JP2008127637A - 耐パウダリング性と加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板 - Google Patents

耐パウダリング性と加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板 Download PDF

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Abstract

【課題】耐パウダリング性に優れると共に、良好な強度−延性バランスを発揮し得る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供する。
【解決手段】本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板は、所定の化学成分組成を有し、金属組織がフェライトとマルテンサイトの混合組織を主体とする複合組織鋼板を素地鋼板とし、該素地鋼板の少なくとも片面にFe−Zn合金めっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、前記Fe−Zn合金めっき層の表面からめっき層深さ方向に300Å以上の厚みで、Al(原子%)/Zn(原子%)≧0.10である領域が存在するFe−Zn合金めっき層を少なくとも鋼板の片面に有し、前記めっき層の表面からめっき層深さ方向に300Å以上の厚みで、Al(原子%)/Zn(原子%)≧0.10である領域が存在する。
【選択図】なし

Description

本発明は、耐パウダリング性と加工性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものであり、特に上記各特性が要求される自動車の骨格部材の素材として有用な高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関するものである。
合金化溶融亜鉛めっき鋼板(以下、「GA鋼板」と略称することがある)は、溶融亜鉛めっき鋼板(GI鋼板)を加熱して素地鋼板中のFeをめっき層へ拡散させ、FeとZnを合金化することによって得られる。GA鋼板は、強度、溶接性、塗装後の耐食性などに優れるため、例えば、自動車の骨格部材(衝突時のエネルギーを吸収する役割を担うメンバーなど)などに使用されている。
このようなGA鋼板は、成形時にめっき層が粉状に剥離する、いわゆるパウダリングが問題になることがある。また近年、自動車用鋼板は、軽量化による燃費の向上、かつ衝突安全性の向上のために高張力化が図られている。この高張力化によりプレス時の成形条件が厳しくなるため、めっき層の受けるダメージがさらに大きくなり、パウダリングがより生じ易くなっている。
GA鋼板の耐パウダリング性を向上させるには、例えばFe−Zn合金めっき層中の鉄濃度を低くし、もろいΓ相を低減することなどが広く知られている。その他にも例えば特許文献1では、めっき層中のζ相、δ1相およびΓ相の量を調整すると共に、素地鉄(素地鋼板)界面でのΓ相の形成を抑制し、さらに表面粗度を低く抑えることにより、耐パウダリング性および耐フレーキング性を向上させ得ることが開示されている。しかしこれらの手段では、近年の高張力鋼板のめっき層に対して、耐パウダリング性の向上効果がまだ不充分である。
また特許文献2では、プレス成形性(プレス成形時の摺動性)および化成処理性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板として、めっき層表面に厚さ10nm(100Å)以上の酸化物層が形成された平坦部を有し、かつ前記平坦部表層におけるZn/Al比(原子%)が2.0〜8.0であるものを提示している。しかし特許文献2の発明は、あくまでGAのプレス成形性および化成処理性を向上させることを目的としており、該発明は耐パウダリング性を考慮していない。
上記特許文献2の発明において、プレス成形性を向上させる作用を有する厚い「酸化物層」とは、「Zn、Fe、Al及びその他の金属元素の1種以上の酸化物および/または水酸化物などからなる層」を意味し、一方、該発明の「表層におけるZn/Al比」は、プレス成形性と化成処理性とを両立させるための酸化物層表層の凹凸の指標として用いられている。この発明において、この「Zn/Al比」は、あくまでめっき層平坦部における表層の値であり、「酸化物層」全体、即ち酸化物層の最深部までが、この比を有するとは考えられていない。即ち該発明は、「酸化物層」の厚さについては考慮しているが、その特定の「Zn/Al比」を有する領域の厚さについては何ら考慮していない。
ところで、自動車用鋼板においては、複雑形状のプレス加工が施されることが多いため、更にGA鋼板には加工性(伸び)にも優れたものであることが要求される。ところが鋼板の強度を高めると、加工性が劣化するため、強度と加工性の両立(強度−延性バランスの向上)が求められている。
溶融亜鉛メッキ鋼板を高強度化した際の加工性を高める技術として、特許文献3には、鋼板の金属組織を、フェライト素地にマルテンサイトを主とする低温変態生成相を含む混合組織にすればよいことが開示されている。しかしこの文献に開示されている鋼板の強度は600MPa程度であり、更なる高強度化が求められている。
一方特許文献4には、成型性を高めた強度800MPa以上の高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板が記載されている。この文献には、鋼板を高強度化する他、鋼板の金属組織をフェライト・マルテンサイトの二相組織にするために、Siを0.4%以上添加することが記載されている。しかしSiと強度−延性バランスの関係については注目されておらず、強度−延性バランスが劣化することがあった。
特許第2695259号公報 特開2002−302753号公報 特公昭62−40405号公報 特開平9−13147号公報
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、耐パウダリング性に優れると共に、良好な強度−延性バランスを発揮し得る高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することにある。
