JP2008255521A - ヒドロキシアパタイト複合化絹糸及びそれを含む材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】絹糸の表面にヒドロキシアパタイトを形成された複合化絹糸において、遺伝子組換えカイコを用いて生産される絹糸を用いることで、有害な反応性化合物を用いることなく、短時間で簡便にかつ高純度で、絹糸表面にヒドロキシアパタイトを形成させることを可能にするものである。
【解決手段】酸性アミノ酸を20%以上含みかつ等電点が4以下であるポリペプチドをコードする遺伝子が導入されたカイコによって生産される絹糸と、該絹糸の表面に形成されたヒドロキシアパタイトとを含有する複合化絹糸。該複合化絹糸は、医療用材料、吸着材料または光触媒材料として有用である。
【選択図】図1

Description

本発明は、ヒドロキシアパタイトを遺伝子組換えカイコにより生産される絹糸表面に形成させた複合化絹糸に関する。また、該複合化絹糸を含む医療用材料、吸着材料、光触媒吸着材料に関する。
ヒドロキシアパタイトは生体に対して高い親和性を示し、骨組織あるいは血管組織との結合性を有するため、人工骨材料、人工歯科材料などの医療用生体親和性材料として広く利用されている。またヒドロキシアパタイトは、高い比表面積および両イオン交換特性を有し、タンパク質、DNA、ウイルス、細菌などの除去効率が優れているため、これらの吸着材料としても利用されている。しかしながら、ヒドロキシアパタイトそのままでは、材料として利用する際、機械的な強度が十分得られないことから、ヒドロキシアパタイトを加圧し焼結させることで機械的な強度を有する焼結体を作製する手法が知られている。またヒドロキシアパタイトのようなリン酸カルシウム系化合物を、金属基盤、セラミクスなどの適切な担体の表面に固定化し複合化素材とすることで、強度ある生体親和性材料として利用する試みもある。
一方、繊維表面にヒドロキシアパタイトなどのリン酸カルシウム系化合物を付着させ吸着素材として利用する試みがある。ヒドロキシアパタイトの繊維表面への付着方法としては、繊維表面にアクリル系あるいはウレタン系などの樹脂製バインダーを介して固定化する方法や繊維表面にヒドロキシアパタイト結晶を直接形成・成長させる方法などが報告されている。特に前者に関しては、バインダーを介してヒドロキシアパタイトを繊維表面に固定化するため、バインダーでヒドロキシアパタイト表面が被覆されて吸着効果を十分に発揮できないという欠点があった。一方、後者の繊維表面にヒドロキシアパタイトを直接形成させる手法では、上述のようにバインダーによる吸着能の低下が引き起こされず、吸着効果を十分機能できる状態として表面に固定化することが可能である。しかしながら、ポリエステル、ポリプロピレンなどの疎水性表面を有する合成繊維において、リン酸カルシウム系化合物を直接付着させることは一般に困難であることから、アクリル酸などのビニルモノマーを繊維表面に重合させることで繊維表面にカルボキシル基等の官能基を提示させ、リン酸カルシウム系化合物の形成を促進させる手法が開示されている(特許文献1)。
繊維として絹糸を用いる方法として、天然の絹糸にヒドロキシアパタイトを形成させる方法が開示されている(非特許文献1)。この方法では、絹織物をカルシウムおよびリン酸溶液に交互に浸漬することで絹糸表面にヒドロキシアパタイトの形成が可能であることが示されている。また、絹糸構成タンパク質であるセリシンをコートした天然の絹糸表面にヒドロキシアパタイトを形成させる方法も開示されている(特許文献2)。このように天然の絹糸を用いても、表面にヒドロキシアパタイト形成させることは可能であるが、その形成には長時間を要するという欠点があった。
この問題を解決するために、天然の絹糸表面を化学修飾し表面特性を改質することで、絹糸のリン酸カルシウムに対する結合性を向上させる手法が開示されている(特許文献3)。しかしながら、この文献で用いられている酸無水物はアレルギー性を示す反応性化合物であり、安全性の高い手法とは言えない。
近年、カイコの遺伝子組換え技術の進展によって、トランスポゾンベクターを用いることにより、目的遺伝子をカイコ染色体に安定に組み込むことが可能であることが報告された(非特許文献2)。また、目的遺伝子の発現を制御するプロモーターとして、絹糸由来タンパク質のプロモーターを利用することで、絹糸への目的遺伝子の発現を制御可能であることが報告されている。すなわち、目的遺伝子をセリシンプロモーターあるいはフィブロインプロモーター(H鎖プロモーターあるいはL鎖プロモーター)に連結することで、絹糸セリシン層へ目的遺伝子を発現させるか、あるいはフィブロイン層に発現させるか選択可能であることが報告されている(特許文献4〜6)。これらのカイコ遺伝子組換え技術を用いて、コラーゲン(特許文献7)、サイトカイン(特許文献8)、ワクチン(特許文献9)などの医薬用タンパク質を絹糸として生産する研究が行われている。
しかしながら、これら既知の遺伝子組み換えカイコが生産する絹糸は医薬品原料としての利用を前提としたものであり、絹糸の表面にヒドロキシアパタイトを付着させるために、表面特性が適切に改質された絹糸ではなかった。
例えば、医薬品用ワクチンタンパク質として、イヌバルボVPタンパク質を絹糸中に生産させた例がある(特許文献9)。この文献に記載のイヌバルボVPタンパク質(655アミノ酸)に含まれる酸性アミノ酸(グルタミン酸およびアスパラギン酸)は約9モル%である。また、塩基性アミノ酸(リジン、ヒスチジン、アルギニン)も約9モル%程含まれる。したがって、このタンパク質の等電点(pI)は6付近であり、中性条件下におけるポリペプチド配列の全体の荷電はほぼ0である。このような、酸性アミノ酸の含量が少なく、また等電点も中性に近いタンパク質を発現させた絹糸は、その表面にヒドロキシアパタイトを付着させるためには適しているとは言えず、ヒドロキシアパタイトを効率的に絹糸表面に付着あるいは形成させることは困難であった。
