下(放熱)と、比較的小さな発熱よる温度上昇とが相殺されるため、略一定の温度となるためである。
そして、このようにアップシフト時には、変速中に積分して発熱量TUPを毎周期毎に算出するとともに、算出された発熱量TUPに対して前回の制御周期で算出されたクラッチ温度Tcを加算することで現クラッチ温度Tcが算出される。なお、上述したように、クラッチ温度Tcの初期値は、油温センサ14で得られたATF温度TOIL に設定される。
一方、解放過渡時には、解放過渡時発熱量算出手段108により、発熱量=0と設定される。したがって、解放過渡時にはクラッチ温度は一定の温度として現在温度が算出される。
以上のようにして現在のクラッチ(摩擦係合要素)の温度Tcを算出しつつ、変速を判断したときには、コントローラ1では、現在の温度状態から次の変速を実行したときに、該変速に関与するクラッチの上昇温度を予測する。この上昇温度の予測は、コントローラ1に設けられた予測上昇温度算出手段102により実行される。予測上昇温度算出手段102は、アップシフト時のクラッチ上昇温度を予測するアップシフト時予測上昇温度算出手段111と、ダウンシフト時のクラッチ上昇温度を予測するダウンシフト時予測上昇温度算出手段112とを備える。
ところで、上述したようにクラッチの温度が上昇するのはアップシフト時であり、ダウンシフト時には発熱量は0ではないが略無視できる程度である。そこで、実施例1では、ダウンシフト時予測上昇温度算出手段112は、コントローラ1でダウンシフト指令があった場合には、常に予測上昇温度=0と出力する。
一方、コントローラ1でアップシフト指令があると、この場合のみ実際のアップシフト動作に先立ち上昇温度が予測される。この場合、アップシフト時予測上昇温度算出手段111では、当該変速に関与するクラッチがアップシフトを1回実行した際に生じる発熱量T1Uを算出するとともに、ダウンシフトを1回実行した際生じる発熱量T1Dを算出し、この合計を予測上昇温度TINH として出力する。なお、ダウンシフト時の発熱量についても算出しているのは、アップシフト後に再びアップシフト前の変速段にダウンシフトできないと走行性が極めて悪化するので、これを防止するためにダウンシフトによる発熱も考慮している。
アップシフト時予測上昇温度算出手段111では、具体的には予測上昇温度TINH を下式(5)に基づいて算出し、アップシフト1回分の発熱量T1Uを下式(6)に基づいて算出する。なお、本実施形態では、ダウンシフト1回分の発熱量T1Dは計算で求めるのではなく所定値として設定されており、さらには、本実施形態では所定値として0が設定されている。これは、上述したダウンシフト時予測上昇温度算出手段112において、ダウンシフト指令があった場合には予測上昇温度=0と出力することに対して整合性を持たせるためでもある。
TINH =T1U+T1D・・・・(5)
T1U=1/2×(ΔN×TinINH_IP×ΔtINH_IP/1000)×A×Kx
+(ΔN×TinINH_TP×ΔtINH_TP/1000)×A×Kx・・・・(6)
また、式(6)において、TinINH_IPはイナーシャフェーズにおけるクラッチ伝達トルク、TinINH_TPはトルクフェーズにおけるクラッチ伝達トルク、ΔtINH_IPはイナーシャフェーズ中の微小変速時間、ΔtINH_TPはトルクフェーズ中の微小変速時間、Kxはスロットル開度に応じた補正係数である。実施例1では、TinINH_IP,TinINH_TP,ΔtINH_IP及びΔtINH_TPは、それぞれ摩擦係合要素ごとに所定値が適用されている。
また、式(6)において、
TinINH_IP×ΔtINH_IP=Tin_dt_IP
TinINH_TP×ΔtINH_TP=Tin_dt_TP
とおくと、下式(7)となる。
T1U=ΔN(1/2×Tin_dt_IP+Tin_dt_TP)/1000×A×Kx・・・(7)
図12は、実施例1のスロットル開度に応じた補正係数を表すマップである。自動変速機の変速制御では、スロットル開度に応じて変速性能の作り方、具体的にはショックや変速速度の方向性を異ならせている。例えば、運転者がアクセルペダルを一気に踏み込み、スロットル開度が大きい場合には、多少のショックがあったとしても、変速速度が速いことが好ましい。また、中間のスロットル開度の場合には、ショックを抑制しつつ適正な変速速度を確保する必要がある。また、低いスロットル開度の場合には、変速速度よりもショックの抑制を重視する必要がある。このように、スロットル開度に応じて変速制御の内容が異なるため、スロットル開度を考慮することなく発熱量T1Uを算出すると、実際に生じる発熱量に対するばらつきが非常に大きいことを見出した。そこで、実施例1では、スロットル開度に応じた補正係数Kxを設定し、ばらつきを抑制することとした。
