JP2008220311A - Hla−bローカスにおける新規アリル - Google Patents

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Abstract

【課題】新規HLA−Bアリルを見出し、その検出に有用なプローブ、試薬、キット等を提供すること。
【解決手段】エクソン3が配列番号1の塩基配列からなる新規HLA−B4002アリルが提供される。また、当該アリルの配列を基に設計された検出用プローブ、試薬、及びキット等が提供される。検出プローブ等はHLA−B型のタイピングに有用である。
【選択図】なし

Description

本発明はHLA−Bローカスにおける新規HLA−Bアリルに関する。詳しくは、新規HLA−Bアリル、当該アリルに特異的なオリゴヌクレオチドプローブ、及びそれらの利用・用途に関する。
主要組織適合遺伝子複合体(major histocompatibility complex:MHC)は、移植片の拒絶反応を決定する抗原として見出された分子であり、免疫応答において重要な役割を果たす。ヒトのMHCはHLA(humanleukocyte antigen)と呼ばれる。また、HLAをコードしている遺伝子群はHLA遺伝子複合体と呼ばれる。HLAは、その構造や分布及び提示する抗原ペプチドの由来が異なる二つのクラス、即ちクラスIとクラスIIに分けられる。HLAクラスI分子は、すべての有核細胞と血小板に発現している。ウイルスや細菌に感染した細胞や腫瘍細胞などは、非自己タンパク質に由来するペプチドをクラスI抗原に結合させて提示し、免疫担当細胞を活性化させる。
一方、クラスII分子は樹状細胞、マクロファージ、リンパ球B細胞、モノサイトなどの抗原提示細胞に限定して発現する。これらの抗原提示細胞は細胞外のタンパク質や細胞表面のタンパク質を取り込み分解し、クラスII抗原と結合させて提示することで免疫応答を活性化させる。
ところで、以上のようなHLAによる抗原提示に始まる一連の免疫応答が移植片に向かって働くと免疫拒絶が生ずる。免疫拒絶を回避するためには移植の際にドナーとレシピエントのHLA抗原の適合性を厳格に検査することが望まれる。
従来、HLA抗原の適合性の検査、即ちHLA抗原のタイピングは血清学的手法又は細胞学的手法で行われきた。近年になって、HLA遺伝子をターゲットとしたDNAタイピングが可能となり、その有用性が確立されている。DNAタイピングによれば、血清学的手法などでは不可能な、遺伝子の塩基配列の違いに基づく判別が可能となる。HLAのクラスIはHLA−A、B、Cに細分化され、同様にクラスIIはHLA−DR、DQ、DPに細分化される。DNAタイピングによって、これらの各分子について数多くの型(HLAアリル)が同定・認定されてきた。各HLAアリルは、それがコードするHLA分子の種類、アミノ酸配列に影響しない塩基配列の置換の有無、コード領域以外の配列部分での変異の有無などに基づき、所定のルールに従い表記される(「HLAアリルの命名規則の改訂に関するお知らせ」、日本組織適合性学会HLA標準化委員会、http://square.umin.ac.jp/JSHI/standarization/NomenclatureRule2003.pdf)。
HLAクラスI抗原のアリルレベルでの適合性が、非血縁者間での骨髄移植や腎移植の予後(GVHD発症率、1年生存率)に密接に関連することが報告されている。
尚、本願に直接関連するものではないが、HLA−Bアリルのタイピング法に関していくつかの報告がある(例えば特許文献1、2)。
特表平08−507690号公報 特開2005−185172号公報
上記の通り、DNAタイピングの普及によって多数のHLAアリルの存在が明らかにされ、それらの検出・識別が可能な状況にはあるものの、未知のHLAアリルが存在することは否定できず、移植の成功率の更なる向上などのためには新規HLAアリルを見出すことが望まれる。そこで本発明は新規HLA−Bアリルを見出し、その検出に有用なオリゴヌクレオチドプローブ、試薬、キット及びこれらを利用したHLAアリルのタイピング法を提供することを目的とする。
ある患者由来の検体について、現在利用可能なHLAタイピング法を複数併用してHLA遺伝子型の判定(識別)を試みたところ、統一した判定結果が得られなかった。これらの方法では既知HLAアリルに特異的な複数のプローブを用いる。そして、検体のHLA遺伝子に反応するプローブの組合せを基に検体のHLA遺伝子型を決定する。従って、新規アリルについては判定不能であるか、又は誤った判定結果が出ることになる。そこで本発明者は、このように既存の方法で判定できなかった検体について、そのHLA遺伝子座の塩基配列を詳細に調べることにした。その結果、新規HLA−Bアリルを見出すことに成功した。
本発明は以上の成果に基づき、以下に示す新規HLA−Bアリル及びそれに特異的なオリゴヌクレオチドプローブ等を提供する。
[1] エクソン3が配列番号1の塩基配列からなるHLA−Bアリル。
[2] [1]に記載のHLA−Bアリルを特異的に検出可能なオリゴヌクレオチドプローブ。
[3] 配列番号1の塩基配列からなるエクソン3の26番目塩基を標的とすることを特徴とする、[2]に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[4] 前記エクソン3の一部であって前記26番目塩基を含む領域に相補的な配列を有することを特徴とする、[3]に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[5] ストリンジェントな条件下、配列番号1の塩基配列からなるDNA断片にハイブリダイズし、配列番号3の塩基配列からなるDNA断片にハイブリダイズしないことを特徴とする、[2]〜[4]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[6] 配列番号1の塩基配列からなるエクソン3の19番目塩基、20番目塩基及び26番目塩基を標的とすることを特徴とする、[2]に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[7] 前記エクソン3の一部であって前記19番目塩基及び前記20番目塩基を含む領域に相補的な第1配列部と、前記エクソン3の一部であって前記26番目塩基を含む領域に相補的な第2配列部とを有することを特徴とする、[6]に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[8] 前記第1配列部と前記第2配列部がスペーサーを介して連結されている、[7]に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[9] 前記エクソン3の一部であって前記19番目塩基〜前記26番目塩基を含む領域に相補的な配列を有することを特徴とする、[6]に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[10] ストリンジェントな条件下、配列番号1の塩基配列からなるDNA断片に対してハイブリダイズし、配列番号4の塩基配列からなるDNA断片に対してハイブリダイズしないことを特徴とする、[6]〜[9]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[11] 