本発明は、同一の周波数チャネルを用い、異なる複数の送信アンテナより独立な信号系列を空間多重して送信し、複数の受信アンテナを用いて信号を受信し、各送受信アンテナ間の伝達関数行列を元に受信局側でデータの復調を行うMIMO(Multiple-Input Multiple -Output)通信を実現する高速無線アクセスシステムに係り、1つの無線局と他の複数の無線局が同時に、かつ、同一周波数チャネル上で空間多重して通信を行う無線通信方法及び無線通信装置に関する。
近年、2.4GHz帯または5GHz帯を用いた高速無線アクセスシステムとして、IEEE802.11g規格、IEEE802.11a規格などの普及が目覚しい。これらのシステムでは、マルチパスフェージング環境での特性を安定化させるための技術である直交周波数分割多重(OFDM:Orthogonal Frequency Division Multiplexing)変調方式を用い、最大で54Mbpsの伝送速度を実現している。ただし、ここでの伝送速度とは、物理レイヤ上での伝送速度であり、実際には、MAC(Medium Access Control)レイヤでの伝送効率が50〜70%程度であるため、実際のスループットの上限値は、30Mbps程度である。
一方で、有線LANの世界では、Ethernet(登録商標)の100Base−Tインタフェースを始め、各家庭にも光ファイバを用いたFTTH(Fiber to the home)の普及から、100Mbpsの高速回線の提供が普及しており、無線LANの世界においても更なる伝送速度の高速化が求められている。
そのための技術としては、MIMO技術が有力である。このMIMO技術とは、送信局側において複数の送信アンテナから同一チャネル上で異なる独立な信号を送信し、受信局側において同じく複数のアンテナを用いて信号を受信し、各送信アンテナ/受信アンテナ間の伝達関数行列を求め、この行列を用いて送信局側で各アンテナから送信した独立な信号を推定し、データを再生するものである。
ここで、N本の送信アンテナを用いてN系統の信号を送信し、M本のアンテナを用いて信号を受信する場合を考える。まず、送受信局の各アンテナ間に、M×N個の伝送のパスが存在し、第i送信アンテナから送信され第j受信アンテナで受信される場合の伝達関数をhj,iとし、これを第(j,i)成分とするM行N列の行列をHと表記する。さらに、第i送信アンテナからの送信信号をtiとし(t1,t2,t3,…,tN)を成分とする列ベクトルをTx、第j受信アンテナでの受信信号をrjとし(r1,r2,r3,…,rM)を成分とする列ベクトルをRx、第j受信アンテナの熱雑音をnjとし(n1,n2,n3,…,nM)を成分とする列ベクトルをnと表記する。
この場合、次式(1)で示される関係が成り立つ。
したがって、受信局側で受信した受信信号Rxをもとに、送信信号Txを推定する技術が求められている。
このMIMO通信においては、伝搬路の情報を利用して、その伝搬路に対して最適な状況で信号を送信することにより、最も効率的に通信を行うことができる。例えば、固有モードSDM(Space Division Multiplexing)方式を用いたMIMO伝送においては、信号の伝送方向のMIMOチャネルの伝達関数行列Hを送信局側で取得できた場合に、この伝達関数行列Hに対応した送信信号の最適化を行う。具体的には、伝達関数行列Hとそのエルミート共役な行列がHH(右肩の「H」の記号はエルミート共役を表す)の積を対角化可能なユニタリ行列Uを取得し、このユニタリ行列Uで送信信号を変換して信号を送信する。このユニタリ変換行列Uと伝達関数行列Hとの間には、次式(2)が成り立つ。
ここで、右辺の行列Λは、対角成分のみが値を持ち、その他の成分がゼロである対角行列である。このような特徴を持つユニタリ行列Uを列ベクトルTxに作用させて信号を送信することにより、数式(1)は、次式(3)に示すように変換される。
この変換により、送信信号は、MIMOチャネル毎に直交化され、受信局側での処理において簡易なZF(Zero Forcing)方式を用いた場合であっても、各送信信号をMIMOチャネル毎のSNR特性が良好になるように調整される。また、このユニタリ行列の各列ベクトルは、送信信号である列ベクトルTxを各送信アンテナに分配する際の各アンテナに乗算する係数(以降、「送信ウエイト」と呼ぶ)を与える。この送信ウエイトを用いることで、各MIMOチャネル毎に直交したビーム形成を行い、それぞれのビーム(固有ビーム)に相当するチャネルの利得がその固有ベクトルの固有値となる。したがって、全MIMOチャネルのチャネル容量Cの上限は、次式(4)で与えられる。
ここで、Bは帯域幅、Piは第i番のMIMOチャネルの総送信電力、σ2は雑音電力の分散値を意味する。この数式(4)から、どの程度の伝送レートの伝送モード(ここではQPSK(Quadrature Phase Shift Keying)、64QAM(Quadrature Amplitude Modulation)等の変調方式と誤り訂正の符号化率との組み合わせにより規定されるモードを「伝送モード」と定義する)を適用可能か、また、さらにどの程度の数のMIMOチャネルを多重化できるかが推定できる。
ちなみに、数式(4)の中の送信電力Piは、全てのMIMOチャネルに共通の値である必要はなく、また、各MIMOチャネル毎に伝送モードを変更しても構わない。一般に、注水定理と呼ばれる手法を用いることで、この送信電力Piの値を最適化することが可能である。この中で、Pi=0となるMIMOチャネルが存在した場合、そのチャネルは、実際の伝搬には用いずに、他のMIMOチャネルに電力を配分した方が効率的であることを意味している。つまり、MIMOの多重数を元々の上限値よりも少なく設定することになる。このようにして、多重化するMIMOチャネルの最適値を判定することも可能である。
上述した固有モードSDM技術は、送信局側で指向性を持った送信ビームを形成し、空間上で多重化する信号を受信局側で効率的に信号分離できるようにするものである。ここで、通常のMIMO通信、すなわち、1つの送信局と1つの受信局との間で通信を行うことをシングルユーザMIMOと呼ぶ。無線LANや、携帯電話等を例に見れば、基地局は、サイズ的に比較的大きく、端末局側は、ポータブルな端末であり、そのサイズは基地局よりも大幅に小さい。
このような小型端末の中に、MIMO通信のための複数のアンテナを実装しても、アンテナ間の間隔が短く、アンテナ相関が非常に大きくなってしまう。この場合、数式(4)における固有値λiの値は、小さくなる傾向にあり、実際に通信に利用できるMIMOチャネル数は、それほど多くはない。このようなケースにおいて、1つ1つの端末との間では、空間多重するMIMOチャネル数を少なくする一方、複数の異なる端末と同時に同一周波数チャネルで通信するマルチユーザMIMO通信が有効である。
図7は、マルチユーザMIMOシステムの構成例を示すブロック図である。図において、101は基地局、102〜104は端末局#1〜#3を示す。実際に1つの基地局が収容する端末局数は多数であるが、その中の数局を選び出し(図では端末局#1〜#3:102〜104)、通信を行う。
各端末局102〜104は、基地局101と比較して送受信アンテナ数が一般的に少ない。例えば、基地局101から端末局102〜104方向への通信(ダウンリンク)を行う場合を考える。基地局101は、多数のアンテナを用いて、複数の指向性ビームを形成する。例えば、各端末局102〜104に対して、それぞれ3つのMIMOチャネルを割り当て、全体としては、9系統の信号系列を送信する場合を考える。
その際、端末局102に対して送信する信号は、端末局103および端末局104方向には、指向性利得が極端に低くなるように調整し、この結果として端末局103および端末局104への干渉を抑制する。同様に、端末局103に対して送信する信号は、端末局102および端末局104方向には、指向性利得が極端に低くなるように調整する。同様の処理を端末局104にも施す。
このように指向性制御を行う理由は、例えば、端末局102においては、端末局103および端末局104で受信した信号の情報を知る術がないので、端末局間での協調的な受信処理ができないためである。つまり、3本しかない端末局102のみの受信処理において、9系統の全ての信号系列を信号分離することは非常に厳しい。そこで、各端末局102〜104には、他の端末局宛の信号が受信されないように、送信側である基地局101で干渉分離を事前に行う。
以上が既存のマルチユーザMIMOシステムの概要である。次に、指向性ビームの形成方法について、以下に説明を加える。例えば、図7において、端末局102の第1受信アンテナと基地局101の第jアンテナとの間の伝達関数をh1jと表記することにする。基地局101のj=1〜9の全てのアンテナに関する伝達関数を用い、行ベクトルh1を(h11,h12,h13,…,h18,h19)と表記する。同様に、端末局102の第2受信アンテナ、第3受信アンテナと基地局101との伝達関数をh2jおよびh3jとし、対応する行ベクトルh2およびh3を(h21,h22,h23,…,h28,h29)、(h3l,h32,h33,…,h38,h39)とする。
