JP2008223062A - 母材および溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板 - Google Patents

母材および溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】大入熱溶接を行った場合であってもHAZ靭性が優れると共に、母材自体の靭性にも優れた厚鋼板を提供する。
【解決手段】本発明の厚鋼板は、所定の化学成分組成を満足すると共に、下記(1)式の関係を満足し、且つ、円相当直径で0.05μm以下のTi含有窒化物が1mm2当り5.0×106個以上存在すると共に、REMおよび/またはCaと、TiとZrを含有する酸化物であって、円相当直径で0.2〜5μmの酸化物が1mm2当り500個以上存在するものである。
[Ti]×16[Si]×(12−40[C])<0.38(%)…(1)
但し、[Ti],[Si]および[C]は、夫々Ti,SiおよびCの含有量(質量%)を示す。
【選択図】なし

Description

本発明は、橋梁や高層建造物、船舶などの溶接構造物に適用される鋼板に関し、殊に大入熱溶接後の母材および熱影響部(以下、単に「HAZ」と呼ぶことがある)の靭性に優れた鋼板に関するものである。
近年、上記各種溶接構造物の大型化に伴い、板厚が50mm以上である厚鋼板の溶接が不可避となっている。このため、あらゆる分野において、溶接施工効率の改善という観点から、50kJ/mm以上の大入熱溶接が指向される状況である。
しかしながら、大入熱溶接を行うと、HAZが高温のオーステナイト領域まで加熱されてから徐冷されるので、HAZ部(特にHAZ部のボンド部付近)の組織が粗大化し、その部分の靭性が劣化しやすいという問題がある。こうしたHAZ部における靭性(以下、「HAZ靭性」と呼ぶことがある)を良好に確保することが、永年の課題となっている。
大入熱溶接時におけるHAZ靭性の劣化防止のための技術は、これまでにも様々提案されている。こうした技術の代表例としては、例えば特許文献1に示されるように、鋼材中に微細なTiNを分散析出させることで、大入熱溶接を行なったときのHAZで生じるオーステナイト粒の粗大化を抑制し、HAZ靭性の劣化を抑えた鋼材が提案されている。しかしながらこうした技術では、溶接金属が1400℃以上の高温になると、HAZのうち特に溶接金属に近接した部位(ボンド部)において、溶接時に受ける熱により上記TiNが固溶消失してしまい、HAZ靭性の劣化を十分に抑えることができないという問題がある。
こうしたことから、例えば特許文献2には、MgOを活用してTiNを微細分散させると共に、大入熱溶接時に固溶するTiNの代替として活用することによってHAZ靭性を改善することも提案されている。しかしながら、酸化物を利用するものでは、TiNに匹敵するほどの均一微細分散が困難であり、特性にバラツキが生じやすいという問題がある。
また、特許文献3には、粒径が0.1μmを超えるような粗大TiNの生成を抑制するために、粒径が0.01〜0.1μmである微細TiNの分布の適正化を図ることによって、HAZ靭性の改善を図る技術も提案されている。しかしながら、微細TiNの分布の適正化を図るだけでは、十分なHAZ靭性を確保することはできない。
ところで本発明者らは、溶接時に高温の熱影響を受けた場合でもHAZの靭性が劣化しない鋼材を特許文献4に先に提案している。この技術では、鋼材にNを多量に添加し、且つTiとBの添加バランスを適切に制御することによって、溶接後も未固溶で存在するTiNの量を増加させ、HAZ靭性を改善するものである。
また本発明者らは、溶接用鋼中に存在するTiN系介在物の中にNbを積極的に含有させると共にTi/Nb比を制御し、粒径が0.01〜0.25μmである介在物の個数を1mm2当りで1.0×104個以上とすることにより、幅広い入熱範囲でのHAZ靭性を確保する技術も提案している(例えば、特許文献5)。
特公昭55−26164号公報 特開平10−298708号公報 特開2001−98340号公報 特開2005−200716号公報 特開2004−218010号公報
