JP2008095898A - 一方向クラッチ及び一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置 - Google Patents

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弘樹 小俣
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Abstract

【課題】摩耗しにくく長寿命な一方向クラッチ及び一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を提供する。
【解決手段】ローラクラッチ内蔵型プーリ装置1は、スリーブ2,プーリ3,転がり軸受4,ローラクラッチ5を備える。ローラクラッチ5は、クラッチ内輪6,クラッチ外輪9,ローラ10を備える。クラッチ内輪6の外周面は複数の凹部7が形成されたカム面8とされ、クラッチ外輪9の内周面は円筒面17とされていて、凹部7によって前記両周面の間に径方向の幅が周方向の一方向に向かって狭くなる楔形の空間が複数形成されている。クラッチ内輪6は、窒化処理の後に680℃以上750℃以下の温度に加熱して焼入れしさらにサブゼロ処理を施した鋼で構成されている。ローラクラッチ5によりプーリ3とスリーブ2とを接続すると、プーリ3をスリーブ2に対して所定方向に相対回転させる回転力のみが、プーリ3からスリーブ2へ伝達される。
【選択図】図1

Description

本発明は、一方向クラッチ及び一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置に関する。
エンジンを駆動源として自動車に必要な発電を行うオルタネータには、一方向クラッチ内蔵型プーリ装置が使用されており(例えば特許文献1を参照)、一方向クラッチ内蔵型プーリ装置に組み込まれる一方向クラッチとしては、ローラクラッチが知られている。このローラクラッチにおいては、クラッチ内輪の外周面とクラッチ外輪の内周面との間に配された複数のローラが前記両周面の間に食い込み係合した場合には、クラッチ内輪とクラッチ外輪とが接続して回転力が伝達され(ロック状態)、ローラが前記両周面間で転動した場合には、クラッチ内輪とクラッチ外輪との間の回転力の伝達は行われない(オーバーラン状態)。
一方向クラッチは、クラッチ内輪又はクラッチ外輪に伝達される回転力の変動により、回転力を伝達するロック状態になったり、回転力の伝達を行なわないオーバーラン状態になったりするが、ローラクラッチの場合は、クラッチ内輪とクラッチ外輪とが僅かに相対回転した場合にも回転力の断接が行われるので(すなわちロック状態とオーバーラン状態とが切り替わるので)、オルタネータ用の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置に組み込む一方向クラッチとして好適である。
特開平8−61443号公報
しかしながら、オルタネータ用の一方向クラッチ内蔵型プーリ装置に組み込まれる一方向クラッチは、一般的な一方向クラッチよりも潤滑条件が厳しいという問題点を有していた。すなわち、ロック状態からオーバーラン状態に切り替わる瞬間(ローラの回転方向が逆転する瞬間)に、クラッチ内輪,クラッチ外輪とローラとの間に潤滑剤が引き込まれにくくなるので、十分な油膜の形成が困難となるという問題点を有していた。その結果、金属接触が生じやすいので、摩耗が発生しやすい。
耐摩耗性を向上させるために熱処理を施すことが考えられるが、通常クラッチ内輪は薄肉な部材であることから変形が生じやすいので、十分な耐摩耗性を付与するような熱処理を施すことができない場合があった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、微量潤滑環境下で使用されても摩耗しにくく長寿命な一方向クラッチ及び一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置を提供することを課題とする。
