JP2008308416A - ポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法 - Google Patents

ポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法 Download PDF

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Abstract

【課題】超臨界または亜臨界状態を形成することなく実現容易な条件でポリエチレンテレフタレート樹脂を含む製品を加水分解処理する。
【解決手段】ポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法であって、加水分解処理と、分別回収処理とを有し、加水分解処理は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を、ポリエチレンテレフタレート樹脂の融点温度以下の処理温度条件下で、その処理温度における飽和水蒸気圧の圧力で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露させ、その処理温度で発生した飽和水蒸気によって被処理物中に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解し、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合前の分解生成物を生成させる処理であり、分別回収処理は、加水分解処理による分解生成物を気体または液状成分と、固形成分とに分別してそれぞれ別個に回収する処理である。
【選択図】図5

Description

本発明は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解処理して分解生成物を回収する方法に関する。
自然界で微生物に与えられた、驚くべき能力の一つは、高分子有機化合物の加水分解能力である。微生物はこの反応を常温および常圧という全く自然の環境の中で、いとも簡単にやってのけ、有機物連鎖を分断して分子量を小さくする。この方法は何億年という長い時間をかけて微生物が獲得し、改良してきた方法であり、通常「酵素による加水分解法」と言われている。
この酵素による加水分解法は、現在のところ我々人間が知能の総力を結集してもその真似をすることは難しい。この「酵素による加水分解法」による分解物、すなわち、微生物によって分解された結果物は、他の全ての生物にとって有用な成分となり、そのまま吸収され組織化されていく基本要素となる。
酵素による加水分解法は、現段階では人間が真似をすることが難しいが、酵素による加水分解法以外の方法を用いて同じ結果を得る方法が1つある。その方法は「物理エネルギーを用いた加水分解法」である。この方法は、元々何千メートルもの深海の底に地球内部より吹き出して来る熱水による分解の現象と類似した方法である。この方法によれば、温度および圧力がともに遙かに水の臨界(375℃,220気圧)を超えた状態で反応が進行する。そして、反応の結果、有機化合物を加水分解し、金属を含めた多くの物質(化合物)を分解し、物質の構成成分を溶出させることができる。
このような高圧と高温の状態を、より現実的な状態(より常温に近い状態)にしたときにも加水分解は可能である。とりわけ有機物は100℃、1気圧を超えると、時間の積で徐々に加水分解する。そして、このような「物理エネルギーを用いた加水分解法」の結果は、微生物が行った「酵素による加水分解法」の結果と同等になる。この原理を利用して生分解性プラスチック等を分解する方法として、例えば特許文献1には、超臨界熱水処理を利用する方法、特許文献2には、亜臨界状態の熱水を利用する方法が紹介されている。
また、特許文献3には、各温度の蒸気圧で加水分解する生分解性プラスチック含む有機系廃棄物の処理方法が記載されている。特許文献3の処理方法では、生分解性プラスチックが混在する有機系廃棄物に希釈水を添加して加水分解槽により加水分解を行い、メタン発酵槽を用いて嫌気性条件化で加水分解された分解生成物のメタン発酵を行い、発酵により生成したメタンガスを回収する。加水分解は、120℃〜250℃の温度において、5〜60分間、各温度での蒸気圧で実施される。
また、特許文献4には、生分解性ポリエステルのモノマー化方法が記載されている。特許文献4のモノマー化方法では、ポリ乳酸と汎用性プラスチック(例えばPET、PSなど)との混合物が水分と共に、ポリ乳酸の融点以下の温度(160℃〜170℃)で、約30分間以上処理され、ポリ乳酸のモノマーである乳酸が分離回収される。
また、特許文献5には、混合廃プラスチックの熱分解装置が記載されている。特許文献5記載の熱分解装置は、攪拌型反応器の下方にタンク型反応器を設置し、PETを含む混合廃プラスチックを攪拌型反応器において充填物とともに攪拌しながら水蒸気と接触させ、PETを加水分解する。
特開平11−292777 特開2003−313283 特開2005−95729 特開2005−330211 特開2000−204376
超臨界や亜臨界状態での反応の例に限らず、一般に、高圧下では、比較的低温であっても物質は分圧比の影響で相転移する。しかし、有機物の場合、温度が比較的低くても圧力が飽和水蒸気圧より高いと炭化し、温度が飽和水蒸気圧より低いと溶剤等の液化混入をまねくなどの危険が生じる。したがって、実際に「物理エネルギーを用いた加水分解法」を有効に活用するには、温度および圧力などを含めた処理条件の設定が難しい。
即ち、超臨界および亜臨界流体を処理に利用する場合には、その極めて高い温度および圧力条件を発生させ、維持できる処理装置が必要となる。一般的に、高温かつ高圧状態を維持するための装置は、容積が大きくなるほどその製作が難しく、製作コストが飛躍的に高くなるため、大規模な工業設備に応用するのが難しい。さらに、超臨界および亜臨界熱水の持つ極めて高い分解能力は、処理対象有機物に留まらず処理容器そのものにも及ぶために、分解を防ぐために高価な材料を装置に使用する必要がある。
また、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品の使用後の再生利用として最も効率的で望ましいのは、使用済みのポリエチレンテレフタレート樹脂製品を再びポリエチレンテレフタレート樹脂製品の原料に戻してリサイクルすることである。ポリエチレンテレフタレート樹脂製品の原料として活用する以上、高純度の原料に戻すことが望ましいのは云うまでもない。