しかしながら、溶接の分野では、HAZ靭性の更なる改良が求められているのが実情である。また、圧下量が低下する鋼板(母材)の板厚中心部の低温靭性が低下するという問題も指摘されている。母材の靭性の改善には、仕上げ圧延温度を低下させることが有効であることが知られているが、鋼板の板厚拡大に伴って、板厚が80mm以上になるような厚鋼板では、十分な靭性が確保できないという問題がある。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、大入熱溶接を行った場合であってもHAZ靭性が優れると共に、母材自体の靭性にも優れた厚鋼板を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る厚鋼板とは、C:0.03〜0.12%(「質量%」の意味。以下同じ)、Si:0.20%以下(0%を含む)、Mn:1.0〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.01%以下(0%を含まない)、Ti:0.015〜0.08%、N:0.0060〜0.0120%、B:0.0010〜0.0050%およびZr:0.0001〜0.050%の他、REM:0.001〜0.05%および/またはCa:0.0003〜0.02%を含有すると共に、下記(1)式の関係を満足し、且つ円相当直径で0.05μm以下のTi含有窒化物が1mm2当り5.0×106個以上存在すると共に、REMおよび/またはCaと、TiとZrを含有する酸化物であって、円相当直径で0.2〜5μmの酸化物が1mm2当り500個以上存在する点に要旨を有する。
[Ti]×16[Si]×(12−40[C])<0.38(%)…(1)
但し、[Ti],[Si]および[C]は、夫々Ti,SiおよびCの含有量(質量%)を示す。
尚、上記「円相当直径」とは、Ti含有窒化物や酸化物の大きさに着目して、その面積が等しくなる様に想定した円の直径を求めたもので、透過型電子顕微鏡(TEM)観察面上で認められる窒化物および酸化物のものである。本発明で対象とするTi含有窒化物は、TiNは勿論のこと、Tiの一部(原子比で50%以下程度)を他の窒化物形成元素(例えば、Nb,Zr,V等)で置換した窒化物をも含む趣旨である。また、本発明で対象とする酸化物は、酸化物単体は勿論のこと、酸化物に硫化物や窒化物(Tiを含有しない窒化物)等の他の化合物が複合析出したものをも含むものである。
本発明の厚鋼板には、必要によって更に(a)Cu,NiおよびCrよりなる群から選ばれる1種以上の元素:合計で0.1〜1.5%、(b)Mo:0.5%以下(0%を含まない),Nb:0.05%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素、等を含有させることも有用であり、こうした元素を含有することでその種類に応じて厚鋼板の特性が更に改善されることになる。
本発明によれば、上記(1)式の関係を満足させつつ、鋼板の化学成分組成を適切な範囲内に納めると共に、窒化物および酸化物を適切に微細分散させることによって、大入熱溶接時に鋼材中に固溶消失しない微細な窒化物および酸化物を鋼中に均一分散できるため、母材および溶接熱影響部(HAZ)の靭性改善を図った厚鋼板が実現できた。
本発明者らは、溶接時の高温においても溶け残るTi含有窒化物(以下、TiNで代表することがある)を増加させることに成功しているのであるが(前記特許文献4)、こうした技術を基本として、HAZ靭性を更に改善するために検討を重ねた。
溶接時には、微細TiNは溶解すると共に、粗大なTiNは粒成長するような挙動(オストワルド成長)を示すことになる。本発明者らは、こうした挙動に着目し、できるだけ微細なTiNを多量に分散させてやることによって、粒成長した後においてもTiN分布が微細均一になるようにするには、円相当直径で0.05μm以下のTiNが1mm2当り5.0×106個以上となるように制御すれば良いことを見出し、その技術的意義が認められたので先に出願している(特願2006−307081号)。
