JP7079018B2 - D-アミノ酸及びβ-アミノ酸の取り込みを増強するtRNAのD及びTアームの改変 - Google Patents
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Description
そこで、これらの非タンパク質性アミノ酸を導入するための様々な方法が開発されている。
例えば、Flexible in vitro translation(FIT)系のような再構成されたin vitro翻訳系と組み合わされた遺伝子コードの再プログラミングにより、D-アミノ酸、N-メチルアミノ酸、β-アミノ酸、およびα-ヒドロキシ酸といった非タンパク質性アミノ酸が導入されている(非特許文献1-9)。
非特許文献5には、フレキシザイムによって調製されたD-アミノ酸でプレチャージしたtRNAGluE2を使用することで、FITシステムを用いたD-アミノ酸の連続的な取り込みが開示されている。非特許文献5に開示された方法では、EF-Tuのより高濃度であることが、D-アミノアシルtRNAのアコモデーションの増強に貢献していると考えられている。しかしながら、2つの連続したD-Alaを有するペプチドの全体的な発現レベルは、0.3μM未満であり、全L型ペプチドにおける濃度の約1.4μMと比べて依然として低かった。
(1)
配列番号1で示される塩基配列を含有し、非タンパク質性アミノ酸をコードするtRNA。
N1N2GCN3N4N5N6N7N8N9N10N11GCN12N13 (配列番号1)
(配列番号1において、
N1~N13は、それぞれ任意の塩基を示し、N3~N11はDループを形成し、
N1N2GCが、N13N12CGと塩基対を形成する。)
(2)
配列番号2で示される塩基配列をさらに含有する、(1)に記載のtRNA。
AGGGG(N14)mCCCCU (配列番号2)
(配列番号2において、
N14は、任意の塩基を示し、mは、1以上の整数であり、(N14)mはTループを形成し、
AGGGGが、UCCCCと塩基対を形成する。)
(3)
3’末端にチャージされた非タンパク質性アミノ酸が、D-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸である、(1)又は(2)に記載のtRNA。
(4)
(1)~(3)のいずれかに記載のtRNAを含み、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを合成するための翻訳系。
(5)
(1)~(3)のいずれかに記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドライブラリの製造方法。
(6)
(1)~(3)のいずれかに記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体ライブラリの製造方法。
(7)
(5)に記載の方法によって製造されるペプチドライブラリ又は(6)に記載の方法によって製造されるペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
(8)
2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを含む、(7)に記載のペプチドライブラリ又はペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
(9)
4以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合し、非タンパク質性アミノ酸間で分子内架橋したペプチドを含む、(8)に記載のペプチドライブラリ又はペプチド-mRNA複合体ライブラリ。
N1N2GCN3N4N5N6N7N8N9N10N11GCN12N13 (配列番号1)
配列番号1において、
N1~N13は、それぞれ任意の塩基を示し、N3~N11はDループを形成し、
N1N2GCが、N13N12CGと塩基対を形成する。
EF-Pタンパク質は、プロリン選択的ペプチジルトランスファーの促進のために、tRNAProアイソアクセプターに見出される特定のDアームモチーフである、4塩基対の安定なDステム配列によって閉じた構造を有する9塩基のDループを認識し、Pro-Pro転移反応の速度促進は、tRNAProに依存する。
本発明においては、配列番号1で示される塩基配列は、DループとDステムからなるDアームであり、配列番号1で示される塩基配列をtRNAに導入することにより、EF-Pペプチドによるぺプチジルトランスファーが促進できる。
tRNAの3’末端は、CCA配列を有し、任意のアミノ酸と結合する。本発明のtRNAは、非タンパク質性アミノ酸と結合している。
本明細書では、tRNAが非タンパク質性アミノ酸をコードするとは、tRNAが、非タンパク質性アミノ酸とtRNAのCCA配列を介して結合していることを意味する。
配列番号1で示される塩基配列は、配列番号3で示される塩基配列であること好ましい。
GCGCN3N4N5N6N7N8N9N10N11GCGC (配列番号3)
配列番号3において、
N3~N11は、前記と同義であり、GCGCが、CGCGと塩基対を形成する。
AGCCUGGUA (配列番号4)
配列番号4で示される塩基配列は、tRNAにおけるDループを形成する。
配列番号4においては、1又は複数の塩基が置換されていてもよい。
塩基が複数置換されるとは、Dループを形成する9個の塩基において、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、1~4個の塩基が置換されていてもよく、1~3個の塩基が置換されていてもよく、1~2個の塩基が置換されていてもよく、1個の塩基が置換されていてもよい。
N1N2GCGCAGCCUGGUAGCGCN12N13 (配列番号5)
配列番号5において、
N1、N2、N12及びN13は、前記と同義であり、N1N2GCが、N13N12CGと塩基対を形成する。
GCGCGCAGCCUGGUAGCGCGC (配列番号6)
配列番号5及び配列番号6においては、1又は複数の塩基が置換されていてもよい。