前記目的を達成し得た本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板とは、C:0.05〜0.3%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:0.5〜3.0%、Mn:1.0〜3.0%、Al:0.005〜2.5%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、金属組織がフェライトとマルテンサイトの混合組織を主体とする複合組織鋼板を素地鋼板とし、該素地鋼板の少なくとも片面にFe−Zn合金めっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、前記Fe−Zn合金めっき層の表面からめっき層深さ方向に300Å以上の厚みで、Al(原子%)/Zn(原子%)≧0.10である領域が存在することを特徴とする。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、めっき層がSi系酸化物を含み、且つ該酸化物中のSi含有量が0.1%以上であることが好ましい。
本発明の上記高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板においては、用いる素地鋼板は、更に他の元素として、(a)Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)、(b)Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)およびV:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、(c)Cu:3%以下(0%を含まない)および/またはNi:3%以下(0%を含まない)、(d)B:0.01%以下(0%を含まない)、(e)Ca:0.01%以下(0%を含まない)、等を含有するものであることも有用であり、含有させる成分に応じて素地鋼板(即ち、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板)の特性が更に改善される。
上記素地鋼板が、更に他の元素として、Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)を含有する場合には、素地鋼板中のSi含有量が下記(1)式を満足するものであることが好ましい。
α−4.1≦[Si]≦α−2.4 …(1)
但し、
α=6.9×([C]+[Mn]/6+[Cr]/5+[Mo]/4)1/2
であり、式中、[ ]は、鋼板に含まれる各元素の量(質量%)を示している。
上記素地鋼板が、更に他の元素として、Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)と、Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)およびV:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有する場合には、素地鋼板中のSi含有量が下記(2)式を満足するものであることが好ましい。
β−4.1≦[Si]≦β−2.4 …(2)
但し、
β=6.9×([C]+[Mn]/6+[Cr]/5+[Mo]/4+[Ti]/15+[Nb]/17+[V]/14)1/2
であり、式中、[ ]は、鋼板に含まれる各元素の量(質量%)を示している。
一方、本発明で用いる素地鋼板は、金属組織が、フェライトとマルテンサイトの混合組織を主体とする複合組織(Dual−phase:以下「DP」と略称することがある)鋼板であるが、この複合組織は、フェライト:5〜90体積%、マルテンサイト:5〜90体積%であり、フェライトとマルテンサイトの合計量が70体積%以上であり、且つ残留オーステナイトが10体積%以下のものが好ましい。
合金化溶融亜鉛めっきでは、通常、Alを約0.1質量%含有するZnめっき浴を用いるため、形成されためっき層中にはAlが含まれる。このめっき層中のAlは、めっき層の凝固過程で表層に酸化物として濃化する傾向がある。このAl系酸化物は、通常のGAでは、めっき層表層に約100〜200Åの厚さで存在し、また表層から深さ方向に進むに従い、その濃度が低下していく。
本発明者らは、このAl系酸化物に着目し、めっき層の特性との関係を鋭意研究した結果、Al系酸化物を一定量以上含有する領域をめっき層表層に厚く存在させることにより、耐パウダリング性を向上させ得ることを見出した。そして表層のAl(原子%)/Zn(原子%)≧0.10である領域(以下、「Al濃化表層領域」と略称することがある。)を、めっき層の表面からめっき層深さ方向に300Å以上の厚さで存在させることにより、優れた耐パウダリング性を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得ることができた。
また用いる素地鋼板として上記のようにSi含有量を高めたDP鋼板とすることによって、素地鋼板の強度−延性バランスが良好となり、この素地鋼板の特性がそのまま合金化後も有効に引き継がれ、良好な強度−延性バランスを発揮し得る合金化溶融亜鉛めっき鋼板が実現できた。
本発明のGA鋼板は、めっき層の表面からめっき層深さ方向に300Å以上の厚みで、Al(原子%)/Zn(原子%)≧0.10である領域が存在することに要旨がある。Al濃化表層領域の厚みは、耐パウダリング性の観点から、好ましくは400Å以上、より好ましくは500Å以上である。このAl濃化表層領域は、耐パウダリング性の観点からは厚いほど好ましいが、厚くなり過ぎるとめっき鋼板の化成処理性や溶接性などが低下するおそれがあるため、該領域の厚みは、好ましくは1500Å以下、より好ましくは1000Å以下である。
同様に耐パウダリング性および化成処理性などを考慮して、Al(原子%)/Zn(原子%)は、好ましくは0.15以上、より好ましくは0.20以上であり、好ましくは0.40以下、より好ましくは0.30以下である。
本発明のGA鋼板は、厚さ300Å以上のAl濃化表層領域を有するFe−Zn合金めっき層を、少なくとも素地鋼板の片面に有する。本発明において、めっき付着量には、特に限定はない。但し、めっき付着量が少ないほうが、Al濃化表層領域を厚く有するめっき鋼板と、そうでない鋼板との耐パウダリング性の違いが明確に表れる。一方、めっき付着量があまりにも少ないと耐食性が不充分になる。このような観点から、めっき付着量は、好ましくは20g/m2以上、より好ましくは40g/m2以上であり、好ましくは80g/m2以下、より好ましくは60g/m2以下である。
Al濃化表層領域を厚くすることにより耐パウダリング性が向上するメカニズムは明らかではないが、以下のように推定することができる。但し本発明は、以下の推定メカニズムに限定されない。
