JP2008138337A - 繊維の加工処理方法 - Google Patents

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明宏 水谷
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Tomokichi Shintani
智吉 新谷
Seiji Higaki
誠司 檜垣
Rei Hagabe
令 長賀部
Satoshi Morimoto
聡 森本
Shunsuke Miyaoka
俊輔 宮岡
Kyoichi Shudo
喬一 首藤
Katsuta Kan
剋太 菅
Mari Ishikawa
麻里 石川
Yusuke Edashige
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Abstract

【課題】糊付け加工に従来から使用されている澱粉糊やPVAに代わる素材であって従来の糊付け加工の問題(糊抜き処理の必要性、糊残りによる黴の発生)がない素材、並びに当該素材を用いた繊維の加工処理方法を提供する。また、当該方法によって処理された繊維並びに当該繊維を用いて製織してなる繊維製品を提供する。
【解決手段】本発明の繊維の加工処理方法は、繊維をキトサンの酸溶液に浸潤後、ペクチンのアルカリ溶液またはペクチン質のアルカリ抽出液で中和処理することによって実施する。
【選択図】なし

Description

本発明は、繊維の加工処理方法に関する。具体的には、製織準備工程において澱粉糊やポリビニルアルコールなどを用いた従来の糊付けに代わる別の糊付け処理で糸に強度を持たせることを可能にした繊維の加工処理方法に関する。さらに本発明は、当該方法によって得られた繊維および繊維製品に関する。当該本発明の方法によれば、従来法では必須であった製織後の糊抜きが不要であり、また糊抜きが不十分であった場合に生じる黴の問題を回避することができ、品質の高い繊維製品を安定して提供することが可能になる。
タオル加工などの織布作業において、製織準備工程における糊付け処理は、糸に織りに耐えうる強度を付与するために重要な処理の一つであり、その良否が織機の能率、製品の品質に大きな影響を与える。現在タオルの製造に多く使用されている澱粉糊は紡績糸の製造が大規模に始まった明治以降から多用されているものであり、その糊付け方法は、PVA(ポリビニルアルコール)等との併用といった多少の改良はあるものの、基本的に昔の方法と変わっていない。かかる方法は、簡易でありコストが安いという点で多く利用されているが、製織後、酵素処理による糊抜き加工が必要であり、また糊抜き加工が不十分である場合、カビ等の微生物の増殖につながり、商品クレームの対象となることがある。また、今の原油高の影響もあり、ボイラーを使用する糊抜き、洗浄加工工程の見直しの必要性も出ている。
なお、キトサンを用いて繊維を処理する方法を開示する文献として、特許文献1〜5を挙げることができる。
特開昭64−61572号公報 特開平11−100712号公報 特開2001−181976号公報 特開2003−328270号公報 特開2005−314823号公報
本発明は上記従来の製織準備工程における糊付け処理の問題を解消することを目的とする。より詳細には、本発明は、糊付け処理に従来から使用されている澱粉糊やPVAに代わる素材であって従来の糊付け処理の問題(製織後の糊抜き処理の必要性、糊残りによる黴の発生)がない素材、並びに当該素材を用いた繊維の加工処理方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は当該方法によって処理された繊維、並びに当該繊維を用いて製織されてなる繊維製品を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題の解決を目的に鋭意検討を重ねていたところ、繊維をキトサンの酸溶液で処理した後、ペクチンのアルカリ溶液で処理することによって、繊維内部および繊維表面にキトサンとペクチンから形成される糊状の水不溶性の複合体(キトサン/ペクチン複合体)が形成され、その結果、繊維に製織に耐えうる強度が付与できることを見出した。また本発明者らは、当該キトサン/ペクチン複合体は繊維内に残存していても黴発生の原因とならず、むしろキトサンが有する抗菌作用により黴発生を防止することができること、ならびに本発明の加工処理方法によれば、キトサン/ペクチン複合体を繊維内部および繊維表面に安定して保持させることができ、洗濯耐久性に優れることを確認した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものであり、下記の構成を有する:
項1.繊維をキトサンの酸性溶液に浸潤後、ペクチンのアルカリ溶液またはペクチン質のアルカリ抽出液で中和処理することを特徴とする繊維の加工処理方法。
項2.繊維をキトサンの酸性溶液に浸潤後、乾燥させることなく浸潤させた状態でペクチンのアルカリ溶液またはペクチン質のアルカリ抽出液で中和処理することを特徴とする項1記載の繊維の加工処理方法。
項3.ペクチン質のアルカリ抽出液が、ペクチン質を含む植物のアルカリ抽出液である項1または2に記載する繊維の加工処理方法。
項4.ペクチン質のアルカリ抽出液が、柑橘類のじょうのう膜のアルカリ抽出液であることを特徴とする項1または2に記載する繊維の加工処理方法。
項5.項1乃至4のいずれかに記載する方法で製造された繊維。
項6.項5に記載する繊維を用いて製織する工程を有する、繊維製品の製造方法。
項7.項5に記載する繊維を用いて製織した後、糊抜きをすることなく縫製仕上げ処理することを特徴とする、請求項6に記載する繊維製品の製造方法。
項8.項6または7に記載する方法で製造された繊維製品。
項9.繊維製品がタオルである、項8に記載する繊維製品。
本発明の繊維の加工処理方法によれば、従来の糊付け処理では必須であった糊抜き処理が不要であるため製造コストの削減が可能であり、しかも従来の方法において糊抜き処理が不十分であった場合に生じる黴発生の問題が生じないため、商品クレームの生じない高品質の繊維製品を安定して提供することができる。
また本発明の繊維の加工処理方法によれば、キトサン/ペクチン複合体を繊維内部および繊維表面に安定して保持させることができるため(洗濯耐久性)、キトサンに由来する抗菌性を長期にわたって備えた、衛生的で高付加価値を有する繊維および繊維製品を提供することができる。
織布は、通常、糸繰り,撚糸,糊付けおよび整経等の処理を有する製織準備工程、並びに当該製織準備工程で得られた繊維を織布に織りあげていく製織工程を経て製造される。
本発明の繊維の加工処理方法は、上記の製織準備工程の糊付け処理を(従来の澱粉糊を使用した糊付けに代えて)、まず繊維をキトサンの酸溶液に浸潤し、当該キトサンの酸溶液に浸潤した繊維を、次いでペクチンのアルカリ溶液またはペクチン質のアルカリ抽出液で中和処理することによって行うことを特徴とする。
本発明の方法が対象とする繊維は、綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維;ナイロンなどのポリアミド系合成繊維、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系合成繊維、ビニロンなどのポリビニルアルコール系合成繊維、ポリアクリロニトリルなどのアクリル系合成繊維、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系合成繊維、ポリウレタンなどのポリウレタン系合成繊維などの合成繊維;レーヨン、ポリノジック、キュプラ、リヨセル、アセテートなどの再生繊維;アセテート、トリアセテートおよびポリミックスなどの半合成繊維;ガラス繊維や炭素繊維などの無機質繊維などであり、繊維の種類に特に制限されるものではない。好ましくは綿、麻、絹、羊毛などの天然繊維であり、より好ましくは綿や麻などの植物性の天然繊維である。
かかる繊維は、本発明の加工処理をするまえに予め精練処理または漂白処理を行っておくことが好ましい。
本発明の処理に使用するキトサンの酸溶液は、キトサンを溶解して均一溶液を形成するものであればよく、例えば、塩酸水溶液、硫酸水溶液、硝酸水溶液およびリン酸水溶液などのキトサンの無機酸水溶液;酢酸水溶液、乳酸水溶液、シュウ酸水溶液、クエン酸水溶液、酒石酸水溶液、リンゴ酸水溶液、コハク酸水溶液、グルクロン酸水溶液、グルコン酸水溶液、マロン酸水溶液などのキトサンの有機酸水溶液を挙げることができる。好ましくはキトサンの有機酸水溶液、具体的にはキトサンの酢酸水溶液、乳酸水溶液、クエン酸水溶液などを挙げることができる。
