微生物や培養細胞の培養を伴う物質生産方法である発酵法は、大きく(1)バッチ発酵法(Batch発酵法)および流加発酵法(Fed−Batch発酵法)と(2)連続発酵法に分類することができる。(1)のバッチおよび流加発酵法は、設備的には簡素であり、短時間で培養が終了し、雑菌汚染による被害が少ないというメリットがある。しかし、時間経過とともに培養液中の生産物濃度が高くなり、浸透圧あるいは生産物阻害等の影響により生産性及び収率が低下してくる。このため、長時間にわたり安定して高収率かつ高生産性を維持するのが困難である。一方、(2)の連続発酵法は、発酵槽内で目的物質が高濃度に蓄積するのを回避することによって、長時間にわたって高収率かつ高生産性を維持できるという特徴がある。アミノ酸発酵においても、L−グルタミン酸(特許文献1)やL−リジン(非特許文献1)の発酵について連続培養法が開示されている。しかし、これらの例では、培養液へ原料の連続的な供給を行うとともに、微生物や細胞を含んだ培養液を抜き出すために、培養液中の微生物や細胞が希釈されることから、生産効率の向上は限定されたものであった。
このことから、連続発酵法において、微生物や培養細胞を多孔性分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に濾過された微生物や培養細胞を培養液に保持または還流させることで、培養液中の微生物や細胞濃度を高く維持する方法が提案されている。例えば、乳酸菌(ビフィズス菌)を培養するに際し、培地の糖濃度を1〜1.5重量%に調整し、培養により培地中に生成した菌の阻害物質を培養槽に連通して配設した濾過膜を介して除去し、該阻害物質を除去した培養液を培養槽へ循環させると共に、上記濾過膜を介して除去された部分に相当する液量の新鮮な培地を培養槽へ補給する方法が提案されており、菌体の増殖に応じて培地供給速度を高める必要があることが記載されている(特許文献2)。しかしながら、菌体が増殖すればするほど、濾過膜の目詰まりが生じ易くなり、その結果として濾過量が少なくなって培地供給も滞る。つまり、この方法にあるように、菌体の増殖に応じて培地供給速度を高めるという手法を実現するには、膜面積を極度に広くしておく必要があり、膜の導入コストを考慮すると必ずしも実用的な方法とはいえない。また、特許文献3においては、濾過膜の目詰まりを回避する方法として、ヨーグルトスターター乳酸菌を連続培養する方法において、培地中の酵母エキス濃度を0.5〜2.0%とし、培養液量に対する1時間当たりの濾過液量の比(希釈率)を1.0以上の一定値を維持するように培養することを特徴とする乳酸菌の高濃度培養方法を開示しているが、培地組成の厳密な管理が必要であり、また、適用可能な微生物が限定されることから、濾過膜の目詰まりを本質的に解決できる技術とはいえない。
これらの方法において、多孔性分離膜には、一般に多孔性分離膜が用いられるが、該膜の目詰りによる濾過流量や濾過効率の低下が大きな問題となっており、このことが本方法の普及の大きな障害となっている。微生物や培養細胞の目詰まりの抑制方法については、多孔性分離膜の洗浄や濾過条件の設定などに関する技術が、いくつか提案されているがいずれも十分なものとは言えない。例えば、目詰り防止機能を備えた多孔質膜細管、すなわち、切換弁によって相互に切換えられる濾液取出管と送気管とが連結された多孔質膜細管が内部に配設された培養器又はバイオリアクターを用い、多孔質分離膜の培養液と接触している側と反対の側(多孔質膜細管の内部)から間欠的に通気し、細孔中に沈積する目詰り原因物質を除去することにより、培養を行いながら、微生物又は細胞の培養液より、多孔質分離膜が目詰りを起こすことなく該膜を通して生成物を含む液を効率よく回収する方法(特許文献4)や、微生物を培養するための培養槽中に内蔵させた逆洗可能なフィルターで基質交換させて、培養により生成した代謝物の濃度を低減する方法(特許文献5)、培養液を筒状のフィルター内に通過させて代謝物と菌を分離し、菌体を含む培養液を培養槽へ循環させて連続的に培養を行うための装置(特許文献6)等が知られている。しかし、これらの方法では、多孔性分離膜の逆洗浄のために、空気、窒素などの気体や水、濾過膜透過水などの液体を培養液の中に加えることになるため、微生物や培養細胞の物質生産能力が変化するため培養の状態を最適に維持することが難しいことや、菌体分離のための濾過膜装置が複雑になるという課題があった。多孔性分離膜の洗浄方法としては、多孔性分離膜を温水で逆洗浄する方法(特許文献7)、多孔性分離膜を濾過透過水で逆洗浄する方法(特許文献8)などが開示されているが、いずれも発酵終了後の培養液から発酵生産物を濾過回収する場合の多孔性分離膜洗浄方法であり、濾過処理後に微生物や培養細胞を培養液に保持または還流する連続発酵方法に適用した場合、培養液が希釈されるため発酵の生産性を高く維持することが困難である。
一方、廃水処理分野において、活性汚泥の分離に多孔性分離膜を利用することが行われている。活性汚泥の分離においても、多孔性分離膜の目詰まりが問題であり、多孔性分離膜エレメントの下方に散気装置を設置し、強制的に散気することで、上昇気泡によって膜面に付着するゲル層、ケーク層を剥離させて目詰まりを防ぐ技術がいくつか開示されている(特許文献9、10)。
有機性廃棄物や有機性固形物を含む排水のメタン発酵による処理においても、メタン発酵から生じるバイオガスを多孔性分離膜エレメントの下方から散気することで目詰まりを回避する技術が開示されている(特許文献11)。しかし、これらの技術では、膜表面に付着したゲル、ケークなどの汚れが除かれて清浄に保たれ、ある程度の目詰まりを抑制することはできるが、一定期間の使用によって膜の内部にまで付着物が入り込むため膜の濾過性能が低下することが知られており、汚泥処理槽と別に多孔性分離膜エレメントを設置する多孔性分離膜処理槽を設け、多孔性分離膜が汚れた場合に多孔性分離膜処理槽だけを洗浄薬液で処理して、多孔性分離膜の濾過性を維持させる技術が開示されている(特許文献12)。排水処理の汚泥中の微生物は、一般に増殖が遅く、濾過する微生物量も総じて多くないので、こうした技術によって、膜の濾過性能をある程度維持することは可能ではあるが、特定の物質生産を目的として特定の微生物や細胞を積極的に増殖させる場合、特に本発明で目的としている微生物や細胞を濾過した後に培養液に保持または還流して、細胞濃度を高く維持しながら行う連続発酵方法においては、十分な濾過性能を長期間維持することが困難である。特許文献13、14においては、目詰まりの少ない高分子分離膜の提案があるが、化学品の製造を目的とした連続発酵については記載がなく適用の可能性が不明である。
特許文献15においては、コハク酸の製造において多孔性分離膜を利用した製造方法が開示されている。しかし、この方法は、コハク酸製造用の微生物の増殖工程と該微生物を用いた反応工程に分かれており、多孔性分離膜は、増殖工程で得られた微生物の濾過分離と得られた微生物を用いる反応工程から反応液を濾過分離する目的で使用されている。すなわち、増殖工程において、濾過処理後、微生物や細胞は培養液に戻されることがなく、膜分離においても、高い濾過圧(約200kPa)が採用されている。高い濾過圧は、コスト的にも不利であるばかりでなく、濾過処理において微生物や細胞が圧力によって物理的なダメージをうけることから、微生物や細胞を連続的に培養液に戻す連続発酵法においては適切ではない。