この技術の開発によって、大入熱溶接したときのHAZ靭性が格段に向上し得たのであるが、特に板厚が80mm以上になるような厚鋼板では、鋼板(母材)の板厚中心部(板厚1/2部)で良好な低温靭性が確保できないことがあることが判明した。
本発明者によれば、TiNのみを分散させた厚鋼板において板厚中心部で良好な低温靭性が確保できない原因は、スラブの厚さ方向でTiNの分散が異なるためと推察された。即ち、TiNは鋳造時に生成するので、凝固偏積の影響を受け、表層部と中心部でサイズや分布にバラツキが生じるものと考えられた。
そこで本発明者らは、厚さ方向に比較的均一に分散できる酸化物をも有効に利用することに着目し、更に検討した。その結果、REMおよび/またはCaと、TiとZrを含有し、円相当直径で0.2〜5μmの酸化物が1mm2当り500個以上存在するようにすれば、母材の低温靭性が格段に改善され得ることが判明したのである。またこうした酸化物の分散は、HAZ靭性を更に向上させる上でも有効であることも判明したのである。即ち、本発明の厚鋼板でHAZ靭性改善のために、微細なTiNを主体として分散させるものであるが、上記オストワルド成長によって粗大化してHAZ靭性改善効果を失うTiNの代替として、酸化物が有効に作用し得ることも判明したのである。
酸化物分散による上記の効果を発揮させるためには、円相当直径で0.2〜5μmの酸化物が1mm2当り500個以上存在するように制御する必要がある。酸化物の大きさが円相当直径で0.2μm未満であるような微細酸化物では、分散させることによる効果が発揮されず、円相当直径で5μmを超えるような粗大酸化物では、脆性破壊の起点となって却って靭性の低下を招くことになる。
尚、上記のような酸化物の分散状態を実現するには、溶鋼中の溶存酸素量を0.0020〜0.010%程度に制御した上で、Tiを添加し、引き続きREMおよび/またはCaとZrの添加を行い、鋳造時の1500〜1300℃の温度範囲での冷却速度を10℃/分以上に制御すれば良い。上記溶存酸素量が0.0020%未満では、上記各元素を複合添加しても酸素量が不足するため、母材およびHAZの靭性向上に寄与する酸化物分散量を確保することができない。また溶存酸素量が0.010%を超えると、溶鋼中の酸素量が多過ぎるため、溶鋼中の酸素と上記各元素の反応が激しくなって溶製作業上好ましくないばかりか、粗大な複合酸化物が生成しやすくなる。
本発明の鋼板においては、後述する制御によって、微細なTiNを主体として分散させることも要件とするものであるが、一部粗大なTiN(例えば、円相当直径で0.05μmよりも大きいTiN)が含まれていても、こうした粗大TiNは鋼板の特性にそれほど影響を与えない。要するに、円相当直径で0.05μm以下となるようなTiN(Ti含有窒化物)が所定量分散されていれば良い。
ところで、TiNを多量に分散させるためには、TiおよびNの含有量を増大させる必要がある(Tiで0.015%以上、Nで0.0060%以上)。しかしながら、TiNは鋼材鋳造時の1500℃前後で生成しやすく、この温度域で生成するTiNは、Ti,Nの増量によって更に粗大化しやすい状況にある。その結果、上記のような適切はTiNの分布状態を達成しにくくなる。
そこで、本発明者らは鋳造時の高温域で生成するTiN量を低減するべく、更に検討した。高温域でTiNが生成しやすいのは、Tiの活量が高いためであると推定できた。そして、Tiの活量を低下させるとの着想の下で、検討したところ、Tiの活量を上昇させるSiと、Tiとの関係を適切に制御してやれば、高温域で生成するTiN量を低減できるとの着想が得られた。
また、TiNの高温粗大化を抑制する手段として、鋼の状態図で表される「δ域」の温度範囲を縮小させることも有効であることも知見している。本発明者らは、かねてより鋼板のHAZ靭性改善を目指して検討しており、その研究の一環として、鋼の状態図において表わされるδ域の温度範囲を縮小させることにより、同じTi,N添加量であっても、TiNを微細分散させ得ることを見出しており、その技術的意義が認められたので先に出願している(特願2006−31457号)。本発明では、こうした知見をも応用するものである。