端末局103、端末局104の受信アンテナにも同様の連番を付与し、行ベクトルh4〜h9を、(h41,h42,h43,…,h48,h49)〜(h91,h92,h93,…,h98,h99)とする。加えて、基地局101が送信する9系統の信号をt1〜t9と表記し、これを成分とする列ベクトルをTx[all]=(t1,t2,t3,…,t8,t9)Tと表記する。ここで、右肩のTの文字は、べクトル、行列の転置を表す。また、同様に、端末局102〜104の9本のアンテナでの受信信号をr1〜r9と表記し、これを成分とする列ベクトルをRx[all]=(r1,r2,r3,…,r8,r9)Tと表記する。最後に、行ベクトルh1〜h9(第1から第9行成分とする行列)を、全体伝達関数行列H[all]と表記する。
このように表記した場合、システム全体としては、次式(5)の関係が成り立つ。
これは、シングルユーザMIMOにおける数式(1)に対応する。同様に、数式(3)に示すような送信指向性制御を行うため、9行9列の送信ウエイト行列Wを導入し、数式(3)を、次式(6)に示すように書き換える。
さらに、送信ウエイト行列Wを列ベクトルw1〜w9に分解し、W=(w1,w2,w3,…,w8,w9)と表記すると、次式(7)に示すように表せる。
ここで、例えば、6つの行ベクトルh4〜h9と3つの列ベクトルw1〜w3との乗算(各成分の乗算したものの総和、複素ベクトルの場合は内積とは異なる)が全てゼロになるように、w1〜w3を選ぶことを考える。同様に、行ベクトルh1〜h3およびh7〜h9と列ベクトルw4〜w6との乗算、行ベクトルh1〜h6と列ベクトルw7〜w9との乗算の全てがゼロになるように選ぶことにする。これにより、数式(7)に示す9行9列の行列は、3行3列の9個の部分行列を用いて表記すると、次式(8)のように表すことができる。
ここで、部分行列H[1]、H[2]、H[3]は、3行3列の行列であり、部分行列0は、成分が全てゼロの3行3列の行列である。このような条件を満たす変換行列Wを選択することで、数式(8)は、次式(9)、(10)、(11)の3つの関係式に分解できる。
ここで、Tx[1]=(tl,t2,t3)T、Tx[2]=(t4,t5,t6)T、Tx[3]=(t7,t8,t9)T、Rx[1]=(r1,r2,r3)T、Rx[2]=(r4,r5,r6)T、Rx[3]=(r7,r8,r9)Tとした。このようにして、3つのシングルユーザMIMO通信とみなすことができるようになる。
次に、送信ウエイトベクトルw1〜w9の決定方法の例を説明する。手順としては、端末局102に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を決定し、順次、端末局103に対する送信ウエイトベクトルw4〜w6、端末局104に対する送信ウエイトベクトルw7〜w9を決定する。
まず、第1ステップとして、端末局102〜104の6つの行ベクトルh4〜h9が張る6次元部分空間を張る6つの基底ベクトルe4〜e9を求める。基底ベクトルを求める方法には、グラムシュミットの直交化法の他、様々な方法があるが、ここでは例としてグラムシュミットの直交化法を例に説明する。
まず、1つのベクトルh4に着目し、この方向で絶対値が1のベクトルを、次式(12)で示す基底ベクトルe4とする。
ここで、(h4h4 H)は、同一ベクトルの絶対値の2乗を意味するスカラー量であり、h4を規格化することを意味する。次に、ベクトルh5に着目し、このベクトルの中からe4方向の成分をキャンセルしたベクトルh5’を次式(13)で求めた後、さらに、次式(14)で示すように規格化する。
ここで(h5,e4 H)は、h5のe4方向への射影を意味する。同様の処理を次式(15)、(16)に示すように行う。
ここで、数式(15)のΣ(i)は、4≦i≦j−1(jは、5〜9の整数)の整数iに対する総和を意味する。つまり、既に確定した基底ベクトル方向の成分をキャンセルすることを意味する。このようにして、6つの基底ベクトルe4〜e9を求めることができる。
次に、第2ステップとして、端末局102に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を求める。まず、行ベクトルh1〜h3から、e4〜e9が張る6次元部分空間の成分をキャンセルする。具体的には、次式(17)で表せる。
ここで、jは1〜3の整数であり、数式(17)のΣ(i)は、4≦i≦9の整数iに対する総和を意味する。このようにして求めたベクトルh1’〜h3’に対し、適当な直交化処理を行う。簡単のために、ここでは、グラムシュミットの直交化を例として用いるが、例えば、h1’〜h3’により構成される3行9列の行列のSDV分解などのその他の方法を用いても良い。グラムシュミットの直交化法は、既に、数式(12)〜数式(16)で説明しているので詳細な説明を省略するが、次式(18)〜(22)のように求めることができる。
このようにして求める3次元空間の3つの基底ベクトルe1〜e3を求める。さらに、この基底ベクトルの複素共役ベクトルの転置ベクトル、すなわち、エルミート共役なベクトルを求めることで、w1=e3 H、W2=e2 H、w3=e3 Hとして送信ウエイトベクトル(列ベクトル)が求まる。
上述した数式(12)〜数式(22)までの処理により、端末局102に対する送信ウエイトベクトルw1〜w3を決定した。第3ステップとしては、同様の処理を端末局103及び端末局104に対しても施し、その結果として全ての送信ウエイトベクトルw1〜w9が求まる。
以上、従来技術による送信ウエイト行列の求め方である。
次に、図8は、従来技術による送信ウエイト行列Wの算出方法を説明するフローチャートである。まず、送信ウエイト行列の算出にあたり、全端末への伝達関数行列Hを取得する(ステップS102)。次に、宛先とする端末に通し番号を付与し、その番号をkと表記した場合、まず、kを初期化する(ステップS103)。さらに、kをカウントアップし(Sステップ104)、着目しているk=1に対応した端末局102に対する部分伝達関数行列(ここでは、便宜上、Hmainと表記する)を抽出し(ステップS105)、それ以外の宛先の端末局の部分伝達関数行列(ここでは、便宜上、Hsubと表記する)を抽出する(ステップS106)。
次に、部分伝達関数行列Hsubの各行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出し、これを{ej}とおく(ステップS107)。次に、数式(17)に相当する処理として、着目している端末局102に対する部分伝達関数行列Hmainから上記ステップS107で求めた基底ベクトル{ej}に関する成分をキャンセルし、これを次式(23)のように示す行列(以下、これを行列チルダHmainという)とする(ステップS108)。
さらに、数式(18)〜数式(22)に対応する処理として、行列チルダHmainの行ベクトルが張る部分空間の直交基底ベクトルを算出し、これを{ei}とおく(ステップS109)。その後、{ei}の各ベクトルのエルミート共役ベクトル(列ベクトル)として、端末局102宛の信号に関する送信ウエイトベクトル{wi}を決定する(ステップS110)。ここで、全ての宛先の端末局の送信ウエイトベクトルを検定済みか否かを判定し(S1ll)、残りの端末局があれば、ステップS104〜S110を繰り返す。一方、全ての宛先の端末局の送信ウエイトベクトルを決定済みであれば、送信ウエイトベクトル{wi}を各列ベクトルとする行列として送信ウエイト行列Wを決定し(ステップS112)、処理を完了する(ステップS113)。
なお、上述した説明では、端末局102〜104のそれぞれにおいて、各受信アンテナ毎の受信信号を線形合成するための受信ウエイトを仮定せずに説明したが、一般には、各端末局において用いるであろう受信ウエイトを想定し、その受信ウエイトを用いた場合に同様の端末局間の信号分離を行うことも可能である。
また、ここまでの説明では、全てシングルキャリアのシステムを仮定し、送信ウエイト行列は1つだけ求めれば良かった。現在、MIMO技術は、無線LAN等で注目を集めているが、IEEE802.11a、IEEE802.11g等の標準規格の無線LANでは、マルチキャリアを用いたOFDM変調方式を採用している。OFDM変調方式を用いるマルチユーザMIMOシステムの場合には、上述した処理を全てのサブキャリアにおいて個別に実施する必要がある。
次に、図9は、上述した各種処理を実現するための従来技術による送信局の構成例(シングルキャリアの場合)を示すブロック図である。図において、111aはデータ分割回路、112a−1〜112a−Lはプリアンブル付与回路、113a−1〜113a−Lは変調回路、114aは送信信号変換回路、115a−1〜115a−MTは無線部、116a−1〜116a−MTは送受信アンテナ、117aは伝達関数行列取得回路、118aは送信ウエイト算出回路、119aは空間多重条件判定回路を表す。