キトサンは特に制限されないが、好ましくは分子量が3,000,000〜1,000の範囲、より好ましくは分子量1,000,000〜1,000の範囲、さらに好ましくは分子量700,000〜1,000の範囲のものを挙げることができる。当該分子量を有するキトサンは、各種のキトサンを、必要に応じてキトサナーゼ、キチナーゼ、リゾチームまたはセルラーゼなどの酵素で処理した後、上記分画分子量を有する限外濾過膜を用いて、限外濾過または透析することによって調製することができる。なお、当該透析は、例えば電気透析装置を用いて行うこともできる。
またキトサンはその脱アセチル化度(純度)も特に制限されない。通常、脱アセチル化度が60%以上、好ましくは70〜100%の範囲にあるキトサンを用いることができる。
繊維処理に使用するキトサン酸溶液のキトサン濃度としては、特に制限されないが、通常3〜0.01重量%、好ましくは2〜0.01重量%、より好ましくは1.5〜0.1重量%である。またキトサン酸溶液の酸濃度としては、特に制限されないが、通常2〜0.01M、好ましくは1〜0.01、より好ましくは0.5〜0.01Mである。また、その時のキトサン酸溶液pHは5.3以下であることが好ましい。
繊維に対するキトサン酸溶液の浸潤方法は、キトサン酸溶液が繊維の内部まで十分に浸透し浸潤する方法であれば特に制限されない。例えば、繊維にキトサン酸溶液を塗布または噴霧する方法であってもよいが、好ましくはキトサン酸溶液に繊維を浸漬する方法を挙げることができる。キトサン酸溶液に繊維を浸漬させる方法としては、加工処理する対象の繊維を巻いた木管(チーズ)をそのままキトサン酸溶液に浸漬し、繊維内に浸透するまで(例えば一晩)、室温で放置しておく方法を例示することができる。かかる方法は、特に一本糊付け機を用いてキトサン酸溶液を繊維に浸透させる方法として、好適に使用することができる。但し、これに制限されず、例えばスラッシャーサイジングを用いて繊維をキトサン酸溶液に浸漬させる場合は、数秒でキトサン酸溶液を繊維内に浸透させることができる。
また処理に使用するキトサン酸溶液の温度も特に制限されない。しかし低温の場合はキトサン酸溶液の粘度が高まって繊維の内部に浸透しにくくなる傾向があり、また高温の場合はキトサンが加水分解される可能性がある。このため、キトサン酸溶液による浸潤処理は、通常4〜95℃の範囲、好ましくは室温で行われる。
斯くして繊維内にキトサン酸溶液が十分浸透したら、次いで当該繊維を、ペクチンのアルカリ溶液処理またはペクチン質のアルカリ抽出液処理に供する。
ここで使用するペクチンのアルカリ溶液は、ペクチンを溶解して均一溶液を形成するものであればよく、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液などのナトリウム塩の水溶液;水酸化カリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液などのカリウム塩の水溶液;水酸化リチウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、炭酸水素リチウム水溶液などのリチウム塩の水溶液;水酸化アンモニウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液、炭酸水素アンモニウム水溶液などのアンモニウム塩の水溶液を挙げることができる。好ましくは水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのナトリウム塩の水溶液である。
ペクチンは、一般に、そのメトキシル基含有量により、ハイメトキシル(HM)ペクチンとローメトキシル(LM)ペクチンに区別されるが、本発明ではこれらのいずれのペクチンをも使用することができる。なお、本発明では、メトキシル基含有量の異なる2種以上のペクチンを任意に組み合わせて使用することもできる。
またペクチンの分子量も特に制限されない。好ましくは分子量3,000,000〜1,000範囲、より好ましくは分子量1,000,000〜1,000の範囲、さらに好ましくは分子量700,000〜1,000の範囲のものを挙げることができる。当該分子量を有するペクチンは、種々の分子量を有するペクチンを、必要に応じてペクチナーゼやペクチンエステラーゼなどの酵素で処理した後、上記分画分子量を有する限外濾過膜を用いて限外濾過または透析することによって調製することができる。なお、当該透析は、例えば電気透析装置を用いて行うこともできる。
