本発明における粒子は球状の粒子である。本発明の発泡用粒子は後述するように樹脂成形品あるいは繊維を形成する熱可塑性ポリマー中に含有せしめて用いることが可能であるが、本発明にて用いる粒子が球状である故に、粒子と熱可塑性ポリマーとの濡れ性(親和性)が良好であり、加えて最密充填効果により熱可塑性ポリマー中に高濃度で含有せしめることも可能となり、さらに本発明の発泡用粒子を含有せしめた樹脂成形品あるいは繊維においては、工程通過時や運搬時の接触摩擦やガイド摩耗なども少なくなるといったメリットも付与しうるため優れている。そして本発明の発泡用粒子の大きさは、樹脂成形品あるいは繊維中に均一に含有せしめることが可能であればよいものの、熱可塑性ポリマー中により均一に分散しうることから平均粒径が1μm以下の球状であることが好ましく、さらに熱可塑性ポリマーが微細発泡しうることから0.5μm以下がより好ましく、0.3μm以下であることが特に好ましい。なお平均粒径の下限については、熱可塑性ポリマー中で微細発泡しうることから小さいほど好ましいものの、凝集せず安定して繊維に含有せしめるという点で、0.001μm(1nm)以上であることが好ましく、0.005μm以上であることがより好ましく、0.01μm以上であることがさらにより好ましい。なおここで発泡用粒子の球状についての判断(球状度)は、後述する実施例におけるC.項の方法により判断を行うが、本発明の発泡用微粒子が「球状」でない場合、熱可塑性ポリマーとの濡れ性が悪く、発泡用粒子同士が凝集しやすくなって、本発明で目的とする熱可塑性ポリマー中での微細発泡を達成できない。そして該球状度は2.0以下である必要があるものの、1.5以下であることが好ましく、1.2以下であることがより好ましく、1.1以下であることが特に好ましい。また該球状度の下限は1.0であり、この場合が最も好ましい。
本発明の発泡用粒子は、前述の通り、小さい平均粒径を有することが好ましいものの、平均粒径が小さいことと同時に発泡剤を粒子の細孔内に担持するために、粒子の比表面積が大きい必要がある。発泡用粒子の比表面積は、50〜2000m2/gであることが好ましく、100〜1500m2/gであることがより好ましく、200〜1000m2/gであることが特に好ましい。
本発明の発泡用粒子は、発泡剤を担持するための細孔を有しているが、該細孔は細孔内に発泡剤を担持するという役割を担うほかに、発泡剤が分解して生成した気体のみを排出しつつ、発泡剤の分解により生成した着色性の分解物を内部に閉じこめるという役割も担う必要があり、これらを両立しうる細孔の入り口の大きさ(細孔の平均直径R)を持つことが好ましい。具体的には0.3〜50nmであることが好ましく、0.5〜10nmであることがより好ましく、0.5〜5nmであることが特に好ましい。
本発明の発泡用粒子は、発泡剤を担持するための細孔を有しているが、発泡剤をより多く担持しうることから、細孔内の広さ、すなわち細孔容積が大きいことが好ましい。細孔容積は、発泡用粒子単位重量当たりの細孔の容積(単位ml/g)で表すが、好ましくは0.3ml/g以上、より好ましくは0.5ml/g以上、特に好ましくは0.6ml/g以上である。また該細孔容積は大きいほど好ましいものの、過度に大きい場合、粒子の形態が安定して保てない場合があることから、該細孔容積は5.0ml/g以下の発泡用粒子を安定して製造することが可能で、好ましくは3.0ml/g以下である。
本発明の発泡用粒子に用いる粒子の主成分は、無機系材料、有機系材料、あるいは有機無機ハイブリッド材料など様々なものを用いうるものの、発泡剤が250℃以上で分解・発泡するものを用いる場合であっても安定した粒子形態を保持しうることから、無機系材料からなる発泡用粒子であることが好ましい。この好ましい無機系材料としては、例えば金属酸化物(酸化珪素、酸化アルミ、酸化チタン、ジルコニア、酸化マグネシウム、酸化亜鉛等)や金属水酸化物(水酸化ケイ素、水酸化アルミニウム、水酸化チタン、水酸化ジルコニウム等)、金属炭酸塩(炭酸カルシウム等)、硫酸塩(硫酸バリウム、二硫化モリブテン等)のほか、天然鉱物(マイカ、タルク、石粉、ケイ藻土、カオリン、クレー、火山灰、石炭灰、ベントナイト等)などが挙げられ、その他にも金属(銀、銅、鉄、ニッケルなど)や合金など、多種多様のものが挙げられるが、耐熱性に優れ、熱可塑性ポリマーとの濡れ性が良好で、かつ粒子表面に容易に細孔を形成しうることから金属酸化物が好ましく、酸化珪素、酸化アルミ、酸化チタンが特に好ましく、細孔形態を容易に制御しうること、あるいは化学安定性に優れることなどから本発明の発泡用粒子に用いる粒子の主成分は酸化珪素が最も好ましい。なお、ここでいう「主成分」とは、本発明の発泡用粒子に用いる粒子の50体積%以上を構成する成分のことを指すが、80体積%以上であることが好ましく、90体積%以上であることがより好ましい。
本発明の発泡用粒子の形成に用いる、発泡剤を担持させるための細孔を有する粒子自体の製造方法については、細孔を有する粒子が作られる方法であれば、公知の方法を採用することができる。例えば前述で好ましいとする酸化珪素からなる粒子を挙げると、核となる直径100nm以下の粒子を含む分散水溶液を用いて、界面活性剤およびテトラエトキシシランを加え、ゾルゲル重合により該核となる粒子の表面に酸化珪素および界面活性剤からなる被覆層を形成した後、焼成して界面活性剤を消失させて多数の細孔を有する酸化珪素粒子を得ることができる。この際、核となる粒子の大きさやモノマーとなるテトラエトキシシランの量を制御することによって、焼成後に得られる酸化珪素粒子の大きさを所望の大きさとすることができる。また前述の核となる粒子は、例えばシリカ粒子や酸化亜鉛粒子などが好ましく採用できる他、酸化チタンや銀ナノ粒子、金ナノ粒子など、直径が100nm以下の粒子が核となる粒子として用いることができる。なお該核となる粒子が小さいほど、焼成後に得られる粒子を小さくすることが可能で、好ましくは50nm以下の核となる粒子を用いるとよい。また酸化珪素からなる粒子の製造方法については、その他にも、ポリスチレンラテックス微粒子(PSP)とシリカ微粒子(SOP)とが分散されてなる水分散液から霧を発生させ、乾燥により凝集したこれらPSPとSOPとからなる微粒子を更に加熱処理して、PSPを分解除去して、多数の細孔を有する酸化珪素からなる球状粒子が得られる。乾燥時に凝集するPSPとSOPはセルフアセンブリー効果により球状となるため、加熱処理においても球状を維持しうる。