なお、ここでは、空間多重する信号系列の総数をL(L>2、Lは整数)とし、無線部115a−1〜115a−MT及び送受信アンテナ116a−1〜116a−MTの系統数をMTとした。また、送信局側の構成としたが、一般には、基地局及び端末局は、送信機能および受信機能の双方を備えており、図9で示す構成は、その中の送信に関する機能のみを抜粋したものとなっている。したがって、受信のための機能は、ここには明記していない。また、ここでは、ダウンリンクでのマルチユーザMIMOを想定し、送信局側とは、基地局を暗に想定しているが、必ずしも基地局である必要はない。
図における無線部115a−1〜115a−MT及び送受信アンテナ116a−1〜116a−MTでは、逐次信号の受信を個別に行う。例えば、送受信アンテナ116a−1にて受信された信号は、無線部115a−1にて周波数変換を施され、直交検波、A/D変換等の所定の処理の後、伝達関数行列取得回路117aにて各受信局の伝達関数情報を収集する。ここでの伝達関数情報の収集方法については、受信局側から伝達関数情報を、制御チャネルを用いてフィードバックする方法、伝搬チャネル推定用のプリアンブル信号を送受双方向で適宜交換する方法など、様々な方法が選択可能であり、如何なる方法を用いても構わない。
このようにして取得した各受信局毎の伝達関数行列の情報は、伝達関数行列取得回路117a内にて記録・管理しておく。空間多重条件判定回路119aは、信号を送信する際に、どの受信局を同時に空間多重するか、及びその多重度をどのように設定するかを管理する。ここで、空間多重する受信局と多重度が規定されると、送信ウエイト算出回路118aでは、先に示した条件に対応する送信ウエイト列ベクトル(w1,w2,w3,…,wMT−1,wMT)を算出する。これらの情報を送信信号変換回路114aに入力する。
一方、送信すべきデータがデータ分割回路11laに入力されると、空間多重条件判定回路119aが判定した空間多重する受信局と多重度(全受信局でL多重とする)の条件に合わせて、データをL系統に分割する。それぞれの信号は、プリアンブル付与回路112a−1〜112a−Lに入力され、所定のチャネル推定用プリアンブルが付与され、変調回路113a−1〜113a−Lに入力される。変調回路113a−1〜113a−Lでは、所定の変調処理が行われ、この出力が送信信号変換回路114aに入力される。ここでは、送信ウエイト算出回路118aが算出したベクトル群をもとに、変調回路113a−1〜113a−Lからの出力信号を成分とする送信信号ベクトルに対し、変換行列W=(w1,w2,w3,…,wMT−1,wMT)を乗算する。この乗算により変換されたMT系統の信号は、無線部115a−1〜115a−MTにて直交変調、D/A変換等の所定の処理の後に、周波数変換され、送受信アンテナ116a−1〜116a−MTを介して送信される。
以上がシングルキャリアの無線システムの例である。OFDM変調方式を用いるマルチユーザMIMOシステムの場合には、図10に示すように、サブキャリア毎に同様の処理を行うことになる。
図9との差分としては、各信号系列は、データ分割回路111bにてサブキャリア毎に分割され、各サブキャリアで同様の処理を行う。また、各サブキャリアでプリアンブル付与回路112a−1〜112a−L、変調回路113a−1〜113a−L、送信信号変換回路114aに相当する処理を、プリアンブル付与回路112b−1〜112b−L、変調回路113b−1〜113b−L、送信信号変換回路114bにおいて並列的に実施する。その後、逆フーリェ変換処理をIFFT回路120b−1〜120b−MTを実施し、無線部115b−1〜115b−MT、送受信アンテナ116b−1〜116b−MTを介して送信される。
次に、図11は、従来技術による受信局の構成例を示すブロック図である。ここでは、端末局が受信局となるダウンリンクを想定して説明を行う。この場合、マルチユーサMIMOシステムの場合でも、送信局側での送信指向性制御により、他の受信局宛の信号が干渉とならないように制御している。このため、受信局は、通常のシングルユーザMIMOと同様に受信処理を行えばよい。ここでは、1つの例として、3つのアンテナを備える場合について説明する。
図において、121a−1〜121a−3は受信アンテナ、122a−1〜122a−3は無線部、123aはチャネル推定回路、124aは受信信号管理回路、125aは伝達関数行列管理回路、126aは行列演算回路#1、127aは行列演算回路#2、128aは硬判定回路、129aはデータ合成回路、130aは信号検出部を示す。
まず、第1の受信アンテナ121a−lから第3の受信アンテナ121a−3は、それぞれ個別に受信信号を受信する。無線部122a−l〜122a−3を経由して、受信した信号はチャネル推定回路123aに入力される。送信側で付与した所定のプリアンブル信号の受信状況から、チャネル推定回路123aにて第i送信アンテナと第j受信アンテナ間の伝達関数を取得する。このようにして取得された伝達関数行列は、伝達関数行列管理回路125aにて伝達関数行列Hとして管理される。行列演算回路126aでは、伝達関数行列管理回路125aで管理された伝達関数行列Hをもとに、行列HH、HHH、(HHH)−1、(HHH)−1HHを順次、演算により求める。
一方、プリアンブル信号に後続するデータ信号は、1シンボル分ずつ受信信号管理回路124aに入力される。受信信号管理回路124aでは、各アンテナの受信信号(r1,r2,r3)を成分とした受信信号ベクトルRxとして一旦管理される。この受信信号ベクトルRxは、行列演算回路127aにて、行列演算回路126aで求めた行列(HHH)−lHHと乗算される。この信号は、送信信号ベクトルTxにノイズが乗った信号であるため、硬判定回路128aにて信号判定され、各シンボル毎及び各系統の信号は、データ合成回路129aで合成され、もとのユーザデータが再生されて出力される。
なお、上述した説明では、簡単のため、行列演算回路126a及び行列演算回路127aでの処理は、ZF(Zero Forcing)法と呼ばれる簡単なMIMO信号検出法を仮定して説明を行ったが、MMSE(Minimum Mean Square Error)法や、MLD(Maximum Likelihood Detection)法などを用いても構わない。また、ZF法の説明として、正方行列以外の伝達関数行列Hを想定し、擬似逆行列(HHH)−1HHを用いる場合について説明したが、伝達関数行列Hが正方行列であれば、簡易に伝達関数行列Hの逆行列を用いても構わない。さらに、硬判定回路128aでは、硬判定を行うことを仮定していたが、誤り訂正を組み合わせた軟判定を用いることも可能である。この場合には、データ合成回路129a内において誤り訂正をあわせて実施する。以上のような各バリエーションにおいては、図11において点線で囲った信号検出部130aの構成の詳細が変更する必要があるが、以下の説明においては、その具体例に依存しないので、ここではその詳細は省略する。
また、上述した説明では、シングルキャリアを前提としているが、OFDM変調方式を用いる場合には、図12に示すように、123a〜128aに示す処理回路がサブキャリア毎に個別に必要となり、全サブキャリアに対して、サブキャリア別信号処理回路132−1〜132−Kが配置される。また、無線部122b−1〜122b−3からの出力に対し、FFT処理を行うためのFET回路131−1〜131−3が配置され、サブキャリア毎の信号に分離し、サブキャリア毎のサブキャリア別信号処理回路132−1〜132−Kに入力される。
サブキャリア別信号処理回路132−1〜132−K内では、図11の場合と同様に、プリアンブル信号を用いてチャネル推定等の処理を実施すると共に、プリアンブル信号に後続するデータ信号に対して1シンボルずつ分信号検出処理を実施する。サブキャリア別信号処理回路132−1〜132−Kからの各出力信号は、全サブキャリア分をデータ合成回路I29bにて集約し、ここで、各サブキャリア毎、各シンボル毎及び各系統の信号は、データ合成回路129bで合成され、元のユーザデータが再生され出力される。
図13は、従来方式における受信処理を説明するためのフローチャートである。従来技術においては、仮にマルチユーザMIMO通信の場合であっても、基本的に送信側が送信指向性制御を行い、干渉除去を行っていることを前提とし、受信側では、特にマルチユーザMIMO通信を意識した処理は行わない。つまり、通常のシングルユーザMIMO通信の処理が行われる。
受信局は、信号を受信すると(ステップS201)、自局宛の全信号系列のチャネル推定を行い、これを伝達関数行列H[i]とする(ステップS202)。次に、該伝達関数行列H[i]をもとに、後続するデータ信号を受信し、信号検出処理を行う(ステップS203)。そして、全シンボルに対して信号検出が済んだか否かを判定し(ステップS204)、後続するシンボルにデータが存在する場合には、ステップS203に戻り、受信処理を継続する。一方、全シンボルの信号検出が完了した場合には、これまでの信号検出済みの信号からデータ合成・再生を行う(ステップS205)。