繊維処理に使用するペクチンのアルカリ溶液のペクチン濃度としては、特に制限されないが、通常3〜0.01重量%、好ましくは2〜0.01重量%、より好ましくは1.5〜0.1重量%である。またペクチンアルカリ溶液のアルカリ塩の濃度としては、特に制限されないが、通常2〜0.01M、好ましくは1〜0.01M、より好ましくは0.5〜0.01Mである。また、その時のペクチンのアルカリ溶液のpHは8以上であることが好ましい。
また、ペクチンのアルカリ溶液には他成分として平滑剤を配合してもよい。ここで平滑剤とは、繊維に表面平滑性と柔軟性を付与するための成分である。平滑剤としては、かかる作用を有するものであれば特に制限されないが、例えば、オリーブ油、ツバキ油、米油、ひまわり油、菜種油等の植物油;シリコンオイル;パラフィンワックスなどの合成ワックスを挙げることができる。平滑剤は、ペクチンのアルカリ溶液またはペクチン質のアルカリ抽出液(または後述する植物のアルカリ抽出液)中に、通常2〜0.01重量%、好ましくは1〜0.1重量%の範囲で配合することができる。
当該ペクチンのアルカリ溶液による処理は、前述の処理でキトサン酸溶液を内部に十分浸潤させた繊維に対して、当該繊維を乾燥させることなく濡れた状態で行うことができる。このようにキトサン酸溶液で浸潤した状態の繊維をペクチンのアルカリ溶液で処理することにより、繊維表面だけでなく繊維内部にわたってキトサンとペクチンとの複合体が形成され、キトサンとペクチンとが高次的に絡み合うことにより、より強度の高い繊維を得ることができる。
かかるペクチンのアルカリ溶液による処理は、繊維内部まで浸透したキトサンの酸溶液に接触して、繊維内部および繊維表面でキトサンとペクチンとの複合体を形成することができる方法であれば特に制限されない。例えば、繊維にペクチンのアルカリ溶液を塗布または噴霧する方法であってもよいが、好ましくはペクチンのアルカリ溶液に繊維を浸漬する方法を挙げることができる。キトサンの酸溶液が浸潤した繊維に均一にペクチンのアルカリ溶液を接触させる方法として、より具体的には、一本糊付加工機などを用いて、キトサンの酸溶液に浸漬させた繊維を巻いた木管(チーズ)から一本糸を取りだし、別の木管(チーズ)に巻取る間に、ペクチンのアルカリ溶液中に浸漬通過させる方法を挙げることができる。次いで、ペクチンのアルカリ溶液中に浸漬通過させた糸は、ローラで絞り、そのまま乾燥室内で乾燥させた後に、再び木菅(チーズ)に巻取られる。
浸漬温度および乾燥温度は特に制限されない。例えば、短時間に乾燥するために、上記乾燥室内を室温以上の高温に設定することもできる。かかる温度として40〜100℃程度、好ましくは60〜85℃程度を例示することができる。
上記処理によって、キトサンの酸溶液が浸潤した繊維にペクチンのアルカリ溶液を接触させることにより、糊状で水不溶性のキトサンとペクチンの複合体(キトサン/ペクチン複合体)が生成し、繊維内部または繊維表面に安定に固定化される。
上記ペクチンのアルカリ溶液による処理は、上記ペクチンのアルカリ溶液に代えてペクチン質のアルカリ抽出液を用いても行うことができる。
ここでペクチン質のアルカリ抽出液としては、例えば、ペクチン質を含む植物のアルカリ抽出液を挙げることができる。ペクチン質はほとんどの植物に存在しているが、各種の野菜;リンゴ、イチゴ、柿、および柑橘類の果物を例示することができる。好ましくは果物、特に柑橘類である。柑橘類とはミカン科ミカン亜科に属する植物の総称であり、例えばマンダリンオレンジ、温州みかん、ポンカン、タチバナ、紀州みかんなどのミカン類;夏みかん、ハッサク、ヒュウガナツ、ジャバラ、スウィーティー、デコポンなどの雑カン類;ワシントンネーブル、バレンシアオレンジ、ブラッドオレンジ、ベルガモットオレンジ、ネーブルオレンジなどのオレンジ類;グレープフルーツ等のグレープフルーツ類;ゆず、ダイダイ、かぼす、スダチ、ユコウ、ヘベス、レモン、シークワーサー、ライムなどの香酸カンキツ類;ブンタン、晩白柚、土佐ブンタン等のブンタン類;セミノールなどのタンゼロ類;伊予かん、清見、マーコット、はるみ等のタンゴール類;きんかん等のキンカン類;カラタチなどのカラタチ類を、制限なく挙げることができる。
