JP2009041101A - 絶縁膜被覆粉体及びその製造方法 - Google Patents

絶縁膜被覆粉体及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 機械特性や絶縁性に優れた圧粉磁心コアを得ることが可能な粉体、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザン及び溶媒を含有する塗布液組成物から得られる絶縁膜を備える絶縁膜被覆粉体。
【選択図】 なし

Description

本発明は、絶縁膜被覆粉体及びその製造方法に関する。
耐熱性、耐摩耗性、耐蝕性の点で優れるシリカ被膜は、例えば、半導体装置における半導体基板と金属配線層との間、金属配線層間又は半導体基板上の各種素子上に設けられる絶縁膜として用いられている。
シリカ被膜はまた、液晶表示装置においてはガラス基板と透明電極膜(ITO膜など)との間、透明電極膜と配向膜との間の絶縁膜として又は画素電極若しくはカラーフィルター上に設けられる保護膜として用いられている。
このような分野で用いられるシリカ質被膜は、一般にCVD法、スパッタリング法等の気相成長法又はシリカ質被膜形成用塗布液を用いる塗布法によって基板上に形成されている。ただ、気相成長法によると、手間がかかると共に大きな設備を必要とし、しかも凹凸面上に被膜を形成する場合に凹凸面の平坦化ができないなどの問題があるため、近年は塗布法が広く採用されている。
ポリシラザンは、シリカ、窒化ケイ素又は酸窒化ケイ素への転化できる化合物であり、耐熱性や耐磨耗性に優れたシリカ系被膜を与える前駆体化合物として注目されている。ポリシラザンのSi−N結合部分がSi−O結合に変換されるのには、一般的に900℃程度の焼成温度が必要である。しかし、ポリシラザンを他の材料と複合して使用する場合には、そのような高い焼成温度に耐えられない材料であることがほとんどあることから、より低温での焼成でシリカ転化できるポリシラザンが望まれていた。
ポリシラザンとしてパーヒドロポリシラザンを用いた場合、シリカへの転化温度を450℃付近まで低下できるため、このような化合物とシリカ粒子とを含有する塗布液が検討されている(特許文献1)。
特許文献2では、パーヒドロポリシラザンとシリカゾルとを含む絶縁材料を用い、軟磁性金属粉の表面に絶縁相を形成することが検討されている。
軟磁性を有する金属粉を用いた応用例として、例えば、軟磁性を有する金属粉を押し固めた磁心コア(圧粉磁心コア)が挙げられる。そして、モータの小型化や低コスト化において、その高性能化が期待されているが、現状の圧粉磁心コアでは、抗折強度等の機械特性や電気抵抗率において改善の余地がある。
特許第3330643号明細書 特開2002−289414号公報
そこで本発明の目的は、機械特性や絶縁性に優れた圧粉磁心コアを得ることが可能な粉体、及びその製造方法を提供することにある。
本発明は、オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザン及び溶媒を含有する塗布液組成物から得られる絶縁膜を備える絶縁膜被覆粉体を提供する。
本発明の絶縁膜被覆粉体は、芯材となる粉体が絶縁膜で被覆されたものであるが、絶縁膜は、オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザン及び溶媒を含有する塗布液組成物から得られるものであるため、実用上問題となるようなクラックが発生せず、透明性、成膜性、絶縁性及び耐熱性が優れる。したがって、この絶縁膜被覆粉体を適用することで、機械特性や絶縁性に優れた圧粉磁心コアを得ることが可能となる。
なお、圧粉磁心コアは、モータ等の小型化及びモータ等の部品の複雑化に対する適応性、すなわち設計上の自由度の観点から、従来の薄いケイ素鋼板を積層したものと比較して優位にある。圧粉磁心コアの高性能化には、モータの効率の指標でもある鉄損を小さくすること、すなわち渦電流損失及びヒステリシス損失の両方を小さくすることだけでなく、保持力の低減も必要である。
例えば、ヒステリシス損失と保持力とを低減するために、圧粉磁心コアを形成する鉄粉の圧縮成型体中での磁気的歪を伴う異方性を除去するため、500℃以上で成型体を焼鈍するプロセスが必要となる。この場合、このような高温下においても破壊されない絶縁膜材料が鉄粉上に残存する必要があるが、本発明の絶縁膜被覆粉体はこのような要求条件を充分に満たすものである。
