JP2008254349A - 加工部耐食性に優れた塗装鋼板 - Google Patents

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Abstract

【課題】硬質の高耐食性亜鉛系合金めっき層を下地に有する塗装鋼板において、冬場の低温環境下で厳しい成形加工を施した場合にも、加工部での耐食性低下が顕著に抑制できるものを提供する。
【解決手段】鋼板表面に、断面硬さが80HV以上の亜鉛系合金めっき層を有し、そのめっき層より上層に下記条件Aを満たす塗膜層を少なくとも1層有し、条件Aを満たす各塗膜層についての下記(1)式で定まるX値を合計した値をXTOTALと表すとき、下記(2)式が成立する加工部耐食性に優れた塗装鋼板。
条件A; 塗膜層の破断伸びが50%以上、かつヤング率が5N/mm2以上
(1)式; X=[塗膜のヤング率(N/mm2)]×[塗膜厚さ(μm)]
(2)式; XTOTAL≧3×[めっき層厚さ(μm)]
【選択図】図2

Description

本発明は、高耐食性の亜鉛系合金めっき鋼板を基材として塗装を施した塗装鋼板に関する。
塗装鋼板の基材としては従来から亜鉛めっき鋼板が使用されているが、最近ではより耐食性の高い亜鉛系合金めっき鋼板を基材として塗装を施した塗装鋼板も多く使用されるようになってきた。例えば、高耐食性の亜鉛系合金めっき鋼板としては質量%で、Al:3〜22%、Mg:1〜10%、残部実質的にZnからなる溶融めっきを施したZn−Al−Mg系めっき鋼板が知られている。この種のめっき鋼板は表面外観の良好な製品を安定的に製造することが難しいとされていたが、最近ではその製造技術も確立され、幅広い用途での実用に供されている。代表的な製品としてはZn−4〜12%Al−1〜3%Mgめっき鋼板が挙げられる。また、質量%で、Al:50〜60%、残部実質的にZnからなる溶融めっきを施したZn−Al系めっき鋼板は耐食性、耐熱性が良好であり、なかでもZn−55%Alめっき鋼板はガルバリウム鋼板と呼ばれ建材等の分野で普及している。これらのめっき鋼板は未塗装で使用される場合もあるが、耐久性や意匠性を改善するためにクリア塗装やカラー塗装を施して使用される用途も多い。
ところが、これらの高耐食性亜鉛系合金めっき鋼板は通常、そのめっき層が80HV以上と硬質であることから、厳しい曲げ加工等を施した場合、加工部においてめっき層に割れが生じやすい。めっき層に多少の割れが生じても犠牲防食作用が働くため、すぐに鋼板に孔が開くような腐食に至ることはないが、赤錆が生じて外観が劣化し、また長期耐久性も劣化する。塗装が施されている場合でも、めっき層の割れに対応して塗膜にも裂け目が生じやすく、耐食性の低下を防止することができないという問題があった。
特許文献1、2には上記のような亜鉛系合金めっき鋼板の表面に100%以上という高い破断伸びを有する塗膜を形成する手法が開示されている。
特開2003−277903号公報 特開2004−181860号公報 特開平2−14867号公報 特開平7−126826号公報 特開平10−220187号公報
特許文献1、2に示されるように、硬質な亜鉛系合金めっき層の上に高い破断伸びを有する塗膜を形成すれば、曲げ加工時にめっき層の割れが軽減され、また塗膜の裂けが防止されるので、結果的に加工部での耐食性を改善することができる。しかし、発明者らの詳細な調査によると、特許文献1、2の技術を適用した場合であっても、実際の施工において加工部の耐食性が十分に改善されない場合があることがわかってきた。その原因について検討したところ、低温環境下(例えば5℃)で成形加工を行った場合に、めっき層の割れが十分抑制できず、塗膜にも裂け目が生じることがあり、その結果、めっき層の割れ発生箇所を起点に腐食が進行することがわかった。すなわち、伸びが100%以上という柔軟な塗膜を形成するだけでは、冬場に成形加工が行われるような場合には、加工部の耐食性を十分に改善することができない。