アルカリ抽出する植物の部位は、ペクチン質を含む部位であれば特に制限されない。例えば果物を例に挙げると、果物の未利用部分の有効利用という観点から、好ましくは果物の果皮(柑橘類の場合、外果皮および中果皮を含む)、柑橘類のじょうのう膜、または果物の絞り粕(搾汁粕)を挙げることができる。好ましくは柑橘類のじょうのう膜である。柑橘類のじょうのう膜中には、市販のペクチンや果皮由来のペクチンよりも分岐型ペクチンの含有量が多く含まれている。このため柑橘類のじょうのう膜のアルカリ抽出液を用いることにより、キトサンとより強固で安定した複合体(キトサン/ペクチン複合体)を形成することができると考えられる。また、柑橘類のじょうのう膜のアルカリ抽出液を用いることにより、嵩高く柔軟性に優れた肌触りのよい繊維を調製することができると考えられる。
かかる果物のアルカリ抽出処理は、果物中に水に不溶性のプロトペクチン(ペクチン質)の状態で存在しているペクチンを、水可溶性のペクチンとして抽出する処理である。かかる抽出処理は、通常慣用方法に従って行うことができるが、具体的には、当該アルカリ抽出処理は、上記果物の少なくともペクチン質を含む部位をアルカリ性の溶媒に浸漬し、低温若しくは常温、または必要に応じて加温しながら抽出処理し、次いで不溶物を除去して抽出液を回収することによって行うことができる。抽出処理は、静置しながら行ってもよいが、攪拌もしくは振盪しながら行ってもよい。
ここでアルカリ抽出に使用するアルカリ性の溶媒としては、ペクチンを溶解するものであればよく、例えば、炭酸ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液などのナトリウム塩の水溶液;水酸化カリウム水溶液、炭酸カリウム水溶液、炭酸水素カリウム水溶液などのカリウム塩の水溶液;水酸化リチウム水溶液、炭酸リチウム水溶液、炭酸水素リチウム水溶液などのリチウム塩の水溶液;水酸化アンモニウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液、炭酸水素アンモニウム水溶液などのアンモニウム塩の水溶液を挙げることができる。好ましくは水酸化ナトリウムや炭酸ナトリウムなどのナトリウム塩の水溶液である。
なお、制限されないが、上記アルカリ抽出に使用するアルカリ性の溶媒の濃度としては、特に制限されないが、通常2〜0.01M、好ましくは1〜0.01M、より好ましくは0.5〜0.01Mである。また、pHは8〜12であることが好ましい。
斯くして得られるペクチン質のアルカリ抽出液(植物のアルカリ抽出液)は、そのまま繊維の処理に用いることもできるが、その前に、酵素処理や分子量分画などの処理を施すこともできる。具体的には、上記方法によって得られたペクチン質のアルカリ抽出液(植物のアルカリ抽出液)は、繊維の処理に使用する前に、ペクチナーゼやペクチンエステラーゼなどの酵素で処理した後、例えば500,000〜100、好ましくは300,000〜100などの分画分子量を有する限外濾過膜を用いて限外濾過または透析を行ってもよい。当該透析は、例えば電気透析装置を用いて行うこともできる。
繊維処理に、上記の方法で調製されたペクチン質のアルカリ抽出液(植物のアルカリ抽出液)を用いる場合、アルカリ抽出液に含まれるペクチン濃度としは、特に制限されないが、通常20〜0.01重量%、好ましくは10〜0.01重量%、より好ましくは5〜0.01重量%である。
なお、上記ペクチン質のアルカリ抽出液(植物のアルカリ抽出液)には、繊維に表面平滑性と柔軟性を付与するなどの目的で、前述するペクチンのアルカリ溶液と同様に、平滑剤を配合してもよい。
ペクチン質のアルカリ抽出液(植物のアルカリ抽出液)による繊維の処理は、前述するペクチンのアルカリ溶液による処理と同様の方法で行うことができる。植物のアルカリ抽出液、特に柑橘類のじょうのう膜のアルカリ抽出液のなかには分岐型ペクチンが多く含まれているため、繊維にキトサン酸溶液を内部に十分浸潤させた後にこれで処理することにより、繊維内部および繊維表面により強固で安定した複合体(キトサン/ペクチン複合体)を形成することができる。
斯くして、キトサンの酸溶液およびペクチンのアルカリ溶液若しくはペクチン質のアルカリ抽出液(植物のアルカリ抽出液)で処理された繊維は、織布に耐えうる十分な強度が付与されるため、乾燥後、繊維製品の製造(製織)に供することができる。