特開2001−254264号公報 特開2003−3154001号公報 特開平10−127752号公報 特開2001−161214号公報 特開2003−325188号公報 特開2004−254681号公報 特開2004−16144号公報 特開2003−325188号公報 特開2005−97229号公報 古園ら、「J.Biomed.Mater.Res.」,50,p.344−352,2000年 田村ら、「Nat.Biotechnol.」,18,p.81−84,2000年
本発明は、遺伝子組換えカイコを用いて生産される絹糸を用いることで、有害な反応性化合物を用いることなく、短時間で簡便にかつ高純度で、絹糸表面にヒドロキシアパタイトを形成させることを可能にするものである。
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、遺伝子組換えカイコ技術を用いることにより、絹糸表面に効率的にヒドロキシアパタイトを形成することが可能な絹糸を見出し、そしてこれを用いることで高純度のヒドロキシアパタイトが表面に形成された複合化絹糸が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下の〔1〕〜〔11〕を包含する。
〔1〕酸性アミノ酸を20%以上含みかつ等電点が4以下であるポリペプチドをコードする遺伝子が導入されたカイコによって生産される絹糸と、該絹糸の表面に形成されたヒドロキシアパタイトとを含有する複合化絹糸。
〔2〕前記酸性アミノ酸がグルタミン酸またはアスパラギン酸である、〔1〕に記載の複合化絹糸。
〔3〕前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、一般式(1)
{(X−Y−X−Y)n−L}m ・・・(1)
(ここで、XおよびXはグリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンからなる群から選択されるいずれかのアミノ酸を表し、YおよびYは酸性アミノ酸であるグルタミン酸またはアスパラギン酸を表し、Lは0〜10個の任意のアミノ酸からなるリンカー配列を表し、nおよびmは1以上10以下の整数を表す。)
で表されるポリペプチドをコードする遺伝子である、〔1〕または〔2〕に記載の複合化絹糸。
〔4〕前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、一般式(1)において、XおよびXがグリシンであるポリペプチドをコードする遺伝子である、〔3〕に記載の複合化絹糸。
〔5〕前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、その5’側にフィブロインH鎖のN末端領域をコードする遺伝子が結合し、3’側にフィブロインH鎖のC末端領域をコードする遺伝子がそれぞれ結合している遺伝子である、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の複合化絹糸。
〔6〕前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、配列番号9または10で示されるアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードする遺伝子である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の複合化絹糸。
〔7〕前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーターまたはセリシンプロモーターに発現可能な状態で連結された遺伝子である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の複合化絹糸。
〔8〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の複合化絹糸を含む医療用材料。
〔9〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の複合化絹糸を含む吸着材料。
〔10〕〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の複合化絹糸に、さらに金属酸化物を複合化させてなる光触媒材料。
〔11〕前記金属酸化物が酸化チタンである〔10〕に記載の光触媒材料。
本発明の複合化絹糸は、ヒドロキシアパタイトが絹糸表面に強固に形成されていることから、水溶液中においてもヒドロキシアパタイトが絹糸より溶出し難い。また、ヒドロキシアパタイトを主成分とすることから、高い物質吸着特性を有する。さらに、本発明の複合化絹糸は、その表面にヒドロキシアパタイトを形成させる際に有害な反応性化合物を用いていないため、非常に安全性の高い医療用材料として利用可能である。さらに、本発明の複合化絹糸は、金属酸化物と複合体化することも可能であり、光触媒材料としても利用可能である。
本発明の複合化絹糸は、酸性アミノ酸を20モル%以上含みかつ等電点が4以下であるポリペプチドをコードする遺伝子が導入されたカイコによって生産される絹糸と、該絹糸の表面に形成されたヒドロキシアパタイトとを含有する。
本発明の複合化絹糸に含まれるヒドロキシアパタイト(水酸燐灰石)はリン酸カルシウムの1種であって、化学構造式ではCa10(PO(OH)で定義される。本発明の複合化絹糸は、絹糸表面に対し、ヒドロキシアパタイトを直接形成させた材料であるので、複合化絹糸にはヒドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム系化合物が含まれていてもよい。この場合のヒドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム系化合物としては、α第三リン酸カルシウム、β第三リン酸カルシウム、リン酸4カルシウム、フルオロアパタイト、炭酸アパタイト、カルシウム欠損アパタイト、第二リン酸カルシウム及びリン酸8カルシウムが挙げられる。好適な複合化絹糸の形態は、物質吸着特性が優れたヒドロキシアパタイトが主成分として多く含まれているものである。
