上述した従来の空気入りタイヤによれば、複合コードがカーカスコードに平行となるように補強層をカーカスに隣接して配設することで、タイヤ内部からカーカスに作用する応力を補強層により確実に受け止め、十分なタイヤ剛性を確保する。しかも、タイヤの低空気圧静止時には、複合コードの高弾性域の剛性によりフラットスポットの発生を確実に抑制する一方、通常走行状態では、低弾性域の剛性により乗心地の悪化を防止する。
このように、従来の空気入りタイヤでは、剛性を高める要素と剛性を低める要素とを備えた補強層により、フラットスポットの発生を抑えた上で、乗り心地の悪化を防ぐことができる。しかし、従来の空気入りタイヤでは、補強層のような構成の追加により、空気入りタイヤの重量が増すことになる。
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、追加構成を用いることなく、フラットスポットの発生を抑えることのできる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明にかかる空気入りタイヤでは、一対の円環状のビード部で各端部が折り返された内側にビードフィラーが設けられていると共に、タイヤ周方向にトロイド状に配置され、かつタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向に並設された複数のカーカスコードを有する少なくとも1層のカーカスと、前記カーカスのタイヤ径方向外側に配置された少なくとも2つのベルトを有するベルト層とを備えた空気入りタイヤにおいて、少なくとも1層の前記カーカスは、タイヤ周方向の所定寸法当たりのカーカス剛性が異なる少なくとも2種のコード部を有し、サイドウォール部の範囲のタイヤ外殻には、タイヤ周方向に沿って連なりつつ各前記コード部のカーカス剛性に応じてタイヤ子午断面での形状が異なる溝部が設けられていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、カーカス剛性の低いコード部と溝部とにより、サイドウォール部の範囲において、実質的にカーカスコードのエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。これにより、サイドウォール部の範囲でカーカスの剛性が低減されて当該範囲でのたわみ量が大きくなるのでタイヤ径方向の剛性が低減され、かつトレッド部およびショルダー部の曲げ変形が抑制される。このため、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向の剛性の悪化が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。この結果、車両の重量などの垂直荷重がサイドウォール部の範囲で吸収され、かつ路面に接地するトレッド部およびショルダー部の変形が抑制されるので、フラットスポットの発生を抑えることができる。しかも、カーカスコードの構成を変更したものであることから、従前のように追加構成を用いることがない。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、カーカス剛性が最も高い前記コード部の単位当たりのカーカス剛性をRAとし、カーカス剛性が最も低い前記コード部の単位当たりのカーカス剛性をRBとした場合、カーカス剛性RAに対してカーカス剛性RBが、0.4≦RB/RA≦0.9の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が0.4未満であると、カーカス剛性が最も高いコード部とカーカス剛性が最も低いコード部とのカーカス剛性の差が大きく、ハンドルや車両の振動および車室内騒音の発生原因となる空気入りタイヤの均一性(UF:ユニフォーミティ)が悪化する。一方、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が0.9を超えると、カーカス剛性が最も高いコード部とカーカス剛性が最も低いコード部とのカーカス剛性の差が小さく、カーカスの剛性を低減できない。このため、カーカス剛性RAに対してカーカス剛性RBが、0.4≦RB/RA≦0.9の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、各前記コード部のカーカスコードの総数nが、20≦n≦200の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、コード部の総数nが20未満の場合は、局所的なカーカスの剛性の低下により強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。