JP2008278884A - 化学品の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】
簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持する化学品の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、微生物触媒によって得られた化学品を含む反応液を、分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収するとともに未濾過液を反応液に保持または還流し、かつ、基質を反応液に追加する連続的な化学品の製造方法であって、分離膜として、高い透過性と高い細胞阻止率を持ち閉塞しにくい多孔性分離膜を用い、低い膜間差圧で濾過処理することにより、安定に低コストで化学品の生産効率を著しく向上させることが可能となる。
【選択図】 図1
簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して高生産性を維持する化学品の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明は、微生物触媒によって得られた化学品を含む反応液を、分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収するとともに未濾過液を反応液に保持または還流し、かつ、基質を反応液に追加する連続的な化学品の製造方法であって、分離膜として、高い透過性と高い細胞阻止率を持ち閉塞しにくい多孔性分離膜を用い、低い膜間差圧で濾過処理することにより、安定に低コストで化学品の生産効率を著しく向上させることが可能となる。
【選択図】 図1
Description
本発明は、微生物触媒を用いた化学品の製造方法であって、目詰まりが生じにくい多孔性分離膜を通して化学品を含む反応液を効率よく濾過・回収すること、および未濾過液を反応液に戻すことで微生物濃度を向上させることにより、高い生産性を得る化学品の製造方法に関するものである。
微生物触媒を用いた化学品の製造に関する技術背景に関して説明する。微生物を用いた化学品の生産方法としては、微生物の増殖を伴う発酵生産法と、微生物菌体を酵素源として用いる化学品の生産方法が広く用いられている。微生物菌体を酵素源として用いる化学品の生産方法(本発明では、これを微生物触媒を用いた化学品の製造方法と呼ぶこととする)によって、様々な化学品が製造されている(非特許文献1参照。)。
微生物触媒を用いた化学品の製造方法の具体的な方法としては、微生物を原料溶液に懸濁し、微生物の酵素によって化学品を製造する方法があるが、この方法では微生物の再利用のため、並びに後段の化学品の精製工程へ微生物の混入を防ぐために遠心分離などによって微生物を回収する必要があり、工業的に用いる手法としては不適である。このうち再利用を容易にするための方法として、微生物をポリアクリルアミドやカラギーナンなどに包括固定して固定化菌体として用いる方法がある。例えば、アクリロニトリルからアクリルアミドの生産には、固定化菌体を用いた方法により工業化されている。また、コリネ菌を微生物触媒として、用いて様々な有機酸を生産する検討もなされている(特許文献1参照。)。一方、微生物を包括固定しても微生物の漏出はさけられないことから、微生物をセラミックス製の分離膜によって濾過しながらグリコール酸を製造する技術が提案されている(特許文献2参照)。この方法を用いることにより、微生物の漏出が防止できることはもちろん、反応系内の微生物濃度を高くすることができることから、グリコール酸の生産速度を高くすることができる。しかしながら、セラミックス膜を用いた濾過を行うためには、高い圧力をかける必要があること、また頻繁な膜の洗浄が必要であり、工業的に用いる方法としては適当でなかった。
このように、微生物触媒を用いた化学品の製造において、微生物触媒として用いる微生物を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収すると同時に濾過された微生物を反応液に還流させ、反応液中の微生物や細胞濃度を向上させ、かつ、高く維持させることにより高い物質生産性を得ることは、依然として困難であり、技術の革新が望まれていた。
特開2002−367331号公報
特開平10−174594号公報
財団法人バイオインダストリー協会、発酵と代謝研究会編、「発酵ハンドブック」、64−65、共立出版(2001)
そこで本発明の目的は、簡便な操作方法で、微生物触媒を作用させることによって変換する化学品の製造を、長時間にわたり安定して高生産性を維持する微生物触媒を用いた連続的な化学品の製造方法を提供することにある。
本発明者らは、鋭意研究の結果、微生物の分離膜内への侵入が少なく、微生物を膜間差圧が低い条件で濾過した場合に、分離膜の目詰まりが著しく抑制されることを見出し、課題であった高濃度の微生物の濾過が長期間安定に維持できることを可能とし、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、微生物触媒によって得られた化学品を含む反応液を分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の生産物を回収するとともに、未濾過液を反応液に保持または還流させる微生物触媒による連続的な化学品の製造方法である。具体的に、本発明の微生物触媒を用いた化学品の製造方法は、化学品を生産する能力を有する微生物触媒と、微生物触媒によって得られた化学品を含む反応液を分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を反応液に保持または還流し、かつ、基質を反応液に追加する方法であって、その分離膜として、平均細孔径が0.01μm以上5μm未満の細孔を有する多孔性分離膜を用い、その膜間差圧を0.1から150kPaの範囲として低い膜間差圧で濾過処理することにより、安定に低コストで、生産効率を著しく向上させる化学品の製造方法である。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の多孔性分離膜の純水透過係数は、2×10-9m3/m2/s/pa以上6×10-7m3/m2/s/pa以下である。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の多孔性分離膜の細孔の平均細孔径は0.01μm以上0.2μm未満であり、かつ、該平均細孔径の標準偏差は0.1μm以下である。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の多孔性分離膜の膜表面粗さは0.1μm以下である。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の多孔性分離膜は多孔質樹脂層を含む分離膜であり、その多孔質樹脂層は有機高分子膜からなる多孔質樹脂層であり、そして、その有機高分子膜の素材はポリフッ化ビニリデン系樹脂である。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の基質がリジンであり、化学品がカダベリンである。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の基質がリジン塩であり、化学品がカダベリン塩である。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の基質がリジンジカルボン酸塩であり、化学品がカダベリンジカルボン酸塩である。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の酵素がL−リジン脱炭酸酵素である。
本発明の化学品の製造方法の好ましい態様によれば、前記の微生物が大腸菌である。
本発明によれば、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して所望の生産物の高生産性を維持した化学品の連続的な製造が可能となり、低コストで安定した化学品を生産することが可能となる。
本発明は、微生物触媒によって得られた化学品を含む反応液を、分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収するとともに未濾過液を反応液に保持または還流し、かつ、基質を反応液に追加する連続的な化学品の製造方法であって、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上5μm未満の細孔を有する多孔性分離膜を用い、その膜間差圧を0.1から150kPaの範囲として濾過処理することを特徴とする化学品の製造方法である。
本発明において分離膜として用いられる多孔性分離膜は、化学品の製造に用いる微生物による目詰まりが起こりにくく、そして、濾過性能が長期間安定に継続する性能を有するものであることが望ましい。そのため、本発明で使用される多孔性分離膜は、平均細孔径が0.01μm以上5μm未満の細孔を有することが重要である。
