しかしながら、特許文献1及び特許文献2の技術では、車両が停止線に接近しない限り停止線を検出することができないため、停止線を検出できた時点では、車両は停止線付近に到達しており、車両を停止線で停止させるための時間的余裕が十分でない。この場合、車両を停止線で停止させるためには、大きな減速度で減速させる必要があり、後続車が存在する場合には、安全上問題がある。
また、特許文献3では交差点の十分手前からジレンマ領域又はオプション領域を回避する走行制御又は情報提供を行う方法が開示されているものの、さらに自車両の前方を走行する前方車両の挙動をも考慮して安全かつ確実に危険走行領域を回避するように走行制御又は情報提供を行う方法が望まれていた。
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、前方車両が危険走行状態にあるか否かを判定し、判定結果に応じて自車両が危険走行状態にあるか否かを判定することができる車両運転支援システム、該車両運転支援システムを構成する運転支援装置、該運転支援装置を搭載した車両及び車両運転支援方法を提供することを目的とする。
第1発明に係る車両運転支援システムは、交差点に設置された信号機の黄信号開始時点及び黄信号時間を含む信号情報を送信する送信装置と、該送信装置が送信した信号情報を受信して車両の安全運転を支援する運転支援装置とを備える車両運転支援システムにおいて、前記運転支援装置は、前方車両の速度情報を取得する前方車両速度取得手段と、前方車両と交差点との距離に関する情報を取得する第1距離情報取得手段と、前記前方車両の交差点までの距離、前方車両の速度、及び前記信号情報に基づいて、前記前方車両が交差点の手前に停止する停止条件及び交差点に進入する進入条件により決定される走行状態にあるか否かを判定する第1判定手段と、該第1判定手段で判定した結果に基づいて、自車両の走行状態を判定する第2判定手段とを備えることを特徴とする。
第2発明に係る車両運転支援システムは、第1発明において、前記第1判定手段は、所定の標準減速度に基づいて、前記前方車両が前記走行状態にあるか否かを判定するように構成してあることを特徴とする。
第3発明に係る車両運転支援システムは、第1発明又は第2発明において、前記運転支援装置は、自車両の速度情報を取得する速度取得手段と、自車両と所定地点との距離に関する情報を取得する第2距離情報取得手段とを備え、前記第2判定手段は、前記前方車両が前記第1判定手段で判定する走行状態にある場合、自車両の前記所定地点までの距離、自車両の速度、及び前記信号情報に基づいて、自車両が前記交差点又は所定地点の手前に停止する停止条件及び前記交差点に進入する進入条件により決定される走行状態にあるか否かを判定するようにしてあり、前記第2判定手段で前記走行状態にあると判定した場合、自車両を加減速するための情報を出力する出力手段をさらに備えることを特徴とする。
第4発明に係る車両運転支援システムは、第3発明において、前記所定地点は、前記交差点から1台分の車長だけ上流側の地点であることを特徴とする。
第5発明に係る車両運転支援システムは、第4発明において、前記運転支援装置は、前方車両の車長情報を取得する車長情報取得手段を備えることを特徴とする。
第6発明に係る車両運転支援システムは、第1発明又は第2発明において、自車両と交差点との距離に関する情報を取得する第3距離情報取得手段を備え、前記第2判定手段は、前記前方車両が前記第1判定手段で判定する走行状態にない場合、自車両の前記交差点までの距離、自車両の速度、及び前記信号情報に基づいて、自車両が前記交差点の手前に停止する停止条件及び交差点に進入する進入条件により決定される走行状態にあるか否かを判定するようにしてあり、前記第2判定手段で前記走行状態にあると判定した場合、自車両を加減速するための情報を出力する出力手段をさらに備えることを特徴とする。
第7発明に係る車両運転支援システムは、第3発明又は第6発明において、前記第2判定手段は、所定の標準減速度に基づいて、自車両が前記走行状態にあるか否かを判定するように構成してあることを特徴とする。
第8発明に係る車両運転支援システムは、第3発明、第6発明又は第7発明において、前記出力手段は、自車両を減速するための情報を出力する場合、黄信号開始時点以降、自車両を前記標準減速度で減速するための情報をさらに出力するように構成してあることを特徴とする。
第9発明に係る車両運転支援システムは、第3発明乃至第8発明のいずれかにおいて、前記運転支援装置は、所定時間経過の都度又は所定距離の移動の都度、自車両が前記所定地点又は交差点の手前に停止できる停止限界速度を算出する停止限界速度算出手段と、前記所定時間経過の都度又は所定距離の移動の都度、自車両が黄信号の終了時点までに前記交差点に進入できる進入限界速度を算出する進入限界速度算出手段と、前記第2判定手段で前記走行状態にあると判定した場合、自車両の速度及び前記停止限界速度又は進入限界速度に基づいて、自車両の加減速度を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
第10発明に係る車両運転支援システムは、第3発明乃至第8発明のいずれかにおいて、前記運転支援装置は、所定時間経過の都度又は所定距離の移動の都度、自車両が前記所定地点又は交差点の手前に停止できる停止限界速度を算出する停止限界速度算出手段と、前記所定時間経過の都度又は所定距離の移動の都度、自車両が黄信号の終了時点までに前記交差点に進入できる進入限界速度を算出する進入限界速度算出手段と、自車両の速度、及び前記停止限界速度又は進入限界速度に基づいて、前記所定時間経過の都度又は所定距離の移動の都度、目標速度を算出する目標速度算出手段と、前記第2判定手段で前記走行状態にあると判定した場合、自車両の速度と目標速度との差分に応じて、自車両の加減速度を制御する制御手段とを備えることを特徴とする。
第11発明に係る車両運転支援システムは、第1発明乃至第10発明のいずれかにおいて、前記運転支援装置は、道路勾配を含む道路情報を取得する道路情報取得手段と、該道路情報取得手段で取得した道路情報に基づいて、前記標準減速度を決定する決定手段とを備えることを特徴とする。
第12発明に係る車両運転支援システムは、第3発明乃至第6発明のいずれかにおいて、前記運転支援装置は、周辺車両の有無を判定する周辺車両判定手段と、前記交差点の交通に関する交通情報を取得する交通情報取得手段とを備え、前記出力手段は、自車両を加速した場合の速度が所定速度以下であることの条件を満たし、かつ接近した前方車両が存在しないこと、後続車両が存在すること、及び前記交差点の交差道路の交通が閑散であることの少なくとも1つの条件を満たす場合、自車両を加速するための情報を出力するように構成してあることを特徴とする。
第13発明に係る車両運転支援システムは、第3発明乃至第12発明のいずれかにおいて、前記出力手段で出力する情報に基づいて、自車両の加減速を制御する加減速制御手段を備えることを特徴とする。
第14発明に係る車両運転支援システムは、第3発明乃至第12発明のいずれかにおいて、前記出力手段で出力する情報に基づいて、自車両の加減速を報知する報知手段を備えることを特徴とする。
第15発明に係る車両運転支援システムは、第14発明において、前記所定地点又は交差点までの距離、自車両の速度情報及び前記信号情報に基づいて、自車両が前記第2判定手段で判定した走行状態の近傍にあるか否かを判定する近傍判定手段を備え、前記報知手段は、該近傍判定手段で前記走行状態の近傍にあると判定した場合、前記所定地点若しくは交差点の手前に停止する旨又は交差点に進入する旨の報知をするように構成してあることを特徴とする。
第16発明に係る運転支援装置は、交差点に設置された信号機の黄信号開始時点及び黄信号時間を含む信号情報を受信して車両の安全運転を支援する運転支援装置において、前方車両の速度情報を取得する前方車両速度取得手段と、前方車両と交差点との距離に関する情報を取得する第1距離情報取得手段と、前記前方車両の交差点までの距離、前方車両の速度、及び前記信号情報に基づいて、前記前方車両が交差点の手前に停止する停止条件及び交差点に進入する進入条件により決定される走行状態にあるか否かを判定する第1判定手段と、該第1判定手段で判定した結果に基づいて、自車両の走行状態を判定する第2判定手段とを備えることを特徴とする。
第17発明に係る車両は、前述の発明に係る運転支援装置を搭載したことを特徴とする。
第18発明に係る車両運転支援方法は、交差点に設置された信号機の黄信号開始時点及び黄信号時間を含む信号情報を運転支援装置で受信して車両の安全運転を支援する車両運転支援方法において、前記運転支援装置は、前方車両の速度情報を取得し、前方車両と交差点との距離に関する情報を取得し、前記前方車両の交差点までの距離、前方車両の速度、及び前記信号情報に基づいて、前記前方車両が交差点の手前に停止する停止条件及び交差点に進入する進入条件により決定される走行状態にあるか否かを判定し、判定した結果に基づいて、自車両の走行状態を判定することを特徴とする。
