JP2024510101A - タンパク質翻訳システム - Google Patents

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Abstract

本開示では、無細胞かつaaRSフリータンパク質翻訳システム、及びタンパク質及び活性酵素の製造におけるその使用が提供される。

Description

本発明は、そのいくつかの実施形態において、無細胞タンパク質翻訳システムに関し、より具体的には、これに限られるものではないが、アミノアシル-tRNAシンセターゼ無しでのタンパク質及びその鏡像体を合成する方法並びにその使用に関する。
関連出願
本出願は、2021年2月18日に出願された米国仮特許出願第63/150,641号の優先権の利益を主張し、その内容は参照によりその全体が本開示に取り込まれる。
配列表についての陳述
90912 Sequence Listing.txtと題され、2022年2月16日に作成され、36,864バイトを含み、本出願の出願と同時に提出されたASCIIファイルは、参照により本開示に取り込まれる。
無細胞タンパク質合成は、基礎科学及び応用科学の分子生物学者にとって重要なツールである。それは、ハイスループット機能的ゲノミクス及びプロテオミクスにおいてますます使用されており、生細胞におけるタンパク質発現と比較して大きな利点がある。無細胞タンパク質合成は、核酸プログラム可能タンパク質アレイ(NAPPA)などのタンパク質アレイの作製、及びディスプレイ技術を使用する酵素工学に不可欠である。無細胞アプローチは、表現型(発現タンパク質の機能)を遺伝子型と関係づける最速のやり方を提供する。タンパク質合成は、翻訳システムにおいてmRNA鋳型を用いて、あるいは連結された(coupled)転写及び翻訳システムにおいてDNA鋳型(プラスミドDNA又はPCRフラグメント)を用いて、数時間で行うことができる。さらに、無細胞タンパク質発現システムは、毒性タンパク質、膜タンパク質、ウイルスタンパク質の発現、及び細胞内プロテアーゼによる迅速なタンパク質分解を受けるタンパク質にとって不可欠である。
ほとんどの無細胞タンパク質発現はライセートに基づき、それは、高い速度でのタンパク質合成に従事している細胞から作られる。最も頻繁に用いられる無細胞発現システムは、翻訳のための高分子成分、例えばリボソーム、tRNA、アミノアシル-tRNAシンセターゼ、開始因子、伸長因子、及び終結因子、を必要とする。効率的な翻訳を担保するためには、市販の抽出物は、アミノ酸、エネルギー源(ATP、GTP)、エネルギー再生システム及び塩(Mg2+、K+、他)を補充されなければならない。真核生物システムについては、クレアチンリン酸及びクレアチンホスホキナーゼがエネルギー再生システムとして働き、一方、原核生物システムの場合はホスホエノールピルビン酸及びピルビン酸キナーゼが補充される。連結された転写システム及び翻訳システムに対しては、ポリメラーゼプロモーターの下流にクローニングされた遺伝子の発現を可能にする、ファージ由来のRNAポリメラーゼが補充される。
タンパク質酵素の出現は、RNAベースの生命から現代の生物学への移行の鍵である。tRNA-アミノアシル化リボザイムの発見は、リボザイムによって積荷(charge)されるtRNAを用いる、高度に単純化された翻訳システムからタンパク質酵素を合成する可能性を示唆した。また、aaRS、ウルザイム(urzyme)及び化学的アシル化によって調製された事前に積荷したtRNAを用いる、他のシステムも報告されている。これらの中で、インビトロ選択によって発見された、フレキシザイムと名付けられた非常に堅牢で汎用的なtRNA-アミノアシル化リボザイムシステムは、多種多様なアミノ酸をtRNAに積み込みすることができることが示されている。フレキシザイム及びaaRSによって積荷されたtRNAを用いて、複数の非天然アミノ酸の翻訳ペプチドへの組み込みが達成され、実用場面でのペプチド薬の選択が可能になった。しかしながら、部分的には翻訳収率が低いことのため、aaRSの存在無し(以後、「aaRSフリー」と呼ぶ)にフレキシザイムで積荷されたtRNAのみを用いた場合、短ペプチド(7アミノ酸残基未満の長さ)のみが翻訳され、一方、aaRSフリー条件下での20種全てのタンパク質構成アミノ酸を有する完全長の機能性タンパク質酵素のリボソームによる産生は、これまで実証されていないままである。
Terasaka,N.et al.[Terasaka,N.,Hayashi,G.,Katoh,T.,and Suga,H.(2014).An orthogonal ribosome-tRNA pair via engineering of the peptidyl transferase center.Nat.Chem.Biol.10,555-557]は、代償的変異を有するrRNA及びtRNAのペアを用いる改変されたシステムを報告しており、それは、天然の遺伝暗号とは異なる形でプログラムされた遺伝暗号を特に使用し、したがって野生型対応物とは直交してペプチドを合成することができる。これらの翻訳機構により、単一のmRNAが、人工的にプログラムされた遺伝子暗号に従って2つの異なるペプチドを産生する。
本発明の態様は、無細胞でaaRSフリーのタンパク質翻訳/発現/合成システム及び方法、並びにその使用を対象とする。本開示は、フレキシザイムによって積荷(charge)されたtRNAのみを用いて、Mg2+濃度を下げ、tRNA濃度を上げることによる翻訳収率の改善を通して、異なる機能を有する活性な酵素を含む複数のタンパク質の成功裏な翻訳を提供する。活性なaaRS(TrpRS)を製造するaaRSフリー翻訳システムが実証されるが、この活性なaaRSは、さらに、より多くのtRNAの積荷を触媒した。また、合成L-フレキシザイムによってD-アミノ酸を積み込み(charge)した鏡像tRNAも実証される。本開示は、高度に単純化された翻訳装置からaaRSを用いずにタンパク質酵素を翻訳することの実現可能性を実証し、鏡像翻訳を実現するための数ダースにもわたる大きなaaRSタンパク質を化学的に合成する必要性を緩和する。カチオン枯渇しフレキシザイムで積荷されたtRNAは、他のaaRSタンパク質と組み合わせて、又は組み合わせずに用いられた場合に、完全な又は部分的な非天然ペプチドの翻訳に有用である。
したがって、本発明のいくつかの実施形態のある態様によれば、
タンパク質をコードするmRNA分子;
複数の積荷済みtRNA分子;及び
無細胞翻訳ミックス、
を含み、システムにおけるMg+2の濃度が100mM未満である、
タンパク質を製造するためのシステムが提供される。
いくつかの実施形態によれば、前記システムは、アミノアシルtRNAシンテターゼを本質的に欠く。
いくつかの実施形態によれば、前記積荷済みtRNA分子の濃度は60μM超である。
いくつかの実施形態によれば、前記積荷済みtRNA分子の濃度は160μMを超え、Mg+2の濃度は100mM未満である。
いくつかの実施形態によれば、前記複数の積荷済みtRNA分子のうちの少なくとも1つのtRNA分子は、フレキシザイムによって積荷される。
いくつかの実施形態によれば、前記tRNA分子には、非天然アミノ酸残基が積み込みされる。
いくつかの実施形態によれば、前記非天然アミノ酸残基はD-アミノ酸残基である。
いくつかの実施形態によれば、前記tRNA分子はL-リボ核酸残基を含む(L-tRNA)。
いくつかの実施形態によれば、L-tRNAが、D-ポリメラーゼを用いて調製される。
いくつかの実施形態によれば、前記D-ポリメラーゼは、Dpo4の鏡像タンパク質である(D-Dpo4)。
いくつかの実施形態によれば、前記D-Dpo4は、D-Dpo4-5m-Y12Sである(配列番号126)。
いくつかの実施形態によれば、前記フレキシザイムは、L-リボ核酸残基を含む(L-フレキシザイム)。
いくつかの実施形態によれば、前記タンパク質は、活性Lタンパク質酵素及び活性Dタンパク質酵素からなる群から選択される。
本発明のいくつかの実施形態のある他の態様によれば、
所定の濃度以下のMg+2濃度を有する複数の積荷済みtRNA分子を提供すること;及び
積荷済みtRNA分子を、タンパク質をコードするmRNA分子と無細胞翻訳ミックス中で接触させ、それによりタンパク質を得ること
を含む、本開示で提供されるシステムを用いてタンパク質を製造する方法が提供される。
いくつかの実施形態によれば、前記方法で用いられるシステムは、アミノアシルtRNAシンテターゼを本質的に欠く。
いくつかの実施形態によれば、複数の積荷済みtRNA分子を提供することは、前記接触ステップの前に、Mg+2の濃度を調整(低下又は枯渇)することを含む。
いくつかの実施形態によれば、Mg+2の濃度を調整することは、例えば、クロマトグラフィー、アルコール沈殿及びペレット洗浄、限外濾過、並びに透析などの技術を用いることを含む。
いくつかの実施形態によれば、複数の積荷済みtRNA分子を提供することは、積荷済みtRNA分子の濃度を、aaRS酵素を含む他のタンパク質翻訳システムにおける積荷済みtRNA濃度の2倍を超える濃度に調整することをさらに含む。
いくつかの実施形態によれば、積荷済みtRNA分子の濃度は160μM超である。
本発明のいくつかの実施形態のある他の態様によれば、L-tRNAにD-アミノ酸を積み込みする方法が提供され、方法は、
D-ポリメラーゼを用いて前記L-tRNA分子を調製すること;
活性化D-アミノ酸を準備すること;
L-アミノアシル化リボザイムを準備すること;及び
前記L-tRNA、前記L-アミノアシル化リボザイム、及び前記活性化D-アミノ酸を接触させ、それによってD-アミノ酸積み込みL-tRNA分子を得ること、
によって実行される。
いくつかの実施形態によれば、前記L-アミノアシル化リボザイムはL-フレキシザイムである。
いくつかの態様によれば、前記方法は、D-アミノ酸積み込みL-tRNA分子の反応混合物のPAGE分析によって分析することができ、ここでPAGEゲルは、積荷済みtRNA種の明白なピーク及び未積荷tRNA種の明白なピークを特徴とする。
本発明のいくつかの実施形態のある他の態様によれば、L-リボヌクレオチド残基を含むL-フレキシザイムが提供される。
いくつかの実施形態では、前記L-フレキシザイムは、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上のL-リボヌクレオチド残基を含む。
いくつかの実施形態では、前記L-フレキシザイムは、L-リボヌクレオチド残基からなる。
いくつかの実施形態では、L-フレキシザイムは、5’-ggaucgaaagauuuccgcauccccgaaaggguacauggcguuaggu-3’(配列番号82)と80%以上の同一性を示す配列を有する。
本発明のいくつかの実施形態のある他の態様によれば、本開示で提供される方法によって調製されたタンパク質が提供される。
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、少なくとも1つの非標準(non-canonical)アミノ酸残基を含むタンパク質、少なくとも1つのD-アミノ酸残基を含むタンパク質、L-タンパク質、及びD-タンパク質からなる群から選択される。
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、ニワトリリゾチーム、Gaussiaルシフェラーゼ、及び大腸菌TrpRSからなる群から選択される。
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、テキスト情報及び/又は数値情報にデコードすることができる配列を有し、天然アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸を含む。
いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、mRNA#6によってコードされる。
本発明のいくつかの実施形態のある他の態様によれば、記載される方法によって得られるランダム化された、又は部分的にランダム化されたペプチドのライブラリが提供され、前記ペプチドの少なくともは、少なくとも1つの非天然アミノ酸を含む。
特に断りの無い限り、本開示において使用される全ての技術用語及び/又は科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解される意味と同じ意味を有する。本開示に記載の方法及び材料と類似又は等価な方法及び材料を本発明の実施形態の実施又は試験に用いることができるが、以下には例示的な方法及び/又は材料を記載する。矛盾する場合、特許明細書が、定義を含め、支配する。さらに、材料、方法、及び実施例は例示的であるにすぎず、必ずしも限定することを意図するものではない。
本発明のいくつかの実施形態は、単なる例として、添付の図面を参照して本開示に記載されている。ここで図面を具体的にまた詳細に参照するが、図示されている事項は例としてのものであり、本発明の実施形態の例示的な説明のためのものであることが強調されるべきである。これに関して、図面を用いてなされた説明は、本発明の実施形態がどのように実施され得るかを当業者に明らかにする。図面において、
図1は、本発明のいくつかの態様、特には、フレキシザイム積荷済みtRNAを用いたタンパク質のaaRSフリー翻訳(10)の概略図を示しており、ここでtRNA 11は、フレキシザイムシステム12によって積荷され、タンパク質酵素の翻訳のためのタンパク質構成アミノ酸を表す積荷済みtRNA 13の集団を生み出し、また、前記aaRSフリー翻訳は、積荷済みtRNAがHPLCによって精製されてMg2+14b混入を減らすステップ14aを含み、積荷済みtRNA 13がリボソーム17中でのmRNA 16のaaRSフリー翻訳のために濃縮されるステップ15を含み、翻訳されたポリペプチド18はaaRS 19bを含む活性タンパク質酵素19aへとフォールディングすることができ、これは、tRNAに積荷するのに用いることができ、それによってサイクルを完了させる。 図2は、HPLC精製前後でのtRNA積荷収率の酸性PAGE分析を提示する図であり、ここで「U」は未積荷tRNAを表し、「C」は粗積荷済みtRNAを表し、「P」は精製積荷済みtRNAを表すが、tRNA積荷収率は、総tRNAに対する積荷済みtRNAの積分ピーク面積を用いてソフトウェアパッケージIMAGEJによって決定した。 図3A~Eは、本発明のいくつかの実施形態による、鏡像tRNAへのaaRSフリー積荷へと向かう途上のフレキシザイムによるtRNAへの積荷の概念及び結果を提示する。これらの図面は、D-フレキシザイムによって触媒されるD-tRNA積荷、及びその鏡像バージョン、つまりL-フレキシザイムによって触媒される鏡像tRNA積荷(PDBソース:1EHZ(tRNA)、3CUL(フレキシザイム)(図3A)、酵素的に転写された鏡像tRNAAla上へのD-アラニンのL-フレキシザイムによる積荷(比較のために、天然キラリティ対応物と共に)(図3B)、酵素的に転写された鏡像tRNAGly上へのグリシンのL-フレキシザイムによる積荷(比較のために、天然キラリティ対応物と共に)(図3C)、酵素的に転写された鏡像tRNALys上へのD-リジンのL-フレキシザイムによる積荷(比較のために天然のキラリティ対応物と共に)(図3D)、酵素的に転写された鏡像tRNAPhe上へのD-フェニルアラニンのL-フレキシザイムによる積荷(比較のために天然のキラリティ対応物と共に)(図3E)を示し、ここで、tRNA積荷収率は、総tRNAに対する積荷済みtRNAの積分ピーク面積を用いてソフトウェアパッケージIMAGEJを用いて決定された。 同上。 同上。 同上。 同上。 図4A~Gは、本発明のいくつかの実施形態による、複数の短ペプチドのaaRSフリー翻訳の結果を示している。示されるのは、mRNA#1からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析(図4A)、トリシン-SDS-PAGEによって分析された短ペプチドのaaRSフリー翻訳収率、ここで、未積荷tRNA濃度は160~540μMの範囲としたが、フレキシザイム積荷済みtRNA濃度は70μMのままであり、この結果、積荷収率は44~13%の範囲であった(図4Bの上部)、総tRNA濃度を16~1003μMの範囲とし、積荷収率は56%のままであった(図4Bの下部)(エラーバーは3回の独立した実験からの標準偏差を表す)、mRNA#2(図4C)、mRNA#3(図4D)、mRNA#4(図4E)、mRNA#5(図4F)、mRNA#6(図4G)からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析。 同上。 同上。 同上。 同上。 同上。 同上。 図5A~Dは、種々の条件下でのmRNA#1のaaRSフリー翻訳の結果を示している。示されるのは、総tRNA濃度を20~644μMの範囲としたところ、積荷収率は44%のままであったこと(図5A)、総フレキシザイム濃度を240~525μMの範囲としたところ、総tRNA濃度は160μMのままであったこと(図5B)、フレキシザイム及び0~380μMの未積荷tRNAが、(図5Cでは)10mM MgCl2中で、及び(図5Dでは)100mM MgCl中で混合され、エタノール沈殿によって脱塩され、aaRSフリー翻訳ミックスに添加され、ここでフレキシザイム積荷済みtRNAの濃度は70μMのままであったことである(エラーバーは、3つの独立した実験からの標準偏差を表す)。 同上。 同上。 同上。 図6A~Eは、aaRSフリー翻訳収率を計算するためのトリシン-SDS-PAGEゲル分析を示しており、aaRSフリー翻訳収率を計算するための、(図6A~Eがそれぞれ)図4B、図5A、図5B、図5C、及び図5Dに対応するゲル画像を示し、「M」は、合成ペプチド標準である(Fph-K-Y-D-K-Y-D(配列番号125))。 同上。 同上。 同上。 同上。 図7A~Bは、LysRS、TyrRS、及びAspRSの存在下でのインビトロ翻訳実験の結果を示しており、LysRS、TyrRS、及びAspRSの存在下で22~680μMの範囲の未積荷、非修飾総tRNA濃度を用いた場合の翻訳産物並びに増強されたフレキシザイムによって事前に積荷されたFph-tRNAfMetのトリシン-SDS-PAGE分析(図7A)、並びに計算された翻訳収率(図7B)を示す(エラーバーは、3つの独立した実験からの標準偏差を表す)。 同上。 図8A~Bは、自らに対応する(cognate)タンパク質構成アミノ酸を有する21種のtRNAのフレキシザイム積荷収率を示しており、エタノール沈殿後に決定された積荷収率(図8A)、14種のフレキシザイム積荷済みtRNAのHPLC精製後に決定された積荷収率、ここでN/Aはフレキシザイム積荷済みtRNAの精製が行われなかったことを表す(図8B)、を示す。 同上。 図9は、aaRSフリー翻訳されたmRNA#6のMALDI-TOF MS分析を示しており、aaRSフリー翻訳システムにおいて総tRNA濃度が高くなると(520μM)、2,252.7Daの分子量を有する誤翻訳産物が観察されたが、正しく翻訳された産物は2,240.7Daの分子量を有したことを示す。ここで、a.u.は任意単位(arbitrary unit)を表し、C、Oはそれぞれ、計算されたm/z値及び観測されたm/z値を表す。 図10A~Cは、aaRSフリー翻訳されたタンパク質酵素、具体的にはニワトリリゾチーム(図10A)、Gaussiaルシフェラーゼ(図10B)、及び大腸菌TrpRS(図10C)のアミノ酸配列を示している。フレキシザイム積荷済みtRNAによって翻訳された位置は、エタノール沈殿又はHPLCのいずれかによって精製された(下線)。 