JP2008221220A - ダイカストマシン用スプールブッシュ - Google Patents
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Abstract
【課題】 スプールブッシュ本体の溶湯が接触する部分に、耐摩耗性及び耐溶損性に優れた被覆層を形成した複合構造のスプールブッシュにおいて、スプールブッシュの熱膨張を抑えることができるダイカストマシン用スプールブッシュを提供する。
【解決手段】 平均熱膨張係数が20℃から300℃において1〜5×10-6/℃、20℃から500℃において5×10-6/℃以上である高強度低熱膨張金属材料からなるスプールブッシュ本体の少なくとも溶湯と接触する部分に、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金及びTi基合金のうちのいずれかからなる被覆層を金属接合したことを特徴とする。
【選択図】 図1
【解決手段】 平均熱膨張係数が20℃から300℃において1〜5×10-6/℃、20℃から500℃において5×10-6/℃以上である高強度低熱膨張金属材料からなるスプールブッシュ本体の少なくとも溶湯と接触する部分に、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金及びTi基合金のうちのいずれかからなる被覆層を金属接合したことを特徴とする。
【選択図】 図1
Description
本発明は、アルミニウム合金等の溶湯を金型のキャビティ内に注入して鋳造品を成形するダイカストマシンに用いられるスプールブッシュに関する。詳しくは、スプールブッシュ本体の溶湯が接触する内面に、耐摩耗性及び耐溶損性に優れる被覆層を形成した複合構造のスプールブッシュに関する。
ダイカストマシンは、アルミニウム、マグネシウム、亜鉛等の金属製品を高速、高精度に鋳造する装置であり、自動車、家電等の各種構成部品の製造に用いられている。
図3はダイカストマシンの金型近傍の概略構成図を示す。図3において、ダイカストマシンには、固定金型11と可動金型12が設けられ、両方の金型の対向する合せ面にアルミニウム合金等の溶湯が注入されて鋳造品が成形される空間であるキャビティ13が形成される。固定金型11の湯口部分にはスプールブッシュ14(湯口ブッシュともいう)が嵌着される。また、スプールブッシュ14の先端側には溶湯をキャビティ13内に導入するための湯道15が形成されており、後端側はダイカスト用スリーブ16の溶湯射出口と同心軸上に接続される。
このような構成において、ダイカスト用スリーブ16の溶湯供給口17から溶湯を供給し、スリーブ16内に溶湯を充填する。次いで、スリーブ16内に備えた進退自在なプランジャチップ18を金型側の方向に摺動させることにより、スリーブ16と連通するキャビティ13内に溶湯を射出して充填する。キャビティ13内の溶湯が凝固した後、可動金型12を開けて成形した鋳造品を金型から取り出す。その後、可動金型12を元の位置に閉じてから同様の成形を繰り返す。
従来からJIS SKD61に代表される熱間金型用合金鋼からなる単体構造のスプールブッシュがある。これの耐摩耗性、耐溶損性等を高めたものとして、金属製のスプールブッシュ本体内面の溶湯が接触する部分に、スプールブッシュ本体とは異なる材料から形成された被覆層や内筒ライナーを有する複合構造のスプールブッシュが開示されている。
例えば特許文献1には、着脱可能な状態で金型の湯口に装着されるダイカストマシン用湯口ブッシュにおいて、熱伝導率が30W/(m・K)以上の鋼からなる外筒と、外筒の内周面にHIP法、ろう付け法または拡散接合法のいずれかの方法により接合される、Ni−B−Si−Mo系またはNi−B−Si−Mo−C系のサーメットからなり、厚さが0.1mm以上1.5mm以下の内筒と、外筒に設けられた水冷手段とを備えたダイカストマシン用湯口ブッシュが記載されている。
これは、湯口ブッシュとプランジャチップの間のクリアランス内に入り込んだ溶湯が、湯口ブッシュの内周面またはプランジャチップの外周面に付着して凝固すると、摺動面でカジリを発生させることにより、湯口ブッシュまたはプランジャチップが早期に使用不能になる課題に対し、特に鋼製の外筒の外周に水冷用ジャケットを設けて、湯口ブッシュを冷却することで解決し得たものである。
また特許文献2には、ブッシュ本体の内周面に別体部品のインサートライナーを嵌合させたスプールブッシュであって、ブッシュ本体とインサートライナーの嵌合面であるインサートライナーの外周面に冷却用流体を流す冷却溝を設けたダイカスト鋳造機用スプールブッシュが記載されている。
これも特許文献1同様に、インサートランナーの外周面に冷却用流体を流すことにより、金属溶湯が通過する際の熱応力がブッシュ本体に集中せずにインサートライナーにも分散されるので、ブッシュ本体に熱応力による割れが生じ難いという利点を有する。