配列番号5及び6において塩基が複数置換されるとは、Dループを形成する9個の塩基を示す配列番号4において、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、1~4個の塩基が置換されていてもよく、1~3個の塩基が置換されていてもよく、1~2個の塩基が置換されていてもよく、1個の塩基が置換されていてもよい。
本発明においては、配列番号2で示される塩基配列は、TループとTステムからなるTアームであり、配列番号2で示される塩基配列をtRNAに導入することにより、非タンパク質性アミノ酸をペプチドあるいはタンパク質に導入するにあたり、EF-Tuタンパク質によるアコモデーションが促進される。
AGGGG(N14)mCCCCU (配列番号2)
配列番号2において、
N14は、任意の塩基を示し、mは、1以上の整数であり、(N14)mはTループを形成し、
AGGGGが、UCCCCと塩基対を形成する。
(N14)mは、tRNAGluE2のTループに由来する配列番号7で示される塩基配列であることが好ましい。
UUCGAAU (配列番号7)
配列番号7においては、1又は複数の塩基が置換されていてもよい。
塩基が複数置換されるとは、Tループを形成する7個の塩基において、2個、3個、4個、5個、6個、7個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、1~3個の塩基が置換されていてもよく、1~2個の塩基が置換されていてもよく、1個の塩基が置換されていてもよい。
Tステムを形成する塩基配列において、塩基対を形成する限り、1又は複数の塩基が置換されていてもよい。
配列番号2のTステムにおいて塩基が複数置換されるとは、Tステムを形成する10個の塩基において、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個の塩基が置換されていてもよいことを意味し、2個の塩基が置換されていてもよく、4個の塩基が置換されていてもよく、6個の塩基が置換されていてもよく、塩基対を形成する限り、1個、3個、5個の塩基が置換されていてもよい。
本発明のtRNAは、好適には、tRNAPro1およびtRNAGluE2のキメラであり、かかるtRNAを、本明細書においては、tRNAPro1E2と呼ぶ。
具体的には、tRNAGluE2のTステムがtRNAPro1に導入されていることが好ましい。
D-アミノ酸やβ-アミノ酸等の非タンパク質性アミノ酸でプレチャージされたtRNAPro1E2とEF-Pタンパク質との組み合わせにより、線状ペプチドだけでなく、当該非タンパク質性アミノ酸を連続して、例えば、4つあるいは5つの連続した非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドの発現レベルを増強することができる。
翻訳系には、本発明のtRNAを含む限り、特に限定されずに、無細胞翻訳系で用いられる構成要素を含む。
翻訳系は、EF-Pタンパク質を含有することが好適であり、さらに、EF-Tuタンパク質を含有することが好適である。
本発明における翻訳系では、天然の翻訳系を使用してもよい。天然の翻訳系においては、各アミノ酸に対応したアンチコドンを有するtRNAが存在し、各tRNAは、アンチコドンループ以外の領域においてもそれぞれ固有の配列を有する。
本発明においては、配列番号1及び/又は配列番号2で示される塩基配列を導入すれば、他の配列については、それら天然の翻訳系におけるtRNAの固有の配列を割り当てられるという意味で、アクセプターステム、アンチコドンステム、アンチコドンループ、バリアブルループの塩基配列は、任意であり得る。
本明細書において、アンチコドンループとは、tRNAにおけるアンチコドンを含む一本鎖のループ部分を示す。アンチコドンループの配列は、コドン-アンチコドンの相互作用を相補するように、当業者が適宜決定することが可能である。
用いられる無細胞翻訳系は、特に限定されない。
ペプチドライブラリの製造方法においては、適当なコドンでコードされる非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドであって、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続したペプチドを製造することができたり、2以上の複数の非タンパク質性アミノ酸を有するペプチドを効率よく製造できるので、より多様性に富むライブラリを提供することができる。
NNNのいずれかのコドンに対するアンチコドンを有し、該コドンに対応する非タンパク質性アミノ酸がチャージされたtRNAを加えた無細胞翻訳系で、mRNAライブラリの各mRNAを翻訳する工程と、を含む。ペプチドライブラリの製造方法とすることができる。
次いで、各mRNAが1又は複数の非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNを含むmRNAライブラリを調製し、翻訳することで、割り当てられた非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドを発現させることができる。
再割当においては、天然の遺伝暗号表におけるコドンとアミノ酸の関係とは異なるものを割り当てることもできるし、同一のものを割り当てることもできる。
「天然の遺伝暗号表」とは、生体においてmRNAのトリプレット(コドン)に割り当てられたアミノ酸を示した表であり、下記表1に示す。
タンパク質性アミノ酸(proteinogenic amino acids)は、当業界に周知の3文字表記により表すと、Arg、His、Lys、Asp、Glu、Ser、Thr、Asn、Gln、Cys、Gly、Pro、Ala、Ile、Leu、Met、Phe、Trp、Tyr、及びValである。
非タンパク質性アミノ酸(non-proteinogenic amino acids)としては、タンパク質性アミノ酸以外の天然又は非天然のアミノ酸を意味する。
