, 明 細 書 非天然型ァミノ酸を組み込んだタンパク質の製造方法 技術分野 .
本発明は、所望の位置に非天然型アミノ酸を組み込んだタンパク質の製造方法、 当該製造方法に使用する宿主細胞及び当該製造方法に使用する無細胞タンパク質 合成系試薬キッ トに関する。 . 背景技術 '
天然のタンパク質は、 天然に存在する 20種類のアミノ酸 (以下、 天然型ァミノ 酸と称する) から構成される。 タンパク質の構造や機能を解析したり、 その化学 的性質を拡張する場合、 アミノ酸配列における所望の位置に、 天然に存在しない アミノ酸 (以下、 非天然型アミノ酸と称する) を組み込む手法が知られている。 なお、 非天然型ァミ.ノ酸を組み込んだタンパク質をァロプロティ 'と称する。 ところで、 アミノアシル tRNA合成酵素.(以下、 aaRS と称する) は、 特定のァ ミノ酸と特定の tRNAとを特異的に結合させる酵素であり、生物種ごとに、一部の 例外を除き 20種類の天然型アミノ酸それぞれに対応して 20種類存在する。 ァロ プロテインを合成する場合、 非天然型アミノ酸に対応する新たな aaRS (以下、 aaRS*と称する) 及び天然型アミノ酸をコードしないコドンと対合する tRNA (以 下、 tRNA*と称する) を宿主細胞に組み込み、 正確に機能させる必要がある。 すな わち、 宿主細胞において、 本来は天然型アミノ酸をコードしないコ ドンに、 aaRS* によって非天然型アミノ酸を結合した tRNA*を対合させ、 非天然型アミノ酸を組 み込んだァロプロティンを合成することができる。
このとき、 aaRS*は、 特定の天然型アミノ酸に特異的な既存の aaRSをベースと して、 この特定の天然型ァ ノ酸と類似する非天然型アミノ酸を基質とする活性 を持たせるように機能改変することによって作出される。 例えば、 チロシン (天 然型アミノ酸) に類似する 0-メチルチロシン (非天然型アミノ酸) に特異的な aaRS*を作出する際には、既存のチロシル tRNA合成酵素(TyrRS)をベースとして、
O -メチルチ口シンに対する 異性が高められた TyrRS変異体を作出する。このよ うに作出した aaRS*を使用してァロプロテインを合成する場合、 宿主細胞が本来 的に備える 20種類の天然型アミノ酸友びこれらに対応する tRNAと反応せず、 所 定の非天然型ア^:ノ酸及び tRNA*と特異的に反応する aaRS*を使用しなければな らない。 .
したがって、 aaRS*は、 所定の非天然型アミノ酸に対する特異性が、 既存の天然 型アミノ酸に対する特異性に比べて十分に高められた aaRS*を用いる。 そうでな ければ、 所定の非天然型アミノ酸が導入されるべき位置に天然型ァミノ酸が導入 されたタンパク質が合成されてしまうからである。 また、 aaRS*が、 tRNA*以外に 宿主細胞に本来的に備わっている tRNAとも反応するならば、非天然型ァミノ酸を 導入すべき位置以外にも、 天然型アミノ酸であるべき位置に非天然型アミノ酸が 導入されることになる。 この問題が起こらないためには、 宿主細胞として原核細 胞を使用する場合、 aaRS*は真核生物タイプの aaRS をベースに構築した aaRS*を 使用する。 なぜなら、 真核^物タイプの aaRSは原核生物の tRNAとは反応しにく いからである。なお、 ここで"真核生物タイプの aaRS"とは、真核生,物由来の aaRS または古細菌由来の aaRSを意味している。.仮に、宿主細胞として原核細胞を使用 し、 原核生物由来の aaRS*を導入した場合、 当該 aaRS*は、 tRNA*のみならず、 宿 主に本来備わった天然型アミノ酸に対応する tRNA を基質として複数種のアミノ ァシル tRNAを合成してしまう虞があり、 この場合には上記の理由から、遺伝子の 一意的なタンパク質への翻訳が困難となる。 よって、 宿主細胞として原核細胞を 使用する場合、 真核生物タイプの aaRS*を使用する。 逆に、 宿主細胞として真核 生物タイプの細胞を使用する場合、 aaRS*は原核生物由来の aaRSをベースに構築 するものを使用する。
以上のように、 ァロプロテインを合成する場合、 使用する宿主細胞が真核細胞 であるか原核細胞であるかによって、 適切な aaRS*を作出しなければならない。 宿主細胞が真核生物タイプであるか原核細胞であるかに拘わらず、 いずれの場合 において使用可能な aaRS*はまれである。 したがって、 特定の非天然型アミノ酸 を組み込んだァ口プロティンを真核生物タイプの細胞及ぴ原核細胞で合成しよう とすると、原核生物由来の aaRS*及び真核生物タイプの aaRS*を作出する必要があ
る。 ところが、 aaRS*の作出に 、 非天然型アミノ酸を基質とする活性を持たせる ように既存の aaRSの機能改変を成功させなければならず、多大な労力を要すると いった問題がある。 '
特許文献 1 WO 2 0 0 3 0 1 4 3 5 4
特許文献 2 W O 2 0 0 4 / 0 3 9 9 8 9 発明の開示
そこで、 本発明は、 上述 ·した実状に鑑み、 原核生物由来の aaRS*及び真核生物 タイプの aaRS*のいずれか一方を用い、 原核細胞及び真核生物タイプの細胞のい ずれも宿主細胞として使用することができるァロプロティンの製造方法を提供す ることを目的とする。
上述した目的を達成した本発明に係るァロプロテインの製造方法は以下の工程 を含む。
(a) 所定の天然型アミノ酸に対する特異性に比べて、当該天然型アミノ酸に類 似する非天然型アミノ酸に対する特異性が高められた原核生物由来 /アミノアシル tRNA合成酵素変異体をコードする遺伝子と、当該原核生物由来アミノアシル tRNA 合成酵素変異体の存在下で当該非天然型ァミノ酸と結合可能な非天然型ァミノ酸 用 tRNA遺伝子とを、上記所定の天然型アミノ酸に対する特異性を有する真核生物 タイプのアミノアシル tRNA合成酵素をコ一ドする遺伝子と、当該真核生物タイプ のアミノアシル tRNA合成酵素の存在下で当該天然型アミノ酸と結合可能な tRNA 遺伝子とを発現する原核細胞に導入する工程
(b) 上記原核細胞に本来的に存在する、上記天然型アミノ酸に対する特異性を 有する内在のァミノアシノレ tRNA合成酵素をコードする遺伝子と、当該内在のァミ ノアシル tRNA合成酵素の存在下で当該天然型ァミノ酸と結合可能な内在の tRNA 遺伝子とをノックアウトする工程
(c) 上記非天然型アミノ酸用 tRNA遺伝子のアンチコドンに対合するコ ドンを 有する目的遺伝子によりコードされる目的タンパク質を、 上記原核細胞中で発現 させる工程
以上の本発明に係るァロプロテインの製造方法では、 上記アンチコドンに対合
6 324043 するコ ドンの位置に上記非天 型アミノ酸を取り込ませ、 原核細胞において所望 のァロプロテインを製造することができる。 なお、 本発明において使用する原核 生物由来アミノアシル tRNA合成酵素 異体は、原核細胞においてァロプロテイン を合成する系に限定されず、 真核細胞でァロプロティンを合成する系にも適用す ることができる。
また、 本発明に係るァロプロテインの製造方法は、 以上のような原核細胞を宿 主細胞として使用する系に限定されず、真核生物タイプのアミノアシル tRNA合成 酵素変異体.を使用して真核生物タイプの細胞を宿主細胞として使用する系にも適 用することができる。
また、 本発明に係る原核細胞ほ、 以下の特徴を有している。
(a) 所定の天然型アミノ酸に対する特異性を有する真核生物タイプアミノア シル tRNA 合成酵素をコードする遺伝子と、 当該真核生物タイプのアミノアシル tRNA合成酵素の存在下で当該天然型アミノ酸と結合可能な tRNA遺伝子とが導入 されている ,
(b) 原核細胞に本来的に存在する、上記天然型アミノ酸に対する ,特異性を有す る内在のァミノアシル tRNA合成酵素をコードする遺伝子と、当該内在のァミノア シル tRNA合成酵素の存在下で当該天然型アミノ酸と結合可能な内在の tRNA遺伝 子とがノックアウトされている。
以上のような特徴を有する本発明に係る原核細胞は、 非天然型アミノ酸と類似 する天然型アミノ酸を組み込む際には、真核生物タイプのアミノアシル tRNA合成 酵素及びこれに対応する真核生物タイプの tRNAを使用することとなる。
さらに、 本発明に係る無細胞タンパク質合成系試薬キットは、 少なくとも以下 の要素を含む。
(a) 所定の天然型アミノ酸に対する特異性に比べて、当該天然型アミノ酸に類 似する非天然型アミノ酸に対する特異性が高められた原核生物由来アミノアシル tRNA合成酵素変異体 .
