ところで、従来技術では、被測定者の寝返り等によって体表に対するセンサ装置の密着状態が変化し、測定結果にばらつきが生じることがある。例えば、被測定者の腹部にセンサ装置を取付けた状態で、仰向けに寝たときにはセンサ装置の密着度が低いのに対し、うつぶせに寝たときにはセンサ装置の密着度が高くなる。さらに、うつぶせに寝た場合には、腹部の圧迫によって血流が増加し、この血流の増加に伴って体表温度が上昇する可能性や、電気敷き毛布の利用に伴って体表温度が上昇する可能性もある。この結果、被測定者が一時的にうつぶせに寝たときでも、このときの体表温度の測定結果が上昇してしまい、体表温度および代表温度の測定精度が低下する傾向がある。
また、従来技術では、測定した体表温度の範囲で代表温度を決定している。このとき、従来技術でも、代表温度を用いて基礎体温の変動を把握することはある程度は可能である。しかし、一般的に体表温度は外気や血流等の影響を受け易いため、実測値の最高温度や平均温度を代表温度として決定すると、代表温度には外気等の影響による揺らぎが生じる可能性がある。ここで、高温期と低温期からなる基礎体温の二相性の把握においては、低温期から高温期への+0.3℃の上昇を的確に捉える必要がある。これに対し、従来技術では、高温期での体温の上昇か、計測の揺らぎによる変化かを区別することが難しいという問題がある。
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、時系列の体表温度の検出データに基づいて精度良く体温を推定することができる装着式温度測定装置および体温推定方法を提供することにある。
上述した課題を解決するために請求項1の発明は、被測定者の体表温度を開始時刻から終了時刻までの間に亘って測定した時系列の体表温度データ群を用いて被測定者の体温を推定する装着式温度測定装置であって、既知の被測定者について開始時刻から終了時刻までの間に亘って体表温度データ群を測定すると共にこのときの体温を測定し、この測定した体表温度データ群と体温とを用いて、PLS回帰分析によって、得られた体表温度データ群から体温を逆演算することができる逆演算モデルを構築し、未知の被測定者について開始時刻から終了時刻までの間に亘って体表温度データ群を測定し、未知の被測定者について得られた体表温度データ群と前記逆演算モデルとに基づいて体温を予測する構成としたことにある。
請求項2の発明では、被測定者の身体に常時装着可能なケーシングと、該ケーシングのうち被測定者の体表面側に設けられ体表の温度を検出する体表温度検出手段と、開始時刻から終了時刻までの間に亘って予め決められた時間間隔で該体表温度検出手段による体表温度検出データを読込む読込み手段と、該読込み手段による複数の体表温度検出データを体表温度データ群として記憶する記憶手段と、該記憶手段に記憶した体表温度データ群と前記PLS回帰分析によって構築した逆演算モデルとに基づいて、被測定者の体温を予測する体温予測手段とを備える構成としている。
請求項3の発明では、前記記憶手段は、前記読込み手段による体表温度検出データのうち予め設定された温度および温度変化の許容範囲以内の値を正常な値とし、許容範囲以外の値を異常な値として体表温度データ群を記憶し、該体表温度データ群のうち異常な値の体表温度検出データに対して、主成分分析による推定モデルを用いて正常な値の体表温度検出データを推定し、前記逆演算モデルは、該推定した体表温度検出データを含む体表温度データ群を用いて、PLS回帰分析によって構築する構成としている。
請求項4の発明では、前記ケーシングには、被測定者の体表面とは反対側に位置して外気の温度を検出する外気温度検出手段を設け、前記読込み手段は、開始時刻から終了時刻までの間に亘って予め決められた時間間隔で前記体表温度検出データと一緒に該外気温度検出手段による外気温度検出データを読込み、前記記憶手段は、体表温度データ群に加えて、前記読込み手段による複数の外気温度検出データを外気温度データ群として記憶し、前記逆演算モデルは、既知の被測定者から測定した体表温度データ群と体温とに加えて外気温度データ群を用いて、PLS回帰分析によって、得られた体表温度データ群および外気温度データ群から体温を逆演算することができる構成とし、前記体温予測手段は、該記憶手段に記憶した体表温度データ群および外気温度データ群と前記PLS回帰分析によって構築した逆演算モデルとに基づいて、被測定者の体温を予測する構成としている。
請求項5の発明では、前記記憶手段は、前記読込み手段による外気温度検出データのうち予め設定された温度および温度変化の許容範囲以内の値を正常な値とし、許容範囲以外の値を異常な値として外気温度データ群を記憶し、該外気温度データ群のうち異常な値の外気温度検出データに対して、主成分分析による推定モデルを用いて正常な値の外気温度検出データを推定し、前記逆演算モデルは、該推定した外気温度検出データを含む外気温度データ群を用いて、PLS回帰分析によって構築する構成としている。
請求項6の発明では、前記ケーシングには、被測定者の体表面側のうち外周縁側に位置して被測定者の体表の温度を検出する補助体表温度検出手段を設け、前記読込み手段は、開始時刻から終了時刻までの間に亘って予め決められた時間間隔で前記体表温度検出データと一緒に該補助体表温度検出手段による補助体表温度検出データを読込み、前記記憶手段は、体表温度データ群に加えて、前記読込み手段による複数の補助体表温度検出データを補助体表温度データ群として記憶し、前記逆演算モデルは、既知の被測定者から測定した体表温度データ群と体温とに加えて補助体表温度データ群を用いて、PLS回帰分析によって、得られた体表温度データ群および補助体表温度データ群から体温を逆演算することができる構成とし、前記体温予測手段は、該記憶手段に記憶した体表温度データ群および補助体表温度データ群と前記PLS回帰分析によって構築した逆演算モデルとに基づいて、被測定者の体温を予測する構成としている。
請求項7の発明では、前記記憶手段は、前記読込み手段による補助体表温度検出データのうち予め設定された温度および温度変化の許容範囲以内の値を正常な値とし、許容範囲以外の値を異常な値として補助体表温度データ群を記憶し、該補助体表温度データ群のうち異常な値の補助体表温度検出データに対して、主成分分析による推定モデルを用いて正常な値の補助体表温度検出データを推定し、前記逆演算モデルは、該推定した補助体表温度検出データを含む補助体表温度データ群を用いて、PLS回帰分析によって構築する構成としている。
請求項8の発明では、前記ケーシングには、前記記憶手段に記憶したデータを外部の処理装置に転送する転送手段を設け、前記逆演算モデルは、外部の処理装置を用いて構築する構成としている。
請求項9の発明では、前記逆演算モデルを用いて予測した被測定者の体温を複数日に亘って記憶する体温記憶手段を設け、該体温記憶手段に記憶した複数日の体温に対して高周波な変動成分を除去するローパスフィルタ手段を設ける構成としている。
請求項10の発明では、被測定者の体表温度を開始時刻から終了時刻までの間に亘って測定した時系列の体表温度データ群を用いて被測定者の体温を推定する体温推定方法であって、既知の被測定者について開始時刻から終了時刻までの間に亘って体表温度データ群を測定すると共にこのときの体温を測定し、この測定した体表温度データ群と体温とを用いて、PLS回帰分析によって、得られた体表温度データ群から体温を逆演算することができる逆演算モデルを構築し、未知の被測定者について開始時刻から終了時刻までの間に亘って体表温度データ群を測定し、未知の被測定者について得られた体表温度データ群と前記逆演算モデルとに基づいて体温を予測する構成としている。
請求項1,10の発明によれば、予め測定した体表温度データ群と体温とを用いてPLS(Partial Least Square)回帰分析によって逆演算モデルを構築する。ここで、PLS回帰分析では、n個の体表温度データからなる体表温度データ群(例えばn次元)と例えば口中温度等の体温との間の共分散(Convariance)を最大化するように各空間内で新軸の引き換えを行いながら、その低次元化(例えばn次元よりも低次元(n>m)となるm次元)された新軸を用いて体表温度データ群と体温との間のモデル化を行い、逆演算モデルを構築する。このとき、低次元化された新軸は隠れ軸(Latent Variable)と呼ばれる。