非天然アミノ酸としては、例えば、主鎖の構造が天然型と異なる、α,α-二置換アミノ酸(α-メチルアラニンなど)、N-アルキル-α-アミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシ酸や、側鎖の構造が天然型と異なるアミノ酸(ノルロイシン、ホモヒスチジンなど)、側鎖に余分のメチレンを有するアミノ酸(「ホモ」アミノ酸、ホモフェニルアラニン、ホモヒスチジンなど)、及び側鎖中のカルボン酸官能基がスルホン酸基で置換されるアミノ酸(システイン酸など)等が挙げられる。非天然アミノ酸の具体例としては、国際公開第2015/030014号に記載のアミノ酸が挙げられる。
非タンパク質性アミノ酸が、D-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸であることが好適であり、D-アミノ酸又はβ-アミノ酸であることがより好適である。
各ペプチドに含まれるNNNでコードされるアミノ酸の数は、非タンパク質性アミノ酸が含まれる限り、特に限定されないが、例えば、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、15個、20個、30個等とすることができる。各mRNAにおける非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNの位置は特に限定されず、本発明のtRNAを用いることで、非タンパク質性アミノ酸をコードするNNNが連続して配置されるmRNAからも、タンパク質性アミノ酸のライブラリ合成と同程度で、非タンパク質性アミノ酸が連続して配置されたペプチドが翻訳される。
DNAからの転写を併せて行うためにRNAポリメラーゼを含む系としてもよい。市販されている無細胞翻訳系として、大腸菌由来の系としてはロシュ・ダイアグノスティックス社のRTS-100(登録商標)、再構成型翻訳系としてはPGI社のPURESYSTEM(登録商標)やNew England BioLabs社のPURExpressR In Vitro Protein Synthesis Kit等、小麦胚芽抽出液を用いた系としてはゾイジーン社やセルフリーサイエンス社のもの等を使用できる。
また、大腸菌のリボソームを用いる系として、例えば次の文献に記載された技術が公知である:H. F. Kung et al., 1977. The Journal of Biological Chemistry Vol. 252, No. 19, 6889-6894; M. C. Gonza et al., 1985, Proceeding of National Academy of Sciences of the United States of America Vol. 82, 1648-1652; M. Y. Pavlov and M. Ehrenberg, 1996, Archives of Biochemistry and Biophysics Vol. 328, No. 1, 9-16; Y. Shimizu et al., 2001, Nature Biotechnology Vol. 19, No. 8, 751-755; H. Ohashi et al., 2007, Biochemical and Biophysical Research Communications Vol. 352, No. 1, 270-276。
無細胞翻訳系によれば、発現産物を精製することなく純度の高い形で得ることができる。
なお、本発明の無細胞翻訳系は、転写に必要な因子を加えて、翻訳のみならず転写に用いてもよい。
官能基1と2はどちらがN末端側にきてもよく、N末端とC末端に配置してもよいし、一方を末端アミノ酸、他方を非末端アミノ酸としてもよいし、両方を非末端アミノ酸としてもよい。
官能基1と官能基2により形成される結合が、環状ペプチドにおける分子環状構造を形成するための化学架橋構造といえる。
(A-1)の官能基を有するアミノ酸としては、N-chloroacetyl-L-tryptophan及びN-chloroacetyl-L-tyrosineが好適に用いられ、D体であることがより好適である。
なお、本明細書において、L体であることを明示して記載する場合があるが、L体であってもよく、D体であってもよいことを意味し、また、L体とD体の任意の割合での混合物であってもよい。L体及びD体であることを明示して記載していない場合についても、L体であってもよく、D体であってもよいことを意味し、また、L体とD体の任意の割合での混合物であってもよい。
(A-2)の官能基を有するアミノ酸としては、cysteineが好適に用いられる。
4-pentynoyl化や5-hexynoyl化したアミノ酸を用いてもよい。
4-pentynoyl化アミノ酸としては、例えば、N-(4-pentenoyl)-L-alanine、N-(4-pentenoyl)-L-phenylalanine、N-(4-pentenoyl)-L-tyrosine、N-(4-pentenoyl)-L-tryptophan、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tryptophan、β-N-(4-pentenoyl)-L-diaminopropanoic acid、γ-N-(4-pentenoyl)-L-diaminobutyric acid、σ-N-(4-pentenoyl)-L-ornithine、ε-N-(4-pentenoyl)-L-lysine、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
5-hexynoyl化アミノ酸としては、4-pentynoyl化アミノ酸として例示した化合物において、4-pentynoyl基が、5-hexynoyl基に置換されたアミノ酸が挙げられる。
azidoacetyl化や3-azidopentanoyl化したアミノ酸を用いることもできる。