製織には、上記本発明の方法で処理された繊維(加工処理繊維)を、緯糸、経糸およびパイル糸のすべての糸として使用することができるが、製織に際して強度が求められる少なくとも緯糸と経糸に本発明の加工処理繊維を使用することが好ましい。前者の場合は勿論、後者の場合も製織に際して糊付けしない繊維を使用することができるため、製織後、糊抜き処理をする手間を省くことができる。
本発明の加工処理繊維を用いて製織される繊維製品としては、制限されないが、ハンカチ、手ぬぐい、タオルなど:ブラウス、ワンピース、下着、ベビー用品などの衣類や肌着;ふとんカバー、シーツ、枕カバーなどの寝装具;カーテンや座布団カバーなどの装飾品;ガーゼ、マスク、シーツなどの衛生用品などを挙げることができる。好ましくは、タオルやタオル地のハンカチである。
これらの繊維製品の製織は、例えばシャットル織機、レピア織機、ジェット織機、グリッパ織機などの織機を用いて定法に従って行うことができる。
以下、本発明をより詳細に説明するために実施例を例示する。但し、本発明はかかる実施例によって何ら制限されるものではない。
実施例1 繊維の加工処理、および繊維製品の調製
(1)キトサン酸溶液処理
水にキトサンPSH-80(焼津水産化学工業、平均分子量約800,000)を攪拌機により分散させた後、最終濃度が0.2Mになるように酢酸を加えた。次いで、これに各種濃度(0.1、0.5、1.0重量%)となるようにキトサンを溶解させて、各種濃度のキトサン酸溶液2Lを調製した。その中に、精練漂白加工した綿糸500gを木管(チーズ)に巻いた状態で入れて浸漬し、一晩放置した。この結果、綿糸を木管(チーズ)に巻いた状態でも繊維の内部にまでキトサン酸溶液が十分に浸透することが確認された。
(2)ペクチンアルカリ溶液処理
0.1M水酸化ナトリウム溶液中にペクチン(SIGMA, citrus)(平均分子量約500,000以上)をホモジナイザーで攪拌しながら溶解し、各種濃度(0.1、0.5重量%)のペクチンアルカリ溶液を調製した。これを一本糊付加工機(KHS-6、カキノキ(株)製)の糊液槽に充填した。上記(1)で各キトサン酸溶液に一晩浸漬した綿糸(チーズ)から、乾燥させることなくその湿潤状態のままで一本糸を取り出しながら、上記一本糊付加工機のペクチンアルカリ溶液槽に浸潤通過させ、次いで乾燥機内のドラム部分に巻き取って乾燥させた。
なお、ペクチンを0.1N水酸化ナトリウムで溶解してこれをキトサン酸溶液と混ぜて中和すると糊状の物質(キトサン/ペクチン複合体)が得られた。この糊状の物質は、水に溶かしても溶解しなかったことから、上記繊維の加工処理により、繊維内部および繊維表面で水不溶性の糊状のキトサン/ペクチン複合体が形成されているものと考えられた。
(3)タオルの製織
上記(1)および(2)で加工処理した繊維を用いて、下記表1の条件でタオルを製織した。
Figure 2008138337
(4)抱合力評価
上記(1)および(2)の加工処理によって得られた繊維を、摩擦盤回転速度80rpm、付加重量120gの条件で、抱合力試験機(蛭田理研製)を用いて、当該試験機の規格に従って、糸が切れるまでの回数を調べた。
結果を表2に示す。
Figure 2008138337
この結果から、キトサン酸溶液処理に加えて、ペクチンアルカリ溶液処理を行うことによって、抱合力が向上し、摩擦に強く製織に適した繊維が調製できることがわかる。また、処理に使用するキトサンおよびペクチンの濃度が高くなるにつれて抱合力が強くなることがわかる。
(5)洗濯試験(キトサン/ペクチン複合体の耐久性)
繊維内部および繊維表面に形成され付着したキトサン/ペクチン複合体の耐久性(付着強度)を、洗濯試験によって評価した。具体的には、0.5%ペクチンおよび0.1%キトサンで加工した糸をパイル糸および緯糸に、0.5%ペクチンおよび1%キトサンで加工した糸を地経糸に使用して、上記(3)で製織したタオルを家庭用洗濯機で洗濯し、洗濯後、当該タオルの経糸について赤外分光光度を測定した。なお、洗濯方法はJISL0217洗い方103を参考にして家庭用全自動洗濯機を用いて、下記洗濯条件に示す工程を10回行った。
<洗濯条件>
洗濯工程:洗い(40℃、5分)→脱水→すすぎ(2分)→脱水→すすぎ(2分)→脱水
浴比: 1:30
洗剤: 40mL/30L (JAFET標準洗剤)。