上述したように、従来技術によりマルチユーザMIMO通信が実現可能であるが、実際の運用においては、信号の伝送方向のMIMOチャネルの伝達関数行列Hを送信局側で取得するにあたり、MIMOチャネルの伝達関数情報のフィードバックの遅延時間が問題となる。例えば、図8に示した従来技術における送信ウエイト行列Wの算出フローを実施する際、ステップS102にて取得する各端末局の伝達関数行列の算出時刻と、ステップS112の送信ウエイト行列を生成する時刻との間には若干の遅延がある。
さらに、実際には、この送信ウエイトを用いてデータを送信するのは更に後になる。通常、基地局と端末局との間のMIMOチャネルの伝達関数行列Hをフィードバックするためには、そのための制御情報を交換するための帯域が必要であり、このフィードバックに伴う帯域のロスを抑えるために、フィードバックの周期は比較的長めに設定される。
例えば、この周期が10ms周期であったとするならば、データを送信するために用いる送信ウエイトは、10msも過去の情報を用いて求めることになる。しかし、マルチパス環境においては、時間と共にチャネルが大きく変動し、その結果として各端末局間の送信信号は、互いの端末において干渉信号となる。つまり、上記数式(8)における非対角ブロックのゼロ行列部分に、次式(24)に示すように干渉成分(ベクトル)I[i,j]が発生する。
ここで、干渉成分I[i,j]は、第j端末局から第i端末局への干渉を表す行列であり、各端末毎に複数の信号系列を同時に空間多重するために行列形式となっている。つまり、上記数式(9)〜数式(11)は、次式(25)〜次式(27)のようになり、相互干渉により特性が劣化する。
ここで、発生する相互干渉を送信局側で予測することは不可能であり、受信局側において干渉信号を除去する必要がある。しかし、図7に示すように、各端末局が備えるアンテナ数は、実際に空間多重する信号系列の数よりも大幅に少ないため、受信局側における単純な線形処理では、特性を改善することは困難である。
例えば、端末局102における受信信号は、行列形式で表記すれば、次式(28)のようになる。
ここで、行列(H[1] I[1,2] I[1,3])に対してQR分解を行ったとする。この行列は、3行9列の行列であり、直交行列Qは、3行3列、上三角行列Rは、3行9列であり、数式(28)の左から直交行列Qのエルミート共役な行列を作用させることで次式(29)のように式変形できる。
ここで、ri,jは、上記の上三角行列の第(i,j)成分である。この行列に関する式の第3行目に着目すると、t1及びt2の信号に関しては除去できている(つまり線形合成の係数がゼロである)が、t4〜t9の信号成分が混入している。つまり、自由度が足りないがために、干渉信号に対して線形演算によりヌル形成を行うことができない。
しかしながら、上述した非特許文献1において、受信局側は、空間多重する信号系列の総数が受信局の備えるアンテナ本数以下(同数でも良い)であることを前提としている。言い換えると、数式(29)の形式で表した際のある行において、第(j,j)成分以外の成分が全てゼロになる必要がある。
元々、非特許文献1は、多数の信号系列を空間多重する場合において、受信側でMLD的な処理を行うと、演算量が爆発的に増大する問題を解決するための技術であったが、上記条件を満たしていないために、従来のMLD方式に対する演算の簡易化が適用できない。マルチユーザMIMO伝送では、シングルユーザMIMO伝送に比べ、より多くの信号系列を空間多重することになるため、簡易化を行わない限り、MLD法の適用は、演算量的に非現実的な手段となる。
したがって、マルチユーザMIMO伝送の受信端末側において発生するチャネルの時変動に伴う相互干渉の問題を解決するための、簡易な非線形処理を伴う信号検出方式が求められている。
本発明は、このような事情を考慮してなされたものであり、その目的は、マルチユーザMIMO通信を行う際に、全体の信号系列数よりも端末の受信アンテナ本数が少なくても、自局宛の信号の受信特性を向上させることができる無線通信方法及び無線通信装置を提供することにある。
上述した課題を解決するために、本発明は、1つの第1の無線局と複数の第2の無線局とにより構成され、前記第1の無線局は、複数本のアンテナで構成される第1のアンテナ群を備え、前記第2の無線局は、複数本のアンテナで構成される第2のアンテナ群を備え、前記第1の無線局の前記第1のアンテナ群と、前記第2の無線局の全て、または、その一部が備える前記第2のアンテナ群とにより構成される伝搬路を介して複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信する無線通信方法において、前記第2の無線局は、前記第1の無線局が送信する前記複数の信号系列が合成された信号を前記第2のアンテナ群において受信する信号受信ステップと、自局宛の信号系列の全てと、他局宛の信号系列の全て、または、一部とに対して、自局における前記第2のアンテナ群に関する伝達関数情報を取得する伝達関数情報取得ステップと、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の任意の信号系列に関し、任意の信号点を前記第1の無線局が送信したと仮定した際に、自局における前記第2のアンテナ群における受信状態を推定したレプリカ信号を生成するレプリカ信号生成ステップと、前記レプリカ信号生成ステップで生成した1つ以上の信号系列のレプリカ信号を、前記信号受信ステップで取得した受信信号からキャンセルし、仮想的な受信信号を生成する特定信号キャンセル処理ステップと、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の1つの信号系列を抽出するために、前記信号受信ステップで取得した受信信号、または、前記特定信号キャンセル処理ステップで取得した仮想的な受信信号のいずれかに対し、自局における前記第2のアンテナ群の各アンテナに対応する信号成分を線形合成するための受信ウエイトを取得する受信ウエイト取得ステップと、前記信号受信ステップで取得した受信信号、または、前記特定信号キャンセル処理ステップで取得した仮想的な受信信号のいずれかの各アンテナ毎の信号成分を、前記受信ウエイトを用いて線形合成する受信信号線形合成ステップと、前記受信信号線形合成ステップの出力に基づいて、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の1つの信号系列に対し、実際に送信された予想される送信信号点候補を1つ以上選択する信号候補選択ステップと、信号系列毎に前記信号候補選択ステップで選択した送信信号点候補の組み合せを管理する選択済み信号候補管理ステップと、前記信号候補選択ステップで選択した、信号系列毎の送信信号点候補の各組み合せに対し、該組み合せの各信号成分に対し、前記特定信号キャンセル処理ステップを実施した結果として得られたベクトルを推定雑音ベクトルとみなし、該推定雑音ベクトルの絶対値、または、絶対値の近似値を求める推定雑音ベクトル絶対値演算ステップと、前記推定雑音ベクトル絶対値演算ステップで得られた推定雑音ベクトルの絶対値、または、絶対値の近似値を最小にする信号系列毎の送信信号点候補のひとつの組み合せを、前記選択済み信号候補管理ステップで管理する信号系列毎の送信信号点候補の全組み合せの中から検出する信号検出ステップと、前記信号検出ステップの出力信号から他局宛の信号を廃棄し、自局宛の信号のみを抽出する自局宛信号抽出ステップと、前記自局宛信号抽出ステップで抽出した自局宛の信号から、前記第1の無線局が自局宛に送信したデータを再生するデータ再生ステップとを含むことを特徴とする無線通信方法である。
本発明は、上記の発明において、前記第1の無線局が空間多重して送信した信号系列の全て、または、一部に対して順番に前記信号候補選択ステップを実施する際に、前記信号候補選択ステップを未実施の信号系列に対する推定受信利得を算出する推定受信利得算出ステップと、前記信号候補選択ステップを未実施の信号系列の中から前記推定受信利得が最大となる信号系列を1つ選択する次回処理信号系列選択ステップとを更に含むことを特徴とする。
