図1は本発明を火花点火式内燃機関に適用した場合を示している。しかしながら、本発明を圧縮着火式内燃機関に適用することもできる。
図1を参照すると、1は例えば四つの気筒を備えた機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダヘッド、4はピストン、5は燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポート、10は点火栓をそれぞれ示す。吸気ポート7は対応する吸気枝管11を介してサージタンク12に連結され、サージタンク12は吸気ダクト13を介してエアクリーナ14に連結される。吸気ダクト13内には吸入空気質量流量Gaを検出するためのエアフローメータ15と、ステップモータ16により駆動されるスロットル弁17とが配置される。また、各気筒の燃焼室5内には燃焼室5内に燃料を直接噴射する電気制御式の燃料噴射弁18cが配置される。以下では、この燃料噴射弁18cを筒内噴射弁と称することにする。
燃料タンク19にはその内部空間内に、隔壁19wにより互いに隔離された給油室19f及び残存燃料室19rが設けられる。隔壁19w内には連通孔が形成され、この連通孔内に電磁式の遮断弁20が配置される。したがって遮断弁20が開弁されるとこれら給油室19f及び残存燃料室19rは互いに連通し、給油室19f内の燃料と残存燃料室19r内の燃料とが互いに混合することになる。これに対し、遮断弁20が閉弁されると給油室19fと残存燃料室19rとが互いに遮断される。また、給油室19fには給油口19iが設けられ、しかしながら残存燃料室19rには給油口は設けられていない。給油口19iの蓋21には、給油口19iが開放され給油が行われることを示す信号を発する給油口センサ22が取り付けられる。
給油室19f及び残存燃料室19rにはそれぞれ燃料供給枝管23f,23rが連結されており、これら燃料供給枝管23f,23rは共通の調量装置24を介し燃料供給管25に連結される。燃料供給管25は燃料蓄圧室すなわちデリバリパイプ26cを介して各筒内噴射弁18cに連結される。燃料供給枝管23f,23rにはそれぞれ、電子制御式の吐出量可変な燃料ポンプ27f,27rが配置される。図1に示される例ではこれら燃料ポンプ27f,27rは給油室19f及び残存燃料室19r内にそれぞれ収容されるが、給油室19f及び残存燃料室19r外に配置してもよい。給油室19f内及び残存燃料室19r内に配置された燃料ポンプ27f,27rをそれぞれ給油室ポンプ及び残存燃料室ポンプと称すると、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料はそれぞれ給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rにより調量装置24に供給され、燃料供給管25及びデリバリパイプ26cを介して筒内噴射弁18cに供給される。また、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rにはそれぞれ、給油室19f内の燃料量QFf及び残存燃料室19r内の燃料量QFrを検出する燃料量センサが取り付けられている。なお、本発明では例えば燃料供給管25に燃料供給管25内を流通する燃料の性状を検出するための燃料性状センサは設けられていない。
調量装置24は給油室19f内の燃料と残存燃料室19r内の燃料とを予め定められた割合でもって燃料供給管25に供給するためのものである。すなわち調量装置24は、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rが共に運転されたときに筒内噴射弁18cを介し機関に供給される燃料のうち、給油室19f内の燃料量の割合がq(0<q<1)、残存燃料室19r内の燃料量の割合が(1−q)となるようにする。当然、給油室ポンプ27fのみが運転されているときには給油室19f内の燃料のみが調量装置24から筒内噴射弁18cに供給され、残存燃料室ポンプ27rのみが運転されているときには残存燃料室19r内の燃料のみが調量装置24から筒内噴射弁18cに供給される。
給油直後以外の通常運転時には遮断弁20は開弁され、給油室ポンプ27fは運転され、残存燃料室ポンプ27rは停止される。したがって、通常運転時には、給油室19f内及び残存燃料室19r内の燃料が給油室ポンプ27fによって筒内噴射弁18cに供給され、機関に供給される。なお、通常運転時においては、残存燃料室ポンプ27rのみを運転するようにしてもよいし、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27r両方を運転するようにしてもよい。
図1の内燃機関では、燃料としてガソリン、軽油のような化石液体燃料、液体アルコール、又はその混合体を用いることができる。この場合、燃料性状を例えば特定成分の割合ないし濃度、粘性、蒸発特性、平均分子量などにより表すことができる。