PLS回帰分析には低次元化された隠れ軸を用いるから、体表温度データ群の空間内の共線性(Multi-Collinearity)を効果的に処理することができ、ノイズに対してロバストな(強い)モデルパラメータを用いて逆演算モデルを構築することができる。このため、例えばPCR(Principal Components Regression)回帰分析等の他のモデリング技術に比べて体温の推定能力が高い。
また、PLS回帰分析では、入力データである体表温度データ群の空間内のモデル化も同時に行う。このため、モデリング哲学として、出力となる体温の予測誤差だけでなく、キー(key)情報が一番存在している入力データの空間内のモデル化も同時に行っており、より真に近い逆演算モデルを構築することができる。
さらに、低次元化された隠れ軸を検証することによって、簡易的に変数関係およびサンプル関係を把握することができる。即ち、低次元化された隠れ軸によって、体表温度データ群に含まれる複数の体表温度検出データの中で体温の推定に対する影響が大きいものと、小さいものとを把握することができる。このため、影響の大きい時間帯の体表温度データを測定することによって、正確な体温を推定することができる。これにより、例えば体表温度検出データを記憶するメモリの容量が制限される場合でも、影響の大きい時間帯の体表温度検出データを測定するだけで、正確な体温を推定することができる。
また、逆演算モデルを用いて体表温度データ群から体温を推定するから、例えば毎日の体温に基づいて被測定者の健康管理を行う場合でも容易に利用することができる。さらに、逆演算モデルを用いて、数時間に亘って計測した体表温度検出データから体温を推定するから、口中温度等の体温を直接計測した場合に比べて、計測の揺らぎの影響を抑制することができる。
なお、体温は、口中温度に限らず、例えば脇下の温度でもよく、外気と隔絶された理想的な状態であれば皮膚の温度でもよい。さらに、体温は、計測が可能であれば体内温度であることが望ましい。
請求項2の発明によれば、ケーシングのうち被測定者の体表面側に体表温度検出手段を設けたから、読込み手段は、開始時刻から終了時刻までの間に亘って予め決められた時間間隔で該体表温度検出手段を用いて体表温度検出データを読込む。そして、記憶手段は該読込み手段による複数の体表温度検出データを時系列の体表温度データ群として記憶するから、体温予測手段は、該記憶手段に記憶した体表温度データ群とPLS回帰分析によって構築した逆演算モデルとに基づいて、被測定者の体温を予測することができる。
請求項3の発明によれば、記憶手段は、読込み手段による体表温度検出データのうち予め設定された温度および温度変化の許容範囲以内の値を正常な値とし、許容範囲以外の値を異常な値として体表温度データ群を記憶する。一般に人体の体表温度は34℃程度であり、この温度付近まで上昇しないとケーシング等が十分に温められた熱平衡状態にならない。また、人体の体表温度は40℃を超えることはない。このため、熱平衡状態で体表温度検出手段によって検出される温度が例えば32℃〜40℃の許容範囲を逸脱することはないものと考えられる。体表温度検出データがこの温度の許容範囲以外の値となった場合には、例えば被測定者が身体からケーシングを取外したとき等が考えられる。
また、就寝中は被測定者の体表温度は比較的安定しているから、例えば10分程度の測定間隔で±1℃の許容範囲を超えて変化することはないものと考えられる。体表温度検出データがこの温度変化の許容範囲以外の値となった場合には、例えば被測定者が一時的に起きたときや、被測定者が寝具を跳ね除けたとき等が考えられる。
このように温度の許容範囲以外または温度変化の許容範囲以外の体表温度検出データは、体温の推定値に対する寄与率は低いものと考えられる。また、温度および温度変化の許容範囲以外の体表温度検出データを用いて逆演算モデルと構築すると、体温の推定値の精度が低下する可能性がある。このため、記憶手段は、体表温度検出データのうち許容範囲以外の値を異常な値として体表温度データ群を記憶する。
一方、PLS回帰分析を行うためには、体表温度データ群に含まれる体表温度検出データは全て揃う必要がある。このため、本発明では、既知の被測定者について、測定した体表温度データ群のうち異常な値の体表温度検出データに対して、主成分分析(Principal Component Analysis)による推定モデルを用いて正常な値の体表温度検出データを推定する。そして、この推定した体表温度検出データを含む体表温度データ群を用いて、PLS回帰分析によって逆演算モデルを構築する。この結果、体表温度データ群に異常な値の体表温度検出データを含むときでも、異常な値の影響を受けることなく逆演算モデルを構築することができ、体温の推定値の精度を高めることができる。
また、異常な値の体表温度検出データは、容量の小さなデータ(例えばnull data等)で代用することや削除することが可能である。このため、体表温度データ群の容量を小さくすることができるから、記憶手段で記憶可能な期間を延長することができると共に、記憶したデータを外部に転送する際には、転送するデータの容量を削減でき、データの転送時間を短縮することができる。
請求項4の発明によれば、ケーシングのうち被測定者の体表面とは反対側に外気温度検出手段を設けたから、読込み手段は、開始時刻から終了時刻までの間に亘って予め決められた時間間隔で体表温度検出データと一緒に外気温度検出手段による外気温度検出データを読込む。そして、記憶手段は体表温度データ群に加えて該読込み手段による複数の外気温度検出データを時系列の外気温度データ群として記憶するから、既知の被測定者についての体表温度データ群、外気温度データ群および体温を用いて、PLS回帰分析によって、逆演算モデルを構築する。
このとき、逆演算モデルは、体表温度データ群に加えて、外気温度データ群を用いて構築されるから、例えば体表温度検出データが外気温度の影響を受けるときでも、この外気温度の影響を除去することができる。
ここで、体表温度検出手段および外気温度検出手段はいずれもケーシングに設けられているから、これらの温度検出データは相互に大きな相関性を有する。このように大きな相関性を有する2つの温度検出データに対して、各温度検出データが独立していることを前提とする分析(例えば重回帰分析(Multilinear Regression))を行ってモデルを構築すると、ノイズの影響を受け易くなり、信頼性のあるモデルが構築できない。
これに対し、本発明では、PLS回帰分析を用いて逆演算モデルを構築するから、体表温度データ群、外気温度データ群と体温との間で共分散が最大化し、かつ低次元化しながら、逆演算モデルの構築を行う。このため、体表温度データ群と外気温度データ群との間で大きな相関性を有する場合でも、ノイズに対してロバストな逆演算モデルを構築することができる。
請求項5の発明によれば、記憶手段は、読込み手段による外気温度検出データのうち予め設定された温度および温度変化の許容範囲以内の値を正常な値とし、許容範囲以外の値を異常な値として外気温度データ群を記憶する。このとき、外気温度検出手段もケーシングに設けられているから、外気温度検出手段は、例えば布団内で被測定者の体温によって温められた空気の温度を検出すると共に、ケーシングを介して被測定者の体表温度が熱伝導して被測定者の体表温度付近まで温められる。このため、外気温度検出手段は、体表温度検出手段と比較的近い温度を検出するものと考えられる。
このように外気温度検出手段も体表温度検出手段に近い温度を検出するから、例えば32℃〜40℃程度の温度の許容範囲以外または±1℃/10分程度の温度変化の許容範囲以外の外気温度検出データは、体温の推定値に対する寄与率が低いと考えられる。また、温度および温度変化の許容範囲以外の外気温度検出データを用いて逆演算モデルと構築すると、体温の推定値の精度が低下する可能性がある。このため、記憶手段は、外気温度検出データのうち許容範囲以外の値を異常な値として外気温度データ群を記憶する。
一方、PLS回帰分析を行うためには、外気温度データ群に含まれる外気温度検出データは全て揃う必要がある。このため、本発明では、既知の被測定者について、測定した外気温度データ群のうち異常な値の外気温度検出データに対して、主成分分析(Principal Component Analysis)による推定モデルを用いて正常な値の外気温度検出データを推定する。そして、体表温度データ群、体温に加えて、この推定した外気温度検出データを含む外気温度データ群を用いて、PLS回帰分析によって逆演算モデルを構築する。この結果、外気温度データ群に異常な値の外気温度検出データを含むときでも、異常な値の影響を受けることなく逆演算モデルを構築することができ、体温の推定値の精度を高めることができる。
