JPWO2007066627A1 - 多目的アシル化触媒とその用途 - Google Patents

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Abstract

多様なカルボン酸をアシル基のドナーとするtRNAのアシル化を触媒することができる新規なリボザイム系及びその用途を提供する。(式1)で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイム。(式1)P1−Z1Z2Z3Z4(N1)1(N1)2…(N1)p−P2−(N2)1(N2)2…(N2)qY1Y2Y3(N3)1(N3)2N4GGN[(N1)1〜(N1)pはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチド、pは3又は4を表し、(N2)1〜(N2)qはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチド、qは5又は6を表し、(N3)1〜(N3)2はそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、N4はU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、Z1〜Z4はそれぞれ独立にC又はGを表し、Y1〜Y3はそれぞれ独立にC又はGを表し、NはAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表し、P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表す。]

Description

本発明は、tRNAのアシル化を触媒する新規な人工触媒であるリボザイムとその用途に関する。
アミノアシルtRNA合成酵素(ARS)
DNAのもつ遺伝情報は、遺伝暗号表に基づいてアミノ酸の配列に翻訳される。翻訳の際、現存の天然の細胞では、トランスファーRNA(転移RNA、transfer RNA又はtRNA)がアミノ酸とコドンを正しく組合わせるアダプターとして使われる。アダプターであるtRNAは片側でアミノ酸を、もう一方の側でコドンを識別する。天然のtRNAは、約80ヌクレオチドの長さの小さなRNAである。
アミノ酸はまず、tRNAの3’末端に結合し、次にタンパク質合成の場であるリボソームへ運ばれる。リボソームでは、アミノ酸を運んできたtRNAのアンチコドンと遺伝情報を転写したメッセンジャーRNA(messenger RNA又はmRNA)の3塩基コドンとが対合することによって、コドンと特定のtRNAが対応し、さらには遺伝暗号表に規定された20種類のアミノ酸のいずれかへ翻訳される。
特定のアミノ酸をそれに対応するtRNAに結合させる反応をtRNAのアミノアシル化という。tRNAのアミノアシル化はアミノアシルtRNA合成酵素(aminoacyl-tRNA synthetase又はARS)が触媒する。20種類のARSが20種類の天然アミノ酸に対してそれぞれ用意されている。アミノ酸は、専用のARSにより、自分の結合できるtRNA分子の3’末端のアデノシン残基の糖(リボース)の3’又は2’OHに、カルボキシル末端を介してエステル結合する。
ARSが基質であるアミノ酸およびtRNAを選択的に認識するメカニズムは非常に精巧かつ複雑である。ほとんどの細胞ではアミノ酸ごとにARSが異なり、ARSの活性部位のくぼみに最も高い親和性を持つのは正しいアミノ酸である。このような厳密な基質特異性により、自然界では、ARSは非天然アミノ酸を基質とできない。また、ARSとtRNAとの構造的、化学的な相補性は、アンチコドン、アミノ酸アクセプターステムやリン酸―リボース骨格までの広い領域に及び、ARSはtRNAの様々な特徴を感知して対応するtRNAを厳密に他のtRNA分子種から区別している。
人工リボザイム
リボザイムとは酵素活性(触媒能)を持つRNA、すなわちRNA触媒のことである。リボ核酸(RNA)と酵素(Enzyme)の二つの単語が融合してリボザイム(ribozyme)となった。
自然界における代表的な例としては、蛋白質の合成を行っているリボソーム、またRNAの切断を触媒するRNaseP、ハンマーヘッドリボザイムなどが知られている。これらは、生命の初期段階でRNAが触媒として機能していたとする「RNAワールド仮説」を指示している重要な「化石」的存在である。RNAワールド仮説ではすべての生化学反応はRNAで触媒できることが必要条件であるが、自然界では以上のような2種類の触媒活性しか見つかっていない。そこで、この仮説の真実性を確認するために、様々な触媒活性をもつRNA触媒が試験管内(in vitro)進化により人工的に創成されている。
試験管内分子進化法は、無作為に人工合成された核酸ライブラリーから、目的の活性を有する核酸分子を新規に進化させる手法である。この方法は、新規な触媒を同定するために、遺伝子プールを構築し、所望の反応を触媒する分子をin vitroで選択して単離する方法がBrennenらにより報告されたことに始まる(非特許文献1)。この方法の変形である、SELEX法(Systematic Evolution of Ligands by EXponential enrichment)として知られる方法により、標的分子と特異的に相互作用する核酸分子を同定することができる(特許文献1〜3)。遺伝子プールとして、1015にも及ぶ異なるランダムな塩基配列(両端は既知のプライマー結合部位)を有するオリゴヌクレオチドのプールから活性分子を選択し、PCR法やその他の方法により増幅するという、選択および増幅の工程を繰り返すことにより、初めはごく少数であった所望の活性を有する分子がプール全体において占める比率を指数関数的に増加させ、最終的には活性分子を単離することが可能である。この手法は蛋白質などの標的分子に対して結合活性を有するリガンドやアプタマーを単離するのに用いられるが、さらにこの方法の概念を拡張して、リボザイムを試験管内で分子進化させる方法も開発された。この場合、ランダム塩基配列を含むRNAプールから自己修飾型(シス型あるいは分子内型)触媒として働く活性RNAを選択し、上記と同様の手法で増幅させる。この方法で、ホスホジエステラーゼやアミダーゼ活性を有する新規リボザイムが同定された(特許文献3)。
ARSリボザイム
天然では、ARSはタンパク質であり、ARSリボザイムは発見されていない。そこで、試験管内分子進化法を用いて、天然には存在しないARSリボザイム(アミノアシルtRNA合成酵素:aminoacyl-tRNA synthetaseとして機能するリボザイム)を創製する試みがなされている(特許文献2、4、5、非特許文献2、3)。
本発明者らが先に創製したARSリボザイムでは、弱く活性化したアミノ酸とtRNAを、触媒であるリボザイム(カラムに固定化しておくことができる)と混ぜるだけで、アミノアシルtRNAが合成できる。本発明者らの創製したARSリボザイムはtRNAの共通末端配列(RCCA−3’、Rは73位の識別塩基でありA又はG)を認識するように作られたため、すべてのtRNAを基質にすることができ、また、アミノ酸基質としては側鎖に芳香環を有するものであれば基質になり、天然の芳香族アミノ酸(フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン)および非天然アミノ酸としてフェニルアラニン側鎖のパラ位に様々な置換基を持つ種々のファニルアラニンアナログが基質となる。この、フェニルアラニンアナログおよびtRNAに対してフレキシブルという特性から、本発明者らはこのARSリボザイムをフレキシザイム(Flexizyme)と命名した。
図1を参照してフレキシザイムの構造について説明する。フレキシザイムは45個のヌクレオチドからなり(配列番号22)、GGUモチーフとU−リッチ部位を有している。GGUモチーフ(G43−U45)はtRNAの3’末端(アミノ酸受容端)のACCA-3’のうちのA73-C75(Aが73位の識別塩基)と相補的であり、tRNA認識部位に相当すると考えられている。一方、アミノ酸の認識は一本鎖のU−リッチ部位(U32−U35)が行うと考えられている。さらに、GGCG配列(G36−G39)がリボザイムの触媒活性に重要であると考えられている(非特許文献3)。
非天然アミノ酸変異法
タンパク質は、20種類の天然アミノ酸を構成単位とするポリマーであり、このアミノ酸のさまざまな組合わせにより多くの機能を発現している。タンパク質の機能を研究する際に、しばしばアミノ酸の置換が行われるが、通常の変異法では20種類の天然アミノ酸の枠の中でしか変異ができない。この枠を取り払い、天然のアミノ酸以外のさまざまなアミノ酸を導入するために開発された方法が、非天然アミノ酸変異法である(非特許文献4、5)。
非天然アミノ酸の部位特異的な導入は、1898年のSchultzとChamberlinの、両グループの報告から始まった(非特許文献4、5)。彼らは終始コドンのひとつであるアンバーコドン(UAG)に非天然アミノ酸をコードさせ、蛋白質へ部位特異的に導入した。この方法は、以下の3つの段階からなる。まず、非天然アミノ酸を導入したい位置のコドンをアンバーコドン(TAG)に置換した変異遺伝子を作成する。次に、非天然アミノ酸でアミノアシル化したサプレッサーtRNAを作製する。この変異遺伝子とサプレッサーtRNAを無細胞翻訳系へ加える。このとき、非天然アミノ酸でアミノアシル化したtRNAが、対応するアンバーコドンをサプレッション(抑制)することで、アンバーコドンの位置に非天然アミノ酸が部位特異的に導入される。
さらに2個以上の非天然アミノ酸の導入を考えた場合、アンバーコドン以外に別の非天然アミノ酸をコードするコドンが必要となる。しかし無細胞大腸菌翻訳系において、他の2つの終始コドンは非天然アミノ酸をコードするコドンとしては使用できない。(オーカーコドンのサプレッションの効率は低く、オパールコドンはしばしば読み抜けする。)また、コドン表の他のコドンは天然アミノ酸のコドンで埋まっている。そこで、宍戸らのグループでは、コドンを4塩基に拡張して、非天然アミノ酸を4塩基コドンにコードする方法を開発した(非特許文献6等)。通常、リボソームは3塩基を1つのコドンとしてアミノ酸を1個伸長する。しかし、アンチコドンに4塩基を持つtRNAを使用することで、対応する4塩基コドン上でプログラムされたフレームシフトを起こし、4塩基コドンに非天然アミノ酸をコードできる。原理的には、この方法により23−24番目と、さらなる非天然アミノ酸の拡張も可能である。コドンの拡張法としては、別に、非天然塩基を使用する方法も開発されている(非特許文献7)。
蛋白質への非天然アミノ酸導入技術は、その有用性にもかかわらず特定の研究者にしか使われていない。その最大の理由は、非天然アミノ酸でアミノアシル化したtRNAの合成が難しいことである。上述のように、天然のARSは、基質に対する認識が厳密であり非天然アミノ酸や無関係なtRNAを基質とできない。そのため、非天然アミノ酸でtRNAをアミノアシル化するには、非常に手間がかかる化学的な方法(化学的アミノアシル化法)が用いられてきた。非天然アミノ酸を基質とできるようにした改変ARSタンパク質酵素を用いる方法も開発されている。しかし、現存のタンパク質酵素を基に改変したARSタンパク質酵素を用いて、細胞中で非天然アミノ酸変異を行うためには、改変ARSタンパク質酵素の非天然アミノ酸に対する基質特異性を高くする必要があるが、これまで報告されている非天然アミノ酸の数は膨大で、すべての非天然アミノ酸に対して改変ARSタンパク質酵素を作製することは現実的でなく、すべてのアミノ酸に対応できる方法は、現在のところ高価で煩雑な化学的アミノアシル化法しかない。一方、本発明者らは、非天然のアミノ酸(フェニルアラニンのアナログ)をtRNAに結合させることができるARSリボザイムを用いる方法を開発している(本発明者らによる特許文献4、5、非特許文献2、3)。
化学的アミノアシル化法は非常に合成が複雑且つ高価であり、世界では数研究室のみが合成可能である。また、天然酵素を改変した蛋白質ARSは使用するアミノ酸の種類ごとに作製しなおさなければならない。さらに、改変蛋白質ARS酵素を用いる方法では、試験管内蛋白質合成系に存在する蛋白質酵素でアミノアシル化されないサプレッサーtRNAと、それをアミノアシル化する蛋白質酵素のペアが必要である。これは他の生物種からスクリーニングする必要があるが、一般的に蛋白質酵素はtRNAに対する認識も厳格なことが多く、これを20種のアミノ酸についてスクリーニングすることは現実的でない。
任意のtRNA及び任意のアミノ酸を用いてtRNAをアミノアシル化することができるようなARSがあれば、部位特異的な非天然アミノ酸変異を自在に行うことができると思われるが、そのようなARSは報告されていない。
米国特許 5475096 米国特許 5990142 米国特許 6063566 特表2003−514572 WO 03/070740 A1 Brennen et al., (1992) Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 89, 5381-5383 H. Murakami, H. Saito, and H. Suga, (2003), Chemistry & Biology, Vol. 10, 655-662 H. Murakami, D. Kourouklis, and H. Suga, (2003), Chemistry & Biology, Vol. 10, 1077-1084 Bain, J.D. et al, (1989), J. Am. Chem. Soc., 111, 8013-8014 Noren, C. J. et al, (1989), Science, 244, 182-188 Hosaka, T.ら, (1996) Am. Chem. Soc., 118, 9778-9779 Hirao, I.ら, (2002) Nat. Biotechnol., 20, 177-182
発明が解決しようとする課題は、様々なアミノ酸、乳酸及びその他のカルボン酸をtRNAに結合させる反応、すなわち、多様なカルボン酸をアシル基のドナーとするtRNAのアシル化を触媒することができる新規なリボザイム系及びその用途を提供することである。
従って、以下の発明が提供される。
(1)以下の一般式
P1−Z1Z2Z3Z4(N1)1(N1)2…(N1)p−P2−(N2)1(N2)2…(N2)qY1Y2Y3(N3)1(N3)2N4GGN
[P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表し、(N11〜(N1pはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、pは3又は4を表し、(N2)1〜(N2)qはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、qは5又は6を表し、(N3)1〜(N3)2はそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、N4はU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、Z1〜Z4はそれぞれ独立にC又はGを表し、Y1〜Y3はそれぞれ独立にC又はGを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表し、Uはウラシルヌクレオチド、Cはシトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表す。]
で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
リボザイムの3’末端のGGモチーフでtRNAを認識して結合し、当該GGモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端の75〜73番目の塩基配列と相補的である、前記リボザイム。
(2)以下の一般式
P1−CCGC(N1)1(N1)2…(N1)p−P2−(N2)1(N2)2…(N2)qGCG(N3)1(N3)2AGGN
[P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表し、(N1)1〜(N1)pはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、pは3又は4を表し、(N2)1〜(N2)qはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、qは5又は6を表し、(N3)1〜(N3)2はそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、Uはウラシルヌクレオチド、Cはシトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表す。]