(b) 上記原核生物由来ァミノアシル tRNA合成酵素変異体の存在下で上記非天 然型アミノ酸と結合可能な非天然型アミノ酸用 tRNA
(c) 上記非天然型ァミノ酸を含むァミノ酸溶液
(d) ·上記所定の天然型ァ ノ酸に対する特異性を有する真核生物タイプのァ ミノァシル tRNA合成酵素をコ一ドする遺伝子と、当該真核生物タイプのアミノア シル tRNA合成酵素の存在下で当該天然型ァミノ酸と結合可能な tRNA遺伝子とが 導入されるとともに、 原核細胞に本来的に存在する、 上記天然型アミノ酸に対す る特異性を有する内在のアミノアシル tRNA合成酵素をコ一ドする遺伝子と、当該 内在のアミノアシル tRNA 合成酵素の存在下で当該天然型アミノ酸と結合可能な 内在の tRNA遺伝子とがノックアウトされた原核細胞の抽出液
以上のような無細胞タンパク質合成系試薬キットを使用した場合、 非天然型ァ ミノ酸と類似する天然型アミノ酸を組み込む際には、 真核生物タイプのアミノア シル tRNA合成酵素及びこれに対応する真核生物タイプの tRNAを使用することと なる。 なお、 本発明に係る無細胞タンパク質合成系試薬キッ トは、 以上のような 原核細胞の抽出液を使用する系に限定されず、 真核生物タイプのァミノァシル tRNA 合成酵素変異体を使用して真核細胞の抽出液を使用する系にも適用するこ とができる。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願 2005-338402号の明細書 および または図面に記載される内容を匂含する。 図面の簡単な説明 '
図 1は、 T0P10 [ A tyrlI, A tyrS, ρΤΚ3']株及び T0P10 株をそれぞれプラスミ ド 2541supFで形質転換した後、 ク口ラムフユ二コール含有培地及ぴ 口ラムフエ二 コール非含有培地で培養した結果を示す写真である。
図 2は、 T0P10 [ A tyrT, Δ tyrU, 'Δ tyfS, pTK3]株及ぴ ΤΟΡ10 [ Δ tyrU, A tyrS, pTK3]株にそれぞれ大腸菌 TyrRS 変異体を導入した株をプロモチロシン含有培地 及びプロモチロシン非含有培地において生育したときの増殖曲線を示す特性図で ある。
図 3は、 T0P10 [ A tyrT, Δ tyrU, Δ tyrS, pTK3〕株及び T0P10株について、 それ ぞれ染色体 DNAを抽出して PCRを行い、 PCR増幅断片を電気泳動によって確認し た結果を示す写真である。
発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明をより詳細に説明する。
ァロプロテインは、 非天然型アミノ酸を組み込んだタンパク質として定義され る。 本発明に係る非天然型アミノ酸を組み込んだタンパク質の製造方法 (以下、 ァロプロテインの製造方法と称する) は、 原核生物由来又は真核生物タイプのァ ミノァシル tRNA合成酵素変異体 (以下、 aaRS*と称する) を使用するが、 宿主細 胞の種類、 すなわち原核細胞、 真核生物タイプの細胞、 原核細胞由来の無細胞タ ンパク質合成系或いは真核生物タイプの細胞由来の無細胞タンパク質合成系であ るか'を問わず、広く如何なる宿主細胞に対しても aaRS*を使用することができる。 なお、 本発明において、 「真核生物タイプ」 とは、 真核生物及び古細菌を含む意 味である。 従って、 「真核生物タイプのアミノアシル tRNA合成酵素」 と表現した 場合、真核生物由来のアミノアシル tRNA合成酵素及び古細菌由来のアミノアシル tRNA合成酵素を含む意味である。
非天然型アミノ酸
本発明において、 天然型アミノ酸とは、 20種類の天然型アミノ酸とは異なる 構造を有するアミノ酸である。 非天然型アミノ酸は、 天然型アミノ酸に類似する 構造を有するため、特定の天然型アミノ酸の誘導体又は類似体として分類される。 例えば、 非天然型アミノ酸'としては、 天然型アミノ酸であるチロシンの誘導体で ある 3位置換チロシン、 4位置換チロシンを挙げることができる。 3位置換チロ シンとしては、 3—ョードチロシン、 3—ブロモチロシン等の 3—ハロゲン化チ 口シンが挙げられる。 4位置換チロシンとしては、 4一ァセチルー L—フエニル ァラニン、 4—ベンゾィルー L—フエ二ルァラニン、 4一アジドー L—フエ二ノレ ァラニン、 O—メチル一チロシン、 4一ョード一 L—フエ二ルァラニン等を挙げ ることができる。
また、 非天然型アミノ酸としては、 チロシン誘導体に限定されず、 例えば、 ァ ジドアラニン、 アジドホモァラニン、 ノルロイシン、 ノルパリン、 4—アミノ ト リプトフアン、 7—ァザトリブトファン、 6—メチルトリプトファン、 ァセチル リジン、 ボクリジン、 £ーメチルリジン、 1一ナフチルァラユン、 2—ナフ チルァラニン、 スチリルァラニン、 ジフエ二ルァラニン、 チアゾリルァラニン、
2—ピリジルァラニン、 3—ピリジルァラニン、 4一ピリジルァラニン、 アント リルァラニン、 2—ァミノ一 5—へキシノイン酸、 フリルァラニン、 ベンゾチェ 二ルァラニン、 チェ二ルァラニン、 ァリルグリシン、 プロパルギルグリシン、 ホ スホリルセリン、 ホスホリルトレォニン、 2, 3—ジァミノプロピオン酸等を挙 げることができる。
アミノアシル tRNA合成酵素変異体
本発明において、 aaRS*とは、 所定の天然型アミノ酸に対する特異性に比べて、 当該天然型アミノ酸に類似する非天然型アミノ酸に対する特異性が高められた変 異型アミノアシル tRNA合成酵素を意味する。特異性が高められたとは、非天然型 アミノ酸に対する活性値 (反応速度 Kcatをミカエリス定数 Kmで割った値) 天 然型アミノ酸に対する活性値よりも有意に大となっていることを意味する。 活性 値は、 インビトロのアツセィによって測定することができるが、 遺伝学的なデー タから活性値の相対的な大きさを判定することもできる。
,このように定義される aaRS*は、 天然型アミノ酸に対応する既知のアミノアシ ル tRNA 合成酵素の所定の位置に変異を導入することによって取得することがで きる。天然型アミノ酸に対応する既知のァ.ミノァシル tRNA合成酵素は、 アミノア シル t NAを合成するに際して、先ず、アミノ酸を特異的に認識して AMPを付加す ることで活性化する。既知のアミノアシル tRNA合成酵素については、 アミノ酸の 特異的な認識に寄与する部位が知られており、 当該部位に変'異を導入することに よってその特異性を変化させることができる。 このような知見に基づけば、 天然 型アミノ酸に対する特異性を低減して、 当該天然型アミノ酸に類似する非天然型 ァミノ酸に対する特異性を高めるような変異を導入することができる。 このよう に、既知のアミノアシル tRNA合成酵素における所定の部位に変異を導入すること によって、 所望の特異性を有する aaRS*を作製することができる。
このような aaRS*は、 原核生物及び真核生物タイプのいずれを由来としてもよ いが、原核生物に由来する aaRS*の一例としては、 3—ョードー Lーチロシン(非 天然型アミノ酸) に対する特異性がチロシン (天然型アミノ酸) に対する特異性 に比べて高められた aaRS* (変異 TyrRS と称する) を挙げることができる。 変異
TyrRSは、 下記の文献に記載されている。 Kiga, D. , Sakamoto, K. , Kodama, Κ. ,
Kigawa, T., Matsuda, T. , Yabuki, T., Shirouzu, M. , Harada, Y. , Naklayama,
H., Takio, K. , Hasegawa, Y. , Endo, Y., Hirao, I. and Yokoyama, S. (2002) An engineered Escherichia col i tyros'yl - tRNA synthetase for site-specific incorporation of an unnatural amino acid into proteins in eukaryotic translation and its appl ication in a wheat germ cell-free system. Proc. Natl.
Acad. Sci. USA 99, 9715-9723.