前記エクソン3の前記19番目塩基〜前記26番目塩基に相補的な配列を有する塩基配列からなることを特徴とする、[2]に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[12] 10bp〜40bpの長さである、[2]〜[11]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[13] 配列番号19、配列番号20又は配列番号21の塩基配列を有することを特徴とする、[2]に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[14] 標識物質が結合していることを特徴とする、[2]〜[13]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[15] 不溶性支持体に固定化されていることを特徴とする、[2]〜[14]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
[16] 配列番号1の塩基配列からなるエクソン3の19番目塩基及び20番目塩基を標的とする第1プローブと、前記エクソン3の26番目塩基を標的とする第2プローブと、からなるオリゴヌクレオチドプローブセットであって、
前記第1プローブの一部と前記第2プローブの一部が相補的であることを特徴とするオリゴヌクレオチドプローブセット。
[17] 前記第1プローブは、前記エクソン3の一部であって前記19番目塩基及び前記20番目塩基を含む領域に相補的な配列を有し、
前記第2プローブは、前記エクソン3の一部であって前記26番目塩基を含む領域に相補的な配列を有することを特徴とする、[16]に記載のオリゴヌクレオチドプローブセット。
[18] 前記第1プローブが配列番号22の塩基配列を有し、前記第2プローブが配列番号23の塩基配列を有することを特徴とする、[16]に記載のオリゴヌクレオチドプローブセット。
[19] [2]〜[15]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ、又は[16]〜[18]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブセットを含む、HLAアリルタイピング用の試薬。
[20]
前記オリゴヌクレオチドプローブ又は前記オリゴヌクレオチドプローブセットの標的と異なるHLAアリルを検出可能なオリゴヌクレオチドプローブを更に含むことを特徴とする、[19]に記載の試薬。
[21] 前記HLAアリルがHLA−Bアリルである、[20]に記載の試薬。
[22] 前記HLAアリルが、配列番号1の塩基配列と異なる塩基配列のエクソン3を有するHLA−B4002、又はHLA−B4006である、[20]に記載の試薬。
[23] 前記HLA−B4002がHLA−B400201、HLA−B400202又はHLA−B400203であり、前記HLA−B4006がHLA−B40060101、HLA−B40060102又はHLA−B400602であることを特徴とする、[22]に記載の試薬。
[24] [19]〜[23]のいずれかに記載の試薬と、該試薬と検体とのハイブリダイゼーション反応用の試薬と、及び取扱説明書とを含む、HLAアリルタイピング用のキット。
[25] HLA−Bアリルのエクソン3を増幅するための試薬を更に含むことを特徴とする、[24]に記載のキット。
[26] HLA−Bアリルのエクソン2及び3を特異的に増幅するための試薬を更に含むことを特徴とする、[24]に記載のキット。
[27] 洗浄用試薬、及び/又は反応用容器を更に含むことを特徴とする、[24]〜[26]のいずれかに記載のキット。
[28] 被験者のHLA−B遺伝子が、[1]に記載のHLA−Bアリルを有するか否かを調べるステップを含む、HLAタイピング法。
[29] 前記ステップが、被験者のゲノムDNAから調製した核酸試料と、[2]〜[15]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ、又は[16]〜[18]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブセットとを反応させた後、特異的なハイブリッド形成を検出することを含む、[28]に記載のHLAタイピング法。
[30] [2]〜[15]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ、[16]〜[18]のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブセット、[19]〜[23]のいずれかに記載の試薬、又は[24]〜[27]のいずれかに記載のキットを用いることを特徴とするHLAタイピング法。
尚、本明細書では、日本組織適合性学会HLA標準化委員会による「アリル表記法」に従って各アリルを表記する。
本発明の第1の局面は、本発明者が見出した新規HLA−Bアリル(以下、説明の便宜上、省略して「新規アリル」ともいう)に関する。エクソン2及び3について新規アリルと既知の3種類のHLA−Bアリルを比較した図(図1)、及びエクソン3について新規アリルと既知の全HLA−Bアリルを比較した図(図2〜8)に示すように、新規アリル(図中、「B*4002new」と表記される)ではエクソン3の26番目の塩基(新規アリルの全長の塩基配列においては5’側末端から数えて369番目の塩基。以下、当該塩基を「特異的塩基」という)がT(チミン)であるのに対し、既知HLA−B4002アリルのエクソン3では対応する部分の塩基はC(シトシン)である。このように新規アリルは、既知HLA−B4002アリルのエクソン3と1箇所のみで相違するという特徴的な配列のエクソン3(配列番号1)を有する。また、エクソンに関して新規アリルとHLA−B400201を比較した結果(図9)からわかるように、新規アリルは上記の特異的塩基部分でのみHLA−B400201と相違している。そして、当該相違をもたらす塩基置換はアミノ酸置換を伴っておらず、即ち同義置換であることから、新規アリルはHLA−B4002のサブタイプであると判断された。尚、図1〜8ではHLA−B070201の塩基配列を基準として各アリルの塩基配列を示している。「-」は、当該箇所の塩基が、基準の塩基配列における対応位置の塩基と同一であることを表す。一方、図9では上段の配列(新規アリル)と下段の配列(HLA−B400201)が一致する箇所を*で示している。図1〜9では慣例に従い左側が5’側(右側が3’側)となるように各塩基配列が表示される。
新規アリルの存在が明らかにされるとともに、その塩基配列の特徴が明確になったことによって、当該新規アリルのタイピング(識別、検出)を可能にするオリゴヌクレオチドプローブ(即ち、当該新規アリルを特異的に検出可能なオリゴヌクレオチドプローブ)の設計が可能となった。そこで本発明の第2の局面は、新規アリルのタイピングに有用なオリゴヌクレオチドプローブ(以下、説明の便宜上、「オリゴヌクレオチドプローブ」を省略して「プローブ」ともいう)を提供する。本発明における「オリゴヌクレオチド」は好ましくはデオキシリボヌクレオチドで構成される。