本発明はこのような現状に鑑み、硬質な高耐食性亜鉛系合金めっき鋼板を基材とした塗装鋼板において、低温環境下で成形加工を施した場合でも、加工部での耐食性低下が顕著に改善される塗装鋼板を提供することを目的とする。
発明者らは詳細な検討の結果、めっき層の上に形成させる塗膜の性質として、伸びが良好であることに加え、ヤング率が高いことが、低温環境下での成形加工において硬質なめっき層の割れを軽減する上で極めて有効であることを見出した。また、ヤング率×塗膜厚さの値をめっき層厚さに応じて十分に大きくすることが重要であることを見出した。本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
すなわち上記目的は、鋼板表面に、断面硬さが80HV以上の亜鉛系合金めっき層を有し、そのめっき層より上層に下記条件Aを満たす塗膜層を少なくとも1層有し、条件Aを満たす各塗膜層についての下記(1)式で定まるX値を合計した値をXTOTALと表すとき、下記(2)式が成立する加工部耐食性に優れた塗装鋼板によって達成される。
条件A; 塗膜層の破断伸びが50%以上、かつヤング率が5N/mm2以上
(1)式; X=[塗膜のヤング率(N/mm2)]×[塗膜厚さ(μm)]
(2)式; XTOTAL≧3×[めっき層厚さ(μm)]
ここで、塗膜厚さは乾燥塗膜の平均厚さである。条件Aを満たす塗膜層の数が1層である場合は、上記XTOTALの値は当該塗膜層についてのXの値に等しくなる。めっき層厚さは凝固後の平均厚さである。めっき層の断面硬さは、例えばマイクロビッカース硬度計により荷重5gで測定することができる。その際、例えばZn−Al−Mg系合金めっき層の場合は、コーンの先端がめっき層断面のα−Al部に位置するようにすればよい。めっき層の断面硬さは、めっき層の厚さ中心部付近をn=5で測定した場合の平均値が採用される。
亜鉛系合金めっきは、亜鉛が主成分として40質量%以上含まれる合金めっきである。例えば、質量%で、Al:3〜22%、Mg:1〜10%、残部実質的にZnからなる溶融Zn−Al−Mg系めっきが好適な対象となる。「残部実質的にZnからなる」とは、Zn−Al−Mg系めっきの耐食性を阻害せず、かつ溶融めっき鋼板の製造自体が可能な範囲で、Zn、Al、Mg以外の元素の混入を許容する趣旨である。例えば、溶融Zn−Al−Mg系めっき層に一般的に含有される元素として、Ti、B、Si、Feが挙げられるが、これらはTi:0.1質量%以下、B:0.05質量%以下、Si:2質量%以下、Fe:2質量%以下の範囲で含有されて構わない。また「残部実質的にZnからなる」には「残部がZnおよび不可避的不純物からなる」場合が含まれ、「Ti、B、Si、Feの1種以上を上記の含有量範囲で含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる」場合も含まれる。
また、質量%で、Al:50〜60%、残部実質的にZnからなる溶融Zn−Al系めっきも、好適な対象の1つである。この場合「残部実質的にZnからなる」とは、Zn−Al系めっきの耐食性を阻害せず、かつ溶融めっき鋼板の製造自体が可能な範囲で、Zn、Al以外の元素の混入を許容する趣旨である。例えば、溶融Zn−Al−Mg系めっき層に一般的に含有される元素として、Si:3.0質量%以下、Fe:1.5質量%以下、Mg:0.5質量%以下が挙げられ、その他、Cu、Pb、Sn、Ca、Ni、Mn、Cr、Ti、Na、B、Sr等の不純物の混入が許容される。また「残部実質的にZnからなる」には「残部がZnおよび不可避的不純物からなる」場合が含まれ、「Si、Fe、Mgの1種以上を上記の含有量範囲で含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる」場合も含まれる。
本発明によれば、硬質な高耐食性めっき層を有する亜鉛系合金めっき塗装鋼板において、5℃以下の低温環境下で厳しい曲げ加工を施した場合でも、曲げ加工部でのめっき層の割れが大幅に軽減され、その部分での耐食性が顕著に改善される。したがって、冬場に成形加工された製品においても所望の高耐食性が維持され、従来、加工時期によって変動していた製品品質の安定化が実現される。