第1発明、第16発明及び第18発明にあっては、運転支援装置は、前方車両の速度情報(速度)及び前方車両と交差点との距離に関する情報を取得する。前方車両と交差点との距離に関する情報は、例えば、前方車両と交差点との距離でもよく、あるいは、前方車両及び交差点の位置であってもよい。運転支援装置は、前方車両の速度及び交差点までの距離、及び交差点に設置された信号機の黄信号開始時点及び黄信号時間を含む信号情報に基づいて、前方車両が、例えば、黄信号開始後に停止しようとして交差点の手前に停止する停止条件及び、例えば、黄信号の終了時点までに交差点に進入する進入条件により決定される走行状態(例えば、危険走行状態、すなわち、車両の交差点までの距離と速度により決定される危険走行領域)にあるか否かを判定する。危険走行状態は、例えば、ジレンマ状態とオプション状態がある。ジレンマ状態は、車両が黄信号表示後に停止しようとしても交差点の手前に停止できず、かつ黄信号の終了時点までに交差点に進入できない状態であり、安全に停止又は進入できない状態である。また、オプション状態は、車両が黄信号表示後に停止しようとして交差点の手前に停止でき、かつ黄信号の終了時点までに交差点に進入できる状態であり、運転者の特性により車両が停止するのか又は進入するのかが異なる不安定な状態である。運転支援装置は、前方車両の判定結果に基づいて、自車両の走行状態(例えば、危険走行状態)を判定する。例えば、前方車両が危険走行状態にあると判定した場合、前方車両が交差点の手前で停止するとして、自車両が前方車両の後方に停止できるか否かを判定する。また、前方車両が危険走行状態にないと判定した場合において、前方車両が交差点を通過するときには、自車両が交差点に停止できるか否かを判定する。これにより、自車両の前方に他の車両が走行する場合であっても、危険走行状態から回避して安全かつ確実に自車両を交差点手前で停止させるための判定を行うことができる。
第2発明にあっては、運転支援装置は、所定の標準減速度に基づいて、前方車両が前記走行状態にあるか否かを判定する。より具体的には、運転支援装置は、標準減速度に応じた停止条件に基づいて、前方車両が前記走行状態にあるか否かを判定する。標準減速度は、あくまで車両の速度変化を示すものであり、制動操作の操作内容又は操作のタイミングとは無関係である。標準減速度は、例えば、黄信号に変わって車両の制動を開始する場合など、停止判断時点から反射反応(0.5秒)より十分長い時間(例えば、2秒以上)を経過してから減速操作を行うときにみられる減速度を意味している。つまり、急ブレーキをかけずに余裕のある停止を目的とするときにみられる減速度を意味している。なお、運転支援装置が標準減速度での速度制御を実施するタイミングは、反射反応より十分長い時間、あるいは反射反応の時間に限らない。一般的には、標準減速度は、平地乾燥路面で、およそ2〜3m/s2 である。
第3発明にあっては、運転支援装置は、自車両の速度情報(速度)及び自車両と所定地点との距離に関する情報を取得する。所定地点は、例えば、前方車両が交差点の手前(例えば、停止線の手前)に停止する場合、交差点の位置から前方車両の車長分だけ上流側の地点である。また、自車両と所定地点との距離に関する情報は、例えば、自車両と所定地点との距離でもよく、あるいは、自車両及び所定地点の位置であってもよい。運転支援装置は、前方車両が危険走行状態にあると判定した場合、自車両の速度及び所定地点までの距離、及び信号情報に基づいて、自車両が、例えば、黄信号開始時点で交差点又は所定地点の手前に停止する停止条件及び、例えば、黄信号の終了時点で交差点に進入する進入条件により決定される走行状態(例えば、危険走行状態)にあるか否かを判定する。この場合、停止条件は、前方車両が交差点を通過する場合には、自車両が交差点の手前に停止する条件であり、前方車両が交差点で停止する場合には、所定地点の手前に停止する条件である。運転支援装置は、自車両が危険走行状態にあると判定した場合、自車両を加減速するための情報を出力する。すなわち、運転支援装置は、危険走行状態を回避するために、例えば、自車両を所定地点又は交差点に停止させる場合には、自車両を緩やかな減速度で減速するための情報を提供(出力)する。ただし、前方車両が危険走行状態にあると判定し、危険走行状態を回避するために交差点を通過する場合に、自車両を交差点に進入させて前方車両通過後の危険走行領域を回避するときは、自車両を緩やかな加速度で加速するための情報を提供(出力)する。これにより、危険走行状態(危険走行領域)を回避して安全に車両を停止させ又は通過させることができる。
第4発明にあっては、所定地点は、交差点から1台分の車長だけ上流側の地点である。1台分の車長とは、1台分の車長あるいはそれに停止時の車間距離を加えた長さのことをいう。これにより、前方車両が交差点に停止する場合でも、前方車両に追突することなく前方車両の後方に確実に停止することができる。
第5発明にあっては、運転支援装置は、前方車両の車長情報を取得する。なお、前方車両の車長情報は、送信装置から取得してもよく、あるいは、予め記憶しておくこともできる。また、車載カメラ又は超音波センサなどから取得した前方車両の情報に基づいて、車長を求めることもできる。
第6発明にあっては、運転支援装置は、自車両と交差点との距離に関する情報を取得する。自車両と交差点との距離に関する情報は、例えば、自車両と交差点との距離でもよく、あるいは、自車両及び交差点の位置であってもよい。運転支援装置は、前方車両が危険走行状態にないと判定した場合、自車両の速度及び交差点までの距離、及び信号情報に基づいて、自車両が、例えば、黄信号開始後に停止しようとして交差点の手前に停止する停止条件及び、例えば、黄信号の終了時点までに交差点に進入する進入条件により決定される走行状態(例えば、危険走行状態)にあるか否かを判定する。運転支援装置は、自車両が危険走行状態にあると判定した場合、自車両を加減速するための情報を出力する。すなわち、運転支援装置は、危険走行状態を回避するために、例えば、自車両を交差点に停止させる場合には、自車両を緩やかな減速度で減速するための情報を提供(出力)し、あるいは、自車両を交差点に進入させる場合(交差点を通過させる場合)には、自車両を緩やかな加速度で加速するための情報を提供(出力)する。これにより、危険走行状態(危険走行領域)を回避して安全に車両を停止させ又は通過させることができる。
第7発明にあっては、運転支援装置は、所定の標準減速度に基づいて、自車両が前記走行状態にあるか否かを判定する。より具体的には、運転支援装置は、標準減速度に応じた停止条件に基づいて、自車両が前記走行状態にあるか否かを判定する。標準減速度は、あくまで車両の速度変化を示すものであり、制動操作の操作内容又は操作のタイミングとは無関係である。標準減速度は、例えば、黄信号に変わって車両の制動を開始する場合など、停止判断時点から反射反応(0.5秒)より十分長い時間(例えば、2秒以上)を経過してから減速操作を行うときにみられる減速度を意味している。つまり、急ブレーキをかけずに余裕のある停止を目的とするときにみられる減速度を意味している。なお、運転支援装置が標準減速度での速度制御を実施するタイミングは、反射反応より十分長い時間、あるいは反射反応の時間に限らない。一般的には、標準減速度は、平地乾燥路面で、およそ2〜3m/s2 である。
第8発明にあっては、運転支援装置は、自車両を減速するための情報を出力する場合、黄信号開始時点以降、自車両を標準減速度で減速するための情報をさらに出力する。すなわち、運転支援装置は、一旦危険走行状態を回避した後、黄信号が点灯した以降は、自車両を標準減速度で減速するための情報を提供(出力)する。これにより、急な減速をすることなく車両を安全に交差点に停止させることができる。
第9発明にあっては、運転支援装置は、所定時間(制御周期、例えば、0.05〜1秒)経過の都度又は所定距離の移動の都度、自車両が、例えば、黄信号開始後に停止しようとして所定地点又は交差点の手前に停止できる停止限界速度、及び自車両が黄信号の終了時点までに交差点に進入できる進入限界速度を算出する。運転支援装置は、自車両が危険走行状態にあると判定した場合、自車両の速度及び算出した停止限界速度又は進入限界速度に基づいて、自車両の加減速度を制御する。例えば、運転支援装置は、自車両が危険走行状態にあると判定した場合において、自車両を所定地点又は交差点に停止させるときは、所定時間経過の都度又は所定距離の移動の都度算出した停止限界速度を目標速度として現時点の自車両の速度を目標速度に近づけるべく自車両の減速制御を繰り返し行う。また、運転支援装置は、自車両が危険走行状態にあると判定した場合において、自車両を交差点に進入させるときは、所定時間経過の都度又は所定距離の移動の都度算出した進入限界速度を目標速度として現時点の自車両の速度を目標速度に近づけるべく自車両の加速制御を繰り返し行う。これにより、所定時間の都度又は所定距離の移動の都度、自車両の速度を停止限界速度又は進入限界速度に徐々に近づけることができ、急な減速あるいは急な加速を行うことなく緩やかな加減速で安全にかつ確実に危険走行状態を回避することができる。
