本発明は、フタロニトリル化合物を、単独でまたは金属化合物と環化反応させることにより、フタロシアニン化合物を製造する方法であって、該環化反応を、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒(本明細書では、単に「炭化水素系溶媒」とも称する)とニトリル系溶媒との混合溶媒(本明細書では、単に「混合溶媒」とも称する)中で行なうことを特徴とする、フタロシアニン化合物の製造方法を提供するものである。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の主な特徴は、フタロニトリル化合物単独のまたはフタロニトリル化合物と金属化合物との環化反応を、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合溶媒中で行なうことである。本発明において、環化反応を行なう際には、触媒や、腐食を抑制するための添加剤を加えても良い。また、金属化合物を酸化する必要があるような場合には反応系に酸素を含有するガスを導入しても良く、逆に、酸素が存在しない方が好ましいような場合には窒素等の不活性ガスを導入しても良い。金属ハロゲン化物等を用いる場合に腐食を抑制する効果のある、炭酸カルシウムのような不溶性のものを用いた場合には、反応後ろ過してこれを除去する必要がある。また、この不溶性の添加物等を用いない場合でも、環化反応中にはフタロニトリル化合物の重合によって生じる難溶性の副生成物が生じたり、金属の酸化物が生成または残存することが多いため、純度の高いフタロシアニン化合物を得るためには環化反応後濾過を行なうことが望ましい。
本発明によれば、反応容量が20リットル以上であるような大量生産時であっても、製造工程中に析出する不純物の量を有意に抑制/防止することができるため、製造されるフタロシアニン化合物は高い純度を有し、また、環化反応後に濾過する際にフィルターなどの目詰まりが起こらない/起こりにくいため、精製工程を非常にスムーズに行なうことができる。なお、本明細書において、「不純物」とは、フタロニトリル化合物単独のまたはフタロニトリル化合物と金属化合物との環化反応後に、目的産物であるフタロシアニン化合物以外に存在する物質(ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒及びニトリル系溶媒を除く)であり、例えば、未反応の金属化合物、反応中に酸化等の反応によって異なる形となった金属化合物、副反応により生じる物質(例えば、フタロニトリルの重合によってできる多量体等)および、反応を効率良く進めるために加えても良い触媒や装置の腐食を防止するために加える添加剤、などを含む。ここで、混合溶媒の使用により目的とするフタロシアニン化合物が高純度で得られる理由は定かではないが、以下のように考えられる。なお、本発明は、下記推論によって限定されるものではない。すなわち、混合溶媒のうちの一方の溶媒であるニトリル系溶媒は、原料である金属化合物、特に金属ハロゲン化物を良好に溶解しかつ反応性にも優れるが、ニトリル系の溶媒を単独で用いると、フタロニトリルの重合による多量体の生成などの副反応が起こりやすいという性質を有する。これに対して、他方の溶媒である炭化水素系溶媒(ハロゲン化されてもよい)は、原料である金属化合物、特に金属ハロゲン化物に対する溶解性が低くかつ反応性にも劣るが、副反応を起こしにくいという性質を有する。このため、これらの2種の溶媒を適度に混合することによって、原料である金属化合物、特に金属ハロゲン化物への溶解性および環化反応性を維持したまま、副反応を有意に抑制・防止することができることが判明した。また、このような方法によって製造されたフタロシアニン化合物は、不純物含量が少ないため、プラズマディスプレーパネル(PDP)用などの近赤外線吸収フィルターに適用しても、近赤外域での吸光係数の低下や可視域での透過率の低下を抑制・防止できる。このため、本発明の方法によって製造されたフタロシアニン化合物を用いた近赤外線吸収フィルターは、近赤外域で高い吸収係数を有し、かつ400〜610nm、特に400〜460nm付近の可視域では高い透過率を示すため、プラズマディスプレーパネル(PDP)用などの近赤外線吸収フィルターに有用である。
本発明に係る混合溶媒は、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒とを必須の成分として含む。このうち、炭化水素系溶媒は、環化反応時の副反応を起こしにくいものであれば特に制限されず、炭素及び水素からのみからなる炭化水素系溶媒であってもあるいは当該炭化水素系溶媒の少なくとも一の水素がハロゲンに置換されたハロゲン化された炭化水素系溶媒(ハロゲン化炭化水素系溶媒)であってもよい。好ましくは、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒は、80〜260℃、より好ましくは100〜250℃、最も好ましくは140〜190℃の沸点を有する。この際、炭化水素系溶媒の沸点が80℃未満であると、沸点以下の温度では反応が遅く実用的でなく、また、原料を溶解させるために大量の溶媒を必要とし生産性が低い場合があり、逆に260℃を超えると、後の乾燥(溶媒除去)工程で長時間高い温度に保持したり特殊な設備を用いて真空度を高くしたりすることが必要となったりして、経済的に好ましくない場合がある。具体的には、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒としては、ベンゼン(沸点:約80℃)、トルエン(沸点:約111℃)、エチルベンゼン(沸点:約136℃)、プロピルベンゼン(クメン)(沸点:約159℃)、イソプロピルベンゼン(クメン)(沸点:約152℃)、o−キシレン(沸点:約144℃)、m−キシレン(沸点:約139℃)、p−キシレン(沸点:約138℃)、1−メチル−2−エチルベンゼン(沸点:約165℃)、1−メチル−3−エチルベンゼン(沸点:約161℃)、1−メチル−4−エチルベンゼン(沸点:約162℃)、o−ジエチルベンゼン(沸点:約184℃)、1,2,3−トリメチルベンゼン(沸点:約176℃)、1,2,4−トリメチルベンゼン(沸点:約169℃)、1,3,5−トリメチルベンゼン(沸点:約164℃)、1−メチルナフタレン(沸点:約245℃)、2−メチルナフタレン(沸点:約241℃)、1−エチルナフタレン(沸点:約251〜252℃)、2−エチルナフタレン(沸点:約252℃)、n−オクタン(沸点:約126℃)、n−デカン(沸点:約174℃)などの、炭化水素系溶媒;およびクロロベンゼン(沸点:約132℃)、1,3−ジクロロベンゼン(沸点:約173℃)、1,4−ジクロロベンゼン(沸点:約174℃)、1,2,3−トリクロロベンゼン(沸点:約219℃)、1,2,4−トリクロロベンゼン(沸点:約213℃)、1,3,5−トリクロロベンゼン(沸点:約208℃)、1,2,4,5−テトラクロロベンゼン(沸点:約243〜246℃)、2−クロロトルエン(沸点:約159℃)、4−クロロトルエン(沸点:約162℃)、1−クロロナフタレン(沸点:約259℃)、2−クロロナフタレン(沸点:約256℃)などの、ハロゲン化炭化水素系溶媒などが挙げられる。これらのうち、環化反応時の副反応の起こりにくさ、沸点、フタロニトリル化合物の溶解度、工業的な入手のしやすさなどを考慮すると、1,2,4−トリメチルベンゼン、キシレン、トルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロトルエン、n−デカンなどが好ましく、より好ましくは、1,2,4−トリメチルベンゼン、キシレン、クロロトルエン、ジクロロベンゼン、n−デカンであり、最も好ましくは1,2,4−トリメチルベンゼン、クロロトルエンである。なお、上記炭化水素系溶媒及びハロゲン化炭化水素系溶媒は、それぞれ、単独でもしくは2種以上の混合物の形態で使用されても、またはそれぞれの1種もしくは2種以上を組合わせて使用してもよいが、単独で使用するのが一般的である。