この文献によれば、大腸菌由来のチロシル tRNA合成酵素における 3 7位のチロ シン (Y ) 及び 1 9 5位のグルタミン (Q ) に相当する位置を他のアミノ酸に置 換するこどで、 3—ハロゲン化チロシン (非天然型アミノ酸) への特異性が高め られた変異体を得ることができる。 さらに好ましくは、 3 7位チロシン (Y ) に 相当する位置がパリン (V:)、 ロイシン (L )、 イソロイシン ( I ) 又はァラニン
(A) で置換され、 且つ、 1 9 5位グルタミン (Q ) に相当する位置がァラニン
( A)、 システィン (C)、 セリン (S ) 又はァスパラギン (N) で置換された変 異体を使用できる。 これらの変異体は、 特に 3—ョードー Lーチロシンに対する 特異性が高められている。 ,
なお、 このような変異体をコードする遺伝子を製造する方法は、 公知の遺伝子 操作技術により容易に行うことができる。 例えば、 部位特異的変異導入法と呼ば れる手法により、 或いは、'部位特異的変異導入法を実施するための市販のキッ ト を使用して変異体をコー 'ドする遺伝子を製造することができる。
また、 その他の原核生物に由来する aaRS*としては、 Chin, J. W. Cropp, Τ. A.,
Anderson, J. C. , Mukherj i, M. , Zhang, Z. , and Schlutz, P. G. (2003) An expanded eukaryotic genetic code.' Science 301, 964— 967 に目 cl載'されたもの、 及び Deiters, A. , Cropp, T. A., Mukherji, M. , Chin, J. W. , Anderson, J. , and Schul tz, P. G. . (2003) Adding amino acids with novel reactivity to the genetic cods of Saccharomyces cerevisiae. J. Am. Chem. Soc. 125, 11782-11783 に記載されたものを挙げる.ことができる。
一方、真核生物タイプに由来する aaRS*の一例としては、 Santoro, S. W. , Wang,
L. , Herberich, Β. , King, D. S., Schultz, P. G.: An efncient system for the evolution of aminoacyl - tRNA synthetase specificity, Nature Biotechnol. 20,
1044-1048 (2002)に記載されたもの、 及び Wang, L. , Brock, A. , Herberich, B. , Schu丄 tz, P. G.: Expanding the genetic code of Escherichia col i, Science 292, 498-500 (2001) に記載されたものを挙げることができる。'
非天然型ァミノ酸用 tRNA遺伝子
非天然型アミノ酸用 tRNA遺伝子とは、上述した aa,RS*により認識されるととも に、 活性化された非天然型アミノ酸が転移する 3'末端を有する tRNAをコードす る遺伝子である。 すなわち、 上述した aaRS*は、 特定の非天然型アミノ酸を認識 して、 非天然型アミノ酸- AMPを合成するとともに、 非天然型アミノ酸用 tRNAの 3'末端に非天然型アミノ酸を転移させる活性を有している。
ここで、 非天然型アミノ酸用 tRNAは、 20種類の天然型アミノ酸に対応するコ ドン以外の遺伝暗号に対して特異的に対合するアンチコドンを有している。 非天 然型アミノ酸用 tRNAのアンチコドンは、 UAGアンバーコ ドン、 UAAオーカーコ ド ン及び UGAオパールコドンからなるナンセンスコドンに対合する配列であること 力 S好ましい。 言い換えると、 非天然型アミノ酸用 tRNAは、 ナンセンス ·サブレツ サ一 tRNAであることが好ましい。 なかでも、 非天然型アミノ酸用 t,RNAは、 サプ レッサー tRNAのうち UAG (アンバーコドン) に対合するアンチコドンを有するも のであることが好ましい。 その理由の 1つは、 オパールコドンは低い効率でトリ ブトファンに翻訳されることがあり、 このコ ドンを用いたとき非天然型アミノ酸 と トリプトファンの 2種類のアミノ酸に翻訳される虞があるために、 オパールコ ドンは用いることが適当でないからである。 もう 1つの理由は、 アンバーコドン は 3字目に Gを持つからである。 コドン 3字目とアンチコドン 1字目の塩基対形 成は比較的不安的であり、 この位置に安定な GC塩基対を形成することは、サブレ ッサー tRNAが UAGコ ドンを非天然型ァミノ酸に効率よく翻訳する上で有利になる からである。
上述した aaRS*として原核生物由来の aaRSの変異体を使用する場合、非天然型 了ミノ酸用 tRNA遺伝子と ては、 同じ原核生物由来の tRNA遺伝子を使用するこ とができる。 特に、 上述した大腸菌由来の変異 TyrRSを使用する場合、 大腸菌由 来のサブレッサ一 tRNA遺伝子を使用することが好ましい。
また、非天然型アミノ酸用 tRNAのアンチコドンとしては、終止コドンに対応す
る配列に限定されず、 4塩基 上のコドンと特異的に対合する配列からなるもの であっても良レ、。その他にも、非天然型アミノ酸用 tRNAのアンチコ ドンとしては、 非天然の塩基を含むものであってもよ'い。 この場合には、 'その非天然塩基と特異 的に塩基対を形 することができる別種の非天然塩基をコドンの対応する位置に 導入する。このような非天然塩基のペアとしては、ィソグァニンとィソイチジン、 2—アミノー 6— ( 2—チェニル) プリンとピリジン一 2 _オンが挙げられる。 宿主細胞
上述した aaRS*遺伝子及ぴ非天然型アミノ酸用 tRNA遺伝子が原核生物由来であ るか真核生物タイプであるかに拘わ'らず、 宿主細胞としては真核生物タイプの細 胞及び原核細胞のいずれであっても良い。
原核生物由来の aaRS*遺伝子及び非天然型ァミノ酸用 tRNA遺伝子を使用し、宿 主細胞として原核細胞を使用する場合には、 当該原核細胞において、 aaRS*の基質 となる非天然型ァミノ酸と類似する天然型ァミノ酸に対する特異性を有する aaRSをコードする遺伝子(以下、 「対応する原核細胞内在 aaRS遺伝子」 と称する) と、当該対応する原核細胞内在 aaRS遺伝子の存在下で天然型ァミノ,酸と結合可能 な tRNA遺伝子 (以下、 「対応する原核細胞内在 tRNA遺伝子」 と称する) とを、 真 核生物'タイプの aaRS遺伝子 (以下、 「対応する真核生物タイプ aaRS遺伝子」 と称 する) と tRNA遺伝子 (以下、 「対応する真核生物タイプ tRNA遺伝子」 と称する) とに置き換えるようにする。 '
より具体的には、 宿主細胞が原核細胞である場合、 当該原核細胞において、 対 応する原核細胞内在 aaRS遺伝子 ¾び対応する原核細胞内在 tRNA遺伝子をノック ァゥトするとともに、 当該原核細胞に、対応する真核生物タイプ aaRS遺伝子及び 対応する真核生物タイプ tRNA遺伝子を導入する。 原核生物由来の aaRS*は、 対応 する真核生物タイプ tRNA をアミノアシル化することなく、 非天然型アミノ酸用 tRNAのみをアミノアシル化することとなる。 また、対応する真核生物タイプ aaRS は、非天然型アミノ酸用 tR.NAをアミノアシル化することなく、対応する真核生物 タイプ tRNAのみをアミノアシル化することとなる。
ここで、原核細胞に、対応する真核生物タイプ aaRS遺伝子及び対応する真核生 物タイプ tRNA遺伝子を導入する場合、 これら対応する真核生物タイプ aaRS遺伝
子及び対応する真核生物タイプ tRNA 遺伝子を発現可能な形で導入した発現べク ターを使用する方法、及びこれら対応する真核生物タイプ aaRS遺伝子及び対応す る真核生物タイプ tRNA 遺伝子を発現可能な形で原核細胞のゲノムに導入する方 法のいずれを用いても良い。 導入した遺伝子を高発現させることができ、 ァロプ 口ティンを効率よく合成できるといった理由から発 ¾ベクターを用いる方法が好 ましい。
このように調製した原核細胞では、 導入対象の非天然型アミノ酸に類似する天 然型アミノ酸については、 真核生物タイプ aaRS及び tRNAによってタンパク質に 組み込まれることとなり、 目的とするアミノ酸配列を有するァロプロテインを正 確に合成する際の宿主細胞として利用することができる。
ここで宿主細胞として使用できる原核細胞は、 特に限定されないが、 大腸菌、 枯草菌等を挙げることができる。
また、 上述した大腸菌由来の変異 TyrRSを使用する場合、 真核生物タイプ aaRS としてはメタノコッカス · ジャナシ一 (Methanococcus jannaschi i) 由来のチロ シル tRNA 合成酵素を使用することができる。 メタノコッカス ジャナシ一 (Methanococcus jannaschi i) 由来のチロ.シル tRNA合成酵素は、 以下の (a )、 ( b ) 友び (c ) からなる群から選ばれるいずれか一のタンパク質から構成され ている。
( a ) 配列番号 2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質
( b ) 配列番号 2に示すアミノ酸配列において、 1又は数個 アミ.ノ酸が欠失、 置換又は付加されたァミノ酸配列からなり、 チロシンを活性化するとともにチロ シル tRNAを合成する活性を有するタンパク質