Al系酸化物は硬いため、これが表層に厚く存在することにより、成形時の摺動抵抗が低下してめっき層が受けるせん断応力が低減される結果、めっきの剥離(パウダリング)が抑えられることが考えられる。さらにパウダリングの原因となるクラックが発生しても、該クラックは、硬いAl系酸化物を含有するAl濃化表層領域に主として伝播し、めっき層の深さ方向への伝播が低減される結果、素地鋼板界面からのめっきの剥離が抑えられることが考えられる。
Al濃化表層領域が300Å以上である本発明のGA鋼板は、まず酸化帯で鋼板表面を加熱酸化し、次いでこれを還元帯で還元焼鈍した後、鋼板をZnめっき浴中に浸漬する方法(以下、「酸化還元めっき法」と略称することがある。)において、酸化還元条件を調節することにより製造することができる。また生産性の観点から、酸化還元めっき法を、連続亜鉛めっきライン(CGL)で行うことが好ましい。
酸化還元めっき法では、還元により、鋼板表面に表面積が大きいポーラスなFe層が生ずる。このようなポーラスなFe層が厚く形成した鋼板は、その表面積が大きいため、Znめっき浴中に約0.1質量%程度でしか存在しないAlとも多く反応して、Fe−Al系金属間化合物を多量に形成することができる。その結果、めっき層中に多量のAlが取り込まれ、この多量のAlがめっき凝固過程で表面に濃化して酸化するので、厚いAl濃化表層領域を有するGAを製造することができる。
多量のAlを取り込ませるだけなら、単に、Znめっき浴中のAl量を増大させることも考えられる。しかしZnめっき浴中のAl量を増大させると、めっき層と素地鋼板との界面にFe−Al系金属間化合物が厚く形成され、これが、めっき後のFe−Zn合金化を妨げるバリア層として作用し得るので好ましくない。
よって合金化の際にバリア層として悪影響を及ぼす厚いFe−Al系金属間化合物の形成を避けつつ、薄いFe−Al系金属間化合物を多量に形成させて、厚いAl濃化表層領域を形成させるためには、Znめっき浴中のAl量を約0.1質量%程度に保ちながら、酸化還元条件を調節して、ポーラスで厚いFe層を形成させることが好ましい。そのためには、まず酸化工程でFe系酸化物層を厚く形成させる必要がある。具体的には、厚さが3000Å以上のFe系酸化物層を形成することが好ましい。
CGLでの酸化還元めっき法により、厚いFe系酸化物層を形成させるためには、酸化炉(OF)で、鋼板に直接火炎照射して急速酸化を行うことが好ましい。従来のCGLで代表的な、空燃比を低く抑えた弱酸化性雰囲気下の無酸化炉(NOF)で酸化を行う方法でも厚いFe系酸化物層を形成することはできる。具体的には、NOFの長さを延長する、またはライン速度を遅くすることにより、酸化帯であるNOFでの鋼板滞留時間を長くすれば、厚いFe系酸化物層が形成されると考えられる。しかし生産性を考慮すると、厚さ3,000Å以上のFe系酸化物層が形成されるほどNOFを延長する、またはライン速度を低下させることは、実際上困難である。
火炎照射は、鋼板の上面および下面にノズルを向けて配置されたバーナー、特に鋼板の幅方向に伸びたスリットバーナーによる直火方式が好ましい。火炎の酸化領域に鋼板を通過させる際のFe系酸化物層の成長速度(1秒あたりに層厚が増大する速度)を、好ましくは200〜2000Å/秒に調整する。成長速度が200Å/秒未満であると、充分な厚さのFe系酸化物層を速やかに形成することができず、逆に2000Å/秒を超えると、Fe系酸化物層の厚みの制御が難しくなり、均一な層を形成することができなくなるおそれがある。
火炎照射による酸化の前に、素地鋼板を、無酸化帯または還元帯、具体的には空燃比を抑えたNOFで600℃以上の温度に加熱することが好ましい。鋼板温度を徐々に上げて酸化させると、Fe系酸化物層が徐々に成長して酸素の拡散が妨げられる。そこで高温に到達してから酸化させることにより、酸素の拡散が阻害される前に、Fe系酸化物層を、速やかに厚く形成させることができる。OFでの酸化は、OFに入る鋼板温度が600℃以上であり、OFから出る鋼板温度を710℃以上に加熱する条件で行うことが好ましい。
バーナーによる火炎照射で鋼板を酸化する場合、必要に応じて、バーナーの燃焼空気に、酸素および/または水蒸気を投入して、Fe系酸化物層の成長速度を向上させることができる。但し、酸素および/または水蒸気を過剰に投入しても、その効果は飽和し、またこれらの投入にはユーティリティ費用がかかるため、好ましくは燃焼空気量に対して、酸素を20体積%以下、水蒸気を40体積%以下の流量で投入する。
更に、厚いFe系酸化物層を急速かつ均一に形成させるために、NOFにおいて、0.9≦r1<1.00(r1はNOF中での空燃比を表す。)および450≦t1≦1750−1000×r1(t1は、NOF中での鋼板の到達温度(℃)を表す。)の条件下で鋼板を加熱してから、火炎照射を行うOFにおいて、1.00≦r2≦1.35(r2はOF中での空燃比を表す。)で鋼板を酸化させることが好ましい。
本発明のGA鋼板を製造するための好ましいCGLの一態様は、例えば図1に示されるようなものである。まず予熱装置1、次いで無酸化炉(NOF)2で加熱した素地鋼板Sを、酸化炉(OF)3で火炎照射に供することによりFe系酸化物層を形成させる。このFe系酸化物層を、還元帯に相当する還元焼鈍炉(RF)4で、比表面積の高いポーラスなFe層に還元する。次いで鋼板を冷却装置5で冷却してから、溶融亜鉛めっき装置6にてZnめっき浴に浸漬させて、溶融亜鉛めっき鋼板Pを得る。この亜鉛めっき溶融鋼板Pを、合金化炉(図示せず)にて加熱することにより、めっき層を合金化させて、合金化溶融めっき鋼板(GA鋼板)を得ることができる。本発明のGA鋼板を得るには、厚いFe系酸化物層を形成させるために先に詳細に記載した条件が重要であり、その他のCGL条件は、該技術分野で一般的なものを使用することができる。
本発明のGA鋼板の中でも、めっき層表層がδ1相であり、実質的にζ相が存在しないものが好ましい。δ1相に比べて軟らかいζ相が表層に存在すると、Al系酸化物が硬いことに起因する効果が、軟らかいζ相のために相対的に損なわれ、その結果として、Al濃化表層領域が硬いことによる成形時の摺動抵抗を低減する効果、およびクラックが硬いAl濃化表層領域に主に伝播して、深さ方向へのクラック伝播を低減する効果も、相対的に損なわれ得ると考えられる。
めっき表層をζ相が実質的に無いδ1相のみにするためには、めっき層の合金化を促進して、Fe−Zn合金めっき層中のFe量を増やせばよい。まためっき層中のFe濃度勾配を減らすことも有効である。そのための手段の具体例として、Si含有鋼板を使用し、合金化温度を上げることが挙げられる。Si含有鋼板めっきの高温による合金化では、素地鋼板からめっき層へのFe拡散に比べて、めっき下層から上層へのFe拡散が速いため、めっき層中のFe濃度勾配が小さくなる。
