以下、本発明の2つの実施形態に係る車両の操舵装置について図面を用いて説明する。図1〜図6は第1実施形態に係り、第7〜図9は第2実施形態に係る。まず、第1実施形態の車両の操舵装置について説明する。図1は、第1実施形態に係る車両の操舵装置を概略的に示している。
この車両の操舵装置は、運転者によって操舵操作される操舵操作装置10と、転舵輪としての左右前輪FW1,FW2を運転者の操舵操作に応じて転舵する転舵装置20とを機械的に分離して備えたステアバイワイヤ方式を採用している。操舵操作装置10は、運転者によって回動操作される操作部としての操舵ハンドル11を備えている。操舵ハンドル11は操舵入力軸12の上端に固定され、操舵入力軸12の下端には減速機構を内蔵した反力発生用の操舵反力用電動モータ13が組み付けられている。操舵反力用電動モータ13は、操舵ハンドル11の操舵操作に対して反力を付与する。
転舵装置20は、車両の左右方向に延びて配置された転舵軸21を備えている。この転舵軸21の両端部には、タイロッド22a,22bおよびナックルアーム23a,23bを介して、左右前輪FW1,FW2が転舵可能に接続されている。左右前輪FW1,FW2は、転舵軸21の軸線方向の変位により左右に転舵される。転舵軸21の外周上には、図示しないハウジングに組み付けられた第1転舵用電動モータ24および第2転舵用電動モータ25が設けられている。第1転舵用電動モータ24および第2転舵用電動モータ25の回転は、それぞれねじ送り機構26,27により減速されるとともに転舵軸21の軸線方向の変位に変換される。
次に、操舵反力用電動モータ13、第1転舵用電動モータ24および第2転舵用電動モータ25の回転を制御する電気制御装置30について説明する。電気制御装置30は、操舵角センサ31、転舵角センサ32、車速センサ39を備えている。操舵角センサ31は、操舵入力軸12に組み付けられて、操舵ハンドル11の基準位置からの回転角を検出して操舵角θを表す信号を出力する。以下、この操舵角センサ31により検出される操舵角θを実操舵角θと呼ぶ。実操舵角θは、基準位置を「0」とし、右方向の角度を正の値で表し、左方向の角度を負の値で表す。転舵角センサ32は、転舵軸21に組み付けられて、転舵軸21の基準位置からの軸線方向の変位量を検出して左右前輪FW1,FW2の転舵角δを表す信号を出力する。以下、この転舵角センサ32により検出される転舵角δを実転舵角δと呼ぶ。実転舵角δは、基準位置を「0」とし、左右前輪FW1,FW2の右方向の転舵に対応した転舵軸21の変位を正の値で表し、左右前輪FW1,FW2の左方向の転舵に対応した転舵軸21の変位を負の値で表す。車速センサ39は、車速Vを表す車速信号を出力する。
また、電気制御装置30は、互いに接続された操舵反力用電子制御ユニット(以下、操舵反力用ECUという)33、第1転舵用電子制御ユニット(以下、第1転舵用ECUという)34、および第2転舵用電子制御ユニット(以下、第2転舵用ECUという)35を備えている。操舵反力用ECU33には、操舵角センサ31が接続されている。第1転舵用ECU34および第2転舵用ECU35には、操舵角センサ31、転舵角センサ32、車速センサ39がそれぞれ接続されている。
これらのECU33〜35は、それぞれCPU,ROM,RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とする。操舵反力用ECU33は、ROMに記憶した図5の操舵反力制御プログラムを実行して、駆動回路36を介して操舵反力用電動モータ13を駆動制御する。第1および第2転舵用ECU34,35は、ROMに記憶した図2および図3の第1および第2転舵制御プログラムをそれぞれ実行して、駆動回路37,38を介して第1および第2転舵用電動モータ24,25をそれぞれ駆動制御する。
駆動回路36〜38は、ECU33〜35によりそれぞれ制御されて、電動モータ13,24,25を駆動制御する。これらの駆動回路36〜38内には、電動モータ13,24,25に流れる駆動電流をそれぞれ検出する駆動電流センサ36a〜38aがそれぞれ設けられていて、駆動電流センサ36a〜38aによって検出された駆動電流値信号はECU33〜35にそれぞれ供給される。
次に、上記のように構成した実施形態の動作を説明する。イグニッションスイッチ(図示しない)の投入により、第1転舵用ECU34は、図2に示す第1転舵制御プログラムを所定の短時間ごとにそれぞれ繰り返し実行する。
この第1転舵制御プログラムが開始されると、第1転舵用ECU34は、ステップS11にて、第1フェイルフラグFF1が“1”であるか否かを判定する。この第1フェイルフラグFF1は、“0”により第1転舵制御系統の非異常状態(すなわち第1転舵用電動モータ24による左右前輪FW1,FW2の転舵可能状態)を表し、“1”により第1転舵制御系統の異常状態(すなわち第1転舵用電動モータ24による左右前輪FW1,FW2の転舵不能状態)を表している。
まず、第1フェイルフラグFF1が“0”である場合について説明する。この場合においては、第1転舵用ECU34は、ステップS12に処理を進め、第1転舵制御系統に異常が発生しているかを検査する。この場合、第1転舵用ECU34は、第1転舵用電動モータ24の断線、短絡、その他の異常を駆動回路37からの信号を入力して、第1転舵用電動モータ24および駆動回路37を含む第1転舵制御系統に異常が発生しているかを検査する。続いて、ステップS13において、先のステップS12の処理によって異常が検出されたか否かを判定する。まず、ステップS12,S13の処理によって異常が検出されなかった場合について説明する。
