JP2008157162A - エンジン始動装置 - Google Patents

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Abstract

【課題】モータ部の駆動力を受けて回転する駆動軸にヘリカルスプライン嵌合され、モータ駆動力は動力伝動するが、エンジン始動したときのエンジン駆動力は動力伝動しないよう構成した一方向回転式のクラッチ装置に設けられるクラッチローラ13について、通常の負荷トルクを超えるような過大な負荷がエンジン側から働いた場合の熱的影響を低減して耐久性の高いものにする。
【解決手段】クラッチローラ13を、ガス軟窒化法による窒化処理を施すことで、窒素を同時に侵入拡散させて、表面の混合相とその内部の拡散相とからなる化合物皮膜層を形成して熱的影響を低減して耐久性を向上する。
【選択図】図5

Description

本発明は、車両に搭載されるエンジン(内燃機関)を始動させるためのエンジン始動装置の技術分野に属するものである。
一般に、この種エンジン始動装置(スタータ)のなかには、図1〜3に示すように構成したものがある。つまりこのものでは、エンジン始動装置1を構成するモータ部(電動モータ)Mは、汎用のブラシ式直流モータが用いられており、モータ軸2の基端部は、筒状のヨーク3の基端側開口を塞ぐエンドカバー3aに回転自在に軸承されている一方、モータ軸2の先端部には、コンミテータ(整流子)4が一体的に外嵌されている。そして、前記コンミテータ4の外周には、リング状のホルダステー5が外嵌状に組み込まれており、該ホルダステー5は、ヨーク3の先端側開口部に内嵌状に組み込まれるように設定されている。
また6は、モータ部Mの先端側、つまり、ホルダステー5に隣接する状態で配される減速装置Dを構成する有底筒状のケース体であって、該ケース体6には、前記モータ軸2の先端2aが内装されている。さらに、ケース体6には、モータ軸先端2aに相対回転自在に外嵌する状態で駆動軸7の基端部が配されているとともに、モータ軸先端2aと同芯状に配され、モータ軸先端2aに噛合して、モータ軸2の回転に伴いケース体6内を周回り方向に回転する複数の遊星ギア8、これら複数の遊星ギア8に支軸9aを介して一体化されるリング状の支持プレート9が内装されている。そして、支持プレート9の内周面が駆動軸7に一体的に外嵌することで、遊星ギア8の周回り方向の回転が駆動軸7に連動連結するように設定されている。これによって、モータ部Mの駆動力は、減速された状態で駆動軸(ピニオン軸)7に動力伝動されるように設定されている。
そして、前記駆動軸7の先端部には、一方向回転式のクラッチ装置Cが配されるが、該クラッチ装置Cを構成する段差状筒体で構成されるクラッチアウタ10は、小径側筒内周面に形成されたヘリカルスプライン10aを駆動軸7の先端部外周面に刻設されたヘリカルスプライン7aに噛合させる状態で駆動軸7に外嵌組み込みされている。そして、駆動軸7とクラッチアウタ10とのあいだに駆動軸7側から所定の回転方向の相対回転が生じたとき、クラッチアウタ10は駆動軸ヘリカルスプライン7aに沿って回転移動して、駆動軸7の基端側に位置する非作用位置(図1における上半部に図示される位置)から、先端側の作用位置(図1における下半部に図示される位置)に移動するように設定されている。さらに、前記クラッチアウタ10の先端側の大径側筒内には、先端外周部にエンジン側のリングギア11aに噛合するピニオンギア11が形成されたクラッチインナ12が連結されるが、該クラッチインナ12は、クラッチアウタ10に対して軸芯方向への移動は一体となるように構成されている。
13はクラッチアウタ10とクラッチインナ12とのあいだに介装されるクラッチローラ、14はクラッチローラ13をクラッチアウタ壁10b側に付勢する弾機であって、該クラッチローラ13はクラッチアウタ10の内周面に凹設されるローラ室10aに収容されているが、ローラ室10aは、図2、3において、時計回り側の回転側端部10bではクラッチローラ13が自由回転できるようクラッチインナ12とクラッチアウタ10との対向間隔が大きくなっているが、この対向間隔は、反時計回り側の噛合側端部10cに至るほど狭くなっている。そして、クラッチローラ13は、モータ部Mが停止しているときには、弾機14の付勢力を受けて図2、図3(A)に示すように両端部10b、10cの中間位置に位置し、この状態ではクラッチローラ13のクラッチアウタ10とクラッチインナ12とに対する噛み合いはなく動力伝動がなされないが、モータ部Mの駆動を受けてクラッチアウタ10が図2に示す矢印のように時計回り方向に回動した場合、クラッチローラ13は図3(B)に示すように噛合側端部10cに移動し、これによって噛み合い状態になってクラッチアウタ10の回転力がクラッチローラ13を介してクラッチインナ12に動力伝動され、エンジン始動が実行されるようになっている。
