この発明は、タイヤの騒音性能を向上できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるベルトカバー層とを備える空気入りタイヤであって、前記ベルトカバー層が、トレッド部センター領域に配置されるセンターカバー層と、一方のトレッド部ショルダー領域に配置される第一ショルダーカバー層と、他方のトレッド部ショルダー領域に配置される第二ショルダーカバー層とを有し、前記センターカバー層の弾性率Ec0と、前記第一ショルダーカバー層の弾性率Ec1と、前記第二ショルダーカバー層の弾性率Ec2とがEc0<Ec1かつEc0<Ec2の関係を有し、且つ、前記第一ショルダーカバー層の剛性Gc1と、前記第二ショルダーカバー層の剛性Gc2とが相異することを特徴とする。
この空気入りタイヤでは、第一ショルダーカバー層の剛性Gc1と第二ショルダーカバー層の剛性Gc2とがタイヤ左右で相異するので、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる(固有振動数がタイヤ左右で相異する)。このため、タイヤ転動時にて、断面二次共振の発生が抑制されて、伝達率が低減される。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズがさらに低減されて、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるベルトカバー層とを備える空気入りタイヤであって、前記ベルトカバー層が、トレッド部センター領域に配置されるセンターカバー層と、一方のトレッド部ショルダー領域に配置される第一ショルダーカバー層と、他方のトレッド部ショルダー領域に配置される第二ショルダーカバー層とを有し、前記センターカバー層の弾性率Ec0と、前記第一ショルダーカバー層の弾性率Ec1と、前記第二ショルダーカバー層の弾性率Ec2とがEc0<Ec1かつEc0<Ec2の関係を有し、且つ、前記第一ショルダーカバー層と前記第二ショルダーカバー層とがトレッド部センターラインCLを中心として非対称な形状あるいは構造を有することを特徴とする。
この空気入りタイヤでは、第一ショルダーカバー層と第二ショルダーカバー層とがトレッド部センターラインCLを中心として非対称な形状あるいは構造を有するので、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズがさらに低減されて、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、カーカス層のタイヤ径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層のタイヤ径方向外側に配置されるベルトカバー層とを備える空気入りタイヤであって、前記ベルトカバー層が、トレッド部センター領域に配置されるセンターカバー層と、一方のトレッド部ショルダー領域に配置される第一ショルダーカバー層と、他方のトレッド部ショルダー領域に配置される第二ショルダーカバー層とを有し、前記センターカバー層の弾性率Ec0と、前記第一ショルダーカバー層の弾性率Ec1と、前記第二ショルダーカバー層の弾性率Ec2とがEc0<Ec1かつEc0<Ec2の関係を有し、且つ、前記第一ショルダーカバー層と前記第二ショルダーカバー層とがトレッド部センターラインCLを中心として非対称な配置構成を有することを特徴とする。
この空気入りタイヤでは、第一ショルダーカバー層と第二ショルダーカバー層とがトレッド部センターラインCLを中心として非対称な配置構成を有するので、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズがさらに低減されて、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層の剛性Gc1が2.0×104[N]≦Gc1≦3.0×105[N]の範囲内にあり、且つ、前記第二ショルダーカバー層の剛性Gc2が2.0×104[N]≦Gc2≦3.0×105[N]の範囲内にある。
この空気入りタイヤでは、第一ショルダーカバー層の剛性Gc1および第二ショルダーカバー層の剛性Gc2の範囲(上限値および下限値)が適正化される。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、ベルト層端部におけるトレッドゴムのセパレーションが低減されて、タイヤの耐久性能が向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層の剛性Gc1と前記第二ショルダーカバー層の剛性Gc2とが1.2≦Gc2/Gc1≦3.0の関係を有する。
この空気入りタイヤでは、第一ショルダーカバー層の剛性Gc1と第二ショルダーカバー層の剛性Gc2との比Gc2/Gc1が適正化されるので、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、タイヤのユニフォミティが適正に維持される利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層の幅Wc1と前記第二ショルダーカバー層の幅Wc2とがWc1<Wc2の関係を有する。
この空気入りタイヤでは、第一ショルダーカバー層の幅Wc1と第二ショルダーカバー層の幅Wc2とが相異する(非対称である)ことにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層の幅Wc1と前記第二ショルダーカバー層の幅Wc2とが1.2≦Wc2/Wc1≦3.0の関係を有する。
この空気入りタイヤでは、各ショルダーカバー層の幅Wc1、Wc2の比Wc2/Wc1が調整されることにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤの騒音性能が向上する利点があり、また、タイヤのユニフォミティが適正に維持される利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、トレッド部センターラインCLから前記第一ショルダーカバー層のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc1と、トレッド部センターラインCLから前記第二ショルダーカバー層のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc2とが相異する。