一方、コード部の総数nが200を超える場合では、変形に対する効果が少なく、トレッド部およびショルダー部の変形(フラットスポット)を抑制する効果が得られ難い。このため、コード部の総数nが、20≦n≦200の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記溝部の深さdが、1[mm]≦d≦4[mm]の範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、溝部の深さdが1[mm]未満の場合は、サイドウォール部の変形を助長させることが難しい。一方、溝部の深さdが4[mm]を超える場合では、局所的なカーカスの剛性の低下により強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、溝部の深さdが、1[mm]≦d≦4[mm]の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記溝部は、タイヤ子午断面において、ビードフィラーのタイヤ径方向外側端を通過する前記カーカスの法線の位置から、前記ベルト層タイヤ幅方向最外側端を通過する前記カーカスの法線の位置までの範囲に設けられ、カーカス剛性が最も高い前記コード部が位置する前記範囲での溝断面積SAに対し、カーカス剛性が最も低い前記コード部が位置する前記範囲での溝断面積SBが、1.01≦SB/SAの範囲に設定されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、カーカス剛性が最も高いコード部が位置する断面積SAに対し、カーカス剛性が最も低いコード部が位置する断面積SBの比が、1.01未満であると、溝部の深さや溝開口が十分でないため、各コード部のカーカス剛性の差が小さく、カーカスの剛性を低減できない。このため、断面積SAに対する断面積SBの比が、1.01≦SB/SAの範囲に設定されていることが好ましい。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、前記溝部は、規定内圧を充填した場合の前記カーカスのタイヤ幅方向最大幅位置からタイヤ幅方向に対して平行に延在する基準線上でタイヤ周方向に連なって設けられていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、サイドウォール部のタイヤ幅方向最大幅で、変形量が大きくできる範囲で、柔軟性を備えた領域が得られる。このため、車両の重量などの垂直荷重をより吸収し、かつ路面に接地するトレッド部およびショルダー部の変形をより抑制して、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、トレッド部のトレッド面が、少なくともタイヤ幅方向の中央に位置する中央部円弧と、タイヤ幅方向最外側に位置するショルダー側円弧とを含む複数の異なる曲率半径の円弧で形成されており、正規リムに組込んで正規内圧の5%を内圧充填した状態でのタイヤ子午断面視にて、前記ベルト層のタイヤ幅方向最外側端からタイヤ径方向外側へタイヤ径方向と平行に仮想される仮想線と、前記トレッド面のプロファイルとの交点を基準点とし、タイヤ赤道面と前記トレッド面のプロファイルとの交点をセンタークラウンとし、前記基準点と前記センタークラウンとを結んだ線と、タイヤ幅方向に平行な線とがなす角度をθとし、前記中央部円弧の曲率半径をR1とし、前記ショルダー側円弧の曲率半径をR2とし、前記タイヤ赤道面から前記中央部円弧のタイヤ幅方向外側端部位置までの円弧長である基準展開幅をLとし、タイヤ幅方向の前記トレッド面の円弧長であるトレッド展開幅をTDWとした場合、前記トレッド面は、1[度]<θ<3[度]、5<R1/R2<10、および0.4<L/(TDW/2)<0.7を満たすように形成されていることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、角度θ、中央部円弧の曲率半径R1、ショルダー側円弧の曲率半径R2、基準展開幅Lのプロファイル変量因子が適宜設定されることで、トレッド面のタイヤ幅方向に沿ったプロファイルの曲率が直線に近づくことから、操縦安定性能と耐フラットスポット性能の両立に対して最適化することができる。