連続発酵法において、濾過処理後の微生物や細胞を培養液に戻すことによる物質生産方法について、いくつか技術の開示がなされている。エタノール発酵において、シリコーンコーティングしたゼオライト膜を用いて、エタノール発酵を連続的に継続しながら、エタノールを濃縮回収する方法(特許文献16)が開示されているが、ゼオライトの細孔径は、0.0001μmより小さく、エタノールを透過させるために膜を介して濾液側を真空に近い減圧状態とする必要がある。膜差圧として約100kPaという高い圧力を必要とするためコスト的に問題があり、また、無機の多孔性分離膜であるため脆く、ひび割れ、破損などの点から大型化が難しいという問題がある。特許文献17においては、エチレングリコールを原料としたグリコール酸の製造方法が、特許文献6においては乳糖を原料とした乳酸の製造方法が開示されている。これらの技術においては、多孔性分離膜としてセラミックス製フィルターを用いている。小林らは、セラミックス製フィルターを用いた微生物や細胞の濾過において、十分な透過性能を確保するためには、濾過圧力として、約90kPaの高い膜間差圧と逆洗浄が必要であることを報告している。また、膜表面の循環速度を早くすることで透過性が向上するが、同時に膜表面での剪断力によって、微生物の活性低下や破裂が生じることを開示している(非特許文献2)。膜表面での剪断力は、濾過圧力が高くなるに従って強くなるため濾過圧力は低い方が良いが、濾過圧力を低くすると十分な透過性能が得られないといった問題がある。
乳酸発酵については、電気透析を利用した連続発酵について技術開示がなされている(特許文献18)。この方法では、乳酸生産微生物として糸状菌を用い、糸状菌を2〜3mmのペレット状に培養することで、孔径1mm程度のフィルターを使用して微生物を濾過して連続的に発酵を行う技術が開示されている。しかし、当該技術は、ペレットを形成できる糸状菌に限定された技術であり、また、当該文献にも記載があるように、糸状菌の微小菌糸や胞子は、開示技術である孔径1mm程度のフィルターを容易に透過し、本プロセス下流の精製工程において増殖するために、乳酸の精製効率の低下を引き起こす可能性があり、長期間の連続運転が困難である。
多孔性分離膜にセラミックスを用いて膜の垂直方向に1.5バール以上の高圧力をかけることで効率よく培養液を濾過する例が開示されているが(特許文献19)、微生物や細胞が高圧力によってダメージを受けることから、再度、培養液に戻して物質生産に使用する場合は、必ずしもよい方法とは言えない。
すなわち、連続発酵法において、微生物や細胞を多孔性分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に濾過された微生物や細胞を培養液に還流させ、培養液中の微生物や細胞濃度を向上させ、かつ、高く維持させることで高い物質生産性を得ることは、依然として困難であり、技術の革新が望まれていた。
また、消泡剤を含む発酵液を1〜100μmの繊維よりなる布で濾過して消泡剤を除去する技術開示がなされているが(特許文献20)、消泡剤が後段工程の膜の透水性に悪影響を与えていることは漠然と記載されているが、消泡剤の濃度を少ない濃度に制御することや物理的消泡手段と膜ろ過を組み合わせること、連続発酵が有効であることなどは記載されておらず、さらに回分発酵であることなど、本発明の思想は全く語られていない。
以上のように特に多孔質分離膜を用いた連続発酵において化学的消泡剤の使用方法を詳細に検討した例はなかった。
特開平10−150996号公報
特公平6−69367号公報
特開2001−211878号公報
特開平6−98758号公報
特開昭58−47485号公報
特開昭62−138184号公報
特開2000−317273号公報
特開平11−215980号公報
特開平7−185270号公報
特開平7−185271号公報
特開2000−94000号公報
特開2000−167555号公報
特開2003−144869号公報
特開2003−135939号公報
特開2005−333886号公報
特開2003−135941号公報
特開平10−174594号公報
特開平11−137286号公報
特表2002−511243号公報
特開平06−225754号公報
Toshihiko Hirao et. al.(ヒラノ・トシヒコ ら)、 Appl. Microbiol. Biotechnol.(アプライド マイクロバイアル アンド マイクロバイオロジー),32,269−273(1989)
小林猛ら,ケミカル・エンジニア,12,49(1988)
本発明の化学品製造に用いる連続発酵装置は、平均細孔径が0.01μm以上1μm未満の多孔性の多孔性分離膜を有し、膜間差圧として0.1以上20kPa以下の範囲で濾過処理をする連続発酵装置である。本発明の連続発酵による化学品の製造方法を具体的に実施し、本発明を完成させる手段として使用される連続発酵装置の代表的な一例を図1に示す。
図1において、1は反応槽、2は反応槽1に発酵液循環ポンプ10を介して接続された膜分離槽、3は膜分離槽内に設置された膜分離エレメントである。ここで、膜分離エレメント3には多孔性膜が組み込まれている。この多孔性膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている膜を使用することが好適である。培地供給ポンプによって培地を反応槽1に投入し、必要に応じて攪拌機5で反応槽1内の発酵液を攪拌し、また必要に応じて空気供給器4によって必要とする気体を供給し、また必要に応じてpHセンサ・制御装置9、及びpH調整溶液供給ポンプ8によって発酵液のpHを調整し、また必要に応じて温度調節器12によって発酵液の温度を調節することで生産性の高い発酵生産を行うことができる。ここで化学的消泡剤は消泡剤投入ポンプ13によって、反応槽1内の濃度が1ppm以上150ppm以下となるように投入する。また、物理的消泡手段14を有することも好ましい。
さらに装置内の発酵液は発酵液循環ポンプ10によって反応槽1と膜分離槽2の間を循環する。発酵生産物を含む発酵液は膜分離エレメント3によって微生物と発酵生産物に濾過・分離され、装置系から取り出すことができる。また、濾過・分離された微生物は装置系内にとどまることで装置系内の微生物濃度を高く維持でき、生産性の高い発酵生産を可能としている。ここで、膜分離エレメント3による濾過・分離には膜分離槽2の水面との水頭差圧によって行い、特別な動力は必要ない。また、必要に応じてレベルセンサ11、及び水頭差圧制御装置6によって膜分離エレメント3の濾過・分離速度、及び装置系内の発酵液量を適当に調節することができる。上記のように、膜分離エレメント3を膜分離槽2に設置する形態を例示したが、膜分離エレメント3は反応槽1内に設置することができる。膜分離エレメント3を反応槽1内に設置した場合は、膜分離槽2、発酵液循環ポンプ10、およびそれに付帯する設備を省略することができる。一方、膜分離エレメント3を反応槽1内に設置した場合における膜分離エレメント3による濾過・分離は、濾過・分離には反応槽1との水頭差圧によって行い、特別な動力は必要ない。上記のように、膜分離エレメント3による濾過・分離には水頭差圧によって行うことを例示したが、必要に応じてポンプ等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。