本発明の発泡用粒子の細孔内に付着させる発泡剤の種類は、後述するように、本発明の発泡用粒子を熱可塑性ポリマー中に含有させ、発泡剤の分解温度以上に加熱することによって発泡剤が分解して、気体が生成し、熱可塑性ポリマーを発泡させることから、用いる熱可塑性ポリマーの融点(Tm)よりも、もしくは融点を示さない熱可塑性ポリマーであれば、熱可塑性ポリマーの軟化点温度よりも高い分解温度を有することが好ましく、所望の分解温度を有する無機系発泡剤や有機系発泡剤などを適宜採用できる。しかし、実用的な熱可塑性ポリマーの融点以上の分解温度を持ち、また本発明での目的、すなわち発泡時の着色回避を達成すべく、分解時に発生する分解物が着色性の化合物となりうる発泡剤であっても、細孔内に分解物が留まるため着色せず好ましい、という点から、有機系発泡剤が好ましい。
用いられうる無機系発泡剤としては、重炭酸ナトリウム、重炭酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、水素化ホウ素ナトリウム、カルシウムアジド等が挙げられる。
用いられうる有機系発泡剤としては、アゾジカルボンアミド(ADCA)、アゾビスホルムアミド(ABFA)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、アゾジカルボン酸バリウム(ADCB)等のアゾ系発泡剤、N,N’−ジニトロソペンタメチレンテトラミン(DNPT)やN,N’−ジニトロソ−N,N’−ジメチルテレフタルアミド(DNDMTA)等のニトロソ系発泡剤、ベンゼンスルホニルヒドラジッド(BSH)、p−トルエンスルホニルヒドラジッド(TSH)、p、p’−オキシビスベンゼンスルホニルヒドラジッド(OBSH)等のスルホニルヒドラジッド系発泡剤、p−トルエンスルホニルセミカルバジッド(TSSH)等のスルホニルセミカルバジッド系発泡剤、ハイドロテトラゾール(HT)、メチルテトラゾール(MT)、フェニルテトラゾール(PT)、1,3−ビステトラゾールベンゼン(BTB)、1,3,5−トリステトラゾールベンゼン(TTB)、ビステトラゾールジアンモニウム(BTDA)、ビステトラゾールピペラジン(BTP)、アゾビステトラゾールジグアニジン(ABTDG)、アゾビステトラゾールジアミノグアニジン(ABTDAG)などのテトラゾール系発泡剤がそれぞれ挙げられるものの、分解温度が高温で、ポリマー加工時に取扱いが容易である点から、ADCA,ADCB,DPT,TSSCやテトラゾール系発泡剤が好ましく、そして着色性の分解物を生成しうるものの発泡剤の単位量(1g当たり)の分解時の発生気体量が多いことから、テトラゾール系発泡剤が特に好ましい。そしてさらに、下記化学式1〜5で示すテトラゾール系発泡剤(化学式1:ハイドロテトラゾール(HT)、化学式2:メチルテトラゾール(MT)、化学式3:フェニルテトラゾール(PT)、化学式4:1,3−ビステトラゾールベンゼン(BTB)、化学式5:1,3,5−トリステトラゾールベンゼン(TTB))は、分解・発泡時に着色性の分解物を生成しうるものの、単位量当たりに発生しうる気体量が多くかつ主成分が不活性気体(N2)であること、加えて分解温度が熱可塑性ポリマーの溶融温度に近いこと等を全て満たす点から、最も好ましい。
本発明の発泡用粒子に担持させる発泡剤の分解温度は、発泡成形品あるいは発泡繊維の製造に用いる熱可塑性ポリマーの融点(Tm)を勘案して、該Tmよりも高いものを採用すればよい。そして採用しうる熱可塑性ポリマーの融点を勘案すると、該分解温度は、150℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、230℃以上であることが特に好ましい。ただし、発泡剤の分解温度が過度に高い場合、発泡剤を分解させるために加熱する必要があって、熱可塑性ポリマー自体の分解を促進してしまうこともあることから、該分解温度の上限としては、350℃以下であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましい。また熱可塑性ポリマーの融点(Tm)を考慮した場合には、発泡剤の分解温度は、(Tm)℃以上(Tm+70)℃以下であることが好ましく、(Tm)℃以上(Tm+50)℃以下であることがより好ましい。
本発明の発泡用粒子に担持した発泡剤は、分解する際に気体を生成して、粒子周辺の熱可塑性ポリマー中に気泡を生成(発泡)させて機能を発揮するものの、該発泡剤が発生する気体は樹脂成形品あるいは繊維を形成する熱可塑性ポリマーと反応しない、すなわち不活性気体であることが好ましい。そして、発泡剤の化学構造を勘案して二酸化炭素および/または窒素を発生する発泡剤であることがより好ましく、窒素を発生する発泡剤であることが特に好ましい。また発泡剤の種類によっては、1つの発泡剤から複数種の気体を生成しうるものがある。この場合は、発生する気体の成分分率で最も大きいもの(主成分)が二酸化炭素および/または窒素であることが好ましく、窒素が特に好ましい。
本発明の発泡用粒子には、細孔内以外の粒子表面に実質的に発泡剤が付着していない必要がある。前述の通り、本発明の発泡用粒子は、均一かつ高効率の発泡を1つの目的としていて、そのために高効率の発泡を達成しうる発泡剤を採用して粒子内に担持せしめることがある。しかし一般的に高効率発泡する発泡剤は、分解発泡時に着色性の分解物を副生することが多く、そのため、着色が問題とならない用途のみに使用が限定されることが多々あった。本発明ではこれを回避するため、発泡剤を粒子の細孔内部のみに担持させ、細孔内以外の粒子表面には実質的に発泡剤が付着していないものとすることによって、発泡剤が分解発泡した際にも着色性の分解発泡物は細孔内部に留まって、発泡用粒子の表面は着色せず、熱可塑性ポリマーの発泡に必要な気体のみが細孔外に発生し、無着色かつ高効率の発泡成形品もしくは発泡繊維の製造を達成するものである。ここで「実質的に発泡剤が付着していない」とは、前述の通り、発泡剤が分解した際に本発明の発泡用粒子が着色しないことからも判断できるが、定量的には、後述するような発泡剤が溶解する溶媒で本発明の発泡用粒子を1分間洗浄した際、該発泡用粒子の重量減少率が1%以下である場合に「実質的に発泡剤が付着していない」と判断する。