また、異常な値の外気温度検出データは、容量の小さなデータで代用することや削除することが可能である。このため、例えば記憶手段で長期間に亘るデータを保存する場合やデータを外部に転送する場合には、外気温度データ群の容量を削減することができる。
請求項6の発明によれば、ケーシングには被測定者の体表面側のうち外周縁側に位置して被測定者の体表の温度を検出する補助体表温度検出手段を設けたから、読込み手段は、開始時刻から終了時刻までの間に亘って予め決められた時間間隔で体表温度検出データと一緒に補助体表温度検出手段による補助体表温度検出データを読込む。そして、記憶手段は体表温度データ群に加えて該読込み手段による複数の補助体表温度検出データを時系列の補助体表温度データ群として記憶するから、既知の被測定者についての体表温度データ群、補助体表温度データ群および体温を用いて、PLS回帰分析によって、逆演算モデルを構築する。
このとき、逆演算モデルは、体表温度データ群に加えて、補助体表温度データ群を用いて構築されるから、例えば体表温度検出データが外気温度の影響を受けるときでも、この外気温度の影響を除去することができる。即ち、補助体表温度検出手段は、ケーシングの外周縁側に位置しているから、例えばケーシングの中央側に位置する体表温度検出手段に比べて外気温度の影響を受け易い。このため、補助体表温度検出データは体表温度検出データに比べて外気を反映した値となるから、逆演算モデルは、補助体表温度検出データによって、外気温度の影響を相殺することができる。
ここで、体表温度検出手段および補助体表温度検出手段はいずれもケーシングに設けられているから、これらの温度検出データは相互に大きな相関性を有する。このように大きな相関性を有する2つの温度検出データに対して、各温度検出データが独立していることを前提とする分析(例えば重回帰分析)を行ってモデルを構築すると、ノイズの影響を受け易くなり、信頼性のあるモデルが構築できない。
これに対し、本発明では、PLS回帰分析を用いて逆演算モデルを構築するから、体表温度データ群、補助体表温度データ群と体温との間で共分散が最大化し、かつ低次元化しながら、逆演算モデルの構築を行う。このため、体表温度データ群と補助体表温度データ群との間で大きな相関性を有する場合でも、ノイズに対してロバストな逆演算モデルを構築することができる。
請求項7の発明によれば、記憶手段は、読込み手段による補助体表温度検出データのうち予め設定された温度および温度変化の許容範囲以内の値を正常な値とし、許容範囲以外の値を異常な値として補助体表温度データ群を記憶する。このとき、補助体表温度検出手段もケーシングに設けられているから、補助体表温度検出手段は、体表温度検出手段と同様に、ケーシングのうち被測定者の体表面側に設けられているから、補助体表温度検出手段は、体表温度検出手段と比較的近い温度を検出するものと考えられる。
このように補助体表温度検出手段も体表温度検出手段に近い温度を検出するから、例えば32℃〜40℃程度の温度の許容範囲以外または±1℃/10分程度の温度変化の許容範囲以外の補助体表温度検出データは、体温の推定値に対する寄与率が低いと考えられる。また、温度および温度変化の許容範囲以外の補助体表温度検出データを用いて逆演算モデルと構築すると、体温の推定値の精度が低下する可能性がある。このため、記憶手段は、補助体表温度検出データのうち許容範囲以外の値を異常な値として補助体表温度データ群を記憶する。
一方、PLS回帰分析を行うためには、補助体表温度データ群に含まれる補助体表温度検出データは全て揃う必要がある。このため、本発明では、既知の被測定者について、測定した補助体表温度データ群のうち異常な値の補助体表温度検出データに対して、主成分分析による推定モデルを用いて正常な値の補助体表温度検出データを推定する。そして、体表温度データ群、体温に加えて、この推定した補助体表温度検出データを含む補助体表温度データ群を用いて、PLS回帰分析によって逆演算モデルを構築する。この結果、補助体表温度データ群に異常な値の補助体表温度検出データを含むときでも、異常な値の影響を受けることなく逆演算モデルを構築することができ、体温の推定値の精度を高めることができる。
また、異常な値の補助体表温度検出データは、容量の小さなデータで代用することや削除することが可能である。このため、例えば記憶手段で長期間に亘るデータを保存する場合やデータを外部に転送する場合には、補助体表温度データ群の容量を削減することができる。
請求項8の発明によれば、ケーシングには記憶手段に記憶したデータを外部の処理装置に転送する転送手段を設け、逆演算モデルは、外部の処理装置を用いて構築する構成としている。ここで、例えば女性の基礎体温の変動周期を把握するために、就寝中の数時間の体表温度を10分間隔で測定した体表温度データ群を用いて体温を精度良く推定する場合には、少なくとも3周期分の温度検出データを用いて逆演算モデルを構築するのが好ましい。また、逆演算モデルを特定の個人ではなく、不特定の人に適用するためには、複数名の温度検出データを用いて逆演算モデルを構築するのが好ましい。この場合、被測定者に挿着する小型のケーシング内に設けられた制御回路をなすマイクロコンピュータ等ではPLS回帰分析を用いて逆演算モデルを構築するのは難しい。
これに対し、本発明では、有線方式、無線方式等の転送手段を用いて記憶手段に記憶した体表温度検出データ等をサーバコンピュータ等の外部の処理装置に転送する。このため、処理装置は、大量の温度検出データを演算処理し、逆演算モデルを速やかに構築することができる。
なお、構築した逆演算モデルは、そのまま外部の処理装置に設けてもよい。この場合、例えば未知の被測定者は、起床後に転送手段を用いて記憶手段に記憶した体表温度データ等を外部の処理装置に転送する。これにより、外部の処理装置は、逆演算モデルを用いて当日の体温を推定し、この推定結果を被測定者がアクセス可能なホームページ内に蓄積する。この結果、被測定者は、外部の処理装置に作成されたホームページにアクセスすることによって、当日の体温を確認することができる。また、外部の処理装置は、予め登録された被測定者の電子メールのアドレスに向けて、推定した体温を送信してもよい。
さらに、構築した逆演算モデルは、ケーシング内の制御回路等に設けてもよい。この場合、ケーシング内の制御回路では、単純な行列計算を行うだけで足りるため、小型の制御回路でも体温の推定演算を行うことができる。この結果、制御回路は、ケーシングに設けられた表示器に当日の体温の推定結果を表示することができるから、被測定者は体温を速やかに確認することができる。
請求項9の発明によれば、体温記憶手段に記憶した複数日の体温に対して高周波な変動成分を除去するローパスフィルタ手段を設ける構成としている。このため、逆演算モデルを用いて推定した体温に誤差が含まれるときでも、ローパスフィルタ手段は、この誤差に基づく体温の高周波な変動成分を除去することができる。この結果、例えば女性の基礎体温は略1ヶ月周期で変動するのに対し、このような低周波な体温の変動を明確化することができ、高温期と低温期とが入れ替わる時期を精度良く把握することができる。
なお、体温記憶手段およびローパスフィルタ手段は、逆演算モデルと同様に、例えば外部の処理装置に設ける構成としてもよく、ケーシング内の制御回路等に設ける構成としてもよい。
以下、本発明の実施の形態による装着式温度測定装置を添付図面に従って詳細に説明する。
まず、図1ないし図11は第1の実施の形態を示し、図において、1は後述する外部の処理装置13と一緒に装着式温度測定装置を構成するウエアラブルセンサ装置(以下、センサ装置1という)で、該センサ装置1は、後述のケーシング2、体表温度検出部3、補助体表温度検出部4、外気温度検出部5、コントロールユニット7、表示部11等によって大略構成されている。
2はセンサ装置1の本体(主支持体)をなすケーシングで、該ケーシング2は、図1ないし図4に示すように例えば樹脂材料を用いて略長円形(小判形)の箱形状に形成され、その内部には後述の回路基板6等が収容されている。また、ケーシング2のうち被測定者Hの体表面側(正面側)には、2個の略円形状に貫通した開口2A,2Bが設けられている。ここで、開口2Aはケーシング2の中央側に位置し、開口2Bはケーシング2の外周縁側に位置している。
