ところで、上記第3世代、あるいは第1世代(軸受とハブとが別体のタイプ)、第2世代(軸受外輪とナックル取付用フランジとを一体化したタイプ)の駆動輪用ハブユニットにおいては、スティックスリップ騒音の発生が問題となっている。
一例として、図12の駆動輪用ハブユニット100を用いて説明する。等速ジョイントアウタ部材101には、ドライブシャフト(図略)から駆動トルクが伝達される。当該駆動トルクにより、ステム部105は、軸周りに回転する。前述したように、ステム部105外周面と筒部106内周面とは、セレーション区間107において、セレーション結合されている。当該セレーション区間107を介して、ステム部105から筒部106つまりハブ102に、駆動トルクが伝達される。
ここで、ステム部105外周面と筒部106内周面との間には、上記セレーション区間107の他、セレーション加工されていないフリー区間109が配置されている。フリー区間109は、セレーション区間107の車幅方向内側に配置されている。
セレーション区間107においては、ステム部105外周面と筒部106内周面とが相対的に滑ることなく、駆動トルクを良好に伝達する。これに対して、フリー区間109においては、ステム部105外周面と筒部106内周面とが相対的に滑ってしまう。このため、セレーション区間107とフリー区間109との間に、相対捩れが発生してしまう。
ここで、フリー区間109外径側においては、軸受103の内輪103aが、ハブ102と等速ジョイントアウタ部材101との間に、車幅方向両側から挟持されている。詳しく説明すると、内輪103aは、ハブ102の筒部106の車幅方向内端106aと、等速ジョイントアウタ部材101のステム部105根元周囲の段差105aとの間に、挟持されている。
このため、セレーション区間107とフリー区間109との間に、相対捩れが発生すると、当該相対捩れにより、段差105aと、内輪103aの車幅方向内端面103bと、の圧接部分が、相対的に滑ってしまう。そして、当該滑りにより、例えば「カッチン」というような、スティックスリップ騒音が発生してしまう。
特許文献1に記載の駆動輪用ハブユニット100によると、ステム部105の車幅方向外端には、セレーション区間107に加えて、摩擦継手104も配置されている。このため、摩擦継手104が配置されていない一般的な駆動輪用ハブユニットと比較して、車幅方向外端部分におけるステム部105と筒部106との締結力が、より強固になる。したがって、セレーション区間107とフリー区間109との間の相対捩れの捩れ角が、一層大きくなる。すなわち、一般的な駆動輪用ハブユニットよりも、却ってスティックスリップ騒音が発生しやすくなる。
また、特許文献2には、第3.5世代(第4世代と比較して、ハブユニットとドライブシャフトとの機能が分離されているタイプ)の駆動輪用ハブユニットが開示されている。図13に、特許文献2に記載の駆動輪用ハブユニット(特許文献2の[図2]に対応)の軸方向断面図を示す。なお、図12と対応する部位については、同じ符号で示す。
図13に示すように、軸受103の内輪103aは、ハブ102の筒部106外周面に外嵌されている。筒部106は、内輪103aの車幅方向内端面103bから、さらに車幅方向内側に突出している。当該突出部分が外径方向に湾曲されることにより、加締部112が形成されている。内輪103aの車幅方向内端面103bは、当該加締部112により、固定されている。また、筒部106における車幅方向内端付近には、円筒部111が形成されている。一方、ステム部105の根元付近には、円柱部110が形成されている。円筒部111は円柱部110に、所定の締め代を確保した状態で、外嵌されている。円柱部110の外周面には、グリース保持溝110aが螺旋状に周設されている。
特許文献2に記載の駆動輪用ハブユニット100によると、円筒部111が円柱部110に、隙間無く当接している。このため、円筒部111と円柱部110との間に隙間を設ける場合と比較して、円筒部111と円柱部110との衝突による異音発生を、抑制することができる。また、円筒部111内周面と円柱部110外周面との当接界面には、グリース保持溝110aから、グリースが供給されている。このため、当接界面がスリップする際の異音の発生を抑制することができる。