また、本発明において、ニトリル系溶媒は、特に限定されないが、原料である金属化合物、特に金属ハロゲン化物を良好に溶解しかつ反応性にも優れるものであることが好ましい。具体的には、ベンゾニトリル、アセトニトリル、プロピオンニトリルなどが挙げられる。これらのうち、金属化合物の溶解性や反応性、溶媒自身の安定性、などを考慮すると、ベンゾニトリル、アセトニトリルなどが好ましく、より好ましくはベンゾニトリルである。なお、上記ニトリル系溶媒は、それぞれ、単独でもしくは2種以上の混合物の形態で使用されてもよいが、単独で使用するのが一般的である。
本発明では、環化反応を炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合溶媒中で行なうことが必須である。この際、混合溶媒における炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との割合は、副反応をあまりまたは全く伴わずに(不純物をあまりまたは全く析出せずに)環化反応を良好に進行できる割合であれば特に制限されない。具体的には、ニトリル系溶媒が、混合溶媒中(炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との合計質量に対して)、1〜30質量%、より好ましくは3〜20質量%、最も好ましくは5〜15質量%の量で含まれるような割合である。この際、ニトリル系溶媒の量が1質量%未満であると、金属化合物をはじめとする原料の溶解性が過度に低下して、原料が十分溶解せず、攪拌が困難になったり、環化反応が十分進行しない可能性があり、また、環化反応が遅いため相対的に副反応が無視できない速さで進む可能性がある。逆に、ニトリル系溶媒の量が30質量%を超えると、金属化合物をはじめとする原料が混合溶媒中に溶解しすぎて、後工程での晶析などによる目的物(フタロシアニン化合物)の結晶化が困難である場合があったり、ニトリル系溶媒の過度の存在により副反応が生じ易く、最終生産物であるフタロシアニン化合物中の不純物含量が高くなったり、また反応の収率が低下する可能性がある。なお、本発明の方法によると、混合溶媒における炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合比率を変えることによって、目的物(フタロシアニン化合物)の溶解度を適宜変更することが可能である。したがって、目的物(フタロシアニン化合物)の溶解度によって、目的物が良好に晶析工程で分離できるように、後の晶析工程でこの混合溶媒における炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合比率を適宜変更するという簡単な操作によって、フタロシアニン化合物を選択的に結晶化することができる。
上記混合溶媒の使用量は、副反応をあまりまたは全く伴わずに(不純物をあまりまたは全く生成せずに)環化反応を良好に進行できる量であれば特に制限されない。反応性、さらには反応後や晶析後の濾過速度などを考慮すると、出発原料であるフタロニトリル化合物1質量部に対して、0.5〜30質量部、より好ましくは0.5〜15質量部、特に好ましくは1〜5質量部の範囲であるであることが好ましい。この際、混合溶媒の使用量が下限を下回ると、原料が十分溶解しないため環化反応が効率よく進行しなかったり、副生成物が増えて、目的とするフタロシアニン化合物の収率が低下する可能性がある。上記に加えて、混合溶媒の量が少ない場合には、スラリー濃度が高くなるため、反応時に攪拌が困難になり、特殊な攪拌機が必要となる上、攪拌効率が悪く均一な反応が行なえないなどの場合もある。一方、混合溶媒を上限を超えて過剰に使用すると、必要以上に混合溶媒を使用することになり、生産性が低下するだけでなく、反応速度が遅くなるなど経済的でない可能性がある。上記に加えて、混合溶媒が過剰に存在すると、後工程で溶媒を除去するために多量の熱が必要であったり長時間を要したり、溶媒除去操作に特別な装置や設備が必要になったりする可能性がある。本発明では、混合溶媒は、仕込み時に一度に仕込んでもよいし、必要に応じて反応中に連続してまたは分割して投入してもよい。また、混合溶媒は、炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒とを、一緒に仕込んでもあるいは別々に仕込んでもよい。
また、本発明の方法では、環化反応は、混合溶媒に加えて、他の溶媒を共存させて行なってもよい。このように他の溶媒としては、副反応や不純物の析出を誘導せず、本発明に係る環化反応を妨げないものであれば特に制限されない。例えば、ケトン、アルデヒド、アルコール、カルボン酸などが挙げられる。なお、他の溶媒は、それぞれが単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。また、他の溶媒を使用する際の他の溶媒の使用量は、副反応や不純物の析出を誘導せず、環化反応を促進できる割合であれば特に制限されず、また、原料のフタロニトリル化合物、炭化水素系溶媒、ニトリル系溶媒の種類および量などによって異なる。好ましくは、他の溶媒の量は、混合溶媒1質量部に対して0.2質量部以下である。この際、他の溶媒の使用量が0.2質量部を超えると、他の溶媒の量が多すぎて混合溶媒自体による効果が十分発揮されず、副反応や不純物の析出が起こったり、環化反応が十分進行しなくなるおそれがあり、その結果目的とするフタロシアニン化合物の収率が低下するおそれがある。
本発明において、環化反応は、金属化合物を酸化する必要があるような場合には反応系に酸素を含有するガスを導入しても良く、逆に、酸素が存在しない方が好ましいような場合には窒素等の不活性ガスを導入しても良い。これによって、高い収率でかつ優れた性能(例えば、近赤外域での吸収係数や可視光透過率など)を有するフタロシアニン化合物が目的物としてより容易に製造できる。このように反応器内部の酸素濃度をコントロールすることによって、環化反応は効率的に進み、好ましくない副反応は抑制されることによって高い収率で高純度のフタロシアニン化合物を得ることが可能になる。
この際使用できる酸素含有ガスとしては、純酸素、空気、酸素/窒素混合ガス等があり、酸素/窒素混合ガスが好ましい。また、使用できる不活性ガスとしては、本発明の環化反応に不活性なものであれば特に制限はなく、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、炭酸ガスなどが挙げられ、好ましくは、窒素ガスである。
反応器内部の酸素濃度の適切な範囲は、原料および目的とするフタロシアニン化合物の種類によって異なるが、好ましくは21vol%以下、より好ましくは10vol%以下である。必要以上に酸素濃度が高いと、好ましくない酸化反応が起きて目的物であるフタロシアニン化合物の収率が低下するばかりでなく、使用する混合溶媒の爆発範囲内になるなど安全上問題となる可能性がある。