で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
リボザイムの3’末端のGGモチーフでtRNAを認識して結合し、当該GGモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端の75〜73番目の塩基配列と相補的である、前記リボザイム。
(3)以下の式(I)又は(II)
P1−CCGCGGC−P2−GAUUAGCGUUAGG (I)
P1−CCGCAUC−P2−UACAUGGCGUUAGG (II)
[式(I)及び(II)において、P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表し、Uはウラシルヌクレオチド、Cは、シトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表す]
で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
リボザイムの3’末端のGGモチーフでtRNAを認識して結合し、当該GGモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端の75〜73番目の塩基配列と相補的である、前記リボザイム。
(4)上記(1)から(3)のリボザイムにおいて、P1及びP2が、それぞれ独立して以下の式
Figure 2007066627
(BはU、C、A又はGから選択されるリボヌクレオチドからなる塩基数1〜8の任意のループ型1重鎖を表し、Q1〜Qnはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、R1〜RnはQ1〜Qnと完全もしくは一部相補的塩基対を形成することにより優先的に2重鎖をとりうるように選択されるU、C、A及びGのいずれかのモノリボヌクレオチドを表し、nは1〜10の整数を表す。)
で表されるRNA配列からなる、リボザイム。
(5)Bで表されるループ型1重鎖が安定テトラループである、(4)に記載のリボザイム。
(6)上記(1)から(5)のリボザイムにおいて、P1が:GGAUCGAAAGAUUU;P2が:CCCGAAAGGG、で表されるRNA配列からなる、リボザイム。
(7)以下の(a)〜(d)のいずれかのRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒するリボザイム:
(a)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(b)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
(c)配列(a)において、3’末端のUが、アシル化されるtRNAにおける73番目の塩基に相補的になるようにデザインされた任意の塩基に置換されたRNA配列
(d)配列(b)において、3’末端のUが、アシル化されるtRNAにおける73番目の塩基に相補的になるようにデザインされた任意の塩基に置換されたRNA配列。
(8)天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸によるtRNAのアシル化を触媒するリボザイムである、上記(1)から(7)のリボザイム。
(9)tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
(a)tRNAを認識して結合するtRNA結合部位
(b)アシル脱離基部分において弱活性化されたエステル結合を有し、側鎖又はアシル脱離基内に芳香環を有するアシル基ドナー基質を認識して結合するアシル基ドナー基質結合部位、及び
(c)アシル基ドナー基質からtRNAの3’末端へのアシル基転移反応を触媒する活性を有する触媒活性部位、を含み、
tRNA結合部位はリボザイムの3’末端のGGUモチーフからなり、当該GGUモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端のアシル基アクセプターステム部分の75〜73番目の塩基配列と相補的であり、これにより、リボザイムがtRNAの3’末端のアシル基アクセプターステム部分と塩基対形成により結合し、アシル基ドナー基質結合部位に結合したアシル基ドナー基質からtRNAの3’末端へのアシル基転移反応が速やかに起こり、
tRNAの73番目の塩基と塩基対を形成するリボザイム上の塩基Uは、AもしくはGに相補的な塩基であるが、tRNAの種類によって相補的になるように変異をすることが可能であり、これにより、リボザイムは任意のtRNAをアシル化することができることを特徴とする、前記リボザイム。
(10)上記(9)のリボザイムにおいて、アシル脱離基内に芳香環を有するアシル基ドナー基質が以下の式
Figure 2007066627
[式中、R1は求核性のある官能基を表し、R2は側鎖官能基にあたる化学構造を表し、R3は脱離基に相当し、電子吸引性官能基を有するアリール基(Ar)を有するベンジルエステル又はチオベンジルエステルを表す]
で表される構造を有し、リボザイムのアシル基ドナー基質結合部位は、基質のアシル脱離基であるR3の部分を認識し、これにより、リボザイムは、任意の側鎖を有するカルボン酸をアシル基ドナー基質としてtRNAをアシル化することができることを特徴とする、リボザイム。
(11)上記(9)又は(10)に記載のリボザイムにおいて、アシル脱離基内に芳香環を有するアシル基ドナー基質が、アシル脱離基内に芳香環を持つアミノ酸のエステル化誘導体、アシル脱離基内に芳香環を持つアミノ酸のチオエステル化誘導体、アシル脱離基内に芳香環を持つ乳酸のエステル化誘導体から選択される、リボザイム。
(12)以下の(a)〜(d)のいずれかを分子中に含むポリヌクレオチド:
(a)上記(1)から(11)のいずれかに記載の本発明のリボザイムを構成するRNA
(b)上記(a)のRNAに相補的な配列からなるRNA
(c)上記(a)のRNAにおいてUがTに置換されている配列からなるDNA
(d)上記(b)のRNAにおいてUがTに置換されている配列からなるDNA。
(13)以下の(a)から(d)の工程を含む、アシル化されたtRNAの製造方法:
(a)本発明のリボザイムを1つ以上提供する工程
(b)tRNAを提供する工程
(c)弱活性化されたカルボン酸を提供する工程
(d)前記リボザイムと、前記tRNA及び弱活性化されたカルボン酸とを接触させて、tRNAをアシル化する工程、及び
(e)アシル化されたtRNAを単離する工程。
(14)カルボン酸が、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸である、(13)に記載の方法。
(15)弱活性化されたカルボン酸が、アミノ酸のエステル化誘導体、アミノ酸のチオエステル化誘導体、又はカルボン酸のエステル化誘導体である、(13)に記載の方法。
(16)弱活性化されたカルボン酸が、以下から選択される、(13)に記載の方法:
側鎖に芳香環を持つ天然アミノ酸又は非天然アミノ酸のシアノメチルエステル;天然アミノ酸又は非天然アミノ酸の3,5−ジニトロベンジルエステル;天然アミノ酸又は非天然アミノ酸の4−クロロベンジルチオエステル;フェニル乳酸のシアノメチルエステル;及び、フェニル乳酸又はアルキル乳酸の3,5−ジニトロベンジルエステル。
(17)リボザイムが担体に固定化されている、上記(13)から(16)に記載の方法。
(18)上記(1)から(11)のいずれかに記載の本発明のリボザイムを構成するRNAの3’末端に1つ以上のアデノシン残基を付加した配列からなる、固定用リボザイム。
(19)以下の(a)から(c)のいずれかの工程を含む、本発明のリボザイムに対する基質となるアミノ酸のエステル化誘導体の合成方法:
(a)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を、ベンジル位にハロゲンを持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と反応してエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程
(b)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と、一般的な縮合剤を用いて縮合させてエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程、又は
(c)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を活性化したものを、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と混合することによりエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程
であって、これにより、アミノ酸のエステル化誘導体の脱離基がリボザイムによる認識部位となることを特徴とする、前記方法。
(20)以下の(a)又は(b)の工程を含む、本発明のリボザイムに対する基質となる、アミノ酸のチオエステル化誘導体の合成方法:
(a)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と、一般的な縮合剤を用いて縮合させてエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程、又は
(b)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を活性化したものを、ベンジル位にチオール基を持つ化合物と混合することによりエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程
であって、これにより、アミノ酸のチオエステル化誘導体の脱離基がリボザイムによる認識部位となることを特徴とする、前記方法。
(21)以下の(a)から(c)のいずれかの工程を含む、本発明のリボザイムに対する基質となるカルボン酸のエステル化誘導体の合成方法:
(a)カルボン酸とベンジル位にハロゲンを持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と反応してエステルを形成させる工程
(b)カルボン酸とベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と、一般的な縮合剤を用いて縮合させてエステルを形成させる工程、又は
(c)カルボン酸を活性化したものを、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と混合することによりエステルを形成させる工程
であって、これにより、カルボン酸のエステル化誘導体の脱離基がリボザイムによる認識部位となることを特徴とする、前記方法。
(22)以下の(a)から(e)の工程を含む、アシル化されたtRNAの製造方法:
(a)それぞれ以下の(1)又は(2)のRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒する2つのリボザイムを提供する工程:
(1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
(2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
(b)tRNAを提供する工程
(c)天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体を提供する工程
(d)前記リボザイムと、前記tRNA及び前記天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体とを接触させて、tRNAをアシル化する工程、及び
(e)アシル化されたtRNAを単離する工程
(23)2つのリボザイムがそれぞれ担体に固定化されている、上記(22)の方法。
(24)tRNAのアシル化を触媒するリボザイムを担体に固定化するために酸化修飾可能な任意のヌクレオチドを触媒RNA分子の3’末端に付加させた、以下の(1−N)又は(2−N)の塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNAからなる固定用リボザイム:
(1−N)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGUN
(3’末端のNは付加させた任意のヌクレオチド)
(2−N)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGUN
(3’末端のNは付加させた任意のヌクレオチド)
(25)アデノシンを3’末端に付加させた上記(24)に記載の固定用リボザイムであって、以下の(1−A)又は(2−A)の塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNAからなる固定用リボザイム:
(1−A)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGUA
(3’末端のAは付加させたアデノシン)
(2−A)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGUA
(3’末端のAは付加させたアデノシン)
(26)以下の(a)から(e)の工程を含む、アシル化されたtRNAの製造方法:
(a)請求項24の(1-N)又は請求項25の(1-A)で示される塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNA、及び請求項24の(2-N)又は請求項25の(2-A)で示される塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNAからなる2つの固定用リボザイムを提供し、それらを担体に固定化する工程
(b)tRNAを提供する工程
(c)天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体を合成する工程
(d)前記で担体に固定化されたリボザイムと、前記tRNA及び前記天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体とを接触させて、tRNAをアシル化する工程、及び
(e)アシル化tRNAを単離する工程。
(27)以下の(a)(b)(c)を含む、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸でアシル化されたtRNA分子を得るために使用できるキット:
(a)1つ以上の本発明のリボザイム
(b)前記リボザイムの基質となる、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体
(c)tRNA。
(28)リボザイムが担体に固定化されている、(27)のキット。
(29)以下の(a)から(d)の工程を含む、任意の非天然アミノ酸またはその他のカルボン酸が所望の部位に導入されたポリペプチドを製造する方法:
(a)本発明のリボザイムを1つ以上提供する工程
(b)前記リボザイムを用いてtRNAを非天然アミノ酸またはカルボン酸でアシル化する工程
(c)前記tRNAのアンチコドンに対応するコドンを所望の部位に有するmRNAを提供する工程
(d)前記のアシル化されたtRNAおよび前記mRNAを翻訳系に加えて、非天然アミノ酸またはカルボン酸が所望の部位に導入されたポリペプチドを製造する工程。
(30)カルボン酸が乳酸である、(29)の方法。
(31)tRNAが終始コドンに対応するアンチコドン、4塩基からなるアンチコドン、人工塩基を含むアンチコドン、又は天然アミノ酸をコードするコドンに対するアンチコドンを有する、(29)又は(30)の方法。
(32)工程(d)において、翻訳系に加える前に、アシル化されたtRNAをリボザイムから分離する工程をさらに含む、(29)から(31)の方法。
(33)前記リボザイムが担体に固定化されている、(29)から(32)の方法。
本発明のリボザイムにより、安価・簡便かつ短時間にすべての種類のアミノ酸を人工tRNAを含むすべてのtRNAに連結できる。さらに、本発明のリボザイムはアミノ酸以外のカルボン酸もアシル基のドナー基質にできる。また、一種類のリボザイム分子で様々なtRNA/アミノ酸(カルボン酸)に対応可能である。基質の合成は非常に簡単であり、アシル化反応も簡便である。
本発明のリボザイムを用いた方法では、tRNAの共通配列がある3'末端に認識部位を特定しているため、すべてのtRNAをアミノアシル化できる。すべてのtRNAを基質にできるため、種々のコドンに対応可能であり、部位特異的な非天然アミノ酸変異を自在に行うことができる。このような特徴はリボザイムが完全な人工触媒であるがために可能なことである。