また本発明のGA鋼板の中でも、めっき層中にSi系酸化物が存在するものが、より良好な耐パウダリング性を示すために好ましい。Si系酸化物による耐パウダリング性の向上効果のメカニズムは不明であるが、Si系酸化物は硬いので、Al系酸化物と同様に成形時の摺動抵抗を下げること、および成形時に発生したクラックの伝播がSi系酸化物で止まり、めっき層の剥離が抑制されることが考えられる。
Si系酸化物を形成し得るめっき層中のSi含有量は、耐パウダリング性の観点から多いことが望ましい。しかしめっき層中のSi含有量が多すぎても耐パウダリング性の向上効果は飽和し、またSi含有量を増やそうとすると素地鋼板表面のSi濃度が増えてめっき濡れ性に悪影響を及ぼすことがある。よってめっき層中のSi含有量は、好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、さらに好ましくは0.3%以上であり、好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.6%以下、さらに好ましくは0.4%以下である。
合金化溶融亜鉛めっき層が、Si系酸化物を含み、かつSiを0.1%以上含むようにさせるためには、Si含有鋼板、好ましくはSiを0.5〜3.0%以上含有する鋼板を、酸化還元めっき法によりめっきしてから、合金化を行えばよい。酸化還元めっき法では、酸化によりSi系酸化物がまず形成される。これは、酸化還元めっき法で通常採用されるN2−15体積%H2程度の還元雰囲気では還元されず、鋼板中にSi系酸化物のままで残る。そしてこのSi系酸化物が合金化の際に、素地鋼板からめっき層に拡散する。よって通常の条件で酸化還元めっき法を行ってから、合金化した場合、めっき層中に含まれるSiは、全て酸化物の形態で存在すると考えられる。
また酸化還元めっき法でFe系酸化物層をあまりに厚く形成させると、めっき層中のSi含有量が低下する傾向がある。よってめっき層にSi系酸化物を存在させるためには、Fe系酸化物層が厚くなり過ぎないように調整することが好ましい。めっき層で充分なSi含有量を確保するためには、Fe系酸化物層の厚さを、好ましくは13000Å以下、より好ましくは10000Å以下に調整することが推奨される。これは、例えばOFの空燃比や鋼板温度を抑えることなどにより達成することができる。更に、通常の酸化還元法における還元雰囲気下ではSi系酸化物は還元されず逆に酸化されるので、還元温度を上昇させることによって、Si系酸化物を表面濃化(選択酸化)させることができる。その結果、めっき層中のSi含有量も上昇させることができる。
本発明のGA鋼板は、めっき層の組織にも特徴を有するものであり、こうした構成を採用することによって耐パウダリング性が良好になるのであるが、めっきに供する素地鋼板として加工性の観点から下記の構成のものを使用するのが良い。こうした素地鋼板(DP鋼板)を使用することによって、強度−延性バランスに優れたGA鋼板が実現できる。
本発明で用いる素地鋼板は、Siを0.5〜3.0%の範囲で含有するものである。Siは、固溶強化能が大きく、強度を高めるのに作用する元素である。またSi含有量が増加すると、フェライト分率が増大すると共に、低温変態生成相のうちベイナイト変態が抑制され、マルテンサイト組織が得られ易くなる。従って鋼板の金属組織が、フェライトとマルテンサイトの複合組織となり、高強度化と良好な伸び(加工性)を達成できる。Siは0.5%以上であり、好ましくは0.6%以上、より好ましくは0.7%以上である。しかし過剰に含有すると、熱間圧延の際にSiスケールを発生し、鋼板の表面性状を劣化させ、しかも鋼板の化成処理性やめっき付着性も低下させ、不めっきが発生する。またSi含有量が過剰になると、焼鈍の際にオーステナイト相が得られ難くなるため、フェライトとマルテンサイトの混合組織が生成し難くなる。従ってSi含有量は3.0%以下とする必要があり、好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.3%以下である。
本発明で用いる素地鋼板は、Siを0.5〜3.0%の範囲で含有するものであるが、本発明では、Si含有量を、Si以外の合金元素の含有量のうちマルテンサイト相の生成に影響を及ぼす合金元素の含有量に応じて制御することも好ましい。本発明者らが化学成分の異なる鋼板を種々作成し、鋼板の化学成分と機械的特性(即ち、強度−延性バランス)の関係について検討を重ねたところ、鋼中に含まれるSi含有量とマルテンサイト相の生成に影響を及ぼす合金元素の含有量とのバランスを適切に制御すれば、鋼板の機械的特性を向上させることができることが判明した。
マルテンサイト相の生成に影響を及ぼす合金元素とは、C,Mn,Cr,Mo,Ti,Nb,Vであり、素地鋼板がTi,NbおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有しない場合(即ち、基本成分としてC,Mn,Cr,Moを含有する場合)は、鋼中のSi含有量が下記(1)式を満足することが好ましく、鋼板がCr,Moと共に、Ti,NbおよびVよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含有する場合は、鋼中のSi含有量が下記(2)式を満足することが好ましい。
α−4.1≦[Si]≦α−2.4 …(1)
β−4.1≦[Si]≦β−2.4 …(2)
但し、
α=6.9×([C]+[Mn]/6+[Cr]/5+[Mo]/4)1/2
β=6.9×([C]+[Mn]/6+[Cr]/5+[Mo]/4+[Ti]/15+[Nb]/17+[V]/14)1/2
であり、式中、[ ]は、鋼板に含まれる各元素の量(質量%)を示している。
上記C,Mn,CrおよびMoは、マルテンサイト相の生成に影響を及ぼす元素であるが、C,Mn,CrおよびMo含有量に対してSi含有量が少ないとSiの添加効果が発揮されず、一方Si含有量が多いとSiの添加効果が飽和し、何れの場合も機械的特性(強度−延性バランス)が劣化する傾向を示す。
また、上記Ti,NbおよびVは、低温変態生成相のなかでも、中間段階変態組織(例えば、ベイナイトや擬似パーライト)の生成を抑制し、マルテンサイト相を生成させるのに作用する元素であるが、Ti,NbおよびV含有量に対してSi含有量が少ないとSiの添加効果が発揮されず、一方Si含有量が多いとSiの添加効果が飽和し、何れの場合も機械的特性(強度−伸びバランス)が劣化する傾向を示す。
上記(1)式の下限は、好ましくは下記(1a)式であり、より好ましくは下記(1b)式である。一方、上記(1)式の上限は、好ましくは下記(1c)式であり、より好ましくは下記(1d)式である。
α−4.0≦[Si] …(1a)