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1の一方向クラッチは、内側クラッチ部材と、前記内側クラッチ部材の周囲に同心に配された外側クラッチ部材と、前記内側クラッチ部材の外周面と前記外側クラッチ部材の内周面との間に配された複数の係合子と、を備えるとともに、前記内側クラッチ部材の外周面と前記外側クラッチ部材の内周面のうち一方が、複数の凹部が形成されたカム面とされ、他方が円筒面とされていて、前記両周面の間には前記複数の凹部によって径方向の幅が周方向の一方向に向かって狭くなる楔形の空間が複数形成されており、前記係合子が前記両周面の間に楔作用で食い込み係合することにより前記両クラッチ部材が接続して、前記両クラッチ部材の一方を他方に対して所定方向に相対回転させる回転力のみを伝達する一方向クラッチにおいて、前記内側クラッチ部材と前記外側クラッチ部材のうち前記カム面を有する方の部材は、窒化処理の後に680℃以上750℃以下の温度に加熱して焼入れした鋼で構成されていることを特徴とする。
また、本発明に係る請求項2の一方向クラッチは、内側クラッチ部材と、前記内側クラッチ部材の周囲に同心に配された外側クラッチ部材と、前記内側クラッチ部材の外周面と前記外側クラッチ部材の内周面との間に配された複数の係合子と、を備えるとともに、前記内側クラッチ部材の外周面と前記外側クラッチ部材の内周面のうち一方が、複数の凹部が形成されたカム面とされ、他方が円筒面とされていて、前記両周面の間には前記複数の凹部によって径方向の幅が周方向の一方向に向かって狭くなる楔形の空間が複数形成されており、前記係合子が前記両周面の間に楔作用で食い込み係合することにより前記両クラッチ部材が接続して、前記両クラッチ部材の一方を他方に対して所定方向に相対回転させる回転力のみを伝達する一方向クラッチにおいて、前記内側クラッチ部材と前記外側クラッチ部材のうち前記カム面を有する方の部材は、窒化処理の後に680℃以上750℃以下の温度に加熱して焼入れしさらにサブゼロ処理を施した鋼で構成されていることを特徴とする。
前記内側クラッチ部材と前記外側クラッチ部材のうち前記カム面を有する方の部材は、上記のような熱処理が施されているので、優れた耐摩耗性を有している。よって、微量潤滑環境下で使用されても摩耗しにくく長寿命である。
第一の熱処理である窒化処理は、オーステナイト変態点以下の比較的低温での処理であるため、熱処理による変形が生じにくい。また、必要な窒素濃度を有する窒素拡散層を得るために適した処理である。なお、窒化処理としては、コスト等の観点から、ガス窒化処理等と比べて短時間での処理が可能であるガス軟窒化処理が好ましい。
第二の熱処理である焼入れは、750℃以下に保持する工程において熱応力を低減できるため、熱処理による変形が生じにくい。なお、窒素拡散層を十分にオーステナイト変態させて必要な硬さ及び窒素拡散層深さを得るためには、加熱保持温度は680℃以上とする必要がある。
また、窒素はMs点を大きく低下させる作用を有しているため、焼入れ後は大量の残留オーステナイトが形成される。したがって、十分な焼入れ硬さを得るためには、焼入れ後にサブゼロ処理を施すことが好ましい。十分な焼入れ硬さを得るためには、サブゼロ処理は−80℃以下で行うことが好ましい。
さらに、本発明に係る請求項3の一方向クラッチは、請求項1又は請求項2に記載の一方向クラッチにおいて、前記内側クラッチ部材と前記外側クラッチ部材のうち前記カム面を有する方の部材は、表面から深さ50μmまでの部分である表層部の硬さがHv700以上であり、表面から深さ1μmまでの部分である最表層部の窒素濃度が1質量%以上であることを特徴とする。
このような構成であれば、耐摩耗性に優れている。表面から深さ50μmまでの部分である表層部の硬さがHv700未満であると、耐摩耗性が不十分となるおそれがある。
また、窒素は、窒化物又は炭窒化物を形成して、摩擦摩耗特性を著しく高める作用を有しているほか、オーステナイト変態点を低下させる作用を有しており、低温での焼入れに際して重要な役割を果たす。低温で焼入れを施すことにより、熱応力を低減でき、その結果変形を低減できる。
表面から深さ1μmまでの部分である最表層部の窒素濃度が1質量%未満であると、750℃以下の加熱保持温度での焼入れが困難となり、変形を抑制する作用が十分に発揮されないおそれがある。ただし、7質量%超過であると、Ms点の過度の低下により、十分な焼入れ硬さが得られないおそれがある。
さらに、本発明に係る請求項4の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、内側回転部材と、前記内側回転部材の周囲に同心に配された外側回転部材と、前記両回転部材の間に配され前記両回転部材を相対回転自在に支持する転がり軸受と、前記両回転部材の間に配され、前記両回転部材の一方を他方に対して所定方向に相対回転させる回転力のみを、前記両回転部材を接続して伝達する一方向クラッチと、を備える一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において、前記一方向クラッチを、請求項1〜3のいずれか一項に記載の一方向クラッチとしたことを特徴とする。