図12に示すように、スロットル開度を低開度領域(1/8〜2/8)、中間開度領域(2/8〜6/8)、高開度領域(6/8〜8/8)に分類する。そして、低開度領域及び高開度領域での補正係数Kxよりも中間開度領域での補正係数Kxを小さく設定した。すなわち、低開度領域では、入力されるトルクが小さく、また変速時間も予め長めに設定されており、変速時間がばらつくことがない。同様に、高開度領域では、入力されるトルクが大きいが、変速時間が短く設定されており、変速時間がばらつくことがない。よって、さほど補正する必要が無いため、補正係数を大きめに設定し、かつ、領域内での補正係数の変化も小さく設定されている。言い換えると、低開度領域及び高開度領域では、スロットル開度に対する補正係数のデータ数を粗めに設定している。
これに対し、中間開度領域では、低開度領域に比べて入力トルクが大きく、変速時間も長く設定されているため、実際の変速においては、中間開度領域では、例えばトルクフェーズの開始タイミングにばらつきが生じやすい。また、高開度領域では、入力トルクが中間開度領域より大きくなるものの、中間開度領域に比べて変速時の車両の挙動変化への運転者の感度が低くなっており、変速時間に関し安全率が低く見積もられ、入力トルクに対する変速時間が高開度領域に比べ、相対的に短く設定されている。このため、実際の変速においては、中間開度領域では、高開度領域に比べて例えばトルクフェーズの開始タイミングにばらつきが生じやすい。トルクフェーズは、変速指令が出力され、プリチャージ処理が終了し、実際に締結容量が発生し始めてから、イナーシャフェーズが開始するまでの間を指す。イナーシャフェーズ自体は、実際に変速比が変化する時間であるため、管理しやすいものの、実際に締結容量が発生し始めるタイミング自体は、認識が困難である。よって、安全率を考えて比較的早めに締結容量を持ち始めるように設定されており、大きな発熱量が算出されやすい。
実施例1の自動変速機はワンウェイクラッチを備えていないが、例えば、第2ブレーキ23に直列にワンウェイクラッチを備え、2速から3速へのアップシフトを行う構成がよく見受けられる。この場合、ワンウェイクラッチの自動的な解放によりアップシフトがなされるため、スロットル開度に応じてワンウェイクラッチが解放されるタイミングがばらつく。このとき、ばらつきを考慮して、単一の大きめの補正係数を設定してしまうと、過剰の発熱量が算出されるため、変速要求が無駄にキャンセルされる場面が増大するおそれがある。そこで、中間開度領域では、低開度領域や高開度領域よりも小さな補正係数Kxを設定した。また、中間開度領域では、スロットル開度に対する補正係数のデータ数を密に設定している。これにより、スロットル開度に応じた補正係数をきめ細やかに設定することができ、発熱量の算出制度を向上できる。
上述のようにして予測上昇温度算出手段102により次変速時における予測上昇温度TINH が算出されると、図5に示すように、この予測上昇温度TINH 及び現在温度算出手段101で算出された現在のクラッチ温度Tcが予測温度算出手段103に入力される。
そして、予測温度算出手段103では、現在のクラッチ温度Tcに予測上昇温度TINH を加算して、次変速時の変速完了時における予測温度TESが算出される。
また、図5に示すように、コントローラ1には、閾値記憶手段110が設けられている。閾値記憶手段110には、第1の所定温度T1と第2の所定温度T2とが記憶されている。ここで、第1の所定温度T1<第2の所定温度T2であって、第1の所定温度T1は、クラッチが最低1回の締結と解放とを実行しても焼き着くことはないが、所定期間継続してこの温度以上になったり、連続して複数回締結と解放を行うとクラッチが焼き着くおそれのある最低の温度(例えば250℃)であって、ある程度の安全率を見込んだ温度である。また、第2の所定温度T2は、1回でも締結を行うと確実に焼き付くと推測できる温度(例えば300℃)であって、余裕代のないぎりぎりの温度に設定されている。
そして、比較手段109において第1の所定温度T1と予測温度TESとが比較され、予測温度TESが所定温度T1以上(T1≦TES)であると判定されると、禁止手段104により原則として次変速のアップシフトが禁止される。なお、上述のようにダウンシフトではクラッチの発熱量=0とみなしているので、ダウンシフトについては特に禁止しない。一方、予測温度TESが所定温度T1未満の場合(T1>TES)には、禁止手段104では、次変速をアップシフト及びダウンシフトとも許可する。これにより、クラッチが焼き付くおそれのある場合には、次変速のアップシフトを禁止するとともに、クラッチが焼き付かないと判定できる場合には変速を許容するので、クラッチの熱的負荷状態に応じた適切な変速の禁止及び許可を行うことができる。