α−3.65≦[Si] …(1b)
[Si]≦α−2.55 …(1c)
[Si]≦α−2.60 …(1d)
上記(2)式の下限は、好ましくは下記(2a)式であり、より好ましくは下記(2b)式である。一方、上記(2)式の上限は、好ましくは下記(2c)式であり、より好ましくは下記(2d)式である。
β−4.0≦[Si] …(2a)
β−3.8≦[Si] …(2b)
[Si]≦β−2.55 …(2c)
[Si]≦β−2.60 …(2d)
本発明で用いる素地鋼板は、Si以外の基本元素として、C,Mn,Al,PおよびSを含有するものである。各元素の適切な範囲とその限定理由は、以下の通りである。
[C:0.03〜0.3%]
Cは、鋼板の強度(引張強度TS)を590MPa以上に確保するために必要な元素であり、またCは鋼板のマルテンサイト相の生成や形態に影響を与え、伸びに影響を与え、伸びを向上させる元素である。これらの効果を発揮させるためには、C含有量は0.03%以上含有させることが必要であり、好ましくは0.04%以上である。しかしながら、C含有量が過剰になると溶接性が低下するので、0.3%以下とする必要があり、好ましくは0.25%以下である。
[Mn:1.0〜3.0%]
Mnは、鋼板の強度確保のために有効な元素であり、この効果を発揮させるためには、1.0%以上含有させる必要があり、好ましくは1.5%以上である。しかしながら、3.0%を超えて過剰に含有させると、延性(伸び)が劣化することになる。より好ましくは2.8%以下とするのが良い。
[Al:0.005〜0.15%]
Alは、脱酸のために少なくとも0.005%以上含有させる必要がある。好ましくは、0.01%以上含有させるのが良い。しかしながら、Al含有量が過剰になると、コストアップを招くため、0.15%以下とする必要があり、好ましくは0.13%以下である。
[P:0.03%%以下(0%を含まない)]
Pは、過剰に含有されると、溶接性が劣化するので、0.03%以下に抑制する必要がある。
[S:0.01%%以下(0%を含まない)]
Sは、過剰に含有されると、硫化物系介在物が増大して鋼板の強度が劣化するため、0.01%以下に抑制する必要がある。
素地鋼板の好ましい基本成分は、上記の通りであり、残部は鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、例えばN、O、トランプ元素など(例えば、Sn,As,Sb等)が挙げられる。NやOの好ましい範囲は、以下の通りである。
[N:0.01%以下(0%を含まない)]
Nは、鋼中に窒化物を析出させて鋼を強化する元素であるが、Nが過剰に存在すると、窒化物が多量に析出し、却って延性の劣化を引き起こす恐れがある。従ってNは0.01%以下であることが好ましい。
[O:0.01%%以下(0%を含まない)]
Oは、過剰に含有されると、介在物が増大して延性の劣化を引き起こす恐れがある。従ってOは0.01%以下であることが好ましい。
本発明で用いる素地鋼板は、上記基本元素以外に、必要に応じて、更に他の元素として、(a)Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)、(b)Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)およびV:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上、(c)Cu:3%以下(0%を含まない)および/またはNi:3%以下(0%を含まない)、(d)B:0.01%以下(0%を含まない)、(e)Ca:0.01%以下(0%を含まない)、等を含有するものであることも有用であり、含有させる成分に応じて素地鋼板(即ち、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板)の特性が更に改善される。これらの元素を含有する場合の好ましい範囲とその限定理由は、次の通りである。
[Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)]
CrおよびMoは、鋼板の焼入れ性を高め、低温変態生成相のうちマルテンサイトの生成を促進する元素であり、鋼板の高強度化に有効に作用する。こうした効果はその含有量が増加するにつれて増大するが、過剰に含有させてもその効果が飽和し、コスト高となる。従って、CrおよびMoは、いずれも1.0%以下(より好ましくは0.5%以下)とするのが良い。
[Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)およびV:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上]
Ti,NbおよびVは、いずれも中間段階変態組織の生成を抑制する元素である。特にTiは、鋼中に炭化物や窒化物等の析出物を形成して鋼を強化する元素でもある。またTiは結晶粒を微細化して降伏強度を高めるのにも有効に作用する。しかしTiを過剰に含有させると、炭化物が粒界上に多く析出し、局所伸びが低下する。従ってTiは0.2%以下、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.13%以下とする。尚、Tiは鋼中に固溶して冷却過程で中間段階変態組織の生成を抑制し、鋼板の強度−延性バランスを高める効果も有する。
NbとVは、結晶粒を微細化する元素であり、靭性を損なうことなく強度を高める。これらの元素は、上記Tiと同様に、鋼中に固溶して冷却過程で中間段階変態組織の生成を抑制し、鋼板の強度−延性バランスを高める効果も有する。しかし過剰に含有させてもその効果が飽和し、コスト高となる。従ってNbは0.2%以下、好ましくは0.15%以下、より好ましくは0.13%以下であり、Vは0.3%以下、好ましくは0.25%以下、より好ましくは0.2%以下である。尚、Ti,NbおよびVは、夫々単独で含有してもよいし、複数を組み合わせて含有してもよい。
[Cu:3%以下(0%を含まない)および/またはNi:3%以下(0%を含まない)]
CuとNiは、いずれも固溶強化元素であり、鋼板の強度を向上させる作用を有する元素である。また、鋼板の耐食性も向上させる元素である。しかしCuを3%、Niを3%を超えて含有してもその効果は飽和し、コスト高となる。従ってCuは3%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5%以下、更に好ましくは2.0%以下である。Niは3.0%以下であることが好ましく、より好ましくは2.5%以下、更に好ましくは2.0%以下である。CuとNiは、夫々単独で、或いは併用して含有してもよい。尚、CuとNiは、低温変態生成相のうちマルテンサイトの生成を促進する元素であるが、CuとNiが上記範囲内であれば、その効果は軽微なため、上述した最適Si量には影響しない。