一方、排気ポート9は排気マニホルド30を介して小容量の補助触媒31に連結され、補助触媒31は排気管32を介して大容量の主触媒33に連結される。排気管32には空燃比を検出するための空燃比センサ34が取り付けられる。
電子制御ユニット40はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス41によって互いに接続されたROM(リードオンリメモリ)42、RAM(ランダムアクセスメモリ)43、CPU(マイクロプロセッサ)44、入力ポート45及び出力ポート46を具備する。機関本体1には機関冷却水温を検出するための水温センサ35が取り付けられる。また、アクセルペダル49にはアクセルペダル49の踏み込み量を検出するための負荷センサ50が接続される。ここで、アクセルペダル49の踏み込み量は要求負荷を表している。エアフローメータ15、給油口センサ22、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rの燃料量センサ、空燃比センサ34、水温センサ35、及び負荷センサ50の出力信号はそれぞれ対応するAD変換器47を介して入力ポート45に入力される。更に入力ポート45にはクランクシャフトが例えば30°回転する毎に出力パルスを発生するクランク角センサ51と、オンであるかオフであるかを表す出力パルスを発生するイグニッション(IG)スイッチ52とが接続される。CPU44ではクランク角センサ51の出力パルスに基づいて機関回転数Neが算出される。一方、出力ポート46は対応する駆動回路48を介して点火栓10、ステップモータ16、筒内噴射弁18c、遮断弁20、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rにそれぞれ接続され、これらは電子制御ユニット40からの出力信号に基づいて制御される。なお、本発明による実施例では、イグニッションスイッチ52がオフにされても電子制御ユニット40に電力が供給されるようになっている。
図1の内燃機関では次式(1)に基づいて燃料噴射時間TAUが算出される。
TAU=TB・(1+FAF+kI+kF) (1)
ここで、TBは基本燃料噴射時間、FAFはフィードバック補正係数、kIは増量補正係数、kFは性状補正係数をそれぞれ表している。
性状が基本性状である燃料を基本燃料と称すると、基本燃料噴射時間TBは機関に供給される燃料が基本燃料であるときに空燃比を目標となる空燃比とするのに必要な燃料噴射時間であり、機関運転状態例えばエアフローメータ15の出力及び機関回転数の関数として予めROM42内に記憶されている。
フィードバック補正係数FAFは実際の空燃比を目標となる空燃比に一致させるためのものであり、空燃比センサ34により検出される空燃比に基づいて算出される。このフィードバック補正係数FAFはゼロを中心として変動し、補正する必要がないときにはゼロに維持される。
増量補正係数kIは始動時増量補正係数、加速時増量補正係数などをひとまとめにして表したものであり、補正する必要がないときにはゼロに維持される。
性状補正係数kFは機関に供給された燃料の性状に応じて定まるものであり、機関に供給された燃料が基本燃料のときにはゼロに維持される。
ここで、まずフィードバック補正係数FAFの算出方法について図2から図4を参照して簡単に説明しておく。本発明による実施例では目標空燃比が理論空燃比に設定されており、この場合には空燃比センサ34として排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサが用いられる。この酸素濃度センサ34の出力電圧Vは空燃比が理論空燃比であるとほぼ基準電圧VRとなり、空燃比が理論空燃比よりもリッチであるとほぼ1.0(ボルト)となり、空燃比が理論空燃比よりもリーンであるとほぼ0(ボルト)となる。
図4はフィードバック補正係数FAFの算出ルーチンを示している。図4を参照すると、ステップ100ではフィードバック制御を実行する条件が成立しているか否かが判別される。本発明による実施例では酸素濃度センサ34が活性化しておりかつ機関暖機運転が完了しているときにフィードバック制御実行条件が成立していると判断され、それ以外は成立していないと判断される。フィードバック制御実行条件が成立していないと判断されたときには次いでステップ101に進み、フィードバック補正係数FAFがゼロに固定される。これに対し、フィードバック制御実行条件が成立していると判断されたときにはステップ102に進み、酸素濃度センサ34の出力電圧Vが基準電圧VRよりも高いか否かが判別される。V>VRのときには次いでステップ103に進み、前回の処理サイクルにおける酸素濃度センサ34の出力電圧VPが基準電圧VR以下であるか否かが判別される。VP≦VRのときすなわち空燃比が理論空燃比に対しリーンからリッチに切り換わったときには次いでステップ104に進み、フィードバック補正係数FAFからスキップ値SRだけ減算される。