上記「δ域」とは、鉄の状態図においてδ鉄が含まれる領域を意味する。この「δ鉄が含まれる領域」は、δ鉄のみの領域の他にも、δ+γの2相領域など、δ相と他の相状態が含まれる領域も包含する。そして、「δ域の温度範囲」とは、δ鉄が含まれる温度範囲(δ域の上限温度と下限温度の差)をいう。ここで特定組成の鋼において、例えばδ鉄のみの温度範囲とδ+γ鉄の温度範囲がある場合は、これらの温度範囲の合計がδ域の温度範囲となる。このδ域の温度範囲は、総合熱力学計算ソフトウエア(Themo−calc、CRC総合研究所から購入可能)に、鋼材の化学成分組成を入力することによって計算することができる。
上記のようなδ鉄中ではTiの拡散速度が速いので、δ域の温度範囲が広いと、δ鉄が存在する時間が長くなり、粗大なTi含有窒化物が形成され易くなると考えられる。上記技術では、Themo−calcの計算にて、特定成分を基準に化学成分量を1つだけ変更することにより、各化学成分のδ域の温度範囲への影響を調べたところ、C,Si,Mn,Nb等が関与し得ることを知見し、これらの成分を要素とする所定の関係式を求めた。また上記成分のうち、特にCはδ域の温度範囲を縮小する上で有用な成分である。
このようなCによる「δ域温度範囲縮小効果」に加え、上記したSiとTiとの関係を適切に制御することによる高温域での「TiN量低減効果」を考慮し、これらの成分(C,SiおよびTi)がHAZ靭性に与える影響について、実験によって更に検討した。その結果、上記成分が下記(1)式の関係を満たしたとき、Cによる「δ域温度範囲縮小効果」と高温域でのTiN量低減効果が有効に発揮され、HAZ靭性が極めて良好になり得ることを見出したのである。
[Ti]×16[Si]×(12−40[C])<0.38(%)…(1)
但し、[Ti],[Si]および[C]は、夫々Ti,SiおよびCの含有量(質量%)を示す。
各化学成分量が適正範囲内であれば、上記(1)式の左辺の値[[Ti]×16[Si]×(12−40[C]):以下「Z値」と呼ぶ]が小さくなるほど、上記「δ域温度範囲縮小効果」および/または「TiN量低減効果」が有効に発揮され、HAZ靭性が良好になる。このZ値の上限は0.38(%)であるが、好ましい上限は0.35(%)、より好ましくは0.30(%)以下である。尚、Z値の下限は各化学成分の適正量から定められ、0.0(%)程度である。
次に、本発明の鋼材(母材)における成分組成について説明する。上記のように、本発明の鋼板は、その化学成分組成が上記(1)式の関係式を満足していても、夫々の化学成分(元素)の含有量が適正範囲内になければ、母材とHAZの優れた靭性を達成することができない。従って、本発明の厚鋼板では、Ti含有窒化物および酸化物の分布状況が良好であること、および化学成分が上記(1)式を満たすことに加えて、夫々の化学成分の量が、以下に記載するような適正範囲内にあることも必要である。これらの成分の範囲限定理由は、下記の通りである。
[C:0.03〜0.12%]
Cは、鋼板の強度を確保するために欠くことのできない元素であり、また前述のごとく鋼の状態図におけるδ域の温度範囲を縮小させるのに有効な元素である。C含有量が0.03%未満では、鋼板の強度が確保できないばかりか、δ域の縮小効果が発揮されず、Ti含有窒化物が粗大化することになる。好ましくは0.04%以上であり、より好ましくは0.05%以上である。しかしながら、0.12%を超えると、溶接時にHAZに島状マルテンサイト相(MA相)が多く生成してHAZの靭性劣化を招くことになる。従ってCは0.12%以下(好ましくは0.10%以下)に抑える必要がある。
[Si:0.20%以下(0%を含む)]
Siは、固溶強化によって鋼板の強度を確保するのに有用な元素であるが、過剰に含有させると、上記(1)式を満足していてもTiの活量を高めることによってTi含有窒化物の粗大化を招くことになる。こうした観点から、Si含有量は0.20%以下にする必要があり、好ましくは0.15%以下に抑える。尚、HAZに更なる高靭性が求められる場合には、Si含有量は0%であっても良い。
[Mn:1.0〜2.0%]
