JP2008125396A - N末端に非天然骨格をもつポリペプチドの翻訳合成とその応用 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】任意のアミノ酸によるtRNAのアシル化反応を触媒するARSリボザイムを用いて開始tRNAに任意のアミノ酸を結合させ、この開始tRNAで翻訳を開始することにより、その任意のアミノ酸をN末端に有するポリペプチドを合成する。
【選択図】図1
Description
ポリペプチドの生合成において、mRNAを鋳型としてポリペプチドがつくられる段階を翻訳(translation)という。mRNAの連続する3塩基をコドン(codon)という。コドンはそれぞれ1つのアミノ酸に対応するが、UAA, UAG, UGAの3つに対応するアミノ酸はなく、ポリペプチド合成の終止を指定するので終止コドンと呼ばれる。一方、mRNAの翻訳の際、最初に現れるAUGはポリペプチド合成の開始を指定するので開始コドンと呼ばれる。開始コドン以降の配列を3塩基ずつ区切っていくと、それらが1つ1つのアミノ酸に対応する。
既に述べたように、遺伝情報としてのmRNAのコドンをアミノ酸に対応付けるアダプターの役割を果たすのはtRNAである。tRNAはそれぞれに特異的なアミノ酸を結合(アミノアシル化)することにより、アダプターとして機能する。翻訳精度の鍵を握る要因として、各tRNAのアンチコドンとアミノ酸との間には厳密な対応関係が要請される。しかし、tRNA及びアンチコドンが直接にアミノ酸を選択するわけではなく、各アミノ酸に対して特異性を示すのはアミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetase: ARS)であり、各tRNA分子はそれぞれに適合したARSを特異的に識別してアミノアシル化されることにより、正しいアミノ酸を受容する。すなわち、生体内において、tRNAのアミノ酸特異性はtRNAとARSとの間の特異的な分子識別によって保たれる。
ポリペプチドの無細胞合成とは、細胞質の抽出物から構成される遺伝情報翻訳系を人工容器内に揃えて、ポリペプチドを試験管内で合成しようとするものである。無細胞合成では生きた生命体を利用しないので生体内の生理学的制約を受けることがなく、遺伝子からのポリペプチド合成のハイスループット化が可能であり、さらに合成可能なアミノ酸配列の種類を劇的に拡大することができると期待されている。原理的には、無細胞ポリペプチド合成系では、遺伝情報さえあれば、翻訳酵素系の触媒機能を妨害しない限りにおいて、どのようなアミノ酸配列からなるポリペプチドでも試験管内で自在に合成することができると考えられる。さらには、遺伝情報とうまく対応させることができれば、生体内に存在しない非天然アミノ酸も用いることができる。
天然由来のペプチド性化合物には、N末端に変わった構造のアミノ酸が結合したものが見られる。図2に示す例においては、Somamides Aではhexyl基、Factor A (A54556 complex)では2,4,6-heptatrienyl基がN末に存在する。また、生体内で発見される神経ペプチドの多くは、N末にピログルタミン酸構造をもつ。
(1)以下の工程を含む、所望のN末端構造を持つポリペプチドを翻訳合成する方法:
(a)tRNAのアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程;(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、所望の構造を持つアミノ酸基質を提供する工程;(c)前記(a)のリボザイムを用いて、前記(b)のアミノ酸基質で開始tRNAのアシル化反応を行うことにより、所望の構造を持つアミノ酸でアミノアシル化された開始tRNAを得る工程;(d)前記(c)で得られたアミノアシル化開始tRNAを無細胞翻訳系に加えて、所望の構造を持つアミノ酸で翻訳を開始させることにより、所望のN末端構造をもつポリペプチドを得る工程。
(2)上記工程(c)で開始tRNAをアミノアシル化するアミノ酸がメチオニン以外の通常アミノ酸である、(1)に記載の方法。