同上。 同上。 図11A~Gは、aaRSフリー翻訳されたタンパク質酵素のSDS-PAGE分析を示しており、図12Aに示される全体のゲル画像(図11A)、15% SDS-PAGEで分析され、クマシーブリリアントブルーで染色された、ニワトリ卵白から精製された市販のニワトリリゾチームの400ng試料(図11B)、図12Cに示される全体のゲル画像(図11C)、15% SDS-PAGEで分析され、クマシーブリリアントブルーで染色された、大腸菌BL21株から発現及び精製された組換えGaussiaルシフェラーゼの400ng試料(図11D)、図14Aに示される全体のゲル画像(図11E)、15% SDS-PAGEで分析され、クマシーブリリアントブルーで染色された、大腸菌BL21株から発現及び精製された組換え大腸菌TrpRSの300ngの試料(図11F)、並びに、3分間98℃に加熱して又は加熱無しに15% SDS-PAGEによって分析され、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされた、5μMのFph-CME、1μMのFph-tRNAfMet、及び5μMのFph-tRNAfMet(図11G)を示し、ここで、Mはベンチマーク蛍光タンパク質標準である。 同上。 同上。 同上。 同上。 同上。 同上。 図12A~Dは、本発明のいくつかの実施形態による、タンパク質酵素のaaRSフリー翻訳の概念の実験的証明の結果を示しており、15% SDS-PAGEによって分析され、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされたN末端FAM標識ニワトリリゾチームのaaRSフリー翻訳(Mは、ベンチマーク蛍光タンパク質標準を表す)(図12A)、蛍光標識細菌(Micrococcus lysodeikticus)細胞壁材料を基質とした、粗aaRSフリー翻訳されたニワトリリゾチームの酵素アッセイ(図12B)、15% SDS-PAGEによって分析され、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされた、N末端FAM標識GaussiaルシフェラーゼのaaRSフリー翻訳(図12C)、並びに、セレンテラジンを基質とした、粗aaRSフリー翻訳されたGaussiaルシフェラーゼの酵素アッセイ(図12D)(RFUは相対蛍光単位を表し、RLUは相対発光単位を表す)、を示す。 同上 同上 同上 図13は、aaRSフリー翻訳されたGaussiaルシフェラーゼの収量推定値を示しており、ここで、0、25nM、50nM、100nM、及び250nMの組換えGaussiaルシフェラーゼ(正方形で示される)を用いて標準曲線がプロットされ、翻訳されたGaussiaルシフェラーゼの収量は約25nM(三角形で示される)であると推定された。 図14A~Cは、TrpRSのaaRSフリー翻訳を示しており、15% SDS-PAGEによって分析され、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされたN末端FAM標識大腸菌TrpRSのaaRSフリー翻訳(Mは、ベンチマーク蛍光タンパク質標準を表す)(図14A)、内部Cy5標識tRNATrpの配列及び二次構造(図14B)、並びに、TrpRSのaaRSフリー翻訳を示し、Cy5-tRNATrpを基質として用い、8%酸性PAGEによって分析され、Cy5モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされた粗aaRSフリー翻訳されたTrpRSの酵素アッセイ(図14C)を示す。 同上。 同上。 図15A~Bは、D-Dpo4-5m-Y12Sによる鏡像tRNALysの転写の結果を示しており、L-ssDNA鋳型上の5’-FAM標識L-ユニバーサルプライマーの伸長を示し、ここで重合は合成D-Dpo4-5m-Y12Sポリメラーゼによって行われ、反応アリコートは異なる時点で終結させられ、7M尿素での12%変性PAGEゲルによって分析され(図15A)、並びに、7M尿素での10%変性PAGEゲルによって分析され、SYBR-Green II(Thermo Fisher Scientific,MA,米国)によって染色されたtRNALys転写物の鏡像転写及びI媒介切断(図15B)を示す。 同上。 図16A~Bは、酵素的に転写された天然tRNA及び鏡像tRNAの生化学的特性決定の結果を示しており、酵素的に転写されたD-及びL-tRNAAlaのRNase A消化(図16A)、並びに、酵素的に転写されたD-及びL-tRNAAlaのAaRSに触媒されるアミノアシル化(図16B)を示す。 同上。 図17A~Cは、I媒介切断のMALDI-TOF MS分析を示しており、Iによってホスホロチオエート修飾部位で切断された合成DNA-RNAキメラオリゴ(図17A)、ネガティブリニアモード下での非切断オリゴのMALDI-TOF MSスペクトル(図17B)、及びネガティブリニアモード(m/z>4000)及びネガティブリフレクトロンモード(m/z<4000)下でのIで切断されたオリゴのMALDI-TOF MSスペクトル(図17C)を示し、大文字はDNAヌクレオチドを示し、小文字はRNAヌクレオチドを示し、「*」はホスホロチオエート修飾を示す。a.u.は、任意単位を表し、C、Oは、それぞれ計算m/z値及び観測m/z値を表す。 同上。 同上。 図18A~Bは、カチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いた完全又は部分的な非天然ペプチドの翻訳を示しており、インビトロ翻訳システムでカチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いたペプチド薬及び非天然タンパク質の翻訳(図18A)、並びに、インビトロ翻訳システムでカチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いた、完全又は部分的な非天然タンパク質の翻訳、データ記憶、及びリボソーム/mRNAディスプレイ(図18B)を示す。 同上。 図19A~Bは、鏡像酵素(D-Dpo4-5m-Y12S)によって酵素的に転写された完全に機能的なL-tRNA分子に事前に活性化されたアミノ酸を積み込みする概念の実験的証明の8%酸性PAGE写真及び分析を示しており、図19Aは酵素的に転写されたL-tRNAへの積み込みの結果を示し、図19Bは合成的に製造されたL-tRNAへの積み込みの結果を示す。 同上。 図20A~Cは、2つの連続したD-フェニルアラニンを含有する短ペプチドのインビトロ翻訳の結果を示しており、ここで図20Aは、mRNA#7からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析を示し、図20Bは、mRNA#8からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析を示し、図20Cは、未積荷tRNAPheのみ(mRNA#7)、20μMのLPhe-tRNAPhe(mRNA#7)、20μMのDPhe-tRNAGluE2CUA(mRNA#8)、又は200μMのDPhe-tRNAGluE2CUA(mRNA#8)を用いた場合のmRNA#7又はmRNA#8の翻訳産物の、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンしたトリシン-SDS-PAGE分析を示す。 同上。 同上。 図21A~Bは、3つの連続したD-フェニルアラニンを含有する短ペプチドのインビトロ翻訳の結果を示しており、ここで、図21Aは、mRNA#9からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析を示し、図21Bは、未積荷tRNAPheのみ、30μMのLPhe-tRNAPhe、30μMのDPhe-tRNAGluE2CUA、又は300μMのDPhe-tRNAGluE2CUAを用いた場合のmRNA#9の翻訳産物の、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンしたトリシン-SDS-PAGE分析を示す。 同上。 図22は、3つの連続したβ-Glnを含有する短ペプチドのインビトロ翻訳の結果を示しており、未積荷tRNAのみ、30μMのβGln-tRNAGluE2CUA、又は300μMのβGln-tRNAGluE2CUAを用いた場合のmRNA#10の翻訳産物の、Typhoon FLA 9500によってCy2モード下でスキャンしたトリシン-SDS-PAGE分析を示す。
本発明は、そのいくつかの実施形態においては、無細胞タンパク質翻訳システム、より具体的には、これらに限定されないが、アミノアシル-tRNAシンセターゼを含まない、タンパク質及びその鏡像体を合成する方法、並びにその使用に関する。
本発明の原理及び作用は、図面及び付随する説明を参照してよりよく理解され得る。
本発明の少なくとも1つの実施形態を詳細に説明する前に、本発明は、その適用において、以下の説明に記載されるか、又は実施例によって例示される詳細に必ずしも限定されないことを理解されたい。本発明は、他の実施形態が可能であり、又は様々なやり方で実施又は実行することができる。
上記で述べたように、フレキシザイムなどのtRNA-アミノアシル化リボザイムの発見にもかかわらず、aaRSの非存在下で高度に単純化された翻訳システムからタンパク質酵素を合成することは、実証されていないままである。aaRSフリー翻訳の収率が低い主な理由の1つは、aaRSによるtRNAアミノアシル化と比較して、フレキシザイムによるtRNAへの積荷には再利用がないことである。さらに、インビトロ転写された未改変tRNAをaaRSフリー積荷に用いることも、低い翻訳収率に寄与し得る。
本発明を考案しながら、本願発明者は、フレキシザイムのみによって積荷されたtRNAを用いて、20種全てのタンパク質構成アミノ酸を有するタンパク質酵素を翻訳することについてのaaRSフリーシステムの能力を試験することに着手した。予備試験の結果は、精製によってフレキシザイム積荷済みtRNAの濃度を増加させ、カチオンMg2+の濃度を減少させると、異なる機能の複数のタンパク質酵素、例えばリゾチーム、ルシフェラーゼ、さらにはaaRS自体さえも合成できることを示した。合成鏡像L-フレキシザイムによって鏡像L-tRNAに鏡像D-アミノ酸を積み込みすることも実証されており、それは、最終的に鏡像翻訳装置の実現を可能にする。
図1は、本発明のいくつかの態様、特には、フレキシザイムによる積荷済みのtRNAを用いたタンパク質のaaRSフリー翻訳、の概略図を示し(10)、tRNA 11は、フレキシザイムシステム12によって積荷され、タンパク質酵素の翻訳のためのタンパク質構成アミノ酸を表す積荷済みtRNA 13の集団を生み出し、また、前記aaRSフリー翻訳は、積荷済みtRNAがHPLCによって精製されてMg2+混入を減らすステップ14を含み、積荷済みtRNA 13がリボソーム17におけるmRNA 16のaaRSフリー翻訳のために濃縮されるステップ15を含み、翻訳されたポリペプチド18はaaRS 19bを含む活性タンパク質酵素19aにフォールディングすることができ、これはtRNAへの積み込みを行ってサイクルを完了するのに用いることができる。
リボザイム積荷済みtRNAのみのセット(exclusive set of ribozyme-charged tRNAs)を用いた、タンパク質酵素のaaRSフリー翻訳が本開示で実証される。ここに示されるのは、前進的でかつ信頼性の高いリボソーム翻訳には、aaRSに触媒されるtRNAへの積み込み(charging)もtRNA再利用も必要とされないという知見であり、このことから、短ペプチドよりも多くの構造モチーフ、したがってより多くの触媒機能を有するタンパク質酵素を、高度に単純化されたaaRSフリー翻訳システムから翻訳することできることが明らかになった。特に、現代の天然タンパク質の平均サイズは約270~470アミノ酸残基である。TrpRSほどに大きなタンパク質のaaRSフリー翻訳は、tRNA修飾酵素等の他の重要なタンパク質酵素を産生して、翻訳効率及び忠実度をさらに改善する可能性を示唆している。また、高濃度のリボザイム積荷済みtRNAがaaRSフリー翻訳の収率を大幅に改善するという発見も本開示に示され、このことは、豊富なリボザイム積荷済みtRNAのフィードストックが原始的な翻訳システムが効率的に作動するために重要であったであろう生物以前の地球上に、タンパク質酵素が出現するための可能な条件を解明する可能性がある。
現在のaaRSフリー翻訳システムの制約の1つは、tRNAが翻訳システムに添加される前に事前に積荷されるという点で、tRNAの積荷は翻訳とは切り離されなければならないことである。これは、フレキシザイムが様々なアミノ酸をtRNAに積み込みする非特異的触媒であるためである。高濃度のフレキシザイム積荷済みtRNAを使用し、精製によってMg2+混入を除去する方法論は、aaRSフリー翻訳の収率を大幅に改善したことが示されており、全てが又は一部が非天然であるアミノ酸群からペプチド又はタンパク質を製造するための、事前積荷済みtRNAを使用する他のインビトロ翻訳システム(aaRS有り又は無し)に適用することができ、合成生物学及び創薬の多くの分野における即時適用を可能にする。
タンパク質酵素のaaRSフリー翻訳の実現は、鏡像翻訳を実現するためのより実行可能なモデルとして、aaRSを有さない翻訳装置への道を確立する。なぜなら、全てのaaRSタンパク質は、総計で、リボソーム、翻訳因子、aaRS、及びtRNAを含む大腸菌翻訳装置の分子量(約4.9MDaの総分子量)の29%(約1.4MDa)に相当するためである。さらに、本開示で実証される小型の169アミノ酸残基 Gaussiaルシフィラーゼの翻訳は、鏡像翻訳を試験するための高感度でキラル特異的なアッセイを提供する。
aaRSフリー無細胞翻訳システム:
本開示中上記で論じられたように、無細胞タンパク質合成は、DNA鋳型からタンパク質を合成、モニタリング、分析及び精製するための容易かつ迅速な方法を提供すると同時に、とりわけ、非天然アミノ酸(UAA;非標準アミノ酸としても知られる)をリボソーム翻訳を介してタンパク質に部位特異的に取り込むことを可能にする、遺伝子暗号拡張法への道を開く。既知のシステムは、直交性tRNA及び直交性アミノアシルtRNAシンテターゼ(aaRS)を含む直交性翻訳システム(OTS)を無細胞反応混合物に外因性添加することに基づくが、本開示で提供されるタンパク質翻訳システムは、アミノアシルtRNAシンテターゼ(aaRS)の存在無しにタンパク質の効率的な製造を可能にすることによって、この概念をさらに拡張し、そして、aaRSフリー翻訳システムが本開示で提供される。
本開示の文脈においては、本開示で用いられる場合、「aaRSフリー」という用語は、アミノアシルtRNAシンテターゼ(aaRS)を本質的に欠く、転写鋳型(例えば、リボ核酸分子)からタンパク質を調製するためのリボソーム翻訳システム及び/又は方法及び/又はプラットフォームを指す。アミノアシルtRNAシンテターゼを本質的に欠いているとは、タンパク質製造におけるどのステップも、aaRSの使用又は存在を伴わないことを意味する。本発明のいくつかの実施形態によれば、aaRSフリー翻訳のシステム/方法/プラットフォームの定義の唯一の例外は、アミノアシルtRNAシンセターゼが前記システム/方法/プラットフォームによって製造されるタンパク質産物である実施形態である。tRNAシンセターゼ酵素も本質的に欠いているとは、システムがアミノ酸残基をtRNAに積み込みする手段を含まないこと、及び翻訳のいずれの段階でもaaRS酵素がシステムに導入されないこと、及びアミノ酸残基の全供給が事前に積荷されたtRNA分子に由来することを意味する。
したがって、本発明のいくつかの実施形態のある態様によれば、タンパク質を製造するためのシステムが提供され、該システムは:
タンパク質をコードするmRNA分子;
複数の積荷済みtRNA分子;及び
無細胞翻訳ミックス、
を含み、前記システムは、アミノアシルtRNAシンセターゼを本質的に欠いており、システムにおけるMg+2の濃度は100mM未満である。
本開示で用いられる場合「システム」という用語は、タンパク質合成などの複雑な化学反応を実施する助けとなり、必須である反応混合物(すなわち、溶媒、溶質、反応物、及び任意に存在する(optioinal)検出マーカー)及び反応条件(濃度、温度及び混合)を指す。
本発明のいくつかの実施形態の文脈において、「無細胞翻訳ミックス」という語句は、無傷/生存可能な細胞の使用を含まないインビトロタンパク質翻訳混合物を指し、無細胞インビトロタンパク質翻訳反応に不可欠なリボソーム及びリボソーム翻訳因子を含むが、これは、これらの用語が当技術分野で知られている通りである。本発明のいくつかの実施形態の文脈において、「aaRSフリー翻訳ミックス」という語句は、特に断りの無い限り、無細胞(インビトロ)翻訳ミックスがaaRSタンパク質を本質的に欠いていることを除いて、当技術分野で知られているとおりの無細胞翻訳ミックスを指す。
タンパク質翻訳システムは、システムによって製造される所望のタンパク質のアミノ酸配列をコードするメッセンジャーRNA分子を含む。あるいは、システムは、DNA鋳型をmRNA分子に転写する手段、すなわちDNA-RNA転写を達成するためのDNA鋳型及び転写因子(例えば、RNAヌクレオチド、RNAポリメラーゼ、及び一般的な転写因子)を含んでもよい。
タンパク質翻訳システムは、複数の積荷済みtRNA分子を含み、これらは、本開示では本発明のいくつかの実施形態の文脈において、事前積荷済みtRNA転写物とも呼ばれる。いくつかの実施形態では、tRNA分子は合成的に調製されたポリヌクレオチドであり、他の実施形態では、tRNA分子は酵素的に調製された転写物であり、これら2つのカテゴリー間の重要な違いを以下に説明する。
本発明のいくつかの実施形態によれば、この複数の積荷済みtRNA分子は、mRNAによってコードされ、またmRNA分子にコードされるとおりにタンパク質配列中に存在することになるアミノ酸残基が積み込みされているtRNA分子を少なくとも含む。複数の積荷済みtRNA分子はまた、以下の表A及びBに示されるような、D-アミノ酸の残基及び他の非標準アミノ酸残基等の非天然アミノ酸残基が積み込みされたtRNA分子を含む。好ましくは、個々の積荷済みtRNA分子のそれぞれの頻度及び量は、タンパク質の配列中の各アミノ酸の頻度と一致する。例えば、タンパク質配列中のセリン残基の頻度が8%であり、メチオニンの頻度が1%である場合、システム中の複数の積荷済みtRNA分子はその頻度を反映することとなり、tRNAMetよりも約8倍多いtRNASerを含む。いくつかの実施形態において、tRNA分子はL-ヌクレオチドから作製され、天然tRNA分子のtRNA分子鏡像を与える。いくつかの実施形態において、tRNA分子はL-ヌクレオチドからなり、さらに、D-アミノ酸の残基が積み込みされる。
本開示で用いられる場合、「残基」及び/又は「部分」という用語は、分子の一部、典型的にはその主要部分、又は特定の機能に関係する原子のグループを表す。例えば、「アミノ酸残基」という用語は、アミノ酸が結合している化合物の文脈におけるアミノ酸を指し、ペプチドは、互いに連結されたアミノ酸残基の鎖であり、リボ核酸残基が積み込みされたtRNA分子は、tRNA分子に結合したリボ核酸である。
表A~Bは、本発明のいくつかの実施形態の文脈において関連する、任意に存在する(optional)アミノ酸残基のいくつかを示す。これらは例であり、限定的なものと見るべきではない。