ところで、予測温度TESが第1の所定温度T1以上の場合であっても、アップシフトを許容しないとエンジンがオーバレブ(過回転)すると判定された場合には、禁止手段104では、例外的に次変速のダウンシフトを禁止しながらアップシフトについては許可する。
つまり、この場合には、エンジンの保護を優先するため、アップシフトを許可することで変速によるエンジン回転数の低下を図り、エンジンのオーバレブを防止しているのである。また、第1の所定温度T1は上述のように1回の締結と解放とを実行しても焼き着くことのない余裕分を見込んだ温度であって、この場合にはクラッチが焼き付くことはないので、クラッチの焼き付きを回避できる範囲でアップシフトを許可する。
ただし、この場合であっても、比較手段109では、アップシフト許可前にクラッチの予測温度TESと第2の所定温度T2(>T1)とが比較される。そして、予測温度TESが第2の所定温度T2以上と判定された場合(T2≦TES)には、アップシフトの禁止が維持され、第2の所定温度T2未満(T2>TES)と判定された場合にのみ例外的に1回のアップシフトを許可する。
ここで、上述したように、第2の所定温度T2は、1回でも締結を行うと確実に焼き付くと推測できる危険温度であるため、エンジンがオーバレブするおそれがあっても、アップシフトの締結側クラッチの予測温度TESが第2の所定温度T2以上である場合には、アップシフトを許可せずに禁止を維持する。なお、この場合には、エンジン側ではスロットルオフや燃料カット等の手法により過回転を防止する。
つまり、予測温度TESがT1≦TES<T2を満たす場合には、原則として変速を禁止するものの、オーバレブのおそれがある場合には例外的にアップシフトを許容し、また、予測温度TES≧T2の場合には、たとえオーバレブするおそれがあってもアップシフトが禁止される。
そして、予測温度TESがT1≦TES<T2を満たす状態で、オーバレブ防止の目的でアップシフトが許容された場合、その後車速とスロットル開度とで規定される運転領域が所定領域内であることが検出されるまで、ダウンシフトを禁止する。
図9は、2速及び3速における車速とエンジン回転数との関係を示す図である。図9を用いてシフトアップ許容後のダウンシフトの許可判定について説明すると、現在2速の点aで走行しているものと仮定すると、この状態で車速が上がるとオーバレブ回転数に達する。
そこで、オーバレブを回避するために3速へのアップシフトが可能か判定される。そして、3速へのアップシフト時に締結側クラッチの予測温度TESが上述の第1の所定温度T1以上のNG領域に入るものの、第2の所定温度T2未満であれば、3速への変速を許可する。これにより運転点は点bに移り、クラッチ温度はT1以上T2未満の範囲に上昇する。
この状態ですぐにダウンシフトの禁止を解除してしまうと、運転点は点a又は点a近傍に戻ってしまい、その後またアップシフトをしないとオーバレブするような運転状態になるため、結局のところアップシフトとダウンシフトが繰り替えされてクラッチの焼きつきが発生してしまう。なお、その後アップシフトを行うとクラッチ温度がT2を超えると予測されてアップシフトが禁止されることも考えられ、このような状況になると最初に点aから点bに移行した意味がなくなるし、複数回の変速前に予測温度TESが第2の所定温度T2を必ず越えるとも限らない。
そこで、予測温度TESがT1≦TES<T2を満たす状態で、オーバレブ防止のためにアップシフトを許容した場合には、スロットル開度と車速とで規定される運転領域が、次回のオーバレブ防止のアップシフトが判定されるまでに十分な時間を要すると推定される運転領域にある、或いは、次回もう一度アップシフト線を横切るまでに十分な時間を要すると推定される運転領域にあると判定されるまではダウンシフト禁止を継続し、上述したような運転領域移行したことが判定されると(点c)、ダウンシフトを許容する。この場合、ダウンシフトを実行しても、図中の点dに移行するので、回転数が上昇して再びオーバレブ防止のためのアップシフトが判定されるまでに十分な時間が確保でき、この間に次回のアップシフトが許容可能な温度までにクラッチ温度を低下させることが可能となる。
図10は、連続変速プロテクション制御処理を表すフローチャートである。図10に示すフローチャートは各摩擦係合要素毎に実行される。