(3)上記工程(c)で開始tRNAをアミノアシル化するアミノ酸が異常アミノ酸である、(1)に記載の方法。
(4)異常アミノ酸が、アミノ基に様々なアシル基が導入されたアミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸、およびこれらのアミノ酸のN-メチル化体、ピログルタミン酸、スタチン(β-ヒドロキシ-γ-アミノ酸)およびその誘導体、ジペプチド、トリペプチド、及びそれより長鎖のペプチドからなる群から選択される、(3)に記載の方法。
(5)上記工程(b)で提供されるアミノ酸基質が、弱活性化されたアミノ酸である、(1)に記載の方法。
(6)アミノ酸基質がアミノ酸のシアノメチルエステル、ジニトロベンジルエステル又は4-クロロベンジルチオエステルである、(5)に記載の方法。
(7)tRNAのアシル化反応を触媒するリボザイムが、以下の(1)又は(2)
(1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
のいずれかのRNA配列からなるリボザイムである、(1)〜(6)のいずれかに記載の方法。
(8)開始tRNAが、5’から3’方向に、
GGCGGGGUGGAGCAGCCUGGUAGCUCGUCGGGCUNNNAACCCGAAGAUCGUCGGUUCAAAUCCGGCCCCCGCAACCA
で示されるRNA配列からなる構造を有し、NNNは任意の塩基の組合せからなるアンチコドンを表し、該アンチコドンに対応する開始コドンが、翻訳合成されるポリペプチドの配列をコードするmRNA上に存在し、該開始コドンが所望の構造を持つアミノ酸をコードする、(1)〜(7)のいずれかに記載の方法。
(9)開始tRNA中のアンチコドンがCAUであり、mRNA上の開始コドンがAUGである、(8)に記載の方法。
(10)開始tRNA中のアンチコドンがCAU以外のアンチコドンであり、mRNA上の開始コドンがAUG以外のコドンである、(8)に記載の方法。
(11)無細胞翻訳系として再構成無細胞翻訳系を用いる、(1)に記載の方法。
(12)メチオニン又はメチオニルtRNA合成酵素(MetRS)を翻訳系中から除いて、天然の翻訳開始機構を阻害することにより、所望のN末端構造を持つポリペプチドだけが翻訳合成される、(11)に記載の方法。
(13)メチオニンtRNAホルミルトランスフェラーゼ(MTF)の存在又は非存在を選択することにより、翻訳合成されるポリペプチドのN末端のホルミル化をコントロールする、(11)に記載の方法。
(14)以下の成分を含む、N末端に非天然骨格をもつポリペプチドを翻訳合成するために使用可能なキット:(a)以下の(1)又は(2)のいずれかのRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒する2つのリボザイム:
(1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU;
(b)前記リボザイムの基質となる、非天然骨格をもつアミノ酸基質;(c)開始tRNA;および(d)無細胞合成系。
アミノ酸は、基本的には分子内にアミノ基(−NR2)とカルボキシル基(−COOH)の二つの官能基を持つ化合物を指す。アミノ酸のうち、通常の翻訳で使用されるアミノ酸は、一般構造:
mRNAの翻訳の開始には、開始tRNAと呼ばれる特定のtRNAが必要である。翻訳が始まるには、アミノアシル化された開始tRNAが、開始因子(IF)とともにリボソームの小サブユニットに結合し、リボソームの小サブユニットがmRNA上の開始コドンに結合するが、この開始コドンを認識するのが開始tRNAである。従来技術の項で述べたように、天然においては、開始tRNAは必ずメチオニン(原核細胞ではホルミルメチオニン)を運び、開始コドンとしては一般的にはメチオニンのコドンであるAUGが用いられるため、開始tRNAはメチオニンに対応するアンチコドンを有する。
5'-GGCGGGGUGGAGCAGCCUGGUAGCUCGUCGGGCUCAUAACCCGAAGAUCGUCGGUUCAAAUCCGGCCCCCGCAACCA-3' (配列番号1)下線部はアンチコドン部位である。二次構造の図を図4に示すので参照されたい。