めっき層が硬質な高耐食性の亜鉛系合金めっき鋼板は、曲げ加工を行った場合、曲げ加工部の外側の表面(曲げ軸から遠い側の表面)において、めっき層に大きな「割れ」が生じやすい。これは、曲げ加工部の外側の表面には曲げ加工時に引張応力が生じ、それによってめっき層にひびが入ると、そこに応力が集中して局所伸びとなり、ひびが大きく開いて割れの拡大を招いているものと考えられる。従来、硬いめっき層の上をよく伸びる塗膜で覆うことにより、曲げ加工部での耐食性は改善されてきた(特許文献1、2)。この場合、曲げ加工時にめっき層にひびが入っても、塗膜が切れない限りめっき層には静水圧的な拘束力が働き、これが加工度の増大に伴ってフレッシュな箇所でのひびの発生を促し、初期に生じたひびが局所的に大きな割れに進展するのを防いでいるものと推察される。また、塗膜はよく伸びるので、めっき層の割れが局所的に大きな割れに成長しない限り、塗膜自体の裂けが防止され、結果的に高耐食性が維持される。
ところが、冬場の低温環境下で曲げ加工を施す場合には、上記従来のよく伸びる塗膜で覆う手法は必ずしも加工部での耐食性を確保するために有効ではないことがわかった。その詳細な原因については必ずしも明確ではないが、低温(例えば5℃以下)の厳しい条件下では、めっき層の局所的な割れの拡大を防止するに足るだけの拘束力を塗膜によって賄うことが困難になると考えられ、割れの拡大に伴って塗膜下での鋼素地露出部の面積が増え、また塗膜自体にも欠陥が生じやすくなることにより、結果的に耐食性が低下するものと考えられる。
発明者らの詳細な研究によれば、硬質なめっき層の上を覆う塗膜として、伸びが適度に高いことに加え、ヤング率が高い塗膜を形成することによって、低温環境下の厳しい条件での曲げ加工においても、めっき層の割れの拡大が顕著に抑制され、曲げ加工部での耐食性が高く改善されることが明らかになった。塗膜のヤング率が高いということは、塗膜伸びの初期抵抗が大きいことを意味する。図1に、後述のようにして得られる遊離塗膜について引張試験を行ったときの応力−歪み曲線を模式的に示す。本発明では、この応力−歪み曲線において、原点と、塗膜の歪み(伸び率)が0.2%になったときの応力−歪み曲線上の点とを通る直線を想定し、この直線の傾きを当該塗膜のヤング率(N/mm2)として採用する。めっき層をヤング率の高い塗膜で覆うと、めっき層の変形に対する塗膜からの拘束力が増大し、この拘束力が曲げ加工の初期にめっき層に生じたひびの拡大に対する大きな対抗力となって、低温環境下での曲げ加工においても加工度の増大に伴うめっき層の応力集中が従来よりも顕著に緩和されるものと推察される。その結果、めっき層は全体としてより均一に変形するようになり、塗膜下での鋼素地露出部の面積が大幅に減少する。また、塗膜は適度に良好な伸びを呈するため、塗膜欠陥の形成も抑制される。
本発明では、このような知見に基づき、めっき層より上層に下記条件Aを満たす塗膜層を少なくとも1層設ける。
条件A; 塗膜層の破断伸びが50%以上、かつヤング率が5N/mm2以上
条件Aを満たさない塗膜層を有していても構わないが、全塗膜層のうち、1層以上を条件Aを満たす塗膜層で構成する。
ヤング率が5N/mm2を下回る塗膜層は、冬場の厳しい加工環境(例えば5℃以下)において、硬質な亜鉛系合金めっき層の変形に対する拘束力を十分に担うことができない。したがって、ヤング率5N/mm2以上の塗膜層を少なくとも1層設けなければ加工部での耐食性を十分に改善することが難しくなる。より好ましい特性として、上記条件Aの「ヤング率が5N/mm2以上」の規定に代えて「ヤング率が10N/mm2以上」の規定を設けることができ、「ヤング率が15N/mm2以上」の規定を設けても良い。
このような高いヤング率に加え、さらに50%以上の高い破断伸びを有する塗膜層は、曲げ加工時に塗膜の変形がめっき層の割れの進展に追随して、塗膜自体に欠陥(場合によっては裂け目)が生じることを防止する作用を発揮する。