表A







カチオン枯渇システム:
本開示中上記で開示されたように、本発明の実施形態による、タンパク質を製造するための無細胞aaRSフリーシステムは、低カチオン濃度、より具体的には低マグネシウムイオン濃度で効果的である。マグネシウムは、市販の混合物を含め、ほとんどの無細胞タンパク質翻訳混合物中に比較的高濃度で存在する。マグネシウムは、ほとんどの積荷済みtRNA調製物、特にフレキシザイム積荷済みtRNA調製物にも存在する。以下の実施例のセクションに示されるように、本願発明者は、驚くべきことに、無細胞aaRSフリータンパク質翻訳システムにおいてマグネシウム濃度を実用的な最小値まで低下させることが、タンパク質製造の効率及び忠実度を大幅に改善することを見出した。したがって、本開示に開示されるシステムの改善された性能に到達するためには、既知のタンパク質翻訳システムにおける様々な成分から持ち越されるマグネシウムイオンの内在的な存在は、本願発明者によって意図的に低減されなければならなかった。
したがって、本発明のいくつかの実施形態によれば、タンパク質を製造するためのシステムは、これまでのいずれの既知の無細胞タンパク質翻訳システムと比較して低いMg+2濃度を特徴とする。より具体的には、本発明によるシステムにおけるマグネシウム濃度は、積荷済みtRNA調製物中のMg+2濃度よりも低い。絶対値では、システム中のMg+2の濃度は、100mM未満、90mM未満、80mM未満、70mM未満、60mM未満、50mM未満、40mM未満、30mM未満、20mM未満又は10mM未満である。
いくつかの実施形態では、システムにおけるマグネシウムイオンの濃度は、イオン枯渇法、例えば、限定されないが、クロマトグラフィー(HPLC)、アルコール中での沈殿及びペレット洗浄、限外濾過、並びに透析によって実際に得ることが可能な最小濃度である。
積荷済みtRNA濃度:
本開示のシステムのtRNA分子は、当技術分野で既知である任意の方法によって事前積荷されてよいが、いくつかの好ましい実施形態では、tRNAはフレキシザイムによって積荷される。システム中に存在する積荷済みtRNA分子の濃度もまた、既知の無細胞タンパク質翻訳システムにおけるそれらの濃度と比較しての改変の対象となる。
いくつかの実施形態によれば、積荷済みtRNAの濃度は、他の既知の無細胞タンパク質翻訳システムにおける当該濃度よりも少なくとも2倍高い。いくつかの実施形態によれば、積荷済みtRNAの濃度は、50μM超、60μM超、80μM超、90μM超、100μM超、110μM超、120μM超、130μM超、140μM超、150μM超、160μM超、170μM超、180μM超、190μM超、又は200μM超である。
反転キラリティ要素:
本開示で提供されるシステムにはaaRS酵素が必要ないため、該システムは、非天然/非標準アミノ酸残基、中でもD-アミノ酸残基を有するタンパク質の翻訳、に特に適している。前記システムは、mRNAの全てがD-アミノ酸である鎖への翻訳を含め、D-アミノ酸残基を任意のポリペプチド鎖に挿入するのに用いることができる。以下に実証されるように、前記システムを、完全な鏡像タンパク質を翻訳するために用いた。
本開示中後述に示されるように、L-リボ核酸残基を含むか、又はL-リボ核酸残基からなるtRNA分子(L-tRNA)を用いて前記システムを成功裏に用いることができた。したがって、本発明のいくつかの実施形態によれば、前記システムはL-tRNA分子を含む。限定されないが、L-tRNAは、D-Dpo4-5m-Y12SなどのD-ポリメラーゼを用いて調製される。しかしながら、L-tRNA分子を製造する他の方法も本発明の範囲内で想定される。
本発明のいくつかの実施形態では、前記システムは、D-タンパク質(鏡像タンパク質)を翻訳するために、L-フレキシザイムによってD-アミノ酸残基を事前に積み込みされたL-tRNA分子を含む。
L-アミノアシル化リボザイム:
本発明のいくつかの実施形態によれば、前記システムは、アミノアシル-tRNAシンセターゼ(aaRS)活性を有するリボザイム、すなわちアミノアシル化リボザイムによって事前に積荷されたL-tRNAを含む。いくつかの実施形態では、前記アミノアシル化リボザイムはフレキシザイムである。いくつかの好ましい実施形態において、前記L-tRNAは、完全に又は実質的にL-リボヌクレオチドから構成されたリボザイムであるL-フレキシザイムで積荷されている。
したがって、本発明のいくつかの実施形態のある態様によれば、L-リボヌクレオチドを含むポリリボ核酸分子(RNA)(対応する(comparable)天然RNA分子に対する鏡像)であって、活性化アミノ酸を用いることによってRNAをアミノアシル化する触媒活性(tRNA積荷活性)を有するポリリボ核酸分子(リボザイム)が提供される。すなわち、本開示では、L-フレキシザイムが提供される。
後述の実施例セクションにおいて実証されるように、L-tRNA分子へのD-アミノ酸残基の積み込みは、L-フレキシザイムを用いるとより効率的でより一貫性のあるものとなる。
本開示で提供されるL-フレキシザイムは、それらの鏡像体(D-aaRSリボザイム;D-フレキシザイム)と実質的に同じ配列を有するか、又は当技術分野で既知のD-フレキシザイムに対して80%以上の配列同一性を示す。例えば、いくつかの実施形態によれば、L-フレキシザイムは、5’-ggaucgaaagauuuccgcauccccgaaaggguacauggcguuaggu-3’(配列番号82)と80%以上の同一性を示す配列を有する。
L-フレキシザイムの態様から生じるのは、L-tRNA分子に事前に活性化されたD-アミノ酸残基を積み込みするためのL-フレキシザイムの使用である。したがって、本発明のいくつかの実施形態のある他の態様によれば、L-tRNAにD-アミノ酸を積み込みする方法が提供され、該方法は、
活性化D-アミノ酸を準備すること;
L-tRNA分子を準備すること;
L-フレキシザイムを準備すること;及び
前記L-tRNA、前記L-フレキシザイム、及び活性化D-アミノ酸を反応させ、それによってD-アミノ酸が積み込まれたL-tRNA分子を得ること、
によってなされる。
本発明のいくつかの実施形態によれば、L-tRNA分子は、合成装置の産物ではなく、D-ポリメラーゼを用いて調製される。後述の実施例セクションにおいて実証されるように、L-フレキシザイムとL-tRNAとの反応は、L-tRNAの供給源が合成的ではなく酵素的である場合に、aaRS活性(アミノ酸積み込み)反応の効率及び忠実度における顕著な改善を示した(以下の図3A~図3E及び図19A~図19Bに関する説明を参照されたい)。この利点は、D-アミノ酸積み込みL-tRNA分子の反応混合物のPAGE分析を用いることで示され、また特定することができ、そこでは積荷済みtRNA種の明確なピーク及び未積荷tRNA種の明確なピークが特徴的である。一方、機械で合成したL-tRNA分子を用いた反応では、反応混合物は連続的な大きなピークを示し、これは、出発物質として低品質のL-tRNAを使用することに起因する複数の中間体、ミスマッチ、及びその他の副反応を示すものである。
前記システムを使用する方法:
本開示で提供されるシステムの使用は、他の既知の無細胞タンパク質翻訳システムの使用とは異なり、また、これまでに知られているaaRSフリーのタンパク質翻訳システムとさえも異なるが、これは、少なくとも、事前積荷済みtRNA分子の濃度が既知のシステムで用いられる当該濃度よりも高く、Mg+2の濃度が既知のシステムで用いられるMg+2濃度よりも低いという意味でそうである。
したがって、本発明のいくつかの実施形態のある他の態様によれば、本開示で提供される無細胞aaRSフリータンパク質翻訳システムを用いてタンパク質を製造する方法が提供され、該方法は、
本開示上記で記載されたMg+2濃度以下のMg+2濃度(他の既知の無細胞タンパク質翻訳システムの濃度の半分未満、又は100mM未満)を有する複数の事前積荷されたtRNA分子を準備すること;及び
この複数の積荷済みtRNA分子を、所望のタンパク質をコードするmRNA分子と無細胞翻訳ミックス中で接触させ、それにより目的のタンパク質を得ること、
によってなされる。
いくつかの実施形態において、前記方法は、事前積荷されたtRNA調製物を無細胞翻訳ミックスと接触させる前に、Mg+2の濃度を所望の低濃度に調整することをさらに含む。巨大分子、特に感受性生体高分子、を含むシステムからのイオン、特にカチオン、の枯渇は、当技術分野における任意の既知の手順によって達成することができる。例えば、Mg+2濃度は、これらに限定されないが、クロマトグラフィー(例えば、HPLC)、アルコール沈殿及びそれに続く沈殿したペレットの洗浄、限外濾過、並びに透析によって低下させることができる。他の手順もまた、本発明の範囲内で想定される。
いくつかの実施形態において、前記方法は、事前積荷されたtRNA調製物を無細胞翻訳ミックスと接触させる前に、事前積荷済みtRNA分子の濃度を、この特徴が本開示上記で論じられたように、所望の高濃度に調整することをさらに含む。したがって、いくつかの実施形態において、方法は、積荷済みtRNA分子を、aaRSを含むシステムにおける当該濃度よりも少なくとも2倍高い濃度に濃縮することをさらに含む。いくつかの実施形態では、事前積荷済みtRNA分子の濃度は、160μM以上である。
以下の実施例セクションは、本開示に開示されるシステム、及び本開示に開示される無細胞かつaaRSフリーのタンパク質翻訳システムにおいて前記システムを用いてタンパク質を製造する方法の、いくつかの実施形態の詳細な提示を提供する。
開示されたシステム及び方法の産物:
以下に提示される概念の実験的証明によって実証されるように、本開示で提供されるシステム及び方法は、任意のインビトロ翻訳システム、細胞システム又は任意の天然システムで製造される比較対象の(comparable)タンパク質の構造及び機能を示すことを特徴とするタンパク質を製造するために用いることができる。本発明の規定によって製造されるタンパク質はまた、鏡像出発物質からの反応を触媒して鏡像産物を製造する完全に活性な酵素等の、キラリティ反転要素から製造された鏡像タンパク質とすることもできる。
したがって、本発明のいくつかの実施形態のある態様によれば、本開示で提供されるシステム及び/又は方法によって製造されるタンパク質が提供される。いくつかの実施形態では、前記タンパク質は、鏡像タンパク質(実質的にD-アミノ酸残基からなるD-タンパク質)である。
本開示で提供されるシステムの使用が実証された例示的なタンパク質としては、ニワトリリゾチーム、Gaussiaルシフェラーゼ、及び大腸菌TrpRSが挙げられる。
ライブラリ:
いくつかの実施形態によれば、本開示で提供されるシステム及び方法は、ランダム化又は部分的にランダム化されたペプチドのライブラリであって、ペプチドの少なくともが少なくとも1つの非天然アミノ酸を含むライブラリを作製するのに用いることができる。
本開示で提供されるaaRSフリーシステムの1つの利点は、このaaRSフリーシステムは効率的に作動するために21種のtRNAを必要とすることである。非天然アミノ酸を割り当てる(遺伝暗号リプログラミング)ために利用可能な他の天然tRNA転写物は、20超存在している。他のタンパク質翻訳システムでは、これらのtRNAは、aaRSがそれらに天然アミノ酸を積み込みんでしまうために、使用可能ではない。したがって、本発明は、誤って積荷されたtRNA分子の問題に陥ることなく、複数の非天然アミノ酸を含むランダム化されたペプチドを翻訳する手段を提供することができる。
本開示で提供されるタンパク質翻訳システムは、代償的変異を有する直交性リボソーム-tRNAペアに適用することができる[Terasaka,N.、Hayashi,G.、Katoh,T.及びSuga,H.「An orthogonal ribosome-tRNA pair via engineering of the peptidyl transferase center」Nat.Chem.Biol.,2014,10,555-557]。そのような直交性システムでは、直交性tRNAはフレキシザイムによって積荷され、いかなるaaRSタンパク質によっても積荷可能でなく、非効率性の問題を被るが、それは本発明の規定によって解決される。例えば、既知のaaRSフリーシステムは、ヘプタペプチド、例えば(Fph)-Lys-Tyr-Asp-Lys-Tyr-Asp(配列番号125)を翻訳するための収率が低く、収量は約0.15μMであり、プロセシビティが低い(7-アミノ酸残基)。本発明の実施形態によるシステムによって与えられる改善された条件下では、収量は、同じヘプタペプチドについて約2μMである。さらに、以前に実証されたものよりも48倍長い、334個までのアミノ酸残基の翻訳が、本発明の規定を用いて実証されている。したがって、本発明のいくつかの実施形態による、改善された無細胞/aaRSフリーシステムは、より良好な収率(より高濃度のペプチドプール)及びより長い産物(より高い配列多様性)のため、ペプチド薬発見により適合している。
非生物学的使用:
超高密度で高忠実度の情報記憶設備の探索において、本願発明者は、既知の手順を用いてコード及びデコードされ得るが、天然の生化学的要素によって分解され得ない配列を有するタンパク質性巨大分子の製造における、本開示に開示されるシステム及び方法の使用を企画した。タンパク質中に非天然アミノ酸残基を用いることによって、生分解からの保護が与えられる。
さらに、本発明の規定は、テキストにたとえた場合には本質的に文字改変要素(character-modifier)としての字(letter)である非天然アミノ酸を取り込むことによって、データ密度を最大化するのに用いることができる。
したがって、本発明のいくつかの実施形態では、本開示で提供されるシステムの使用の産物であるタンパク質は、テキスト情報及び/又は数値情報にデコードすることができ、少なくともいくつかの非天然アミノ酸残基を含むアミノ酸配列を有することを特徴とする。この概念の実現には、任意の配列のペプチドの翻訳が必要である。本願発明者は、これを20種のタンパク質構成アミノ酸を用いて図4C~図4Gに実証した。
この概念は、以下の実施例セクションに提示される実証的概念証明実験で実現され、そこでは、本願発明者は、短いメッセージ「MITRNACHARGINGSYSTEM」(配列番号123)をmRNA#6にコードし(図4Gを参照)、成功裏に情報保有ペプチド全長を翻訳した。
本開示で用いられる場合、「約」という用語は、±10%を指す。
用語「含む(comprise)」、「含む(comprising)」、「含む(include)」、「含む(including)」、「有する」及びそれらの活用形は、「~を含むが、それに限定はされない」ことを意味する。
用語「~からなる」は、「~を含み、それに限定される」を意味する。
「本質的に~からなる」という用語は、組成物、方法又は構造が追加の成分、ステップ及び/又は部分を含んでもよいが、ただし、含んでもよいのは当該追加の成分、ステップ及び/又は部分が特許請求される組成物、方法又は構造の基本的かつ新規な特徴を実質的に変化させない場合に限られることを意味する。
本開示で用いられる場合、特定の物質の文脈における「~を実質的に欠く」及び/又は「~を本質的に欠く」という語句は、前記物質を完全に欠くか、又は組成物の総重量若しくは総体積に対して約5%未満、約1%未満、約0.5%未満、若しくは約0.1%未満で前記物質を含む組成物を指す。あるいは、プロセス、方法、特性、又は特徴の文脈における「~を実質的に欠く」及び/又は「~を本質的に欠く」という語句は、特定のプロセス/方法ステップ若しくは特定の特性若しくは特定の特徴を完全に欠くプロセス、組成物、構造、若しくは物品、あるいは特定のプロセス/方法ステップが所与の標準的なプロセス/方法と比較して約5%未満、約1%未満、約0.5%未満、若しくは約0.1%未満で達成されるプロセス/方法、又は所与の標準と比較して約5%未満、約1%未満、約0.5%未満、若しくは約0.1%未満の特性若しくは特徴で特徴付けられる特性若しくは特徴を指す。
物体又は組成物の元来の特性又は所望の特性又は与えられた特性に適用される場合、本開示で用いられる「実質的に維持する」という用語は、処理された物体又は組成物において特性が20%を超えて、10%を超えて、又は5%を超えて変化していないことを意味する。
「例示的」という用語は、本開示では「例、事例、又は例示として働くこと」を意味するために用いられる。「例示的」と記載された任意の実施形態は、必ずしも他の実施形態よりも好ましい又は有利であると解釈されるべきではなく、かつ/又は他の実施形態からの特徴の取り込みを除外すると解釈されるべきではない。