本発明で用いるオルガノシラン化合物は、下記一般式(I)で表されるオルガノシラン化合物が好ましい。ここで、nは1又は2;Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基又はフェネチル基;Zは水酸基又は加水分解性基;をそれぞれ示す。
SiZ(4−n) (I)
一般式(I)で表わされるオルガノシラン化合物は、Zで表わされる水酸基又は加水分解性基を有しているために、シリカ粒子表面のシラノール基との反応性に優れ、ポリシラザンとシリカ粒子との反応を確実に防止できるような反応生成物をシリカ粒子表面上に形成できる。また、Zの基の数が2又は3であるために、オルガノシラン化合物がシリカ表面のシラノール基に反応するのみならず、オルガノシラン化合物相互間でも加水分解・縮合反応が生じ、緻密な被膜がシリカ粒子表面上に形成される。したがって、塗布液組成物の安定性及び取扱い性が顕著に向上する。
オルガノシラン化合物は、下記一般式(IIa)で表わされるアルコキシシラン化合物又は下記一般式(IIb)で表わされるハロゲノシラン化合物が好適である。すなわち、シリカ粒子表面と反応し得るアルコキシシラン化合物又はハロゲノシラン化合物によってシリカ粒子を修飾することが好ましい。ここで、nは1又は2;Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基又はフェネチル基、Rはメチル又はエチル基;Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子;をそれぞれ示す。
Si(OR(4−n) (IIa)
SiX(4−n) (IIb)
一般式(IIa)又は(IIb)で表わされるオルガノシラン化合物は、特にシリカ粒子表面との反応性に優れ、加水分解・縮合物を容易に形成する。したがって、塗布液組成物の安定性や取扱い性が更に優れるようになる。
ポリシラザンは、一般式(III)で表される化合物であることが好ましい。ここで、nは2以上の整数;R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、フルオロアルキル基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基又はアルキルシリル基;をそれぞれ示す。
Figure 2009041101
上記構造のポリシラザンは、従来の方法では容易にシリカ粒子と反応して塗布液組成物の安定性を低下させてしまう化合物であるが、本発明では、このような化合物を使用した場合でも塗布液組成物の安定性が損なわれることがない。また、上記構造のポリシラザンは加熱硬化により絶縁膜を形成しやすい点からも好ましい。
塗布液組成物は、表面改質されたシリカ粒子100質量部に対して、ポリシラザンを0.01〜20質量部含有することが好ましい。すなわち、ポリシラザンの固形分濃度が、シリカ粒子濃度に対して0.01〜20質量%であるようにするとよい。
塗布液組成物がこのような比率で存在すると、加熱硬化して得られる硬化膜の性能に優れるようになり、例えば、耐熱性やクラック発生防止の点において良好となる。
塗布液組成物に含まれる溶媒は、トルエン、キシレン、メシチレン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒であることが好ましい。
このような疎水性溶媒を用いることで、シリカ粒子の塗布液組成物中の分散安定性を向上させることができるようになる。
絶縁膜により被覆される粉体、つまり芯材となる粉体は、鉄、銅、ニッケル、銀、金、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛若しくはこれらの酸化物からなる粉体、又は、酸化被膜若しくはリン酸塩被膜を表面に備える鉄の粉体であることが好ましい。またそれらの粉体の形状は球状、針状、ダルマ状、フレーク状等、どのようなものでも良い。上述したような絶縁膜の形成された鉄粉、酸化被膜又はリン酸塩被膜を表面に備える鉄粉は、例えば、圧粉磁心コア等に用いることができるため、極めて有用である。
絶縁膜は、芯材となる粉体を塗布液組成物で被覆し加熱硬化させて得られるものであることが好適である。すなわち、塗布液組成物を粉体に塗布後、塗布液組成物を加熱して揮発成分を除去し、塗布液組成物の主成分を硬化させることにより、絶縁膜を得ることができる。