Mnは、鋼板の強度を確保する上で有用な元素であり、こうした効果を有効に発揮させるには、1.0%以上含有させる必要がある。好ましくは1.4%以上である。しかし、2.0%を超えて過剰に含有させるとHAZの強度が上昇し過ぎて靭性が劣化するので、Mn含有量は2.0%以下とする。好ましくは1.8%以下である。
[P:0.03%以下(0%を含まない)]
不純物元素であるPは、粒界破壊を起こし易く靭性に悪影響を及ぼすので、その量はできるだけ少ないことが好ましい。靭性を確保するという観点からして、P含有量は0.03%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.02%以下とする。しかし、工業的に、鋼中のPを0%にすることは困難である。
[S:0.015%以下(0%を含まない)]
Sは、HAZの高温割れを助長する不純物であり、その量ができるだけ少ないことが好ましい。HAZ靭性を確保するという観点からして、S含有量は0.015%以下に抑制する必要があり、好ましくは0.008%以下とする。しかし、工業的に、鋼中のSを0%にすることは困難である。
[Al:0.01%以下(0%を含まない)]
Alは、脱酸元素として有用であるが、その含有量が過剰になるとHAZ靭性が劣化するので、0.01%以下に抑える必要があり、好ましくは0.008%以下とする。
[Ti:0.015〜0.08%]
Tiは、Nと微細な窒化物および酸化物を形成して母材およびHAZの靭性向上に寄与する元素である。こうした効果を有効に発揮させるには、Tiは0.015%以上含有させることが必要であり、好ましくは0.018%以上とする。しかし過剰に添加すると、Ti含有窒化物が粗大になってHAZの靭性を劣化させるため、0.08%以下に抑えるべきである。好ましくは0.060%以下とする。
[N:0.0060〜0.0120%]
Nは、高温で溶け残る窒化物(Ti含有窒化物)を形成することによって、HAZ靭性を確保する上で有用な元素である。N含有量を0.0060%以上(好ましくは0.0070%以上)とすることによって、高温で溶け残るTi含有窒化物が増加することになる。しかしN含有量が過剰になると、固溶N量が増大してHAZ靭性が劣化する。従ってNは0.0120%以下に抑える必要があり、好ましくは0.010%以下とする。
[B:0.0010〜0.0050%]
Bは、溶接時に加熱されたHAZが冷却される過程において鋼中のNと結合してBNを析出しHAZ靭性を改善させる。こうした効果を有効に発揮させるには、0.0010%以上含有させる必要がある。好ましくは0.0015%以上である。しかし、B含有量が過剰になると、HAZのベイナイト組織を粗大化させて靭性が劣化するので、0.0050%以下とする必要がある。好ましくは0.0040%以下とするのがよい。
[Zr:0.0001〜0.05%]
Zrは、母材およびHAZの靭性向上に寄与する酸化物を構成する元素であり、これらが含有されることによって酸化物の微細化が図れることになる。こうした効果を有効に発揮させるには、Zrは0.0001%以上含有させる必要があり、好ましくは0.001%以上とする。しかし過剰に添加すると、酸化物が粗大になって母材およびHAZの靭性を劣化させるため、0.05%以下に抑えるべきである。好ましくは0.040%以下とする。
[REM:0.0001〜0.05%および/またはCa:0.0003〜0.02%]
REM(希土類元素)およびCaは、上記Zrと同様に、母材およびHAZの靭性向上に寄与する酸化物を構成する元素であり、これらが含有されることによって酸化物の微細化が図れることになる。こうした効果を有効に発揮させるには、REMで0.0001%以上、Caで0.0003%以上含有させる必要がある。好ましくはREMで0.001%以上、Caで0.0005%以上である。しかしこれらの元素の含有量が過剰になると、介在物(酸化物)が粗大化して母材およびHAZの靭性が劣化するため、REMで0.05%以下、Caで0.02%以下とする必要がある。好ましくはREMで0.03%以下、Caで0.015%以下である。