「任意に(optionally)」又は「代替的に(alternatively)」という語は、本開示では「いくつかの実施形態では与えられ、他の実施形態では与えられない」ことを意味するために用いられる。本発明の任意の特定の実施形態は、複数の「任意に存在する(optional)」特徴を、そのような特徴が矛盾しない限り含むことができる。
本開示で用いられる場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈がそうでないことを明らかに指示していない限りは、複数の対象物をも含む。例えば、「化合物」又は「少なくとも1つの化合物」という用語は、複数の化合物を、それらの混合物を含め、包含する。
本出願を通して、本発明の様々な実施形態は、範囲の形式で提示され得る。範囲の形式での説明は、単に便宜及び簡潔さのためのものであり、本発明の範囲に対する柔軟性のない限定として解釈されるべきではないことを理解されたい。したがって、範囲の説明は、全ての可能な部分範囲及びその範囲内の個々の数値を具体的に開示したものと見なされるべきである。例えば、1~6などの範囲の説明は、1~3、1~4、1~5、2~4、2~6、3~6などの部分範囲、及びその範囲内の個々の数、例えば1、2、3、4、5、及び6を具体的に開示しているものと見なされるべきである。このことは、範囲の幅に関係なく当てはまる。
本開示において数値範囲が示されるときはいつでも、示された範囲内の任意の引用された数字(小数(fractional)又は整数)を含むことを意味する。第1の指示数と第2の指示数と「にわたる(ranging)/(range)」、及び第1の指示数「から」第2の指示数「までの範囲に及ぶ(ranging)/(range)」という語句は、本開示では互換的に用いられ、第1及び第2の指示数及びそれらの間の全ての小数(fractional numeral)及び整数を含むことを意味する。
本開示で用いられる場合、「プロセス」及び「方法」という用語は、化学、材料、機械、計算、及びデジタル技術の技術者(practitioners)に知られているか、又は既知の方法、手段、技術、及び手順から容易に開発されるやり方、手段、技術、及び手順を含むがこれらに限定されない、所与のタスクを達成するためのやり方、手段、技術、及び手順を指す。
本出願から得られる特許の存続期間中に、aaRSフリータンパク質翻訳システムについての多くの関連する方法が開発されることが予想され、「aaRSフリータンパク質翻訳システム」という語句の範囲は、そのような新しい技術全てを先験的に含むことが意図される。
明確性のために別個の実施形態の文脈で説明されている本発明の特定の特徴は、単一の実施形態に組み合わせで与えられてもよいことが理解される。逆に、簡潔性のために単一の実施形態の文脈で記載されている本発明の様々な特徴はまた、別個に、又は任意の適切なサブコンビネーションで、又は記載された他の任意の本発明の実施形態において適切となるように、与えられてもよい。様々な実施形態の文脈で説明される特定の特徴は、実施形態がそれらの要素なしでは作動不能でない限り、それらの実施形態の必須な特徴と見なされるべきではない。
上記で概説され、後述の特許請求の範囲のセクションで特許請求される本発明の様々な実施形態及び態様について、以下の実施例は実験的裏付けとなる。
ここで、以下の実施例を参照する。これらは、上記の説明と共に、本発明のいくつかの実施形態を非限定的に例示する、
実施例1
実験手順
材料:
フレキシザイムによる積荷のためのアミノ酸基質を3,5-ジニトロベンジルエステル(DBE)として調製したが、ただし、Asn及びフルオレセイン(FAM)標識Phe(Fph)は、それぞれ4-クロロベンジルチオエステル(CBT)及びシアノメチルエステル(CME)として合成された。アミノ酸DBEは、Nantong Pptide Biotech Ltd(Jiangsu、中国)に注文して入手するか、又は以前に報告された方法[Murakami,H.,Ohta,A.,Ashigai,H.,及びSuga,H.(2006).A highly flexible tRNA acylation method for non-natural polypeptide synthesis.Nat.Methods 3,357]に従って社内で合成した。全てのアミノ酸DBE基質を、H-NMR又は高分解能質量分析によって検証した。Fph-CMEを合成し、記載されるように高分解能質量分析によって検証した[Terasaka,N.,Hayashi,G.,Katoh,T.,及びSuga,H.(2014).An orthogonal ribosome-tRNA pair via engineering of the peptidyl transferase center.Nat.Chem.Biol.10,555-557]。
Asn-CBTを以下のように合成した:5mlのジクロロメタン中のBoc-Asn(Trt)-OH 0.5mmol、N,N-ビス(2-オキソ-3-オキサゾリジイル)ホスホロジアミドクロリド0.45mmol、トリエチルアミン1.5mmol及び4-クロロベンジルメルカプタン0.5mmolの混合物を室温で4時間撹拌した。溶液を0.5M HCl、0.5N NaOH及び塩水(brine)で洗浄した。有機層を無水NaSOで乾燥させ、回転蒸発によって濃縮した。Boc保護基及びトリチル保護基を除去するために、19:1(v/v)トリフルオロ酢酸(TFA)/ddHOを含有する2ml溶液を添加し、室温で4時間撹拌した。溶液を飽和NaHCOで中和し、ジクロロメタンで抽出し、回転蒸発によって濃縮した。粗生成物をメタノールに溶解し、0.1% TFA中30~80%のアセトニトリルの勾配を用いるC18 HPLCカラム(Inertsil ODS-3、5μm、10×150mm、ジーエルサイエンス、日本)によって精製した。生成物を含有する分画をプールし、凍結乾燥し、検証した:H NMR(400 MHz,DMSO-d)δ 8.40(s,3H),7.74(d,J=9.3Hz,1H),7.44-7.35(m,4H),7.33(d,J=9.5Hz,1H),4.54-4.46(m,1H),4.25(d,J=9.4Hz,2H),2.78(dh,J=14.3,7.5,6.4Hz,2H)。D-DNAオリゴをGenewiz(Jiangsu、中国)に注文して入手した。
RNAオリゴ及びDNA-RNAキメラオリゴをTsingke(Beijing、中国)から注文して入手した。L-デオキシヌクレオシド及びL-2’-t-ブチルジメチルシリル(TBDMS)ホスホラミダイト(Chemgenes、MA、米国)を用いて、H-8 DNA合成装置(K&A Laborgeraete、ドイツ)でL-DNAオリゴ及びL-フレキシザイムを合成した。ホスホロチオエート修飾は、Sulfur 42試薬(Sigma-Aldrich、MO、米国)を用いて導入した。合成したL-オリゴを、65℃で2時間、濃水酸化アンモニウムによってCPGから切断した。L-フレキシザイムの合成のために、2’-TBDMS保護基を、1:1(v/v)トリエチルアミントリヒドロフルオリド/DMSOを用いて65℃で2.5時間処理することによって除去した。
鏡像転写のためのL-NTPを、以前に報告された方法に従って、非保護L-ヌクレオシド(Chemgenes、MA、米国)から調製した[Caton-Williams,J.,Hoxhaj,R.,Fiaz,B.,and Huang,Z.(2013).Use of a 5’-regioselective phosphitylating reagent for one-pot synthesis of nucleoside 5’-triphosphates from unprotected nucleosides.Curr.Protoc.Nucleic Acid Chem.52,1.30.1-1.30.21]。L-DNAオリゴ及びL-NTPを、それぞれ変性PAGE及びHPLCによって精製した。L-フレキシザイムをエタノールによって沈殿させ、HPLCによって精製した。
AlaRS、AspRS、LysRS、TrpRS及びTyrRSの遺伝子を増幅し、大腸菌K12 MG1655ゲノムDNAからクローニングした。Gaussiaルシフェラーゼの遺伝子はGenewiz(Jiangsu、中国)によって合成された。組換えaaRSタンパク質、及びN末端TEV切断可能Hisタグを有するGaussiaルシフェラーゼを、文献に記載されているように大腸菌BL21株から発現させ、精製した[Shimizu,Y.,and Ueda,T.(2010).PURE technology.In Cell-Free Protein Production:Methods and Protocols,Y.Endo,K.Takai and T.Ueda,eds.(Totowa,NJ:Humana Press),pp.11-21]。精製後、HisタグをTEVプロテアーゼで切断した。
精製ニワトリ卵白リゾチームは、Sigma-Aldrich(MO、米国)から購入した。
インビトロ転写:
インビトロ転写のための二本鎖DNA(dsDNA)鋳型は、部分的に重複した2つのプライマー(1F及び2R)(反応液100μlあたり、フォワードプライマー1Fを2μM、リバースプライマー2Rを3μM、dNTPをそれぞれ0.2mM、及びEasyTaq(TransGen Biotech、Beijing、中国)を5U)を5サイクルPCRで交差伸長することによって、又は4つのプライマー(1F,2R,3F及び4R)(反応液100μlあたり、プライマー1F及び4Rをそれぞれ2μM、プライマー2R及び3Fをそれぞれ0.05μM、dNTPをそれぞれ0.2mM、及びEasyTaqを5U)を用いた25サイクルアセンブリPCRによって調製した。
PCR産物をフェノール-クロロホルムによって精製し、続いて限外濾過した。グアノシン以外の5’ヌクレオチドで始まるtRNA配列では、自己切断ハンマーヘッドモチーフがtRNA配列の上流に配置される[Cui,Z.,Stein,V.,Tnimov,Z.,Mureev,S.,and Alexandrov,K.(2015).Semisynthetic tRNA complement mediates in vitro protein synthesis.J.Am.Chem.Soc.137,4404-4413]。インビトロ転写用のdsDNA鋳型を構築するための全てのプライマーDNAオリゴ配列を以下の表1に列挙する。













1mlの転写反応システムは、20μgの精製dsDNA鋳型、それぞれ2mMのNTP、0.1mg/mlのT7 RNAポリメラーゼ、400UのRiboLock RNase阻害剤(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)を、25mMのMgCl、40mMのTris-HCl pH 8.0、2mMのDTT、及び1mMのスペルミジンを含有する1×転写緩衝液中に含有していた。転写反応産物を37℃で2時間インキュベートし、10μlのDNase I(New England Biolabs、MA、米国)で処理し、さらに0.5時間インキュベートした後、60μlの0.5M EDTAの添加によって反応停止(quench)させ、続いてエタノール沈殿させた。転写されたRNAを、「破砕及び浸漬」法を用いてゲル精製し、脱塩し、限外濾過によって濃縮した。この方法を用いて、5’-三リン酸(Gで始まるtRNA配列)及び5’-ヒドロキシル末端tRNA(A/U/Cで始まるtRNA配列)の両方を調製し、これらは、tRNAHisを例外として、生理学的5’-一リン酸末端tRNAと機能的に等価であることが先に示されている[Cui,Z.,Stein,V.,Tnimov,Z.,Mureev,S.,and Alexandrov,K.(2015).Semisynthetic tRNA complement mediates in vitro protein synthesis.J.Am.Chem.Soc.137,4404-4413]。したがって、2つのバージョンのtRNAHisを調製した:5’-三リン酸末端tRNAHisを全てのフレキシザイムによる積荷アッセイで用いた;位置-1に追加のGを有する5’-一リン酸末端tRNAHisを、以前に報告された方法によって調製し、aaRS活性を必要とする対照に用いた。
フレキシザイム触媒tRNA-アミノアシル化:
フレキシザイムに触媒されるtRNA積荷を行うための手順は、以前に報告された方法から適応させた[Goto,Y.,Katoh,T.,and Suga,H.(2011).Flexizymes for genetic code reprogramming.Nat.Protoc.6,779-790]:20μMのtRNAを、50mMのHEPES-KOH及び100mMのKClを含有するpH 7.5の1×フォールディング緩衝液の存在下、30μMのジニトロフレキシザイムと混合した。混合物を95℃で2分間加熱し、25℃に10分間冷却し、続いて100mMのMgClを添加した。混合物を室温で10分間及び冷蔵した金属ブロック上で3分間インキュベートした。5mM DBE基質を冷金属ブロック上のシステムに添加して、積荷反応を開始した。反応産物を4℃で6時間インキュベートし、2×体積の0.6M NaOAc(pH 5.2)で反応停止(quench)させ、エタノールによって沈殿させた。以下のアミノ酸については、一般手順に対して調整を加えた:Ile-DBE及びVal-DBEについては、リフォールディング緩衝液をpH 9.0の50mM ビシン-KOHに変更した;Met-DBE及びCys-DBEについては、基質に5mMのDTTを補充した;Pro-DBEについては、基質濃度を5mMから40mMに増加させた;Fph-CMEについては、30μMの増強フレキシザイムを用い、Fph-CME基質濃度を5mMから1mMに減少させ、MgCl濃度を100mMから400mMに増加させた;Asn-CBTについては、基質濃度を5mMから25mMに増加させた;Trp-DBEについては、20% DMSOをさらに添加した。積荷収率を酸性PAGE分析によって決定した:沈殿した積荷反応産物を、93%ホルムアミド、pH 5.2の100mM NaOAc、10mM EDTA、及び微量のブロモフェノールブルーを含むローディング緩衝液に溶解させた。酸性ゲルは、8%アクリルアミド、pH 5.2の100mM NaOAc、及び7M尿素によって調製した。pH5.2の泳動バッファーとして100mM NaOAcを用いて、アルミニウム冷却プレートを備えた4℃の冷蔵庫内で16時間ゲルを泳動させた。ゲルをSYBR-Green II(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)で染色し、Cy2モード下で作動させたTyphoon FLA 9500でスキャンし、ソフトウェアパッケージImageJで分析した[Schneider,C.A.;Rasband,W.S.&Eliceiri,K.W.(2012),「NIH Image to ImageJ:25 years of image analysis」、Nature methods 9(7):671-675,PMID 22930834]。tRNAAspを除き、積荷済みtRNAの収率を計算するために、ピーク面積を積分した。Asp-tRNAAspの収率を推定するためにピーク高を用いた。Asp-tRNAAspは、未積荷tRNAAspに非常に接近して移動し(図2を参照)、Asp-tRNAAsp積荷収率の推定値(約50%)は、以前に報告された結果と一致した[Murakami,H.,Ohta,A.,Ashigai,H.,and Suga,H.(2006).A highly flexible tRNA acylation method for non-natural polypeptide synthesis.Nat.Methods 3,357]。
図2は、HPLC精製前後のtRNA積荷収率の酸性PAGE分析を示す。図中で、「U」は未積荷tRNAを表し、「C」は粗積荷済みtRNAを表し、「P」は精製積荷済みtRNAを表す。tRNA積荷収率は、総tRNAに対する積荷済みtRNAの積分ピーク面積を用いてソフトウェアパッケージImageJによって決定した。
複数の短ペプチドのaaRSフリー翻訳:
表2に列挙したプライマーを用いる25サイクルアセンブリPCRによって、aaRSフリーペプチド翻訳のためのdsDNA鋳型を調製した。