上記、本発明に従って、連続発酵をおこなった場合、従来のバッチ発酵と比較して、高い体積生産速度が得られ、極めて効率のよい発酵生産が可能となる。ここで、連続培養における生産速度は、次の(式1)で計算される。
また、バッチ培養での発酵生産速度は、原料炭素源をすべて消費した時点の生産物量(g)を、炭素源の消費に要した時間(h)とその時点の培養液量(L)で除して求められる。
本発明で使用される微生物や培養細胞については特に制限はないが、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌、コリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞、昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
本発明で使用する発酵原料としては、培養する微生物の生育を促し、目的とする発酵生産物である化学品を良好に生産させうるものであればよいが、炭素源、窒素源、無機塩類、及び必要に応じてアミノ酸、ビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が良い。炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトース、ラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、更には酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類、グリセリンなども使用される。窒素源としてはアンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類、各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。無機塩類としてはリン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩、マンガン塩等を適宜添加することができる。本発明に使用する微生物が生育のために特定の栄養素を必要とする場合にはその栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加する。
本発明において、培養液とは、発酵原料に微生物または培養細胞が増殖した結果得られる液のことを言い、追加する発酵原料の組成は、目的とする化学品の生産性が高くなるように、培養開始時の発酵原料組成から適宜変更しても良い。
本発明では、培養液中の糖類濃度は5g/L以下に保持される様にするのが好ましい。その理由は、培養液の引き抜きによる糖類の流失を最小限にするためである。微生物の培養は通常pH4−8、温度20−40℃の範囲で行われる。培養液のpHは無機あるいは有機の酸、アルカリ性物質、さらには尿素、炭酸カルシウム、アンモニアガスなどによって上記範囲内のあらかじめ定められた値に調節する。酸素の供給速度を上げる必要があれば、空気に酸素を加えて酸素濃度を21%以上に保つ、あるいは培養を加圧する、攪拌速度を上げる、通気量を上げるなどの手段を用いることができる。
本発明の培養初期にBatch培養またはFed−Batch培養を行って微生物濃度を高くした後に連続培養(引き抜き)を開始しても良いし、高濃度の菌体をシードし、培養開始とともに連続培養を行っても良い。適当な時期から原料培養液の供給及び培養物の引き抜きを行うことが可能である。原料培養液供給と培養物の引き抜きの開始時期は必ずしも同じである必要はない。また、原料培養液の供給と培養物の引き抜きは連続的であってもよいし、間欠的であってもよい。原料培養液には上記に示したような菌体増殖に必要な栄養素を添加し、菌体増殖が連続的に行われるようにすればよい。培養液中の微生物または培養細胞の濃度は、培養液の環境が微生物または培養細胞の増殖にとって不適切となって死滅する比率が高くならない範囲で、高い状態で維持することが効率よい生産性を得るのに好ましく、一例として、乾燥重量として5g/L以上に維持することで良好な生産効率が得られる。
発酵生産能力がある菌体を増殖させつつ行う連続培養操作は、通常、単一の発酵槽で行うのが、培養管理上好ましい。しかしながら、菌体を増殖しつつ生産物を生成する連続培養法であれば、発酵槽の数は問わない。発酵槽の容量が小さい等の理由から、複数の発酵槽を用いることもあり得る。この場合、複数の発酵槽を配管で並列または直列に接続して連続培養を行っても発酵生産物の高生産性は得られる。
本発明における化学品としては、上記微生物や細胞が培養液中に生産する物質であれば特に制限はないが、アルコール、有機酸、アミノ酸、核酸など発酵工業において大量生産されている物質を挙げることができる。また、本発明は、酵素、抗生物質、組換えタンパク質のような物質の生産に適用することも可能である。例えば、アルコールとしては、エタノール、1,4−ブタンジオール、グリセロールなど、有機酸としては、酢酸、乳酸、コハク酸、リンゴ酸などを挙げることができる。
次に、本発明の化学品の製造方法に用いることができる微生物あるいは培養細胞について、具体的な化学品を例示しながら説明する。
本発明の化学品の製造方法において、L−乳酸の生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としてはL−乳酸を生産することが可能な微生物であれば制限はない。本発明の化学品の製造方法において、L−乳酸の生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としては、好ましくは乳酸菌を用いることができる。ここで乳酸菌とは、消費したグルコースに対して対糖収率として50%以上の乳酸を産生する原核微生物として定義することができる。好ましい乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス属(Genus Lactobacillus)、ペディオコッカス属(Genus Pediococcus)、テトラゲノコッカス属(Genus Tetragenococcus)、カルノバクテリウム属(Genus Carnobacterium)、バゴコッカス属(Genus Vagococcus)、ロイコノストック属(Genus Leuconostoc)、オエノコッカス属(Genus Oenococcus)、アトポビウム属(Genus Atopobium)、ストレプトコッカス属(Genus Streptococcus)、エンテロコッカス属(Genus Enterococcus)、ラクトバシラス属(Genus Lactococcus)、およびバシラス属(Genus Bacillus)に属する乳酸菌が挙げられる。それらの中でも、乳酸の対糖収率が高い乳酸菌を選択して乳酸の生産に好ましく用いることができる。
