ところで、かかる本発明において光ディスク基板材料として用いられるβ−ピネン重合体は、比重が0.85以上、1.0未満であり、且つ400〜850nmの波長の光の透過率が90%以上であるβ−ピネン重合体である。ここで、本明細書及び特許請求の範囲におけるβ−ピネン重合体とは、重合体(ポリマー)中のβ−ピネンの含有量が50質量%以上のものをいう。本発明に係るプラスチックレンズにおいては、β−ピネンの含有量が60質量%以上のβ−ピネン重合体が有利に用いられ、更に有利には、β−ピネンの含有量が70質量%以上のβ−ピネン重合体が用いられる。
かかるβ−ピネン重合体を製造する際の原料となるβ−ピネンとしては、従来より公知のものが何れも使用可能である。例えば、松や柑橘類等の植物から採取されたものを、精製した後、直接、用い得ることは勿論のこと、植物から採取されたα−ピネン等のテルペン類や石油由来の化合物を用いて、従来より公知の手法(例えば、米国特許第3278623号明細書に開示の手法)に従って製造されたβ−ピネン等も、用いることが可能である。このような植物由来のβ−ピネンを用いて得られたβ−ピネン重合体は、カーボンニュートラルな材料であり、この点において、本発明に係る光ディスク基板は、循環型社会の形成や地球温暖化防止に寄与し得るものとなっているのである。
また、本発明で使用されるβ−ピネン重合体は、上記したβ−ピネンの単独重合体であっても、また、β−ピネンと他の共重合可能な単量体の少なくとも1種以上との共重合体であっても、何等差支えない。β−ピネンと共重合可能な単量体としては、カチオン重合性単量体、ラジカル重合性単量体、配位重合性単量体及び植物由来のテルペン類等を挙げることが出来る。
なお、本発明において、β−ピネン重合体を製造する際に用いられる、カチオン重合性単量体、ラジカル重合性単量体及び配位重合性単量体としては、従来より一般的に用いられているものを使用することが可能である。また、植物由来のテルペン類も、カチオン重合法、ラジカル重合法又は配位重合法の何れかの重合法において、重合性単量体として用いることが可能である。具体的には、カチオン重合性単量体としては、イソブチレン、イソプレン、ブタジエン、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−t−ブトキシスチレン、インデン、アルキルビニルエーテル、ノルボルネン等を、また、ラジカル重合性単量体としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル基含有ビニルモノマー;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド基含有ビニルモノマー;酢酸ビニル、ピバリン酸ビニル、安息香酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、フマル酸エステル、マレイミド等を挙げることが出来る。また、配位重合性単量体としては、エチレン、プロピレン、1−ヘキセン、シクロペンテン、ノルボルネン等を例示することが出来、更に、植物由来のテルペン類としては、ミルセン、アロオシメン、オメシン、α−ピネン、ジペンテン、リモネン、α−フェランドレン、α−テルピネン、γ−テルピネン、2−カレン、3−カレン等を、例示することが出来る。これらの中から、β−ピネンの使用量等に応じて、一種又は二種以上のものが適宜に選択されて用いられることとなる。β−ピネン重合体はカチオン重合法によって有利に得られることから、上述の如き重合性単量体の中でも、特にカチオン重合性単量体が有利に用いられる。
また、上記共重合可能な単量体をβ−ピネンと共重合する場合において、その共重合量は、ポリマー中の0.001〜50質量%が好ましく、中でも0.01〜20質量%がより好ましく、特に0.05〜10質量%が最も好ましい。なお、その共重合量が多過ぎると、吸水率が増加したり、耐熱性が低下してしまう等の問題を生じるため、好ましくない。
一方、前記した共重合性単量体と共に、或いは前記共重合性単量体に代えて、少量の2官能以上の架橋性の単量体(以下、架橋性単量体という)を共重合することが出来る。かかる架橋性単量体は、重合体を製造する際に、分岐剤若しくは架橋剤として一般的に用いられているが、その使用量を少量とすることにより、所謂、長鎖分岐構造を有し、有機溶媒への不溶部が生じない程度の分子量を有するβ−ピネン重合体が、有利に得られる。本発明において用いられ得る架橋性単量体としては、具体的に、m−ジイソプロペニルベンゼン、p−ジイソプロペニルベンゼン、m−ジビニルベンゼン、p−ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、エチレングリコールジビニルエーテル等の2官能性ビニル化合物を挙げることが出来、それらの中でも、経済性や反応性の観点から、m−ジイソプロペニルベンゼンが、好ましく用いられる。
そのような架橋性単量体をβ−ピネン(及びβ−ピネンと共重合可能な単量体)と共重合する場合に、その共重合量は、ポリマー中の0.001〜7質量%が好ましく、中でも0.01〜5質量%がより好ましく、特に0.05〜4質量%が最も好ましい。その共重合量が多過ぎると、得られるβ−ピネン重合体がゲル状となり、熱可塑性を失ってしまい、好ましくない。
ところで、本発明で使用されるβ−ピネン重合体の重合方法は、特に限定されるものではなく、用いられる各重合性単量体に適した公知の重合手法を適宜に選択することが出来る。例えば、アニオン重合法、カチオン重合法、ラジカル重合法及び配位重合法のうちの何れかを、選択して用いることが出来るが、一般に、カチオン重合法が採用されることとなる。