しかしながら、図13の駆動輪用ハブユニット100の場合、内輪103aの車幅方向内端面103bが、等速ジョイントアウタ部材101に接触するおそれはない。このため、本来的に、図12で説明した現象にもとづくスティックスリップ騒音は発生しない。また、仮に、特許文献2に記載の円筒部111および円柱部110を、第1世代〜第3世代の駆動輪用ハブユニットに転用したとしても、例えば車両急発進時等に発生する駆動トルクは、非常に大きいものであるため、単に円筒部111を円柱部110に外嵌した程度では、スティックスリップ騒音の発生は回避できない。加えて、円筒部111内周面と円柱部110外周面との当接界面には、グリース保持溝110aから、グリースが供給されている。このため、駆動トルクの伝達には非常に不利である。
本発明の駆動輪用ハブユニットは、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、スティックスリップ騒音を抑制可能な駆動輪用ハブユニットを提供することを目的とする。
(1)上記課題を解決するため、本発明の駆動輪用ハブユニット(以下、適宜、「ハブユニット」と略称する。)は、車幅方向内側に開口したカップ部と、該カップ部の底壁外面の略中央から車幅方向外側に突設されるステム部と、該カップ部の底壁外面における該ステム部の根元周囲に配置されるジョイント側押圧部と、を有し、ドライブシャフトからの駆動トルクにより軸回りに回転する等速ジョイントアウタ部材と、車幅方向に延在し該ステム部がトルク伝達可能に挿通される筒部と、該筒部の外周面に配置されるハブ側押圧部と、を有し、駆動輪のホイールが装着されるハブと、該筒部の外周面に配置され該ジョイント側押圧部から押圧される内側受圧部と該ハブ側押圧部から押圧される外側受圧部とを持つ内輪と、車体側部材に固定され該内輪を回転可能に支持する外輪と、を有する軸受と、を備え、軸力により、該ジョイント側押圧部と該ハブ側押圧部との間に、該内輪の該内側受圧部から該外側受圧部までの部分を挟み込んで、該内輪を固定する駆動輪用ハブユニットであって、さらに、前記ステム部外周面と前記筒部内周面との間における、前記ジョイント側押圧部と前記内側受圧部との圧接部分近傍には、前記軸力を用いたくさび効果により、該ステム部と該筒部とを連結する摩擦継手が介装されていることを特徴とする(請求項1に対応)。ここで、本明細書における「くさび効果」とは、軸力が、摩擦継手の摩擦面の角度分に応じて、摩擦面に垂直な方向に、増力されることをいう。
ステム部と筒部との間には、トルク伝達性に優れた高トルク伝達区間(例えば、前出図12のセレーション区間107)と、当該高トルク伝達区間よりもトルク伝達性に劣る低トルク伝達区間(例えば、前出図12のフリー区間109)と、が存在する。
ここで、ドライブシャフトの駆動トルクを駆動輪に良好に伝達するというハブユニットの機能に鑑みれば、本来、低トルク伝達区間は存在しない方が好ましい。しかしながら、トルク伝達性を向上させるには、ステム部外周面と筒部内周面との間に、例えばセレーション加工やスプライン加工など、何らかの加工を施す必要がある。ところが、加工工具と加工物との干渉のため、ステム部根元付近(車幅方向内端付近)まで、セレーション加工やスプライン加工を施すのは、困難である。したがって、ステム部根元付近に、高トルク伝達区間を設けるのは困難である。ここで、ステム部根元付近には、等速ジョイントアウタ部材のジョイント側押圧部と、軸受の内側受圧部と、の圧接部分が存在している。このため、前述したように、低トルク伝達区間と高トルク伝達区間との相対捩れにより、当該圧接部分からスティックスリップ騒音が発生してしまう。
この点、本発明のハブユニットによると、ステム部外周面と筒部内周面との間における、ジョイント側押圧部と内側受圧部との圧接部分近傍に、摩擦継手が介装されている。言い換えると、ステム部外周面と筒部内周面との間における車幅方向内端付近に、摩擦継手が介装されている。
摩擦継手は、ステム部と筒部との車幅方向内端付近を、強固に連結しているため、ステム部と筒部との車幅方向内端付近のトルク伝達性を向上させることができる。したがって、本発明のハブユニットによると、高トルク伝達区間と、ステム部と筒部との車幅方向内端付近と、の間に、相対捩れが発生しにくくなる。このため、スティックスリップ騒音を抑制することができる。
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記摩擦継手は、外周にテーパ面を持つ内径部と、内周に該テーパ面に圧接するテーパ面を持つ外径部と、を有し、(a)該内径部が前記ステム部外周面に一体的に形成されていること、(b)該外径部が前記筒部内周面に一体的に形成されていること、という二つの要件のうち、少なくとも一つを満たす構成とする方がよい(請求項2に対応)。