本発明の発泡用粒子のもととなる、細孔を多数有する球状粒子(以下「前駆粒子」と記載することがある)に、発泡剤を付着させるには、発泡剤を溶解しうる溶媒に発泡剤を溶解させ、また前駆粒子も分散させて、少なくとも0.5時間以上、好ましくは3時間以上、より好ましくは6時間以上、特に好ましくは12時間以上攪拌することで、前駆粒子の細孔内部まで発泡剤を吸着させることができる。その後、遠心分離などの方法で、攪拌した粒子を取り出した後、発泡剤を含まない溶媒にて、長くとも15分間、好ましくは10分以内、より好ましくは5分以内の短時間で、粒子表面の発泡剤を洗浄・除去して発泡用粒子を得ることができる。この際、前駆粒子の細孔内部に吸着された発泡剤は、短時間の溶媒洗浄では、細孔外部に殆ど出てこない。しかしながら15分を超える長時間の洗浄を施す場合には、前駆粒子の細孔内部に吸着された発泡剤まで洗浄されてしまい、本発明の発泡用粒子としての機能が喪失してしまう。本発明の発泡用粒子が、効果的に機能するには、前駆粒子に対する発泡剤の付着量(重量%)が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、5%以上であることが特に好ましい。そして、前述の発泡剤を溶解させる、あるいは発泡剤を洗浄・除去する溶媒は、発泡剤が溶解する溶媒であればよく、メタノール、エタノール、DMFなどの極性溶媒が好ましい。
本発明の発泡用粒子を用いて、樹脂成形品あるいは繊維において発泡することによって発泡した成形品(発泡成形品)あるいは発泡した繊維(発泡繊維)が得られる。これら発泡成形品あるいは発泡繊維を構成する熱可塑性ポリマーについては、樹脂成形品あるいは繊維を安定して形成しうるものであればよく、多種多様な熱可塑性ポリマーを採用することができる。例えば、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリイミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーやその他ビニルポリマー、フッ素系ポリマー、セルロース系ポリマー、シリコーン系ポリマー、エラストマーおよびその他多種多様なエンジニアリングプラスチックなどを挙げることができる。
より具体的には、例えば、ラジカル重合、アニオン重合およびカチオン重合のようなビニル基を有したモノマーが付加重合反応によりポリマーが生成する機構により合成されるポリオレフィン系ポリマーやその他のビニルポリマーなどにおいては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン、ポリスチレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニリデンおよびポリシアン化ビニリデンなどが挙げられる。これらは、例えば、ポリエチレンのみ、あるいはポリプロピレンのみのように単独重合によるポリマーであってもよいし、あるいは複数のモノマー共存下に重合反応を行うことで形成される共重合ポリマーであっても良く、例えば、スチレンとメチルメタクリレート存在下での重合を行うとポリ(スチレン−メタクリレート)という共重合したポリマーが生成するが、このような共重合体であるポリマーであってもよい。
また、熱可塑性ポリマーとして、例えば、カルボン酸あるいはカルボン酸クロリドと、アミンの反応により形成されるポリアミド系ポリマーを挙げることができ、具体的にはナイロン6、ナイロン7、ナイロン9、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン6,6、ナイロン4,6、ナイロン6,9、ナイロン6,12、ナイロン5,7およびナイロン5,6などが挙げられるほか、他の芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸と芳香族、脂肪族および脂環族ジアミン成分が、あるいは芳香族、脂肪族および脂環族などの1つの化合物がカルボン酸とアミノ基を両方有したアミノカルボン酸化合物が単独で用いられたものであってもよく、あるいは第3および第4の共重合成分が共重合されているポリアミド系ポリマーであってもよい。
また熱可塑性ポリマーとして、例えば、カルボン酸とアルコールのエステル化反応により形成されるポリエステル系ポリマーを挙げることができる。具体的には、本発明でいうポリエステル系ポリマーとは、例えば、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成される重合体を挙げることができ、これらに係る具体的ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリシクロヘキサンジメタノールテレフタレートなどが挙げられる。そして、ジカルボン酸化合物とジオール化合物のエステル結合から形成されるポリエステル系ポリマーは、他の成分が共重合されたものであっても良く、共重合成分のジカルボン酸化合物としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、ジフェニルエタンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、5ーナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸のような芳香族、脂肪族、脂環族ジカルボン酸およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体が用いられたものであってもよく、またこれらジカルボン酸化合物は1種を単独で用いたものであってもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