特許文献3には、溶湯と直接接触する射出部材の基材を金属系断熱性材料から形成し、溶湯との接触面になる基材表面に、周期律表の4A族、5A族及び6A族から選ばれる少なくとも1種の金属の炭化物、窒化物、硼化物及び酸化物のうち、少なくとも1種を主成分とする表面改質層を形成したダイカストマシン用射出部材が開示されている。
これによれば、基材を形成する金属系断熱性材料は、従来材料のSKD61よりも熱伝導率が大幅に低いために、スリーブ内に注入された溶湯の一部の凝固を効果的に防止できる。さらに、基材表面に生成された表面改質層は、基材への熱の拡散を遅らせるので、溶湯の凝固を防止できるという効果がある。
また特許文献4には、キャビティ内に突出し可能に設けられた加圧ピンと、加圧ピンを摺動可能に保持するブッシュとを備え、ブッシュを、その軸方向に分割して、キャビティ側ブッシュと反キャビティ側ブッシュとにより構成し、キャビティ側ブッシュは、WCやCBNなどの焼結体など、超硬合金、サーメット、高硬度セラミックスのような耐熱性・耐摩耗性を有する高硬度材料により構成されていることが記載されている。
特許文献5には、高強度低熱膨張性金属材料からなる外筒内に、セラミックス材料からなる内筒を焼嵌めしたダイカスト用スリーブにおいて、高強度低熱膨張性金属材料は、Fe−Ni−Co系合金に1種以上の析出強化元素を添加した材料からなり、20℃から300℃までの平均熱膨張係数が1〜5×10-6/℃、20℃から600℃までの平均熱膨張係数が5×10-6/℃以上であるダイカスト用スリーブが記載されている。
これは、ダイカスト用スリーブの外筒と内筒とを焼嵌めて組立てた際に、外筒と内筒の熱膨張係数の差が小さいため、スリーブ軸方向及び円周方向に外筒と内筒のずれを生じず十分な焼嵌め効果が確保できるという効果を有する。
図4は従来例のスプールブッシュにおいて、スプールブッシュが加熱された場合の状態を示す図である。図4において、スプールブッシュ14とダイカスト用スリーブ16とは同心軸上に接続され、スリーブ16内にはプランジャチップ18が装備され、プランジャチップ18はスプールブッシュ14とスリーブ16両者の内筒面に接触しない程度の微小な離間距離を保って摺動する。
ダイカスト成形において、スプールブッシュ14内はダイカスト用スリーブ16内に比べて溶湯の充満度が大きい。さらに、スプールブッシュ14の内面はスリーブ16よりも高い射出圧力を受ける。このため、スプールブッシュ14はスリーブ16に比べて加熱される。
このように、スプールブッシュ14が加熱されると、熱膨張によりスプールブッシュ14の内周とプランジャチップ18の外周との隙間であるクリアランスLが増大し、そのクリアランスL内に溶湯が入り込みやすくなる。すると、クリアランスLに入り込んだ溶湯が、スプールブッシュ14の内周面またはプランジャチップ18の外周面に付着しやすくなり凝固する。
この凝固した金属20が円滑な摺動を阻害するため、スプールブッシュ14及びプランジャチップ18間の摺動面でかじりが発生する。また、凝固金属20が付着している状態で、プランジャチップ18をスリーブ16側に後退させると、プランジャチップ18が捏ねてスリーブ16の内面に接触しやすくなり、スリーブ16の内面が損耗する。さらに、凝固金属20の一部がプランジャチップ18の外周とスリーブ16の内周とのクリアランスM内に引き込まれ、それが原因でプランジャチップ18及びスリーブ16間の摺動面でかじりを起こすという不具合を生じる。
そこで、前述の特許文献1のように、スプールブッシュの熱膨張を抑えるため、鋼製の外筒の外周に水冷用ジャケットを設けて、強制冷却する手段を施したりするが、溶湯温度の維持制御が難しく、溶湯温度の低下を招くおそれがある。溶湯温度が低下すると成形中に破断チル等が混入して、製品の品質を低下させるという問題がある。
また、特許文献5は、ダイカスト用スリーブの外筒を高強度低熱膨張性金属材料で形成し、焼嵌められたセラミックス製の内筒が、外筒と内筒の熱膨張係数の差により高温下でもずれない効果を開示するものであり、本発明のスプールブッシュの熱膨張に係る課題を考慮したものではない。
本発明の目的は、前述の事情に鑑みて、スプールブッシュ本体の溶湯が接触する部分に、耐摩耗性及び耐溶損性に優れた被覆層を形成した複合構造のスプールブッシュにおいて、スプールブッシュ本体を高強度低熱膨張金属材料で形成することにより、スプールブッシュの熱膨張を抑えることができるダイカストマシン用スプールブッシュを提供することである。