全てのDNA鋳型を10%変性PAGEによって精製した。mRNA#1を翻訳するために、各コドンが、1.25~80μMの範囲の対応する(cognate)フレキシザイム積荷済みtRNAによってデコードされるように、反応混合物を調整した。前記tRNA濃度は、16~1000μMの総tRNAに対応する。フレキシザイム積荷済みtRNAのHPLC精製を、参考文献に記載されるように行った[Zhang,J.,and Ferre-D’Amare,Adrian R.(2014).Direct evaluation of tRNA aminoacylation status by the T-Box riboswitch using tRNA-mRNA stacking and steric readout.Mol.Cell 55,148-155]。積荷済みtRNAを保存し、酸性PAGE分析によって判定すると、-80℃で3日間まで、乾燥ペレットとして安定なままであった。積荷済みtRNAペレットを0.5×翻訳体積のpH5.2の1mM NaOAcに溶解させた。連続希釈を実施して、表3に示される濃度の2倍濃縮のtRNAを作製した。表3は、aaRSフリー翻訳に用いられた総tRNA濃度を示す。

37℃で5分間プレインキュベートした等量の2×aaRSフリー翻訳ミックスをtRNAと混合して、翻訳反応を開始した。全ての翻訳反応は、37℃で2時間インキュベートした。Fph標識ペプチドの翻訳収率を決定するための17%又は20%トリシン-SDS-PAGEによる分析の前に、反応混合物を-20℃に置くことによって翻訳を終了した。Genscript(Jiangsu、中国)によってカスタム合成された0.125~4μMのペプチド標準(Fph-K-Y-D-K-Y-D(配列番号125))も、較正のためにロードした。未積荷tRNAの滴定は、tRNAfMet:tRNALys:tRNATyr:tRNAAsp=1:2.5:2.5:2.5のモル比で行い、フレキシザイム積荷済みtRNAと混合し、室温で短時間インキュベートした後、aaRSフリー翻訳システムに添加した。未積荷tRNAの最終濃度は、90~470μMであった。等体積の2×aaRSフリーミックスと混合して翻訳反応を開始する前に、フレキシザイム滴定を、ジニトロ-フレキシザイムを1mMのNaOAc中でフレキシザイム積荷済みtRNAと混合することによって行った。フレキシザイムの最終濃度は、240~520μMであった。フォールディングされたフレキシザイム及びtRNA複合体の滴定は、50μMのジニトロ-フレキシザイム、6μMのtRNAfMet、それぞれ15μMのtRNALys、tRNATyr、及びtRNAAspを含有するシステムにおいて実行し、pH7.5の50mM HEPES-KOH及び100mM KClの存在下で2分間95℃に加熱した。ミックスを25℃にゆっくり冷却した後、100mM MgCl又は10mM MgClのいずれかを添加し、室温で10分間インキュベートした。次いで、ミックスをエタノールで沈殿させ、70%エタノールで2回洗浄し、風乾した。ペレットを少量のddHOに溶解し、それぞれ750、375及び188μMであるフレキシザイム-tRNA複合体の×2濃度に達するように段階希釈した後、ddHOのみを含有する対照と共に、等量のaaRSフリー翻訳システムに添加した。
MALDI-TOF MS:
MALDI-TOF MSを用いて、mRNA#2~#6のaaRSフリー翻訳を分析した。ペプチドの脱落を減少させるために、各積荷反応のスケールを各遺伝子におけるコドン存在量に従って調整し、各コドンが等しい濃度のフレキシザイム積荷済みtRNAとマッチするようにした(mRNA#2~#5についてはコドンあたり10μM、mRNA#6については5μM)。未積荷tRNAを含む対照は、(それぞれ)30μMのtRNAAsn、tRNAGlu、tRNALys、tRNAIle、及び(それぞれ)5μMのその他tRNA、並びに100μMの各アミノ酸を含有した。積荷反応を反応停止(quench)させ、沈殿させ、70%エタノールで1回洗浄した。種々のフレキシザイム積荷済みtRNAの洗浄済みペレットを0.3M NaOAcに溶解し、混合し、エタノールによって再度沈殿させ、-80℃で保存し、使用前に70%エタノールで1回洗浄した。AaRSフリー翻訳は、フレキシザイム積荷済みtRNAを等量の2×aaRSフリー翻訳ミックスと混合することによって行った。37℃で2時間翻訳した後、TFAを翻訳システムに添加してpHを4未満に低下させ、試料を短時間遠心分離し、上清をC18スピンカラム(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)で脱塩した。溶出後、試料体積を遠心真空濃縮器(Eppendorf、ドイツ)によって約2~3μlに減少させ、そのうち0.5μlをポジティブリフレクトロンモード下でのMALDI-TOF分析(Applied Biosystems 4800 plus MALDI TOF/TOF analyzer,CA,米国)に用いた。未積荷tRNA及び遊離アミノ酸(各アミノ酸種について100μM)を用いた対照実験を実施し、脱塩し、並行してMALDI-TOF MSによって分析した。対照実験で用いた未積荷tRNAの濃度は、tRNAAsn、tRNAGlu、tRNALys、tRNAIleについては(それぞれ)30μMであり、その他のtRNAについては(それぞれ)5μMであった。
LC-MS/MSによるタンパク質同定:
体積20μlの粗aaRSフリー翻訳されたN末端FAM標識大腸菌TrpRSを15% SDS-PAGEによって分離し、ProteoSilver銀染色キット(Sigma-Aldrich、MO、米国)によって銀染色した。EF-Tu(43kDa)とMTF(34kDa)との間のタンパク質バンドをゲルから切り出し、5mMのジチオトレイトールによって還元し、11mMのヨードアセトアミドによってアルキル化した。ゲル内消化を、50mM重炭酸アンモニウム中でシークエンシンググレードのトリプシンを用いて37℃で一晩行った。ペプチドを50%アセトニトリル水溶液中の0.1% TFAを30分間用いて、2回抽出した。次いで、抽出物を遠心真空濃縮器によって濃縮した。トリプシン消化で生じたペプチドを20μlの0.1% TFAに溶解し、LC-MS/MSによって分析した。上記の濃度を用いた未積荷tRNA及び遊離アミノ酸による対照実験を並行して実施し、分析した。
鏡像tRNAの酵素的転写:
鏡像転写のためのD-ポリメラーゼD-Dpo4-5m-Y12Sの合成及びフォールディングは、以前に報告された[Jiang,W.,Zhang,B.,Fan,C.,Wang,M.,Wang,J.,Deng,Q.,Liu,X.,Chen,J.,Zheng,J.,Liu,L.,et al.(2017).Mirror-image polymerase chain reaction.Cell Discov.3,17037;Xu,W.,Jiang,W.,Wang,J.,Yu,L.,Chen,J.,Liu,X.,Liu,L.,and Zhu,T.F.(2017).Total chemical synthesis of a thermostable enzyme capable of polymerase chain reaction.Cell Discov.3,17008;Wang,M.,Jiang,W.,Liu,X.,Wang,J.,Zhang,B.,Fan,C.,Liu,L.,Pena-Alcantara,G.,Ling,J.-J.,Chen,J.,et al.(2019).Mirror-image gene transcription and reverse transcription.Chem 5,848-857]。全てのL-DNAプライマー、鋳型配列及びL-核酸オリゴ配列を表4に列挙する。表中、「*」はホスホロチオエート修飾を示し、大文字はL-DNAヌクレオチドを示し、小文字はL-RNAヌクレオチドを示す。

鏡像一本鎖DNA(L-ssDNA)鋳型の3’末端につながれた(tethered)24ntプライマー結合部位を用いて鏡像転写を行って、異なる産物長によってPAGEによるRNA精製を容易にした(それにより、L-RNA転写物が99ヌクレオチドのL-ssDNA鋳型よりも23ヌクレオチド短くなり、これらは7M尿素での12%変性PAGEで分離され得る)。L-プライマーは、ホスホロチオエート修飾L-RNAヌクレオチドを3’末端に含むように設計された。鏡像tRNAAla、tRNAGly、tRNALys及びtRNAPheの酵素的転写を行った。鏡像転写後、L-プライマーは、70℃のエタノール中10分間、ホスホロチオエート部位で100μMのIによって効率的に切断され、成熟した鏡像tRNA転写物を生じた。RNase A消化のために、0.4μMのD-又はL-tRNAAlaを4μMのRNase Aと混合し、37℃で15分間インキュベートし、7M尿素での10%変性PAGEによって分析した。aaRS触媒アミノアシル化のために、5μMのD-又はL-tRNAAlaを、10mM ATP及び100μMのL-又はD-アラニンの存在下で1μMのAlaRSと混合し、37℃で1時間インキュベートし、8%酸性PAGEによって分析した。
鏡像tRNA積荷:
鏡像tRNA積荷を、L-tRNA濃度及びL-フレキシザイム濃度をそれぞれ2μM及び10μMにスケールダウンしたことを除いて、上記と同じアミノアシル化法を用いて行った。鏡像tRNAを合成D-Dpo4-5m-Y12Sポリメラーゼによって転写し、天然tRNAを、Dpo4の組換えY12S変異体(L-Dpo4-5m-Y12S)(配列番号126)(tRNAAla、tRNAGly及びtRNALys)又はT7 RNAポリメラーゼ(tRNAPhe)のいずれかによって合成した。tRNA積荷収率は、総tRNAに対する積荷済みtRNAの積分ピーク面積を用いて、ソフトウェアパッケージImageJによって決定した。
実施例2
フレキシザイム触媒tRNAアミノアシル化:
21種のtRNAに、46ヌクレオチドのジニトロ-フレキシザイム又は45ヌクレオチドの増強フレキシザイムによって対応する(cognate)アミノ酸を個別に積み込みした。積荷反応を0.3M NaOAcで反応停止(quench)させ、沈殿させた。ペレットを、適切となるように、70%エタノール洗浄又はShimadzu Prominence HPLCシステム(日本)のいずれかによって精製した(図8A及び図8Bを参照)。
図3A~図3Eは、本発明のいくつかの実施形態による、鏡像tRNAへのaaRSフリー積荷への途上となる、フレキシザイムによるtRNAへの積荷の概念及び結果を示しており、D-フレキシザイムによって触媒されるD-tRNA積荷、及びその鏡像バージョン、つまりL-フレキシザイムによって触媒される鏡像tRNA積荷(PDBソース:1EHZ(tRNA)、3CUL(フレキシザイム))(図3A)、酵素的に転写された鏡像tRNAAla上へのL-フレキシザイムによるD-アラニンの積み込み、天然キラリティ対応物も比較のために示される(図3B)、酵素的に転写された鏡像tRNAGly上へのL-フレキシザイムによるグリシンの積み込み、天然キラリティ対応物も比較のために示される(図3C)、酵素的に転写された鏡像tRNALys上へのL-フレキシザイムによるD-リジンの積み込み、天然キラリティ対応物も比較のために示される(図3D)、酵素的に転写された鏡像tRNAPhe上へのL-フレキシザイムによるD-フェニルアラニンの積み込み、天然キラリティ対応物も比較のために示される(図3E)、を示す。tRNA積荷収率は、総tRNAに対する積荷済みtRNAの積分ピーク面積を用いてソフトウェアパッケージImageJを用いて決定された。
Symmetry Shield RP18カラム(3.5μm、4.6×150mm及び3.5μm、4.6×100mm)(Waters Corp、MA、米国)をHPLC精製に使用し、溶出条件は文献から採用した[Zhang,J.,and Ferre(アクサンテギュ)-D’Amare(アクサンテギュ),Adrian R.(2014).Direct evaluation of tRNA aminoacylation status by the T-Box riboswitch using tRNA-mRNA stacking and steric readout.Mol.Cell 55,148-155]。フレキシザイム積荷済みtRNAを含む画分を沈殿させ、pH5.2の10mM NaOAcに溶解し、濃度をNanodrop分光光度計(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)によって測定した。次いで、所望の量のtRNAを混合し、エタノールによって再び沈殿させた。ペレットを風乾し、使用まで-80℃で保存した。
実施例3
無細胞インビトロ翻訳
無細胞インビトロ翻訳ミックスを、以下の改変と共に、以前に報告された方法[Terasaka,N.,Hayashi,G.,Katoh,T.,and Suga,H.(2014).An orthogonal ribosome-tRNA pair via engineering of the peptidyl transferase center.Nat.Chem.Biol.10,555-557]に従って調製した:組換えIF1タンパク質、IF2タンパク質、IF3タンパク質、EF-Tsタンパク質、EF-Tuタンパク質、EF-Gタンパク質、RF-2タンパク質、RF-3タンパク質、RRFタンパク質、及びMTFタンパク質を、N末端TEV切断可能Hisタグと共に、大腸菌BL21株で発現させ、Ni-NTA Superflow樹脂(Senhui Microsphere Tech.、Suzhou、中国)によって精製し、TEVプロテアーゼ(Sigma-Aldrich、MO、米国)によって切断し、イオン交換クロマトグラフィーによってさらに精製し、pH7.6の50mM HEPES、100mMグルタミン酸カリウム、10mM酢酸マグネシウム、7mMβ-メルカプトエタノール及び30%グリセロールを含む緩衝液中へと交換した。緩衝液成分及び小分子成分は、文献に記載されているように調製した[Goto,Y.,Katoh,T.,and Suga,H.(2011).Flexizymes for genetic code reprogramming.Nat.Protoc.6,779-790]。aaRSフリー大腸菌リボソームは、New England Biolabs(MA、米国)から購入した。
実施例4
タンパク質酵素のaaRSフリー翻訳
ニワトリリゾチーム、Gaussiaルシフェラーゼ、及び大腸菌TrpRSのための20コドンDNA鋳型を、Genewiz(Jiangsu、中国)によって合成及びアセンブルし、pUC-57ベクターにクローニングした。表5は、ニワトリリゾチーム、Gaussiaルシフェラーゼ、及び大腸菌TrpRSのaaRSフリー翻訳のためのDNA鋳型配列を示している。