5'-GGCGGGGUGGAGCAGCCUGGUAGCUCGUCGGGCUNNNAACCCGAAGAUCGUCGGUUCAAAUCCGGCCCCCGCAACCA-3' (配列番号2)下線部のNNNは任意の塩基の組合せからなるアンチコドンを表す。NNN以外の部分は、tRNAfMetのボディ配列であり、開始因子(IF)の結合に必要であると考えられている。
tRNAのアミノアシル化は、tRNAの3’末端の水酸基にアミノ酸のカルボキシル基がエステル結合する反応(アシル化)である。アミノ酸は活性化された中間体を経由してtRNAと結合する。
1163748499187_1.pdf
" Nature Methods 3, 357-359)。この方法により創製されるARSリボザイムは、天然のARSタンパク質酵素とは異なり、アミノアシル化反応の第1段階目である高エネルギー中間体(アミノアシルAMP)の生成の過程をスキップしてアミノ酸基質のtRNAへの結合の過程のみを触媒するように進化させて得られるものであるため、アミノ酸基質としてはあらかじめ弱活性化されたアミノ酸を用いる必要がある。つまり、アミノ酸のアデニル化をスキップする代わりに、アシル化が進行するカルボニル基において弱活性化されたエステル結合を持つアミノ酸誘導体を使用する。一般にアシル基の活性化は電子吸引性をもつ脱離基をエステル結合させることで達成できるが、あまり強力な電子吸引性脱離基を有するエステルでは水中で加水分解が起きるばかりか、ランダムなRNAへのアシル化が併発してしまう。したがって、アミノ酸基質としては無触媒状態でこのような副反応が起きにくいように弱活性化したものを用いる必要がある。このような弱活性化は、例えば、AMP、シアノメチルエステル、チオエステル、又はニトロ基やフッ素その他の電子吸引性の官能基をもったベンジルエステル等を使用して行うことができる。好適なアミノ酸基質の例としては、アミノアシル-シアノメチルエステル(CME:cyanomethyl ester)、アミノアシル-ジニトロベンジルエステル(DNB:3,5-dinitrobenzyl ester)、又はアミノアシル-4-クロロベンジルチオエステル(CBT:p-chloro-benzyl thioester)等が挙げられるが、これらに限定されるわけではなく、当業者であれば反応効率の高い適当な脱離基を適宜スクリーニングして用いることが可能であり、そのような適当な脱離基を有するアミノ酸基質を利用したアシル化反応も本発明の範囲に含まれることは当然である。
(1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(スーパーフレキシザイムeFx:配列番号3)
(2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
(スーパーフレキシザイムdFx:配列番号4)
のいずれかのRNA配列からなるリボザイム、又はその変異型が挙げられる。これらのスーパーフレキシザイムやその原型であるフレキシザイムの創製については、特願2005-352243 多目的アシル触媒とその用途、およびH. Murakami, A. Ohta, H. Ashigai, H. Suga (2006) Nature Methods 3, 357-359、ならびに H. Murakami H. Saito, H. Suga (2003) “A versatile tRNA aminoacylation catalyst based on RNA” Chem. Biol. 10, 655-662に詳細に記載されている。
上述の方法により、ARSリボザイムを用いてアミノアシル化された開始tRNAを無細胞翻訳系に添加することにより、N末端に任意のアミノ酸を有するポリペプチドを合成することができる。
上述の方法を用いた、N末端に非天然骨格をもつポリペプチドを翻訳合成するために使用可能なキット化製品も本発明の範囲に含まれる。キットの最低限の内容としては、
(a)以下の(1)又は(2)のいずれかのRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒する2つのリボザイム:
(1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