azidoacetyl化アミノ酸としては、例えば、N-azidoacetyl-L-alanine、N-azidoacetyl-L-phenylalanine、N-azidoacetyl-L-tyrosine、N-azidoacetyl-L-tryptophan、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-phenylalanine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tyrosine、N-3-(4-pentynoylamido)benzoyl-L-tryptophan、β-N-azidoacetyl-L-diaminopropanoic acid、γ-N-azidoacetyl-L-diaminobutyric acid、σ-N-azidoacetyl-L-ornithine、ε-N-azidoacetyl-L-lysine、及びこれらに対応するD-アミノ酸誘導体等が挙げられる。
3-azidopentanoyl化アミノ酸としては、azidoacetyl化アミノ酸として例示した化合物において、azidoacetyl基が、3-azidopentanoyl基に置換されたアミノ酸が挙げられる。
(C-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えば、5-hydroxytryptophan(WOH)等が挙げられる。
(C-1)の官能基を有するアミノ酸と(C-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、Yamagishi, Y. et al., ChemBioChem 10, 1469-1472 (2009)及び国際公開第2008/117833号に記載された方法等が挙げられる。
(D-2)の官能基を有するアミノ酸としては、例えばcysteine、homocysteine、mercaptonorvaline、mercaptonorleucine、2-amino-7-mercaptoheptanoic acid、及び2-amino-8-mercaptooctanoic acid等が挙げられる。
(D-1)の官能基を有するアミノ酸と(D-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、国際公開第2012/074129号に記載された方法等が挙げられる。
(E-2)のアミノ酸としては、例えば、cysteine、homocysteine、mercaptonorvaline、 mercaptonorleucine、2-amino-7-mercaptoheptanoic acid、及び2-amino-8- mercaptooctanoic acid等が挙げられる。
(E-1)の官能基を有するアミノ酸と(E-2)の官能基を有するアミノ酸による環状化方法は、例えば、(A-1)と(A-2)の環状化方法や(D-1)と(D-2)の環状化方法を参考にして行うことができる。
本発明のtRNAを用いてペプチドライブラリを製造することで、L-アミノ酸からなるペプチドの発現レベルと同程度で、非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドを合成できるため、従来のペプチドライブラリに比して、非タンパク質性アミノ酸の導入において多様性に富むペプチドライブラリとすることができる。
中でも、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを含むライブラリとすることができる。
本発明のtRNAを用いてペプチド-mRNA複合体ライブラリを製造することで、L-アミノ酸からなるペプチドの発現レベルと同程度で、非タンパク質性アミノ酸を含むペプチドを合成できるため、従来のペプチド-mRNA複合体ライブラリに比して、非タンパク質性アミノ酸の導入において多様性に富むペプチド-mRNA複合体ライブラリとすることができる。
中でも、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを含むライブラリとすることができる。
4以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合した構造において、非タンパク質性アミノ酸間で分子内架橋させるには、無細胞翻訳系で翻訳し、環状化する際に用いられる非タンパク質性アミノ酸を利用して分子内架橋を構築することができる。
好適には、D-システインとD-システインによるジスルフィド結合、又はClAc基を導入した非タンパク質性アミノ酸とD-システインによるチオエーテル結合が挙げられる。
スクリーニング方法としては、本発明に係るtRNAを用いて製造されたペプチドライブラリと標的物質を接触させてインキュベートする工程を含む。
本明細書において、標的物質は特に限定されず、低分子化合物、高分子化合物、核酸、ペプチド、タンパク質、糖、脂質等とすることができる。
スクリーニング方法としては、標的物質と結合したペプチドを選択する工程をさらに含む。標的物質と結合したペプチドの選択は、例えば、ペプチドを公知の方法に従って検出可能に標識し、上記接触工程の後、緩衝液で固相担体表面を洗浄し、標的物質に結合している化合物を検出して行う。
検出可能な標識としては、ペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ等の酵素、125I、131I、35S、3H等の放射性物質、フルオレセインイソチオシアネート、ローダミン、ダンシルクロリド、フィコエリトリン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート、近赤外蛍光材料等の蛍光物質、ルシフェラーゼ、ルシフェリン、エクオリン等の発光物質、金コロイド、量子ドットなどのナノ粒子が挙げられる。酵素の場合、酵素の基質を加えて発色させ、検出することもできる。また、ペプチドにビオチンを結合させ、酵素等で標識したアビジン又はストレプトアビジンを結合させて検出することもできる。
この場合、まず、ペプチド-mRNA複合体ライブラリに対して逆転写反応を行った後、当該ライブラリと標的物質とを接触させる。標的物質に結合する複合体を選択し、このDNAをPCRで増幅する。このDNAをTRAP反応系に加えることで、再度ペプチド-mRNA複合体ライブラリを作製し、同様の操作を繰り返す。
これにより、標的物質に高い親和性を有するペプチド-mRNA複合体が濃縮されるので、濃縮された複合体のDNAの配列を解析して、標的物質に結合するペプチドを効率よく同定することができる。