本発明で分離膜として用いられる多孔性分離膜の構成について説明する。本発明における多孔性分離膜は、被処理水の水質や用途に応じた分離性能と透水性能を有するものである。多孔性分離膜は、阻止性能および透水性能や耐汚れ性という分離性能の点からは、多孔質樹脂層を含む多孔性分離膜であることが好ましい。このような多孔性分離膜は、多孔質基材の表面に分離機能層として作用とする多孔質樹脂層を有している。多孔質基材は、多孔質樹脂層を支持して分離膜に強度を与えるものである。
多孔質基材の材質は、有機材料および/または無機材料等からなり、中でも有機繊維が望ましく用いられる。好ましい多孔質基材は、セルロース繊維、セルローストリアセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維およびポリエチレン繊維などの有機繊維を用いてなる織布や不織布等である。中でも、密度の制御が比較的容易であり製造も容易で安価な不織布が好ましく用いられる。
また、多孔質樹脂層は、上述したように分離機能層として作用するものであり、有機高分子膜を好適に使用することができる。有機高分子膜の材質としては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、セルロース系樹脂およびセルローストリアセテート系樹脂等が挙げられる。有機高分子膜は、これらの樹脂を主成分とする樹脂の混合物からなるものであってもよい。ここで主成分とは、その成分が50重量%以上、好ましくは60重量%以上含有することをいう。中でも、多孔質樹脂層を構成する膜素材としては、溶液による製膜が容易で物理的耐久性や耐薬品性にも優れているポリ塩化ビニル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂またはポリオレフィン系樹脂が好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはポリオレフィン系樹脂がより好ましく、ポリフッ化ビニリデン系樹脂またはそれを主成分とする樹脂が最も好ましく用いられる。
ここで、ポリフッ化ビニリデン系樹脂としては、フッ化ビニリデンの単独重合体が好ましいが、フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体との共重合体も好ましく用いられる。フッ化ビニリデンと共重合可能なビニル系単量体としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよび三塩化フッ化エチレンなどが例示される。また、ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、塩素化ポリエチレンまたは塩素化ポリプロピレンが挙げられるが、塩素化ポリエチレンが好ましく用いられる。
本発明で用いられる多孔性分離膜の作成法の概要を説明する。まず、前記の多孔質基材の表面に、前記の樹脂と溶媒を含む原液の被膜を形成するとともに、その原液を多孔質基材に含浸させる。その後、被膜を有する多孔質基材の被膜側表面のみを、非溶媒を含む凝固浴と接触させて樹脂を凝固させると共に多孔質基材の表面に多孔質樹脂層を形成する。原液の温度は、製膜性の観点から、通常、15〜120℃の範囲内で選定することが好ましい。
ここで、原液には、開孔剤を添加することもできる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤を添加することにより、多孔性分離膜の細孔の平均細孔径の大きさの制御することができる。開孔剤は、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固浴への溶解性の高いものであることが好ましい。開孔剤としては、例えば、塩化カルシウムや炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、開孔剤として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラールおよびポリアクリル酸などの水溶性高分子化合物や、グリセリンを用いることができる。
また、溶媒は、樹脂を溶解するものである。溶媒は、樹脂および開孔剤に作用してそれらが多孔質樹脂層を形成するのを促す。このような溶媒としては、N−メチルピロリジノン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトンおよびメチルエチルケトンなどを用いることができる。中でも、樹脂の溶解性の高いNMP、DMAc、DMFおよびDMSOが好ましく用いられる。
さらに、原液には、非溶媒を添加することもできる。非溶媒は、樹脂を溶解しない液体である。非溶媒は、樹脂の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水やメタノールおよびエタノールなどのアルコール類を用いることができる。中でも、価格の点から水やメタノールが好ましい。非溶媒は、これらの混合物であってもよい。
本発明で用いられる多孔性分離膜は、平膜であっても中空糸膜であっても良い。平膜の場合、その平均厚みは用途に応じて選択されるが、好ましくは20μm以上5000μm以下であり、より好ましくは50μm以上2000μm以下の範囲で選択される。
上述のように、本発明で用いられる多孔性分離膜は、多孔質基材と多孔質樹脂層とから形成されている多孔性分離膜であることが望ましい。その際、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していても、多孔質基材に多孔質樹脂層が浸透していなくてもどちらでも良く、用途に応じて選択される。多孔質基材の平均厚みは、好ましくは50μm以上3000μm以下の範囲で選択される。また、多孔性分離膜が中空糸膜の場合、中空糸の内径は好ましくは200μm以上5000μm以下の範囲で選択され、膜厚は好ましくは20μm以上2000μm以下の範囲で選択される。また、有機繊維または無機繊維を筒状にした織物や編物を中空糸の内部に含んでいても良い。
本発明で用いられる多孔性分離膜は、別に用意された支持体と組み合わせることによって分離膜エレメントとすることができる。支持体として支持板を用い、その支持板の少なくとも片面に、本発明で用いられる多孔性分離膜を配した分離膜エレメントは、本発明で用いられる多孔性分離膜を有する分離膜エレメントの好適な形態の一つである。この形態で、膜面積を大きくすることが困難な場合には、透水量を大きくするために、支持板の両面に多孔性分離膜を配することが好ましい。
多孔性分離膜の細孔の平均細孔径が上記のように0.01μm以上5μm未満の範囲内にあると、微生物触媒がリークすることのない高い排除率と、高い透水性を両立させることができ、さらに目詰まりをしにくく、透水性を長時間保持することが、より高い精度と再現性を持って実施することができる。微生物として細菌類を用いた場合、多孔性分離膜の細孔の平均細孔径は好ましくは0.4μm以下であり、平均細孔径は0.2μm未満であればなお好適に実施することが可能である。平均細孔径は、小さすぎると透水量が低下することがあるので、本発明では、平均細孔径は0.01μm以上であり、好ましくは0.02μm以上であり、さらに好ましくは0.04μm以上である。
ここで、平均細孔径は、倍率10,000倍の走査型電子顕微鏡観察における、9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔すべての直径を測定し、平均することにより求めることができる。
上記の平均細孔径の標準偏差σは、0.1μm以下であることが好ましい。更に、平均細孔径の標準偏差が小さい、すなわち細孔径の大きさが揃っている方が均一な透過液を得ることができる。装置の運転管理が容易になることから、平均細孔径の標準偏差は小さければ小さい方が望ましい。
平均細孔径の標準偏差σは、上述の9.2μm×10.4μmの範囲内で観察できる細孔数をNとして、測定した各々の直径をXkとし、細孔直径の平均をX(ave)とした下記の(式1)により算出される。
本発明で用いられる多孔性分離膜においては、化学品を含む反応液の透過性が重要点の一つであり、透過性の指標として、使用前の多孔性分離膜の純水透過係数を用いることができる。本発明において、多孔性分離膜の純水透過係数は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで透水量を測定し算出したとき、1×10−10m3/m2/s/pa以上であることが好ましい。純水透過係数が2×10−9m3/m2/s/pa以上6×10−7m3/m2/s/pa以下であれば、実用的に十分な透過水量が得られる。より好ましい純水透過係数は、2×10−9m3/m2/s/pa以上2×10−7m3/m2/s/pa以下である。
本発明で用いられる多孔性分離膜の膜表面粗さは、分離膜の目詰まりに影響を与える因子である。多孔性分離膜の膜表面粗さが好ましくは0.1μm以下のときに、分離膜の剥離係数や膜抵抗を好適に低下させることができ、より低い膜間差圧で化学品の製造が実施可能である。従って、目詰まりを抑えることにより、安定した化学品の製造が可能になることから、表面粗さは小さければ小さいほど好ましい。