第10発明にあっては、運転支援装置は、所定時間(制御周期、例えば、0.05〜1秒)経過の都度又は所定距離の移動の都度、自車両が、例えば、黄信号開始後に停止しようとして所定地点又は交差点の手前に停止できる停止限界速度、及び自車両が黄信号の終了時点までに交差点に進入できる進入限界速度を算出する。運転支援装置は、自車両の速度、算出した停止限界速度又は進入限界速度に基づいて、所定時間経過の都度又は所定距離の移動の都度、目標速度を算出する。目標速度は、例えば、現時点の自車両の速度と算出した停止限界速度又は進入限界速度との速度差が大きい場合、その速度差よりも小さい値だけ変化させた値とすることができる。これにより、加減速を行う場合の速度変化を小さくする。運転支援装置は、自車両が危険走行状態にあると判定した場合、自車両の速度と目標速度との差分に応じて、自車両の加減速度を制御する。例えば、差分がなくなるまで繰り返し自車両の加減速度を制御することができる。これにより、所定時間の都度又は所定距離の移動の都度、自車両の速度を停止限界速度又は進入限界速度に徐々に近づけることができ、急な減速あるいは急な加速を行うことなく緩やかな加減速で安全にかつ確実に危険走行状態を回避することができる。
第11発明にあっては、運転支援装置は、道路勾配を含む道路情報を取得し、取得した道路情報に基づいて、標準減速度を決定する。例えば、自車両が下り坂を走行する場合、標準減速度を小さくし、登り坂を走行する場合、標準減速度を大きくすることができる。また、路面状態が乾燥、湿潤、砂地、雪面であるかに応じて、あるいはタイヤの磨耗状態に応じて、標準減速度を変化させることもできる。これにより、一層精度良く車両の停止又は進入を制御することができる。
第12発明にあっては、運転支援装置は、自車両を加速した場合の速度が所定速度以下であることを必須条件とし、接近した前方車両が存在しないこと、後続車両が存在すること及び交差点の交差道路の交通が閑散であることを選択条件とし、必須条件を満たし、かつ選択条件の少なくとも1つを満たす場合、自車両を加速するための情報を出力する。なお、接近した前方車両とは、例えば、自車両の速度と超音波センサなどから前方車両との相対速度を所定の周期で検出し、検出した相対速度に基づいて、所定の速度まで加速した場合に衝突する可能性があると判断できる範囲内に存在している車両を対象とする。これにより、自車両を緩やかに加速して交差点に進入(通過)させる場合の安全性を確保することができる。
第13発明にあっては、運転支援装置は、加減速するために出力する情報に基づいて、自車両の加減速を制御する。すなわち、運転支援装置は、危険走行状態を回避するために、例えば、自車両を所定地点又は交差点に停止させる場合には、自車両を緩やかな減速度で減速し、あるいは、自車両を交差点に進入させる場合(交差点を通過させる場合)には、自車両を緩やかな加速度で加速する。これにより、危険走行状態(危険走行領域)を回避して安全に車両を停止させ又は通過させることができる。
第14発明にあっては、運転支援装置は、加減速するために出力する情報に基づいて、自車両の加減速を報知する。すなわち、運転支援装置は、危険走行状態を回避するために、例えば、自車両を交差点に停止させる場合には、自車両が緩やかな減速度で減速すること又は減速指示を運転者に報知し、あるいは、自車両を交差点に進入させる場合(交差点を通過させる場合)には、自車両が緩やかな加速度で加速すること又は加速指示を運転者に報知する。これにより、運転者に危険走行状態(危険走行領域)を回避することを確実に伝えることができ、運転者が不意な操作を行うことを防止して確実に危険走行状態を回避することができる。また、運転者が指示に基づいて運転操作することで、危険走行状態(危険走行領域)を回避して交差点で安全に車両を停止させ又は通過させることができる。
第15発明にあっては、運転支援装置は、自車両の所定地点又は交差点までの距離、速度及び信号情報に基づいて、自車両が危険走行状態の近傍にあるか否かを判定する。危険走行状態の近傍にあるか否かの判定は、例えば、黄信号開始時点における所定地点又は交差点までの距離及び速度で特定される自車両の状態と停止条件又は進入条件との近さ度合いにより判定することができる。この場合、近さ度合いは、距離、座標切片の道のり、クラスタ分類などを用いて、停止条件又は進入条件からの乖離度を評価するための指標である。運転支援装置は、自車両が危険走行状態の近傍にあると判定した場合、所定地点又は交差点の手前に停止する旨又は交差点に進入する旨の報知をする。これにより、自車両が危険走行状態にない場合であっても、運転者の操作ミスにより危険走行状態に陥る事態を防止することができる。
第17発明にあっては、車両は前述の運転支援装置を備えるため、車両の運転支援を行うことができる。
本発明にあっては、自車両の前方に他の車両が走行する場合であっても、危険走行状態から回避して安全かつ確実に自車両を交差点手前で停止させるための判定を行うことができる。
以下、本発明を実施の形態を示す図面に基づいて説明する。図1は本発明に係る車両運転支援システムの概要を示す模式図である。本発明に係る車両運転支援システムでは、信号機が設置された交差点手前に停止線を設けてあり、停止線から道路に沿って適長の離隔距離(例えば、200m)を有して路上装置21、22を設置してある。また、路上装置21の上流側(例えば、路上装置21から上流300m程度)に、光ビーコン10を設置している。
路上装置21、22は、例えば、超音波感知器、ICタグ、磁気ネール、光センサ等であり、電波、音波、光、磁気などをセンシングすることにより交信地点を特定することができるものである。路上装置21、22は、道路上に車載装置(運転支援装置)との交信領域を有する。車両が交信領域を通過する際に、車載装置は、路上装置21、22から交信領域を通過することを示す信号を受信する。なお、路上装置21、22は、車載装置との間で一方向通信を行うものでも双方向通信を行うものでもよい。また、路上装置21、22は、通信を目的としたものでなく、単に計測のための信号を発するだけでもよい。
光ビーコン10は、道路上に車載装置との通信領域を有する。車両が通信領域を通過する際に、車載装置は、光ビーコン10から所定の情報を受信する。所定の情報は、例えば、通信地点の位置情報、停止線の位置情報(例えば、停止線までの距離、停止線の絶対位置など)、路上装置21、22の位置情報(例えば、停止線から交信領域までの距離、交信領域の絶対位置など)、信号機の信号情報(例えば、黄信号開始時点及び黄信号時間など)、車両の車長に関する車長情報などである。なお、光ビーコン10に代えて、電波ビーコン、DSRC(Dedicated Short Range Communication:狭域通信)などを用いることもできる。
車両が交差点に向かって道路を走行する場合、車載装置は、光ビーコン10との通信により、所定の情報を取得する。例えば、車載装置は、この時点で停止線までの距離が、例えば、700mであることを確認することができる。また、車載装置は、車両が交差点に向かって道路をさらに走行し、車載装置が路上装置21と交信することにより、車載装置は、自車両の位置が停止線から400mの地点にあることを確認することができる。すなわち、車載装置は、停止線までの距離を補正することができる。また、車載装置が路上装置22と交信した場合も同様である。これにより、車載装置は、交差点の上流地点で、予め停止線までの距離を精度良く把握しておくことができる。
その後、車載装置は、自車両の前方を走行する前方車両の速度、停止線(交差点)までの距離、交差点に設置された信号機の黄信号開始時点及び黄信号時間及び所定の標準減速度などに基づいて、前方車両が黄信号開始後に停止しようとして交差点の手前に停止する停止条件及び黄信号の終了時点までに交差点に進入する進入条件により決定される危険走行状態(停止線までの距離と速度により決定される危険走行領域)にあるか否かを判定する。標準減速度は、あくまで車両の速度変化を示すものであり、制動操作の操作内容又は操作のタイミングとは無関係である。標準減速度は、例えば、黄信号に変わって車両の制動を開始する場合など、停止判断時点から反射反応(0.5秒)より十分長い時間(例えば、2秒以上)を経過してから減速操作を行うときにみられる減速度を意味している。つまり、急ブレーキをかけずに余裕のある停止を目的とするときにみられる減速度を意味している。なお、運転支援装置が標準減速度での速度制御を実施するタイミングは、反射反応より十分長い時間、あるいは反射反応の時間に限らない。一般的には、標準減速度は、平地乾燥路面で、およそ2〜3m/s2 である。