[B:0.01%以下(0%を含まない)]
Bは、焼入れ性を高める元素であり、鋼板の強度を向上させる。またMoと併せて含有させることにより圧延後の加速冷却時における焼入れ性が制御されて、鋼板の強度−靭性バランスを最適化する。但し、Bは、中間段階変態組織の生成には殆ど影響せず、上述した最適Si量には影響しない。しかし過剰に含有すると鋼板の靭性が劣化するため、Bは0.01%以下であることが好ましい。より好ましくは0.005%以下である。Bの下限は特に限定されないが、好ましくは0.0005%以上である。
[Ca:0.01%以下(0%を含まない)]
Caは、鋼中硫化物の形態を球状化して、加工性を向上させる元素である。しかし0.01%を超えて含有しても効果が飽和し、経済的に無駄である。従ってCaは0.01%以下であることが好ましく、より好ましくは0.005%以下である。Caの下限は特に限定されないが、好ましくは0.0005%以上である。
本発明で用いる素地鋼板の金属組織は、フェライトとマルテンサイトの混合組織を主体とするものであればよく、金属組織に占めるフェライト分率とマルテンサイトの夫々の分率は特に限定されず、鋼板に要求される強度と伸びのバランスに応じて定めればよい。即ち、フェライト分率(体積率)が高くなると、強度が低下する反面、伸びが向上する傾向があり、マルテンサイトの分率(体積率)が高くなると、強度が向上する反面、伸びが低下する傾向がある。これらの分率として、延性の観点からは、フェライトが5〜90体積%、マルテンサイトが5〜90体積%で、且つフェライトとマルテンサイトの合計量が70%以上であることが好ましく、更に10体積%以下の残留オーステナイト(残留γ)が含まれていても特性が劣化することはない。尚、素地鋼板の金属組織は、板厚の中央部を走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、倍率3000倍で観察すればよい。
本発明で用いる素地鋼板は、上記で規定する要件を満足するものであり、その製造条件は特に限定されないが、例えば下記に示す条件を採用すればよい。
上記成分組成を有するスラブを熱間圧延し、700℃以下で巻き取った後、必要に応じて酸洗し、次いで冷間圧延後、焼鈍ラインまたは連続式溶融亜鉛メッキラインにてAc1点以上の温度で均熱処理後、平均冷却速度1℃/秒以上で冷却すればよい。
熱間圧延は常法に従って行えばよいが、仕上げ温度を確保し、またオーステナイト粒の粗大化を防止するために、加熱温度は1000〜1300℃程度とすればよい。熱間圧延の仕上げ温度は加工性を阻害する集合組織を形成させないように800〜950℃とし、仕上げ圧延後、巻取り開始温度までの平均冷却速度はパーライトの生成を抑制するために30〜120℃/秒とすれば良い。
巻き取り温度は700℃以下とするのがよい。この温度を超えると、鋼板表面に形成されるスケールが厚くなり、酸洗性が劣化する。尚、巻き取り温度の下限は特に限定されないが、低過ぎると低温変態生成相が過剰に生成し、鋼板が硬くなり過ぎて冷間圧延性を低下させる。従って巻き取り温度の下限は250℃とするのがよく、より好ましくは400℃である。
熱間圧延後は、必要に応じて常法に従って酸洗した後、冷間圧延する。圧下率は15%以上とするのがよい。圧下率を15%未満とするには、熱間圧延工程で鋼板の板厚を薄くしなければならず、熱間圧延工程で薄くすると鋼板長さが長くなるため、酸洗に時間がかかり生産性が低下する。
冷間圧延後は、鋼板を連続焼鈍ラインまたは連続式溶融亜鉛メッキラインにて、Ac1点以上のフェライト−オーステナイト二相域、もしくはオーステナイト単相域に加熱保持し、均熱処理すれば良い。
均熱処理温度はAc1点以上とすればよいが、加熱時の金属組織をフェライトとオーステナイトの混合組織とし、マルテンサイトを確実に生成させて加工性を高めるには、Ac1点より50℃程度以上の高い温度で均熱処理することが好ましい。具体的には780℃程度以上である。均熱処理温度の上限は特に限定されないが、オーステナイト粒の粗大化を防止する観点から900℃以下とする。
均熱処理時の保持時間も特に限定されず、例えば10秒程度以上であればよい。均熱処理後は、常温までの平均冷却速度を1℃/秒以上で冷却すれば高強度鋼板(冷延鋼板)を得ることができる。平均冷却速度が1℃/秒未満では冷却中にパーライト組織が生成し、これが最終組織として残って加工性(伸び)を劣化する原因となる。平均冷却速度は5℃/秒以上とすることが好ましい。平均冷却速度の上限は特に規定されないが、鋼板温度の制御のし易さや、設備コストを考えると50℃/秒程度とするのがよい。
上記のような素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっきを形成したGA鋼板を製造するには、下記の手順で行えば良い。まず連続式溶融亜鉛めっきラインにて上記条件で均熱処理した後、めっき浴温度(400〜500℃、好ましくは440〜470℃)まで平均冷却速度1℃/秒以上で冷却した後、溶融亜鉛めっきをすればよい。平均冷却速度が1℃/秒未満では冷却中にパーライト組織が生成し、これが最終組織として残って加工性(伸び)が劣化する原因となる。平均冷却速度は5℃/秒以上とすることが好ましい。平均冷却速度の上限は特に規定されないが、鋼板温度の制御のし易さや、設備コストを考えると50℃/秒程度とするのがよい。
このときのめっき浴の組成は特に限定されず、公知の溶融亜鉛めっき浴を用いればよい。なお、めっき浴中のAl含有量は0.05〜0.2%とすることが好ましい。Alは溶融亜鉛メッキ層の合金化速度を制御するのに作用する元素であり、Alを含有する溶融亜鉛めっき浴中に鋼板を浸漬すると、鋼板の表面(即ち、鋼板と溶融亜鉛めっき層との界面)にFe−Al金属層が形成され、鋼板と亜鉛が直ちに合金化するのを防止することができる。ところがAlが0.05%未満では、Fe−Al合金層が薄すぎるため、鋼板をめっき浴に浸漬すると、鋼板と亜鉛との合金化が直ちに進み易い。そのため合金化処理工程においてメッキ表面まで合金化が完了する前に、Γ相が大きく成長してしまい、耐パウダリング性(耐メッキ剥離性)が低下する。Al含有量はより好ましくは0.07%以上である。しかしAl含有量が0.2%を超えると、Fe−Al合金層が厚くなり過ぎるため、合金化処理工程においてFeとZnの合金化が阻害され、溶融亜鉛めっき層の合金化が遅延する。従って合金化を進行させるには、合金化ラインを長くしたり、高温下での合金化処理を別途行う必要が生じる。Al含有量はより好ましくは0.18%以下である。