本発明のプローブは、新規アリルの塩基配列(特に配列番号1に示すエクソン3の配列)に基づき(他のHLA−Bアリルの塩基配列も考慮される)、新規アリルを特異的に検出することができるように設計される。上記の通り新規アリルの特徴が明確にされたことから、当業者であれば本発明のプローブを常法で設計することができる。本発明のプローブはホスホジエステル法など公知の方法によって合成することができる。尚、プローブの設計、合成等に関しては成書(例えばMolecular Cloning,Third Edition,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)を参考にすることができる。
本発明の第1の態様は、新規アリルの特異的塩基(配列番号1の塩基配列からなるエクソン3の26番目塩基)を標的とするプローブである。このプローブは、新規アリルと既知HLA−B4002アリルとの相違を特徴づける特異的塩基を標的としたものであり、新規アリルと既知HLA−B4002の識別を可能とする。
ここでの「特異的塩基を標的とする」とは、検体に対するプローブの結合力が、検体における特異的塩基の存在に依存し、検体に特異的塩基が存在する場合に特異的な結合力(ハイブリダイズ能力)をプローブが発揮することをいう。換言すれば、検体のHLA−Bローカスのエクソン3の26番目塩基がT(チミン)である場合とそれ以外の塩基である場合の間でプローブの結合力(ハイブリダイズ能力)が大幅に異なる(前者で大きな結合力が発揮される)ことを意味する。
第1の態様のプローブの具体例として、新規アリルのエクソン3の一部であって26番目塩基を含む領域(説明の便宜上、当該領域を「標的領域」と呼ぶ)に相補的な配列を有するプローブを挙げることができる。標的領域の具体例として、新規アリルのエクソン3の19番目塩基〜26番目塩基からなる領域(配列番号18)を挙げることができる。このように設定した標的領域に相補的な配列を中心として、新規アリルとの相補性を確保しつつ、前後に伸長させたり又はシフトさせたりすることによってプローブを設計することができる。以下、プローブの具体例を示す。尚、下線部を付した塩基が標的領域に対応する。
CAG AGC ATG TAT GGC TGC(配列番号19)
AGC ATG TAT GGC TGC(配列番号20)
TC CAG AGC ATG TAT G(配列番号21)
本発明の第2の態様は、新規アリルの特異的塩基に加え、新規アリルのエクソン3の19番目塩基及び20番目塩基を標的とするプローブである。このプローブによれば、新規アリルと既知HLA−B4002の識別が可能になることに加え、新規アリルと、エクソン3の26番目塩基が特異的塩基と同一(即ちT)であるがエクソン3の19番目塩基及び20番目塩基が新規アリルのそれと相違する既知HLA−Bアリル(特にHLA−B40060101、HLA−B40060102、HLA−B400602)の識別も可能となる。
第2の態様のプローブの具体例として、新規アリルのエクソン3の一部であって19番目塩基及び前記20番目塩基を含む領域(説明の便宜上、当該領域を「第1部分領域」と呼ぶ)に相補的である第1配列部と、新規アリルのエクソン3の一部であって26番目塩基を含む領域(説明の便宜上、当該領域を「第2部分領域」と呼ぶ)に相補的である第2配列部とを有するプローブを挙げることができる。
ここでの第1配列部と第2配列部はスペーサーか、又は上記第1部分領域と上記第2部分領域の間の塩基配列に相補的な配列を介して連結されている。前者の場合のプローブの一例を模式的に示すと図14(a)の通りとなる。尚、スペーサーは任意の塩基、C3 Spacer、C9 Spacer、C18 Spacerなどによって構成すればよい。
一方、後者の場合のプローブは、結果として、新規アリルのエクソン3の一部であって19番目塩基〜26番目塩基を含む領域に相補的な配列を有することになる。
ここで、エクソン3の第1部分領域に相補的な第1配列部と、エクソン3の第2部分領域に相補的な第2配列部が切り離された状態で用意され、使用時に反応液中で共存した際に両者が連結されるようにしてもよい。そこで、本発明は更なる態様として、新規アリルのエクソン3の19番目塩基及び20番目塩基を標的とする第1プローブと、新規アリルのエクソン3の26番目塩基を標的とする第2プローブとからなるオリゴヌクレオチドプローブセット(以下、説明の便宜上、「プローブセット」ともいう)を提供する。本発明のプローブセットは、第1プローブの一部と第2プローブの一部が相補的であるという特徴を備える。このプローブセットでは、各プローブの一部が連結部として機能してハイブリダイズすることによって、新規アリルの第1部分領域と第2部分領域を特異的に認識して結合する複合体を形成する(図14(b)を参照)。尚、第1プローブの連結部及び第2プローブの連結部の構成ヌクレオチドや長さなどについては、標的配列(新規アリルの一部)と相補的又は立体的構造をとる配列ではなく、且つ両連結部が相補的であることを条件とする以外、任意である。
ここでの第1プローブの例として、新規アリルのエクソン3の一部であって19番目塩基及び20番目塩基を含む領域(第1部分領域)に相補的な配列を有するプローブを挙げることができる。同様に、第2プローブの例として、新規アリルのエクソン3の一部であって26番目塩基を含む領域(第2部分領域)に相補的な配列を有するプローブを挙げることができる。尚、新規アリルのエクソン3の22番目塩基〜25番目塩基の一部又は全部と相補的な配列を第1プローブ又は第2プローブが有してもよい。
第1プローブ及び第2プローブの具体例を以下に示す。各プローブにおいて下線を付した部分が連結部である。
第1プローブ:CTC CAG AGC A GCTACTAAGCTCA(配列番号22)
第2プローブ:TGAGCTTAGTAGC TAT GGC TGC G(配列番号23)
本発明のプローブの長さは特に限定されないが、プローブの特異性や調製の点から、プローブ長は例えば5bp〜50bp、好ましくは10bp〜40bp、更に好ましくは10bp〜30bp、最も好ましくは15bp〜25bpである。
本発明のプローブは、標的である新規アリルに対して特異的な結合力を発揮する。即ち、本発明のプローブは新規アリルに対して高いハイブリダイズ能力を発揮する一方、他のアリルに対してはプローブとして要求される程度のハイブリダイズ能力を発揮しない。「プローブとして要求される程度のハイブリダイズ能力」とは、ストリンジェントな条件下で反応させたときに検体が標的分子であるか否かを識別し得る能力をいう。
好ましくは、本発明のプローブはストリンジェントな条件下、新規アリルに対してのみ実質的なハイブリッド形成をし、他の配列に対しては実質的なハイブリッド形成をしない。特に好ましくは、HLA−B4002(例えばHLA−B400201、HLA−B400202、HLA−B400203)に対して実質的にハイブリダイズしない。この特性によって本発明のプローブは新規アリルとHLA−B4002を識別可能となる。この態様のプローブは、ストリンジェントな条件下で反応させた場合、新規アリルのエクソン3に相当するDNA断片(即ち配列番号1の塩基配列からなるDNA断片)にハイブリダイズする一方、HLA−B4002のエクソン3に相当するDNA断片(即ち配列番号3の塩基配列からなるDNA断片)にハイブリダイズしない。