( c ) 配列番号 2に示すアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするポリヌク レオチドの相補鎖に対してストリンジェントな条件化でハイブリダィズするポリ ヌクレオチドによりコードされ、 チロシンを活性化するとともにチロシル tRNA を合成する活性を有するタンパク質
さらに、上述した大腸菌由来の変異 TyrRSを使用する場合、真核生物タイプ tRNA としてはメタノコッカス ·ジャナシ一 (Methanococcus jannaschi i) 由来のチロ シン tRNA 遺伝子を使用することができる。 メタノ コッカス · ジャナシー
(Methanococcus jannaschi i) 由来のチロシン tRNAは、 以下の (a )、 ( b ) 及び ( c ) からなる群から選ばれるいずれか一のポリヌクレオチドから構成される。 ( & )配列番号1における 4334〜4410番目に示す塩基配列からなるポリヌクレオ チド ;
( b )配列番号 1における 4334〜4410番目に示す塩基配列において、' 1又は数個 の塩基が欠失、 置換又は付加された塩基配列からなり、 活性化されたチロシンを メタノコッカス · ジャナシ一 (Methanococcus jannaschi i) 由来のチロシノレ tRNA 合成酵素の存在下で結合できるポリヌクレオチド '
(じ)配列番号1における 4334〜4410番目に示す塩基配列からなるポリヌクレオ チドの相補鎖に対してストリンジェントな条件化でハイブリダィズし、 活性化さ れたチ口シンをメタノコッカス · ジャナシ一 (Methanococcus jannaschi i) 田来 のチロシル tRNA合成酵素の存在下で結合できるポリヌクレオチド
なお、 ここでストリンジェントな条件とは、 特異的なハイブリダィズが形成さ るが非特異的なハイブリ "ィズは形成されない条件を意味する。 例えば、 緩衝 液として 6 X SSC (0..9M NaCl、 0. 09M 'クェン酸ナトリウム)、 温度 55?Cといった条 件を挙げることができる。
とこ ¾で、原核生物由来の aaRS*遺伝子及び非天然型アミノ酸用 tRNA遺伝子を 使用し、 宿主細胞として真核生物タイプの細胞を使用する場合には、 当該真核生 物タイプの細胞が本来的に有している、天然型ァミノ酸に特異的な aaRS及び当該 aaRSの存在下で天然型アミノ酸と結合可能な tRNA遺伝子を ί可ら置換すること無 く使用することができる。 言い換えれば、 この場合、 宿主細胞となる真核生物タ イブの細胞はそのまま使用することができる。
ここで宿主細胞として使用できる真核生物タイプの細胞は、 特に限定されない が、 酵母細胞、 植物細胞、 昆虫細胞及び哺乳動物細胞等の真核細胞並びに古細菌 を挙げることができる。 なかでも遺伝子組換え系が確立されている哺乳類細胞が 好ましい。 有用な哺乳動物細胞系としては、 チャイニーズハムスター卵巣 (CH0) 細胞と COS細胞が挙げられる。 より具体的には、 SV40によって形質転換したサル 腎臓 CV1系(COS- 7)、ヒ ト胚腎臓系(293細胞)、チャイニーズハムスタ一卵巣/ -DHFR 系、 マウスセルトーリ細胞 (TM4)、 ヒ ト肺細胞 (W138)、 ヒ ト肝臓細胞 (Hep G2)
及びマウス乳癌細胞 (丽 T060562) を挙げることができる。
—方、真核生物タイプの aaRS*遺伝子及び非天然型アミノ酸用 tRNA遺伝子を使 用し、 宿主細胞として真核生物タイプの細胞を使用する場合には、 当該真核生物 タイプの細胞において、 aaRS*の基質となる非天然型アミノ酸と類似する天然型ァ ミノ酸に対する特異性を有する aaRSをコードする ¾伝子 (以下、 「対応する真核 生物内在 aaRS遺伝子」 と称する) と、 当該対応する真核生物内在 aaRS遺伝子の 存在下で天然型アミノ酸と結合可能な tRNA遺伝子 (以下、 「対応する真核生物内 在 tRNA遺伝子」 と称する) とを、 原核生物由来の aaRS遺伝子 (以下、 「対応する 原核生物由来 aaRS遺伝子」 と称する) と tRNA遺伝子 (以下、 「対応する原核生物 由来 tRNA遺伝子」 と称する) とに置き換えるようにする。
より具体的には、 宿主細胞が真核生物タイプの細胞である場合、 当該真核生物 タイプの細胞において、対応する真核生物内在 aaRS遺伝子及び対応する真核生物 内在 tRNA遺伝子をノックァゥトするとともに、 当該真核生物タイプの細胞に、対 応する原核生物由来 aaRS遺伝子及び対応する原核生物由来 tRNA遺伝子を導入す る。 真核生物タイプ.の aaRS*は、 対応する原核細胞由来 tRNAをアミノアシル化す ることなく、非天然型アミノ酸用 tRNAのみをアミノアシル化することとなる。 ま た、 対応する原核生物由来の aaRSは、 非天然型アミノ酸用 tRNAをアミノアシル 化することなく、対応する原核生物由来 tRNAのみをアミノァシル化することとな る。
ここで、真核生物タイプの細胞に、対応する原核生物由来 aaRS遺伝子及び対応 する原核生物由来 tRNA遺伝子を導入する場合、これら対応する原核生物由来 aaRS 遺伝子及び対応する原核生物由来 tRNA 遺伝子を発現可能な形で導入した発現べ クタ一を使用する方法、及びこれら対応する原核生物由来 aaRS遺伝子及び対応す る原核生物由来 tRNA 遺伝子を発現可能な形で真核生物タイプの細胞のゲノムに 導入する方法のいずれを用いても良い。 導入した遺伝子を高発現させることがで き、 ァロプロティンを効率よく合成できるといった理由から発現ベクターを用い る方法が好ましい。
このように調製した真核生物タイプの細胞では、 導入対象の非天然型ァミノ酸 に類似する天然型ァミノ酸については、 原核生物由来の aaRS及び tRNAによって
タンパク質に組み込まれるこ となり、 目的とするアミノ酸配列を有するァロプ 口ティンを正確に合成する際の宿主細胞として利用することができる。
また、真核生物タイプの aaRS*遺伝子及び非天然型アミノ酸用 tRNA遺伝子を使 用し、 宿主細胞として原核細胞を使用する場合には、 当該原核細胞が本来的に有 している、 天然型ァミノ酸に特異的な aaRS及び当^ aaRSの存在下で天然型ァミ ノ酸と結合可能な tRNA遺伝子を何ら置換すること無く使用することができる。言 い換えれば、 この場合、 宿主細胞となる原核細胞はそのまま使用することができ る。
目的タンパク質及びその製造方法 '
上述した aaRS*遺伝子、非天然型ァミノ酸用 tRNA遺伝子及び宿主細胞を用いて、 非天然型アミノ酸を組み込んだ自的タンパク質 (ァロプロテイン) を製造するこ とができる。 目的タンパク質の種類としては、 何ら限定されるものではない。 但 し、 目的.タンパク質をコードする遺伝子において、 所望の位置のコドンを上述し た非天然型アミノ酸用 tRNAのアンチコドンと対合する配列としておく。これによ り、 所望の位置に非.天然型ァミノ酸を有するァロプロティンを製造することがで きる。 具体的には、 いわゆる部位特異的変異導入法によって野生型の遺伝子にお ける所望の位置を、非天然型アミノ酸用 tRNAのアンチコドンと対合する配列に変 異させることで、 ァロプロテインをコードする遺伝子を作製することができる。 作製した目的タンパク質をコードする遺伝子は、 通常の方法によって宿主細胞 に導入され、 当該宿主細胞内で発現することとなる。 宿主細^においては、 当該 遺伝子における非天然型アミノ酸用 tRNA のアンチコドンに対合するコ ドンの位 置に非天然型アミノ酸を組み込んだァロプロテインを合成することができる。
目的タンパク質 (ァロプロテイン) としては、 何ら限定されないが、 例えば、 細胞情報伝達に関わる一群のタンパク質 (上皮成長因子受容体、 神経成長因子受 容体、 Grab2タンパク質、 Srcキナーゼ、 Rasタンパク質など)、 翻訳に関わる一 群のタンパク質 (ポリペプチド伸長因子、 開始因子、 転写終結因子、 リボソーム タンパク質、 アミノアシル tRNA合成酵素など) や転写因子、 膜タンパク質などが 挙げられる。
得られたァロプロテインは、 (i) X線結晶解析による構造決定に用いたり、 (i i)
細胞情報伝達経路の解明のた に光クロスリンクゃ部位特異的蛍光標識を施した り、 (i i i) 薬効を高めるためのポリエチレングリコール化を部位特異的に施した 上でタンパク質性薬剤として用いるなどの用途がある。 さらに、 部位特異的なァ ミノ酸置換による ;タンパク質の機能解析において、 置換に用いることのできるァ ミノ酸の種類は従来、 天然の 2 0種類に限られていたが、 非天然型アミノ酸を用 いればこれに制限されることなく様々なアミノ酸残基に置換することができる。 このようにして、 一連の変異体を作成して解析することで、 タンパク質中の特定 部位のァミノ酸残基の役割を詳細に明らかにすることも可能である。
無細胞タンパク質合成系試薬キット '
また、 上述した aaRS*及び非天然型アミノ酸用 tRNAは、 いわゆる無細胞タンパ ク質合成系試薬キットの一部として使用することができる。 一般に無細胞タンパ ク質合成系試薬キッ トは、 各種細胞の抽出液をタンパク質合成能を欠損しない形 で含んでいる。 無細胞タンパク質合成系においては翻訳系、 転写 ·翻訳系が知ら れており、それぞれ目的タンパク質をコードする mRNA又は DNAを反応液に加える ことによって、 抽出液に含まれる各種酵素の働きによりタンパク質,を合成してい る。 .