溶融亜鉛めっき後は、常温まで平均冷却速度1℃/秒以上で冷却することで、鋼板中のオーステナイトをマルテンサイトに変態させ、フェライトとマルテンサイトを主体とする混合組織を得ることができる。冷却速度が1℃/秒未満では、マルテンサイトが生成し難く、パーライトや中間段階変態組織が生成するおそれがある。平均冷却速度は10℃/秒以上とすることが好ましい。
上記素地鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっきを形成した合金化溶融亜鉛メッキ高強度鋼板を製造するには、上記条件で溶融亜鉛メッキした後、400〜750℃程度(好ましくは500℃〜600℃程度)に加熱して合金化処理すればよい。合金化処理を行う場合の加熱手段は特に限定されず、慣用の種々の方法(例えば、ガス加熱やインダクションヒーター加熱など)を利用できる。
合金化処理後は、常温まで平均冷却速度1℃/秒以上で冷却することで、フェライトとマルテンサイトを主体とする混合組織を得ることができる。
上記のような複合組織鋼板を素地鋼板として用いた合金化溶融亜鉛めっき鋼板では、素地鋼板の引張強度(TS)が590〜1270MPaになる共に、強度と延性のバランスが良好なため、その特性が反映されて合金化溶融亜鉛めっき鋼板も強度と延性のバランスも良好なものとなり、その用途としては自動車の構造部品が適しており、フロントやリア部サイドメンバやクラッシュボックスなどの正突部品をはじめ、センターピラーレインホース(RF)などのピラー類、ルーフレールRF、サイドシル、フロアメンバー、キック部などの車体構成部品、バンパーRFやドアインパクトビームなどの耐衝撃吸収部品として使用できる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
[実施例1]
下記表1は、転炉により溶製した鋼材の化学成分組成を示す。これらは、連続鋳造してスラブとし、1250℃に加熱保持後、仕上げ温度900℃、圧下率:約99%で熱間圧延し、次いで平均冷却速度:50℃/秒で冷却した後、500℃で巻取り、厚さ:2.4mmの熱延鋼板を得た。更に、得られた熱延鋼板を酸洗後、冷間圧延し、厚さ:1.6mmの冷延鋼板を得た。得られた冷延鋼板を、CGLで下記の処理を施し、均熱処理した合金化溶融亜鉛めっき鋼板を得た。
Figure 2008127637
1.合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)の製造
CGLにて、以下に示す条件、および表2に示す酸化炉(OF)の鋼板温度でGAを製造した。
(1)ライン速度:40m/秒
(2)無酸化炉(NOF)
直火火炎バーナー設置タイプ
空燃比(r1):0.95
滞留時間:28秒
(3)酸化炉(OF)
直火火炎バーナー設置タイプ
空燃比(r2):1.30
滞留時間:6秒
(4)還元炉
雰囲気:N2−15体積%H2
鋼板温度:800〜900℃
滞留時間:50秒
(5)めっき浴
浴組成:Zn−0.10質量%Al(Al:有効濃度)
浴温:460℃
侵入鋼板温度:460℃
滞留時間:3.8秒
(6)合金化炉
直火加熱タイプ
合金化炉温度:850〜1100℃
滞留時間:20秒
2.合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)の評価
前記のようにして得られたGA鋼板について、以下のものを評価した。
(1)Al(原子%)/Zn(原子%)≧0.10である領域の厚さ
ESCA(X線電子分光法)により、めっき層表面から50Å/分の速度でArイオンエッチングしながら、50Å間隔でAlおよびZnの原子割合を測定し、Al(原子%)/Zn(原子%)≧0.10である領域の厚さを測定した。
(2)めっき層表層
めっき層表層が、δ1相またはζ相のいずれであるかを、SEM(走査型電子顕微鏡)により、めっき層を断面観察して判断した。
(3)めっき層中のSi系酸化物
めっき層中にSi系酸化物が存在するか否かを、EPMA(電子線マイクロアナリシス)により、めっき層を断面観察して判断した。
(4)めっき層中のFeおよびSi量
めっき層中のFeおよびSi量を、めっき層を塩酸で溶解させて、ICP(誘導結合高周波プラズマ発光分光分析)により定量した。
(5)耐パウダリング性
GAを、以下の条件でビード付きU曲げビード成形し、成形品の側壁外側にテープ剥離試験を行った。次いで剥離しためっき層を塩酸に溶解させて、ICPによりめっき剥離量を定量し、以下の基準で評価した。
(i)成形条件
プレスの種類:クランクプレス
供試GAの大きさ:幅40mm×長さ250mm
金型:ビードr:5mm(半丸ビード)、パンチ肩半径:5mm、ダイ肩半径:5mm、成形高さ:65mm
(ii)評価基準
めっき剥離量: 4g/m2未満:◎
4g/m2以上10g/m2未満:○
10g/m2以上15g/m2未満:△
15g/m2以上 :×
これらの結果を、素地鋼板のSi含有量およびOFでの鋼板温度(入温度、出温度)と共に、下記表2に示す。
Figure 2008127637
表2の結果から分かるように、Fe系酸化物層を厚く形成させるためにOFの鋼板温度を高く設定して製造したGA鋼板No.1、2、4〜14、16、18〜26、28(OFの入温度:600℃以上、出温度:710℃以上)は、300Å以上のAl濃化表層領域(Al(原子%)/Zn(原子%) ≧0.10)が形成され、Al濃化表層領域が300Å未満のものに比べて、耐パウダリング性が良好である。また、めっき層中にSi系酸化物を含み、且つSi含有量が0.1%以上のものは、さらに良好な耐パウダリング性を示すこともわかる。
前記のようにして得られたGA鋼板について、母材(素地鋼板)特性の観点から、金属組織、機械的性質を下記の方法によって調査した。
[金属組織]
各鋼板の板厚中央部を走査型電子顕微鏡(SEM)にて倍率:3000倍で観察し、フェライトとマルテンサイトの体積率を求めた。また残留γ量については、飽和磁化測定法(R&D 神戸製鋼技報 Vol.52、No.3を参照)で体積率を測定した。
[機械的特性]
上記GA鋼板からJIS Z2201の5号試験片を切り出し、引張試験(歪速度:10mm/秒)を行って引張強さ(TS)、伸び(EL)および強度−延性バランス(TS×EL)を測定した。このときの伸び(EL)の評価基準は下記の通りである。
[伸びの評価基準]
(a)590MPa級(590MPa≦TS<780MPa) :EL≧28%
(b)780MPa級(780MPa≦TS<980MPa) :EL≧20%
(c)980MPa級(980MPa≦TS<1180MPa) :EL≧15%