その結果、図3に示されるようにフィードバック補正係数FAFが大幅に減少する。次いでステップ109に進む。これに対し、VP>VRのときすなわち空燃比が継続して理論空燃比に対しリッチのときには次いでステップ105に進み、フィードバック補正係数FAFから積分値IR(≪SR)だけ減算される。その結果、図3に示されるようにフィードバック補正係数FAFが徐々に減少する。次いでステップ109に進む。これに対し、ステップ102においてV≦VRのときには次いでステップ106に進み、前回の処理サイクルにおける酸素濃度センサ34の出力電圧VPが基準電圧VRよりも高いか否かが判別される。VP>VRのときすなわち空燃比が理論空燃比に対しリッチからリーンに切り換わったときには次いでステップ107に進み、フィードバック補正係数FAFにスキップ値SLだけ加算される。その結果、図3に示されるようにフィードバック補正係数FAFが大幅に増大する。次いでステップ109に進む。これに対し、VP≦VRのときすなわち空燃比が継続して理論空燃比に対しリーンのときには次いでステップ108に進み、フィードバック補正係数FAFに積分値IL(≪SL)だけ加算される。その結果、図3に示されるようにフィードバック補正係数FAFが徐々に増大する。次いでステップ109に進む。ステップ109では、今回の処理サイクルにおける酸素濃度センサ34の出力電圧VがVPとして記憶される。
ところで、フィードバック補正係数FAFが安定しているときの、すなわち空燃比がほぼ理論空燃比に維持されているときのフィードバック補正係数FAFの平均値ないし変動中心は理論空燃比に応じて定まり、この理論空燃比は機関に供給された燃料の性状に応じて定まる。したがって、機関に供給された燃料の性状が変更されるとフィードバック補正係数平均値FAFAが変化し、変化後のフィードバック補正係数平均値FAFAは機関に供給された燃料の性状、より正確には基本性状に対する偏差を表している。また、機関に供給された燃料の性状が変更されたときに生ずるフィードバック補正係数平均値FAFAの変化量は機関に供給された燃料の性状の変更量を表している。
そうすると、フィードバック補正係数平均値FAFAが変化したときには、これまでの性状補正係数kFにフィードバック補正係数平均値FAFAの変化量だけ加算すれば、新たな性状補正係数kFは新たに機関に供給された燃料の性状を正確に表すことになる。同時に、性状補正係数kFに加算した分だけフィードバック補正係数FAFから減算すれば上述の式(1)からわかるように、燃料噴射時間TAUを維持することができる。
すなわち、図5に示される例では、時期Xにおいて機関に供給される燃料の性状が変更されると、フィードバック補正係数FAFが上述の積分値ILずつ増大する。次いで図5にYで示されるように、フィードバック補正係数FAFが安定し空燃比がほぼ理論空燃比に維持され、その結果フィードバック補正係数平均値はFAFA2からFAFA1までΔFだけ増大する。この場合、図5にZで示されるように性状補正係数kFがΔFだけ増大され、フィードバック補正係数FAFがΔFだけ減少される。なお、機関に供給される燃料の性状が変更されたときにフィードバック補正係数FAFが減少する場合も同様である。
このようにすると、燃料タンク19内に残存する燃料の性状と異なる性状の燃料が給油されしたがって機関に供給される燃料の性状が変化しても、性状補正係数kFは機関に供給された燃料の性状を正確に表しており、この性状補正係数kFを用いて空燃比制御することにより空燃比を理論空燃比に確実に維持することができる。
機関に供給される燃料の性状はフィードバック補正係数平均値FAFAだけでなく、例えばMBTのような最適点火時期、ノック限界、燃焼圧、燃焼圧にピークが生ずる時期、アイドリング回転数といった機関状態量によっても表される。そこで、最適点火時期等に基づいて性状補正係数kFを算出するようにしてもよい。したがって、一般化して言うと、機関に燃料を供給された燃料の性状を、このとき得られる機関状態量に基づいて求めているということになる。
ところが、図5からわかるように、給油が行われ燃料性状が変更されたときにフィードバック補正係数FAFは小さな積分値IR,IL(図3参照)でもって少しずつ変更される。したがって、特に燃料性状が大幅に変化した場合には、フィードバック補正係数FAFが安定するまでに、すなわち給油後に機関に供給された燃料の性状を表す性状補正係数kFを算出するのに長時間を要する。
そこで本発明による実施例では、給油が行われるときには次のような給油前処理及び給油後処理を行うようにしている。次に、これら給油前処理及び給油後処理を図6を参照しながら説明する。