フレキシザイムの図(背景技術)である。 tRNAの模式図である[今堀和友・山川民夫 監修「生化学辞典」897頁『(a)酵母フェニルアラニンtRNAのクローバー葉構造』(東京化学同人、第3版、1998年)を引用]。 本発明のリボザイムの2次構造を模式的に示す図である。 天然におけるアミノアシル化反応を示す図である[Alberts, Johnson, Lewis, Raff, Roberts, Walter著、中村桂子・松原謙一 監訳「MOLECULAR BIOLOGY OF THE CELL 細胞の分子生物学」339頁『Fig. 6-56 アミノ酸の活性化』(ニュートンプレス、第4版、2004年)を引用]。 基質の設計を説明する図である。 代表的な基質(アミノ酸、カルボン酸)及び脱離基を示す図である。 スーパーフレキシザイムの2次構造を模式的に示す図である。 tRNAのアミノアシル化におけるフレキシザイムとスーパーフレキシザイム2の比較を示すストレプトアビジンゲルシフト法の結果を示す図である。 tRNAのアミノアシル化におけるフレキシザイム、スーパーフレキシザイム1、及びスーパーフレキシザイム2の比較を示すストレプトアビジンゲルシフト法の結果である。 tRNA又はマイクロヘリックスのアシル化における、スーパーフレキシザイム1と2の活性評価を示すストレプトアビジンゲルシフト法の結果である。 tRNA又はマイクロヘリックスのアシル化における、スーパーフレキシザイム1と2の活性評価を示すストレプトアビジンゲルシフト法の結果である。 種々のカルボン酸基質のGFPへの部位特異的導入を示す。上図が翻訳反応産物のSDS−PAGEの結果であり、下のグラフはサプレッション効率を示す。 種々のカルボン酸基質のGFPへの部位特異的導入を示す。上図が翻訳反応産物のSDS−PAGEの結果であり、下のグラフはサプレッション効率を示す。
本発明の理解のために、まず始めに語句の説明をする。
「リボザイム」は、化学反応を触媒することができるRNA分子(RNA酵素)である。
「ポリヌクレオチド」は、リボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチド、又はこれらのいずれかのヌクレオチドの修飾型であるヌクレオチドの重合したものであって長さが少なくとも8塩基のヌクレオチドのポリマーである。
「リボヌクレオチド」は、糖部分がD−リボースから成るヌクレオチドをいい、RNAの構成成分である。リボヌクレオチドの塩基部分はアデニン、グアニン、シトシン又はウラシルから成り、それぞれに対応するリボヌクレオチドをアデニンヌクレオチド(A)、グアニンヌクレオチド(G)、シトシンヌクレオチド(C)、ウラシルヌクレオチド(U)という。括弧内はそれぞれのリボヌクレオチドあるいは塩基に対応する慣用のアルファベット1文字の表記である。
「塩基対」とは核酸の塩基のうち定まった組合わせの2個が互いに水素結合により対合したものをいう。塩基対を形成し得るような塩基の組合わせは互いに「相補的」であるという。DNAではアデニン(A)とチミン(T)、及び、グアニン(G)とシトシン(C)、RNAではAとウラシル(U)、及び、GとCが対合する。さらに、RNAではG−A、G−Uのようないわゆる非ワトソン−クリック塩基対も熱力学的に安定な塩基対として存在するので、本明細書においてはこれらの組合わせも「相補的」であるという。
「基質」は、酵素によって触媒作用を受ける化合物または分子をいう。本発明のアシル化触媒リボザイムは、tRNA及びアミノ酸その他のカルボン酸を基質とする。しかし、本発明のリボザイムはtRNAについてはいかなるtRNAも基質とすることができるため、本明細書中で単に「基質」という場合、文脈によっては様々なアミノ酸その他のカルボン酸を専ら指す場合がある。
「tRNA」は天然のtRNAと人工的に構築したtRNAの両方を指す。クローバー葉構造に類似する2次構造の形成に対応する配列を有するRNA分子であって、さらにL字形のコンパクトな三次構造をとり、L字形構造の一方の端にあたる3’末端にアミノ酸その他のカルボン酸を結合し(アシル化)、もう一方の端に位置するアンチコドンによってmRNA上のコドンを認識するという機能をもつRNA分子を指す。人工tRNAをさらに簡素化した構造を有するミニへリックスやマイクロへリックスを含めて「tRNA様分子」や「tRNA類似体」と称することもある。
「天然アミノ酸」は、生細胞中でtRNAを正常にアミノアシル化する20アミノ酸のうちの任意のアミノ酸をいう。このようなアミノ酸は、α−アミノカルボン酸(または置換型α−アミノカルボン酸)である、アラニン(Ala)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、プロリン(Pro)、トリプトファン(Trp)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、グリシン(Gly)、セリン(Ser)、トレオニン(Thr)、チロシン(Tyr)、システイン(Cys)、グルタミン(Gln)、アスパラギン(Asn)、リジン(Lys)、アルギニン(Arg)、ヒスチジン(His)、アスパラギン酸(Asp)、およびグルタミン酸(Glu)である。したがって、「非天然アミノ酸」は、上記20種類の天然アミノ酸以外の任意のアミノ酸(またはその誘導体)を意味する。非天然アミノ酸は人工的に合成したものであっても、自然界に存在するものであってもよい。また、ここでは非天然アミノ酸は天然アミノ酸の誘導体であってもよい。
「アミノ酸」とは、分子内にアミノ基(−NR2)とカルボキシル基(−COOH)の二つの官能基を持つ化合物を指す。例えば、アミノ酸には、アミノ基がアルキルアミノ基(NH−R)やアシルアミノ基(NH−CO−R)となっている非天然アミノ酸も含まれる。また、非天然アミノ酸にはβ−アミノ酸、γ−アミノ酸、δ−アミノ酸も含まれる。
「カルボン酸」とは、分子内にカルボキシル基を持つ化合物のことをいうが、本発明に置いては特に分子内に水酸基を併せ持つヒドロキシカルボン酸(ヒドロキシ酸)が重要である。その例として、α−ヒドロキシカルボン酸に代表される乳酸やβ−ヒドロキシカルボン酸に代表される乳酸がある。アミノ酸もカルボン酸の一種であるといえる。本明細書において、別途の注釈をつけない限りは、「カルボン酸」の語はアミノ酸を含むものとして用いる。
「tRNAのアシル化」とは、tRNAにアシル基(R−CO−)が結合することをいう。この結合は、tRNAの3’末端のヌクレオチドのリボースの水酸基(2’又は3’−OH)にアミノ酸やその他のカルボン酸のアシル基がエステル結合したものである。
「アシルドナー」あるいは「アシル基ドナー基質」とは、tRNAのアシル化においてアシル基を与える化合物をいう。本明細書においては、分子内にアシル基を有する化合物である、アミノ酸その他のカルボン酸が該当する。
「ポリペプチド」は、2以上のアミノ酸がペプチド結合によって連結した一連のアミノ酸の鎖をいう。ペプチド結合(アミド結合)は、第一のアミノ酸のカルボキシル基の炭素原子と第二のアミノ酸のアミノ基の窒素原子との間の共有結合(−CO−NH−)である。さらに、本明細書においては、一部のアミノ酸がα−ヒドロキシカルボン酸またはβ−ヒドロキシカルボン酸で置換された変異ポリペプチドもポリペプチドと称することがある。この場合、一部の結合は、カルボキシル基と水酸基との結合(−CO−O−)によることになる。
本発明の実施のための材料及び方法は、特に断らないかぎり、化学及び分子生物学の技術分野でよく知られる慣用の方法に従って、様々な一般的な教科書や専門的な参考文献に記載されている方法を用いる。分子生物学についての参考文献としては、例えばSambrookら,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,ニューヨーク州(1989)およびAusubelら,Current Protocols in Molecular Biology,Greene Publishing Associates(1992),およびHarlowおよびLane Using Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,ニューヨーク州(1999)を参照されたい。
tRNAの構造
本発明のリボザイム(アシル化RNA触媒)はtRNAのアシル化を触媒するリボザイムであり、tRNAの共通配列がある3’末端(RCCA-3’、Rは識別塩基と呼ばれる73位の塩基でありA又はGのいずれかである)に認識部位を特定している。本発明の理解のために、以下ではtRNAの構造について説明する。
これまでに決定されたtRNAのヌクレオチド配列から二次構造を組み立てると一つの共通の構造が得られる(図2)。この構造がクローバーの葉の形に似ていることからこれをクローバー葉構造とよび、tRNAの二次構造を表すモデル構造として用いられている。クローバーの茎にあたる部分のヌクレオチド鎖は塩基対を形成して2本鎖となっており、これをステム(stem)とよぶ。また、葉に相当する部分のヌクレオチド鎖は塩基対を形成せず、ループ(loop)とよばれる。ステム・ループを合わせた構造をアーム(arm)とよんでおり、アンチコドンアーム、Dアーム、TΦCアームがある。tRNAの三次構造は各アームがさらに折れ曲がり、コンパクトなL字形構造となっている。
各ステムとループのサイズには規則性がある。たとえば3枚の葉のうち、先端に位置する葉であるアンチコドンループは7つのヌクレオチドから構成されている。このループの中央に位置する3塩基連鎖がアンチコドンで、コドンの認識に関与している。アンチコドンループに対応する葉につながった茎がアンチコドンステムで、5塩基対から成っている。クローバーの主茎にあたる部分がアクセプターステムで、7塩基対から成っている。tRNAの3’末端は4残基の1本鎖になっており、末端の3残基はすべてのtRNAでCCA配列になっており、末端のアデノシン残基の2’−OH基または3’−OH基にアミノ酸がエステル結合する。tRNAの3’末端から4番目の塩基(3’CCA末端の隣、73番)は、識別塩基(ディスクリミネーター)とよばれており、tRNAのアミノ酸特異性に関与している。
本発明のリボザイムはtRNAの識別塩基(A又はG)を含む3’末端共通配列(73〜75番目の塩基配列)を認識するように設計されている。
本発明のリボザイム
本発明のリボザイムは、背景技術において説明した「フレキシザイム」を基にして構築された人工リボザイムである。具体的には、フレキシザイムの配列を部分的にランダム化したRNAをリボザイムドメインとして、リボザイムドメインの3’末端にtRNAドメインを付加した配列からなるRNAプールを用いて、試験管内分子進化により創製された。まず、RNAプールに適当なアシルドナー基質を加えて反応を進行させて、tRNAドメインをアシル化することができる活性種(分子内型)を選択した。さらに、tRNAドメインを除いたもの(リボザイムドメイン)を用いて分子間型で活性を評価し、高効率でアシル化を行うことができるものを本発明のリボザイムとした。なお、人工リボザイムの創製についての一般的な説明は、蛋白質核酸酵素Vol.48 No.11(2003)1511-1518を参照されたい。
本発明のリボザイムの2次構造を図示すると図3のようになる。
図3において、P1およびP2で表される部分は、ARSリボザイムの2次元構造を活性な形に固定する塩基配列領域であり、ステム・ループ構造をもつ。Nはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、N(1)の部分は3個又は4個のヌクレオチド、N(2)の部分は5個又は6個のヌクレオチド、N(3)の部分は2個のヌクレオチド、N(4)は1個のヌクレオチドからなる。Z又はYはそれぞれ独立にC又はGを表す。3’末端のはtRNAの識別塩基であるA又はG(73位の塩基)に相補的なモノリボヌクレオチドであり、U、C、A及びGのいずれかから選択される。
すなわち、本発明のリボザイムは、以下の一般式(式1)で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムである。
(式1)P1−Z1Z2Z3Z4(N1)1(N1)2…(N1)p−P2−(N2)1(N2)2…(N2)qY1Y2Y3(N3)1(N3)2N4GGN
[式1において、(N1)1〜(N1)pはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、pは3又は4を表し、(N2)1〜(N2)qはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、qは5又は6を表し、(N3)1〜(N3)2はそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、N4はU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、Z1〜Z4はそれぞれ独立にC又はGを表し、Y1〜Y3はそれぞれ独立にC又はGを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表し、Uはウラシルヌクレオチド、Cはシトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表し、P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表す]
先に述べた通り、本発明のリボザイムがtRNAを認識する際には、tRNAの共通配列がある3’末端が認識部位となる。すなわち、リボザイムの3’末端のGGモチーフでtRNAの3’末端を認識して結合する。当該GGモチーフがリボザイムに結合するtRNAの3’末端の73〜75番目の塩基配列と相補的であるようにリボザイムを設計しているからである。当該tRNAの73番目の塩基(識別塩基)と塩基対を形成する塩基は、A又はGに相補的な塩基であるが、リボザイムに結合するtRNAの種類によって相補的になるように変異をすることが可能である。A又はGに相補的な塩基とは、非ワトソン−クリック塩基対を含む概念として広く対合可能な塩基ということであり、Aに相補的な塩基はU又はG、Gに相補的な塩基はC、A又はUである。
次に、「P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域である」について説明する。P1およびP2領域は、ARSリボザイムの2次元構造を特定する塩基配列領域であり、ステム・ループ構造をもつ。P1領域及びP2領域にあるステム構造とは、2次配列において完全もしくは一部相補的塩基対を形成することにより優先的に2重鎖をとりうる構造をいう。ループ構造とは、ステム構造をつなげる形で存在する任意のループ型1重鎖である。短い安定構造をもつループ構造としてはGAAA、GAGA、UUCG等で代表される4塩基ループ(テトラループ)が挙げられる。P1およびP2領域のステム・ループ構造としては、塩基配列およびステムの長さやループの大きさには左右されず、優先的にステム・ループ構造を持ちうる塩基配列を全て含む。しかし、リボザイム全体の大きさから考えて妥当な長さをあえて規定するならば、式(1)のP1又はP2については、10〜24個程度のリボヌクレオチドからなるRNA配列が望ましい。P1及びP2領域はリボザイムの構造を活性な形に固定する役割を担うが、P1又はP2の領域の具体的なRNA配列は、ステム・ループ構造を持ちうる配列であればいかなる配列でもよい。このような配列は公知の配列から任意に選択可能であり、例えば、10〜24個程度のリボヌクレオチドからなるRNA配列である場合に2次構造で表すと次の式で図示できる。
Figure 2007066627
上記式において、BはU、C、A又はGから選択されるリボヌクレオチドからなる塩基数1〜8の任意のループ型1重鎖を表し、Q1〜QnとR1〜Rnはステム構造の部分であり、Q1〜Qnはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、R1〜Rnと完全もしくは一部相補的塩基対を形成することにより優先的に2重鎖をとりうる。従って、R1〜Rnの配列はQ1〜Qnの配列にそれぞれ相補的もしくは一部相補的である。nは1〜10の整数を表す。
Bの好ましい例は安定テトラループである。安定テトラループの好ましい例としては、GAAA、GAGA、UUCG等が挙げられる。例えば、安定テトラループがGAAAである場合のP1又はP2の領域の具体的なRNA配列は2次構造で表すと次の式で図示できる。
Figure 2007066627
あるいは、安定テトラループがUUCGである場合のP1又はP2の領域の具体的なRNA配列は2次構造で表すと次の式で図示できる。
Figure 2007066627
上記式において、Q1〜Qnはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、R1〜RnはQ1〜Qnにそれぞれ相補的もしくは一部相補的なモノリボヌクレオチドを表す。
ステムループ構造を取り得るこのような配列のさらに具体的な例として、5'-GGAUCGAAAGAUCC-3'や5'-CCCUUCGGGG-3'(下線部位は相補的な塩基配列)等が挙げられるがこれらに限定されない。