また共重合成分として、例えば、ジオール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、ハイドロキノン、レゾルシン、ジヒドロキシビフェニル、ナフタレンジオール、アントラセンジオール、フェナントレンジオール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、4,4´−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよびビスフェノールSのような芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノおよびハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体が用いられたものであってもよく、またこれらジオール化合物のうち1種を単独で用いたものであってもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いたものであってもよい。
また共重合成分として、1つの化合物に水酸基とカルボン酸を具有する化合物、すなわちヒドロキシカルボン酸が用いられたものであっても良い。該ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、乳酸、3−ヒドロキシプロピオネート、3−ヒドロキシブチレート、3−ヒドロキシブチレートバリレート、ヒドロキシ安息香酸、ヒドロキシナフトエ酸、ヒドロキシアントラセンカルボン酸およびヒドロキシフェナントレンカルボン酸、(ヒドロキシフェニル)ビニルカルボン酸のような芳香族、脂肪族、脂環族ジオール化合物およびそれらのアルキル、アルコキシ、アリル、アリール、アミノ、イミノ、ハロゲン化物などの誘導体、付加体、構造異性体および光学異性体が用いられてよく、これらヒドロキシカルボン酸は、1種を単独で用いてもよいし、また2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、ポリエステル系ポリマーとしては、芳香族、脂肪族および脂環族などの1つの化合物がカルボン酸と水酸基を両方有したヒドロキシカルボン酸化合物を主たる繰り返し単位とする重合体が用いられてもよく、例えば、これらにかかる重合体としては、ポリ乳酸、ポリ(3−ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3−ヒドロキシブチレート)およびポリ(3−ヒドロキシブチレートバリレート)のようなポリ(ヒドロキシカルボン酸)が好適に用いられ得る。これらポリ(ヒドロキシカルボン酸)は、芳香族、脂肪族および脂環族ジカルボン酸、あるいは芳香族、脂肪族および脂環族ジオール成分が共重合されていてもよく、あるいは複数種のヒドロキシカルボン酸が共重合されたものであってもよい。
その他に、本発明の熱可塑性ポリマーとしては、アルコールと炭酸誘導体のエステル交換反応により形成されるポリカーボネート系ポリマー、カルボン酸無水物とジアミンの環化重縮合により形成されるポリイミド系ポリマー、ジカルボン酸エステルとジアミンの反応により形成されるポリベンゾイミダゾール系ポリマーや、そのほかにもポリスルホン系ポリマー、ポリエーテル系ポリマー、ポリフェニレンスルフィド系ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン系ポリマー、ポリエーテルケトンケトン系ポリマーなどの合成ポリマーやセルロース系ポリマーや、キチンおよびキトサンの誘導体など、天然高分子由来のポリマーなどが好適に用いられるものとして挙げられる。
これら例示した熱可塑性ポリマーの中で、発泡成形品や発泡繊維となした場合に力学的特性や熱的特性などの物性にバランス良く優れるだけでなく、発泡構造自体の耐熱性も優れる点で、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、ポリオレフィン系ポリマーが好ましく用いられ、ポリエステル系ポリマーおよびポリアミド系ポリマーがより好ましく用いられる。
ポリエステル系ポリマーの中では、発泡成形品あるいは発泡繊維の発泡構造の耐熱性が高く、特に耐久性の高い発泡繊維となる点で、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、およびポリ乳酸がより好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートが特に好ましく、ポリエチレンテレフタレートが最も好ましく用いられる。
また、ポリアミド系ポリマーも同様に、発泡繊維の耐久性の観点から、ナイロン6とナイロン6,6がより好ましく用いられる。
前述の通り、発泡成形品あるいは発泡繊維を構成する熱可塑性ポリマーについては、いくつか好ましいものを挙げることができるが、後述する発泡成形品あるいは発泡繊維の製造方法において、紡糸口金から吐出された紡出糸が冷却される際に気泡の合一・破泡が起こり難い、あるいは易い点から、溶融粘度の高い熱可塑性ポリマーであることが好ましい。ここで溶融粘度は、発泡繊維の材料となる熱可塑性ポリマーが結晶性ポリマーである場合、融点(Tm)よりも30℃高い温度で測定した剪断速度12.16[sec−1]における溶融剪断粘度(以下、単に剪断粘度と記載することがある。)によって評価した。剪断粘度は、50[Pa・秒]以上であることが好ましく、100[Pa・秒]以上であることがより好ましく、さらに好ましくは200[Pa・秒]以上である。また、気泡成長させるためには、剪断粘度は、10,000[Pa・秒]以下であることが好ましく、8,000[Pa・秒]以下であることがより好ましく、さらに好ましくは5,000[Pa・秒]以下である。また、融点を示さない非晶性ポリマーについては紡糸温度と同一の温度で同様に剪断粘度を測定することで求められる。
前述の熱可塑性ポリマーと発泡用粒子との混練は、1軸エクストルーダーや2軸エクストルーダーなどの機械混練や、スタティックミキサーやハイミキサーなどの静置混練により混練されることが好ましく、発泡剤の分解により発生した気体が熱可塑性ポリマーに均一に溶解し易い点で、1軸エクストルーダーや2軸エクストルーダーなどの機械混練により混練されることがより好ましく、2軸エクストルーダーにより混練されることが特に好ましい態様である。これらの混練機構は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよいし、1種を複数個連続使用してもよい。