塗膜のヤング率と破断伸びについては、例えば樹脂の骨格構造の選択、硬化剤の種類・量の調整、異なる伸び率の樹脂の配合など、公知の方法により変化させることができる。一般的には、(i)樹脂の分子量が低い、(ii)ガラス転移温度(Tg)が高い、(iii)結晶度が高い、(iv)硬化剤が多い場合に、ヤング率が増大する傾向がある。逆の場合には破断伸びが向上する傾向がある。また、硬化剤として、イソシアネートではなくメラミンを使用すると一般にヤング率が増加する。
一方、めっき鋼板の曲げ加工においては、めっき層の厚さが大きくなるほどめっき層に生じる割れも大きくなる傾向がある。したがって、めっき層厚さの増大に伴って、塗膜にはより大きな拘束力が要求されることになる。発明者らは、めっき層の変形に対する塗膜の拘束力は、「塗膜のヤング率」と「塗膜厚さ」の積に依存すると考え、種々のめっき層厚さを有する亜鉛系合金めっき鋼板を使用して、「塗膜のヤング率」×「塗膜厚さ」の値と、めっき層割れ抑制効果の関係を詳細に調査した。その結果、上記条件Aを満たす塗膜層において、下記(1)式のようにX値を定義したとき、そのX値がめっき層厚さ(μm)の3倍以上となるように塗膜のヤング率および塗膜厚さをコントロールすることによって、めっき層の割れ抑制効果(後述のめっき層割れ減少率)が急激に向上することを見出した。
(1)式; X=[塗膜のヤング率(N/mm2)]×[塗膜厚さ(μm)]
上記条件Aを満たす塗膜層が2層以上形成されている場合は、それらの各塗膜層について(1)式によりX値を算出し、それぞれの塗膜層におけるX値を合計した値、すなわちXTOTALがめっき層厚さ(μm)の3倍以上となっていればよい。つまり、下記(2)式を満たす必要がある。
(2)式; XTOTAL≧3×[めっき層厚さ(μm)]
この(2)式を満たさない場合にはヤング率や破断伸びが高い塗膜を形成した場合でも曲げ加工部での耐食性を十分に改善することが難しい。
本発明では対象とする亜鉛系合金めっきは、そのめっき層の断面硬さが80HV以上のものである。断面硬さがこれより低いめっき層の場合は、曲げ加工部でめっき層割れが生じたとしても軽微であり、塗装鋼板としての耐食性低下はほとんど問題にならない。これに対し、めっき層の断面硬さが80HV以上になると、曲げ加工(特に低温環境下での曲げ加工)によるめっき層の割れが曲げ加工部の耐食性低下として顕在化しやすい。そのような亜鉛系合金めっきとしては、前述のようにAl:3〜22%、Mg:1〜10%、残部実質的にZnからなる溶融Zn−Al−Mg系めっき、特に、Zn−4〜12%Al−1〜3%Mgめっきや、質量%で、Al:50〜60%、残部実質的にZnからなる溶融Zn−Al系めっきが例示できる。
めっき原板に使用する鋼板は、用途に応じて従来から採用されている種々のものが適用対象となる。代表的には板厚0.3〜1.5mm程度のAlキルド鋼冷延鋼板が挙げられる。鋼組成としては、例えば、質量%でC:0.01〜0.10質量%、Si:0.3質量%以下、Mn:0.5質量%以下、その他必要に応じてP:0.05質量%以下、S:0.02質量%以下、Al:0.04%質量以下を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼が挙げられる。ただし、これは一例であり、本発明において特に鋼種は限定されない。
本発明の塗装鋼板の製造方法は、従来一般的な工程が適用できる。
代表的には、連続溶融めっきラインにおいて亜鉛系合金めっき鋼板を製造し、これを塗装鋼板の基材とする。めっき層厚さは5〜200μm程度とすることができるが、5〜50μm程度の範囲で多くの塗装鋼板用途で良好な結果が得られる。塗装に先立ち、めっき鋼板には必要に応じて公知の塗装前処理が施される。例えば、酸洗、表面調整処理(酸系)、化成処理(クロメート処理やクロムフリー処理など)などが採用できる。アルカリ脱脂のみを行う方法でもよい。これらの塗装前処理によって塗膜密着性が向上する。その後、必要に応じて1層以上の下塗り塗装を施し、次いで、上塗り塗装を施す。下塗り塗装、上塗り塗装のうち、少なくとも1層において、乾燥塗膜の破断伸びおよびヤング率が前述の規定を満たすように成分調整された塗料を塗布する。その際、その塗料を使用した塗膜の乾燥厚さが前記(1)式を満たすように塗布量を調整する。塗料はポリエステル系、エポキシ系、アクリル系、フッ素樹脂系などが用途に応じて選択される。塗布の方法はロールコーター法やバーコーター法など公知の方法が使用でき、連続塗装ラインが利用できる。