また、酸素の適切な供給速度もまた、原料および目的とするフタロシアニン化合物の種類によって異なるが、酸素を含有するガスを、酸素分子の供給量がフタロニトリル化合物1モルに対して、好ましくは毎時(1時間当たり)0.003〜0.05モル、より好ましくは毎時0.005〜0.03モルになるように、供給しながら環化反応を行なう。特にバナジウムのハロゲン化物を原料として使用する場合には、フタロニトリル化合物1モルに対して毎時(1時間当たり)0.005〜0.03モルになるように、供給しながら環化反応を行なうことが好ましい。この際、酸素の供給速度が大きすぎると、副反応として目的としない酸化反応が起こる可能性がある。これに対して、酸素の供給速度が小さすぎると、環化反応が遅く、長持間かかったり、相対的に副反応の方が速く進行して収率が低下したりする可能性がある。
ガスで反応器内部を置換する方法としては、ガスを流通させる方法、あるいはガスで反応器内部を加圧状態にした後、解圧して常圧にもどすことを繰り返す方法等が挙げられる。反応器内部の気相部の濃度を適切にコントロールすることは、酸素濃度を酸素濃度計等を使って測定することによって、容易に達成することができる。ガスの流量に特に制限はないが、例えば、反応器に冷却管が据え付けてあるような場合、反応器と冷却管との接続部分の断面積に対する線速度として、0.01〜10cm/sec、好ましくは0.1〜5cm/sec、より好ましくは0.2〜3cm/secである。線速度が0.01cm/sec以下になると、ガスによる置換が不十分となり、反応が不利となる。10cm/secより大きいと、反応に使用した溶媒等が飛散することがおこり、工業的に好ましくない場合がある。
本発明の方法で使用される金属化合物としては、フタロニトリル化合物と環化反応をして目的とするフタロシアニン化合物を製造できるものであれば特に制限されないが、金属、金属酸化物、金属カルボニル、金属ハロゲン化物及び有機酸金属がある。これらの金属化合物は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよく、目的とするフタロシアニン化合物の構造によって適宜選択される。なお、金属化合物は、反応後に得られるフタロシアニン化合物を表わす下記式(5)の「M」に相当する金属を有する。具体的には、鉄、銅、亜鉛、バナジウム、チタン、インジウム、マグネシウム及びスズ等の金属;当該金属の、塩化物、臭化物、ヨウ化物等の金属ハロゲン化合物、例えば、三塩化バナジウム、塩化バナジウム、塩化チタン、塩化銅、塩化亜鉛、塩化コバルト、塩化ニッケル、塩化鉄、塩化インジウム、塩化アルミニウム、塩化錫、塩化ガリウム、塩化ゲルマニウム、塩化マグネシウム、ヨウ化銅、ヨウ化亜鉛、ヨウ化コバルト、ヨウ化インジウム、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化ガリウム、臭化銅、臭化亜鉛、臭化コバルト、臭化アルミニウム、臭化ガリウム;一酸化バナジウム、三酸化バナジウム、四酸化バナジウム、五酸化バナジウム、二酸化チタン、一酸化鉄、三二酸化鉄、四三酸化鉄、酸化マンガン、一酸化ニッケル、一酸化コバルト、三二酸化コバルト、二酸化コバルト、酸化第一銅、酸化第二銅、三二酸化銅、酸化バラジウム、酸化亜鉛、一酸化ゲルマニウム、及び二酸化ゲルマニウム等の金属酸化物;酢酸銅、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、安息香酸銅、安息香酸亜鉛等の有機酸金属;ならびにアセチルアセトナート等の錯体化合物及びコバルトカルボニル、鉄カルボニル、ニッケルカルボニル等の金属カルボニルなどが挙げられる。これらのうち、好ましくは金属、金属酸化物及び金属ハロゲン化物であり、工業的な入手のし易さを考慮すると、金属酸化物及び金属ハロゲン化物がより好ましい。また、金属酸化物は、製法やLotによって表面積等の品質が異なることがあり、それによって反応時の溶解性や分散性が変わるため反応性に影響が生じ、その結果、収率が低下したり製品の品質が安定しなかったりする場合がある。このため、金属ハロゲン化物が特に好ましく、三塩化バナジウムおよび塩化銅が特に好適に用いられる。なお、三塩化バナジウムまたは塩化銅を用いる場合、中心金属は、それぞれ、バナジウムまたは銅ということになる。
本発明における環化反応は、混合溶媒の存在下で環化反応を行なう点を除けば、一般に知られている方法と同様にして行なうことができる。例えば、フタロニトリル化合物と金属化合物との反応条件は、当該反応が進行する条件であれば特に制限されるものではない。例えば、混合溶媒は、上記したのと同様の量が使用できる。また、金属化合物は、フタロニトリル化合物4モルに対して、1〜3モル、好ましくは1.05〜2モルの範囲になるように、仕込まれる。反応温度は、80〜250℃、好ましくは100〜220℃、更に好ましくは120〜200℃である。この際、反応温度が低すぎると、反応速度が非常に遅くなり実用的でなく、一方、反応温度が高すぎると、副反応が起こりやすくなり目的物の収率が低下する。反応時間は、0.1〜24時間、好ましくは0.5〜20時間、更に好ましくは1〜18時間である。
上記環化反応後は、ろ過、晶析、洗浄、乾燥することにより、効率よくかつ高純度で得ることができる。上記ろ過、晶析、ろ過、洗浄、乾燥工程は、特に制限されず、従来公知のフタロシアニン化合物の合成方法で使用される各種工程と同様の工程が使用できる。上述したように、本発明によると、フタロシアニン化合物の純度の低下や可視光の透過の妨げの原因となりうる不純物の生成物中の含量が少ないため、本発明の方法によって製造されるフタロシアニン化合物を用いたフィルターは、近赤外光の吸収性能が高く、一方、可視域特に400〜610nm、特に400〜460nm付近での透過率が高い。また、上記環化反応で使用された混合溶媒は、炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒とからなるが、これらの混合溶媒における混合比率を変えることによって、目的物(フタロシアニン化合物)の溶解度を適宜変更することが可能である。このため、目的物(フタロシアニン化合物)の溶解度によって、目的物が良好に晶析工程で分離できるように、後の晶析工程でこの混合溶媒における炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合比率を適宜変更するという簡単な操作によって、フタロシアニン化合物を選択的に結晶化することができる。また、環化反応後の反応産物は、不純物含量が少ないため、反応後の濾過工程でもフィルターの目詰まりが起こることがなく、スムーズに濾過を行なうことができる。
以下、本発明の製造方法の好ましい実施形態を説明する。すなわち、下記式(1):
で示されるフタロニトリル化合物(1)、下記式(2):
で示されるフタロニトリル化合物(2)、下記式(3):
で示されるフタロニトリル化合物(3)、下記式(4):
で示されるフタロニトリル化合物(4)を、
単独でまたは金属化合物と、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合溶媒中で環化反応させることにより、下記式(5):