D-アミノ酸、β-アミノ酸、2-アミノイソブチル酸及びL-プロリンのプレチャージのために用いたフレキシザイム(dFx又はeFx)及びtRNA(表3)は、T7 RNAポリメラーゼを用いて、in vitroで転写した。
フレキシザイム(dFx又はeFx)あるいはtRNA配列の前にT7プロモーターを有する鋳型DNAがフォワード及びリバース伸長プライマー対(表4)の伸長により調製され、次いで、フォワード及びリバース伸長プライマー対(表5)を用いてPCRを行った。
tRNA調製においては、5’末端(G又はC)のヌクレオチドに応じて、上記溶液に、5mM GMP又はCMPが添加された。得られたRNA転写物は、RQ1 DNase (Promega)で、37℃で30分間処理され、次いで、6M 尿素を含む8%(tRNA)あるいは12%(フレキシザイム)ポリアクリルアミドゲルで精製した。
D-アミノ酸とβ-アミノ酸は、3,5-ジニトロベンジルエステル(DBE)かシアノメチルエステル(CME)としてプレ活性化し、tRNAへ、適切なフレキシザイム(DBE活性化アミノ酸ではdFx、CME活性化アミノ酸ではeFx)を用いてチャージした。
D-アラニン、D-セリン及びD-システイン、L-β-ホモグルタミン(βhQ)、L-β-ホモメチオニン(βhM)、L-β-ホモフェニルグリシン(βhF)、L-プロリン及び2-アミノ酪酸(Aib)は、DBE活性化し、クロロアセチル D-フェニルアラニン(D-ClAcPhe)は、CME活性化した。上記活性化アミノ酸は、非特許文献1及び参考文献18に記載の方法に沿って合成した。
フレキシザイム反応(アミノアシル化)は、0℃で、50mM HEPES-KOH(D-アミノ酸では、pH 7.5、β-アミノ酸では、pH 8.7)、600mM MgCl2,20% DMSO、25μM dFx又はeFx,25μM tRNA及び5mM 活性化アミノ酸を含む反応混合物中で行った。
eFxが、D-ClAcPhe-CMEのために用いられ、dFxが他のアミノ酸のために用いられた。反応時間は、D-Ala、D-ClAcPhe、L-Pro及びAibのためには2時間であり、D-Ser及びD-Cysのためには6時間であり、β-アミノ酸のためには22時間とした。アミノアシルtRNAは、エタノール沈殿により回収され、次いで、ペレットを酢酸ナトリウム(pH 5.2)を含む70%エタノールで2回、70%エタノールで1回洗浄し、1mM 酢酸ナトリウム(pH 5.2)に溶解した。
E.coli EF-P遺伝子を、トロンビン部位の代わりにPreScissionプロテアーゼ認識部位を有する修飾されたpET28aベクターにクローニングした。E.coli EpmA及びEpmB遺伝子は、pETDuet-1ベクターにクローニングした。これらのベクターをE.coli Rosetta2(DE3)に共導入した。細胞を0.5mM IPTGを含むLB培地で、37℃で2時間培養し、超音波処理により溶解した。細胞溶解物をNi-NTAカラムに適用して、ヒスチジン標識EF-Pを精製した。カラムを緩衝液A(20mM Tris-HCl(pH8.0)、200mM NaCl、2mMイミダゾール及び1mM 2-メルカプトエタノール)で洗浄した後、ヒスチジン標識EF-Pを300mMのイミダゾールを含む緩衝液Aで溶出した。Turbo3Cプロテアーゼを溶出液に添加してヒスチジンタグを切断し、緩衝液Aに対して4℃で一晩透析した。サンプルをNi-NTAカラムに適用して、フロースルー及び洗浄画分をヒスチジンタグのないEF-Pとして回収した。次に、Amicon ultra 10k遠心フィルター(Merck Millipore)でタンパク質を濃縮した。EF-Pの改変は、参考文献3に記載された質量分析によって確認した。
モデルペプチドの翻訳は、IF2、EF-G及びEF-Tu/Tsの濃度(それぞれ、3、0.1及び20μM)がD-アミノ酸及びβ-アミノ酸取り込みのために最適化された改変FIT(Flexible in vitro translation)系で行った(非特許文献5を参照)。
修正されたFITシステムの構成は以下の通りである。
50mM HEPES-KOH(pH7.6)、100mM 酢酸カリウム、12.3mM 酢酸マグネシウム、2mM ATP、2mM GTP、1mM CTP、1mM UTP、20mM クレアチンリン酸、0.1mM 10-ホルミル-5,6,7,8-テトラヒドロ葉酸、2mM スペルミジン、1mM DTT、1.5mg/mL E.coliトータルtRNA、1.2μM E.coliリボソーム、0.6μMメチオニルtRNAホルミルトランスフェラーゼ、2.7μM IF1、3μM IF2、1.5μM IF3、0.1μM EF-G、20μM EF-Tu/Ts、0.25μM RF2、0.17μM RF3、0.5μM RRF、4μg/mL クレアチンキナーゼ、3μg/mL ミオキナーゼ、0.1μM 無機ピロホスファターゼ、0.1μM ヌクレオチド二リン酸キナーゼ、0.1μM T7 RNAポリメラーゼ、0.13μM AspRS、0.11μM LysRS、0.03μM MetRS、0.02μM TyrRS、0.05mM [14C]アスパラギン酸、0.5mM リジン、0.5mM メチオニン、0.5mM チロシン、各25μMプレチャージされたアミノアシルtRNA及び0.5μM DNAテンプレート。rP1およびrP2やβ-アミノ酸含有ペプチドの翻訳のために、0.09μM GlyRS及び0.5mM グリシンも上記溶液に加えた。
翻訳反応は、37℃で、2.5μLの溶液中で行い、等容量の停止溶液(0.9M Tris-HCl(pH8.45)、8% SDS、30% グリセロール及び0.001% キシレンシアノール)を加えて停止させ、95℃で2分間又は3分間インキュベートした。次に、サンプルを15% トリシンSDS-PAGE及びTyphoon FLA 7000(GE Healthcare)を用いたオートラジオグラフィーにより分析した。ペプチド収量は、[14C]Aspバンドの強度によって正規化した。
