JP7337646B2 - ダイカスト金型およびダイカスト金型の表面処理方法 - Google Patents
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Description
〔0010〕
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、ヒートチェックや摩耗の原因となる窒素化合物層を実質的に与えず、そのー方で、金型内部に窒素を多量に導入できて、結果として、耐ヒートチェック性及び耐摩耗性に優れるダイカスト金型を与え得る表面処理方法を提供することにある。
[0012]
そこで本発明によるダイカスト金型の表面処理方法は、金型意匠面に圧縮残留応力を与えて提供されるダイカスト金型の表面処理方法であって、加熱炉内に少なくともアンモニアガスを含むガスを導人して前記金型意匠面に窒素化合物からなる化合物層を含む窒化層を形成する窒化ステップと、前記加熱炉内からアンモニアガスを排出するとともに雰囲気ガスを導入して加熱処理し前記窒素化合物を分解させる化合物分解ステップと、前記金型意匠面にショットピーニングを行うショットピーニングステップと、を含み、前記窒化ステップは2~7ミクロンの範囲内の厚さの前記化合物層を少なくとも含む前記窒化層を形成するステップであることを特徴とする。
〔0005〕
本発明は、キャビティ内のヒートクラックの発生を抑え、長寿命化を図ったダイカスト用金型の提供を目的とする。
〔0006〕
本発明に係るダイカスト用金型は、金型の少なくとも保護部位に炭化物系又は酸化物系の溶射材を用いて溶射皮膜を形成してあり、その後に窒化処理してあることを特徴とする。
ここで保護部位とは、ダイカストによる鋳造ショットの繰り返しにて応力が集中し、ヒートクラックが発生しやすい部位をいう。
本発明は、窒化処理による溶湯の侵食を防止するだけでなく、応力が集中しやすい部位に溶射皮膜を形成するのが目的であり、必ずしもキャビティ全面に溶射皮膜を形成する必要はない。
キャビティ内において熱サイクルによる応力が集中しやすい部位は、キャビティのコーナー部である。
しかしながら、上記特許文献1の技術でも、溶融したアルミニウム合金等は活性なためSKD61等の金型材料が露出された表面と反応しやすく、特に湯当たりの厳しい部分などでの局部的な損傷を防止することが難しいという問題が依然として残る。
しかしながら、上記特許文献2の技術では、タングステンカーバイド等を電極としてアーク放電による被覆を行うときに、その導電性が低いため、放電が安定しない。そのため電圧を高めに設定したとしても、被覆層の厚さが不均一になりやすいという問題がある。さらに、表面粗さが大きくなるため、その表面状態がそのまま製品に転写されるダイカスト金型では、キャビティ内面への適用が制限される。また、タングステンカーバイド系の材料を主成分とする電極材は、溶接用に普及している金属電極と比較し、非常に入手性が悪いという問題もある。また、特許文献2の手法では、被覆層が形成された領域で窒素の浸入が抑制され、基材の靭性が確保されたためにヒートクラックが抑制されたと考えられる。被覆層のない領域では窒化処理で過度に硬度が上昇し、靭性が低下してヒートクラックの発生を助長する可能性が高い。
(1)ダイカスト金型のキャビティ表面の、特に湯当たりの厳しい部分などに耐溶損性が高い被覆層を形成することにより、ダイカスト金型において溶損を防止して耐久性を向上し、製品の表面荒れも小さくする。
(2)被覆層を形成しない部分には、高い圧縮応力を有する窒化層を形成してヒートクラックの発生を抑制し、耐ヒートクラック性と耐溶損性を兼ね備えた耐久性の高いダイカスト金型とする。
キャビティを備えた鋼製のダイカスト金型であって、
上記キャビティ内面の表層部の少なくとも一部に形成され、W,Mo,Cr,Tiからなる1以上の金属と上記鋼との合金層に窒素が拡散されることにより上記金属の窒化物が生成された被覆層と、
上記キャビティ内面の上記被覆層が形成された表層部以外の表層部に形成された上記鋼の窒化層とを備え、
上記被覆層の窒素濃度が2.2質量%以上である。