また、本発明にかかる空気入りタイヤでは、扁平率が55[%]以下であることを特徴とする。
この空気入りタイヤによれば、タイヤ幅方向の距離が比較的長い扁平率55[%]以下のものに適用されることで、より顕著に耐フラットスポット性能の向上効果を奏する。
本発明にかかる空気入りタイヤは、追加構成を用いることなく、フラットスポットの発生を抑えることができる。
以下に、本発明にかかる空気入りタイヤの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的同一のものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
以下の説明において、タイヤ径方向とは、空気入りタイヤの回転軸と直交する方向をいい、タイヤ径方向内側とはタイヤ径方向において回転軸に向かう側、タイヤ径方向外側とはタイヤ径方向において回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ周方向とは、前記回転軸を中心軸とする周り方向をいう。また、タイヤ幅方向とは、前記回転軸と平行な方向をいい、タイヤ幅方向内側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面に向かう側、タイヤ幅方向外側とはタイヤ幅方向においてタイヤ赤道面から離れる側をいう。
また、以下に説明する空気入りタイヤは、タイヤ赤道面を中心としてほぼ対称になるように構成されている。タイヤ赤道面とは、空気入りタイヤの回転軸に直交すると共に、空気入りタイヤのタイヤ幅の中心を通る平面である。タイヤ幅は、タイヤ幅方向の外側に位置する部分同士のタイヤ幅方向における幅、つまり、タイヤ幅方向においてタイヤ赤道面から最も離れている部分間の距離である。また、タイヤ赤道線とは、タイヤ赤道面上にあって空気入りタイヤの周方向に沿う線をいう。そして、以下に説明する空気入りタイヤは、タイヤ赤道面を中心としてほぼ対称になるように構成されていることから、空気入りタイヤの回転軸を通る平面で該空気入りタイヤを切った場合の子午断面図においては、タイヤ赤道面を中心とした一側のみを図示して当該一側のみを説明し、他側の説明は省略する。
図1は、本発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの子午断面図、図2は、図1に示す空気入りタイヤにおけるカーカスのカーカスコードおよび溝部をあらわす概略側面図、図3および図4は、図1に示す空気入りタイヤにおける溝部をあらわす概略子午断面図、図5および図6は、本発明の他の実施の形態に空気入りタイヤの概略側面図、図7および図8は、図6に示す空気入りタイヤにおける溝部をあらわす概略子午断面図、図9は、溝部の深さをあらわす概略断面図、図10は、本発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
図1に示すように、本実施の形態に係る空気入りタイヤ1は、トレッド部2と、その両側のショルダー部3と、各ショルダー部3から順次連続するサイドウォール部4およびビード部5とを有している。この空気入りタイヤ1は、カーカス6と、ベルト層7と、ベルト補強層8とを含み構成されている。
トレッド部2は、空気入りタイヤ1の外部に露出したものであり、その表面が空気入りタイヤ1の輪郭となる。トレッド部2の外周表面、つまり、走行時に路面と接触する踏面には、トレッド面21が形成されている。このトレッド面21には、タイヤ周方向に延在して形成された複数(本実施の形態では4つ)の周方向主溝22と、これら周方向主溝22により区画形成された複数の陸部をなすリブ23とが設けられている。
ショルダー部3は、トレッド部2のタイヤ幅方向両外側の部位である。また、サイドウォール部4は、空気入りタイヤ1におけるタイヤ幅方向の最も外側に露出したものである。また、ビード部5は、ビードコア51とビードフィラー52とを有する。ビードコア51は、スチールワイヤであるビードワイヤをリング状に巻くことにより形成されている。ビードフィラー52は、カーカス6の端部がビードコア51の位置でタイヤ幅方向外側に折り返されることにより形成された空間に配置される。