DNAプラスミドを二重消化し、使用前に1%アガロースゲルによって精製した。-80℃から回収したら、乾燥させたフレキシザイム積荷済みtRNAペレットを70%エタノールで2回洗浄し、pH5.2の10~20μlの1mM NaOAcに溶解させた。次いで、溶解させたtRNAミックスを、37℃で5分間プレインキュベートしたaaRSフリー翻訳ミックスに添加し、ここで最終DNA鋳型濃度は約10ng/μlであった。リゾチーム及びルシフェラーゼの翻訳のためには、翻訳される各コドンについて約1μMのフレキシザイム積荷済みtRNAを用いた。TrpRSの翻訳のためには、約1μMのフレキシザイム積荷済みFAM標識Fph-tRNAfMet、Cys及びPro各コドンについて約0.4μMのフレキシザイム積荷済みtRNA、及び残りの各コドンについて約0.2μMのフレキシザイム積荷済みtRNAを用いた(総tRNA濃度は上記の表3に示される)。DNA鋳型を用いない対照実験は、同一のフレキシザイム積荷済みtRNA濃度を用いて行ったが、未積荷tRNAを用いた対照実験は、tRNAAsn、tRNAGlu、tRNALys、tRNAIleについては(それぞれ)30μM、他のtRNAについては(それぞれ)5μM、及び遊離アミノ酸については(それぞれ)100μMを用いた。翻訳反応は37℃で、リゾチーム及びルシフェラーゼについては2時間、TrpRSについては4時間インキュベートした。15% SDS-PAGEによる分析のために、翻訳反応産物から10μlのアリコートを試料採取し、2μlの6×タンパク質ローディング色素と混合し、ローディングのために98℃で3分間加熱した。Alexa Fluor 488標識Benchmark蛍光タンパク質標準は、Thermo Fisher Scientific(MA、米国)から購入した。ゲルを、Cy2モードで作動させたTyphoon FLA 9500(GE Healthcare、英国)によってスキャンした。
実施例5
aaRSフリー翻訳されたタンパク質酵素の生化学的特性決定
ニワトリリゾチーム、Gaussiaルシフェラーゼ、及び大腸菌TrpRSのaaRSフリー翻訳を、Met-tRNAfMetを用いて行った。ニワトリリゾチームの翻訳ミックスは、0.1Mリン酸ナトリウム及び0.1M NaClを含有する、等体積の2×フォールディング緩衝液(pH7.5)で希釈し、室温で24時間インキュベートし、EnzChek Lysozyme Assay Kit(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)によってアッセイした。Gaussiaルシフェラーゼ用の翻訳ミックスは、組換えGaussiaルシフェラーゼにおけるジスルフィド結合の形成を促進することが先に示されている[Yu,T.,Laird,J.R.,Prescher,J.A.,and Thorpe,C.(2018).Gaussia princeps luciferase:a bioluminescent substrate for oxidative protein folding.Protein Science 27,1509-1517]、6mMの還元型グルタチオン及び4mMの酸化型グルタチオンを含有する等体積の2×フォールディング緩衝液(pH7.3)で希釈し、室温で16時間インキュベートし、製造者の説明書に従って、Pierce Gaussia Luciferase Glow Assay Kit(Thermo Fisher Scientific、MA、米国)によってアッセイした。大腸菌TrpRSの翻訳のために、Cy5-tRNATrpを2つの合成オリゴの酵素的ライゲーションによって調製し、文献に記載されているように10%変性PAGEによって精製した[Suddala,K.C.,Cabello-Villegas,J.,Michnicka,M.,Marshall,C.,Nikonowicz,E.P.,and Walter,N.G.(2018).Hierarchical mechanism of amino acid sensing by the T-box riboswitch.Nat.Commun.9,1896]。表6は、内部Cy5標識されたtRNATrpの酵素的ライゲーションのためのRNAオリゴ配列を示す。
2μMのCy5-tRNATrp、250μMのトリプトファン、及び1mMのATPの混合物を翻訳完了後に反応混合物に添加し、37℃で1時間インキュベートし、0.3MのNaOAcで反応停止(quench)させ、フェノール-クロロホルムで抽出した。積荷された試料を8%酸性PAGEによって分析し(補足情報)、Cy5モードで作動させたTyphoon FLA 9500によってスキャンした。2μMの未積荷Cy5-tRNATrp、及び100nMの組換え大腸菌TrpRSによって積荷された2μMのCy5-tRNATrpの試料を標準として用いた。DNA鋳型を欠く、又は未積荷tRNA及び遊離アミノ酸を用いた、全ての対照実験を、同一の条件下でアッセイした。
実施例6
aaRSフリー翻訳の収率の最大化
文献[Terasaka,N.,Hayashi,G.,Katoh,T.,and Suga,H.(2014).An orthogonal ribosome-tRNA pair via engineering of the peptidyl transferase center.Nat.Chem.Biol.10,555-557]に報告されている明らかな低収率の問題に対処するために、aaRSフリー翻訳システムを研究した。理論的根拠は、フレキシザイム積荷済みtRNAの濃度を増加させてtRNAの再利用の欠乏を補うことによって、aaRSフリー翻訳の収率が改善されるのではないかということであった。先の研究は、aaRSを用いる大腸菌(E.coli)翻訳システムにおいて、過剰なtRNAの添加は翻訳を阻害することを示した[Rojiani,M.V.,Jakubowski,H.,and Goldman,E.(1990).Relationship between protein synthesis and concentrations of charged and uncharged tRNATrp in Escherichia coli.Proc.Natl Acad.Sci.USA 87,1511;Anderson,W.F.(1969).The effect of tRNA concentration on the rate of protein synthesis.Proc.Natl Acad.Sci.USA 62,566]。このことは、未積荷tRNAがリボソームA部位を占めることによって積荷済みtRNAに打ち勝つこと、または、多量のtRNAの添加に起因するカチオン不均衡によるものとされた。しかし、これらの実験は全てaaRSの存在下で行われたため、正確な積荷収率は決定されず、非効率的な積荷及び変化したカチオン(例えば、Mg2+)濃度の影響を識別することは困難であった。
tRNA濃度及び積荷収率がaaRSフリー翻訳に及ぼす影響を評価するために、フルオレセイン(FAM)標識フェニルアラニン(Fph-tRNAfMet)を用いた短ペプチドのaaRSフリー翻訳を実施して、翻訳収率の定量化を容易にした(図4A~図4B、図5A~図5D及び図6A~図6Eを参照)。
図4A~図4Gは、本発明のいくつかの実施形態による、複数の短ペプチドのaaRSフリー翻訳の結果を示す。示されるのは、mRNA#1から翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析(図4A)、トリシン-SDS-PAGEによって分析された短ペプチドのaaRSフリー翻訳収率、ここで未積荷tRNA濃度は160~540μMの範囲とし、フレキシザイム積荷済みtRNA濃度は70μMとし、その結果、積荷収率は44~13%の範囲であった(図4Bの上部)、総tRNA濃度は16~1003μMの範囲とし、積荷収率は56%のままであった(図4Bの下部)(エラーバーは3回の独立した実験からの標準偏差を表す)、mRNA#2(図4C)、mRNA#3(図4D)、mRNA#4(図4E)、mRNA#5(図4F)及びmRNA#6(図4G)からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析、ここで55~135μMの総量の未積荷tRNA及び100μMの各アミノ酸を用いた翻訳の対照(mRNA#1については、5μMのフレキシザイムによって積荷されたFAM標識Fph-tRNAfMetを対照実験及びaaRSフリー翻訳実験の両方に添加)、及び170~414μMの総フレキシザイム積荷済みtRNAを用いたaaRSフリー翻訳のaaRSフリー翻訳も行う(表3を参照)。a.u.は、任意単位を表し、C、Oは、計算m/z値及び観測m/z値を表す(図4C~図4Gのそれぞれ)。
mRNA鋳型をtRNAfMet、tRNALys、tRNATyr及びtRNAAspによってデコードし、そのうちのtRNAfMetには45ヌクレオチドの増強フレキシザイムによってFph-tRNAfMetが積荷され、他のものにはそれらの対応する(cognate)アミノ酸が46ヌクレオチドのジニトロ-フレキシザイムによって積荷された[Murakami,H.,Ohta,A.,Ashigai,H.,and Suga,H.(2006).A highly flexible tRNA acylation method for non-natural polypeptide synthesis.Nat.Methods 3,357]。T7 RNAポリメラーゼによってインビトロで転写された未改変tRNAは、それらがリボソームペプチド合成アッセイにおいて作用することが示されているので用いられた。各tRNAについての個々の積荷収率を、酸性条件下でのポリアクリルアミドゲル電気泳動(酸性PAGE)によって決定し、これを用いて、翻訳システムの加重平均(全体)積荷収率を推定した(表3を参照)。tRNAの滴定を、総積荷収率が約44%であり(モル比1:2:2:2で混合されたFph-tRNAfMet:Lys-tRNALys:Tyr-tRNATyr:Asp-tRNAAsp)、最終翻訳システムにおける総tRNA濃度が20~644μMである積荷した総tRNAを添加することによって最初に行ったところ、総tRNA濃度が約160μMであるときに翻訳収率が最高レベルに達し、プラトーとなることなく、tRNA濃度がさらに増加すると翻訳収率が低下することを発見した(図5Aを参照)。
図5A~図5Dは、種々の条件下でのmRNA#1のaaRSフリー翻訳の結果を示す。示されるのは、総tRNA濃度を20~644μMの範囲としたところ、積荷収率は44%のままであったこと(図5A)、総フレキシザイム濃度を240~525μMの範囲としたところ、総tRNA濃度は160μMのままであったこと(図5B)、フレキシザイム及び0~380μMの未積荷tRNAが(図5Cでは)10mM MgCl中に、(図5Dでは)100mM MgCl中に混合され、エタノール沈殿によって脱塩され、aaRSフリー翻訳ミックスに添加され、フレキシザイム積荷済みtRNAの濃度は70μMのままとしたことである(エラーバーは、3つの独立した実験からの標準偏差を表す)。
図6A~図6Dは、aaRSフリー翻訳収率を計算するためのトリシン-SDS-PAGEゲル分析を示しており、aaRSフリー翻訳収率を計算するための、図4A、図4B、図5A、図5B、図5C、及び図5Dに対応するゲル画像(それぞれ図6A~図6E)を示している。「M」は、合成ペプチド標準を表す(Fph-K-Y-D-K-Y-D)。
観察された阻害は、翻訳システムにおけるフレキシザイムの蓄積によるものでなかった。なぜなら対照実験では、精製されたジニトロ-フレキシザイムを固定された量の総tRNAに添加しても翻訳を阻害しなかったからである(図5Bを参照)。
次に、70μMの積荷済みtRNAの存在下で、90~470μMの未積荷tRNAをaaRSフリー翻訳システムに添加したところ、全体の積荷収率は44から13%に減少したが、全体の翻訳収率はほとんど影響を受けなかった(図4Bを参照)。
観察された翻訳阻害の原因となり得る別の因子は、フレキシザイム積荷済みtRNAからのMg2+持ち越み(carryover)によるカチオン濃度の増加であると推論された。この理論を検証するために、aaRSフリー翻訳システムに添加する前に、外因性MgClをフレキシザイム積荷済みtRNAに添加したところ、翻訳が実際にMgCl持ち越み(carryover)の増加によって阻害されることが発見された(図5C及び図5Dを参照)。
上記の観察に基づいて、C18カラムを装備した高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、フレキシザイム積荷済みtRNAを精製してMg2+濃度を低下させた(蛍光消光を最小化するために、代わりに限外濾過によって処理したFph-tRNAfMetを除く)。このプロセスはまた、ほとんどのフレキシザイムを除去し、全体的な積荷収率を44から56%へと小幅に改善した(図2を参照)。
その後、精製したフレキシザイム積荷済みtRNAを、aaRSフリー翻訳システムに添加したが、フレキシザイム積荷済みtRNAのみを濃縮すると、翻訳収率が5倍と大幅に改善されることが観察された。HPLCによってMg2+混入を減少させると、さらなる2倍の改善が観察され、結果として全体的として約10倍の翻訳収率の改善が生じ(図4B及び図5Aを参照)、最適な総tRNA濃度は160μMから500μMにシフトした。
しかしながら、tRNA濃度が500μMから1000μMにさらに増加すると、全体的な翻訳収率は約50%低下し、これはFph-tRNAfMetに付随するMg2+に起因する可能性がある。さらに、aaRSの存在下で高濃度の未積荷tRNAを用いる同様の滴定アッセイは、翻訳収率の改善をもたらさず(図7A~図7Bを参照)、aaRSフリー翻訳収率の改善が、フレキシザイム積荷済みtRNAの濃度の増加それ自体に起因する可能性が高いことを示唆している。
図7A~図7Bは、LysRS、TyrRS、及びAspRSの存在下でのインビトロ翻訳実験の結果を示しており、LysRS、TyrRS及びAspRSの存在下で22~680μMの範囲とした未積荷、非修飾総tRNA濃度を用いた場合の翻訳産物、及び増強されたフレキシザイムによって事前に積荷されたFph-tRNAfMetの、トリシン-SDS-PAGE分析(図7A)、及び計算された翻訳収率(図7B)を示している(エラーバーは、3つの独立した実験からの標準偏差を表す)。
実施例7
複数の短ペプチドのaaRSフリー翻訳
tRNA濃度を増加させるとaaRSフリー翻訳の収率を改善することを発見したので、本願発明者は、複数の短ペプチドについてaaRSフリー翻訳を試験し、高いフレキシザイム積荷済みtRNA濃度における翻訳忠実度を決定しようと試みた。翻訳開始のための1種のtRNA(tRNAfMet)及び翻訳伸長のための他20種のtRNAを含む、21種の大腸菌tRNAからなる最小セットが、T7 RNAポリメラーゼによるインビトロ転写によって得られた。表7は、関係するtRNA配列を示す。