また、多孔性分離膜の膜表面粗さを低くすることにより、微生物触媒の濾過において、膜表面で発生する剪断力を低下させることが期待でき、微生物の破壊が抑制され、多孔性分離膜の目詰まりも抑制されることにより、長期間安定な濾過が可能になると考えられる。
ここで、膜表面粗さは、下記の原子間力顕微鏡装置(AFM)を使用して、下記の装置と条件で測定することができる。
・装置:原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件:探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
:走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
:走査範囲 10μm、25μm四方(気中測定)
5μm、10μm四方(水中測定)
:走査解像度 512×512
・試料調製:
測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、ろ過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いてろ過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
・装置:原子間力顕微鏡装置(Digital Instruments(株)製Nanoscope IIIa)
・条件:探針 SiNカンチレバー(Digital Instruments(株)製)
:走査モード コンタクトモード(気中測定)
水中タッピングモード(水中測定)
:走査範囲 10μm、25μm四方(気中測定)
5μm、10μm四方(水中測定)
:走査解像度 512×512
・試料調製:
測定に際し膜サンプルは、常温でエタノールに15分浸漬後、RO水中に24時間浸漬し洗浄した後、風乾し用いた。RO水とは、ろ過膜の一種である逆浸透膜(RO膜)を用いてろ過し、イオンや塩類などの不純物を排除した水を指す。RO膜の孔の大きさは、概ね2nm以下である。
膜表面粗さdroughは、上記AFMにより各ポイントのZ軸方向の高さから、下記の(式2)により算出する。
本発明は、微生物触媒によって得られた化学品を含む反応液を、分離膜で濾過し、濾液から化学品を回収するとともに未濾過液を反応液に保持または還流し、かつ、基質を反応液に追加する連続的な化学品の製造方法である。
本発明において、反応液とは基質を含む培地と微生物触媒を混合した結果、生成した化学品を含んだ液のことである。微生物触媒である基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物と化学品を含んだ反応液を、本発明で用いる多孔性分離膜によって濾過することにより、濾液から化学品を回収することができる。
本発明で使用される基質とは、微生物触媒によって化学品が製造され得る化合物であればよい。また、前記基質は、フリー体であっても良いし、カウンターイオンとの塩であってもよい。例えば、微生物触媒の酵素活性がリジン脱炭酸酵素活性を有するものである場合、基質のリジンからは化学品のカダベリンが製造され、基質のリジン塩からは化学品のカダベリン塩が製造される。このうち基質がリジン塩である場合、リジン塩酸塩、リジン硫酸塩、リジンリン酸塩またはリジンジカルボン酸塩を基質として好ましく用いることができ、化学品として前記基質の塩に対応するカダベリン塩が好ましく製造される。また基質から化学品を製造するときに微生物触媒が必要な栄養源を基質とともに同時に反応液に追加することができる。微生物触媒が必要な栄養源とは、基質から化学品を生産する能力のある酵素が機能するために必要な補酵素が挙げられる。補酵素とは、酵素反応の化学基の授受に機能する低分子量の有機化合物であり、コエンザイム、コエンチームおよび助酵素などとも呼ばれる。具体的には、ビタミンやアデノシン三リン酸などのヌクレオチド、亜鉛、マンガン、鉄、マグネシウムおよびカルシウムなどの無機塩のことである。これらの基質と微生物触媒が必要な栄養源を含む液のことを、以後、培地とよぶことがある。
本発明で用いられる微生物触媒である、基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物は、化学品の製造に使用する前にあらかじめ培養させておくことが好ましい。微生物を培養するための培地としては、培養する微生物の生育を促し、基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を良好に含有させ得るものであればよいが、炭素源、窒素源、無機塩類、および必要に応じてアミノ酸やビタミンなどの有機微量栄養素を適宜含有する通常の液体培地が好ましく用いられる。
炭素源としては、グルコース、シュークロース、フラクトース、ガラクトースやラクトース等の糖類、これら糖類を含有する澱粉糖化液、甘藷糖蜜、甜菜糖蜜、ハイテストモラセス、更には酢酸等の有機酸、エタノールなどのアルコール類およびリセリンなども使用される。
窒素源としては、アンモニアガス、アンモニア水、アンモニウム塩類、尿素、硝酸塩類、その他補助的に使用される有機窒素源、例えば油粕類、大豆加水分解液、カゼイン分解物、その他のアミノ酸、ビタミン類、コーンスティープリカー、酵母または酵母エキス、肉エキス、ペプトン等のペプチド類および各種発酵菌体およびその加水分解物などが使用される。
無機塩類としては、リン酸塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、鉄塩およびマンガン塩等を適宜添加することができる。本発明で使用される微生物が生育のために特定の栄養素を必要とする場合には、その栄養物を標品もしくはそれを含有する天然物として添加する。また、消泡剤も必要に応じて使用することができる。また、酵素活性を良好に含有させるための化合物を加えた培養や、化合物を加えずに培養することができる。
次に、本発明の化学品の製造方法に用いることができる微生物触媒について説明する。本発明の化学品の製造方法で使用される微生物触媒は、基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物であり、且つ反応液中で増殖能力が抑制されている微生物を微生物触媒として好ましく用いることができる。反応液中で増殖能力が抑制されている微生物を微生物触媒として用いることにより、化学品の原料となる基質を微生物の増殖のための栄養源として用いられることがないことから、基質からの化学品の収率が向上するとともに生産性を高くすることができる。
本発明における反応液中で増殖能力が抑制されている微生物をさらに説明すると、原料となる基質によって生育が阻害される微生物や生産された化学品によって生育が抑制される微生物を挙げることができる。また、増殖に必須の栄養成分が欠乏した基質を含む反応液を用いることでもよい。また、増殖に酸素を必要とする微生物を、あらかじめ酸素の存在する条件で生育させた後に、酸素の無い条件下で、原料基質と反応させることも本発明において用いることができる。本発明においては、酸素によって増殖が抑制される微生物を、酸素の無い条件で生育させた後、酸素の存在する条件下で、基質と反応させることできる。また、本発明では、生育に必須な代謝酵素の活性が低下する温度以上で、原料基質と反応させることも行われる。生育に必須な代謝酵素活性が温度感受性を持つ微生物では、あらかじめ生育を阻害しない温度で微生物を生育させた後、生育が阻害された温度で原料基質と反応させることも可能である。
微生物が反応液中で増殖能力が抑制されているかどうかは、反応液中に微生物を投入し、微生物数が増加しないことによって判断できる。微生物数の計測には、反応液中の微生物由来の濁度の計測や、反応液中の微生物数を顕微観察しながら計数する等による方法で評価することができる。
すなわち、微生物触媒を用いる本発明の化学品の製造方法は、従来の微生物の増殖を伴う発酵法による化学品の製造方法とは明確に区別することができる。
基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物の中でも、高い酵素活性を持つ微生物を好ましく用いることができる。本発明で使用される微生物は、例えば、発酵工業においてよく使用されるパン酵母などの酵母、大腸菌やコリネ型細菌などのバクテリア、糸状菌、放線菌、動物細胞および昆虫細胞などが挙げられる。使用する微生物や細胞は、自然環境から単離されたものでもよく、また、突然変異や遺伝子組換えによって一部性質が改変されたものであってもよい。
また、本発明に使用される、基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物は、化学品を反応液中に生産する能力があることが好ましい。化学品が反応液中に生産されることにより、多孔性分離膜によって生産物である化学品と微生物を効率よく濾過することができる。基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物を突然変異や遺伝子組換えによって化学品の反応液中への生産能力を高めた組換え微生物も好ましく用いることができる。