また、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品中には物質が混入していたり、製品に付着しているインクや塗料、そしてフィラーなど多くの混合物質が含まれていたりする。ポリ乳酸製品の再利用に倣ってポリエチレンテレフタレート樹脂製品をリサイクルするためには、混合物質を分別し、ポリエチレンテレフタレート樹脂の分解生成物のみを抽出する必要がある。このような事情から、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品を再生して活用するため、分解の条件、分解生成物を分別する手法、さらには、原料の純度、濃度を確保する手法を確立することが必要である。
上記の特許文献3では、被処理物を飽和水蒸気以下の圧力で満たし、生分解性プラスチックに希釈水を添加して加水分解槽により加水分解を行う技術が提案されているが、この技術は生分解性プラスチックを水に浸して加水分解することを前提としている。しかしながら、このような条件下で生成される物は、メタンガス生成用としては十分であっても、生分解性プラスチックの再生用としては不十分である。
また、上記の特許文献4には、ポリ乳酸の融点以下の温度で処理することが記載されているが、試料を水に浸して加水分解することを前提としており、分解に時間がかかり過ぎたり、試料に変性が生じたりする場合がある。一方、上記の特許文献5のように、ポリエチレンテレフタレートに過熱水蒸気を接触させて加水分解を生じさせる技術が提案されているが、過熱水蒸気では焦げ付き等が生じる。
本発明は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む製品を超臨界または亜臨界状態を形成することなく実現容易な条件で加水分解処理して、ポリエチレンテレフタレート樹脂の再生に利用可能な分解生成物を分別回収することを目的としている。
(1)上記の目的を達成するため、本発明に係るポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法は、ポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法であって、加水分解処理と、分別回収処理とを有し、前記加水分解処理は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の融点温度以下の処理温度条件下で、その処理温度における飽和水蒸気圧の圧力で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露させ、その処理温度で発生した飽和水蒸気によって前記被処理物中に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解し、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合前の原料物質を生成させる処理であり、前記分別回収処理は、前記加水分解処理による分解生成物を気体または液状成分と、固形成分とに分別してそれぞれ別個に回収する処理であることを特徴としている。
このように、本発明のポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法では、超臨界状態や、亜臨界状態を形成しなくても、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を飽和水蒸気圧の圧力で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露することにより、飽和水蒸気のエネルギーを用いて低圧かつ低温の条件でポリエチレンテレフタレート樹脂の分解処理を行うことが可能になる。
その結果、処理を行う装置にかかるコストを低減できる。そして、加水分解処理により、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合前の状態の原料物質が得られ、その成分を原料としてもとの樹脂製品と全く同じかそれ以上の品質で、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品を再生することができる。また、この分解回収方法は、サイクルを何度繰り返しても原料としての劣化がない。このように、本発明によれば、廃棄物処理の問題、資源の有効活用の問題を解決して好ましい資源のクローズドサイクルシステムを実現できる。ポリエチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸とエチレングリコールを重合反応させて生成される。
このように薬品類、触媒などを一切使用せずに、ポリエチレンテレフタレート樹脂を重合前のテレフタル酸とエチレングリコールに加水分解できた意義は、学術的にも工業的にも非常に大きい。特に、単純な方式で効率よくポリエチレンテレフタレート樹脂を分解できる本方法は、従来法のような複雑なプラントを必要としないことから、規模や設置場所に関する自由度が高く、幅広い業種および用途への応用が期待できる。
(2)また、本発明に係るポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法は、加水分解の処理雰囲気温度および飽和蒸気圧を維持しながら反応させ、処理後は飽和蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に則り降温中維持し、かつそのための十分な水蒸気の存在の条件を維持しつつ冷却することにより気体または液状の分解生成物および固形生成物を生成させる処理であることを特徴としている。
圧力を飽和水蒸気圧曲線に則り降温中維持する制御によって、析出する結晶成分を他の成分(顔料等)から分離することができるため、選択された特定成分を高純度の単体として得ることができる。また、圧力を飽和水蒸気圧曲線に則り降温中維持する制御によって、析出する成分を熱変性させることなく分離することができる。