各tRNAは、フレキシザイムによって別々に積荷され、積荷収率は20~60%の範囲であった(図8Aを参照)。
図8A~図8Bは、21種のtRNAへの、それらに対応する(cognate)タンパク質構成アミノ酸のフレキシザイムによる積荷収率を示しており、エタノール沈殿後に決定された積荷収率(図8A)、及び14種のフレキシザイム積荷済みtRNAの、HPLC精製後に決定された積荷収率を示す。N/Aは、フレキシザイム積荷済みtRNAの精製を行わなかったものを示しており(図8B)、以前に報告されたように精製を促進するため、gly-tRNAGlyに対して可逆的N-ペンテノイル化を行った。
フレキシザイム積荷済みtRNAを、mRNA上におけるそれらの対応する(cognate)コドンの存在量に応じたモル比で混合した後、aaRSフリー翻訳システムに170~520μMの範囲の最終濃度まで添加した(表3)。本願発明者は、フレキシザイム積荷済みtRNAのアンチコドンに対してワトソン-クリック塩基対を形成することが可能な5つの異なるmRNA配列を設計し、インビトロ転写し、aaRSフリー翻訳された短ペプチドをマトリックス支援レーザー脱離イオン化-飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)によって評価して、翻訳忠実度を試験した(図4C~図4Gを参照)。
MALDI-TOF MSの結果は、21種全てのフレキシザイム積荷済みtRNAが、リボソームに対して約200倍モル過剰までにおいて、mRNAを正確にデコードしたことを示した(例えば、mRNA#5の場合、tRNA414μMに対してリボソーム2μM)。未積荷tRNA及び遊離アミノ酸を用いた対照実験では(図4C~図4Gを参照)、ペプチド産物は検出されず、したがって、リボソーム調製物からのaaRS及び積荷済みtRNAの混入の懸念は最小限に抑えられている。
特に、本願発明者は、短いメッセージ「MITRNACHARGINGSYSTEM」(配列番号123)をmRNA#6へとコードし(図4Gを参照)、情報保有ペプチド全長の翻訳に成功した。
しかしながら、総tRNA濃度を520μMに増加させた場合、追加の+12Daピークが検出された(図9を参照)。これは、高いtRNA濃度及び翻訳のための未改変tRNAの使用から生じる、mRNAのミスデコーディングによるものである可能性がある。
図9は、aaRSフリー翻訳されたmRNA#6のMALDI-TOF MS分析を示しており、aaRSフリー翻訳システムにおいて総tRNA濃度が高くなると(520μM)、2,252.7Daの分子量を有する誤翻訳産物が観察されたが、正しく翻訳された産物は2,240.7Daの分子量を有したことを示している。a.u.は任意単位を表し、C、Oはそれぞれ、計算されたm/z値及び観測されたm/z値を表す。
実施例8
タンパク質酵素のaaRSフリー翻訳
短ペプチドの成功裏な翻訳は、フレキシザイムシステムによって積荷された、インビトロ転写された未改変tRNAのみを用いるタンパク質酵素のaaRSフリー翻訳につながった。二つの小さな酵素、130アミノ酸残基のニワトリリゾチーム及び169アミノ酸残基のGaussiaルシフェラーゼをモデルとして選択した。どちらの酵素も大腸菌自体には無く、このことはリボソーム調製物からの混入の懸念を最小化する。
図10A~図10Cは、aaRSフリー翻訳されたタンパク質酵素である、ニワトリリゾチーム(図10A)、Gaussiaルシフェラーゼ(図10B)、及び大腸菌TrpRS(図10C)のアミノ酸配列を示している。フレキシザイム積荷済みtRNAによって翻訳された位置は、エタノール沈殿又はHPLCのいずれかによって精製された(下線)。
21種のフレキシザイム積荷済みtRNAからなるサブセット(図10A~図10B中の下線付きアミノ酸)をHPLCによって精製してMg2+持ち越み(carryover)を減少させ、HPLC精製後の個々の積荷収率を酸性PAGEによって測定した(図8Bを参照)。全体的な積荷収率は約40%という結果であった。ニワトリリゾチームについて約330μM、Gaussiaルシフェラーゼについて約430μMという総tRNA濃度(表3)は、他のインビトロ翻訳システムで用いられる当該濃度よりも約10~20倍高かった[Terasaka,N.,Hayashi,G.,Katoh,T.,and Suga,H.(2014).An orthogonal ribosome-tRNA pair via engineering of the peptidyl transferase center.Nat.Chem.Biol.10,555-557;Iwane,Y.,Hitomi,A.,Murakami,H.,Katoh,T.,Goto,Y.,and Suga,H.(2016).Expanding the amino acid repertoire of ribosomal polypeptide synthesis via the artificial division of codon boxes.Nat.Chem.8,317-325;and Cui,Z.,Stein,V.,Tnimov,Z.,Mureev,S.,and Alexandrov,K.(2015).Semisynthetic tRNA complement mediates in vitro protein synthesis.J.Am.Chem.Soc.137,4404-4413]。
全長タンパク質のaaRSフリー翻訳を、FAM標識Fph-tRNAfMetレポーターを用いて試験した。ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)によって分析すると、蛍光標識された産物のバンドは、ニワトリリゾチーム及びGaussiaルシフェラーゼの分子量(それぞれ14.8kDa及び18.7kDa)と一致し、産物のバンドの移動度も、市販のニワトリリゾチーム及び組換えGaussiaルシフェラーゼの移動度とそれぞれ類似していた(図11A~図11Dを参照)。
図11A~図11Gは、aaRSフリー翻訳されたタンパク質酵素のSDS-PAGE分析を示しており、図12Aに示される全体のゲル画像(図11A)、15% SDS-PAGEで分析され、クマシーブリリアントブルーで染色された、ニワトリ卵白から精製された市販のニワトリリゾチーム400ngの試料(図11B)、図12Cに示される全体のゲル画像(図11C)、15% SDS-PAGEで分析され、クマシーブリリアントブルーで染色された、大腸菌BL21株から発現及び精製された組換えGaussiaルシフェラーゼ400ngの試料(図11D)、図14Aに示される全体のゲル画像(図11E)、15% SDS-PAGEで分析され、クマシーブリリアントブルーで染色された、大腸菌BL21株から発現及び精製された組換え大腸菌TrpRS 300ngの試料(図11F)、3分間98℃に加熱して、又は加熱無しに15% SDS-PAGEによって分析され、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされた、5μMのFph-CME、1μMのFph-tRNAfMet、及び5μMのFph-tRNAfMetの試料(図11G)を示し、Mはベンチマーク蛍光タンパク質標準である。
一方、DNA鋳型を欠く対照実験、又は未積荷tRNA及び遊離アミノ酸を用いた対照実験では、産物バンドは存在しなかった(図12A及び図12C参照)。
図12A~図12Dは、本発明のいくつかの実施形態による、タンパク質酵素のaaRSフリー翻訳の概念の実験的証明の結果を示しており、15% SDS-PAGEによって分析され、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされたN末端FAM標識ニワトリリゾチームのaaRSフリー翻訳(Mは、ベンチマーク蛍光タンパク質標準を表す)(図12A)、基質として蛍光標識細菌(ミクロコッカス・リゾデイクティカス)細胞壁材料を用いた、粗aaRSフリー翻訳されたニワトリリゾチームの酵素アッセイ(図12B)、15% SDS-PAGEによって分析され、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされた、N末端FAM標識GaussiaルシフェラーゼのaaRSフリー翻訳(図12C)、及び基質としてセレンテラジンを用いた、粗aaRSフリー翻訳されたGaussiaルシフェラーゼの酵素アッセイ(図12D)を示す(RFUは、相対蛍光単位を表し、RLUは、相対発光単位を表す)。
これらの結果は、フレキシザイム積荷済みtRNAが加水分解される前に全長タンパク質の合成を達成するようaaRSフリー翻訳は十分に進行性であることを示唆した。液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS/MS)を用いて、切り取られた産物バンドからaaRSフリー翻訳されたタンパク質を特徴付ける試みは、リボソームタンパク質の混入のために成功をおさめなかった。しかしながら、これは、本開示中に記載されるように、分子量がリボソームタンパク質のものとはさらに異なる、より大きなタンパク質を翻訳することによって対処された。次に、翻訳開始のためにFAM標識Fph-tRNAfMetを非標識Met-tRNAfMetで置き換え、酵素アッセイを実施して、翻訳されたタンパク質がインビトロで正しくフォールディングして、自らの対応する触媒活性を有することができるかどうかを試験した。結果は、フォールディング緩衝液中での24時間までのインキュベートの後で、aaRSフリー翻訳された酵素がそれらの対応する基質に対する触媒作用を行ったことを示した:ニワトリリゾチームはFAM標識細胞デブリを放出し、Gaussiaルシフェラーゼは生物発光を放出したが(図12B及び図12D参照)、DNA鋳型を欠いた、又は未積荷tRNA及び遊離アミノ酸を用いた対照実験は検出可能なシグナルを生じず、したがって、自己蛍光、又はaaRSフリー翻訳システムからの混入した発光の懸念を最小化している。
aaRSフリー翻訳されたGaussiaルシフェラーゼの放出された生物発光を組換えルシフェラーゼの既知の標準と比較すると、約25nMの翻訳収率が示唆され(図13参照)、これは7アミノ酸残基ペプチドのaaRSフリー翻訳の最大収率よりも約80倍低かった(図4Bを参照)が、これはおそらくは、各翻訳コドンにとってのフレキシザイム積荷済みtRNAの利用可能度が低いこと、及び複数のジスルフィド結合を有するGaussiaルシフェラーゼのフォールディング効率が限られていることの結果である。
図13は、aaRSフリー翻訳されたGaussiaルシフェラーゼの収量推定値を示しており、0、25nM、50nM、100nM及び250nMの組換えGaussiaルシフェラーゼ(正方形で示される)を用いて標準曲線がプロットされ、翻訳されたGaussiaルシフェラーゼの収量は約25nMであると推定された(三角形で示される)。
実施例9
aaRSのaaRSフリー翻訳
本願発明者は、機能的なaaRS自体を製造するためのaaRSフリー翻訳システムの可能性の探求を試みた。これは、自己複製翻訳装置を確立する際の重要なステップである。そのために、334アミノ酸残基の大腸菌TrpRSをモデルとして用いた。インビトロ転写されたフレキシザイム積荷済みtRNAの大部分(合計21種のうち14種)をHPLCによって精製してMg2+の持ち越み(carryover)を減少させ(図10Aにおける下線付きアミノ酸)、約42%の全体的な積荷収率及び約170μMの総tRNA濃度を得た(表3を参照)。
本願発明者は、FAM標識Fph-tRNAfMetレポーターを用いて全長タンパク質の翻訳を試験し、334アミノ酸残基の大腸菌TrpRS(37.8kDa)を示す産物バンドがSDS-PAGEによって観察されたが(蛍光標識タンパク質バンドの移動度は組換えTrpRSのものと類似していた)(図11E及び図11F参照)、このバンドは、DNA鋳型を欠く、又は未積荷tRNA及び遊離アミノ酸を用いる対照実験には存在しなかった(図14Aを参照)。
図14A~図14Cは、TrpRSのaaRSフリー翻訳を示しており、15% SDS-PAGEによって分析され、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされたN末端FAM標識大腸菌TrpRSのaaRSフリー翻訳(Mは、ベンチマーク蛍光タンパク質標準を表す)(図14A)、内部Cy5標識tRNATrpの配列及び二次構造(図14B)、及びCy5-tRNATrpを基質として用い、8%酸性PAGEによって分析され、Cy5モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンされた粗aaRSフリー翻訳TrpRSの酵素アッセイ(図14C)を示す。
また、いくつかのより速く移動するバンドも観察されたが、これらは切断型TrpRS翻訳産物及び未使用のFph-tRNAfMetに対応し得る(図11Gを参照)。
TrpRSのaaRSフリー翻訳をさらに確認するために、切り取られた産物バンドからのタンパク質含有量をLC-MS/MSを用いて分析し、大腸菌TrpRSから4つの重複しないペプチドセグメントを同定し、約16%の配列カバレッジとなった。一方、未積荷tRNA及び遊離アミノ酸を用いた対照実験では、大腸菌TrpRSに対応するペプチドは検出されなかったが、このことは、検出されたTrpRSが内因性aaRSの混入に由来するものではないことを示唆している(表8)。
表8は、LC-MS/MSによる、aaRSフリー翻訳された大腸菌TrpRSの検出されたペプチド配列を示している(大腸菌TrpRSのためのDNA鋳型を用いたaaRSフリー翻訳)。

aaRSフリー翻訳されたTrpRSのtRNA-アミノアシル化活性をさらに試験するために、内部Cy5標識tRNA基質(Cy5-tRNATrp、図14B参照)を設計し、合成した。
Cy5標識の設置は、他の積荷済みtRNA種からの干渉なしに積荷済みCy5-tRNATrpのインサイチュ検出を可能にする。翻訳開始のためにMet-tRNAfMetを用い、TrpRSが翻訳された後、Cy5-tRNATrpをトリプトファン及びアデノシン三リン酸(ATP)と共にaaRSフリー翻訳システムに添加した。aaRSフリー翻訳されたTrpRSは、Cy5-tRNATrp上にトリプトファンを首尾よく積荷した一方、DNA鋳型を欠くか、又は未積荷tRNA及び遊離アミノ酸を用いる対照実験では、Cy5-tRNATrp積荷は観察されなかった(図14Cを参照)。このことは、観察されたCy5-tRNATrp積荷活性は、リボソーム調製物又は残留フレキシザイム活性からの内因性aaRS混入によるものである可能性は低いことを示唆している。
実施例10
鏡像tRNAへのaaRSフリー積荷
合成鏡像L-フレキシザイムによる、鏡像L-tRNAへの鏡像D-アミノ酸の積荷を試験するための概念証明実験として(図3A参照)、本願発明者は、スルホロブス・ソルファタリカス(Sulfolobus solfataricus)P2 DNAポリメラーゼIV(Dpo4)の設計された変異体の鏡像バージョンに基づく、先に確立された鏡像遺伝子転写システムを適用して、鏡像tRNAを転写した(図15Aを参照)。
図15A~図15Bは、D-Dpo4-5m-Y12Sによる鏡像tRNALysの転写の結果を示しており、合成D-Dpo4-5m-Y12Sポリメラーゼによって重合された、L-ssDNA鋳型上での5’-FAM標識L-ユニバーサルプライマーの伸長、及び異なる時点で終結させられ、7M尿素での12%変性PAGEゲルによって分析された反応アリコートを示し(図15A)、7M尿素での10%変性PAGEゲルによって分析され、SYBR-Green II(Thermo Fisher Scientific,MA,U.S.)によって染色されたtRNALys転写物の鏡像転写及びI媒介切断を示す(図15B)。
21種の異なるL-RNAプライマーを合成する高いコストを回避するために、本願発明者は、鏡像tRNAの転写のためにユニバーサルプライマーを適用した(図15Bを参照)。
完全に伸長したプライマーが以前に報告された機構を介してIによって効率的に切断されて全長鏡像tRNAを製造するように、ユニバーサルプライマーを3’末端付近でホスホロチオエートによって修飾した(図15Bを参照)。この全長鏡像tRNAは、予想された通り、天然のRNase A消化に耐性であり、天然のaaRSによって積荷することはできないものであった(図16A~図16Bを参照)。
図16A~図16Bは、酵素的に転写された天然tRNA及び鏡像tRNAの生化学的特性決定の結果を示しており、酵素的に転写されたD-及びL-tRNAAlaのRNase A消化(図16A)、及び酵素的に転写されたD-及びL-tRNAAlaのAaRS触媒アミノアシル化(図16B)を示す。
媒介切断は、MALDI-TOF MSによって検証されるように、ヒドロキシル末端5’-末端を有するRNAを生じる(図17A~図17Cを参照)。
図17A~図17Cは、I媒介切断のMALDI-TOF MS分析を示しており、Iによってホスホロチオエート修飾部位で切断された合成DNA-RNAキメラオリゴ(図17A)、ネガティブリニアモード下での非切断オリゴのMALDI-TOF MSスペクトル(図17B)、ネガティブリニアモード(m/z>4000)及びネガティブリフレクトロンモード(m/z<4000)下でのIで切断されたオリゴのMALDI-TOF MSスペクトル(図17C)を示し、大文字はDNAヌクレオチドを示し、小文字はRNAヌクレオチドを示し、「*」はホスホロチオエート修飾を示す。a.u.は、任意単位を表し、C、Oはそれぞれ、計算m/z値及び観測m/z値を表す。
次に、化学合成された46ヌクレオチドのL-フレキシザイム(ジニトロ-フレキシザイム)を成功裏に用いて、異なるアミノ酸カテゴリー(それぞれ、極性(Lys)、非極性(Ala)、アキラル(Gly)及び芳香族(Phe))に属する4つの代表的なD-アミノ酸(リジン、アラニン、グリシン及びフェニルアラニン)をそれらの対応する(cognate)鏡像tRNAに、天然システムの効率に匹敵する類似の効率で積荷した(図3B~図3E)。
実施例11
カチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いた完全又は部分的な非天然ペプチドの翻訳
ペプチド翻訳のために複数の非天然アミノ酸を取り込むためにフレキシザイムシステムを用いることができると推論され、これは他のaaRSタンパク質と組み合わせて、又はそれら無しで用いられる。本発明の規定は、非天然ペプチドを、カチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いて、又は少なくとも、Mg+2の濃度が可能な最小レベルまで本質的に低下したフレキシザイム積荷済みtRNAの調製物を用いて翻訳することができるかどうか、並びにHPLC及び限外濾過などの手段により精製し、及びカチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを濃縮することが、翻訳収率を増加させることができるかどうか、特に翻訳困難なペプチドについて、例えば完全又は部分的な非天然のペプチドについて、翻訳収率を増加させることができるかどうかを試験することを可能にする。翻訳システムにおいては、フレキシザイムによって積荷されていない特定のtRNAの積荷を増強するために、aaRSタンパク質を添加してもよい(図18A~図18Bを参照)。
図18A~図18Bは、カチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いた完全又は部分的な非天然のペプチドのフローチャート翻訳を示しており、インビトロ翻訳システムでのカチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いたペプチド薬及び非天然タンパク質の翻訳(図18Aを参照)、及びインビトロ翻訳システムでカチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いた完全又は部分的な非天然タンパク質の翻訳、データ記憶、及びリボソーム/mRNAディスプレイ(図18Bを参照)を示す。
この実験では、最初に、非天然アミノ酸が未改変tRNAに積み込みされる。非天然アミノ酸としては、これらに限定されないが、D-アミノ酸及びβ-アミノ酸、例えば、D-Phe、D-His、D-Cys、D-Ala、D-Ser、D-Met、D-Thr、D-Tyr、N-クロロアセチル-D-Tyr、D-Trp、N-クロロアセチル-D-Trp、L-β-ホモメチオニン(β-hMet)、L-β-ホモグルタミン(β-hGln)、L-β-ホモフェニルグリシン(β-hPhg)、2-アミノシクロヘキサンカルボン酸(2-ACHC)又は2-アミノシクロペンタンカルボン酸(2-ACPC)が挙げられ得る。フレキシザイム積荷済みtRNAは、HPLCを含むがこれに限定されない、カチオン混入を低減するための技術によって精製される。他の精製技術としては、限外濾過及び透析が挙げられ得る。それから、フレキシザイム積荷済みtRNAを100~500μMに濃縮し、インビトロ翻訳のための基質として用いる。翻訳産物はMALDI-TOF MS及びトリシン-SDS-PAGEによって分析する。
概念証明として、ペプチド薬を、aaRSフリー翻訳システムを用いて翻訳する。(図18Aを参照)
ペプチド薬のアミノ酸配列は、AcyFAYDRR(2-ACHC)LSNN(2-ACHC)RNYcG-NH(配列番号124)であり、最初のアミノ酸はアセチル-D-Tyrであり、最後から2番目のアミノ酸はD-Cysであり、これはアセチル-D-Tyr残基と環状結合を自発的に形成する。このペプチドは、ヒト第XIIa因子を阻害することが以前に示されている。翻訳産物をMALDI-TOF MSによって分析する。
別の概念証明として、169アミノ酸残基のGaussiaルシフェラーゼなどのタンパク質酵素は、tRNAAsn、tRNAIle及びtRNALysを含むがこれらの限定されない、カチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いて翻訳される(図18Aを参照)。それ以外のtRNAは、組換えaaRSタンパク質によって積荷されることになる。さらに、非天然アミノ酸であるフルオレセイン標識フェニルアラニン(Fph)を、フレキシザイムによって開始因子tRNAfMetに積み込みする。翻訳産物は、生物発光及びSDS-PAGEを測定することによって分析される。Fph残基はGaussiaルシフェラーゼをSDS-PAGEゲル上で蛍光させるので、それによって翻訳されたGaussiaルシフェラーゼの純度は、その蛍光に基づいて容易に決定され得る。この適用は、放射性同位体及び面倒なタンパク質精製手順を必要とせず、翻訳純度のハイスループット分析に有用である。
他のaaRSタンパク質と組み合わせて、又はそれらを用いずに使用される、カチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAを用いた完全又は部分的な非天然ペプチドの翻訳は、リボソームディスプレイ及びmRNAディスプレイなどの選択スキームと組み合わせたペプチド薬の選択、並びにアミノ酸文字を用いた完全又は部分的な非天然ペプチドによるデータ記憶に応用され得る(図18Bを参照)。
実施例12
L-フレキシザイムを用いる、酵素的に転写されたL-tRNAの積荷
図19A~図19Bは、完全に機能的な、酵素的に転写されたL-tRNA分子を、事前に活性化されたアミノ酸で積荷する実験的概念証明の、8%酸性PAGE写真及び分析を示しており、図19Aは、酵素的に転写されたL-tRNAの積荷の結果を示し、図19Bは、合成的に作製されたL-tRNAの積荷の結果を示す。
図19A~図19Bに見られるように、バンドシフトは、酵素的に転写されたL-tRNAが積荷されたときに明らかになるが(図19A)、一方、市販の合成装置によって調製されたL-tRNA上に事前に活性化されたアミノ酸をL-フレキシザイムで積荷する場合、バンドシフトは観察されず、積荷されたL-tRNA分子を、未積荷tRNA分子と見分けることができない。これはおそらく、合成的に調製されたtRNAの品質が低いためである。
この実験は、酵素的に転写されたL-tRNA分子を得ることの利点を明確に証明しており、L-フレキシザイムを用いること及びL-RNA分子を酵素的に転写作製できるD-酵素を得ることの利点も明確に示している。
実施例13
2つ又は3つの連続したD-フェニルアラニンを含むペプチドの翻訳
カチオン枯渇tRNAの濃度を増加させることの効果、及びそれがD-アミノ酸などの難易度が高い非天然アミノ酸の翻訳収率を改善できるかどうかを検証するために、本願発明者は、短ペプチド(mRNA#7):Fph-KKKFDYKDDDDK(配列番号127)を翻訳することを試み、そのフルオレセイン標識L-フェニルアラニン(Fph)及びL-リジン(K)をそれらの対応する(cognate)tRNA上にフレキシザイムによって積み込みし、一方、L-アスパラギン酸(D)及びL-チロシン(Y)をそれらの対応する(cognate)tRNA上にaaRSによって積荷した(それぞれAspRS及びTryRS)。
以下の表9は、mRNA#7~mRNA#10のインビトロ翻訳のためのtRNA配列を示す。