本発明に係る無細胞タンパク質合成系試薬キットは、 少なくとも、 所定の天然 型アミノ酸と類似する非天然型アミノ酸を含むアミノ酸溶液と、 上述した aaRS* 及び非天然型アミノ酸用 tRNAのセッ 卜と、宿主細胞の抽出液とを含むものである。 また、 本発明に係る無細胞タンパク質合成系試薬キットは、 一般に市販されてい る公知の無細胞タンパク質合成系試薬キットに含まれる、 目的タンパク質をコー ドする遺伝子を組み込むことができる'べグター DNA 溶液、 目的タンパク質をコー ドする遺伝子の転写を行うための RNAポリメラーゼを含む試薬セッ ト等を含んで いても良い。
特に、 本発明に係る無細胞タンパク質合成系試薬キットにおいて、 上述した宿 主細胞の抽出液は、 真核生物タイプの細胞及び原核細胞いずれの抽出液であって も良い。 但し、 原核生物由来 aaRS*を使用し、 原核細胞の抽出液を使用する場合 には、 上述した 「対応する原核細胞内在 aaRS遺伝子」 及び 「対応する原核細胞内 在 tRNA遺伝子」 をノックアウ トし、 「対応する真核生物タイプ aaRS遺伝子」 及び
「対応する真核生物タイプ tRNA遺伝子」を導入した原核細胞の抽出的を使用する。 このとき、 「aaRS*遺伝子」 及び 「非天然型ァミノ酸用 tRNA遺伝子」 を原核細胞 にさらに導入するか、 または、 「aaRS*'」 及び 「非天然型アミノ酸用 tRNA」 をその まま原核細胞の 養液に添加することにより、当該原核細胞の抽出液内に「aaRS*J 及び 「非天然型アミノ酸用 tRNA」 を含ませることが.できる。
また、 本発明に係る無細胞タンパク質合成系試薬キッ トにおいて、 原核生物由 来の aaRS*を使用し、 真核生物タイプの細胞抽出液を使用する場合には、 当該真 核生物タイプの細胞が本来的に有している、天然型アミノ酸に特異的な aaRS及び 当該 aaRSの存在下で天然型アミノ^と結合可能な tRNA遺伝子を何ら置換するこ と無く使用することができる。 言い換えれば、 この場合、 野生型の真核生物タイ プの抽出液をそのまま使用することができる。
'—方、· 本発明に係る無細胞タンパク質合成系試薬キットにおいて、 真核生物タ イブ aaRS*を使用し、 真核生物タイプの細胞抽出液を使用する場合には、 上述し た 「対応する真核生物內在 aaRS遺伝子」 及び 「対応する真核生物内在 tRNA遺伝 子」 をノックアウト.した真核生物タイプの細胞抽出液を使用する。 1のとき、 「対 応する原核生物由来 aaRS遺伝子」 及び 「対応する原核生物由来 tRNA遺伝子」 を 真核生物タイプの細胞に導入しておき、当該真核生物タイプの細胞抽出液内に「対 応する原核生物由来 aaRS」 '及び「対応する原核生物由来 tRNA」 を含ませることが できる。 また、 「対応する原核生物由来 aaRS遺伝子」 及び 「対応する原核生物由 来 tRNA遺伝子」 の各産物は、 抽出液に別途、 添加しても良い。 - また、 本発明に係る無細胞タンパク質合成系試薬キットにおいて、 真核生物タ イブの aaRS*を使用し、 原核細胞の抽出液を使用する場合には、 当該原核細胞が 本来的に有している、 天然型アミノ酸に特異的な aaRS及び当該 aaRSの存在下で 天然型アミノ酸と結合可能な tRNA 遺伝子を何ら置換すること無く使用すること ができる。 言い換えれば、 この場合、 野生型の原核細胞の抽出液をそのまま使用 することができる。
以下、 本発明に係る薬剤を、 実施例を用いてより詳細に説明するが、 本発明の 技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではなレ、。
〔実施例 1〕
本実施例では、 大腸菌由来の aaRS* ( 3—ョードー Lーチロシンに対する特異 性がチロシンに対する特異性に比べて高められた変異 TyrRS) を使用し、 宿主細 胞として大腸菌を用いたァロプロテインの製造方法を実証した。
先ず、 以下のようにして変異 TyrRS遺伝子及ぴサプレッサー tRNAT"遺伝子を準 備した。
変異 TyrRS
大腸菌 TyrRS遺伝子を、 大腸菌染色体から単離してクローニングする。 このク ローニングされた遺伝子に、 チロシン→バリン (3 7位)、 ァスパラギン→システ イン (1 9 5位) というアミノ酸置換を施すことで、 3—ョード一 L—チロシン に対する特異性がチロシンに対する特異性に比べて高められた変異 TyrRS遺伝子 を作製した。 大腸菌染色体の調製、 染色体から遺伝子増幅法 (PCR 法) によって 望みの遺伝子を単離すること、 そして、 単離された遺伝子を適当なベクターにク ローニングすることは、公知の遺伝子操作技術によって容易に行うことができる。 変異 TyrRS遺伝子の発現のためには、 TyrRS遺伝子本来のプロモータを TyrRS構 造遺伝子とともに単.離 . クローニングすればよい。 ベクタ一として,は、 具体的に はプラスミ ド pBR322に由来するべクタ一が使用できる。
サプレッサー tRNATyr
tRNAのように小さなサイズの RNAの遺伝子は、全長を化学的な方法によって製 造する こ と ができ る。 サプレ ッサー tRNATyr 遺伝子の塩基配列は、
TCCCCCACCACCAである。 この遺伝子の前に、 lpp遺伝子由来の転写プロモータを大 腸菌染色体から単離して連結し、 遺伝子の後ろには、 化学合成法によって製造し た rrnC 遺伝子由来の転写終結配列を連結した。 連結後の全長の塩基配列は、
AAATTTTTGATCCTTAGCGAAAGCTAAGGATTTTTTTTAGTCGAC である。 この塩基配列を変異 TyrRS遺伝子とともに pBR322由来のベクターにクローニングした。
プラスミ ド pEcIYRS
上述の作製した変異 TyrRS遺伝子及びサプレツサー tRNAT 遺伝子を有するプラ スミ ドを pEcIYRSと名づける。 このプラスミ ドを導入した大腸菌において、 変異 TyrRS遺伝子はそれ自身の転写プロモニタから、 サプレッサー tRNAは lppプロモ ータから恒常的に発現する。
「対応する真核生物タイプ aaRS」及び「対応する真核生物タイプ tRNA」 発現ブラ スミ ドの構築
本実施例では、 「対応する真核生物タイプ aaRS」 及び 「対応する真核生物タイ プ tRNAj として古糸田菌 Methanococcus jannaschi iの TyrRS及ぴチ Pシン tRNAを 宿主細胞內で発現させることとしだ。 これら Methanococcus jannaschi i 由来 TyrRS遺伝子及びチロシン tRNA遺伝子を発現するプラスミ ド PTK3は以下のよう に構築した。 なお、 プラスミ ド ρΤΚ3の全塩基配列を配列番号 1に示す。 なお、 古 糸田菌 Methanococcus jannaschi i の TyrRS遺伝子は、 酉己歹!]番号 1における 3284〜 4204番目の塩基配列からなる。 古細菌 Methanococcus jannaschiiの TyrRSのァ ミ,ノ酸配列を配列番号 2に示す。 また、 古細菌 Methanococcus jannaschi iのチロ シン tRNA遺伝子は、 配列番号 1における 4410〜4334番目の塩基配列からなる。 さらに、 プラスミ ド pTK3に含まれるカナマイシン耐性遺伝子は、配列番号 1にお ける 47〜5662番目の塩基配列からなる。カナマイシン耐性遺伝子によりコード されるタンパク質のアミノ酸配列を配列番号 3に示す。
プラスミ ド ΡΤΚ3の構築の概要は次の通りである。大腸菌染色体から TrpRS遺伝 子のプロモータ領域を PCR法によって単離して pACYC184ベクターにクローニング した。 このプラスミ ドを pPTRPとする。 Methanococcus jannaschi iの TyrRS遺伝 子は、 同菌の染色体から PCR法によって単離し、 プラスミ ド pPTRP上の TrpRSプ 口モータ部位の直後にクローニングし、 プラスミ ド p MjYSを作製した。 大腸菌染 色体の調製、 染色体から遺伝子増幅法 (PCR 法) によって望みの遺伝子を単離す ること、 そして、 単離された遺伝子を適当なプラスミ ド上にクローニングするこ とは、 公知の遺伝子操作技術によって容易に行うことができる。 Methanococcus jannaschi i のチロシン tRNA遺伝子は、 全長を化学的な方法によって製造をおこ なった。 この遺伝子の前に、 lpp 遺伝子由来の転写プロモータを大腸菌染色体か ら単離して連結し、遺伝子の後ろには、化学合成法によって製造した rrnC遺伝子