カーカス6は、一対のビード部5に対して各タイヤ幅方向端部が折り返され、かつタイヤ周方向にトロイド状に掛け回されてタイヤの骨格を構成するものである。このカーカス6は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどのカーカスコード61(図2参照)が、ゴム材で被覆されたものである。カーカスコード61は、空気入りタイヤ1のタイヤ赤道線に直交してタイヤ子午線方向に沿いつつタイヤ周方向に複数並設されている。なお、図1で示すカーカス6は、1層で構成されているが、剛性を向上するために多層構造としてもよい。すなわち、本実施の形態でのカーカス6は、所望とする剛性に応じて少なくとも1層設けられている。また、カーカスコード61は、タイヤ赤道線に直交しているが、タイヤ赤道線(タイヤ周方向)に対する角度が実質的に90[度]であって、タイヤ赤道線に対する90度を基準に−5[度]から+5[度]の範囲の角度を含む。
ベルト層7は、少なくとも2つのベルト71,72を積層した多層構造をなし、カーカス6のタイヤ径方向外側に配置されてカーカス6をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト71,72は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどのコードがゴム材で被覆されたもので、該コードがタイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線に対して、所定の角度をつけて配置されている。また、ベルト71,72は、タイヤ赤道線に対して、相互にコードを反対方向に傾けて配置されている。
ベルト補強層8は、ベルト層7のタイヤ径方向外側に配置されてベルト層7をタイヤ周方向に覆うものである。ベルト補強層8は、有機繊維(ナイロンやポリエステルなど)やスチールなどのコードがゴム材で被覆されたもので、該コードがタイヤ周方向、つまりタイヤ赤道線に対して実質的に0度(タイヤ周方向に対する角度が10°以下)の角度となるように配置されている。
このような空気入りタイヤ1にかかり、図2に示すように、少なくとも1層のカーカス6におけるカーカスコード61は、タイヤ周方向の所定単位当たりのカーカス剛性が異なる少なくとも2種のコード部611S,612Sをなしている。
コード部611Sは、カーカス剛性が比較的高く構成された高コード部である。この高コード部611Sは、カーカス6において全て同じ剛性に構成されたカーカスコード61のうち、図2に示すように、タイヤ周方向で隣接する距離が密であって、タイヤ周方向の所定寸法でのカーカスコード61の本数(エンド数)が比較的多く配置されている。一方、コード部612Sは、カーカス剛性が比較的低く構成された低コード部である。この低コード部612Sは、カーカス6において全て同じ剛性に構成されたカーカスコード61のうち、図2に示すように、タイヤ周方向で隣接する距離が疎であって、タイヤ周方向の所定寸法でのカーカスコード61の本数(エンド数)が比較的少なく配置されている。
なお、カーカスコード61の1本の剛性は、2[%]伸張時での力で定義するものとする。また、図には明示しないが、高コード部611Sおよび低コード部612Sは、上述したエンド数の他、例えば、アラミド繊維、レーヨン繊維、ポリエステル繊維などのコード材料を変更したり、コード径を変更したり、曲付けを与えたり、初期張力を変更したり、縒り数を変更したりすることによりカーカス剛性を調整できる。このように、コード材料、コード径、曲付け付与、初期張力、および縒り数によりカーカス剛性を調整した場合では、コード部611S,612Sは、1本のカーカスコード61で構成することができる。
さらに、サイドウォール部4の範囲のタイヤ外殻には、溝部9が設けられている。溝部9は、図1および図2に示すように、サイドウォール部4の範囲であって、ビードフィラー52のタイヤ径方向外側端を通過するカーカス6の法線A(図1参照)の位置から、ベルト層7(タイヤ幅方向に最大幅のベルト71)のタイヤ幅方向最外側端を通過するカーカス6の法線B(図1参照)の位置までの範囲のタイヤ外殻に、タイヤ周方向に沿って帯状に連続して形成されている。