車載装置は、前方車両が危険走行状態にあると判定した場合、前方車両が交差点の手前で停止するとして、自車両が前方車両の後方に停止できるか否かを判定する。また、前方車両が危険走行状態にないと判定した場合において、前方車両が交差点を通過するときには、自車両が交差点に停止できるか否かを判定する。また、車載装置は、自車両を危険走行状態から回避させるために、例えば、車両を前方車両の後方又は停止線に停止させる場合には、車両を緩やかな減速度で減速するための処理を行い、あるいは、自車両を交差点に進入させる場合(交差点を通過させる場合)には、車両を緩やかな加速度で加速するための処理を行う。
図2は車載装置30の構成を示すブロック図である。車載装置30には、車両に搭載されたビデオカメラ40を接続してある。ビデオカメラ40は、例えば、車両のフロントグリル、前部バンパなどに配置され、車両前方を走行する前方車両及び前方の路面を撮像できるようにしてある。また、車載装置30には、車両の走行状態を制御する車両制御部50を接続してある。車載装置30が出力する制御信号に応じて、車両制御部50は、所要の加減速度で車両を加減速させる。また、車載装置30には、自車両の前方及び後方に他の車両が存在するか否かを検出するとともに、前方車両との距離を計測するための超音波センサ60を接続してある。なお、超音波センサ60に代えて、ミリ波レーダ等他の車載センサを用いることもできる。
車載装置30は、各種の演算処理を行うCPUからなり、後述する制御周期を計時するための時計を内蔵する制御部31を備える。なお、制御部31は、専用のハードウエア回路で構成してもよく、又は予め処理手順を定めたコンピュータプログラムを実行する構成であってもよい。制御部31には、内部バスを介して通信部32、測位部33、地図データベース34、表示部35、画像処理部36、操作部37、記憶部38、報知部39などが接続されている。測位部33は、GPS(Global Positioning System)331、車速センサ332、ジャイロセンサ333、走行距離を計測する距離計334などを備えている。また、車載装置30は、専用装置のみならず、パーソナルコンピュータ、PDA、携帯電話など、取り外して地上でも別の目的などに利用できる装置に上述の各部の機能を備えるようにして構成することもできる。
通信部32は、光ビーコン10との間で路車間通信を行う通信機能を有する。なお、通信部32は、光ビーコン、電波ビーコン、DSRCなどの狭域通信に限定されるものではなく、例えば、中域通信としてUHF帯又はVHF帯等の無線LAN機能を備えるものでもよく、あるいは、広域通信として携帯電話、PHS、多重FM放送、インターネット通信などの通信機能を備えるものでもよい。また、通信部32は、路上装置21、22が送信する信号を受信する受信機能を備えている。
測位部33は、複数のGPS衛星からの電波をGPS331で受け取り、自車の位置を測位する。また、測位部33は、GPS衛星からの電波が届かない場所、あるいはGPS331により測位される位置の誤差を小さくするため、車速センサ332、ジャイロセンサ333から出力される信号に基づいて自車位置を推定し、地図データベース34の道路データと照合することにより自車の位置をさらに精度良く測位する。なお、GPS331に加えて、DGPS(ディファレンシャルGPS)を搭載することもできる。DGPSは、予め位置が分かっている基準局から発信されるFM放送又は中波を受信し、GPSで算出した位置のずれを補正することができ、自車の位置の精度を向上させることができる。
表示部35は、フロントガラスディスプレイ又はヘッドアップディスプレイ、あるいは、カーナビゲーションシステム又は後方監視モニタなどの液晶表示パネルであって、運転者に所要の情報を表示する。
画像処理部36は、制御部31から画像処理開始の信号を受け付けた場合、ビデオカメラ40で道路を撮像して得られた撮像画像に基づいて、停止線を検出するための処理を行う。また、画像処理部36は、撮像画像に基づいて前方車両を抽出し、前方車両の車種又は大きさを特定する。特定した車種又は大きさに応じて、前方車両の車長を算出する。また、画像処理部36は、撮像画像に基づいて前方車両までの距離を算出することもできる。以下、撮像画像に基づいて停止線の位置を検出する方法について説明する。
ビデオカメラ40のレンズ中心を原点として、道路座標系を(X、Y、Z)、カメラ座標系を(X’、Y’、Z’)とし、道路座標系は、道路の進行方向をY軸(前方向を正)、道路方向と垂直な道路面上の方向をX軸(前方に向かって右方向を正)、路面と垂直な方向をZ(上方を正)とする。また、カメラ座標系は、カメラレンズの光軸をY’軸、光軸に垂直であって水平方向の軸をX’軸、カメラの上方向をZ’軸とする。さらに、カメラ座標系の各軸の道路座標系の各軸に対する回転角を、それぞれθ(ピッチ角)、φ(ロール角)、ψ(ヨー角)とし、全て右ねじの進む方向を正(θ:水平面より上向きが正、φ:右回りが正、ψ:左回りが正)とする。この場合、道路座標系からカメラ座標系の変換式は、式(1)で表すことができる。
変換行列の係数P11〜P33それぞれは、式(2)で表すことができる。また、撮像画像上の座標(x、y)は、レンズの焦点距離をFとすると、式(3)で表すことができる。
停止線の有無の判定は、撮像画像の各画素の画素値に基づいて、エッジ点を抽出し、抽出したエッジ点より得られるエッジ画像と停止線の形状とのパターンマッチングを行うことにより判定することができる。切り出された停止線が撮像画像のy軸と交わる点のy座標を求め(この場合x=0)、求めたy座標を式(3)に代入すれば、停止線までの距離を精度良く算出することができる。
操作部37は、各種操作パネルを備え、運転者と車載装置30とのユーザインタフェースとして機能する。例えば、操作部37は、運転者の操作により車載装置30の動作の開始又は停止の操作を受け付ける。
報知部39は、スピーカを備え、制御部31の制御のもと、運転者に警告する場合、警告の内容を音声で出力する。例えば、車両が後述する危険走行領域にある場合、危険走行領域を回避すべく自動速度制御を行う(自動速度制御モードに入る)旨を出力する。また、車両を所定地点又は交差点に停止させるために減速させる場合、あるいは交差点に進入(通過)させるため加速させる場合、その旨を出力する。
記憶部38は、通信部32を通じて受信された所定の情報を記憶する。
図3は危険走行領域の概念を示す説明図である。図において、横軸は停止線からの距離を示し、縦軸は車両の速度を示す。危険走行領域は、車両が危険走行状態であることを車両の速度と停止線までの距離とにより表すことができる領域である。危険走行領域は、ジレンマ領域とオプション領域とを含む。ジレンマ領域は、車両が黄信号表示後に停止しようとしても停止線(交差点)の手前に停止できず、かつ黄信号の終了時点までに停止線に進入できない状態であり安全に停止又は進入できない状態である。また、オプション領域は、車両が黄信号表示後に停止しようとして停止線の手前に停止でき、かつ黄信号の終了時点までに停止線に進入できる状態であり、運転者の特性により車両が停止するのか又は進入するのかが異なる不安定な状態である。すなわち、黄信号表示中に(例えば、黄信号開始時点で)車両が危険領域にある状態であると判定した場合、その車両は危険走行状態にあると判定する。
図3において、停止線を基準とした車両の現在位置をX、現在速度をV、黄信号開始となるまでの時間をt(0<t<信号周期)とする。黄信号開始時刻での車両の位置Xyは、車両の速度が変化しないとすれば(Vy=V)、式(4)で求められる。式(4)は、現在の車両の走行状態に基づいた判定条件Eである。
一方、車両が停止線の手前で安全に停止し、信号待ちになる停止条件Cは、式(5)で求められる。ここで、gは、車両の標準減速度であり、αは黄信号になってから運転者がブレーキを踏むまでの時間遅れである。すなわち、停止条件Cは、黄信号開始時に車両が標準減速度で減速したならば、車両が停止線で停止することができる車両の速度と停止線までの距離の限界を示す曲線である。
車両が黄信号の終了時点で停止線に進入し、信号待ちに会わない進入条件Lは、式(6)で求められる。ここで、Tyは黄信号時間である。すなわち、進入条件Lは、車両が走行中に黄信号になった場合、その黄信号時間内(赤信号になる前)に停止線まで到達することができる車両の速度と停止線までの距離の限界を示す直線である。
ジレンマ領域は、式(5)及び式(6)の両者とも満足しない領域であり、オプション領域は、式(5)及び式(6)の両者とも満足する領域である。なお、図3において、危険走行領域の下側の領域は交差点停止領域であり、停止線手前に安全に停止することができる領域である。また、危険走行領域の上側の領域は交差点通過領域であり、安全に停止線に進入(通過)することができる領域である。