第1転舵用ECU34は、第1転舵制御系統の異常が検出されなかった場合には、ステップS14にて第1フェイルフラグFF1を“0”に設定する。なお、この第1フェイルフラグFF1は、イグニッションスイッチがオフされても、その値が保持されるように、第1転舵用ECU34の非作動時には不揮発性のメモリ領域に記憶保持され、次にイグニッションスイッチが新たに投入されたときにも以前の値のままに保たれている。
次に、第1転舵用ECU34は、ステップS15において、操舵角センサ31、転舵角センサ32、車速センサ39によって検出された実操舵角θ、実転舵角δ、車速Vに加えて、第2転舵用ECU35から第2フェイルフラグFF2を入力する。なお、第2フェイルフラグFF2は、“0”により第2転舵制御系統の非異常状態(すなわち第2転舵用電動モータ25による左右前輪FW1,FW2の転舵可能状態)を表し、“1”により第2転舵制御系統の異常状態(すなわち第2転舵用電動モータ25による左右前輪FW1,FW2の転舵不能状態)を表している。続いて、ステップS16において、第2フェイルフラグFF2が“1”であるか否かを判定する。ここでは、まず、第2転舵制御系統に異常が発生しておらず、第2フェイルフラグFF2が“0”である場合について説明する。
第1転舵用ECU34は、第2フェイルフラグFF2が“0”である場合には、その処理をステップS17に進める。ステップS17においては、ステップS15にて入力した実操舵角θから後述する操舵角補正量Δθを減算することにより補正操舵角θc(=θ−Δθ)を計算する。なお、前述のように、第1および第2転舵制御系統のいずれにも異常が検出されていなければ、操舵角補正量Δθは「0」であり、補正操舵角θcは実操舵角θに等しい。
このステップS17の処理後、第1転舵用ECU34は、ステップS18において、この補正操舵角θcを表す信号を操舵反力用ECU33に出力する。操舵反力用ECU33は、第1転舵用ECU34から出力された信号で表される補正操舵角θcに基づいて操舵ハンドル11に付与する目標操舵反力を決定する。尚、この操舵反力制御については後述する。
続いて、第1転舵用ECU34は、ステップS19において、ROM内に予め用意された目標転舵角テーブルを参照して、入力した補正操舵角θcに対応する目標転舵角δ*を計算する。この目標転舵角テーブルは、操舵ハンドル11の操舵角θに対応する目標転舵角δ*の制御則を規定するもので、図4に示すように、操舵角θの増加に従って増加する目標転舵角δ*を記憶している。ステップS19においては、補正操舵角θcを目標転舵角テーブルの操舵角θに代入し、その操舵角θ(補正操舵角θc)に対応する目標転舵角δ*を求める。この場合、第1および第2転舵制御系統のいずれにも異常が検出されていない状況においては、操舵角補正量Δθが「0」であるため、目標転舵角テーブルに従って実操舵角θに対応する目標転舵角δ*が求められる。なお、目標転舵角テーブルを用いるのに代えて、操舵角θと目標転舵角δ*との関係を予め定めた関数を用意しておいて、その関数を用いて補正操舵角θcに対応する目標転舵角δ*を計算するようにしてもよい。
続いて、第1転舵用ECU34は、ステップS20に処理を進め、目標転舵角δ*から実転舵角δを減算した差分値(δ*−δ)に比例した目標駆動電流値を演算し、目標駆動電流値に応じた制御信号(例えば、PWM制御信号)を駆動回路37aに出力することで目標駆動電流を第1転舵用電動モータ24に流す。この通電制御は、例えば、駆動電流センサ37aによって検出された駆動電流をフィードバックすることにより行う。これにより、第1転舵用電動モータ24は、差分値(δ*−δ1)が「0」となるように駆動制御され、その回転により、ねじ送り機構26を介して転舵軸21を軸線方向に駆動する。そして、転舵軸21の軸線方向の変位により、左右前輪FW1,FW2が目標転舵角δ*に転舵される。その結果、左右前輪FW1,FW2は、操舵ハンドル11の回動操作に応じて転舵され、車両は左右に旋回される。こうして、第1転舵用ECU34は、ステップS20の処理を実行すると第1転舵制御プログラムの実行を一旦終了する。そして、所定の短い周期で第1転舵制御プログラムを繰り返し実行する。
また、第2転舵用ECU35も、第1転舵制御プログラムと並行して、図3に示す第2転舵制御プログラムを所定の短い周期で繰り返し実行する。第2転舵制御プログラムもイグニッションスイッチ(図示しない)の投入により開始される。第2転舵制御プログラムが開始されると、第2転舵用ECU35は、第1および第2転舵制御系統に異常が発生していない場合には、上述した図2のステップS11〜20と同様な図3のステップS41〜S50の処理により、操舵ハンドル11の回動操作に応じて左右前輪FW1,FW2を目標転舵角δ*に転舵制御する。
ただし、この場合には、ステップS41においては、第2フェイルフラグFF2が“1”であるか否かが判定される。また、ステップS42、S43においては、第2転舵用電動モータ25の断線、短絡、その他の異常を駆動回路38からの信号を入力して、第2転舵用電動モータ25および駆動回路38を含む第2転舵制御系統に異常が発生しているか否かが検査される。そして、ステップS44においては、第2転舵制御系統に異常が発生していないことを条件に、第2フェイルフラグFF2が“0”に設定される。なお、この第2フェイルフラグFF2も、イグニッションスイッチがオフされても、その値が保持されるように、第2転舵用ECU35の非作動時には不揮発性のメモリ領域に記憶保持されるものである。さらに、ステップS45においては、実操舵角θ、実転舵角δ、車速Vに加えて、第1転舵用ECU34から第1フェイルフラグFF1が入力される。そして、ステップS46においては、第1フェイルフラグFF1が“1”であるか否かが判定される。