亜鉛系合金めっき鋼板として、板厚0.5mmのAlキルド鋼冷延鋼板(公称組成;C:0.04質量%、Si:0.03質量%、Mn:0.20質量%、P:0.01質量%、S:0.01質量%、Al:0.01質量%、残部Fe)の表面に溶融Zn−6質量%Al−3質量%Mgめっきを施しためっき鋼板を用意した。片面当たりのめっき層厚さは7、15、30μmの3通りとした。めっき浴の組成(質量%)は以下のとおりである。
Al:6%、Mg:3%、Ti:0.002%、B:0.0005%、Si:0.01%、Fe:0.1%、Zn:残部
得られためっき鋼板に、塗装前処理として、酸洗、表面調整処理(日本ペイント社製、NPC700)、洗浄(湯洗)、乾燥、および化成処理(Si系のクロムフリー処理液(日本ペイント社製、EC2000)をロールコーターで塗布したのち100℃で乾燥)を施した。
塗料として、表1に示す特性を有する各種下塗り塗料および上塗り塗料を用意した。塗膜のヤング率および破断伸びは、以下のようにして遊離塗膜による引張試験を行って求めた。まず、塗料をフッ素フィルムラミネート板に塗布して乾燥塗膜を作る。この塗膜はフッ素フィルムラミネート板から容易に剥離させることができ、遊離塗膜が得られる。塗膜厚さは評価する塗膜層とほぼ同じにする。遊離塗膜から幅5mm、長さ70mmの短冊状サンプルを作製する。このサンプルについて引張り試験機(島津製作所製、AGS−100B型オートグラフ)を用いて、チャック間距離50mm、引張り速度3mm/minでサンプルが破断するまで引張試験を行う。応力−歪み曲線において、原点と、塗膜の歪み(伸び率)が0.2%になったときの応力−歪み曲線上の点とを通る直線の傾きを求め、これを当該塗膜のヤング率(N/mm2)とする。また、サンプルが破断した時点のチャック間距離(変位量)を初期長さ(50mm)で除することにより伸び率を算出する。
各塗料を前記めっき鋼板に塗布することにより、表1に示す各塗装鋼板試料を作製した。下塗り塗膜の表面に上塗り塗膜を形成した2層タイプの塗装鋼板の他、下塗り塗膜用に用意した塗料のみを使用した1層タイプの塗装鋼板試料、および上塗り塗膜用に用意した塗料のみを使用した1層タイプの塗装鋼板試料を作製した。下塗り塗料、上塗り塗料ともロールコーター法によって塗布し、焼付け温度は下塗り塗料:210℃、上塗り塗料:230℃とした。得られた塗装鋼板試料の断面が観察できるように樹脂に埋めたサンプルを作製し、それを用いて、先に述べた手法でめっき層の断面硬さを測定した。その結果、Zn−6%Al−3%Mgめっき層の断面硬さはいずれも150〜170HVの範囲であった。
〔低温環境下での曲げ加工試験〕
各塗装鋼板から50mm×50mmの試験片を採取し、冬場に行われる成形加工を考慮して、低温環境下(5℃)で以下のように曲げ試験を行った。評価するめっき層および塗膜を有する表面(試験面)が曲げの外側になるように、試験片を直径2mmの棒の周りに約1秒間かけて180°折り曲げた。その際、曲げ軸(上記の棒)が試験片の圧延方向に対して直角方向になるようにした。その後、折り曲げた部分の内側に試験片と同じ厚さの板を2枚数挟み込み、万力で力を加えて急速に締め付けた。挟み込んだ板が2枚であるため、この曲げ加工試験は「2T曲げ」に相当する。