3は体表の温度を検出する体表温度検出部(体表温度検出手段)で、該体表温度検出部3は、図2に示すように、ケーシング2の中央側に位置する開口2Aに取付けられている。また、体表温度検出部3は、例えばサーミスタ等からなる測温素子と、該測温素子を覆う金属製のカバーとによって構成されている。そして、体表温度検出部3はケーシング2のうち被測定者Hの体表面側に配置されるから、被測定者Hの体表面にカバーが接触し、体表温度がカバーを通じて測温素子に熱伝導する。これにより、体表温度検出部3は、測温素子によって被測定者Hの体表温度に応じた信号を出力する。
なお、体表温度検出部3は、被測定者Hの体表面に接触して体表温度を直接的に検出する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば体表温度検出部3と被測定者Hの体表面との間に下着等を挟む場合には、体表温度検出部3は、下着等を介して被測定者Hの体表温度を間接的に検出する構成としてもよい。即ち、体表温度検出部3は、被測定者Hの皮膚表面の絶対温度を検出する必要はなく、皮膚表面の温度に対応して変化する相対的な温度を検出すれば足りる。従って、毎日の計測条件がほぼ一定であれば、例えば下着1枚を挟んで体表温度検出部3を被測定者Hの体表面に密着させる構成としてもよい。
4は外気に影響を受けた体表の温度を補助的に検出する補助体表温度検出部(補助体表温度検出手段)で、該補助体表温度検出部4は、図2に示すように、ケーシング2の外周縁側に位置する開口2Bに取付けられている。また、補助体表温度検出部4は、体表温度検出部3とほぼ同様に、測温素子とカバーとによって構成されている。そして、被測定者Hの体表面にカバーが接触することによって、体表温度がカバーを通じて測温素子に熱伝導する。また、補助体表温度検出部4は、ケーシング2の外周縁側に位置しているから、ケーシング2の中央側に位置する体表温度検出部3に比べて外気温度の影響を受け易い。このため、補助体表温度検出部4は、体表温度検出部3に比べて外気温度を反映した温度を検出し、例えば外気によって体表温度よりも低下した温度に応じた信号を測温素子から出力する。なお、補助体表温度検出部4も、体表温度検出部3と同様に、下着等を挟んだ状態で被測定者Hの体表温度を間接的に検出する構成としてもよい。
5は外気温度を検出する外気温度検出部(外気温度検出手段)で、該外気温度検出部5は、図3および図4に示すように、ケーシング2のうち被測定者Hの体表面とは反対側(背面側)に位置して、後述する表示部11の裏面に取付けられている。また、外気温度検出部5は、体表温度検出部3とほぼ同様に、測温素子とカバーとによって構成されている。但し、外気温度検出部5は、体表温度検出部3とは異なり、ケーシング2の内部に配置されている。また、外気温度検出部5と体表温度検出部3、補助体表温度検出部4との間には、後述の回路基板6が配置されている。そして、外気温度検出部5は、ケーシング2の背面側に位置しているから、ケーシング2を介して外気温度を検出し、外気温度に応じた信号を測温素子から出力する。
6はケーシング2の内部に収容された回路基板で、該回路基板6には、図5に示すようにマイクロコンピュータ等からなる読込み手段としてのコントロールユニット7が搭載されている。そして、コントロールユニット7は、その入力側が体表温度検出部3、補助体表温度検出部4および外気温度検出部5に接続されると共に、その出力側が後述の表示部11に接続されている。また、コントロールユニット7には記憶手段として例えばROM、RAM等からなる記憶部8が設けられている。
ここで、記憶部8には、コントロールユニット7を作動させるプログラムと該プログラムで使用する開始時刻t1、終了時刻t2、時間間隔Δtが予め格納されると共に、コントロールユニット7の作動によって後述の体表温度T1、補助体表温度T2、外気温度T3が記憶される構成となっている。
このとき、開始時刻t1と終了時刻t2は就寝中の時刻として例えば午前0時(t1=0:00am)と午前6時(t2=6:00am)とにそれぞれ設定され、時間間隔Δtは例えば10分程度の値に設定される。なお、開始時刻t1、終了時刻t2は、被測定者Hが例えば夜間勤務者であれば、その就寝の開始時刻および終了時刻に設定されるものである。また、時間間隔Δtも、10分に限らず、例えば3〜20分程度の間で測定条件等に応じて適宜設定されるものである。
また、コントロールユニット7は、時刻を計時するタイマ9を有すると共に、例えば2個のボタンスイッチ10A,10Bからなるスイッチ部10が接続されている。そして、コントロールユニット7は、ケーシング2に搭載されたコイン型リチウム電池等の電源7Aによって駆動し、スイッチ部10を操作することによって記憶部8からプログラムを読出して作動する。これにより、コントロールユニット7は、タイマ9による時刻が開始時刻t1に達すると、開始時刻t1から終了時刻t2までの間に亘って一定の時間間隔Δt毎に体表温度検出部3、補助体表温度検出部4、外気温度検出部5から検出温度に応じた体表温度検出データD1、補助体表温度検出データD2、外気温度検出データD3を読込む。
そして、コントロールユニット7は、これらの温度検出データD1〜D3を記憶部8に順次記憶する。これにより、記憶部8には、開始時刻t1から終了時刻t2までの複数の体表温度検出データD1からなる時系列の体表温度データ群Dg1、複数の補助体表温度検出データD2からなる時系列の補助体表温度データ群Dg2、および複数の外気温度検出データD3からなる時系列の外気温度データ群Dg3が記憶される。
また、記憶部8は、コントロールユニット7による温度検出データD1〜D3のうち予め設定された温度の許容範囲(例えば32℃〜40℃)以内の値で、かつ温度変化の許容範囲(例えば±1℃/10分)以内の値を正常な値とし、許容範囲以外の値を異常な値として各温度データ群Dg1〜Dg3を記憶する。具体的には、正常な値は温度検出データD1〜D3をそのまま記憶し、異常な値は欠損データ(例えば正常な値と識別可能なエラーデータ)が記憶される。
ここで、一般に人体の体表温度は34℃程度であり、この温度付近まで上昇しないとケーシング2等が十分に温められた熱平衡状態にならない。また、人体の体表温度は40℃を超えることはない。このため、温度の許容範囲は、熱平衡状態で各温度検出部3〜5によって検出される温度が例えば32℃〜40℃の範囲を逸脱することはないとの考えに基づいて決められている。また、就寝中は被測定者の体表温度は比較的安定している。このため、温度変化の許容範囲は、例えば10分程度の時間間隔Δtの前,後で±1℃の許容範囲を超えて変化することはないとの考えに基づいて決められている。
なお、温度の許容範囲および温度変化の許容範囲は、例示した値に限らず、測定条件等を考慮して適宜設定してもよい。
また、温度検出データD1〜D3は、検出した温度T1〜T3そのものでもよく、例えば予め設定された基準温度数値T0と温度T1〜T3との差分値でもよい。この場合、基準温度数値T0は、データ容量を削減する意味から、例えば体表温度T1の平均値(例えば34℃)等に設定するのが好ましい。
11はケーシング2の背面側に設けられた液晶画面等からなる表示部で、該表示部11はコントロールユニット7に接続され、例えばコントロールユニット7の駆動状態を表示する。また、表示部11は、記憶部8に記憶した温度検出データD1〜D3を後述する外部の処理装置13に転送する転送手段を構成し、スイッチ部10を操作することによって、例えばQRコード(登録商標)等の2次元コードを表示する。ここで、この2次元コードは、記憶部8に記憶した1日分(1晩分)の温度検出データD1〜D3およびデータのURL(Uniform Resource Locator)等の送信先アドレスの情報を含む。このため、被測定者Hは、2次元コードの読取り機能を有する携帯電話PT等を使用することによって、携帯電話PT内に2次元コード内の情報を読み込む。これにより、被測定者Hは、図6に示すように、インターネット等を介して携帯電話PTを外部の処理装置13にアクセスし、処理装置13に向けて温度検出データD1〜D3を転送することができる。