このような第1および第2転舵制御プログラムの実行により、第1および第2転舵用電動モータ24,25は、ほぼ均等な回転トルクにより協働して左右前輪FW1,FW2を転舵制御して、左右前輪FW1,FW2を目標転舵角δ*に転舵制御する。この左右前輪FW1,FW2の転舵制御時には、第1および第2転舵用電動モータ24,25による十分な転舵力が得られるので、左右前輪FW1,FW2は操舵ハンドル11の回動操作に良好に追従して転舵される。
次に、第2転舵制御系統に異常が発生した場合について説明する。この場合、第2転舵用ECU35は、ステップS43にて「Yes」と判定して、その処理をステップS60に進める。第2転舵用ECU35は、ステップS60において、第2フェイルフラグFF2を“1”に設定し、続くステップS61において、この“1”に設定された第2フェイルフラグFF2を第1転舵用ECU33に出力する。そして、ステップS62にて、第2転舵用電動モータ25の作動を停止する。これ以降、第2転舵制御プログラムが再実行された場合には、第2転舵用ECU35は、ステップS41にて“1”に設定された第2フェイルフラグFF2に基づいて「Yes」と判定し、ステップS61,S62の処理を実行し続ける。その結果、第2転舵制御系統の異常の発生以降においては、第2転舵用電動モータ25の作動が停止して、第2転舵用電動モータ25は左右前輪FW1,FW2の転舵に関与しなくなる。
一方、第1転舵用ECU34は、ステップS15にて第2フェイルフラグFF2(=1)を入力し、ステップS16での「Yes」の判定のもとにその処理をステップS21に進める。ステップS21においては、車速フラグFVが“0”であるか否かが判断される。この車速フラグFVは、車両の車速状態を表すもので、後述する処理から分かるように、車速Vが「0」となる転舵制御開始時においては、“0”に設定されており、車速Vが上昇して第1基準速度V1に達したときに“1”に設定される。その後、車速Vが低下して第2基準速度V2にまで低下したときに“0”に戻されるものである。
尚、第1基準速度V1は、第2基準速度V2よりも大きく(V1>V2)、しかも、図10に示すように、一方の転舵制御系統が失陥した場合であっても、必要ラック軸力(転舵輪FW1,FW2を転舵するために必要な転舵力)が得られる最小速度Vminよりも大きな値に設定される。本実施形態においては、第1基準速度V1は、クリープ車速(例えば、7〜8km/h)に設定される。
第1転舵制御が開始されたときは、車速フラグFVは“0”に設定されているため、ステップS21の判断は「Yes」となり、処理をステップS22に進める。このステップS22においては、車速Vが上昇して第1基準速度V1に達したか否かが判断される。具体的には、今回の検出速度Vnが第1基準速度V1以上であり、かつ、直前回の検出速度Vn-1が第1基準速度V1未満であるか否かを判断する。直前回の検出速度Vn-1とは、所定周期で繰り返し実行される第1転舵制御の1周期前に実行されたステップS15で読み込んだ車速Vを意味する。尚、検出速度Vn-1の初期値は“0”に設定されている。
転舵制御の開始時においては、車速が「0」であるため、ステップS22の判断は「No」となり、その処理をステップS25に進める。第1転舵用ECU34は、ステップS25において、固定目標転舵角δ*が設定済みか否かを判断する。この固定目標転舵角δ*については後述する。第1転舵制御の開始時おいては、固定目標転舵角δ*が設定されていないため、ステップS25の判断は「No」となり、第1転舵用ECU34は、その処理をステップS28に進める。
ステップS28において、第1転舵用ECU34は、ステップS15で入力した実転舵角δを固定目標転舵角δ*として設定する。つまり、操舵ハンドル11の操舵角θとは無関係に、現時点において転舵角センサ32に検出されている実転舵角δを、ステップS20で使用する目標転舵角δ*に設定する。この固定目標転舵角δ*は、後述する処理から分かるように、車速Vが第1基準速度V1に達しない期間において、ステップS20での目標転舵角δ*として使用されるため、実操舵角θに関係なく目標転舵角δ*を一定値に規定するものとなる。
続いて、第1転舵用ECU34は、ステップS29において、車速フラグFVが“1”か否かを判断する。第1転舵制御の開始時おいては、車速フラグFVは“0”に設定されているため、ステップS29の判断は「No」となり、ステップS20の処理に移行する。ステップS20においては、実転舵角δが目標転舵角δ*になるように第1転舵用電動モータ24を駆動制御する。つまり、目標転舵角δ*から実転舵角δを減算した差分値(δ*−δ)に比例した目標駆動電流を第1転舵用電動モータ24に流す。この場合、先のステップS28において、実転舵角δを目標転舵角δ*(固定目標転舵角δ*)に設定しているため、差分値(δ*−δ)は「0」となり、第1転舵用電動モータ24が駆動されない。換言すれば、第1転舵用電動モータ24の駆動が禁止される。
この第1転舵制御は、所定の周期で繰り返されるが、第2転舵制御系統のみ異常が検出されているといった状況においては、車速Vが第1基準速度V1にまで上昇していないあいだは、ステップS22の判断が「No」に維持される。従って、第1転舵用ECU34は、処理をステップS25に進めて、固定目標転舵角δ*が設定済みか否かを判断する。この場合、すでにステップS28において固定目標転舵角δ*が設定されているため、ステップS25の判断は、「Yes」となる。従って、第1転舵用ECU34は、ステップS28の処理を行うことなくステップS29の判断に移行し、車速フラグFVが“1”か否かを判断する。この段階では、まだ車速フラグFVは“0”に維持されているため、その処理をステップS20に進めて実転舵角δが目標転舵角δ*になるように制御する。この場合、実転舵角δは、最初に設定された固定目標転舵角δ*と等しい角度になっているため、第1転舵用電動モータ24には通電されない。