車載装置30は、車両が黄信号開始時点で危険走行領域(ジレンマ領域及びオプション領域)に突入する可能性がある場合、危険走行領域に陥らないように回避すべく、車両を加速又は減速する制御を所定時間(制御周期)の経過の都度繰り返し行う。例えば、判定条件Eにより求められた黄信号開始時点の車両の状態(Xy、Vy)が停止条件Cに近い場合には、現時点の速度が点Pで特定される停止限界速度になるように緩やかな減速度による減速制御を行う。また、判定条件Eにより求められた黄信号開始時点の車両の状態(Xy、Vy)が進入条件Lに近い場合には、現時点の速度が点Qで特定される進入限界速度になるように緩やかな加速度による加速制御を行う。
また、車載装置30は、上述の式(4)〜(6)で、Xとして前方車両の交差点までの距離、Vとして前方車両の速度を代入することにより、前方車両が危険走行領域にあるか否かを判定する。車載装置30は、前方車両の危険走行領域判定の結果に応じて、自車両の危険走行領域の判定を行うとともに、危険走行領域を回避するための自動速度制御を行う。
次に車載装置30による危険走行領域回避の自動速度制御について説明する。図4乃至図7は車載装置30の処理手順を示すフローチャートである。制御部31は、光ビーコン10との通信の有無を判定し(S11)、通信がない場合(S11でNO)、ステップS11の処理を続け、光ビーコン10との通信があるまで待機する。
光ビーコン10との通信があった場合(S11でYES)、制御部31は、光ビーコン10から通信地点、停止線及び路上装置の位置情報、信号機の黄信号開始時点及び黄信号時間を含む信号情報を受信する(S12)。
制御部31は、停止線までの距離を算出し(S13)、路上装置21、22から信号を受信したか否かを判定し(S14)、信号を受信した場合(S14でYES)、停止線までの距離を修正する(S15)。例えば、停止線から路上装置21、22との交信地点までの距離をLとすると、車両の位置を、停止線から距離Lにあると修正する。これにより、自車両が停止線に向かって走行するにつれて累積する距離誤差をリセットし、停止線までの距離の精度を向上させることができる。信号を受信していない場合(S14でNO)、制御部31は、ステップS15の処理を行うことなく、後述のステップS16の処理を行う。
制御部31は、自動運転開始タイミングであるか否かを判定する(S16)。自動運転開始タイミングは、前方車両又は自車両が停止線から所定の距離(例えば、200m)になった地点、黄信号に切り替わるまでの時間が所定の時間(例えば、5〜10秒)になった時点、最後の路上装置22との交信時点、あるいは光ビーコン10との通信時点など適宜設定できる。自動運転開始タイミングは、前方車両又は自車両の速度に応じて変化させることもできる。
自動運転開始タイミングである場合(S16でYES)、制御部31は、前方車両の危険走行領域を算出し(S17)、自車両の危険走行領域を算出する(S18)。制御部31は、前方車両が危険走行領域内に突入するか否かを判定する(S19)。前方車両が危険走行領域内に突入する場合(S19でYES)、制御部31は、前方車両が停止線手前に停止したとして、自車両が危険走行領域内に突入するか否かを判定する(S20)。
図8は前方車両及び自車両の危険走行領域判定の一例を示す説明図である。図中、横軸は停止線からの距離を示し、縦軸は車両の速度を示す。前方車両が危険走行領域内にあるか否かの判定は、図3の例と同様にして行うことができる。図8において、停止線を基準とした前方車両の現在位置をXp、現在速度をV、黄信号開始となるまでの時間をt(0<t<信号周期)とする。前方車両の速度は、自車両から前方車両までの距離の時間的変化により求めた相対速度と自車両の速度とにより求めることができる。黄信号開始時刻での車両の位置Xpyは、車両の速度が変化しないとすれば(Vy=V)、式(4)と同様にして求められる。式(4)は、現在の前方車両の走行状態に基づいた判定条件Eである。
一方、前方車両が停止線の手前で安全に停止し、信号待ちになる停止条件Cpは、式(5)と同様に求められる。ここで、gは、車両の標準減速度であり、αは黄信号になってから運転者がブレーキを踏むまでの時間遅れである。すなわち、前方車両の停止条件Cpは、前方車両が減速したならば停止線で停止することができる前方車両の速度と停止線までの距離の限界を示す曲線である。
前方車両が黄信号の終了時点で停止線に進入し、信号待ちに会わない条件である進入条件Lpは、式(6)と同様に求められる。ここで、Tyは黄信号時間である。前方車両の進入条件Lpは、前方車両が走行中に黄信号になった場合、その黄信号時間内(赤信号になる前)に停止線まで到達することができる前方車両の速度と停止線までの距離の限界を示す直線である。前方車両のジレンマ領域、オプション領域は、図8に示すように、停止条件Cpと進入条件Lpとで囲まれる領域となる。
前方車両が危険走行領域にある場合、自車両の危険走行領域は以下のように決定することができる。まず、前方車両が危険走行領域を回避すべく交差点で停止する場合、自車両も交差点の手前であって前方車両の後方に停止する必要があり、自車両の停止条件Cで表される曲線より下側の領域にあれば危険走行領域を回避することができる。すなわち、自車両の停止条件Cで表される曲線の上側の領域は、交差点(前方車両の後方)で停止することができない危険走行領域である。ここで、自車両が所定地点(例えば、停止線を基準として前方車両の車長分の距離だけ上流側の地点とすることができる。なお、停止した際の前方車両との車間を考慮することもできる。)の手前で安全に停止し、信号待ちになる停止条件Cは、式(7)で求められる。ここで、gは、自車両の標準減速度であり、αは黄信号になってから運転者がブレーキを踏むまでの時間遅れである。また、Dは停止線と所定地点との間の距離であり、前方車両が先頭車両として停止線の手前に停止した場合の車頭間距離である。停止条件Cは、自車両が減速したならば停止線(前方車両の後方)で停止することができる自車両の速度と停止線までの距離の限界を示す曲線である。
次に、前方車両の後続の自車両が交差点を通過できるのは、前方車両がいないことが前提であり、自車両の進入条件は前方車両の進入条件Lpと同じになる。従って、自車両が進入条件Lpで表される直線より下側の領域になければ交差点を越えてしまう可能性があるので、前方車両が交差点で停止する場合は、追突する可能性がある走行領域である。すなわち、前方車両の進入条件Lpで表される直線の上側の領域は、交差点を通過することができず危険走行領域である。
以上のことから、自車両の危険走行領域は、自車両の停止条件Cで表される曲線の上側の領域であり、かつ前方車両の進入条件Lp(これは、自車両の進入条件に等しい)で表される直線の上側の領域となる。
自車両が危険走行領域内にあるか否かの判定は、図3の例と同様にして行うことができる。所定地点(例えば、停止線を基準として前方車両の車長分の距離だけ上流側の地点とすることができる。なお、停止した際の前方車両との車間を考慮することもできる。)を基準とした自車両の現在位置をX、現在速度をV、黄信号開始となるまでの時間をt(0<t<信号周期)とする。黄信号開始時刻での自車両の位置Xyは、自車両の速度が変化しないとすれば(Vy=V)、式(4)で求められる。式(4)は、現在の自車両の走行状態に基づいた判定条件Eである。
前方車両が危険走行領域に突入しており、かつ自車両が危険走行領域内に突入する場合(S20でYES)、制御部31は、自動速度制御モードに入る旨を報知する(S21)。この場合、運転者に対して車両が減速することを報知するが、制御部31による自動速度制御モードに入らずに、運転者に対して減速の指示を与え、運転者がその指示に従って減速するように構成することもできる。制御部31は、目標速度、段階的目標速度を算出する(S22)。目標速度は、自車両を緩やかな減速度で減速させて危険走行領域から回避(脱出)させるために到達させる速度である。目標速度Vsは、以下のとおり算出することができる。前方車両が危険走行領域を回避すべく交差点で停止する場合に、自車両が危険走行領域に突入する可能性があると判定されたときは、式(4)、式(7)において、XyとVを変数として解いて算出された速度Vsを目標速度とする。式(4)が式(7)よりも小さい場合、目標速度Vsは、式(8)で表され、図8の点Pにおける速度として求められる。
また、自車両が式(7)の下限値が式(4)よりも小さくなる範囲のところで、危険走行領域に突入する可能性があると判定された場合、上述の式(4)及び式(6)において、XyとVを変数として解いて算出された速度Vsの下限値を目標速度とする。目標速度Vsは、式(9)で表される。
段階的目標速度Vrは、自車両の現時点の速度と目標速度Vsとの差が大きい場合、速度変化が大きいため、緩やかな減速を行うことができなくなる事態を防ぐため、自車両の現時点の速度Vと目標速度Vsとの間の暫定目標値であり、所定時間(制御周期、例えば、0.05〜1秒)経過の都度、算出する。