本発明の複合化絹糸に含まれるヒドロキシアパタイトの含量は、無機化合物の元素組成を測定することによって知ることができる。すなわち、複合化絹糸のヒドロキシアパタイト含有量の増大にともなって、Ca/P元素組成比はヒドロキシアパタイトの化学量論比1.64に近づく。したがって、本発明の複合化絹糸におけるCa/P元素組成比は、1.6〜l.75の範囲にあることが好ましい。
本発明の複合化絹糸に形成されたヒドロキシアパタイトの存在を確認する好適な手法として、X線回折を用いる方法がある。本発明の複合化絹糸の表面に形成された無機結晶がヒドロキシアパタイトを含有する場合には、ヒドロキシアパタイトの結晶に帰属される26度および30〜35度に回折ピークが観察される。X線回折を測定する際、本発明のヒドロキシアパタイトをその表面に形成された複合化絹糸と共に、ヒドロキシアパタイトをその表面に形成させていない絹糸自体とヒドロキシアパタイト標準品を用意し、同条件にてX線回折を測定し、比較することが好ましい。また、ヒドロキシアパタイト以外のリン酸カルシウム系化合物の有無も、該リン酸カルシウム系化合物の標準品のX線回折の測定結果と比較することで特定することが可能である。
本発明の複合化絹糸は、後述する絹糸を用いて、その表面にヒドロキシアパタイトを形成させることで作製することができる。具体的には、後述する絹糸を、カルシウムイオンとリン酸イオンを含む溶液に浸漬する方法により作製することができる。ここで用いる溶液は、絹糸に対しヒドロキシアパタイトを効率的に形成させることが可能なようにカルシウムイオンとリン酸イオンの濃度を調整した溶液であれば特に限定されるものではない。この溶液としては、体液を模倣した水溶液、すなわち体液模倣水溶液(141mM NaCl、 4mM KCl、0.5mM MgSO、1mM MgCl、4.2mM NaHCO、2.5mM CaCl、1mM KHPO;pH 6.8)であることが好ましく、特に塩化カルシウムおよびリン酸水素カリウム濃度を1.5倍に調整した体液模倣溶液(141mM NaCl、 4mM KCl、0.5mM MgSO、1mM MgCl、4.2mM NaHCO、3.75mM CaCl、1.5mM KHPO;pH 6.8)が好適である。また、リン酸イオンを含む溶液とカルシウムイオンを含む溶液とを別々に用意しておき、交互に浸漬する方法(谷口ら、Chem.Lett. 711-712, 1998)を用いてもよい。絹糸にヒドロキシアパタイト結晶を形成させる溶液に浸漬する温度条件としては、0〜60℃の範囲であることが好ましい。また、溶液への浸漬時間は、処理する絹糸の表面特性等に適した時間を適宜設定すればよく、通常は1日〜7日範囲の処理時間であることが好ましい。
本発明の複合化絹糸をカルシウムイオン及び/又はリン酸イオンを含む溶液に浸漬する方法で作製する際には、これに用いる絹糸は、カイコによって生産された後に精錬操作によりセリシン層を除去したものであることが好ましい。精錬方法としては、アルカリ精錬、酵素精錬、石鹸精錬等があるが、石鹸精錬であることが好ましい。石鹸精錬の手法として、用いる石鹸としては特に限定されるものではないが、石鹸溶液が弱塩基性示す石鹸であることが好ましい。さらに好適な形態として、マルセル石鹸0.1%〜10%の水溶液を用い、40℃〜100℃の温度範囲で加熱して、精錬する方法が好ましい。
本発明の複合化絹糸に含まれる絹糸は、酸性アミノ酸を20%以上含みかつ等電点が4以下であるポリペプチドをコードする遺伝子が導入されたカイコによって生産される絹糸である。
酸性アミノ酸を20%以上含むポリペプチドとは、ポリペプチドを構成する全アミノ酸残基数に対する酸性アミノ酸残基数の割合が20%以上であるポリペプチド、言い換えれば、ポリペプチドを構成するアミノ酸数を100個と換算した際に、酸性アミノ酸を20個以上含むポリペプチドのことをいう。ここでいう酸性アミノ酸は、好ましくはアスパラギン酸またはグルタミン酸である。上記遺伝子を導入されたカイコによって生産される絹糸中には、それに対応するポリペプチドが含まれている。したがって、上記絹糸を溶解し、SDS−PAGEといった電気泳動を行うと遺伝子を導入された絹糸には、ポリペプチド分子量と一致するサイズにバンドが確認される。
また、本発明でいうポリペプチドの等電点とは、ポリペプチドの全アミノ酸配列から計算によって算出される理論値、またはポリペプチドを実際に電気泳動に供することによって得られる実測値のことをいう。計算によって算出されるポリペプチドの等電点の理論値は、ポリペプチド全アミノ酸配列より、Bjellquiestらの手法(Electrophoresis,14,1023−1031,1993)をもって算出可能である。また、上記文献の算出式を用いた計算を簡易に行う方法として、ExPASy Proteomics Serverの計算ツールを用いて行うことが可能である。本発明でいう等電点とは、特に理論値のことをいう。
酸性アミノ酸を20%以上含み、かつ等電点が4以下のポリペプチドとは、「酸性アミノ酸を含む繰り返し配列」と「絹糸構成タンパク質の末端配列」の2つから構成される。酸性アミノ酸を含む繰り返し配列は、酸性アミノ酸を含む天然由来のアミノ酸配列、あるいは人為的に設計されたアミノ酸配列が任意の回数繰り返された配列のことをいう。しなしながら、好適な形態として、人為的に設計された繰り返し配列である方が、ポリペプチドに含まれる酸性アミノ酸の個数を制御することが容易である。また、等電点に関しても、繰り返し回数を制御することで、好ましい値のものを選別できる。したがって、本発明のいうポリペプチドとは、上記の酸性アミノ酸を含む繰り返し配列を含んでいることが好ましい。
酸性アミノ酸を含む繰り返し配列として好適なポリペプチド例として、一般式(1)