(それぞれ担体に固定化されていてもよい)
(b)前記リボザイムの基質となる、非天然骨格をもつアミノ酸基質
(c)開始tRNA
(d)無細胞合成系
を含んでいればよいが、さらに、反応緩衝液、反応容器、使用説明書等を含んでいてもよい。
この実施形態では、スーパーフレキシザイムによるアシル化反応の基質となる、弱活性化されたエステル結合を持つアミノ酸基質(以下、単に「基質」と記載することもある)の合成を記載する。スーパーフレキシザイムにより認識されるために、基質は分子内に芳香環を有する必要があった。脱離基に芳香族を用いる場合、エステル結合は、チオエステルで活性化(CBT)、もしくは芳香族に電子吸引性の官能基を持ったもの(DBE)を使用して活性化した。芳香族を側鎖に持つアミノ酸やペプチドについては、シアノメチルエステル(CME)で活性化した。
標題のアミノ酸にDBEを導入した基質の合成の一般的な方法を、D-セリンDBEの例で説明する。α-N-Boc-D-セリン(384 mg, 1.87 mmol)、トリエチルアミン(207 mg, 2.05 mmol)および3,5-ジニトロベンジルクロリド(324 mg, 1.50 mmol)を0.4mlのジメチルホルムアミドに加えて混合し、室温で12時間攪拌した。反応後、ジエチルエーテル(15ml)を加え、溶液を0.5 M HCl (5 mL x 3)、4 % NaHCO3 (5 mL x 3) およびブライン (5 mL x1)で洗浄し、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いてから、減圧下で溶媒を減圧留去した。クルードな残渣を4M塩酸/酢酸エチル(3 ml)に溶解し、室温で20分静置した。反応後、ジエチルエーテル(3mL)を加えて溶媒を減圧留去する操作を3回繰り返し、余分のHClを除いた。ジエチルエーテル(3mL)を加えて沈殿させ、沈澱を濾過により回収して全体で35%の収率で産物を得た(170 mg, 0.53 mmol)。1H NMR (DMSO-d6, 500 MHz) d 8.83 (s, 1H), 8.70 (s, 2H), 8.44 (br, 3H), 5.56 (s, 2H), 4.07 (d, J = 4.6 Hz, 1H), 2.22 (m, 1H), 1.00 (d, J= 7.0 Hz, 3H), 0.97 (d, J = 6.9 Hz, 3H).
CMEを導入したN-アシル化アミノ酸基質(N-アシル-アミノアシル-CME)の合成の一般的な方法を、N-アセチル-Phe-CMEの例で説明する。フェニルアラニン(33 mg, 0.20 mmo)、酢酸N-ヒドロキシスクシンイミド(38 mg, 0.24 mmol)およびNaHCO3(50 mg, 0.60 mmol)を50%ジオキサン水溶液(0.3ml)に加えて混合し、室温で1時間攪拌した。反応後、溶媒を減圧留去してジオキサンを除き、酢酸エチル(3 mL x2)で溶液を洗浄した。水層を1M HClで酸性にし、溶液を酢酸エチル(3 mL x2)で抽出し、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いてから、減圧下で溶媒を減圧留去した。残渣(N-アセチル-Phe-OH)を、ジメチルホルムアミド(0.2ml)にトリエチルアミン(24 mg, 1.2 mmol)およびクロロアセトニトリル(0.1 mL)を加えたものと混合し、反応混合物を室温で12時間攪拌した。反応後、ジエチルエーテル(9 ml)を加え、1M塩酸 (3 mL x 3)、飽和NaHCO3 (3 mL x 3)およびブライン(5 mL x1)で溶液を洗浄し、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いてから、減圧下で溶媒を減圧留去した。クルードな残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフフィーにより精製し、N-アセチル-Phe-CME(28 mg, 55%)を得た。
ペプチドは全てFmoc化学を利用した固相合成により合成した。N-Fmocアミノ酸(N-保護アミノ酸)は渡辺化学工業株式会社(日本)から購入したものを用いた。