本発明の化学品の製造方法においては、更に、乳酸の内でも、L−乳酸の対糖収率の高い乳酸菌を選択して乳酸の生産に好ましく用いることができる。L−乳酸とは、乳酸の光学異性体の一種であり、その鏡像体であるD−乳酸と明確に区別することができる。L−乳酸の対糖収率が高い乳酸菌としては、例えば、ラクトバシラス・ヤマナシエンシス(Lactobacillus yamanashiensis)、ラクトバシラス・アニマリス(Lactobacillus animalis)、ラクトバシラス・アジリス(Lactobacillus agilis)、ラクトバシラス・アビアリエス(Lactobacillus aviaries)、ラクトバシラス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバシラス・デルブレッキ(Lactobacillus delbruekii)、ラクトバシラス・パラカゼイ(Lactobacillus paracasei)、ラクトバシラス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)、ラクトバシラス・ルミニス(Lactobacillus ruminis)、ラクトバシラス・サリバリス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバシラス・シャーピイ(Lactobacillus sharpeae)、ラクトバシラス・デクストリニクス(Pediococcus dextrinicus)、およびラクトバシラス・ラクティス(Lactococcus lactis)などが挙げられ、これらを選択して、L−乳酸の生産に用いることが可能である。
本発明の化学品の製造方法でL−乳酸を製造する場合、人為的に乳酸生産能力を付与、あるいは増強した微生物または培養細胞を用いることができる。例えば、L−乳酸脱水素酵素遺伝子(以下、L−LDHと言うことがある)を導入して、L−乳酸生産能力を付与、あるいは増強した微生物または培養細胞を用いることができる。L−乳酸生産能力を付与、あるいは増強させる方法としては、従来知られている薬剤変異による方法も用いることができる。更に好ましくは、微生物がL−LDHを組み込むことによりL−乳酸生産能力が増強した組換え微生物が挙げられる。
本発明の化学品の製造方法でL−乳酸を製造する場合、組換え微生物の宿主としては、原核細胞である大腸菌、乳酸菌、および真核細胞である酵母などが好ましく、特に好ましくは酵母である。酵母のうち好ましくはサッカロマイセス属(Genus Saccharomyces)に属する酵母であり、更に好ましくはサッカロマイセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)である。
本発明で使用するL−LDHとしては、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)とピルビン酸を、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD+)とL−乳酸に変換する活性を持つタンパク質をコードしていれば限定されない。例えば、L−乳酸の対糖収率の高い乳酸菌由来のL−LDHを用いることができる。好適にはほ乳類由来L−LDHを用いることができる。このうちホモ・サピエンス(Homo sapiens)由来、およびカエル由来のL−LDHを用いることができる。カエルの中でもコモリガエル科(Pipidae)に属するカエル由来のL−LDHを用いることが好ましく、コモリガエル科に属するカエルの中でも、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)由来のL−LDHを好ましく用いることができる。
本発明に用いられるヒトまたはカエル由来のL−LDHには、遺伝的多型性や、変異誘発などによる変異型の遺伝子も含まれる。遺伝的多型性とは、遺伝子上の自然突然変異により遺伝子の塩基配列が一部変化しているものである。また、変異誘発とは、人工的に遺伝子に変異を導入することをいう。変異誘発は、例えば、部位特異的変異導入用キット(Mutan-K(タカラバイオ社製))を用いる方法や、ランダム変異導入用キット(BD Diversify PCR Random Mutagenesis(CLONTECH社製))を用いる方法などがある。また、本発明で使用するヒトまたはカエル由来のL−LDHは、NADHとピルビン酸をNAD+とL−乳酸に変換する活性を持つタンパク質をコードしているならば、塩基配列の一部に欠失または挿入が存在していても構わない。
本発明の化学品の製造方法でL−乳酸を製造する場合、製造された濾過・分離発酵液に含まれるL−乳酸の分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができる。例えば、濾過・分離発酵液のpHを1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着洗浄した後に溶出する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させてエステルとし蒸留する方法、およびカルシウム塩やリチウム塩として晶析する方法などが挙げられる。好ましくは、濾過・分離発酵液の水分を蒸発させた濃縮L−乳酸溶液を蒸留操作にかけることができる。ここで、蒸留する際には、蒸留原液の水分濃度が一定になるように水分を供給しながら蒸留することが好ましい。L−乳酸水溶液の留出後は、水分を加熱蒸発することにより濃縮し、目的とする濃度の精製L−乳酸を得ることができる。留出液としてエタノールや酢酸等の低沸点成分を含むL−乳酸水溶液を得た場合は、低沸点成分をL−乳酸濃縮過程で除去することが好ましい態様である。蒸留操作後、留出液について必要に応じて、イオン交換樹脂、活性炭およびクロマト分離等による不純物除去を行い、さらに高純度のL−乳酸を得ることもできる。
本発明の化学品の製造方法でD−乳酸を製造する場合、D−乳酸生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としてはD−乳酸を生産することが可能な微生物であれば制限はない。D−乳酸生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞は、例えば、野生型株では、D−乳酸を合成する能力を有するラクトバシラス属(Lactobacillus)、バシラス属(Bacillus)属およびペディオコッカス(Pediococcus)に属する微生物が挙げられる。
本発明の化学品の製造方法でD−乳酸を製造する場合、野生型株のD−乳酸デヒドロゲナーゼ(以下、D−LDHともいうことがある。)の酵素活性を増強していることが好ましい。酵素活性を増強させる方法としては、従来知られている薬剤変異による方法も用いることができる。更に好ましくは、微生物がD−乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を組み込むことによりD−乳酸デヒドロゲナーゼの酵素活性を増強した組換え微生物が挙げられる。
本発明の化学品の製造方法でD−乳酸を製造する場合、組換え微生物の宿主としては、原核細胞である大腸菌、乳酸菌、および真核細胞である酵母などが好ましく、特に好ましくは酵母である。