図6を参照すると、給油が行われた直後でない通常運転時には上述したように、遮断弁20が開弁され、給油室ポンプ27fのみが運転されている。次いで、図6にt1で示されるように機関運転を停止すべくイグニッションスイッチ52がオフにされると、給油室ポンプ27fの運転が停止される。次いで給油を行うべく給油口19iが開放されると、図6にt2で示されるように遮断弁20が閉弁され、したがって燃料タンク19の給油室19f及び残存燃料室19fが互いに遮断される。次いで給油口19iから給油室19fのみに新たな燃料が給油される。この場合、残存燃料室19r内には新たな燃料が流入せず、残存燃料室19r内の燃料の性状は給油前に機関に供給されていた燃料の性状に維持される。これに対し、給油後の給油室19f内の燃料は給油前に残存していた燃料と新たに給油された燃料との混合物から構成される。
給油が完了したのち、図6にt3で示されるようにイグニッションスイッチ52がオンにされ機関運転が再開されると、遮断弁20を閉弁したまま、残存燃料室ポンプ27fのみが運転される。その結果、機関に残存燃料室19r内の燃料のみが供給されることになる。このときの残存燃料室19r内の燃料の性状を表す性状補正係数kFをkFrで表すと、この性状補正係数kFrは給油前に既に算出されている。したがって、このとき性状補正係数kFをkFrに設定して機関運転を行うことにより、機関に供給される燃料の性状に応じた機関制御を正確に行うことができる。
次いで予め定められた算出条件が成立すると、図6にt4で示されるように遮断弁20を閉弁したまま給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27r両方が運転され、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料の平均性状を表す性状補正係数kFaが算出される。ここで、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料の平均性状というのは遮断弁20が開弁されたときの燃料タンク19内の燃料の平均性状を意味している。
次いで性状補正係数kFaの算出が完了すると、図6にt5で示されるように遮断弁20が開弁され、給油室ポンプ27fのみが運転され、性状補正係数kFをこのkFaに設定して通常運転が再開される。その結果、給油が行われたのちの機関運転時に、機関に供給される燃料の性状に応じた機関制御を正確に行うことができる。
次に、性状補正係数kFaの算出方法について説明する。上述したように性状補正係数kFaは給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料の平均性状を表すものであるから、次式(2)によって表すことができる。
kFa={QFf・kFf+QFr・kFr}/(QFf+QFr) (2)
ここで、kFfは給油後に遮断弁20が閉弁されているときの給油室19f内の燃料の性状を表す性状補正係数を示している。
したがって、給油室19f内の燃料についての性状補正係数kFfを算出し、給油室19f内の燃料量QFf及び残存燃料室19r内の燃料量QFrを燃料量センサにより検出すれば、性状補正係数kFaを算出できることになる。
一方、遮断弁20を閉弁したまま給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27r両方が運転されると、上述したように調量装置24(図1)によって給油室19f内の燃料と残存燃料室19r内の燃料とがq:(1−q)の割合で混合され、機関に供給される。この場合に機関に供給される混合燃料の性状を表す性状補正係数をkFqとすると、この性状補正係数kFqは次式で表される。
kFq=q・kFf+(1−q)・kFr
したがって、性状補正係数kFfは次式(3)で表される。
kFf={kFq−(1−q)・kFr}/q (3)
そこで本発明による実施例では、性状補正係数kFaを算出すべきときには(図6のt4)、まず遮断弁20を閉弁したまま給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27r両方を運転し、このとき得られるフィードバック補正係数FAFの平均値FAFAの変化量から性状補正係数kFqを算出し、次いで式(3)から性状補正係数kFfを算出し、次いで式(2)から性状補正係数kFaを算出するようにしている。
この点、本発明による実施例では、性状が予めわかっている残存燃料室19r内の燃料と、性状がわかっていない給油室19f内の燃料とを予め定められた割合で機関に供給し、このとき得られる機関状態量と残存燃料室19r内の燃料の性状(kFr)とに基づいて給油室19f内の燃料の性状(kFf)又は給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料の平均性状(kFa)を求めているという見方もできる。
このような性状補正係数kFaの算出は上述した算出条件が成立すると開始される(図6のt4)。本発明による実施例では性状補正係数kFaを算出するためにkFqが算出され、kFqを算出するにはフィードバック制御実行条件が成立している必要がある。このため、本発明による実施例ではフィードバック制御実行条件が成立するまでは上述の算出条件が成立していないと判断され、フィードバック制御実行条件が成立したときに算出条件が成立したと判断される。
