JP2008121031A - 冷間金型用鋼および金型 - Google Patents

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Abstract

【課題】硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れ、溶接補修性も良好な冷間金型用鋼を提供する。
【解決手段】C:0.20〜0.60%(質量%の意味、以下、同じ。)、Si:0.5〜2.00%、Mn:0.1〜2%、Cr:3.00〜9.00%、Al:0.3〜2.0%、Cu:1.00〜5%、Ni:1.00〜5%、Mo:0.5〜3%及び/又はW:2%以下(0%を含む)、S:0.10%以下(0%を含まない)、下記(1)〜(3){[ ]は、各元素の含有量(%)を意味する。}、(1)[Cr]×[C]≦3.00、(2)[Cu]/[Ni]:0.5〜2.2、(3)[Mo]+0.5×[W]:0.5〜3.0%、の要件を満足し、残部:鉄および不可避不純物である冷間金型用鋼である。
【選択図】図6

Description

本発明は、冷間金型用鋼および金型に関し、詳細には、自動車用鋼板や家電用鋼板などを冷間・温間でプレス成形(打ち抜き、曲げ、絞り、トリミングなど)するのに用いられる金型の素材として有用な金型鋼に関するものである。
自動車用鋼板や家電用鋼板などの成形に用いられる金型は、鋼板の高強度化に伴い、寿命の改善が求められている。特に、自動車用鋼板では、環境問題を考慮し、自動車の燃費向上のために、引張強度が約590MPa以上のハイテン鋼板の需要が急速に高まっているが、それに伴い、金型の表面皮膜が早期に損傷するなどして「カジリ」(プレス成形時に焼きつく現象)が発生し、金型寿命が極端に低下するといった問題が生じている。
金型は、金型母材(金型用鋼)と、その表面に施される表面硬化層(表面皮膜)とから構成されている。母材の金型用鋼は、一般に、焼鈍→切削加工→焼入焼戻処理によって製造される。
金型用鋼(冷間ダイス鋼)としては、これまで、JIS SKD11に代表される高C高Crの合金工具鋼や、耐摩耗性が更に改善されたJIS SKH51に代表される高速度工具鋼などが汎用されてきた。これらの工具鋼では、主に、Cr系炭化物やMo、W、V系炭化物の析出硬化によって硬度の向上を図っている。また、耐摩耗性と靭性の両方の向上を目的として、JIS SKH51のC、Mo、W、Vなどの合金含有量を低減した低合金高速度工具鋼(通常、マトリックスハイスと呼ばれる。)も使用されている。
冷間金型用鋼の更なる特性改善を目指して、例えば、特許文献1〜特許文献3の方法が提案されている。
特許文献1は、マトリックスハイスの硬さを更に向上させるために提案されたものであり、ここには、Nbおよび/またはTaを多量に含有させ、高温焼入れした場合の結晶粒の粗大化を抑制することにより、高温焼入れを可能とし、高硬度化(耐摩耗性の向上)を図る方法が記載されている。
特許文献2には、焼入焼戻処理による寸法変化量(変寸)、特に、焼戻時の膨張変寸を抑制し得、硬度の上昇を目的として、適正量のNiやAlを添加し、それに応じた適正量のCuを添加した冷間ダイス鋼が開示されている。また、CおよびCrの含有量を調整し、組織中の炭化物分布を微細に分散させると、耐カジリ性も向上することが記載されている。
一方、特許文献3には、金型製造コストの低減を目的として、従来のように切削加工を行ってから焼入焼戻処理を行うのではなく、焼入焼戻状態から切削加工を行う(焼入焼戻→切削加工)「プリハードン鋼」の技術が開示されている。具体的には、高硬度でも良好な被削性を発揮し得、冷間で打抜き加工が可能な鋼として、特に、C、Si、およびSの含有量が適切に制御されたプリハードン鋼が開示されている。しかしながら、プリハードン鋼を用いた金型の寿命は短く、実用化に至っていないのが現状である。
特開平10−330894号公報 特開2006−169624号公報 特開2002−241894号公報
冷間金型用鋼に要求される特性としては、前述した高硬度化や熱処理後の変寸抑制性に優れるほか、溶接補修性に優れていることも挙げられる。
溶接補修は、主に、金型の損傷(詳細には、表面硬化層の疵や凹凸など)を溶接によって補正、補修し、金型の再生利用を図る目的で行なわれるものであり、例えば、アルゴン溶接による肉盛溶接などが汎用されている。前述したように、引張強度が約580MPa以上のハイテン鋼の需要増大によって金型の寿命が極端に低下していることから、経費削減のため、金型への溶接補修は頻繁に行なわれている。
ところが、硬化皮膜が施された金型に溶接補修を施すと、溶接部周辺の硬さのバラツキが大きくなり、割れやカジリが発生しやすくなる。特に、溶接後の熱影響部(Heat Affected Zone,HAZ)の軟化(HAZ軟化)が顕著に見られるため、溶接補修後の金型寿命の低下が問題になっている。HAZ軟化は、ボンド部(溶接金属と母材との境界部、「溶接溶融線」とも呼ばれる。)から少し離れた領域において見られる現象であり、当該領域では、ボンド部より加熱温度が低く、細粒オーステナイトより変態するため、焼入れ性が低下して軟質なフェライト相の分率が多くなり、更に離れたところは高温で焼戻された状態となることから、硬度が低下すると考えられている。図1(a)は、母材同士を溶接金属で溶接したときの様子を模式的に示す図であり、図1(b)に、図1(a)中に示す領域Aの硬度分布を模式的に示している。図1(b)に示すように、ボンド部から離れるにつれてHAZの硬度は低下し、軟化している。HAZが軟化すると、その後に表面硬化処理を施しても表面硬化層による保護作用が充分発揮されず、表面硬化層が早期に損傷するなどして、金型の寿命が低下する。