また、突然変異や遺伝子組換えによって微生物の基質の取り込み能力を強化させてもよい。このようにすることによって、酵素による基質から化学品への変換効率を高めることできる。
更に、突然変異や遺伝子組換えによって基質から化学品を生産する能力のある酵素に他の機能を付与させるように当該酵素をコードする遺伝子を改変してもよい。例えば、基質から化学品を生産する能力のある酵素を微生物の細胞の表層に露出・固定できるように改変した遺伝子を導入した微生物を用いることができる。例えば、リジンからL−リジン脱炭酸酵素によってカダベリンを生産する場合、特開2004―114号公報で開示されているL−リジン脱炭酸酵素が細胞表面に局在化した細胞を例示することができる。このようにすることにより、基質を微生物の細胞内に取り込み、酵素によって化学品に変換し、化学品を微生物の細胞外、すなわち反応液中に放出するステップを省略することができるため、高い効率で化学品を生産させることが可能となる。
本発明において、反応液に投入する微生物量は多い方が望ましい。投入する微生物量が多いと基質から化学品に変換する触媒量が増えることから、反応効率の高い化学品の製造が可能となる。一方、あまりに大量の微生物を投入した場合、反応液の混合効率の低下などの不具合を生じる場合があることから、反応効率と前記不具合を考慮して、投入する微生物量を決めることができる。例えば、リジンからカダベリンの生産に用いる微生物量としては、反応液中の微生物由来の濁度として、2〜300が好ましく、4〜100が好適である。微生物由来の濁度は、微生物を含む反応液の660nmにおける光学濃度を測定することにより評価する。
これらの微生物触媒を用いた本発明の化学品の製造方法により、高生産効率で化学品を生産することが可能となる。
本発明において、基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物を含む反応液を多孔性分離膜で濾過処理する際の膜間差圧は、微生物や培地成分が容易に目詰まりしない条件であればよいが、本発明では膜間差圧を0.1kPa以上150kPa以下の範囲にして濾過処理することが重要である。膜間差圧は、好ましくは0.1kPa以上20kPa以下の範囲であり、さらに好ましくは0.1kPa以上5kPa以下の範囲である。上記の膜間差圧の範囲を外れた場合、微生物および培地成分の目詰まりが急速に発生し、透過水量の低下を招き、連続運転に不具合を生じることがある。
濾過の駆動力としては、反応液と多孔性分離膜処理水の液位差(水頭差)を利用したサイホンにより多孔分離性膜に膜間差圧を発生させることができる。また、濾過の駆動力として多孔性分離膜処理水側に吸引ポンプを設置してもよいし、多孔性分離膜の反応液側に加圧ポンプを設置することも可能である。上記の範囲に膜間差圧を制御する手段としては、反応液と多孔性分離膜処理水の液位差を変化させることにより制御することができる、また、膜間差圧を発生させるためにポンプを使用する場合には、吸引圧力により膜間差圧を制御することができる。更に、反応液側の圧力を導入する気体または液体の圧力によっても膜間差圧を制御することができる。これら圧力制御を行う場合には、反応液側の圧力と多孔性分離膜処理水側の圧力差をもって膜間差圧とし、膜間差圧の制御に用いることができる。
本発明は、基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物を含む反応液を連続的に多孔性分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を反応液に保持または還流し、かつ、基質を反応液に連続的に追加しながら化学品を製造する。具体的には、化学品を製造するための反応装置に入った微生物を含む反応液を連続的に多孔性分離膜で濾過し、濾液を反応装置系外に取り出す。取り出された濾液と等量の基質を含む培地を連続的に反応液に追加しながら、連続的に化学品を製造する。この時、反応液の物理化学的条件の調節を行う必要がある場合には、調節するための薬液を反応液に投入することができる。例えば、反応液の物理化学的条件としてpHを調節する必要がある場合には、アルカリ性、あるいは酸性の薬液を投入することでpHを調節することができる。このようにすることにより、反応装置内の反応液の液量は一定に保たれた化学品の製造が実現できる。
次に、本発明の化学品の製造方法で好適に用いられる連続反応装置について説明する。本発明の化学品の製造方法で用いられる連続反応装置のうち、分離膜エレメントが、反応槽の外部に設置された代表的な一例を図1に示す。図1は、本発明で用いられる連続反応装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
図1に示す連続反応装置は、微生物触媒によって基質から化学品に変換する反応槽1と、該反応槽1に反応液循環手段(反応液循環ポンプ11)を介して接続され内部に反応液を濾過するための多孔性分離膜を有する分離膜エレメント2を備えた膜分離槽12と、差圧制御装置3で構成されている。
上記のように、膜分離槽12は、反応液循環ポンプ11を介して反応槽1に接続されており、また分離膜エレメント2には多孔性分離膜が組み込まれている。この多孔性分離膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することが好適である。分離膜エレメントについては、後で具体的に説明する。
図1において、培地供給ポンプ7によって培地を反応槽1に投入し、必要に応じて、攪拌機5で反応槽1内の反応液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を供給することができる。このとき、供給された気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4によって供給することができる。また、必要に応じて、pHセンサ制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって反応液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって反応液の温度を調節することにより、生産性の高い化学品の生産を行うことができる。
ここでは、計装・制御装置による反応液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度の調節を例示したが、必要に応じて、溶存酸素やORPの制御を行うことができ、更にはオンラインケミカルセンサーなどの分析装置により反応液中の微生物の濃度を測定し、それを指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入の形態に関しては、上記の計装・制御装置による反応液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節することができる。
さらに、装置内の反応液は、反応液循環ポンプ11によって反応槽1と膜分離槽12の間を循環する。生産物を含む反応液は、分離膜エレメント2によって微生物と生産物に濾過・分離され、装置系から取り出すことができる。
また、濾過・分離された微生物は、装置系内に留まることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い生産を可能としている。ここで、多孔性分離膜を備えた分離膜エレメント2による反応液の濾過・分離は、膜分離槽12の水面との水頭差圧によって行うことができ、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度および装置系内の反応液量を適当に調節することができる。
上記のように、分離膜エレメント2による濾過・分離は、水頭差圧によって行うことができるが、必要に応じて、ポンプによる吸引濾過あるいは気体・液体等で装置系内を加圧することにより濾過・分離することもできる。このような手段により、膜間差圧を制御することができる。
次に、本発明で用いられる連続反応装置のうち、分離膜エレメント2が反応槽1の内部に設置された代表的な一例を図2に示す。図2は、本発明で用いられる他の連続反応装置の一つの実施の形態を説明するための概略側面図である。
図2に示す連続反応装置は、微生物触媒によって基質から化学品に変換する反応槽1と、該反応槽1内に配設され反応液を濾過するための多孔性分離膜を有する分離膜エレメント2と、該分離膜エレメント2に接続され濾過された生産物を含む透過液を排出するための手段(後の図3に示す集水パイプ17)と、差圧制御装置3で構成されている。
この多孔性分離膜としては、例えば、国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを使用することができる。分離膜エレメントに関しては、追って詳述する。