(3)また、本発明に係るポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法は、前記加水分解処理は、前記被処理物中に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解し、前記分解生成物の物性の違いによって選択的に特定の分解生成物を抽出する処理であることを特徴としている。分解生成物の物性の違いによって選択的に特定の分解生成物を抽出することで、分解生成物の回収が容易になる。なお、抽出するとは、ある特定の物質を抜き出すことをいう。
(4)また、本発明に係るポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法は、前記加水分解処理は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を、前記処理対象樹脂の結晶化温度以上前記処理対象樹脂の融点温度以下の温度条件で、その処理温度における飽和水蒸気圧で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露させて前記処理対象樹脂の加水分解反応を起こさせ、反応の結果、前記処理対象樹脂の重合前成分である原料物質を気体または液状成分および固形成分として生じさせる処理であることを特徴としている。
(5)また、本発明に係るポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法は、前記加水分解処理は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を、150℃以上230℃以下の温度条件のもと、その処理温度における飽和水蒸気圧で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露させて、前記被処理物に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂に加水分解反応を起こさせ、反応の結果、ポリエチレンテレフタレート樹脂から重合前生成物である原料物質を生成させる処理であることを特徴としている。
このように、ポリエチレンテレフタレート樹脂を飽和水蒸気に曝露することで、超臨界または亜臨界の圧力と比べ低い圧力の中にもかかわらず150℃以上230℃以下の条件でポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解できる。また、その設定温度での飽和水蒸気圧のもとで数時間のうちに被処理物中のポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解することができる。完全分解した場合には、分解生成物としてテレフタル酸およびエチレングリコールが得られるが、十分に分解していない場合には、ポリエチレンテレフタレートのオリゴマー、テレフタル酸ジメチル、その他の中間生成物を含んだ分解生成物が得られる。
(6)また、本発明に係るポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法は、前記加水分解処理に先立って、前記分解再生すべき合成樹脂の融点を上限として、少なくとも前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度の近傍、または結晶化温度以上の温度で加熱する前処理を行うことを特徴としている。
このようにして、前処理としてポリエチレンテレフタレート樹脂を加熱して結晶化させた後、加水分解処理を行う。その結果、その後の加水分解処理を効率よく行うことができ処理時間を減少させることができる。
本発明によれば、超臨界状態や、亜臨界状態を形成しなくても、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品の廃棄物を加水分解し、その反応生成物を気体または液状成分と固体成分に分別して回収することができる。これにより、ポリエチレンテレフタレート樹脂の、重合前の状態の原料物質が得られ、その成分を原料としてもとの樹脂製品と全く同じかそれ以上の品質で、樹脂製品を再生することができる。また、このサイクルを何度繰り返しても原料としての劣化がない。このように、本発明によれば、廃棄物処理の問題、資源の有効活用の問題を解決して好ましい資源のクローズドサイクルシステムを実現できる。
(実施形態1)
以下に本発明の実施形態を示す。本発明は、加水分解処理と、分別回収処理とを順に行い、ポリエチレンテレフタレート樹脂を重合前の原料成分に再生する方法の発明である。加水分解処理においては、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を、そのポリエチレンテレフタレート樹脂の融点温度以下の処理温度条件のもとで、その処理温度における飽和水蒸気圧以下の圧力で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露させ、その処理温度で発生した水蒸気によって被処理物中に含まれる合成樹脂を加水分解する。この結果、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合前の原料成分が再生成される。分別回収処理においては、加水分解処理による分解生成物を気体または液体成分であるエチレングリコールと、固体成分であるテレフタル酸とに分別する。気体または液体成分は、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合前の原料成分である。さらに液体成分中に含まれる固形成分をフィルターで除去することにより、液体成分の純度を高めることができる。さらには、降下温度を制御することによって、析出する結晶成分を他の水溶性成分(顔料等)から分離することができるため、選択された特定成分を高純度の単体として得ることができる。
図1に、本発明の加水分解処理に用いる装置の一実施形態を示す。図1において、加水分解処理を行う装置は、処理チャンバー1と、抽出管2と、冷却塔3と、循環ポンプ4との組み合わせを備えている。処理チャンバー1は、内部に投入された被処理物を加熱して加水分解処理を行う釜であり、その外壁にはジャケット型ヒータ5(この例では電気式)が装備され、処理チャンバー1と、冷却塔3間は、抽出管2で接続されている。
抽出管2は、処理チャンバー1の下部の蒸気戻り口6と、上部の蒸気送出口7間をつなぐ循環管路である。冷却塔3は、その管路内に接続されている。循環ポンプ4は、冷却塔3の上流側の管路内に接続されている。また、処理チャンバー1は、被処理物の投入口8と排出口9とを有している。処理チャンバー1はその内部に、垂直軸を中心に回転しながら処理チャンバー1内に投入された被処理物を攪拌する攪拌羽根10を装備する。