なお、溶接補修は、前述したように、母材に表面硬化皮膜が施された後に行なわれるほか、母材に表面硬化皮膜が施される前に行なわれることもある。特に、引張強度が約590MPa以上のハイテン鋼板を金型を用いてプレス成形するに当たっては、狙いどおりの形状にプレスするのは困難であるため、予め、試打ちおよび溶接補修(肉盛溶接)を行ない、所望の形状とする場合もある。試打ち工程では、溶接補修後、熱処理を行なわずプレス成形を行なうため、HAZ軟化部に疵が発生し易くなる。このようなHAZ軟化部に発生した疵は、その後の硬化処理によって形成される表面皮膜にも残留するため、この残留部分が皮膜損傷の起点になると考えられる。また、HAZ軟化部のみならず硬化部も発生し(図1、図7を参照)、硬化部では割れや欠けが発生しやすく、トラブルになる。
従って、溶接補修時のHAZ軟化を抑制し得、コーナー部の肉盛溶接も容易に実施可能な、溶接補修性に優れた金型用鋼の提供が切望されている。ところが、前述した特許文献は、いずれも、溶接補修性について何ら考慮されておらず、溶接補修後の金型寿命の低下が懸念される。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れ、溶接補修性も良好な冷間金型用鋼、および金型を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る冷間金型用鋼は、C:0.20〜0.60%(質量%の意味、以下、同じ。)、Si:0.5〜2.00%、Mn:0.1〜2%、Cr:3.00〜9.00%、Al:0.3〜2.0%、Cu:1.00〜5%、Ni:1.00〜5%、Mo:0.5〜3%及び/又はW:2%以下(0%を含む)、S:0.10%以下(0%を含まない)、下記(1)〜(3){[ ]は、各元素の含有量(%)を意味する。}
(1)[Cr]×[C]≦3.00、
(2)[Cu]/[Ni]:0.5〜2.2、
(3)[Mo]+0.5×[W]:0.5〜3.0%
の要件を満足し、残部:鉄および不可避不純物であるところに要旨が存在する。
好ましい実施形態において、上記冷間金型用鋼は、更に、V:0.5%以下(0%を含まない)を含有する。
好ましい実施形態において、上記冷間金型用鋼は、更に、Ti、Zr、Hf、Ta、およびNbよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計で0.5%以下(0%を含まない)含有する。
好ましい実施形態において、上記冷間金型用鋼は、更に、Co:10%以下(0%を含まない)を含有する。
好ましい実施形態において、上記冷間金型用鋼は、下式で表されるマルテンサイト変態点(Ms点):
Ms点
=550−361×[C]−39×[Mn]−35×[V]−20×[Cr]
−17×[Ni]−10×[Cu]−5×([Mo]+[W])
+15×[Co]+30×[Al]
{式中、[ ]は、各元素の含有量(%)を表す。}
は170℃以上である。
本発明の金型は、上記のいずれかの冷間金型用鋼を用いて得られる。
本発明の冷間金型用鋼は、上記のように合金成分が適切に制御されているため、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れ、溶接補修性も良好である。従って、上記の冷間金型用鋼を用いて得られる金型は、特に、引張強度が約590MPa以上のハイテン鋼板の成形用金型として好適に用いられ、寿命、とりわけ、溶接補修後の寿命が一層高められる。
本発明者は、冷間金型用鋼に要求される種々の特性のなかでも、とりわけ、硬度、熱処理後の変寸抑制性、溶接補修性の特性が高められた冷間金型用鋼を提供するため、まず、従来のJIS SKD11やマトリックスハイスを用いた金型において、金型の表面皮膜が損傷してカジリが発生する原因を探求した。
図2(a)は、金型用鋼としてJIS SKD11を用い、その上にTiNの皮膜を施した金型の表面にカジリが発生した状態を示す光学顕微鏡写真であり、図2(b)および図2(c)は、その一部を拡大した光学顕微鏡写真である。参考のため、図2(d)に、TiNの皮膜を施す前の金型母材の光学顕微鏡写真も示す。図2(d)中、白く見える部分はCr系炭化物である。図2(b)および図2(c)より明らかなように、皮膜が剥離した領域には、硬質の粗大なCr系炭化物(CrやFeを主に含有する、約1〜50μm程度の炭化物)が表面に析出し、当該炭化物を起点としてクラックが発生していることがわかる。
上記の観察結果から、本発明者は、カジリ発生の起点は上記の粗大なCr系炭化物であり、当該炭化物の生成を出来るだけ抑制(生成させない)すれば表面皮膜の剥離を防止でき、金型の寿命を改善し得ると考えた。