なお、かかるカチオン重合法に従って、本発明で使用されるβ−ピネン重合体を得る場合において、その重合触媒としては、公知のカチオン重合触媒が適宜に用いられることとなる。具体的には、BF3 、BF3 OEt2 、BBr3 、BBr3 OEt2 、AlCl3 、AlBr3 、AlI3 、TiCl4 、TiBr4 、TiI4 、FeCl3 、FeCl2 、SnCl2 、SnCl4 、WCl6 、MoCl5 、SbCl5 、TeCl2 等の、周期律表3族〜16族の金属のハロゲン化合物;HF、HCl、HBr等の水素酸;H2 SO4 、H3 BO3 、HClO4 、CH3 COOH、CH2 ClCOOH、CHCl2 COOH、CCl3 COOH、CF3 COOH、パラトルエンスルホン酸、CF3 SO3 H、H3 PO4 、P2 O5 等のオキソ酸、及びこれらの基を有するイオン交換樹脂等の高分子化合物;燐モリブデン酸、燐タングステン酸等のヘテロポリ酸;SiO2 、Al2 O3 、SiO2 −Al2 O3 、MgO−SiO2 、B2 O3 −Al2 O3 、WO3 −Al2 O3 、Zr2 O3 −SiO2 、硫酸化ジルコニア、タングステン酸ジルコニア、H+ 又は希土類元素と交換したゼオライト、活性白土、酸性白土、γ−Al2 O3 、P2 O5 をケイソウ土に担持させた固体燐酸等の固体酸等を挙げることが出来る。
これらのカチオン重合触媒は、組み合わせて用いても良く、また他の化合物等を重合系に添加しても良い。かかる他の化合物等は、例えばそれを添加することにより触媒の活性を向上させることが出来る化合物等である。そして、金属ハロゲン化合物の酸性化合物としての活性を向上させる化合物の例としては、MeLi、EtLi、BuLi、Et2 Mg、EtMgBr、Et3 Al、Et2 AlCl、EtAlCl2 、Et3 Al2 Cl3 、(i−Bu)3 Al、Et2 Al(OEt)、Me4 Sn、Et4 Sn、Bu4 Sn、Bu3 SnCl等の金属アルキル化合物;2−メトキシ−2−フェニルプロパン、t−ブタノール、1,4−ビス(2−メトキシ−2−プロピル)ベンゼン、2−フェニル−2−プロパノール等の、リビングカチオン重合における重合開始剤として用いられる化合物等が、例示される。
また、本発明で使用されるβ−ピネン重合体の重合方法として、溶媒を用いた溶液重合法を用いてもよい。使用可能な溶媒としては、採用される重合法により異なるため、一義的に規定することは困難であるが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒;塩化メチル、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;エステル、エーテル等の含酸素系溶媒等を挙げることが出来る。なお、反応性を考慮すると、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、ハロゲン化炭化水素系溶媒等の使用が、好ましい。これらの溶媒は、単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用しても良い。
かくの如き溶媒の使用量は特に限定されないが、β−ピネン等の単量体100質量部に対して、通常100〜10000質量部程度、好ましくは150〜5000質量部、より好ましくは200〜3000質量部である。この溶媒量が少ないと、重合触媒の均一な混合が困難になるため、反応が不均一となり、均一な重合体が得られなかったり、反応の制御が困難になる。一方、溶媒量が多いと、生産性が低下してしまう問題がある。
そして、重合反応を行う場合、反応温度は通常−80℃〜100℃が好ましく、中でも−40℃〜80℃がより好ましく、特に−20℃〜80℃が最も好ましい。この反応温度が低過ぎると、反応の進行が遅く、また高過ぎると、反応の制御が困難となり、再現性が得られ難い。
また、重合反応を行うための反応圧力は、特に限定されるものではないが、0.5〜50気圧が好ましく、0.7〜10気圧がより好ましい。通常、1気圧前後で、重合反応が行われることとなる。
さらに、重合反応を行う反応時間は、特に限定されず、反応温度、反応圧力等の条件に応じて、収率良く、β−ピネン重合体が得られるように、反応時間を適宜に決定すればよい。通常は0.01時間〜24時間程度、好ましくは0.2時間〜10時間である。
ところで、重合反応後のβ−ピネン重合体は、例えば、再沈殿、加熱下での溶媒除去、減圧下での溶媒除去、水蒸気による溶媒の除去(スチーム・ストリッピング)等の、重合体を溶液から単離する際の通常の操作によって、反応混合物から分離、取得することが出来る。
本発明で使用されるβ−ピネン重合体は、耐光性、耐衝撃性、耐熱性等の観点から、そのオレフィン性二重結合が水素添加されていることが好ましい。そして、この水素添加率としては、一般に90%以上水素添加されていることが好ましく、中でも95%以上水素添加されていることがより好ましく、99%以上水素添加されていることが、最も好ましい。本発明にあっては、前記β−ピネン重合体は、水素添加せしめられたものであって、その水素添加率を示す([水素添加されたオレフィン性二重結合の数]/[水素添加前の重合体中のオレフィン性二重結合の数])×100の値が95%以上であることが、望ましいのである。なお、水素添加された重合体における不飽和二重結合(炭素−炭素二重結合)の水素添加率は、ヨウ素価滴定法、赤外分光スペクトル測定、核磁気共鳴スペクトル(1H−NMRスペクトル) 測定等の分析手段を用いて、算出することが可能である。
ここにおいて、本発明で使用されるβ−ピネン重合体の水素添加の方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることが出来る。例えば、ウィルキンソン錯体、酢酸コバルト/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリイソブチルアルミニウム等の均一系触媒、ケイソウ土、マグネシア、アルミナ、シリカ、アルミナ−マグネシア、シリカ−マグネシア、シリカ−アルミナ、合成ゼオライト等の担持体に、ニッケル、パラジウム、白金等の触媒金属を担持させた不均一系触媒等による公知の方法を用いることが出来る。