本発明のリボザイムは、「フレキシザイム」を原型として、フレキシザイムの活性に重要であると考えられる塩基をランダムにして作成したRNAプールから試験管内分子進化法により創製された。式(1)で表される一般式はフレキシザイムの配列も包含するが、フレキシザイムにおいては、Z1〜Z4の部分の配列がCCGCであり、(N1)1〜(N1)pの部分の配列はAGGであり、且つ(N2)1〜(N2)qの部分の配列はUAUUGであり、且つY1〜Y3の部分の配列がGCGであり、且つ(N3)1〜(N3)2の部分の配列がUUであり、且つN4がAであり、且つP1の部分の配列がGGAUCGAAAGAUUUであり、且つP2の部分の配列がCCCGAAAGGGである。
本発明のリボザイムは、特にN(上付数字)で表される部分の配列を変化させることにより、原型のフレキシザイムよりもアシル基ドナー基質の特異性が飛躍的に拡大し、且つ活性が向上した。従って、本発明のリボザイムの一態様は、上記の(式1)において、(N1)1〜(N1)p、(N2)1〜(N2)q、(N3)1〜(N3)2及びN4のリボヌクレオチドを規定したRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムである。この場合、一つの具体例として、(N1)1〜(N1)pがGGC、且つ(N2)1〜(N2)qがGAUUA、且つ(N3)1〜(N3)2がUU、且つN4がAである。あるいは、もう一つの具体例として、(N1)1〜(N1)pがAUC、且つ(N2)1〜(N2)qがUACAUG、且つ(N3)1〜(N3)2がUU、且つN4がAである。
別の態様では、本発明のリボザイムは、上記の(式1)において、Z1〜Z4及びY1〜Y3並びにN4のリボヌクレオチドを規定した、以下の一般式(2)で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムである。
(式2)P1−CCGC(N1)1(N1)2…(N1)p−P2−(N2)1(N2)2…(N2)qGCG(N3)1(N3)2AGGN
[式2において、(N1)1〜(N1)pはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、pは3又は4を表し、(N2)1〜(N2)qはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、qは5又は6を表し、(N3)1〜(N3)2はそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、Uはウラシルヌクレオチド、Cはシトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表し、P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表す]
別の態様では、本発明のリボザイムは、上記の式(2)において、さらに、(N1)1〜(N1)p、(N2)1〜(N2)q及び(N3)1〜(N3)2のリボヌクレオチドを規定したRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムである。そのようなRNA配列は以下の(I)又は(II)で表される。
P1−CCGCGGC−P2−GAUUAGCGUUAGG (I)
P1−CCGCAUC−P2−UACAUGGCGUUAGG (II)
[式(I)及び(II)において、Uはウラシルヌクレオチド、Cは、シトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表し、P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表す]
上記式(I)又は(II)においてP1領域及びP2領域のRNA配列を規定することもできる。この場合、P1がGGAUCGAAAGAUUUであり且つP2がCCCGAAAGGGであることができる。あるいは、P1がGGAUCGAAAGAUUUであり、P2が任意のRNA配列からなることができる。あるいは、P1が任意のRNA配列からなり、P2がCCCGAAAGGGであることができる。
本発明のリボザイムは、以下の(a)〜(d)のいずれかのRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであってもよい。
(a) GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU-3'
(b) GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU-3'
(c)配列(a)において、3’末端のUが、アシル化されるtRNAにおける73番目の塩基に相補的になるようにデザインされた任意の塩基に置換されたRNA配列
(d)配列(b)において、3’末端のUが、アシル化されるtRNAにおける73番目の塩基に相補的になるようにデザインされた任意の塩基に置換されたRNA配列。
上記式(a)と(b)において、ステム・ループ構造にあたる部分は下線で示しており、tRNAとの結合部位にあたる塩基は3’末端のGGUモチーフである。Uはウラシルヌクレオチド、Cはシトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表す。
式(a)の配列(配列番号7)からなるリボザイムをスーパーフレキシザイム1、式(b)の配列(配列番号8)からなるリボザイムをスーパーフレキシザイム2と称し、後述の実施例でさらに詳しく説明する(図7)。スーパーフレキシザイム1及び2は、P1及びP2領域並びにtRNAの認識部位である3’末端のGGUモチーフを、原型となったフレキシザイムのものとほぼ同一にして創製されたものである。さらに、スーパーフレキシザイム1又は2のGGUモチーフをGGはtRNAの73番目の塩基に相当する識別塩基と塩基対をとる相補的な任意の塩基)モチーフに改変することにより、いかなるtRNAにも対応できるリボザイムへと人工改変可能である。従って、3’末端のUは(c)及び(d)のリボザイム配列ではアシル化するtRNAの識別塩基に応じて置換できる塩基としている。なお、(a)〜(d)の配列においても、P1領域(GGAUCGAAAGAUUU)及びP2領域(CCCGAAAGGG)は、他の任意のステム・ループ構造に置換することができることは当然である。
当業者は、以上で説明した配列を有するRNAを合成することにより、本発明のリボザイムを製造することができる。RNAの合成は当業者に慣用される任意の方法で行うことができる。例えば、本発明のリボザイムを構成するRNA配列に相当するDNAを化学合成し、それをPCRで増幅した鋳型DNAをT7RNAポリメレースにより転写して目的のRNAを合成する方法は簡便であろう。
また、樹脂等の適当な担体に固定化するための固定用リボザイムとして、リボザイムRNAにさらに1つ以上の酸化修飾可能な任意のヌクレオチドを付加した核酸分子とすることもできる。
従って、本発明のリボザイムを構成するRNA分子に関連して、以下の(a)〜(d)の核酸分子のいずれかを分子中に含むポリヌクレオチドも本発明に含まれる:(a)本発明のリボザイムを構成するRNA;(b)上記(a)のRNAに相補的な配列からなるRNA;(c)上記(a)のRNAにおいてUがTに置換されている配列からなるDNA;(d)上記(b)のRNAにおいてUがTに置換されている配列からなるDNA。
本発明のリボザイムのアシルドナー基質
本発明のリボザイムは、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、乳酸、及びその他のカルボン酸をアシル基を介してtRNAに結合させる反応、すなわちtRNAのアシル化、を触媒するリボザイムである。この結合は、tRNAの3’末端のヌクレオチドのリボースの水酸基(2’又は3’−OH)に天然アミノ酸、非天然アミノ酸、乳酸、及びその他のカルボン酸のアシル基部分がエステル結合したものである。
実際には、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、乳酸、及びその他のカルボン酸は、リボザイムと接触する前に、あらかじめ弱く活性化されたエステル化又はチオエステル化誘導体とされており、本発明のリボザイムはそのような弱活性化された基質のアシル基をtRNAの3’末端部分に転移する反応を触媒する。このアシル化反応においてアシル基のドナー基質となる天然アミノ酸、非天然アミノ酸、乳酸、及びその他のカルボン酸のエステル化又はチオエステル化誘導体について詳しく説明する。
自然界では、ARSタンパク質酵素が、ATPの加水分解と共役したアミノ酸基質の活性化と、アミノ酸基質のtRNAへの結合の2段階の反応を触媒してアミノアシルtRNAの合成を行っている。まず、アミノ酸のカルボキシル基がAMP部分と結合して活性化され、アデニル化アミノ酸となる。次に、アデニル化アミノ酸からAMPが脱離し、アミノ酸のカルボキシル基はtRNAの3’末端のリボースの水酸基に移される。この転移によりアミノ酸がtRNAと活性エステル結合を形成し、アミノアシル化されたtRNAが生じる(図4を参照)。活性化されたアミノ酸とtRNAとのエステル結合は、加水分解により大きな自由エネルギーを放出する高エネルギー結合であり、この結合のエネルギーはその後のタンパク質合成の段階で、アミノ酸を共有結合でつないでポリペプチド鎖を伸長させるのに使われる。
一方、本発明においては、2段階の反応の触媒活性を同時に求めることはせず、あらかじめ弱活性化した基質を使用することで活性化の過程はスキップし、基質であるアミノ酸又は乳酸その他のカルボン酸をtRNAに結合させる反応(アシル化)の過程を触媒するリボザイムを構築した。つまり、酵素によるアデニル化をスキップする代わりに、アシル化が進行するカルボニル基において弱活性化されたエステル結合を持つアミノ酸又は乳酸その他のカルボン酸の誘導体を基質として使用する。一般にアシル基の活性化は電子吸引性をもつ脱離基をエステル結合させることで達成できるが、あまり強力な電子吸引性脱離基を有するエステルでは水中で加水分解が起きるばかりか、ランダムなRNAへのアシル化が併発してしまう。したがって、このような副反応が起きにくいように弱活性化したアシルドナーを用いる必要がある。本発明のリボザイムは、無触媒状態では反応を起こさない弱活性化したアミノ酸又は乳酸その他のカルボン酸誘導体エステル等に結合し、tRNAへのアシル化を触媒できるリボザイムである。このようなエステル結合の活性化は、例えば、シアノメチルエステル、チオエステル、ニトロ基やフッ素その他の電子吸引性の官能基をもったベンジルエステル等を使用して行うことができる。本明細書でアシルドナー基質について記載する場合、このようにアシル基を弱く活性化する電子吸引性の脱離基を「アシル脱離基」あるいは単に「脱離基」と称する。
様々な側鎖を持つ基質(アミノ酸やカルボン酸)を許容させるためには、さらに、基質の最適化の面からの工夫が必要であった。従来のフレキシザイムでは、アミノ酸基質としては側鎖に芳香族を有するものが好適な基質となっていた。これは、フレキシザイムが基質となるアミノ酸側鎖の芳香環を認識しているからであろうと考えられた。そこで、本発明においては、基質認識部位がアミノ酸又は乳酸その他のカルボン酸基質のアシル脱離基の部分となるように基質を最適化した。基質認識部位を脱離基とし、側鎖に対するリボザイムの認識をなくすことで、様々な側鎖を持つアミノ酸やカルボン酸が許容できるようになると考えられたからである。具体的には、原型のフレキシザイムが芳香環を認識すると考えられたため、アシル脱離基となる部分(この部分が認識部位となる)に芳香環を導入したものを作製し、これを用いて分子進化を行った。
図5を参照して、このような基質の具体的な設計方法の一態様を説明する。図5上側の構造式は従来型の基質の一例である芳香族アミノ酸のシアノメチルエステルであるが、フレキシザイムによる本来の認識部位はアミノ酸側鎖の芳香環部分
Figure 2007066627
であり、脱離基側(シアノメチル基部分)
Figure 2007066627
はフレキシザイムによる認識を受けていないと考えられた。従来のフレキシザイムについての実験結果によると脱離基としてAMP、チオエステル、シアノメチルエステルなど様々なものが受け入れられていたからである。そこで、本発明においては、認識部位が基質側鎖ではなく脱離基側に位置し、基質側鎖が従来の基質の脱離基側に位置するように転換することにより、芳香族アミノ酸以外の基質にも対応可能となるように、対応可能な基質の数を増やすことを意図した。
具体的には、フレキシザイムが芳香環を認識すると考えられたため、脱離基となる認識部位に芳香環を導入した。図5下側の構造式で一例(アミノ酸のベンジルエステル誘導体)を示すがこれに限定されるものではない。この際、認識部位の芳香環と反応部位(赤丸部分)の炭素とは位置的にほぼ同じ距離を保つようにするのが好ましい。また、脱離基には電子吸引性の基を導入することでエステル結合を弱く活性化させておく。脱離基としての芳香族のエステル結合を活性化させる電子吸引基の例としては、複数のニトロ基やフッ素の導入、ベンジルのα位の炭素から直接フッ素やシアノ基を用いて電子を吸引する等が考えられる。エステルの代わりにチオエステルを使用することで、基質の活性化を行うこともできる。
後述の実施例においては、シアノメチルエステル(CME)、3,5−ジニトロベンジルエステル(DBE)やp−クロロベンジルチオエステル(CBT)を持つ基質の例(図6)を具体的に示すが、これに限定されない。エステル結合を十分に活性化できる、反応効率の高い脱離基をスクリーニングして適宜用いることが可能である。
脱離基が認識されるように最適化されたアミノ酸又はその他のカルボン酸のエステル化誘導体の合成は、次のようにして行うことができる。
アミノ酸基質の場合、まず(1)アミンをBoc保護したアミノ酸を、ベンジル位にハロゲンを持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と反応し、エステルを形成させる。次に、酸を用いてBoc保護基を除くことでアミノ酸基質を合成する。また、このエステルは、(2)アミンをBoc保護したアミノ酸を、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と、一般的な縮合剤を用いて縮合させることでも合成できる。さらに(3)Boc保護したアミノ酸を活性化したものを、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と混ぜることでも合成できる。上記の3種の方法のうち、(1)の方法が簡便であり、実施例では(1)の方法を用いてアミノ酸基質を合成している。またカルボン酸基質も同様であるが、アミンは存在しないため、上記の合成経路の酸による脱保護は不必要である。
チオエステルの合成は、上記の(2)又は(3)の方法を用いて行うことができる。ただし、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物の代わりに、ベンジル位にチオール基を持つ化合物を用いる。チオエステルは、活性が比較的高いので、芳香族の電子吸引基は必ずしも必要ではない。また上記2種の方法のうち(2)の方法が比較的簡便なため、実施例では(2)の方法を用いた。
従来型の基質である、側鎖として芳香環をもつアミノ酸のシアノメチルエステルの合成については、特表2005−528090(WO2003−70740)を参照されたい。
本発明者らは、具体的な一つのアシル基ドナー基質を用いてアシル化触媒RNAの分子進化を行うことにより、その具体的なアシルドナー基質のみならず、他の広範なアシルドナー基質にも適応したリボザイムを得ることができることを実証した。例えば、従来型の基質であるフェニルアラニンのシアノメチルエステル(Phe−CME)又はアシル脱離基に芳香環を導入した基質であるヒドロキシ酪酸のジニトロベンジルエステル(HBi−DBE)を用いて分子進化を行った結果、20種類の天然アミノ酸と9種類以上の非天然アミノ酸並びに乳酸に適応したリボザイムを得た。従来のフレキシザイムにおいては、側鎖部分に芳香環を有するアミノ酸のエステル化又はチオエステル化誘導体が好適な基質となっていたが、これらに加えて、本発明のリボザイムに対しては、アシル脱離基内に芳香環を有するアミノ酸のエステル化誘導体、アシル脱離基内に芳香環を有するアミノ酸のチオエステル化誘導体、アシル脱離基内に芳香環を有する乳酸のエステル化誘導体等も好適な基質となり得る。この特徴により、側鎖に任意の構造を有する上記の誘導体に対応可能となった。また、本発明のリボザイムにおいては、側鎖部分に芳香環を有するアミノ酸のシアノメチルエステルについても従来のフレキシザイムと比較して活性が向上した例もある。
すなわち、本発明のリボザイムに対するアシルドナー基質は、アシル脱離基部分において弱活性化されたエステル結合を有し、側鎖又はアシル脱離基内に芳香環を有するヒドロキシカルボン酸(例えばアミノ酸又は乳酸)の誘導体である。
本発明のリボザイムを用いたtRNAのアシル化反応