この空気入りタイヤでは、トレッド部センターラインCLから各ショルダーカバー層の端部までの距離Xc1、Xc2(各ショルダーカバー層の配置)が相異することにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層の端部の距離Xc1と前記第二ショルダーカバー層の端部の距離Xc2とが1.2≦Xc1/Xc2≦1.7あるいは1.2≦Xc2/Xc1≦1.7の関係を有する。
この空気入りタイヤでは、第一ショルダーカバー層と第二ショルダーカバー層との相対的な位置関係が適正化されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、タイヤの加硫故障やトレッドゴムのセパレーションの発生が低減されて、タイヤの耐久性能が向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層の伸張率が前記第二ショルダーカバー層の伸張率よりも大きい。
この空気入りタイヤでは、各ショルダーカバー層の伸張率が相異することにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層を構成するコード材のエンド数Enc1と前記第二ショルダーカバー層を構成するコード材のエンド数Enc2とが1.2≦Enc2/Enc1≦3.0の関係を有する。
この空気入りタイヤでは、各ショルダーカバー層のコード材のエンド数Enc1、Enc2の比Enc2/Enc1が適正化されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、トレッドゴムのセパレーションの発生が低減されて、タイヤの耐久性能が向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記センターカバー層を構成するコード材の2.0[cN/dtex]負荷時の伸張率が5.0[%]以上10.0[%]未満の範囲内にあり、且つ、前記第一ショルダーカバー層を構成するコード材および前記第二ショルダーカバー層を構成するコード材の2.0[cN/dtex]負荷時の伸張率が1.5[%]以上5.0[%]未満の範囲内にある。
この空気入りタイヤでは、センターカバー層および各ショルダーカバー層の伸張率が適正化されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減される。これにより、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記センターカバー層を構成するコード材がナイロン繊維により構成され、且つ、前記第一ショルダーカバー層を構成するコード材および前記第二ショルダーカバー層を構成するコード材がポリエステル繊維、ポリケトン繊維、リヨセル繊維、アラミド繊維、アラミド繊維とナイロン繊維とを撚り合わせて成る複合繊維、もしくは、ポリケトン繊維とナイロン繊維とを撚り合わせて成る複合繊維により構成される。
この空気入りタイヤでは、高い弾性率を有するコード材から成るショルダーカバー層がトレッド部ショルダー領域に配置されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、トレッド部ショルダー領域には、ナイロン繊維材から成るセンターカバー層が配置されるので、高い弾性率を有するコード材から成るカバー層がトレッド部全域に配置される構成と比較して、材料費が低減される利点があり、また、カバー層の加工が容易となる利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層および前記第二ショルダーカバー層が前記センターカバー層よりもタイヤ径方向外側に配置される。
この空気入りタイヤでは、ショルダーカバー層とベルト層との間にセンターカバー層が挟み込まれて配置されるので、タイヤ加硫時にてストリップ材に張力が働いたときに、ベルトコードとカバーコードとの間にあるコートゴム層の肉厚が確保される。これにより、タイヤの耐ベルトエッジセパレーション性能が確保される利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、前記第一ショルダーカバー層の幅Wc1と前記第二ショルダーカバー層の幅Wc2とが前記ベルト層の最大幅Wbに対して0.02≦Wc1/Wbかつ0.02≦Wc2/Wbの関係を有する。
この空気入りタイヤでは、各ショルダーカバー層の幅Wc1、Wc2とベルト層の最大幅Wbとの比Wc1/Wb、Wc2/Wbが適正化されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
また、この発明にかかる空気入りタイヤでは、トレッド部センターラインCLから前記ベルト層の最大幅位置までの距離Xbと、トレッド部センターラインCLから前記第一ショルダーカバー層のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc1と、トレッド部センターラインCLから前記第二ショルダーカバー層のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc2とが0.7≦Xc1/Xb≦1.2かつ0.7≦Xc2/Xb≦1.2の関係を有する。
この空気入りタイヤでは、ベルト層と第一ショルダーカバー層および第二ショルダーカバー層との位置関係が適正化されるので、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。また、タイヤのユニフォミティが適性に維持される利点がある。
この発明にかかる空気入りタイヤでは、第一ショルダーカバー層の剛性Gc1と第二ショルダーカバー層の剛性Gc2とがタイヤ左右で相異するので、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる(固有振動数がタイヤ左右で相異する)。このため、タイヤ転動時にて、断面二次共振の発生が抑制されて、伝達率が低減される。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズがさらに低減されて、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。
図1は、この発明の実施例にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。図2および図3は、図1に記載した空気入りタイヤのベルト補強層を示す平面図(図2)および断面図(図3)である。図4および図5は、図1に記載した空気入りタイヤの作用を示す説明図である。図6〜図11は、図1に記載した空気入りタイヤの変形例を示す説明図である。図12〜図22は、この発明の実施例にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
[空気入りタイヤ]