また、かかる水素添加する場合に用いることの出来る溶媒としては、重合体が溶解され、且つ水素添加触媒に不活性な有機溶媒であれば、使用することが可能である。具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂肪族炭化水素系溶媒;塩化メチル、塩化メチレン、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエチレン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;エステル、エーテル等の含酸素系溶媒等を用いることが出来る。なお、反応性を考慮すると、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒等が好ましい。これらの溶媒は、単独で使用しても、2種類以上を組み合わせて使用しても、何等差支えない。
さらに、水素添加反応の反応温度は、使用する水素添加触媒や水素圧力に依存するが、一般に20℃〜250℃程度が好ましく、中でも25℃〜150℃がより好ましく、更には40℃〜100℃が最も好ましい。反応温度が低くなり過ぎると、反応が円滑に進行し難く、また反応温度が高過ぎると、副反応や分子量低下が起こり易い。なお、水素圧力としては、好ましくは常圧〜200kgf/cm2 程度、より好ましくは5〜100kgf/cm2 を用いることが出来る。この水素圧力が低過ぎると、反応が円滑に進行し難く、また水素圧力が高過ぎると、装置上の制約がかかってしまう。
なお、そのような水素添加反応系中におけるβ−ピネン重合体の濃度は、通常2質量%〜40質量%程度であり、好ましくは3質量%〜30質量%、より好ましくは5質量%〜20質量%である。β−ピネン重合体の濃度が低いと、生産性の低下が起こり易く、好ましくない。また、β−ピネン重合体の濃度が高過ぎると、水素化重合体が析出したり、反応混合物の粘度が高くなり、攪拌が円滑に行い難くなる場合が生じ、好ましくない。
また、水素添加反応の反応時間は、使用する水素添加触媒や水素圧力、反応温度に依存するが、通常、0.1時間〜50時間程度、好ましくは0.2時間〜20時間、より好ましくは0.5時間〜10時間が採用されることとなる。
さらに、水素添加反応後のβ−ピネン重合体は、例えば、再沈殿、加熱下での溶媒除去、減圧下での溶媒除去、水蒸気による溶媒の除去(スチーム・ストリッピング)等の、重合体を溶液から単離する際の通常の操作によって、反応混合物から分離、取得されることとなる。
ところで、本発明で使用されるβ−ピネン重合体の分子量は、重合溶液の粘度や溶融粘度、成形性、光ディスクの強度、耐熱性の観点から、重量平均分子量で3万〜100万程度であることが好ましく、4万〜50万がより好ましく、特に6万〜25万が好ましく、中でも9万〜20万が最も好ましい。なお、重合体の重量平均分子量は、ポリスチレン換算で求めるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)や、静的光散乱測定(SLS)等の公知の分析手法を用いて、算出することが出来る。
また、本発明で使用されるβ−ピネン重合体のガラス転移温度(Tg)は、光ディスク基板の使用環境から高い方が好ましく、一般に80℃以上であることが望ましく、特に光源の熱による悪影響を避ける上において、100℃以上であることが望ましく、中でも、より好ましくは110℃以上である。このガラス転移温度の上限は特に定めないが、200℃程度であることが望ましい。本発明に用いられるβ−ピネン重合体のような非晶性重合体においては、ガラス転移温度が高くなり過ぎると、高分子の絡み合いが少なくなり、成形品が脆くなる場合があるからである。
さらに、本発明で使用されるβ−ピネン重合体の光線透過率は、光ディスク基板として優れた機能を発揮する上において、400〜850nmの領域の波長の光の透過率において、90%以上である必要がある。この光線透過率が低くなると、データの読取り精度が悪化する等の問題を惹起する。
更にまた、本発明で使用されるβ−ピネン重合体は、寸法安定性の観点から、吸水率が低い方が好ましい。かかるβ−ピネン重合体の吸水率は、60℃、90%RH(相対湿度)雰囲気下に置いたときの飽和吸水率として0.2%以下が好ましく、中でも0.1%以下がより好ましく、特に0.05%以下が最も好ましい。このような吸水率を与えるβ−ピネン重合体が、有利に選定されることとなる。
このような本発明で使用されるβ−ピネン重合体は、比重が小さいことが特徴である。比重が小さいことで、より軽い基板、ひいては光ディスクを得ることが出来るからである。従って、本発明で使用されるβ−ピネン重合体の比重は、0.85以上、1.0未満である必要があり、特に、0.85〜0.98がより好ましい。0.85よりも小さな比重の重合体を得ることは困難であり、また比重が1.0以上となると、軽量化の目的を充分に達成し得なくなるからである。
また、このような本発明で使用されるβ−ピネン重合体は、その光弾性係数が小さいことが特徴となっている。特に、Tg以上の温度における光弾性係数が小さい特徴を有しているのである。なお、Tg以上の温度における光弾性係数が大きいと、一般に得られる成形品の光学歪みが大きくなる問題がある。また、この光学歪みの小さい成形品を得ようとする場合、成形条件の選択出来る範囲が狭く、また生産性が低くなってしまう問題がある。従って、好ましいTg以上の温度(例えば、Tg+20℃)における光弾性係数は、用途により一概に規定出来ないが、−3.0×10-10 〜3.0×10-10 cm2 /dynであることが好ましく、−1.0×10-10 〜1.0×10-10 cm2 /dynがより好ましい。この範囲の光弾性係数を有することで、光学歪みの小さい成形体を、生産性良く得ることが出来る。
さらに、本発明で使用されるβ−ピネン重合体は、曲げ弾性率が大きく、撓みによる変形を起こし難いため、そのようなβ−ピネン重合体からなる光ディスク基板をより薄くすることが出来る特徴を有している。かかるβ−ピネン重合体の曲げ弾性率は、一般に2500MPa以上が好ましく、特に2700MPa以上がより好ましい。