処理チャンバー1の攪拌羽根10の下には、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品を保持するための第1の保持部31aおよびテレフタル酸を保持するための第2の保持部31bが設けられている。第1の保持部31aおよび第2の保持部31bは、水蒸気を通す網目状フィルターとして構成されている。第1の保持部31aの網目は、粗く形成されており、ポリエチレンテレフタレート樹脂が分解したときに、骨材等の固形物が第1の保持部31aに保持される。一方、第2の保持部31bの網目は、第1の保持部31aより細かく形成されており、ポリエチレンテレフタレート樹脂が分解されて生成されたテレフタル酸が第2の保持部31bに保持される。処理チャンバー1の底部32は、第2の保持部31bから間隔を空けて形成されており、水または処理により生じる溶液をポリエチレンテレフタレート樹脂製品に接触することなく溜めることができるように構成されている。なお、ポリエチレンテレフタレートが完全に分解されない場合には、第2の保持部31bには、ポリエチレンテレフタレートのオリゴマー、テレフタル酸ジメチル、その他の中間生成物を含んだ分解生成物も保持される。
冷却塔3は、抽出管2内の気体(蒸気)を冷却する熱交換器である。循環ポンプ4は、被処理物の加水分解処理後、処理チャンバー1内の水蒸気を冷却塔3に強制送風する。冷却塔3は、冷却塔3内に蒸気中の加水分解成分である抽出されたエチレングリコール水溶液を貯めるためのドレイン11を備える。冷却塔3内に貯められたエチレングリコール水溶液は、抽出液として容器V1内に回収される。また、チャンバー1内で加水分解後一旦気化して水に溶入されたエチレングリコール水溶液はドレイン11’を開くことによって、容器V2に回収される。容器V1、V2或いはドレイン11、11’には、フィルター15が介装されている。
上記装置を用い、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品を含む廃棄物を被処理物としてその加水分解処理を行う。図2(A)は、加水分解による有機物の分解メカニズムを示す図である。図2(A)に示すように、加水分解とは、結合している有機物の酸素と他の原子(例えば炭素C)との間に水素イオンおよび水酸化物イオン(HとOH)を作用させて結合を切る反応である。
すなわち、加水分解とは、「C」と「O」との間で電子が移動し偏在して、分極が起こり、そこに水素イオンおよび水酸化物イオン「H」と「OH」が引き寄せられて電気的に結合する現象である。加水分解には、電子と原子とのそれぞれが持つエネルギーが深く関係しており、温度および圧力の設定はこの電子と原子の励起エネルギーに直接作用している。従って、反応時の温度および圧力によって加水分解反応の反応速度は変化する。
図2(B)は加水分解によるポリエチレンテレフタレートの分解メカニズムを示す図である。温度および圧力を制御することによってポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解させ、テレフタル酸およびエチレングリコールにする。このエチレングリコールは高圧下であれば比較的低温でも、一旦気体となる。そして、この気体は水溶性であるため高圧力下で瞬時に熱水に多量に溶解する。これによって多量のエチレングリコールを溶液で回収することが可能となる。気体として残るエチレングリコールは冷却塔ドレインにて回収される。一方、テレフタル酸は、粉末状の固体として残留する。本発明においては、加水分解処理で、処理チャンバー1内の温度と圧力を制御する。その際に、図3に示すように水蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に沿って上げ、一定時間その状態を保つとともに、反応終了時には、飽和水蒸気圧曲線に沿って降温させる。このように水蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に沿って制御することで、ポリエチレンテレフタレート樹脂が炭化または変性するのを防止することができる。
ちなみに、ある温度および圧力下で1成分系の気液両相が共存するとき、その気相をなす蒸気が飽和に達している場合にその蒸気を飽和蒸気という。そして、そのときの圧力は飽和蒸気圧である。ある物質の液体の周囲で、その物質の分圧がその液体の蒸気圧に等しいとき、その液体と気体は気液平衡の状態にある。温度を下げると蒸気は凝結して液体になる。逆に温度を上げると液体は気化する(蒸気になる)。また、固相と気相の間でも同様の平衡状態が保たれ、この転移を昇華という。
加水分解処理においては、処理チャンバー1内の分圧としての水蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に沿って制御する。この時、エチレングリコールの分圧比はごく低いため、水蒸気圧が支配的である。ポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解させるための飽和水蒸気圧を実現する温度および圧力域では、少しでもその温度が高くなるとポリエチレンテレフタレート樹脂が炭化または変性し、低いと溶剤の液化混入の危険が生ずる。そこで、処理チャンバー内の雰囲気の温度と、水蒸気圧力とをコンピュータ制御し、微妙な反応領域を飽和水蒸気圧曲線に沿って通過させる。
図4に、処理チャンバー内で進行する加水分解反応の進行を監視するシステムの構成を示す。中央監視室12には、加水分解制御装置13としてコンピュータが設置されている。コンピュータは、ヒータ5の電源投入,攪拌羽根10の駆動制御,処理時間の設定,配管のバルブの開閉制御,循環ポンプ4の駆動制御などを含めて、処理チャンバー1内で進行させる加水分解処理に必要な一切の制御および設定情報の管理を行う。また、コンピュータは、加水分解反応の進行状況、生成されたテレフタル酸、エチレングリコールの状態および冷却塔3から得られた抽出液の状態を、モニター14により監視する。コンピュータは、更にこれらのサンプリングを行う。
この実施形態においては、上記装置を用い、使用済みのポリエチレンテレフタレート樹脂製品を含む被処理物の加水分解処理を行う。加水分解処理では、加熱モード処理と、冷却モード処理とを順に行う。上記装置を用いてポリエチレンテレフタレート樹脂製品の原料を再生させる再生方法を図5および図1を参照して説明する。