性状補正係数kFaの算出が開始されると、機関に供給される燃料が残存燃料室19r内の燃料から、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料を予め定められた割合(q:(1−q))で混合したものに切り換えられる。この場合、フィードバック補正係数FAFがゼロから逸脱し安定するまで、すなわち性状補正係数kFqの算出が完了するまでは、機関に供給される燃料の性状に応じた機関制御が行われているとは必ずしも言えず、性状補正係数kFq又はkFaの算出に要する時間はできるだけ短いのが好ましい。この点からすると、給油室19f内の燃料の割合qをできるだけ小さい値に設定し、大きくても0.5よりも小さい値に設定するのが好ましい。
一方、性状補正係数kFq又はkFaを算出すべきときに、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料を給油室19f内の燃料量QFfと残存燃料室19r内の燃料量QFrとの比に一致する割合(QFf/(QFf+QFr):QFr/(QFf+QFr))で供給するようにすると、このとき算出される性状補正係数kFqは遮断弁20を開弁したときの燃料タンク19内の燃料についての性状補正係数kFaに一致し、したがってkFaを直接的にかつ簡単に算出することが可能となる。
図7は本発明による実施例の補給前処理ルーチンを示している。このルーチンは予め定められた設定時間毎の割り込みによって実行される。
図7を参照すると、まずステップ120では燃料タンク19の給油口19iが開放されたか否かが判別される。給油口19iが開放されていないとき、すなわち給油が行われないときには処理サイクルを終了し、給油口19iが開放されたとき、すなわち給油が行われるときには次いでステップ121に進み、遮断弁20が閉弁される。続くステップ122ではこのときの性状補正係数kFがkFrとして記憶される。続くステップ123では算出フラグがリセットされる。この算出フラグは給油が行われるとリセットされ、次いで性状補正係数kFaの算出が完了するとセットされるものである。
図8は本発明による実施例の給油後処理ルーチンを示している。このルーチンは予め定められた設定時間毎の割り込みによって実行される。
図8を参照すると、まずステップ140では算出フラグがリセットされているか否かが判別される。給油されたのちの機関運転再開時には算出フラグはリセットされているので次いでステップ141に進み、フィードバック制御実行条件が成立しているか否かが判別される。フィードバック制御実行条件が成立しないときには次いでステップ142に進み、給油室ポンプ27fが停止されつつ残存燃料室ポンプ27rが運転される。続くステップ143では、性状補正係数kFが残存燃料室19r内の燃料についての性状補正係数kFrに設定される。
次いでフィードバック制御実行条件が成立すると、ステップ141からステップ144に進み、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rが運転される。続くステップ145では性状補正係数kFaの算出ルーチンが実行される。性状補正係数kFaの算出ルーチンは図9に示されている。
図9を参照すると、まずステップ160ではフィードバック補正係数FAFが安定したか否かが判別される。フィードバック補正係数FAFが安定しないうちは処理サイクルを終了し、フィードバック補正係数FAFが安定すると次いでステップ161に進み、このときのフィードバック補正係数FAFの平均値ないし変動中心FAFAが算出される。続くステップ162ではフィードバック補正係数平均値FAFAだけ性状補正係数kFに加算され、フィードバック補正係数FAFからFAFAだけ減算される。続くステップ163では、給油室19f内の燃料についての性状補正係数kFfが上述の式(3)から算出される。続くステップ164では給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料の混合物についての性状補正係数kFaが上述の式(2)から算出される。続くステップ165では算出フラグがセットされる。
再び図8を参照すると、算出フラグがセットされたときにはステップ140からステップ146に進み、遮断弁20が開弁される。続くステップ147では給油室ポンプ27fが運転されつつ残存燃料室ポンプ27rが停止される。続くステップ148では性状補正係数kFが図9のルーチンで算出されたkFaに設定される。
図10は燃料噴射時間TAUの算出ルーチンを示している。このルーチンは予め定められた設定クランク角毎の割り込みによって実行される。