このような構成の一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、微量潤滑環境下で使用されても摩耗しにくく長寿命である。
本発明の一方向クラッチ及び一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置は、長寿命である。
本発明に係る一方向クラッチ及び一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、本発明に係る一方向クラッチが組み込まれた一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の一実施形態であるローラクラッチ内蔵型プーリ装置の構造を示す縦断面図である。また、図2は、一方向クラッチのみを拡大して示した図1のA−A断面図である。さらに、図3は、一方向クラッチ内のバネ及びその周辺部を拡大して示した部分拡大図である(径方向から見た図である)。
図1のローラクラッチ内蔵型プーリ装置1は、図示しない回転軸に外嵌固定可能なスリーブ2(内側回転部材)と、スリーブ2の周囲にスリーブ2と同心に配されたプーリ3(外側回転部材)と、を備え、スリーブ2の外周面とプーリ3の内周面との間には、一対の転がり軸受4,4とローラクラッチ5とが配されている。
この転がり軸受4,4は、プーリ3に負荷されるラジアル荷重を支えつつ、スリーブ2とプーリ3とを相対回転自在に支持している。また、ローラクラッチ5は、プーリ3とスリーブ2とを接続することにより、プーリ3をスリーブ2に対して所定方向に相対回転させる回転力のみを、プーリ3からスリーブ2へ伝達する一方向クラッチである。
ここで、ローラクラッチ5について、図1〜3を参照しながらさらに詳細に説明する。ローラクラッチ5は、スリーブ2の外周面に外嵌固定されたクラッチ内輪6(内側クラッチ部材)と、クラッチ内輪6の周囲にクラッチ内輪6と同心に配されるとともにプーリ3の内周面に内嵌固定されたクラッチ外輪9(外側クラッチ部材)と、クラッチ内輪6の外周面とクラッチ外輪9の内周面との間に配された複数のローラ10(係合子)と、クラッチ内輪6の外周面とクラッチ外輪9の内周面との間にローラ10を保持する保持器11と、を備えている。
クラッチ内輪6の外周面には、ランプ部と呼ばれる複数の凹部7が等間隔をあけつつ周方向に並んで形成されていて、該外周面がカム面8とされている。また、クラッチ外輪9の内周面は、軸方向両端部を除いて円筒面17とされている。凹部7の深さは一定ではなく、周方向に沿って徐々に浅くなっている(図2においては、右側に向かうにしたがって徐々に浅くなっている)。その結果、クラッチ内輪6の外周面とクラッチ外輪9の内周面との間には、径方向の幅が周方向の一方向(図2においては右方)に向かって狭くなる楔形の空間が複数形成される。
凹部7が形成されている部分(ランプ部)の大部分(深い部分)においては、クラッチ内輪6の外周面とクラッチ外輪9の内周面との間隔はローラ10の直径よりも大きいが、周方向に沿って徐々に小さくなってローラ10の直径と同じとなり、最も浅い部分においてはローラ10の直径よりもやや小さい。そして、凹部7が形成されていない部分(円筒面部)においては、クラッチ内輪6の外周面とクラッチ外輪9の内周面との間隔はローラ10の直径よりも小さい。さらに、クラッチ外輪9の軸方向両端部には、内向フランジ状の鍔部16a,16bが形成されている。
また、保持器11は、ローラ10を転動可能且つ周方向に若干変位可能に保持している。保持器11の柱部12とローラ10との間には、ローラ10を弾性的に押圧するバネ13が配されていて、このバネ13によりローラ10が、ランプ部から円筒面部に向く方向(図2においては右方)に押圧されている。そのため、ローラ10は、ランプ部と円筒面部との境界部分近傍(凹部7の浅い部分)において、クラッチ内輪6の外周面とクラッチ外輪9の内周面との間に楔作用で食い込む(係合する)こととなる。
よって、クラッチ外輪9が回転する際に、その回転方向がローラ10の押圧方向と同方向である場合には、ローラ10の食い込みによりクラッチ内輪6とクラッチ外輪9とが接続されて一体的に回転する(ロック状態)。これに対して、クラッチ外輪9の回転方向がローラ10の押圧方向と逆方向である場合には、ローラ10がランプ部の深い部分に位置して転動することとなるため、クラッチ内輪6とクラッチ外輪9との間の回転力の伝達は行われない(オーバーラン状態)。