こうして、車速Vが第1基準速度V1にまで上昇しない間は(S22:No)、この第1転舵制御開始時における実転舵角δを目標転舵角δ*(固定目標転舵角δ*)に設定して転舵制御する。従って、目標転舵角δ*から実転舵角δを減算した差分値(δ*−δ)は常に「0」になるため、第1転舵用電動モータ24は駆動されない。こうして第1転舵用電動モータ24の駆動禁止状態が継続される。
車速Vが第1基準速度V1にまで上昇すると、ステップS22の判断は「No」となり、第1転舵用ECU34は、その処理をステップS23に進める。このステップS23においては、操舵角補正量Δθを算出しRAMに記憶する。この操舵角補正量Δθは、図4に示す目標転舵角テーブルを参照してステップS15にて入力した現時点の実転舵角δに対応する操舵角を算出し、その操舵角とステップS15にて入力した現時点の操舵ハンドル11の実操舵角θとの角度差を計算したものである。つまり、目標転舵角テーブルに基づいて現時点の実転舵角δが目標転舵角δ*となる操舵角(図4におけるθcに相当)と、実際の操舵角θとの偏差を操舵角補正量Δθとして算出する。
ステップS23において操舵角補正量Δθが算出・記憶されると、次に、ステップS24において、車速フラグFVを“1”に設定する。続いて、ステップS29にて車速フラグFVの状態を確認する。この場合、車速フラグFVが“1”に設定されているため、第1転舵用ECU34は、その処理をステップS17に進める。このステップS17においては、ステップS15にて入力した実操舵角θにステップS23にて算出した操舵角補正量Δθを減算することにより補正操舵角θc(=θ−Δθ)を計算する。
続いて、第1転舵用ECU34は、ステップS18において、補正操舵角θcを表すデータ信号を操舵反力用ECU33に出力し、ステップS19において、目標転舵角テーブルを参照して、入力した補正操舵角θcに対応する目標転舵角δ*を計算する。この場合、操舵角補正量Δθは、先のステップS23において、実転舵角δが目標転舵角δ*となる操舵角と実操舵角θとの偏差として求めたものであるため、ここで計算された補正操舵角θcに対応する目標転舵角δ*は、実転舵角δと等しくなる。続いて、第1転舵用ECU34は、ステップS20において、目標転舵角δ*と実転舵角δとが等しくなるように第1転舵用電動モータ24を通電制御する。この場合、目標転舵角δ*と実転舵角δとが等しくなるため第1転舵用電動モータ24には通電されない。
第1転舵用ECU34は、この第1転舵制御を所定の短い周期で繰り返し実行する。第2転舵制御系統のみ異常が検出されている状況が継続しているケースにおいては、車速Vが第1基準速度V1に達した後は、車速フラグFVが“1”に設定されている。このため、ステップS21の判断が「No」となり、第1転舵用ECU34は、その処理をステップS26に進める。このステップS26においては、ステップS15にて入力した車速Vが第2基準速度V2にまで低下したか否かを判断する。具体的には、今回の検出速度Vnが第2基準速度V2以下であり、かつ、直前回の検出速度Vn-1が第2基準速度V2より大きいか否かを判断する。
車速Vが第2基準速度V2にまで低下していない間は、そのままステップS29の処理に進み、車速フラグFVを確認する。この場合、車速フラグFVが“1”に設定されているため、第1転舵用ECU34は、ステップS17からステップS20までの処理を行う。ステップS17においては、実操舵角θからステップS23にて算出した操舵角補正量Δを減算して補正操舵角θcを求める。そして、ステップS19において、目標転舵角テーブルを参照して補正操舵角θcに対応する目標転舵角δ*を求め、ステップS20において、実転舵角δが目標転舵角δ*に一致するように第1転舵用転舵モータ24の通電制御する。
上述したように、操舵角補正量Δθは、車速Vが第1基準速度V1に到達したときにおける、目標転舵角テーブルを参照して得られた実転舵角δに対応する操舵角と、実操舵角θとの角度差を計算したものである。このため、車速Vが第1基準速度V1に到達したときに、実操舵角θに対応する目標転舵角δ*と実転舵角δとの間に大きな角度差が生じていても、実操舵角θを操舵角補正量Δθで補正することにより、転舵制御上においては転舵角度差がない状態となっている。
このことは、第1転舵用ECU34が、操舵角センサ31により検出される実操舵角θを、車速Vが第1基準速度V1に到達した時点における転舵角度差相当分だけオフセットしているとも言える。そして、その状態から操舵ハンドル11の操舵操作に応じて目標転舵角δ*を逐次計算して、実転舵角δが目標転舵角δ*と一致するように第1転舵用電動モータ24を通電制御する。従って、実転舵角δと目標転舵角δ*との偏差が大きくならず、転舵輪FW1,FW2が急激に転舵されるといった不具合が防止される。
第1転舵用ECU34は、こうした処理を繰り返し実行し、ステップS26において、車速Vが第2基準速度V2にまで低下したことを検出すると、次に、ステップS27において車速フラグFVを“0”に設定する。続いて、ステップS28において、実転舵角δを固定目標転舵角δ*に設定する。つまり、車速Vが第2基準速度V2にまで低下した時点における実転舵角δを固定目標転舵角δ*に設定する。続いて、ステップS29に進み、車速フラグFVを確認する。この場合、車速フラグFVが“0”に設定されているため、第1転舵用ECU34は、処理をステップS20に進めて、実転舵角δが目標転舵角δ*と一致するように第1転舵用電動モータ24を通電制御する。この場合、目標転舵角δ*としてステップS28にて算出された固定目標転舵角δ*が使用される。