なお、本発明に係る光ディスク基板を成形する為のβ−ピネン重合体には、本発明の目的を損わない範囲において、更に必要に応じて、公知の各種の配合剤が、単独で或いは2種以上を組み合わせて、混合せしめられ得る。
そして、そのような各種配合剤の具体例としては、樹脂工業において通常用いられているものであれば、格別な制限はなく、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、近赤外線吸収剤、染料や顔料等の着色剤、滑剤、可塑剤(柔軟化剤)、帯電防止剤、蛍光増白剤、充填材等の配合剤を挙げることが出来る。
その中で、酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられるが、これらの中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましく、アルキル置換フェノール系酸化防止剤が特に好ましい。
ここで用いられるフェノール系酸化防止剤としては、具体的には、従来から公知のものが使用出来、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレート等の特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されている如きアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3’,5’−ジ−t−ブチル−4’−ヒドロキシフェニルプロピオネート)メタン[即ちペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート)]、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)等のアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジン等のトリアジン基含有フェノール系化合物等が挙げられる。
また、リン系酸化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用されるものであれば、格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイド等のモノホスファイト系化合物;4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4’−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)等のジホスファイト系化合物等が挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト等が特に好ましい。
更にまた、イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオプロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン等を挙げることが出来る。
そして、これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて、用いることが出来る。このような酸化防止剤の配合量は、本発明の目的が損われない範囲内で適宜に決定されることとなるが、β−ピネン重合体の100質量部に対して、通常、0.001〜5質量部程度、好ましくは0.01〜1質量部の範囲である。
また、紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)2H−ベンゾトリアゾール、2−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、5−クロロ−2−(3,5−ジ−t−ブチル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;4−t−ブチルフェニル−2−ヒドロキシベンゾエート、フェニル−2−ヒドロキシベンゾエート、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−メチル−6−(3,4,5,6−テトラヒドロフタルイミジルメチル)フェノール、2−(2−ヒドロキシ−5−t−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−4−オクチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール等のベンゾエート系紫外線吸収剤;2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸3水和物、2−ヒドロキシ−4−オクチルオキシベンゾフェノン、4−ドデシルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンジルオキシ−2−ヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤;エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート、2’−エチルヘキシル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレート等のアクリレート系紫外線吸収剤;[2,2’−チオビス(4−t−オクチルフェノレート)]−2−エチルヘキシルアミンニッケル等の金属錯体系紫外線吸収剤等を用いることが出来る。
さらに、光安定剤としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロネート、4−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)−1−(2−(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ)エチル)−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン等のヒンダードアミン系光安定剤を挙げることが出来る。