この空気入りタイヤ1は、ビードコア2と、ビードフィラー3と、カーカス層4と、ベルト層5と、トレッドゴム6と、サイドウォールゴム7とを含んで構成される(図1参照)。ビードコア2は、環状構造を有し、左右一対を一組として構成される。ビードフィラー3は、ビードコア2のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのビード部を補強する。カーカス層4は、左右のビードコア2、2間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層4の両端部は、ビードフィラー3を包み込むようにタイヤ幅方向外側に折り返されて係止される。ベルト層5は、積層された複数のベルト材51、52から成り、カーカス層4のタイヤ径方向外周に配置される。例えば、この実施例では、ベルト層5が積層された一対のベルト材51、52により構成されている。各ベルト材51、52は、複数の有機繊維コードが配列されて成る圧延部材であり、その繊維方向を相互に交差させつつ積層されている(クロスプライ構造)。これにより、ベルト層5の構造上の強度が高められている。トレッドゴム6は、カーカス層4およびベルト層5のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。サイドウォールゴム7は、ビードフィラー3およびカーカス層4のタイヤ幅方向外側に配置されてタイヤのサイドウォール部を構成する。
[ベルトカバー層]
また、この空気入りタイヤ1は、ベルトカバー層(ベルト補強層)81〜83を有する(図1〜図3参照)。このベルトカバー層81〜83は、ベルト層5のタイヤ径方向外側に配置されてベルト層5を補強する。また、ベルトカバー層81〜83は、トレッド部センター領域に配置されるセンターカバー層81と、一方のトレッド部ショルダー領域に配置される第一ショルダーカバー層82と、他方のトレッド部ショルダー領域に配置される第二ショルダーカバー層83とを含んで構成される。
また、センターカバー層81の弾性率Ec0と、第一ショルダーカバー層82の弾性率Ec1と、第二ショルダーカバー層83の弾性率Ec2とがEc0<Ec1かつEc0<Ec2の関係を有する。すなわち、各ショルダーカバー層82、83の弾性率Ec1、Ec2がセンターカバー層81の弾性率Ec0よりも大きい。
また、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称に構成される(固有振動数がタイヤ左右で相異する)。かかる構成としては、例えば、(1)第一ショルダーカバー層82の形状と第二ショルダーカバー層83の形状とが同一であり、且つ、第一ショルダーカバー層82のコード本数あるいは伸張率と第二ショルダーカバー層83のコード本数あるいは伸張率とが相異することにより、第一ショルダーカバー層82の剛性と第二ショルダーカバー層83の剛性とが非対称である構成(図8参照)、(2)第一ショルダーカバー層82の形状あるいは構造と第二ショルダーカバー層83の形状あるいは構造とがトレッド部センターラインCLに対して非対称であることにより、第一ショルダーカバー層82の剛性と第二ショルダーカバー層83の剛性とが非対称である構成(図2参照)、(3)第一ショルダーカバー層82の配置位置と第二ショルダーカバー層83の配置位置とがトレッド部センターラインCLに対して非対称である構成(図6参照)などが含まれる。これらの構成については、後述する。
例えば、この実施例では、ベルトカバー層81〜83がセンターカバー層81、第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83により構成されている(図1〜図3参照)。そして、これらのカバー層81〜83がベルト層5に対してタイヤ径方向外側から巻き付けられて配置されている。具体的には、これらのカバー層81〜83がストリップ材によりそれぞれ構成されている。また、これらのストリップ材がゴム引きされた複数のコード材(有機繊維コード)により構成されている。そして、ストリップ材がベルト層5に対してタイヤ周方向に複数回かつ螺旋状に巻き付けられることにより、カバー層81〜83が構成されている(ジョイントレス構造)。かかる構成では、ベルトカバー層81〜83のスプライス成分が低減されて、タイヤのユニフォミティが高められる。
また、センターカバー層81がトレッド部の略全域(センター領域およびショルダー領域)に渡って配置されている(図1参照)。また、第一ショルダーカバー層82がタイヤ装着時にて車幅方向内側(IN側)のショルダー領域に配置されており、また、第二ショルダーカバー層83がタイヤ装着時にて車幅方向外側(OUT側)のショルダー領域に配置されている。また、第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83がセンターカバー層81の上から巻き付けられて配置されている。
また、センターカバー層81の弾性率Ec0と、第一ショルダーカバー層82の弾性率Ec1と、第二ショルダーカバー層83の弾性率Ec2とがEc0<Ec1かつEc0<Ec2の関係を有している。具体的には、センターカバー層81が低弾性材から成るコード材により構成されており、また、第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83が高弾性材から成るコード材により構成されている。なお、各ベルトカバー層81〜83の弾性率Ec0、Ec1、Ec2は、10[N]から67[N]の引張荷重が付加されたときの数値により規定される。
また、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1と、第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2とがGc1<Gc2の関係を有している。すなわち、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1が第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2よりも高い。これにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で(トレッド部センターラインCLを中心として)非対称に構成されている。なお、各ベルトカバー層82、83の剛性Gc1、Gc2は、G≡ΣS×Eにより定義される。この剛性Gの算出には、タイヤ子午線方向の断面視における各ベルトカバー層81〜83のコード材の本数n、1本のコード材の断面積S、および、コード材の弾性率Eが用いられる。