車速Vが第2基準速度V2にまで低下した後は、車速フラグFVが“0”に設定されるため、次の制御周期におけるステップS21の判断は「Yes」となる。そして、ステップS22において車速Vが第1基準速度V1にまで上昇していないと判断されているあいだは(S22:No)、ステップS25において「Yes」、ステップS29において「No」という判定が繰り返される。従って、第1転舵用ECU34は、車速Vが第1基準速度V1にまで上昇していないあいだは、ステップS20において実転舵角δが目標転舵角δ*と一致するように第1転舵用電動モータ24を通電制御する。この場合、目標転舵角δ*は、車速Vが第2基準速度V2にまで低下した時点の実転舵角δ(固定目標転舵角δ*)に固定され、その後の操舵ハンドル11の操舵操作に関わらず変更されない。従って、実転舵角δと目標転舵角δ*とが一致する状態が継続するため、第1転舵用電動モータ24への通電が行われなくなり、転舵輪FW1,FW2の転舵動作が禁止される。
こうした第1転舵制御プログラムが繰り返し実行され、車速Vが第1基準速度V1にまで達すると(S22:Yes)、上述したようにステップS23からの処理を行う。
また、第1転舵制御系統に異常が発生した場合には、第1転舵用ECU34は、上述した図3のステップS41〜S43、ステップS60〜S62の処理と同様に図2のステップS11〜S13、ステップS30〜S32の処理により、第1フェイルフラグFF1を“1”に設定するとともに、“1”に設定された第1フェイルフラグFF1を第2転舵用ECU35に出力し、かつ第1転舵用電動モータ24の作動制御を停止する。
一方、第2転舵用ECU35は、第2転舵制御系統に異常が検知されておらず、第1転舵用ECU34から第1転舵制御系統の異常を表す“1”となる第1フェイルフラグFFを入力した場合には、図3に示すステップS46における「Yes」との判断により、ステップS51〜S59の処理もあわせて行う。このステップS51〜S59の処理は、上述した第1転舵用ECU34が行うステップS21〜S29の処理と同一であるため、その説明を省略する。
次に、操舵反力用ECU33により実施される操舵反力制御について説明する。図5は、操舵反力制御プログラムを表す。操舵反力用ECU33は、イグニッションスイッチ(図示しない)の投入により操舵反力制御プログラムを開始し、所定の短い周期で繰り返す。操舵反力用ECU33は、ステップS71にて補正操舵角θcを入力する。補正操舵角θcは、第1転舵制御系統および第2転舵制御系統に異常が検知されていない状況においては、第1転舵用ECU34および第2転舵用ECU35から出力され(S18,S48参照)、第1転舵制御系統あるいは第2転舵制御系統の何れか一方に異常が検出されている場合には、異常が検出されていない制御系統の転舵用ECU34(35)から出力される。従って、操舵反力用ECU33は、第1転舵制御系統および第2転舵制御系統に異常が検知されていない状況においては、何れか一方の転舵用ECU34(35)から補正操舵角θcを入力し、第1転舵制御系統あるいは第2転舵制御系統の何れか一方に異常が検出されている場合には、異常が検出されていない制御系統の転舵用ECU34(35)から補正操舵角θcを入力する。尚、第1転舵制御系統および第2転舵制御系統に異常が検知されていない状況においては、補正操舵角θcは、操舵角センサ31にて検出された実操舵角θと等しいため、操舵角センサ31から入力するようにしてもよい。
続いて、操舵反力用ECU33は、ステップS72において、目標操舵反力テーブルを参照して、入力した補正操舵角θcに対応する目標操舵反力を計算する。この目標操舵反力テーブルは、補正操舵角θcに対応する目標操舵反力の制御則を規定するもので、図6に示すように、補正操舵角θcの増加に従って増加する目標操舵反力をROM内に記憶している。この目標操舵反力はヒステリシス特性を有しており、図中に矢印で示すように、補正操舵角θcの増加時には図6の上側の実線上の値に設定され、補正操舵角θcの減少時には図6の下側の実線上の値に設定される。なお、目標操舵反力テーブルを用いるのに代えて、補正操舵角θcと目標操舵反力との関係を予め定めた関数を用意しておいて、入力した補正操舵角θcに対応する目標操舵反力を関数により計算するようにしてもよい。
次に、操舵反力用ECU33は、ステップS73において、目標操舵反力に応じた制御信号(例えば、PWM制御信号)を駆動回路36に出力することで、目標操舵反力に応じた駆動電流を操舵反力用電動モータ13に流す。この通電制御は、例えば、駆動電流センサ36aによって検出された駆動電流をフィードバックすることにより行う。そして、この操舵反力制御プログラムの実行を一旦終了する。
この操舵反力制御プログラムは所定の短い周期で繰り返されるため、逐次計算した目標操舵反力に等しい操舵反力が操舵入力軸12を介して操舵ハンドル11に付与される。これにより、運転者による操舵ハンドル11の回動操作に対して、適切な反力トルクが付与され、運転者は、この操舵反力を感じながら操舵ハンドル11を回動操作できる。また、第1転舵制御系統あるいは第2転舵制御系統の何れか一方に異常が検出されている場合に、第1転舵用ECU34あるいは第2転舵用ECU35側で転舵角のずれに相当する操舵角補正を行っても、その補正された補正操舵角θcに基づいて目標操舵反力が設定されるため、操舵反力用ECU33によって付与される操舵反力の中立点と、転舵輪FW1,FW2の中立点とが一致することになり運転操作に悪影響を及ぼさない。
以上説明した第1実施形態の車両の操舵装置によれば、第1転舵制御系統あるいは第2転舵制御系統に異常が検出された場合には、異常が検出されていない側の転舵制御系統を使って転舵輪FW1,FW2を転舵する。こうした異常時においては、車速が遅い状態では転舵能力が不足して転舵不能となり、据え切り状態で走行開始した場合には、車速の増加に伴って転舵輪FW1,FW2が急に転舵されてしまうというおそれがある。そこで、本実施形態においては、転舵制御の開始時点における実転舵角δを目標転舵角δ*に設定し、車速Vが第1基準速度V1に達するまで、その目標転舵角δ*を実操舵角θの変化に関わらず固定する。このため、転舵用電動モータ24(25)の駆動が停止される。換言すれば、転舵用電動モータ24(25)の駆動が禁止される。従って、転舵輪FW1,FW2の転舵が行われないようになる。