図10を参照すると、まずステップ180では基本燃料噴射時間TBが算出され、続くステップ181では増量補正係数kIが算出される。続くステップ182では図4に示されるフィードバック補正係数FAFの算出ルーチンが実行され、続くステップ183では図8の給油後処理ルーチンで設定される性状補正係数kFが読み込まれる。続くステップ184では燃料噴射時間TAUが式(1)から算出される。筒内噴射弁18cからはTAUだけ燃料が噴射される。
図8のルーチンからもわかるように、給油が行われたのちの機関運転再開時にフィードバック制御実行条件が成立しているときには、直ちに性状補正係数kFaの算出が行われる。すなわち、機関運転再開時に、残存燃料室19r内の燃料のみの機関への供給を行わなくてもよい。
また、性状補正係数kFqが算出されたのちに、遮断弁20を閉弁したまま、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料を予め定められた割合(q:(1−q))で機関に供給すると共に、性状補正係数kFをこのkFqに設定して機関制御を行うようにすることもできる。あるいは、性状補正係数kFfが算出されたのちに、遮断弁20を閉弁したまま、給油室19f内の燃料のみを機関に供給すると共に、性状補正係数kFをこのkFfに設定して機関制御を行うようにすることもできる。
図1に示される内燃機関はただ一つの燃料噴射弁を具備し、このただ一つの燃料噴射弁は筒内噴射弁18cから構成される。しかしながら、ただ一つの燃料噴射弁を、吸気通路内に燃料を噴射する燃料噴射弁であるポート噴射弁から構成することもできる。ところが、ポート噴射弁から噴射された燃料の一部は吸気ポート7の内壁面にいったん付着し、その後蒸発して燃焼室5内に流入する。一方、給油直後の給油室19f内の燃料はその性状がわかっていない。このため、給油室19f内の燃料の蒸発特性と残存燃料室19r内の燃料の蒸発特性とが大幅に異なる場合に、性状補正係数kFq又はkFaを算出するために給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料を予め定められた割合で混合してポート噴射弁から噴射すると、燃焼室5内に流入し燃焼される燃料における割合が上述の予め定められた割合に維持されず、このとき算出されるkFqは給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料を予め定められた割合で混合したものの性状を正確に表していない。これに対し、筒内噴射弁の場合には燃焼室5内に燃料が直接噴射されるので、燃焼室5内で燃焼される燃料における割合を上述の予め定められた割合に維持することができる。
すなわち、給油が行われたのち燃料性状係数kFq又はkFaの算出が完了するまでは、給油室19f内の燃料をポート噴射弁から噴射するのを禁止し、筒内噴射弁18cから噴射するのが好ましいということになる。
これを達成するために、図1の内燃機関のようにただ一つの燃料噴射弁を具備する場合には、このただ一つの燃料噴射弁を筒内噴射弁18cから構成するのが好ましいということになる。
一方、図11は二つの燃料噴射弁、すなわち筒内噴射弁18c及びポート噴射弁18pを具備している本発明による別の実施例を示している。この例では、調量装置24から延びる燃料供給管25が筒内噴射弁用供給管25cとポート噴射弁用供給管25pとに分岐され、筒内噴射弁用供給管25cは筒内噴射弁用デリバリパイプ26cを介して各筒内噴射弁18cに連結され、ポート噴射弁用供給管25pはポート噴射弁用デリバリパイプ26pを介して各ポート噴射弁18pに連結される。その結果、筒内噴射弁18cからは給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料の一方又は両方が機関に供給され、ポート噴射弁18pからも給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料の一方又は両方が機関に供給されうる。
図11に示される例において性状補正係数kFaを算出すべきときには図12のt4で示されるように、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rが作動され、筒内噴射弁18cのみが作動され、したがって給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料が予め定められた割合(q:(1−q))で筒内噴射弁18cから機関に供給される。その結果、上述したように、燃焼室5内で燃焼される燃料における割合を上述の予め定められた割合に維持することができる。
なお、給油が行われたのちに機関運転を再開するときには図12のt3で示されるように、残存燃料室ポンプ27rのみが運転され、筒内噴射弁18cのみが作動され、したがって筒内噴射弁18cからのみから残存燃料室19r内の燃料のみが機関に供給される。その結果、機関始動時に燃料を燃焼室5内に確実に供給することができる。この場合、残存燃料室19r内の燃料を機関に供給するために、ポート噴射弁18pのみを用いることもできるし、筒内噴射弁18c及びポート噴射弁18p両方を用いることもできる。残存燃料室19r内の燃料はその性状がわかっているので、ポート噴射弁18pから噴射したときにどの程度吸気ポート7内壁面に付着するかが予測できるからである。