由来の転写終結配列を連結した後、 プラスミ ド pMjYS上にクロ一ユングしてブラ スミ ド pMjYRSを作製した。 カナマイシン耐性遺伝子は、市販されているプラスミ ド PHSG299 (宝酒造社) 上にクローユングされている同遺伝子を PCR法によって とりだしてプラスミ ド pMjYRSにクロ一ユングして、プラスミ ド pTK3を作製した。 以上のようにして得られたプラスミ ド ρΤΚ3を用いて、大腸菌 T0P10株を形質転 換した。 エレク トロポレーシヨ ン法を用いた形質転換に適した処理を施された TOP10株が市販されている (インビトロジェン社) ので、 これを使用した。
「対応する原核生物由来 aaRSj 及び「対応する原核生物由来 tRNA.I のノックァゥ 上 ' . '
本実施例では、宿主細胞の大腸菌 TOP10株における、チロシル tRNA合成酵素遺 伝子 (tyrS遺伝子) 及びチロシン tRNA遺伝子 (tyrT遺伝子及び tyrU遺伝子).を ノックアウトした。
本実施例では、 Gene Bridges社製の Quick and easy BAC modificationキッ卜 (以下, QBMキット)を使用して、プラスミ ド pTK3によって形質転換された T0P10 株において、 tyrS遺伝子、 tyrT遺伝子及び tyrU遺伝子をノックァ,ゥトした。 な お、 各遺伝子をノックァゥトする順番は実施例に示す順に限定されるものではな く、 各'遺伝子が最終的にノックアウトされていれば良い。 QBM キットは、 人エバ クテリア染色体 (BAC) を操作するためのものだが、 大腸菌染色体上の遺伝子をノ ックァゥ 卜する目的でも用いることができる。 実験操作は ットに添付の説明書 に準じた。 すなわち、 染色体上から除去したい遺伝子 X (tyrS遺伝子、 tyrT遺伝 子又は tyrU遺伝子) に、 染色体上で隣接する 2つの塩基配列 (いずれも 50塩基 程度) をそれぞれ配列 X- L、 x-R とする。' x-L、 x-Rを持つ一対のプライマーを用 いてマーカ一となる遺伝子を PCRで増幅すると, マーカー遺伝子の両側に X- L及 び X- Rが連結した DNAが得られる. この DNAを、 QBMキットを用いて染色体上に ノックインすると、 遺伝子 Xがマーカー遺伝子に置換した大腸菌を得ことができ る。
染色体上にノックインされたマーカー遺伝子を除去する場合を考慮すると、 マ 一力一遺伝子としては、 アンピシリン耐性遺伝子やカナマイシン耐性遺伝子では なく, クロラムフエニコ一ル耐性遺伝子 (CAT 遺伝子) を用いるのが望ましい。
本実施例ではマーカ一遺伝子として CAT遺伝子を使用した。
(D tyrS遺伝子のノックァゥ1ト
tyrS遺伝子をノックァゥトするため、 上記 X - Lとして tyrS- L及び上記 x - Rと して tyrS- Rを決定した。
tyrS-L: ATGCGTGGAAGATTGATCGTCTTGCACCCTGAAAAGATGCAAAAATCTTG (配列番号 4 ) tyrS-R: ACAGGGAACATGATGAAAAATATTCTCGCTATCCAGTCTCACGTTGTTTA (配列番号 5 ) tyrS-Lを有するプライマーとして tyrSL - CmF、 tyrS-Rを有するプライマーとし て tyrSR-CmRlを設計し、 化学合成によってこれらプライマーを作製した。
tyrSL-CmF. (70塩基) :
TGCGTGGAAGAT'
(配列番号 6 )
tyrSR-CmRl (71塩基)
'AAACAACGTGAG,
(配列番号 7 )
これら tyrSL - CmF及び tyrSR-CmRlを用!/、、 铸型としてベクター pACYC184を用 いた PCRを行うことによって、 両端に tyrS-L及ぴ tyrS- Rを連結'した CAT遺伝子 を含む DNA断片を増幅した。 ここで、 CAT遺伝子の塩基配列を配列番号 1 6に示 す。本例において CAT遺伝子は、転写プロモータ配列とシャイン-ダルガルノ配列
(SD 配列) を含み、 転写終結配列は含まないものとした。 転写プロモータと SD 配列によって、 CAT遺伝子自身の発現が可能となる。 tyrS遺伝子の下流に存在す る pdxY遺伝子の転写プロモータは tyrS遺伝子の内部に存在するため、 tyrS遺伝 子をノックァゥ 卜することによつで pdxY遺伝子の発現が消失してしまう。したが つて、 導入する CAT遺伝子に転写終結配列を含ませないことによって、 pdxY遺伝 子の発現と CAT遺伝子の発現とを共役させることができる。
次に、 このようにして増幅された DNA断片を、 QBMキッ トを用いて大腸菌 T0P10 株の染色体にノックインした。 染色体上にノックインされた CAT遺伝子は、 その 両端に tyrS- L及び tyrS-Rを有することとなる。 したがって、 tyrS-L及び tyrS-R を直接連結した DNA断片を、 QBMキットを用いて染色体上にノックインすること によって CAT遺伝子を染色体から除去することができる。 すなわち、 tyrS- L及び
tyrS-R を直接連結した DNA 断!片が染色体に正確にノックインされると、 大腸菌
T0P10株はクロラムフエ-コール (Cra) 感受性になる。
QBMキッ トを用いても正しくノックインされる効率は 10000分の 1以下である ので、 以下の手順 従って Cm感受性大腸菌を選び出した。 先ず、 増幅された DNA 断片を導入する処理を行った後、 1〜10万個の大腸菌を液性 LB培地で培養する。 次に、 培養によって 10万〜 100万個/ mLになったところで 10 μ g /mL濃度の Cm を培地に添加し、培養を続ける。 30分後、 200 μ g /mL濃度のアンピシリンを培地 に加え、 大腸菌が溶解するまで 30分〜 1時間程度培養を続ける。 次に、 溶解した 培養液を遠心にかけ、 沈殿してきた大腸菌を LBプレートに播いて一晚培養する。 得られたコロニーを 100〜200個選んで、 レプリカ法によって Cm感受性菌を選択 する。
以上の処理を行うことによって、大腸菌 T0P10株の染色体から tyrS遺伝子がノ ックアウトされることとなる。
(2) tyrT遺伝子のノックアウト
上記 「(l) tyrS遺伝子のノックアウト」 と同様にして、 大腸菌 Τ0Π0株におけ るチロシン tRNA遺伝子の 1つである tyrT遺伝子をノックァゥトした。このとき、 上記 x-Lとして tyrT - L及び上記 x- Rとして tyrT - Rを決定した。
tyrT- L: AAAATAACTGGTTACCTTTAATCCGTTACGGATGAAAATTACGCAACCAG (配列番号 8 ) tyrT- R: AGTCCCTGAACTTCCCAACGAATCCGCAATTAAATATTCTGCCCATGCGG (配列番号 9 ) また、ベクター pACYC184上の CAT遺伝子を鎵型とした PCRに使用する一対のプ ライマーとして tyrTL-CmF及び tyrTR-CmRlを設計し、 化学合成した。
tyrTL-CmF (70塩基) : '
.AAATAACTGGTTACI
(配列番号 1 0 )
tyrTR-CraRl (71塩基)
: CGCATGGGCAGAAT,
(配列番号 1 1 )
本例においても PCRによって増幅された DNA断片に含まれる CAT遺伝子は、 転 写プロモータ配列とシャイン-ダルガルノ配列 (SD 配列) を含み、 転写終結配列
は含まないものとした。 tyrT遺伝子の下流に存在する tpr遺伝子の発現と CAT遺 伝子の発現とを共役させることができる。 また、 増幅された DNA断片を、 QBMキ ットを用いて大腸菌 T0P10株の染色体にノックインした後、 同様に CAT遺伝子を 除去することによって tyrT遺伝子をノックァゥトすることができた。
(3) tyrU遺伝子のノックアウト
上記 「(l) tyrS遺伝子のノッグアウト」 と同様にして、 大腸菌 T0P10株におけ るチロシン tRNA遺丫云子の 1つである tyrU遺伝子をノックァゥトした。このとき、 上記 x-Lとして tyrU-L及び上記 x - Rとして tyrU - Rを決定した。
tyrU-L: GTAATCAGTAGGTCACCAGTTCGATTCCGGTAGTCGGCACCATCAAGTCC (配列番号 1 2 ) tyrU-R: GGCCACGCGATGGCGTAGCCCGAGACGATAAGTTCGCTTACCGGCTCGAA (配列番号 1 3 ) また、ベクター pACYC184上の CAT遺伝子を铸型とした PCRに使用する一対のプ ライマーとレて tyrUL-CmF及び tyrUR- CmRlを設計し、 化学合成した。
tyrUL-CmFl (72塩基) :
-TAATCAGTAGGTCAi
(配列番号 1 4 )
tyrUR-CmRl (71塩基) :
CGAGCCGGTAAGCi
(配列番号 1 5 ) ,