そして、車速Vが第1基準速度V1にまで上昇すると、目標転舵テーブルを参照してその時点における実転舵角δに対応する操舵角を算出し、その操舵角と実操舵角θとの角度差を操舵角補正量Δθとして算出記憶し、それ以降、車速Vが第2基準速度V2にまで低下するまでのあいだ、実操舵角θから操舵角補正量Δθを減算した値を補正操舵角θcとして、この補正操舵角θcから目標転舵角δ*を求めるようにしている。つまり、操舵角センサ31により検出される実操舵角θを、車速Vが第1基準速度V1に到達した時点における転舵角度差相当分だけオフセットする。従って、車速Vが第1基準速度V1に到達したときに、実操舵角θに対応する目標転舵角δ*と実転舵角δとの間に大きな角度差が生じていても、転舵制御上においては角度差がない状態となっている。
このため、車速Vが第1基準速度V1にまで上昇した後、ハンドル操作に応じて転舵輪FW1,FW2の向きを変える転舵制御に切り替えても、転舵輪FW1,FW2が急激に転舵されてしまうといった不具合を生じない。また、第1基準速度V1を、一方の転舵制御系統のみにより必要ラック軸力が確保される最小速度Vminよりも大きな値に設定しているため、第1基準速度V1を越えた後になってから転舵可能になるということもない。つまり、最小速度Vminは路面状態によって変化するが、本実施形態においては、第1基準速度V1を路面影響分を加味して大きめに設定しているため、転舵輪FW1,FW2が急激に転舵されてしまうといった不具合を確実に防止できる。
また、車速Vが第2基準速度V2にまで低下したときには、その時点における実転舵角δを目標転舵角δ*(固定目標転舵角δ*)に固定し、その後は、車速Vが第1基準速度V1に上昇するまでその目標転舵角δ*を維持するため、転舵用電動モータ24(25)への通電が行われなくなり、転舵輪FW1,FW2の転舵動作を禁止する。従って、転舵禁止状態と補正操舵角θcに基づく転舵制御状態とがハンチングしてしまうことがなく、安定した制御動作が得られる。
また、補正された補正操舵角θcに基づいて目標操舵反力が設定されるため、操舵反力用ECU33によって付与される操舵反力の中立点と、転舵輪FW1,FW2の中立点とが一致することになり運転操作に悪影響を及ぼさない。一方、操舵ハンドル11の幾何学的の中立点は、転舵輪FW1,FW2の中立点とずれることになるが、安全上の問題はなく、かえって幾何学的なずれが運転者に異常発生を認識させるという効果を奏する。
次に、第2実施形態にかかる車両の操舵装置について説明する。この第2実施形態は、第1実施形態に対して第1転舵用ECU34の実施する第1転舵制御、および、第2転舵用ECU35の実施する第2転舵制御が相違し、図1に示す全体構成は同じである。
図7は、第2実施形態としての第1転舵用ECU34が実行する第1転舵制御プログラムを表し、図8は第2実施形態としての第2転舵用ECU35が実行する第2転舵制御プログラムを表す。各制御プログラムは、イグニッションスイッチ(図示しない)の投入により開始され、所定の短い周期で並行して繰り返される。
この第2実施形態の第1転舵制御は、第1実施形態の第1転舵制御プログラム(図2)のステップS23,S25,S28およびステップS17〜S20の処理に代えて、ステップS123,S125,S128およびステップS117〜S119の処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態と同一である。また、第2実施形態の第2転舵制御は、第1実施形態の第2転舵制御プログラム(図3)のステップS53,S55,S58およびステップS47〜S50の処理に代えて、ステップS153,S155,S158およびステップS147〜S149の処理を行うものであり、他の処理については第1実施形態と同一である。従って、第1実施形態と同一処理については図面に同一ステップ番号を付けて説明を省略する。
まず、第2実施形態の第1転舵制御について説明する。
第1転舵用ECU34は、第1、第2転舵制御系統に異常が検知されていない場合には、ステップS117において、図9に示す目標転舵角テーブルに従って、ステップS15にて入力した実操舵角θに対応する目標転舵角δ*を計算する。この目標転舵角テーブルも、第1実施形態と同様に操舵角θと目標転舵角δとの対応関係を表す制御則でありROM内に記憶されている。
続いて、ステップS118において、目標転舵角δ*から後述する転舵角補正量Δδを減算することにより補正目標転舵角δ*c(=δ*−Δδ)を計算する。第1、第2転舵制御系統に異常が検知されていない場合には、この転舵角補正量Δδは「0」であり、補正目標転舵角δ*cは目標転舵角δ*と等しい。続いて、ステップS119において、実転舵角δが補正目標転舵角δ*cと一致するように第1転舵用電動モータ24に通電する。この通電制御は、第1実施形態と同様に、目標転舵角δ*から実転舵角δを減算した差分値δ*−δに比例した駆動電流を駆動回路37aを介して第1転舵用電動モータ24に流すことにより行う。
第2転舵制御系統に異常が検知されている場合には、第1実施形態と同様に、車速フラグFVの状態(S21)および車速Vの状況(S22,S26)が判断される。この転舵制御開始時においては、車速フラグFVが“0”に設定され(S21:Yes)、車速Vが「0」であるため、第1転舵用ECU34は、ステップS125において、固定補正目標転舵角δ*cが設定済みか否かを判断する。転舵制御開始時においては、固定補正目標転舵角δ*cが設定されていない。従って、第1転舵用ECU34は、その処理をステップS128に進めて、現時点における実転舵角δを固定補正目標転舵角δ*cとして設定する。この固定目標転舵角δ*cは、後述する処理から分かるように、車速Vが第1基準速度V1に達しない期間において、ステップS119での補正目標転舵角δ*cとして使用され、実操舵角θに関係なく補正目標転舵角δ*cを一定値に規定するものとなる。