2T曲げを終えた試験片の曲げ軸に垂直な断面を、断面検鏡により観察し、曲げ加工部の一定領域を測定範囲として、その測定範囲に存在するめっき層の割れ発生部分(鋼素地が塗膜下に露出している部分)のトータル長さを測定し、これを当該塗装鋼板の「トータル割れ長さ」とした。具体的には図2に示すように測定した。すなわち、図2には曲げ加工試験後の断面を模式的に示す。鋼素地1の表面上にはめっき層2が存在し、曲げ外側において割れ3が生じている。この図には塗膜および曲げ内側のめっき層は省略してあり、曲げ外側のめっき層厚さは板厚に対して誇張して描いてある。鋼素地の表面を基準線4として、下記(3)式で定義される測定範囲長さ(曲げ部の頂点Pが中心)に存在するめっき層の割れ3について、それぞれの割れの大きさを基準線4の長さで測定して、これをその割れの「割れ長さ」とし、各割れ3についての「割れ長さ」を合計した値を「トータル割れ長さ」と規定した。
(3)式; [測定範囲長さ]={(n×T)+2T}×π/2
ただし、n:板挟み枚数、T;板厚
図2の例だと鋼素地1が塗膜下に露出している割れ3が測定範囲に5箇所あり、L1+L2+L3+L4+L5の値が「トータル割れ長さ」に相当する。
一方、塗装を施す前のめっき鋼板(基材という)についても同様の曲げ加工試験を行い、上記の方法で「トータル割れ長さ」を求めた。そして、下記(4)式によって「めっき層割れ減少率」を算出した。
(4)式; [めっき層割れ減少率(%)]=([基材のトータル割れ長さ]−[塗装鋼板のトータル割れ長さ])/[基材のトータル割れ長さ]×100
種々検討の結果、Zn−6%Al−3%Mgめっき鋼板を基材に用いた従来の塗装鋼板では、この低温環境下での試験におけるめっき層割れ減少率は高々15%である。ここでは、めっき層割れ減少率が30%以上のものを○(良好)、10〜30%未満のものを△(やや不良)、10%未満のものを×(不良)としてめっき層割れ抑制効果を評価した。結果を表1に示す。
〔加工部の耐食性試験〕
各塗装鋼板試料から圧延方向に対して直交方向に50mm、平行方向に30mmの試験片を切り出し、前述の曲げ加工試験と同様の方法で5℃において2T曲げ加工を施した後、切断端面および裏面をシリコーン樹脂で被覆した。この加工後の試験片を図3に示すように幅65mm、高さ150mmの鉛直に立てた樹脂板に、その樹脂板の面に対して垂直、幅方向に対して平行にシリコーン系接着剤で貼り付け、試験サンプルとした。試験サンプルを500時間の塩水噴霧試験(JIS K−5600−7−1)に供し、錆および膨れの発生を評価した。加工部における白錆の発生面積率および膨れの発生面積率がともに10%以下であったものを○(良好)、白錆の発生面積率および膨れの発生面積率がともに30%以下であるが、その少なくとも一方が10超え〜30%であったものを△(やや不良)、白錆の発生面積率および膨れの発生面積率の少なくとも一方が30%を超えたものを×(不良)と評価し、○評価を合格と判定した。結果を表1に示す。
なお、表1の「(2)式」の欄には、(2)式を満たすものに○、満たさないものに×を付した(後述の表2において同じ)。
Figure 2008254349
表1からわかるように、本発明例の塗装鋼板は、めっき層の割れ減少率が安定して30%以上となり、加工部耐食性にも優れていた。すなわち本発明に従えば、硬質の溶融Zn−Al−Mg系めっき層を有する塗装鋼板において、低温環境下で成形加工を施した場合にも優れためっき層割れ抑制効果が得られ、その結果、加工部の耐食性が安定して顕著に改善されることが確認された。また、複層塗膜を形成したものでは、No.12〜14に示されるように、本発明で規定する塗膜を少なくとも1層以上有していれば上記改善が実現されることがわかる。更に、No.15に示されるように、下塗り塗膜、上塗り塗膜単独ではいずれも(1)式のX値がめっき層厚さの3倍以上になっていなくても、トータルとして(2)式を満たしていれば、上記改善効果が得られる。
これに対し、比較例であるNo.21は(1)式を満たさないためにめっき層の変形に対する拘束力が十分に発揮されず、めっき層割れ抑制効果が小さかった。その結果、加工部耐食性に劣った。No.23、25はヤング率が5%以上の塗膜層を有していないために低温環境下での曲げ加工においてはめっき層の変形に対する拘束力が不十分となり、塗膜の破断伸びが良好であっても、めっき層割れ抑制効果が小さかった。その結果、加工部耐食性に劣った。No.22、24は塗膜層の破断伸びが50%に満たないために塗膜に裂け目が生じたと考えられ、めっき層割れ抑制効果が十分に発揮されず、加工部耐食性に劣った。No.26〜29は複層塗膜を有するが、下塗り塗膜、上塗り塗膜ともに本発明の規定を外れるためめっき層割れ抑制効果が小さく、加工部耐食性に劣った。