なお、転送手段は、表示部11による2次元コード表示を用いる構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、コントロールユニット7と携帯電話PTとの間を例えば有線方式または無線方式を用いて接続するコネクタ等の接続部を設け、該接続部によって転送手段を構成してもよい。
12はケーシング2を被測定者Hに取付ける装着手段としてのクリップで、該クリップ12は、ケーシング2の中央側に位置して可撓性をもって帯状をなして上部(外部)に向けて延びると共に、その先端が衣服等を挟持可能な構成となっている。このため、クリップ12は、図1に示すように、ショーツ等の下着を挟むことによって、センサ装置1を被測定者Hの腹部に固定する。
なお、センサ装置1は被測定者Hの腹部に限らず、例えば被測定者Hの胸部に固定する構成としてもよい。この場合、クリップ12は、就寝時に着用する下着等に取付けるものである。
13は図6に示すようにセンサ装置1によって計測した温度検出データD1〜D3を用いて被測定者Hの体温T4を予測する体温予測手段としての処理装置で、該処理装置13は、例えばサーバコンピュータ等によって構成されている。
また、処理装置13は、既知の被測定者Hについて測定した温度データ群Dg1〜Dg3および体温データD4(口中温度)を用いて、PLS回帰分析によって、得られた温度データ群Dg1〜Dg3から体温T4を逆演算することができる逆演算モデルBを構築する。
具体的には、例えば複数名の既知の被測定者Hについて、センサ装置1を用いて、温度データ群Dg1〜Dg3を測定すると共に、起床時に当日の体温T4として口中温度を体温計等を用いて測定し、体温データD4として記録する。処理装置13は、このようにして得られた温度データ群Dg1〜Dg3および体温データD4に対して、後述するPLS回帰分析を行い、温度データ群Dg1〜Dg3から体温T4を逆演算する逆演算モデルBを構築する。
そして、逆演算モデルBの構築後は、処理装置13は、逆演算モデルBを用いて未知の被測定者Hから送られてくる温度データ群Dg1〜Dg3から体温T4を予測し、体温の推定値T4′を算出する。また、処理装置13は、算出した推定値T4′を数日〜数ヶ月間に亘って記憶(蓄積)する体温記憶手段としての体温記憶部13Aを備えている。さらに、処理装置13は、体温記憶部13Aに記憶した体温の推定値T4′を被測定者H毎に表示可能なホームページを備えている。
このため、処理装置13のホームページに対して被測定者Hが例えば携帯電話PTを用いてアクセスすると、被測定者Hの要求に応じて、体温記憶部13Aに記憶した体温の推定値T4′を、携帯電話PT、コンピュータに表示する。これにより、携帯電話PT等の画面には、例えば温度データ群Dg1〜Dg3の測定日に対応した体温の推定値T4′が表示されると共に、1ヶ月間の体温の推定値T4′が表示される。
なお、被測定者Hは携帯電話PTに限らず、各種の携帯端末、コンピュータ等を用いて処理装置13にアクセスする構成としてもよい。また、処理装置13は、予め登録されたメールアドレスに向けて、体温の推定値T4′を送信する構成としてもよい。
本実施の形態による装着式温度測定装置は上述のような構成を有するもので、次に、PLS回帰分析を用いた逆演算モデルBの構築方法について説明する。
まず、複数名の既知の被測定者H1〜Hnについて、センサ装置1を用いて体表温度T1、補助体表温度T2および外気温度T3を測定し、それぞれの時系列の温度データ群Dg1〜Dg3を記憶する。また、これらの温度データ群Dg1〜Dg3を測定した日の体温T4として、起床時の口中温度を体温計等を用いて測定し、記録する。そして、このような温度データ群Dg1〜Dg3および体温T4の測定を例えば3ヶ月に亘って行う。
次に、図7に示すように、被測定者H1について、各測定日毎に温度データ群Dg1〜Dg3を列方向に並べると共に、測定日順に行方向に並べる。被測定者H2〜Hnについても同様な作業を行い、全ての被測定者H1〜Hnについての温度データ群Dg1〜Dg3を用いて、時系列のデータポイント数×測定サンプル数の温度データ群行列Xを構成する。このとき、測定サンプル数は、被測定者H1〜Hnの人数と測定日との積となる。一方、体温データD4は、温度データ群Dg1〜Dg3の測定日毎に並べて、1(測定日の体温の数)×測定サンプル数の体温データ行列Yを構成する。
次に、温度データ群行列Xの各項目(各検出時刻毎の温度検出データD1〜D3)および体温データ行列Yの各項目(体温データD4)について、以下に示す数1の式を用いてスケール化(Mean Centering and Unit variance scaling)を行う。
このとき、各項目の平均値および標準偏差の具体例として、例えば午前1時40分の体表温度検出データD1では、複数の測定日と複数名の被測定者に対しての平均値(例えば35.845℃)および標準偏差(例えば0.603)となる。同様に、他の測定時刻の体表温度検出データD1に対する平均値および標準偏差も求めることができ、補助体表温度検出データD2、外気温度検出データD3、体温データD4についても、平均値および標準偏差を求めることができる。このため、これらの平均値および標準偏差を用いて、行列X,Yの各項目についてスケール前(Scale前)の値からスケール後(Scale後)の値を演算する。
次に、PLS回帰分析では、スケール化した後の温度データ群行列Xおよび体温データ行列Yが以下の数2〜数4に示す関係を満足するものとする。
ここで、Tはスコア行列、W*はローディングウエイト行列(Loading Weight Matrix)、PはXローディング行列、QはYローディング行列をそれぞれ示している。また、Eは温度データ群の残差行列(時系列のデータポイント数×測定サンプル数の行列)、Fは体温データの残差行列(1×測定サンプル数の行列)を示している。また、上付き記号(superscript)Tは転置行列を示している。
温度データ群行列Xと体温データ行列Yとの共分散が最大で、各隠れ軸(スコア行列Tの列)が互いに直交すると共に、残差行列E,Fが最小となるとの条件に基づいて、ローディング行列P,Q,W*を求めることができる。この結果、数4の式からスコア行列Tを求めることができるから、未知の被測定者Hの温度データ群Dg1〜Dg3からなる温度データ群行列Xnew(時系列のデータポイント数×1の行列)に対して、体温の推定値Y′(Y′=T4′)は以下の数5の式に基づいて算出することができる。
この結果、未知の被測定者Hについて、温度データ群Dg1〜Dg3からなる温度データ群行列Xnewから体温T4を予測する逆演算モデルB(B=W*・QT)を構築することができる。
なお、隠れ軸の数は、例えばリーブ・ワン・アウト法(leave-one-out validation)を用いて決定する。具体的には、逆演算モデルBの構築に用いたトレーニングセットとなる温度データ群行列Xおよび体温データ行列Yのうち、1つのサンプル(例えば被測定者H1の任意の測定日の温度データ群Dg1〜Dg3および体温データD4)を一時的に除外して、残余のサンプルから一時的な逆演算モデルを構築する。この一時的な逆演算モデルから、除外された温度データ群Dg1〜Dg3を用いて体温を推定し、この推定値と既知の体温データD4との残差(推定誤差)を求める。次に、除外したサンプルをトレーニングセットに戻し、他のサンプルを除外して同様の作業を行う。そして、この作業を全てのサンプルについて繰り返し、全ての推定誤差の総和を求める。これらの推定誤差の総和の演算を、隠れ軸の数を変化させる毎に行うと、このような推定誤差の総和が最小となる隠れ軸の数が分かる。これにより、隠れ軸の数を決定することができる。
以上のように、PLS回帰分析によって逆演算モデルBを構築する際には、既知の被測定者H1〜Hnについて温度データ群Dg1〜Dg3からなる温度データ群行列Xは全ての温度検出データD1〜D3が揃う必要がある。一方、センサ装置1は、温度検出データD1〜D3のうち予め設定された温度の許容範囲(例えば32℃〜40℃)以内の値で、かつ温度変化の許容範囲(例えば±1℃/10分)以内の値を正常な値とし、許容範囲以外の値を異常な値として各温度データ群Dg1〜Dg3を記憶する。このため、温度データ群Dg1〜Dg3には欠損データが含まれており、このままでは逆演算モデルBを構築することができない。
そこで、本実施の形態では、温度データ群Dg1〜Dg3には異常な値の温度検出データD1〜D3に対して、主成分分析による推定モデルを用いて正常な値を推定し、この推定値を用いて欠損データを補完している。