本発明のリボザイムを用いれば、tRNAのアシル化においてすべてのアミノ酸を基質とすることが可能となる。したがって天然アミノ酸としては、従来のフレキシザイムでは基質とできなかったフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン以外の17種類の天然アミノ酸も用いることができ、非天然アミノ酸としては、芳香環以外の側鎖をもつ非天然アミノ酸も用いることができる。その上、本発明のリボザイムは、アミノ基の代わりに水酸基を持つカルボン酸、例えば乳酸も基質とすることができる。これは本発明のリボザイムの重要な特徴の一つであり、従来のARSからは全く想像もつかない、生物学の常識を覆す特徴である。ARSは特定のアミノ酸をそれに対応するtRNAに結合させる(tRNAをアミノ酸でアシル化する、すなわちアミノアシル化する)酵素であり、その結果、mRNAの遺伝暗号がアミノ酸へと翻訳される。ところが、本発明のリボザイムは、アミノ酸以外のヒドロキシカルボン酸までもtRNAに結合させる(tRNAをカルボン酸でアシル化する)ことができる。その結果、非天然アミノ酸を含むすべてのアミノ酸、さらには、ヒドロキシカルボン酸への遺伝暗号の翻訳も可能となるのである。
さらに、本発明のリボザイムの特徴は、すべてのtRNAに対して、アシル化反応を行うことができることである。これは、本発明のリボザイムがtRNAを認識して結合する部位(tRNA認識部位)が、3’末端のGGNモチーフのみを必要とするため、このGGNモチーフのうちGGがすべてのtRNA分子に共通の配列である3’末端のCCを認識し、Uが3’末端から4番目の識別塩基を認識しているからである(つまり、NはtRNAの識別塩基に相補的な塩基)。これは、天然のタンパク質ARS酵素や天然ARS酵素を改変して得られた酵素との顕著な相違である。天然のARSは、tRNAとの構造的、化学的な相補性が広範な領域に及ぶことにより、tRNAの様々な特徴を感知して特異的なtRNAのみを厳格に認識する。一方、本発明のリボザイムは、tRNA認識部位であるGGNモチーフとtRNAのアクセプターステム上の共通配列とのヌクレオチド同士の相補性により、tRNAを認識して結合する。
本発明のリボザイムは、親型である従来のフレキシザイムを基にして構築され、tRNA認識部位としてのGGNモチーフ、及びP1、P2領域を有する。P1及びP2領域はステム・ループ構造からなり、触媒活性に必要な配列を固定する部分である。触媒活性に必要な配列には、基質認識やアシル基転移反応に必要な部位が含まれる。
すなわち、本発明のリボザイムは、tRNA認識部位を構成するGGNモチーフ、構造を固定するP1及びP2領域、アシル基ドナー基質を認識して結合しうる基質結合部位、及びアシル基ドナー基質からtRNAへのアシル基転移反応を触媒する活性を有する触媒活性部位を含む。このような構造により、tRNAに結合し、アシル基ドナー基質にも結合し、アシル基ドナー基質からtRNAへのアシル基転移反応を触媒してアシル基をtRNAの3’末端に特異的に結合せしめる、すなわち、tRNAをアシル化する。
本発明のリボザイムがtRNAとアシル基ドナー基質に結合してtRNAをアシル化する際には、リボザイムのtRNA認識部位(3’末端のGGN)は、相補的な塩基対合によりtRNAに結合する。同時に、本発明のリボザイムはあらかじめ弱活性化されたアシル基ドナー基質を認識して結合する。この時、本発明のリボザイムは、アシル基ドナー基質の側鎖又はアシル脱離基内の芳香環部分を認識すると思われる。リボザイム上にアシル基ドナー基質とtRNAが適正に結合することにより、アシルドナー基質からtRNAの3’末端へのアシル基転移反応が速やかに起こると考えられる。アシル基ドナー基質からtRNAの3’末端へのアシル基転移反応において、基質のアシル脱離基は脱離し、アシル基がtRNAの3’末端のリボースの水酸基に移される。この転移によりアミノ酸やヒドロキシカルボン酸がtRNAと活性エステル結合を形成し、アシル化されたtRNAが生じる。アシル化されたtRNAが生成すると、リボザイムは生成物から離脱し、新たな基質に結合できるようになる。
従って、本発明のリボザイムの特徴は次のように表すことができる。
tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
(a)tRNAを認識して結合するtRNA結合部位
(b)アシル脱離基部分において弱活性化されたエステル結合を有し、側鎖又はアシル脱離基内に芳香環を有するアシル基ドナー基質を認識して結合するアシル基ドナー基質結合部位、及び
(c)アシル基ドナー基質からtRNAの3’末端へのアシル基転移反応を触媒する活性を有する触媒活性部位、を含み、
tRNA結合部位はリボザイムの3’末端のGGUモチーフからなり、当該GGUモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端のアシル基アクセプターステム部分の73〜75番目の塩基配列RCC(Rは識別塩基であり、G又はAである)と相補的であり、これにより、リボザイムがtRNAの3’末端のアシル基アクセプターステム部分と塩基対形成により結合し、アシル基ドナー基質結合部位に結合したアシル基ドナー基質からtRNAの3’末端へのアシル基転移反応が速やかに起こり、
tRNAの73番目の塩基(ディスクリミネーター塩基)と塩基対を形成するリボザイム上の塩基Uは、AもしくはGに対応できる塩基であるが、tRNAの種類によって相補的になるように変異をすることが可能であり、これにより、リボザイムは任意のtRNAをアシル化することができることを特徴とする、前記リボザイム。
本発明のリボザイムは基質分子上の芳香環を認識すると考えられる。従って、アシル基ドナー基質は側鎖に芳香環を有するか、あるいはアシル脱離基に芳香環を有するものである。
アシルドナー基質がアシル脱離基内に芳香環を有するものである場合には、アシルドナー基質は以下の一般式で表すことができる。
Figure 2007066627
[式中、R1, R2、R3は任意の化学構造を示す。 例えば、R1はアミノ基、水酸基、チオール基など求核性のある官能基群、R2はアルキル基、アリール基など側鎖官能基にあたる化学構造を示す。R3は脱離基に相当し、ここでは特に電子吸引性官能基を有するアリール基(Ar)を有するベンジルエステルやチオベンジルエステルを示す。]リボザイムのアシル基ドナー基質結合部位は基質の脱離基(R3)の部分を認識し、これにより、リボザイムは、任意の側鎖を有するカルボン酸をアシル基ドナー基質としてtRNAをアシル化することができる。
アシル脱離基内に芳香環を有するアシル基ドナー基質の具体例としては、アシル脱離基内に芳香環を持つアミノ酸のエステル化誘導体、アシル脱離基内に芳香環を持つアミノ酸のチオエステル化誘導体、アシル脱離基内に芳香環を持つ乳酸のエステル化誘導体が挙げられる。
本発明のリボザイムを用いたアシル化tRNAの合成
本発明のリボザイムを用いて、所望のアシルドナー基質でアシル化されたtRNAを合成できる。
本発明のリボザイムによる、アシル化されたtRNAの製造方法は以下の工程を含む
(a)1つ以上の本発明のリボザイムを提供する工程;(b)tRNAを提供する工程;(c)弱活性化されたカルボン酸を合成する工程;(d)前記リボザイムと、前記tRNA及び弱活性化されたカルボン酸とを接触させて、tRNAをアシル化する工程;及び(e)アシル化されたtRNAを単離する工程。
この方法においてアシルドナー基質として用いるのは、あらかじめ弱活性化されたカルボン酸である。アシルドナー基質としてのカルボン酸は、例えば、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸である。弱活性化は、エステル結合を弱く活性化させるようなアシル脱離基の導入により、弱活性化されたカルボン酸の例は、アミノ酸のエステル化誘導体、アミノ酸のチオエステル化誘導体、又はカルボン酸のエステル化誘導体である。このようなアシルドナー基質の好ましい例は、側鎖に芳香環を持つ天然アミノ酸又は非天然アミノ酸のシアノメチルエステル、天然アミノ酸又は非天然アミノ酸の3,5−ジニトロベンジルエステル、天然アミノ酸又は非天然アミノ酸の4−クロロベンジルチオエステル、フェニル乳酸のシアノメチルエステル、及びフェニル乳酸又はアルキル乳酸の3,5−ジニトロベンジルエステル等、のアミノ酸や乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体である。
本発明のリボザイムによる、アシル化されたtRNAの製造方法において、tRNAとしてはいかなるものも用いることができる。tRNAは、天然のtRNAでも人工的に構築したtRNAでもよく、クローバー葉構造に類似する2次構造の形成に対応する配列を有するRNA分子であって、さらにL字型の3次元構造を形成し、一方の端にあたる3’末端にアミノ酸その他のカルボン酸を結合し(アシル化)、もう一方の端に位置するアンチコドンによってmRNA上のコドンを認識するという機能をもつRNA分子であればよい。後述の実施例においては、アンバー終止コドンに対応した人工サプレッサーtRNAのひとつであるtRNAAsn CUAをアシル化した例を記載している。
本発明のリボザイムによるtRNAのアシル化反応は、溶液中で行ってもよいし、担体に固定化したリボザイムを用いたカラムを用いて反応させてもよい。例えば、もし翻訳の反応スケールが100μl以下の少ない量であれば、溶液中でリボザイムによるtRNAのアシル化を行い、反応溶液をエタノール沈殿したペレットを適当な緩衝液(例えば1mMの酢酸カリウム、pH5等)に溶解し、翻訳系に添加すれば良い。少量スケールの反応条件の例としては、実施例3に記載の方法を参照されたい。一般的な反応条件としては、例えば、最終濃度で0.5〜20μMのtRNA、0.5〜20μMの本発明のリボザイム、2〜10mMのアシルドナー基質、0.6MのMgCl2を含むpH7.5、0.1Mの反応緩衝液を、0度Cで1時間〜24時間、反応させる。
翻訳の反応スケールが100μlを超える場合は、リボザイムの再利用を考慮し、担体に固定化したリボザイムを用いたほうが好都合である。担体として、例えば、樹脂、アガロース、セファロース、磁器ビーズなどを用いることもできるが、特に限定されない。リボザイムを担体に固定化して反応を行わせる場合は、例えば、Murakami, H., Bonzagni, N. J. and Suga, H. (2002). "Aminoacyl-tRNA synthesis by a resin-immobilized ribozyme." J. Am. Chem. Soc. 124(24): 6834-6835に記載の方法に従って行うことができる。反応産物であるアシル化tRNAの分離は、様々な方法で行える。一例としては、10mM程度のEDTAを含有する緩衝液でカラムから溶出する方法がある。リボザイムを固定化した樹脂は、例えば反応バッファーで平衡化することにより、十数回リサイクルすることができる。
このように本発明のリボザイムを用いたアシル化反応は簡便であり、基質と組合わせてアシル化tRNAを得るためのキット化製品とすることもできる。キットの最低限の内容としては、(a)1つ以上の本発明のリボザイム(担体に固定化されいてもよい)、(b)前記リボザイムの基質となる、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体、及び(c)tRNAを含んでいればよいが、さらに、反応緩衝液、反応容器、使用説明書等を含んでいてもよい。
スーパーフレキシザイムを用いたアシル化tRNAの合成
本発明のリボザイムのうち、スーパーフレキシザイム1は、原型のフレキシザイム同様に、脱離基としてシアノメチル基を、側鎖として芳香環をもつアミノ酸に対応できる。また、脱離基として4−クロロベンジルチオールを、側鎖としては芳香環以外の側鎖をもつアミノ酸に対しても活性を有する。特に、4−クロロベンジルチオールとの組み合わせによりβ位に枝分かれ側鎖をもつアミノ酸(例えばバリンやイソロイシン)に対して、活性を有する点が有用である。さらに、シアノメチル基もしくは4−クロロベンジルチオールで活性化されたフェニル乳酸もしくはアルキル乳酸誘導体にも活性を示す。
スーパーフレキシザイム2は、脱離基として3,5−ジニトロベンジルアルコールを、側鎖には芳香環以外の側鎖をもつアミノ酸に対し活性を有する。このリボザイムの特徴は、他のリボザイムに比較すると低濃度(1mM)の上記のアシルドナーに対しても活性を保持できることである。また、3,5−ジニトロベンジルアルコールは活性基として弱く、これにより無触媒による非特異的なtRNAへのアミノアシル化は完全に避けられる。一方、スーパーフレキシザイム2の弱点は、脱離基として4−クロロベンジルチオールをもつアミノ酸に対してスーパーフレキシザイム1に比較して活性が低いこと、また3,5−ジニトロベンジルアルコールを脱離基にもちβ位に枝分かれ側鎖をもつアミノ酸に対して活性が低いことである。
従って、これら2種類のスーパーフレキシザイムを組み合わせることにより、実質的にはいかなる側鎖を有するアミノ酸にも対応できる。一般的には、β位に枝分かれ側鎖を持たないアミノ酸に関しては、3,5−ジニトロベンジルアルコールを脱離基にもつアシルドナーに対して、スーパーフレキシザイム2を用いることで対応できる。β位に枝分かれ側鎖を持つアミノ酸に関しては、4−クロロベンジルチオールを脱離基にもつアシルドナーに対して、スーパーフレキシザイム1を用いることで対応できる。
従って、スーパーフレキシザイム1及び2を組合わせて用いる以下の方法により、任意のアミノ酸又はヒドロキシカルボン酸でアシル化されたtRNAを製造する方法が提供される。
(a)それぞれ以下の(1)及び(2)のRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒する2つのリボザイムを提供する工程:
(1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU、及び
(2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
(b)tRNAを提供する工程
(c)天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体を合成する工程
(d)前記リボザイムと、前記tRNA及び前記天然アミノ酸又は非天然アミノ酸とを接触させて、tRNAをアミノアシル化する工程、及び
(e)アシル化されたtRNAを単離する工程
を含む、アシル化されたtRNAの製造方法。
2つのスーパーフレキシザイムはそれぞれ担体に固定化して用いることもできる。固定化の際には、酸化修飾可能な任意のヌクレオチドを触媒RNA分子の3’末端に付加させた、以下の(1−N)又は(2−N)の塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNAからなる固定用スーパーフレキシザイムを用いると好都合である。
(1−N)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGUN(配列番号9)
(3’末端のNは付加させた任意のヌクレオチド)
(2−N)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGUN(配列番号10)
(3’末端のNは付加させた任意のヌクレオチド)
任意のヌクレオチドNがアデノシンである場合、以下の(1−A)又は(2−A)の塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNAからなる固定用スーパーフレキシザイムを用いる。
(1−A)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGUA(配列番号11)
(3’末端のAは付加させたアデノシン)
(2−A)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGUA(配列番号12)
(3’末端のAは付加させたアデノシン)
このような固定用リボザイムを用いる場合、アシル化されたtRNAの製造方法は以下の(a)から(e)の工程を含む。
(a)(1-N)又は(1-A)、及び(2-N)又は(2-A)、で示される塩基配列のポリヌクレオチドをそれぞれ含むRNAからなる2つの固定用リボザイムを提供し、それらを担体に固定化する工程
(b)tRNAを提供する工程
(c)天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体を合成する工程
(d)前記で担体に固定化されたリボザイムと、前記tRNA及び前記天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体とを接触させて、tRNAをアシル化する工程、及び
(e)アシル化tRNAを単離する工程
を含む。
本発明のリボザイムを用いた部位特異的変異ポリペプチドの合成
