DLC膜等の実用化に向け、種々の物体形態の被加工物に対するプラズマ処理性能を検証した結果、被加工物の物体形態に関係した下記の問題点が存在する。一般的なプラズマ成膜方法、例えば、高周波プラズマスパッタリング法、マイクロ波プラズマ又はECRプラズマを用いた化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)を用いて、基板等の平坦面への薄膜形成は均質に行える。しかし、これらのプラズマ成膜方法を前記ジェットコア500のような、貫通孔や凹部を備えた中空状の被加工物に適用した場合には、孔や凹部の内面に形成される内面膜が不均一になるといった問題があった。高周波プラズマ、マイクロ波プラズマ又はECRプラズマの持つイオンエネルギーが小さく、直進力が弱い。このため、係るプラズマが、被加工物を設置した薄膜形成用チャンバ内に導入されたとき、イオン・中性粒子・電子が互いに衝突を繰り返しているうちにプラズマ流自体がジグザグに偏向して拡散され、孔等を通過するプラズマ量が少なくなってしまい、均一な成膜を行うことができない。
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであって、平坦面や曲面で構成された形状だけでなく、中空状等、被加工物がどのような形状であっても、均一な膜形成を行え、プラズマ処理膜の品質向上を図ることのできるプラズマ処理装置及びプラズマ処理方法を提供することを目的とする。また、係るプラズマ処理装置又はプラズマ処理方法を用いてプラズマ処理された内面膜や表面膜を備えたプラズマ処理物の提供を目的とする。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、本発明の第1の形態は、プラズマをプラズマ処理部に導入して、前記プラズマ処理部内に配置された被処理物を前記プラズマにより表面処理加工するプラズマ処理装置において、5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、前記プラズマ発生手段により生成させたプラズマを前記プラズマ処理部に直進させて導入するプラズマ導入手段とを有し、前記プラズマ処理部に、孔又は溝を有した前記被処理物を配置し、孔又は溝の深さ方向を前記直進方向に対応させ、前記プラズマにより前記孔又は溝の内面を処理するプラズマ処理装置である。
本発明の第2の形態は、プラズマをプラズマ処理部に導入して、前記プラズマ処理部内に配置された被処理物を前記プラズマにより表面処理加工するプラズマ処理装置において、5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだプラズマを生成させるプラズマ生成手段と、前記プラズマ発生手段により生成させたプラズマを前記プラズマ処理部に直進させて導入するプラズマ導入手段とを有し、
前記プラズマが前記被処理物に到達する直前の位置に、貫通孔を有したマスクを配置し、このマスクの孔軸方向を前記プラズマの直進方向に対応させ、前記マスクに負のバイアス電位を付与して前記貫通孔を通過させたプラズマにより前記被処理物の表面を処理するプラズマ処理装置である。
本発明の第3の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記プラズマが前記プラズマ処理部内に進入する際に、前記プラズマを直進方向に絞る集束磁場を形成する集束磁場形成手段を有し、前記集束磁場形成手段により形成した集束磁場により前記直進方向に前記プラズマを絞るプラズマ処理装置である。
本発明の第4の形態は、前記第1、第2又は第3の形態において、前記プラズマ処理部内に配置した被処理物に負のバイアス電位を付与するバイアス電位付与手段を有し、前記バイアス電位付与手段により負のバイアス電位を付与した状態で前記内面処理加工及び/又は表面処理加工を行うプラズマ処理装置である。
本発明の第5の形態は、前記第2又は第4の形態において、前記負のバイアス電位が交流電位又は直流電位によって前記マスク及び/又は前記被処理物に付与されるプラズマ処理装置である。
本発明の第6の形態は、前記第1〜第5の形態のいずれかにおいて、前記プラズマ処理部及び/又はプラズマ発生部に成膜成分ガスを導入する成膜成分ガス導入手段を有し、プラズマ発生部で発生させたプラズマの成分と前記成膜成分ガス導入手段により導入した前記成膜成分ガスに含まれる成分とにより前記被処理物の内面に内面膜を形成する、及び/又は前記被処理物の表面に表面膜を形成するプラズマ処理装置である。
本発明の第7の形態は、前記第6の形態において、前記成膜成分ガスが炭化水素ガスであり、前記内面膜及び/又は表面膜が炭素を主成分とする炭素膜であり、この炭素膜に占める副成分及び/又は不純物の重量比率が50重量%未満であるプラズマ処理装置である。副生分とは、炭化物、フッ化物、窒化物、水素化物、酸化物、などである。不純物とは意図しない物質であり、水素、ドロップレット、未反応物質などである。
本発明の第8の形態は、前記第7の形態において、前記炭素膜がダイヤモンド膜、ダイヤモンドライクカーボン膜(非晶質炭素膜:DLC,diamond-like carbon)、グラファイト膜、炭化ケイ素(SiC)膜、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノコイル膜、カーボンナノツイスト、カーボンナノウォール膜又はそれらの2種以上を混合した混合膜であるプラズマ処理装置である。
本発明の第9の形態は、前記第5の形態において、前記成膜成分ガスが少なくとも有機金属ガスからなり、前記内面膜及び/又は表面膜が金属膜であるプラズマ処理装置である。
本発明の第10の形態は、前記第9の形態において、前記成膜成分ガスが単一若しくは2種以上の有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)を少なくとも含む混合ガス、又は、単一若しくは2種以上の有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)と窒素、酸素、炭素、フッ素、硫黄、ケイ素、水素、アルゴン及びヘリウムから選択される1種類以上のガスを少なくとも含む混合元素であり、前記内面膜及び/又は表面膜が金属膜又は金属間化合物膜又は非金属化合物であるプラズマ処理装置である。
本発明の第11の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記プラズマ生成手段により生成させたプラズマ流を走査するプラズマ流走査手段を有し、前記プラズマの前記直進方向に垂直な平面をXY平面とし、前記プラズマ流走査手段により、X軸方向及び/又はY軸方向に前記プラズマ流を走査しながら前記プラズマ処理部内に導入するプラズマ処理装置である。
本発明の第12の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記プラズマ生成手段が、プラズマ作動ガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記プラズマ作動ガスから生成したプラズマを加速して、前記5eV以上のイオンエネルギーを有したプラズマを生成する加速手段とからなるプラズマ処理装置である。
本発明の第13の形態は、前記第1又は第2の形態において、前記プラズマ生成手段が、真空アーク放電により、固体を蒸発させてプラズマを発生させ、前記5eV以上のイオンエネルギーを有したイオンを含むプラズマを生成する真空アーク放電部からなるプラズマ処理装置である。
本発明の第14の形態は、前記第13の形態において、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを捕集するドロップレット捕集手段を備え、前記プラズマ導入手段は、前記プラズマの流れを所定角度、前記真空アーク放電部側より電磁的に屈曲させ、前記プラズマ処理部に直進させて導入するプラズマ電磁的屈曲手段を含むプラズマ処理装置である。
本発明の第15の形態は、前記第13の形態において、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを前記プラズマから分離するドロップレット分離手段と、前記プラズマ生成手段とは別に設けられ、固体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2のプラズマを生成する第2のプラズマ生成手段とを有し、前記プラズマ導入手段は、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離した前記プラズマを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する第1の輸送ダクトと、前記第2のプラズマを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する第2の輸送ダクトとからなり、前記第1の輸送ダクトと前記第2の輸送ダクトが交差して前記プラズマ処理部に連通配置され、前記プラズマ処理部に、孔又は溝を有した前記被処理物を配置し、孔又は溝の深さ方向を、少なくとも、前記第1の輸送ダクトを通じて導入される前記第1プラズマの前記直進方向に対応させ、前記プラズマ及び前記第2のプラズマにより前記孔又は溝の内面を処理するプラズマ処理装置である。
本発明の第16の形態は、前記第13の形態において、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを前記プラズマから分離するドロップレット分離手段と、前記プラズマ生成手段とは別に設けられ、固体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2のプラズマを生成する第2のプラズマ生成手段とを有し、前記プラズマ導入手段は、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離した前記プラズマを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する第1の輸送ダクトと、前記第2のプラズマを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する第2の輸送ダクトとからなり、前記第1の輸送ダクトと前記第2の輸送ダクトが交差して前記プラズマ処理部に連通配置され、前記プラズマが前記被処理物に到達する直前の位置に、貫通孔を有したマスクを配置し、このマスクの孔軸方向を前記プラズマの直進方向に対応させ、前記マスクに負のバイアス電位を付与して前記貫通孔を通過させたプラズマにより前記被処理物の表面を処理するプラズマ処理装置である。