オリゴヌクレオチドは全てOperon社(日本)から購入した。以下のプライマーを用いて増幅した鋳型DNAからin vitro の転写によりtRNAfMet cauを合成した。
P2: 5'-GAACC GACGA TCTTC GGGTT ATGAG CCCGA CGAGC TACCA GGCT-3' (配列番号6)
P3: 5'-GCATA TGTAA TACGA CTCAC TATAG-3' (配列番号7)
P4: 5'-TGGTT GCGGG GGCCG GATTT GAACC GACGA TCTTC GGG-3' (配列番号8)
P5: 5'-TGGTT GCGGG GGCCG GATTT-3' (配列番号9)
まず、P1とP2とをアニ−ルさせ、Taq DNA ポリメレースにより伸長した。得られた産物をPCR反応緩衝液で20倍に希釈し、P3およびP4をそれぞれ5'および3'プライマーとして用いて増幅した。さらに、産物を200倍に希釈して、P3およびP5をそれぞれ5'および3'プライマーとして用いて増幅してtRNAfMet cauに相当するDNAを得た。次いで、T7 RNAポリメレースを用いて、DNA産物を転写し、10%変性PAGEにより精製した。得られたtRNAfMet cauを水に溶解し、濃度を200μMに調整した。
本実施形態では、多様なアミノ酸によるアシル化を簡便に確認するため、開始tRNA (tRNAfMet cau)の代わりに、その短鎖アナログに相当するマイクロヘリックス(microhelix)またはミニヘリックス(minihelix)を用いてアシル化反応を行い、反応後の溶液はアミノアシル化の効率を確認するために酸性条件下でのアクリルアミド電気泳動分析を行った。Minihelix(またはmicrohelix)に由来するバンドがアミノアシル化されると移動度が遅くなる。Minihelix(またはmicrohelix)のバンドとアシル化minihelix(またはmicrohelix)のバンドの強度を比較することでアミノアシル化効率が決定できる。
本実施形態では、様々なアミノ酸によりアシル化された開始tRNAを、無細胞翻訳系に加えて翻訳を開始することにより、所望のN末端骨格を持つポリペプチドの翻訳合成を行った。
図12では、ペプチド合成を様々な脂肪酸様アシル基をもったフェニルアラニンで開始した。ここではcDNA配列としてYG1を利用し、必要最低限のアミノ酸としてThr, Gly, Phe, Tyr, Lysを加えている。メチオニンを系中に加えたポジティブコントロール(wt)では確かにバンドが現れ、ペプチド合成が行われたことを示している。一方メチオニン非存在下、開始tRNAを加えなかったり(-tRNA)、アシル化していない開始tRNAを加えた(Noaa)ネガティブコントロールではバンドが現れず、ペプチド合成が阻害されていることが確認できる。様々な脂肪酸様アシル基をもったフェニルアラニンでアシル化した開始tRNAを加えた場合にはペプチド合成が見られ、これらフェニルアラニン誘導体で翻訳反応が開始したことが示唆される。
図17ではトリペプチドをアシル化した開始tRNA(開始ペプチジル-tRNA)でも翻訳開始が可能であることを示した。(ここではcDNAとしてYG10を用いた。)2種類のDアミノ酸が含まれている点が重要である。
ペプチド翻訳産物の分子量をマススペクトル測定により確認した。上述の方法で[14C]-Aspの代わりにAspを用いて反応を行ってペプチドを翻訳合成した後、生成物のC末端に付加させたFLAGタグ配列を利用し、生成物の翻訳混合物からの単離を行った。単離にはSIGMA社から発売されているANTI-FLAG (登録商標)M2アガロースを用いた。単離物をMALDI-MSで解析し、生成物の分子量が予想される分子量と一致すること及び、望まれない不純物(N末端にホルミルメチオニンが含むペプチドなど)が混入していないことを確認した。
配列番号2:アンチコドンを改変した開始tRNA
配列番号3:スーパーフレキシザイムeFx
配列番号4:スーパーフレキシザイムdFx
配列番号5:P1
配列番号6:P2
配列番号7:P3
配列番号8:P4
配列番号9:P5