段階的目標速度Vrの算出は、減速を行う場合に、制御周期の間における速度変化を小さくするように求めることができる。例えば、現時点の速度Vが、目標速度Vsに比べて大きい場合、その差分をn分割した値ΔV=(V−Vs)/nだけ減速させ、速度変化が微小になるように目標速度Vsに追従させることができる。この場合、段階的目標速度Vrは、Vr=V−Δv=V−(V−Vs)/nとなる。このようにして、Δvを調整することにより、自車両は、後続車両に対して減速を感じさせないように緩やかな減速度で減速することができるので、後続車両は、急ブレーキを踏み込むような事態を防止でき、安全性が向上する。
また、段階的目標速度Vrの算出方法として、所定の閾値β(例えば、β=1km/h)を用いて、V−Vs≧βの場合、Vr=V−βとし、V−Vs<βの場合、Vr=Vsのように求めることもできる。
制御部31は、現時点の速度Vを、算出した目標速度Vs又は段階的目標速度Vrに近づけるべく緩やかな減速度で減速制御を行い(S23)、制御周期を経過したか否かを判定し(S24)、制御周期を経過していない場合(S24でNO)、ステップS24の処理を続け、制御周期が経過するまで減速制御を続ける。これにより、後続車両に対し、自車両の減速を感じさせないようにすることができる。なお、制御周期を経過したか否かを判定する代わりに車両が所定距離を移動したか否かを判定することもできる。
制御周期を経過した場合(S24でYES)、制御部31は、自車両が危険走行領域の境界に到達したか否かを判定する(S25)。例えば、自車両の速度が停止条件Cで示される停止限界速度に到達したか否かにより判定する。危険走行領域の境界に到達していない場合(S25でNO)、制御部31は、ステップS22以降の処理を続ける。これにより、減速制御の処理は、制御周期の経過の都度行われるため、目標速度Vs、段階的目標速度Vrは徐々に変化し、滑らかな減速制御を実現することができる。
危険走行領域の境界に到達した場合(S25でYES)、制御部31は、危険走行領域の境界に到達した時点の速度、すなわち、停止限界速度で速度維持を行う(S26)。これにより、危険走行領域の境界に到達した後は速度を一定にすることにより、自車両の状態を危険走行領域の境界に維持させる走行が可能となる。これにより、後続車両が自車両に追突し、あるいは自車両を無理に追い越すという危険を防止することができる。
制御部31は、黄信号開始時点から所定時間経過したか否かを判定する(S27)。この場合、所定時間は、通常、運転者が黄信号に切り替わったのを見てブレーキを踏むまでの時間遅れに合わせればよく、例えば、0.5秒程度の値である。所定時間経過していない場合(S27でNO)、制御部31は、ステップS26以降の処理を続け、所定時間経過まで一定の速度で走行を続ける。
所定時間経過した場合(S27でYES)、制御部31は、標準減速度で減速制御する(S28)。標準減速度gは、例えば、3m/s2 とすることができる。これにより、停止線で停止することができる車両の速度と停止線までの距離の限界を示す曲線上を推移して、自車両の速度を減速させることができる。
制御部31は、前方車両が交差点を通過することが確実か否かを判定し(S29)、交差点通過が確実である場合(S29でYES)、標準減速度以下の減速度で速度制御する(S30)。前方車両が交差点を通過するか否かの判定は、例えば、前方車両の交差点(停止線)までの距離、前方車両の速度に基づいて判定することができる。前方車両が交差点に近づいた場合に速度が所定値以上であれば、交差点を通過することが確実であると判定できる。また、標準減速度以下の減速度での速度制御は、標準減速度よりも緩やかな減速度で速度制御することであり、減速制御及び加速制御を含む。例えば、減速し過ぎた場合には、緩やかな加速度で加速させることで速度を調整する。
制御部31は、撮像画像に基づいて、停止線を検出したか否かを判定し(S31)、停止線を検出していない場合(S31でNO)、ステップS30以降の処理を続ける。停止線を検出した場合(S31でYES)、制御部31は、停止線までの距離を算出し、停止線までの距離を補正して微調整制御で速度を制御し(S32)、車両を停止させ(S33)、自動速度制御モードを解除するとともに、その旨報知し(S34)、処理を終了する。微調整制御は、時々刻々停止線の位置を検出して停止線までの距離を算出し、停止線までの距離に基づいて速度を徐々に変更するものである。これにより、車両の速度を微調整することができ、車両を停止線に確実に停止させることができる。
前方車両の交差点通過が確実でない場合、すなわち、前方車両の交差点停止が確実である場合(S29でNO)、制御部31は、自車両を前方車両の後方に追従させ、ほぼ標準減速度で減速制御し(S35)、前方車両の後方に停止し(S36)、ステップS34の処理を行う。
前方車両が危険走行領域内に突入しない場合(S19でNO)、制御部31は、前方車両が交差点通過領域にあるか否かを判定し(S37)、交差点通過領域にある場合(S37でYES)、自車両が危険走行領域内に突入するか否かを判定する(S38)。
図9は前方車両及び自車両の危険走行領域判定の他の例を示す説明図である。図9は前方車両が危険走行領域に突入することなく交差点を通過する可能性が高く、かつ自車両が危険走行領域に突入する可能性がある場合を例示している。すなわち、停止線を基準とした前方車両の現在位置をXp、現在速度をV、黄信号開始となるまでの時間をt(0<t<信号周期)とする。黄信号開始時刻での前方車両の状態(位置Xpy、速度Vy)は、危険走行領域の外(交差点通過領域)にあり、安全に停止線に進入(停止線を通過)することができる。
一方、停止線を基準とした自車両の現在位置をX、現在速度をV、黄信号開始時点までの時間をtとする。黄信号開始時刻での自車両の状態(位置Xy、速度Vy)は、危険走行領域にあり、危険走行領域回避のための速度制御を行うことになる。
前方車両が交差点通過領域にあり、自車両が危険走行領域内に突入する場合(S38でYES)、制御部31は、自動速度制御モードに入る旨を報知する(S39)。この場合、運転者に対して車両が減速することを報知するが、制御部31による自動速度制御モードに入らずに、運転者に対して減速の指示を与え、運転者がその指示に従って減速するように構成することもできる。制御部31は、目標速度、段階的目標速度を算出する(S40)。制御部31は、現時点の速度Vを、算出した目標速度Vs又は段階的目標速度Vrに近づけるべく緩やかな減速度で減速制御を行い(S41)、制御周期を経過したか否かを判定し(S42)、制御周期を経過していない場合(S42でNO)、ステップS42の処理を続ける。これにより、後続車両に対し、自車両の減速を感じさせないようにすることができる。
制御周期を経過した場合(S42でYES)、制御部31は、自車両が危険走行領域の境界に到達したか否かを判定する(S43)。例えば、危険走行領域がジレンマ領域である場合には、自車両の速度が停止条件Cで示される停止限界速度に到達したか否かにより判定する。危険走行領域の境界に到達していない場合(S43でNO)、制御部31は、ステップS40以降の処理を続ける。これにより、減速制御の処理は、制御周期の経過の都度行われるため、目標速度Vs、段階的目標速度Vrは徐々に変化し、滑らかな減速制御を実現することができる。なお、制御周期を経過した都度減速制御の処理を行う代わりに車両が所定距離を移動した都度減速制御の処理を行うこともできる。
危険走行領域の境界に到達した場合(S43でYES)、制御部31は、危険走行領域の境界に到達した時点の速度、すなわち、停止限界速度で速度維持を行う(S44)。これにより、危険走行領域の境界に到達した後は速度を一定にすることにより、自車両の状態を危険走行領域の境界に維持させる走行が可能となる。これにより、後続車両が自車両に追突し、あるいは自車両を無理に追い越すという危険を防止することができる。
制御部31は、黄信号開始時点から所定時間経過したか否かを判定する(S45)。所定時間は、通常、運転者が黄信号に切り替わったのを見てブレーキを踏むまでの時間遅れに合わせればよい。所定時間経過していない場合(S45でNO)、制御部31は、ステップS44以降の処理を続け、所定時間経過まで一定の速度で走行を続ける。
所定時間経過した場合(S45でYES)、制御部31は、標準減速度で減速制御する(S46)。標準減速度gは、例えば、3m/s2 とすることができる。これにより、停止線で停止することができる車両の速度と停止線までの距離の限界を示す曲線上を推移して、自車両の速度を減速させることができる。
制御部31は、撮像画像に基づいて、停止線を検出したか否かを判定し(S47)、停止線を検出していない場合(S47でNO)、ステップS46以降の処理を続ける。停止線を検出した場合(S47でYES)、制御部31は、ステップS32以降の処理を行う。
一方、自車両が危険走行領域内に突入しない場合(S20でNO、及びS38でNO)、制御部31は、処理を終了する。また、前方車両が交差点通過領域にない場合、すなわち、交差点停止領域にある場合(S37でNO)、制御部31は、処理を終了する。なお、処理を終了する代わりに、前方車両への自動追従制御を行うようにすることもできる。