具体的には、第一ショルダーカバー層82におけるストリップ材の巻き付け数(2周)と、第二ショルダーカバー層83におけるストリップ材の巻き付け数(3周)とが相異することにより、第一ショルダーカバー層82の総断面積ΣSと第二ショルダーカバー層83の総断面積ΣSとが相異している(図2参照)。そして、かかる構成により、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1と第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2とに差が設けられて、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となっている。
なお、コード材の弾性率は、以下のように規定される。まず、新品のタイヤからコード材が取り出される。次に、JIS(L1017)に従って室温(25[℃])条件下における荷重−伸度曲線を描く。次に、縦軸を「荷重/コード初期断面積」とし、横軸を「伸度/初期長さ」として、荷重−伸度曲線を描き直す。そして、荷重67[N]のときの曲線の接線の傾きをコード材の弾性率とする。
[効果]
この空気入りタイヤ1では、(1)低い弾性率Ec0を有するセンターカバー層81がトレッド部センター領域に配置され、高い弾性率Ec1、Ec2を有する第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83がトレッド部ショルダー領域のみに配置される(図1〜図3参照)。したがって、トレッド部センター領域の剛性が増加しないので、タイヤの乗り心地性能が維持される。また、ショルダー領域の剛性が高められるので、断面二次変形モードが抑制されて、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減される。これにより、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、高価な高弾性材がトレッド部全域に配置される構成と比較して、タイヤの製造コストが低減される利点がある。
また、(2)タイヤの断面二次変形モードがタイヤ左右で対称のまま維持される(図4参照)。さらに、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1と第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2とがタイヤ左右で相異するので、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる(固有振動数がタイヤ左右で相異する)。このため、タイヤ転動時にて、断面二次共振の発生が抑制されてロードノイズがさらに低減される。これにより、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、第一ショルダーカバー層82と第二ショルダーカバー層83とがトレッド部センターラインCLを中心として非対称な形状あるいは構造を有するので(図2参照)、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズがさらに低減されて、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。
[付加的事項1]
また、この空気入りタイヤ1では、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1が2.0×104[N]≦Gc1≦3.0×105[N]の範囲内にあり、且つ、第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2が2.0×104[N]≦Gc2≦3.0×105[N]の範囲内にあることが好ましい(図1〜図3参照)。
かかる構成では、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1および第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2の範囲(上限値および下限値)が適正化される。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、ベルト層5端部におけるトレッドゴム6のセパレーションが低減されて、タイヤの耐久性能が向上する利点がある。例えば、Gc1;Gc2<2.0×104[N]では、各ショルダーカバー層によるローノイズの低減効果が十分に発揮されないため、低い弾性率Ec0を有するセンターカバー層のみがトレッド部に配置されている構成と比較して、タイヤの騒音性能が向上し難い。また、3.0×105[N]<Gc1;Gc2では、各ショルダーカバー層の剛性が過剰となり、ベルト層の端部にトレッドゴムのセパレーションが発生し易くなる。
なお、一般に、ショルダーカバー層が複数のコード材から成る構成では、コード材の弾性率が4.9[GPa]、コード材のエンド数が30[本/50mm]かつカバー層の幅Wcが30[mm]に設定されると、ショルダーカバー層の剛性Gcが約2.1×104[N]になる。また、コード材の弾性率が9.5[KPa]、コード材のエンド数は70[本/50mm]かつカバー層の幅Wcが50[mm]に設定されると、ショルダーカバー層の剛性Gcが約3.0×105[N]になる。
また、この空気入りタイヤ1では、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1と第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2とが1.2≦Gc2/Gc1≦3.0の関係を有することが好ましい(図1〜図3参照)。すなわち、各ショルダーカバー層82、83の剛性Gc1、Gc2がGc1<Gc2の関係を有するときに、これらの剛性比Gc2/Gc1の範囲が規定される。
かかる構成では、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1と第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2との比Gc2/Gc1が適正化されるので、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、タイヤのユニフォミティが適正に維持される利点がある。例えば、Gc1とGc2との和Gc1+Gc2が一定の条件下では、Gc2/Gc1<1.2となると、タイヤ左右のショルダーカバー層の剛性差(非対称性)が小さ過ぎるため、ショルダーカバー層によるロードノイズの低減効果が十分に得られない。また、3.0<Gc2/Gc1となると、タイヤ左右のショルダーカバー層の剛性差が過剰となり、タイヤのユニフォミティが悪化する(例えば、車両流れなどが発生し易くなる)。