加えて、近赤外線吸収剤としては、例えば、シアニン系近赤外線吸収剤;ピリリウム系近赤外線吸収剤;スクワリリウム系近赤外線吸収剤;クロコニウム系近赤外線吸収剤;アズレニウム系近赤外線吸収剤;フタロシアニン系近赤外線吸収剤;ジチオール金属錯体系近赤外線吸収剤;ナフトキノン系近赤外線吸収剤;アントラキノン系近赤外線吸収剤;インドフェノール系近赤外線吸収剤;アジ系近赤外線吸収剤等が挙げられる。また、市販品の近赤外線吸収剤として、SIR−103、SIR−114、SIR−128、SIR−130、SIR−132、SIR−152、SIR−159、SIR−162(以上、三井東圧染料株式会社製)、Kayasorb IR−750、Kayasorb IRG−002、Kayasorb IRG−003、Kayasorb IR−820B、Kayasorb IRG−022、Kayasorb IRG−023、Kayasorb CY−2、Kayasorb CY−4、Kayasorb CY−9(以上、日本化薬株式会社製)等を挙げること出来る。
また、染料としては、用いられるβ−ピネン重合体に均一に分散・溶解するものであれば、特に限定されるものではないが、本発明で用いられるβ−ピネン重合体との相溶性が優るところから、油溶性染料(各種C.I.ソルベント染料)が広く用いられる。この油溶性染料の具体例としては、The Society of Dyers and Colourists 社刊の「Color Index」、Vol.3に記載されている各種のC.I.ソルベント染料が、挙げられる。
さらに、顔料のうち、有機系顔料としては、例えば、ピグメントレッド38等のジアリリド系顔料;ピグメントレッド48:2、ピグメントレッド53、ピグメントレッド57:1等のアゾレーキ系顔料;ピグメントレッド144、ピグメントレッド166、ピグメントレッド220、ピグメントレッド221、ピグメントレッド248等の縮合アゾ系顔料;ピグメントレッド171、ピグメントレッド175、ピグメントレッド176、ピグメントレッド185、ピグメントレッド208等のベンズイミダゾロン系顔料;ピグメントレッド122等のキナクリドン系顔料;ピグメントレッド149、ピグメントレッド178、ピグメントレッド179等のペリレン系顔料;ピグメントレッド177等のアントラキノン系顔料が挙げられる。また、無機系顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、べんがら、クロムレッド、モリブデンレッド、リサージ、酸化鉄等が挙げられる。
なお、本発明の光ディスク基板に着色が必要とされるときは、上記した染料と顔料の何れでも、本発明の目的の範囲内で使用することが出来、特に限定されるものではないが、ミクロな光学特性が問題となるような光ディスクの場合には、染料による着色が好ましい。また、紫外線吸収剤が目視では黄色〜赤色の色を示すこともあり、近赤外線吸収剤が目視では黒色の色を示すこともあるため、これらと染料を厳密に区別して使用する必要は無く、また、組み合わせて使用しても、何等差支えない。
また、滑剤としては、脂肪族アルコールのエステル、多価アルコールのエステル或いは部分エステル等の有機化合物や無機微粒子等を用いることが出来る。ここで、有機化合物としては、例えば、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノラウレート、グリセリンジステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリスリトールジステアレート、ペンタエリスリトールトリステアレート等が挙げられる。
さらに、他の滑剤としては、一般に無機微粒子を用いることが出来る。ここで、無機微粒子としては、周期律表の1族、2族、4族、6〜14族元素の酸化物、硫化物、水酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、燐酸塩、亜燐酸塩、有機カルボン酸塩、珪酸塩、チタン酸塩、硼酸塩及びそれらの含水化物、それらを中心とする複合化合物、天然化合物等の微粒子が挙げられる。
また、可塑剤としては、例えば、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリフェニルフォスフェート、トリエチルフェニルフォスフェート、ジフェニルクレジルフォスフェート、モノフェニルジクレジルフォスフェート、ジフェニルモノキシレニルフォスフェート、モノフェニルジキシレニルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリエチルフォスフェート等の燐酸トリエステル系可塑剤;フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘプチル、フタル酸ジ−n−オクチル、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸オクチルデシル、フタル酸ブチルベンジル等のフタル酸エステル系可塑剤;オレイン酸ブチル、グリセリンモノオレイン酸エステル等の脂肪酸一塩基酸エステル系可塑剤;二価アルコールエステル系可塑剤;オキシ酸エステル系可塑剤等が使用出来るが、これらの中でも、燐酸トリエステル系可塑剤が好ましく、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェートが特に好ましい。
さらに、可塑剤の他の具体例として、スクアラン(C30H62、Mw=422.8)、流動パラフィン(ホワイトオイル、JIS−K−2231に規定されるISO VG10、ISO VG15、ISO VG32、ISO VG68、ISO VG100、ISO VG8及びISO VG21等)、ポリイソブテン、水添ポリブタジエン、水添ポリイソプレン等が挙げられる。これらの中でも、スクアラン、流動パラフィン及びポリイソブテンが、好ましく用いられる。