{(X−Y−X−Y)n−L}m ・・・(1)
で表される酸性アミノ酸配列を含むポリペプチドが挙げられる。ここで、XおよびXは塩基性アミノ酸以外のアミノ酸である、グリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンからなる群から選択されるいずれかのアミノ酸であって、XおよびXは同一アミノ酸であっても異なるアミノ酸であってもよい。YおよびYは酸性アミノ酸であるグルタミン酸またはアスパラギン酸を表し、YおよびYは同一アミノ酸であっても異なるアミノ酸であってもよい。Lは0〜10個の任意のアミノ酸からなるリンカー配列であって、nおよびmは1以上10以下の整数である。
一般式(1)のポリペプチドのうち、Xおよび/またはXがグリシンまたはアラニンであるポリペプチドが好ましい。さらに、Xおよび/またはXがグリシンであることが好ましい。絹糸を構成するフィブロイン分子は、グリシンとアラニンの長い繰り返し配列から構成されるポリペプチドである。したがって、絹糸のアミノ酸組成はグリシンとアラニンで約70%を占める。従って、Xおよび/またはXをグリシンまたはアラニンにすることで、絹糸の酸性アミノ酸以外のアミノ酸組成を大幅に改変することなく、所望の酸性アミノ酸を絹糸に導入でき、絹糸表面の荷電を大きく変化させることが可能となる。
また、一般式(1)のポリペプチドにおいて、Yおよび/またはYがグルタミン酸であることが好ましい。
一般式(1)のポリペプチドにおいて、繰り返し回数nおよびmは1以上10以下の整数であるが、nおよびmが4以上10以下の整数であることが好ましい。具体的には、本発明の実施例においては、グリシンと酸性アミノ酸が交互に繰り返された配列番号9又は10で示されるアミノ酸配列、すなわち(Gly−Glu−Gly−Glu)又は(Gly−Asp−Gly−Asp)の繰り返し配列を有するポリペプチドは、繰り返し回数nが6、mが8のポリペプチドである。
また、一般式(1)のポリペプチドにおいて、Lは、0〜10個の任意のアミノ酸からなるリンカー配列である。本発明でいうリンカー配列とは、上記の様な繰り返し配列を作製する際に、これをコードするDNA断片同士を連結する部位に生じるアミノ酸配列をいう。リンカー配列Lは、一般式(1)におけるm回の繰り返しごとに同じ配列であってもまたは異なる配列であってもよい。一般式(1)のポリペプチドは、適当な鎖長の繰り返し配列(X−Y−X−Y)nをコードする遺伝子を合成し、これを適当なリンカー配列Lを用いて連結して作製するとができる。例えば、このようなDNA断片同士の連結には、制限酵素により生じる相補的な突出末端を連結部分、すなわちリンカー配列Lとして使用し、DNAリガーゼを用いて連結することができる。具体的には、本発明の実施例においては、(Gly−Glu−Gly−Glu)をアミノ酸配列をコードする断片を連結する場合に、その上流にSpeI切断配列、そして下流にNheI切断配列を付加したDNAをはじめに合成し、このDNAの制限酵素部位を連結部分、すなわちリンカー配列Lとして利用して、8回タンデムに繰り返した繰り返し配列を作製している。したがって、この実施例の場合のポリペプチドには、上記のDNA連結部分に相当するリンカー配列Lとして、(Thr−Ser)および(Ala−Ser)が含まれている。
本発明の複合化絹糸に含まれる、上記ポリペプチドをコードする遺伝子は、絹糸構成タンパク質の末端配列をコードする遺伝子を融合した遺伝子であることが好ましい。絹糸構成タンパク質としては、フィブロインH鎖、フィブロインL鎖、セリシンが好適であり、この末端配列をコードする遺伝子を上記ポリペプチドをコードする遺伝子に結合することが好ましい。使用する末端配列としては、絹糸タンパク質のN末端あるいはC末端配列であることが好ましく、フィブロインH鎖のN末端配列およびC末端配列を融合することがさらに好ましい。具体的には、上記ポリペプチドの5’側にフィブロインH鎖のN末端領域をコードする遺伝子が結合し、3’側にフィブロインH鎖のC末端領域をコードする遺伝子が結合している遺伝子が、特に好ましい。フィブロインH鎖のN末端およびC末端配列は、絹糸線細胞から絹糸線組織内腔への分泌に重要な配列と考えられている(井上ら、「Eur.J.Biochem.271.356−366.2004」)。本発明では、フィブロインH鎖のN末端配列35アミノ酸、およびC末端の33アミノ酸に対応するペプチド配列をコードする遺伝子を、上記繰り返しアミノ酸配列をコードする遺伝子の末端に付加することで、ポリペプチドの効率的な生産を行っている。
本発明の複合化絹糸に含まれる、上記ポリペプチドをコードする遺伝子をカイコに導入するために使用可能なプロモーターとしては、絹糸の構成タンパク質の発現を制御しているフィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーター、セリシンプロモーターから選ばれる1種のプロモーターであることが好ましい。これらのプロモーターは、カイコ幼虫の成長過程で、絹糸腺組織の形成・発達とともに組織特異的に、それぞれの遺伝子発現を制御するプロモーターとして知られている。すなわち、これらのプロモーターに発現可能な状態でポリペプチド配列をコードする遺伝子を連結することで、絹糸腺組織においてポリペプチドを特異的に発現制御することが可能となる。特に、これらのプロモーターの下流にポリペプチド配列をコードする遺伝子を連結することが好ましい。さらに、発現したポリペプチド配列が絹糸腺内腔に分泌されることによって、絹糸吐糸過程にフィブロインまたはセリシンといった絹糸構成タンパク質とともに絹糸に分泌される。ポリペプチド配列をコードする遺伝子を連結するプロモーターは、フィブロインH鎖プロモーターであることが好ましい。フィブロインH鎖プロモーターを用いることにより、フィブロインが発現している絹糸腺、特に後部絹糸腺にポリペプチドを発現させ、フィブロインとともに絹糸として生産可能となる。また、フィブロイン層に目的のポリペプチドを局在させることが可能となり、精練操作に伴いセリシン層を除去した絹糸において、表面特性を大幅に改変することが可能となる。フィブロインH鎖遺伝子のプロモーターとしてはGeneBank登録番号V00094の塩基番号255-574番目、GeneBank登録番号AF226688の塩基番号62118-62437番目などが挙げられるこれに限定されるものではない。