で示されるフタロシアニン化合物が製造される。なお、本発明の方法は、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合溶媒中で環化反応を行なうことを特徴とするものであり、原料であるフタロニトリル化合物および金属化合物、ならびに製造されるフタロシアニン化合物の構造は特に制限されず、所望の近赤外線吸収波長、最大吸収波長での透過率、可視光線領域での透過率などによって適宜選択される。このため、上記特徴とする構成要件以外については、従来と同様の方法が適用でき、例えば、特開2001−106689号公報、特許第3721298号明細書、特開2004−018561号公報および特開2002−114790号公報などに記載される方法が挙げられる。
または、本発明によれば、出発原料である、上記式(1)〜(4)で表されるフタロニトリル化合物をハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合溶媒の存在下、単独、または金属化合物と反応させて対応するフタロシアニン化合物を高収率で製造することができるが、前記のNHR1、SR2あるいはOR3の置換基の種類あるいは置換基の個数によっては、前述の環化反応を行っても前記のNHR1、SR2あるいはOR3の置換基が有利な反応速度で置換されず、所望のフタロシアニン化合物が得られない場合がある。
このため、このようなNHR1、SR2あるいはOR3の置換基を12個以上有するフタロシアニン化合物は、上記製造方法によって得られてもよいが、上記フタロシアニン化合物を、式:M’−NHR4で示されるアミノ化合物、式:M’−SR5で示される硫黄含有化合物、及び式:M’−OR6で示されるアルコール化合物(上記式において、M’は、水素原子またはアルカリ金属原子であり、R4、R5及びR6は、所望のフタロシアニン化合物の構造によって適宜選択できる)から選ばれる少なくとも1種の化合物とさらに置換反応することによって、所望のNHR1、SR2あるいはOR3の置換基が目的とする個数を効率よく導入でき、例えば、近赤外線波長の光の選択的吸収能、樹脂との相溶性、可視領域での高い透過率等の、所望の機能を有するフタロシアニン化合物が高収率で製造することができる。
すなわち、下記式(1):
で示されるフタロニトリル化合物(1)、下記式(2):
で示されるフタロニトリル化合物(2)、下記式(3):
で示されるフタロニトリル化合物(3)、下記式(4):
で示されるフタロニトリル化合物(4)を、
単独でまたは金属化合物と、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合溶媒中で環化反応させることにより、下記式(5):
で示されるフタロシアニン化合物(a)を得た後、さらに該フタロシアニン化合物(a)を、式(7):M’−NHR4で示されるアミノ化合物、式(8):M’−SR5で示される硫黄含有化合物、及び式(9):M’−OR6で示されるアルコール化合物(上記式において、M’は、水素原子またはアルカリ金属原子であり、R4、R5及びR6は、所望のフタロシアニン化合物の構造によって適宜選択できる。)から選ばれる少なくとも1種の化合物と置換反応させることにより、下記式(5):
で示されるフタロシアニン化合物(b)を製造する方法である。なお、上述したように、本発明の方法は、ハロゲン化されてもよい炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合溶媒中で環化反応を行なうことを特徴とするものであり、原料であるフタロニトリル化合物および金属化合物、ならびに製造されるフタロシアニン化合物の構造は特に制限されず、所望の近赤外線吸収波長、最大吸収波長での透過率、可視光線領域での透過率などによって適宜選択される。このため、上記特徴とする構成要件以外については、従来と同様の方法が適用でき、例えば、特開2001−106689号公報、特許第3721298号明細書、特開2004−018561号公報および特開2002−114790号公報などに記載される方法が挙げられる。
以下では、フタロシアニン化合物(a)と式(7):M’−NHR4で示されるアミノ化合物(以下、「アミノ化合物(7)」と称する)、式(8):M’−SR5で示される硫黄含有化合物(以下、「硫黄含有化合物(8)」と称する)、及び式(9):M’−OR6で示されるアルコール化合物(以下、「アルコール化合物(9)」と称する)との置換反応について簡単に説明する。
上記式(7)〜(9)において、M’は、水素原子またはアルカリ金属原子である。この際、アルカリ金属原子としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。これらのうち、M’は、水素原子、ナトリウム原子であることが好ましい。また、R4、R5及びR6は、それぞれ独立して、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニル基、置換基を有していてもよいアラルキル基または置換基を有していてもよい炭素原子数1〜20個のアルキル基を表わし、これらの定義及び例は、上記式(1)〜(4)におけるR1、R2及びR3と同様である。
本発明において、アミノ化合物(7)は、M’−NHR4で示されるものであれば特に制限されないが、具体的には、下記式で示されるものが好ましく使用される。
上記式において、M’は、上記式(7)〜(9)における定義と同様であり、また、Z及びcは、上記置換基(c)と同様の定義であり、eは、上記置換基(f)と同様の定義である。このようなアミノ化合物(7)の例としては、ベンジルアミン、アニリン、o−,m−,p−トルイジン、2,4−,2,6−キシリジン、o−,m−,p−メトキシアニリン、o−,m−,p−フルオロアニリン、テトラフルオロアニリン、p−エトキシカルボニルアニリン;メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミンなどが挙げられる。上記アミノ化合物(7)は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
また、硫黄含有化合物(8)は、式:M’−SR5で示されるものであれば特に制限されないが、具体的には、下記式で示されるものが好ましく使用される。
上記式において、M’は、上記式(7)〜(9)における定義と同様であり、また、R、X、a、及びbは、上記置換基(b)と同様の定義であり、R’、R”及びdは、上記置換基(e)と同様の定義である。このような硫黄含有化合物(8)の例としては、ベンゼンチオール、o−,m−,p−メトキシカルボニルベンゼンチオール、o−,m−,p−エトキシカルボニルベンゼンチオール、o−,m−,p−ブトキシカルボニルベンゼンチオール、o−メチル−p−メトキシカルボニルベンゼンチオール、o−メトキシ−p−メトキシカルボニルベンゼンチオール、o−フルオロ−p−メトキシカルボニルベンゼンチオール、テトラフルオロ−p−エトキシカルボニルベンゼンチオール、o−エトキシカルボニル−p−メチルベンゼンチオール、o−ブトキシカルボニル−p−メチルベンゼンチオール、o−ブトキシカルボニル−p−フルオロベンゼンチオール、p−メチル−m−ブトキシカルボニルベンゼンチオール;ジメチルアミノエチルチオール、ジエチルアミノエチルチオール、ジブチルアミノブチルチオール;これらのアルカリ金属塩などが挙げられる。上記硫黄含有化合物(8)は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