熱可塑性ポリマーに対する本発明の発泡用粒子の添加量は、多いほど口金から吐出される際に多くの気泡核が形成される。そのため、添加量は具体的には、0.1wt%以上であることが好ましく、1.0wt%以上であることがより好ましく、3.0wt%以上であることがより好ましく、特に好ましくは5.0wt%以上である。ただし過度に発泡用粒子を添加すると、気泡の合一・破泡が起こり易くなる傾向にあることから、20wt%以下であることが好ましく、15wt%以下であることがより好ましく、10wt%以下であることが特に好ましい。
以下、本発明の発泡用粒子を用いた発泡成形品あるいは発泡繊維の製造方法について具体的に述べる。
本発明の発泡用粒子を用いて発泡した樹脂成形品は、具体的には、熱可塑性樹脂に該発泡用粒子を含有せしめて、好ましくは3MPa以上の加圧下、発泡剤が分解して気体を生成する分解温度以上に加熱し、その後、射出成形など、ノズルを通過後に大気下に開放され成型される際に発泡して成形品が得られる。発泡の際には、発泡用粒子の粒子表面の無数の細孔から発泡剤の分解により生成した気体が膨張し、熱可塑性ポリマーのマトリックス内に無数の空隙を生成して発泡した成形品が得られる。
また本発明の発泡用粒子を用いた発泡繊維は、あらかじめ押出機中で溶融させた熱可塑性ポリマーに発泡用粒子を添加、含有せしめるか、あるいは押出機に供給する以前の任意の段階で、粉状あるいは粒状の熱可塑性ポリマーと発泡用粒子とを混合しておいて、その後押出機に供給、溶融混合することで、熱可塑性ポリマーと発泡用粒子の混合体を得る。その後該混合体は、紡糸パック内で、好ましくは3MPa以上の加圧下、発泡剤が分解して気体を生成する分解温度以上に加熱し、好ましくは口金背面圧3MPa以上で、紡糸口金に導いて高剪断速度を付与して吐出し、溶融ポリマーからなる繊維状物が大気下に押し出される際に発泡して、さらに発泡した吐出糸を冷却した後、引き取った後に巻き取る方法によって製造され、発泡繊維が得られる。発泡の際には、発泡用粒子の粒子表面の無数の細孔から発泡剤の分解により生成した気体が膨張し、熱可塑性ポリマーのマトリックス内に無数の空隙が生成することで発泡した繊維が得られる。
前述の紡糸パック内部においては、紡糸パック内の流路、濾層およびフィルターなどの構成は任意であるが、微細発泡をより促進するために、紡糸パック内の圧力が高くなる構成とすることが好ましく、このために紡糸パックの各部材はその圧力に耐える機械設計とすることが肝要である。より発泡繊維中の気泡を微細化できる点で、紡糸パック内の圧力は5MPa以上とすることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、20MPa以上であることがさらにより好ましく、30MPa以上であることが特に好ましく、40MPa以上であることが最も好ましい。ただし紡糸パック内の圧力は高いほど好ましいが、あまりに高くすると、紡糸パック、口金、ポリマー流路およびギヤポンプなどの耐圧設計のために装置が大型化し、得られる発泡繊維の汎用性が低くなるため、200MPa以下とすることが好ましい。
本発明の発泡用粒子を用いて製造される発泡繊維の製造方法においては、前述のように紡糸パック内の加圧条件で、高いほど好ましいものの、とりわけ紡糸口金における背面圧が高いほど好ましく、3MPa以上であることが好ましい。その理由としては2つを推測している。1点は、紡糸口金の背面圧が高圧状態ほど発泡剤の分解により生成した気体の熱可塑性ポリマーへの溶解量(以後、溶解度と記載する)が大きい(逆に低圧状態では溶解度は低い)ことである。もう1点は、紡糸口金の背面圧が高圧状態では、発泡剤の分解により生成した気体は熱可塑性ポリマー中に溶解して、気体と熱可塑性ポリマーからなる混合ポリマーの単一相を形成するが、該混合ポリマーの紡糸口金からの吐出における発泡数、すなわち気泡核の生成数(または量)は、吐出時の圧力降下の大きさ、すなわち、吐出前の混合ポリマーに高い圧力が掛かっているほど、吐出前後での気体の溶解度差が大きくなり、多くの気泡が形成されることである。従って、紡糸口金における背面圧は高いほど好ましく、8MPa以上であることが好ましく、10MPa以上であることがより好ましく、15MPa以上であることがさらにより好ましく、20MPa以上であることが特に好ましい。また、口金の背面圧の上限については、耐圧設計の観点から、100MPa以下とすることが好ましい。
発泡繊維の製造において、紡糸口金の口金孔から吐出された吐出糸は、冷却されることで得られる。吐出糸に冷却を施さないと、過度に発泡して破泡して繊維状物が繋がらないか、もしくは紡出糸から気体が流出し易く、逆に気泡核がほとんど成長せずに発泡効率が悪くなり、発泡繊維の横断面における気泡の占有率が低くなってしまうことがある。冷却方法については、吐出糸よりも低い温度の物質を紡出糸に接触させる手法により達成され、例えば、冷却風を吐出糸に吹き付ける方法、冷水に吐出糸を浸す方法、水蒸気を紡出糸に吹き付ける方法など挙げられ、吐出糸を均一に冷却でき、紡糸速度を高くできるなどの利点のある冷却風を吐出糸に吹き付けて冷却する方法が好ましい。この場合、冷却風の温度が低いほど、冷却風吹き付け開始点と口金からの距離が短いほど、紡出糸が急冷される。ここで、発泡繊維の繊維横断面における気泡占有率をより高くできる点で、冷却風の温度は、30℃以下であることが好ましく、25℃以下であることがより好ましく、さらに好ましくは20℃以下である。冷却風の温度の下限については、0℃以上が適当である。また、上述のように冷却風吹き付け開始点と口金の距離が短いほど吐出糸条が急冷される。
冷却風吹き付け開始点と紡糸口金との距離は、20cm以下であることが好ましく、10cm以下であることがより好ましく、5cm以下であることがさらに好ましく、特に好ましくは3cm以下である。口金直下から冷却風を吹き付ける場合、口金面自身が冷却されて口金面の温度が下がることがある。口金面の温度が過度に低下すると、未溶融のポリマーが吐出され、結果として発泡繊維の発泡構造が不均一になることがあるため、口金付近を局所的に加熱するヒーターを用いることも好ましい手法である。