また、本発明は、オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザン及び溶媒を含有する塗布液組成物で、芯材となる粉体を被覆し、大気中で200℃〜450℃で加熱して、ポリシラザンを酸化物及び/又は窒化物に転化させ絶縁膜とする工程を備える、絶縁膜被覆粉体の製造方法を提供する。すなわち、上記塗布液組成物を塗布した粉体を大気中で200℃〜450℃で加熱し、ポリシラザンを酸化物及び窒化物に転化させることにより、耐熱性に優れた被膜が形成可能になる。
本発明では、オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子を含む塗布液組成物を使用しているが、このような組成物を用いることによって絶縁膜被覆粉体製造時の安定性や取扱い性が向上する。従来、シリカ系絶縁膜の作製において、パーヒドロポリシラザンとコロイダルシリカ粒子を含有する組成物が用いられていたが、このような組成では安定性や取扱い性が不充分である。
これは、ポリシラザンがシリカ粒子の表面に存在するシラノール基と反応することに起因すると考えられる。上記塗布液組成物では、シリカ粒子表面上に存在するシラノール基等に反応性を有するオルガノシラン化合物(シリカ粒子表面と反応性のオルガノシラン化合物)で表面改質したシリカ粒子を用いているために、塗布液組成物中でのシリカ粒子とポリシラザンとの反応が十分なレベルまで低減され、塗布液組成物の安定性が向上する。また安定性が向上するために、長期間保管が可能になり、また塗布途中に次第にゲル化して安定的な塗布ができなくなるような問題が生じなくなるため、取扱い性が向上する。
また、オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子を含む塗布液組成物を使用することにより、粉体表面上に形成される被膜(加熱硬化させた絶縁膜)に、実用上問題となるようなクラックが発生せず、透明性、成膜性、絶縁性及び耐熱性が優れるようになる。したがって、本発明の製造方法に従って得られる絶縁膜被覆粉体を適用することで、機械特性や絶縁性に優れた圧粉磁心コアを得ることが可能となる。
本発明によれば、機械特性や絶縁性に優れた圧粉磁心コアを得ることが可能な粉体、及びその製造方法が提供される。
本発明の絶縁膜被覆粉体の絶縁膜を形成する塗布液組成物は、オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザン及び溶媒を必須成分として含有する。
本発明において用いられるシリカ粒子は、SiOを主成分とした粒子形状を有するものである。一般にシリカゾル、オルガノシリカゾル、コロイダルシリカ等と称されているものは本発明におけるシリカ粒子に該当する。
シリカ粒子の形状としては球状が好ましいが、紡錘形状、針状など非球状のものであっても使用可能である。シリカ粒子は一次粒子が凝集して二次粒子を形成していてもよく、粒子形状の一次粒子が連結してネックレス状の形状を呈していてもよい。
シリカ粒子の粒径は1〜150nmがよく、5〜120nmがより好ましい。成膜性や透明性の観点からは、50nm以下のナノスケールのシリカ粒子が好適であるため、シリカ粒子の粒径は10〜50nmが更に好ましく、10〜30nmが特に好ましい。
シリカ粒子は分散媒に分散された状態で提供されてもよい。この場合の分散媒としては、アルコール系分散媒、グリコール系分散媒、ケトン系分散媒、エーテル系分散媒が挙げられ、アルコール系分散媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールが、グリコール系分散媒としては、エチレングリコールが、ケトン系分散媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンが、エーテル系分散媒としては、エチルセロソルブ、メチルセロソルブ、プロピルセロソルブ、ブチルセロソルブが挙げられる。
シリカ粒子が分散媒に分散されている場合、シリカ粒子の濃度(固形分)は、分散物全量を基準として、1〜50質量%がよく、5〜50質量%がより好ましく、10〜30質量%が更に好ましい。また、この場合、分散物の粘度は0.1〜40mPa・sが好ましく、1〜30mPa・s、更には1〜20mPa・sが好ましい。
本発明において用いられるオルガノシラン化合物は、有機ケイ素化合物を意味し、下記一般式(I)で表されるオルガノシラン化合物が好ましく用いられる。
SiZ(4−n) (I)
一般式(I)において、nは1又は2であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基又はフェネチル基である。また、Zは水酸基又は加水分解性基である。Rが複数存在する場合において、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。同様に、Zが複数存在する場合において、Zはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
である炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が挙げられる。Zである加水分解性基としては、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基、ケトキシメート基、アミノオキシ基、カルバモイル基又はメルカプト基が挙げられ、ハロゲン原子又はアルコキシ基が特に好ましい。
すなわち、オルガノシラン化合物は、下記一般式(IIa)で表わされるアルコキシシラン化合物又は下記一般式(IIb)で表わされるハロゲノシラン化合物が好ましい。
Si(OR(4−n) (IIa)
SiX(4−n) (IIb)
一般式(IIa)及び(IIb)において、nは1又は2であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基又はフェネチル基である。また、Rはメチル又はエチル基であり、Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。ここで、Rである炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基が挙げられる。
一般式(IIa)及び(IIb)において、Rが複数存在する場合において、Rはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。OR及びZについても同様である。
アルコキシシラン化合物の具体例としては、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチルトリメトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ベンジルトリメトキシシラン、フェネチルトリメトキシシラン等のトリメトキシシラン類、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、tert−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ベンジルトリエトキシシラン、フェネチルトリエトキシシラン等のトリエトキシシラン類、ジメチルジメトキシシラン、エチルメチルジメトキシシラン、メチルn−プロピルジメトキシシラン、メチルiso−プロピルジメトキシシラン、n−ブチルメチルジメトキシシラン、メチルtert−ブチルジメトキシシラン、メチルn−ペンチルジメトキシシラン、n−ヘキシルメチルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、ベンジルメチルジメトキシシラン、フェネチルメチルジメトキシシラン等のジメトキシシラン類、ジメチルジエトキシシラン、エチルメチルジエトキシシラン、メチルn−プロピルジエトキシシラン、メチルiso−プロピルジエトキシシラン、n−ブチルメチルジエトキシシラン、メチルtert−ブチルジエトキシシラン、メチルn−ペンチルジエトキシシラン、n−ヘキシルメチルジエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ベンジルメチルジエトキシシラン、フェネチルメチルジエトキシシラン等のジエトキシシラン類又はハロゲノシラン化合物としては、メチルトリクロロシラン、エチルトリクロロシラン、n−プロピルトリクロロシラン、iso−プロピルトリクロロシラン、n−ブチルトリクロロシラン、tert−ブチルトリクロロシラン、n−ペンチルトリクロロシラン、n−ヘキシルトリクロロシラン、シクロヘキシルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ベンジルトリクロロシラン、フェネチルトリクロロシラン等のトリクロロシラン類、ジメチルジクロロシラン、エチルメチルジクロロシラン、メチルn−プロピルジクロロシラン、メチルiso−プロピルジクロロシラン、n−ブチルメチルジクロロシラン、メチルtert−ブチルジクロロシラン、メチルn−ペンチルジクロロシラン、n−ヘキシルメチルジクロロシラン、シクロヘキシルメチルジクロロシラン、メチルフェニルジクロロシラン、ベンジルメチルジクロロシラン、フェネチルメチルジクロロシラン等のジクロロシラン類などが挙げられる。