さらに、アルコール化合物(9)は、式:M’−OR6で示されるものであれば特に制限されないが、具体的には、下記式で示されるものが好ましく使用される。
上記式において、M’は、上記式(7)〜(9)における定義と同様であり、また、R、X、a、及びbは、上記置換基(a)と同様の定義であり、R’、R”及びdは、上記置換基(d)と同様の定義であり、W及びfは、上記置換基(g)と同様の定義である。このようなアルコール化合物(9)の例としては、o−,m−,p−メトキシカルボニルフェノール、o−,m−,p−エトキシカルボニルフェノール、o−,m−,p−ブトキシカルボニルフェノール、o−メチル−p−メトキシカルボニルフェノール、o−メトキシ−p−エトキシカルボニルフェノール、o−フルオロ−p−メトキシカルボニルフェノール、テトラフルオロ−p−エトキシカルボニルフェノール、o−エトキシカルボニル−p−メチルフェノール、o−ブトキシカルボニル−p−メチルフェノール、o−ブトキシカルボニル−p−フルオロフェノール、p−メチル−m−ブトキシカルボニルフェノール、2,5−ジクロロフェノール;ジメチルアミノエタノール、ジエチルアミノエタノール、ジエチルアミノブタノール;メトキシエタノール、3’,6’,9’−オキサデカノール、3’,6’,9’,12’−オキサトリデカノール、アセチルエタノール、5’−アセチル−3’−オキサペンタノール、8’−アセチル−3’,6’−オキサオクタノール;これらのアルカリ金属塩などが挙げられる。上記アルコール化合物(9)は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
本発明において、上記アミノ化合物(7)、硫黄含有化合物(8)、及びアルコール化合物(9)は、それぞれが単独で使用されてもあるいは2種以上を組み合わせて使用されてもよい。
上記アミノ化合物(7)、硫黄含有化合物(8)、及びアルコール化合物(9)の使用量は、目的とするフタロニトリル化合物(b)の構造によって適宜選択されるものであり、また、これらの化合物の合計使用量は、これらの反応が進行して所望のフタロニトリル化合物を製造できる量であれば特に制限されないが、フタロシアニン化合物(a)1モルに対して、通常、1〜50モル、好ましくは2〜40モルである。
本発明における、フタロシアニン化合物(a)の、上記アミノ化合物(7)、硫黄含有化合物(8)、及びアルコール化合物(9)による置換反応条件は、式(5)のフタロシアニン化合物(b)のZ1〜Z16の置換位置に所望の置換基を設計通りに導入することができるように、適宜最適な範囲を選択すれば特に制限されない。例えば、置換反応は、必要であれば、反応に用いる化合物と反応性のない不活性な液体の存在下で混合し、一定の温度に加熱することにより行うことができるが、好ましくは、反応させるアミノ化合物(7)、硫黄含有化合物(8)、及びアルコール化合物(9)中で、一定の温度に加熱することにより行なう。不活性な液体としては、例えば、フタロシアニン化合物(b)と式(7)のアミノ化合物との反応では、ベンゾニトリル、アセトニトリル等のニトリルやN−メチルピロリドンまたはジメチルホルムアミドなどのようなアミドを単独であるいは2種以上の混合液の形態で用いることができる。また、アミノ化合物(7)、硫黄含有化合物(8)、及びアルコール化合物(9)は、それ自体を溶媒として兼用して置換反応を行なうこともできる。
本発明による置換反応における反応条件は、式(5)のフタロシアニン化合物(b)のZ1〜Z16の置換位置に所望の置換基を設計通りに導入することができるように、適宜最適な範囲を選択すればよいが、例えば、以下の条件が好ましく使用できる。すなわち、アミノ化合物(7)/硫黄含有化合物(8)/アルコール化合物(9)を、上記したような量で仕込む。なお、上記工程において、フタロシアニン化合物(a)は、一旦分離及び精製した後、アミノ化合物(7)/硫黄含有化合物(8)/アルコール化合物(9)と反応させることにより、フタロシアニン骨格に所望の置換基を導入して、フタロシアニン化合物(b)を製造してもよいし、または、フタロシアニン化合物(a)を分離及び精製することなく、同一の反応容器で、アミノ化合物(7)/硫黄含有化合物(8)/アルコール化合物(9)と反応させることにより、フタロシアニン骨格に所望の置換基を導入して、フタロシアニン化合物(b)を製造してもよい。工業的には、得られたフタロシアニン化合物を分離及び精製することなく、同一の反応容器でフタロシアニン骨格に置換基を導入して、目的物であるフタロシアニン化合物(b)を製造する方が望ましい。また、本発明による置換反応の反応温度及び時間は、置換反応が十分進行できる温度及び時間であれば特に制限されないが、反応温度は、好ましくは40〜200℃、より好ましくは50〜190℃であり、また、反応時間は、好ましくは1〜30時間、より好ましくは2〜20時間である。なお、反応後は、従来公知のフタロシアニン化合物の置換反応による合成方法に従って、無機分をろ過し、アミノ化合物を留去(洗浄)することにより、目的とする本発明のフタロシアニン化合物を複雑な製造工程を経ることなく効率よく、しかも高純度で得ることができる。
なお、本発明による置換反応では、原料であるフタロニトリル化合物が、フッ素原子等のハロゲン原子を有しているため、反応時に少量のフッ化水素等のハロゲン化水素が発生して、ガラス製あるいはステンレス製反応器を腐食する場合がある。その為、発生するハロゲン化水素を捕捉し、反応器の腐食を防止することを目的に、例えばフッ化水素の捕捉剤を添加して反応してもよい。このような捕捉剤としては、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、珪酸カルシウム、酢酸カルシウム等のアルカリ土類金属化合物などが挙げられる。これらの捕捉剤は、1種類若しくは相互に影響しない組み合わせであれば2種以上を適当に混合して使用してもよい。この際、捕捉剤の使用量は、発生してくるハロゲン化水素を十分トラップできる量であれば特に制限されないが、例えば、フタロシアニン化合物(a)1モルに対して、好ましくは1〜20モル、より好ましくは2〜10モルの範囲である。
また、本発明による環化反応では、中心金属源としての使用する金属化合物が、所謂結晶水として水分を含有していることがあり、その場合、環化反応中に水分の発生が観察されることがある。また、前記のように、反応中に発生するフッ化水素による反応器の腐食防止の為、フッ化水素の捕捉剤として、例えば炭酸カルシウム等をした場合にも、下記反応式により、水分が発生する。
このような水分が発生する場合には、反応器の腐食防止、反応液の温度安定性等の工業的に安定した運転管理という観点から、安全かつ安定した製造を行なう為に、適宜、水分離管等を反応器に据付けて、反応器内部に発生する水分を反応器外部に分離して、環化反応を行うことが望ましい。