前述の発泡繊維の製造方法においては、吐出後に冷却された後、600〜6,000m/分の速度で引き取る(以後、引取速度と記載することがある。)ことで繊維状物が得られる。引取速度を高くすることにより吐出糸は、短時間でガラス転移温度(Tg)以下に冷却されて固化するため、気泡の成長が抑制され過度に大きな気泡が成長することが無く、発泡剤の分解により生成した気体が吐出糸から系外へ流出しにくくなる。さらに、気泡が発泡繊維の長手方向に伸長され、長くなることで発泡繊維の力学物性が向上するという利点もある。ここで引取速度を600m/分以上とすることにより、吐出糸が十分に冷却され気体が系外に流出し難く、吐出糸内部に気体の濃度斑がおこらず、気泡を均一で成長させることにより粗大な気泡を含まない発泡繊維となる。引取速度は、1,000m/分以上であることがより好ましく、1,500m/以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは2,000m/分以上である。一方で、引取速度が高いほど気泡の成長が抑えられて気泡の占有率の低い発泡繊維となる傾向にあるが、6,000m/分以下とすることにより、適度に気泡が成長した発泡繊維を得られる。より気泡占有率の高い発泡繊維となる点で、引取速度は、5,500m/分以下であることがより好ましく、5,000m/分以下であることがさらにより好ましく、特に好ましくは4,500m/分以下である。
前述の発泡繊維の製造方法においては、吐出後に冷却され、前述の引取速度で引き取られた後に巻き取って未延伸糸を得ることも可能であるが、該発泡繊維は引き取った後に巻き取ることなく、引き取って続けて熱処理されることが好ましい。熱可塑性ポリマーに対する、発泡剤の分解により生成した気体の溶解度は、通常低温ほど大きいため、引き取られた発泡繊維の内部には該気体が溶存することがある。そこで、熱処理を施すことによって、発泡繊維の内部に溶存した該気体の溶解度を低下・気泡核を生成させ、発泡繊維内部の気泡数を増やすことができる。同時に溶存した該気体が既に存在する気泡に流入して気泡が成長するため、気泡占有率を高い発泡繊維となる。このような熱処理による発泡構造の変化は、紡糸直後の発泡繊維特有の現象であるため、引き取られた発泡繊維を巻き取る前に熱処理することで達成されうる。ここで熱処理を施す温度は、熱可塑性ポリマーのTg以上であることが好ましく、(Tg+10)℃以上であることがより好ましく、さらに好ましくはTg+20℃以上である。熱処理温度があまり高いと、熱可塑性ポリマーの流動性が高くなりすぎて気泡の合一・破泡あるいは繊維の破断を招くことがあるので、熱可塑性ポリマーが結晶性ポリマーの場合は融点Tm以下で処理し、非晶性ポリマーの場合は(Tg+150)℃より低い温度で処理することが好ましい。また、熱処理を施す時間は長いほど好ましいが、10msec以上であれば十分な効果を発揮する。
熱処理する際の加熱方法は、汎用の装置を用いればよく、熱伝達能力が高い加熱方法が好ましいことから、加熱ローラー、加熱ピン、加熱プレート、加熱液体および加熱蒸気を用いた装置や、あるいは炭酸ガスレーザー等に代表される分子振動の励起を利用した加熱手法などを採用することが好ましい。1つの熱源を用いて1段階で熱処理を行ってもよいし、複数個の熱源を組み合わせて多段階で熱処理を施してもよい。
前述の発泡繊維の製造方法において、吐出糸は引き取った後、延伸を施すことが好ましい。延伸することによって発泡繊維の内部の気泡が長手方向に伸長されて、発泡構造の長手方向への均一性が高まるからである。また、延伸によって発泡繊維の気泡と気泡の間に存在する熱可塑性ポリマーの壁が繊維軸方向に伸長され、長手方向に配向することによって十分な力学物性を持つものとなる。
該延伸時の加熱方法は、汎用の装置を用いればよく、熱伝達能力の高い加熱方法が好ましく、加熱ピン、加熱プレート、加熱液体や加熱気体を用いた装置あるいは炭酸ガスレーザー等に代表される分子振動の励起を利用した加熱手法などを採用することができる。なお、延伸した後、再度(Tg+10)℃以上の温度で熱処理する方法が好ましい。延伸後に熱処理を施すことで気泡の周りが熱固定され、耐熱性に優れた発泡繊維となる。ここで延伸後の再熱処理の方法は、汎用の装置を用いればよく、加熱効率の高い方式ほど繊維内部の構造が緩和されることなく固定され、気泡の耐久性が高い発泡繊維が得られることから、加熱ピン、加熱ローラー、加熱プレート、加熱液体や加熱気体を用いた装置あるいは炭酸ガスレーザー等に代表される分子振動の励起を利用した加熱手法などを採用することができる。
これら延伸および延伸後の再熱処理は、発泡繊維を巻き取った後、巻き取る前のいずれの段階で行ってもよいが、上述したように、引き取った発泡繊維を巻き取る前に熱処理することによる効果も同時に発現できる点で、引き取った後、巻き取る前に加熱延伸し、その後に再熱処理する手法が特に好ましい。具体的には、吐出糸を引き取った後、複数のローラー間でローラーの速度差を利用して延伸する際に、いくつかのローラーを加熱ローラーすることで熱処理を施しながら延伸する手法や、ローラー間に加熱ピンや、加熱プレートや、加熱液体などの熱源を配置して熱処理を施しながら延伸する手法を採用することができる。延伸倍率は、発泡繊維が所望の残留伸度となるように調整すればよい。
また、前述の発泡繊維の製造方法において、吐出糸は、延伸を施さずに、あるいは延伸を施した後に仮撚加工されてもよい。仮撚加工において延伸糸を用いる場合には、接触型もしくは非接触型の方法により加熱され、ディスク状物、ベルト状物、あるいはピン状物によって仮撚加工される。未延伸糸を用いる場合には、同様に接触型もしくは非接触型のヒーターなどにより加熱した後もしくは加熱されることなく延伸を施しながら、施撚体(ディスク、ピン、ベルト)によって仮撚加工される。仮撚加工された発泡繊維は、そのまま巻き取ることが可能であるものの、再度熱セットされた後に巻き取られる。
本発明の発泡用粒子を用いて製造される発泡繊維とは、繊維内部に気泡を有するものであるが、具体的には繊維横断面において熱可塑性ポリマーの隔壁により分割された、5個以上の独立した気泡を有するものである。この気泡は繊維長手方向に伸ばされた形態を持ち、繊維長手方向に不連続に存在している。本発明の発泡用粒子を用いて製造される発泡繊維は、溶融紡糸において、熱可塑性ポリマーと発泡剤の分解により発生した気体とが混合された混合ポリマーを紡糸口金に導き、口金から吐出する際の圧力低下(大気圧下への圧力開放)によって、紡出糸の内部に気泡が生成され発泡繊維が得られる。