非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸を結合した適当なサプレッサーtRNAを用いて、任意の非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸が所望の部位に導入されたポリペプチドを製造することができる。
ここで、本発明の理解を助けるために、サプレッサーtRNAあるいはサプレッション(抑制又は抑圧)について説明する。典型的には、サプレッサーtRNAとは、遺伝子の変異による塩基置換、塩基挿入や塩基欠損による形質の変異を抑圧するtRNAである。天然においては原核生物において多く見出されている。塩基置換などによってmRNA上の翻訳領域に生じた終止コドンを、あるアミノ酸に対応するコドンとして認識したり(ナンセンスサプレッサーtRNA)、あるアミノ酸に対応するコドンをそれとは異なったアミノ酸のコドンとして読み取る能力を獲得したtRNA(ミスセンスtRNA)があり、本来の遺伝子産物を産生したり、変化した遺伝子産物の機能をもとに戻すことができる(サプレッションあるいは抑制)。塩基挿入や塩基欠損によって生じた遺伝暗号の読み取り枠のずれを抑圧できるtRNA(フレームシフトサプレッサーtRNA)もある。フレームシフトサプレッサーtRNAには、4塩基をアミノ酸のコドンとして読み取るtRNAがある。非天然アミノ酸変異法においては、例えば、非天然アミノ酸でアミノアシル化したサプレッサーtRNAにより、変異遺伝子上のアンバーコドン(TAG)をサプレッション(抑制)することで、アンバーコドンの位置に非天然アミノ酸が導入される。
本発明のリボザイムを用いることにより、様々な非天然アミノ酸を結合した適当なサプレッサーtRNAを簡単に合成することができる。さらに、ヒドロキシカルボン酸を結合したサプレッサーtRNAの合成も可能である。
従って、本発明のリボザイムを用いた、部位特異的変異ポリペプチドの製造方法は、(a)本発明のリボザイムを提供する工程、(b)前記リボザイムを用いてtRNAを非天然アミノ酸またはヒドロキシカルボン酸でアシル化する工程、(c)前記tRNAのアンチコドンに対応するコドンを所望の部位に有するmRNAを提供する工程、(d)前記のアシル化されたtRNAおよび前記mRNAを翻訳系に加えて、非天然アミノ酸またはカルボン酸が所望の部位に導入されたポリペプチドを製造する工程、を含む。各工程の詳細については、これまでの説明を参照されたい。以下ではポリペプチドの製造に特に関連する事項を説明する。
本発明のリボザイムを用いて、tRNAを非天然アミノ酸またはヒドロキシカルボン酸でアシル化する際、非天然アミノ酸としては、いかなる非天然アミノ酸でも原理的には可能である。また、非天然アミノ酸だけでなく、本発明のリボザイムによりα−ヒドロキシカルボン酸やβ−ヒドロキシカルボン酸をtRNAに担持させて、これらのカルボン酸が所望の部位に導入された変異ポリペプチドを合成することも可能である。
タンパク質合成の具体的な方法は、基本的には、Murakami, H., Kourouklis, D. and Suga, H. (2003). "Using a solid-phase ribozyme aminoacylation system to reprogram the genetic code." Chem. Biol. 10(11): 1077-84.に記載したのと同様に行うことができるが、種々の改変が可能である。一般的には、以下の記載に従って行うことができる。
翻訳系は、細胞質の抽出物を用いて蛋白質を合成する系である無細胞翻訳系を用いるのが好適である。細胞そのものを用いないので、より人工的な操作が可能である。このような系は一般的には、リボソームタンパク質、リボソームRNA、アミノ酸、tRNA、GTP、ATP、翻訳開始および伸長因子、ならびに翻訳に必要なその他の因子を含み、高効率のものとしては、大腸菌抽出液・小麦胚芽抽出液が知られている。これらは、透析を用いて連続的にエネルギーを供給することで、数百μgから数mg/mLの蛋白質を生産する。遺伝子DNAからの転写も併せて行うためのRNAポリメレースを含む系もある。大腸菌由来の系としてはロッシュ・ダイアグノスティック社のRTS−100(登録商標)やPGI社のPURESYSTEM(登録商標)等があり、小麦胚芽抽出液を用いた系としてはゾイジーン社のもの等が使用できる。
あるいは、アミノアシル化されたサプレッサーtRNAを細胞内へ導入することにより、非天然アミノ酸変異を細胞内でも行うことができる。例えば、アフリリカツメガエル卵母細胞や哺乳類細胞へ、マイクロインジェクションあるいはトランスフェクションにより、本発明の方法によりアミノアシル化された適当なサプレッサーtRNAを導入することにより、細胞内で非天然アミノ酸を含む蛋白質を発現できる。
tRNAとしては、翻訳系に存在する天然のARSとはオルソゴナルな関係にあるものを使用する。天然のARSとはオルソゴナルな関係にあるものとは、すなわち、翻訳系に存在する天然のARSによってはアミノアシル化されることはないが、リボソームでは効率よく変異部位のコドンをサプレッションして、所望の非天然アミノ酸やカルボン酸を発現させ得るようなサプレッサーtRNAである。このようなtRNAとして、例えば、異なる種に由来する天然のアンバーサプレッサーtRNAを使用することができる。あるいは、このようなtRNAとして人工的に構築したtRNAを使用することができる。人工的に構築したtRNAの一例として、otRNA(orthogonal tRNA: オルソゴナルtRNA)が挙げられる。これは大腸菌のアンバーサプレッサーtRNAAsn CUAに由来し、G73Aの変異を導入された人工tRNAであり、数カ所に人工的な改変を施すことで大腸菌ARSによって認識されないため、大腸菌の翻訳系でもアミノアシル化されないtRNAである。あるいは、天然由来のtRNA様分子として、細胞外翻訳系とは異なる種(ヒトなど)に由来するアンバーサプレッサーtRNAをこの目的で使用することができる。
本発明のリボザイムに対して基質となるtRNAは自在に選択できるため、使用するタンパク質合成系に最適なサプレッサーtRNAを自由に選択することができる。これは、現存のARSタンパク質酵素に比べて、大きな利点である。ARSタンパク質酵素はtRNAに対する認識が厳格であることが多く、酵素が認識する構造を有するtRNAしか用いることができない。一方、本発明のARSリボザイムは、すべてのtRNAを基質とすることができる。本発明のリボザイムはtRNAの共通配列を認識し、アンチコドンは認識しない。したがって、所望の各基質に対応するアンチコドンループ部分のみを変えて、他の構造は共通であるような人工tRNAを汎用することもできる。
好適なサプレッサーtRNAは、蛋白質発現系に応じてスクリーニングする。スクリーニングは、以下の方法で行うことができる。まず、使用する蛋白質発現系に内在するARSタンパク質酵素でアミノアシル化されないtRNAをスクリーニングする。もしtRNAが内在性の蛋白質酵素でアミノアシル化されると、非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸を導入したい箇所に他のアミノ酸が導入されてしまうからである。また加えたアシル化tRNAは、使用する蛋白質発現系のリボソームに効率よく取り込まれる必要がある。このスクリーニングには、本発明のリボザイムでアシル化したtRNAを用いることができる。先にも述べた通り、本発明のリボザイムのtRNA認識部位はtRNAの3'末端共通配列のみを認識するように設定してある。従って本発明のリボザイムを用いて様々なtRNAをアミノアシル化し、これをスクリーニング試料として用いることが可能である。
非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸が所望の部位に導入されたポリペプチドを製造する場合、導入部位をmRNA上で指定する必要がある。そのためには、天然アミノ酸をコードするコドン以外に、非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸をコードするコドンが必要である。一方、そのコドンに相補的なアンチコドンを持ち、所望の非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸を担持した適当なサプレッサーtRNAを上述のように作成する。これらを翻訳系へ添加すると、リボソームにおいてmRNA上のコドンがアンチコドンを持ったtRNAによって認識され、その結果、非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸が伸長中のポリペプチド鎖に取り込まれる。
非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸をコードするには、従来の遺伝暗号表においてアミノ酸をコードしていないコドンを割り当てる、つまり、遺伝暗号とアミノ酸のペアを指定するコドンを拡張するという方法がある。例えば、終始コドンに対応するアンチコドンを用いるアンバーサプレッサー法、4塩基からなるアンチコドン、人工塩基の導入のいずれかを用いることができる。また、4塩基コドンよりも多い数の塩基からなるコドン(例えば5塩基コドン)で非天然アミノ酸をコードすることも可能である。
コドンの拡張の例として、50位のアミノ酸が非天然アミノ酸で置換された変異ポリペプチドの合成は、50位にコドンの変異を有するmRNAと、非天然アミノ酸でアミノアシル化された相補的なアンチコドンを有するサプレッサーtRNAとを翻訳系に加えることにより行うことができる。例えば、変異コドンとしてアンバーコドン(UAG)を用いる場合、相補的なアンチコドンを有するサプレッサーtRNAはtRNAAsn CUAを用いることができ、あるいは、変異コドンが4塩基コドン(GGGU)である場合、tRNAAsn ACCCを用いる。mRNAは、50番目の位置に変異コドンを有するように設計された鋳型DNAからの転写によって作成できる。あるいは、mRNAを作成してから翻訳系に加える代わりに、アミノアシル化されたサプレッサーtRNAのアンチコドンに相補的なコドンを有するmRNAをコードする鋳型DNAを、転写と翻訳を組合わせた系に添加して変異ポリペプチドを合成することもできる。
人工的に拡張されたコドンは任意に決定することができ、本発明のリボザイムを用いれば相補的なアンチコドンを持つtRNAに任意の非天然アミノ酸やヒドロキシカルボン酸を担持させることができる。その結果、一つの変異遺伝子から、使用するtRNAの種類に応じて、選択的に変異を起こした多種類のポリペプチドを合成することも可能である。
上述した発明の内容を以下の実施例によってさらに詳しく説明するが、これは例示であり本発明の範囲はこれに限定されない。明細書及び特許請求の範囲の記載に基づき種々の変更、修飾が当業者には可能であり、これらの変更、修飾も本発明に含まれる。
この実施形態は、基質分子の設計と合成を記載する。
この実施形態では、基質分子を合成した。リボザイムの認識部位を基質分子の側鎖から脱離基に変換することで、すべてのアミノ酸もしくは乳酸によるアシル化が可能となるよう基質を設計した(図6)。脱離基には芳香族を用い、エステル結合は、チオエステルで活性化(CBT:p-chloro-benzyl thioester)、もしくは芳香族に電子吸引性の官能基を持ったもの(DBE:3,5-dinitrobenzyl ester)を使用して活性化した。芳香族を側鎖に持つ基質については、従来通りシアノメチルエステル(CME:cyanomethyl ester)で活性化した。
CBTをもつ基質の合成を以下に示す。まず、N,N−ビス(2-オキソ-3-オキサゾリジニル)ホスフィン酸クロリド(127mg、0.5mmol)とアミノ酸のBoc体(0.6mmol)とトリエチルアミン(150mg、1.5mmol)をジクロロメタン(3mL)に加えた。この混合物に、4−クロロベンジルメルカプタン(95mg、0.6mmol)を添加し、反応混合物を室温で2時間撹拌した。反応後3mLのジクロロメタンを追加し、3mLの1N塩酸水溶液で3回、0.5N水酸化ナトリウム水溶液で1回、4%炭酸水素ナトリウム水溶液で1回、飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いた。硫酸マグネシウムを濾過により除き溶媒を減圧留去したのち、4N塩酸/酢酸エチル(2mL)を加え室温で20分静置した。反応後、溶媒を減圧留去し、ジエチルエーテル(3mL)を加え減圧留去した。この操作を2回繰り返した後、ジエチルエーテル(3mL)を加え沈澱を濾過または遠心分離により回収した。
DBEをもつ基質の合成を以下に示す。まず3,5−ジニトロベンジルクロリド(108mg、0.5mmol)とアミノ酸のBoc体(0.6mmol)とトリエチルアミン(75mg、0.75mmol)をジメチルホルムアミド(0.2mL)に加えた。室温で12時間反応させた後、ジエチルエーテル(8mL)を加え、3mLの1N塩酸水溶液で3回、4%炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で1回洗浄した後、硫酸マグネシウムで有機層の中の水を除いた。硫酸マグネシウムを濾過により除き溶媒を減圧留去したのち、4N塩酸/酢酸エチル(2mL)を加え室温で20分静置した。反応後、溶媒を減圧留去し、ジエチルエーテル(3mL)を加え減圧留去した。この操作を2回繰り返した後、ジエチルエーテル(3mL)を加え沈澱を濾過または遠心分離により回収した。
CMEをもつ基質は、記載の方法によって合成した(Sugaら、J.Am.Chem.Soc.、120、1151〜1156、1998)。ただし脱保護は、上記の方法と同様に行った。
アスパラギン酸、グルタミン酸、シスチン、アルギニン、トリプトファン、グルタミンは脱保護を、下記の方法により行った。エステル化の反応後、残渣にトリフルオロ酢酸/ジメチルスルフィド=1/1(2mL)を加え室温で30分静置した。反応後、溶媒を減圧留去し、2回、4N塩酸/酢酸エチル(2mL)を加え減圧留去した。さらに3回、ジエチルエーテル(3mL)を加え減圧留去した。残渣にジエチルエーテル(3mL)を加え沈澱を濾過または遠心分離により回収した。
図6に例示された基質の略称の意味は次の通りである。Aly:(ε-N-acetyl-L-Lysine)、Hbi:(δ-N-biotinyl-(S)-Hydroxybutanoic acid)、Cit:(L-Citrulline)、BLy:(ε-N-Biotinyl-L-Lysine)、Iph:(p-iodo-L-Phenylalanine)、Mle:(α-N-methyl-L-Leucine)、Bal:(β-Alanine)、Dle:(D-Leucine)、Hph:((S)-3-phenyllactic acid)、Hle:(α-Hydroxy-Leucine)
この実施形態は、スーパーフレキシザイムおよびtRNA分子の構築を記載する(図7)。
この実施形態の例示では、スーパーフレキシザイム1または2の塩基配列に相当する合成DNA(eFxR45またはdnFxR46)に対し、P3プライマー存在下Taqポリメラーゼで伸長し(熱サイクル条件下は95度Cで2分、50度Cで1分、および72度Cで10分)、続いて相当する5'および3'プライマー(P4およびeFxR19またはP4およびdnFxR19)を用いて増幅し(熱サイクル条件下は95度Cで1分、50度Cで1分、および72度Cで1分)、その2重鎖DNAを鋳型として試験管内で転写後(37度C、1時間)、10%PAGE精製を経てスーパーフレキシザイムを提供した。tRNA分子についても同様に、tRNAAsn CUAに相当する合成DNA(tRNAasncua76)を5'および3'プライマー(tRNAasncua46およびtRNAasncua20)を用いて増幅し、同様の行程を経て目的のtRNAを提供した。
スーパーフレキシザイム1:
eFxR45:5'-ACCTA ACGCT AATCC CCTTT CGGGG CCGCG GAAAT CTTTC GATCC-3'(配列番号13)
P3:5'-GTAAT ACGAC TCACT ATAGG ATCGA AAGAT TTCCG C-3'(配列番号14)
P4:5'-GCATA TGTAA TACGA CTCAC TATAG-3'(配列番号15)
eFxR19:5'-TACCT AACGC TAATC CCCT-3'(配列番号16)
スーパーフレキシザイム2:
dnFxR46:5'-ACCTA ACGCC ATGTA CCCTT TCGGG GATGC GGAAA TCTTT CGATC C-3'(配列番号17)
P3:5'-GTAAT ACGAC TCACT ATAGG ATCGA AAGAT TTCCG C-3'
P4:5'-GCATA TGTAA TACGA CTCAC TATAG-3'
dnFxR19:5'-ACCTA ACGCC ATGTA CCCT-3'(配列番号18)
tRNAAsn CUA