本発明の方法によると、70%以上の収率で、目的とするフタロシアニン化合物を製造することができる。また、本発明の方法によって製造されるフタロシアニン化合物を用いたフィルターは、上述したように、不純物含量が少ないため、吸収特性、特に400〜610nm、特に400〜460nm付近での透過率、および可視光透過率が高い。このため、本発明の方法によって製造されるフタロシアニン化合物は、特にプラズマディスプレーパネル(PDP)用などの近赤外線吸収フィルターに有用である。上記利点に加えて、本発明の方法では、未反応の金属分などの不純物が析出しないため、反応後不純物を濾過して除去する場合にも、フィルターの目詰まりなどが起こらず、速やかに反応液を濾過することができる。また、本発明の方法では、ベンゾニトリル等の比較的極性の高い高沸点の溶媒の量を減らして反応できるので、製品の乾燥が容易である。さらに、本発明の方法によると、目的物(フタロシアニン化合物)の溶解度によって混合溶媒における炭化水素系溶媒とニトリル系溶媒との混合比率を適宜選択することによって、特に溶媒を変更することなく、目的物が簡単にかつ良好に晶析工程で分離できる。
本発明の方法によって製造されるフタロシアニン化合物は、上述したように、光の透過を妨げる原因の一つである不純物の含量が少ないため、400〜610nmの可視域、特に400〜460nm付近で高い透過率を有し、かつ近赤外域で高い吸収係数を示すことができるので、特にプラズマディスプレーパネル(PDP)用などの近赤外線吸収フィルターに有用である。例えば、PDP用の近赤外線吸収フィルター用途に使用する場合には、4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4{Ph(CH3)CHNH}3F]が好ましく使用され。この際、本発明の方法により製造される上記フタロシアニン化合物[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4{Ph(CH3)CHNH}3F]は、クロロホルム中に溶解・希釈したときの最大吸収波長の吸光係数が105,000以上である、という優れた特性を示す。
以下実施例を挙げて、具体的に説明する。なお、本発明において、最大吸収波長、吸光係数、および分光透過率は、下記の方法によって測定した。
<最大吸収波長(λmax)、吸光係数、および分光透過率の測定>
分光光度計(島津製作所製:UV−1650PC)を用いて、得られたフタロシアニン化合物の400〜1100nmの範囲での最大吸収波長(λmax)と吸光係数をクロロホルム中で測定した。
また、1cmの石英セル中で、λmaxにおける透過率が10%になるように溶液を調製し、そのときの可視光の透過率を波長400nm、460nm、545nm、および610nmにおいて測定した。
実施例1:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4{Ph(CH3)CHNH}3F]の合成
還流冷却器およびガス吹込み管をつけた100mLの三ツ口フラスコに、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル16.47g(28.0mmol)、三塩化バナジウム1.43g(9.1mmol)、炭酸カルシウム1.91g(19.1mmol)、1,2,4−トリメチルベンゼン19.8g、およびベンゾニトリル2.2gを仕込んだ。混合ガス(酸素6.8vol%/窒素バランス)を液中に毎分2mLの流量で吹き込みながら、160℃で8時間撹拌して環化反応させた。1時間あたりに供給される酸素分子の量は、0.334mmolであり、用いたフタロニトリル化合物に対してモル比で0.012倍であった。
3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は97.3%であった。次に1,2,4−トリメチルベンゼン48gを加えた後液温を100℃にした。撹拌下で液中に窒素を毎分4mLの流量で30分吹き込んだ後、毎分2mLの流量で窒素を吹き込み続けながら、DL−1−フェニルエチルアミン3.64g(30.0mmol)、炭酸カルシウム5.93g(59.2mmol)、および1,2,4−トリメチルベンゼン2gを加え、100℃で6時間撹拌してアミノ化反応を行なった。
窒素気流下で反応液を35℃まで冷却し、析出した不溶分をろ過して除去した。ろ過は桐山ロートで減圧下、直径60mmの桐山ろ紙(No.4)を用いて行なった。ろ過は1分以内に終了した。ろ紙上の残渣に1,2,4−トリメチルベンゼン10gをかけて洗浄、ろ過し、洗液は始めのろ液に加えた。合計97.5gのろ液が得られた。
1リットルのセパラブルフラスコに2−プロパノール600gと水150gとの混合溶媒を入れ、60℃で撹拌しながら、ろ液を30分間で滴下した。滴下終了後10分間60℃で保った後、撹拌を続けながら、毎時15℃の冷却速度で30℃まで冷却し、さらに30分放冷して結晶を析出させ、ろ過した。得られたろ紙上の結晶に2−プロパノール7g+水3g(混合溶媒)をかけて洗った。
得られた結晶を再び1リットルのセパラブルフラスコに入れ、アセトン210gと水90gの混合溶媒中、室温で30分撹拌して洗浄した。ろ過して得られたろ紙上の結晶にアセトン7g+水3g(混合溶媒)をかけて洗った。得られた結晶を60℃で真空乾燥し、VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4}{Ph(CH3)CHNH}3F 16.5gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は86.5%であった。
実施例2:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4{Ph(CH3)CHNH}3F]の合成
実施例1の環化反応の溶媒の1,2,4−トリメチルベンゼンの代わりにo−キシレン19.8gを用い、環化反応の温度を145℃にした以外は実施例1と同様にして14時間環化反応を行なった。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は96.0%であった。次に、1,2,4−トリメチルベンゼンの代わりにo−キシレンを用いる以外は実施例1と同様にして、アミノ化反応を行なった。アミノ化反応は100℃で6時間行なった。
実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣をo−キシレン10gで洗った。ろ過は1分以内で終了した。
以下、実施例1同様にして晶析、洗浄、乾燥を行ない、VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4}{Ph(CH3)CHNH}3F 15.9gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は83.4%であった。
実施例3:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4{Ph(CH3)CHNH}3F]の合成
実施例1の環化反応の溶媒の1,2,4−トリメチルベンゼンの代わりに4−クロロトルエン19.8gを用いた以外は実施例1と同様にして、160℃で7時間環化反応を行なった。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は98.3%であった。次に、1,2,4−トリメチルベンゼンの代わりに4−クロロトルエンを用いる以外は実施例1と同様にして、アミノ化反応を行なった。アミノ化反応は100℃で6時間行なった。
実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣を4−クロロトルエン10gで洗った。ろ過は3分で終了した。