本発明の発泡用粒子により得られる発泡繊維の繊維横断面における気泡は微細となりうるが、該気泡の最大直径が微細であるほど均一性の高い発泡繊維となり、また力学物性も良好となることから、気泡の最大直径は10μm以下であることが好ましく、より好ましくは5μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以下である。気泡の最大直径は小さいほど好ましいが、0.001μm以上である場合に気泡として認識しうるのであって、また軽量化にも寄与しうる。
また前述の通り、発泡繊維中に発生する気泡は微細であるものの、繊維の力学物性が良好となる点で、繊維横断面内における気泡の平均直径が小さいことが好ましく、気泡の平均直径は、好ましくは5μm以下であり、より好ましくは3μm以下であり、さらに好ましくは1μm以下であり、特に好ましくは0.5μm以下である。気泡の平均直径は小さいほど好ましく、気泡の平均直径の下限についての制限はないが、適度な大きさを持つことで、気泡の耐久性が高い発泡繊維となる。このため、気泡の平均直径は0.001μm以上であることが好ましく、0.005μm以上であることがより好ましく、さらに好ましくは0.01μm以上である。
本発明の発泡用粒子を用いて製造される発泡繊維は、微細発泡により生成する気泡は均質であるが、定量的には、繊維横断面における気泡の直径の分布が狭いほど、すなわち気泡の直径の標準偏差が小さいほど、外力が熱可塑性ポリマーに均一に分散され、力学物性に優れる発泡繊維となるため好ましい。発泡繊維において気泡の直径の標準偏差は3μm以下であることが好ましく、1μm以下であることがより好ましく、0.5μm以下であることがさらにより好ましく、特に好ましくは0.3μm以下である。また、下限については、0.01μmが現状の製造で達成しうる最も好ましい値である。
以下、実施例により、本発明の発泡用粒子とその製造方法について、具体的かつより詳細に説明する。実施例中の物性値は、下記の方法によって測定した。
A.熱可塑性ポリマーの融点(Tm)とガラス転移温度(Tg)の測定
パーキンエルマー社製の示差走査熱量分析装置(DSC−2)を用いて、試料10mgについて、昇温速度16℃/分で測定した。TmとTgの定義は、一旦昇温速度16℃/分で測定した際に観測される吸熱ピーク温度(Tm1)を観測後、Tm1+20℃の温度で5分間保持した後、室温まで急冷し、(急冷時間および室温保持時間を合わせて5分間保持)、再度16℃/分の昇温条件で測定した際に、段状の基線のずれとして観測される吸熱ピーク温度をガラス転移温度(Tg)とし、結晶の融解温度として観測される吸熱ピーク温度を融点(Tm)とした。
B.熱可塑性ポリマーの溶融粘度の測定
東洋精機社製のキャピログラフ1型を用いて、キャピラリー長40mmのキャピラリーを用いて、12.16[sec−1]における溶融剪断粘度を測定した。結晶性ポリマーであれば(Tm+30)℃の温度で、非晶性ポリマーであれば紡糸温度で測定した。
C.発泡用粒子の球状度の算出、「球状」の判断および平均粒径の測定
(株)ニコン社製、走査型電子顕微鏡ESEM−2700を用いて、加速電圧10kVで、試料を白金−パラジウム蒸着(蒸着膜圧:25〜50オングストローム)処理を行った後、横長のモニター画面上で、粒子が画面縦幅の10分の1以上の大きさの直径となる倍率(概ね200〜50000倍)の任意の倍率で確認した。球状度および平均粒径については、観察写真をデジタル撮影し、コンピュータソフトウェアの三谷商事社製WinROOFにおいて粒子100個の平均面積値を算出し、更に該平均面積値から略円形と判断して発泡用粒子の平均粒径を算出した。また撮影した写真中の100個の発泡用粒子において、1つの粒子の最大直径(R)と最小直径(r)を目視判断して計測し、その比(R/r)を求め、100個の粒子の該比の平均値を求めその値を球状度とし、球状度が2.0以下のものを「球状」と判断した。
D.球状粒子の比表面積、細孔の平均直径Rおよび細孔容積の測定
マイクロメリティックス社製((株)島津製作所販売)の自動比表面積/細孔分布測定装置トライスター3000にて、窒素を用いて測定した。比表面積はBET比表面積から求め、また細孔の平均直径(Pore Diameter)Rおよび細孔容積(Pore Volume of pores)はそれぞれBJH法による吸着側メソポア細孔分布の測定結果から求めた。
E.発泡剤の分解温度の測定方法
セイコーインスツル株式会社製示差熱熱重量同時測定装置(型式 EXSTAR6000 TG/DTA 6200)を用いて、試料10mg、昇温速度5℃/分の条件で、温度上昇に伴う減量率を求め、該減量率が10重量%となる温度を、発泡剤の分解温度(℃)とした。
F.着色の有無の判断
ミノルタカメラ(株)製色彩色差計MINOLTA CR−200を用いて、該装置付属の白色板を用いて校正した後に、あらかじめ発泡剤の分解温度以上に加熱しておいた本発明の発泡用粒子(試料)のa*値を測定した。各試料において3回測定した結果を平均してその試料の着色値a*avとし、a*avが10より大きい値である場合に、着色したと判断した。
<発泡用粒子のもととなる細孔を有する粒子(前駆粒子)の調製>
ゾルゲル重合法による粒子の調製
核とする粒子として扶桑化学工業株式会社製コロイダルシリカ(品番PL−1,平均直径15nm,粒子濃度12%の分散水溶液)5.0mlを10倍希釈した後、界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC)を0.40g加え、均一な分散液を調製した。この分散液に室温にてテトラエトキシシラン(TEOS)2.22mlおよびアンモニア水(濃度30%)を17ml加え、12時間攪拌しつつゾルゲル重合を行い、白色沈殿物を得た。該沈殿物を遠心分離、乾燥した後、500℃に加熱・焼成して、多数の細孔を有する主成分が酸化珪素からなる(酸化珪素99.9%)粒子(SOLP)1.2gを得た。得られた粒子の特性は、平均直径236nm,比表面積476m2/g、細孔の平均直径R 4.97nm、細孔容積0.680ml/g、球状度1.03であった。
<発泡剤の合成>