更にまた、帯電防止剤としては、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の長鎖アルキルアルコール、グリセリンモノステアレート、ペンタエリスリトールモノステアレート等の多価アルコールの脂肪酸エステル等が挙げられるが、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコールが、特に好ましい。
これらの配合剤は、単独で、又は2種以上を混合して用いることが出来、その混合割合は、本発明の目的を損わない範囲で適宜に選択される。また、上記した配合剤の個々の配合量にあっても、本発明の目的を損わない範囲で適宜に選択されるが、各配合剤につき、β−ピネン重合体の100質量部に対して、通常、0.001〜5質量部程度、好ましくは0.01〜1質量部の範囲である。
そして、かくの如き本発明に係る光ディスク基板を成形する為のβ−ピネン重合体には、必要に応じて、本発明の目的を損わない範囲において、その他のポリマー成分を配合することも出来る。このその他のポリマーとしては、例えば、ゴム質重合体があり、具体的には、天然ゴム、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体ゴム等のジエン系ゴム;スチレン・ブタジエン共重合体ゴム、スチレン・イソプレン共重合体ゴム、スチレン・ブタジエン・イソプレン三元共重合体ゴム;ジエン系ゴムの水素添加物;エチレン・プロピレン共重合体等のエチレン・α−オレフィン共重合体、プロピレン・その他のα−オレフィンの共重合体等の飽和ポリオレフィンゴム;エチレン・プロピレン・ジエン共重合体、α−オレフィン・ジエン共重合体、イソブチレン・イソプレン共重合体、イソブチレン・ジエン共重合体等のα−オレフィン・ジエン系重合体ゴム;ウレタンゴム、シリコーンゴム、ポリエーテル系ゴム、アクリルゴム、プロピレンオキサイドゴム、エチレン・アクリルゴム等の特殊ゴム;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体ゴム、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体ゴム等の熱可塑性エラストマー;水素添加熱可塑性エラストマー;ウレタン系熱可塑性エラストマー;ポリアミド系熱可塑性エラストマー;1,2−ポリブタジエン系熱可塑性エラストマーを挙げることが出来る。また、その配合量は、本発明の目的を損わない範囲で、適宜に選択されるが、β−ピネン重合体の100質量部に対して、通常、3〜30質量部程度、好ましくは5〜20質量部の範囲である。
なお、かかる本発明に従う光ディスク基板の成形方法としては、射出成形法、熱プレス成形法、押出成形法、切削加工による方法等の公知の手法が、適宜に採用されることとなる。その中でも、生産性の観点から、射出成形法や押出成形法が、好ましく用いられる。そして、このようにして得られる、光ディスク基板の厚さは、一般に30〜300μm程度、好ましくは70〜200μmである。
このように、本発明に従って、所定のβ−ピネン重合体を光ディスク基板用樹脂として用いると、従来のポリメチルメタクリレート系樹脂における耐熱性や耐水性の問題、またポリカーボネート系樹脂における複屈折性、寸法安定性、耐水性の問題を一気に解決して、優れた特性を有するディスク用基板が提供されることになる。従って、本発明に従うディスク用基板に、公知の種々の方法で記録層を積層したものは、コンパクトディスク、ビデオディスク、追記型光ディスク、書換型光ディスク、光磁気ディスク等の光ディスクとして、有利に利用することが出来るのである。また、同様な記録方法を用いる光カードとしても、利用することが出来るのである。
ここで、本発明に係る光ディスクの製法についてより具体的に説明するならば、先ず、上記したβ−ピネン重合体からなる本発明に従うディスク基板に、凹凸ピットが形成される。この凹凸ピットは、かかるディスク基板上に、従来と同様に、例えば、紫外線硬化性樹脂或いは熱硬化性樹脂等を塗布し、次いで、所定の情報が記憶された凹凸ピットを有するスタンパーを圧着させた後、紫外線又は熱によって樹脂を硬化させる方法、又はディスク基板上に直接スタンパーを熱プレスすることにより、凹凸ピットを基板上に形成させる方法等によって、形成することが出来る。なお、そこで、紫外線硬化性樹脂としては、公知のアクリル系樹脂等が用いられ、また熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等が用いられる。
次に、そのような凹凸ピットの上に、反射膜、記録膜、誘電体膜等の機能性被膜が形成される。この機能性被膜は、無機化合物で形成しても、有機化合物で形成してもよい。この機能性被膜として使用出来る無機化合物としては、反射膜では、Ni、Al、Au、Pt等の反射率の高い金属、記録膜では、Tb−Fe系合金、Dy−Fe系合金、Cd−Tb系合金、Cd−Tb−Dy−Fe系合金、Cd−C系合金、Tb−Fe−Co系合金等の希土類−遷移金属アモルファス合金の他に、Ge−Te、Sb−Te系、In−Sb等の相変化型記録材料や、Te−CS2 、Pb−Te−Se、Te−C、TeO2 、Sb−Se、Bi−Te等の追記型記録材料等、誘電体膜では、CdS、ZnS、ZnSe、SiO2 、Si、Si3 N4 、AlN、TiO2 、TaO2 、MgF2 等の化合物を挙げることが出来る。また、有機化合物としては、記録膜では、メチン・ポリメチン系、キノン類、ナフトキノン類、アントラキノン類、フタロシアニン系、ジチオール系、テトラヒドロコリン類、ジオキサン類、ジチアジン類、チアビリリウム類、ポリフィリン類等が挙げられる。そして、目的とする機能性被膜の形成には、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ディッピング法、スピンコーティング法等、公知の方法が用いられることとなる。