つまり、本構成は、内径部とステム部、および外径部と筒部、のうち、少なくとも一方を一体化するものである。本構成によると、ハブユニットの部品点数が少なくなる。このため、ハブユニットの組み付け工数の削減、ハブユニットの製造コストの削減を図ることができる。
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記摩擦継手は、車幅方向に複列配置されている構成とする方がよい(請求項3に対応)。本構成によると、車幅方向の比較的広い区間において、トルク伝達性を向上させることができる。このため、さらにスティックスリップ騒音を抑制しやすくなる。
(4)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記外輪は、二列の転走面を内周に有し、前記内輪は、二列の該転走面のうち車幅方向内側の該転走面に対向する転走面を外周に持つ内側分割体と、二列の該転走面のうち車幅方向外側の該転走面に対向する転走面を外周に持つ外側分割体と、を有し、前記内側受圧部は該内側分割体の車幅方向内端に、前記外側受圧部は該外側分割体の車幅方向外端に、それぞれ配置されている構成とする方がよい(請求項4に対応)。本発明のハブユニットは、本構成のように、第1世代、第2世代のハブユニットとして具現化するのに好適である。
(5)好ましくは、上記(1)ないし(3)のいずれかの構成において、前記外輪は、二列の転走面を内周に有し、前記内輪は、二列の該転走面のうち車幅方向内側の該転走面に対向する転走面を外周に持つ内側分割体と、二列の該転走面のうち車幅方向外側の該転走面に対向する転走面を外周に持つ外側分割体と、を有し、該外側分割体は、前記筒部の外周面に一体的に形成されており、前記内側受圧部は該内側分割体の車幅方向内端に、前記外側受圧部は該内側分割体の車幅方向外端に、それぞれ配置されている構成とする方がよい(請求項5に対応)。本発明のハブユニットは、本構成のように、第3世代のハブユニットとして具現化するのに好適である。
本発明の駆動輪用ハブユニットによると、スティックスリップ騒音を抑制することができる。
以下、本発明の駆動輪用ハブユニットの実施の形態について説明する。
<第一実施形態>
まず、本実施形態のハブユニットの配置および構成について説明する。図1に、本実施形態のハブユニットが組み付けられた駆動輪の斜視部分断面図を示す。図2に、同ハブユニットの斜視部分断面図(図1の部分拡大図)を示す。図3に、同ハブユニットの斜視分解図(図2の分解図)を示す。図4に、同ハブユニットの軸方向断面図を示す。
なお、以下に示す図においては、車両後方から前方を見た場合を基準に、方位(左右)を定義する。また、図2以降においては、説明の便宜上、駆動輪、ドライブシャフト、ジョイントブーツを省略して示す。また、図3以降においては、ナックルを省略して示す。また、図4に示すのは、軸線(一点鎖線)よりも上半分部分である。軸線よりも下半分部分は、ハブボルト装着部付近およびナックル装着部付近以外は、軸線に対して当該上半分部分と上下対称である。このため、下半分部分は図示しない。
図1〜図4に示すように、本実施形態のハブユニット1は、第2世代のハブユニットである。本実施形態のハブユニット1は、ドライブシャフト90と、駆動輪(詳しくは車両の左前輪)91と、の間に介装されている。エンジン(図略)からの駆動トルクは、ドライブシャフト90、ハブユニット1を介して、駆動輪91のホイール910に伝達される。ハブユニット1は、等速ジョイントアウタ部材2とハブ3と軸受4と摩擦継手5とを備えている。
等速ジョイントアウタ部材2は、金属製であって、カップ部20とステム部21とジョイント側押圧部22とを備えている。カップ部20は、右側(車幅方向内側)に開口している。カップ部20の内部には、等速ジョイントインナ部材(図略)が収容されている。ドライブシャフト90の左端(車幅方向外端)は、等速ジョイントインナ部材にスプライン結合されている。等速ジョイントインナ部材およびドライブシャフト90の左端は、熱可塑性エラストマ製であって蛇腹状のジョイントブーツ900に覆われている。カップ部20の底壁には、後述するステム部21の根元を中心として、同軸リング状の段差が、二段形成されている。このうち、小径の段差の左面には、内径部用押圧部200が配置されている。並びに、大径の段差の左面には、ジョイント側押圧部22が配置されている。なお、図3においては、内径部用押圧部200とジョイント側押圧部22とに、クロスハッチングを施して示す。