以下、実施例1同様にして晶析、洗浄、乾燥を行ない、VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4}{Ph(CH3)CHNH}3F 16.1gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は84.5%であった。
実施例4:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4{Ph(CH3)CHNH}3F]の合成
実施例1の環化反応の溶媒の1,2,4−トリメチルベンゼンの代わりにn−デカン27.0gを用い、ベンゾニトリルの量を3gにした以外は実施例1と同様にして、160℃で12時間環化反応を行なった。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は95.5%であった。次に、実施例2と同様に、o−キシレン48gを加えて反応液の温度を100℃にし、以下、実施例2と同様にして、アミノ化反応を行なった。アミノ化反応は100℃で6時間行なった。実施例2と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣をo−キシレン10gで洗った。ろ過は1〜2分で終了した。以下、実施例1同様にして晶析、洗浄、乾燥を行ない、VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4}{Ph(CH3)CHNH}3F 15.5gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は81.3%であった。
実施例5:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4{Ph(CH3)CHNH}3F]の合成
実施例1の供給するガスを酸素濃度6.8%の混合ガスの代わりに空気にした以外は実施例1と同様にして、環化反応を行なった。1時間あたりに供給される酸素分子の量は、1.03mmolであり、用いたフタロニトリル化合物に対してモル比で0.037倍であった。環化反応は160℃で5時間行ない、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は99.3%であった。以下、実施例1と同様にして、100℃で6時間撹拌してアミノ化反応を行なった。
次に、実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣を1,2,4−トリメチルベンゼン10gで洗った。ろ過は1〜2分で終了した。更に、実施例1と同様にして晶析、洗浄、および乾燥を行なった。その結果、VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4}{Ph(CH3)CHNH}3F 12.8gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は67.1%であった。
実施例6:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4{Ph(CH3)CHNH}3F]の合成
実施例1の供給するガスを酸素濃度6.8%の混合ガスの代わりに(酸素3.0vol%/窒素バランス)という組成の混合ガス空気にした以外は実施例1と同様にして、環化反応を行なった。1時間あたりに供給される酸素分子の量は、0.147mmolであり、用いたフタロニトリル化合物に対してモル比で0.0053倍であった。環化反応は160℃で15時間行ない、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は96.6%であった。
次に、実施例1と同様にして、100℃で6時間撹拌してアミノ化反応を行なった。次ぎに実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣を1,2,4−トリメチルベンゼン10gで洗った。ろ過は1分以内で終了した。更に、実施例1と同様にして晶析、洗浄、および乾燥を行なった。その結果、VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4}{Ph(CH3)CHNH}3F 16.0gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は83.9%であった。
実施例7:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(ベンジルアミノ)−バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4の合成
実施例1と同様にして環化反応を行ない、環化反応終了後、1,2,4−トリメチルベンゼン30gを加え、反応液を60℃まで冷却した。ベンジルアミン18.0g(168mmol)、炭酸カルシウム1.30g(13.0mmol)、および1,2,4−トリメチルベンゼン2gを加え、60℃で3時間撹拌してアミノ化反応を行なった。実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣を1,2,4−トリメチルベンゼン10gで洗った。ろ過は1分で終了した。合計94.8gのろ液が得られた。
1リットルのセパラブルフラスコに2−プロパノール500gと水100gとの混合溶媒を入れ、60℃で撹拌しながら、ろ液を30分間で滴下した。滴下終了後10分間60℃で保った後、撹拌を続けながら、毎時15℃の冷却速度で30℃まで冷却し、さらに30分放冷して結晶を析出させ、ろ過した。得られたろ紙上の結晶に2−プロパノール8g+水2g(混合溶媒)をかけて洗った。
得られた結晶を再び1リットルのセパラブルフラスコに入れ、2−プロパノール140gと水60gの混合溶媒中、室温で30分撹拌して洗浄した。ろ過して得られたろ紙上の結晶に2−プロパノール7g+水3g(混合溶媒)をかけて洗った。得られた結晶を60℃で真空乾燥し、VOPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4 16.5gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は85.1%であった。
実施例8:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(ベンジルアミノ)−銅フタロシアニン[略称;CuPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4の合成
還流冷却器およびガス吹込み管をつけた100mLの三ツ口フラスコに、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリル16.47g(28.0mmol)、塩化銅()0.76g(7.7mmol)、炭酸カルシウム0.91g(9.1mmol)、1,2,4−トリメチルベンゼン19.8g、およびベンゾニトリル2.2gを仕込んだ。混合ガス(酸素6.8vol%/窒素バランス)を液中に毎分2mLの流量で吹き込みながら、160℃で9時間撹拌して環化反応させた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は96.5%であった。次に1,2,4−トリメチルベンゼン48gを加えた後液温を90℃にした。ベンジルアミン18.0g(168mmol)、炭酸カルシウム1.68g(16.8mmol)、および1,2,4−トリメチルベンゼン2gを加え、90℃で4時間撹拌してアミノ化反応を行なった。実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣を1,2,4−トリメチルベンゼン15gで洗った。ろ過は2分で終了した。合計116.0gのろ液が得られた。