自動運転開始タイミングでない場合(S16でNO)、制御部31は、停止線を通過したか否かを判定し(S48)、停止線を通過していない場合(S48でNO)、ステップS13以降の処理を続け、停止線を通過した場合(S48でYES)、ステップS11以降の処理を続ける。
図10は危険走行領域を回避して減速制御する場合の走行軌跡の一例を示す説明図である。図10は危険走行領域にある前方車両が停止線に停止する場合を示し、自車両は前方車両の後方に安全に停止する。図中、上段は自車両の停止線までの距離と速度との関係を示し、下段は停止線までの距離と信号変化との関係を示す。停止線から200mの位置までは、運転者による手動運転を行う手動運転領域である。停止線から200mの位置において、車載装置30は、前方車両及び自車両が危険走行領域に突入するか否かを判定して自動運転制御を行う。なお、自動運転開始タイミングは、これに限定されるものではない。
前方車両が危険走行領域にあると判定し、自車両が危険走行領域にあると判定した場合には、この地点からは車載装置30による自動速度制御が行われ、まず危険走行領域を回避するための制御を行う回避制御領域となる。車載装置30は、例えば、自車両の速度が停止条件Cを満たす停止限界速度(目標速度)に到達するように緩やかな減速度で減速制御を行う。目標速度に到達した後は、その速度を維持し、黄信号開始時点まで一定の速度制御を行う。
自動速度制御のうち、黄信号開始時点以降は、自車両を標準減速度で減速制御する標準減速度制御領域である。すなわち、車載装置30は、黄信号開始時点(黄信号開始位置)から標準減速度で減速制御を行う。自車両は、超音波センサ60により前方車両を常時監視し、前方車両の後方に追従し、ほぼ標準減速で減速制御して、前方車両の後方に停止する。
図11は危険走行領域を回避して減速制御する場合の走行軌跡の他の例を示す説明図である。図11は危険走行領域にある前方車両が停止線に進入(交差点を通過)する場合を示し、自車両は停止線に停止する。停止線から200mの位置までは、運転者による手動運転を行う手動運転領域である。停止線から200mの位置において、車載装置30は、前方車両及び自車両が危険走行領域に突入するか否かを判定して自動運転制御を行う。なお、自動運転開始タイミングは、これに限定されるものではない。
前方車両が危険走行領域にあると判定し、自車両が危険走行領域にあると判定した場合には、この地点からは車載装置30による自動速度制御が行われ、まず危険走行領域を回避するための制御を行う回避制御領域となる。車載装置30は、例えば、自車両の速度が停止条件Cを満たす停止限界速度(目標速度)に到達するように緩やかな減速度で減速制御を行う。目標速度に到達した後は、その速度を維持し、黄信号開始時点まで一定の速度制御を行う。
自動速度制御のうち、黄信号開始時点以降は、自車両を標準減速度で減速制御する標準減速度制御領域である。すなわち、車載装置30は、黄信号開始時点(黄信号開始位置)から標準減速度で減速制御を行う。自車両は、超音波センサ60により前方車両を常時監視し、前方車両が交差点を通過することが確実になった場合、標準減速度以下の減速度で速度制御する。標準減速度以下の減速度での速度制御は、標準減速度よりも緩やかな減速度で速度制御することであり、減速制御及び加速制御を含む。例えば、減速し過ぎた場合には、緩やかな加速度で加速させることで速度を調整する。さらに、ビデオカメラ40により停止線を検出した場合、それ以降は、停止線までの距離を補正しつつ標準減速度よりさらに小さい微減速度で減速制御を行う。これにより、前方車両の当初停止予測位置に基づいた停止制御を補正して、自車両を停止線に停止させることができる。
図12は危険走行領域を回避して減速制御する場合の走行軌跡の他の例を示す説明図である。図12は前方車両が危険走行領域に突入する可能性がなく停止線に進入(交差点を通過)する場合を示し、自車両は危険走行領域を回避して停止線に停止する。停止線から200mの位置までは、運転者による手動運転を行う手動運転領域である。停止線から200mの位置において、車載装置30は、前方車両及び自車両が危険走行領域に突入するか否かを判定して自動運転制御を行う。なお、自動運転開始タイミングは、これに限定されるものではない。
前方車両が危険走行領域にないと判定し、前方車両が交差点通過領域にある場合において、自車両が危険走行領域にあると判定したときには、この地点からは車載装置30による自動速度制御が行われ、まず危険走行領域を回避するための制御を行う回避制御領域となる。車載装置30は、危険走行領域がジレンマ領域である場合、自車両の速度が停止条件Cを満たす停止限界速度(目標速度)に到達するように緩やかな減速度で減速制御を行う。目標速度に到達した後は、その速度を維持し、黄信号開始時点まで一定の速度制御を行う。
自動速度制御のうち、黄信号開始時点以降は、自車両を標準減速度で減速制御する標準減速度制御領域である。すなわち、車載装置30は、黄信号開始時点(黄信号開始位置)から標準減速度で減速制御を行う。車載装置30は、ビデオカメラ40により停止線を検出した場合、それ以降は、停止線までの距離を補正しつつ微調整制御で速度を制御する微調整領域となる。微調整制御は、時々刻々停止線の位置を検出して停止線までの距離を算出し、停止線までの距離に基づいて速度を徐々に変更するものである。従って、減速し過ぎた場合には、緩やかな加速度で加速させることで速度を調整する。
上述の例で、前方車両が危険走行領域になく交差点を通過する場合において、自車両も交差点を通過するときは、所要の加速度で加速制御可能であるか判定し、加速制御可能であれば、加速制御して交差点を通過させることもできる。
この場合、加速制御の可否の判定は、自車両を加速しても安全であるか否かを確認するものである。例えば、自車両を加速した場合の速度が所定速度(例えば、制限速度、制限速度に若干の余裕を上乗せした速度など)以下であることを必須条件とし、自車両の前方に他の車両(接近した前方車両)が存在しないこと、自車両の後方に後続車両が存在すること、及び交差点の交差道路の交通が閑散であることを選択条件とし、必須条件及び少なくとも1つの選択条件を満たす場合に加速可能と判定することができる。なお、接近した前方車両とは、例えば、自車両の速度と超音波センサなどから前方車両との相対速度を所定の周期で検出し、検出した相対速度に基づいて、所定の速度まで加速した場合に衝突する可能性があると判断できる範囲内に存在している車両を対象とする。交通が閑散であるか否かは、交通量が少ない場合であり、例えば、通常、青時間1分間あたりの交通量が20〜30台の地点の道路で、1分間あたりの交通量が15台より少ない場合など、地点毎の飽和流率も考慮して閑散であると判断する。規制速度は、地図データベース34から取得してもよく、光ビーコン10などの外部から取得してもよい。また、自車両周辺の他の車両の状況は、超音波センサ60から取得することができ、交差点の交通情報は、外部の光ビーコン10又は後述する他の通信装置70などから取得することができる。
上述の例で、道路勾配を含む道路情報に基づいて標準減速度gを決定することもできる。例えば、道路勾配が0の場合に、式(5)を用いることとし、道路勾配を考慮する場合には、式(5)に代えて式(10)及び式(12)、あるいは、式(7)に代えて式(11)及び式(12)を用いればよい。ここで、gは標準減速度、hは車種毎に一意の定数である勾配係数、γは勾配(単位は度、登りが正)である。
また、路面状態、タイヤの状態に基づいて、補正後の標準減速度g’を用いることもできる。ここで、g’=g×(μ+1)、μは摩擦係数である。図13は摩擦係数の一例を示す説明図である。なお、道路情報は、光ビーコン10など外部から取得することもでき、あるいは、地図データベース34から取得するようにしてもよい。
これにより、例えば、自車両が下り坂を走行する場合、標準減速度が小さくならないように、下り勾配でかかる力の分だけ減速制御量を増し(h・tan|γ|、γ<0)、登り坂を走行する場合、標準減速度が大きくなり過ぎないように、上り勾配でかかる力の分だけ減速制御量を減少(−h・tan|γ|、γ<0)させる。また、路面状態が乾燥、湿潤、砂地、雪面であるかに応じて、あるいはタイヤの磨耗状態に応じて、標準減速度を変化させることもできる。これにより、一層精度良く車両の停止又は進入を制御することができる。
また、自車両が危険走行状態にない場合であっても、運転者の操作ミスにより危険走行状態に陥る事態を防止するため、交差点停止領域又は交差点通過領域であり、かつ危険走行領域の近傍に危険走行近傍領域を設けることもできる。
図14は危険走行近傍領域の概念を示す説明図である。図中、横軸は停止線からの距離を示し、縦軸は車両の速度を示す。危険走行領域は、図3の場合と同様である。危険走行近傍領域は、交差点停止領域であって危険走行領域に近い領域、及び交差点通過領域であって危険走行領域に近い領域を含む。