本例においては、 PCRによって増幅された DNA断片に含まれる CAT遺伝子は、 SD配列を含み、 転写プロモータ配列と転写終結配列は含まないものとした。 tyrU 遺伝子は上流の thrU遺伝子と下流の glyT遺伝子の両方に転写共役しており、 CAT 遺伝子の上流に転写プロモータは必要なく、 翻訳のための SD 配列があれば CAT 遺伝子自身の発現が可能となる。 また、 導入する CAT遺伝子に転写終結配列を含 ませないことによって、 glyT遺伝子の発現と CAT遺伝子の発現とを共役させるこ とができる。 また、 增幅された DNA断片を、 QBMキッ トを用いて大腸菌 T0P10株 の染色体にノックインした後、 同様に CAT遺伝子を除去することによって、 tyrU 遺伝子をノックァゥトす!)ことができた。
なお、 tyrS遺伝子及び tyrT遺伝子をノックアウトする際に使用した、 転写プ 口モータ配列及び SD配列を含み、転写終結配列は含まな 1/、 CAT遺伝子の塩基配列
'を配列番号 1 6に示した。 また、 tyrU 遺伝子をノックアウトする際に使用した、 SD配列を含み、転写プロモータ配列も転写終結配列も含まない CAT遺伝子の塩基 配列を配列番号 1 7に示した。 ,
ァロプロティンの製造
プラスミ ド pTK3を導入した後、以上のようにして tyrS、 tyrT及ぴ tyrU '遺伝子 をノックァゥトして得られた大腸菌 T0P10株 (以下、 「T0P10*J または 「Τ0Ρ10 [ Δ tyrT, Δ tyrU, Δ tyrS, pTK3]株」) は、 この株で発現するすべての遺伝子のチロ シンをコ一ドする位置に、古細菌 Methanococcus jannaschi iの TyrRS及ぴチロシ ン tRNAによりチロシンを組み込むこ'ととなる。そこで、 3—ョードー L—チロシ ンに对する特異性がチロシンに対する特異性に比べて高められた変異 TyrRSとサ プレッサ一チロシン tRNAを発現するプラスミ ド pEcIYRSを T0P10*株に導入すれ ば、 サプレッサー tRNAT "におけるアンチコドンに対合するアンバーコドンの位置 に 3—ョードチロシンを組み込んだァロプロティンを合成することとなる。 導入 された.目的タンパク質をコードする遺伝子におけるチロシンをコードするコ ドン の位置にも、他の遺伝子と同様に古細菌 ethanococcus jannaschi iの TyrRS及び チロシン tRNAによりチロシンが組み込まれる。 , このとき、原核生物由来の aaRS*である変異 TyrRSは Methanococcus jannaschi i 由来の tRNAをアミノアシゾレイ匕すること力 Sなく、 また、 Methanococcus jannaschii の TyrRS はサプレッサー tRNATyi "をアミノアシル化することがない。 したがって、 プラスミ ド pEcIYRSが導入された大腸菌 T0P10株によれば、 望の位置のみに非 天然型ァミノ酸である 3—ョードチロシンを組み込んだァロプロティンを合成す ることができる。 これは、 以下のような実験によって確認することができる。 この実験のために、 アンバーコドンをコード配列中に導入したグルタチオン S 一トランスフェラーゼ (以下、 GST) のアンバ一変異遺伝子 (配列番号 1 8 ) を用 いる。 この GSTアンパー変異遺伝子では、 N末端から 25番目のコ ドンがアンバー コドンに置換されている。 GST タンパク質をトリプシン処理して得られるぺプチ ドで、 この部位を含むぺプチドは質量分析によって容易に検出することができる ため、この位置のァミノ酸がョードチロシンであるかどうかの判定が可能である。
GSTアンバー変異遺伝子は、適当な発現プロモータと連結させて、 pEcIYRS上にク
ローニングすることで、 大腸菌内で発現させることができる。 適当なプロモータ とは、 例えば、 lacZ- UV5プロモータである。 GSTアンバー変異遺伝子をクロ一二 ングしたプラスミ ド pEcIYRSを、 プラスミ ド pEcIYRS-GST.(Am)とする。
T0P10*株に、 プラスミ ド pEcIYRS- GST (Am)を導入する方法は次の通りである。 液性 LB培地 1. 5mLに TOP10*を植菌して培養し、 100万個/ mL程度の濃度まで菌 が増殖したところで培養液を回収し、 4度で llOOOrpmで 30秒間遠心して菌体を 沈殿させる。 上澄みを捨てたのち、 氷冷した滅菌水 ImLに沈殿を懸濁する。 再び 4度、 l lOOOrpmで 30秒間遠心して菌体を沈殿させ、 上澄みを捨てたのち、 再度、 氷冷した滅菌水 ImLに懸濁する。 最後に、. 4度で 11000rPm、 30秒間遠心して菌 体を沈殿させ、 20— 30 し の滅菌水に懸濁する。 これで、 エレク トロポレーショ ン法に適した Τ0Π0*が調製できた。 同法によって、 同菌株にプラス ミ ド pEcIYRS-GST (Am)を導入し、 TOP10* [pEcIYRS- GST (Am) ]を作製する。
3—L—ョードチロシンを 25番目の位置に導入した GSTを作製するためには、 T0P10* [pEcIYRS-GST (Am) ]を、 0. lmg/mL の 3— L—ョー ドチロシン、 および 0. lmg/mLのアンピシリンを含む液性 LB培地で培養する。 GST (Am)遺伝子の発現を 誘導するために、 最終濃度で 1 mMになるようにイソプロピル 1 _チォ一 β -D- ガラク トシド (IPTG) を培地に添加する。 IPTG添加後数時間で菌を回収し、 公知 の方法によって大腸菌抽出液を調製したのち、 GST アブイ二ティーカラム (アマ シャム社) を用いて GSTを精製する。 得られた GSTを、 質量'分析法によって解析 することで所定の 25位にョードチロシンが導入されていること、および、他のチ 口シン · コドンはチロシンに翻訳されていることが確認できる。
実験方法及び結果一 1
上述した説明に準じて、 大腸菌由来の変異 TyrRS 遺伝子及びサブレッサー tRNATyi"遺伝子を用いたァロプロティンの製造に、 宿主細胞として使用できる置換 型大腸菌を作製した。
具体的には、上述した方法により、先ず、 Methanococcus jannaschi i由来 TyrRS 遺伝子及びチロシン tRNA遺伝子を発現するプラスミ ド PTK3を大腸菌 T0P10株に 形質転換した。 その後、 上述した方法により、 ρΤΚ3 を有する大腸菌 T0P10 株
(T0P10 [pTK3]株)における tyrS遺伝子をノックアウトした変異株(Τ0Ρ10 [ Δ tyrS, PTK3]株)を作製した。その後、上述した方法により、変異株(TOP10 [ A tyrS, pTK3] 株) における tyrU 遺伝子をノックアウトした変異株 (T0P10 [ A tyrU, Δ tyrS, pTK3]株) を作製した。
得られた T0P10 [ A tyrU, Δ tyrS, pTK3]株において、 tyrS遺伝子がノックァゥ トされていることを、 アンバー 'サブレッシヨン実験によって検証した。 この検 証実験のためにプラスミ ド 2541supFを作製した。 プラスミ ド 2541suPFには、 ァ ンバー変異型のク口ラムフヱニコール耐性遺伝子と、大腸菌チロシン tRNA由来の アンバーサプレッサー tRNA 遺伝子がクローユングされている。 プラスミ ド 2541supFの全長塩基配列を配列番号 1 9に示した。
プラスミ ド 2541suPFを導入した大腸菌において、大腸菌 TyrRS (tyrS遺伝子産 物) が発現していれば、 プラスミ ド 2541suPFに存在するサプレッサー tRNAが働 くのでァ.ンバ一変異が抑制されることなり、 クロラムフエニコール耐性が発現す る。 一方、 プラスミ ド 2541supFを導入した大腸菌において、 大腸菌 TyrRS (tyrS 遺伝子産物) がノックアウトされていれば、 クロラムフエ二コール耐性が発現し ないと予想される。なお、プラスミ ド 2541supFに存在するサプレッサ一 tRNAは、 古細菌由来 TyrRSからは認識されないので、プラスミ ド 2541supFを導入した大腸 菌において古細菌由来 TyrRSが発現していたとしてもクロラムフエ二コール耐性 は発現しない。 '
T0P10 [ A tyrU, A tyrS, pTK3]株及び野生株である T0P10株 それぞれプラスミ ド 2541supFで形質転換した後、クロラムフエ二コール含有培地で培養した結果を 図 1に示す。図 1に示すように、プラスミ ド 2541supFで形質転換した T0P10株(WT と表示)は、 クロラムフエ二コール(Cm)含有の培地上で生育することができた。 一方、 T0P10 [ A tyrU, A tyrS, pTK3]株 (tyrS KOと表示) は、 Cm培地上で生育す ることができなかった。 この結果から、 T0P10 [ A tyrU, Δ tyrS, pTK3]株には大腸 菌 TyrRSが発現していないことが確認できた。 実験方法及び結果一 2