そして、このように機能性被膜が形成されてなる本発明に従う光ディスク基板は、片面が信号記録面とされた所謂単板型光ディスクとして用いられることとなるのであるが、また、本発明にあっては、そのような光ディスク基板の2枚を用いて、それらをその信号記録面を対向させて接着層を介して貼り合わせることにより、両面が信号記録面とされた所謂両面型光ディスクとしても用いられ得るものである。なお、それら単板型光ディスク及び両面型光ディスクの何れにおいても、本発明に従う光ディスク基板には、レーザ光の如き読取り光が照射されて透光され、そして反対側の面に形成された信号記録面から情報が読み取られるのであるが、そのような光ディスクにおける1枚或いは2枚の光ディスク基板の割合は、全体の5〜95質量%を占めるように構成され、これによって基板としての機能が有効に発揮せしめられることとなる。
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
先ず、本発明に従う光ディスク基板の形成材料として、β−ピネン重合体水素添加物を、以下の如くして合成した。
十分に乾燥させたガラス製コック付フラスコについて、その内部を充分に窒素置換した後、これに、脱水したN−ヘキサン:184質量部と、脱水した塩化メチレン:210質量部と、脱水したジエチルエーテル:0.5質量部とを加え、−78℃に冷却した。それらの混合物を−78℃にて撹拌しながら、二塩化エチルアルミニウムのヘキサン溶液(濃度:1.0mol/L):7.2質量部を更に加えた。次いで、フラスコ内を−78℃に保持した状態にて、p−ジクミルクロライドのヘキサン溶液(濃度:0.1mol/L):3.0質量部を添加したところ、赤燈色に変化した。その後、直ちに蒸留精製したβ−ピネン:60質量部を、1時間かけてフラスコ内に添加したところ、次第に濃燈色になり、溶液の粘度が上昇した。β−ピネンの添加終了後、メタノール:30質量部を添加して、反応を終了させた。フラスコ内に、蒸留水:100質量部にクエン酸:5質量部を添加してなる水溶液を添加し、5分撹拌した後、水層を抜き取り、蒸留水を加えて水層が中性になるまで洗浄し、アルミ化合物を除去した。得られた有機層をメタノール/アセトン(50/50vol%)の混合溶媒:5000質量部に再沈せしめた後、十分に乾燥して、β−ピネン重合体(A1):60質量部を得た。得られたβ−ピネン重合体(A1)の重量平均分子量は116,000、数平均分子量は51,000、ガラス転移温度は95℃であった。
窒素置換した撹拌装置付き耐圧容器に、シクロヘキサン:70質量部と、上述の如くして得られたβ−ピネン重合体(A1):30質量部を加え撹拌することにより、β−ピネン重合体(A1)を完全に溶解した。次いで、水素添加触媒として5%パラジウム担持アルミナ(N.E.ChemCat製):30質量部を加え、撹拌して十分に分散させた後、耐圧容器内を十分に水素で置換し、室温下、1000rpmで撹拌しながら、100℃、水素圧40kgf/cm2 で、6時間反応させた後、常圧に戻した。反応後の溶液をシクロヘキサン200質量部加えて希釈した後、0.5μmのテフロン(登録商標)フィルターによりろ過して触媒を分離除去した後、メタノール/アセトン(50/50vol%)の混合溶媒:5000質量部に再沈せしめた後、十分に乾燥して、β−ピネン重合体水素添加物(H1):29質量部を得た。得られたβ−ピネン重合体水素添加物(H1)の水素添加率を 1H−NMRから求めたところ、99.9%であり、重量平均分子量は112,000、数平均分子量は50,800、ガラス転移温度は130℃、比重は0.930であった。
その後、かくして得られた高分子量のβ−ピネン重合体水素添加物(H1)の100質量部に対して、紫外線吸収剤である2−(5−メチル−2ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾールの0.1質量部と、フェノール系酸化防止剤であるイルガノックス1010(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製)の0.1質量部とを、ヘンシェルミキサーで混合した後、押出機を用いて溶融混練して、ペレット状のβ−ピネン重合体水素添加物組成物(M1)を得た。
なお、上記した各工程で得られる材料について、また下記の工程で製造される材料について、その物性測定は、以下の如くして行った。
−分子量−
数平均分子量及び重量平均分子量は、何れも、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)による測定に基づき、ポリスチレン換算値で求められたものである。ここでは、GPC装置として、東ソー株式会社製のHLC−8020(品番)を用い、カラムとして、東ソー株式会社製のTSKgel・GMH−Mの2本とG2000Hの1本とを直列に繋いだものを用いた。
−水素添加率−
1H−NMRスペクトルから、原料樹脂のオレフィン性二重結合プロトン(4〜6ppm)の減少率(%)により、水素添加率{([水素添加されたオレフィン性二重結合の数]/[水素添加前の重合体中のオレフィン性二重結合の数])×100(%)}を求めた。
−ガラス転移温度(Tg)−
充分に乾燥して、溶媒を除去したサンプルを用いて、示差走査熱量測定法(DSC)により、測定した。先ず、サンプルを、窒素100ml/分の気流下、25℃から10℃/分の昇温速度で200℃まで加熱して、DSCカーブを得る。次に、この得られたDSCカーブを用い、図1に示される如く、その中央接線Bと転移前のベースラインCの交点を通り温度軸に対して平行な平行線Eと、中央接線Bと転移後のベースラインDの交点を通り温度軸に対して平行な平行線Fを引く。本明細書では、この2本の平行線E、Fを2等分する平行線GとDSCカーブの交点における温度Aを、ガラス転移温度(Tg)とした。また、ここでは、測定装置としては、メトラー・トレド株式会社製のDSC30(品番)を用いた。