上述したオルガノシラン化合物はシリカ粒子の表面改質に用いられる。ここで表面改質とは、オルガノシラン化合物がシリカ粒子の表面に物理的及び/又は化学的に結合して、その表面状態を変化させることをいう。
シリカ粒子表面には、通常、RSiOHで示されるようなシラノール基が存在しており、これがオルガノシラン化合物と縮合して化学結合を生じることが好ましい。一般式(I)で表わされるオルガノシラン化合物においてZで表わされる基が水酸基である場合はそのまま縮合反応が生じ得るが、Zで表わされる基が加水分解性基である場合は、まず加水分解が起こりシラノール基を生じ、それがシリカ粒子表面上のシラノール基と縮合する場合もある。
シリカ粒子とオルガノシラン化合物との加水分解・縮合反応、すなわち表面改質(修飾反応)を温和かつ迅速に進行させるために、無機酸、有機酸、酸性イオン交換樹脂等の酸触媒を用いることができる。この場合、特に、塩酸、硝酸、酢酸、クエン酸、ギ酸、シュウ酸等を用いるのが好ましいが、塩酸、酢酸等は揮発性が高く、塗布液に残留しにくいという点で特に好ましい。上述したようなシリカ粒子とオルガノシラン化合物との好適な反応性及び、塗布液からの除去の容易性の観点から、シリカ粒子100質量部に対して5〜10質量部添加することが好ましい。
修飾反応の温度は、シリカ粒子の好ましくない凝集を回避するため、0〜50℃で行うことが好ましいが、10〜40℃で行うことがより好ましい。さらに分散媒に使用されている溶媒に関しては、特に限定されるものではないが、イソプロピルアルコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トルエン、キシレンなどが好ましい。但し、ポリシラザンと混合することを想定すると、アルコール系や水を溶解しやすい溶媒である場合には、溶媒置換することによって、トルエンやキシレンなどの疎水性溶媒に交換することが好ましい。
シリカ粒子の表面改質を確実に行い、塗布液組成物中でのポリシラザンとの反応を防止する観点から、シリカ粒子100質量部に対して、オルガノシラン化合物を40〜70質量部(好ましくは45〜65質量部、更には50〜60質量部)添加することが好ましい。また、オルガノシラン化合物の加水分解・縮合反応を好適に進行させるために、シリカ粒子100質量部に対して1〜20質量部、好ましくは3〜10質量部、更には5〜7質量部)の酸触媒を添加することが好ましい。
塗布液組成物はポリシラザンを含有する。ポリシラザンとしては、一般式(III)で表される化合物が好適である。
Figure 2009041101
一般式(III)において、nは2以上の整数であり、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、フルオロアルキル基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基又はアルキルシリル基である。一般式(III)で表わされるポリシラザンとしては、硬化温度の点から、パーヒドロポリシラザン(R,R=H,R=H)が特に好ましい。
塗布液組成物におけるポリシラザンの含有量は、表面改質後のシリカ粒子の質量を基準に決定することができる。塗布液組成物を加熱硬化して得る被膜の特性や硬化時間、塗布液の安定性の観点から、表面改質されたシリカ粒子(固形分)100質量部に対して、0.01〜20質量部(質量%)が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
また、塗布液組成物は、オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザンの他に溶媒を含有する。
溶媒は、表面改質されたシリカ粒子及びポリシラザンを分散させることのできる溶媒であればよく、これらと反応を生じない溶媒であることが特に好ましい。溶媒としては、トルエン、キシレン、メシチレン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン若しくはプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート又はこれらの混合溶媒が好ましい。
塗布液組成物の全量を基準として、溶媒は70〜99質量%含まれることが好ましく、90〜97質量%含まれることがより好ましい。
塗布液組成物には、上述した必須成分の他、シランカップリング剤等の添加成分を1〜10質量%含んでいてもよい。