上記の知見に基づき、本発明者は更に検討を重ねてきた。その結果、粗大な炭化物の生成を抑え、前述した特性の改善を図るためには、C量を適切に制御したうえで、種々の合金成分を積極的に添加し、合金の成分設計を適切に制御することが極めて重要であることを突き止めた。詳細には、所望の特性を得るためには、従来のように炭化物制御による硬度増加を図るのではなく、合金成分(特に、Al、Cu、Ni、Mo、W)を積極的に添加して合金元素の析出硬化による硬度増加を図ることが有効であり、主に、Al−Ni系金属間化合物による析出硬化や、MoやWとCとの炭化物形成による二次硬化を利用すればよいことを見出し、更に実験を重ねた結果、本発明の構成に到達した。
本明細書において、「硬度が高い」とは、後記する実施例の欄に記載の方法で最大硬さを測定したとき、最大硬さが650HV以上のものを意味する。
本明細書において、「熱処理後の変寸(寸法変化率)」は、時効処理前後の厚さ、幅、長さの3方向をそれぞれ測定したとき、それらの平均値、および最大値と最小値の差の両方で評価している。説明の便宜上、前者を「変寸率の平均値」、後者を「変寸率の差」と呼ぶ。このように、本発明では、「変寸率の平均値」および「変寸率の差」の両方を用いて熱処理後の変寸を評価している点で、前者(変寸率の平均値)のみを測定する特許文献2の技術と相違している。本発明者の実験結果によれば、熱処理後の変寸を充分抑えるためには、特許文献2のように変寸率の平均値を小さくするだけでは不充分であり、厚さ、幅、長さの全方向における変寸(バラツキ)を小さくすることが不可欠であり、たとえ、変寸率の平均値を抑制したとしても変寸率の差が大きくなる場合がある(その逆もある)ことを突き止めた(後記する実施例を参照)。「熱処理後の変寸が小さい(変寸抑制性に優れる)」とは、後記する実施例の欄に記載の方法に基づいて熱処理前後の寸法変化を測定したとき、変寸率の平均値が±0.05%の範囲内であり、且つ、変寸率の差が0.08%以下であるものを意味する。
また、本明細書において、「溶接補修性」は、HAZ軟化幅で評価している。「溶接補修性に優れている」とは、後記する実施例の欄に記載の方法でHAZ軟化幅を測定したとき、6.5mm以下の範囲内にあるものを意味する。
本発明の鋼中成分は、以下に詳述するとおりであり、析出硬化に寄与する種々の合金元素の含有量が所定範囲に制御されているだけでなく、下式(1)〜(3)に示すように、所定の元素とのバランスも適切に制御されており、これにより、上記特性の改善が図られている。後記する実施例に示すように、これらのいずれかの要件を満足しないものは、所望の特性を確保することができない。特に、本発明では、CuとNiとAlをすべて添加することが不可欠であり、例えば、前述した特許文献1や特許文献3のようにこれらのいずれか一方が含まれない成分の鋼では、所望の効果が得られないことを実験によって確認している(後記する実施例を参照)。
ここで、本発明の鋼中成分を、本発明の主な改善対象である「溶接補修性」(HAZ軟化幅で評価)と「熱処理後の変寸抑制性」(長方向の変寸率と変寸率の差の両方で評価)との関係で整理すると、おおむね、以下のようになる。
まず、溶接補修性を高める(HAZ軟化幅を小さくする)ためには、主に、[Cr]×[C]の上限、Ms点(下限)、C量(下限)、Al量(下限)、Ni量(下限)、[Cu]/[Ni](上限、下限)、[Mo]+0.5×[W](下限)、V量(上限)を適切に制御することが重要である。すなわち、HAZ軟化幅を小さくするための設計指針として、マルテンサイト生成による硬化ではなく、C量を約0.2〜0.60%程度と低Cとしたうえで、合金成分(主に、Al、Cu、Ni、Mo、W)添加による析出硬化(例えば、ε−Cu、Ni−Al系金属間化合物、Ni−Mo系金属間化合物)を利用している。これらの析出物は、マトリックス中に微細に整合析出するため、硬さが著しく増加する。
特に、Cu、Ni、Alは析出硬化元素として重要であり、HAZ軟化の抑制に大きく寄与する元素である。これら元素のいずれかを実質的に添加しない鋼は、所望のHAZ軟化抑制作用が得られないことを実験によって確認している。
更に、[Cu]/[Ni]の比([Ni]に対する[Cu]の比)は、HAZ軟化の抑制と密接な関係を有しており、上記の比率を適切に制御することによってHAZ軟化を抑制できることが分かった。図6は、後記する実施例に記載の方法でHAZ軟化幅を測定したときの、[Cu]/[Ni]の比がHAZ軟化幅に及ぼす影響を示すグラフである。このグラフは、後記する表3のNo.7、8、10、表4のNo.31〜35、および37の結果をプロットしたものである。図6に示すように、[Cu]/[Ni]の比は、HAZ軟化幅と密接な関係を有しており、上記の比を0.5〜2.2の範囲内に制御することにより、HAZ軟化幅を本発明に規定する範囲内(6.5mm以下)に抑えられることが分かる。