このため、次に、温度データ群Dg1〜Dg3中の欠損データの補完処理について説明する。
まず、正常な値の温度検出データD1〜D3に対して、欠損データの割合が多過ぎると、正常な値を推定することができなくなる。このため、欠損データの割合が60%を超えるサンプル(温度データ群Dg1〜Dg3およびこのときの体温データD4)は削除する。
また、各温度データ群Dg1〜Dg3のうち開始時刻t1付近の時間帯および終了時刻t2付近の時間帯は、欠損データが多い。この理由は、開始時刻t1付近の時間帯については、センサ装置1の温度検出部3〜5が十分に温められていないと考えられる。また、終了時刻t2付近の時間帯については、起床直前に伴って寝返り等が多くなるためと考えられる。このため、各温度データ群Dg1〜Dg3のうち開始時刻t1付近の時間帯および終了時刻t2付近の時間帯の温度検出データD1〜D3は削除した。
この結果、図7に示すように、逆演算モデルBの構築および体温T4の推定値Y′の算出には、体表温度データ群Dg1は例えば午前1時40分(1:40am)から午前5時30分(5:30am)までの体表温度検出データD1を用い、補助体表温度データ群Dg2は例えば午前1時30分(1:30am)から午前4時50分(4:50am)までの補助体表温度検出データD2を用い、外気温度データ群Dg1は例えば午前2時10分(2:10am)から午前3時20分(3:20am)までの外気温度検出データD3を用いた。
以上により、温度データ群Dg1〜Dg3中の欠損データの割合は5%程度となった。この状態で、図8に示す温度データ群Dg1〜Dg3中の欠損データの補完処理を行った。
まず、ステップ1では、欠損データ部分に初期値を代入し、欠損データを補った温度データ群行列X(温度データ群Dg1〜Dg3)を構成する。このとき、初期値としては、欠損データに対応する温度検出データD1〜D3の平均値またはNIPALS(繰り返しアルゴリズム)のSCP(Single Component Projection)による推定値を用いる。
次に、ステップ2では、欠損データを補った温度データ群行列Xを用いて主成分分析を行い、以下の数6に示すPCA(Principal Component Analysis)モデルを構築する。
ここで、数2の式と同様に、Tはスコア行列、PはXローディング行列をそれぞれ示している。このとき、スコア行列T、Xローディング行列Pは、温度データ群行列Xの共分散が最大となると共に、各隠れ軸(スコア行列Tの列)が互いに直交するとの条件に基づいて、ローディング行列Pおよびスコア行列Tを求めることができる。
次に、ステップ3では、PCAモデルが構築できたら、数6に示すように、該PCAモデルを用いて温度データ群行列の推定値X′を算出する。
次に、ステップ4では、温度データ群行列Xと推定値X′とのうち欠損データ箇所の収束性を検討する。そして、各欠損データ箇所の推定値の変動が所定のしきい値よりも小さい場合には、欠損データの推定値を記憶して処理を終了する。
一方、各欠損データ箇所の推定値の変動が所定のしきい値よりも大きい場合には、ステップ5に移って欠損データ箇所をステップ3で算出した推定値X′のデータに置き換えて、ステップ2以降の処理を繰り返す。これにより、欠損データを適切な推定値X′で補完することができる。
以上のような欠損データの補完処理を行った後に、PLS回帰分析を行うことによって、逆演算モデルBを構築することができる。次に、実際に逆演算モデルBを構築して体温の推定値T4′を演算した。
ここで、既知の65名の女性の被測定者H1〜H65にセンサ装置1を装着してもらい、6ヶ月間に亘って温度データ群Dg1〜Dg3および体温データD4(口中温度)を収集した。
最初に、これら全てのサンプル(温度データ群Dg1〜Dg3および体温データD4)を用いて逆演算モデルBを構築した。しかし、逆演算モデルBの構築に用いたデータ(トレーニングデータ)を用いて推定誤差を検討したところ、約±0.3〜0.4℃の推定誤差をもつ結果となり、精度が悪くなった。これは被測定者H1〜H65毎にセンサ装置1の装着状況や口中温度の測定精度が異なり、欠損データの多い被測性者や比較的精度の低い被測性者のデータ等が外乱として作用するためと考えられる。
このため、例えば1ヶ月程度の間に高温期と低温期とを周期的に繰り返す再現性が高い体温データD4、即ち基礎体温の周期性が明確な体温データD4が得られた3名の被測定者H2,H13,H20を特定し、この3名の被測定者H2,H13,H20についての温度データ群Dg1〜Dg3および体温データD4を用いて逆演算モデルBを構築した。他の被測定者のデータについては、この逆演算モデルBを用いて体温T4を推定演算し、逆演算モデルBの正当性のチェックに用いた。
このとき、温度データ群行列X(温度データ群Dg1〜Dg3)は、10分間隔の時系列の温度検出データD1〜D3によって構成されるため、例えば53次元のデータである。これに対し、本実施の形態では、この53次元の温度データ群行列XをPLS回帰分析によって10本の隠れ軸による新次元軸(10次元)に引き換えることによって、温度データ群行列XによるX空間の約88%を説明することができ、体温データ行列YによるY空間の約50%を説明することができた。この結果、3名の被測定者H2,H13,H20によるデータを用いた逆演算モデルBでは、トレーニングデータに対する推定誤差が約±0.2℃程度となり、推定精度を高めることができた。
図9に逆演算モデルBを用いてトレーニングデータ(被測定者H2,H13,H20の温度データ群Dg1〜Dg3)から算出した体温の推定値T4′を示す。この結果から、逆演算モデルBを用いて算出した体温の推定値T4′も、実際の体温T4とほぼ同様に高温期と低温期とを有する周期性をもって変化することが分かる。また、体温の推定値T4′の誤差は、略±0.2℃程度となることも分かる。
また、図10に逆演算モデルBを用いてバリデーションデータ(被測定者H2,H13,H20以外の被測定者の温度データ群Dg1〜Dg3)から算出した体温の推定値T4′を示す。この結果から、体温の推定値T4′の誤差は少し増加するものの、トレーニングデータ以外に対しても、逆演算モデルBを用いて算出した体温の推定値T4′は、実際の体温T4とほぼ同様に高温期と低温期とを有する周期性をもって変化することが分かる。
図11に逆演算モデルBのモデル係数(スコア行列Tの係数)を示す。この係数は、体温の推定値T4′に対する各温度検出データ群Dg1〜Dg3の影響の度合いに対応している。この結果から、体表温度検出データD1は午前2時40分と午前5時の係数が大きく、補助体表温度検出データD2は午前2時30分の係数が大きく、外気温度検出データD3は午前2時20分の係数が大きくなっている。これにより、午前2時20分から午前2時40分の時間帯における各温度検出データD1〜D3が支配的に寄与していることが分かる。このため、センサ装置1の記憶部8の容量が制限される場合等には、午前2〜午前3時頃の温度検出データD1〜D3を記憶すれば、推定精度を維持しつつ有効な逆演算モデルBが構築できることが分かる。
かくして、本実施の形態によれば、予め測定した温度データ群Dg1〜Dg3と体温データD4とを用いてPLS回帰分析によって逆演算モデルBを構築したから、温度データ群Dg1〜Dg3からなる例えば53次元の温度データ群行列Xを10次元に低次元化された隠れ軸を用いて表すことができる。このため、温度データ群行列Xの空間内の共線性を効果的に処理することができ、ノイズに対してロバストなモデルパラメータを用いて逆演算モデルBを構築することができる。この結果、例えばPCR回帰分析等の他のモデリング技術に比べて体温の推定能力を高めることができる。
また、PLS回帰分析では、入力データである温度データ群行列X(温度データ群Dg1〜Dg3)の空間内のモデル化も同時に行う。このため、モデリング哲学として、出力となる体温の予測誤差だけでなく、重要なキー情報が一番存在している温度データ群行列Xの空間内のモデル化も同時に行っており、より真に近い逆演算モデルBを構築することができる。
さらに、低次元化された隠れ軸を検証することによって、簡易的に変数関係およびサンプル関係を把握することができる。即ち、低次元化された隠れ軸によって、温度データ群行列Xに含まれる複数の温度検出データD1〜D3の中で体温の推定に対する影響が大きいものと、小さいものとを把握することができる。このため、影響の大きい時間帯の温度検出データD1〜D3を測定することによって、正確な体温を推定することができる。これにより、例えば温度検出データD1〜D3を記憶する記憶部8の容量が制限される場合でも、影響の大きい時間帯の温度検出データD1〜D3を測定するだけで、正確な体温を推定することができる。