[付加的事項2]
また、この空気入りタイヤ1では、第一ショルダーカバー層82の幅Wc1と第二ショルダーカバー層83の幅Wc2とがWc1<Wc2の関係を有しても良い(図2および図3参照)。すなわち、第一ショルダーカバー層82の幅Wc1と第二ショルダーカバー層83の幅Wc2とが相異する(非対称である)ことにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
例えば、この実施例では、第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83が同一種類(同一材料かつ同一構造)のストリップ材により構成されている(図2参照)。そして、このストリップ材がセンターカバー層81(ベルト層5)の各端部に螺旋状に巻き付けられている。また、第一ショルダーカバー層82では、ストリップ材の巻き付け回数が2周に設定されており、第二ショルダーカバー層83では、ストリップ材の巻き付け回数が3周に設定されている。そして、この巻き付け回数の相異により、第一ショルダーカバー層82の幅Wc1と第二ショルダーカバー層83の幅Wc2との関係(Wc1<Wc2)が調整されている。
また、上記の構成では、第一ショルダーカバー層82の幅Wc1と第二ショルダーカバー層83の幅Wc2とが1.2≦Wc2/Wc1≦3.0の関係を有することが好ましい。すなわち、各ショルダーカバー層82、83の幅Wc1、Wc2の比Wc2/Wc1が調整されることにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤの騒音性能が向上する利点があり、また、タイヤのユニフォミティが適正に維持される利点がある。例えば、Wc2とWc1との和Wc2+Wc1が一定の条件下では、Wc2/Wc1<1.2となると、タイヤ左右のショルダーカバー層の剛性差(非対称性)が小さ過ぎるため、ショルダーカバー層によるロードノイズの低減効果が十分に得られない。また、3.0<Wc2/Wc1となると、タイヤ左右のショルダーカバー層の剛性差が過剰となり、タイヤのユニフォミティが悪化する。
[付加的事項3]
また、この空気入りタイヤ1では、第一ショルダーカバー層82と第二ショルダーカバー層83とがトレッド部センターラインCLを中心として非対称な配置構成を有しても良い(図6および図7参照)。かかる構成では、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズがさらに低減されて、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。
また、上記の構成では、トレッド部センターラインCLから第一ショルダーカバー層82のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc1と、トレッド部センターラインCLから第二ショルダーカバー層83のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc2とが相異しても良い(図6および図7参照)。すなわち、トレッド部センターラインCLから各ショルダーカバー層82、83の端部までの距離Xc1、Xc2(各ショルダーカバー層82、83の配置)が相異することにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
例えば、この実施例では、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1(幅Wc1、断面積および材質)と第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2(幅Wc2、断面積および材質)とが同一に設定されており、且つ、トレッド部センターラインCLから各ショルダーカバー層82、83の端部までの距離Xc1、Xc2が相異している(図6および図7参照)。具体的には、第一ショルダーカバー層82が第二ショルダーカバー層83よりもトレッド部センターラインCL寄りに配置されている(Xc1<Xc2)。これにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となっている。
また、上記の構成では、第一ショルダーカバー層82の端部の距離Xc1と第二ショルダーカバー層83の端部の距離Xc2とが1.2≦Xc1/Xc2≦1.7あるいは1.2≦Xc2/Xc1≦1.7の関係を有することが好ましい(図7参照)。すなわち、第一ショルダーカバー層82と第二ショルダーカバー層83とがトレッド部センターラインCLに対して非対称に配置されるときに、その端部の距離Xc1、Xc2の比Xc1/Xc2(あるいはXc2/Xc1)が所定の範囲内にあることが好ましい。
かかる構成では、第一ショルダーカバー層82と第二ショルダーカバー層83との相対的な位置関係が適正化されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、タイヤの加硫故障やトレッドゴムのセパレーションの発生が低減されて、タイヤの耐久性能が向上する利点がある。例えば、Xc1/Xc2あるいはXc2/Xc1が上記の範囲を外れると、一方のショルダーカバー層がベルト層の端部よりもタイヤ幅方向外側に位置する構成となり得る。すると、タイヤの加硫故障が発生するおそれがあり、また、ショルダーカバー層の端部にてトレッドゴムのセパレーションが発生するおそれがある。また、逆に、一方のショルダーカバー層がタイヤ幅方向内側に寄り過ぎる構成では、ロードノイズの低減効果が減少するおそれがある。
[付加的事項4]
また、この空気入りタイヤ1では、第一ショルダーカバー層82の伸張率(中間伸度)が第二ショルダーカバー層83の伸張率(中間伸度)よりも大きいことが好ましい(図8参照)。すなわち、各ショルダーカバー層82、83の伸張率が相異することにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
なお、第一ショルダーカバー層82の伸張率と第二ショルダーカバー層83の伸張率とを相異させる構成としては、例えば、各ショルダーカバー層82、83がストリップ材から成るときに、このストリップ材を構成するコード材のエンド数、コード径、撚り数、材質などを各ショルダーカバー層82、83で相異させる構成が採用され得る。
特に、これらの構成では、各ショルダーカバー層82、83のコード材のエンド数Enc1、Enc2を相異させて各ショルダーカバー層82、83の伸張率を相異させる構成が好ましい。かかる構成では、一種類のコード材を用いて各ショルダーカバー層82、83を構成できるので、タイヤの生産性が向上する利点がある。