そうしてエンジン始動がなされると、クラッチアウタ10の回転よりもクラッチインナ12の回転の方が速くなるオーバーラン状態になり、この結果、クラッチアウタ10とクラッチインナ12とは、図3(A)に示すようにクラッチインナ12がクラッチアウタ10に対し反時計回り(矢印)方向に相対回転する状態になってクラッチローラ13は回転側端部10bに移動してクラッチローラ13が自由回転をし、これによってエンジン駆動力をクラッチインナ12からクラッチアウタ10側には動力伝動しないワンウエイクラッチとして機能するように構成しているものが知られている(例えば特許文献1、2)。
実公昭59−26107号公報 実開平5−42675号公報
ところでこのような始動装置において、エンジンの始動作動時、エンジンの不正着火等の不正作動が要因となってエンジン側のリングギア11aが異常な回転をし、これによってピニオンギア11から駆動軸7に対して衝撃トルクが印加されることがあり、この状態になったとき、クラッチ装置Cは、通常の負荷トルクを超えるような過大な負荷がエンジン側から働くことになって図3(B)に示すようにクラッチローラ13は噛合側部位10cに至ることになる。そしてこの状態で、前記衝撃トルクが大きく、これがクラッチローラ13の最大の法線力を超えるような異常負荷であると、クラッチローラ13は、クラッチインナ12に対して噛合状態のまま滑ることになり、この滑り現象によって発生する摩擦熱によって高温状態になり、このため特にクラッチローラ13の軟化13aを誘引し、図4(A)に示すように軟化した組織が剪断応力を受けて塑性流動して引き伸ばされた部分13bが発生し、この引き伸ばされた部分13bが素材の延性限界を超えると、図4(B)に示すように破断(剥離)13cすることになってクラッチローラ13が変形する。
そしてこのようにクラッチローラ13が変形すると、今度はエンジン始動時にクラッチローラ13の噛み合い代(重なり代)が確保できないことになってクラッチ装置Cが空転し、円滑なエンジン始動ができなくなるという問題があり、ここに本発明が解決すべき課題がある。
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、請求項1の発明は、モータ部の駆動力を受けて回転する駆動軸にヘリカルスプライン嵌合され、モータ駆動力は動力伝動するが、エンジン始動したときのエンジン駆動力は動力伝動しないよう構成した一方向回転式のクラッチ装置を備えて構成されるエンジン始動装置において、前記クラッチ装置を、クラッチインナと、クラッチアウタと、これらクラッチアウタおよびクラッチインナのあいだに介装されるクラッチローラと、該クラッチローラを付勢する弾機とを備えて構成すると共に、前記クラッチローラ、またはクラッチアウタおよびクラッチインナの表面に軟窒化処理を施すにあたり、軟窒化処理はガス軟窒化処理であることを特徴とするエンジン始動装置である。
請求項2の発明は、ガス軟窒化処理は、クラッチローラに形成されていることを特徴とする請求項1記載のエンジン始動装置である。
請求項3の発明は、クラッチインナのクラッチローラ当接面は、軸芯方向に長く延長されていることを特徴とする請求項1または2のエンジン始動装置である。
請求項1の発明とすることにより、クラッチローラと、該クラッチローラに摺接するクラッチアウタおよびクラッチインナとのあいだの摺接面の一方の表面が、Fe+3Nε(イプシロン)とFeC」の混合相、その内側に拡散相として「FeNγ’(ガンマプライム)」になって異質状態での接触となって安定化され、これによって耐磨耗性、耐疲労性に優れたものとなり、過大な負荷がエンジン側から働いたときの耐久性を向上できる。
請求項2の発明とすることにより、ガス軟窒化処理がクラッチローラでよいことになって簡単にできる。
請求項3の発明とすることにより、クラッチローラがクラッチインナに当接する面が軸心方向に長いことになって、クラッチインナの端面に面取りがあったりクラッチアウタの底面に抜きテーパがあったりしても、クラッチローラはこれら面取りや抜きテーパのない円周面に当接することになってクラッチローラに局部当たりが発生したりすることがなく、均一な力が作用し、クラッチの長寿命化を達成することができる。
つまり本発明の発明者は、前述したクラッチローラ13の変形が発熱によるものであることに着目し、
i.発熱量を低減する
ii.熱軟化に対する強度アップを計る
ことでクラッチローラの前記変形を防止できるのではないか、という対策をたて、これらについて鋭意検討をした。
まず発熱量について検討すると、発熱量Qは、
Q=μPV
ここで、μ:摩擦係数、P:荷重、V:速度である。
で与えられることから、接触面圧の低減と摩擦係数の低減とが対策として考えられるが、前者は機械的なことであるので取りあえず今回の開発テーマから外し、後者の摩擦抵抗の低減についてここでは検討した。
