JP4266384B2 - 冷間金型用鋼の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、冷間金型用鋼の製造方法に関し、詳細には、自動車用鋼板や家電用鋼板などを冷間・温間でプレス成形(打ち抜き、曲げ、絞り、トリミングなど)するのに用いられる金型の素材として有用な金型鋼の製造方法に関するものである。
自動車用鋼板や家電用鋼板などの成形に用いられる金型は、鋼板の高強度化に伴い、寿命の改善が求められている。特に、自動車用鋼板では、環境問題を考慮し、自動車の燃費向上のために、引張強度が約590MPa以上のハイテン鋼板の需要が急速に高まっているが、それに伴い、金型の表面皮膜が早期に損傷するなどして「カジリ」(プレス成形時に焼きつく現象)が発生し、金型寿命が極端に低下するといった問題が生じている。
金型は、金型母材(金型用鋼)と、その表面に施される表面硬化層(表面皮膜)とから構成されている。母材の金型用鋼は、一般に、焼鈍→切削加工→焼入焼戻処理(本明細書では、特に、焼入処理を溶体化処理、焼戻処理を時効処理と呼んでいる。)によって製造される。
金型用鋼(冷間ダイス鋼)としては、これまで、JIS SKD11に代表される高C高Crの合金工具鋼や、耐摩耗性が更に改善されたJIS SKH51に代表される高速度工具鋼などが汎用されてきた。これらの工具鋼では、主に、Cr系炭化物やMo、W、V系炭化物の析出硬化によって硬度の向上を図っている。また、耐摩耗性と靭性の両方の向上を目的として、JIS SKH51のC、Mo、W、Vなどの合金含有量を低減した低合金高速度工具鋼(通常、マトリックスハイスと呼ばれる。)も使用されている。
冷間金型用鋼の更なる特性改善を目指して、例えば、特許文献1〜特許文献3には、鋼中成分の改良技術が提案されている。
特許文献1は、マトリックスハイスの硬さを更に向上させるために提案されたものであり、ここには、Nbおよび/またはTaを多量に含有させ、高温焼入れした場合の結晶粒の粗大化を抑制することにより、高温焼入れを可能とし、高硬度化(耐摩耗性の向上)を図る方法が記載されている。
特許文献2は、変寸抑制特性と高硬度特性を達成した冷間ダイス鋼に関し、主に、(ア)焼入れ時の残留オーステナイトの分解によって生じる焼戻し時の膨張変寸を、Ni−Al系金属間化合物の析出強化による変寸抑制作用によって相殺すること、(イ)所定の鋼中成分によって算出される偏析指数Kによって変寸を更に抑制することが開示されている。特許文献2の図1には、最大硬さが得られる温度で焼戻しを行なうことが示されている。
特許文献3には、焼入焼戻処理による寸法変化量(変寸)、特に、焼戻時の膨張変寸を抑制し得、硬度の上昇を目的として、適正量のNiやAlを添加し、それに応じた適正量のCuを添加した冷間ダイス鋼が開示されている。また、CおよびCrの含有量を調整し、組織中の炭化物分布を微細に分散させると、耐カジリ性も向上することが記載されている。
一方、特許文献4には、金型製造コストの低減を目的として、従来のように切削加工を行ってから焼入焼戻処理を行うのではなく、焼入焼戻状態から切削加工を行う(焼入焼戻→切削加工)「プリハードン鋼」の技術が開示されている。具体的には、高硬度でも良好な被削性を発揮し得、冷間で打抜き加工が可能な鋼として、特に、C、Si、およびSの含有量が適切に制御されたプリハードン鋼が開示されている。しかしながら、プリハードン鋼を用いた金型の寿命は短く、実用化に至っていないのが現状である。
上記の特許文献1〜4は、主に、鋼中成分の制御によって熱処理後(時効処理後または焼戻処理後)の変寸(寸法変化)を抑制するものであるが、後記する特許文献5〜7には、主に、焼入れ焼戻しなどの熱処理条件を制御することによって変寸を抑制する技術が開示されている。
このうち、特許文献5には、150〜450℃の低温焼戻しと480〜550℃の高温焼戻しを、それぞれ1回以上施すことによって焼入れ焼戻し後の寸法変化を抑える方法が開示されている。