(d)1180MPa級(1180MPa≦TS<1270MPa):EL≧9%
これらの結果を、(1)式または(2)式の適正範囲および鋼板中のSi含有量と共に下記表3に示す。
Figure 2008127637
表3から明らかなように、GA鋼板No.1〜20のいずれの鋼板も、フェライトとマルテンサイトを主体とする複合組織で構成されており、良好な伸び(EL)を示していることが分かる。
しかしながら、化学成分が本発明で規定される範囲から外れるもの(GA鋼板No.21〜28)では、強度(TS)若しくは伸び(EL)のいずれかの値が低く、強度−延性バランス(TS×EL)が悪くなっている。
GA鋼板No.21,22は、C含有量が少ない例であり、十分な強度を確保できていない。GA鋼板No.23,24は、Si含有量が多い例であり、フェライト分率が高くなり過ぎて、十分な強度が得られていない。
GA鋼板No.25,26は、Mn含有量が少ない例であり、固溶量が少なくなって強度が低くなっている。GA鋼板No.27,28は、Mn含有量が多い例であり、強度は十分に高いが、伸びが著しく低くなっている。
また、上記GA鋼板No.1〜20のなかで、フェライトとマルテンサイトの合計量が70体積%以上のもの、より良好な伸び(EL)を示していることがわかる。更に、Si含有量が(1)式または(2)式の適正範囲を満足するものでは、伸び(EL)が更に改善されることが分かる。
本発明の合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA鋼板)を製造するための溶融亜鉛めっき設備の一態様を示す概略図である。
符号の説明
1 予熱装置
2 無酸化炉(NOF)
3 酸化炉(OF)
4 還元焼鈍炉(RF)
5 冷却装置
6 溶融亜鉛めっき装置(めっき浴)
S 素地鋼板
P 溶融亜鉛めっき鋼板

Claims (10)

  1. C:0.05〜0.3%(「質量%」の意味、化学成分組成について以下同じ)、Si:0.5〜3.0%、Mn:1.0〜3.0%、Al:0.005〜2.5%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.01%以下(0%を含まない)を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、金属組織がフェライトとマルテンサイトの混合組織を主体とする複合組織鋼板を素地鋼板とし、該素地鋼板の少なくとも片面にFe−Zn合金めっき層を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板であり、
    前記Fe−Zn合金めっき層の表面からめっき層深さ方向に300Å以上の厚みで、Al(原子%)/Zn(原子%)≧0.10である領域が存在することを特徴とする耐パウダリング性と加工性に優れた高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  2. 前記めっき層が、Si系酸化物を含み、且つ該酸化物中のSi含有量が0.1%以上である請求項1に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  3. 前記素地鋼板は、更に他の元素として、Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1または2に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  4. 素地鋼板中のSi含有量が下記(1)式を満足するものである請求項3に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
    α−4.1≦[Si]≦α−2.4 …(1)
    但し、
    α=6.9×([C]+[Mn]/6+[Cr]/5+[Mo]/4)1/2
    であり、式中、[ ]は、鋼板に含まれる各元素の量(質量%)を示している。
  5. 前記素地鋼板は、更に他の元素として、Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)およびV:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有するものである請求項1〜4のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  6. 前記素地鋼板は、更に他の元素として、Cr:1%以下(0%を含まない)および/またはMo:1%以下(0%を含まない)と、Ti:0.2%以下(0%を含まない)、Nb:0.2%以下(0%を含まない)およびV:0.3%以下(0%を含まない)よりなる群から選ばれる1種以上を含有し、素地鋼板中のSi含有量が下記(2)式を満足するものである請求項1または2に記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
    β−4.1≦[Si]≦β−2.4 …(2)
    但し、
    β=6.9×([C]+[Mn]/6+[Cr]/5+[Mo]/4+[Ti]/15+[Nb]/17+[V]/14)1/2
    であり、式中、[ ]は、鋼板に含まれる各元素の量(質量%)を示している。
  7. 前記素地鋼板は、更に他の元素として、Cu:3%以下(0%を含まない)および/またはNi:3%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  8. 前記素地鋼板は、更に他の元素として、B:0.01%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜7のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  9. 前記素地鋼板は、更に他の元素として、Ca:0.01%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜8のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
  10. 素地鋼板の金属組織は、フェライト:5〜90体積%、マルテンサイト:5〜90体積%であり、フェライトとマルテンサイトの合計量が70体積%以上であり、且つ残留オーステナイトが10体積%以下の複合組織を有するものである請求項1〜9のいずれかに記載の高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
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