他の態様において本発明のプローブは、HLA−B4006(例えばHLA−B40060101、HLA−B40060102、HLA−B400602)に対して実質的にハイブリダイズしない。この特性によって本発明のプローブは新規アリルとHLA−B4006を識別可能となる。この態様のプローブは、ストリンジェントな条件下で反応させた場合、新規アリルのエクソン3に相当するDNA断片(即ち配列番号1の塩基配列からなるDNA断片)にハイブリダイズする一方、HLA−B4006のエクソン3に相当するDNA断片(即ち配列番号4の塩基配列からなるDNA断片)にハイブリダイズしない。
ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。例えば、ハイブリダイゼーション液(50%ホルムアミド、10×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、5×Denhardt溶液、1% SDS、10% デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いて42℃でインキュベーションし、その後0.1×SSC、0.1% SDSを用いて68℃で洗浄する条件である。更に好ましいストリンジェントな条件としては、ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mlの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を用いる条件を例示することができる。尚、プローブの長さや構成ヌクレオチドの種類(GC含量)がハイブリッド形成に影響するものの、最適なハイブリダイズ条件は実験によって決定することができる。
本発明のプローブを予め標識物質で標識しておくことができる。このような標識化プローブを用いることにより、標識量を指標としてHLAタイピングが可能となる。プローブの標識に用いられる標識物質としては32Pなどの放射性同位元素、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、テキサスレッドなどの蛍光物質、ビオチン、ジオキシゲニン等を例示できる。標識方法としてはアルカリフォスファターゼ及びT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いた5'末端標識法、T4 DNAポリメラーゼやKlenow断片を用いた3'末端標識法、ニックトランスレーション法、ランダムプライマー法(Molecular Cloning,Third Edition,Chapter 9,Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York)などを例示できる。
本発明のプローブを不溶性支持体に固定化した状態で用いることもできる。不溶性支持体としては、特に限定されるものではないが、例えばナイロンやニトロセルロース製の膜、ガラスやシリコン製の基板などが用いられる。不溶性支持体の形状も特に限定されず、例えばチップ状、ビーズ状などに加工された不溶性支持体が使用される。
プローブの固定化の方法は常法に従えばよく、例えば加熱処理やUV照射などによって行うことができる。必要に応じて、固定化する際にリンカーやスペーサーが利用される。また、結合反応用のアミノ基、アルデヒド基、SH基、ビオチン等の官能基をプローブの末端に予め導入しておき、固定化する場合もある。
本発明の第3の局面は本発明のプローブ又はプローブセットを含むHLAアリルタイピング用の試薬に関する。本発明の試薬は単独で又は後述のキットの一部として提供される。
本発明の試薬は、新規HLA−Bアリル検出用のプローブ(即ち本発明のプローブ又はプローブセット)のみを含むか、又は当該プローブに加えて他のHLAアリルを検出可能なプローブを含む。このように本発明の試薬は二種類以上のプローブを含むものであってもよい。二種類以上のプローブを含む試薬の場合、二種類以上のHLAアリルを検出(識別)可能なものとなる。例えば、新規アリル検出用のプローブ(本発明のプローブ)に加えて、新規アリルと異なるHLA−B4002の検出用のプローブを組み合わせれば、これら二つのアリルを検出(識別)可能な試薬となる。ここでの「新規アリルと異なるHLA−B4002」とは、配列番号1の塩基配列と異なる塩基配列のエクソン3を有するHLA−B4002であり、具体的にはHLA−B400201、HLA−B400202、HLA−B400203等である。これらのアリルのエクソン3の塩基配列は配列番号3で示される。
HLA−B400201、HLA−B400202、又はHLA−B400203を検出可能なプローブの例を以下に示す。
(1)1種類のプローブで検出する場合の例
CAG AGC ATG TAC GGC TGC(配列番号24)
(2)相補的な配列からなる連結部を有する一組のプローブで検出する場合の例
第1プローブ:CTC CAG AGC A GCTACTAAGCTCA(配列番号25)
第2プローブ:TGAGCTTAGTAGC TAC GGC TGC G(配列番号26)
尚、各プローブにおいて下線を付した部分が連結部である。
また、新規アリル検出用のプローブ(本発明のプローブ)に加えて、HLA−B4006の検出用のプローブを組み合わせれば、これら二つのアリルを検出(識別)可能な試薬となる。ここでの「HLA−B4006」とは、具体的にはHLA−B40060101、HLA−B40060102、HLA−B400602等である。これらのアリルのエクソン3の塩基配列は配列番号4で示される。
HLA−B40060101、HLA−B40060102、又はHLA−B400602を検出可能なプローブの例を以下に示す。
(1)1種類のプローブで検出する場合の例
CAG ACG ATG TAT GGC TGC(配列番号27)
(2)相補的な配列からなる連結部を有する一組のプローブで検出する場合の例
第1プローブ:TGG CAG ACG A GCTACTAAGCTCA(配列番号28)
第2プローブ:TGAGCTTAGTAGC TAT GGC TGC G(配列番号29)
尚、各プローブにおいて下線を付した部分が連結部である。
更には、新規アリル検出用のプローブ、新規アリルと異なるHLA−B4002の検出用のプローブ、及びHLA−B4006の検出用のプローブを組み合わせれば、これら三種類のアリルを検出(識別)可能な試薬となる。
好ましい一形態では、使用目的に応じて、検出(識別)が必要とされるHLAアリルの全てを識別できるように各アリル検出用のプローブを全て含む試薬とする。例えば、日本人が保有すると予想されるHLA−Bアリル(新規HLA−Bアリルも含まれる)の全てに関して対応するプローブを用意し、それらを全て含む試薬とする。当該試薬は日本人を対象としたHLA−Bタイピング用試薬としての有用性が高い。別の例として、検体のHLAアリルが、限られた種類の型の中でいずれに該当するかを判定することが要求される場合は、当該各型に対応したプローブのみを含む試薬とすればよい。このように必要十分な種類のプローブのみを併用して本発明の試薬を構成することによって、プローブの無駄がなくなることはもとより、検出(識別)精度の向上も図られる。