次に、図2の連続反応装置による連続反応の形態について説明する。培地供給ポンプ7によって、培地を反応槽1内に連続的もしくは断続的に投入する。培地については、反応槽1内に投入する前に、必要に応じて加熱殺菌、加熱滅菌あるいはフィルターを用いた滅菌処理を行うことができる。生産時には、必要に応じて、反応槽1内の攪拌機5で反応槽1内の反応液を攪拌することができる。また必要に応じて、気体供給装置4によって必要とする気体を発酵反応槽1内に供給することができる。このとき、供給した気体を回収リサイクルして再び気体供給装置4に供給することができる。また必要に応じて、pHセンサ制御装置9およびpH調整溶液供給ポンプ8によって反応槽1内の反応液のpHを調整することができる。また必要に応じて、温度調節器10によって反応槽1内の反応液の温度を調節することにより生産性の高い生産を行うことができる。
ここでは、計装・制御装置による反応液の物理化学的条件の調節に、pHおよび温度の調節を例示したが、必要に応じて、溶存酸素やORPの制御を行うことができ、更にはオンラインケミカルセンサーなどの分析装置により反応液中の微生物の濃度を測定し、それを指標とした物理化学的条件の制御を行うことができる。また、培地の連続的もしくは断続的投入の形態に関しては、特に限定されるものではないが、上記の計装・制御装置による反応液の物理化学的環境の測定値を指標として、培地投入量および速度を適宜調節することができる。
反応液は、反応槽1内に設置された分離膜エレメント2によって、微生物と生産物に濾過・分離され連続発酵装置系から排出され取り出される。この排出の方法については下記に詳述する。
また、濾過・分離された微生物は、装置系内に留まることにより装置系内の微生物濃度を高く維持することができ、生産性の高い生産を可能としている。ここで、分離膜エレメント2による濾過・分離は、反応槽1の水面との水頭差圧によって行い、特別な動力を必要としない。また、必要に応じて、レベルセンサ6および差圧制御装置3によって、分離膜エレメント2の濾過・分離速度およびよび反応槽1内の反応液量を適当に調節することができる。上記の分離膜エレメント2による濾過・分離は、水頭差圧によって行うことを例示したが、必要に応じて、ポンプによる吸引濾過あるいは液体や気体等により装置系内を加圧することにより、濾過・分離することもできる。
すなわち、膜間差圧を制御するための手段として、反応液と多孔性分離膜処理水の液位差を制御する差圧制御装置3や、加圧ポンプまたは/および吸引ポンプを用いることができ、また、気体または液体の圧力によって膜間差圧を制御することができることから、長期間安定な生産が可能となる。
本発明の化学品の製造方法で用いられる分離膜エレメント2の好適な形態の例である国際公開第2002/064240号パンフレットに開示されている分離膜および分離膜エレメントを、以下、図面を用いてその概略を説明する。図3は、本発明で用いられる分離膜エレメントの一つの実施の形態を説明するための概略斜視図である。
分離膜エレメントは、図3に示すように、剛性を有する支持板13の両面に、流路材14と多孔性分離膜15とをこの順序で配し構成されている。支持板13は、両面に凹部16を有している。多孔性分離膜15は反応液を濾過する。流路材14は、多孔性分離膜15で濾過された透過水を効率よく支持板13に流すためのものである。支持板13に流れた生産物を含む透過液は、支持板13の凹部16を通り、排出手段である集水パイプ17を経て連続発酵装置外部に取り出される。ここで、上述の水頭差圧、ポンプ、液体や気体等による吸引濾過、あるいは装置系内を加圧するなどの方法を透過水を取り出すための動力として用いることができる。
本発明に従って連続反応を行った場合、従来のバッチ反応と比較して、高い体積生産速度が得られ、極めて効率のよい発酵生産が可能となる。ここで、連続反応における生産速度は、次の(式3)で計算される。
・生産速度(g/L/hr)=透過液中の生産物濃度(g/L)×反応液の透過速度速度(L/hr)÷装置の運転液量(L)・・・・(式3)。
また、バッチ反応での生産速度は、化学品の生産量(g)を、その化学品の生産量の生産に要した時間(h)とその時点の反応液量(L)で除して求められる。
以下、本発明の化学品の製造方法について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。本発明を説明するために、基質としてリジン塩(塩酸塩または硫酸塩)、化学品としてカダベリン塩(塩酸塩または硫酸塩)、酵素としてL−リジン脱炭酸酵素、微生物として大腸菌を選定して、本発明を具体的に説明する。基質であるリジン塩は、酵素であるL−リジン脱炭酸酵素によって脱炭酸されることで化学品であるカダベリン塩に変換される。また、該L−リジン脱炭酸酵素は、その補酵素としてピリドキサルリン酸を必要とし、培地にはピリドキサルリン酸を含有する。前記のL−リジン脱炭酸酵素活性を有する大腸菌は、微生物触媒として用いられる。微生物触媒とは、反応液中で増殖能力が抑制されている微生物であり、増殖能力が抑制されていることは、微生物の濁度が、反応液に投入した微生物量由来の濁度として増加していないことで確認した。
まず、L−リジン濃度およびカダベリン濃度の測定方法について説明する。濃度測定は、HPLCによって行った。カラムとして、CAPCELL PAK C18(資生堂社製)を用い、移動相として、0.1%(w/w)H3PO4とアセトニトリルを4.5:5.5で混合した溶液を用いた。UV検出器を用いて360nmで検出した。
サンプル前処理は、分析サンプル25μlに内標として0.03 M 1,4−ジアミノブタンを25μl、0.075 M 炭酸水素ナトリウムを150μlおよび0.2 M 2,4−ジニトロフルオロベンゼンのエタノール溶液を添加混合し37℃の温度で1時間保温する。上記の反応溶液50μlを1mlアセトニトリルに溶解後、10000rpmで5分間遠心した後の10μlをHPLC分析し、フリーのリジン、カダベリンを定量検出してそれぞれの塩濃度として評価した。
(参考例1)L−リジン脱炭酸酵素の細胞表層発現ベクターの作製
まず、リポプロテインの配列の一部および外膜結合タンパク質(OmpA)の46番目のアミノ酸から159番目のアミノ酸までの配列を一つのカセットとしてクローニングした。データベース(GenBank)に登録されている外膜結合タンパク質(ompA)(Accession No.NC−000913)の塩基配列を参考にオリゴヌクレオチド(配列番号:1)、オリゴヌクレオチド(配列番号:2)、およびオリゴヌクレオチド(配列番号:3)を合成した。エシェリシア コリ(Escherichia coli)K12株(ATCC10798)から常法に従い調製したゲノムDNA の溶液を増幅鋳型として、(配列番号:1)(配列番号:2)(配列番号:3)で表されるDNAをプライマーセットとしたPCR法を行った。このPCR法により得られた産物を2%アガロースにて電気泳動し、ompA遺伝子を含む約0.4kbのDNA断片を常法に従い調製した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV 部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM7と命名した。
まず、リポプロテインの配列の一部および外膜結合タンパク質(OmpA)の46番目のアミノ酸から159番目のアミノ酸までの配列を一つのカセットとしてクローニングした。データベース(GenBank)に登録されている外膜結合タンパク質(ompA)(Accession No.NC−000913)の塩基配列を参考にオリゴヌクレオチド(配列番号:1)、オリゴヌクレオチド(配列番号:2)、およびオリゴヌクレオチド(配列番号:3)を合成した。エシェリシア コリ(Escherichia coli)K12株(ATCC10798)から常法に従い調製したゲノムDNA の溶液を増幅鋳型として、(配列番号:1)(配列番号:2)(配列番号:3)で表されるDNAをプライマーセットとしたPCR法を行った。このPCR法により得られた産物を2%アガロースにて電気泳動し、ompA遺伝子を含む約0.4kbのDNA断片を常法に従い調製した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV 部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM7と命名した。
このpTM7をHindIII、およびSalIで消化し、得られた約0.4kbのHindIII−SalI断片を、予めHindIII、SalIで消化しておいたpUC19(宝酒造社製)のHindIII/SalI間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM14と命名した。