一方、通常運転時には例えば機関運転状態に応じて筒内噴射弁18c及びポート噴射弁18pから燃料が機関に供給される。例えば、機関低負荷運転時には機関に燃料供給するのに筒内噴射弁18cのみが用いられ、高負荷運転時にはポート噴射弁18pのみが用いられる。あるいは、これら筒内噴射弁18c及びポート噴射弁18p両方を用いることもできる。図12に示される例では、給油前の通常運転時には筒内噴射弁18cのみが燃料供給に用いられ、性状補正係数kFa算出後の通常運転時にはポート噴射弁18pのみが用いられている。
図13は本発明による別の実施例の給油後処理ルーチンを示している。このルーチンは予め定められた設定時間毎の割り込みによって実行される。
図13を参照すると、まずステップ140では算出フラグがリセットされているか否かが判別される。給油されたのちの機関運転再開時には算出フラグはリセットされているので次いでステップ141に進み、フィードバック制御実行条件が成立しているか否かが判別される。フィードバック制御実行条件が成立しないときには次いでステップ142に進み、給油室ポンプ27fが停止されつつ残存燃料室ポンプ27rが運転される。続くステップ142aでは、ポート噴射弁18pの作動が停止されつつ筒内噴射弁18cが作動される。この場合、筒内噴射弁18cから残存燃料室19r内の燃料が燃料噴射時間TAUだけ噴射される。続くステップ143では、性状補正係数kFが残存燃料室19r内の燃料についての性状補正係数kFrに設定される。
次いでフィードバック制御実行条件が成立すると、ステップ141からステップ144に進み、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rが運転される。続くステップ144aではポート噴射弁18pの作動が停止されつつ筒内噴射弁18cが作動される。この場合、筒内噴射弁18cから給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料が予め定められた割合で燃料噴射時間TAUだけ噴射される。続くステップ145では図9に示される性状補正係数kFaの算出ルーチンが実行される。
性状補正係数kFaの算出ルーチンにおいて算出フラグがセットされたときにはステップ140からステップ146に進み、遮断弁20が開弁される。続くステップ147aでは給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27r並びに筒内噴射弁18c及びポート噴射弁18pが通常運転制御される。続くステップ148では性状補正係数kFが図9のルーチンで算出されたkFaに設定される。
図11に示される実施例のその他の構成及び作用は図1に示される実施例と同様であるので説明を省略する。
図14は図11に示される本発明による別の実施例の変形例を示している。図14に示される例では、給油室19fに連結された燃料供給枝管23fが筒内噴射弁用供給管25cとポート噴射弁用供給管25pとに分岐され、筒内噴射弁用供給管25cは筒内噴射弁用デリバリパイプ26cを介して各筒内噴射弁18cに連結され、ポート噴射弁用供給管25pはポート噴射弁用デリバリパイプ26pを介して各ポート噴射弁18pに連結される。また、残存燃料室19rに連結された燃料供給枝管23rがポート噴射弁用供給管25pに連結されることなく筒内噴射弁用供給管25cに連結される。その結果、この場合には、筒内噴射弁18cからは給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料の一方又は両方が機関に供給され、ポート噴射弁18pからは給油室19f内の燃料のみが機関に供給されうる。
図14に示される例でも図11に示される例と同様に、給油が行われたのちに機関運転を再開するときには図12のt3で示されるように、残存燃料室ポンプ27rのみが運転され、筒内噴射弁18cのみが作動され、したがって残存燃料室19r内の燃料のみが筒内噴射弁18cから機関に供給される。その結果、機関始動時に燃料を燃焼室5内に確実に供給することができる。
次いで性状補正係数kFaを算出すべきときには図12のt4で示されるように、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rが作動され、筒内噴射弁18cのみが作動される。その結果、燃焼室5内で燃焼される燃料における割合を上述の予め定められた割合に維持することができる。この場合、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料が予め定められた割合(q:(1−q))で筒内噴射弁18cに供給されるように給油室ポンプ27fの吐出量及び残存燃料室ポンプ27rの吐出量が制御され、したがって調量装置を省略することができる。