図5に示すように、まず、被処理物を、飽和水蒸気圧を得るのに十分な量の水分とともに処理チャンバー1内に投入し、処理チャンバー1を密閉する(ステップS1)。
処理チャンバー1内に被処理物を投入したのち、投入口8を閉じ、タイマーをセットしてヒータ5に通電する(ステップS2)。そして、処理チャンバー1内を150℃以上230℃以下の一定温度に設定し加熱しつつ加熱モード処理を開始する。加熱モード処理では処理チャンバー1内の圧力を、150℃以上230℃以下の設定加熱温度での飽和水蒸気圧に保つ。当然に昇温中もその温度での飽和水蒸気圧を保たせる。また、一定間隔(例えば2秒)ごとに1回程度攪拌羽根10を回転駆動して処理チャンバー1内の原料を攪拌する。水または水滴に浸漬させず、ポリエチレンテレフタレート樹脂に飽和水蒸気があたる積算面積を最大にさせることが特徴である。
加水分解処理の加熱モード処理の時間はタイマーで設定する。加熱モード処理では、抽出管2の蒸気送出口7および蒸気戻り口6を閉じる。そして、処理チャンバー1内を密閉した状態で、被処理物を加熱および加圧し、加熱温度での飽和水蒸気圧のもとで被処理物の加水分解を進行させる。設定時間が経過するとブザーで報知する。また設定時間前であっても、処理条件の異常(温度異常、圧力異常)が発生したときには、ブザーで報知することもできる。
この状態で一定時間をかけて処理チャンバー1内を加熱しながら、処理チャンバー1内に発生する飽和水蒸気の雰囲気中に被処理物を曝して加水分解反応を進行させる。加熱モード処理によって、ポリエチレンテレフタレート樹脂の加水分解反応が進行する。そして、テレフタル酸の粉末が残留し、水蒸気と共にエチレングリコールおよびその蒸気が生成され、その蒸気が処理チャンバー1に充満する。予め定められた時間経過後、ヒータ5の電源を遮断して加熱モード処理を完了する(ステップS3)。
被処理物の加水分解処理に要する時間は、被処理物および処理チャンバー1の容量にもよるが、通常は2〜38時間である。つまり密閉された処理チャンバー1内で、150℃以上230℃以下の範囲内の温度で加熱したときには、その設定温度での飽和水蒸気圧のもとで数時間のうちに被処理物中のポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解することができる。なお、上記の加熱温度は、特に160℃以上230℃以下とすることが好ましい。一般的に、高温かつ高圧状態を維持するための装置は、容積が大きくなるほどその製作が難しく、製作コストが高くなるため、できるだけ処理温度を下げる必要がある。一方、温度が低すぎると、反応時間がかかり過ぎてしまう。処理温度が230℃を超えると、ポリエチレンテレフタレート樹脂が他物質へ変性したり、高温度により他物質が合成されたりする危険性が高まり純粋なテレフタル酸やエチレングリコールの収率が落ちる可能性がある。コストを抑えつつ、ある程度の回収量を確保するには、上記のように加熱温度を160℃以上230℃以下の温度とするのが好適である。
タイマーで設定した加熱モード処理の時間が経過したときには、加熱を終了し、次いで冷却モード処理に移行する(ステップS4)。冷却モード処理では、図3に示す飽和水蒸気圧曲線に従って、処理チャンバー1内の圧力と温度を制御しつつ処理チャンバー1内部を降温させる(ステップS5)。冷却モード処理では、送出側,戻り側の抽出管2のバルブを開き、循環ポンプ4を起動して処理チャンバー1内の水蒸気を抽出管2内に吸引する。そして、冷却塔3を経由させて水蒸気の一部を凝結させ、乾燥冷却後の乾燥空気は再び処理チャンバー1内に戻す。そして、処理チャンバー1内の水蒸気を冷却塔3と処理チャンバー1間で循環させる。
冷却モード処理においては、処理チャンバー1内には、底部32にエチレングリコールの溶液、粗いメッシュ状フィルタ(網目フィルタ)を用いた第1の保持部31aの上にはポリエチレンテレフタレート樹脂に混合した骨材等の固形物が残り、その下部に設けられた細かいメッシュ状フィルタ(網目フィルタ)を用いた第2の保持部31bの上にはテレフタル酸が残る。被処理物から抽出されて蒸気中に含まれる抽出物は、冷却塔3内に送り込まれる。そして、抽出物は、冷却塔3内で冷却され、凝結してエチレングリコール水溶液として冷却塔3内に貯められる。
処理チャンバー1内の水蒸気の温度および圧力は、処理チャンバー1内の冷却が繰り返されることによって次第に下がる。処理チャンバー1内の温度・圧力が十分に下がった(少なくとも100℃で1気圧以下)ことを確認したら、冷却塔3のドレイン11を開き、フィルター15を通して冷却塔3内で抽出されたエチレングリコール水溶液を容器V1内に回収する(ステップS6)。そして、これと共にドレイン11’を開き、フィルター15を通すことで処理チャンバー1内の溶液を容器V2に回収する。また固形物は排出口9から回収する(ステップS7)。
容器V1およびV2内に回収したエチレングリコール水溶液を濾過することによって、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品に含まれている骨材、フィラーの微粒子およびポリエチレンテレフタレート樹脂製品に付着していた印刷インクや顔料などが除かれる。その結果、エチレングリコール水溶液として純粋なエチレングリコールを得ることができる。
各容器内に回収されたエチレングリコール水溶液では、さらに液の温度を降下させフィルターで濾過することによって、他の固形分を分離することができる。
こうして得られたエチレングリコールは、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合前のアルコール類であり、ポリエチレンテレフタレート樹脂生成の原料になる。また、処理チャンバー1から回収された固形物は、主としてポリエチレンテレフタレート樹脂の原料となるテレフタル酸の粉末である。これらの固形成分についても液体成分と同様に再生利用できる。
なお、容器V1およびV2内に回収したエチレングリコール水溶液および処理チャンバー1から回収されたテレフタル酸の固形分を、再びポリエチレンテレフタレート樹脂製品の原料とし、フィルターで濾過された他の固形生成物や純度の低い生成物は、例えば再びプラスチック材料にリサイクルするか土壌改良材に加工してもよい。
(実験例1)