2リットルのセパラブルフラスコにアセトニトリル800gと水40gとの混合溶媒を入れ、60℃で撹拌しながら、ろ液を30分間で滴下した。滴下終了後10分間60℃で保った後、撹拌を続けながら、毎時15℃の冷却速度で30℃まで冷却し、さらに30分放冷して結晶を析出させ、ろ過した。得られたろ紙上の結晶にアセトニトリル18g+水2g(混合溶媒)をかけて洗った。
得られた結晶を再び2リットルのセパラブルフラスコに入れ、アセトン200gと水100gの混合溶媒中、室温で30分撹拌して洗浄した。ろ過して得られたろ紙上の結晶にアセトン12g+水6g(混合溶媒)をかけて洗った。得られた結晶を60℃で真空乾燥し、CuPc(2,5−Cl2PhO)8{2,6−(CH3)2PhO}4(PhCH2NH)4 13.0gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は67.2%であった。
実施例9:4,5−オクタキス(フェニルチオ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−テトラキス(2−エチルヘキシルアミノ)}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}4]の合成
実施例1の3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの代わりに3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(フェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリル13.51g(28.0mmol)を用い、それ以外は実施例1と同様にして環化反応を行なった。環化反応は160℃で8時間行ない、3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(フェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は97.1%であった。次に1,2,4−トリメチルベンゼン30gを加えた後液温を70℃にした。撹拌下で液中に窒素を毎分4mLの流量で30分吹き込んだ後、毎分2mLの流量で窒素を吹き込み続けながら、2−−エチルヘキシルアミン29.0g(224mmol)を加え、70℃で4時間撹拌してアミノ化反応を行なった。実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣を1,2,4−トリメチルベンゼン10gで洗った。ろ過は3分で終了した。合計103.5gのろ液が得られた。
1リットルのセパラブルフラスコに2−プロパノール540gと水54gとの混合溶媒を入れ、60℃で撹拌しながら、ろ液を30分間で滴下した。滴下終了後10分間60℃で保った後、撹拌を続けながら、毎時15℃の冷却速度で30℃まで冷却し、さらに30分放冷して結晶を析出させ、ろ過した。得られたろ紙上の結晶に2−プロパノール9g+水1g(混合溶媒)をかけて洗った。
得られた結晶を再び1リットルのセパラブルフラスコに入れ、アセトン175gと水75gの混合溶媒中、室温で30分撹拌して洗浄した。ろ過して得られたろ紙上の結晶にアセトン7g+水3g(混合溶媒)をかけて洗った。得られた結晶を60℃で真空乾燥し、 VOPc(PhS)8{2,6−(CH3)2PhO}4{CH3(CH2)3CH(C2H5)CH2NH}413.3gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(フェニルチオ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は78.1%であった。
比較例1:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4{Ph(CH3)CHNH}3F]の合成
実施例1の環化反応の溶媒を1,2,4−トリメチルベンゼンとベンゾニトリルの混合溶媒の代わりにベンゾニトリル単独で22g用いた。それ以外は実施例1と同様の条件で、7時間環化反応を行なった。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は97.5%であった。
次に、実施例1と同様にしてアミノ化反応を開始した。反応の進行が遅かったため、15時間反応させた後DL−1−フェニルエチルアミン1.21g(10.0mmol)を追加してさらに3時間反応させてアミノ化反応を終了した。
実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣をベンゾニトリル10gで洗った。ろ過に要した時間は70分であった。
以下、実施例1同様にして晶析、洗浄、乾燥を行ない、VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4}{Ph(CH3)CHNH}3F 12.4gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は65.0%であった。
比較例2:4,5−オクタキス(2,5−ジクロロフェノキシ)−3,6−{テトラキス(2,6−ジメチルフェノキシ)−トリス(DL−1−フェニルエチルアミノ)−フルオロ}バナジルフタロシアニン[略称;VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4{Ph(CH3)CHNH}3F]の合成
実施例1の環化反応の溶媒を1,2,4−トリメチルベンゼンとベンゾニトリルの混合溶媒の代わりに1,2,4−トリメチルベンゼン単独で22g用いた。それ以外は実施例1と同様の条件で、12時間環化反応を行なった。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルの転化率は96.6%であった。
次に、実施例1と同様にしてアミノ化反応を開始した。8時間反応させてアミノ化反応を終了した。
実施例1と同様にして反応液を冷却後ろ過し、ろ紙上の残渣を1,2,4−トリメチルベンゼン10gで洗った。ろ過に要した時間は11分であった。
以下、実施例1同様にして晶析、洗浄、乾燥を行ない、VOPc(2,5−Cl2PhO)8(2,6−(CH3)2PhO)4}{Ph(CH3)CHNH}3F 11.9gが得られた。3−(2,6−ジメチルフェノキシ)−4,5−ビス(2,5−ジクロロフェノキシ)−6−フルオロフタロニトリルに対する収率は62.4%であった。
上記実施例1〜3ならびに比較例1、2の反応の結果(反応液の濾過性及び収率)を表1に、吸収性能の評価結果を表2に要約する。なお、下記表1の「反応液の濾過性」の項において、「◎」は、濾過に要した時間が2分未満であり;「○」は、濾過に要した時間が2分〜10分であり;「△」は、濾過に要した時間が10分〜1時間であり;および「×」は、濾過に要した時間が1時間以上である場合を示す。