次に、エシェリシア コリ(Escherichia coli)K12株(ATCC10798)のL−リジン脱炭酸酵素遺伝子(cadA)(Accession No.M76411)の塩基配列を参考にオリゴヌクレオチド(配列番号:4)、およびオリゴヌクレオチド(配列番号:5)を合成した。E.coliK12 株(ATCC 10798)から常法に従い調製したゲノムDNAの溶液を増幅鋳型としてオリゴヌクレオチドプライマー(配列番号:4)および(配列番号:5)をプライマーセットとしたPCR法を行った。このPCR法により得られた産物を1%アガロースにて電気泳動し、cadA遺伝子を含む約2.1kbのDNA断片を常法に従い調製した。この断片を、プラスミドベクターpT7blue(Novagen社製)のEcoRV部位の3’−末端にT塩基が付加された間隙に、常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM15と命名した。これら調製したpTM15をSalI 及びSacIで消化し、得られた約2.1kbのSalI断片を、予めSalI、および、SacIで消化しておいたpTM14のSalI/SacI間隙に常法に従ったライゲーション反応により挿入し、得られたプラスミドをpTM16と命名した。
(参考例2)L−リジン脱炭酸酵素が細胞表面に局在化した大腸菌細胞の調製
このプラスミドpTM16を導入した大腸菌を培養することにより、L−リジン脱炭酸酵素が細胞表層に提示され、その大腸菌を回収するだけでL−リジン脱炭酸酵素を調製することができるようになる。作製したpTM16 をエシェリシア コリ(Escherichia coli)JM109株に導入した。導入後、組換え大腸菌の選択は抗生物質であるアンピシリン耐性を指標に行い、得られた形質転換体をJM109/pTM16と命名した。
このプラスミドpTM16を導入した大腸菌を培養することにより、L−リジン脱炭酸酵素が細胞表層に提示され、その大腸菌を回収するだけでL−リジン脱炭酸酵素を調製することができるようになる。作製したpTM16 をエシェリシア コリ(Escherichia coli)JM109株に導入した。導入後、組換え大腸菌の選択は抗生物質であるアンピシリン耐性を指標に行い、得られた形質転換体をJM109/pTM16と命名した。
次に、JM109/pTM16株で組み換えL−リジン脱炭酸酵素を産生させた。まず、JM109/pTM16株を、表1に示す大腸菌培養培地5mlに1白金耳植菌し、37℃の温度で24時間振とうして前培養を行った。
この前培養液を大腸菌培養培地50mlに全量植菌し、37℃の温度で3 時間振とう培養した後に1mM IPTG(isopropyl−1−thio−β−D−galactoside)添加し、更に4時間培養した。対照実験として、JM109株をpTM15で形質転換した形質転換体(以後、JM109/pTM15株とする。)を用い、同様の培養を行った。このようにして得られた菌体を集め、5mlのTBS緩衝液(宝酒造社製)で洗浄後、これらのL−リジン脱炭酸酵素活性の測定を単位時間当たりに生成するカダベリンの濃度を測定することにより行った。その結果、対照実験であるJM109/pTM15株に対して、JM109/pTM16株はL−リジン脱炭酸酵素活性は約100倍に上昇していることを確認し、リジンからカダベリンを生産する能力のあるL−リジン脱炭酸酵素活性を有する微生物として、下記の実施例に用いた。
(参考例3)多孔性分離膜の作製
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
樹脂としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)樹脂を、また溶媒としてN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)をそれぞれ用い、これらを90℃の温度下に十分に攪拌し、次の組成を有する原液を得た。
[原液]
・PVDF:13.0重量%
・DMAc:87.0重量%。
・PVDF:13.0重量%
・DMAc:87.0重量%。
次に、上記の原液を25℃の温度に冷却した後、あらかじめガラス板上に貼り付けて置いた、密度が0.48g/cm3で厚みが220μmのポリエステル繊維製不織布(多孔質基材)に塗布し、直ちに次の組成を有する25℃の温度の凝固浴中に5分間浸漬して、多孔質基材に多孔質樹脂層が形成された多孔性分離膜を得た。
[凝固浴]
・水 :30.0重量%
・DMAc:70.0重量%。
・水 :30.0重量%
・DMAc:70.0重量%。
この多孔性分離膜をガラス板から剥がした後、80℃の温度の熱水に3回浸漬してDMAcを洗い出し、多孔性分離膜を得た。多孔質樹脂層表面の9.2μm×10.4μmの範囲内を、倍率10,000倍で走査型電子顕微鏡観察を行ったところ、観察できる細孔すべての直径の平均は0.1μmであった。次に、上記の多孔性分離膜について純水透水透過係数を評価したところ、50×10-9m3/m2/s/Paであった。純水透水量の測定は、逆浸透膜による25℃の温度の精製水を用い、ヘッド高さ1mで行った。また、平均細孔径の標準偏差 は0.035μmで、膜表面粗さは0.06μmであった。
(実施例1)連続反応による化学品の製造(その1)
上記の参考例2で作製したJM109/pTM16株を用いて、図1の連続反応装置とL−リジン一塩酸塩(和光純薬製)を表2に示す組成のカダベリン生産培地によって、カダベリンの製造を行った。分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜には上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、次のとおりである。
・反応槽容量:2(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:60平方cm
・温度調整:30(℃)
・反応槽通気量:1(L/min)
・膜分離槽通気量:0.5(L/min)
・反応槽攪拌速度:600(rpm)
・pH調整:3N 塩酸によりpH6.5に調整
・カダベリン生産培地供給速度:50〜300ml/hrの範囲で可変制御
・発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続生産開始後〜60時間:0.1kPa以上150kPa以下で制御
60時間〜120時間:0.1Pa以上5kPa以下で制御
120時間〜180時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)
カダベリンおよびL−リジンの濃度の評価には、HPLCを用いた。
上記の参考例2で作製したJM109/pTM16株を用いて、図1の連続反応装置とL−リジン一塩酸塩(和光純薬製)を表2に示す組成のカダベリン生産培地によって、カダベリンの製造を行った。分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜には上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、次のとおりである。
・反応槽容量:2(L)
・膜分離槽容量:0.5(L)
・使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:60平方cm
・温度調整:30(℃)
・反応槽通気量:1(L/min)
・膜分離槽通気量:0.5(L/min)
・反応槽攪拌速度:600(rpm)
・pH調整:3N 塩酸によりpH6.5に調整
・カダベリン生産培地供給速度:50〜300ml/hrの範囲で可変制御
・発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続生産開始後〜60時間:0.1kPa以上150kPa以下で制御
60時間〜120時間:0.1Pa以上5kPa以下で制御
120時間〜180時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)
カダベリンおよびL−リジンの濃度の評価には、HPLCを用いた。
JM109/pTM16株を、2本の500ml容坂口フラスコの50mlの大腸菌培養培地に植菌し、24時間、37℃の温度で振とう培養した(前培養)。前培養液を2本の2L容坂口フラスコの500mlの大腸菌培地にそれぞれ植菌し、3時間、37℃の温度で培養し、1mMIPTG(終濃度)添加して、4時間、30℃の温度で培養した(本培養)。本培養液の濁度は、600nm光の吸光度として8であった。得られた本培養液を6000G、4分間の遠心分離を行い、JM109/pTM16株を回収した。回収したJM109/pTM16株を100mlのカダベリン生産培地に再懸濁して、その再懸濁液を図1の連続発酵装置の1.9Lのカダベリン生産培地に投入して、連続反応を開始した。連続反応開始時の反応液の濁度は4であった。連続反応試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧制御装置3により膜間差圧を測定し、上記の膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、透過液中の生産されたカダベリン塩酸塩およびL−リジン塩酸塩の濃度を測定した。生産されたカダベリン塩酸塩および投入L−リジン塩酸塩から算出された投入リジン量、生成カダベリン量、ならびにカダベリン生産速度を、表3に示した。連続反応終了時の反応液の濁度は2.9であったことから、JM109/pTM16株が連続反応中に増殖能力が抑制されている微生物触媒であることを確認することができた。