tRNAasncua76:5'-TGGTG CCTCT GACTG GACTC GAACC AGTGA CATAC GGATT TAGAG TCCGC CGTTC TACCG ACTGA ACTAC AGAGG C-3'(配列番号19)
tRNAasncua46:5'-ACGCA TATGT AATAC GACTC ACTAT AGCCT CTGTA GTTCA GTCGG T-3'(配列番号20)
tRNAasnuca20:5'-TGGTG CCTCT GACTG GACTC-3'(配列番号21)
この実施形態は、実施例2で構築したスーパーフレキシザイムおよびtRNAを用いて、実施例1で合成したアシルドナー基質と反応させる例を示す。
以下5μlの反応スケールで反応をさせた場合を例にとって記述するが、このスケールは任意に変えることができる。10〜40μMの濃度でtRNAを溶かし込んだ反応緩衝液(0.2M HEPS・K,pH 7.5, 0.2M KCl)2.5μlを一旦95度Cに3分間加熱し、それを室温下に5分間放置することで、tRNAの3次元構造を形成させた。それに3Mの濃度のMgCl2を1μl加え、続いてスーパーフレキシザイムを50〜200μMの濃度で溶かし込んだ水溶液を0.5μl加えた。これに10〜50mMの1μlのアシルドナーを加え、反応を開始した。この条件での各要素の最終濃度は各、0.5〜20μMのtRNA、0.5〜20μMのスーパーフレキシザイム、2〜10mMのアシルドナー基質、0.6MのMgCl2を含むpH7.5、0.1Mの反応緩衝液になる。これを0度Cで1時間〜24時間、反応させた。反応の停止は、1.5倍量の0.6 M NaOAcを加えた後、エタノール沈澱を行い、沈澱を70%エタノールで洗浄した。生成物を翻訳などに用いる場合は、この沈殿を水に溶かし、翻訳系に加えた。
この実施形態では、スーパーフレキシザイム1、2の基本的な活性の評価を行った(図8−9)。
まず、フレキシザイムとスーパーフレキシザイム2を比較した(図8)。また、生成物であるアミノアシル-tRNAは、一般に生成物をビオチン化してストレプトアビジン存在下ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)上で確認する。まず、生成物を0.4 M HEPES K pH 8.0, 7 mg/mLスルホスクシンイミジル D-ビオチンの溶液(0.01 mL)に溶かし、0度Cで1時間反応させアミノ酸を結合したRNAを選択的にビオチン化した。これに1倍量の0.6 M NaClを加えた後、エタノール沈澱を行い、さらに沈澱を70%エタノールで3回洗浄した。回収した生成物を1.5μlのストレプトアビジン含有ゲルローディング緩衝液(0.2 mg/ml streptavidin, 40 mM piperazine pH 6.1, 40 mM EDTA, 6.4 M 尿素)に溶かし、12%のPAGEで電気泳動し、ストレプトアビジンゲルシフト法により、泳動速度が遅いバンドとして検出した。RNAの染色は、Syber Green II(CAMBREX)を用い、検出にはFLA-5100(Fuji)を用いた。
また、ビオチン化の効率の悪い2級アミノ基を有するアミノ酸、ビオチン化条件下で加水分解が進行しやすいアミノ酸、またビオチン化できない乳酸に関しては、tRNAの代わりにマイクロヘリックスRNAを使用し、酸性PAGEを用いてアシル化生成物を直接観測した。また、あらかじめビオチンを導入してあるHBi-DBE(δ-N-ビオチン化-3-ヒドロキシ酪酸:δ-N-Biotinyl-(s)-hydroxybutanoic acid)に関しては、ビオチン化工程なしで、ストレプトアビジンゲルシフト法PAGEで解析した。
図8−9において、(I)がアミノアシルtRNAとストレプトアビジンの複合体、(II)がtRNA、(III)がリボザイム、のバンドを示す。アミノアシル化の効率(Yield)はバンド強度の比率(I)/(II)+(III)から計算した。
スーパーフレキシザイム2は、フレキシザイムに比べてLeu-DBEに対する活性が大幅に向上した(図8、レーン3と6)。また逆に、スーパーフレキシザイム2は、Phe-CMEに対しての活性を低下させていた(レーン1と4)。これらの結果は、スーパーフレキシザイム2が、ジニトロベンジルエステルを持つ基質に対して最適化されたことを示す。また、3'末端が酸化されたtRNA(tRNA-3'(OX))を使用することで活性が消失することから、これらのアシル化は3'末端特異的に進行していることが分かる(レーン7、10、12)。
次に、フレキシザイムとスーパーフレキシザイム1、2を比較した(図9)。反応条件は上記と同様である。スーパーフレキシザイム1は、フレキシザイムと比較して、Phe-CMEに対する活性を向上させていた(レーン1、3)。また、スーパーフレキシザイム1は、ジニトロベンジルエステルを持つ基質に対して活性を向上させていたが、スーパーフレキシザイム2に比べて、その活性は低かった(レーン5と8)。ただ、スーパーフレキシザイム2がチオエステル結合を持つものを基質と出来ないのに対して、スーパーフレキシザイム1は、これを基質と出来ることが分かった(レーン7、10)。これはβ−分岐型アミノ酸に対してジニトロベンジルエステルを持つ基質が、弱い活性しか持たない(レーン6、9)ことを考えると、スーパーフレキシザイム2の弱点を補う有用な特徴である。
この実施形態では、実施例4に示すスーパーフレキシザイム1、2の活性評価を20種類の天然アミノ酸、9種類の非天然アミノ酸及び乳酸に対して行った(図10−11、及び以下の表1)。
Figure 2007066627
表1 アミノアシル-tRNAの収率 Substrates:基質、Time:反応時間、Yield:収率
反応条件は、実施例3と同様である。ただしアミノ酸によって反応効率が異なると予想されることから、基質濃度を1 mMから5 又は10 mMに増加させた。また、反応時間については表1(Time)を参照されたい。シスチンについては、そのジスルフィド結合をDTTで還元してシステインに変換した後に反応を行った。レーン1-56が変性PAGEで、レーン57-69が変性酸PAGE(acid PAGE)である。変性PAGEは実施例4と同様に行い、また変性酸性PAGEはマイクロへリックス(大腸菌由来の改変型アンバーサプレッサーtRNAAsnをさらに簡素化した構造を有するRNA)をtRNAの代わりに用いて、アシル化による分子量の変化、プラス電荷の増加によってシフトした生成物のバンドを検出した。
図10−11において、(I)がアミノアシルtRNAとストレプトアビジンの複合体、(II)がtRNA、(III)がリボザイム、(IV)がアミノアシル−マイクロヘリックス、(V)がマイクロヘリックス、のバンドを示す。
まず、芳香族を側鎖に持たないアミノ酸のジニトロベンジルエステル(表1の基質[Substrates]の欄ではアミノ酸略称-DBE)についてスーパーフレキシザイム2の活性を評価した。スーパーフレキシザイム2存在下では、すべてのアミノ酸において、アシル化されたtRNAが合成できていることが分かる(レーン1-12, 25-35, 47)。また、スーパーフレキシザイム非存在下では、全くtRNAはアシル化されておらず(レーン13-24, 36-46, 48)、この反応がスーパーフレキシザイム2によって触媒されたものであることがわかる。ただし、そのアミノアシル化の効率は一様ではない。このうちMleは特異的ビオチン化の過程でα−アミノ基の求核性が弱いためビオチン化できない、またAspは側鎖のカルボニル基が加水分解を促進するため見かけ上アミノアシル化の効率が下がってしまったと考えられる。これを検証するため、tRNAの代わりにマイクロへリックスを用いて酸性PAGE(aPAGE)を行った。マイクロへリックスはtRNAに比べて極めて小さく、アミノアシル化による分子量の変化、電荷の変化による影響が相対的に大きくなる。結果はMLe, Aspともにアシル化が50%以上進行しており、効率のよいアミノアシル化が確認できた(レーン75, 77、表1のaPAGE)。また他のアミノ酸についても、その移動度は基質の大きさと電荷を反映して変化しており、それぞれの基質によってマイクロへリックスがアシル化されていることが分かる。さらに、そのアシル化の効率はtRNAに比べて約1.5-1.8倍である。これはRNAの転写の際、T7 RNAポリメラーゼによる余分な塩基の付加が、マイクロへリックスではtRNAに比べて少ないためであると考えられる。実際約40%のtRNAにおいて、その3'末端に余分な塩基が付加していることが分かっている。さらに、比較的効率が低かったβ分岐型アミノ酸(Val, Ile, Thr)とGlu, His, BAl についてスーパーフレキシザイム1による反応でチオエステル(CBT)を試した。すべてのアミノ酸において収率の向上が見られた(レーン57-62、レーン81、表1ではアミノ酸略称-CBT)。さらにはリボザイムを加えなかったものでは、反応が進行していないことから、これらはスーパーフレキシザイム1によって触媒された反応であることがわかる。さらに側鎖に芳香族を持つものについて、反応を行った。以前の報告ではp-位に置換基をもつPhe誘導体を報告していたが(レーン49, 50, 52、表1ではアミノ酸略称-CME)、その後の研究でTrp(レーン51)のような側鎖に芳香族を持つアミノ酸が基質となることが分かっている。さらには、α-アミノ基の代わりに水酸基を持つフェニル乳酸(HPh:(s)-3-phenyllactic acid)も基質となることが分かっており(レーン80)、リボザイムの幅広い基質への適用性が示されている。
この実施形態は、実施例3−5で調整したサプレッサーアミノアシルtRNAを高効率試験管内蛋白質合成系であるRocheのRTS-100に加え、蛋白質合成を行った(図12−13)。
実験方法は、GFP(Green Fluorescent Protein:緑色蛍光蛋白質)をモデル蛋白質として使用した以前の報告とほぼ同様である(Murakami, H., Kourouklis, D. and Suga, H. (2003). "Using a solid-phase ribozyme aminoacylation system to reprogram the genetic code." Chem. Biol. 10(11): 1077-84)。GFPは蛍光で簡便に蛋白質の合成を検出できる。
35SラベルしたMet存在下で合成した蛋白質をSDS-PAGEで解析した。サプレッション効率(Suppression efficiency(%))は、完全長の蛋白質(I)のバンドと不完全長のバンド(II)の強度を、それに含まれるMetの数で補正して、以下の数式より算出した。(なお、バンド(III)は未同定の不完全長蛋白質のバンドである。)
サプレッション効率=(I)/[(I)+(II)x3/5]。
図12-13において、WTは野生型、C1(レーン2)はtRNAAsn CUA無し、C2(レーン3)はtRNAAsn CUAのみの反応の結果である。レーン4−24は天然アミノ酸を担持したアミノアシル化tRNAAsn CUA、レーン25−33は修飾型アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸を担持したアシル化tRNAAsn CUAの反応である。C3(レーン35)はtRNAAsn ACCC無し、C4(レーン36)はtRNAAsn ACCCのみの反応の結果である。レーン37−38はフェニルアラニン(Phe)又はフェニル乳酸(HPh)を担持したアシル化tRNAAsn ACCCの反応である。
まず、151位のTyrのコドン(UAC)を終止コドン(TAG)に置き換えたGFPの遺伝子を反応系に加えることで、反応系中でT7 RNA ポリメラーゼによりmRNAが合成される。tRNAを加えなければTAGコドンが終止コドンとして働き151位で翻訳が終結するため、完全長の蛋白質は合成されない(図12、レーン2)。また、アシル化されていないtRNAを加えても同様に完全長の蛋白質が合成されていないことから(レーン3)、使用したサプレッサーtRNAは、系中のARSの基質にならないことが分かる。これに対し、Leuでアミノアシル化したサプレッサーtRNAを加えたものでは、完全長のGFPのバンドが見られ、151位に特異的にLeuが導入された蛋白質が合成できていることが分かる(レーン1、8)。さらに他の天然アミノ酸についても、同様に導入が確認でき、そのサプレッション効率はアミノアシル化の効率と相関があった。ただしGlyについてはアミノアシル化が確認されているにも関わらず、今回は導入が確認できなかった(レーン4)。そこで、スーパーフレキシザイム2の代わりに、スーパーフレキシザイム1を用いてGlyでアミノアシル化されたtRNAを調整して系中に加えたが、その導入は確認できなかった(レーン24)。tRNAの3'末端を酸化したものではアミノアシル化が進行していないことから、アミノアシル化は3'末端に特異的に確認できることから、これは翻訳系の問題でありリボザイムの問題ではないと考えられる。この点については現在調査中であり、今後その原因を明らかにしたいと考えている。
さらに非天然アミノ酸の導入を試みた。IPhは以前の研究で同じものを質量分析装置で解析し、その導入を直接的に確認している(図13、レーン31)。Cit、 Alyは、効率よい導入が確認できた(レーン25、26)。これに対して、ビオチンを側鎖に持つアミノ酸はその導入効率が減少していた(レーン27)。アミノアシル化の効率は約30%とCitやALyと変わらないことから、このサプレッション効率の減少は、ビオチンが大きいために、リボソームに効率よく受け入れられなかったためと考えられる。また、MLe、 DLe、 BAlの導入を試みたが、その導入は検出範囲以下だった(レーン28-30)。3'特異的なアミノアシル化は、その酸化したtRNAがアミノアシル化されないことから確認できている。以前の報告では、α−メチルーアミノ酸、D体のアミノ酸、β−アミノ酸の導入が報告されているが、少なくとも今回の系ではこれらのアミノ酸は、リボソームに効率よく取り込まれていないことが分かった。さらに乳酸(HBi)についても導入を試みた。側鎖にビオチンを付けたものでは上記と同じ理由でその導入は確認できなかった(レーン33)。これに対しフェニル乳酸(Hph)については、効率の高い導入が確認できた(レーン32)。ただし、完全長の蛋白質よりも移動度の高い位置にバンドが見られた。これは、エステル結合への他の側鎖の求核攻撃などにより転移があったためと考えられる。そこで以前の研究で用意した、178位に4塩基コドン(GGGT)を持つ遺伝子を用いて、178位にフェニル乳酸(Hph)を導入した。この位置では、完全長の蛋白質のみが生成した(レーン38)。従って上記の移動度の遅いバンドは、何らかの立体的要因により151位に特異的に生成するものであることがわかる。いずれにしても、乳酸は本翻訳系でもリボソームへの取り込みが高い基質であった。

Claims (33)

  1. 以下の一般式
    P1−Z1Z2Z3Z4(N1)1(N1)2…(N1)p−P2−(N2)1(N2)2…(N2)qY1Y2Y3(N3)1(N3)2N4GGN
    [P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表し、(N1)1〜(N1)pはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、pは3又は4を表し、(N2)1〜(N2)qはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、qは5又は6を表し、(N3)1〜(N3)2はそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、N4はU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、Z1〜Z4はそれぞれ独立にC又はGを表し、Y1〜Y3はそれぞれ独立にC又はGを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表し、Uはウラシルヌクレオチド、Cはシトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表す。]
    で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
    リボザイムの3’末端のGGモチーフでtRNAを認識して結合し、当該GGモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端の75〜73番目の塩基配列と相補的である、前記リボザイム。
  2. 以下の一般式
    P1−CCGC(N1)1(N1)2…(N1)p−P2−(N2)1(N2)2…(N2)qGCG(N3)1(N3)2AGGN