EF-Pが、Pro-Pro伸長におけるぺプチジルトランスファー(PT)速度の増強能を有するため、新生ペプチド鎖において、いくつかのD-アミノ酸のゆっくりとした取り込みを促進し得ることを確認するために、以下の実験を行った。
初めに、おのおの、2又は3の連結したD-アミノ酸をコードする2つのmRNAコンストラクト(mR1及びmR2)を調製した(図2A)。
D-アミノ酸は、フレキシザイム技術により、対応するアンチコドンを有するtRNAPro1誘導体にプレチャージされ、rP1ペプチド又はrP2ペプチドを合成するために、5μM EF-Pタンパク質を含むFITシステムにおいて用いられた。
特定のFITシステムでは、[14C]Asp、コールドMet、Tyr、Lys、Gly及び対応するARSが添加され、mRNA(mR1及びmR2)によってコードされない他のアミノ酸/ARS対は省略された。代わりに、D-アミノアシルtRNAを添加して、D-アミノ酸をNNNコドンに割り当てた。IF-2、EF-Tu及びEF-Gの濃度は、D-アミノ酸の連続取り込みのためにあらかじめ最適化された値である3μM、20μM及び0.1μMにそれぞれ設定した(非特許文献2及び5)。野生型(WT)tRNAPro1 CGGはDステムの端に位置する13位及び22位にC/G塩基対を有するが、変異体tRNAPro1 CGGは13位にC-to-G点変異を有し、塩基対形成を破壊する(図2B)。EF-Pは、WT tRNAPro1の4塩基対の安定なDステム構造で閉じられた9塩基のDループを厳密に認識するので、C13G変異はEF-Pによる認識を減少させた。したがって、mR1及びmR2においてD-アミノ酸を指定するNNNコドンを解読するために、tRNAPro1 CGG及び陰性対照としてC13G変異体を用いた。tRNAPro1のアンチコドンは、標的コドンを解読するために他のものに変更することができた(図2C)。
WT D-Ala-tRNAPro1を用いて、mR1においては、rP1ペプチド(rP1-D-Ala2)に2つの連続したD-アラニンを導入するための3つの異なるコドン(NNN=CCG、ACU又はCAC)を試験した(図2C、図3A)。
得られたペプチドは、トリシンSDS-PAGEにて分離され、オートラジオグラフィーで定量化した。EF-Pの付加が、rP1ペプチド(rP1-D-Ala2)の発現レベルに、同様の範囲で(0.4~0.6μM)、コドンに依らず、重大な改良をもたらした。EF-Pを含まないD-Ala取り込みのバックグラウンドレベルの差異(CCG、ACU及びCACについて、それぞれ2.6倍、4.7倍及び12倍)のために、増強効果の見掛けのレベルはコドンによることとなった。陽性対照として、L-Pro-tRNAPro1を用いて、rP1-L-Pro2及びrP2-L-Pro3ペプチドのX残基の位置に連続するL-Pro取り込みのEF-P増強を行ったところ、それぞれ、1.4倍及び22倍の改善効果が見られた。(図3B及び3C)
次に、EF-PがmR1上のCCGコドンを抑制するtRNAPro1 CGGにチャージしたD-Ser、D-Cys及びD-Hisの取り込みを増強できるかどうかを調べた(図2D、図3D)。増強効果は5.4倍、8.4倍及び2.1倍であり、EF-PがこれらのD-アミノ酸の2回の連続した取り込みを2~10倍の範囲で増強することが示された。その一方、tRNAPro1 CGGのC13G変異体を用いると、rP1-D-X2ペプチドで、D-Ala、D-Ser、D-Cys及びD-Hisの2.1倍、2.4倍、3.5倍及び0.9倍でEF-P増強効果を低下させた。絶対発現レベルは、C13G/EF-PよりもWT/EF-Pの使用により2倍以上に増強されたことから、各場合においてEF-Pの効果が確実に観察された。これらペプチドの正確な発現は、MALDI-TOF質量分析により確認した(図3E)。
α、α-二置換はD-アミノ酸のようなリボソームPT中心に同様の状況を設定し、Aibの連続取り込みの効率が非常に低いことが確認できた。rP1-Aib2ペプチドへのAib取り込みに対するEF-P増強は、WT tRNAPro1の使用により20倍であり、C13G変異体により5倍であった。発現レベルは、WT/EF-Pの組み合わせにより3倍以上に増強された。
次に、rP2ペプチドの新生鎖にD-Ala及びAibの3つの連続した取り込みを調べた(図2E、図3D及び3E)。rP2-D-Ala3ペプチドへのD-Alaの取り込みのEF-Pによる増強効果はWT tRNAPro1 CGGを用いて1.9倍であったが、C13G変異体を用いた場合は、EF-Pの存在に関わらず検出限界以下あった。rP2-Aib3がWT tRNAPro1 CGGを用いて発現させた場合、EF-Pによる増強効果は3倍であったが、C13G変異体を用いた場合には、その効果は観察されなかった。これらの結果から、EF-PがD-アミノ酸の連続的な取り込みの発現レベルを刺激することが示されている。
rP1-D-Ala2ペプチドの翻訳の時間経過分析を、EF-Pの存在下(5μM)及びEF-Pの非存在下で行った。両条件において、全長ペプチドの収量は50分でプラトー化した(図4B)。50分で、rP1-D-Ala2ペプチドの発現レベルは、5μM EF-Pの存在下で約1μMに達した。かかる濃度は、L-Ala2を含む完全L-ペプチドの発現レベルに匹敵した(参考文献3)。
tRNAGluE2のTステムをtRNAPro1に導入して、本明細書で、tRNAPro1E1と言及するキメラtRNAを作成した(図5A、tRNAPro1E1 CGG)。
さらに、ProRSに認識される識別塩基に付加的な変異を有する(参考文献9)、本明細書で、tRNAPro1E2 CGGと言及する別のキメラtRNAを作成した。かかる変異を導入したことにより、tRNAPro1E2 CGGは、ProRSによりProをチャージされなくなった。すなわち、ProRSに対して直交性を有する。
WTtRNAPro1 CGG、tRNAPro1E1 CGG、tRNAPro1E2 CGG、tRNAGluE2 CGG及びtRNAAsnE2 CGG用いて(図5A)、rP1-D-Ala2への2つの連続したD-アラニンの取り込み能を比較した(図5B、図6A)。