クラッチインナ12とクラッチローラ13との摩擦は金属−金属(鉄−鉄)間の摩擦である。通常状態では、クラッチインナ12とクラッチローラ13とのあいだにはグリス(潤滑材、クラッチグリス)が介在されているが、負荷が働くと、図5(A)に示すようにクラッチインナ12とクラッチローラ13とが直接接触して摺動することになり、この摺動部位において電子移動が発生して両者が凝着し、これを引き剥がす力が摩擦力となる。そこで摩擦係数を低減する対策としては、電子移動を起こさせないようにすればよく、そのため、摺動面に化学的に安定している物質を存在させることが有効な手段ということが提唱される。そこでクラッチ装置Cの摺動面の一方に安定な化合物皮膜を形成することが考えられ、この場合に、クラッチ装置Cとしては、クラッチローラ13はクラッチアウタ10とクラッチインナ12とにそれぞれ摺接することになるため、クラッチローラ13の表面に化合物皮膜を形成すれば、両者10、12の摺接部位での摩擦抵抗の低減が図れることになるが、その逆にクラッチアウタ10とクラッチインナ12との各クラッチローラ13に摺接する表面に化学皮膜を形成するようにしてもよい。
しかもこのものでは、クラッチインナ12のクラッチローラ13が当接する円周面12aが軸心方向モータ部M側に延長形成され、この延長端部がクラッチアウタ10の底面部10eに凹状に形成の取付け部10fに嵌合組み込みされる構成になっていて、クラッチローラ13は、クラッチインナ12に対しては円周面12aに当接するようになっており、これによって、クラッチインナ端面部に面取りがあったりクラッチアウタ底面部10eに抜きテーパがあったりしても、クラッチローラ13はこれら面取りや抜きテーパのない円周面に当接することになってクラッチローラ13に局部当たりが発生したりすることがなく、均一な力が作用し、クラッチの長寿命化を達成することができる。
そしてこのような化合物皮膜を形成する場合に、鉄との結合が強固である窒素があげられ、そのため化合物皮膜は、窒化処理をすることで容易に形成することができ、このように窒化処理としてはガス窒化法(が例示される。
本実施の形態では、クラッチローラ13は軸受鋼(例えばSUJ2)で構成され、表面がガス軟窒化法による窒化処理が施されている。この処理法は、浸炭性ガスまたは窒素ガス雰囲気中にアンモニア(NH)ガスを30〜50%添加し、550〜600℃の温度雰囲気で30分〜5時間加熱保持し、窒素と炭素を同時に侵入拡散させ、表面に炭窒化物を形成させる処理法であり、この処理によって、クラッチローラ13の表面には0.7〜0.8mmの窒化相の形成が確認されたが、窒化相は、表面に鉄を主成分とするε(Fe3N)およびFeCの混合相(以下「外相」という)が約14μmの厚さで形成され、その内部に拡散相としてν’(FeN)相(以下「内相」という)が約4μmの厚さで形成されていることが確認された。そしてその表面硬度は、窒化処理前はHv760であったものがHv700〜800と硬化が確認された。
このようにして窒化処理されたクラッチローラ13を用いて実機テストを20回繰り返した後のものを観測したが、クラッチローラ13としては、焼入れを行ったものを窒化処理したもの(試料1)と、焼入れをせず窒化処理したもの(試料2)とを用意し、これらについて前記実機テストを行った。ブランクとして、焼入れをしただけのクラッチローラについてもテストを行った。
テスト結果として、ブランクのものは、表層が熱影響により組織変化し、塑性変形や剥離をしているのが確認され、剥離は十数μm程度で発生していた。これに対し、試料1、2の両者とも、外相は磨耗して消失していたが、内相は剥離せず、殆んどそのまま残っていた。そしてクラッチローラ自体の熱的影響は殆んど観測されず、そのまま継続しての使用が可能であった。さらに試料1、2をよく観測したところ、試料2のものが試料1よりも内相が厚く残っており、この結果、焼入れしたものを焼戻した後、窒化処理をしたものの方が耐久性に優れていることが確認された。
エンジン始動装置の一部断面正面図である。 クラッチ装置の断面図である。 (A)(B)はクランキング時とワンウエイクラッチ作動時とを示すクラッチ装置の要部拡大断面図である。 (A)(B)はクラッチローラが変形するメカニズムを示す説明図である。 (A)(B)は鉄同志の摩擦のメカニズム、鉄と窒化処理鉄との摩擦のメカニズムを示す説明図である。
符号の説明
1 エンジン始動装置
10 クラッチアウタ
12 クラッチインナ
13 クラッチローラ
14 弾機

Claims (3)

  1. モータ部の駆動力を受けて回転する駆動軸にヘリカルスプライン嵌合され、モータ駆動力は動力伝動するが、エンジン始動したときのエンジン駆動力は動力伝動しないよう構成した一方向回転式のクラッチ装置を備えて構成されるエンジン始動装置において、
    前記クラッチ装置を、クラッチインナと、クラッチアウタと、これらクラッチアウタおよびクラッチインナのあいだに介装されるクラッチローラと、該クラッチローラを付勢する弾機とを備えて構成すると共に、
    前記クラッチローラ、またはクラッチアウタおよびクラッチインナの表面に軟窒化処理を施すにあたり、
    軟窒化処理はガス軟窒化処理であることを特徴とするエンジン始動装置。
  2. ガス軟窒化処理は、クラッチローラに形成されていることを特徴とする請求項1記載のエンジン始動装置。
  3. クラッチインナのクラッチローラ当接面は、軸芯方向に長く延長されていることを特徴とする請求項1または2のエンジン始動装置。
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