Katoh,T.et al.[「Consecutive Elongation of D-Amino Acids in Translation」、Cell Chemical Biology,2017,24,pp.46-54]の教示に従って、D-フェニルアラニン(F)を、D-アミノ酸取り込みのために最適化された配列を有する改変tRNAであるtRNAGluE2 CUA(表9を参照)に、フレキシザイムによって積み込みした(Phe-tRNAGluE2 CUA)。このペプチドは2つの連続したD-フェニルアラニンを含有しているが、これは、同じ配列のペプチドであるが2つの連続したL-フェニルアラニンを含有するペプチドと比較して、翻訳が困難で、収率は15%未満であることが先に示されている[Achenbach,J.et al.,「Outwitting EF-Tu and the ribosome:translation with D-amino acids」,Nucleic Acids Research,2015,43,pp.5687-5698]。本願発明者は、フレキシザイム積荷済みtRNAのアンチコドンとワトソン・クリック塩基対を形成することが可能なmRNA#7を設計し、インビトロ転写した(表10を参照)。
以下の表10は、mRNA#7~mRNA#10のインビトロ翻訳のためのDNA鋳型配列を示す。

本願発明者は、インビトロ翻訳のために、20μM又は200μMのカチオン枯渇Phe-tRNAGluE2 CUAを添加した。両方の翻訳反応では、積荷済みtRNAによる全体的なMg2+の持ち越み(carryover)は、本開示に提案されるインビトロ翻訳システムのMg2+許容量の限界内(<100mM Mg2+)となるよう制御された。本願発明者はまた、対照として、フレキシザイム積荷済みtRNAPhePhe-tRNAPhe)を用いてmRNA#8(Fph-K-F-K(配列番号129)(表10を参照)を並行して翻訳した。
翻訳反応を37℃で2時間インキュベートし、MALDI-TOF MS及び20%トリシン-SDS-PAGEによって分析した。MALDI-TOF MS結果は、mRNA#7における2つの連続したD-フェニルアラニンの正確な取り込みを示す(図20A)。しかし、質量ピークは、200μMのPhe-tRNAGluE2 CUAを含む試料においてのみ検出することができ、20μMのPhe-tRNAGluE2 CUAを含む試料においてはできなかった(図20A)。一方、対照実験では、正確な質量ピークを20μMのPhe-tRNAPheを含む試料において検出することができたが、未積荷tRNAPheのみを含む試料においてはできなかった。さらに、トリシン-SDS-PAGEの結果は、200μMのPhe-tRNAGluE2 CUAを用いた場合のmRNA#7の翻訳収率が、20μMのPhe-tRNAGluE2 CUAを用いた場合の当該翻訳収率よりも約2倍高く、20μMのPhe-tRNAPheを用いた対照と類似していたことを示している。
図20A~図20Cは、2つの連続したD-フェニルアラニンを含有する短ペプチドのインビトロ翻訳の結果を示している。図20Aは、mRNA#7からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析を示し、図20Bは、mRNA#8からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析を示し、図20Cは、未積荷tRNAPheのみ(mRNA#7)、20μMのLPhe-tRNAPhe(mRNA#7)、20μMのDphe-tRNAGluE2CUA(mRNA#8)、又は200μMのDphe-tRNAGluE2CUA(mRNA#8)を用いた場合のmRNA#7又はmRNA#8の翻訳産物のトリシン-SDS-PAGE分析であって、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンしたものを示す。
2つの連続するD-フェニルアラニンを有するmRNA#7の成功した翻訳に励まされて、本願発明者は、mRNA#9を3つの連続するD-フェニルアラニンを有する短ペプチドFph-KKKFDYKDDDDK(配列番号127)へと翻訳した(表10を参照)。3つの連続したD-フェニルアラニンを有する短ペプチドを翻訳する以前の試みは、同じ配列のペプチドであるが3つの連続したL-フェニルアラニンを含有するペプチドと比較して5%未満の収率を示した[Achenbach,J.et al.、2015]。本願発明者は、インビトロ翻訳のために30μM又は300μMのカチオン枯渇Phe-tRNAGluE2CUAを添加し、MALDI-TOF MS及び20%トリシン-SDS-PAGEによって翻訳反応を分析した。両方の翻訳反応では、積荷済みtRNAによる全体的なMg2+の持ち越み(carryover)は、本開示に提案されるインビトロ翻訳システムのMg2+許容量の限界内(<100mM Mg2+)となるよう制御された。MALDI-TOF MSの結果は、mRNA#9における3つの連続したD-フェニルアラニンの正確な取り込みを示す(図21A)。さらに、トリシン-SDS-PAGEの結果は、300μMのPhe-tRNAGluE2CUAを用いた場合のmRNA#9の翻訳収率が、30μMのPhe-tRNAGluE2CUAを用いた場合の当該翻訳収率よりも約2倍高く、30μMのPhe-tRNAPheを用いた対照と類似していたことを示している(図21B)。
図21A~図21Bは、3つの連続したD-フェニルアラニンを含有する短ペプチドのインビトロ翻訳の結果を示しており、図21Aは、mRNA#9からの翻訳された短ペプチドのMALDI-TOF-MS分析を示し、図21Bは、未積荷tRNAPheのみ、30μMのLPhe-tRNAPhe、30μMのDPhe-tRNAGluE2CUA、又は300μMのDPhe-tRNAGluE2CUAを含むmRNA#9の翻訳産物のトリシン-SDS-PAGE分析であって、Cy2モード下でTyphoon FLA 9500によってスキャンしたものを示す。
まとめると、これらの結果は、カチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAの濃度を約20~30μMから約200~300μMに増加させることによって、D-アミノ酸(3つまでの連続したD-フェニルアラニン)の取り込み効率が著しく改善されたことを示唆している。
実施例14
3つの連続したβ-アミノ酸を含むペプチドの翻訳
カチオン枯渇tRNAの濃度を増加させることでβ-アミノ酸の翻訳収率を改善できるかどうかを試験するために、本願発明者は短ペプチド(mRNA#10):Fph-KKKβββQDYKDDDDK(配列番号129)を翻訳することを試みた(表10を参照)。本願発明者は、インビトロ翻訳のために30μM又は300μMのカチオン枯渇βQ-tRNAGluE2CUAを添加し、20%トリシン-SDS-PAGEによって翻訳反応を分析した。
両方の翻訳反応において、積荷済みtRNAによる全体的なMg2+の持ち越み(carryover)は、本開示に提案されるインビトロ翻訳システムのMg2+許容量の限界内(100mM未満のMg2+)となるよう制御された。全長翻訳産物がそれらの切断型翻訳産物から分離されるように、翻訳産物をANTI-FLAG M2磁気ビーズ(Sigma)によって精製した。
トリシン-SDS-PAGEの結果は、300μMのβGln-tRNAGluE2CUAを用いた場合のmRNA#10の翻訳収率が、30μMのβGln-tRNAGluE2CUAを用いた場合の当該翻訳収率よりもわずかに高かったことを示している(図22)。
図22は、3つの連続したβ-Glnを含有する短ペプチドのインビトロ翻訳の結果を示しており、未積荷tRNAのみ、30μMのβGln-tRNAGluE2CUA、又は300μMのβGln-tRNAGluE2CUAを用いた場合のmRNA#10の翻訳産物のトリシン-SDS-PAGE分析であって、Typhoon FLA 9500によってCy2モード下でスキャンされたものを示す。
まとめると、これらの結果は、カチオン枯渇フレキシザイム積荷済みtRNAの濃度を約30μMから約300μMに増加させることによって、β-アミノ酸(3つまでの連続したβ-Gln)の取り込み効率が改善されたことを示唆している。
本発明をその特定の実施形態との関連で説明してきたが、多くの代替形態、修正形態及び変形形態が当業者には明らかであることは明白である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神及び広い範囲に含まれる全てのそのような代替形態、修正形態及び変形形態を包含することが意図されている。
本開示に言及される全ての刊行物、特許及び特許出願は、各個々の刊行物、特許又は特許出願が参照により本開示に取り込まれることが具体的かつ個別に示されている場合と同程度に、その全体が参照により本開示に取り込まれる。さらに、本出願におけるいずれの参考文献の引用又は特定も、そのような参考文献が本発明に対する先行技術として利用可能であることを認めたものとして解釈されるべきではない。セクションの見出しが使用される限り、それらは必ずしも限定的であると解釈されるべきではない。
さらに、本出願のいずれの優先権書類も、その全体が参照により本開示に取り込まれる。
図6A~図6は、aaRSフリー翻訳収率を計算するためのトリシン-SDS-PAGEゲル分析を示しており、aaRSフリー翻訳収率を計算するための、図4A、図4B、図5A、図5B、図5C、及び図5Dに対応するゲル画像(それぞれ図6A~図6E)を示している。「M」は、合成ペプチド標準を表す(Fph-K-Y-D-K-Y-D)。

Claims (31)

  1. タンパク質を製造するためのシステムであって、
    前記タンパク質をコードするmRNA分子;
    複数の積荷済みtRNA分子;及び
    無細胞翻訳ミックス
    を含み、
    前記システムにおけるMg+2の濃度が100mM未満である、
    前記システム。
  2. アミノアシルtRNAシンテターゼを本質的に欠く、請求書1に記載のシステム。
  3. 前記積荷済みtRNA分子の濃度が60μM超である、請求項1~2のいずれか1項に記載のシステム。
  4. 前記積荷済みtRNA分子の濃度が160μM超であり、Mg+2の前記濃度が100mM未満である、請求書3に記載のシステム。
  5. 前記複数の積荷済みtRNA分子のうちの少なくとも1つのtRNA分子が、フレキシザイムによって積荷される、請求項1~4のいずれか1項に記載のシステム。
  6. 前記tRNA分子に、非天然アミノ酸残基が積荷される、請求項5に記載のシステム。
  7. 前記非天然アミノ酸残基がD-アミノ酸残基である、請求項6に記載のシステム。
  8. 前記tRNA分子がL-リボ核酸残基を含む(L-tRNA)、請求項7に記載のシステム。
  9. 前記L-tRNAがD-ポリメラーゼを用いて調製される、請求項8に記載のシステム。
  10. 前記D-ポリメラーゼが、Dpo4の鏡像タンパク質(D-Dpo4)である、請求項9に記載のシステム。
  11. 前記D-Dpo4がD-Dpo4-5m-Y12Sである、請求項10に記載のシステム。
  12. 前記フレキシザイムがL-リボ核酸残基を含む(L-フレキシザイム)、請求項7~11のいずれか1項に記載のシステム。
  13. 前記タンパク質が、活性Lタンパク質酵素及び活性Dタンパク質酵素からなる群から選択される、請求項1~12のいずれか1項に記載のシステム。
  14. 前記濃度以下のMg+2を有する前記複数の積荷済みtRNA分子を準備すること;及び
    前記複数の積荷済みtRNA分子を、前記タンパク質をコードする前記mRNA分子と前記無細胞翻訳ミックス中で接触させ、それにより前記タンパク質を得ること
    を含む、請求項1~13のいずれか1項に記載のシステムを用いてタンパク質を製造する方法。
  15. 前記準備することが、前記接触の前に、前記Mg+2の濃度を調整することを含む、請求項14に記載の方法。
  16. 前記調整することが、クロマトグラフィー、アルコール沈殿及びペレット洗浄、限外濾過、並びに透析からなる群から選択される技術を用いることを含む、請求項15に記載の方法。
  17. 前記準備することが、前記積荷済みtRNA分子を、aaRSを含むタンパク質翻訳システムにおける積荷済みtRNA濃度の2倍を超える濃度に調整することをさらに含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法。
  18. 前記積荷済みtRNA分子の濃度が160μM超である、請求項17に記載の方法。
  19. L-tRNAにD-アミノ酸を積み込みする方法であって、
    D-ポリメラーゼを用いて前記L-tRNA分子を調製すること;
    活性化D-アミノ酸を準備すること;
    L-アミノアシル化リボザイムを準備すること;及び
    前記L-tRNA、前記L-アミノアシル化リボザイム、及び前記活性化D-アミノ酸を接触させ、それによってD-アミノ酸積み込みL-tRNA分子を得ること、
    を含む、前記方法。
  20. 前記D-アミノ酸積み込みL-tRNA分子の反応混合物のPAGE分析が、積荷済みtRNA種の個別(distinct)のピーク及び非積荷済みtRNA種の個別(distinct)のピークを特徴とする、請求項19に記載の方法。
  21. 前記L-アミノアシル化リボザイムがL-フレキシザイムである、請求項19~20のいずれか1項に記載の方法。
  22. L-リボヌクレオチド残基を含む、L-フレキシザイム。
  23. L-リボヌクレオチド残基を50%以上含む、請求項22に記載のL-フレキシザイム。
  24. L-リボヌクレオチド残基からなる、請求項22に記載のL-フレキシザイム。
  25. 5’-ggaucgaaagauuuccgcauccccgaaaggguacauggcguuaggu-3’と80%以上の同一性を示す配列を有する、請求項22~24のいずれか1項に記載のL-フレキシザイム。
  26. 請求項14~17のいずれか1項に記載の方法によって調製されたタンパク質。
  27. 少なくとも1つの非標準アミノ酸残基を含むタンパク質、少なくとも1つのD-アミノ酸残基を含むタンパク質、L-タンパク質、及びD-タンパク質からなる群から選択される、請求項26に記載のタンパク質。
  28. ニワトリリゾチーム、Gaussiaルシフェラーゼ、及び大腸菌TrpRSからなる群から選択される、請求項27に記載のタンパク質。
  29. テキスト情報及び/又は数値情報及び/又はデジタル情報にデコードすることができる配列を有し、天然アミノ酸及び/又は非天然アミノ酸を含む、請求項26に記載のタンパク質。
  30. mRNA#6によってコードされる、請求項29に記載のタンパク質。
  31. 請求項14~21のいずれか1項に記載の方法によって得られる、ランダム化又は部分的にランダム化されたペプチドのライブラリであって、前記ペプチドの少なくとも1つが、少なくとも1つの非天然アミノ酸を含む、前記ライブラリ。
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