本発明の第17の形態は、前記第13の形態において、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを前記プラズマから分離するドロップレット分離手段と、前記プラズマ生成手段とは別に設けられ、固体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2のプラズマを生成する第2のプラズマ生成手段とを有し、前記プラズマ導入手段は、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離した前記プラズマと前記第2のプラズマとを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する共通輸送ダクトと、前記プラズマ生成手段から前記プラズマを前記輸送ダクトへ電磁的に導入する第1プラズマ導入路と、前記第2のプラズマ生成手段から前記第2のプラズマを前記輸送ダクトへ電磁的に導入する第2プラズマ導入路とからなり、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路の、前記輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定し、前記プラズマ処理部に、孔又は溝を有した前記被処理物を配置し、孔又は溝の深さ方向を、少なくとも、前記共通輸送ダクトを通じて導入される前記プラズマの前記直進方向に対応させ、前記プラズマ及び前記第2のプラズマにより前記孔又は溝の内面を処理するプラズマ処理装置である。
本発明の第18の形態は、前記第13の形態において、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを前記プラズマから分離するドロップレット分離手段と、前記プラズマ生成手段とは別に設けられ、固体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2のプラズマを生成する第2のプラズマ生成手段とを有し、前記プラズマ導入手段は、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離した前記プラズマと前記第2のプラズマとを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する共通輸送ダクトと、前記プラズマ生成手段から前記プラズマを前記輸送ダクトへ電磁的に導入する第1プラズマ導入路と、前記第2のプラズマ生成手段から前記第2のプラズマを前記輸送ダクトへ電磁的に導入する第2プラズマ導入路とからなり、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路は、前記輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度が鋭角に設定され、前記プラズマが前記被処理物に到達する直前の位置に、貫通孔を有したマスクを配置し、このマスクの孔軸方向を前記プラズマの直進方向に対応させ、前記マスクに負のバイアス電位を付与して前記貫通孔を通過させたプラズマにより前記被処理物の表面を処理するプラズマ処理装置である。
本発明の第19の形態は、プラズマをプラズマ処理部に導入して、前記プラズマ処理部内に配置された被処理物を前記プラズマにより表面処理加工するプラズマ処理方法において、孔又は溝を有した前記被処理物の孔又は溝の深さ方向を前記プラズマの直進方向に対応させ、5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだ前記プラズマをプラズマ処理部に直進させ、このプラズマにより前記孔又は溝の内面を処理するプラズマ処理方法である。
本発明の第20の形態は、プラズマをプラズマ処理部に導入して、前記プラズマ処理部内に配置された被処理物を前記プラズマにより表面処理加工するプラズマ処理方法において、前記プラズマが前記被処理物に到達する直前の位置に、貫通孔を有したマスクをその孔軸方向が前記プラズマの直進方向に対応するように配置し、5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだ前記プラズマをプラズマ処理部に直進させ、前記マスクに負のバイアス電位を付与して前記貫通孔を通過させたプラズマにより前記被処理物の表面を処理するプラズマ処理方法である。
本発明の第21の形態は、前記第19又は第20の形態のいずれかにおいて、前記プラズマが前記プラズマ処理部内に進入する際に、前記プラズマを前記直進方向に絞る集束磁場を形成し、この集束磁場によりプラズマを前記直進方向に絞るプラズマ処理方法である。
本発明の第22の形態は、前記第19、第20又は第21の形態のいずれかにおいて、前記プラズマ処理部内に配置した被処理物に負のバイアス電位を付与した状態で前記表面処理加工を行うプラズマ処理方法である。
本発明の第23の形態は、前記第19〜第22の形態のいずれかにおいて、前記プラズマ処理部及び/又はプラズマ発生部に成膜成分ガスを導入し、前記成膜成分ガスに含まれる成分とプラズマ発生部で発生させたプラズマの成分により前記被処理物の内面に内面膜を形成する、及び/又は前記被処理物の表面に表面膜を形成するプラズマ処理方法である。
本発明の第24の形態は、前記第23の形態において、前記成膜成分ガスが炭化水素ガスであり、前記内面膜及び/又は表面膜が炭素を主成分とする炭素膜であり、この炭素膜に占める副成分及び/又は不純物の重量比率が50重量%未満であるプラズマ処理方法である。
本発明の第25の形態は、前記第24の形態において、前記炭素膜がダイヤモンド膜、ダイヤモンドライクカーボン膜(非晶質炭素膜:DLC,diamond-like carbon)、グラファイト膜、炭化ケイ素膜、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノコイル膜、カーボンナノツイスト、カーボンナノウォール膜又はそれらの2種以上を混合した混合膜であるプラズマ処理方法である。
本発明の第26の形態は、前記第23、第24又は第25の形態において、前記成膜成分ガスとして少なくとも有機金属ガスを前記プラズマ処理部内に導入し、前記被処理物の内面及び/又は表面に金属膜を形成するプラズマ処理方法である。
本発明の第27の形態は、前記第26の形態において、前記成膜成分ガスが単一若しくは2種以上の有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)を少なくとも含む混合ガス、又は、単一若しくは2種以上の有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)と窒素、酸素、炭素、フッ素、硫黄、ケイ素、水素、アルゴン及びヘリウムから選択される1種類以上の元素を少なくとも含む混合ガスであり、前記内面膜及び/又は表面膜が金属膜又は金属間化合物膜又は非金属化合物膜であるプラズマ処理方法である。
本発明の第28の形態は、前記第19〜第27の形態のいずれかにおいて、前記被処理物が略円筒形状を有するプラズマ処理方法である。
本発明の第29の形態は、前記第19〜第28の形態のいずれかにおいて、前記被処理物が、貫通または非貫通の微細な孔及び/又は溝が1個以上形成された形状を有するプラズマ処理方法である。
本発明の第30の形態は、前記第19〜第29の形態のいずれかにおいて、前記孔の径又は溝幅が1nm以上であるプラズマ処理方法である。
本発明の第31の形態は、前記第18〜第28の形態のいずれかにおいて、前記円筒の径、孔の径、又は溝の幅のアスペクト比(直径または幅に対する孔又は溝の深さの比)が0.2以上であるプラズマ処理方法である。
本発明の第32の形態は、物体内面の一部又は全部に、前記第19〜第31の形態のいずれかのプラズマ処理方法により形成された内面膜、及び/又は、前記第19〜第31の形態のいずれかのプラズマ処理方法により形成された表面膜を備えるプラズマ処理物である。
本発明は、チューブ形状物体の内面に対するプラズマ処理膜の形成の困難性が、高周波プラズマ、マイクロ波プラズマあるいはECRプラズマの持つイオンエネルギーが小さいことに起因するという、本発明者らの知見に基づきなされたものである。即ち、本発明の第1の形態によれば、直進性の高い5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだ直進性プラズマを生成して、前記プラズマ処理部に直進させて導入し、前記プラズマ処理部には、孔又は溝を有した前記被処理物を配置し、孔又は溝の深さ方向を前記直進方向に対応させ、直進性の前記プラズマにより前記孔又は溝の内面を処理するので、プラズマの拡散の影響を受けることなく、前記孔又は溝の内面に均一な膜形成を高精度に行うことができる。本発明における、前記孔又は溝の深さ方向を前記直進方向に対応させる形態として、例えば、中空円筒形状の被処理物の場合、前記プラズマの直進方向を中空軸(孔又は溝の深さ方向)に沿わせるだけでなく、所定の角度(±45°)範囲内で前記プラズマを前記プラズマ処理部に導入するようにしてもよい。
本発明は前記知見から、被処理物前方において孔又は溝等の内面を擬似的に形成して、配置することにより、被処理物に与える直前でプラズマを高密度化することができる点に着目し、被処理物のプラズマ表面膜の高速成膜を実現することに成功した。
本発明の第2の形態によれば、前記直進性プラズマを前記プラズマ処理部に導入すると共に、前記プラズマが前記被処理物に到達する直前の位置に貫通孔を有するマスクが配置され、このマスクに負のバイアス電位(シースによる障壁が発生しないように波高値1kV以下)が付与されるから、貫通孔のホローにおいて所謂ホローカソード効果によりプラズマ中の電子の振動現象が発生し、プラズマを高密度化することができる。その結果、十分な量のプラズマを前記被処理物の表面に到達させることができ、前記貫通孔を通過させたプラズマにより均一な膜形成を高精度に行うことができる。本形態においても、前記第1の形態と同様に、前記孔軸方向を前記プラズマの直進方向に対応させる形態として、例えば、前記直進方向を前記貫通孔に沿わせるだけでなく、所定の角度(±45°)範囲内で前記プラズマを前記プラズマ処理部に導入するようにしてもよい。マスクは導電性材料、より好ましくは金属又は黒鉛であることが望ましい。被処理物が平面である場合、マスクの厚さは1mm〜20mm、好ましくは5mm程度、マスクの孔径(孔が円形の場合)は1mm〜5mm、好ましくは2mm程度であることが望ましい。また、マスクの孔は円形である必要はなく、矩形やその他の形状であってもよい。更にまた、孔はテーパー状であってもかまわない。マスクと被処理物との距離は2mm以下が好ましい。また、貫通孔の中に、被処理物を配置することもできる。
なお、本発明における表面処理には、固体製品の美観/装飾性(色、光沢)の向上・付与、耐食性の向上・付与、耐摩耗性の向上・付与、耐疲労性の向上・付与、光学特性の向上・付与(反射防止膜、反射膜、光学フィルタ膜など)、導電性の制御(絶縁性膜、半導体性膜、導電性膜、透明導電膜)、熱伝導性の制御(熱伝導性膜、熱絶縁性膜)、磁性の付与、触媒性の付与、摩擦抵抗低減・摺動性の付与、耐熱性の向上・付与などに供する成膜が含まれる。
本発明の第3の形態によれば、前記プラズマが前記プラズマ処理部内に進入する際に、前記集束磁場形成手段により形成した集束磁場により前記直進方向に前記プラズマを絞るから、前記被処理物にプラズマを高効率で導入することができ、プラズマ処理膜の高速成膜を一層図ることできる。
本発明の第4の形態によれば、前記プラズマ処理部内に配置した被処理物に負のバイアス電位を付与するバイアス電位付与手段を有し、前記バイアス電位付与手段により負のバイアス電位を付与した状態で前記内面処理加工を行うため、孔又は溝を有した前記被処理物の孔又は溝等のホローにおいて所謂ホローカソード効果によりプラズマ中の電子の振動現象が発生し、プラズマが高密度化し、その結果、十分な量のプラズマを前記被処理物の内面に到達させることができ、均一な膜形成を高精度に行うことができる。マスクを用いた表面処理においては、被処理物にバイアスを印加することで膜の密着性を向上させることができる。