続いて、第1転舵用ECU34は、ステップS29の判断「No」に従って、その処理をステップS119に進める。この場合、ステップS128で設定された固定補正目標転舵角δ*cが補正目標転舵角δ*cとして使用される。従って、実転舵角δが固定補正目標転舵角δ*cと一致するように第1転舵用電動モータ24が制御される。この場合、実転舵角δと固定補正目標転舵角δ*cとは一致しているため、第1転舵用電動モータ24は駆動されない。換言すれば、第1転舵用電動モータ24の駆動が禁止される。
第1転舵用ECU34は、車速Vが第1基準速度V1に到達するまでは、制御開始時点における実転舵角δを固定補正目標転舵角δ*cに維持する。このため、第1転舵用電動モータ24の駆動停止状態が継続される。そして、車速Vが上昇して第1基準速度V1に到達すると(S22:Yes)、ステップS123の処理を行う。
ステップS123においては、転舵角補正量Δδを算出しRAMに記憶する。この転舵角補正量Δδは、図9に示す目標転舵角テーブルを参照してステップS15にて入力した現時点の実操舵角θに対応する目標転舵角δ*を算出し、その目標転舵角δ*とステップS15にて入力した現時点の実転舵角δとの角度差(δ*−δ)を計算したものである。
ステップS123において転舵角補正量Δδが算出・記憶されると、次のステップS24において、車速フラグFVを“1”に設定する。従って、ステップS29の判断は「Yes」となり、その処理をステップS117→S118→S119へと進める。ステップS118においては、ステップS123で算出した転舵角補正量Δδを、ステップS117で算出した目標転舵角δ*から減算することにより補正目標転舵角δ*c(=δ*−Δδ)を計算する。
この場合、転舵角補正量Δδは、先のステップS123において、実操舵角θに対応する目標転舵角δ*と実転舵角δとの角度差として求めたものであるため、ここで計算された補正目標転舵角δ*cは、実転舵角δと等しくなる。従って、続くステップS119においては、第1転舵用電動モータ24には通電されない。
こうして車速Vが第1基準速度V1に達した後は、車速フラグFVが“1”に設定されているため、ステップS21の判断が「No」となり、ステップS26において、車速Vが第2基準速度にまで低下したか否かを判断するようになる。そして、車速Vが第2基準速度にまで低下していない間においては、ステップS117〜S119の処理が繰り返される。この場合、目標転舵角テーブルに基づいて、操舵ハンドル11の操舵操作により変化する実操舵角θに対応する目標転舵角δ*が逐次算出され(S117)、その目標転舵角δ*に対して転舵角補正量Δδを減算することにより補正目標転舵角δ*cが算出される(S118)。そして、実転舵角δが補正目標転舵角δ*cと一致するように第1転舵用電動モータ24が通電制御される(S119)。
第1転舵用ECU34は、こうした処理を繰り返し実行し、車速Vが第2基準速度V2にまで低下したことを検出すると(S26:Yes)、車速フラグFVを“0”に設定し(S27)、その時点における実転舵角δを新たに固定補正目標転舵角δ*cとして設定する(S128)。従って、その後は、第1転舵用ECU34は、ステップS117〜S118の処理を飛ばし、ステップS119により、実転舵角δが補正目標転舵角δ*cと一致するように第1転舵用電動モータ24を通電制御する。この補正目標転舵角δ*cとしては、ステップS28にて設定した固定目標転舵角δ*cが使われる。
その後、車速Vが第1基準速度V1に上昇するまでのあいだは、操舵ハンドル11の操舵操作に関わらず、補正目標転舵角δ*cとして固定目標舵角δ*cが使用される。従って、実転舵角δと補正目標転舵角δ*cとが一致する状態が継続するため、第1転舵用電動モータ24への通電が行われなくなり、転舵輪FW1,FW2の転舵動作が禁止される。
こうした第1転舵制御プログラムが繰り返し実行され、車速Vが第1基準速度V1にまで達すると(S22:Yes)、上述したようにステップS123からの処理を行う。
また、第1転舵用ECU34は、第1転舵制御系統に異常が発生した場合には、図2に示す第1実施形態と同一の処理(S11〜13,S30〜S32)を行う。
一方、第2転舵用ECU35は、第2転舵制御系統に異常が検知されておらず、第1転舵用ECU34から第1転舵制御系統の異常を表す“1”となる第1フェイルフラグFFを入力した場合には、図8に示すステップS46における「Yes」との判断により、ステップS51〜S52,S153,S54,S155,S56〜S57,S158,S59の処理もあわせて行う。この処理は、上述した第1転舵用ECU34が行うステップSS21〜S22,S123,S24,S125,S26〜S27,S128,S29の処理と同一であるため、その説明を省略する。
また、第2実施形態における操舵反力制御に関しては、図5に示す操舵反力制御プログラムのステップS71,S72で用いる補正操舵角θcに代えて、操舵角センサ31にて検出される実操舵角θを使用する。そして、第1転舵制御系統あるいは第2転舵制御系統の何れか一方でも異常が検出された場合には、操舵反力制御を中止して操舵反力用電動モータ13の駆動を禁止する。
以上説明した第2実施形態の転舵制御によれば、第1実施形態と同様に、車速Vが第1基準速度V1に達するまでのあいだは、転舵用電動モータ24(25)の駆動が停止される。従って、転舵輪FW1,FW2の転舵が行われないようになる。