一方、熱処理後の変寸をできるだけ小さくするためには、主に、CrとCの含有量の積([Cr]×[C]の上限)、C量(上限)、Si量(上限)、Mn量(上限)、Ms点(下限)、Al量(上限)、Ni量(上限)、Cr量(上限)、[Mo]+0.5×[W](上限)を適切に制御することが重要である。本発明では、低Cを基本としているため、Ms点が高くなって残留オーステナイト量の生成がもともと少ないことに加えて、Cu、Ni、Alなどの合金成分の含有量が適切に制御されているため、特に、約400〜550℃の時効処理後や表面硬化処理後の膨張や収縮を著しく抑えることができる。これは、上記合金成分の添加により、例えば、約400〜500℃の低温域では主にε−Cuが、約450〜530℃の中間温度域では主にNi−(Al,Mo)系金属間化合物が、約500〜550℃の高温域では主にMo−V系炭化物が生成するが、これら析出物の結晶構造(FCC構造)はマトリックス(BCC構造)と相違するため、体積が収縮し、これが、熱処理後の変寸抑制に寄与していると考えられる。また、本発明では、粗大なCr系炭化物が極力析出しないような成分設計としているため、結晶構造は、いずれの方向に対しても等方的であり、大型複雑形状の金型製造においても熱処理後の変寸を有効に抑制できると考えられる。
以下、本発明の鋼中成分について、説明する。
C:0.20〜0.60%
Cは、硬さおよび耐摩耗性を確保し、HAZ軟化幅の抑制にも寄与する元素である。また、金型母材の表面にVCやTiCなどの炭化物皮膜をCVD法で生成する場合、C濃度が低いと皮膜の厚さが薄くなるなどの問題もある。これらを勘案し、上記作用を有効に発揮させるためにC量の下限を0.20%とした。C量は0.22%以上であることが好ましい。ただし、過剰に添加すると、残留オーステナイトが増加し、高温の時効処理を行わないと所望の硬さが得られないほか、時効処理後に膨張するなどし、変寸が大きくなるため、上限を0.60%とした。C量は0.50%以下であることが好ましく、0.45%以下であることが好ましい。
Si:0.5〜2.00%
Siは、製鋼時の脱酸元素として有用であり、硬さの向上と被削性確保に寄与する元素である。また、Siは、マトリックスのマルテンサイトの焼戻し軟化を抑え、HAZ軟化幅の抑制に有用である。このような作用を有効に発揮させるため、Si量の下限を0.5%とした。ただし、過剰に添加すると、偏析が大きくなり、熱処理後の変寸が大きくなるほか、靭性も低下するようになるため、上限を2.00%とした。Si量の下限は、1%であることが好ましく、1.2%がより好ましく、一方、Si量の上限は1.85%であることが好ましい。
Mn:0.1〜2%
Mnは、焼入性確保に有用な元素であるが、過剰に添加すると、Ms点が顕著に低下し、残留オーステナイトが増加するため、高温の時効処理を行わないと所望の硬さが得られない。これらを勘案して、Mnの含有量を上記範囲に定めた。Mn量の下限は0.15%であることが好ましく、一方、Mn量の上限は1%であることが好ましく、0.5%がより好ましく、0.35%が更に好ましい。
Cr:3.00〜9.00%
Crは、所定の硬さを確保するために有用な元素である。Cr量が3.00%未満では、焼入性が不足してベイナイトが一部生成するため、硬さが低下し、耐摩耗性を確保することができない。Cr量は、3.5%以上あることが好ましく、4.0%以上であることがより好ましい。ただし、過剰に添加すると、粗大なCr系炭化物が多量に生成し、熱処理後に収縮し、皮膜の耐久性が低下するため、上限を9.00%とした。Cr量は、7.0%以下であることが好ましく、6.5%以下であることがより好ましく、6.0%以下であることが更に好ましい。
Al:0.3〜2.0%
Alは、NiAlなどのAl−Ni系金属間化合物の析出強化による硬さ向上を図るために必要な元素であり、HAZ軟化幅の抑制にも寄与している。また、Alは、脱酸剤としても有用である。これらを勘案して、Alの下限を0.3%とした。ただし、過剰に添加すると、偏析が大きくなり、熱処理後の寸法変化(特に、変寸率の差)が大きくなるほか、靭性の低下を招くため、その上限を2.0%とした。Al量は、0.50%以上1.8%以下であることが好ましく、0.7%以上1.6%以下であることがより好ましい。
Cu:1.00〜5%
Cuは、ε−Cuの析出強化による硬さ向上を図るために必要な元素であり、HAZ軟化幅の抑制にも寄与している。ただし、過剰に添加すると、鍛造割れが発生しやすくなるため、上限を5%とした。Cu量は、2.0%以上4.0%以下であることが好ましい。
Ni:1.00〜5%
Niは、NiAlなどのAl−Ni系金属間化合物の析出強化による硬さ向上を図るために必要な元素であり、HAZ軟化幅の抑制にも寄与している。また、Niは、Cuと併用することにより、Cuの過剰添加による熱間脆性を抑制し、鍛造時の割れを防止することもできる。ただし、過剰に添加すると、残留オーステナイトが増加して高温で時効しないと所定の硬さを確保できないほか、熱処理後に膨張してしまう。Ni量は、1.5%以上4.0%以下であることが好ましい。
Mo:0.5〜3%及び/又はW:2%以下(0%を含む)
MoおよびWは、いずれも、MC型炭化物を形成するほか、NiMo系金属間化合物などを形成し、析出強化に寄与する元素である。ただし、MoやWを過剰に添加すると、上記の炭化物などが過剰に生成し、靭性の低下を招くほか、熱処理後の変寸(特に、変寸率の差)が大きくなるため、上記範囲を設定した。本発明では、Moを必須成分とし、Wは選択元素とするが、両方を併用しても構わない。Moは、0.5%以上3%以下であることが好ましく、0.7%以上2.5%以下であることがより好ましい。また、Wは、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましい。