尚、本発明において、REM(希土類元素)とは、ランタノイド元素(LaからLnまでの15元素)およびSc(スカンジウム)とY(イットリウム)を含む意味である。
本発明で規定する含有元素は上記の通りであって、残部は鉄および不可避的不純物であり、該不可避的不純物として、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素(例えば、Sn,As,Pb等)の混入が許容され得る。また、更に下記元素を積極的に含有させることも有効であり、含有される成分の種類に応じて鋼板の特性が更に改善される。
[Cu,NiおよびCrよりなる群から選ばれる1種以上の元素:合計で0.1〜1.5%]
Cu,NiおよびCrは、いずれもHAZ靭性に影響を与えず、焼入れ性を高めて鋼板の強度を高めるのに有効に作用する元素である。こうした効果を発揮させるには、これらを1種または2種以上(合計)で0.1%以上含有させることが好ましい。より好ましくは0.15%以上とする。しかしこれらの元素の含有量が過剰になると、HAZにおけるMA相増加によってHAZ靭性が劣化するため、1.5%以下に抑えることが好ましい。より好ましくは1.0%以下である。
[Mo:0.5%以下(0%を含まない),Nb:0.05%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素]
Mo,NbおよびVは、母材およびHAZの両方の強度を高めるのに有効に作用する元素である。こうした効果は、含有量が増加するにつれて増大するが、それらの効果をより有効に発揮させるためには、Moで0.1%以上、Nbで0.005%以上、Vで0.01%以上含有させることが好ましい。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、HAZにおけるベイナイト組織を粗大化させて靭性が劣化するため、Moで0.5%以下(より好ましくは0.4%以下)、Nbで0.05%以下(より好ましくは0.030%以下)、Vで0.1%以下(より好ましくは0.08%以下)に抑えることが好ましい。
本発明において、Ti含有窒化物を上記のように制御するには、上記成分組成を満たす溶鋼を用い、鋳造時の冷却速度を制御することが有効である。即ち、1500〜1300℃の温度範囲を10℃/min以上で冷却してスラブを形成することが推奨される。また、この様に冷却速度を制御するには、スラブ厚を低下させたり、冷却水量を増加させたりする手段が挙げられる。
本発明は厚鋼板に関するものであり、該分野において厚鋼板とは、JISで定義されるように、一般に板厚が3.0mm以上であるものを指す。しかし、本発明の厚鋼板の板厚は、80mm以上であることが好ましい。即ち、本発明の厚鋼板は、板厚が80mm以上となるような鋼板で、入熱量が50kJ/mm以上の大入熱溶接を行っても良好なHAZ靭性を示すものである。但し、本発明の鋼板の厚みは80mm以上のものに限定されず、50mm以上或いは、それ未満となるような鋼板への適用を排除するものではない。
こうして得られる本発明の厚鋼板は、例えば橋梁や高層建造物、船舶などの構造物の材料として使用でき、小〜中入熱溶接はもとより大入熱溶接においても、母材および溶接熱影響部の靭性劣化を防ぐことができる。
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更して実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
下記表1に示す組成の鋼を、溶鋼中の溶存酸素量をSi,Mn添加量によって制御しつつ溶製法によって溶製し、この溶鋼を鋳造時(1500〜1300℃の温度範囲)における冷却速度を制御しつつ冷却してスラブ(断面形状:200mm×250mm)とした後、1100℃に加熱して熱間圧延を行い、板厚:80mmの熱間圧延板とし、圧延後に直接焼入れを実施し、500℃で焼戻しして試験板とした。尚、表1において、REMはLaを50%程度とCeを25%程度含有するミッシュメタルの形態で添加した。また表1中「−」は元素を添加していないことを示している。
Figure 2008223062