図6に、ポリエチレンテレフタレートの温度とDSC(エネルギー吸収量)との関係を示す。図6に示すように、ポリエチレンテレフタレートのDSCグラフでは132.7℃で発熱のピークが、257.3℃で吸熱のピークが生じる。つまり、このDSC測定に用いたポリエチレンテレフタレートの結晶化温度は132.7℃であり融点が257.3℃である。つまり、他の一般的ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度と融点も、この数値に近いものと考えられる。
また、試料の融点である257℃を越えると飽和蒸気圧は40気圧を越え、ポリエチレンテレフタレート樹脂は液状化し、他の混入成分も溶融化または変性、焼きつきなどを起こし、加水分解をしても、重合前生成物を高い純度で得ることは難しくなる。したがって、処理温度の範囲を、150℃以上230℃以下に設定することが実用に即しているものと考えられる。このような考察に基づいて以下の実験を行った。
ポリエチレンテレフタレートの加水分解を飽和水蒸気中でその熱エネルギーのみを用いて行った。実験サンプルには、試料1としてポリエチレンテレフタレートボトルの側面を5mmの角薄板状にカットしたもの、試料2としてポリエチレンテレフタレートボトルの口部肉厚部分を5mm角にカットしたもの、試料3としてポリエチレンテレフタレート製繊維を用いた。加水分解反応には、硝子製反応装置(耐圧硝子社ハイパーグラスター(TEM−V1000))を用いた。
まず、密閉された硝子製反応装置の内部で、水を入れたシャーレの上に、浸水しないようにステンレス網を設置した。そして、各試料の1gをステンレス網に設置し、一定時間飽和水蒸気に曝露して加水分解を進行させた。そして、それぞれについて、処理後の試料および水蒸気が液化して得られた溶液を分析した。
処理後の試料には、フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製FT/IR−6200)で赤外分光分析(IR分析)を行った。また、水蒸気が液化して得られた溶液については、ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC−MS)を用いてガスクロマトグラフィーを行った。
その結果、150℃、4.7気圧の飽和水蒸気圧条件で各試料について加水分解を行った場合では、すべての試料について30時間の加水分解処理で、加水分解の生成物であるテレフタル酸がIRにて検出された。しかし、ポリエチレンテレフタレートの存在を示すIRピークも強く残っており、分解は進行の途中であると分かった。
一方、160℃、6.1気圧の条件で加水分解を行った場合では、16時間の加水分解処理でテレフタル酸とポリエチレンテレフタレートのピークがほぼ同じ強度で観測された。この場合には、上記の150℃、4.7気圧の条件の場合よりも加水分解が進んでいると考えられる。同じ温度および圧力の条件で、試料1〜3についての処理時間を22時間に伸ばすと、試料1および試料3は白化し、もろくなった。白化した試料に対して赤外分光分析を行ったところ、ポリエチレンテレフタレート樹脂は完全に分解されテレフタル酸ピークのみとなった。試料2については、38時間処理を行ったところで、試料の加水分解が進みテレフタル酸のピークがポリエチレンテレフタレート樹脂のピークと同等であった。
図7は、160℃、6.1気圧の条件で22時間加水分解を行った試料1のポリエチレンテレフタレート薄板のIRチャートである。図8は、テレフタル酸の純粋試薬(和光純薬)のIRチャートである。図7および図8に示すように両者のピークはほとんど同じであり、ポリエチレンテレフタレート樹脂が加水分解によりほぼ完全にテレフタル酸に変化していることが分かる。
一方、図9は、180℃、9.9気圧の条件で10時間加水分解を行った試料1のポリエチレンテレフタレート薄板のIRチャートである。180℃、9.9気圧の条件で加水分解を行った場合では、すべての試料について7時間の処理でテレフタル酸とポリエチレンテレフタレートのIRピークがほぼ同じ強度となった。10時間処理では、試料1および試料3の繊維状ポリエチレンテレフタレート樹脂片が完全に分解されテレフタル酸が生成された。24時間処理では、試料2も完全に分解が終了した。
200℃、15.4気圧の条件で加水分解を行った場合では、2時間以内で、いずれのサンプルも完全に分解されて、テレフタル酸が生じた。図10および図11は、試料3のポリエチレンテレフタレート製繊維について分析して得たIRチャートである。どちらのIRチャートも生成物がテレフタル酸であることを示している。
一方、180℃、9.9気圧で14時間の加水分解処理を行った後の水蒸気が液化して得られた液を、クロマトグラフィー分析した結果、ポリエチレンテレフタレートの分解生成物のエチレングリコール(1,2−エタンジオール)であることを定性分析により知ることができた。
図12、図13は、ガスクロマトグラフィーの結果を示す図である。図12は、GC/MSによりMSスペクトルスキャンを行った結果を示しており、縦軸は時間(分)、横軸はカウント値を示している。図13は、水蒸気が液化して得られた液をクロマトグラフィーにより分析した結果を示している。図13の横軸は、時間(分)、縦軸は強度の%を示している。図14は、エチレングリコールのみについてガスクロマトグラフィーを行ったときの結果を示す図である。図13および図14に示すように、両者に示されるスペクトルはほとんど等しい。したがって、水蒸気が液化して得られた液にエチレングリコールが含まれており、試料の加水分解によりエチレングリコールが生成されたことが実証された。このように、実験によりポリエチレンテレフタレート分解生成物であるテレフタル酸とエチレングリコールが両方検出できたため、150℃以上200℃以下の温度での飽和水蒸気に曝露することでポリエチレンテレフタレート樹脂の加水分解が可能であることが実証された。また、この結果と図6に示すポリエチレンテレフタレートの特性を考慮すると、200℃を超える範囲についても230℃以下であれば、十分にポリエチレンテレフタレートを分解できると考えられる。一方、230℃を超える温度で処理した場合には、ポリエチレンテレフタレートの他物質への変性や高温度による他物質合成の危険性が高まり、純粋なテレフタル酸やエチレングリコールの収率が落ちることが考えられる。