ステム部21は、カップ部20の底壁略中央から、片持ち梁状に、左側に向かって突設されている。ステム部21は丸棒状を呈している。ステム部21の左端(先端)外周面には、雄ねじ部210が配置されている。ステム部21外周面における、雄ねじ部210よりも右側には、雄スプライン部211が配置されている。ステム部21外周面における、雄スプライン部211からステム部21右端(根元)までの区間は、滑らかな段付き円筒外周面状を呈している。
ハブ3は、金属製であって、筒部30とフランジ部31とハブ側押圧部32とを備えている。筒部30は、円筒状を呈している。筒部30の右端開口縁には、リング状の段差が形成されている。当該段差の右面には、外径部用押圧部300が配置されている。外径部用押圧部300と前記内径部用押圧部200とは、左右方向(車幅方向)に向かい合っている。筒部30の外周面には、リング状の段差が形成されている。当該段差の右面には、ハブ側押圧部32が配置されている。ハブ側押圧部32と前記ジョイント側押圧部22とは、左右方向に向かい合っている。筒部30の内周側には、前記ステム部21が挿通されている。筒部30の左端開口からは、ステム部21の雄ねじ部210が突出している。雄ねじ部210には、ナット212が螺着されている。また、筒部30内周面における、左端から所定区間には、雌スプライン部301が配置されている。雌スプライン部301と前記雄スプライン部211とは、スプライン結合している。すなわち、雌スプライン部301および前記雄スプライン部211は、スプライン区間A(図4参照)を構成している。スプライン区間Aにおけるトルク伝達性は良好である。筒部30内周面における、雌スプライン部301から右端開口までの区間は、滑らかな円筒内周面状を呈している。当該区間および前記ステム部21の雄スプライン部211右側区間は、フリー区間B(図4参照)を構成している。フリー区間Bにおいては、ステム部21外周面と筒部30内周面とが、滑らかに接触している。このため、フリー区間Bは、スプライン区間Aよりも、トルク伝達性に劣る。
フランジ部31は、筒部30の左端外周面から、外径方向に延設されている。前記ハブ側押圧部32は、フランジ部31の基端付近に形成されている。フランジ部31には、ボルト挿通孔310が穿設されている。ボルト挿通孔310は、所定間隔ずつ離間して、周方向に合計五つ配置されている。ボルト挿通孔310には、ハブボルト311が右から左に挿通されている。ハブボルト311の根元外周面とボルト挿通孔310の内周面とは、スプライン結合されている。ハブボルト311の左端(先端)は、駆動輪91のディスクロータ911およびホイール910を貫通している。ハブボルト311の貫通端には、ナット312が螺着されている。すなわち、ハブボルト311およびナット312により、ホイール910およびディスクロータ911は、フランジ部31に固定されている。
軸受4は、いわゆる複列アンギュラ玉軸受であり、内輪40と外輪41と転動体42と保持器(図略)とシール43とを備えている。内輪40は、リング状であって、筒部30の外周面に外嵌されている。また、内輪40は、ジョイント側押圧部22とハブ側押圧部32との間に、左右両側から挟持固定されている。詳しく説明すると、内輪40は、共に金属製の内側分割体400と外側分割体401とを備えている。内側分割体400の外周面には、左右二列の転走面のうち、右側の転走面が形成されている。内側分割体400の右端面には、内側受圧部400aが配置されている。当該内側受圧部400aは、ジョイント側押圧部22により、右から左に向かって、押圧されている。外側分割体401の外周面には、左右二列の転走面のうち、左側の転走面が形成されている。外側分割体401の左端面には、外側受圧部401aが配置されている。当該外側受圧部401aは、ハブ側押圧部32により、左から右に向かって、押圧されている。