図15は本発明による更に別の実施例を示している。図15に示される例では筒内噴射弁18cが筒内噴射弁用デリバリパイプ26c、筒内噴射弁用供給管25c及び燃料供給枝管23fを介して給油燃料室19fのみに連結され、ポート噴射弁18pがポート噴射弁用デリバリパイプ26p、ポート噴射弁用供給管25p及び燃料供給枝管23rを介して残存燃料室19rのみに連結される。その結果、筒内噴射弁18cからは給油室19f内の燃料のみが機関に供給され、ポート噴射弁18pからは残存燃料室19r内の燃料のみが機関に供給される。
図15に示される例では、給油が行われたのちに機関運転を再開するときには図16のt3で示されるように、残存燃料室ポンプ27rのみが運転され、ポート噴射弁18pのみが作動され、したがって残存燃料室19r内の燃料のみがポート噴射弁18pから機関に供給される。
次いで性状補正係数kFaを算出すべきときには図16のt4で示されるように、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rが作動され、筒内噴射弁18c及びポート噴射弁18pが作動される。この場合、筒内噴射弁18cの燃料噴射時間TAUCをTAU・qに設定し、ポート噴射弁18pの燃料噴射時間TAUPをTAU・(1−q)に設定することにより、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料が予め定められた割合(q:(1−q))で機関に供給される。その結果、燃焼室5内で燃焼される燃料における割合を上述の予め定められた割合に維持することができ、調量装置を省略することができる。
図15に示される実施例においても、通常運転時には例えば機関運転状態に応じて筒内噴射弁18c又はポート噴射弁18pから燃料が機関に供給される。例えば、機関低負荷運転時には機関に燃料供給するのに筒内噴射弁18cのみが用いられ、高負荷運転時にはポート噴射弁18pのみが用いられる。また、これら筒内噴射弁18c及びポート噴射弁18p両方を用いることもできる。図16に示される例では、給油前の通常運転時には筒内噴射弁18cのみが燃料供給に用いられ、性状補正係数kFa算出後の通常運転時にはポート噴射弁18pのみが用いられている。
図17は本発明による更に別の実施例の給油後処理ルーチンを示している。このルーチンは予め定められた設定時間毎の割り込みによって実行される。
図17を参照すると、まずステップ140では算出フラグがリセットされているか否かが判別される。給油されたのちの機関運転再開時には算出フラグはリセットされているので次いでステップ141に進み、フィードバック制御実行条件が成立しているか否かが判別される。フィードバック制御実行条件が成立しないときには次いでステップ142に進み、給油室ポンプ27fが停止されつつ残存燃料室ポンプ27rが運転される。続くステップ142bでは、筒内噴射弁18cの燃料噴射時間TAUCがゼロに設定され、ポート噴射弁18pの燃料噴射時間TAUPがTAUに設定される。すなわち、この場合には残存燃料室19r内の燃料がポート噴射弁18pのみから機関に供給される。続くステップ143では、性状補正係数kFが残存燃料室19r内の燃料についての性状補正係数kFrに設定される。
次いでフィードバック制御実行条件が成立すると、ステップ141からステップ144に進み、給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27rが運転される。続くステップ144bでは、筒内噴射弁18cの燃料噴射時間TAUCがTAU・qに設定され、ポート噴射弁18pの燃料噴射時間TAUPがTAU・(1−q)に設定される。すなわち、この場合には筒内噴射弁18cから給油室19f内の燃料が噴射され、ポート噴射弁18pから残存燃料室19r内の燃料が供給され、給油室19f内の燃料及び残存燃料室19r内の燃料が予め定められた割合で機関に供給される。続くステップ145では図9に示される性状補正係数kFaの算出ルーチンが実行される。
性状補正係数kFaの算出ルーチンにおいて算出フラグがセットされたときにはステップ140からステップ146に進み、遮断弁20が開弁される。続くステップ147bでは給油室ポンプ27f及び残存燃料室ポンプ27r並びに筒内噴射弁18c及びポート噴射弁18pが通常運転制御される。続くステップ148では性状補正係数kFが図9のルーチンで算出されたkFaに設定される。
図15に示される実施例のその他の構成及び作用は図1に示される実施例と同様であるので説明を省略する。
これまで述べてきた各実施例では、本発明を空燃比制御又は燃料噴射量制御に適用した場合を示している。しかしながら、点火時期をMBTのような最適点火時期に維持する点火時期制御や、アイドリング回転数を目標回転数に維持する回転数制御に本発明を適用することもできる。