本発明の第5の形態によれば、前記したマスクに印加する、あるいは、被処理物に印加する負のバイアス電位は、交流電位又は直流電位によって付与されるので、前記ホローカソード効果によるプラズマ中の電子振動現象を効率よく発生させることができ、プラズマを高密度化でき、プラズマ処理膜の均一化を簡易に行うことができる。前記負のバイアス電位の印加は、例えば、ユニポーラパルスを用いて負電位を間欠的に付与したり、バイポーラパルスを用いて正負の合成結果が負電位になるように交流的に付与して行うことができる。なお、バイアスの大きさ又は波高値は,孔、溝又はマスクの貫通孔へ十分なプラズマが侵入または通過するように1kV(絶対値)以下が望ましい。これ以上にするとプラズマシースが発達し,プラズマの進入が抑止されて、孔または溝への高速均一成膜が困難になる。
本発明の第6の形態によれば、前記プラズマ処理部及び/又はプラズマ発生部に成膜成分ガスを導入する成膜成分ガス導入手段を有し、プラズマ発生部で発生させたプラズマの成分と前記成膜成分ガス導入手段により導入した前記成膜成分ガスに含まれる成分とにより前記被処理物の内面に内面膜を形成し、及び/又は前記被処理物の表面に表面膜を形成するので、各種成膜仕様に応じて、均一膜性を備えた混合膜又は積層膜を形成することができる。
本発明の第7の形態によれば、前記成膜成分ガスが炭化水素ガスであり、前記内面膜及び/又は表面膜が炭素を主成分とする炭素膜であり、この炭素膜に占める副成分及び/又は不純物の重量比率が50%未満であるから、均一膜性を備えた炭素含有プラズマ処理膜を製造することができる。結晶質、非晶質もしくはそれらが混在する炭素膜や種々のナノ炭素物質からなる炭素膜等を形成することができる。
本発明の第8の形態によれば、前記炭素膜がダイヤモンド膜、ダイヤモンドライクカーボン膜(非晶質炭素膜:DLC,diamond-like carbon)、グラファイト膜、炭化ケイ素膜、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノコイル膜、カーボンナノツイスト、カーボンナノウォール膜又はそれらの2種以上を混合した混合膜であるから、前記被処理物の用途や材料に応じて、前記炭素膜の高強度や弾性さらには機能等を適宜選択することができる。殊に、ダイヤモンド膜の合成に関しては、従来、プラズマCVD法やPVD法では、加熱状態の基板を必要としたり、またはナノ粒子ダイヤモンドを前もって結晶成長のシード粒子として被処理物表面に付着させたりする必要があったが、本発明者達は所望の被処理物の表面又は内面に対して、非加熱で、かつ、シード粒子なしで、プラズマ処理だけで均一膜のダイヤモンド/DLCハイブリッド膜の高速合成を行うことに画期的に成功した。
本発明の第9の形態によれば、前記成膜成分ガスに有機金属ガスを使用して、前記内面膜及び/又は表面膜として、各種成膜仕様に応じて、均一膜性を備えた金属含有膜又は積層金属膜を成膜することができる。
本発明の第10の形態によれば、前記成膜成分ガスが単一若しくは2種以上の有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)を少なくとも含む混合ガス、又は、単一若しくは2種以上の有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)と窒素、酸素、炭素、フッ素、硫黄、ケイ素、水素、アルゴン及びヘリウムから選択される1種類以上の元素を少なくとも含む混合ガスであり、前記内面膜及び/又は表面膜が金属膜又は金属間化合物膜又は非金属化合物膜であるので、均一膜性を備えた金属膜又は金属間化合物膜又は非金属化合物膜のプラズマ処理膜を製造することができる。
本発明の第11の形態によれば、前記プラズマ生成手段により生成させたプラズマ流を走査するプラズマ流走査手段を有し、前記プラズマの前記直進方向に垂直な平面をXY平面とし、前記プラズマ流走査手段により、X軸方向及び/又はY軸方向に前記プラズマ流を走査しながら前記プラズマ処理部内に導入するので、前記プラズマ流を前記被処理物全体に一様に照射することができ、高精度に均一化されたプラズマ処理膜を形成することができる。
本発明の第12の形態によれば、前記プラズマ生成手段が、プラズマ作動ガスからプラズマを生成するプラズマ生成部と、前記プラズマ作動ガスから生成したプラズマを加速して、前記5eV以上のイオンエネルギーを有したイオンを含むプラズマを生成する加速手段とからなるので、プラズマ作動ガスから生成される、もともとイオンエネルギーが低い高周波プラズマやマイクロ波プラズマなどを、加速手段によって前記5eV以上のイオンエネルギーを有したプラズマにして、プラズマ処理膜の均一化を行うことができる。
本発明の第13の形態によれば、前記プラズマ生成手段が、真空アーク放電により、固体を蒸発させてプラズマを発生させ、前記5eV以上のイオンエネルギーを有したイオンを含むプラズマを生成する真空アーク放電部からなるので、高エネルギーの真空アークプラズマを用いてプラズマ処理膜の均一化を行うことができる。
本発明の第14の形態によれば、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを捕集するドロップレット捕集手段を備え、前記プラズマ導入手段は、前記プラズマの流れを所定角度、前記真空アーク放電部側より電磁的に屈曲させ、前記プラズマ処理部に直進させて導入するプラズマ電磁的屈曲手段を含むので、ドロップレットが除去されて高純度化された、高エネルギーの真空アークプラズマを用いて、高品質かつ均一なプラズマ処理膜を得ることができる。
本発明の第15の形態によれば、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを前記プラズマから分離するドロップレット分離手段と、前記プラズマ生成手段とは別に設けられ、固体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2のプラズマを生成する第2のプラズマ生成手段とを有し、前記プラズマ導入手段は、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離した前記プラズマを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する第1の輸送ダクトと、前記第2のプラズマを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する第2の輸送ダクトとからなり、前記第1の輸送ダクトと前記第2の輸送ダクトが交差して前記プラズマ処理部に連通配置され、前記プラズマ処理部に、孔又は溝を有した前記被処理物を配置し、孔又は溝の深さ方向を、少なくとも、前記第1の輸送ダクトを通じて導入される前記第1プラズマの前記直進方向に対応させ、前記プラズマ及び前記第2のプラズマにより前記孔又は溝の内面を処理するので、前記ドロップレットを分離させた、真空アークプラズマからなる前記第1プラズマ及び前記第2プラズマをそれぞれ、前記第1の輸送ダクト、前記第2のプラズマを通じて前記プラズマ処理部に導入することにより、前記孔又は溝の内面に対して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの膜成分による、高品質かつ均一な膜形成を高精度に行うことができる。特に、プラズマ源が2個あるため、プラズマ源が1個の場合より、単一金属膜あるいは1種類の金属を含んだ金属間化合物膜の高速成膜を円滑に行うことができる。
また、第1プラズマと第2プラズマとが異なる物質を蒸発させる場合、それぞれの蒸発速度を制御することにより、希望どおりに組成を制御した混合膜(合金、金属間化合物膜)の成膜を円滑に行うことができる。更に又、それぞれのプラズマが各ダクトに導入されるタイミングを制御できるので、金属や,合金,金属間化合物の積層膜としての多層膜や超多層膜の成膜を円滑に行うことができる。ここで、多層膜とは数百nm〜数μmの層が積層されたもので、超多層膜とは数十nm〜数百nmの層が積層されたものをいう。ドロップレットを除去した第1プラズマと第2プラズマとをタイミングを制御して成膜チャンバに導入できるので、原子・分子レベル/ナノレベルの制御が提供され、従来の真空アーク蒸着装置(アークイオンプレーティング装置)では困難であった1nm以下〜数十nmの層が積層された超々多層膜の形成も可能となる。
本発明の第16の形態によれば、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを前記プラズマから分離するドロップレット分離手段と、前記プラズマ生成手段とは別に設けられ、固体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2のプラズマを生成する第2のプラズマ生成手段とを有し、前記プラズマ導入手段は、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離した前記プラズマを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する第1の輸送ダクトと、前記第2のプラズマを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する第2の輸送ダクトとからなり、前記第1の輸送ダクトと前記第2の輸送ダクトが交差して前記プラズマ処理部に連通配置され、前記プラズマが前記被処理物に到達する直前の位置に、貫通孔を有したマスクを配置し、このマスクの孔軸方向を前記プラズマの直進方向に対応させ、前記マスクに負のバイアス電位を付与して前記貫通孔を通過させたプラズマにより前記被処理物の表面を処理するので、前記ドロップレットを分離させた、真空アークプラズマからなる前記第1プラズマを前記マスクの貫通孔を通過することにより、十分な量の前記第1プラズマを前記第1の輸送ダクトを通じて、かつ前記第2プラズマを前記第2のプラズマを通じて前記プラズマ処理部に導入して、前記被処理物の表面に対して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの膜成分による、高品質かつ均一な膜形成を高精度に行うことができる。特に、前記第14の形態と同様に、プラズマ源が2個あるため、単一金属膜あるいは1種類の金属を含んだ金属間化合物膜の高速成膜を円滑に行え、また、第1プラズマと第2プラズマとが異なる物質を蒸発させる場合、それぞれの蒸発速度を制御することにより、希望どおりに組成を制御した混合膜(合金、金属間化合物膜)の成膜を円滑に行うことができる。更に又、それぞれのプラズマが各ダクトに導入されるタイミングを制御できるので、金属や,合金,金属間化合物の積層膜としての多層膜や超多層膜の成膜を円滑に行うことができる。ドロップレットを除去した第1プラズマと第2プラズマとをタイミングを制御して成膜チャンバに導入できるので、原子・分子レベル/ナノレベルの制御が提供され、1nm以下〜数十nmの層が積層された超々多層膜の形成も可能となる。