上記被覆層の下に、上記鋼に窒素が拡散された窒素拡散層が形成されている。
キャビティを備えた鋼製のダイカスト金型の表面処理方法であって、
上記キャビティ内面の表層部の少なくとも一部に、W,Mo,Cr,Tiからなる1以上の金属と上記鋼による合金層を形成したのち、
上記ダイカスト金型の表層部に窒素を拡散して窒化することにより、
上記被覆層の窒素濃度を2.2質量%以上とした。
上記被覆層の下に、上記鋼に窒素が拡散された窒素拡散層が形成される。
一般に、W,Mo,Cr,Tiからなる1以上の金属は窒素の固溶度が低く窒化処理で窒素を拡散するのが難しい。本発明の上記合金層は、上記金属と鋼による合金層であり、W,Mo,Cr,Tiからなる1以上の金属が、金型の母材である鋼を取り込んだ組成となる。このため、上記合金層が形成された領域に窒素を拡散し、硬度の高い被覆層が形成される。この被覆層により、耐溶損性を向上させることができる。また、上記被覆層以外のキャビティ内面の表層部に窒化層を形成し、母材である鋼の硬度を高め、耐ヒートクラック性を向上させる。また、上記W,Mo,Cr,Tiは窒化物を生成しうるものであり、窒化物を生成しうる上記W,Mo,Cr,Tiが金型の母材である鋼を取り込んだ組成で合金層を形成する。このため、上記合金層に窒素が拡散されることにより、W,Mo,Cr,Tiの窒化物が生成され、合金層に窒素が拡散された硬度の高い被覆層が形成され、耐溶損性を向上させることができる。また、上記W,Mo,Cr,Tiは、セラミックスよりも市場での調達が容易である。
上記被覆層の下に、高い圧縮残留応力をもつ窒素拡散層を形成することにより、ヒートクラックへの耐性を向上させることができる。
一般に、W,Mo,Cr,Tiからなる1以上の金属は窒素の固溶度が低く窒化処理で窒素を拡散するのが難しい。本発明の上記合金層は、上記金属と鋼による合金層であり、W,Mo,Cr,Tiからなる1以上の金属が、金型の母材である鋼を取り込んだ組成となる。このため、上記合金層が形成された領域に窒素を拡散し、硬度の高い被覆層が形成される。この被覆層により、耐溶損性を向上させることができる。また、上記被覆層以外のキャビティ内面の表層部に窒化層を形成し、母材である鋼の硬度を高め、耐ヒートクラック性を向上させる。また、上記W,Mo,Cr,Tiは窒化物を生成しうるものであり、窒化物を生成しうる上記W,Mo,Cr,Tiが金型の母材である鋼を取り込んだ組成で合金層を形成する。このため、上記合金層に窒素が拡散されることにより、W,Mo,Cr,Tiの窒化物が生成され、合金層に窒素が拡散された硬度の高い被覆層が形成され、耐溶損性を向上させることができる。また、上記W,Mo,Cr,Tiは、セラミックスよりも市場での調達が容易である。
上記被覆層の下に、高い圧縮残留応力をもつ窒素拡散層を形成することにより、ヒートクラックへの耐性を向上させることができる。
ダイカスト金型は、その用途上ヒートサイクルが避けられず、ヒートクラックが発生しやすい。また、湯流れの厳しい箇所など局所的に、溶損が生じるケースもある。
図1は、本発明の一実施形態のダイカスト金型およびダイカスト金型の表面処理方法を説明する断面模式図である。(A)は合金層を形成した状態、(B)はさらに窒化をした状態である。
本実施形態のダイカスト金型1は、キャビティ2を備えた鋼製のダイカスト金型1である。図では上型を示さず、下型だけを示している。本発明のダイカスト金型1は、図1(A)に示すように、まずキャビティ2内面の少なくとも一部に合金層3を形成し、ついで、図1(B)に示すように、上記合金層3が形成された領域を含むキャビティ2内面の表層部に窒化し、上記合金層3を被覆層3Aとし、上記被覆層3A以外の部分に窒化層4を形成してなる。
上記被覆層3Aは、上記キャビティ2内面の少なくとも一部に形成され、実質的に鉄を含まない被覆金属と、金型の母材を構成する鋼による合金層3に窒素を拡散したものである。
上記窒化層4は、上記被覆層3A以外のキャビティ2内面の表層部に形成されている。
上記ダイカスト金型1の母材は鋼である。上記鋼としては、たとえば、SKD61,SKD7,SKD8,SKT4およびそれらの同等品等、ダイカスト金型用に用いられる鋼種が用いられる。これらの鋼は、主成分を鉄とし、炭素をはじめとしてSi,Mn,Ni,Cr,W,Mo,V等の合金元素が適宜含まれる。