    [P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表し、(N1)1〜(N1)pはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、pは3又は4を表し、(N2)1〜(N2)qはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、qは5又は6を表し、(N3)1〜(N3)2はそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、Uはウラシルヌクレオチド、Cはシトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表す。]
    で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
    リボザイムの3’末端のGGモチーフでtRNAを認識して結合し、当該GGモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端の75〜73番目の塩基配列と相補的である、前記リボザイム。
  3. 以下の式(I)又は(II)
    P1−CCGCGGC−P2−GAUUAGCGUUAGG (I)
    P1−CCGCAUC−P2−UACAUGGCGUUAGG (II)
    [式(I)及び(II)において、P1及びP2はステム・ループ構造を持ちうる任意のRNA配列からなる領域を表し、Uはウラシルヌクレオチド、Cは、シトシンヌクレオチド、Aはアデニンヌクレオチド、Gはグアニンヌクレオチドを表し、はAもしくはGに相補的なモノリボヌクレオチドを表す]
    で表されるRNA配列からなる構造を有する、tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
    リボザイムの3’末端のGGモチーフでtRNAを認識して結合し、当該GGモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端の75〜73番目の塩基配列と相補的である、前記リボザイム。
  4. P1及びP2が、それぞれ独立して以下の式
    Figure 2007066627
    (BはU、C、A又はGから選択されるリボヌクレオチドからなる塩基数1〜8の任意のループ型1重鎖を表し、Q1〜Qnはそれぞれ独立にU、C、A及びGのいずれかの任意のモノリボヌクレオチドを表し、R1〜RnはQ1〜Qnと完全もしくは一部相補的塩基対を形成することにより優先的に2重鎖をとりうるように選択されるU、C、A及びGのいずれかのモノリボヌクレオチドを表し、nは1〜10の整数を表す。)
    で表されるRNA配列からなる、請求項1〜3のいずれかに記載のリボザイム。
  5. Bで表されるループ型1重鎖が安定テトラループである、請求項4に記載のリボザイム。
  6. P1が:GGAUCGAAAGAUUU
    P2が:CCCGAAAGGG
    で表されるRNA配列からなる、請求項1〜5のいずれかに記載のリボザイム。
  7. 以下の(a)〜(d)のいずれかのRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒するリボザイム:
    (a)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
    (b)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
    (c)配列(a)において、3’末端のUが、アシル化されるtRNAにおける73番目の塩基に相補的になるようにデザインされた任意の塩基に置換されたRNA配列
    (d)配列(b)において、3’末端のUが、アシル化されるtRNAにおける73番目の塩基に相補的になるようにデザインされた任意の塩基に置換されたRNA配列。
  8. 天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸によるtRNAのアシル化を触媒するリボザイムである、請求項1〜7のいずれかに記載のリボザイム。
  9. tRNAのアシル化を触媒するリボザイムであって、
    (a)tRNAを認識して結合するtRNA結合部位
    (b)アシル脱離基部分において弱活性化されたエステル結合を有し、側鎖又はアシル脱離基内に芳香環を有するアシル基ドナー基質を認識して結合するアシル基ドナー基質結合部位、及び
    (c)アシル基ドナー基質からtRNAの3’末端へのアシル基転移反応を触媒する活性を有する触媒活性部位、を含み、
    tRNA結合部位はリボザイムの3’末端のGGUモチーフからなり、当該GGUモチーフはリボザイムに結合するtRNAの3’末端のアシル基アクセプターステム部分の75〜73番目の塩基配列と相補的であり、これにより、リボザイムがtRNAの3’末端のアシル基アクセプターステム部分と塩基対形成により結合し、アシル基ドナー基質結合部位に結合したアシル基ドナー基質からtRNAの3’末端へのアシル基転移反応が速やかに起こり、
    tRNAの73番目の塩基と塩基対を形成するリボザイム上の塩基Uは、AもしくはGに相補的な塩基であるが、tRNAの種類によって相補的になるように変異をすることが可能であり、これにより、リボザイムは任意のtRNAをアシル化することができることを特徴とする、前記リボザイム。
  10. アシル脱離基内に芳香環を有するアシル基ドナー基質が以下の式
    Figure 2007066627
    [式中、R1は求核性のある官能基を表し、R2は側鎖官能基にあたる化学構造を表し、R3は脱離基に相当し、電子吸引性官能基を有するアリール基(Ar)を有するベンジルエステル又はチオベンジルエステルを表す]
    で表される構造を有し、リボザイムのアシル基ドナー基質結合部位は、基質のアシル脱離基であるR3の部分を認識し、これにより、リボザイムは、任意の側鎖を有するカルボン酸をアシル基ドナー基質としてtRNAをアシル化することができることを特徴とする、請求項9に記載のリボザイム。
  11. アシル脱離基内に芳香環を有するアシル基ドナー基質が、アシル脱離基内に芳香環を持つアミノ酸のエステル化誘導体、アシル脱離基内に芳香環を持つアミノ酸のチオエステル化誘導体、アシル脱離基内に芳香環を持つ乳酸のエステル化誘導体から選択される、請求項9又は10に記載のリボザイム。
  12. 以下の(a)〜(d)のいずれかを分子中に含むポリヌクレオチド:
    (a)請求項1〜11のいずれかに記載のリボザイムを構成するRNA
    (b)上記(a)のRNAに相補的な配列からなるRNA
    (c)上記(a)のRNAにおいてUがTに置換されている配列からなるDNA
    (d)上記(b)のRNAにおいてUがTに置換されている配列からなるDNA。
  13. (a)請求項1〜11のいずれかに記載の1つ以上のリボザイムを提供する工程
    (b)tRNAを提供する工程
    (c)弱活性化されたカルボン酸を提供する工程
    (d)前記リボザイムと、前記tRNA及び弱活性化されたカルボン酸とを接触させて、tRNAをアシル化する工程、及び
    (e)アシル化されたtRNAを単離する工程
    を含む、アシル化されたtRNAの製造方法。
  14. カルボン酸が、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸である、請求項13に記載の方法。
  15. 弱活性化されたカルボン酸が、アミノ酸のエステル化誘導体、アミノ酸のチオエステル化誘導体、又はカルボン酸のエステル化誘導体である、請求項13に記載の方法。
  16. 弱活性化されたカルボン酸が、以下から選択される、請求項13に記載の方法:
    側鎖に芳香環を持つ天然アミノ酸又は非天然アミノ酸のシアノメチルエステル、
    天然アミノ酸又は非天然アミノ酸の3,5−ジニトロベンジルエステル、
    天然アミノ酸又は非天然アミノ酸の4−クロロベンジルチオエステル
    フェニル乳酸のシアノメチルエステル、及び
    フェニル乳酸又はアルキル乳酸の3,5−ジニトロベンジルエステル。
  17. リボザイムが担体に固定化されている、請求項13〜16のいずれかに記載の方法。
  18. 請求項1〜11のいずれかに記載のリボザイムを構成するRNAの3’末端に1つ以上のアデノシン残基を付加した配列からなる、固定用リボザイム。
  19. 以下の(a)から(c)のいずれかの工程を含む、請求項1〜11のいずれかに記載のリボザイムに対する基質となるアミノ酸のエステル化誘導体の合成方法:
    (a)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を、ベンジル位にハロゲンを持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と反応してエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程
    (b)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と、一般的な縮合剤を用いて縮合させてエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程、又は
    (c)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を活性化したものを、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と混合することによりエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程
    であって、これにより、アミノ酸のエステル化誘導体の脱離基がリボザイムによる認識部位となることを特徴とする、前記方法。
  20. 以下の(a)又は(b)の工程を含む、請求項1〜11のいずれかに記載のリボザイムに対する基質となる、アミノ酸のチオエステル化誘導体の合成方法:
    (a)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と、一般的な縮合剤を用いて縮合させてエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程、又は
    (b)アミノ基をBoc保護したアミノ酸を活性化したものを、ベンジル位にチオール基を持つ化合物と混合することによりエステルを形成させ、その後、酸を用いてBoc保護基を除く工程
    であって、これにより、アミノ酸のチオエステル化誘導体の脱離基がリボザイムによる認識部位となることを特徴とする、前記方法。
  21. 以下の(a)から(c)のいずれかの工程を含む、請求項1〜11のいずれかに記載のリボザイムに対する基質となるカルボン酸のエステル化誘導体の合成方法:
    (a)カルボン酸とベンジル位にハロゲンを持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と反応してエステルを形成させる工程
    (b)カルボン酸とベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と、一般的な縮合剤を用いて縮合させてエステルを形成させる工程、又は
    (c)カルボン酸を活性化したものを、ベンジル位に水酸基を持ち芳香族に電子吸引基を持つ化合物と混合することによりエステルを形成させる工程
    であって、これにより、カルボン酸のエステル化誘導体の脱離基がリボザイムによる認識部位となることを特徴とする、前記方法。
  22. (a)それぞれ以下の(1)又は(2)のRNA配列からなる、tRNAのアシル化を触媒する2つのリボザイムを提供する工程:
    (1)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGU
    (2)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGU
    (b)tRNAを提供する工程
    (c)天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体を提供する工程
    (d)前記リボザイムと、前記tRNA及び前記天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体とを接触させて、tRNAをアシル化する工程、及び
    (e)アシル化されたtRNAを単離する工程
    を含む、アシル化されたtRNAの製造方法。
  23. 2つのリボザイムがそれぞれ担体に固定化されている、請求項22に記載の方法。
  24. tRNAのアシル化を触媒するリボザイムを担体に固定化するために酸化修飾可能な任意のヌクレオチドを触媒RNA分子の3’末端に付加させた、以下の(1−N)又は(2−N)の塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNAからなる固定用リボザイム:
    (1−N)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGUN
    (3’末端のNは付加させた任意のヌクレオチド)
    (2−N)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGUN
    (3’末端のNは付加させた任意のヌクレオチド)
  25. アデノシンを3’末端に付加させた請求項24に記載の固定用リボザイムであって、以下の(1−A)又は(2−A)の塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNAからなる固定用リボザイム:
    (1−A)GGAUCGAAAGAUUUCCGCGGCCCCGAAAGGGGAUUAGCGUUAGGUA
    (3’末端のAは付加させたアデノシン)
    (2−A)GGAUCGAAAGAUUUCCGCAUCCCCGAAAGGGUACAUGGCGUUAGGUA
    (3’末端のAは付加させたアデノシン)
  26. (a)請求項24の(1-N)又は請求項25の(1-A)で示される塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNA、及び請求項24の(2-N)又は請求項25の(2-A)で示される塩基配列のポリヌクレオチドを含むRNAからなる2つの固定用リボザイムを提供し、それらを担体に固定化する工程
    (b)tRNAを提供する工程
    (c)天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体を合成する工程
    (d)前記で担体に固定化されたリボザイムと、前記tRNA及び前記天然アミノ酸、非天然アミノ酸又は乳酸のエステル化誘導体とを接触させて、tRNAをアシル化する工程、及び
    (e)アシル化tRNAを単離する工程
    を含む、アシル化されたtRNAの製造方法。
  27. 天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸でアシル化されたtRNA分子を得るために使用できるキットであって
    (a)請求項1〜11のいずれかに記載の1つ以上のリボザイム
    (b)前記リボザイムの基質となる、天然アミノ酸、非天然アミノ酸、又は乳酸のエステル化誘導体又はチオエステル化誘導体
    (c)tRNA
    を含む、前記キット。
  28. リボザイムが担体に固定化されている、請求項27に記載のキット。
  29. 任意の非天然アミノ酸またはその他のカルボン酸が所望の部位に導入されたポリペプチドを製造する方法であって、
    (a)請求項1〜11のいずれかに記載の1つ以上のリボザイムを提供する工程
    (b)前記リボザイムを用いてtRNAを非天然アミノ酸またはカルボン酸でアシル化する工程
    (c)前記tRNAのアンチコドンに対応するコドンを所望の部位に有するmRNAを提供する工程
    (d)前記のアシル化されたtRNAおよび前記mRNAを翻訳系に加えて、非天然アミノ酸またはカルボン酸が所望の部位に導入されたポリペプチドを製造する工程
    を含む、前記方法。
  30. カルボン酸が乳酸である、請求項29に記載の方法。
  31. tRNAが終始コドンに対応するアンチコドン、4塩基からなるアンチコドン、人工塩基を含むアンチコドン、又は天然アミノ酸をコードするコドンに対するアンチコドンを有する、請求項29又は30に記載の方法。
  32. 工程(d)において、翻訳系に加える前に、アシル化されたtRNAをリボザイムから分離する工程をさらに含む、請求項29〜31のいずれかに記載の方法。
  33. 前記リボザイムが担体に固定化されている、請求項29〜32のいずれかに記載の方法。
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