本発明の第17の形態によれば、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを前記プラズマから分離するドロップレット分離手段と、前記プラズマ生成手段とは別に設けられ、固体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2のプラズマを生成する第2のプラズマ生成手段とを有し、前記プラズマ導入手段は、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離した前記プラズマと前記第2のプラズマとを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する共通輸送ダクトと、前記プラズマ生成手段から前記プラズマを前記輸送ダクトへ電磁的に導入する第1プラズマ導入路と、前記第2のプラズマ生成手段から前記第2のプラズマを前記輸送ダクトへ電磁的に導入する第2プラズマ導入路とからなり、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路の、前記輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定し、前記プラズマ処理部に、孔又は溝を有した前記被処理物を配置し、孔又は溝の深さ方向を、少なくとも、前記共通輸送ダクトを通じて導入される前記プラズマの前記直進方向に対応させ、前記プラズマ及び前記第2のプラズマにより前記孔又は溝の内面を処理するので、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの膜成分による、高品質かつ均一な膜形成を高精度に行うことができる。特に、前記第15及び第16の形態と同様に、プラズマ源が2個あるため、単一金属膜あるいは1種類の金属を含んだ金属間化合物膜の高速成膜を円滑に行え、更に、第1プラズマと第2プラズマとが異なる物質を蒸発させる場合、それぞれの蒸発速度を制御することにより、希望どおりに組成を制御した混合膜(合金、金属間化合物膜)の成膜を円滑に行うことができる。更に又、それぞれのプラズマがダクトに導入されるタイミングを制御できるので、金属や,合金,金属間化合物の積層膜としての多層膜や超多層膜の成膜を円滑に行うことができる。ドロップレットを除去した第1プラズマと第2プラズマとをタイミングを制御して同一方向から成膜チャンバに導入できるので、原子・分子レベル/ナノレベルの制御が提供され、1nm以下〜数十nmの層が積層された超々多層膜の形成も可能となる。
本発明の第18の形態によれば、前記真空アーク放電部により生成されるプラズマに含有されるドロップレットを前記プラズマから分離するドロップレット分離手段と、前記プラズマ生成手段とは別に設けられ、固体をプラズマ源として又は気体をプラズマ作動ガスとして第2のプラズマを生成する第2のプラズマ生成手段とを有し、前記プラズマ導入手段は、前記ドロップレット分離手段により前記ドロップレットを分離した前記プラズマと前記第2のプラズマとを電磁的に前記プラズマ処理部に導入する共通輸送ダクトと、前記プラズマ生成手段から前記プラズマを前記輸送ダクトへ電磁的に導入する第1プラズマ導入路と、前記第2のプラズマ生成手段から前記第2のプラズマを前記輸送ダクトへ電磁的に導入する第2プラズマ導入路とからなり、前記第1プラズマ導入路及び前記第2プラズマ導入路は、前記輸送ダクトの輸送方向に対する導入角度が鋭角に設定され、前記プラズマが前記被処理物に到達する直前の位置に、貫通孔を有したマスクを配置し、このマスクの孔軸方向を前記プラズマの直進方向に対応させ、前記マスクに負のバイアス電位を付与して前記貫通孔を通過させたプラズマにより前記被処理物の表面を処理するので、前記被処理物の表面に対して、前記第1プラズマ及び前記第2プラズマの膜成分による、高品質かつ均一な膜形成を高精度に行うことができる。特に、前記第15〜17の形態と同様に、プラズマ源が2個あるため、プラズマ源が1個の場合より、単一金属膜あるいは1種類の金属を含んだ金属間化合物膜の高速成膜を円滑に行うことができる。また、第1プラズマと第2プラズマとが異なる物質を蒸発させる場合、それぞれの蒸発速度を制御することにより、希望どおりに組成を制御した混合膜(合金、金属間化合物膜)の成膜を円滑に行うことができる。更に又、それぞれのプラズマが各ダクトに導入されるタイミングを制御できるので、金属や,合金,金属間化合物の積層膜としての多層膜や超多層膜の成膜を円滑に行うことができる。ドロップレットを除去した第1プラズマと第2プラズマとをタイミングを制御して成膜チャンバに導入するので、原子・分子レベル/ナノレベルの制御が提供され、1nm以下〜数十nmの層が積層された超々多層膜の形成も可能となる。
本発明の第19の形態に係るプラズマ処理方法によれば、孔又は溝を有した前記被処理物の孔又は溝の深さ方向を前記プラズマの直進方向に対応させ、5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだ前記プラズマをプラズマ処理部に直進させ、このプラズマにより前記孔又は溝の内面を処理するので、プラズマの拡散の影響を受けることなく、前記孔又は溝の内面に均一な膜形成を高精度に行うことができる。
本発明の第20の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記プラズマが前記被処理物に到達する直前の位置に、貫通孔を有したマスクをその孔軸方向が前記プラズマの直進方向に対応するように配置し、5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだ前記プラズマをプラズマ処理部に直進させている。更に、前記マスクに負のバイアス電位を付与して前記貫通孔を通過させたプラズマにより前記被処理物の表面を処理するので、貫通孔において所謂ホローカソード効果によりプラズマ中の電子の振動現象が発生し、プラズマが高密度化する。その結果、十分な量のプラズマを前記被処理物の表面に到達させることができ、均一な膜形成を高精度に行うことができる。
本発明の第21の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記プラズマが前記プラズマ処理部内に進入する際に、前記プラズマを前記直進方向に絞る集束磁場を形成し、この集束磁場によりプラズマを前記直進方向に絞るので、前記被処理物にプラズマを高効率で導入することができ、プラズマ処理膜の均一化を一層図ることできる。
本発明の第22の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記プラズマ処理部内に配置した被処理物に負のバイアス電位を付与した状態で前記表面処理加工を行うので、孔又は溝を有した前記被処理物の孔又は溝において、前述のホローカソード効果によりプラズマ中の電子の振動現象を発生させ、プラズマを高密度化し、その結果、効率的に十分な量のプラズマを前記被処理物の内面に到達させることができ、均一な膜形成を高精度に行うことができる。
本発明の第23の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記プラズマ処理部及び/又はプラズマ発生部に成膜成分ガスを導入し、前記成膜成分ガスに含まれる成分とプラズマ発生部で発生させたプラズマの成分により前記被処理物の内面に内面膜を形成し、及び/又は前記被処理物の表面に表面膜を形成するので、各種成膜仕様に応じて、均一膜性を備えた混合膜又は積層膜を形成することができる。
本発明の第24の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記成膜成分ガスに炭化水素ガスを用いて、前記内面膜及び/又は表面膜が炭素を主成分とする炭素膜を形成することができ、この炭素膜に占める副成分及び/又は不純物の重量比率が50重量%未満であるから、均一な炭素膜が形成された被処理物を提供することができる。
本発明の第25の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記炭素膜がダイヤモンド膜、ダイヤモンドライクカーボン膜(非晶質炭素膜:DLC,diamond-like carbon)、グラファイト膜、炭化ケイ素膜、カーボンナノチューブ膜、カーボンナノコイル膜、カーボンナノツイスト、カーボンナノウォール膜又はそれらの混合膜からなる内面膜及び/又は表面膜を製造することができる。殊に、本発明によれば、プラズマ処理だけで均一膜のダイヤモンド/DLCハイブリッド膜を高速に合成することができる。
本発明の第26の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記成膜成分ガスに有機金属ガスを使用して、前記内面膜及び/又は表面膜として、各種成膜仕様に応じて、均一膜性を備えた金属含有膜又は積層金属膜を成膜することができる。
本発明の第27の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記成膜成分ガスが単一若しくは2種以上の有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)を少なくとも含む混合ガス、又は、単一若しくは2種以上の有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)と窒素、酸素、炭素、フッ素、硫黄、ケイ素、水素、アルゴン及びヘリウムから選択される1種類以上の元素を少なくとも含む混合ガスであり、前記内面膜及び/又は表面膜が金属膜又は金属間化合物膜又は非金属化合物膜であるので、均一膜性を備えた金属膜又は金属間化合物膜又は非金属化合物膜のプラズマ処理膜を製造することができる。
本発明の第28の形態に係るプラズマ処理方法によれば、略円筒形状を有する被処理物の中空内面に、均一膜性を備えたプラズマ処理膜を成膜することができる。
本発明の第29の形態に係るプラズマ処理方法によれば、貫通または非貫通の微細な孔及び/又は溝が1個以上形成された形状を有する被処理物の孔面や溝内面に、均一膜性を備えたプラズマ処理膜を成膜することができる。
本発明の第30の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記孔の径又は溝幅1nm以上である被処理物の孔面や溝内面に、均一膜性を備えたプラズマ処理膜を成膜することができる。
本発明の第31の形態に係るプラズマ処理方法によれば、前記円筒の径、孔の径、又は溝の幅のアスペクト比(直径または幅に対する孔又は溝の深さの比)が0.2以上である被処理物の孔面や溝内面に、均一膜性を備えたプラズマ処理膜を成膜することができる。
本発明の第32の形態によれば、物体内面の一部又は全部に、前記第19〜第31のいずれかの形態に係るプラズマ処理方法により形成された内面膜、及び/又は、記第19〜第31のいずれかの形態に係るプラズマ処理方法により形成された表面膜を備え、前記内面膜及び/又は前記表面膜が均一膜性を具備したプラズマ処理物を実現することができる。
以下、本発明に係るプラズマ処理方法を適用したプラズマ処理装置の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明に係るプラズマ処理装置の概略構成図である。