塗布液組成物は、先ず表面改質されたシリカ粒子を調製した後、ポリシラザンと混合して製造することができる。オルガノシラン化合物が溶媒に溶解又は分散された状態で提供される場合、シリカ粒子が溶媒に分散された状態で提供される場合、或いは、ポリシラザンが溶媒に溶解又は分散された状態で提供される場合は、これらの溶媒をそのまま塗布液組成物の溶媒としてもよい。また、適宜溶媒を追加したり、置換してもよい。
オルガノシラン化合物によるシリカ粒子の表面改質は上記の方法・条件で行うことができ、それにより得られた表面改質後のシリカ粒子(又は表面改質後のシリカ粒子の溶媒分散物)は、常温でポリシラザン(又はポリシラザンの溶液・溶媒分散物)と混合し、適宜、溶媒の追加や置換を行うことで塗布液組成物が調製できる。
上述した塗布液組成物を、被塗布物上で加熱硬化させることにより絶縁膜を得ることができる。絶縁膜により被覆される粉体は、1次粒子あっても、2次粒子を形成していてもよく、平均粒径が、50μm〜300μmの場合、特に100μm〜200μmの場合、絶縁膜が良好に形成される。粉体の粒径が50μmより小さい場合、表面積が大きくなり、絶縁膜被覆過程において、塗布液による2次粒子の形成が有利となり易い。これによって薄く良好な絶縁膜を得ることが困難となる。粉体が300μmを超える場合、最初から凝集した大粒子が多いことになるので、一旦良好な絶縁膜形成されても、外圧によって容易に崩壊し、絶縁膜の欠損が生じやすくなる。また、粉体に塗布液組成物を塗布して、大気中で200℃〜450℃で加熱し、ポリシラザンを酸化物及び/又は窒化物(好ましくは酸化物及び窒化物)に転化させて絶縁膜を形成することができる。
本発明における塗布液組成物は、上記表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザンの主成分以外に、溶媒等を含むが、まず塗布液組成物を加熱して溶媒等の揮発成分を除去し、続いて塗布液組成物の主成分を硬化させることにより、絶縁膜を得ることができる。主成分を硬化させることは、すなわちポリシラザンを酸化物及び/又は窒化物(好ましくは酸化物及び窒化物)に転化させて絶縁膜を形成することである。
塗布液組成物は、粉体に塗布された後、100〜250℃、好ましくは120〜220℃、更には150〜200℃で予備乾燥し、200〜450℃、好ましくは280〜450℃、更には300〜450℃で予備硬化し、450〜700℃、好ましくは500〜650℃、更には550〜600℃で本硬化することが好ましい。
塗布液組成物は、水分によりその硬化反応を促進するので、200〜450℃の予備硬化は大気中で行うことが好ましい。予備硬化は1〜2時間、好ましくは1〜3時間、さらには1〜4時間、本硬化は1〜2時間、好ましくは1〜3時間、さらには1〜4時間行うことが好ましい。本硬化は窒素又はアルゴンなどの不活性ガス下で行うことが好ましい。
粉体としては、ガラス粉、セラミック粉、金属粉、金属酸化物粉、金属硫化物粉、耐熱性樹脂粉、磁性粒子等が挙げられる。これらの粉体にたいしても塗布液組成物のコーティングは可能であり、これらの表面に絶縁膜を形成できる。
粉体は、鉄粉、酸化被膜又はリン酸塩被膜を表面に備える鉄粉であることが好ましい。このような粉体表面上に、上述の塗布液組成物を塗布して得られる絶縁膜被覆粉体は、耐熱性にも優れるため、例えば加圧加熱を施して、小型でかつ複雑な形状を有する磁性材料を成型することが可能である。そして、本発明に係る絶縁膜被覆粉体は、圧粉磁心コア、モータのローターやステーター、リアクトル等に用いることができる。そして、このような磁性材料を用いることにより、例えば、電動機(モータ)、変圧器(トランス)、発電機、インバーター、アクチュエータ、センサー等、電磁気を利用した部品や装置の小型化が可能となる。
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
(塗布液合成例)
(合成例1)
300mlのナス型フラスコに、日産化学製オルガノシリカゾルIPA−ST(イソプロピルアルコール分散液、固形分濃度30質量%)100g、アズマックス社製シクロヘキシルメチルジメトキシシラン15g及び塩酸(0.05mol/L)3gを入れ、窒素気流下に15℃で24時間撹拌した。
得られた液にシクロヘキサン100gを添加して150hPa減圧下で約100gの溶媒を留去した。その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート55gを添加して90hPaの減圧下で反応液の重量が約100gになるまで濃縮し、固形分濃度34.6質量%の分散液を得た。
(合成例2)