ステップS1において現在のエンジン回転数NT、タービン回転数NE、油温TOIL 等の情報を取り込み、ステップS2でクラッチの状態が判定される。
そして、締結定常であればステップS3以下に進み、ステップS4でタイマのカウントを開始する。なお、タイマのカウントがすでに開始していればカウントを継続する。そして、ステップS5で放熱量の計算を行う。ここで、ステップS5では上述の式(2)より放熱量を算出する。
また、解放過渡であればステップS6からステップS7に進み、上記タイマカウントを停止するとともに初期値にクリアする。次に、ステップS8において、発熱量=0と設定する〔同じく式(4)参照〕
また、解放定常であれば、ステップS9以下に進み、ステップS4と同様にステップS10でリセット判定タイマをカウントし、その後、ステップS11で放熱量の計算を行う。また、ステップS11では放熱量を式(1)に基づいて算出する。
また、締結過渡時と判定されると、ステップS12からステップS13に進み、変速種が判定される。そして、変速開始前と判定された場合にはステップS14を通ってステップS10に進み、この場合は放熱量が算出される。また、ダウンシフトと判定されると、ステップS15からステップS7に進み、発熱量=0と設定される。
また、変速種がアップシフトと判定されると、ステップS16からステップS17に進み、現在トルクフェーズ前か否かが判定される。なお、トルクフェーズとはクラッチのがた詰め(プリチャージ)からタービン回転数に変化が生じるまでの段階である。そして、トルクフェーズ前であれば、実質的にはクラッチは解放の定常状態であるので、やはりステップS7に進み、発熱量=0と設定される。
ステップS17でトルクフェーズ以降と判定されると、ステップS18でイナーシャフェーズ終了したか否かが判定される。ここでイナーシャフェーズはタービン回転数が変化している期間であるので、イナーシャフェーズが終了している場合には、変速自体が終了したことと同じである。したがって、この場合には、実質的には締結定常と同じであるので、ステップS18からステップS4に進み、ステップS5で締結時の放熱量が算出される。
一方、ステップS18でイナーシャフェーズ終了前と判定されると、ステップS19でタイマをクリアして、その後ステップS20で発熱量が式(3)に基づいて計算される。
このようにしてクラッチの状態に応じた発熱量又は放熱量が算出されると、ステップS21において、上記ステップS4及びステップS10でカウントされたタイマ値が所定値(クラッチリセット設定時間)以上か否かが判定される。そして、タイマ値が所定値以上であればステップS24に進み、所定値未満であればステップS22に進む。なお、直前でステップS7又はステップS19を通った場合には当然ながらタイマはクリアされているので、Noのルートを通り、ステップS22に進む。
ステップS22に進んだ場合は、現クラッチ温度、即ち前回の制御ルーチンで求めたクラッチ温度にステップS5,ステップS8,ステップS11又はステップS20で算出された放熱量又は発熱量を加算することで現在のクラッチ温度が算出される。
そして、ステップS23で現在のクラッチ温度と油温とを比較して、算出されたクラッチ温度が現在の油温以下であるか否かを判定し、現在の油温よりも低ければステップS24に進んで、現在のクラッチ温度=油温と設定される。
一方、ステップS23で現クラッチ温度が油温よりも高ければ、ステップS25に進み、アップシフトへの指令の有無を判定する。ここで、アップシフトの指令がなければステップS26に進み、次変速における予測上昇温度=0と出力する。また、ステップS25でアップシフトの指令ありと判定すると、ステップS27に進んで、上述の式(5)及び式(6)に基づいて、クラッチの予測上昇温度が算出される。
その後、ステップS28に進み、現在のクラッチ温度に予測上昇温度を加算しクラッチ予測温度が算出される。そして、クラッチ予測温度Tcが算出されると、次にステップS29において予測温度Tcが焼損温度T1以上か否かが判定され、予測温度Tcが焼損温度T1未満であれば、ステップS30に進み次変速としてアップシフト及びダウンシフトの両方を許容するとともにオーバレブフラグをオフにする。
また、予測温度Tcが焼損温度T1以上であれば、ステップS29からステップS31に進み、エンジン回転数NEやスロットル開度θTHに基づきオーバレブするおそれがあるか否かを判定する。そして、オーバレブしないと判定されるとステップS32に進み、アップシフト変速が禁止される。