一方、新規HLA−Bアリルも含め、これまでに報告されたHLA−Bアリルの全てに関して対応するプローブを用意し、それらを全て含む試薬とすれば、現状で考え得る全HLA−Bアリルを検出・識別可能な有用性及び汎用性の極めて高いものとなる。
言うまでもないが、新たなHLAアリルの存在が確認された場合、それに対応するプローブを設計し、それを併用することも可能である。
本発明の第4の局面は上記試薬の利用形態に関する。即ち、この局面では(1)上記試薬と、(2)上記試薬と検体とのハイブリダイゼーション反応用の試薬と、及び(3)取扱説明書と、を含んだHLAアリルタイピング用のキットが提供される。キットに含めることができる任意の成分として、洗浄用試薬(生理食塩水、リン酸系緩衝液、クエン酸系緩衝液など)、特異的ハイブリッド形成を確認するための標準試薬(ポジティブコントロール及び/又はネガティブコントロール)、反応用容器(マルチウェルプレート、反応チューブなど)、各操作に必要な器具類を挙げることができる。
また、採用する測定系に応じて、必要な試薬や器具等をキットに含めることもできる。例えば、核酸増幅反応を伴う測定系用とする場合、核酸増幅反応に必要な試薬をキットに含めることができる。ここでの「核酸増幅反応に必要な試薬」の具体例として、HLA−Bアリルのエクソン3領域を特異的に増幅するための試薬(特異的プライマー及び/又はDNAポリメラーゼ)を挙げることができる。新規アリルの検出に必要な標的領域を含む限り、増幅される領域はエクソン3の一部であってもよい。当該試薬を含むキットによれば、新規HLA−Bアリルに特異的な塩基が存在するエクソン3領域を増幅することが可能となる。一方、HLA−Bアリルのエクソン2及び3領域を特異的に増幅するための試薬を含むキットを構築することにしてもよい。このキットによれば、新規HLA−Bアリルに特異的な塩基が存在するエクソン3に加えてエクソン2も増幅することができる。従って、エクソン2及び3を標的としたタイピングに適したキットとなり、より多くのアリルが識別可能となる。
本発明のさらなる局面はHLAアリルのタイピング法に関する。「HLAアリルのタイピング」とは、検体のHLAアリルの型(又はその組合せである遺伝子型)を検出・識別することをいう。
本発明のHLAタイピング法では、被験者のHLA−B遺伝子が新規アリルを有するか否かを調べるステップが行われる。例えば、PCR−RFLP(restriction fragment length polymorphism:制限酵素断片長多型)法、PCR−SSCP(single strand conformation polymorphism:単鎖高次構造多型)法(Orita,M. et al., Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A., 86, 2766-2770(1989)等)、PCR−SSO(specific sequence oligonucleotide:特異的配列オリゴヌクレオチド)法、ASO(allele specific oligonucleotide:アリル特異的オリゴヌクレオチド)ハイブリダイゼーション法(Saiki, Nature, 324, 163-166(1986)等)、リバースPCR−SSO法、Luminex法(登録商標、米国Luminex社、PCR−MPH法(Polymerase Chain Reaction-based Microtiter Plate Hybridization)(湧永製薬株式会社)、TaqMan−PCR法(Livak, KJ, Genet Anal,14,143(1999),Morris, T. et al., J. Clin. Microbiol.,34,2933(1996))、Invader法(Lyamichev V et al., Nat Biotechnol,17,292(1999))、RCA(rolling cycle amplification)法(Lizardi PM et al., Nat Genet 19,225(1998))、DNAチップ又はマイクロアレイを用いた方法(Wang DG et al., Science 280,1077(1998)等)、プライマー伸長法、サザンブロットハイブリダイゼーション法、ドットハイブリダイゼーション法(Southern,E., J. Mol. Biol. 98, 503-517(1975))等、公知の方法を利用して行うことができる。尚、これらの方法を任意に組み合わせてHLAタイピングを行ってもよい。また、PCR法又はPCR法を応用した方法などの核酸増幅法により核酸試料を予め増幅(核酸試料の一部領域の増幅を含む)した後、上記いずれかの検出法を適用することもできる。増幅される部分領域の長さは、検出に適した範囲で適宜設定され、例えば50bp〜200bp、好ましくは80bp〜150bpである。
以上の各方法では、それに応じたプローブやプライマー等の核酸が使用される。ここでのプローブとしては本発明のプローブ、プローブセット、又は試薬を利用できる。一方、新規HLA−Bアリルの特異的塩基を含む部分領域に相補的なプライマーを片方のプライマーとしたプライマーセットを用いれば、核酸の増幅を指標として新規アリルを検出することができる。
本発明の一態様では、被験者のゲノムDNAから調製した核酸試料と、本発明のプローブ又はプローブセットとを反応させた後、特異的なハイブリッド形成を検出することによって、被験者のHLA−B遺伝子が新規アリルを有するか否かを調べる。つまり、特異的プローブによるハイブリダイゼーション反応を利用してHLAタイピングを行う。このようなHLAタイピング法には、上記のPCR−SSO法、リバースPCR−SSO法、Luminex法などが好適に利用される。PCR−SSO法では、PCRで増幅させた核酸試料を膜やマイクロプレートなどの支持体に結合させた後、この支持体を適当なハイブリダイゼーション条件下で標識化プローブと反応させる。非特異的結合成分を洗浄除去した後、標識量を指標として支持体に結合したプローブを検出する。一方、リバースPCR−SSO法では、PCRで増幅させた核酸試料を標識化した後、適当なハイブリダイゼーション条件下で未標識のプローブを結合させた支持体と反応させる。その後はPCR−SSO法と同様に、非特異的結合成分の洗浄除去、標識の検出を行う。尚、リバースPCR−SSO法の変法も開発されており(米国特許第4,683,194号)、これを本発明のタイピング法に利用することもできる。Luminex法はrSSO(reverse Sequence Specific Oligonucleotide)法を原理とし、PCRの増幅産物と、蛍光ビーズに固相化したオリゴヌクレオチドプローブとのハイブリダイゼーションを蛍光により検出する方法である。
ところで、検出可能なHLAアリルの種類は、使用するプローブの種類に依存する。例えば、新規HLA−Bアリルを検出可能なプローブと、他のHLAアリルを検出可能なプローブを組み合わせて使用すれば、複数のHLAアリルを同時に検出・識別することができる。別の例として、新規HLA−Bアリルを検出可能なプローブと、HLA−Bアリルの特定の型(新規HLA−Bアリルとは異なる)を検出可能なプローブを含む試薬(又はそれを含むキット)を利用すれば、複数のHLA−Bアリルを同時に検出・識別することが可能である。さらには、新規HLA−Bアリルを検出可能なプローブと、これまでに報告されたHLA−Bアリルのそれぞれに対応したプローブを全て含む試薬(又はそれを含むキット)を利用して本発明のタイピング法を実施すれば、現状で考え得る全てのHLA−Bアリルを検出・識別することが可能となる。一方、使用するプローブ(又は試薬若しくはキット)を選定することで、検体の種類(例えば日本人の検体の場合)やタイピングの目的(例えば二つのHLA−Bアリル間の識別をする場合)に最適なタイピング法を構成することもできる。