本発明の複合化絹糸に含まれる、上記ポリペプチドをコードする遺伝子をカイコに導入するためのベクターは、上記所望のポリペプチド配列をコードする遺伝子を含み、適切なプロモーター領域、ポリA領域を含み、さらに該遺伝子をカイコ染色体に導入できるものであれば特に限定はされず、例えばカイコ核多角体ウイルスベクター(BmNPV)、トランスポゾン由来のDNA配列を含んだベクターなどを用いることができるが、特に後者が好ましい。
トランスポゾンとしては、例えば、鱗翅目昆虫由来のトランスポゾンであるpiggyBac(Nature Biotechnology, 18,81-84,2000)、ショウジョウバエ由来のトランスポゾンであるmariner(Third International workshop on transgenesis of invertebrate organisms,p37-38,1999)、Minos(Insect Mol.Biol.9,277-281,2000)などが挙げられるが、これらの中でもpiggyBacが好ましい。PiggyBacトランスポゾンとは、両端に13塩基対の逆位配列と、内部に約2.1kbpのORFを有するDNA転写因子である。トランスポゾン由来のDNA配列とは、例えば、piggyBac由来のDNA配列である、TTAA配列を含む一対の末端逆位反復配列をいい、ベクター内において上記遺伝子を挟んでその両側に挿入する。
また、ベクターには、必要に応じて、遺伝子組換えカイコのスクリーニングを容易にするため、蛍光タンパク遺伝子などのマーカー遺伝子を挿入してもよい。例えば、適切なプロモーター下流に結合された緑色蛍光タンパク質(GFP)の遺伝子を、上記の1対のトランスポゾン由来のDNA配列間の適切な部位に導入すればよい。ここで用いるプロモーターとしては、カイコ細胞内で有効に働くプロモーターであれば特に限定はされないが、たとえばショウジョウバエの熱ショックタンパク質遺伝子のプロモーター、カイコアクチン遺伝子のプロモーター(Nature Biotechnology, 18,81-84,2000)、ショウジョウバエの視神経で発現することが知られている3xP3プロモーターなどが挙げられるが、カイコアクチン遺伝子のプロモーター(Nature Biotechnology, 18,81-84,2000)又は3xP3プロモーターが好ましい。
本発明の遺伝子組換えカイコは、上述のポリペプチド配列をコードするDNAを含む遺伝子が染色体に導入され、該ポリペプチド配列を含む繭糸(絹糸)を産生するカイコである。目的のポリペプチドをコードする遺伝子が導入される染色体上の遺伝子座位は、カイコの発生、分化、成長を阻害しない部位であれば、特に制限はない。
遺伝子のカイコ染色体への導入方法としては、遺伝子が安定に染色体に組み込まれ、発現し、交配により子孫にも安定に遺伝子が伝わるような遺伝子導入方法であれば特に制限はされず、例えば、ベクターをカイコガ(Bombyx mori)の卵にマイクロインジェクションする方法、遺伝子銃を用いる方法などを用いることができる。
また、前記ベクターが、トランスポゾン由来のDNA配列を含むベクターである場合は、トランスポザーゼ遺伝子を含むヘルパープラスミド(Nature Biotechnology, 18, 81-84, 2000)を同時にカイコ卵にマイクロインジェクションする。このようなベクターとしては、例えばTrichoplusia ni cell line TN-368、Autographa californica NPV(AcNPV)、Galleria mellonea NPV(GmMNPV)由来のpiggyBacを含むベクター、好ましくはTrichoplusia ni cell line TN-368由来PiggyBacの一部を持つプラスミドpHA3PIG、pPIGA3GFP(Nature biotechnology, 18, 81-84, 2000)などを用いることができる。
上記のようにして染色体に遺伝子を導入したカイコは、通常の条件で催青し、孵化した幼虫を5令まで飼育し成虫を得る(G0世代)。得られたG0成虫の雌雄を交配して卵を得、これらの卵を催青し孵化させる。次に得られた幼虫、好ましくは1〜2令のカイコ(G1世代)の中から目的とする遺伝子組換えカイコを選抜する。遺伝子組換えカイコの選抜は、例えば、遺伝子導入用ベクター内にGFPなどのマーカー遺伝子を挿入した場合は、上記のG1世代カイコ幼虫の中から緑色蛍光を発する個体を選抜することによってより簡便に行うことができる。
こうして得られた遺伝子組換えカイコの子孫は、その染色体上に導入された遺伝子を安定に保持することが可能である。本発明の遺伝子組換えカイコは、通常のカイコと同様な方法で、継代維持可能である。すなわち、卵を通常の条件で催青し、孵化した蟻蚕を人工飼料等へ掃立てし、通常のカイコと同様な条件で飼育することで5令カイコまで飼育できる。
本発明の遺伝子組換えカイコは、通常のカイコと同様に蛹化し、繭を作ることができる。蛹の段階で雌雄を区別し、発蛾したのち雌雄を交尾させ、翌日採卵する。卵は通常のカイコ卵と同様に保存することが可能である。本発明の遺伝子組換えカイコは、こうした飼育を繰り返すことで継代することが可能であり、また、大量に増やすことが可能である。
本発明の複合化絹糸に含まれる、遺伝子組換えカイコが生産する絹糸は、上記で得られた遺伝子組換えカイコの吐糸した繭を採取することによって得ることができる。本明細書において、絹糸とは、カイコにより吐糸される繭、繭から調製された生糸、生糸を精錬して得られた絹糸、2粒以上の複数の繭からマルチフィラメントとして操糸された絹糸の全てを含む概念である。