また、上述した課題を解決するために、本発明は、複数本のアンテナで構成される第1のアンテナ群を備える無線局との間で、前記第1のアンテナ群と、自身が備える複数本のアンテナで構成される第2のアンテナ群とにより構成される伝搬路を介して、複数の信号系統を同一周波数チャネル及び同一時刻に空間多重して通信する無線通信装置であって、前記無線局が送信する前記複数の信号系列が合成された信号を前記第2のアンテナ群において受信する信号受信手段と、自局宛の信号系列の全てと、他局宛の信号系列の全て、または、一部とに対して、自局における前記第2のアンテナ群に関する伝達関数情報を取得する伝達関数情報取得手段と、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の任意の信号系列に関し、任意の信号点を前記無線局が送信したと仮定した際に、自局における前記第2のアンテナ群における受信状態を推定したレプリカ信号を生成するレプリカ信号生成手段と、前前記レプリカ信号生成手段で生成した1つ以上の信号系列のレプリカ信号を、前記信号受信手段で取得した受信信号からキャンセルし、仮想的な受信信号を生成する特定信号キャンセル処理手段と、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の1つの信号系列を抽出するために、前記信号受信手段で取得した受信信号、または、前記特定信号キャンセル処理手段で取得した仮想的な受信信号のいずれかに対し、自局における前記第2のアンテナ群の各アンテナに対応する信号成分を線形合成するための受信ウエイトを取得する受信ウエイト取得手段と、前記信号受信手段で取得した受信信号、または、前記特定信号キャンセル処理手段で取得した仮想的な受信信号のいずれかの各アンテナ毎の信号成分を、前記受信ウエイトを用いて線形合成する受信信号線形合成手段と、前記受信信号線形合成手段の出力に基づいて、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の1つの信号系列に対し、実際に送信されたと予想される送信信号点候補を1つ以上選択する信号候補選択手段と、信号系列毎に前記信号候補選択手段で選択した送信信号点候補の組み合せを管理する選択済み信号候補管理手段と、前記信号候補選択手段で選択した、信号系列毎の送信信号点候補の各組み合せに対し、該組み合せの各信号成分に対し、前記特定信号キャンセル処理手段を実施した結果として得られたベクトルを推定雑音ベクトルとみなし、該推定雑音ベクトルの絶対値、または、絶対値の近似値を求める推定雑音ベクトル絶対値演算手段と、前記推定雑音ベクトル絶対値演算手段で得られた推定雑音ベクトルの絶対値、または、絶対値の近似値を最小にする信号系列毎の送信信号点候補のひとつの組み合せを、前記選択済み信号候補管理手段で管理する信号系列毎の送信信号点候補の全組み合せの中から検出する信号検出手段と、前記信号検出手段の出力信号から他局宛の信号を廃棄し、自局宛の信号のみを抽出する自局宛信号抽出手段と、前記自局宛信号抽出手段で抽出した自局宛の信号から、前記第1の無線局が自局宛に送信したデータを再生するデータ再生手段とを備えたことを特徴とする無線通信装置である。
本発明は、上記の発明において、前記無線局が空間多重して送信した信号系列の全て、または、一部に対して、順番に、前記信号候補選択手段による送信信号点候補の選択を実施する際に、該送信信号点候補の選択が未実施の信号系列に対する推定受信利得を算出する推定受信利得算出手段と、前記信号候補選択手段による送信信号点候補の選択が未実施の信号系列の中から前記推定受信利得が最大となる信号系列を1つ選択する次回処理信号系列選択手段とを更に備えたことを特徴とする。
この発明によれば、第1の無線局が送信する複数の信号系列が合成された信号を第2のアンテナ群において受信し、自局宛の信号系列の全てと、他局宛の信号系列の全て、または、一部とに対して、自局における第2のアンテナ群に関する伝達関数情報を取得し、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の任意の信号系列に関し、任意の信号点を第1の無線局が送信したと仮定した際に、自局における第2のアンテナ群における受信状態を推定したレプリカ信号を生成し、該1つ以上の信号系列のレプリカ信号を、受信信号からキャンセルし、仮想的な受信信号を生成し、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の1つの信号系列を抽出するために、受信信号、または、仮想的な受信信号のいずれかに対し、自局における第2のアンテナ群の各アンテナに対応する信号成分を線形合成するための受信ウエイトを取得し、受信信号、または、仮想的な受信信号のいずれかの各アンテナ毎の信号成分を、受信ウエイトを用いて線形合成し、線形合成した出力に基づいて、自局宛の信号系列、または、他局宛の信号系列の中の1つの信号系列に対し、実際に送信されたと予想される送信信号点候補を1つ以上選択し、信号系列毎に、選択した送信信号点候補の組み合せを管理し、信号系列毎の送信信号点候補の各組み合せの各信号成分に対して前記特定信号キャンセル処理ステップを実施した結果として得られたベクトルを推定雑音ベクトルとみなし、該推定雑音ベクトルの絶対値、または、絶対値の近似値を算出し、該推定雑音ベクトルの絶対値、または、絶対値の近似値を最小にする信号系列毎の送信信号点候補のひとつの組み合せを、管理される信号系列毎の送信信号点候補の全組み合せの中から検出し、該検出結果から他局宛の信号を廃棄し、自局宛の信号のみを抽出し、該抽出した自局宛の信号から、第1の無線局が自局宛に送信したデータを再生する。したがって、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、空間多重を行う全体の信号系列数よりも受信アンテナ本数が少なくても、他局宛の干渉信号を的確に推定し、干渉をキャンセルすることで、自局宛の信号の受信特性を向上させることができるという利点が得られる。
また、本発明によれば、第1の無線局が空間多重して送信した信号系列の全て、または、一部に対して、順番に、送信信号点候補の選択を実施する際に、送信信号点候補の選択が未実施の信号系列に対する推定受信利得を算出し、未実施の信号系列の中から推定受信利得が最大となる信号系列を1つ選択する。したがって、複数の信号系列を順番に抽出して信号検出する際に、個々の信号検出の精度を高めることができるという利点が得られる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
まず、本発明の基本動作について説明する。
説明を簡単にするために、図7における端末局102における処理に着目して説明する。伝達関数号列についても、基地局101の9本の送信アンテナと、端末局102の3本の受信アンテナのみを考える。但し、送信信号については、全端末宛の信号系列の信号としてt1〜t9の全てを考慮する。数式(7)に示された伝達関数行列と送信ウエイト行列とを乗算した式の中で、端末局102に関する受信信号は、9行の行列の上側3行に対応し、この部分を抜き出した行列を次式(30)のように定義する。なお、hj,iは、数式(7)に示された伝達関数行列と送信ウエイト行列とを乗算した行列の第(ji)成分であり、受信端末から見た場合、基地局101における第i信号系列を送信する仮想的な第iアンテナと端末局102の第jアンテナとの間の実効上の伝達関数に相当する。
さらに、この行のk列目から9列目を抜き出した行列を次式(31)のように定義する。
また、送信信号の中のtk〜t9を抜き出した信号ベクトルを次式(32)のように定義する。
ここで、数式(28)に相当する数式は次式(33)のように表すことができる。
さらに、送信信号t1〜tk−1とtk〜t9とを分離し、数式(33)を次式(34)のように変形する。
上記数式(34)は、以下のように理解することができる。数式(34)の左辺の第2項の意図する意味は、第1〜第k−1信号系列の送信信号がt1〜tk−1であった場合に、端末局102において、これらの信号が合成されて、端末局102の各受信アンテナでどのような信号が受信されるかを推定したレプリカ信号である。つまり、数式(34)の左辺は、端末局102の実際の受信信号Rx[k]から第1〜第k−1信号系列の送信信号がt1〜tk−1であった場合のレプリカ信号を減算した信号を示している。
数式(34)の右辺は、第k〜第9信号系列の送信信号がtk〜t9であった場合に、これらの信号が端末局102における各受信アンテナでどのように受信されるかを表した信号と、雑音ベクトルの和とを表す。つまり、これらの左辺と右辺とが一致することになる。これを利用して、以下の手順で順番に各送信信号を決定していく。
(手順1)
数式(33)に対し、受信信号Rx[1]から送信信号t1を推定するための受信ウエイトベクトル(行ベクトル)を、wrx [1]とする。この受信ウエイトは、端末局102宛の信号系列のうちのt2およびt3をキャンセルするのみでなく、t4〜t9からの干渉及び雑音も合わせて抑制するように選択すればよい。このための受信ウエイト決定の方法としては、MMSE法などが挙げられる。この受信ウエイトを数式(33)の左から両辺に作用させることで、次式(35)に示すように信号t1を抽出することができる。