すなわち、危険走行近傍領域にあるか否かの判定は、例えば、黄信号開始時点における交差点までの距離及び速度で特定される自車両の状態と停止条件C又は進入条件Lとの近さ度合いにより判定することができる。これにより、自車両が危険走行状態にない場合であっても、運転者の操作ミスにより危険走行状態に陥る事態を防止することができる。
図15は本発明に係る車両運転支援システムの概要の他の例を示す模式図である。図15に示すように、路上装置21、22を設置せずに、光ビーコン10のみを設置することもできる。この場合には、光ビーコン10を、停止線の上流側200m〜1000m程度の位置に設けることができる。また、この場合も、光ビーコン10に代えて、電波ビーコン、DSRCなどを用いることもできる。
図16は本発明に係る車両運転支援システムの概要の他の例を示す模式図である。図16に示すように、光ビーコン10、路上装置21、22に加えて、通信装置70を設ける。通信装置70は、例えば、無線LANなどの中域通信機能を備え、信号情報を広い範囲に送信する。なお、通信装置70は、信号制御、交通情報収集、交通情報提供などの処理を行う装置などを利用することも可能である。また、通信装置70は、中域通信に限らず、FM放送、携帯電話、インターネット通信等の広域通信機能を備えた装置でもよい。
次に危険走行領域回避のための速度制御の具体的な例について説明する。危険走行領域にある前方車両が交差点を通過し、自車両が停止線に停止する場合について説明する。交差点上流の光ビーコン10の位置は、停止線から1000mの地点であるとする。自車両が光ビーコン10と通信して取得した信号情報により、52秒後に黄信号に切り替わるとする。その後、停止線の手前200mの地点で自車両の速度は18m/sであり、黄信号開始時刻まで8秒あるとする。
この時点から、自動速度制御を開始するものとする。自車両がこのままの速度で走行すると、黄信号開始時点は、停止線から56mの地点となる。上述の式(4)で、X=200m、V=18m/s、t=8sより算出できる。標準減速度gを3m/s2 、ブレーキの時間遅れαを0.5s、黄信号時間Tyを3sとすると、上述の式(5)及び式(6)は不成立となり、ジレンマ領域に突入すると判定される。
このジレンマ領域への突入を回避するため、減速して交差点の停止線に停止させる。上述の式(7)より、Vs=17.5m/sとなる。さらに、上述のVr=V−Δv=V−(V−Vs)/nという式で、n=1とすると、Vr=17.5m/sとなる。今、制御の単位時間を1秒とし、自車両の速度制御を開始する場合、制御の遅れ等で1秒後に速度が18m/sから17.5m/sに変化し、この間の平均速度が17.75m/sになるとする。1秒後の判定では、X=200−17.75=182.25m、t=7s、V=17.5m/s、Xy=59.75m、V2 =306.25m2 /s2 となり、一方、2g(Xy−αV)=306m2 /s2 となり、自車両の状態がほぼ停止条件Cで表される曲線上にあることがわかる。
さらに、次の制御周期で同様の処理を繰り返す。次の制御周期の目標速度として、再度式(7)により目標速度Vsを算出すると、Vs=17.497m/sとなる。この場合には、X=182.25m、t=7sを用いている。さらに、上述のVr=V−Δv=V−(V−Vs)/nという式で、n=1とすると、Vr=17.497m/sとなる。これにより車両の速度制御を行うと、1秒後の判定では、X=182.25−17.497=164.753m、t=6s、V=17.497m/sで、Xy=59.77m、V2 =306.14m2 /s2 となり、一方、2g(Xy−αV)=306.13m2 /s2 となり、完全に停止条件Cの曲線上にあることがわかる。
従って、この後は、上述の速度Vを維持し、信号が黄色になった時点から、時間遅れを加味した0.5秒後に、標準減速度で減速制御し、前方車両の交差点通過が確実になった場合、標準減速度以下の減速度で減速制御すれば、自車両を停止線に停止させることができる。このように、停止線の上流の所要の地点で危険走行領域の回避の要否を判定して速度制御することにより、1秒間にわずか0.5m/s、すなわち、1.8km/sという極僅かな速度変化で減速して後続車両に減速を気づかれることなく、自然にジレンマ領域への突入を回避することができる。
なお、上述の例では説明を簡単にするために記していないが、回避制御で一旦目標速度に達して危険走行領域から外れた後、何らかの原因で再び、危険走行領域に入った場合には、再度目標速度を設定して回避制御を行う必要がある。また、上述の例では、説明を分かり易くするため、図4から図7において、自車両が交差点に停止する場合について説明したが、交差点を通過させることもできる。この場合、回避制御に入る前に、加速制御の可否などを判定して、交差点停止又は交差点通過のどちらを選定するかを判断することになる。さらに、加速条件が満たされない場合には、交差点停止制御を行っても良い。
以上説明したように、本発明にあっては、自車両の前方に他の車両が走行する場合であっても、危険走行状態から回避して安全かつ確実に自車両を交差点手前で停止させるための判定を行うことができる。また、危険走行状態を回避するために、車両を交差点に停止させる場合には、車両を緩やかな減速度で減速することができ、停止線で安全かつ確実に車両を停止させることができる。
上述の実施の形態において、危険走行領域を回避するため停止条件C、進入条件Lを用いる構成であったが、これに限定されるものではなく、余裕をもって危険走行領域の回避を行えるように、危険走行領域を予め広めに設定しておくこともできる。また、目標速度として、危険走行領域の停止限界速度又は進入限界速度(境界線の速度)そのものを使用する代わりに、これらを基準として、例えば、限界速度に所定の定数を乗じる等して算出した数値を用いることもできる。
上述の実施の形態では、黄開始時刻を基準とした危険走行領域の回避を示した。しかし、ぎりぎり黄信号で通過せず余裕を持たせる目的で、例えば黄信号時間Tyを意図的に小さくしたり、黄信号開始時刻の黄信号時間だけ手前の時刻を基準として停止線を青信号で通過させるようにしたり、危険走行領域を広くするために式(4)〜式(7)を補正したりする等、本願の概念を損なわない範囲内で、種々、数式、定数等を追加又は変更して用いても良い。また、対象とする危険走行領域は、ジレンマ領域のみとしても良く、あるいは、オプション領域のみとしても良い。また、対象とする車両の速度を、例えば、20km/s以上100km/s以下というように限定しても良い。
上述の実施の形態では、自車両が危険走行領域に突入する可能性があると判断してからは、停止線に停止するまで、あるいは、停止線を通過するまで、自動速度制御モードとしているが、危険走行領域の境界線に到達した時点で自動速度制御モードを終了し、後は運転者による手動運転に切り替えることも可能である。
上述の実施の形態において、危険走行領域から脱出するための回避制御は、上述の例に限定されるものではなく、種々の方法を取り得る。例えば、回避制御領域において、現在速度から一定の減速度で減速し、黄信号開始時刻で停止条件Cを満たすようにすることもできる。また、この場合、黄信号開始時刻までの時間tのうち、最初の時間t1(t1<t)だけ、所定の減速度で減速し、残りの時間(t−t1)は、一定速度で制御し、黄信号開始時刻で停止条件Cを満たすようにすることもできる。また、黄信号開始時刻までの時間tのうち、最初の時間t1だけ速度を変えず一定速度で走行させ、その後、所定の減速度で減速し、黄信号開始時刻で停止条件Cを満たすようにすることもできる。
上述の実施の形態において、自車両が危険走行領域を回避すべく加速して停止線に進入(交差点を通過)する場合にも、減速する場合と同様に、自動速度制御を行い、危険走行領域を回避する制御を行う。例えば、危険走行領域がジレンマ領域である場合、車載装置30は、自車両の速度が進入条件Lを満たす進入限界速度(目標速度)に到達するように緩やかな加速度で加速制御を行う。目標速度に到達した後は、その速度を維持し、黄信号開始時点まで一定の速度制御を行う。黄信号開始時点以降も、速度を維持し一定の速度で停止線を通過する。なお、車載装置30は、ビデオカメラ40により停止線を検出した時点以降は、停止線までの距離を補正しつつ速度を微調整し、自車両が黄信号の終了時点で停止線を進入(通過)するように制御することができる。これにより、黄信号の終了時点で安全かつ確実に自車両を、停止線を通過させることができる。
上述の実施の形態において、自車両の前方を走行する2台の前方車両が共に危険走行領域である場合には、自車両が危険走行領域に入る確率は非常に低いため、自車両は初めから交差点で停止する意識で運転されていると考えられるため、この場合対象外とすることができる。
開示された実施の形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。