上記合金層3を形成するための被覆金属としては、実質的に鉄を含まない純金属または合金が用いられる。上記被覆金属は、窒化物を生成しうるものであることが好ましい。具体的には、たとえば、上記被覆金属としてW,Mo,Cr,Tiのうち少なくともいずれかを含む純金属または合金を用いることができる。上記被覆金属は、金属炭化物等の化合物粒子を実質的に含まないものとするのが好ましい。
上記合金層3は、上記キャビティ2内面の少なくとも一部に形成され、実質的に鉄を含まない被覆金属と、金型の母材を構成する鋼による合金層3である。
被覆装置9の先端には、シールドガス8を噴出するシールドパイプ6が設けられている。上記シールドパイプ6の先端開口の中心から、上記シールドパイプ6の中空部を通った棒状の電極5が突出している。
上記電極5は、上記合金層3を形成するための上記被覆金属から構成されている。
上記シールドパイプ6の先端開口からシールドガス8を噴出することにより、上記電極5の周囲がシールドガス8の気流でシールドされる。
上記合金層3を形成した鋼であるダイカスト金型1に、上記合金層3が形成された領域を含む上記鋼の表層部に窒素を拡散する窒化をする。これにより、上記合金層3が被覆層3Aとなり、上記被覆層3A以外の領域に窒化層4が形成される。
上記合金層3の形成された領域は、合金層3に窒素が拡散された硬度の高い被覆層3Aが形成される。この被覆層3Aにより耐溶損性を向上させることができる。上記合金層3の形成されていない領域は、窒化層4がもつ圧縮残留応力により、ヒートクラックへの耐性を向上させることができる。
上記合金層3を形成したのち上記窒化をする前に、必要に応じて、上記合金層3が形成された上記鋼であるダイカスト金型1にハロゲン化処理を行うことができる。
上記実施形態のダイカスト金型およびダイカスト金型の表面処理方法は、つぎの効果を奏する。
一般に、鉄を含まない被覆金属は窒素の固溶度が低く窒化処理で窒素を拡散するのが難しい。本実施形態の上記合金層3は、上記被覆金属と鋼による合金層3であり、実質的に鉄を含まない被覆金属が、金型の母材である鋼を取り込んだ組成となる。このため、上記合金層3が形成された領域に窒素を拡散し、硬度の高い被覆層3Aが形成される。この被覆層3Aにより、耐溶損性を向上させることができる。また、上記被覆層3A以外のキャビティ2内面の表層部に窒化層4を形成し、母材である鋼の硬度を高め、耐ヒートクラック性を向上させる。
このため、窒化物を生成しうる被覆金属がダイカスト金型1の母材である鋼を取り込んだ組成で合金層3を形成する。このため、上記合金層3に窒素が拡散されることにより、被覆金属の窒化物が生成され、合金層3に窒素が拡散された硬度の高い被覆層3Aが形成され、耐溶損性を向上させることができる。
上記W,Mo,Cr,Tiが金型の母材である鋼を取り込んだ組成で合金層3を形成する。このため、上記合金層3に窒素が拡散した被覆層3Aには、W,Mo,Cr,Tiの窒化物が生成されてより一層硬度が上昇し、耐溶損性を向上させることができる。また、上記W,Mo,Cr,Tiは、セラミックスよりも市場での調達が容易である。
上記ハロゲン化処理を行うことにより、上記合金層3に確実な窒化処理を行って被覆層3Aを形成でき、耐溶損性を向上させることができる。また、上記被覆層3Aの存在しない領域では、上記ハロゲン化処理により高い圧縮残留応力を有する窒化層4が均一に形成する。上記窒化層4によりヒートクラックの発生が抑制され、耐溶損性と耐ヒートクラック性を兼ね備えた金型が得られる。
気相中のアーク放電による上記被覆金属の転移により、上記合金層3は、実質的に鉄を含まない被覆金属がダイカスト金型1の母材である鋼を取り込んだ組成となる。このため、その後の窒化により、合金層3に窒素が拡散した被覆層3Aとなり、その硬度が上昇し、耐溶損性が向上する。
〔実施例1〕
母材金属:SKD61
被覆金属:タングステン
ハロゲン化処理:なし
窒化層:あり
〔実施例2〕
母材金属:SKD61
被覆金属:モリブデン