その結果、試験された他のtRNAとの比較により、EF-PとtRNAPro1E1 CGG(4.1倍)及びtRNAPro1E2 CGG(5.0倍)の組合せによって、4倍以上のペプチド発現レベルの増強が確認された。
このことは、明確にキメラtRNAGluE2のTステムとtRNAPro1のDアームに由来するキメラtRNAPro1E1及びtRNAPro1E2が、EF-PとEF-Tuにアシストされて、トータルのPT速度を増強していることを意味している。
D-Ala-tRNAPro1E2及びEF-Pの組合せは、rPa-D-Ala2の発現レベルの増強を可能にする。
5つの異なる鋳型mRNAを調製して(図7A、mR3~mR7)、1~3の異なるD-アミノ酸をその配列中に含む対応するペプチドを合成した(図7A、rP3~rP7ぺプチド)。
これらのmRNAにおいては、D-Ala-tRNAPro1E2 GAU、D-Cys-tRNAPro1E2 GUG及びD-Ser-tRNAPro1E2 GGUが、それぞれ、AUU、CAU及びACUコドンに各々割り当てられた。5μM EF-Pの存在下、rP3及びrP4発現が増強していることを確認した(図6B)。一方、EF-Pの非存在下では、バンドは検出されなかった。すなわち、2種類の2つ連続したD-アミノ酸(D-Ala2-YY-D-Ala2またはD-Ala2-YY-D-Cys2;Y=L-Tyr)を含むrP3及びrP4においては、極めて増強した発現が確認された。
2種類の2つ連続したD-アミノ酸(D-Ala2-YY-D-Ser2)を含むrP5ペプチドにおいては、EF-Pの非存在下でも、検出可能なレベルのrP5ペプチドを発現したが、EF-Pの添加は、13倍の発現レベルの増強を示した(図6B、図7B)。
L-アミノ酸とD-アミノ酸を交互に含むrP6及びrP7ぺプチドの発現は少ないものの、EF-P存在下でも検出可能であった。一方、EF-Pの添加は、それぞれで、3.3倍及び3.0倍の発現レベルの増強を示した(図6B、図7B)。
各ペプチドのMALDI-TOF-質量分析は、EF-Pの存在下での予想される分子量を示した(図6C)。
これらの結果は、EF-PとD-アミノアシル-tRNAPro1E2の組合せが、複数種のD-アミノ酸を含むペプチドの発現レベルの増強において、顕著なインパクトを与えることを示唆している。
FITシステムを用いてtRNAGluE2誘導体を用いて大環状D-ペプチドの発現を実証したところ、大環状D-ペプチドの発現レベルは、大環状L-ペプチドよりも4倍低かった。
そこで、tRNAPro1E2を用いたところ、大環状D-ペプチドの発現レベルが増強した。具体的には、EF-Pにより2つのモデルD-ペプチドであるrP8及びrP9ペプチドの発現レベルを増強させることに成功した(図8)。
rP8は、D-Cys-D-Ser-D-Ala-D-Ser-D-Cysを含む。
EF-Pと共に伸長キャリアとしてtRNAPro1E2を用いて発現したrP8ペプチドのMALDI-TOF-質量分析は、これらのD-アミノ酸が正しく導入され、2つのD-Cys残基がジスルフィド結合を形成して大環状構造を与えることを示した(図9C)。
rP8ペプチドのトリシンSDS-PAGE分析は、D-アミノアシル-tRNAPro1E2と対になったEF-Pが、EF-P不活性D-アミノアシル-tRNAGluE2を用いて発現されたものと比較して、発現レベルで、約8倍増強することができた(図8B、図9A)。
同様の方法で、D-ClAcPhe-D-Ser-D-Ser-D-Cys連続ストレッチを含む別のモデルD-ペプチドであるrP9ペプチドを設計した。D-ClAcPheのN末端クロロアセチル基はD-Cysのスルフヒドリル基と反応して、チオエーテル大環状構造を形成した(図8A)。rP9ペプチドの発現は、tRNAGluE2を用いた場合と比較して、D-アミノアシル-tRNAPro1E2と対になったEF-Pにより、約10倍に増強され(図8C)、チオエーテル大環状D-ペプチドが効率的に産生され得ることが示された(図9C)。
D-アミノ酸の取り込みについて上記した方法に準じて、以下行った。
βhQ、βhM及びβhF(図10b)が、野生型(WT)tRNAPro1 CGG又はC13G変異tRNAPro1 CGG(図10a)にフレキシザイム技術によりプレチャージされ、rP1ペプチド合成するために、5μM EF-Pタンパク質を含むFITシステムにおいて、鋳型mRNAであるmR1(図10c)の翻訳に用いられた。
β-アミノ酸の前のTyr-Lys-Lys-Tyr-Lys-Lys-Tys-Lys配列は、発現されたペプチドが、トリシンSDSーPAGEやMALDI-TOF-質量分析における検出のために導入している配列である。
ペプチドは、[14C]Aspの存在下に発現され、15%トリシンSDS-PAGEに供され、C末端のフラグータグ領域に導入された[14C]Aspの強度によってオートラジオグラフィーで定量化した(図10d、図15a)。
コールドAspの存在下で、同じペプチドの発現は、EF-Pの非存在下でも、MALDI-TOF-質量分析により確認した(図15b)。ただし、EF-Pの存在により、WT tRNAPro1 CGGが用いられた場合には、β-アミノ酸の取り込みは増大した(図10d、βhQにおいて1.7倍、βhMにおいて4.6倍、βhFにおいて1.3倍)。
これらの結果は、明確に、EF-Pが、tRNAPro1のDアーム構造を認識していることを示しており、応答するβ-アミノ酸の取り込みを促進している。
続いて、rP1ペプチドへの、βhQ及びβhMの取り込みにおけるEF-Pの最適化濃度の検討を行い(参考文献1及び2)、β-アミノ酸の取り込みにおいては、EF-P濃度が5~10μM程度であることが良好であった。同様の傾向が、D-アラニンの取り込みにおいても確認された。
これらの結果は、EF-Pが、リボソームのE部位を占め、そして、P部位からE部位へのデアシルtRNAのトランスロケーションを阻害していると考えられた。
図11aに示すtRNAに、フレキシザイム技術によりβhMをチャージして、βhMをチャージしたtRNA間でさらなる取り込み増強が起こるか対比した。