一方、ステップS31でオーバレブすると判定されると、ステップS33に進み、エンジンを保護する目的でダウン変速が禁止されるとともにアップ変速が許可され、オーバレブフラグがオンとなる。これにより、アップ変速が実行されてオーバレブが回避される。ただし、このステップS33では、クラッチ温度Tcが第2所定温度T2以上である場合にはアップ変速を禁止して、クラッチの焼き付を防止する。
次に、ステップS34に進み、オーバレブフラグがオンで且つ車速とスロットル開度とで決まる運転点が所定領域にあるか否かを判定する。そして、オーバレブフラグがオンで且つ運転点が所定領域にある場合には、ステップS35に進みダウンシフトを許可するとともにオーバレブフラグをオフにする。ここで、所定領域は再びオーバレブ判定されるまでに十分にクラッチ温度が低下するのに必要な時間が確保できる領域であって、例えば低車速且つ低アクセル開度領域である。
そして、その後ステップS36で前回値(今回の制御周期での計算結果)を保存して今回の制御ルーチンを終了する。また、ステップS34でオーバレブフラグオフと判定されるか又は車速と開度で決まる運転点が所定領域外である場合にはステップS34からステップS36に進んで今回の制御ルーチンを終了する。
したがって、実施例1の自動変速機の変速制御装置によれば、例えば図11に示すようにクラッチの温度に応じた変速の禁止が行われる。ここで、図11において(a)は実際の変速指示を示す図、(b)は変速要求の一例を示す図、(c)はクラッチ温度の変化を示す図である。
図11(a)〜(c)に示すように、連続変速が発生した場合(t10)、クラッチの温度が所定温度T1に達するまでは変速が許容される。したがって、この間(t10〜t15)は、(a)の実変速指示と、(b)の変速要求との特性が一致する。
その後、定常状態となると、時間に応じて一定勾配でクラッチ温度が低下する。なお、この定常状態が所定時間継続した場合や、計算上クラッチ温度が油温以下になった場合には、図11の実線で囲んだ領域に示すように、クラッチ温度の下限値がクリップされる。
そして、t20において、再び連続変速が発生すると、再びクラッチ温度を算出し、次変速でクラッチ温度が所定温度T1以上となると判定されると(t23)、変速が禁止される。したがって、この場合には(a)の実変速指示は(b)の変速要求と一致せずに変速が禁止される。また、通常は予測クラッチ温度が第1所定温度以下に低下すると、変速が許容される。
ただし、予測クラッチ温度が第1所定温度以上であっても、オーバレブのおそれがある場合には、予測クラッチ温度が第2の所定温度T2未満であることを条件に1回だけアップシフトが許容される。この場合、クラッチは図11(c)に示すNG領域に突入するが、このNG領域(第1所定温度T1と第2所定温度T2との間の領域)は、連続して複数回の締結解放が繰り返されると焼き付くおそれがあるが、1回程度の変速ではクラッチが焼き付くことのない温度領域であるので、クラッチの耐久性が低下するようなことはない。
また、このようなNG領域でのアップシフトは、1回実行されると次回以降はスロットルと車速とで規定される運転領域が所定の運転領域になるまで禁止される。ここで所定の運転領域とは次回のオーバレブ防止のアップシフトが判定されるまでに十分な時間を要すると推定される運転領域である。
このように、本装置によれば、クラッチ等の摩擦係合要素の現在の熱的負荷状態と、次変速で発生する摩擦係合要素の発熱状態とを予測して、現在の熱的負荷状態と予想した次変速の発熱状態とに基づいて次変速の許可または禁止を決定するので、連続変速の禁止又は許可を精度よく実行することができる。また、これにより各摩擦係合要素の焼き付きを確実に防止でき、耐久性を高めることができるという利点がある。
また、エンジンが過回転となるおそれがある場合には、クラッチ温度がT1以上T2未満の場合には、1回のアップシフトを許容するので摩擦係合要素の焼き付を回避しながら、エンジンの過回転を防止することができるという利点がある。また、その後は、次回の過回転防止アップシフトの発生まで十分時間が確保できる領域に走行状態が変化するまでダウンシフトの禁止を継続するのでアップシフトの繰り返しが防止でき、クラッチを保護することができる。
以上説明したように、実施例1の自動変速機の変速制御装置にあっては、下記の作用効果が得られる。
(1)複数の摩擦係合要素の係合状態を変更することにより目標変速段への変速を行なう自動変速機の変速制御装置であって、