また、上記の構成では、第一ショルダーカバー層82を構成するコード材のエンド数Enc1と、第二ショルダーカバー層83を構成するコード材のエンド数Enc2とが1.2≦Enc2/Enc1≦3.0の関係を有することが好ましい。これにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる。
かかる構成では、各ショルダーカバー層82、83のコード材のエンド数Enc1、Enc2の比Enc2/Enc1が適正化されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、トレッドゴムのセパレーションの発生が低減されて、タイヤの耐久性能が向上する利点がある。例えば、Enc2/Enc1<1.2では、タイヤ左右のショルダーカバー層の剛性差(非対称性)が小さいため、ショルダーカバー層によるロードノイズの低減効果が十分に得られない。また、3.0<Enc2/Enc1となると、第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2(Enc2)が過大となり、コード材におけるコードゴムの浸透が不十分となって、トレッドゴムのセパレーションが発生し易くなる。あるいは、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1(Enc1)が過小となって、ロードノイズの低減効果が低下する。
例えば、この実施例では、第一ショルダーカバー層82の伸張率が第二ショルダーカバー層の伸張率よりも高くなっている(図8参照)。このため、第一ショルダーカバー層82の剛性Gc1が第二ショルダーカバー層83の剛性Gc2よりも高くなっている。これにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称に構成されている。
また、具体的には、第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83が同一幅かつ同一断面積のストリップ材から成り、また、同一の巻き付け数(2周)にてベルト層5(センターカバー層81)の端部に巻き付けられて配置されている(図8参照)。また、第一ショルダーカバー層82のストリップ材を構成するコード材のエンド数が第二ショルダーカバー層83のコード材のエンド数よりも小さく設定されている。これにより、第一ショルダーカバー層82の伸張率が第二ショルダーカバー層の伸張率よりも高く設定されている。なお、コード材のエンド数と、2.0[cN/dtex]負荷時におけるコード材の伸張率との関係を図17に示す。
[付加的事項5]
また、この空気入りタイヤ1では、センターカバー層81を構成するコード材の2.0[cN/dtex]負荷時の伸張率が5.0[%]以上10.0[%]未満の範囲内にあり、且つ、第一ショルダーカバー層82を構成するコード材および第二ショルダーカバー層83を構成するコード材の2.0[cN/dtex]負荷時の伸張率が1.5[%]以上5.0[%]未満の範囲内にあることが好ましい。かかる構成では、センターカバー層81および各ショルダーカバー層82、83の伸張率が適正化されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減される。これにより、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
また、この空気入りタイヤ1では、センターカバー層81を構成するコード材がナイロン繊維により構成され、且つ、第一ショルダーカバー層82を構成するコード材および第二ショルダーカバー層83を構成するコード材がポリエステル繊維、ポリケトン繊維、リヨセル繊維、アラミド繊維、アラミド繊維とナイロン繊維とを撚り合わせて成る複合繊維、もしくは、ポリケトン繊維とナイロン繊維とを撚り合わせて成る複合繊維により構成されることが好ましい。
かかる構成では、高い弾性率を有するコード材から成るショルダーカバー層82、83がトレッド部ショルダー領域に配置されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。また、トレッド部ショルダー領域には、ナイロン繊維材から成るセンターカバー層81が配置されるので、高い弾性率を有するコード材から成るカバー層がトレッド部全域に配置される構成と比較して、材料費が低減される利点がある。また、カバー層81〜83の加工が容易となる利点がある。
[付加的事項6]
また、この空気入りタイヤ1では、第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83がセンターカバー層81よりもタイヤ径方向外側に配置されることが好ましい(図9参照)。すなわち、高い弾性率Ec1、Ec2を有するストリップ材から成るショルダーカバー層82、83が、低い弾性率Ec0を有するストリップ材から成るセンターカバー層81を介してベルト層5に巻き付けられる。
また、一般に、高い弾性率を有するストリップ材から成るショルダーカバー層では、タイヤ加硫時にてトレッド部ショルダー領域がタイヤ径方向外側にリフトしたときに、そのストリップ材がタイヤの変形に追従し難い。このため、ベルト層とショルダーカバー層とが隣接して配置される構成では、ベルトコードとカバーコードとの間にあるコートゴム層の肉厚が確保されないため、この部分にてベルトエッジセパレーションが発生し易くなるという問題がある。
この点において、この空気入りタイヤ1では、ショルダーカバー層82、83とベルト層5との間にセンターカバー層81が挟み込まれて配置されるので、タイヤ加硫時にてストリップ材に張力が働いたときに、ベルトコードとカバーコードとの間にあるコートゴム層の肉厚が確保される。これにより、タイヤの耐ベルトエッジセパレーション性能が確保される利点がある。
例えば、この実施例では、センターカバー層81が低い弾性率を有するストリップ材から成り、ショルダーカバー層82、83が高い弾性率Ec1、Ec2を有するストリップ材から成る(図1、図2および図9参照)。そして、センターカバー層81がベルト層5に巻き付けられて配置され、このセンターカバー層81に対してショルダーカバー層82、83が巻き付けられて配置される。これにより、ショルダーカバー層82、83とベルト層5との間にセンターカバー層81が挟み込まれて配置されている。
[付加的事項7]
また、この空気入りタイヤ1では、第一ショルダーカバー層82の幅Wc1と第二ショルダーカバー層83の幅Wc2との和Wc1+Wc2がベルト層5の最大幅Wbに対して0.04≦Wc1/Wbかつ0.04≦Wc2/Wbの関係を有することが好ましく、また、0.07≦Wc1/Wbかつ0.07≦Wc2/Wbの関係を有することがより好ましい(図10参照)。