本発明の複合化絹糸を含む医療用材料とは、本発明の複合化絹糸を少なくとも原料の一部として利用した材料であって、ヒト生体内に使用することを特徴とする材料のことを示す。例えば、ヒドロキシアパタイトと絹糸の生体親和性を利用した人工骨、人工歯科材料、人工血管、人工神経管、人工靱帯、人工腱、人工皮膚、外科用補填剤、外科用補強剤、外科用縫合糸、創傷保護材、医療用シーツなどが挙げられる。上記の様な医療用材料を作製する方法として、複合化絹糸を繊維のまま利用する方法と、絹糸を三次元構造物に加工して利用する方法が挙げられる。特に、人工神経管、人工靱帯、人工腱、外科用縫合糸、医療用シーツを作製する際は、複合化絹糸をそのまま原料として利用することが好ましい。また、人工骨あるいは人工歯科材料として利用する際、任意の本数束ねた絹糸を用い、板状、円筒状、柱状、ブロック状、あるいはその他の形状の繊維構造物を作製し、これを利用することが好ましい。絹糸とハイドロキシアパタイトを複合化する工程は、構造体を織製する前に絹糸と複合化させていてもよいし、構造体を織製した後に複合化させてもよい。
本発明の複合化絹糸は、吸着材料として利用可能である。本発明の吸着材料とは、複合化絹糸を少なくとも原料の一部として利用した材料であって、ヒドロキシアパタイトの吸着特性と絹糸の強度特性を併せ持つ材料である。吸着材料の吸着対象となる化合物としては、ヒドロキシアパタイトによる吸着効果が高い物質であるタンパク質、DNA、花粉、ウイルス、細菌、悪臭物質、色素化合物などが挙げられる。吸着材料の形態としては、例えばマスク、フィルター、衣服などのとして利用可能である。本発明の複合化絹糸は、これらの製品の少なくとも一部に使用されていればよく、その使用箇所、使用用途、使用量に関しては限定されるものではない。特に上記の様な吸着材料として利用する際は、ヒドロキシアパタイト複合化絹糸を、他の繊維素材と組み合わせることで作製することが可能である。また、ステープル化した絹糸に対し、ヒドロキシアパタイトを複合化させたものを原料として使用し、不織布状に加工したものでよい。絹糸とヒドロキシアパタイトを複合化した不織布の作製方法としては、ヒドロキシアパタイトが付着した絹糸ステープルを、ろ過回収し、その後圧縮することで、フェルト状不織布を得ることができる。こうして得られた不織布は、さらに第二の繊維素材と組み合わせることで、上述のマスク、フィルターなどとして利用可能である。
本発明の複合化絹糸を含む光触媒材料とは、ヒドロキシアパタイト複合化絹糸に対して、光触媒活性を有する金属酸化物をさらに複合化させてなる材料のことを示す。光触媒活性を有する金属酸化物としては、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン、ルチル型酸化チタン、酸化錫、酸化亜鉛、酸化第二鉄、三酸化二ビスマス、三酸化タングステン、チタン酸ストロンチウムが挙げられるが、なかでも酸化チタンであることが好ましく、なかでも光触媒活性が高いアナターゼ型結晶構造を有する酸化チタンであることがさらに好ましい。複合化絹糸への金属酸化物の複合化の方法は特に限定されず、絹糸表面のヒドロキシアパタイト層に金属酸化物を吸着させたものでもよい。またカルシウムイオンおよび酸化チタンの存在下で、絹糸表面に共沈物を付着させることも可能である。こうした手法で得られるヒドロキシアパタイトは、原子レベルで酸化チタンがアパタイトと複合化されているため、活性が安定で長期間使用可能な複合体が作製可能である。本発明の光触媒材料が、光触媒作用によって吸着分解する対象としては、タンパク質、DNA、花粉、ウイルス、細菌、悪臭物質、色素化合物などが挙げられるが、これらに限らない。
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)フィブロインN末端領域をコードする遺伝子及びC末端領域をコードする遺伝子の調製
フィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域(配列番号1)(GenBank登録番号AF226688の塩基番号62118〜63513番目:以下「HP領域」)は、カイコゲノムDNAを鋳型とし、プライマー1(配列番号2)とプライマー2(配列番号3)を用いたPCRにより取得した。
フィブロインH鎖C末端部分コード領域・フィブロインH鎖遺伝子のポリA領域(配列番号4)(GenBank登録番号AF226688の塩基番号79099〜79995番目:以下「CA領域」)は、カイコゲノムDNAを鋳型とし、下記のプライマー3(配列番号5)とプライマー4(配列番号6)を用いたPCRにより取得した。
PCRは、KODplus(東洋紡(株)製)を用いて添付のプロトコールに従って行った。PCR反応液組成、PCR反応条件をそれぞれ以下に示す。PCR反応はBiorad社のDNAサーマルサイクラーを用いて行った。
(PCR反応液組成)
鋳型:カイコゲノムDNA 100ng
各プライマー:50pmol
添付の10×PCRバッファー:10μl
1mM MgCl2
0.2mM dNTPs
2単位KODplus DNA polymerase
全量100μl。
(PCR反応条件)
DNAの変性条件:94℃、15秒
プライマーのアニーリング条件:55℃、30秒
伸長条件:68℃、30秒〜300秒
上記反応を1サイクルとして30サイクル。
各PCR反応産物を1%アガロースゲルにて電気泳動し、それぞれHP領域では1.4kbp、CA領域では0.9kbpのDNA断片を常法に従って抽出、精製した。これらのDNA断片をそれぞれAscIおよびXbaIで切断し、AscIサイトを導入したpUC19ベクターにタカラバイオ(株)のDNA Ligation Kit Ver.2を用いて16℃で終夜反応を行って連結した。得られたpUCベクター(pUC-HP-CA)を用いて常法に従って大腸菌を形質転換した。形質転換体にPCR断片が挿入されていることは、得られたコロニーを前述と同じ条件でPCRすることにより確認した。また、プラスミドをシーケンスすることによって、それに含まれるPCR断片がそれぞれの遺伝子であることを確認した。