上記のようにして製造した各試験板について、下記の要領でTi含有窒化物の個数密度、酸化物の成分組成および個数密度、厚鋼板(母材)およびHAZの靭性を測定した。これらの結果を、Z値[=[Ti]×16[Si]×(12−40[C])]、溶鋼中の溶存酸素量、鋳造時の冷却速度と共に、下記表2に示す。
[Ti含有窒化物の個数密度の測定]
各鋼板のt(板厚)/4部位を、透過型電子顕微鏡(TEM)で、観察倍率6万倍、観察視野2×2(μm)、観察箇所5箇所の条件で観察した。そして画像解析によって、その視野中の各Ti含有窒化物の面積を測定し、この面積から各窒化物の円相当直径を算出した。尚、Ti含有窒化物であることは、EDX(エネルギー分散型X線検出器)によって判別した。そして、円相当直径が0.05μm以下となるTi含有窒化物の個数を、1mm2当りに換算して求めた。
[酸化物の成分組成および個数密度の測定]
島津製作所製「EPMA−8705」(商品名)を用いて倍率:1000倍で観察し、円相当直径が0.2〜5μmである析出物(酸化物)について成分組成を分析した。観察視野面積を1〜5cm2、分析個数を100個数とし、特性X線の波長分散分光により析出物中央部での成分組成を分析した。分析対象元素は、Al,Mn,Si,Ti,Zr,Ca,La,CeおよびOとした。また、酸化物の個数を、観察視野面積で割ることによって、1mm2当りに換算して求めた。
[母材の靭性]
得られた試験板のt(板厚)/2部位から、圧延方向に対して直角の方向にJIS Z 2201の4号試験片を採取し、JIS Z 2242に準拠して、−40℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE-40)を測定した。このとき3本の試験片について吸収エネルギー(vE-40)を測定し、その最低値を算出した。この最低値が200Jを超えるもの母材靭性に優れると評価した。
[HAZ靭性の評価]
各鋼板のt(板厚)/4部位から、圧延方向に対して直角の方向にJIS Z 2201の4号試験片を採取し、大入熱溶接を模擬した熱サイクル試験を行い、HAZ靭性を評価した。このとき熱サイクル試験は、上記試験片を1400℃に加熱して60秒間保持した後、800〜500℃の温度範囲を500秒かけて冷却することにより、溶接入熱量が65kJに相当する熱サイクルを与えた。JIS Z 2242に準拠して、−40℃でシャルピー衝撃試験を行い、吸収エネルギー(vE-40)を測定した。このとき3本の試験片について吸収エネルギー(vE-40)を測定し、その最低値を求めた。そして、vE-40の最低値が100Jを超えるものをHAZ靭性に優れると評価した。
Figure 2008223062
表1、2から次のように考察できる(尚、下記No.は、表1、2の鋼No.を示す)。No.1〜15は、本発明で規定する要件を満足する例であり、化学成分組成、Z値、Ti含有窒化物および酸化物の微細分散が適切になされており、母材および溶接熱影響部の靭性が良好な鋼板が得られていることが分かる。
これに対して、No.16〜30は、本発明で規定するいずれかの要件を外れる例であり、溶接熱影響部の靭性が劣っている。詳細には、下記の通りである。
No.16は、鋼板中のC含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであり、Ti含有窒化物および酸化物の形態は良好であっても、HAZ靭性が劣化している。
No.17は、鋼板中のSi含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであり(Z値が大きい)、Ti含有窒化物の形態が不良になっており(微細なTi含有窒化物が得られていない)、良好な母材およびHAZの靭性が得られていない。No.18は、鋼板中のMn含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであり、Ti含有窒化物の形態は良好であっても、HAZの靭性が劣化している。