このようなローラクラッチ5においては、カム面8を有するクラッチ内輪6は、窒化処理の後に680℃以上750℃以下の温度に加熱して焼入れした鋼で構成されている。鋼の種類は特に限定されるものではないが、冷間加工性等を考慮して、炭素を0.1質量%以上0.3質量%以下含有する鋼が好ましい。窒化処理としては例えば軟窒化処理が好ましく、その条件としては温度550℃以上590℃以下、処理時間1時間以上3時間以下が好ましい。焼入れの後には、さらにサブゼロ処理(例えば−80℃以下でのサブゼロ処理)を施してもよい。さらに、サブゼロ処理の後に、焼戻しを施してもよい。
このような熱処理により、クラッチ内輪6は、表面から深さ50μmまでの部分である表層部の硬さがHv700以上となり、表面から深さ1μmまでの部分である最表層部の窒素濃度が1質量%以上となっている。
このような熱処理が施されたことにより優れた耐摩耗性が付与されるので、ローラクラッチ5及びローラクラッチ内蔵型プーリ装置1は、微量潤滑環境下で使用されても摩耗しにくく長寿命である。また、前述のような熱処理は熱変形が生じにくいので、ローラクラッチ5を組み立てる際やローラクラッチ内蔵型プーリ装置1にローラクラッチ5を組み付ける際に、支障が出ることがない。なお、クラッチ外輪9やローラ10は、一般的なステンレス鋼,軸受鋼に通常の熱処理を施したもので構成してもよいが、クラッチ内輪6と同様の熱処理を施した鋼で構成しても差し支えない。
ここで、保持器11及びバネ13について、図1〜3を参照しながらさらに詳細に説明する。
クラッチ内輪6のカム面8とクラッチ外輪9の円筒面17との間の円筒状隙間内に、複数のローラ10,保持器11,及びバネ13が配されている。バネ13は鋼板を略三角形状に屈曲させた板バネであり、オーステナイト系ステンレス鋼又は析出硬化系ステンレス鋼で構成され、時効処理が施されて硬さがHv500以上600未満とされている。
保持器11は、ガラス繊維を含有したナイロン46等のような樹脂組成物をかご型円筒状に一体形成したものであり、円環状である1対のリム部18,18と、これら両リム部18,18を連結する柱部12とを備えている。そして、リム部18,18の内側面と各柱部12の側面とにより四周を囲まれた部分であるポケットに、ローラ10を転動自在に保持している。
また、一方(図1の左端側)のリム部18の内径面には、凸部19が径方向内方に突出するように形成されている。この凸部19を、スリーブ2の外周面のうち鍔部16aに対向する部分に形成したスリーブ鍔部20と、クラッチ内輪6の端面との間で挟持することにより、保持器11が軸方向に変位することが防止されるとともに、この保持器11がスリーブ2に対して相対回転することが防止される。
また、リム部18,18の内側面で柱部12の周方向中間部に整合する部分には、両端側支持板部21,21が、柱部12の外周側面から直径方向外方に突出する状態で形成されている。さらに、柱部12の中央部には、中央側支持板部22が柱部12の外周側面から径方向外方に突出する状態で形成されている。このような両端側支持板部21,21と中央側支持板部22とは、周方向に少しずらした状態で設けられており、両端側支持板部21,21の周方向片側面(図2〜3の右側面)と中央側支持板部22の周方向他側面(図2〜3の左側面)との間に、バネ13の基部23が挟持されている。この状態で基部23の中央部外周側端縁に、中央側支持板部22の先端部に形成した係止突片26を係合させている。したがって、運転時に加わる遠心力に拘らず、バネ13が保持器11の径方向外方に脱落することはない。
バネ13は、基部23の両端部を周方向の同方向に鋭角に折り曲げて、両端部に押圧部24,24を設けてなる。このようなバネ13は、前述したように両端側支持板部21,21の周方向片側面に基部23の両端部片側面を、中央側支持板部22の周方向他側面に基部23の中央部他側面を、それぞれ弾性的に当接させることにより、保持器11の周方向複数個所に係止されている。そして、押圧部24,24によりローラ10を、凹部7の浅い側(図2の右側)に向け、弾性的に押圧している。
このようなローラクラッチ内蔵型プーリ装置1を、オルタネータ等のような自動車のエンジン補機を回転駆動する装置として使用する場合には、オルタネータ等のエンジン補機の回転軸をスリーブ2に内嵌固定するとともに、図示しない無端ベルトを、プーリ3とエンジンのクランク軸の端部に固定された駆動プーリ(図示せず)とに掛け渡す。そして、駆動プーリを回転させると、無端ベルトによりプーリ3が回転し、その回転力がローラクラッチ5によりスリーブ2に伝達される。