(実施例2)連続反応による化学品の製造(その2)
上記の参考例2で作製したJM109/pTM16株を用いて、図2の連続反応装置と表2に示す組成のカダベリン生産培地によってカダベリンの製造を行った。分離膜エレメント部材としては、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。実施例2における運転条件は、特に断らない限り、次のとおりである。
・反応槽容量:2(L)
・使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:30(℃)
・反応槽通気量:1(L/min)
・反応槽攪拌速度:600(rpm)
・pH調整:3N 塩酸によりpH6.5に調整
・カダベリン生産培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
・発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続生産開始後〜60時間:0.1kPa以上150kPa以下で制御
60時間〜120時間:0.1Pa以上5kPa以下で制御
120時間〜180時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)
カダベリンおよびL−リジンの濃度の評価には、HPLCを用いた。
上記の参考例2で作製したJM109/pTM16株を用いて、図2の連続反応装置と表2に示す組成のカダベリン生産培地によってカダベリンの製造を行った。分離膜エレメント部材としては、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。実施例2における運転条件は、特に断らない限り、次のとおりである。
・反応槽容量:2(L)
・使用分離膜:ポリフッ化ビニリデン濾過膜
・膜分離エレメント有効濾過面積:120平方cm
・温度調整:30(℃)
・反応槽通気量:1(L/min)
・反応槽攪拌速度:600(rpm)
・pH調整:3N 塩酸によりpH6.5に調整
・カダベリン生産培地供給速度:50〜300ml/hr.の範囲で可変制御
・発酵液循環装置による循環液量:0.1(L/min)
・膜透過水量制御:膜間差圧による流量制御
(連続生産開始後〜60時間:0.1kPa以上150kPa以下で制御
60時間〜120時間:0.1Pa以上5kPa以下で制御
120時間〜180時間:0.1kPa以上20kPa以下で制御)
カダベリンおよびL−リジンの濃度の評価には、HPLCを用いた。
まず、JM109/pTM16株を2本の500ml容坂口フラスコの50mlの大腸菌培養培地に植菌し、24時間、37℃の温度で振とう培養した(前培養)。前培養液を2本の2L容坂口フラスコの500mlの大腸菌培地にそれぞれ植菌し、3時間、37℃の温度で培養し、1mMIPTG(終濃度)添加して、4時間、30℃の温度で培養した(本培養)。本培養液の濁度は、600nm光の吸光度として8であった。得られた本培養液のうち750mlを6000G、4分間の遠心分離を行い、JM109/pTM16株を回収した。回収したJM109/pTM16株を100mlのカダベリン生産培地に再懸濁して、その再懸濁液を図2の連続発酵装置の1.4Lのカダベリン生産培地に投入して、連続反応を開始した。連続反応開始時の反応液の濁度は4であった。連続反応試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧制御装置3により膜間差圧を測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、透過液中の生産されたカダベリン、およびL−リジン濃度を測定した。適宜、透過液中の生産されたカダベリン塩酸塩およびL−リジン塩酸塩の濃度を測定した。生産されたカダベリン塩酸塩および投入L−リジン塩酸塩から算出された投入リジン量、生成カダベリン量、ならびにカダベリン生産速度を、表3に示した。連続反応終了時の反応液の濁度は2.9であったことから、JM109/pTM16株が連続反応中に増殖能力が抑制されている微生物触媒であることを確認することができた。
(比較例1)固定化微生物による化学品の製造(その1)
本発明の比較として、微生物触媒を用いた化学品製造方法として典型的な固定化微生物を用いたバッチ式の化学品の製造を行った。基質としてリジン塩酸塩、化学品としてカダベリン、酵素としてL−リジン脱炭酸酵素、微生物として大腸菌を選定して実施した。基質であるリジン塩酸塩は、酵素であるL−リジン脱炭酸酵素によってリジンが脱炭酸されることにより、化学品であるカダベリン塩酸塩に変換される。
本発明の比較として、微生物触媒を用いた化学品製造方法として典型的な固定化微生物を用いたバッチ式の化学品の製造を行った。基質としてリジン塩酸塩、化学品としてカダベリン、酵素としてL−リジン脱炭酸酵素、微生物として大腸菌を選定して実施した。基質であるリジン塩酸塩は、酵素であるL−リジン脱炭酸酵素によってリジンが脱炭酸されることにより、化学品であるカダベリン塩酸塩に変換される。
まず、固定化大腸菌の作成を行った。JM109/pTM16の培養は、次のように行った。まず、これらの菌株を表1に示す大腸菌培養培地5mlに1白金耳植菌し、37℃の温度で16時間振とうして前培養を行った。次に、500ml容の坂口フラスコの大腸菌培養培地50mlに、前培養した上記菌株を植継ぎ、37℃の温度で3時間培養した後に、終濃度として1mM IPTG添加し、更に4 時間培養した。培養液の濁度は、600nm光の吸光度として8であった。回収した菌体は生理食塩水で洗浄して下記のゲル化固定に用いた。2%κ−カラギーナン(和光純薬社製)水溶液8mlを100℃の温度で加熱し、完全に溶解させた後冷却し、ゲル温度が大腸菌の生存限界である42℃以下まで下がり、ゲル化が始まる直前に前記えられた濃縮菌体懸濁液2.6mlを添加、攪拌し、2%KCl溶液中に滴下してビーズ状の固定化細胞を作製した。調製した固定化JM109/pTM16株は、生理食塩水で洗浄した後下記の反応に用いた。
固定化JM109/pTM16株を、表2に示すカダベリン生産培地100mlに加え37℃の温度で緩やかに撹拌して24時間反応させた。24時間経過時の生産されたカダベリンおよびL−リジン濃度を測定した。ついで、固定化JM109/pTM16株を回収して、新鮮なカダベリン生産培地100mlに加えて、同様の反応を行った。これら反応を6回繰り返してカダベリンの生産試験を行った。都合144時間の反応で生産されたカダベリン塩酸塩および投入L−リジン塩酸塩から算出された投入リジン量、生成カダベリン量、ならびにカダベリン生産速度を、表3に示した。
(実施例3)リジン硫酸塩の調整
L−リジン一塩酸塩(純正化学製)280gを脱イオン水2000gに溶解し、1規定塩酸(和光純薬製)によりpH3.0に調整した。この溶液をNH4 +型に変換した陽イオン交換樹脂(DIAIONSK−1B、三菱化学製)を充填したカラムに流し、陽イオン交換樹脂に吸着させた。次いで、脱イオン水をカラムに流して洗浄し、2規定アンモニア水(和光純薬製)を流し、リジンを溶離した。次いで、得られたリジン水溶液をロータリーエバポレーターにより60%濃度になるまで減圧濃縮(100mmHg)した。次いで、得られた60%リジン溶液に1規定硫酸(和光純薬製)をpH6になるまでゆっくりと添加した。得られたリジン硫酸塩水溶液を50℃から10℃まで5℃/hで徐冷し、リジン硫酸塩結晶を析出させた。析出した結晶を定性濾紙No2(アドバンテック製)で濾別後、凍結乾燥させてリジン硫酸塩結晶250gを得た。得られたリジン硫酸塩結晶10gを脱イオン水1000gに溶解し、HPLC法によりリジン含有量を測定したところ、7.2gであった。得られたリジン硫酸塩を実施例4、実施例5の基質として用いた。
L−リジン一塩酸塩(純正化学製)280gを脱イオン水2000gに溶解し、1規定塩酸(和光純薬製)によりpH3.0に調整した。この溶液をNH4 +型に変換した陽イオン交換樹脂(DIAIONSK−1B、三菱化学製)を充填したカラムに流し、陽イオン交換樹脂に吸着させた。次いで、脱イオン水をカラムに流して洗浄し、2規定アンモニア水(和光純薬製)を流し、リジンを溶離した。次いで、得られたリジン水溶液をロータリーエバポレーターにより60%濃度になるまで減圧濃縮(100mmHg)した。次いで、得られた60%リジン溶液に1規定硫酸(和光純薬製)をpH6になるまでゆっくりと添加した。得られたリジン硫酸塩水溶液を50℃から10℃まで5℃/hで徐冷し、リジン硫酸塩結晶を析出させた。析出した結晶を定性濾紙No2(アドバンテック製)で濾別後、凍結乾燥させてリジン硫酸塩結晶250gを得た。得られたリジン硫酸塩結晶10gを脱イオン水1000gに溶解し、HPLC法によりリジン含有量を測定したところ、7.2gであった。得られたリジン硫酸塩を実施例4、実施例5の基質として用いた。
(実施例4)連続反応による化学品の製造(その3)