つまり、雑音の線形合成した値n1’が十分に小さければ、送信信号が何であったかを推定することが可能となる。但し、例えば、IEEE802.11などの無線LANのようにBPSK、QPSK、16QAM、64QAM、256QAM等の離散的な値のみを送信信号がとる場合、数式(35)の雑音項をゼロとして求めた送信信号t1が実際の送信信号と一致することはない。そこで、ここでn1’を0として求めた信号点の周りの近傍のL1点を送信信号t1の候補とする。これを、次式(36)のように表す。
次に、この信号が仮に基地局101より送信されたと仮定した場合に、端末局102の各アンテナで受信されるであろう信号のレプリカ信号は、次式(37)で表される。
この表記を用いると、数式(34)は、次式(38)のように表記できる。
(手順2)
上記数式(38)に対し、第2信号系列の信号t2を抽出するために、上述した(手順1)と同様に、受信ウエイトベクトルwrx [2]を求める。求め方は、同様に、端末局102宛の信号系列のうちのt3をキャンセルするのみでなく、t4〜t9からの干渉及び雑音も合わせて抑制するように選択すればよい。但し、既に、数式(38)の両辺において、第1信号系列の信号t1は、レプリカ信号をキャンセルしているので、信号t1に対する干渉抑圧は考慮しなくて良い。この受信ウエイトを用いることで、数式(35)に対応する次式(39)が得られる。
同様に、雑音項であるn1’’を0として求めた信号点の周りの近傍のL2点を送信信号t2の候補とする。これを、次式(40)のように表す。
ここで、各t1の候補点毎に送信信号t2の候補をL2点求めるので、信号t2の候補を示す識別番号は、(l1,l2)で示され、全体としてL1×L2通りの組合せとなる。以下、同様の処理を順番に繰り返す。
(手順k)
一般化するために、上記(手順1)、(手順2)、…、(手順k−1)に続く手順を以下に示す。まず、第1〜第k−1信号系列に関する信号点の候補に対する受信側のレプリカ信号の合成結果は、上述した数式(37)を拡張して、次式(41)のように表すことができる。
さらに、上記数式(41)に対し、第k信号系列の信号tkを抽出するために、受信ウエイトベクトルwrx [k]を求める。求め方は、同様に、第k+1〜第9信号系列の信号tk+1〜t9からの干渉及び雑音を抑制するように選択すればよい。この受信ウエイトを用いることで、上述した数式(35)に対応する次式(42)が得られる。
同様に、雑音項であるn1’’’を0として求めた信号点の周りの近傍のLk点を送信信号tkの候補とする。これを、次式(43)のように表す。
なお、数式(42)の右辺の送信信号のtkの係数Ckは、次式(44)で与えられる。
上述した処理を(手順1)〜(手順9:k=9)まで実施する。なお、最後の(手順9)では、L9=1となるように実施する。なお、ここでの説明においては、全ての信号系列を考慮して処理を行った場合の例を示したが、ある信号系列に対し、干渉信号レベルが任意のしきい値以下であれば、その手順を省略しても構わない。ないしは、最初から考慮すべき信号系列の数の上限を決めて処理を進めてもよい。
(手順10)
最後の処理として、実際の送信信号を推定・信号検出するために以下の処理を実施する。まず、上述したようにして求めた信号t1〜t9の候補点に対し、次式(45)で表される誤差ベクトルを求める。
(l1,l2,…,l9)の全ての組合せに対してこの誤差ベクトルを求め、この誤差ベクトルの絶対値ないしは絶対値の近似値を最小にする(l1,l2,…,l9)を選択し、その結果得られた信号を送信信号として選択する。つまり、次式(46)で与えられる。
以上が本発明の基本動作である。特徴としては、第k信号系列に対する受信ウエイトwrx [k]の算出においては、第k+1〜第9信号系列および雑音を考慮して、これらの干渉を最小にするように受信ウエイトを求めればよい。この受信ウエイトの求め方としては、例えば、MMSE法を用いた場合には、次式(47)のように表すことができる。
ここで、行列Gkは、第k〜第9信号系列(つまり、残りの信号系列)に対する相関行列である。プリアンブル等の受信信号から直接求めるか、あるいは、次式(48)で求めてもどちらでも良い。
なお、上記数式(47)において、行列Iは単位行列、ρは信号対雑音比(SNR:Signal to Noise Ratio)値を表す。さらに、伝達関数の右肩の「*」の記号は、複素共役を示す。
上述した説明においては、第1〜第9系列の全ての信号を考慮し、かつ、順番も最初に与えられた順番に処理を行っていたが、最初に、所定の規則に従って、信号系列の番号を入れ替えて、異なる順序で、順番に(手順1)〜(手順9)を行っても良い。この場合、一般には、受信ウエイトを乗算した後の信号の利得が高い順番に処理を行うことが好ましい。つまり、SNRないしはSINR(Signal to Interference and Noise Ratio)の大きな信号系列ほど先に信号検出処理を行うということである。
ここで、SINRとしては、全信号系列に対するSINR値と、所定の信号系列を信号分離した後のSINR値とが考えられる。前者については先に述べた様に最初に順番を決めることになるが、後者の場合には、(手順k)までに処理される信号系列を決めた後に(手順k+1)で処理する信号系列を決めることになる。
但し、基地局側においては、送信ウエイトにより、他局宛の信号系列の受信レベルが低くなるように制御しているはずであるので、このような順番の入れ替えを逐次行わなくても、最初に自局宛の信号系列を処理し、その後で他局宛の信号系列を処理するようにすれば、ある程度の信号検出の精度を達成することは可能である。つまり、上述した説明は、端末局102に着目して説明を行ったが、端末局103に着目するならば、第4〜第6信号系列の信号t4〜t6をまず先に処理することになる。
また、信号点の候補数L1〜L9に関しては、全体の候補数は、L1×L2×…×L9で与えられる。最後に求める信号点の候補数L9は、1に設定されるが、その他の候補数は、任意である。このL9を1に設定することの意味は、L9を2以上に設定しても、特性が改善されないことを意味しているに過ぎず、原理的には、最後の信号系列も任意の値であっても良い。
本来のMLD法の場合、一例として64QAMを仮定すると、全ての信号系列で64通りの信号の候補が存在し、全ての信号系列に対しては、649通りと天文学的な組合せ数となる。しかし、例えば(L1,L2,…,L9)を(13,9,5,1,1,…,1)のように設定するならば、候補の数は、649通りから13×9×5=585通りと減らすことが可能となり、演算量がある程度現実的な値に抑えられる。この値の組み合わせについては、自由に設定を行うことができる。
以下、上述した処理内容をフローチャートを参照して説明する。
図1は、本発明の実施形態による受信局の信号検出処理を説明するためのフローチャートである。受言局は、信号を受信(ステップS1:信号受信ステップ)すると、全ての自局宛の信号と取得可能な他局宛の信号系列のチャネル推定を行い、各信号系列の実効上の伝達関数を取得する(ステップS2:伝達関数情報取得ステップ)。
ステップS2は、データ受信の前処理に相当し、以降でデータ受信における信号検出処理を実施する。ここでは、信号系列に適当な番号付けを行い、それを変数kで表している。次に、変数kをリセットし(ステップS3)、次の信号系列を処理するために、変数kを次の値となるように1だけ加算する(ステップS4)。この処理は、その他の管理方法であっても構わない。
そして、次に抽出する信号系列を選択する(ステップS5)。この方法については後述する。次に、既に選択済みの信号系列の信号点候補に対し、送信局側で、その信号を送信した場合に受信局側で受信されるであろう信号のレプリカを生成する(ステップS6:レプリカ信号生成ステップ)。ここでは、k=1の時、すなわち、最初の信号系列に関しては、レプリカ信号はゼロベクトルである。
一方、既に複数の信号系列の候補を選択済みの場合には、それらのレプリカを全て生成し、それらを合成したものとしてレプリカ信号を取得する。これに対し、実際の受信信号Rxからそのレプリカ信号を減算した信号を取得する(ステップS7:特定信号キャンセル処理ステップ)。次に、抽出すべき信号系列に対する受信ウエイトを取得する(ステップS8:受信ウエイト取得ステップ)。
さらに、数式(44)に相当する係数Ckを取得し(ステップS9)、実際の受信信号Rxからそのレプリカ信号を減算した信号に対し、受信ウエイトを乗算して線形合成し、更に係数1/Ckを乗算することで、雑音が十分小さいと仮定した場合の抽出すべき信号系列の信号点を求める(ステップS10:受信信号線形合成ステップ)。ここで、実際に送信信号としてとりうる値は、離散値であるのに対し、このステップS10で求めた信号は、実際には、雑音や干渉等の影響で、離散値とはずれた値になる。したがって、推定される送信信号は、ステップS10で求めた信号点の近傍の離散値のいずれかであり、1つ、または、複数の候補を選択する(ステップS11:信号候補選択ステップ)。