この溝部9は、各コード部611S,612Sのカーカス剛性に応じてタイヤ子午断面での形状が異なって形成されている。具体的に溝部9は、その断面形状により、カーカス剛性の高い高コード部611Sが配置された範囲のサイドウォール部4の剛性を高くあるいは低く調整したり、カーカス剛性の低い低コード部612Sが配置された範囲のサイドウォール部4の剛性を低くあるいは高く調整したりするものである。すなわち、溝部9は、高コード部611Sによりカーカス剛性をそれ以上高くできない場合、その断面形状により高コード部611Sが配置された範囲のサイドウォール部4の剛性を高くし、あるいは高コード部611Sによりカーカス剛性が高すぎる場合、その断面形状により高コード部611Sが配置された範囲のサイドウォール部4の剛性を低くするものである。また、溝部9は、低コード部612Sによりカーカス剛性をそれ以上低くできない場合、その断面形状により低コード部612Sが配置された範囲のサイドウォール部4の剛性を低くし、あるいは低コード部612Sによりカーカス剛性が低すぎる場合、その断面形状により低コード部612Sが配置された範囲のサイドウォール部4の剛性を高くするものである。
図2に示す溝部9は、タイヤ周方向で溝深さが均一に形成されており、高コード部611Sに応じてサイドウォール部4の剛性を比較的高くするように、タイヤ径方向で溝開口が狭く形成され(図3参照)、かつ低コード部612Sに応じてサイドウォール部4の剛性を比較的低くするように、タイヤ径方向で溝開口が広く形成されている(図4参照)。なお、図2で示す溝部9は、高コード部611Sと低コード部612Sとに対応する部位に至る間では、その溝開口が漸次変化するように形成されている。
その他、図5に示す溝部9は、タイヤ周方向で溝深さが均一に形成されており、高コード部611Sに応じてサイドウォール部4の剛性を比較的低くするように、タイヤ径方向で溝開口が広く形成され(図4参照)、かつ低コード部612Sに応じてサイドウォール部4の剛性を比較的高くするように、タイヤ径方向で溝開口が狭く形成されている(図3参照)。なお、図5で示す溝部9は、高コード部611Sと低コード部612Sとに対応する部位では、それぞれタイヤ径方向で均一な溝開口に形成され、高コード部611Sと低コード部612Sとに対応する部位の間では、急激に溝開口が変化するように形成されている。
さらに、その他、図6に示す溝部9は、タイヤ周方向で溝開口が均一に形成されており、高コード部611Sに応じてサイドウォール部4の剛性を比較的高くするように、タイヤ径方向で溝深さが浅く形成され(図7参照)、かつ低コード部612Sに応じてサイドウォール部4の剛性を比較的低くするように、タイヤ径方向で溝深さが深く形成されている(図8参照)。あるいは、図6に示す溝部9は、高コード部611Sに応じてサイドウォール部4の剛性を比較的低くするように、溝深さが深く形成され(図8参照)、かつ低コード部612Sに応じてサイドウォール部4の剛性を比較的高くするように、溝深さが浅く形成されている(図7参照)。
このように高コード部611Sと低コード部612Sとを有するカーカス6を備えた空気入りタイヤ1は、低コード部612Sにより、サイドウォール部4の範囲において、実質的にカーカスコード61のエンド数が低減され、柔軟性を備えた領域が得られる。これにより、サイドウォール部4の範囲でカーカス6の剛性が低減されて当該範囲でのたわみ量が大きくなるのでタイヤ径方向の剛性が低減され、かつトレッド部2およびショルダー部3の曲げ変形が抑制される。このため、タイヤ幅方向およびタイヤ周方向の剛性の悪化が抑えられ、タイヤ耐久性が向上する。この結果、車両の重量などの垂直荷重がサイドウォール部4の範囲で吸収され、かつ路面に接地するトレッド部2およびショルダー部3の変形が抑制されるので、フラットスポットの発生を抑えることができる。しかも、カーカスコード61の構成を変更したものであることから、従前のように追加構成を用いることがない。さらに、高コード部611Sおよび低コード部612Sと、溝部9との組み合わせにより、サイドウォール部4の変形を助長もしくは調整させるので、トレッド部2およびショルダー部3の曲げ変形をさらに抑制もしくは調整し、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、カーカス剛性が最も高い高コード部611Sの単位当たりのカーカス剛性をRAとし、カーカス剛性が最も低い低コード部612Sの単位当たりのカーカス剛性をRBとした場合、カーカス剛性RAに対してカーカス剛性RBが、0.4≦RB/RA≦0.9の範囲に設定されている。すなわち、高コード部611Sの単位当たりのカーカス剛性RAに対し、低コード部612Sの単位当たりのカーカス剛性RBの比が、40[%]以上90[%]以下の範囲に設定されている。
カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が40[%]未満であると、高コード部611Sと低コード部612Sとのカーカス剛性の差が大きく、ハンドルや車両の振動および車室内騒音の発生原因となる空気入りタイヤの均一性(UF:ユニフォーミティ)が悪化する。一方、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が90[%]を超えると、高コード部611Sと低コード部612Sとのカーカス剛性の差が小さく、カーカス6の剛性を低減できない。このため、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が40[%]以上90[%]以下の範囲に設定されていることが好ましい。また、カーカス剛性RAに対するカーカス剛性RBの比が、50[%]以上80[%]以下(0.5≦RB/RA≦0.8)の範囲に設定されていると、ユニフォーミティの悪化が防げ、かつカーカス6の剛性を低減できるので、より好ましい。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、高コード部611Sおよび低コード部612Sの総数nが、20≦n≦200の範囲に設定されている。
コード部611S,612Sの総数nが20未満の場合は、局所的なカーカス6の剛性の低下により強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。一方、コード部611S,612Sの総数nが200を超える場合では、変形に対する効果が少なく、トレッド部2およびショルダー部3の変形(フラットスポット)を抑制する効果が得られ難い。このため、コード部611S,612Sの総数nが、20≦n≦200の範囲に設定されていることが好ましい。なお、トレッド部2およびショルダー部3の変形(フラットスポット)を抑制する効果をより得るためには、各コード部611S,612Sにおけるタイヤ周方向での最大寸法Smaxが、10[mm]≦Smax≦100[mm]の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、溝部9の深さdが、1[mm]≦d≦4[mm]の範囲に設定されている。なお、溝部9の深さdは、図9に示すように、タイヤ外殻から溝部9に変形する溝部9の開口をなす対向する各変曲点Qを結んだ直線と、溝部9の底である最大落ち込み位置との距離として規定される。
溝部9の深さdが1[mm]未満の場合は、サイドウォール部4の変形を助長させることが難しい。一方、溝部9の深さdが4[mm]を超える場合では、局所的なカーカス6の剛性の低下により強度が不足してタイヤ耐久性が悪化する。このため、溝部9の深さdが、1[mm]≦d≦4[mm]の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、溝部9は、タイヤ子午断面において、ビードフィラー52のタイヤ径方向外側端を通過するカーカス6の法線Aの位置から、ベルト層7のタイヤ幅方向最外側端を通過するカーカス6の法線Bの位置までの範囲に設けられている。さらに、この範囲において、カーカス剛性が最も高い高コード部611Sが位置する断面積SAに対し、カーカス剛性が最も低い低コード部612Sが位置する断面積SBが、1.01≦SB/SAの範囲に設定されている。すなわち、カーカス剛性が最も高い高コード部611Sが位置する断面積SAに対し、カーカス剛性が最も低い低コード部612Sが位置する断面積SBの比が、1[%]以上の範囲に設定されている。
カーカス剛性が最も高い高コード部611Sが位置する断面積SAに対し、カーカス剛性が最も低い低コード部612Sが位置する断面積SBの比が1[%]未満であると、溝部9の深さや溝開口が十分でないため、高コード部611Sと低コード部612Sとのカーカス剛性の差が小さく、カーカス6の剛性を低減できない。このため、断面積SAに対する断面積SBの比が1[%]以上(1.01≦SB/SA)の範囲に設定されていることが好ましい。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、図1に示すように、溝部9は、規定内圧を充填した場合のカーカス6のタイヤ幅方向最大幅位置を通過しつつタイヤ幅方向に平行な基準線J上で、タイヤ周方向に連なって設けられている。かかる構成によれば、サイドウォール部4のタイヤ幅方向最大幅で、変形量が大きくできる範囲で、柔軟性を備えた領域が得られる。このため、車両の重量などの垂直荷重をより吸収し、かつ路面に接地するトレッド部2およびショルダー部3の変形をより抑制して、フラットスポットの発生をさらに抑えることができる。