かかる構成では、各ショルダーカバー層82、83の幅Wc1、Wc2とベルト層5の最大幅Wbとの比Wc1/Wb、Wc2/Wbが適正化されるので、タイヤ転動時におけるロードノイズが低減されて、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。例えば、Wc1/Wb<0.4あるいはWc2/Wb<0.04では、ショルダーカバー層によるロードノイズの低減効果が十分に得られない。
また、上記の構成では、比Wc1/WbかつWc2/WbがWc1/Wb≦0.50かつWc2/Wb≦0.50の範囲にあることが好ましい。また、比Wc1/WbかつWc2/WbがWc1/Wb≦0.40かつWc2/Wb≦0.40の範囲にあることがより好ましく、Wc1/Wb≦0.35かつWc2/Wb≦0.35の範囲にあることがさらに好ましい。これにより、高価な高弾性材の使用量を低減できるので、タイヤの製造コストの増加を抑制できる利点がある。また、かかる構成としても、ショルダーカバー層によるロードノイズの低減効果が確保される。
また、この空気入りタイヤ1では、トレッド部センターラインCLからベルト層5の最大幅位置までの距離Xbと、トレッド部センターラインCLから第一ショルダーカバー層82のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc1と、トレッド部センターラインCLから第二ショルダーカバー層83のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc2とが0.7≦Xc1/Xb≦1.2かつ0.7≦Xc2/Xb≦1.2の関係を有することが好ましい(図7参照)。また、距離Xb、Xc1、Xc2が0.8≦Xc1/Xb≦1.1かつ0.8≦Xc2/Xb≦1.1の関係を有することがより好ましい。
かかる構成では、ベルト層5と第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83との位置関係が適正化されるので、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点があり、また、タイヤのユニフォミティが適性に維持される利点がある。例えば、Xc1/Xb<0.7あるいはXc2/Xb<0.7では、ショルダーカバー層によるロードノイズの低減効果が十分に得られない。また、1.2<Xc1/Xbあるいは1.2<Xc2/Xbでは、ショルダーカバー層の外側端部の位置がベルト層と大きくはみ出す。すると、グリーンタイヤのシェーピング時にて、ベルト層からはみ出したショルダーカバー層の部分に十分なリフトが掛からない。すると、完成グリーンタイヤのトレッド部ショルダー領域がタイヤ周方向に波打った形状となり、タイヤのユニフォミティが悪化する。
また、この空気入りタイヤ1では、タイヤ周方向に延在する複数の周方向主溝61、62がトレッド部に形成されると共に、第一ショルダーカバー層82および第二ショルダーカバー層83がタイヤ幅方向の最も外側にある各周方向主溝61、62の溝中心線よりもタイヤ幅方向外側にそれぞれ位置し、且つ、一方の周方向主溝61の溝中心線から第一ショルダーカバー層82までのタイヤ幅方向の距離δc1と、他方の周方向主溝62の溝中心線から第二ショルダーカバー層83までのタイヤ幅方向の距離δc2とが相異することが好ましい(図11参照)。
一般に、タイヤの断面二次変形モードは、周方向主溝やショルダーカバー層の内側端部を節として発生し易い。また、その固有振動数は、小さいが、伝達率と共に増加してロードノイズを悪化させる。
この点において、この空気入りタイヤ1では、振動の節となる周方向主溝61(62)からショルダーカバー層82(83)までの距離δc1(δc2)が、各ショルダーカバー層82、83にて相異する(δc1≠δc2)。かかる構成では、タイヤの断面二次変形モードがタイヤ左右で非対称となり、断面二次共振の発生が抑制される。これにより、タイヤ転動時におけるロードノイズがさらに低減されて、タイヤの騒音性能がさらに向上する利点がある。
また、上記の構成では、第一ショルダーカバー層82の距離δc1と第二ショルダーカバー層83の距離δc2とが5[mm]≦δc1かつ5[mm]≦δc2の関係を有することが好ましい(図11参照)。また、距離δc1、δc2が10[mm]≦δc1、10[mm]≦δc2およびδc1≠δc2の関係を有することがより好ましい。
かかる構成では、周方向主溝61(62)の溝中心線からショルダーカバー層82(83)のタイヤ幅方向内側の端部までの距離δc1(δc2)が適正化されるので、固有振動数に起因するロードノイズの悪化が抑制される。これにより、タイヤの騒音性能が向上する利点がある。
[性能試験]
この実施例では、条件が異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)騒音性能、(2)ユニフォミティ、および、(3)耐久性能に関する性能試験が行われた(図12〜図22参照)。この性能試験では、タイヤサイズ215/55R17の空気入りタイヤがリムサイズ17×7JJのリムに組み付けられ、この空気入りタイヤに内圧200[kPa]およびJATMA規定の荷重が負荷される。そして、この空気入りタイヤが排気量2500[cc]かつ前輪駆動の試験車両に装着される。なお、試験車両は、国産車である。
(1)騒音性能に関する性能試験では、試験車両が粗面路を有するテストコースを60[km/h]で走行し、車内の中央に設置されたマイクロフォンによりロードノイズR/N[dB]が測定される。そして、従来の空気入りタイヤ(従来例)を基準(0[dB])として評価が行われる。評価結果は、その数値が小さいほど(マイナスであるほど)ロードノイズが小さくて、好ましい。また、このロードノイズR/Nの数値は、±0.5[dB]以上で有意差ありと判断される。
(2)ユニフォミティに関する性能試験では、試験車両がテストコースを走行し、直進時における車両流れについて、テストドライバーが官能評価を行う。この評価は、従来例を基準(100)とした指数評価により行われ、その指数値が大きいほど好ましい。また、指数値が90以上であれば、タイヤが市販車に装着されたときに問題が発生しないと考えられる。
(3)耐久性能に関する性能試験では、室内ドラム試験機による耐久試験が行われ、規定距離の走行後にベルト層の端部に発生したセパレーションの程度が観察される。そして、この観察結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。評価は、その指数値が大きいほど好ましい。また、指数値が80以上であれば、タイヤが市販車に装着されたときに問題が発生しないと考えられる。