S:0.10%以下(0%を含まない)
Sは、被削性確保に有用な元素であるが、過剰に添加すると溶接割れが生じるため、上限を0.10%とした。S量は、0.07%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましく、0.025%以下であることが更に好ましい。
更に、本発明では、下記(1)〜(3)の要件を満足していることが必要である{[ ]は、各元素の含有量(%)を意味する。}。
(1)[Cr]×[C]≦3.00
上記(1)は、粗大なCr系炭化物の生成抑制を目的として設定されたものであり、[Cr]と[C]との積が3.00を超えると、熱処理後の変寸が大きくなり、表面皮膜の耐久性が低下する。[Cr]と[C]との積は、1.80以下であることが好ましく、1.70以下であることがより好ましい。なお、その下限は、熱処理後の変寸抑制などの観点からは小さい方が良いが、CrやCの添加による上記作用を有効に発揮させることなども勘案すると、おおむね、0.8であることが好ましい。
(2)[Cu]/[Ni]:0.5〜2.2
上記(2)は、主に、ε−Cuの析出強化を利用し、HAZ軟化幅を抑制するためのパラメータとして設定されたものである(後記する実施例を参照)。このような作用を有効に発揮させるため、[Ni]に対する[Cu]の比を0.5とした。ただし、上記比が大きくなると、鍛造割れが発生するため、その上限を2.2とした。上記比は、0.7以上1.5以下であることが好ましく、0.85以上1.2以下であることがより好ましい。
(3)[Mo]+0.5×[W]:0.5〜3.0%
上記(3)を構成するMoやWは、前述したように、析出強化に寄与する元素であり、上記(3)は、主に、これらの析出強化による硬さ向上を確保するためのパラメータとして設定されたものであり、HAZ軟化幅の抑制にも有効である。上記(3)中、[W]の係数(0.5)は、Moの原子量はWの約1/2であることを考慮して定めた。これらの作用を有効に発揮させるため、上記(3)の下限を0.5%とした。ただし、MoやWの量を過剰に添加すると、上記炭化物が過剰に添加し、靭性の低下を招くほか、熱処理後の変寸(特に、変寸率の差)が大きくなるため、上記(3)の上限を3.0%とした。上記(3)の下限は1.0%であることが好ましく、1.2%がより好ましく、一方、その上限は2.8%であることが好ましい。
本発明の鋼中成分は上記のとおりであり、残部:鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、例えば、製造過程で不可避的に混入する元素などが挙げられ、例えば、P、N、Oなどが例示される。P量は、おおむね、0.05%以下であることが好ましく、0.03%以下がより好ましい。N量は、おおむね、350ppm以下であることが好ましく、200ppm以下がより好ましく、150ppm以下が更に好ましい。O量は、おおむね、50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下がより好ましく、20ppm以下が更に好ましい。
本発明では、更に、他の特性改善を目的として、以下の成分を添加しても良い。
V:0.5%以下(0%を含まない)
Vは、VCなどの炭化物を形成して硬さ向上に寄与し、HAZ軟化幅の抑制に有効な元素である。また、母材表面にガス窒化、塩浴窒化、プラズマ窒化などの窒化処理を施して拡散硬化層を形成する場合に、表面硬さの向上や硬化層深さの上昇に有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、V量は、おおむね、0.05%以上添加することが好ましい。ただし、過剰に添加すると、固溶C量が低下し、母相であるマルテンサイト組織の硬さ低下を招くため、その上限を0.5%とすることが好ましい。V量は、0.4%以下であることがより好ましく、0.30%以下であることが更に好ましい。
Ti、Zr、Hf、Ta、およびNbよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計で0.5%以下(0%を含まない)
これらの元素は、いずれも、窒化物形成元素であり、当該窒化物およびAlNの微細分散化および結晶粒微細化による靭性向上に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、おおむね、Tiを0.01%以上、Zrを0.02%以上、Hfを0.04%以上、Taを0.04%以上、Nbを0.02%以上添加することが好ましい。ただし、過剰に添加すると、固溶C量が低下してマルテンサイトの硬さ低下を招くため、上記元素の合計量を0.5%とすることが好ましい。上記元素の合計量は、0.4%以下であることが好ましく、0.30%以下であることがより好ましい。なお、上記の元素は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