大腸菌に内在する TyrRS が完全にノックアウ トされていることが確認された
T0P10[AtyrU, Δ tyrS, pTK3]株における tyrT遺伝子のノックアウ トを上述した 方法により行い、変異株(T0P10[AtyrT, Δ tyrU, Δ tyrS, pTK3]株)を構築した。 作製された変異株において、大腸菌に内在するチロシン tRNAが全てノックァゥ トされていることを検証した。 検証実験は、 以下のようにして行った。
すなわち、 先ず、 TOP10[AtyrT, Δ tyrU, Δ tyrS, pTK3]株において、 大腸菌 TyrRS変異体を発現させた。この変異体としては、文献(Kiga, Dら, 2002年, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99, 9715-9723.) に記載されているものを使用した。 この 大腸菌 TyrRS変異体は、 3-·ョードチロシン (又は 3—プロモチロシン) を認識し て大腸菌チ'口シン tRNAに結合させる'機能を有している。 したがって、ブロモチロ シンを含む培地にこの変異体を発現させた大腸菌を植菌すると、 この大腸菌内で はチロシンのかわりにブロモチロシンがあらゆるタンパク質に取り込まれる。 こ のため、.大腸菌 TyrRS変異体が機能し、且つ大腸菌チロシン tRNAが存在する場合 には、あらゆるタンパク質が機能しなくなり、大腸菌が生育することができない。 これに対して、大腸菌 TyrRS,変異体が機能するが大腸菌内に大腸菌チロシン tRNA が存在しない場合には、 大腸菌 TyrRS変異体が機能したとしても、,,プロモチロン ン含有培地上でも大腸菌が生育することが.できる。
T0P10[AtyrT, Δ tyrU, Δ tyrS, pTK3]株及ぴ T0P10[ Δ tyrU, AtyrS, pTK3]株 にそれぞれ大腸菌 TyrRS変異体を導入した株をブロモチロシン含有培地及びブロ モチロシン非含有培地において生育したときの増殖曲線を図 2に示す。
図 2において、 T0P10[AtyrU, Δ tyrS, pTK3]株に大腸菌 TyrRS変異体を導入し た株を 「AtyrS」 と表記し、 T0P10[AtyrT, Δ tyrU, Δ tyrS, pTK3]株に大腸菌 TyrRS 変異体を導入した株を 「tyr- MjJ と表記した。 なお、 図 2において、 横軸 は、 培養時間を示している。
図 2から判るように、 T0P10[AtyrU, Δ tyrS, pTK3]株に大腸菌 TyrRS変異体を 導入した株においては、 プロモチロシンを添加すると増殖速度が低下し始め、 2 時間後に増殖が停止していた。 これは、 T0P10[AtyrU, AtyrS, pTK3]株に大腸菌
TyrRS変異体を導入した株は、 tyrT遺伝子が存在するので大腸菌 TyrRS変異体が 機能するためである。一方、図 2から判るように、 T0P10[AtyrT, Δ tyrU, Δ tyrS, pTK3]株に大腸菌 TyrRS変異体を導入した株においては、プロモチロシンの添加が
増殖に.影響しなかった。 これは、 TOP10 [ A tyrT, Δ tyrU, A tyrS, pTK3]株に大腸 菌 TyrRS変異体を導入した株は、大腸菌チロシン tRNAが全てノックアウトされて おり、 大腸菌 TyrRS変異体が機能しなかったことを意味する。 実験方法及び結果一 3
次に、 作製された T0P10 [ A tyrT, A tyrU, A tyrS, pTK3]株において、 tyrT遺 伝子、 tyrU遺伝子及び tyrS遺伝子が全てゲノム上から除去されているか否かを 確認した。 具体的には、 T0P10 [ A tyrT, Δ tyrU, A tyrS, pTK3]株から染色体 DNA を抽出し、 .染色体 DNAを铸型とした, PCRによって確認した。
染色体 DNAは、市販のキット Genとるくん TM (酵母用) (タカラバイオ株式会社) を用いて抽出した。 tyrT遺伝子、 tyrU遺伝子及ぴ tyrS遺伝子の各遺伝子につい て以下の塩基配列からなる一対のプライマーを設計して化学合成によって作製し た。
tyrT遺伝子増幅用
• GCAGGACGTTATTCATGTCG (配列番号 2 0 )
• GGGACTTTTGAAAGTGATGG (配列番号 2 1 )
tyrU遺伝子増幅用
• GTAATCAGTAGGTCACCAGT (配列番号 2 2 )
• TTCGAGCCGGTAAGCGAACT (配列番号 2 3 )
tyrS遺伝子増幅用 ,
• AAAAGTCGTGTACCGGCAAAG (配列番号 2 4 )
• TAAACAACGTGAGACTGGATAG (配列番号 2 5 )
すなわち、 tyrT遺伝子増幅用プライマーは tyrT遺伝子及び tyrV遺伝子の前後 の配列に設定し、 tyrU遺伝子増幅用プライマ一は tyrU遺伝子の前後の配列に設 定し、 tyrS遺伝子増幅用プライマーは tyrS遺伝子の前後の配列に設定した。
T0P10 [ A tyrT, A tyrU, A tyrS, pTK3]株及び野生株である T0P10株について、 それぞれ染色体 DNAを抽出して PCRを行い、 PCR増幅断片を電気泳動によって確 認した結果を図 3に示す。 図 3において、 T0P10 株を用いたときの結果を 「WT」 と表記し、 T0P10 [ A tyrT, Δ tyrU, Δ tyrS, pTK3]株を用いたときの結果を 「厶
tyrU」、 「A tyrS」 及び 「A tyrT」 と表記した。 また、 図 3において、 T0P10 株の 染色体 DNAを铸型として用いて tyrT遺伝子、 tyrU遺伝子及び tyrS遺伝子を増幅 したときに現れる増幅断片の位置を三角印で指示した。
図 3から判るように、 TOP10 [ A tyrT, A tyrU, Δ tyrS, pTK3]株の染色体 DNA を角いた場合には、 T0P10株の染色体 DNAを用いたときに増幅した爷断片と比較 して、增幅される断片の長さがより短くなっていた。この結果から、 T0P10 [ A tyrT, 厶 tyrU, A tyrS, pTK3]株においては、 tyrT遺伝子、 tyrU遺伝子及び tyrS遺伝子 が全てゲノム上から除去されていることが実証された。
以上のことから、 Τ0Ρ10 [ Δ tyrT, Δ tyrU, A tyrS, . pTK3]株においては、 内在し ていた TyrRS とチロシン tRNA .は全てノックアウトされ、 代わりに古細菌 TyrRS とチロシン tRNAによってチロシン'コドンの翻訳を行って生きていることが示さ れた。 この T0P10 [ A tyrT, Δ tyrU, A tyrS, pTK3]株は、 大腸菌由来の変異 TyrRS 遺伝子及ぴサプレッサー tRNATyi:遺伝子を用いたァロプロテインの製造に使用する ことができ'る。 産業上の利用可能性
本発明に係る非天然型ァミノ酸を組み込んだタンパク質の製造方法によれば、 原核生物由来のアミノアシル tRNA 合成酵素変異体を用いるとともに原核細胞を 宿主細胞として用いて、 所望の位置に非天然型アミノ酸を組み込んだタンパク質 を製造することができる。 また、 この原核生物由来のアミノアシル tRNA合成酵素 変異体は、 真核生物タイプの細胞を宿主とする非天然型アミノ酸を組み込んだタ ンパク質の製造方法にも使用することができる。 このように、 本発明によれば、 原核細胞由来のァミノアシル tRNA合成酵素変異体を、原核細胞及び真核生物タイ プの細胞のいずれを宿主細胞とする系にも使用することができる。
また、 非天然型アミノ酸を組み込んだタンパク質の製造方法によれば、 真核生 物タイプのアミノアシル tRNA 合成酵素変異体を用いるとともに真核生物タイプ の細胞を宿主細胞として角いて、 所望の位置に非天然型アミノ酸を組み込んだタ ンパク質を製造することができる。 また、 この真核生物タイプのアミノアシル tRNA合成酵素変異体は、原核細胞を宿主とする非天然型アミノ酸を組み込んだタ
ンパク.'質の製造方法にも使用することができる。 このように、 本発明によれば、 真核生物タイプのァミノアシ /'レ tRNA合成酵素変異体を、原核細胞及び真核生物タ イブの細胞のいずれを宿主細胞とする.系にも使用することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、 特許および特許出願をそのまま参考として 本 細書にとり入れるものとする。