本発明のダイカストマシン用スプールブッシュは、平均熱膨張係数が20℃から300℃において1〜5×10-6/℃、20℃から500℃において5×10-6/℃以上である高強度低熱膨張金属材料からなるスプールブッシュ本体の少なくとも溶湯と接触する部分に、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金及びTi基合金のうちのいずれかからなる被覆層を金属接合したことを特徴とする。
他の本発明のダイカストマシン用スプールブッシュは、平均熱膨張係数が20℃から300℃において1〜5×10-6/℃、20℃から500℃において5×10-6/℃以上である高強度低熱膨張金属材料からなるスプールブッシュ本体の少なくとも溶湯と接触する部分に、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金及びTi基合金のうちのいずれかにセラミックスを分散させたサーメットからなる被覆層を金属接合したことを特徴とする。
前記本発明において、セラミックスがホウ化物、窒化物及び炭化物のうちのいずれかであることを特徴とする。ホウ化物がTiB2、ZrB2、B4C、MoB2のうちのいずれか、窒化物がCrN、Cr2N、BNのうちのいずれか、炭化物がVCであるのが好ましい。また、サーメット中のセラミックスの含有量が5〜40体積%であることを特徴とする。
さらに本発明において、被覆層の厚みが1mm以上5mm以下であることを特徴とする。被覆層はHIP法または肉盛法により金属接合したことを特徴とする。
また、スプールブッシュ本体は20℃〜500℃までの引張強さが60kgf/mm2以上であることを特徴とする。
スプールブッシュ本体を、従来のスプールブッシュ本体材料(SKD61の熱膨張係数11〜12×10-6/℃)に比べて低熱膨張性金属材料で形成することにより、スプールブッシュ本体が加熱されても熱膨張量が小さくなる。また、スプールブッシュ本体の高温における引張強さを高めることで、高温での繰返しの射出におけるスプールブッシュの変形を低減できる。
このため、スプールブッシュの内周とプランジャチップの外周とのクリアランスを小さく抑えることができるので、クリアランスに入り込んだ凝固金属による摺動面のかじりを防止できる。
スプールブッシュ本体を形成する高強度低熱膨張性金属材料は、Fe−Ni−Co系合金に1種以上の析出強化元素を添加した金属材料が好ましい。高温強度向上のための析出強化元素としてはAl、Ti、Nb等がある。より具体的には化学組成が、Ni:30〜35質量%、Co:12〜17質量%、Al:0.5〜1.5質量%、Ti:1.5〜3質量%、残部実質的にFe及び不可避的不純物からなるものが好ましい。また、スプールブッシュ本体は20℃〜500℃までの引張強さが60kgf/mm2以上であるのが望ましい。
スプールブッシュ本体の溶湯と接触する部分に、耐摩耗性及び耐溶損性に優れるFe基合金、Co基合金、Ni基合金及びTi基合金のうちのいずれかからなる被覆層を形成する。特に、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金及びTi基合金のうちのいずれかにセラミックスを分散させたサーメットからなる被覆層を形成するのが好ましい。なかでも耐溶損性の点から、Ti基合金にセラミックスを分散させたサーメットからなる被覆層がより好ましい。サーメットからなる被覆層の場合、サーメット中のセラミックスの含有量が、5体積%以上になると耐摩耗性及び耐溶損性の向上が顕著になり、40体積%を超えると脆くなるので、5〜40体積%が好ましい。
被覆層はHIP法または肉盛法によりスプールブッシュ本体に金属接合する。被覆層の厚みが1mm未満では被覆層の効果が小さく、5mmを超えるとスプールブッシュ全体の熱膨張係数が無視できないほど大きくなるので、1〜5mmが好ましい。
図1は本発明実施例のダイカストマシン用スプールブッシュの概略断面図を示す。図1において、スプールブッシュは、中空部3を有するスプールブッシュ本体4の少なくとも溶湯と接触する内面部分に、耐摩耗性及び耐溶損性に優れる被覆層1を金属接合して構成される。5はキャビティと連通する湯道である。
スプールブッシュ本体4を、平均熱膨張係数が20℃から300℃において1〜5×10-6/℃、20℃から500℃において5×10-6/℃以上であり、20℃〜500℃までの引張強さが60kgf/mm2以上である特性を有する高強度低熱膨張金属材料(Ni:32.2質量%、Co:15.1質量%、Al:0.8質量%、Ti:2.6質量%、残部Fe及び不可避的不純物からなる)を用いて作製した。
そしてスプールブッシュ本体4の溶湯と接触する内面部分に、Ti基合金の基地に30体積%の窒化ホウ素(BN)が分散したサーメットからなる被覆層1を、HIP法により金属接合した。被覆層1の厚みは2mmとした。