本発明の化学品の製造方法でD−乳酸を製造する場合、D−乳酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子が、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、およびペディオコッカス・アシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、およびバシラス・ラエボラクティカス(Bacillus laevolacticus)由来の遺伝子であることが好ましく、更に好ましくはバシラス・ラエボラクティカス(Bacillus laevolacticus)由来の遺伝子である。
本発明の化学品の製造方法でD−乳酸を製造する場合、濾過・分離発酵液に含まれるD−乳酸の分離・精製は、従来知られている濃縮、蒸留および晶析などの方法を組み合わせて行うことができる。例えば、濾過・分離発酵液のpHを1以下にしてからジエチルエーテルや酢酸エチル等で抽出する方法、イオン交換樹脂に吸着洗浄した後に溶出する方法、酸触媒の存在下でアルコールと反応させてエステルとし蒸留する方法、およびカルシウム塩やリチウム塩として晶析する方法などが挙げられる。本発明の化学品の製造方法でD−乳酸を製造する場合、好ましくは、濾過・分離発酵液の水分を蒸発させた濃縮D−乳酸溶液を蒸留操作にかけることができる。ここで、蒸留する際には、蒸留原液の水分濃度が一定になるように水分を供給しながら蒸留することが好ましい。D−乳酸水溶液の留出後は、水分を加熱蒸発することにより濃縮し、目的とする濃度の精製D−乳酸を得ることができる。留出液として低沸点成分(エタノール、酢酸等)を含むD−乳酸水溶液を得た場合は、低沸点成分をD−乳酸濃縮過程で除去することが好ましい態様である。蒸留操作後、留出液について必要に応じて、イオン交換樹脂、活性炭およびクロマト分離等による不純物除去を行い、さらに高純度のD−乳酸を得ることもできる。
本発明の化学品の製造方法でピルビン酸を製造する場合、ピルビン酸の生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としてはピルビン酸を生産することが可能な微生物あるいは培養細胞であれば制限はない。ピルビン酸の生産に用いることが出来る微生物あるいは培養細胞としては、シュードモナス属(Genus Pseudomonas)、コリネバクテリウム属(Genus Corynebacterium)、エシェリシア属(Genus Escherichia)、アシネトバクター属(Genus Acinetobacter)に属する細菌を好ましく用いることができる。さらに好ましくは、シュードモナス・フルオレエセンス(Pseudomonas fuluorescens)、シュードモナス・アエロギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)などの細菌を用いることができる。これら細菌を突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変したものを用いてもよい。例えば、酸化的リン酸化によるATP生産に直接関与するATPase遺伝子を変異、または欠失させた細菌も好ましく用いられる。またカビ、酵母なども好ましく用いることができる。例えば、サッカロミセス属(Genus Saccharomyces)、トルロプシス属(Genus Toluropusis)、カンジダ属(Genus Candida)、シゾフィリウム属(Genus Schizophyllum)に属するカビ、酵母を用いることができる。さらに好ましくは、サッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisiae)、サッカロミセス・コプシス(Saccharomyces copsis)、カンジダ・グラブラータ(Candida glabrata)、カンジダ・リポリチカ(Candida lipolytica)、トルロプシス・グラブラータ(Toluropusis glabrata)、シゾフィリウム・コムネ(Schizophyllum commune)などのカビ、酵母を用いてピルビン酸を製造することが出来る。
本発明の化学品の製造方法でピルビン酸を製造する場合、濾過・分離発酵液に含まれるピルビン酸の分離・精製は、陰イオン交換カラムを用いた方法により行うことができる。例えば、特開平6−345683に示される弱塩性イオン交換体を用いた精製法を好適に用いることができる。
本発明で用いられる多孔性分離膜は、発酵に使用する微生物および培養細胞による目詰まりが起こりにくく、かつ濾過性能が長期間安定に継続することが望ましい。本発明で使用される多孔性分離膜は、平均孔径が、0.01μm以上1μm未満である。多孔質樹脂層が多孔性分離膜の両面に存在する場合、少なくとも一方の多孔質樹脂層が、この条件を満たしていればよい。平均孔径がこの範囲内にあると、菌体や汚泥などがリークすることのない高い除去率と、膜が目詰まりしにくく、高い実液透水性を長時間保持することが可能となる。平均孔径が、この範囲内にあれば、動物細胞、酵母、糸状菌などを用いた場合、目詰まりが少なく、また、細胞の濾液への漏れもなく安定に連続発酵が実施可能である。また、動物細胞、酵母、糸状菌より小さな細菌類を用いた場合は、0.4μm以下の平均孔径であればよりよく、0.2μm以下の平均孔径であればなお好適に実施可能である。平均孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、通常は0.02μm以上が好ましく、より好ましくは0.04μm以上である。ここで、平均孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる複数の細孔の直径を測定し、平均することにより求めることができる。孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXk、細孔直径の平均をX(ave)とした以下(式2)より算出した。
本発明で用いられる多孔性分離膜において、培養液の透過性が重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性分離膜の純水透過係数を用いることができる。多孔性分離膜の純水透過係数が、2×10−9m3/m2/s/pa以上であることが好ましく、2×10−9以上6×10−7m3/m2/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。ここで、純水透過係数は逆浸透膜透過水や蒸留水などの清水を水頭差で濾過して測定し、25℃換算して算出する。