これらの信号候補点は、既に選択済みの信号系列の信号点の組合せ毎に、新たに選択されるため、それらの組合せをメモリに記憶して管理する(ステップS12:信号候補管理ステップ)。次に、考慮すべき全ての信号系列に対して、ステップS5〜ステップS12までの処理を実施したかを判定し(ステップS13)、まだ信号検出を行っていない信号系列が残っている場合には、ステップS4に戻り、変数kを更新して、ステップS5〜ステップS12を繰り返す。
一方、全ての信号系列の処理が終わった場合には、全ての組合せの信号候補に対して誤差ベクトルを算出し、その絶対値、または、その近似値を算出する(ステップS14:推定雑音ベクトル絶対値演算ステップ)。ここでの絶対値とは、複素ベクトルの絶対値の大きさを指し、誤差の幾何学的距離、ないしは、ユークリッド距離と呼ばれるものである。但し、これらの近似値としてマンハッタン距離等の演算量の少ない物理量で近似しても構わない。
次に、誤差ベクトルの絶対値を最小にする信号候補の組合せを選択する(ステップS15:信号検出ステップ)。この時点では、他局宛の信号も含めて信号検出をしているが、必要なのは自局宛の信号のみなので、他局宛の信号を廃棄する(ステップS16:自局宛信号抽出ステップ)。この信号検出結果は、一旦、メモリに記憶される。次に、全シンボルに対する信号検出が済んだか否かを判定し(ステップS18)、後続するシンボルの信号検出を継続する場合には、ステップS3へ戻り、ステップS4〜ステップS17の各処理を繰り返す。
一方、全シンボルの信号検出が完了したと判定された場合には、全体のシンボルを合成し、データを再生して信号を出力する(ステップS19:データ再生ステップ)。ここでは、誤り訂正を実施したり、各種制御信号の終端などを合わせて行っても良い。
なお、上述した説明では、シングルキャリアを想定した説明になっているが、OFDM等のマルチキャリア伝送であれば、複数サブキャリアに渡り、ステップS2〜ステップS18の処理を実施し、ステップS19にて全サブキャリアの信号を合成してデータを再生することになる。いずれにしても、ステップS2〜ステップS18の処理は共通であり、この部分が本発明の特徴である。
ここで、ステップS8およびステップS9の処理においては、受信ウエイトwrx [k]およびCkをこのステップで算出しても構わないが、実際の処理としては、シンボル毎の信号検出処理を行う前処理として、各信号系列ごとの受信ウエイトwrx [k]およびCkを求めておき、それらを記憶したメモリからの読み出しを行う処理で置き換えることも可能であり、この方が処理の負荷は小さい。
さらに、上述した説明において、ステップS5において、次に抽出するべき信号系列の決定方法について明記していなかったが、実際には如何なる方法であっても良い。一般には、シンボル毎の信号検出処理を行う前に順番を決定し、シンボル毎の処理としてステップS3〜ステップS18の繰り返し時には、先に決めた順序に沿って行うことになる。但し、ステップS3〜ステップS18の繰り返しを実施しながら、逐次、ステップS5において順番を決定しても構わない。
以下には、シンボル毎の信号検出処理を行う前に順番を決定する場合の実施例を3つ示す。このシンボル毎の信号検出処理を行う前に順番を決定することの意味は、ステップS2とステップS3との間で、以下に説明する処理を実施するということを意味する。
図2は、本発明の実施形態による第1の信号系列処理順序の決定方法を説明するためのフローチャートである。最も簡単な例としては、まず、自局宛の信号を最初に、他局宛の信号が後になるように順番付けする方法である。順序の決定処理が開始されると(ステップS21)、既に自局宛の信号系列の抽出順序を全て決定済みであるか否かを判定する(ステップS22)。そして、決定済みでない自局宛の信号系列が残っていれば、その信号系列を1つ選択する(ステップS23)。その後、ステップS22に戻り、処理を繰り返す。
一方、決定済みでない自局宛の信号系列が残っていなければ、他局宛の信号系列も含め、想定される信号系列の抽出順序が全て決定済みであるか否かを判定する(ステップS24)。そして、決定済みでない信号系列が残っていれば、その信号系列を1つ選択し(ステップS25)、さらに、ステップS24に戻り、処理を繰り返す。一方、信号系列の順序を全て決定済みであれば、当該処理を終了する(ステップS26)。
上述した説明は、最も簡単な例であるが、実際には、前述したように、SNR、または、SINKが大きな信号系列から先になるように信号抽出の順番を決めることが好ましい。次に、SNR、または、SINRを基準とした信号系列抽出順序決定方法について説明する。
図3は、本発明の実施形態による第2の信号系列処理順序の決定方法を説明するためのフローチャートである。図3においては、順序の決定処理が開始されると(ステップS31)、変数kをリセットし(ステップS32)、変数kを次の値となるように1だけ加算する(ステップS33)。ここでも適当な番号付けを行うための変数kを用いて説明を行う。次に、自局に関する全体の伝達関数行列から、残りの信号系列に関する伝達関数部分を抽出する(ステップS34)。
さらに、上記部分的な伝達関数行列の中の各信号系列に対する列成分を抜き出し(ステップS35)、各信号系列に対する受信ウエイトを算出する(ステップS36)。次に、受信ウエイトを行ベクトルとみなし、ステップS35で抜き出した列成分を列ベクトルとみなした場合、各ベクトルの積を求め、各信号系列毎にCj (k)とする(ステップS37:推定受信利得算出ステップ)。該Cj (k)の値は、残りの信号系列に対し、受信ウエイトwrx [i]を用いて第j信号系列を抜き出す場合の受信利得に相当する物理量である。
したがって、この値が最大となる信号系列を選択し、これを次に処理すべき信号系列として管理する(ステップS38:次回処理信号系列選択ステップ)。その後、想定した全ての信号系列に対して順番を決定したか否かを判定し(ステップS39)、残りの信号系列があれば、ステップS33に戻り、ステップS34〜ステップS38を繰り返す。一方、全ての信号系列に対して順番を決定済であれば、当該処理を終了する(ステップS40)。
次に、図4は、本発明の実施形態による第3の信号系列処理順序の決定方法を説明するためのフローチャートである。なお、図3と同じステップには同一の符号を付けて説明を省略する。図4においては、次に抽出する信号系列の順番決定の基準とし、SNR値に比例関係にある物理量の代わりに、SINRに比例関係にある物理量を採用する。
具体的には、ステップS37の代わりに、まず、第j信号系列に対する受信ウエイトwrx [j]を用いた場合に、第i信号系列が受信される際の利得の推定値として次式(49)で示されるCj,i (k)を求める(ステップS41)。
さらに、自局宛の信号に対する利得と他局宛の信号に対する利得および受信ウエイトを考慮した雑音電力との比率として以下の式(50)の式で与えられるCj (k)を求める(ステップS42:推定受信利得算出ステップ)。
このようにして求めた基準に対し、図3と同様に、ステップS38として、次回処理信号系列選択ステップを実施する。その他の処理は図3の処理と同様である。
なお、ここで、式(50)のwrx [k](wrx [k])Hの項は、受信ウエイトwrx [k]を用いた場合に雑音が強調される効果を考慮したものであるが、SINRの代わりにSIRを用いるならば、以下の式(51)を用いて同様の処理を行っても構わない。
なお、前述したように、OFDM等のマルチキャリア伝送であれば、複数サブキャリアに渡り、ステップS31〜ステップS40、または、ステップS21〜ステップS26の処理を実施する。あるいは、あるサブキャリアに対して求めた順番を用いて、その他のサブキャリアにおいても同一の順番で処理を行っても良い。いずれにしても、少なくとも、あるサブキャリアに対して、上述した処理を実施することが本発明の特徴である。
次に、上述した実施形態による処理内容を実現する無線局について説明する。
図5は、本実施形態による第2の無線局の受信部の構成例(シングルキャリア)を示すブロック図である。図において、1a−1〜1a−3はアンテナ、2a−1〜2a−3は無線部、3aはチャネル推定回路、4aは受信信号管理回路、5aは伝達関数行列管理回路、6aは抽出順序管理回路、7aは受信ウエイト算出回路、8aはレプリカ生成回路、9aはレプリカキャンセル回路、10aは受信ウエイト乗算回路、11aは信号候補選択回路、12aは信号候補組み合わせ情報管理回路、13aは誤差ベクトル絶対値算出回路、14aは信号検出回路、15aは他局宛信号廃棄回路、16aはデータ合成回路、17aは逐次信号キャンセル処理回路である。
まず、各受信アンテナ1a−1〜1a−3は、それぞれ個別に受信信号を受信する。無線部2a−1〜2a−3を経由して、受信した信号は、チャネル推定回路3aに入力される。送信側で付与した所定のプリアンブル信号の受信状況から、チャネル推定回路3aにて各信号系列と受信アンテナとの間の伝達関数を取得する。このようにして取得された伝達関数行列は、伝達関数行列管理回路5aにて伝達関数行列として管理される。この際、チャネル推定回路3aでは、自局宛の信号系列以外のプリアンブル信号に対しても相関をとり、伝達関数情報を取得する。