図15は、上記の実験結果をまとめた表である。図中の記号Aは、試料の加水分解が完全に終了し、赤外分光分析によりテレフタル酸のIRピークのみが測定されたことを示している。図中の記号Bは、試料の加水分解が進みテレフタル酸のピークがポリエチレンテレフタレート樹脂のピークと同等であることを示している。図中の記号Cは、ポリエチレンテレフタレート樹脂のピークの中にテレフタル酸生成のピークが認められ、分解途中であったことを示している。また、各記号に付随するかっこの中の数値は処理時間を示している。この結果から、ポリエチレンテレフタレート樹脂を飽和水蒸気に曝露することで、従来技術で提案されている圧力より低い圧力の中にもかかわらず150℃以上230℃以下の条件でポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解できることが示された。さらに、ポリエチレンテレフタレート樹脂を繊維状にすれば、160℃以上230℃以下の条件で2時間から22時間の処理でほぼ完全にポリエチレンテレフタレート樹脂を分解することができることが示された。
このように薬品類、触媒などを一切使用せずに、160℃から230℃以下の飽和蒸気圧のみで、しかも短時間(2〜30時間)に、ポリエチレンテレフタレート樹脂をテレフタル酸とエチレングリコールに加水分解できた意義は、学術的にも工業的にも非常に大きい。特に、単純なオートクレーブのみで効率よくポリエチレンテレフタレート樹脂を分解できる本方法は、従来法のような複雑なプラントを必要としないことから、規模や設置場所に関する自由度が高く、幅広い業種および用途への応用が期待できる。
以上の結果からポリエチレンテレフタレート樹脂について反応生成物を気体または液状成分と固体成分に分別して回収可能であることが確認された。このように、ポリエチレンテレフタレート樹脂製品の廃棄物を上記の方法で加水分解し、その反応生成物を気体または液状成分と固体成分に分別して回収することができる。そして、廃棄物処理の問題、資源の有効活用の問題を解決して好ましい資源のクローズドサイクルシステムを実現できる。
(実施形態2)
上記の実施形態では、加水分解処理において被処理物の加熱を開始するが、加水分解処理の前に被処理物を加熱する前処理を行ってもよい。本実施形態では、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物の加水分解処理に先立ち、前処理をした後、飽和水蒸気圧のもとでの加水分解処理を行う。前処理の結果、加水分解反応が促進され、140℃近傍の比較的低い飽和水蒸気圧のもとでも、ポリエチレンテレフタレート樹脂をテレフタル酸およびエチレングリコールに分解することが可能となる。また、同一の温度条件における、ポリエチレンテレフタレート樹脂の完全分解に要する時間も大幅に短縮される。
本実施形態において、前処理は、水分を加えない環境の下でポリエチレンテレフタレート樹脂を、ポリエチレンテレフタレートの結晶化温度を上まわる温度を目安に0.5から5時間ほど加熱する処理であり、加水分解処理は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を被処理物として加水分解する処理である。
本実施形態では、上記装置を用い、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物、例えばポリエチレンテレフタレート樹脂を含む廃棄物の加水分解処理を行う。廃棄物の再生処理において最も大切なことは、再生に必要なエネルギー(コスト)を最小にするということである。本実施形態によるポリエチレンテレフタレート樹脂の再生処理においては、処理温度、処理圧力、および処理時間をどのように最小化するかということが、重要な課題となる。
前処理としてポリエチレンテレフタレート樹脂を結晶化させた後、加水分解処理を行うことで、処理時間を減少させることができる。アモルファス状態のポリエチレンテレフタレートを結晶化させることによって、同一の温度条件(例えば、150℃)において、結晶化させていないものよりも短時間で加水分解処理できることが明らかになった。
本実施形態においては、上記装置を用い、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物として、加水分解処理に先立って前処理を行う。次いで加水分解処理の加熱モード処理と、冷却モード処理とを順に行う。上記装置を用いてポリエチレンテレフタレート樹脂を含む廃棄物を処理し、その原料を再生させる再生方法を図16および図1を参照して説明する。
まず、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む廃棄物からなる被処理物を、処理チャンバー1内に投入し、投入口8を閉じる。そして、前処理として、約30分以上の時間をかけて処理チャンバー1内をポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化点近くの温度で加熱する。その後、加水分解処理に移行し、加熱モード処理を開始する。タイマーで設定した加水分解処理の時間が経過したときには、加熱を終了し、そのままチャンバーを冷却する。冷却が完了したら、エチレングリコール水溶液とテレフタル酸の粉末を完全に分離して回収する。
容器V1およびV2内に回収したエチレングリコール水溶液および処理チャンバー1から回収されたテレフタル酸の固形生成物は、再びポリエチレンテレフタレート樹脂製品の原料になる。
上記の例では、加水分解処理用の処理チャンバー1内でポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物の前処理を行うが、前処理は必ずしも加水分解処理用の処理チャンバー内で行う必要はない。前処理用の処理チャンバーを特別に用意し、図16に示すように前処理用の処理チャンバー16内でヒータ21の加熱により被処理物の前処理を行った後、前処理用の処理チャンバー16内から取り出した結晶化ポリエチレンテレフタレート樹脂を、加水分解処理用の処理チャンバー1内に投入し、加水分解処理用の処理チャンバー1内で加水分解処理を行うこともできる。