−光線透過率−
400nm、850nmの波長における光線透過率を、スペクトロフォトメータ(株式会社日立製作所製のU4000(品番))を用いて、測定した。なお、判定基準は、以下の通りである。
○:90%以上
×:90%未満
−吸水率−
プレス成形した、長さ:140mm、幅:60mm、厚さ:0.8mmの板を用い、それを60℃、90%RHの雰囲気下に10日間置き、初期重量からの増加した重量の割合を、吸水率とした。演算式は、以下の通りである。
吸水率(%) = 重量増加分×100/初期重量
−屈折率(nD)−
株式会社アタゴ製のRX−2000(品番)を用いて、JIS−K−7142に準拠して、25℃で測定した。
−比重−
JIS−K−7112:1999のA法に準じて、測定した。判定基準は、以下の通りである。
○:比重<1.0
△:1.0≦比重<1.1
×:1.1≦比重
−耐光性−
プレス成形した、厚さ:1.0mmの板を用いて、ASTM−G53に準じて、100時間の促進暴露試験を行い、YI(イエロー・インデックス)の試験前と試験後における黄変度(ΔYI)を測定した。ここでは、紫外線曝露試験機(株式会社東洋精機製作所製ATLAS−UVCON)を用いた。YIの測定は、JIS−K−7103に準じて行った。そして、以下の判定基準に従って、評価した。
ΔYI=(紫外線暴露100時間後のYI)−(紫外線暴露前のYI)
○:ΔYI ≦ 1 長期の耐光性が非常に良好
×:1 < ΔYI 長期の耐光性が不良
−光弾性係数−
厚さ:200μmのフィルムを、Tgよりも20℃低い温度で、一晩アニールした後、Tgよりも20℃高い温度で、長軸方向に引っ張り応力をかけ、その際のレターデーションを、エリプソメーターM220(日本分光株式会社製)で測定し、応力に対するレターデーションの変化量から、光弾性係数を算出した。
−曲げ弾性率−
試験片を用いて、JIS−K−7171に準じて、オートグラフ(株式会社島津製作所製)を使用して、23℃における曲げ弾性率を測定した。また、判定基準は、以下の通りである。
○:曲げ弾性率が2500MPa以上
×:曲げ弾性率が2500MPa未満
−実施例1−
予め用意したCD(コンパクトディスク)のためのピット形成用スタンパーを金型に装着した後、先に準備したβ−ピネン重合体水素添加物組成物(M1)を用いて、樹脂温度:250℃、金型温度:90℃、射出圧力:680kg/cm2 で射出成形し、厚み:1.2mmの12cmφのディスク基板を得た。このようにして得られた光ディスク基板について評価し、その評価結果を、下記表1に示す。
次いで、この得られたディスク基板のピット形成面上に、真空蒸着装置(日本真空技術株式会社製)を用いて、真空度:2×10-6Torrの条件下、Alを1μm厚に蒸着した。その後、かかるAl蒸着膜の表面上に、紫外線硬化型のメチルアクリレート系モノマーを塗布して、10μmの硬化膜を形成した。
−比較例1−
予め用意したCD(コンパクトディスク)のためのピット形成用スタンパーを金型に装着した後、日本ゼオン株式会社製のゼオノア1060R(脂環式ポリオレフィン樹脂)を用いて、樹脂温度:260℃、金型温度:90℃、射出圧力:680kg/cm2 で射出成形し、厚み:1.2mmの12cmφのディスク基板を得た。このようにして得られた光ディスク基板について評価し、その評価結果を、下記表1に示す。
次いで、この得られたディスク基板のピット形成面上に、真空蒸着装置(日本真空技術株式会社製)を用いて、真空度:2×10-6Torrの条件下、Alを1μm厚に蒸着した。その後、かかるAl蒸着膜表面上に、紫外線硬化型のメチルアクリレート系モノマーを塗布して、10μmの硬化膜を形成した。
−比較例2−
予め用意したCD(コンパクトディスク)のためのピット形成用スタンパーを金型に装着した後、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製のS3000(ポリカーボネート)を用いて、樹脂温度:300℃、金型温度:90℃、射出圧力:680kg/cm2 で射出成形し、厚み:1.2mmの12cmφのディスク基板を得た。このようにして得られた光ディスク基板について、その評価結果を、下記表1に示す。
次いで、この得られた基板のピット形成面上に、真空蒸着装置(日本真空技術株式会社製)を用いて、真空度:2×10-6Torrの条件下、Alを1μm厚に蒸着した。その後、かかるAl蒸着膜表面上に、紫外線硬化型のメチルアクリレート系モノマーを塗布して、10μmの硬化膜を形成した。
−比較例3−
予め用意したCD(コンパクトディスク)のためのピット形成用スタンパーを金型に装着した後、株式会社クラレ製のパラペットGH1000S(ポリメチルメタクリレート)を用いて、樹脂温度:260℃、金型温度:90℃、射出圧力:680kg/cm2 で射出成形し、厚み:1.2mmの12cmφのディスク基板を得た。このようにして得られた光ディスク基板について、その評価結果を、下記表1に示す。
次いで、この得られた基板のピット形成面上に、真空蒸着装置(日本真空技術株式会社製)を用いて、真空度:2×10-6Torrの条件下、Alを1μm厚に蒸着した。その後、かかるAl蒸着膜表面上に、紫外線硬化型のメチルアクリレート系モノマーを塗布し、10μmの硬化膜を形成した。
かかる表1の結果から明らかな如く、本発明に従って製造されたディスク基板(実施例1)は、比較例1〜3に示す樹脂と比べて、著しく軽量であるため、ディスクを回転させるモーターへの負荷が小さく、回転が安定するため、データの読取り精度が高い特徴を有していることが認められる。しかも、光弾性係数が低いことから、低複屈折の光ディスクを与えるため、データの読取りエラーが少ない特徴も有している。また、本発明に従うディスク基板(実施例1)は、曲げ強度が高いため、撓み難く、そして回転が安定するため、データの読取り精度が高い特徴も有している。