ハロゲン化処理:なし
窒化層:あり
〔実施例3〕
母材金属:SKD61
被覆金属:タングステン
ハロゲン化処理:あり
窒化層:あり
〔実施例4〕
母材金属:SKD61
被覆金属:モリブデン
ハロゲン化処理:あり
窒化層:あり
〔比較例1〕
母材金属:SKD61
被覆金属:タングステン
ハロゲン化処理:なし
窒化層:なし
〔比較例2〕
母材金属:SKD61
被覆金属:モリブデン
ハロゲン化処理:なし
窒化層:なし
〔比較例3〕
母材金属:SKD61
被覆材:タングステンカーバイド
ハロゲン化処理:なし
窒化層:あり
〔比較例4〕
母材金属:SKD61
被覆材:タングステンカーバイド
ハロゲン化処理:あり
窒化層:あり
〔比較例5〕
母材金属:SKD61
被覆材:タングステンカーバイド
ハロゲン化処理:なし
窒化層:なし
〔アーク放電〕
シールドガス:アルゴン
放電電圧:100V
〔ハロゲン化処理〕
雰囲気:三フッ化窒素2容量%、窒素98容量%
温度:300℃
時間:30分
〔ガス窒化処理〕
雰囲気:アンモニア10容量%、RXガス40容量%、窒素50容量%
温度:550℃
時間:2時間
窒化した実施例1~4、比較例3~4の被覆層には窒素が含まれる。これは窒化処理によって合金層に窒素原子が拡散固溶したものである。被覆材をWCとした比較例3~4よりも、WおよびMoの被覆金属を被覆材とした実施例1~4のほうが、窒素濃度が高い。これにより、被覆金属と鋼による合金層に窒素が拡散していることがわかる。
図4は、比較例5の被覆層の断面電子顕微鏡写真を示す。
実施例4の被覆層(合金層+窒化)にクラックは発生していない。被覆材として、セラミックス(WC)よりも導電性が高い金属(Mo)を用いたため、放電による被覆層ができやすいためと考えられる。
各実施例と各比較例のクラック観察の評価結果を、後述する表2に示した。
表面部に約70μmの窒素拡散層が形成されている。その表面硬度は約MHv1000である。母材の硬度約MHv450よりも上昇しており、圧縮残留応力発生によりヒートクラックへの耐性も向上していると考えられる。このように、被覆層を形成していない部分には、窒化化合物層が5μm以下で表面硬度MHv800~1100程度の、過度に硬度上昇していない窒化層が形成されている。
〔溶損試験条件〕
溶損材:アルミニウム(ADC12)
温度 :700℃
時間 :3時間
実施例1~4はいずれも、表面硬度はMHv1000以上と十分なレベルに達しており、硬度バラツキも15%未満に収まっている。
以上は本発明の特に好ましい実施形態について説明したが、本発明は示した実施形態に限定する趣旨ではなく、各種の態様に変形して実施することができ、本発明は各種の変形例を包含する趣旨である。
2:キャビティ
3:合金層
3A:被覆層
4:窒化層
5:電極
6:シールドパイプ
7:プラズマアーク
8:シールドガス
9:被覆装置
Claims (4)
- キャビティを備えた鋼製のダイカスト金型であって、
上記キャビティ内面の表層部の少なくとも一部に形成され、W,Mo,Cr,Tiからなる1以上の金属と上記鋼との合金層に窒素が拡散されることにより上記金属の窒化物が生成された被覆層と、
上記キャビティ内面の上記被覆層が形成された表層部以外の表層部に形成された上記鋼の窒化層とを備え、
上記被覆層の窒素濃度が2.2質量%以上である
ことを特徴とするダイカスト金型。 - 上記被覆層の下に、上記鋼に窒素が拡散された窒素拡散層が形成されている
請求項1記載のダイカスト金型。 - キャビティを備えた鋼製のダイカスト金型の表面処理方法であって、
上記キャビティ内面の表層部の少なくとも一部に、W,Mo,Cr,Tiからなる1以上の金属と上記鋼による合金層を形成したのち、
上記ダイカスト金型の表層部に窒素を拡散して窒化することにより、
上記被覆層の窒素濃度を2.2質量%以上とした
ことを特徴とするダイカスト金型の表面処理方法。 - 上記被覆層の下に、上記鋼に窒素が拡散された窒素拡散層が形成される
請求項3記載のダイカスト金型の表面処理方法。
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