本実施形態のプラズマ処理装置は、真空アークプラズマ発生部、ドロップレット捕集部及びプラズマ処理部を備え、真空アークプラズマ発生部において真空アーク放電法に基づき発生させたプラズマをプラズマ処理部(成膜チャンバ)A1に導入して、プラズマ処理部A1内に配置された被処理物を表面処理加工するプラズマ処理装置である。
真空アークプラズマ発生部は、トリガ電極A5、陽極(アノード)A6、陰極(カソード)A7、アーク安定化磁界発生器A13、A14からなる。
陽極A6は、プラズマ温度でも蒸発せず、非磁性で、かつ導電性を有する固体材料からなり、金属単体、無機単体、合金、無機化合物(金属酸化物・窒化物)等、あるいはそれらの1種又は2種以上混合して使用することができ、陰極A7と同様の導電性材料を選択して使用することができる。陽極A6は真空アークプラズマの進行を妨げない筒状形状を有する。
陰極A7は、プラズマの構成物質を供給するためのソース(導電性材料)であり、金属単体、無機単体、合金、無機化合物(金属酸化物・窒化物)等、あるいはそれらの1種又は2種以上混合して使用することができる。金属単体には、Al、Ti、Zn、Cr、Sb、Ag、Au、Hg、Nd、Pb、Zr、Cu、Fe、Mo、W、Nb、Ni、Mg、Cd、Sn、V、Co、Y、Hf、Pd、Rh、Pt、Ta等を使用できる。無機単体には、C、Si等を用い、合金・金属化合物には、AlSi、TiAl、TiAlSi,NdFe、CrAl、CrTiAl,CrAlSi,CrSi、TiSi、TiCr、TiCrSi等を用いる。無機化合物には、TiO2、ZnO、SnO2、Cd2 SnO4、CuO、In2 O3、ITO(Indium Tin 0xide)等の酸化物、あるいはTiN、TiAlC、TiC、TiCN、CrN等の炭化物又は窒化物を使用できる。
トリガ電極A5は、陽極A6と陰極A7の間に真空アークを誘起するための電極であり、高融点金属のWやMo等からなる。陰極A7の表面にトリガ電極A5を接触させた後に引き離すと、陰極A7との間で電気スパークが発生し、陽極A6と陰極A7の間の電気抵抗が減少して陽極・陰極間に真空アークが発生する。トリガ電極A5、陽極A6、陰極A7は、それぞれ、絶縁端子A9、A10、A16を介してアーク電源A11に接続されている。アーク電源A11には、直流電源、パルス電源又は直流分を重畳したパルス電源を用いる。アーク電源A11とトリガ電極A5の間には、トリガ電極A5に流れる電流を制限するための電流制限用抵抗A8が接続されている。
アーク安定化磁界発生器A13、A14は、真空アークプラズマ発生部外周に配設され、真空アーク放電により発生したプラズマを安定化させるための一対のリング状磁石(電磁石又は永久磁石)からなる。アーク安定化磁界発生器A13、A14の磁界により、アーク陰極点の運動が制御され、かつ真空アークプラズマを放射方向に拡散させて陰極と陽極間の電流路を確保してアーク放電を安定化させることができる。
上記構成の真空アークプラズマ発生部のプラズマ発生条件は、アーク電流が1〜600A(直流、交流、パルスのいずれも可)、電圧が5〜100V、圧力が10-5〜10Paである。孔又は溝を有した被処理物のプラズマ処理するためには、5eV〜200eVのイオンエネルギーを持つイオンを含んだ真空アークプラズマを生成するプラズマ発生条件を選択する。
ドロップレット捕集部A12が真空アークプラズマ発生部により生成させたプラズマの放出方向に延設され、真空アークプラズマ発生部に対向配置されている。陰極A7から副生する陰極材料微粒子(ドロップレット)A15は、プラズマ処理部A1と直接干渉しないように直進してドロップレット捕集部A12に捕集され、高純度のプラズマをプラズマ処理部A1に導入することができる。即ち、ドロップレットA15は電気的に中性であり、磁界の影響を受けず、直進する性質を有するため、ドロップレット捕集用ダクト空間としてドロップレット捕集部A12を陰極A7と対向した位置、つまりプラズマ放出軸方向に対向して配設することにより飛んでくるドロップレットA15を捕集部内壁に堆積して回収できる。なお、ドロップレット捕集部A12の回収ダクトの内壁部分を分離可能構造とすることにより清掃作業を簡易に行える。
また、ドロップレット捕集部A12にはダクトバイアス電圧付与手段A21により、プラズマ電位と同程度のダクトバイアス電位が付与されている。陽極A6を接地電位とし、ダクトバイアス電位をドロップレット捕集部A12に付与して同電位にすることにより、プラズマの構成粒子が回収ダクトの内壁と反発するため、プラズマがドロップレット捕集部A12側に移動する量を低減し、ドロップレット捕集部A12を延設することによるプラズマの減衰を防止することができ、プラズマ輸送効率および成膜速度が数倍改善される。バイアス電圧は、−30V〜+30Vが好ましく、特にプラズマ電位と同じ電圧、つまり、+10V〜+20V、殊に+15V±3Vが好適な場合が多い。
陰極A7とドロップレット捕集部A12との間には、プラズマをプラズマ処理部A1に直進させて導入するためのプラズマ導入路A22がT字状に配設され、プラズマ導入路A22外周には、プラズマP1をプラズマ処理部A1に向けて磁界誘導により屈曲させて移動させるプラズマ誘導用磁界発生器A4が設けられている。プラズマ誘導用磁界発生器A4により外部から磁界を印加することにより、真空アークプラズマ発生部からのプラズマ流れを所定角度(略90°)に屈曲移動させ、プラズマP1をプラズマ処理部A1に直進させて導入する。従って、プラズマP1は略90°屈曲移動し、一方、磁界の影響を受けない、直進ドロップレットA15はドロップレット捕集部A12に回収されるので、ドロップレットA15を除去した高純度プラズマP1をプラズマ処理部A1に導入することができる。プラズマ誘導用磁界発生器A4によるプラズマ流れの屈曲角度はドロップレットA15の侵入を受けない範囲であれば、90°より小さい鋭角であってもよい。
プラズマ処理部A1内には、孔又は溝を有した被処理物(ワーク)W1が配置され、プラズマ導入路A22からのプラズマP1は、孔又は溝の深さ方向がプラズマ直進方向DPに対応するように導入される。ワークW1は中空円筒形状を備えた物体であり、中空内面にプラズマ処理膜を形成するためにプラズマ処理部A1内に設置されている。ワークW1の中空軸がプラズマP1の直進方向DPの中心軸に略対応してワークW1が設置されている。ワークW1の中空軸をプラズマP1の直進方向DPに対して±45°(θ)傾斜した範囲で設置してもよい。
本実施形態のプラズマ処理装置においては、ワークW1への上記プラズマP1の直進導入構成と、高イオンエネルギーを持つイオンを含んだ真空アークプラズマを使用して、プラズマの拡散の影響を受けることなく、ワーク中空部に導入されるプラズマイオンの量を多くして、孔又は溝の内面に均一な膜形成を高精度に行うことができる。
本実施形態においては、更にプラズマP1の導入効率を高めるために、プラズマ処理部A1外周には、集束磁場形成用磁界発生器A19、A20がそれぞれ、プラズマ処理部A1の入口側とワーク後方側に配設されている。集束磁場形成用磁界発生器A19、A20により形成した集束磁場によりワークW1の中空部への直進方向にプラズマP1を絞るから、ワークW1にプラズマを高効率で導入することができ、プラズマ処理膜の均一化を一層図ることできる。
また、プラズマ処理膜の膜質を更に向上させるために、ワークW1に負のバイアス電位を付与するバイアス電位付与用電位発生部A17を設けている。バイアス電位付与用電位発生部A17は直流バイアス、RFバイアス又はパルスバイアスを印加する電位発生回路からなり、例えば、ユニポーラパルスを用いて負電位を間欠的に付与したり、バイポーラパルスを用いて正負の合成結果が負電位になるように交流的に付与して行うことができる。ワークW1へのバイアス電位A18の付与により、ワークW1の孔や溝等のホローにおいて、所謂ホローカソード効果によりプラズマ中の電子の振動現象が発生し、プラズマが高密度化し、その結果、効率的に十分な量のプラズマを前記被処理物の内面に到達させることができ、均一な膜形成を高精度に行うことができる。
プラズマ処理部A1には、プラズマP1以外に別の成膜用ガスを使用するための成膜用ガス導入装置A2及びガス排出装置A3からなるガス導入システムが設けられている。このガス導入システムによりプラズマ処理部A1内のガス導入流量が一定に制御される。導入ガスには、陰極材料等をソースとするプラズマ粒子と反応して、複合膜を形成できる反応性ガス、例えば、窒素、酸素、水素、酸化炭素ガス(CO、CO2)、炭化水素ガス(炭化水素の蒸気ガスを含む)(C2H2、C2H4 、C2H6、CH4、C4H10、C6H6、C6H14、C7H8、C3H8、C10H22、C12H26、等)から1種又は2種以上を選択して使用できる。導入ガスとしては、反応性ガスを使用しない場合に、圧力を一定に保持するためのAr、He等の希ガスを使用することもできる。なお、プラズマ処理部A1内部にワークW1を載置するための、自公転機構を持つワーク配設テーブルを設け、ワーク配設テーブルを順次プロセスごとに回転移動させて、プラズマP1の直進導入位置に切り替えて、複数のワークW1を連続的にプラズマ処理するようにしてもよい。
本実施形態のプラズマ処理装置によるDLC成膜実験例を説明する。図2はワークW1であるジェットコアを示し、このジェットコアは図22のジェットコア500と同様の構造を有し、母材は超硬合金(WC)からなる。図2の(2A)は全体外観を示し、(2B)、(2C)はそれぞれ、導糸口IN側、排糸口OUT側の外観を示す。図3は、本実施形態のプラズマ処理装置によりプラズマ処理したジェットコアの縦断面を示す写真である。本実験ではジェットコアの貫通孔をプラズマ直進方向DPに向けてプラズマを照射した。前記真空アークプラズマ発生部のプラズマ発生条件として、アーク発生前のベース圧力が0.01Pa以下であり、陰極を黒鉛、アーク電流を50A(このとき,電圧30V)とし、5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだ真空アークプラズマを生成させた。プラズマ処理部A1内のプラズマ成膜圧力は0.08〜0.12Paであり、導入ガス流量は20ml/minである。ダクトバイアス電圧付与手段A21のダクトバイアス電圧は15Vである。ワークW1には、バイアス電位付与用電位発生部A17のユニポーラパルス(周波数10kHz、duty比20%)により−500Vを印加した。DLC成膜のために導入ガスとしてアセチレンC2H2を使用した。ワークは加熱していない。成膜時間は5minである。
図4は貫通孔内面をプラズマ処理したジェットコアの各部断面のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を示す。図4の(4A)、(4B)、(4C)はそれぞれ、導糸口IN側、中心部、排糸口OUT側の断面を示す。導糸口IN側、中心部、排糸口OUT側の各形成膜の膜厚は3.5μm、4.5μm、6.5μmであり、貫通孔中心部にわたり均一な膜形成が行われている。(4A)の断面において、膜厚と同じ程度のサイズの結晶粒とその結晶粒の間の黒く写っている部分とで膜が形成されていることが分かる。この結晶粒はダイヤモンドであり、黒い部分はDLCである。