Co:10%以下(0%を含まない)
Coは、Ms点を高め、残留オーステナイトの低減化に有効な元素であり、これにより、硬さが向上する。上記作用を有効に発揮させるため、Co量は、おおむね、1%以上であることが好ましい。ただし、過剰に添加すると、コストなどの上昇を招くため、上限を10%とすることが好ましい。Co量の上限は5.5%であることが好ましい。
マルテンサイト変態点(Ms点)≧170℃
Ms点
=550−361×[C]−39×[Mn]−35×[V]−20×[Cr]
−17×[Ni]−10×[Cu]−5×([Mo]+[W])
+15×[Co]+30×[Al]
{式中、[ ]は、各元素の含有量(%)を表す。}
本発明において、Ms点は、主に、硬さや熱処理後の変寸抑制の指標となるものであり、Ms点が170℃未満では、残留オーステナイトが増大し、高温で時効しないと所望の硬さが得られないほか、熱処理後の膨張を招く。Ms点は高いほど良く、おおむね、230℃以上であることがより好ましいく、235℃以上であることが更に好ましく、250℃以上が更に一層好ましい。なお、その上限は、上記作用の観点からは特に限定されないが、Ms点を構成する上記元素の添加による作用効果などを勘案すると、おおむね、350℃であることが好ましく、320℃であることがより好ましい。
また、本発明には、上記の金型用鋼を用いて得られる金型も包含される。金型の製造方法は、特に限定されないが、例えば、上記鋼を溶製後、熱間鍛造してから、焼鈍(例えば、約700℃で7時間保持した後、約17℃/hrの平均冷却速度で約400℃までを炉冷した後、放冷)を行なって軟化した後、切削加工などによって所定の形状に粗加工を行ってから、約950〜1150℃の温度で溶体化処理→約400〜530℃で時効処理を行なって所望の硬さを付与する方法が挙げられる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1および表2に記載の種々の鋼種No.を用い、真空誘導溶解炉で150kgのインゴットを溶製した後、約900〜1150℃に加熱し、40mmT×75mmW×約2000mmLの板2枚に鍛造し、その後、約60℃/hrの平均冷却速度で徐冷を行なった。100℃以下の温度まで冷却した後、再び、約850℃の温度まで加熱し、約50℃/hrの平均冷却速度で徐冷を行なった(焼鈍)。
上記のようにして得られた各焼鈍材を用い、下記(1)〜(4)の試験を行った。
(1)硬さ試験(最大硬さの測定)
上記の焼鈍材から、おおむね、20mmT×20mmW×15mmLサイズの試験片を切出して硬さ測定用試験片とし、これに、以下の熱処理を施した。
溶体化処理(焼入処理):約1020〜1030℃で120分間加熱→空冷→時効処理(焼戻処理):約400〜560℃で約3時間保持→放冷
上記のように、焼戻温度を約400〜560℃の範囲内で変化させたときの硬さをビッカース硬度計(AKASHI社製の規格AVK、荷重5kg)で測定し、最大硬さ(HV)を調べた。本実施例では、最大硬さが650HV以上のものを合格(○)とした。
(2)変寸試験(変寸率の平均値および変寸率の差の測定)
上記の焼鈍材から、おおむね、40mmT×70mmW×100mmLの試験片を切出して変寸測定用試験片とした。これに、上記(1)の硬さ試験と同じ溶体化処理を行なった後、最大硬さに到達した温度で焼戻処理を行った。次に、以下のようにして「変寸率の平均値」および「変寸率の差」を測定し、下記基準に従い、これらの評価が両方○のものを、熱処理後の変寸抑制性に優れる(合格)とした。
(2−1)変寸率の平均値の測定
上記の変寸測定用試験片(焼鈍後溶体化処理前)および焼戻後の試験片について、厚さ、幅、長さの3方向をそれぞれ測定し、熱処理前後の厚さの差、幅の差、および長さの差を求め、これらの平均値(百分率)を「変寸率の平均値」とした。本実施例では、「変寸率の平均値」が±0.05%以内のものを合格(○)、±0.05%を超えるものを不合格(×)とした。
(2−2)変寸率の差の測定
上記の変寸測定用試験片(焼鈍後溶体化処理前)および焼戻後の試験片について、厚さ、幅、長さの3方向をそれぞれ測定し、熱処理前後の厚さの差、幅の差、および長さの差を求めた。これらのうち、最大値と最小値の差(百分率)を「変寸率の差」とした。変寸率の差が0.08%以下のものを合格(○)とし、0.08%を超えるものを不合格(×)とした。
(3)溶接試験(限界予熱温度、およびHAZ軟化幅の測定)
上記の焼鈍材から、おおむね、40mmT×45mmW×75mmLの試験片を切出して溶接用試験片とした。これに、上記(2)の変寸試験と同様に溶体化処理および焼戻処理を行った。
次に、このようにして得られた焼戻材に加工を施し、図3(a)の板材を得た。図3(a)の板材は、図3(b)に示す溝部を有している。次いで、表3に示す組成(残部:鉄および不可避不純物、単位:質量%)のTIGワイヤ(日本ユテク(株)製「TIG−Tectic 5HSS」、φ2.4mm)を用い、上記板材の溝部に以下の要領で肉盛溶接を行なった。
溶接条件:
電流:150A、電圧:11V、溶接速度:9.5〜14cm/mm
パス間温度:予熱温度以下
入熱:7.1〜10.4kJ/cm