従来例の空気入りタイヤでは、センターカバー層とショルダーカバー層とがいずれもナイロン繊維から成るストリップ材により構成される。このため、センターカバー層の剛性とショルダーカバー層の剛性とが等しい。また、IN側(車両装着時にて車幅方向内側)のショルダーカバー層におけるコード材の総断面積ΣSおよびコード材の弾性率Eと、OUT側(車両装着時にて車幅方向外側)のショルダーカバー層におけるコード材の総断面積ΣSおよびコード材の弾性率Ecとが等しく設定されている。このため、IN側のショルダーカバー層の剛性Gc1とOUT側のショルダーカバー層の剛性Gc2とが等しい(剛性比Gc2/Gc1=1.0)。また、ショルダーカバー層のタイヤ幅方向外側の端部とベルト層の端部とが同一位置に配置されている(Xc/Xb=1.0)。これにより、タイヤ左右の剛性分布が等しく設定されている。
比較例1の空気入りタイヤでは、従来例の空気入りタイヤと比較して、センターカバー層がナイロン繊維から成るストリップ材により構成され、ショルダーカバー層がポリケトン繊維(POK)から成るストリップ材により構成される点で相異する。このため、ショルダーカバー層の剛性がセンターカバー層の剛性よりも高く設定されている。かかる構成では、従来例と比較して、タイヤの騒音性能が向上する(ロードノイズが低減される)ことが分かる(図12参照)。
発明例1〜14の空気入りタイヤ1では、従来例の空気入りタイヤと比較して、センターカバー層81がナイロン繊維から成るストリップ材により構成され、ショルダーカバー層82、83がポリケトン繊維(POK)から成るストリップ材により構成される(図1および図2参照)。このため、ショルダーカバー層82、83の弾性率Ec1、Ec2がセンターカバー層81の弾性率Ec0よりも高く設定されている(Ec0<Ec1かつEc0<Ec2)。また、OUT側のショルダーカバー層83におけるコード材の総断面積ΣSがIN側のショルダーカバー層82におけるコード材の総断面積ΣSよりも高く設定されている。このため、OUT側のショルダーカバー層の剛性Gc2がIN側のショルダーカバー層の剛性Gc1よりも高い(剛性比Gc2/Gc1>1.0)。これにより、タイヤ左右の剛性分布がトレッド部センターラインCLを中心として非対称に構成されている。
試験結果に示すように、発明例1〜14と従来例および比較例とを比較すると、発明例1〜14の空気入りタイヤ1では、ロードノイズが低減されてタイヤの騒音性能が向上することが分かる(図12〜図22参照)。また、タイヤのユニフォミティ(車両流れ評価)および耐久性能が適正に維持されることが分かる。
また、発明例1と比較例1、2とを比較すると、OUT側のショルダーカバー層83の剛性Gc2とIN側のショルダーカバー層82の剛性Gc1との比Gc2/Gc1が適正化されることにより、タイヤの騒音性能の向上(ロードノイズの低減)とユニフォミティの維持(車両流れの防止)とが両立されることが分かる(図12および図13参照)。また、このことは、OUT側のショルダーカバー層83の剛性Gc2が一定の場合(発明例1および比較例1、2)に限らず、各ショルダーカバー層82、83の剛性の和Gc1+Gc2が一定の場合(発明例2および比較例3、4)にも、同様である。
また、発明例3および比較例5、6では、各ショルダーカバー層82、83の幅Wc1、Wc2の比Wc2/Wc1が調整されることにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる(図3および図14参照)。このとき、各ショルダーカバー層82、83の幅Wc1、Wc2の比Wc2/Wc1が適正化されることにより、タイヤの騒音性能が向上し、また、タイヤのユニフォミティが適正に維持されることが分かる。
また、発明例4および比較例7〜9では、トレッド部センターラインCLから各ショルダーカバー層82、83の端部までの距離Xc1、Xc2が相異することにより、トレッド部ショルダー領域の剛性分布がタイヤ左右で非対称となる(図7および図15参照)。このとき、距離Xc1、Xc2の比Xc2/Xc1が適正化されることにより、タイヤの騒音性能が向上し、また、タイヤの耐久性能が適正に維持されることが分かる。
また、発明例5および比較例10〜12では、各ショルダーカバー層82、83のコード材のエンド数Enc1、Enc2が相異することにより、各ショルダーカバー層82、83の伸張率が相異する(図16および図17参照)。このとき、各ショルダーカバー層82、83のコード材のエンド数Enc1、Enc2の比Enc2/Enc1が適正化されることにより、タイヤの騒音性能が向上し、また、タイヤの耐久性能が向上することが分かる。
また、発明例6では、センターカバー層81のコード材の材質とショルダーカバー層82、83のコード材の材質とが相異することにより、センターカバー層81の伸張率とショルダーカバー層82、83の伸張率とに差が設けられる(図18参照)。このとき、センターカバー層81の伸張率とショルダーカバー層82、83の伸張率との関係が適正化されることにより、タイヤの騒音性能が向上することが分かる。
また、発明例7および比較例14では、低弾性材から成るセンターカバー層81と高弾性材から成るショルダーカバー層82、83との位置関係が変更される(図11および図19参照)。このとき、ショルダーカバー層82、83とベルト層5との間にセンターカバー層81が挟み込まれて配置されることにより、タイヤのユニフォミティの悪化が抑制されることが分かる。
また、発明例8〜10と比較例15、16とを比較すると、各ショルダーカバー層82、83の幅Wc1、Wc2とベルト層5の最大幅Wbとの比Wc1/Wb、Wc2/Wbが適正化されることにより、タイヤの騒音性能が向上することが分かる(図10および図20参照)。
また、発明例11〜13と比較例17、18とを比較すると、トレッド部センターラインCLからベルト層5の最大幅位置までの距離Xbと、トレッド部センターラインCLから各ショルダーカバー層82、83のタイヤ幅方向外側の端部までの距離Xc1、Xc2との関係Xc/Xb(Xc1/Xb、Xc2/Xb)が適正化されることにより、タイヤの騒音性能が向上し、また、タイヤのユニフォミティ(振動性)が適性に維持されることが分かる(図7および図21参照)。
また、発明例14と比較例19〜21とを比較すると、周方向主溝61(62)からショルダーカバー層82(83)までの距離δc1(δc2)が各ショルダーカバー層82、83にて相異する(δc1≠δc2)ことにより、タイヤの騒音性能がさらに向上することが分かる(図11および図22参照)。