亜鉛系合金めっき鋼板として実施例1と同様のAlキルド鋼冷延鋼板の表面に溶融Zn−55質量%Alめっきを施しためっき鋼板を用意した。片面当たりのめっき層厚さは15、30μmの2通りとした。めっき浴の組成(質量%)は以下のとおりである。
Al:55%、Si:1.5%、Fe:0.5%、Zn:残部
得られためっき鋼板に、塗装前処理として、アルカリ脱脂、洗浄(湯洗)、乾燥、化成処理(実施例1と同様条件)を施した。
塗料として、表2に示す特性を有する各種下塗り塗料および上塗り塗料を用意した。これを用いて表2に示す各塗装鋼板試料を作製した。得られた塗装鋼板試料について、実施例1と同様の実験を行った。各実験条件、評価方法は実施例1と同じである。結果を表2に示す。なお、Zn−55%Alめっき層の断面硬さはいずれも95〜110HVの範囲であった。
Figure 2008254349
表2からわかるように、本発明例の塗装鋼板は、Zn−55%Alめっき層の割れ減少率は60%以上にまで向上し、加工部耐食性にも優れていた。すなわち本発明に従えば、硬質の溶融Zn−55%Alめっき層を有する塗装鋼板において、低温環境下で成形加工を施した場合にも優れためっき層割れ抑制効果が得られ、その結果、加工部の耐食性が安定して顕著に改善されることが確認された。また実施例1と同様に、複層塗膜を形成したものでは、本発明で規定する塗膜を少なくとも1層以上有していれば上記改善が実現される(No.47、49、50)。更に、No.48に示されるように、下塗り塗膜、上塗り塗膜単独ではいずれも(1)式のX値がめっき層厚さの3倍以上になっていなくても、トータルとして(2)式を満たしていれば、上記改善効果が得られる。
これに対し、比較例であるNo.61は(1)式を満たさず、またNo.63はヤング率が5%以上の塗膜層を有していないために、いずれも低温環境下での曲げ加工においてはめっき層の変形に対する拘束力が不十分となり、塗膜の破断伸びが良好であっても、めっき層割れ抑制効果が小さかった。その結果、加工部耐食性に劣った。No.62、64は塗膜層の破断伸びが50%に満たないために塗膜に裂け目が生じたと考えられ、めっき層割れ抑制効果が十分に発揮されず、加工部耐食性に劣った。No.65〜68は複層塗膜を有するが、下塗り塗膜、上塗り塗膜ともに本発明の規定を外れるためめっき層割れ抑制効果が小さく、加工部耐食性に劣った。
遊離塗膜の応力−歪み曲線を模式的に示した図。 曲げ加工試験後の試験片の曲げ軸に垂直な断面を模式的に示した図。 加工部の耐食性試験に供した試験片の設置状況を模式的に示した図。
符号の説明
1 鋼素地
2 めっき層
3 割れ
4 基準線

Claims (3)

  1. 鋼板表面に、断面硬さが80HV以上の亜鉛系合金めっき層を有し、そのめっき層より上層に下記条件Aを満たす塗膜層を少なくとも1層有し、条件Aを満たす各塗膜層についての下記(1)式で定まるX値を合計した値をXTOTALと表すとき、下記(2)式が成立する加工部耐食性に優れた塗装鋼板。
    条件A; 塗膜層の破断伸びが50%以上、かつヤング率が5N/mm2以上
    (1)式; X=[塗膜のヤング率(N/mm2)]×[塗膜厚さ(μm)]
    (2)式; XTOTAL≧3×[めっき層厚さ(μm)]
  2. 亜鉛系合金めっき層は、質量%で、Al:3〜22%、Mg:1〜10%、残部実質的にZnからなる溶融Zn−Al−Mg系めっき層である請求項1に記載の塗装鋼板。
  3. 亜鉛系合金めっき層は、質量%で、Al:50〜60%、残部実質的にZnからなる溶融Zn−Al系めっき層である請求項1に記載の塗装鋼板。
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