前処理用の処理チャンバー16を特別に用意することの実益を一例により説明する。例えば前処理用の処理チャンバー16をコンビニエンスストア、レストランなどのポリエチレンテレフタレート樹脂廃棄物の発生地に据え付け、ポリエチレンテレフタレート樹脂廃棄物の発生地において、前処理を行って処理物を減容する。このように各地に散在したポリエチレンテレフタレート樹脂廃棄物の発生地に据え付けられたそれぞれの処理チャンバー16、16、・・・から前処理された結晶化ポリエチレンテレフタレート樹脂を中央処理施設に回収する。そして、回収された結晶化ポリエチレンテレフタレート樹脂を中央処理施設に据え付けられた大型の加水分解処理用の処理チャンバー1内で一挙に加水分解処理を行うことでその処理効率を高めることができる。
上記の実施形態ではヒータ21を使用して処理チャンバーを水と一緒に直接加熱するが、大型のシステムでは、別途用意したボイラー等を使用して加熱水蒸気を生成し、それを処理チャンバー内に投入する方が効率的である。また、処理施設の設置場所に応じて、電気ではなくガスまたは石油などを燃焼させた熱を利用することもできる。将来的には、燃料電池を利用したシステムを構築することによって、燃料電池から作り出される電気エネルギーと廃熱の両方を利用した高エネルギー効率の処理装置を構築することが可能である。
加水分解装置の構成図である。 有機物の加水分解メカニズムを説明する図である。 飽和水蒸気圧曲線を示すグラフである。 本発明方法を実施するシステムの構成図である。 本発明方法を示すフローチャートである。 ポリエチレンテレフタレート樹脂の温度とエネルギー吸収量との関係を示すグラフである。 加水分解処理したポリエチレンテレフタレート樹脂のIRチャートである。 テレフタル酸の純粋試薬(和光純薬)のIRチャートである。 加水分解処理したポリエチレンテレフタレート樹脂のIRチャートである。 加水分解処理したポリエチレンテレフタレート樹脂のIRチャートである。 加水分解処理したポリエチレンテレフタレート樹脂のIRチャートである。 水溶液のMSスペクトルスキャンの分析結果を示す図である。 水溶液のガスクロマトグラフィーの結果を示す図である。 エチレングリコールのみについてのガスクロマトグラフィーの結果を示す図である。 ポリエチレンテレフタレート樹脂についての実験結果を示す図である。 前処理のために使用する装置の一例を示す概略図である。
符号の説明
1 処理チャンバー
2 抽出管
3 冷却塔
4 循環ポンプ
5 ヒータ
6 蒸気戻り口
7 蒸気送出口
8 投入口
9 排出口
10 攪拌羽根
11、11’ ドレイン
12 中央監視室
13 加水分解制御装置
14 モニター
15 フィルター
16 前処理用の処理チャンバー
21 ヒータ
31a 第1の保持部
31b 第2の保持部
32 底部
V1、V2 容器

Claims (6)

  1. ポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法であって、加水分解処理と、分別回収処理とを有し、
    前記加水分解処理は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の融点温度以下の処理温度条件下で、その処理温度における飽和水蒸気圧の圧力で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露させ、その処理温度で発生した飽和水蒸気によって前記被処理物中に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解し、ポリエチレンテレフタレート樹脂の重合前の原料物質を生成させる処理であり、
    前記分別回収処理は、前記加水分解処理による分解生成物を気体または液状成分と、固形成分とに分別してそれぞれ別個に回収する処理であることを特徴とするポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法。
  2. 前記加水分解処理は、加水分解の処理雰囲気温度および蒸気圧を維持しながら反応させ、処理後は飽和蒸気圧を飽和水蒸気圧曲線に則り降温中維持し、かつそのための十分な水蒸気の存在の条件を維持しつつ冷却することにより気体または液状の分解生成物および固形生成物を生成させる処理であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法。
  3. 前記加水分解処理は、前記被処理物中に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂を加水分解し、前記分解生成物の物性の違いによって選択的に特定の分解生成物を抽出する処理であることを特徴とする請求項1に記載のポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法。
  4. 前記加水分解処理は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を、前記処理対象樹脂の結晶化温度以上前記処理対象樹脂の融点温度以下の温度条件で、その処理温度における飽和水蒸気圧で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露させて前記処理対象樹脂の加水分解反応を起こさせ、反応の結果、前記処理対象樹脂の重合前成分である原料物質を気体または液状成分および固形成分として生じさせる処理であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法。
  5. 前記加水分解処理は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む被処理物を、150℃以上230℃以下の温度条件のもと、その処理温度における飽和水蒸気圧で満たされた水蒸気雰囲気内に曝露させて、前記被処理物に含まれるポリエチレンテレフタレート樹脂に加水分解反応を起こさせ、反応の結果、ポリエチレンテレフタレート樹脂から重合前生成物である分解生成物を生成させる処理であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法。
  6. 前記加水分解処理に先立って、前記分解再生すべき合成樹脂の融点を上限として、少なくとも前記ポリエチレンテレフタレート樹脂の結晶化温度の近傍、または結晶化温度以上の温度で加熱する前処理を行うことを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載のポリエチレンテレフタレート樹脂の分解回収方法。
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