本発明のHLAタイピング法に供される核酸試料は通常、被験者の血液、皮膚細胞、粘膜細胞、毛髪等から抽出したゲノムDNAから調製される。但し、mRNAやそれを鋳型として調製したcDNAを検体として用いることも可能である。ゲノムDNAやmRNAの調製には公知の抽出方法、精製方法を用いればよい。HLA−Bをコードする領域(即ちMHCクラスI遺伝子)を含むものであれば、任意の長さのゲノムDNA等を用いることができる。
1.新規アリルの検索
日本人検体について、既存の二種類の方法、即ちジェノサーチHLA−Bキット(株式会社医学生物学研究所)と、PCR−SBT(Sequencing-Based Typing)法(株式会社SRLウェブページ(http://www.srl-group.co.jp/)などを参照)でHLA−Bの型判定を行ったところ、前者ではB4002、後者では判定不能という結果であった。前者の方法で再度試験した結果、母と子は本来一方のアリルの型は一致すべきであるにもかかわらず、当該患者検体の型がB4002、患者の母親の型がB4006との判定結果であった。これは、患者検体のHLA−B型が、既存のプローブでは識別できない新規の型であることを示唆する。そこで、以下の手順に従い、患者検体のHLA−B型の塩基配列を決定することにした。
(1)増幅用プライマーの設計
事前の検査によって、当該患者のHLA−B型は父親由来がB5901アリルであり、母親由来が新規アリル(B4006及びB4002に近似するアリル)であることが判明していた。そこで、B5901アリルを増幅することなく、新規アリルのみを特異的に増幅することが可能な一対のプライマーを以下の通り設計した。
フォワードプライマー
TGA CCG AGA CCT GGG CTG G(配列番号12)
リバースプライマー
TGG TCA GAG ATG GGG TGG TGG(配列番号13)
フォワードプライマーがアニーリングする位置は、エクソン1の末端部及びイントロン1の先頭1塩基である(図10、12)。このフォワードプライマーの使用によって、新規アリル特異的な増幅が可能となる。尚、エクソンとイントロンを跨ぐようにプライマーを設計することによって、類似のゲノムDNAが増幅されることを防止している。
一方、リバースプライマーはエクソン4の一部に対応する(図10)。尚、図10及び11は、エクソンの配列をB070201アリル、B400201アリル、B40060101アリル及びB5901アリル間で比較したものである。フォワードプライマーのアニーリング位置(図10)及びリバースプライマーのアニーリング位置(図11)が網掛けで示される。図12及び13はイントロンの配列をB070201アリル及びB40060101アリル間で比較したものである。フォワードプライマーのアニーリング位置(図12)が網掛けで示される。
(2)新規アリルのクローニング
患者検体より調製したゲノムDNAを鋳型として、以下の条件でPCRを行った。
(a)反応液
鋳型DNA(10ng/ul): 1μl
2×GC Buffer1 (タカラバイオ株式会社): 25μl
25mM dNTPs: 0.4μl
フォワードプライマー 100μM: 0.3μl
リバースプライマー 100μM: 0.3μl
D.D.W(再蒸留水): 22.8μl
LA taq(タカラバイオ株式会社): 0.2μl
全量: 50μl
(b)反応条件
94℃で5分
94℃で30秒、62℃で30秒、72℃で1分を30サイクル
72℃で10分
4℃で放置
1.5%アガロースゲル電気泳動にてPCRの増幅を確認後、QIAquick Gel Extractionk(QIAGEN社)で精製した(約412bp)。PCR産物をPromega pGEMT-easyを用いて発現ベクターに挿入した後、XL1-bleu(又はDH5α)の形質転換を行った。形質転換操作後の細胞をLB Amp(+)プレートで培養し、形成されたコロニーを採取してLB(液体)で培養した。培養後の細胞よりプラスミドをミニプレップ法で抽出した。制限酵素EcoR1を用いて挿入配列(インサート)を確認後、Big Dye v.3.1(Applied Biosystems社)で配列のラベル化を行った。続いて、シークエンサー(Applied Biosystems社)で配列を解読した。尚、シークエンス用のプライマーは以下の通りである。
プライマー(f2):ACT ACA ACC AGA GCG AGG(配列番号14)
プライマー(f3):GCG GAC ACG GCG GCT CAG(配列番号15)
プライマー(T7):TAATACGACTCACTATAGGG(配列番号16)
プライマー(M13):TCACACAGGAAACAGCTATGAC(配列番号17)
シークエンスの結果、検体のHLA−Bアリルについてエクソン1〜エクソン4に亘る配列が決定された。決定された配列と既知アリルとの配列を比較した図を図1〜9に示す。図1は、エクソン2及び3について新規HLA−Bアリル(B*4002new)と既知HLA−Bアリル(B070201、B400201、B40060101)を比較したものである。同様に図2〜8は、エクソン3について新規HLA−Bアリル(B*4002new)と既知の全HLA−Bアリルとを比較したものである。一方、図9はエクソンに関して新規アリル(上段)とHLA−B400201(下段)を比較したものである。
新規アリル(図中、「B*4002new」と表記される)ではエクソン3の26番目の塩基がT(チミン)であるのに対し、既知HLA−B4002アリルのエクソン3では対応する部分の塩基はC(シトシン)である。このように新規アリルには、エクソン3の1箇所において既知HLA−B4002アリルと相違するという特徴が認められた。尚、新規アリルのエクソン3の配列(配列番号1)をエクソン2の配列(配列番号2)とともに添付の配列表に示した。
一方、エクソン3以外の部分についても既知HLA−Bアリルとの比較を行った結果、新規アリルは上記の箇所(エクソン3の26番目)でのみHLA−B400201と相違していた(図9)。この相違をもたらす塩基置換はアミノ酸置換を伴っておらず、即ち同義置換であることから、新規アリルはHLA−B4002のサブタイプであると判断された。
2.HLA−Bの遺伝子型判定
<測定原理>
ゲノムDNAを鋳型としてPCR法により遺伝子増幅を行い、その増幅産物と蛍光ビーズに固相したオリゴプローブをハイブリダイゼーションさせることで変異を検出するrSSO(reverse Sequence Specific Oligonucleotide)法を原理として、HLA−Bの遺伝子型を判定する。
<遺伝子増幅>
遺伝子増幅は検体から抽出したゲノムDNAを鋳型として、HLA−Bのエクソン2及びエクソン3領域が特異的に増幅されるプライマーを用い、1チューブで行う。遺伝子増幅の段階でビオチン標識したプライマーを使用することで、増幅産物はビオチン標識される。
<ハイブリダイゼーション>