予熱:なし、あり(100℃、200℃、300℃、400℃)
なお、表2のNo.22およびNo.23(いずれも従来の高C高いCr鋼を模擬した鋼)については、溶接時における母材成分への影響を防止するため、図4に示すように、開先面に溶接材料を肉盛した(バタリング)。バタリングには、下記組成のバタリング溶接用TIGワイヤ[(株)神戸製鋼所製「TGS−50」、φ2.4mm]を用い、1層盛溶接を行なった。溶接条件は、上記と同じである。
バタリング溶接用TIGワイヤの組成:0.09%C−0.93%Si−1.95%Mn−0.009%P−0.01%S(残部:鉄および不可避不純物、単位:質量%)
上記のように予熱条件を変えたとき、溶接金属(DEPO)およびHAZ部の両方で割れが発生しない温度の最低値(限界予熱温度)を測定した。限界予熱温度は低いほど、割れ難いことを意味している。本実施例では、限界予熱温度が200℃以下のものを良好(○)とし、200℃超のものを不良(×)とした。
また、上記の限界予熱温度で肉盛溶接を行なった試験片断面の硬さ分布を調べるため、板厚の1/4部位における溶接溶融線(ボンド)位置から30mm離れた位置まで1mmピッチで連続的に硬さを測定した。溶接金属中央部から、硬さが600HV以下に低下した位置までの距離を「HAZ軟化幅」とした。参考のため、前述した図1に、HAZ軟化幅の測定領域を図示している。本実施例では、HAZ軟化幅が6.5mm以下のものを溶接補修性に優れる(○)と評価し、6.5mm超のものを溶接補修性に劣る(×)と評価した。
(4)靭性試験
上記の焼鈍材に対し、以下の熱処理を施した。
溶体化処理(焼入処理):約1020〜1030℃で120分間加熱→空冷→時効処理(焼戻処理):約400〜560℃で約3時間保持→空冷または放冷
次に、図5に示すように、10mmRのVノッチ部を有する試験片を切出して靭性測定用試験片(シャルピー衝撃試験片)とした。この試験片を用いてシャルピー衝撃試験を実施し、室温での吸収エネルギー(シャルピー衝撃値)を測定した。シャルピー衝撃試験片は3本ずつ採取し、これらの平均値をシャルピー衝撃値とした。本実施例では、シャルピー衝撃値が15J以上のものを「靭性に優れる」と評価した。
これらの結果を表4〜5に示す。
表4および表5より、以下のように考察することができる。
表4のNo.1〜21は、それぞれ、本発明の要件をすべて満足する表1のNo.1〜21を用いた例であり、いずれも、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性および溶接補修性に優れているほか、靭性も高く、限界予熱温度も200℃以下と良好である。
これに対し、表5のNo.22〜43は、それぞれ、本発明で定める要件のいずれかを満足しない表2のNo.22〜43を用いた例であり、以下の不具合を有している。
表5のNo.22および23は、いずれも、従来の高C高Cr鋼を模擬した表2のNo.22および23を用いた例であり、[Cr]と[C]の積が大きく、Ms点が低いため、HAZ軟化幅および変寸率の差が増加した。なお、これらの鋼種は、焼戻温度が低いほど硬度が高くなることから、上記鋼種を用いたときの焼戻温度は510℃とし、種々の特性を測定した。
表5のNo.24は、C量が少ない表2のNo.24を用いた例であり、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られた。
表5のNo.25は、C量が多く、[Cr]と[C]の積が大きく、Ms点が低い表2のNo.25を用いた例であり、熱処理後の変寸抑制性に劣っている。
表5のNo.26は、Si量が多い表2のNo.26を用いた例であり、熱処理後の変寸率の平均値は良好であるが、変寸率の差が大きい。
表5のNo.27は、Mn量が多く、Ms点が低い表2のNo.27を用いた例であり、熱処理後の変寸率の平均値が大きい。
表5のNo.28は、S量が多い表2のNo.28を用いた例であり、限界予熱温度が高くなり、溶接割れの恐れがある。
表5のNo.29は、Al量が少ない表2のNo.29を用いた例であり、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られた。
表5のNo.30は、Al量が多い表2のNo.30を用いた例であり、熱処理後の変寸率の平均値は良好であるが、変寸率の差が大きい。
表5のNo.31は、Ni量が少なく、[Cu]/[Ni]の比が大きい表2のNo.31を用いた例であり、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られた。
表5のNo.32は、Ni量が多い表2のNo.32を用いた例であり、硬さが低下し、且つ、熱処理後の変寸率の平均値が増加した。
表5のNo.33は、Cu量が少なく、[Cu]/[Ni]の比が小さい表2のNo.33を用いた例であり、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られた。
表5のNo.34は、Cu量を実施的に添加しない鋼を模擬した例であり、Cu量が0.05%と極端に少なく、[Cu]/[Ni]の比が小さい表2のNo.34を用いたため、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られた。更には、熱処理後の変寸率の平均値が増加した。