ベンゼンビステトラゾール(BTB)の合成は、窒素気流下で1,3−ジシアノベンゼン1.0gをジメチルホルムアミド5mlに溶解させ、室温にてアジ化ナトリウム5.0gを加えた後、60℃まで加温し、48時間反応した。その後、希塩酸を用い中和し、蒸留水と酢酸エチルで分液し、酢酸エチル層を集め、乾燥して溶媒を留去した。得られた固体を、シリカゲルカラムにて精製を行い、ベンゼンビステトラゾール(BTB)0.8gを得た。分解温度を評価したところ、275℃であった。またベンゼントリステトラゾール(TTB)の合成は、前述の「1,3−ジシアノベンゼン1.0g」を1,3,5−トリシアノベンゼン1.2gとして、同様に合成を行い、TTB0.3gを得た。分解温度を評価したところ273℃であった。
実施例1
前述の前駆粒子SOLPを用いて0.1gを4mlエタノール中に分散させた後、永和化成工業株式会社製フェニルテトラゾール(セルテトラP5T;以下PT、分解温度235℃)および前述の通り合成したBTB、TTBを、それぞれ0.05gずつ、該SOLPを分散させたエタノールに発泡剤を溶解させ、12時間攪拌した。その後、粒子を遠心分離した後、エタノール中にて再度該粒子を5分間攪拌して粒子表面の発泡剤を洗浄、除去した後乾燥して、発泡用粒子P−PT、P−BTB、P−TTBをそれぞれ得た。発泡剤担持による発泡用粒子の重量増加率は、粒子を100%回収した前提で、P−PTが31重量%増加、P−BTBが28重量%増加、P−TTBが26重量%増加であった。また発泡用粒子P−PT、P−BTB、P−TTBそれぞれを300℃に加熱したところ、3種とも粒子そのものは着色しなかった(それぞれの粒子の着色値a*avは、P−PT:+0.8、P−BTB:+1.1、P−TTB:+2.4)ため、発泡用粒子表面に発泡剤が付着していないことが確認された。
実施例2
住友大阪セメント株式会社製ナノポーラスシリカ(平均直径78nm,比表面積808m2/g、細孔の平均直径R 3.42nm、細孔容積1.97ml/g、球状度1.05、主成分酸化珪素(99.9%);以下NPSと略記することがある)を0.1g用いた以外は実施例1と同様の手法により、Q−PT、Q−BTB、Q−TTBをそれぞれ得た。発泡剤担持による発泡用粒子の重量増加率は、粒子を100%回収した前提で、Q−PTが39重量%増加、Q−BTBが32重量%増加、Q−TTBが29重量%増加であった。また発泡用粒子Q−PT、Q−BTB、Q−TTBそれぞれを300℃に加熱したところ、3種とも粒子そのものは着色しなかった(それぞれの粒子の着色値a*avは、Q−PT:+1.2、Q−BTB:+1.5、Q−TTB:+2.8)ため、実施例1と同様、発泡用粒子表面に発泡剤が付着していないことが確認された。
比較例1
実施例1において、SOLPを分散させたエタノールに発泡剤を溶解させ、12時間攪拌した後、粒子を遠心分離して、粒子表面の発泡剤を洗浄、除去しない以外は実施例1と同様の方法によって、発泡用粒子3種(P’−PT、P’−BTB、P’−TTB)を得た。P’−PT、P’−BTB、P’−TTBそれぞれを300℃に加熱したところ、3種とも粒子そのものがピンク色に着色して(それぞれの粒子の着色値a*avは、P’−PT:+12.1、P’−BTB:+18.3、P’−TTB:+20.4)しまい、発泡用粒子表面に発泡剤が付着したままで、かつ発泡の際に着色することが確認された。
比較例2
実施例2において、NPSを分散させたエタノールに発泡剤を溶解させ、12時間攪拌した後、粒子を遠心分離して、粒子表面の発泡剤を洗浄、除去しない以外は実施例2と同様の方法によって、発泡用粒子3種(Q’−PT、Q’−BTB、Q’−TTB)を得た。Q’−PT、Q’−BTB、Q’−TTBそれぞれを300℃に加熱したところ、比較例1と同様に3種とも粒子そのものがピンク色に着色して(それぞれの粒子の着色値a*avは、Q’−PT:+13.5、Q’−BTB:+16.1、Q’−TTB:+25.8)しまい、結果的に発泡用粒子表面に発泡剤が付着したままで、かつ発泡の際に着色することが確認された。
実施例3および比較例3
実施例1において、SOLPを分散させたエタノールに発泡剤を溶解させ、12時間攪拌した後、粒子を遠心分離して、粒子表面の発泡剤を15分間、または20分間洗浄した以外は実施例1と同様の方法によって、発泡用粒子P”−PT(15分間;実施例3)、P'''−PT(20分間;比較例3)を得た。発泡剤担持による発泡用粒子の重量増加率は、粒子を100%回収した前提で、P”−PTが6重量%増加、P'''−PTが0.8重量%増加で、20分間の洗浄を施した場合には、過度の洗浄により、発泡剤粒子孔内の発泡剤まで洗浄・除去されてしまい、本発明で目的とする発泡剤としての機能を喪失していた。
実施例4,5
核とする粒子として扶桑化学工業株式会社製コロイダルシリカ(品番PL−7(一次粒子径70nm、コロイダルシリカ濃度20%)を用いて、該コロイダルシリカ分散液5.0mlを10倍希釈した後、界面活性剤セチルトリメチルアンモニウムクロライド(CTAC)を0.40g加え、均一な分散液を調製した。この分散液に室温にてテトラエトキシシラン(TEOS)2.22ml(実施例4)、または3.33ml(実施例5)およびアンモニア水(濃度30%)をそれぞれに17ml加え、12時間攪拌しつつゾルゲル重合を行い、白色沈殿物を得た。該沈殿物を遠心分離、乾燥した後、500℃に加熱・焼成して、多数の細孔を有する主成分が酸化珪素からなる粒子(SOLP2;実施例4、SOLP3;実施例5、共に酸化珪素99.9%)を得た。得られた粒子の特性は、平均直径424nm(実施例4)679nm(実施例5),また比表面積は317m2/g(実施例4),284m2/g(実施例5)、細孔の平均直径Rは3.15nm(実施例4),2.49nm(実施例5)、細孔容積0.420ml/g(実施例4),0.381ml/g(実施例5)、球状度1.05(実施例4,実施例5共)であった。
これらSOLP2,SOLP3を用いて実施例1と同様の方法で発泡剤PTを吸着させた発泡用粒子P4−PT、P5−PTをそれぞれ得た。発泡剤担持による発泡用粒子の重量増加率は、粒子を100%回収した前提で、P4−PTが15重量%増加、P5−PTが11重量%増加であった。また発泡用粒子P4−PT、P5−PTそれぞれを300℃に加熱したところ、3種とも粒子そのものは着色しなかった(それぞれの粒子の着色値a*avは、P4−PT:+0.7、P5−PT:+0.9)ため、発泡用粒子表面に発泡剤が付着していないことが確認された。