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1では、図1に示すように、トレッド部2のトレッド面21が、少なくともタイヤ幅方向の中央に位置する中央部円弧21aと、タイヤ幅方向最外側に位置するショルダー側円弧21bとを含む複数の異なる曲率半径の円弧で形成されている。そして、正規リムに組込んで正規内圧の5%を内圧充填した状態でのタイヤ子午方向の断面視にて、以下のように形成されている。なお、ここでいう正規リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、正規内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、正規荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。
まず、ベルト層7の1番ベルト71のタイヤ幅方向最外側端からタイヤ径方向外側へタイヤ径方向と平行に仮想される仮想線Cを設定する。そして、この仮想線Cとトレッド面21のプロファイル(輪郭)との交点を基準点Dとし、この基準点DとセンタークラウンCLとを結んだ線をショルダー片落線Eとする。そして、このショルダー片落線Eと、タイヤ幅方向に平行であってタイヤ断面高さHt((タイヤ径方向の外径−リム径)/2であって、ビード部5のタイヤ径方向内周側端部(すなわち、リムベース53の位置)からタイヤ赤道面Sとトレッド面21との交点であるセンタークラウンCLまでのタイヤ径方向の高さ。)になる平行線Fとがなす角度をθとする。角度θは、ショルダー片落線Eと平行線Fとがなす鋭角側の角度である。さらに、中央部円弧21aの曲率半径をR1、ショルダー側円弧21bの曲率半径をR1とすると共に、タイヤ赤道面Sからショルダー側円弧21bのタイヤ幅方向内側端部位置G(中央部円弧21aとショルダー側円弧21bとが連続する位置)までの円弧長である基準展開幅をL、タイヤ幅方向のトレッド面21の円弧長であるトレッド展開幅をTDWとする。
なお、上記角度θは、トレッド部2の両端部に連続するショルダー部3のセンタークラウンCLに対する落ち込み量に相当する。また、トレッド展開幅TDWは、曲率半径R1の中央部円弧21aにおけるタイヤ幅方向の円弧長をL1、曲率半径R2のショルダー側円弧21bにおけるタイヤ幅方向の円弧長をL2とすると、TDW=(L1+L2)×2に相当する。そして、本実施の形態では、トレッド面21において中央部円弧21aとショルダー側円弧21bとの間には異なる曲率半径の円弧は設定されていないことから、曲率半径R1の中央部円弧21aにおけるタイヤ幅方向の円弧長L1が基準展開幅Lに相当することになる。なお、トレッド面21において中央部円弧21aとショルダー側円弧21bとの間に異なる曲率半径の円弧が設定されている場合、基準展開幅Lは、タイヤ赤道面Sからショルダー側円弧21bのタイヤ幅方向内側端部位置Gまでの間にある円弧の円弧長の和となる。言い換えれば、L=TDW/2−L2となる。
上記のように空気入りタイヤ1の各部を規定した場合に、トレッド面21は、角度θが1[度]<θ<3[度]の範囲に設定され、曲率半径R1と曲率半径R2との関係を下記の式(1)で求め、この式(1)よって求められたF1(トレッド部面曲率半径比)が、5<F1<10の範囲に設定される。さらに、基準展開幅Lとトレッド展開幅TDWとの関係を下記の式(2)で求め、この式(2)よって求められたF2(展開幅比)が、0.4<F2<0.7の範囲に設定されるように形成される。
式(1)・・・F1=Rc/Rs
式(2)・・・F2=L/(TDW/2)
かかる構成によれば、角度θ、中央部円弧21aの曲率半径R1、ショルダー側円弧21bの曲率半径R2、基準展開幅L(言い換えれば、円弧長L1、円弧長L2、トレッド展開幅TDW)のプロファイル変量因子が上記のように設定されることで、トレッド面21のタイヤ幅方向に沿ったプロファイルの曲率が直線に近づくことから、操縦安定性能と耐フラットスポット性能の両立に対して最適化することができる。