結果を図1AおよびBに示す。図1Aの太線は(1)および(2)の加工処理に使用した材料糸(漂白後無加工糸)の測定結果、細線は(1)および(2)の加工処理後(3)の製織前の経糸(0.5%ペクチンおよび1%キトサンで加工処理した糸)の測定結果を示す。これからわかるように、加工タオルの経糸は、1600cm-1付近にキトサン/ペクチン複合体特有のピークを有している。
図1Bの太線は加工タオルの洗濯前の経糸の測定結果、細線は加工タオルの10回洗濯後の経糸の測定結果を示す。これからわかるように、10回洗濯後でも1600cm-1付近のキトサン/ペクチン複合体特有のピークは殆ど減少しておらず、キトサン/ペクチン複合体が繊維に強固に付着し保持されていることが確認された。
実施例2 繊維の加工処理、および繊維製品の調製(その2)
(1)キトサン酸溶液処理
水にキトサンPSH-80(焼津水産化学工業)を攪拌機により分散させた後、最終濃度が0.2Mになるように乳酸を加えた。次いで、これに各種濃度(0.5、1.0、1.5重量%)になるようにキトサンを溶解し、各種濃度のキトサン酸溶液2Lを調製した。その中に、精練漂白加工した綿糸16/1単糸500gを入れて浸漬し(室温)、一晩放置した。
(2)ペクチンアルカリ溶液処理
0.1M炭酸ナトリウム溶液中にペクチン(SIGMA,citrus)をホモジナイザーで攪拌しながら溶解し、各種濃度(0.1、0.5重量%)のペクチンアルカリ溶液を調製した。また当該ペクチンアルカリ溶液に、平滑剤として最終濃度が1%となるようにオリーブ油を添加した。これを一本糊付加工機(KHS-6、カキノキ(株)製)の糊液槽に充填した。上記(1)で各キトサン酸溶液に一晩浸漬した綿糸(チーズ)から、乾燥させることなくその湿潤状態のままで一本糸を取り出しながら、上記一本糊付加工機のペクチンアルカリ溶液槽に浸潤通過させ、次いで乾燥機内(80℃)のドラム部分に巻き取って乾燥させた。
(3)加工処理糸の物性評価
上記(1)および(2)の加工処理によって得られた繊維の物性(動摩擦係数、抱合力、強度、伸度)を下記の方法に従って評価した。
(a) 動摩擦係数(μ)
糸用摩擦係数試験機(商品名「アトリフィルII」、MESDANLAB)を用いて、JIS L1095の試験法に従って、繊維の動摩擦係数(μ)を求めた。なお、「動摩擦係数」は糸表面の滑りやすさを評価する指標である。
(b)抱合力(回)
摩擦盤回転速度80rpm、付加重量120gの条件で、抱合力試験機(蛭田理研製)を用いて、当該試験機の規格に従って糸が切れるまでの回数を調べた。なお、「抱合力」は糸繊維の結束力を評価する指標である。
(c)強度(cN)および伸度(%)
自動引張試験機(商品名「USTER TENSORAPID4-C」、ウスターテクノロジーズ製)を用いて、JIS L1095の試験法に従って糸の引張り強度(cN)と伸度(%)を調べた。なお、「引張り強度」は文字通りどの程度の重さに耐えられるかの糸の強度を評価する指標であり、また「伸度」は糸の伸びを評価する指標である。糸に全く伸びがないと織機で織るときに余裕がなくなり切れやすくなる。
結果を表3に示す。なお、表3には対照試験として、本発明のキトサン酸処理およびペクチンアルカリ処理に代えて、精練漂白加工した綿糸16/1単糸を合成ワックスで処理した糸について同様に、動摩擦係数、抱合力、強度および伸度を測定した結果を示す(オイリング加工(16/1))。本発明の加工処理繊維がこれと同等またはそれ以上の物性を示していれば、タオル織りの緯糸およびパイル糸として使用することができる。
Figure 2008138337
この結果から、実施例1の結果と同様に、キトサン酸溶液処理に加えて、ペクチンアルカリ溶液処理を行うことによって、抱合力が向上し、摩擦に強く製織に適した繊維が調製できることがわかる。また、処理に使用するキトサンおよびペクチンの濃度が高くなるにつれて抱合力が強くなること、また抱合力に向上にはペクチンよりもキトサンの濃度依存性が大きいことがわかる。また、この結果から、本発明のキトサン酸溶液処理およびペクチンアルカリ溶液処理を行った繊維は、オイリング加工(16/1)(対照)した繊維と同等またはそれ以上の物性を有しており、タオル織りの緯糸およびパイル糸として使用できることがわかる。
実施例3 繊維の加工処理、および繊維製品の調製(その3)