また、逆演算モデルBを用いて温度データ群Dg1〜Dg3から体温T4を推定するから、例えば毎日の体温に基づいて被測定者の健康管理を行う場合でも容易に利用することができる。さらに、逆演算モデルBを用いて、数時間に亘って計測した温度検出データD1〜D3から体温T4を推定するから、口中温度等の体温を直接計測した場合に比べて、計測の揺らぎの影響を抑制することができる。
また、本実施の形態では、記憶部8は、各温度検出データD1〜D3のうち予め設定された温度の許容範囲以内の値で、かつ温度変化の許容範囲以内の値を正常な値とし、温度または温度変化のうち少なくともいずれか一方で許容範囲以外の値を異常な値として体表温度データ群を記憶する。このため、逆演算モデルBを構築するときに、温度の許容範囲以外または温度変化の許容範囲以外の温度検出データD1〜D3を用いることがなくなる。この結果、温度検出データD1〜D3の異常な値が逆演算モデルBに影響することがなくなり、逆演算モデルBによる体温の推定値T4′の精度を高めることができる。
一方、PLS回帰分析を行うためには、温度データ群Dg1〜Dg3に含まれる温度検出データD1〜D3は全て揃う必要がある。このため、本実施の形態では、既知の被測定者について、測定した温度データ群Dg1〜Dg3のうち異常な値の温度検出データD1〜D3に対して、主成分分析による推定モデル(PCAモデル)を用いて正常な値の温度検出データD1〜D3を推定する。そして、この推定した温度検出データD1〜D3を含む温度データ群Dg1〜Dg3を用いて、PLS回帰分析によって逆演算モデルBを構築する。この結果、温度データ群Dg1〜Dg3に異常な値の温度検出データD1〜D3を含むときでも、異常な値の影響を受けることなく逆演算モデルBを構築することができ、体温の推定値T4′の精度を高めることができる。
また、本実施の形態では、センサ装置1には、体表温度検出部3に加えて、補助体表温度検出部4および外気温度検出部5を設けたから、記憶部8には、体表温度データ群Dg1に加えて、補助体表温度データ群Dg2および外気温度データ群Dg3を記憶することができる。そして、既知の被測定者についての温度データ群Dg1〜Dg3および体温データD4を用いて、PLS回帰分析によって、逆演算モデルBを構築する。
このとき、各温度データ群Dg1〜Dg3に対する外気温度の影響が相互に異なるのに加え、逆演算モデルBは、体表温度データ群Dg1に加えて、補助体表温度データ群Dg2および外気温度データ群Dg3を用いて構築する。このため、例えば体表温度検出データD1が外気温度の影響を受けるときでも、逆演算モデルBは、この外気温度の影響を除去して、体温の推定値T4′を演算することができる。
ここで、体表温度検出部3、補助体表温度検出部4および外気温度検出部5はいずれもケーシング2に設けられているから、これらの温度検出データD1〜D3は相互に大きな相関性を有する。これに対し、本実施の形態では、PLS回帰分析を用いて逆演算モデルBを構築するから、温度データ群Dg1〜Dg3と体温データD4との間で共分散が最大化し、かつ低次元化しながら、逆演算モデルBの構築を行う。このため、温度データ群Dg1〜Dg3の間で相互に大きな相関性を有する場合でも、ノイズに対してロバストな逆演算モデルBを構築することができる。
また、本実施の形態では、センサ装置1のケーシング2には記憶部8に記憶した温度検出データD1〜D3を外部の処理装置13に転送する表示部11を設ける構成とした。このため、表示部11に表示した2次元コードを用いて、記憶部8内の温度検出データD1〜D3を外部の処理装置13に転送し、該処理装置13を用いて、逆演算モデルBを構築することができる。
このため、例えば複数名の被測定者について数ヶ月間に亘る温度検出データD1〜D3を用いて逆演算モデルBを構築するときでも、処理装置13は、これらの大量の温度検出データD1〜D3を大容量の体温記憶部13A内に蓄積し、高速に演算処理することができ、逆演算モデルBを速やかに構築することができる。
なお、前記第1の実施の形態では、逆演算モデルBは外部の処理装置13内に設ける構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば逆演算モデルBを処理装置13で構築した後に、センサ装置1のコントロールユニット7に移植する構成としてもよい。この場合、ケーシング2内のコントロールユニット7では、単純な行列計算を行うだけで足りるため、小型のコントロールユニット7でも体温T4の推定演算を行うことができる。この結果、コントロールユニット7は、ケーシング2に設けられた表示部11に温度検出データD1〜D3を測定した当日の体温T4の推定結果を表示することができるから、被測定者Hは体温を速やかに確認することができる。
また、前記第1の実施の形態では、センサ装置1には体表温度検出部3に加えて補助体表温度検出部4および外気温度検出部5を設け、これらによる温度検出データD1〜D3を用いて逆演算モデルBを構築する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えばセンサ装置1の外気温度検出部5を省き、温度検出データD1,D2を用いて逆演算モデルを構築する構成としてもよい。この場合、第1の実施の形態と同じ3名の被測定者H2,H13,H20の温度検出データD1,D2を用いて逆演算モデルを構築したところ、温度データ群行列XによるX空間の約91%を説明することができたものの、体温データ行列YによるY空間の約44%しか説明できず、Y空間の説明率が低下した。これに伴い、推定精度も約6%低下した。
また、センサ装置1の補助体表温度検出部4を省き、温度検出データD1,D3を用いて逆演算モデルを構築する構成としてもよい。この場合、第1の実施の形態と同じ3名の被測定者H2,H13,H20の温度検出データD1,D3を用いて逆演算モデルを構築したところ、温度データ群行列XによるX空間の約91%を説明することができたものの、体温データ行列YによるY空間の約43%しか説明できず、Y空間の説明率が低下した。これに伴い、推定精度も約7%低下した。
さらに、センサ装置1の体表温度検出部3を省き、補助体表温度検出データD2と外気温度検出データD3とを用いて逆演算モデルを構築する構成としてもよい。この構成では、補助体表温度検出部4は、体表温度検出手段として使用する。この場合、第1の実施の形態と同じ3名の被測定者H2,H13,H20の温度検出データD1,D3を用いて逆演算モデルを構築したところ、温度データ群行列XによるX空間の約92%を説明することができたものの、体温データ行列YによるY空間の約44%しか説明できず、Y空間の説明率が低下した。これに伴い、推定精度も約6%低下した。
このように、3個の温度検出部3〜5を用いた場合に比べて、2個の温度検出部を用いた場合には、いずれも推定精度が約6%程度低下する。しかし、例えば体表温度検出データD1のみを用いた場合と比べたときには、推定精度を高めることができ、外気温度等の影響を除去するには有効である。
また、本発明では、例えばセンサ装置1から補助体表温度検出部4および外気温度検出部5を省き、温度検出データD1のみを用いて逆演算モデルを構築する構成としてもよい。この場合、逆演算モデルによる推定精度は低下するものの、製造コストを低くすることができる。
また、前記第1の実施の形態では、例えば3名の被測定者の温度検出データD1〜D3を用いて逆演算モデルBを構築する構成としたが、4名以上の被測定者の温度検出データを用いて逆演算モデルを構築してもよく、1名または2名の被測定者の温度検出データを用いて逆演算モデルを構築してもよい。複数名の被測定者の温度検出データを用いた場合には、逆演算モデルの汎用性が高くなる。
また、逆演算モデルBを構築するための既知の被測定者と、逆演算モデルBを用いて体温を推定する未知の被測定者とは、異なる人物でもよく、同一人物でもよい。即ち、既知の被測定者とは、逆演算モデルを構築するために、体表温度検出データ等に加えて体温(口中温度)を測定した被測定者を示すものである。一方、未知の被測定者とは、体温を除いて体表温度検出データ等を測定した被測定者を示すものである。