300mlのナス型フラスコに、日産化学製オルガノシリカゾルIPA−ST(イソプロピルアルコール分散液、固形分濃度30質量%)100g、アズマックス社製シクロヘキシルメチルジメトキシシラン15g及び塩酸(0.05mol/L)2gを入れ、窒素気流下に15℃で24時間撹拌した。
得られた液にシクロヘキサン100gを添加して150hPa減圧下で100gの溶媒を留去した。その後、キシレン55gを添加して90hPaの減圧下で反応液の重量が約100gになるまで濃縮し、固形分濃度40.8質量%の分散液を得た。
(合成例3)
300mlのナス型フラスコに、日産化学製オルガノシリカゾルIPA−ST(イソプロピルアルコール分散液、固形分濃度30質量%)100g、信越化学社製ヘキシルトリメトキシシラン(LS−3130)15g及び塩酸(0.05mol/L)3gを入れ、窒素気流下に15℃で24時間撹拌した。
その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート55gを添加して90hPaの減圧下で反応液の重量が約100gになるまで濃縮し、固形分濃度34.3質量%の分散液を得た。
(合成例4)
300mlのナス型フラスコに、日産化学製オルガノシリカゾルIPA−ST(イソプロピルアルコール分散液、固形分濃度30質量%)100g、信越化学社製ヘキシルトリエトキシシラン(LS−4808)15g及び塩酸(0.05mol/L)3gを入れ、窒素気流下に15℃で24時間撹拌した。
その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート55gを添加して90hPaの減圧下で反応液の重量が約100gになるまで濃縮し、固形分濃度33.1質量%の分散液を得た。
(合成例5)
300mlのナス型フラスコに、日産化学製オルガノシリカゾルIPA−ST(イソプロピルアルコール分散液、固形分濃度30質量%)100g、東京化成社製フェニルトリメトキシシラン15g及び塩酸(0.05mol/L)3gを入れ、窒素気流下に15℃で24時間撹拌した。
その後、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート55gを添加して90hPaの減圧下で反応液の重量が約100gになるまで濃縮し、固形分濃度37.3質量%の分散液を得た。
(合成例6)
300mlのナス型フラスコに、日産化学製オルガノシリカゾルIPA−ST(イソプロピルアルコール分散液、固形分濃度30質量%)100g、東京化成社製フェニルトリメトキシシラン15g及び塩酸(0.05mol/L)3gを入れ、窒素気流下に15℃で24時間撹拌した。
その後、キシレン55gを添加して90hPaの減圧下で反応液の重量が約100gになるまで濃縮し、固形分濃度48.3質量%の分散液を得た。
上記合成例1〜6に示されたような方法で得られた表面改質シリカとポリシラザンの混合についての実施例を以下に示す。
(実施例1〜6)
合成例1〜6で得られた表面改質シリカ分散液6gをサンプルビンに取り、AZエレクトロニックマテリアルズ社製パーヒドロポリシラザンNN−110(混合キシレン溶液、固形分濃度20質量%)を様々な濃度で混合して、表面改質シリカ/ポリシラザン分散液を調製した。配合比及び得られた結果を表1に示す。
(比較例1)
合成例1〜6にあるような表面処理を施さない日産化学製オルガノシリカゾルIPA−ST(イソプロピルアルコール分散液、固形分濃度30質量%)10gにAZエレクトロニックマテリアルズ社製パーヒドロポリシラザンNN−110(キシレン溶液、固形分濃

度20質量%)0.5gを添加し激しく混合したところ、激しく発泡してゲル化し、塗布可能な均一液は得られなかった。
Figure 2009041101
さらに、実施例2で得られた均一塗布液を用いた絶縁膜を鉄粉表面上へ成膜する実施例を以下の表2に示す。
(絶縁膜前駆体溶液の鉄粉への塗布例)
(実施例7)
上記実施例2で得られた塗布液(表面改質シリカ/ポリシラザン配合比=90/10、固形分濃度30質量%)にトルエンを添加し、固形分濃度を3質量%に調整した(以下、絶縁膜前駆体溶液という。)。神戸製鋼所製純鉄粉300NH 20gに、上記絶縁膜前駆体溶液を2g滴下し、鉄粉を浸漬後、溶媒を除去するために20℃で30分間乾燥した。その後、450℃で1時間焼成した。窒素気流下で放冷後、表面が絶縁膜によって覆われた鉄粉が得られた。この鉄粉を49MPa(500kgf/cm)の圧力下で円盤状に成型した。
そしてこの鉄粉をXPSによって、その表面の元素分析を行った。さらに、元素分析結果より、鉄粉表面の被覆率を求めた。