外輪41は、金属製であって、リング状を呈している。外輪41は、内輪40の外径側に配置されている。外輪41の外周面からは、外径方向に取付部46が突設されている。取付部46は、周方向に所定間隔ずつ離間して、合計五つ配置されている。取付部46には、ボルト挿通孔460が穿設されている。一方、サスペンション装置の一部であるナックル92には、外輪固定孔920が穿設されている。ナックル92は、本発明の車体側部材に含まれる。外輪固定孔920には、外輪41における右側部分が収容されている。外輪固定孔920の周囲には、周方向に所定間隔ずつ離間して、合計五つのボルト螺着凹部921が凹設されている。合計五組の前記ボルト挿通孔460とボルト螺着凹部921とは、それぞれ左右方向に一列に並んでいる。これら一列に並んだボルト挿通孔460およびボルト螺着凹部921には、左側からスプライン付きのボルト45が挿入される。ボルト45は、ボルト挿通孔460を貫通し、ボルト螺着凹部921に螺着される。このように、合計五本のボルト45を介して、外輪41は、右側部分が外輪固定孔920に収容された状態で、ナックル92に固定されている。外輪41の内周面には、左右二列の転走面が形成されている。このうち右側の転走面は、内側分割体400の転走面に対向している。また、左側の転走面は、外側分割体401の転走面に対向している。径方向に対向するこれら二列の転走面同士の間には、各々、多数の転動体42が介装されている。転動体42は、金属製のボールである。転動体42は、樹脂製の保持器により保持されている。転動体42を介して、外輪41は、内輪40を回転可能に支持している。内輪40と外輪41との隙間は、左右両側からリング状であって芯金入りゴム製のシール43により封止されている。封止された当該隙間には、グリース(図略)が封入されている。
摩擦継手5は、ステム部21根元外周面と筒部30の右端開口内周面との間に、介装されている。また、摩擦継手5は、内径部用押圧部200と外径部用押圧部300との間に、左右両側から挟持固定されている。摩擦継手5は、共に金属製の内径部50と外径部51とを備えている。内径部50は、外周にテーパ面500(右から左に向かって先細るテーパ面)を持つリング状を呈している。内径部50は、内径部用押圧部200により、右から左に向かって、押圧されている。外径部51は、内周にテーパ面510(内径部50のテーパ面500に略平行のテーパ面)を持つリング状を呈している。外径部51は、外径部用押圧部300により、左から右に向かって、押圧されている。このため、双方のテーパ面500、510同士は、圧接している。
次に、本実施形態のハブユニット1の内輪40に予圧を付与する際の動きについて説明する。予圧を付与する際は、図4に白抜き矢印a1で示すように、ナット212を雄ねじ部210に対して締め付ける。締め付けられたナット212は、回転しながら、図4中、白抜き矢印a2で示すように、右側に徐々に移動する。このため、筒部30に対してステム部21が徐々に深く挿入される。ステム部21の挿入量が大きくなると、その分、ハブ側押圧部32とジョイント側押圧部22との間隔が狭まる。ここで、ハブ側押圧部32とジョイント側押圧部22との間には、内輪40が介装されている。このため、内側分割体400の内側受圧部400aは、白抜き矢印a3で示すように、ジョイント側押圧部22により、右から左に向かって、押圧される。同様に、外側分割体401の外側受圧部401aは、白抜き矢印a4で示すように、ハブ側押圧部32により、左から右に向かって、押圧される。したがって、内側分割体400と外側分割体401とは次第に接近し、所定の圧力を確保した状態で、圧接保持されることになる。すなわち、内側分割体400および外側分割体401は、マイナスクリアランスで固定されることになる。このようにして、内輪40に予圧が付与される。
ところで、上記ナット212締結により発生する軸力は、内輪40に対する予圧付与の他に、摩擦継手5の締結にも用いられる。図5に、図4の矩形枠V内の拡大図を示す。前出図4に示すように、ナット212を雄ねじ部210に対して締め付けると、筒部30に対してステム部21が徐々に深く挿入される。このため、外径部用押圧部300と内径部用押圧部200との間隔が狭まる。ここで、外径部用押圧部300と内径部用押圧部200との間には、摩擦継手5が介装されている。このため、内径部50は、白抜き矢印a5で示すように、内径部用押圧部200により、右から左に向かって、押圧される。同様に、外径部51は、白抜き矢印a6で示すように、外径部用押圧部300により、左から右に向かって、押圧される。したがって、互いのテーパ面500、510同士が摺接しながら、内径部50は、外径部51の内径側に、相対的に圧入される。