ただし、プーリ3の回転速度がスリーブ2の回転速度と同じである場合、すなわち、無端ベルトが加速傾向又は一定速度状態にあり、その速度がエンジン補機の回転軸の回転速度と同じかそれ以上の場合には、無端ベルトからプーリ3に伝達される回転力がスリーブ2を介してエンジン補機の回転軸に伝達するが、スリーブ2の回転速度がプーリ3の回転速度よりも遅い場合、すなわち、無端ベルトが減速傾向にあり、その速度がエンジン補機の回転軸の回転速度よりも遅い場合には、プーリ3からスリーブ2への回転力の伝達は行われない。
また、ローラクラッチ内蔵型プーリ装置1を、エンジンのアイドリングストップ時のエンジン補機駆動装置として使用する場合には、クランク軸をスリーブ2に内嵌固定し、クランク軸が回転する場合のみ、その回転力がローラクラッチ5によりプーリ3に伝達されるような構造とする。そして、エンジン停止時にコンプレッサ等のエンジン補機を電動モータにより回転駆動する際には、前記クランク軸が回転しないようにする。
このローラクラッチ内蔵型プーリ装置1においては、前述のような構成のバネ13が使用されているため、オーバーラン状態とロック状態が繰り返されても、バネ13の摩耗及びへたりが生じにくい。このため、バネ13の摩耗粉によりグリースが劣化してローラ10とクラッチ内輪6の外周面又はクラッチ外輪9の内周面との接触部が焼き付くことや、バネ13のへたりによりロック状態となるべき時に空転現象が起こることが防止できる。よって、ローラクラッチ5の耐久性が向上し、このローラクラッチ5が組み込まれたローラクラッチ内蔵型プーリ装置1の耐久性及び信頼性が向上する。
なお、クラッチ内輪6及びクラッチ外輪9は省略し、スリーブ2の外周面又はプーリ3の内周面をカム面8としてもよい。すなわち、ローラ10はスリーブ2の外周面とプーリ3の内周面との間に配され、両周面に係合することとなる。この場合は、スリーブ2がクラッチ内輪6を兼ね、プーリ3がクラッチ外輪9を兼ねることになる。
また、回転力は、前述のようにプーリ3からスリーブ2へ伝達してもよいが、逆にスリーブ2からプーリ3へ伝達してもよい。
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。ローラクラッチ内蔵型プーリ装置の耐久性試験を行い、その耐摩耗性を評価した。評価したローラクラッチ内蔵型プーリ装置は、図1のローラクラッチ内蔵型プーリ装置1とほぼ同様の構成であるが、カム面を有するクラッチ内輪は、炭素の含有量が0.15質量%である鋼に表1に示すような熱処理を施して製造したものである。
Figure 2008095898
この熱処理は2〜3つの処理からなり、第一の熱処理である窒化処理として、ガス窒化処理又はガス軟窒化処理を施した。加熱保持温度は、ガス窒化処理,ガス軟窒化処理ともに550〜590℃であり、保持時間は、ガス窒化処理の場合は20〜30時間で、ガス軟窒化処理の場合は1〜3時間である。
また、第二の熱処理である焼入れとして、表1に示す加熱保持温度から急冷する処理を施した。さらに、実施例8及び比較例3を除いては、第三の熱処理であるサブゼロ処理を施した。処理温度は表1に示す通りである。さらに、比較例3については、第一〜第三の熱処理をいずれも施さず浸炭処理のみを施した。
このような熱処理により、実施例1〜8及び比較例1,2のクラッチ内輪の表面は窒化されるとともに硬化される。表面から深さ50μmまでの部分である表層部の硬さと、表面から深さ1μmまでの部分である最表層部の窒素濃度は、表1に示す通りである。なお、硬さは、マイクロビッカース硬さ試験機を用いて測定した。また、窒素濃度は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)を用いて定量分析した。
このようなローラクラッチ内蔵型プーリ装置を、雰囲気温度80℃の環境下、回転速度12000min-1で回転駆動した。40分間の駆動を1サイクルとし、3000サイクル繰り返した後にクラッチ内輪の摩耗量を測定した。結果を表1に示す。なお、表1に記した摩耗量の数値は、比較例3の摩耗量を1とした場合の相対値で示してある。
実施例1〜8は、比較例1〜3と比べて摩耗量が少なかった。実施例1〜7はサブゼロ処理が施されており高硬度であるため、摩耗量が特に少なかった。比較例1は、表層部の硬さが低く且つ最表層部の窒素濃度が低いため、摩耗量が多かった。また、比較例2は、焼入れ時の加熱保持温度が低く表層部の硬さが低かったため、摩耗量が多かった。