(実施例8〜11)
表面改質シリカ/ポリシラザン配合比を下記の表2のようにした以外は実施例7と同様にして、表面が絶縁膜によって覆われた鉄粉を得、それを円盤状に成型した。
Figure 2009041101
ポリシラザンの配合比率が増大するとともに、鉄粉表面の被覆率が増加し、効率的に絶縁膜の得られることが明らかとなった。
(絶縁膜被覆鉄粉の成型、焼成後の比抵抗)
上記実施例9で得られた塗布液(表面改質シリカ/ポリシラザン配合比=97/3、固形分濃度30質量%)を3質量%に調整した絶縁膜前駆体溶液2gを、神戸製鋼所製純鉄粉300NH20gに滴下し、鉄粉を浸漬、撹拌後、溶媒を除去するために200℃で30分間乾燥した。
得られた絶縁膜前駆体被覆鉄粉約6gを、室温にて、1000MPaの成型圧力で直径14mmの円筒状に成型した。これを窒素中600℃、1時間焼成した。そしてこの成型体の比抵抗を4端子抵抗測定法にて測定したところ比抵抗は40μΩmであった。

Claims (9)

  1. オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザン及び溶媒を含有する塗布液組成物から得られる絶縁膜を備える絶縁膜被覆粉体。
  2. 前記オルガノシラン化合物は、下記一般式(I)で表されるオルガノシラン化合物である請求項1記載の絶縁膜被覆粉体。
    SiZ(4−n) (I)
    [式中、nは1又は2;Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基又はフェネチル基;Zは水酸基又は加水分解性基;をそれぞれ示す。]
  3. 前記オルガノシラン化合物は、下記一般式(IIa)で表わされるアルコキシシラン化合物又は下記一般式(IIb)で表わされるハロゲノシラン化合物である請求項1又は2記載の絶縁膜被覆粉体。
    Si(OR(4−n) (IIa)
    SiX(4−n) (IIb)
    [式中、nは1又は2;Rは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルケニル基、シクロヘキシル基、フェニル基、ベンジル基又はフェネチル基、Rはメチル又はエチル基;Xはフッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子;をそれぞれ示す。]
  4. 前記ポリシラザンは、一般式(III)で表される化合物である請求項1〜3のいずれか一項に記載の絶縁膜被覆粉体。
    Figure 2009041101

    [式中、nは2以上の整数;R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子、フルオロアルキル基、アルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルアミノ基又はアルキルシリル基;をそれぞれ示す。]
  5. 前記塗布液組成物は、表面改質された前記シリカ粒子100質量部に対して、前記ポリシラザンを0.01〜20質量部含有する塗布液組成物である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の絶縁膜被覆粉体。
  6. 前記溶媒は、トルエン、キシレン、メシチレン、2−ブタノン、メチルイソブチルケトン及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートからなる群より選ばれる少なくとも一つの溶媒である請求項1〜5のいずれか一項に記載の絶縁膜被覆粉体。
  7. 前記絶縁膜被覆粉体は、
    鉄、銅、ニッケル、銀、金、マグネシウム、アルミニウム、亜鉛若しくはこれらの酸化物からなる粉体上、又は、酸化被膜若しくはリン酸塩被膜を表面に備える鉄の粉体上に、前記絶縁膜を備えるものである、請求項1〜6のいずれか一項に記載の絶縁膜被覆粉体。
  8. 前記絶縁膜は、粉体を前記塗布液組成物で被覆し加熱硬化させて得られるものである、請求項1〜7のいずれか一項に記載の絶縁膜被覆粉体。
  9. オルガノシラン化合物により表面改質されたシリカ粒子、ポリシラザン及び溶媒を含有する塗布液組成物で、粉体を被覆し、大気中で200℃〜450℃で加熱して、前記ポリシラザンを酸化物及び/又は窒化物に転化させ絶縁膜とする工程を備える、絶縁膜被覆粉体の製造方法。
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