この際、外径部51から内径部50に加わる軸力Fは、テーパ面510、500同士の圧接により、テーパ面510に垂直な方向に、分力F1を発生する。分力F1は、軸力Fに対して、テーパ面510の角度分だけ増力されている。増力された当該分力F1により、テーパ面510はテーパ面500に、強く押しつけられる。同様に、分力F1の反力F1’により、テーパ面500はテーパ面510に、強く押しつけられる。ここで、テーパ面510、500間の摩擦力は、垂直効力に比例している。このため、テーパ面510、500間の摩擦力も大きくなる。したがって、内径部50と外径部51、すなわちステム部21根元と筒部30右端とが、強固に連結される。
次に、本実施形態のハブユニット1に大きな駆動トルクが作用した場合の動きについて説明する。例えば車両急発進時など、大きな駆動トルクがドライブシャフト90(前出図1参照)に加わる場合、スプライン区間A(前出図4参照)においては、ステム部21から筒部30に、良好に当該駆動トルクを伝達することができる。
これに対して、フリー区間Bにおいては、ステム部21から筒部30に、良好に当該駆動トルクを伝達することができない。しかしながら、フリー区間Bの右端には、摩擦継手5が配置されている。そして、摩擦継手5により、ステム部21根元と筒部30右端とは、強固に連結されている。このため、フリー区間B内であるにもかかわらず、ステム部21根元と筒部30右端との間で、良好に駆動トルクを伝達することができる。
次に、本実施形態のハブユニット1の作用効果について説明する。本実施形態のハブユニット1によると、ステム部21外周面と筒部30内周面との間における、ジョイント側押圧部22と内側受圧部400aとの圧接部分(前出図5の楕円C部分)近傍に、摩擦継手5が介装されている。言い換えると、ステム部21外周面と筒部30内周面との間における右端付近に、摩擦継手5が介装されている。
摩擦継手5は、ステム部21と筒部30との右端付近を、強固に連結している。このため、本来フリー区間B(前出図4参照)内であるにもかかわらず、ステム部21と筒部30との右端付近のトルク伝達性を向上させることができる。したがって、本実施形態のハブユニット1によると、スプライン区間Aと、ステム部21と筒部30との右端付近と、の間に、相対捩れが発生しにくくなる。このため、ジョイント側押圧部22と内側受圧部400aとの圧接部分から、スティックスリップ騒音が発生するのを、抑制することができる。
なお、この点、前出図13の特許文献2に記載のハブユニット100の場合、グリースにより、円筒部111内周面と円柱部110外周面とのトルク伝達性は、却って低下する(滑りやすくなる)。したがって、特許文献2には、本実施形態に対して、反対方向の技術が教示されていると言える。
また、前出図12の特許文献1に記載のハブユニット100の場合、単一の加締部108のみにより、大きな軸力を加えるのは困難である。並びに、軸力の微調整も困難である。このため、単一の加締部108により内輪103aの予圧管理と、ステム部105と筒部106との連結と、を両立するのは困難である。
これに対して、本実施形態のハブユニット1によると、前出図4に示すように、ナット212を回転させることにより、軸力を加えている。このため、比較的大きな軸力を、内輪40、および摩擦継手5に加えやすい。また、ナット212は、雄ねじ部210に沿って、螺動している。このため、ナット212は、右方向に微量ずつ移動する。したがって、軸力の微調整が容易である。このように、本実施形態のハブユニット1によると、螺合機構により軸力を加えているため、内輪40の予圧管理と、ステム部21と筒部30との右端付近の連結と、を容易に両立することができる。
<第二実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、内径部がステム部外周面に、外径部が筒部内周面に、それぞれ一体的に形成されていることである。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
図6に、本実施形態のハブユニットの軸方向部分拡大断面図(前出図5の矩形枠V内に相当する部分)を示す。なお、図5と対応する部位については、同じ符号で示す。図6に示すように、摩擦継手6は、内径部60と外径部61とを備えている。
内径部60は、ステム部21右端(根元)の外周面に、一体的に形成されている。内径部60は、外周にテーパ面600(右から左に向かって先細るテーパ面)を持つリング状を呈している。外径部61(説明の便宜上、クロスハッチングを施す。)は、筒部30の右端開口の内周面に、一体的に形成されている。外径部61は、内周にテーパ面610(内径部60のテーパ面600に略平行のテーパ面)を持つリング状を呈している。双方のテーパ面600、610同士は、軸力を用いたくさび効果により、圧接している。このため、ステム部21根元と筒部30右端とは、強固に連結されている。