表5のNo.35は、Ni量を実施的に添加しない鋼を模擬した例であり、Ni量が0.05%と極端に少なく、[Cu]/[Ni]の比が小さい表2のNo.35を用いたため、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られたほか、熱処理後の変寸率の平均値が増加した。
表5のNo.36は、Al量を実施的に添加しない鋼を模擬した例であり、Al量が0.05%と極端に少ない表2のNo.36を用いたため、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られたほか、熱処理後の変寸率の平均値が増加した。
表5のNo.37は、Cu量およびNi量は本発明の範囲を満足するが、[Cu]/[Ni]の比が小さい表2のNo.37を用いた例であり、HAZ軟化幅が増加した。
表5のNo.38は、Cr量が少ない表2のNo.38を用いた例であり、硬さが低下した。
表5のNo.39は、Cr量が多い表2のNo.39を用いた例であり、熱処理後の変寸抑制性に劣っている。
表5のNo.40は、[Mo]+0.5×[W]の合計量が少ない表2のNo.40を用いた例であり、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られた。
表5のNo.41は、[Mo]+0.5×[W]の合計量が多い表2のNo.41を用いた例であり、熱処理後の変寸率の平均値は良好であるが、変寸率の差が大きい。
表5のNo.42は、Ti量が多い表2のNo.42を用いた例であり、硬さの低下とHAZ軟化幅の増加が見られた。
参考のため、図7に、前述した方法によって得られた硬さ分布のプロファイルを示す。図中、本発明鋼(■)は表1のNo.4、SKD11従来鋼(◆)は表2のNo.22の結果をそれぞれ示している。図7に示すように、本発明鋼を用いれば、従来鋼に比べ、溶接後のHAZ軟化が著しく抑えられることが分かる。
図1は、母材同士を溶接金属で溶接したときの様子を模式的に示す図であり、図1(a)は溶接部の断面図であり、図1(b)は、図1(a)中に示す領域Aの硬度分布を模式的に示す図である。 図2(a)は、金型用鋼としてJIS SKD11を用い、その上にTiNの皮膜を施した金型の表面にカジリが発生した状態を示す光学顕微鏡写真、図2(b)および図2(c)は、その一部を拡大した光学顕微鏡写真、図2(d)は、TiNの皮膜を施す前の金型母材の光学顕微鏡写真である。 図3(a)は、実施例に用いた溶接用試験片の形状を示す概略図であり、図3(b)は、溝部を拡大した断面図である。 図4は、バタリングを施した試験片の様子を模式的に示す概略図である。 図5は、実施例に用いたシャルピー衝撃試験片の形状を示す概略図である。 図6は、[Cu]/[Ni]の比とHAZ軟化幅との関係を示すグラフである。 図7は、硬さ分布のプロファイルを示すグラフである。

Claims (6)

  1. C :0.20〜0.60%(質量%の意味、以下、同じ。)、
    Si:0.5〜2.00%、
    Mn:0.1〜2%、
    Cr:3.00〜9.00%、
    Al:0.3〜2.0%、
    Cu:1.00〜5%、
    Ni:1.00〜5%、
    Mo:0.5〜3%及び/又はW:2%以下(0%を含む)、
    S :0.10%以下(0%を含まない)、
    下記(1)〜(3){[ ]は、各元素の含有量(%)を意味する。}
    (1)[Cr]×[C]≦3.00、
    (2)[Cu]/[Ni]:0.5〜2.2、
    (3)[Mo]+0.5×[W]:0.5〜3.0%
    の要件を満足し、
    残部:鉄および不可避不純物であることを特徴とする冷間金型用鋼。
  2. 更に、V:0.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の冷間金型用鋼。
  3. 更に、Ti、Zr、Hf、Ta、およびNbよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計で0.5%以下(0%を含まない)含有する請求項1または2に記載の冷間金型用鋼。
  4. 更に、Co:10%以下(0%を含まない)を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の冷間金型用鋼。
  5. 下式で表されるマルテンサイト変態点(Ms点):
    Ms点
    =550−361×[C]−39×[Mn]−35×[V]−20×[Cr]
    −17×[Ni]−10×[Cu]−5×([Mo]+[W])
    +15×[Co]+30×[Al]
    {式中、[ ]は、各元素の含有量(%)を表す。}
    は170℃以上である請求項1〜4のいずれかに記載の冷間金型用鋼。
  6. 請求項1〜5のいずれかに記載の冷間金型用鋼を用いて得られる金型。
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