本発明における多孔性分離膜の材質は、培養液に応じた分離性能と透水性能が得られれば特に限定はされないが、阻止性能、透水性能や耐汚れ性といった分離性能の点からは多孔質樹脂層を含む多孔性分離膜であることが好ましく採用できる。また、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布や、無機材料からなる多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されたものでも良い。本発明を実現するための多孔性分離膜として、有機高分子膜を使用することができるが、有機高分子膜は、基本的に有機ポリマー材料から構成される多孔性分離膜のことであり、例えば、有機繊維の不織布やマクロポア構造多孔質有機基材と当該多孔質有機基材の孔径より小さな孔径を有する多孔質樹脂層が複合化された構造を持つ場合が多い。ただし、本発明は、この膜の構造に限定されるものではない。ここで、多孔質樹脂層の材質としては、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、セルロース系樹脂、セルローストリアセテート系樹脂などからなれば良く、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物であってもよい。中でも、溶液による製膜が容易で、物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂が好ましい。ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とするものが最も好ましい。ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましく用いられるが、フッ化ビニリデンの単独重合体の他、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。かかるビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、三塩化フッ化エチレンなどが例示される。
本発明の多孔性分離膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。平膜の場合、その厚みは耐久性と透水性能のバランスを考慮して決められるが、例えば、20μm以上5000μm以下、好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。上述したように、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されていても良い。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の厚みは、50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。中空糸膜の場合、内径は200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編み物を含んでいても良い。
本発明で用いられる多孔性分離膜の作製法の概要を例示して説明する。まず、多孔性分離膜のうち、平膜の作成法の概要について説明する。多孔質基材の表面に、樹脂と溶媒とを含む原液の被膜を形成するとともに、その原液を多孔質基材に含浸させる。その後、被膜を有する多孔質基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させると共に多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成する。原液は、樹脂を溶媒に溶解させて調整する。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、5〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。溶媒は、樹脂を溶解するものであり、樹脂に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促すものである。溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N − メチル− 2 − ピロリドン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、テトラメチル尿素、リン酸トリメチル、シクロヘキサノン、イソホロン、γ − ブチロラクトン、メチルイソアミルケトン、フタル酸ジメチル、プロピレングリコールメチルエーテール、プロピレンカーボネート、ジアセトンアルコール、グリセロールトリアセテート、アセトンおよびメチルエチルケトンなどを用いることができる。なかでも、樹脂の溶解性の高いN−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)を好ましく用いることができる。これらを単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いても良い。例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、グリセリンなどの溶媒以外の成分を溶媒に添加しても良い。溶媒に非溶媒を添加することもできる。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水や、メタノール、およびエタノールなどのアルコール類を用いることができる。なかでも、非溶媒として、価格の点から水やメタノールが好ましい。溶媒以外の成分および非溶媒は、混合物であってもよい。原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤を添加することで、平均孔径の大きさの制御することができる。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであることが好ましい。開孔剤としては、例えば、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、開孔剤として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールおよびポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物や、グリセリンを用いることができる。
次に、多孔性分離膜のうち、中空糸膜の作製法の概要について説明する。中空糸膜は、樹脂と溶媒からなる原液を二重管式口金の外側の管から吐出するとともに、中空部形成用流体を二重管式口金の内側の管から吐出して、冷却浴中で冷却固化して作製することができる。原液は、上述の平膜の作成法で述べた樹脂を10重量%以上50重量%以下の濃度で、上述の平膜の生成法で述べた溶媒に溶解させることで調整できる。また、中空部形成用流体には、通常気体もしくは液体を用いることができる。また、得られた中空糸膜の外表面に、新たな多孔性樹脂層を積層することもできる。積層は中空糸膜の性質、例えば、親水・疎水性、孔径等を所望の性質に変化させるために行うことができる。積層される多孔性樹脂層は、例えば三重管式口金のから2種類の原液と中空部形成流体を吐出して得ることが出来る。
本発明の多孔性分離膜は、支持体と組み合わせることによって多孔性分離膜エレメントとすることができる。多孔性分離膜エレメントの形態は特に限定されないが、支持体として支持板を用い、該支持板の少なくとも片面に、本発明の多孔性分離膜を配した多孔性分離膜エレメントは、本発明の膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態では、膜面積を大きくすることが困難なので、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性分離膜を配することも好ましい。