No.19は、鋼板中のPの含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであり、Ti含有窒化物の形態は良好であっても、母材およびHAZ靭性が劣化している。No.20は、鋼板中のAl含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであり、Ti含有窒化物の形態は良好であっても、酸化物個数密度が低減しており、母材およびHAZの靭性が劣化している。
No.21は、鋼板中のTi含有量が本発明で規定する範囲に満たないものであり、Ti含有窒化物の十分な個数密度が達成されておらず、母材の靭性が劣化している。No.22は、鋼板中のTi含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであり、Ti含有窒化物が粗大化しており、十分な個数密度が達成されておらず、母材およびHAZ靭性が劣化している。
No.23は、鋼板中のN含有量が本発明で規定する範囲に満たないものであり、Ti含有窒化物の十分な個数密度が達成されておらず、母材靭性が劣化している。No.24は、鋼板中のN含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであり、固溶Nが増加して母材およびHAZの靭性が劣化している。
No.25は、鋼板中のB含有量が本発明で規定する範囲を超えるものであり、Ti含有窒化物の形態は良好であっても、HAZ靭性が劣化している。No.26は、化学成分におけるZ値が本発明で規定する範囲を外れるものであり、Ti含有窒化物の十分な個数密度が達成されておらず、母材およびHAZの靭性が劣化している。
No.27は、鋼板中のAl含有量が本発明で規定する範囲を超え、且つREM等の酸化物構成元素を含まないもの(所定組成の酸化物の分散が不足するもの)であり、母材靭性が劣化している。No.28は、鋼板中にZrを含まないものであり、母材およびHAZの靭性が劣化している。
No.29は、溶製時の溶存酸素量が過剰であり、酸化物が粗大化して十分な個数密度が達成されておらず、母材およびHAZの靭性が劣化している。No.30は、化学成分におけるZ値、および鋳造時の冷却速度がいずれも適正範囲外になっており、著しくTi含有窒化物および酸化物が粗大化しており、十分な個数密度が達成されておらず、母材およびHAZの靭性が劣化している。

Claims (3)

  1. C:0.03〜0.12%(「質量%」の意味。以下同じ)、Si:0.20%以下(0%を含む)、Mn:1.0〜2.0%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.015%以下(0%を含まない)、Al:0.01%以下(0%を含まない)、Ti:0.015〜0.08%、N:0.0060〜0.0120%、B:0.0010〜0.0050%およびZr:0.0001〜0.050%の他、REM:0.001〜0.05%および/またはCa:0.0003〜0.02%を含有すると共に、下記(1)式の関係を満足し、且つ円相当直径で0.05μm以下のTi含有窒化物が1mm2当り5.0×106個以上存在すると共に、REMおよび/またはCaと、TiとZrを含有する酸化物であって、円相当直径で0.2〜5μmの酸化物が1mm2当り500個以上存在することを特徴とする母材および溶接熱影響部の靭性に優れた厚鋼板。
    [Ti]×16[Si]×(12−40[C])<0.38(%)…(1)
    但し、[Ti],[Si]および[C]は、夫々Ti,SiおよびCの含有量(質量%)を示す。
  2. 更に、Cu,NiおよびCrよりなる群から選ばれる1種以上の元素:合計で0.1〜1.5%を含むものである請求項1に記載の厚鋼板。
  3. 更に、Mo:0.5%以下(0%を含まない),Nb:0.05%以下(0%を含まない)およびV:0.1%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上の元素を含むものである請求項1または2に記載の厚鋼板。
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