このようにして取得された伝達関数情報は、抽出順序管理回路6a、受信ウエイト算出回路7a、レプリカ生成回路8a、レプリカキャンセル回路9aに入力される。抽出順序管理回路6aでは、図2乃至図4に示したような任意の手法で空間多重された複数の信号系列の中から信号抽出を行うための信号系列の順番を決定・管理する。この順番は、逐次信号キャンセル処理回路17a内で、逐次、順番に信号を分離する際の処理順序を規定するものであり、逐次信号キャンセル処理回路I7aは、抽出順序管理回路6aから指示される順番で信号処理する。
ここまでの説明は、チャネル推定用のプリアンブル信号が受信された際の処理であるが、このプリアンブル信号に後続して各端末局宛であるデータが空間多重された状態で受信される。チャネル推定回路3aを介して受信信号管理回路4aに入力された受信信号は、逐次信号キャンセル処理回路17a内のレプリカキャンセル回路9aに入力される。
以降、まず、上述した(手順1)で説明した処理を実施する。レプリカキャンセル回路9aにおいては、レプリカ信号をキャンセルするが、k=1に対するレプリカ信号は、規定されていない。このため、レプリカキャンセル回路9aから受信ウエイト乗算回路10aへの出力は、元々の受信信号Rxのままである。ここで、抽出順序管理回路6aから指示された信号系列を抽出するための受信ウエイトを受信ウエイト算出回路7aから取得し、受信信号Rxに受信ウエイトを乗算する。この結果は、信号候補選択回路11aに出力され、ここで、数式(35)における雑音項が小さくなるような送信信号点の候補が選択される。この結果は、信号候補組み合せ情報管理回路12aで管理される。
この後、上述した(手順2)以降の処理を行う。処理は、全ての信号系列(例えば、図7に示す例では、9個の信号系列を空間多重しているので(手順9)まで)に対して実施する。例えば、(手順2)では、k=2として、まず、既に候補を選択済みの信号系列に対し、それぞれが送信側より送信された場合に受信側で受信されるであろうレプリカ信号を生成する。このレプリカ信号をレプリカキャンセル回路9aに入力し、受信信号とレプリカ信号との差分を算出し、これを受信ウエイト乗算回路10aに入力する。この結果に対しても、信号候補選択回路11aにて同様の処理を行い、数式(39)における雑音項が小さくなるような送信信号点の候補が選択される。この結果は、信号候補組み合せ情報管理回路12aで管理される。
上述した処理を(手順9)まで行った後、信号候補組み合せ情報管理回路12aにて管理された全ての信号系列に対する候補の組合せに対し、レプリカ生成回路8aにてレプリカ生成を行い、これをレプリカキャンセル回路9aにて受信信号からキャンセルする。この結果として、数式(45)に対応する最終的な誤差ベクトルを算出し、これを誤差ベクトル絶対値算出回路13aに出力する。誤差ベクトル絶対値算出回路13aでは、誤差ベクトルの絶対値、または、絶対値の近似値を算出し、その結果を信号検出回路14aに出力する。
信号検出回路14aでは、多数の組合せ候補の中から、誤差ベクトルの絶対値が最小になる組み合わせを検索し、その組み合わせにおける各信号系列の信号を他局宛信号廃棄回路15aに出力する。他局宛信号廃棄回路15aでは、自局宛以外の信号系列に対する信号検出結果を廃棄し、自局宛の信号のみをデータ合成回路16aに出力する。データ合成回路16aでは、複数シンボルに渡る一連の受信信号から、送信局側に入力されたデータを受信局側において再生し、これを出力する。
以上が基本的な動作であるが、従来方式における図11に対する図12のように、シングルキャリアを用いたシステムのみならず、OFDM等のマルチキャリアのシステムにおいても拡張可能である。
図6は、本発明の実施形態による第2の無線局の受信部の構成例(OFDM)を示すブロック図である。図6において、チャネル推定回路3b〜他局宛信号廃棄回路15bは、図5に示すチャネル推定回路3a〜他局宛信号廃棄回路15aに同一の機能を有し、サブキャリア毎に用意され、全てのサブキャリアに対して、全K面(サブキャリア数をKとした場合)のサブキャリア別信号処理回路18−1〜18−Kを備えている。
また、無線部2b−1〜2b−3からの出力信号に対し、それぞれFFT(Fast Fourier Transform)回路19b−l〜19b−3が用意されている。FFT回路19b−l〜19b−3では、FFT処理により各サブキャリア成分に分離し、それぞれをサブキャリア別信号処理回路18−1〜18−Kに入力する。また、各サブキャリア別信号処理回路18−1〜18−Kからの出力信号は、データ合成回路16bにて、全信号系列、全サブキャリア、全シンボルの情報を集約し、送信局側に入力されたデータを受信局側において再生し、これを出力する。
なお、OFDM等のマルチキャリアのシステムの説明において、サブキャリア数をKとしたが、一部に当該ユーザのデータを含まないパイロット信号等の他の目的の信号のためのサブキャリアを含む場合には、それらを除いたサブキャリア数をKとみなせばよい。
上述した実施形態によれば、マルチユーザMIMO通信を行う際の端末局側において、時変動等の影響で十分に他局宛の干渉信号が除去できない場合において、空間多重を行う全体の信号系列数よりも端末の受信アンテナ本数が少なくても、他局宛の干渉信号を的確に推定し、干渉をキャンセルすることで、自局宛の信号の受信特性を向上させることができる。
なお、上述した実施形態においては、アンテナの本数など、各種パラメータを特定の条件に仮定して説明を行ったが、当然ながらその他の一般的なパラメータによって実施可能である。また、複数の端末局の中で、同時に空間多重を行う端末局が固定的な場合であっても、あるいは、時間と共に適応的に一部のユーザを選択してマルチユーザMIMO通信を行う場合であっても、本発明は適用可能である。
さらに、上述の実施例においては、基地局側にて空間多重した信号系列の全てを考慮して、9つの信号系列に対し手順1から手順9の処理を説明していたが、他局宛の信号系列の一部を処理の対象外とすることも同様に適用可能である。
すなわち、上述した実施形態は、全て本発明を例示的に示すものであって、限定的に示すものではなく、本発明は、他の種々の変形態様及び変更態様で実施することができる。したがって、本発明の範囲は、特許請求の範囲及びその均等範囲によってのみ規定されるものである。
本発明の実施形態による受信局の信号検出処理を説明するためのフローチャートである。
本発明の実施形態による第1の信号系列処理順序の決定方法を説明するためのフローチャートである。
本発明の実施形態による第2の信号系列処理順序の決定方法を説明するためのフローチャートである。
本発明の実施形態による第3の信号系列処理順序の決定方法を説明するためのフローチャートである。
本実施形態による第2の無線局の受信部の構成例(シングルキャリアの場合)を示すブロック図である。
本発明の実施形態による第2の無線局の受信部の構成例(OFDMの場合)を示すブロック図である。
マルチユーザMIMOシステムの構成例を示すブロック図である。
従来技術による送信ウエイト行列Wの算出方法を説明するフローチャートである。
従来技術による送信局の構成例(シングルキャリアの場合)を示すブロック図である。
従来技術における送信局側の構成例(OFDMの場合)を示すブロック図である。
従来技術における第2の無線局の受信部の構成例(シングルキャリアの場合)を示すブロック図である。
従来技術における第2の無線局の受信郎の構成例(OFDMの場合)を示すブロック図である。
従来技術による受信処理を説明するためのフローチャートである。
符号の説明
1a−1〜1a−3、1b−1〜1b−3 受信アンテナ(第2のアンテナ群)
2a−l〜2a−3、2b−l〜2b−3 無線部(信号受信手段)
3a、3b チャネル推定回路(伝達関数情報取得手段)
4a、4b 受信信号管理回路
5a、5b 伝達関数行列管理回路
6a、6b 抽出順序管理回路
7a、b 受信ウエイト算出回路(受信ウエイト取得手段)
8a、8b レプリカ生成回路(レプリカ信号生成手段)
9a、9b レプリカキャンセル回路(特定信号キャンセル処理手段)
10a、10b 受信ウエイト乗算回路(受信信号線形合成手段)
lla、11b 信号候補選択回路(信号候補選択手段、推定受信利得算出手段、次回処理信号系列選択手段)
12a、12b 信号候補組合せ情報管理回路(選択済み信号候補管理手段)
13a、13b 誤差ベクトル絶対値算出回路(推定雑音ベクトル絶対値演算手段)
14a、14b 信号検出回路(信号検出手段)
15a、15b 他局宛信号廃棄回路(自局宛信号抽出手段)
16a、16b データ合成回路(データ再生手段)
17a、17b 逐次信号キャンセル処理回路
18−1〜18−K サブキャリア別信号処理回路
19−1〜19−3 FET回路
101 基地局
102〜104 端末局