そして、車速Vが第1基準速度V1にまで上昇すると、目標転舵テーブルを参照してその時点における実操舵角θに対応する目標転舵角δ*を算出し、その目標転舵角δ*と実転舵角δとの角度差を転舵角補正量Δδとして算出記憶し、それ以降、車速Vが第2基準速度V2にまで低下するまでのあいだ、目標転舵角δ*から転舵角補正量Δδを減算した値を補正目標転舵角δ*cとしている。つまり、目標転舵テーブルを参照して得た目標転舵角δ*を、車速Vが第1基準速度V1に到達した時点における転舵角度差分だけオフセットする。従って、車速Vが第1基準速度V1に到達したときに、実操舵角θに対応する目標転舵角δ*と実転舵角δとの間に大きな角度差が生じていても、転舵制御上においては角度差がない状態となっている。
このため、車速Vが第1基準速度V1にまで上昇した後、ハンドル操作に応じて転舵輪FW1,FW2の向きを変える転舵制御に切り替えても、転舵輪FW1,FW2が急激に転舵されてしまうといった不具合を生じない。また、第1基準速度V1を一方の転舵制御系統のみにより必要ラック軸力が得られる最小速度Vminよりも大きな値に設定しているため、第1基準速度V1を越えた後になってから転舵輪FW1,FW2が急激に転舵されてしまうといった不具合も防止できる。
また、車速Vが第2基準速度V2にまで低下したときには、その時点における実転舵角δを補正目標転舵角δ*c(固定補正目標転舵角δ*)に設定し、その後は、車速Vが第1基準速度V1に上昇するまでその補正目標転舵角δ*cを維持するため、転舵用電動モータ24(25)への通電が行われなくなり、転舵輪FW1,FW2の転舵動作を禁止する。従って、転舵禁止状態と操舵角θに基づく転舵制御状態とがハンチングしてしまうことがなく、安定した制御動作が得られる。
以上、本実施形態の車両の操舵装置について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、車速Vが第1基準速度V1に到達するまでは、目標転舵角δ*を固定して制御したが、その間は転舵制御自体を行わないようにしてもよい。あるいは、車速が所定車速に到達するまでは、補正を行わない通常の制御(異常が検出されていないときの制御)を行い、所定速度に到達したときに操舵角の補正、あるいは目標転舵角の補正を行う制御に切り替えるようにしてもよい。
また、本実施形態においては2つの転舵用電気アクチュエータを同時に作動させて転舵輪を転舵するシステムについて説明したが、3つ以上の転舵用電気アクチュエータを同時に作動させて転舵輪を転舵するシステムにも適用できるものである。
尚、本実施形態の第1、第2転舵用ECU34,35は、本発明における転舵制御手段、異常検出手段、異常時転舵制御手段、操舵角補正量算出手段、操舵角補正手段、転舵角補正量算出手段、転舵角補正手段、駆動禁止手段、制御則記憶手段に相当する構成を備える。
転舵制御手段は、第1実施形態において補正操舵角θc=0として行う第1転舵用ECU34のステップS17〜S20の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS47〜S50の処理に相当し、第2実施形態においては、転舵角補正量Δδ=0として行う第1転舵用ECU34のステップS117〜S119の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS147〜S149の処理に相当する。
異常検出手段は、第1転舵用ECU34のステップS12の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS42の処理に相当する。
異常時転舵制御手段における操舵角補正量算出手段は、第1転舵用ECU34のステップS22,S23の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS52〜S53の処理に相当する。
異常時転舵制御手段における操舵角補正手段は、第1転舵用ECU34のステップS17の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS47の処理に相当する。
異常時転舵制御手段における転舵角補正量算出手段は、第1転舵用ECU34のステップS22,S123の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS52,S153の処理に相当する。
異常時転舵制御手段における転舵角補正手段は、第1転舵用ECU34のステップS118の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS148の処理に相当する。
異常時転舵制御手段における駆動禁止手段は、第1実施形態における第1転舵用ECU34のステップS22,S25,S28の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS52,S55,S58の処理に相当し、第2実施形態における第1転舵用ECU34のステップS22,S125,128の処理、および、第2転舵用ECU35のステップS52,S155,S158の処理に相当する。
また、本発明の制御則記憶手段は、本実施形態における目標転舵角テーブルを記憶した第1,第2転舵用ECU34,35のROMに相当する。
FW1,FW2…前輪、10…操舵操作装置、11…操舵ハンドル、13…操舵反力用電動モータ、20…転舵装置、21…転舵軸、24,25…転舵用電動モータ(転舵用電気アクチュエータ)、31…操舵角センサ(操舵角検出手段)、32…転舵角センサ(転舵角検出手段)、33…操舵反力用ECU、34…第1転舵用ECU、35…第2転舵用ECU、39…車速センサ(車速検出手段)。