図6の(6B)及び(6C)及び図7はレーザー顕微鏡によるジェットコアの各部断面の写真を示す。図6の(6A)は、断面撮像のための試料断面写真を示し、プラズマ処理膜表面はジェットコアを切断して観測するため樹脂モールドした。(6B)、(6C)はそれぞれ、導糸口IN側、その内側、(7A)、(7B)、(7C)は中心部、その外側、排糸口OUT側の各断面を示す。導糸口IN側、その内側、中心部、その外側、排糸口OUT側の各断面の形成膜の膜厚は、7.5〜9.5μm、8.0〜9.0μm、10〜12μm、20μm、8.0〜10.0μmであり、貫通孔中心部にわたり均一な膜形成が行われている。
上記プラズマ処理膜の成分分析を行った。図5の(5A)は質量分析のための試料断面写真を示し、プラズマ処理膜表面は、切断測定のため樹脂モールドされている。図5の(5B)、(5C)、(5D)はそれぞれ、樹脂層、プラズマ処理膜層、母材の成分分析結果を示す。この分析結果から、母材(超硬合金)とモールド用シリコン樹脂との間には炭素だけの層が形成されていることがわかる。従って、本実施形態のプラズマ処理装置により、均一なプラズマ処理膜としての炭素膜を形成することができる。
図4のSEM写真からDLC膜とともにダイヤモンド膜が形成されていることが分かったので、ラマンスペクトル分析法によりダイヤモンド膜の生成を確認した。図8の(8A)はラマンスペクトル試料の断面写真(対物20倍)を示し、プラズマ処理膜表面には測定用樹脂の被覆がなされている。図8の(8B)、(8)及び図9の(9A)、(9B)(9C)はそれぞれ、導糸口IN側、その内側、中心部、その外側、排糸口OUT側の各断面であり、各形成膜の膜厚は、7.0〜8.0μm、8.5〜9.5μm、13〜14μm、13〜14μm、8.5〜9.5μmであり、貫通孔中心部にわたり均一な膜形成が行われている。図10は各部位における母材と樹脂層との中間層のラマンスペクトル波形を示す。測定装置としてJASCO製NRS−1000を使用し、対物レンズ100倍、ビーム径1μm、レーザー波長532m、レーザー強度1.5mWの測定条件で測定した。図10においては樹脂層の樹脂ピーク分を差し引いた補正がなされている。この測定結果から、スペクトル分布が、Gピーク(1580cm−1付近)及びDピーク(1350cm−1付近)の混成ブロードバンドが発生しており、これはDLC膜の特徴と合致するので、本実施形態におけるプラズマ処理装置によりDLC膜が形成されていることが明白である。
更に、この測定結果を注視すると、導糸口INの内側と中心部の部位において、符号10A、10Bで示すように、ピーク波形が生じているのがわかる。ピーク位置(約1400cm−1付近)はダイヤモンド膜の特徴であり、本実施形態におけるプラズマ処理装置によりダイヤモンド膜を形成できることがわかった。従来、プラズマCVD法やPVD法では、加熱状態の基板を必要としたり、またはナノ粒子ダイヤモンドを前もって結晶成長のシード粒子として被処理物表面に付着させたりする必要があったが、本発明者達は所望の被処理物の表面又は内面に対して、非加熱で、かつ、シード粒子なしで、プラズマ処理だけで均一膜のダイヤモンド/DLCハイブリッド膜の低温高速合成を行うことができ、ダイヤモンド膜やダイヤモンド/DLCハイブリッド膜製造コストの低減や製造時間短縮を可能にする。また、低温(室温)で成膜できるので、被処理物が樹脂であってもよいことになる。なお、ジェットコアと類似形状の物体、すなわち円筒状物体であれば、比較的容易に同様な処理が行える。例えば、射出成形用ノズル、エンジンの噴射ノズルなどである。
次に本発明の別の実施形態として、複数のプラズマ源を備えたプラズマ処理装
置を図11に基づき説明する。図11は、本実施形態に係るプラズマ処理装置の断面構成図である。このプラズマ処理装置は、被処理物(ワークW)を設置するプラズマ処理部と一体化されることによりプラズマ加工装置として組み立てられるものである。このプラズマ加工装置におけるプラズマ表面処理方法においては、2種類の第1プラズマ16及び第2プラズマ17を使用する。各プラズマは、第1プラズマ発生部2、第2プラズマ発生部3において真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って発生させる真空アークプラズマである。各プラズマ発生に伴って生じるドロップレット23を分離、除去して、第1プラズマ16及び第2プラズマ17を共通輸送ダクト10を経由してプラズマ処理部1に誘導する。このとき、第1プラズマ16及び第2プラズマ17を共通輸送ダクト10に導入するタイミングを制御することにより、プラズマ処理部1内のワークW表面に対して積層膜形成等の表面処理加工が行われる。
なお、このプラズマ表面処理に際しては必要に応じて反応性ガス又は非反応性ガスを導入することもできる。更に、プラズマ7の導入効率を高めるために、プラズマ処理部1外周には、集束磁場形成用磁界発生器A19、A20が、それぞれ、プラズマ処理部1の入口側とワーク後方側に配設されている。集束磁場形成用磁界発生器A19、A20により形成した集束磁場によりワークWの中空部に対し、直進方向にプラズマP1を絞るから、ワークWにプラズマ7を高効率に導入することができる。
プラズマ処理部1は、孔又は溝を有した被処理物(ワークW)が配置され、プラズマ導入口34からのプラズマは、孔又は溝の深さ方向がプラズマ直進方向に対応するように導入される。ワークWは中空円筒形状を備えた物体であり、中空内面にプラズマ処理膜を形成するためにプラズマ処理部1内に設置されている。ワークWの中空軸がプラズマ7の直進方向の中心軸に略対応してワークWが設置されている。ワークWの中空軸をプラズマ7の直進方向に対して±45°(θ)傾斜した範囲で設置してもよい。本実施形態のプラズマ処理装置においては、ワークWへの上記プラズマ7の直進導入構成と、高イオンエネルギーを持つイオンを含んだ真空アークプラズマを使用して、プラズマの拡散の影響を受けることなく、ワークWの中空部に導入されるプラズマイオンの量を多くして、孔又は溝の内面に均一な膜形成を高精度に行うことができる。
真空チャンバ4には圧力計及び真空制御装置5、処理用ガスの導入制御系開閉装置6及び真空排気口8が配設されている。真空排気口8に接続されるべき真空排気制御装置、開閉バルブ、真空ポンプなどは図示していない。真空チャンバ4の一側面にはプラズマ導入口34が開口配置されている。プラズマ導入口34は、2つのプラズマ発生部2、3から発生するプラズマを導く共通輸送ダクト10と連通している。真空チャンバ4と共通輸送ダクト10の最終部との間に、プラズマ7をチャンバ内でスキャンするために、スキャナーコイル28、29からなるスキャナー装置18が設けられている。なお、成膜チャンバは必ずしも角型である必要はなく、円柱形やベルジャー形またはそれらの変形でもよく,被処理物を収められる容器形状であればよい。
共通輸送ダクト10及びスキャナー装置18はプラズマ導入口34に対して、換言すればチャンバの中心部に向けて直線状に配設されている。共通輸送ダクト10はその直線方向と交差する方向に配設されたプラズマ輸送経路9に接続している。プラズマ輸送経路9は共通輸送ダクト10と略直角に屈曲し、第1プラズマ発生部2と接続する第1プラズマ輸送経路と、共通輸送ダクト10に対して略クランク状に折曲し、第2プラズマ発生部3と接続する第2プラズマ輸送経路からなる。第1プラズマ輸送経路の始端側に第1プラズマ発生部2が配設され、第2プラズマ輸送経路の始端側に第2プラズマ発生部3が配設されている。第1プラズマ発生部2は、陽極(アノード)12と陰極(カソード)13からなる真空アーク放電部を有する。同様に、第2プラズマ発生部3も、陽極14と陰極15からなる真空アーク放電部を有する。各アーク放電部には、カソード及びアノード電極の他に、トリガ電極(図示略)やアーク安定化磁界発生器(電磁コイルまたは永久磁石)24、33等も備え、孔又は溝を有した被処理物のプラズマ処理するためには、5eV〜200eVのイオンエネルギーを持つイオンを含んだ真空アークプラズマを生成する。
前記陰極13、15は、プラズマの主構成物質を供給するソースであり、その形成材料は、導電性を有する固体なら特に限定されない。金属単体、合金、無機単体、無機化合物(金属酸化物・窒化物)等、特に問わず、それらは単独又は2種以上混合して使用することができる。プラズマの構成粒子は、アーク放電部の陰極13、15からの蒸発物質、若しくは蒸発物質と導入ガスを起源(ソース)とするプラズマ化した荷電粒子(イオン、電子)ばかりでなく、プラズマ前状態の分子、原子の中性粒子をも含む。プラズマ加工法(真空アーク蒸着法)における蒸着条件は、電流:1〜600A(望ましくは5〜500A、さらに望ましくは10〜150A)である。更に、電圧:5〜100V(望ましくは10〜80V、更に望ましくは10〜50V)、圧力:10−10〜102Pa(望ましくは10−6〜102Pa、更に望ましくは10−5〜101Pa)である。金属単体としては、Al、Ti、Zn、Cr、Sb、Ag、Au、Zr、Cu、Fe、Mo、W、Nb、Ni、Mg、Cd、Sn、V、Co、Y、Hf、Pd、Rh、Pt、Ta、Hg、Nd、Pb等がある。また、合金(金属化合物)としては、TiAl、AlSi、TiAlSi、NdFe、CrAl、CrSi、CrAlSi、TiSi、TiCr、TiCrSi等がある。また、無機単体としては、C、Si等がある。また、無機化合物(セラミックス)としては、TiO2、ZnO、SnO2、ITO(Indium-Tin-0xide :スズ混入酸化インジウム)、In2O3、Cd2SnO4、CuO等の酸化物がある。更に、TiN、TiAlC、TiC、CrN、TiCN等の炭化物・窒化物等も、それぞれ挙げることができる。
陽極12、14の形成材料は、プラズマの温度でも蒸発せず、非磁性の材料で導電性を有する固体なら特に限定されない。金属単体、合金、無機単体、無機化合物(金属酸化物・窒化物)等、特に問わず、それらは単独又は2種以上混合して使用することができる。前述の陰極に使用した材料を適宜選択して使用することができる。本実施形態において、陽極はステンレス鋼、銅又は炭素材(黒鉛:グラファイト)等から形成され、この陽極には水冷式又は空冷式などの冷却機構を付設するが望ましい。また、陽極の形状はアークプラズマの全体の進行を遮るものでなければ、特に限定されず、筒状体(円筒、角筒を問わない)、コイル状、U字形、更には、上下・左右に一対平行に配置したり、上下左右のどこか1箇所、又は複数箇所に配置して形成してもよい。
プラズマ処理部1のチャンバ内には、ガス導入を行わない場合もあるが、ガス導入システム(図示略)及びガス排出システム(図示略)を接続してもよい。これらのシステムとしては汎用のものを使用できる。ガス導入流量が一定に制御され、かつ排気流量を制御することにより容器全体の真空度(圧力)が一定に制御されるものとする。導入ガスは、アーク放電部から導入してもよく、プラズマ処理部1とアーク放電部の両方から導入してもよい。プラズマ処理部1とプラズマ発生部の両方から導入する場合、ガスの種類が異なってもよく、導入ガスとしては、反応性ガスを使用しない場合に、圧力を一定に保持するための希ガス(通常、Ar、He)等の非反応性ガスを適宜使用する。反応性ガスを使用すると、陰極材料等をソースとする蒸発粒子(プラズマ粒子)と反応して、複化合物膜を容易に形成できる。反応性ガスとしては、窒素(N2)、酸素(O2)、水素(H2)、炭化水素ガス(C2H2、C2H4 、C2H6、CH4、C4H10、C6H6、C6H14、C7H8、C3H8、C10H22、C12H26、等)、酸化炭素ガス(CO、CO2)の群から1種又は複数種を適宜に選択して使用できる。ここで、反応性を制御するために希ガスを混合して反応性ガスの濃度を調整してもよい。又、アルコールの蒸気、有機金属ガス(有機ケイ素ガスを含む)、又は有機金属液体(有機ケイ素液体を含む)の蒸気等を反応性ガスとして用いることができる。ケイ素有機ガス液体とは、有機ケイ素コンパウンドであり、ケイ素を含み、融点が200℃以下の常温で液体や気体であればなんでもよく、例えば、TMS(tetramethylsilane)やTEOS(tetraethoxysilane)であり、また、HMDS(Hexamethyldisilan)、HMDSO(hexamethyldisiloxane)などのSiを含む材料を原料として用いることができる。