大腸菌tRNAAsnに基づく、TステムもDアームも最適化されていないtRNAAsnE2、EF-Tu結合に最適化したTステムを有するtRNAGluの派生物であるtRNAGluE2及びtRNAPro1において、βhM-tRNAPro1E2は、RF-Pの存在下で7.3倍の取り込みの増強効果を示し、EF-P存在下でのβhM-tRNAPro1に対して、2倍近い取り込みの増強効果を示した(図11b)。
βhMをチャージしたtRNAGluE2 CGGを用いて、mR2の2~7つの連続したCGGコドンに対してβhMを導入して、mR2に対応するrP2-βhMnペプチドを合成した(図12、図16b)。
連続するβhMの数の増加に伴い、rP2-βhMnペプチドの翻訳効率は減少したものの、EF-Pの存在下で、βhMを連続して7つ含む完全長のrP2ペプチドを検出することができた(図12b及び図12c)。
また、rP2-βhM2ペプチド及びrP2-βhM3ペプチドでは、EF-Pによる顕著な取り込みの増強効果が確認された(それぞれ5.9倍、16.2倍)。
同様に、βhM及びβhFを、それぞれ、tRNAPro1E2 GAU及びtRNAPro1E2 GUGにプレチャージし、AUUコドン及びCAUコドンで、おのおの取り込んだrP3-3ペプチド~rP3-7ペプチドを合成した(図13a)。
rP3-3ペプチド~rP3-7ペプチドの発現が、EF-Pの存在下で確認された(図13b、図13c、図16c)。
また、rP3-3ペプチド~rP3-5ペプチドでは、EF-Pによる顕著な取り込みの増強効果が確認された(それぞれ7.4倍、21.7倍、30.3倍)。加えて、rP3-6ペプチド~rP3-7ペプチドでは、EF-Pにより、発現が、N.D.から検出可能になるという増強効果が確認された。
本法の汎用性を示すために、3種類のβ-アミノ酸、4種類のD-アミノ酸を様々な位置に取り込んだ8種類のrP4ペプチド~rP11ペプチドを合成した(図14a及び図14b)。
また、rP4ペプチド~rP5ペプチドでは、EF-Pによる取り込みの増強効果が確認された(図14c、図16d、それぞれ1.9倍、1.6倍)。rP6ペプチド~rP7ペプチドでは、連続したβ-アミノ酸の2つのセットが取り込まれていて、EF-Pによる取り込みの増強効果が確認された(図14c、図16d、それぞれ12.3倍、19.3倍)。rP8ペプチド~rP9ペプチドでは、β-アミノ酸とD-アミノ酸の組み合わせが取り込まれていて、EF-Pにより、検出可能となるまで取り込みの増強効果が確認された(図14c、図16d、rP8ペプチドでは、9.2倍、rP8ペプチドでは、0.04μM)。
チオエーテル結合による、連続したβ-アミノ酸を取り込んだ大環状ペプチド(rP10ペプチド~rP11ペプチド)を合成した(図14a)。開始AUGコドンが、D-ClAcPheに割り当てられ、D-ClAcPheのクロロアセチル基が、下流のD-システインの側鎖チオール基と反応して、チオエーテル結合を形成する。rP10ペプチド~rP11ペプチドでも、EF-Pによる取り込みの増強効果が確認された(図14d、図16d、それぞれ3.2倍、2.3倍)。
取り込みミスによる副生成物を産生することなり、これあらのペプチドが合成されていることを、MALDI-TOR-質量分析により確認した(図16e)。
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Claims (10)
- 配列番号1で示される塩基配列及び配列番号2で示される塩基配列を含有し、非タンパク質性アミノ酸をコードするtRNA。
N1N2GCN3N4N5N6N7N8N9N10N11GCN12N13 (配列番号1)
AGGGG(N14)mCCCCU (配列番号2)
(配列番号1において、
N1~N13は、それぞれ任意の塩基を示し、N3~N11はDループを形成し、
5’-N1N2GC-3’が、3’-N13N12CG-5’と塩基対を形成し、
配列番号2において、
N14は、任意の塩基を示し、mは、1以上の整数であり、(N14)mはTループを形成し、
5’-AGGGG-3’が、3’-UCCCC-5’と塩基対を形成する。) - 非タンパク質性アミノ酸が、D-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸である、請求項1に記載のtRNA。
- 配列番号1で示される塩基配列を含有し、3’末端にD-アミノ酸、β-アミノ酸又はα,α-二置換アミノ酸がチャージされている伸長tRNA。
N1N2GCN3N4N5N6N7N8N9N10N11GCN12N13 (配列番号1)
(配列番号1において、
N1~N13は、それぞれ任意の塩基を示し、N3~N11はDループを形成し、
5’-N1N2GC-3’が、3’-N13N12CG-5’と塩基対を形成する。) - 請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを含み、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを合成するための翻訳系。
- 請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドライブラリの製造方法。
- 請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体ライブラリの製造方法。
- 請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドの製造方法。
- 請求項1~3のいずれか1項に記載のtRNAを用いて、無細胞翻訳系で翻訳する工程を含む、ペプチドと該ペプチドをコードするmRNAとの複合体の製造方法。
- 前記ペプチドが、2以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合するペプチドを含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の製造方法。
- 前記ペプチドが、4以上の非タンパク質性アミノ酸が連続して結合し、非タンパク質性アミノ酸間で分子内架橋したペプチドを含む、請求項5~8のいずれか1項に記載の製造方法。
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