上記の参考例2で作製したJM109/pTM16株を用いて、図1の連続反応装置と表4に示す組成のカダベリン生産培地2によって、カダベリンの製造を行った。分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜には上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。実施例4における運転条件は、特に断らない限り、実施例1と同様に行った。また、カダベリンおよびL−リジンの濃度の評価には、HPLCを用いた。
上記の参考例2で作製したJM109/pTM16株を用いて、図1の連続反応装置と表4に示す組成のカダベリン生産培地2によって、カダベリンの製造を行った。分離膜エレメント部材には、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜には上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。実施例4における運転条件は、特に断らない限り、実施例1と同様に行った。また、カダベリンおよびL−リジンの濃度の評価には、HPLCを用いた。
JM109/pTM16株を実施例1と同様に培養、遠心分離により回収した。回収したJM109/pTM16株を100mlのカダベリン生産培地2に再懸濁して、その再懸濁液を図1の連続発酵装置の1.9Lのカダベリン生産培地2に投入して、連続反応を開始した。連続反応開始時の反応液の濁度は4であった。連続反応試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧制御装置3により膜間差圧を測定し、上記の膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、透過液中の生産されたカダベリンおよびL−リジン濃度を測定した。生産されたカダベリン硫酸塩および投入L−リジン硫酸塩から算出された投入リジン量、生成カダベリン量、ならびにカダベリン生産速度を、表5に示した。連続反応終了時の反応液の濁度は3であったことから、JM109/pTM16株が連続反応中に増殖能力が抑制されている微生物触媒であることを確認することができた。
(実施例5)連続反応による化学品の製造(その4)(リジン硫酸塩)
上記の参考例2で作製したJM109/pTM16株を用いて、図2の連続反応装置と表4に示す組成のカダベリン生産培地2によってカダベリンの製造を行った。分離膜エレメント部材としては、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、実施例2と同様に行った。また、カダベリンおよびL−リジンの濃度の評価には、HPLCを用いた。
上記の参考例2で作製したJM109/pTM16株を用いて、図2の連続反応装置と表4に示す組成のカダベリン生産培地2によってカダベリンの製造を行った。分離膜エレメント部材としては、ステンレスおよびポリサルホン樹脂の成型品を用いた。分離膜としては上記の参考例3で作製した多孔性分離膜を用いた。実施例1における運転条件は、特に断らない限り、実施例2と同様に行った。また、カダベリンおよびL−リジンの濃度の評価には、HPLCを用いた。
JM109/pTM16株を実施例2と同様に培養、遠心分離により回収した。回収したJM109/pTM16株を100mlのカダベリン生産培地に再懸濁して、その再懸濁液を図2の連続発酵装置の1.4Lのカダベリン生産培地に投入して、連続反応を開始した。連続反応開始時の反応液の濁度は4であった。連続反応試験を行うときの膜透過水量の制御は、差圧制御装置3により膜間差圧を測定し、上記膜透過水量制御条件で変化させることで行った。適宜、透過液中の生産されたカダベリン硫酸塩、およびL−リジン硫酸塩の濃度を測定した。生産されたカダベリン硫酸塩および投入L−リジン硫酸塩から算出された投入リジン量、生成カダベリン量、ならびにカダベリン生産速度を表5に示した。連続反応終了時の反応液の濁度は3.1であったことから、JM109/pTM16株が連続反応中に増殖能力が抑制されている微生物触媒であることを確認することができた。
(比較例2)固定化微生物による化学品の製造(その2)(リジン硫酸塩)
本発明の比較として、微生物触媒を用いた化学品製造方法として典型的な固定化微生物を用いたバッチ式の化学品の製造を行った。基質としてリジン硫酸塩、化学品としてカダベリン、酵素としてL−リジン脱炭酸酵素、微生物として大腸菌を選定して実施した。基質であるリジン硫酸塩は、酵素であるL−リジン脱炭酸酵素によってリジンが脱炭酸されることにより、化学品であるカダベリン硫酸塩に変換される。
本発明の比較として、微生物触媒を用いた化学品製造方法として典型的な固定化微生物を用いたバッチ式の化学品の製造を行った。基質としてリジン硫酸塩、化学品としてカダベリン、酵素としてL−リジン脱炭酸酵素、微生物として大腸菌を選定して実施した。基質であるリジン硫酸塩は、酵素であるL−リジン脱炭酸酵素によってリジンが脱炭酸されることにより、化学品であるカダベリン硫酸塩に変換される。
まず、固定化大腸菌の作成を行った。作製は比較例1と同様に行った。固定化JM109/pTM16株を、表4に示すカダベリン生産培地2100mlに加え37℃の温度で緩やかに撹拌して24時間反応させた。24時間経過時の生産されたカダベリンおよびL−リジン濃度を測定した。ついで、固定化JM109/pTM16株を回収して、新鮮なカダベリン生産培地2を100mlに加えて、同様の反応を行った。これら反応を6回繰り返してカダベリンの生産試験を行った。都合144時間の反応で生産されたカダベリン硫酸塩および投入L−リジン硫酸塩から算出された投入リジン量、生成カダベリン量、ならびにカダベリン生産速度を、表5に示した。
これらを比較した結果、図1および図2連続反応装置を用いることにより、化学品の生産速度が大幅に向上することを明らかにすることができた。本発明によって開示された多孔性分離膜を組み込んだ連続反応装置を用い、膜間差圧を制御することにより、反応液を多孔性分離膜によって濾液と未濾過液に分離し、濾液から所望の生産物を回収するとともに、未濾過液を反応液に戻す連続反応を可能とし、増殖能力が抑制された微生物である微生物触媒を用いた化学品の製造が可能であることが明らかとなった。また、反応濾液をナノフィルターに通じることによって効率よく化学品が分離精製できることができた。
本発明の化学品の製造方法は、簡便な操作条件で、長時間にわたり安定して所望の生産物の高生産性を維持した化学品の連続的な製造が可能であり、低コストで安定した化学品を生産することが可能である。
1 反応槽
2 分離膜エレメント
3 水頭差制御装置
4 気体供給装置
5 攪拌機
6 レベルセンサ
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ制御装置
10 温度調節器
11 反応液循環ポンプ
12 膜分離槽
13 支持板
14 流路材
15 多孔性分離膜
16 凹部
17 集水パイプ
2 分離膜エレメント
3 水頭差制御装置
4 気体供給装置
5 攪拌機
6 レベルセンサ
7 培地供給ポンプ
8 pH調整溶液供給ポンプ
9 pHセンサ制御装置
10 温度調節器
11 反応液循環ポンプ
12 膜分離槽
13 支持板
14 流路材
15 多孔性分離膜
16 凹部
17 集水パイプ
Claims (12)
- 微生物触媒を用いて基質から化学品を製造する方法であって、基質から化学品を生産する能力のある酵素活性を有する微生物を含む反応液を連続的に分離膜で濾過し、濾液から生産物を回収するとともに未濾過液を反応液に保持または還流し、かつ、基質を反応液に連続的に追加し、分離膜として平均細孔径が0.01μm以上5μm未満の細孔を有する多孔性分離膜を用い、その膜間差圧を0.1から150kPaの範囲にして濾過処理することを特徴とする化学品の製造方法。
- 多孔性分離膜の純水透過係数が、2×10-9m3/m2/s/pa以上6×10-7m3/m2/s/pa以下であることを特徴とする請求項1に記載の化学品の製造方法。
- 多孔性分離膜の細孔の平均細孔径が0.01μm以上0.2μm未満であり、かつ、該平均細孔径の標準偏差が0.1μm以下である請求項1または2記載の化学品の製造方法。
- 多孔性分離膜の膜表面粗さが0.1μm以下である請求項1〜3のいずれかに記載の化学品の製造方法。
- 多孔性分離膜が多孔質樹脂層を含む分離膜である請求項1〜4のいずれかに記載の化学品の製造方法。
- 多孔質樹脂層が有機高分子膜である請求項5記載の化学品の製造方法。
- 有機高分子膜の素材がポリフッ化ビニリデン系樹脂である請求項6記載の化学品の製造方法。
- 基質がリジンであり、化学品がカダベリンである請求項1〜7のいずれかに記載の化学品の製造方法。
- 基質がリジン塩であり、化学品がカダベリン塩である請求項1〜7のいずれかに記載の化学品の製造方法。
- 基質がリジンジカルボン酸塩であり、化学品がカダベリンジカルボン酸塩である請求項1〜7のいずれかに記載の化学品の製造方法。
- 酵素がL−リジン脱炭酸酵素である請求項1〜10のいずれかに記載の化学品の製造方法。
- 微生物が大腸菌である請求項1〜11のいずれかに記載の化学品の製造方法。
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