このように構成した本発明のスプールブッシュをダイカストマシンに3ヶ月連続使用した結果、スプールブッシュの内径の熱膨張を抑えることができ、スプールブッシュの内周とプランジャチップの外周とのクリアランスが少なく、従来のクリアランスに入り込んだ凝固金属による摺動面のかじり現象は見られなかった。また、スプールブッシュ内面に形成した被覆層は摩耗、溶損が殆ど見られず、安定した操業を実現することができた。
図2は本発明の他形態の実施例のダイカストマシン用スプールブッシュの概略断面図を示す。図2は図1と同様の構成であるが、スプールブッシュ先端側の湯道5の溶湯と接触する内面部分に、Ti基合金からなる被覆層2を金属接合して構成した。被覆層2は、スプールブッシュの内面に形成した被覆層1(Ti基合金の基地に30体積%のBNが分散したサーメット)と異なる材料で形成した。これは、プランジャと摺動しない湯道部分には加工性に優れる合金を配置したものである。
本発明のダイカストマシン用スプールブッシュは、スプールブッシュの内径の熱膨張を抑えることができ、スプールブッシュの内周とプランジャチップの外周とのクリアランスが少なく、クリアランスに入り込む凝固金属による摺動面のかじりを防止し、またスプールブッシュ内面に形成した被覆層は耐摩耗性及び耐溶損性に優れるので、安定した操業を実現できる。
1 被覆層、 2 湯道部の被覆層、 3 中空部、
4 スプールブッシュ本体、 5 湯道、
11 固定金型、 12 可動金型、 13 キャビティ、 14 スプールブッシュ、
15 湯道、 16 ダイカスト用スリーブ、 17 溶湯供給口、
18 プランジャチップ、 20 凝固金属
4 スプールブッシュ本体、 5 湯道、
11 固定金型、 12 可動金型、 13 キャビティ、 14 スプールブッシュ、
15 湯道、 16 ダイカスト用スリーブ、 17 溶湯供給口、
18 プランジャチップ、 20 凝固金属
Claims (10)
- 平均熱膨張係数が20℃から300℃において1〜5×10-6/℃、20℃から500℃において5×10-6/℃以上である高強度低熱膨張金属材料からなるスプールブッシュ本体の少なくとも溶湯と接触する部分に、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金及びTi基合金のうちのいずれかからなる被覆層を金属接合したことを特徴とするダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 平均熱膨張係数が20℃から300℃において1〜5×10-6/℃、20℃から500℃において5×10-6/℃以上である高強度低熱膨張金属材料からなるスプールブッシュ本体の少なくとも溶湯と接触する部分に、Fe基合金、Co基合金、Ni基合金及びTi基合金のうちのいずれかにセラミックスを分散させたサーメットからなる被覆層を金属接合したことを特徴とするダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 前記セラミックスがホウ化物、窒化物及び炭化物のうちのいずれかであることを特徴とする請求項2に記載のダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 前記ホウ化物がTiB2、ZrB2、B4C及びMoB2のうちのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 前記窒化物がCrN、Cr2N及びBNのうちのいずれかであることを特徴とする請求項3に記載のダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 前記炭化物がVCであることを特徴とする請求項3に記載のダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 前記セラミックスの含有量が5〜40体積%であることを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載のダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 前記被覆層の厚みが1〜5mmであることを特徴とする請求項1または2に記載のダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 前記被覆層はHIP法または肉盛法により金属接合したことを特徴とする請求項1または2に記載のダイカストマシン用スプールブッシュ。
- 前記スプールブッシュ本体は20℃〜500℃までの引張強さが60kgf/mm2以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のダイカストマシン用スプールブッシュ。
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