すなわち、角度θが1[度]<θ<3[度]の範囲に設定されることにより、角度θが3[度]よりも小さいので、トレッド面21にて、トレッド部2からサイドウォール部4にかけてのショルダー部3付近での角度変化が小さくなる。すなわち、トレッド部2の両端部に連続するショルダー部3におけるセンタークラウンCLに対する落ち込み量を少なくすることができ、トレッド面21の曲率を平坦に近づけることができる。一方、角度θが1[度]よりも大きいので、この角度θが小さすぎて空気入りタイヤ1としての適正な形状が崩れてしまうことを防止できる。さらに、曲率半径R1と曲率半径R2との関係式(1)によって求められたF1を、5<F1=Rc/Rs<10の範囲に設定し、かつ基準展開幅Lとトレッド展開幅TDWとの関係式(2)によって求められたF2を、0.4<F2=L/(TDW/2)<0.7の範囲に設定することにより、トレッド面21のプロファイルをより平坦な形状に近付け、トレッド面21における接地圧の均一化を図ることができる。これにより、トレッド面21やショルダー部3、ビード部5における局所的な変形、特に、トレッド面21が表面に形成されたトレッド部2のタイヤ径方向内側に配置されるベルト補強層8や、荷重が作用した際に耐フラットスポット性能に対して影響が大きいビードフィラー52の局所的な変形が抑制される。これにより、空気入りタイヤ1の熱冷却の際の残留歪を低減し、フラットスポットの発生を抑制できる。
また、本実施の形態にかかる空気入りタイヤ1は、特に、タイヤ幅方向の距離が比較的長い扁平率55[%]以下のものに適用されることで、より顕著に耐フラットスポット性能の向上効果を奏する。なお、偏平率とは、図1に示すように、タイヤ幅Wに対するタイヤ高さHtを比率で表したものである。
本実施の形態では、条件が異なる複数種類の空気入りタイヤについて、耐サイドカット性、タイヤ耐久性、ユニフォーミティ(UF)および耐フラットスポット性に関する性能試験が行われた(図10参照)。
この性能試験では、タイヤサイズ225/45ZR17の空気入りタイヤを、JATMA規定の正規リムに組み付け、JATMA規定の最高空気圧を充填し、JATMA規定の最大荷重を加えた。
評価方法は、耐サイドカット性の性能試験では、試験タイヤの空気圧を200kPaにして排気量2000ccの乗用車に装着し、角を半径1mmで面取りした高さ110mmの鋼製試験縁石に対し、時速10km/hで進入角度30度で進入して乗り上げ、これを時速2.5km/hずつ増加させながら、エア漏れあるいはタイヤが破壊するまで実施した。この結果に基づいて比較例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。タイヤ耐久性の性能試験では、ドラム径1707mmでJATMA高速耐久性試験終了後、30分毎に10km/h加速してタイヤが破壊するまで試験を続行した。この結果に基づいて比較例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。また、ユニフォーミティの性能試験では、JIS D4233に従いRFV値を測定した。このときの空気圧は230kPa、タイヤ荷重は5kNである。この結果に基づいて比較例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。また、耐フラットスポット性の性能試験では、ユニフォーミティを上記と同様に測定し、時速150km/hで30分予備走行後に、荷重を負荷した状態で1時間ドラム停止する。その後、再び、タイヤユニフォーミティを測定し、ラジアルフォースバリエーションの予備走行前後の差ΔRFVを評価指標とする。この差ΔRFVが小さいほど、耐フラットスポット性に優れる。この結果に基づいて比較例1を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
比較例の空気入りタイヤは、高コード部および低コード部を有しておらず、溝部の深さ、ショルダー部落ち込み量θ、トレッド部面曲率半径比(R1/R2)および展開幅比(L/(TDW/2))が適正化されている。一方、実施例1〜実施例7の空気入りタイヤは、高コード部および低コード部を有しており、高コード部に対する低コード部のカーカス剛性比(RB/RA)、コード部のタイヤ周方向最大寸法、コード部総数、溝部の深さ、高コード部に対する低コード部の断面積比(SB/SA)、溝部がカーカス最大幅位置Jを含むか否か、ショルダー部落ち込み量θ、トレッド部面曲率半径比(R1/R2)および展開幅比(L/(TDW/2))がそれぞれ適正化されている。
図10の試験結果に示すように、実施例1〜実施例7の空気入りタイヤでは、それぞれ耐久性およびユニフォーミティが許容範囲で維持され、かつ耐サイドカット性および耐フラットスポット性に優れていることが分かる。