変速を判断したときには、該摩擦係合要素の現在の熱的負荷状態を算出するとともに、次変速で発生する該摩擦係合要素の発熱状態を予測して、該現在の熱的負荷状態と該予測した次変速の発熱状態とに基づいて該次変速の許可または禁止を決定するものであって、
次変速で発生する該摩擦係合要素の発熱状態を予測するときは、該予測された発熱状態をスロットル開度に応じて補正する補正係数Kxを有する。
よって、スロットル開度に応じた変速制御の変速性能に応じた発熱状態を算出することができ、精度の高い発熱状態を予測できる。
(2)補正係数Kxは、スロットル開度が低開度領域もしくは高開度領域における減少補正量よりも、中間開度領域における減少補正量が大きい。
よって、低開度領域や高開度領域に対し、中間開度領域でトルクフェーズの開始タイミングに大きなばらつきが生じたとしても、ばらつきに応じた補正ができる。
(3)補正係数Kxのスロットル開度に対するデータ数は、低開度領域もしくは高開度領域よりも中間開度領域のデータ数が多い。よって、低開度領域や高開度領域に比べてばらつきの大きな中間開度領域で、より精度の高い補正が実現できる。
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるのもではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、本実施形態では、解放過渡時発熱量算出手段108において、摩擦係合要素の解放過渡時(ステップS6以降参照)については発熱量=0と設定されるようになっているが、解放時であってもクラッチの仕様や潤滑油の供給量によってはクラッチ温度が上昇する場合もあり、解放過渡時にクラッチ温度を発熱量=α1として算出しても良い。また、クラッチの締結過渡時であっても、変速種がダウンシフトであると締結過渡時発熱量算出手段107により発熱量=0と設定されるようになっている(ステップS15以降参照)が、この場合にもクラッチ温度を発熱量=α2として算出しても良い。
さらに、ダウンシフト時予測上昇温度算出手段112は、ダウンシフト指令があった場合には、常に予測上昇温度=0と出力するように設定されている(ステップS26参照)が、この場合にもクラッチ温度を発熱量=α3として予測しても良い。
また、アップシフト時予測上昇温度算出手段111では、クラッチがアップシフトを1回実行した際に生じる発熱量T1Uとダウンシフトを1回実行した際生じる発熱量T1Dとを算出する際においてもT1D=0と設定しているが、これについてもT1D=βとして算出するようにしても良い。
1 コントローラ
2 フィードバック制御手段
3 変速マップ
7 自動変速機
10 入力軸又はタービンシャフト
12 入力軸回転数センサ
15 第1クラッチ(摩擦係合要素)
17 第2クラッチ(摩擦係合要素)
19 第3クラッチ(摩擦係合要素)
22 第1ブレーキ(摩擦係合要素)
23 第2ブレーキ(摩擦係合要素)
35 油圧クラッチ機構
101 現在温度算出手段
102 予測上昇温度算出手段
103 予測温度算出手段
104 変速禁止手段
105 発熱量算出手段
106 放熱量算出手段
107 締結過渡時発熱量算出手段
108 解放過渡時発熱量算出手段
109 比較手段

Claims (3)

  1. 複数の摩擦係合要素の係合状態を変更することにより目標変速段への変速を行なう自動変速機の変速制御装置であって、
    変速を判断したときには、該摩擦係合要素の現在の熱的負荷状態を算出するとともに、次変速で発生する該摩擦係合要素の発熱状態を予測して、該現在の熱的負荷状態と該予測した次変速の発熱状態とに基づいて該次変速の許可または禁止を決定するものであって、
    前記次変速で発生する該摩擦係合要素の発熱状態を予測するときは、該予測された発熱状態をスロットル開度に応じて補正する補正係数を有することを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
  2. 請求項1に記載の自動変速機の変速制御装置において、
    前記補正係数は、スロットル開度が低開度領域もしくは高開度領域における減少補正量よりも、中間開度領域における減少補正量が大きいことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
  3. 請求項2に記載の自動変速機の変速制御装置において、
    前記補正係数のスロットル開度に対するデータ数は、前記低開度領域もしくは前記高開度領域よりも前記中間開度領域のデータ数が多いことを特徴とする自動変速機の変速制御装置。
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