本実施形態のハブユニットと第一実施形態のハブユニットとは、構成が共通する部分については、同様の作用効果を有する。また、前出図12の特許文献1に記載のハブユニット100の場合、摩擦継手104を構成する外径部と内径部のうち、内径部と加締部108とを一体化するのは、極めて困難である。その理由は、加締部108が、ステム部105を塑性変形させることにより、形成されているからである。すなわち、加締部108と内径部とを一体化しようとすると、加締部108形成時の塑性変形が、内径部のテーパ面の角度、あるいは面精度などに影響を与える可能性が高いからである。
これに対して、本実施形態のハブユニットによると、ナット212(前出図4参照)により軸力が加えられているので、加締部108は不要である。このため、内径部60をステム部21外周面に、一体的に形成することができる。並びに、外径部61を筒部30内周面に、一体的に形成することができる。したがって、部品点数が少なくて済む。
<第三実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、内径部と外径部との相対的配置が、左右逆になっている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図7に、本実施形態のハブユニットの軸方向部分拡大断面図(前出図5の矩形枠V内に相当する部分)を示す。なお、図5と対応する部位については、同じ符号で示す。
図7に示すように、摩擦継手7は、ステム部21根元外周面と筒部30の右端開口内周面との間に、介装されている。また、摩擦継手7は、内径部用押圧部302と外径部用押圧部202との間に、左右両側から挟持固定されている。摩擦継手7は、共に金属製の内径部70と外径部71とを備えている。内径部70は、外周にテーパ面700(左から右に向かって先細るテーパ面)を持つリング状を呈している。内径部70は、内径部用押圧部302により、左から右に向かって、押圧されている。外径部71は、内周にテーパ面710(内径部70のテーパ面700に略平行のテーパ面)を持つリング状を呈している。外径部71は、外径部用押圧部202により、右から左に向かって、押圧されている。このため、双方のテーパ面700、710同士は、圧接している。
内径部70から外径部71に加わる軸力fは、テーパ面700に垂直な方向に、分力f1を発生する。分力f1により、テーパ面700はテーパ面710に、強く押しつけられる。同様に、分力f1の反力f1’により、テーパ面710はテーパ面700に、強く押しつけられる。このため、内径部70と外径部71、すなわちステム部21根元と筒部30右端とが、強固に連結される。本実施形態のハブユニットと第一実施形態のハブユニットとは、同様の作用効果を有する。
<第四実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、摩擦継手が左右二列に配置されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。図8に、本実施形態のハブユニットの軸方向部分拡大断面図(前出図5の矩形枠V内に相当する部分)を示す。なお、図5と対応する部位については、同じ符号で示す。
図8に示すように、摩擦継手8a、8bは、ステム部21根元外周面と筒部30の右端開口内周面との間に、介装されている。また、摩擦継手8a、8bは、外径部用押圧部300と内径部用押圧部200との間に、左右両側から挟持固定されている。
摩擦継手8a、8bは、共に前出図5の摩擦継手5同様の形状を呈している。すなわち、摩擦継手8aは、共に金属製の内径部80aと外径部81aとを備えている。内径部80aのテーパ面800aと、外径部81aのテーパ面810aとは、圧接している。摩擦継手8bは、共に金属製の内径部80bと外径部81bとを備えている。内径部80bのテーパ面800bと、外径部81bのテーパ面810bとは、圧接している。
本実施形態のハブユニットと第一実施形態のハブユニットとは、構成が共通する部分については、同様の作用効果を有する。また、本実施形態のハブユニットによると、摩擦継手8a、8bが左右二列に配置されている。このため、ステム部21根元と筒部30右端とを、より強固に連結することができる。したがって、ジョイント側押圧部22と内側受圧部400aとの圧接部分(楕円C部分)から発生するスティックスリップ騒音を、さらに抑制することができる。