共通輸送ダクト10に対して略クランク状に折曲した第2プラズマ輸送経路の横側で、かつ第1プラズマ輸送経路に沿って、第1プラズマ発生部2に対向する経路にドロップレット捕集部11の捕集口が第1プラズマ発生部2と直面して配設されている。ドロップレット捕集部11内には傾斜配置したドロップレット用反射板19が設けられている。第1プラズマ発生部2又は第2プラズマ発生部3において、真空アークプラズマを発生させると、陰極からドロップレット23が発生する。第1プラズマ発生部2において、陰極13に例えばグラファイト用いた場合、真空アークプラズマを発生させると、陰極からグラファイトのドロップレットが発生する。このドロップレット23は、矢印で示す軌跡のように、陰極面のあらゆる方向に放出されるが、放出された後は直線的に運動し,個体障害物が存在すれば,基本的に弾性反射する。そのため,ドロップレット23は陰極13に直面する方向で捕集するのが最も効果的である。第1プラズマ発生部2から直進してくるドロップレット23は、反射板19に衝突して、捕集部底部、側壁等に確実に付着又は堆積させることができ、確実に捕集して効率よくドロップレット23を分離、除去することができる。また、オリフィス20は、中空部の内径がダクト内径より小さい穴あき円板からなり、第1プラズマ輸送経路、第2プラズマ輸送経路及び共通輸送ダクト10の内面側に取り付けることにより、輸送ダクトを局所的に縮径させ、ドロップレット23の量を低減化することができる。更に、別の阻止部材として孔開きディスク状のバッフル21をひだ状に取り付けている。バッフル21は通常複数の板状片からなり、ドロップレット23を捕捉あるいは反射し、ドロップレット23がプラズマ処理部1方向へ進行しないようにする作用を有している。
第1プラズマ発生部2から直進するドロップレット23をドロップレット捕集部11に回収してプラズマ流と分離するために、第1プラズマ輸送経路から共通輸送ダクト10に磁界ガイド輸送する磁界発生部が第1プラズマ輸送経路及び第2プラズマ輸送経路に配設されている。第1プラズマ輸送経路の始端側より、第1プラズマ引き出し用コイル25及び第1プラズマ屈曲コイル26が設けられ、かつ共通輸送ダクト10にはプラズマ収束コイル27が設けられる。これらのコイルは電磁コイル(電磁石)であり、これらの電磁コイルからなる磁界発生部により発生された磁界の作用により第1プラズマ16は第1プラズマ輸送経路から共通輸送ダクト10に誘導される。従って、直進するドロップレット23を分離しながら、高純度化した第1プラズマ16を共通輸送ダクト10に導入輸送することができる。同様に、第2プラズマ輸送経路の始端側には、第2プラズマ引き出し用コイル31、32、第2プラズマ屈曲コイル30が設けられており、これらのコイルにより発生された磁界の作用により第2プラズマ17は第2プラズマ輸送経路から共通輸送ダクト10に誘導される。従って、第2プラズマ発生部3から直進するドロップレット23をドロップレット捕集部11の側壁等に衝突させて分離しながら、高純度化した第2プラズマ17を共通輸送ダクト10に導入輸送することができる。なお、第2プラズマ発生部3の出口には、第2プラズマの共通輸送ダクト10への導入タイミングを制御するための開閉手段であるシャッター22が設けられている。第2プラズマ引き出し用コイル31、32はシャッター22の前後に配置されている。
上記構成のプラズマ処理装置は、第1プラズマ16及び/又は第2プラズマ17の発生時期、あるいは共通輸送ダクト10への導入時期を調整することにより、例えば共通輸送ダクト10への導入を同時に、あるいは時間的に別々に、又は部分的に同時に行うタイミングで制御して、ワークWの成膜仕様・条件に応じた真空アークプラズマによる膜を含む、複合膜や多層膜の形成を円滑に行うことができる。また、本実施形態に係るプラズマ処理装置は、共通輸送ダクト10を経由して、2種類の第1及び第2プラズマ16、17を成膜仕様・条件に応じてプラズマ処理部1に供給することができ、プラズマ加工装置の装置構造のコンパクト化を実現することができる。
本実施形態においても、図1の実施形態と同様に、プラズマ7の導入効率を高めるために、プラズマ処理部1外周に、集束磁場形成用磁界発生器を配置して、集束磁場によりワーク中空部への直進方向にプラズマ7を絞り込み、ワークWにプラズマ7を高効率で導入するようにしてもよい。また、プラズマ処理膜の膜質を更に向上させるために、ワークWに負のバイアス電位を付与するバイアス電位付与用電位発生部A17を設けてもよい。
図12はスキャナー装置18の概略構成図である。輸送されるプラズマ流の直径は30mm〜70mmである。これは成膜面積に等しい。従って、それ以上の領域に成膜しようとする場合、あるいは,それ以上の領域に複数の被処理物が配置されている場合、プラズマ7をスキャンすることにより所望の成膜を得ることができる。(12A)に示すように、共通輸送ダクト10の出口付近に、スキャナー装置18が配設されている。スキャナー装置18は電磁コイルからなるスキャナーコイル62と補正用コイル(図示せず)から構成されている。(12B)の断面図に示すように、(12A)のスキャナーコイル62は、電磁コイルであるX方向電磁石63とY方向電磁石64からなり、スキャナー部ダクト外周に取り付けられる。一方向のみのスキャンでよい場合は、X方向電磁石63とY方向電磁石64のいずれか一方の電磁石を配設すればよい。
図13は、スキャナー装置18に用いる駆動電流を示す波形図である。(13A)に示すように、電磁石62に交播電流を流すことにより1次元的に一方向のみプラズマ流をスキャンさせることができる。一方、図12の(12B)に示すように、X方向電磁石63とY方向電磁石64を取り付けた場合、図13の(13B)に示すように、X方向電磁石63とY方向電磁石64の各々に、位相差を有し、周期的に変化する電流71、72を流すことにより、直進磁界65に対して直交する磁界Bx、Byを変化させて、これらの合成磁界Bzによりプラズマ流を回転若しくは2次元的にスキャンさせることができる。
更に、本発明の別の実施形態として、複数のプラズマ源を備えたプラズマ処理装置を図14に基づき説明する。
図14は、本実施形態に係るプラズマ処理装置の断面構成図である。図11と同様の構成部材は同じ符号を付して説明を省略する。このプラズマ表面処理装置においては、2種類の第1プラズマ100及び第2プラズマ101を使用する。各プラズマは、第1プラズマ発生部2、第2プラズマ発生部3において真空雰囲気下に設定されたアーク放電部で真空アーク放電を行って発生させる真空アークプラズマである。第1プラズマ100は第1プラズマ発生部2に連結された第1プラズマ導入路103を介して共通輸送ダクト104に導入される。第2プラズマ101は第2プラズマ発生部3に連結された第2プラズマ導入路105を介して共通輸送ダクト104に導入される。
第1プラズマ導入路103及び第2プラズマ導入路105のプラズマ導入角度は共通輸送ダクト104の輸送方向に対して鋭角に設定されている。第1プラズマ100及び第2プラズマ101はそれぞれ、第1プラズマ導入路103、第2プラズマ導入路105を介して共通輸送ダクト104に合流する。このとき、各プラズマ導入角度が共通輸送ダクト104の輸送方向に対して鋭角に設定されていることにより、各プラズマ発生に伴って生じるドロップレットが直進して共通輸送ダクト104の合流口内壁付近に衝突する。従って、ドロップレットが共通輸送ダクト104を通過してプラズマ処理部1内に進入することを防止することができる。このようにしてドロップレットを除去した第1プラズマ100及び第2プラズマ101のプラズマ流が共通輸送ダクト104を経由してプラズマ処理部1に誘導される。このとき、第1プラズマ100及び第2プラズマ101を共通輸送ダクト104に導入するタイミングを制御することにより、プラズマ処理部1内のワークW表面に対して単一膜、混合膜、あるいは積層膜(多層積,超多層膜,超々多層膜)形成等の表面処理加工が行われる。第1プラズマ導入路103及び第2プラズマ導入路105のプラズマ発生部側の各始端には、それぞれ第1プラズマ100の引き出し用コイル106、第2プラズマ101の引き出し用コイル107が配設されている。
プラズマ処理部1は、孔又は溝を有した被処理物(ワーク)Wが配置され、プラズマ導入口34からのプラズマは、孔又は溝の深さ方向がプラズマ直進方向に対応するように導入される。ワークWは中空円筒形状を備えた物体であり、中空内面にプラズマ処理膜を形成するためにプラズマ処理部1内に設置されている。ワークWの中空軸がプラズマ7の直進方向の中心軸に略対応してワークWが設置されている。ワークWの中空軸をプラズマ7の直進方向に対して±45°(θ)傾斜した範囲で設置してもよい。本実施形態のプラズマ処理装置においては、ワークWへの上記プラズマ7の直進導入構成と、高イオンエネルギーを持つイオンを含んだ真空アークプラズマを使用して、プラズマの拡散の影響を受けることなく、ワーク中空部に導入されるプラズマイオンの量を多くして、孔又は溝の内面に均一な膜形成を高精度に行うことができる。更に、図1と同様に、プラズマ7の導入効率を高めるために、プラズマ処理部1外周に、集束磁場形成用磁界発生器を配置して、集束磁場によりワーク中空部への直進方向にプラズマ7を絞り込み、ワークWにプラズマを高効率で導入する。
真空チャンバ4の一側面にはプラズマ導入口34が開口配置されている。プラズマ導入口34は、2つのプラズマ発生部2、3から発生するプラズマを導くプラズマ共通輸送ダクト104と連通している。真空チャンバ4と共通輸送ダクト104の最終部との間に、プラズマをチャンバ内でスキャンするための電磁コイルからなるスキャナー装置18が設けられている。共通輸送ダクト10及びスキャナー装置18はプラズマ導入口34に対して、換言すればチャンバの中心部に向けて直線状に配設されている。共通輸送ダクト10の始端側には第1プラズマ導入路103及び第2プラズマ導入路105が平面視略Y字形に接続されている。本実施形態では、第1プラズマ導入路103及び第2プラズマ導入路105の導入角度は前記共通輸送ダクトに対して略45°に設定されている。共通輸送ダクト104の拡径部116外周には、ミキサーコイル117が配設され、回転磁場が付与される。また、前記拡径部116の前段と後段には、プラズマ収束コイル27、127が配設されている。