(1)キトサン酸溶液処理
水にキトサンPSH-80(焼津水産化学工業)を攪拌機により分散させた後、最終濃度が0.2Mになるように乳酸を加えた。次いで、これに各種濃度(0.5、1.0、1.5重量%)になるようにキトサンを溶解して、各種濃度のキトサン酸溶液2Lを調製した。その中に、精練漂白加工した綿糸16/1単糸500gを入れて浸漬し、一晩放置した。
(2)ペクチンアルカリ溶液処理
0.1M炭酸ナトリウム溶液中に夏みかんのじょうのう膜を入れてホモジナイザーで攪拌しながら溶解した。これを4℃で一晩放置し、300μmメッシュのふるいにより不溶物を除去して夏みかんのアルカリ抽出液を調製した(枝分かれペクチン含量:0.05、0.1重量%)。また当該夏みかんのアルカリ抽出液に、平滑剤として最終濃度が1%となるようにオリーブ油を添加した。これを一本糊付加工機(KHS-6、カキノキ(株)製)の糊液槽に充填した。上記(1)で各キトサン酸溶液に一晩浸漬した綿糸(チーズ)から、乾燥させることなくその湿潤状態のままで一本糸を取り出しながら、上記一本糊付加工機の夏みかんのアルカリ抽出液槽に浸潤通過させ、次いで乾燥機内(80℃)のドラム部分に巻き取って乾燥させた。
なお、夏みかんのじょうのう膜の糖組成(%)は、下記表4に示す通りである。
Figure 2008138337
これらの中性糖および酸性糖の分析はメタノリシス法に従って、下記条件のガスクロマトグラフィーにより行った。
カラム: DB-1(J&W)、30m
検出器:FID
オーブン温度:初期温度140℃−保持2分
昇温(1) 2℃/分
到達温度(1) 200℃−保持0分
昇温(2) 30℃/分
到達温度(2) 275℃
注入温度:220℃
検出器温度:240℃。
(3)加工処理糸の物性評価
上記(1)および(2)の加工処理によって得られた繊維の物性(動摩擦係数、抱合力、引張り強度、伸度)を、実施例2に記載する方法に従って評価した。
結果を表5に示す。
Figure 2008138337
単一組成のペクチン(ペクチンの純品)を用いた実施例1および2と同様に、夏みかんのアルカリ抽出物を用いた場合も、併用するキトサン濃度が高くなるにつれて抱合力、および引張り強度が高くなる傾向が認められた。一方、夏みかんアルカリ抽出物の濃度(枝分かれペクチン含量)の違い(0.05、0.1重量%)によって物性値に大きな差異はみられなかった。
また、枝分かれペクチンを多く含む夏みかんのアルカリ抽出物を用いることにより、柔軟性(伸度)、強度、抱合力がより大きくなる傾向が認められる。
実施例1(5)において本発明の方法で加工処理した糸を赤外分光光度で測定した結果を示す。図1Aの濃い(太い)線は本発明の加工処理に使用した材料糸(漂白後無加工糸)の測定結果、薄い(細い)線は加工処理後の経糸(0.5%ペクチンおよび1%キトサンで加工処理した糸)の測定結果を示す。図1Bの濃い(太い)線は洗濯前の経糸の測定結果、薄い(細い)線は10回洗濯後の経糸の測定結果を示す。

Claims (9)

  1. 製織準備工程において、繊維をキトサンの酸溶液に浸潤後、ペクチンのアルカリ溶液またはペクチン質のアルカリ抽出液で中和処理する工程を有する、繊維の加工処理方法。
  2. 繊維をキトサンの酸溶液に浸潤後、乾燥させることなく浸潤させた状態でペクチンのアルカリ溶液またはペクチン質のアルカリ抽出液で中和処理することを特徴とする請求項1記載の繊維の加工処理方法。
  3. ペクチン質のアルカリ抽出液が、ペクチン質を含む植物のアルカリ抽出液である請求項1または2に記載する繊維の加工処理方法。
  4. ペクチン質のアルカリ抽出液が、柑橘類のじょうのう膜のアルカリ抽出液であることを特徴とする請求項1または2に記載する繊維の加工処理方法。
  5. 請求項1乃至4のいずれかに記載する方法で製造された繊維。
  6. 請求項5に記載する繊維を用いて製織する工程を有する、繊維製品の製造方法。
  7. 請求項5に記載する繊維を用いて製織した後、糊抜きをすることなく縫製仕上げ処理することを特徴とする、請求項6に記載する繊維製品の製造方法。
  8. 請求項6または7に記載する方法で製造された繊維製品。
  9. 繊維製品がタオルである、請求項8に記載する繊維製品。
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