本発明において、微生物や細胞を濾過処理する際の膜間差圧は、微生物や細胞および培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、膜間差圧を0.1kPa以上20kPa以下の範囲とする。濾過の駆動力としては、培養液と多孔性分離膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔性分離膜に膜間差圧を発生させることが可能であり、また、濾過の駆動力として多孔性分離膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性膜の培養液側に加圧ポンプを設置することも可能である。膜間差圧は培養液と多孔性分離膜処理水の液位差を変化させることで制御することができる、またポンプを使用する場合には吸引圧力により制御することができ、更に培養液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によって制御することができる。これら圧力制御を行う場合には培養液側の圧力と多孔性分離膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
ところで、上述したような多孔性分離膜を用いれば膜の目詰まりは低減可能であるが、やはり培養液を膜濾過すると膜の目詰まりは必ず発生する。発明者らはこの膜の目詰まり成分について詳細に鋭意検討した結果、化学的消泡剤の過剰添加が行われると、濾過抵抗が上昇すること、分析したいずれの目詰まり膜の表面からも糖およびタンパク質と化学的消泡剤を検出したことなどから、糖およびタンパク質と化学的消泡剤の凝集体が膜の主要目詰まり成分であることを明らかにした。また、化学的消泡剤の濃度と濾過抵抗上昇の関係を詳細に検討した結果、化学的消泡剤の2〜3割は多孔性分離膜を透過するものの、7〜8割は多孔性分離膜に阻止されて反応槽内に蓄積し、その濃度が150ppmを越えると濾過抵抗が急激に上昇することを見出した。このことから反応槽内の化学的消泡剤の濃度は、消泡の効果と膜の目詰まりの進行、すなわち濾過抵抗が急上昇しないことから決められれば良く、1ppm以上150ppm以下、好ましくは10ppm以上120ppm以下、さらに好ましくは20ppm以上100ppm以下とすることで濾過抵抗が急上昇せずに、効果的に消泡出来ることを見出した。化学的消泡剤の2〜3割は多孔性分離膜を透過することから、少な目に見積もって、添加した化学的消泡剤のうち20%が膜を透過すると考えた場合、反応槽に添加する化学的消泡剤の量は、投入する培地およびpH調整溶液の合計流量すなわち膜透過流量に対して、1.3ppm以上188ppm以下、好ましくは12.5ppm以上150ppm以下、さらに好ましくは25ppm以上125ppm以下とすれば良い。
ここで、化学的消泡剤には、動植物油等の油脂系、オレイン酸、ステアリン酸等の脂肪酸系、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル系、シリコン、エマルジョン等のシリコン系、ポリオキシアルキレン誘導体等のアルコール系などがあり、いずれの化学的消泡剤も本発明に適用可能であるが、発酵用途においては、ポリオキシアルキレン誘導体またはシリコン系が微生物の生育、呼吸への影響、培養液中の酸素移動への影響、発酵生産物の生産能への影響等の観点から好ましく、特にポリオキシアルキレン誘導体はこれまでの発酵工業での実績が多くさらに好ましい。
また、化学的消泡剤の消泡効果が不足する場合は、物理的な消泡手段を併用することが好ましく採用できる。物理的な消泡手段としては、加熱や放電により破泡する方法や、回転体、衝突、遠心力、液体巻き込み、圧力差を利用する方法などがあり、本発明ではいずれの物理的消泡手段も採用することが出来るが、打泡翼や回転ディスクなどの回転を利用するもの、ノズルと衝突板など衝突を利用するものが簡便で雑菌等によるコンタミネーションを起こしにくく好ましい。
以下、本発明をさらに詳細に説明するために、上記発酵生産物としてL−乳酸を選定し、図1の概要図に示す装置を用いることで連続的にL−乳酸発酵の実施について、実施例を挙げて説明する。本発明はこれら実施例に限定されない。ここで、L−乳酸を生産させる微生物としては酵母サッカロミセス・セレビセ(Saccharomyces cerevisae)を用いた。サッカロミセス・セレビセは、本来L−乳酸発酵を持たないが、L−乳酸脱水素酵素をコードする遺伝子を導入することでL−乳酸発酵能力をもつサッカロミセス・セレビセ株を造成し実施した。具体的には、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することでL−乳酸発酵能力を持つ酵母株を造成して使用した。
参考例1 乳酸生産能力を持つ酵母株の作製
乳酸生産能力を持つ酵母株を下記のように造成した。具体的には、ヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結することでL−乳酸生産能力を持つ酵母株を造成する。ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(PCR)には、La−Taq(宝酒造)、あるいはKOD-Plus-polymerase(東洋紡)を用い、付属の取扱説明に従って行った。
ヒト乳ガン株化細胞(MCF−7)を培養回収後、TRIZOL Reagent(Invitrogen)を用いてtotal RNAを抽出し、得られたtotal RNAを鋳型としてSuperScript Choice System(Invitrogen)を用いた逆転写反応によりcDNAの合成を行った。これらの操作の詳細は、それぞれ付属のプロトコールに従った。得られたcDNAを続くPCRの増幅鋳型とした。
上記操作で得られたcDNAを増幅鋳型とし、配列番号1および配列番号2で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたKOD-Plus-polymeraseによるPCRによりL−ldh遺伝子のクローニングを行った。各PCR増幅断片を精製し末端をT4 Polynucleotide Kinase(TAKARA社製)によりリン酸化後、pUC118ベクター(制限酵素HincIIで切断し、切断面を脱リン酸化処理したもの)にライゲーションした。ライゲーションは、DNA Ligation Kit Ver.2(TAKARA社製)を用いて行った。ライゲーションプラスミド産物で大腸菌DH5αを形質転換し、プラスミドDNAを回収することにより各種L−ldh遺伝子(配列番号3)がサブクローニングされたプラスミドを得た。得られたL−ldh遺伝子が挿入されたpUC118プラスミドを制限酵素XhoIおよびNotIで消化し、得られた各DNA断片を酵母発現用ベクターpTRS11(図2)のXhoI/NotI切断部位に挿入した。このようにしてヒト由来L−ldh遺伝子発現プラスミドpL−ldh5(L−ldh遺伝子)を得た。なお、ヒト由来のL−ldh遺伝子発現ベクターである上記pL−ldh5は、プラスミド単独で独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1−1−1中央第6)にFERM AP−20421として寄託した(寄託日:平成17年2月21日)。