点変異特異的な配列を持つオリゴプローブ(各HLA−Bアリルに対応した複数のプローブ。新規アリル用プローブ(配列番号19)、HLA−B400201用プローブ(配列番号24)、B40060101用プローブ(配列番号27)を含む)を固相した、数十種類のLuminex(登録商標、米国Luminex社)用蛍光ビーズを使用する。これらのビーズをミックスしたビーズミックスとハイブリダイゼーション緩衝液及び上記で増幅したHLA−Bの増幅産物を混合し、熱変性後ハイブリダイゼーションさせる。
<蛍光標識>
ハイブリダイゼーション反応終了後、洗浄用のリン酸緩衝液を加えた後に遠心分離し、プローブと反応しなかった増幅産物を含む溶液(上清)を除去する。次にストレプトアビジン標識フィコエリスリン(SA-PE)を加え、ビーズ表面のプローブにハイブリダイゼーションした増幅産物のビオチンをフィコエリスリン標識する。
<検出>
Luminex(登録商標、米国Luminex社)システムに検体をセットし、検出する。Luminex法はビーズ表面にコーティングされた蛍光を検出することでビーズを識別し、更にビーズ表面のフィコエリスリンの蛍光を同時に測定することで、各ビーズに固相されたオリゴプローブと増幅産物との反応を検出する方法である。
<判定>
Luminex(登録商標、米国Luminex社)システムから出力された蛍光値データを基に、専用判定ソフト「ジェノサーチHLAタイピングソフトウェア(株式会社医学生物学研究所)」を使用して判定する
<操作法の具体例(96検体の同時測定)>
(1)HLA−Bのエクソン2及びエクソン3領域が特異的に増幅されるプライマーを含む溶液(マスターミックス)2.0mLにTaq DNA ポリメラーゼ12.5μLを加え混合する。
(2)(1)で調製したマスターミックス溶液を96穴PCRプレートの各ウェルに20μLずつ分注する。
(3)抽出したゲノムDNA 5μL(50〜100ng)を分注し、サーマルサイクラーにセットする。尚、抽出したゲノムDNAの濃度は10〜20ng/μLに調整する。
(4)遺伝子増幅(93℃で30秒、65℃で30秒、72℃で30秒のサイクルを40サイクル)。
(5)ハイブリダイゼーション緩衝液4mLを準備し、オリゴプローブを固相した、数十種類の蛍光ビーズ(ビーズミックス)0.5mLを加える。
(6)(5)で調製したビーズミックス溶液を96穴プレートの各ウェルに45μLずつ分注する。
(7)(4)で増幅したDNA増幅産物を各々5μL加え、プレートシールを貼りサーマルサイクラーにセットする。
(8)ハイブリダイゼーション反応(95℃で2分、52℃で60分、52℃で放置)
(9)リン酸緩衝液を各々75μL加える。
(10)約1,000×gで5分間、もしくは約2,000×gで1分間遠心後、上清を除去する。
(11)リン酸緩衝液 7mLにSA-PE 70μLを加える(100倍希釈)。
(12)上記を70μL加え、プレートシールを貼りサーマルサイクラーにセットする。
(13)SA-PE反応(52℃で5分、52℃で放置)
(14)Luminex(登録商標、米国Luminex社)システムにセットして測定する。
(15)「ジェノサーチHLAタイピングソフトウェア(株式会社医学生物学研究所)」を用いて判定する。
本発明は新規HLA−Bアリル及びその検出用のプローブなどを提供する。従来、当該アリルの存在が知られていなかったため、HLAタイピングによって遺伝子型を正しく判別できない場合があった。例えば、移植に際して実施されるHLAタイピングにおいて、実際は当該新規アリルを有するにも拘わらず、他の遺伝子型であると誤断される場合があり、移植の成否に大きな影響を及ぼすおそれがあった。本発明のプローブや試薬等を用いれば、今回明らかにされた新規HLA−Bアリルを適切に検出することができることから、詳細且つ確実なHLA遺伝子型の判別が可能となる。このように本発明はHLA遺伝子型の決定に有用な手段を提供するものであり、移植の成功率の向上に多大な貢献をする。
本発明は移植に伴うHLA遺伝子型の判別に限らず、輸血の際のHLA遺伝子型の判別や法医学(親子鑑定や犯罪者の特定など)、更にはHLA遺伝子型が関与する疾患における診断又は当該疾患の研究等においても利用され得る。
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
新規アリル(B*4002new)と既知HLA−Bアリルの比較。エクソン2及び3の配列が比較される。新規アリルではエクソン3(配列番号1)の26番目の塩基がT(チミン)であり、他の部分はB400201と同一の塩基配列である。尚、HLA−B070201の塩基配列を基準として各アリルの塩基配列が示される。また、「-」は、当該箇所の塩基が、基準の塩基配列における対応位置の塩基と同一であることを表す。慣例に従い左側が5’側(右側が3’側)となるように各塩基配列を表示している。 新規アリル(B*4002new)と既知の全HLA−Bアリルとの比較。エクソン3の一部について各配列が比較される。 図2の続き。 図3の続き。 図4の続き。 図5の続き。 図6の続き。 図7の続き。 新規アリル(上段、エクソン2(配列番号3)とエクソン3(配列番号2)を含む)とB400201(下段)との比較。 070201アリル、B400201アリル、B40060101アリル及びB5901アリルについてエクソンの配列を比較した図。B070201アリルの配列(エクソン1(配列番号5)、エクソン2(配列番号6)、エクソン3(配列番号7)、エクソン4(配列番号8))を基準として各アリルのエクソンの配列が示される。網掛けはフォワードプライマーのアニーリング位置を示す。 図10の続き。網掛けはリバースプライマーのアニーリング位置。 070201アリル及びB40060101アリルについてイントロンの配列を比較した図。B070201アリルの配列(イントロン1(配列番号9)、イントロン2(配列番号10)、イントロン3(配列番号11))を基準として各アリルのイントロンの配列が示される。網掛けはフォワードプライマーのアニーリング位置。 図12の続き。 本発明のプローブの一例。(a)は第1配列部(1)と第2配列部(2)がスペーサー(3)を介して連結した構造のプローブを示す。(b)は一部が相補的である第1プローブ(4)と第2プローブ(5)からなるプローブセットを示す。エクソン3の19番目塩基と20番目塩基を含む部分領域(第1部分領域)に対して第1プローブ(4)の一部(4a)がハイブリダイズし、エクソン3の26番目塩基を含む部分領域(第2部分領域)に対して第2プローブ(5)の一部(5a)がハイブリダイズする。また、第1プローブ(4)の一部(4b)と第2プローブ(5)の一部(5b)がハイブリダイズすることによって、第1プローブ(4)及び第2プローブ(5)の標的への結合が安定する。尚、図中の塩基(G、C、T)の上の数字(19、20、26)は新規アリルのエクソン3における各塩基の位置を表す。
符号の説明
1 プローブの第1配列部
2 プローブの第2配列部
3 スペーサー
4 第1プローブ
4a 標的に対するハイブリダイズ部
4b 第2プローブとの連結部
5 第2プローブ
5a 標的に対するハイブリダイズ部
5b 第1プローブとの連結部

Claims (30)

  1. エクソン3が配列番号1の塩基配列からなるHLA−Bアリル。