(実施例2)酸性アミノ酸の繰り返し配列をコードする遺伝子の調製
配列番号7で表されるグリシンと酸性アミノ酸であるアスパラギン酸との繰り返し配列(Gly−Asp)をコードする遺伝子、及び配列番号8で表されるグリシンと酸性アミノ酸であるグルタミン酸との繰り返し配列(Gly−Glu)をコードする遺伝子は、合成オリゴヌクレオチドを出発材料とし、SpeIとNheIの制限酵素を用いた切断、及びライゲーションを繰り返すことにより調製した。調製した遺伝子断片を、実施例1で調製したフィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域(HP領域)とフィブロインH鎖C末端部分コード領域・フィブロインH鎖遺伝子のポリA領域(CA領域)を有するプラスミド(pUC-HP-CA)のBamHIとSalIサイトにクローニングした(図1)。ここで得られた発現カセット:HP-GX-CA(ここで「G」はグリシン、「X」は酸性アミノ酸であるアスパラギン酸「D」、又はグルタミン酸「E」を表す。)は、フィブロインH鎖遺伝子のプロモーター・第1エキソン領域・第1イントロン領域・第2エキソン領域/GX/フィブロインH鎖C末端領域・フィブロインH鎖ポリA領域を含む。これらの発現カセットより、フィブロインH鎖遺伝子プロモーターにより、翻訳されるフィブロインH鎖との融合タンパク質は、配列番号9および10で表されるものである。
(実施例3)カイコ導入ベクターの作製
一方、遺伝子導入用プラスミドには、Trichoplusiani(イラクサキンウワバ)由来のトランスポゾンの末端逆位反復配列を含む、pigA3GFP(Nature Biotechnology 18, 81-84, 2000)を利用した。pigA3GFPは、米国特許第218185号に開示されるプラスミドp3E1.2よりトランスポザーゼ(transposase)をコードする領域を取り除き、その部分にA3プロモーター(GenBank登録番号U49854の塩基番号1764〜2595番目)及びpEGFP-N1ベクター(Clontech社製)由来の緑色蛍光タンパク質(GFP)及びSV40由来ポリA付加配列(GenBank登録番号U55762の塩基番号659〜2578番目)を挿入したベクターであり、このベクターは独立行政法人農業生物資源研究所より分与可能である。pigA3GFPのA3プロモーターの上流側にあるAscIを用いて前記のGX発現カセット(HP-GX-CA)を挿入し、pBAC-HP-GX-CAを得た。
(実施例4)遺伝子組換えカイコの作製
実施例3で構築したベクター(pBAC-HP-GX-CA)2種類(「G」はグリシン、「X」はアスパラギン酸「D」又はグルタミン酸「E」)とピギーバックトランスポザーゼタンパク質を生産するDNA(pHA3PIG)を各200μg/ml含んだ0.5mMリン酸バッファー(pH7.0)/5mMKCl溶液を調製し、3〜20nlを産卵後4時間以内のカイコ卵500個に対してマイクロインジェクションした。上記のpHA3PIG(Nature biotechnology 18,81-84,2000 農業生物資源研究所より分与可能)は、ピギーバックトランスポゾンの一方の逆位反復配列と5’フランキング領域、トランスポザーゼ遺伝子のリーダー配列を欠いており、その代わりにカイコアクチン遺伝子の5’フランキング領域とリーダー配列が組み込まれている。pHA3PIGはアクチンプロモーターの働きによりピギーバックトランスポザーゼタンパク質を作る機能を持つが、ピギーバックトランスポゾンの一方の逆位反復配列が欠損しているため自身のDNAは転移しない。
マイクロインジェクション後、カイコ卵より孵化した幼虫を飼育し、得られた成虫(G0)を群内で掛け合わせて得られた次世代(G1)をGFPの蛍光を指標として、目的遺伝子が染色体へ導入された遺伝子組換えカイコをスクリーニングした。
(実施例5)遺伝子組換え絹糸に対するヒロドキシアパタイトの形成(複合化絹糸の作製)
実施例4で得られた遺伝子組換えカイコ(G1)を野生カイコ(白C)と交配して得られた世代(G2)のうち、GD遺伝子(グリシン-アスパラギン酸)又はGE遺伝子(グリシン-グルタミン酸)の導入が確認されたカイコの繭糸を煮繭し、紡糸した。得られた絹糸をマルセル石鹸溶液中で、100℃にて30分精錬を行った。
この精錬後の繭糸(以下、それぞれ「組換え絹糸GD」又は「組換え絹糸GE」という)を、70%エタノールでよく洗浄し、以下の実験に用いた。また実験用品種(WIPND)と野生カイコ(白C)と交配して得られたカイコの絹糸を比較(以下、「比較絹糸」という)として用いた。精練した後、各絹糸を以下の組成の生体模倣溶液に浸し、3日間37℃で放置して、ヒロドキシアパタイトを形成させた。その後、純水で洗浄した。
(生体模倣溶液)
141mM NaCl
4mM KCl
0.5mM MgSO4
1mM MgCl2
4.2mM NaHCO3
2.5mM CaCl2
1mM KH2PO4
pH 6.8。
以上のようにして、本発明の複合化絹糸2種:「複合化絹糸GD」、「複合化絹糸GE」、及び比較用の複合化絹糸:「比較複合化絹糸」を得た。
(実施例6)複合化絹糸表面のリン酸カルシウム結晶のX線回折
実施例5で得られた複合化絹糸表面に形成したリン酸カルシウム結晶のX線回折(広角X線回折法、理学電気社製)を測定した。標準品としてヒドロキシアパタイトを用い、比較複合化絹糸、複合化絹糸GDおよび複合化絹糸GE表面のリン酸カルシウム化合物結晶を解析した。その結果、組換え絹糸GEおよび組換え絹糸GDにおいてヒドロキシアパタイトの結晶に帰属されるピークが、26度及び30〜35度付近に確認され、複合化絹糸表面にヒドロキシアパタイト結晶が形成されたことが示された(図2)。比較複合化絹糸では結晶性ヒドロキシアパタイトのピークが確認されず、低結晶性あるいは非晶質のリン酸カルシウム結晶であることが示された(図2)。