ヒト由来LDH遺伝子を含むプラスミドpL−ldh5を増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号5で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.3kbのヒト由来LDH遺伝子、及びサッカロミセス・セレビセ由来のTDH3遺伝子のターミネーター配列含むDNA断片を増幅した。また、プラスミドpRS424を増幅鋳型として、配列番号6および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより1.2kbのサッカロミセス・セレビセ由来のTRP1遺伝子を含むDNA断片を増幅した。それぞれのDNA断片を1.5%アガロースゲル電気泳動により分離、常法に従い精製した。ここで得られた1.3kb断片、1.2kb断片を混合したものを増幅鋳型とし、配列番号4および配列番号7で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCR法によって得られた産物を1.5%アガロースゲル電気泳動して、ヒト由来LDH遺伝子及びTRP1遺伝子が連結された2.5kbのDNA断片を常法に従い調整した。この2.5kbのDNA断片で出芽酵母NBRC10505株を常法に従いトリプトファン非要求性に形質転換した。
得られた形質転換細胞がヒト由来LDH遺伝子を酵母ゲノム上のPDC1プロモーターの下流に連結されている細胞であることの確認は、下記のように行った。まず、形質転換細胞のゲノムDNAを常法に従って調製し、これを増幅鋳型とした配列番号8および配列番号9で表されるオリゴヌクレオチドをプライマーセットとしたPCRにより0.7kbの増幅DNA断片が得られることで確認した。また、形質転換細胞が乳酸生産能力を持つかどうかは、SC培地(METHODS IN YEAST GENETICS 2000 EDITION、 CSHL PRESS)で形質転換細胞を培養した培養上澄に乳酸が含まれていることを下記に示す条件でHPLC法により乳酸量を測定することで確認した。
カラム:Shim-Pack SPR-H(島津社製)
移動相:5mM p−トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p−トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
また、L−乳酸の光学純度測定は以下の条件でHPLC法により測定した。
カラム:TSK-gel Enantio L1(東ソー社製)
移動相:1mM 硫酸銅水溶液
流速:1.0ml/min
検出方法:UV254nm
温度:30℃
また、L−乳酸の光学純度は次式で計算される。
光学純度(%)=100×(L−D)/(L+D)
ここで、LはL−乳酸の濃度、DはD−乳酸の濃度を表す。
HPLC分析の結果、4g/LのL−乳酸が検出され、D−乳酸は検出限界以下であった。以上の検討により、この形質転換体がL−乳酸生産能力を持つことを確認した。得られた形質転換細胞を酵母SW−1株として、続く実施例に用いた。
実施例1 膜分離型連続発酵装置を用いた連続発酵によるL−乳酸の製造
膜分離型連続発酵装置を稼働させることにより、L−乳酸連続発酵系が得られるかどうかを調べるため、表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、この装置の連続発酵試験を行った。該培地は高圧蒸気滅菌(121℃、15分)して用いた。多孔性分離膜としてはポリフッ化ビニリデン(PVDF)を主成分とする多孔性分離膜を用いた。該多孔質分離膜の特性を調べたところ、平均細孔径が0.08μm、純水透過係数が50×10−9m3/m2/s/paであった。本実施例における運転条件は、特に断らない限り、以下のとおりである。
反応槽容量:1.5(L)
使用多孔性分離膜:PVDF製濾過膜
膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
膜濾過流束:0.2m/日
温度調整:30(℃)
反応槽通気量:0.2(L/min)
反応槽攪拌速度:400(rpm)
pH調整:0.5N NaOHによりpH5に調整
発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
膜透過水量制御:膜分離槽水頭差により流量を制御(水頭差は2m以内で制御した。)。
微生物として参考例1で造成した酵母SW−1株を用い、培地として表1に示す組成の乳酸発酵培地を用い、生産物である乳酸の濃度の評価には、参考例1に示したHPLCを用い、グルコース濃度の測定にはグルコーステストワコーC(和光純薬)を用いた。
まず、SW−1株を試験管で5mlの乳酸発酵培地で一晩振とう培養した(前々々培養)。得られた培養液を新鮮な乳酸発酵培地100mlに植菌し、500ml容坂口フラスコで24時間、30℃で振とう培養した(前々培養)。前々培養液を、膜分離型連続発酵装置の1.5Lの乳酸発酵培地に植菌し、反応槽を付属の攪拌機によって400rpmで攪拌し、反応槽の通気量の調整、温度調整、pH調整を行い、24時間培養を行った(前培養)。前培養完了後直ちに、吸引ポンプを稼働させ、乳酸発酵培地の連続供給を行い、膜分離型連続発酵装置の発酵液量を2Lとなるよう膜透過水量を2.4L/日となるように制御を行いながら連続培養し、連続発酵による乳酸の製造を行った。この時化学的消泡剤としてブトキシポリプロピレングリコールを0.4g/日となるように6時間ごとに0.1g投入した。適宜、膜透過発酵液中の生産された乳酸濃度および残存グルコース濃度を測定した。また、該乳酸、及びグルコース濃度から算出された投入グルコースから算出された乳酸対糖収率、乳酸生産速度を表2に示した。235時間の発酵試験を行った結果、本膜分離型連続発酵装置を用いることで、安定したL−乳酸の連続発酵による製造が可能であることが確認できた。また、ブトキシポリプロピレングリコールの反応槽内の濃度は100〜150ppmの範囲で推移し、濾過抵抗の急上昇や発砲によるトラブルもなく安定に膜濾過を行うことが出来た。運転結果を図3に示す。
比較例1
実施例1の連続発酵の後、化学的消泡剤のブトキシポリプロピレングリコールの投入量を0.8g/日となるように6時間ごとに0.2g投入した。その結果、反応槽内の消泡剤の濃度が上昇し、それに伴い膜濾過差圧も急上昇し、膜濾過の安定運転が出来なくなった。運転結果を図3に示す。
実施例2 膜分離型連続発酵装置を用いた連続発酵によるL−乳酸の製造
実施例1と同条件で、L−乳酸の連続発酵を行った結果、460時間まで膜濾過の安定運転が可能であった。運転結果を図4に示す。
比較例2
実施例2の連続発酵の後、化学的消泡剤のブトキシポリプロピレングリコールを2g/日と大量投入した。その結果、膜濾過差圧は急上昇し、膜濾過の安定運転が出来なくなった。運転結果を図4に示す。