<第五実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、本発明のハブユニットを、第2世代ではなく第3世代のハブユニットとして具現化した点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
図9に、本実施形態のハブユニットの軸方向断面図を示す。なお、図4と対応する部位については同じ符号で示す。図9に示すように、軸受4の内輪40は、内側分割体400と外側分割体402(説明の便宜上、点線で示す。)とを備えている。このうち、外側分割体402は、筒部30外周面に、一体的に形成されている。外側分割体402の右端には、段差状にハブ側押圧部33が形成されている。内側分割体400は、ハブ側押圧部33とジョイント側押圧部22との間に、挟持固定されている。当該挟持固定により、軸受4に所定の予圧が付与されている。
本実施形態のハブユニット1と第一実施形態のハブユニットとは、同様の作用効果を有する。すなわち、軸受4予圧用の軸力を利用した摩擦継手5のくさび効果により、ステム部21根元と筒部30右端とを、強固に連結することができる。このため、ジョイント側押圧部22と内側受圧部400aとの圧接部分から発生するスティックスリップ騒音を、抑制することができる。
<第六実施形態>
本実施形態と第一実施形態との相違点は、本発明のハブユニットを、第2世代ではなく第1世代のハブユニットとして具現化した点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
図10に、本実施形態のハブユニットの軸方向断面図を示す。なお、図4と対応する部位については同じ符号で示す。図10に示すように、外輪41の外周面には、金属製であってリング状の止め輪44が外嵌されている。また、外輪41は、ナックル92の外輪固定孔920に内嵌されている。止め輪44は、外輪固定孔920の右端開口縁に配置されている。止め輪44は、外輪41が外輪固定孔920から脱落するのを抑制している。
本実施形態のハブユニット1と第一実施形態のハブユニットとは、同様の作用効果を有する。すなわち、本実施形態のハブユニット1の場合、組み付け前に、既に軸受4の予圧調整は終了している。このため、ナット212の増し締めにより、軸受4の予圧を調整する必要はない。しかしながら、本実施形態のハブユニット1においても、内側受圧部400aとジョイント側押圧部22との間で、スティックスリップ騒音が発生する。このため、本実施形態のハブユニット1においても、第一実施形態のハブユニット同様に、軸力を用いた摩擦継手5のくさび効果により、スティックスリップ騒音を抑制することができる。
<その他>
以上、本発明の駆動輪用ハブユニットの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
例えば、上記実施形態においては、二部品構造の摩擦継手5、7、8a、8bや、連結対象部材と一体型の摩擦継手6を用いたが、例えば図11(a)に示すように、単一の内径部850と、一対の外径部851a、851bと、を有する三部品構造の摩擦継手85を用いてもよい。また、図11(b)に示すように、径方向に対向する内径部860、外径部861と、軸方向に対向するくさび部材862a、862bと、を有する四部品構造の摩擦継手86を用いてもよい。あるいは、これらの摩擦継手の少なくとも一部を、隣接部材と一体化してもよい。また、これらの摩擦継手を、軸方向に複数並べて配置してもよい。
また、摩擦継手5〜7、8a、8b、85、86におけるテーパ面(摩擦面)の角度は特に限定しない。内輪40の固定が可能な範囲で、適宜調整すればよい。また、摩擦継手8a、8bは、左右対称になるように配置してもよい。また、上記実施形態においてスプライン結合した各部位は、セレーション結合してもよい。また、上記実施形態においては、駆動輪として左前輪を例示したが、前輪駆動なら右前輪、後輪駆動なら左右後輪、全輪駆動なら全輪に、本発明のハブユニットを用いてもよい。また、軸受4の種類も特に限定しない。例えば、転動体として、円筒ころ、円錐ころ、球面ころなどを用いてもよい。
また、筒部30外周面と内側分割体400内周面との間を、トルク伝達性が高い方式(例えばスプライン結合、セレーション結合など)で結合してもよい(前出図4参照)。こうすると、さらに騒音の発生を抑制することができる。