(実施例7)複合化絹糸表面の観察と形成されたリン酸カルシウムの元素解析
実施例5で得られた複合化絹糸を、X線マイクロアナライザー(EPMS,島津製作所)にて複合化絹糸表面の様子を観察し、複合化絹糸表面に蓄積した産物の元素組成解析を行った。
まず複合化絹糸表面の観察の結果、比較複合化絹糸および複合化絹糸GD、複合化絹糸DEの表面には、それぞれ生体模倣溶液の無機成分に由来する結晶成分が蓄積することが示された(図3)。特に複合化絹糸GEは、最も顆粒状の結晶が絹糸表面に付着している様子が確認された(図3)。
複合化絹糸表面に蓄積した無機成分の元素組成を解析し、カルシウム(Ca)およびリン(P)の組成比Ca/Pを算出した結果を表1に示す。比較複合化絹糸DのCa/P比は1.32であり、アモルファスなカルシウム結晶が蓄積していることが示された。複合化絹糸GDのCa/P比は1.36であり、アモルファスなヒドロキシアパタイトが形成されていることが示された。複合化絹糸GEは1.65であり、生体骨のヒドロキシアパタイト組成と同じ結晶核が絹糸表面に形成され、蓄積されていることが示され、複合化絹糸GDと比較して高純度でヒドロキシアパタイトが形成されていることが示された。
(実施例8)酸化チタン−ヒドロキシアパタイト複合化絹糸の作製と光触媒活性の測定
実施例7でヒドロキシアパタイトの形成が確認された複合化絹糸GEを、酸化チタン分散水溶液(1重量%)に浸漬し、10分間放置した。その後、絹糸を純粋で洗浄した後、風乾し酸化チタン−ヒドロキシアパタイト複合化絹糸:「酸化チタン−アパタイト複合化絹糸GE」を作製した。
組換え絹糸GE、複合化絹糸GE(実施例5で作製した複合化絹糸)、酸化チタン−ヒドロキシアパタイト複合化絹糸GEの3種を用い、色素化合物の除去活性を測定した。色素はブロモフェノール(PBS水溶液)を用い、各絹糸を水溶液に浸漬した後、UV照射下で3日間放置した。脱色量は、吸光度変化により測定し、初期水溶液の吸光度を100として、吸光度減少率を除去効果として算出した(表2)。UV照射3日後の色素除去効果として、酸化チタン−ヒドロキシアパタイト複合化絹糸が最も高く、約62%色素を除去可能であることが示された。また酸化チタンを複合化させていない複合化絹糸GEも、未処理の組換え絹糸GEと比べると有意な除去効果(19%)が確認され、吸着担体としての利用が示された。
図1は、カイコ遺伝子組換え用ベクター作製手順を示す図である。 図2は、比較複合化絹糸、複合化絹糸GDおよび複合化絹糸GE表面のリン酸カルシウム化合物結晶を広角X線回折法により解析した結果を示すグラフである。横軸は回折角(度)、縦軸は回折強度を表す。 図3は、X線マイクロアナライザーにより解析した複合化絹糸表面の図面代用写真である。A:比較絹糸、B:組換え絹糸GD、C:組換え絹糸GEを表す。

Claims (11)

  1. 酸性アミノ酸を20%以上含みかつ等電点が4以下であるポリペプチドをコードする遺伝子が導入されたカイコによって生産される絹糸と、該絹糸の表面に形成されたヒドロキシアパタイトとを含有する複合化絹糸。
  2. 前記酸性アミノ酸がグルタミン酸またはアスパラギン酸である、請求項1に記載の複合化絹糸。
  3. 前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、一般式(1)
    {(X−Y−X−Y)n−L}m ・・・(1)
    (ここで、XおよびXはグリシン、アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、スレオニン、システイン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンからなる群から選択されるいずれかのアミノ酸を表し、YおよびYは酸性アミノ酸であるグルタミン酸またはアスパラギン酸を表し、Lは0〜10個の任意のアミノ酸からなるリンカー配列を表し、nおよびmは1以上10以下の整数を表す。)
    で表されるポリペプチドをコードする遺伝子である、請求項1または2に記載の複合化絹糸。
  4. 前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、一般式(1)において、XおよびXがグリシンであるポリペプチドをコードする遺伝子である、請求項3に記載の複合化絹糸。
  5. 前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、その5’側にフィブロインH鎖のN末端領域をコードする遺伝子が結合し、3’側にフィブロインH鎖のC末端領域をコードする遺伝子がそれぞれ結合している遺伝子である、請求項1〜4のいずれかに記載の複合化絹糸。
  6. 前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、配列番号9または10で示されるアミノ酸配列で表されるポリペプチドをコードする遺伝子である、請求項1〜5のいずれかに記載の複合化絹糸。
  7. 前記ポリペプチドをコードする遺伝子が、フィブロインH鎖プロモーター、フィブロインL鎖プロモーターまたはセリシンプロモーターに発現可能な状態で連結された遺伝子である、請求項1〜6のいずれかに記載の複合化絹糸。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の複合化絹糸を含む医療用材料。
  9. 請求項1〜7のいずれかに記載の複合化絹糸を含む吸着材料。
  10. 請求項1〜7のいずれかに記載の複合化絹糸に、さらに金属酸化物を複合化させてなる光触媒材料。
  11. 前記金属酸化物が酸化チタンである請求項10に記載の光触媒材料。
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