第1プラズマ導入路103の始端側に第1プラズマ発生部2が配設され、第2プラズマ導入路105の始端側に第2プラズマ発生部3が配設されている。第1プラズマ発生部2は、陽極108と陰極109からなる真空アーク放電部を有する。同様に、第2プラズマ発生部3も、陽極110と陰極111からなる真空アーク放電部を有する。各アーク放電部には、カソード及びアノード電極の他に、トリガ電極(図示略)やアーク安定化磁界発生器112、113等も備え、孔又は溝を有した被処理物のプラズマ処理するためには、5eV〜500eVのイオンエネルギーを持つイオンを含んだ真空アークプラズマを生成する。
ドロップレットの除去効率を高めるために、ドロップレットが第1プラズマ100又は第2プラズマ101の進行方向に進行することを阻止するための阻止部材を設けるのが好ましい。オリフィス114は、中空部の内径がダクト内径より小さい穴あき円板からなる。オリフィス114を共通輸送ダクト104、第1プラズマ導入路103及び第2プラズマ導入路105の内面側に取り付けることにより、輸送ダクトの局所的な縮径を生じ、プラズマ処理部1方向へ進行するドロップレットの量をより一層少なくすることができる。また、第1プラズマ導入路103及び第2プラズマ導入路105の内面側および共通輸送ダクト104の内面には、別の阻止部材として穴あきディスク状のバッフル115をひだ状に取り付けている。バッフル115は通常複数の板状片からなり、ドロップレットを捕捉あるいは反射し、ドロップレットがプラズマ処理部1方向へ進行しないようにする働きを有する。
本実施形態に係るプラズマ処理装置においては、第1プラズマ導入路103、第2プラズマ導入路105及び共通輸送ダクト104が平面上に投影したとき略Y字形をなすので、第1プラズマ導入路103及び第2プラズマ導入路105の、共通輸送ダクト104の輸送方向に対する導入角度を鋭角に設定した構造とすることができるため、複数のプラズマ発生源をコンパクトに配設され、簡素化された構造のプラズマ処理装置を実現することができる。
更に、被処理物前方において孔又は溝等の内面を擬似的に形成して、配置することにより、被処理物に与える直前でプラズマが他のイオンとの衝突する割合を削減し、被処理物のプラズマ表面膜の均一化を行うプラズマ処理装置の実施形態を説明する。図15はこの実施形態のプラズマ処理装置の要部構成を示す。上記の実施形態と同様に、5eV以上のイオンエネルギーを持つイオンを含んだプラズマを生成しておき、そのプラズマ201をプラズマ処理部200に直進させて導入する。プラズマ処理部200内に配置されるワークW2は、孔又は溝等を有する形状のものでも、平坦な基板状のものでもよい。(15B)に示すように、ワークW2前方のプラズマ201に対面する位置に、貫通孔203を複数穿設したマスク202が配設される。このように、プラズマ進行方向の直前に、貫通孔203を有したマスク202を配置し、その孔軸方向を直進方向に対応させ、プラズマ201を貫通孔203を通過させてワークW2の表面をプラズマ処理する。このプラズマ処理装置によれば、マスク201の貫通孔203を通過することにより、十分な量のプラズマ201をワークW2の表面に到達させることができ、均一な膜形成を高精度に行うことができる。ワークW2とマスク201の距離を保ちつつ相対的に移動できる機構を備えると、ワーク表面全体への成膜が可能となる。また、マスク201の貫通孔203は円形である必要はなく、矩形やその他の形状であってもよい。更に、貫通孔203の内面形状は、テーパー状であっても良く、目的に応じて適宜選択することができる。尚、以下では、(15B)に示すような同形の貫通孔203が複数形成されたマスク201を「多孔マスク」と呼ぶ。
図16は、本発明に係る多孔マスク41を備えたプラズマ処理装置による生成膜46の形成機構を説明する概略図である。(16A)に示すように、多孔マスク41には、複数の貫通孔42が略等間隔に形成され、前述のように、この多孔マスク41が平面の被処理物の直前に配置される。即ち、(16B)に示すように、前記プラズマ処理装置のプラズマ処理部において、被処理物である基板43の基板表面43a側に多孔マスク41が配置される。更に、基板43と多孔マスク41の距離が一定に保持されながら移動できる可動手段を備えており、基板42と多孔マスク41は、それぞれ、XS−YS方向とXM−YM方向に独立に移動することができる。即ち、多孔マスク41の貫通孔42が基板43に対して移動することにより、基板表面43aに生成膜46が形成される。また、図には、プラズマ流Pが矢印により模式的に示されており、このプラズマ流Pは、前述のように、スキャナーコイル(図示せず)の磁界によりXP−YP平面の所望の方向にスキャンすることができる。従って、多孔マスク41、基板43、プラズマ流Pのそれぞれを相対的に移動させることができ、多孔マスク41を固定して基板43を移動させてもよく、基板43を固定して多孔マスク41を移動させても良い。
更に、(16B)では、バイアス電源44により多孔マスク41に負のバイアスが印加されると、貫通孔42内では、ホローカソード効果によりプラズマ中の電子の振動現象が発生し、高密度プラズマが発生する。このとき、バイアス電源45により基板43にも負のバイアスが印加され、多孔マスク41の貫通孔42で発生した高密度プラズマが基板表面43aに誘導されて生成膜が形成される。基板43に負のバイアス電位に付与されることにより、生成膜46と基板表面43aとの密着性が向上する。基板43のような平面状の被処理物にマスクが配設される場合、ホローカソード効果により高密度プラズマ状態を高効率に発生させるためには、マスクの厚さが1mm〜20mm、好ましくは5mm程度、貫通孔の直径が1mm〜5mm、好ましくは2mm程度であることが望ましい。
図17は、本発明に係る中空円筒状の被処理物(ワーク)Wの概略図であり、(17A)〜(17E)に示す中空円筒状の各ワークWには、種々の形状の孔部52が形成されている。前述のように、ワークWには、負のバイアスが印加され、孔部52の内面を含む被処理物表面が高効率にプラズマ処理される。本発明に係るプラズマ処理装置を用いて、(17A)の直孔状、(17B)のテーパー状及び(17C)の両テーパー状の孔部52が形成された各ワークWに対してプラズマ処理を施し、膜形成や表面改質が高効率に実施できることが確かめられている。更に、(17D)に示すように、溝部54のような内部構造が孔部52の内面に形成される場合や、(17E)に示すように、孔部52が貫通していない場合においても好適なプラズマ処理が施される。従って、本発明に係るプラズマ処理装置によれば、複雑な構造を有するワークWであっても構造部表面にプラズマを照射して、プラズマ処理を高効率に施すことができる。
図18は、本発明に係るプラズマ処理部にマスクとして孔開きシールド51が配設された場合の配置図である。中空状のワークWの外面50を処理しない場合、プラズマ流Pを絞り、所定領域以外にプラズマ流Pが照射されることを低減化することも可能であるが、より確実で効率的な方法としては、孔開きシールド51を設けることが好ましい。この孔開きシールド51は、前記プラズマ流Pの直径(通常50mm程度)またはプラズマ流Pのスキャン範囲(大凡300mm)より大きく、プラズマ流PがワークWの外面に照射もしくは暴露されることが防止される。更に、開口部55は、孔部入口56より小さく設定され、前記孔開きシールド51とワークWの間隔は、接触状態または極めて近接していることが好ましい。
図19の(19A)は、本発明に係る孔開きマスク80を用いて、被処理物であるマイクロドリル81をプラズマ処理する場合の概略図である。孔開きマスク80の貫通孔84の中にマイクロドリル81の被処理部82が挿入されている。この被処理部82は、孔開きマスク80の孔深さLより短く設定され、マスク内径Dと被処理部外径dとの隙間が2mm以下であることが好ましく、ホローカソード効果を発生させることができる。従って、被処理部82の全表面において、貫通孔84の内面までの間隔が2mm以下となるように前記マスク内径Dが設定されることがより好ましい。また、孔開きマスク80自体が磁石から形成される場合、プラズマ流Pを高効率に貫通孔84内に導入し、前記被処理部82をプラズマ処理することができる。
(19B)は、本発明に係るプラズマ処理部において、負のバイアスを印加した板状マスク85a、85bの間に複数の被処理物を配置した場合の構成概略図である。板状マスク85a、85bは、複数の被処理物を配置することができ、この実施例では、複数のマイクロドリル81が配列されている。板状マスク85a、85bに負のバイアスを印加してプラズマ流Pを導入し、同時に複数のマイクロドリル81の被処理部82がプラズマにより処理される。板状マスク85a、85bが互いに対向する方向(横方向)には、ホローカソード効果が大きいが、板状マスク85a、85bの面方向(縦方向)にはその効果が少ないことから、前記被処理物表面に均一な成膜する場合は、被処理物を回転させることが好ましい。
板状マスク85a、85bによれば、複数の被処理物にプラズマ処理を施す場合において、被処理物1個に1個のマスクを設置する、または前述した多孔マスクの各貫通孔に被処理物をセットするといった煩雑な作業を行う必要がなく、簡易にプラズマ処理を行うことができる。また、大きさや形状の異なる被処理物に対しても、同じ板状マスク85a、85bを用いてプラズマ流Pをマスクすることができる。さらに、メンテナンスにおいて、孔開きマスク又は多孔マスクに成膜された生成膜を除去するという面倒な作業が軽減される。
図20は、本発明に係る集束磁場形成用磁界発生器90の配置例を示す概略図である。(20A)に示すように、集束磁場形成用磁界発生器90は、プラズマ処理部93の被処理物(ワークW)の軸方向を同軸上に覆うように配置される。プラズマ進行方向に対してワークWの前後のいずれか又は両方に配置してもよい(図1参照)。集束磁場形成用磁界発生器90は、一個以上の磁石91から構成され、磁界によりプラズマ流Pのビーム径を絞り、さらにプラズマ流Pの経路を限定することができる。磁石91には電磁石、永久磁石のいずれを用いても良い。また、(20B)に示すように、集束磁場形成用磁界発生器90が配置される位置は、真空チャンバの外でもよい。また、集束磁場形成用磁界発生器90が、ワークWの軸方向を相対的に移動できる機構を備えていてもよい。
図21は、本発明に係るスキャナー装置95を備えたプラズマ処理部内の概略図である。(21A)は、プラズマ流Pの進行方向に対して直交する断面内おけるスキャナー装置96とワークWの配置を模式的に示す概略図であり、(21B)は、(21A)におけるプラズマ流PをX方向から視た場合の概略図である。(21A)に示すように、ワークWの内径が直進するプラズマ流Pの直径(約50mm)より大きい場合、プラズマ流Pをスキャンして成膜することができ、ワークWの回りに図12及び図13と同様のスキャナー装置95を配置し、ワークWの表面をプラズマ処理することができる。スキャナー装置95は、電磁コイルであるX方向電磁石96とY方向電磁石97からなり、ワークWの周りに取り付けられる。X方向電磁石96の磁界強度とY方向電磁石97の磁界強度を制御し、それらの合成磁界を回転させ、点線矢印で示すように、プラズマ流Pの経路を回転させ、ワークWの被処理部表面を全てプラズマ処理することができる。
本発明は、上記実施形態や変形例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々変形例、設計変更などをその技術的範囲内に包含するものであることは云うまでもない。