Claims (14)
- 所望のN末端構造を持つポリペプチドを翻訳合成する方法であって、
(a)tRNAのアシル化反応を触媒するリボザイムを提供する工程:
(b)前記リボザイムによるアシル化反応の基質となる、所望の構造を持つアミノ酸基質を提供する工程;
(c)前記(a)のリボザイムを用いて、前記(b)のアミノ酸基質で開始tRNAのアシル化反応を行うことにより、所望の構造を持つアミノ酸でアミノアシル化された開始tRNAを得る工程;
(d)前記(c)で得られたアミノアシル化開始tRNAを無細胞翻訳系に加えて、所望の構造を持つアミノ酸で翻訳を開始させることにより、所望のN末端構造をもつポリペプチドを得る工程
を含む、前記方法。 - 工程(c)で開始tRNAをアミノアシル化するアミノ酸がメチオニン以外の通常アミノ酸である、請求項1に記載の方法。
- 工程(c)で開始tRNAをアミノアシル化するアミノ酸が異常アミノ酸である、請求項1に記載の方法。
- 異常アミノ酸が、アミノ基に様々なアシル基が導入されたアミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸、およびこれらのアミノ酸のN-メチル化体、ピログルタミン酸、スタチン(β-ヒドロキシ-γ-アミノ酸)およびその誘導体、ジペプチド、トリペプチド、及びそれより長鎖のペプチドからなる群から選択される、請求項3に記載の方法。
- 工程(b)で提供されるアミノ酸基質が、弱活性化されたアミノ酸である、請求項1に記載の方法。
- アミノ酸基質がアミノ酸のシアノメチルエステル、ジニトロベンジルエステル又は4-クロロベンジルチオエステルである、請求項5に記載の方法。
- tRNAのアシル化反応を触媒するリボザイムが、以下の(1)又は(2)
(1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
のいずれかのRNA配列からなるリボザイムである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。 - 開始tRNAが、5’から3’方向に、
GGCGGGGUGGAGCAGCCUGGUAGCUCGUCGGGCUNNNAACCCGAAGAUCGUCGGUUCAAAUCCGGCCCCCGCAACCA
で示されるRNA配列からなる構造を有し、NNNは任意の塩基の組合せからなるアンチコドンを表し、該アンチコドンに対応する開始コドンが、翻訳合成されるポリペプチドの配列をコードするmRNA上に存在し、該開始コドンが所望の構造を持つアミノ酸をコードする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。 - 開始tRNA中のアンチコドンがCAUであり、mRNA上の開始コドンがAUGである、請求項8に記載の方法。
- 開始tRNA中のアンチコドンがCAU以外のアンチコドンであり、mRNA上の開始コドンがAUG以外のコドンである、請求項8に記載の方法。
- 無細胞翻訳系として再構成無細胞翻訳系を用いる、請求項1に記載の方法。
- メチオニン又はメチオニルtRNA合成酵素(MetRS)を翻訳系中から除いて、天然の翻訳開始機構を阻害することにより、所望のN末端構造を持つポリペプチドだけが翻訳合成される、請求項11に記載の方法。
- メチオニンtRNAホルミルトランスフェラーゼ(MTF)の存在又は非存在を選択することにより、翻訳合成されるポリペプチドのN末端のホルミル化をコントロールする、請求項11に記載の方法。
- N末端に非天然骨格をもつポリペプチドを翻訳合成するために使用可能なキットであって
(a)以下の(1)又は(2)のいずれかのRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒する2つのリボザイム:
(1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
(b)前記リボザイムの基質となる、非天然骨格をもつアミノ酸基質
(c)開始tRNA
(d)無細胞合成系
を含む、前記キット。
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