本発明に係る一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置の一実施形態であるローラクラッチ内蔵型プーリ装置の構造を示す縦断面図である。 一方向クラッチのみを拡大して示した図1のA−A断面図である。 一方向クラッチ内のバネ及びその周辺部を拡大して示した部分拡大図である。
符号の説明
1 ローラクラッチ内蔵型プーリ装置
2 スリーブ
3 プーリ
4 転がり軸受
5 ローラクラッチ
6 クラッチ内輪
7 凹部
8 カム面
9 クラッチ外輪
10 ローラ
13 バネ
17 円筒面

Claims (4)

  1. 内側クラッチ部材と、前記内側クラッチ部材の周囲に同心に配された外側クラッチ部材と、前記内側クラッチ部材の外周面と前記外側クラッチ部材の内周面との間に配された複数の係合子と、を備えるとともに、
    前記内側クラッチ部材の外周面と前記外側クラッチ部材の内周面のうち一方が、複数の凹部が形成されたカム面とされ、他方が円筒面とされていて、前記両周面の間には前記複数の凹部によって径方向の幅が周方向の一方向に向かって狭くなる楔形の空間が複数形成されており、
    前記係合子が前記両周面の間に楔作用で食い込み係合することにより前記両クラッチ部材が接続して、前記両クラッチ部材の一方を他方に対して所定方向に相対回転させる回転力のみを伝達する一方向クラッチにおいて、
    前記内側クラッチ部材と前記外側クラッチ部材のうち前記カム面を有する方の部材は、窒化処理の後に680℃以上750℃以下の温度に加熱して焼入れした鋼で構成されていることを特徴とする一方向クラッチ。
  2. 内側クラッチ部材と、前記内側クラッチ部材の周囲に同心に配された外側クラッチ部材と、前記内側クラッチ部材の外周面と前記外側クラッチ部材の内周面との間に配された複数の係合子と、を備えるとともに、
    前記内側クラッチ部材の外周面と前記外側クラッチ部材の内周面のうち一方が、複数の凹部が形成されたカム面とされ、他方が円筒面とされていて、前記両周面の間には前記複数の凹部によって径方向の幅が周方向の一方向に向かって狭くなる楔形の空間が複数形成されており、
    前記係合子が前記両周面の間に楔作用で食い込み係合することにより前記両クラッチ部材が接続して、前記両クラッチ部材の一方を他方に対して所定方向に相対回転させる回転力のみを伝達する一方向クラッチにおいて、
    前記内側クラッチ部材と前記外側クラッチ部材のうち前記カム面を有する方の部材は、窒化処理の後に680℃以上750℃以下の温度に加熱して焼入れしさらにサブゼロ処理を施した鋼で構成されていることを特徴とする一方向クラッチ。
  3. 前記内側クラッチ部材と前記外側クラッチ部材のうち前記カム面を有する方の部材は、表面から深さ50μmまでの部分である表層部の硬さがHv700以上であり、表面から深さ1μmまでの部分である最表層部の窒素濃度が1質量%以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の一方向クラッチ。
  4. 内側回転部材と、前記内側回転部材の周囲に同心に配された外側回転部材と、前記両回転部材の間に配され前記両回転部材を相対回転自在に支持する転がり軸受と、前記両回転部材の間に配され、前記両回転部材の一方を他方に対して所定方向に相対回転させる回転力のみを、前記両回転部材を接続して伝達する一方向クラッチと、を備える一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置において、前記一方向クラッチを、請求項1〜3のいずれか一項に記載の一方向クラッチとしたことを特徴とする一方向クラッチ内蔵型回転伝達装置。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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CN102537126A (zh) * 2010-12-30 2012-07-04 洪涛 具有袋形构件的空间楔合式摩擦超越离合器
JP2014173556A (ja) * 2013-03-12 2014-09-22 Jtekt Corp 風力発電装置用の一方向クラッチ及び一方向クラッチユニット
CN108757724A (zh) * 2018-08-18 2018-11-06 苏州金诚轴承有限公司 一种悬挂高速使用的单向轴承

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