  2. 請求項1に記載のHLA−Bアリルを特異的に検出可能なオリゴヌクレオチドプローブ。
  3. 配列番号1の塩基配列からなるエクソン3の26番目塩基を標的とすることを特徴とする、請求項2に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  4. 前記エクソン3の一部であって前記26番目塩基を含む領域に相補的な配列を有することを特徴とする、請求項3に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  5. ストリンジェントな条件下、配列番号1の塩基配列からなるDNA断片にハイブリダイズし、配列番号3の塩基配列からなるDNA断片にハイブリダイズしないことを特徴とする、請求項2〜4のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  6. 配列番号1の塩基配列からなるエクソン3の19番目塩基、20番目塩基及び26番目塩基を標的とすることを特徴とする、請求項2に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  7. 前記エクソン3の一部であって前記19番目塩基及び前記20番目塩基を含む領域に相補的な第1配列部と、前記エクソン3の一部であって前記26番目塩基を含む領域に相補的な第2配列部とを有することを特徴とする、請求項6に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  8. 前記第1配列部と前記第2配列部がスペーサーを介して連結されている、請求項7に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  9. 前記エクソン3の一部であって前記19番目塩基〜前記26番目塩基を含む領域に相補的な配列を有することを特徴とする、請求項6に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  10. ストリンジェントな条件下、配列番号1の塩基配列からなるDNA断片に対してハイブリダイズし、配列番号4の塩基配列からなるDNA断片に対してハイブリダイズしないことを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  11. 前記エクソン3の前記19番目塩基〜前記26番目塩基に相補的な配列を有する塩基配列からなることを特徴とする、請求項2に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  12. 10bp〜40bpの長さである、請求項2〜11のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  13. 配列番号19、配列番号20又は配列番号21の塩基配列を有することを特徴とする、請求項2に記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  14. 標識物質が結合していることを特徴とする、請求項2〜13のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  15. 不溶性支持体に固定化されていることを特徴とする、請求項2〜14のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ。
  16. 配列番号1の塩基配列からなるエクソン3の19番目塩基及び20番目塩基を標的とする第1プローブと、前記エクソン3の26番目塩基を標的とする第2プローブと、からなるオリゴヌクレオチドプローブセットであって、
    前記第1プローブの一部と前記第2プローブの一部が相補的であることを特徴とするオリゴヌクレオチドプローブセット。
  17. 前記第1プローブは、前記エクソン3の一部であって前記19番目塩基及び前記20番目塩基を含む領域に相補的な配列を有し、
    前記第2プローブは、前記エクソン3の一部であって前記26番目塩基を含む領域に相補的な配列を有することを特徴とする、請求項16に記載のオリゴヌクレオチドプローブセット。
  18. 前記第1プローブが配列番号22の塩基配列を有し、前記第2プローブが配列番号23の塩基配列を有することを特徴とする、請求項16に記載のオリゴヌクレオチドプローブセット。
  19. 請求項2〜15のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ、又は請求項16〜18のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブセットを含む、HLAアリルタイピング用の試薬。
  20. 前記オリゴヌクレオチドプローブ又は前記オリゴヌクレオチドプローブセットの標的と異なるHLAアリルを検出可能なオリゴヌクレオチドプローブを更に含むことを特徴とする、請求項19に記載の試薬。
  21. 前記HLAアリルがHLA−Bアリルである、請求項20に記載の試薬。
  22. 前記HLAアリルが、配列番号1の塩基配列と異なる塩基配列のエクソン3を有するHLA−B4002、又はHLA−B4006である、請求項20に記載の試薬。
  23. 前記HLA−B4002がHLA−B400201、HLA−B400202又はHLA−B400203であり、前記HLA−B4006がHLA−B40060101、HLA−B40060102又はHLA−B400602であることを特徴とする、請求項22に記載の試薬。
  24. 請求項19〜23のいずれかに記載の試薬と、該試薬と検体とのハイブリダイゼーション反応用の試薬と、及び取扱説明書とを含む、HLAアリルタイピング用のキット。
  25. HLA−Bアリルのエクソン3を増幅するための試薬を更に含むことを特徴とする、請求項24に記載のキット。
  26. HLA−Bアリルのエクソン2及び3を特異的に増幅するための試薬を更に含むことを特徴とする、請求項24に記載のキット。
  27. 洗浄用試薬、及び/又は反応用容器を更に含むことを特徴とする、請求項24〜26のいずれかに記載のキット。
  28. 被験者のHLA−B遺伝子が、請求項1に記載のHLA−Bアリルを有するか否かを調べるステップを含む、HLAタイピング法。
  29. 前記ステップが、被験者のゲノムDNAから調製した核酸試料と、請求項2〜15のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ、又は請求項16〜18のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブセットとを反応させた後、特異的なハイブリッド形成を検出することを含む、請求項28に記載のHLAタイピング法。
  30. 請求項2〜15のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブ、請求項16〜18のいずれかに記載のオリゴヌクレオチドプローブセット、請求項19〜23のいずれかに記載の試薬、又は請求項24〜27のいずれかに記載のキットを用いることを特徴とするHLAタイピング法。
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