特に、逆演算モデルBを構築するための既知の被測定者と、逆演算モデルBを用いて体温を推定する未知の被測定者とが、1名の同一人物である場合には、汎用性は低下するものの、当該被測定者については、逆演算モデルの推定精度が向上する。このため、例えば夜間勤務者のように、他の人物と生活パターンが著しく異なる人には、その人に特有な逆演算モデルを構築するのが有効である。
次に、図12および図13は本発明の第2の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、処理装置には、体温記憶部に記憶した複数日の体温に対して高周波な変動成分を除去するローパスフィルタ部を設ける構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
21は処理装置13に設けられたローパスフィルタ部(ローパスフィルタ手段)で、該ローパスフィルタ部21は、処理装置13に搭載されたソフトウエア、または処理装置13に接続されたデジタルフィルタ回路等のハードウエアによって構成されている。そして、ローパスフィルタ部21は、体温記憶部13A内に記憶した複数日の体温の推定値T4′に対して、高温期と低温期からなる基礎体温の周期性を残しつつ、高周波な温度の変動成分を除去する処理を施す。即ち、例えば1周期が10〜20日以上となるような低周波(長周期)な温度の変動成分は残し、これよりも高周波(短周期)な温度の変動成分を除去する。これにより、図13に示すように、逆演算モデルBが1〜3日程度の間の急激に変化する体温の推定値T4′を算出するときでも、高温期と低温期とが略1ヶ月単位で繰り返す基礎体温の周期性を明確化することができる。
かくして、このように構成される第2の実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態では、ローパスフィルタ部21を用いて、体温記憶部13Aに記憶した複数日の体温に対して高周波な変動成分を除去する構成としたから、逆演算モデルBを用いて推定した体温に誤差が含まれるときでも、ローパスフィルタ部21は、この誤差に基づく体温の高周波な変動成分を除去することができる。この結果、例えば女性の基礎体温は略1ヶ月周期で変動するのに対し、このような低周波な体温の変動を明確化することができ、高温期と低温期とが入れ替わる時期を精度良く把握することができる。
次に、図14および図15は本発明の第3の実施の形態を示し、本実施の形態の特徴は、処理装置は、被測定者の身体状態を円グラフを用いて表示すると共に、被測定者の体温の推定値T4′を文字記号を用いた棒グラフで表示する構成としたことにある。なお、本実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
図14は処理装置13によってホームページ内に表示された円グラフ31を示している。ここで、円グラフ31は8等分の扇形をなす第1〜第8ステージ31A〜31Hに分割され、半分の第1〜第4ステージ31A〜31Dは低温期に対応し、残余の第5〜第8ステージ31E〜31Hは高温期に対応している。これにより、円グラフ31は、被測定者が低温期および高温期(第1〜第8ステージ31A〜31H)のいずれのステージに該当するのかを表示するものである。
そして、円グラフ31の1周分が基礎体温の1周期に該当するものとし、1サイクル(1周)は基本的に28日としている。このとき、第1,第2,第5,第6ステージ31A,31B,31E,31Fはそれぞれ4日が割り当てられ、第3,第4,第7,第8ステージ31C,31D,31G,31Hはそれぞれ3日が割り当てられる。また、第1ステージ31Aの初日は、被測定者が申告する月経開始連絡に基づいて決定する。
また、低温期の基準温度は、月経開始日から4〜11日目までの平均値とする。一方、高温期の基準温度は、低温期の基準温度に対して所定の温度差(例えば0.3℃)を加えた温度とする。
そして、処理装置13は、原則として第1ステージ31Aの初日から経過した日数に応じて第1〜第4ステージ31A〜31Dのいずれに該当するかを判定し、該当するステージ中に例えば文字記号(例えば星印)を表示する。なお、該当するステージは、文字記号に限らず、例えば点滅等によって表示する構成としてもよい。
但し、低温期の期間には個人差があるので、12日目以降の体温の推定値T4′が低温期の基準温度に比べて0.3℃よりも上昇した日を第5ステージ31Eに突入したものと判定し、第5ステージ31E中に文字記号を表示する。逆に、12日目以降であっても低温期の基準温度に比べて0.3℃まで上昇しないときには、第4ステージ31Dに留まっているものとして、第4ステージ31D中に文字記号を表示する。特に、15日目以降でも低温期の基準温度に比べて0.3℃の上昇が確認できないときには、低温期が長引いていると判断し、その旨を表示する。
また、第5ステージ31Eに突入した後は、処理装置13は、再び経過した日数に応じて第5〜第8ステージ31E〜31Hのいずれに該当するかを判定し、該当するステージ中に例えば文字記号(例えば星印)を表示する。
また、処理装置13は、第5ステージ31Eの初日から15日以上が経過しても次回の月経連絡が無い場合は、体温の推定値T4′が低温期の基準温度よりも低下したか否かを確認する。そして、体温の推定値T4′が低温期の基準温度よりも低下した場合には、処理装置13は、第1ステージ31Aに突入したものと判定し、第1ステージ31A中に文字記号を表示すると共に、月経開始の連絡を忘れている可能性がある旨を表示する。
一方、体温の推定値T4′が低温期の基準温度まで低下しておらず、高温期にあると考えられる場合には、処理装置13は、第8ステージ31H中に文字記号を表示すると共に、妊娠の可能性がある旨を表示する。
図15は処理装置13によって円グラフ31とは別個にホームページ内に表示された棒グラフ32を示している。ここで、棒グラフ32は被測定者が申告する月経開始連絡に基づいて月経開始日を決定し、その日付けと一緒に月経開始を示す記号(例えば丸記号)で表示する。
また、処理装置13は、過去3周期分の体温の推定値T4′の平均値Mを演算する。そして、体温の推定値T4′が平均値Mよりも例えば0.1℃未満の範囲で高いときには、高温期であることを示す文字記号(例えば黒星印)を1個表示する。また、体温の推定値T4′が平均値Mよりも例えば0.1℃以上0.2℃未満の範囲で高いときには、高温期であることを示す文字記号を2個表示する。さらに、体温の推定値T4′が平均値Mよりも例えば0.2℃以上高いときには、高温期であることを示す文字記号を3個表示する。
一方、体温の推定値T4′が平均値Mと同一または平均値Mよりも例えば0.1℃未満の範囲で低いときには、低温期であることを示す文字記号(例えば白星印)を1個表示する。また、体温の推定値T4′が平均値Mよりも例えば0.1℃以上0.2℃未満の範囲で低いときには、低温期であることを示す文字記号を2個表示する。さらに、体温の推定値T4′が平均値Mよりも例えば0.2℃以上低いときには、低温期であることを示す文字記号を3個表示する。
これにより、折れ線グラフによる表示を用いた場合に比べて、例えば携帯電話PTの画面でも見易く表示することができる。
なお、高温期を示す文字記号を赤色、低温期を示す文字記号を青色等のように、色分け表示する構成としてもよい。
また、被測定者に当日の体調(良、悪)を申告してもらい、棒グラフ32には、日付に対応した位置に、申告された当日の体調を簡単な文字記号を用いて表示する構成としてもよい。
かくして、このように構成される第3の実施の形態でも、第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、処理装置13は、被測定者の身体状態を示す円グラフ31と、被測定者の体温の推定値T4′を示す棒グラフ32とを表示する構成としたから、被測定者が円グラフ31、棒グラフ32を目視することによって、当日の身体状態等を容易に把握することができる。
なお、本実施の形態では、第1の実施の形態による逆演算モデルBを用いて演算した体温の推定値T4′を用いて、円グラフ31、棒グラフ32を作成する構成とした。しかし、本発明はこれに限らず、例えば第2の実施の形態のように、被測定者の体温の推定値に対してローパスフィルタ処理を行った後に、円グラフ、棒グラフを作成する構成としてもよい。