特許文献6には、焼入れ→0〜−200℃のサブゼロ処理→500℃以下の低温焼戻しを行う方法が開示されている。詳細には、上記温度でサブゼロ処理を行い、残留オーステナイト量を調整することによって寸法変化を制御し、次いで、低温焼戻しを行って目標寸法を実現する方法が記載されている。
特許文献7には、鋼中成分の調整によって焼入れ性を高め、パーライトノーズおよびガス冷却による焼入れ時の冷却速度を制御することによって所定の硬さを実現する方法が開示されており、これにより、金型として必要な硬さを確保しつつ熱処理歪の低減を図っている。
特開平10−330894号公報 特開2006−169624号公報 特開2002−241894号公報 特開平9−125204号公報 特開2001−174248号公報 特開2002−167644号公報 特開2006−152356号公報
本発明の目的は、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れた冷間金型用鋼を効率よく得るための製造方法を提供することにある。
上記課題を解決することのできた本発明に係る冷間金型用鋼の製造方法は、C:0.20〜0.60%(質量%の意味、以下、同じ。)、Si:0.5〜2.00%、Mn:0.1〜2%、Cr:3.00〜9.00%、Al:0.3〜2.0%、Cu:1.00〜5%、Ni:1.00〜5%、Mo:0.5〜3%及び/又はW:2%以下(0%を含む)、S:0.10%以下(0%を含まない)、下記(1)〜(4){[ ]は、各元素の含有量(%)を意味する。以下、同じ。}の要件を満足する鋼を用意する工程と、
(1)[Cr]×[C]≦3.00、
(2)[Cu]/[Ni]:0.5〜2.2、
(3)[Mo]+0.5×[W]:0.5〜3.0%
(4)[Cu]/[C]:4.0〜15
下式(5)を満足する条件で溶体化処理および時効処理を行う工程と、
TA−10≦T2≦TA+10 ・・・(5)
式中、
TA=0.29×T1−2.63×[Cu]/[C]+225で表され、
T1は溶体化温度(℃)、
T2は時効温度(℃)をそれぞれ、意味する、
を包含するところに要旨が存在する。
好ましい実施形態において、上記冷間金型用鋼は、更に、V:0.5%以下(0%を含まない)を含有する。
好ましい実施形態において、上記冷間金型用鋼は、更に、Ti、Zr、Hf、Ta、およびNbよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計で0.5%以下(0%を含まない)含有する。
好ましい実施形態において、上記冷間金型用鋼は、更に、Co:10%以下(0%を含まない)を含有する。
好ましい実施形態において、上記冷間金型用鋼は、下式で表されるマルテンサイト変態点(Ms点):
Ms点
=550−361×[C]−39×[Mn]−35×[V]−20×[Cr]
−17×[Ni]−10×[Cu]−5×([Mo]+[W])
+15×[Co]+30×[Al]
{式中、[ ]は、各元素の含有量(%)を表す。}
は170℃以上である。
本発明には、上記のいずれかの製造方法を用いて得られる金型も包含される。
本発明の製造方法は、鋼中成分、並びに溶体化処理および時効処理の条件が適切に制御されているため、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れた冷間金型用鋼を効率よく製造することができる。本発明の製造方法を用いて得られる金型は、特に、引張強度が約590MPa以上のハイテン鋼板の成形用金型として好適に用いられ、寿命、とりわけ、溶接補修後の寿命が一層高められる。
本発明者は、冷間金型用鋼に要求される種々の特性のなかでも、とりわけ、硬度、熱処理後の変寸抑制性、溶接補修性(金型の損傷などを溶接によって補修したときの金型寿命特性)といった特性が高められた冷間金型用鋼を提供するため、検討を行なった。その結果、鋼中成分を適切に制御すれば所期の目的が達成されることを見出し、先に出願を行なった(平成18年10月30日出願)。
上記の出願後も、本発明者は、特に、熱処理後の変寸抑制性を一層改善するため、先の出願で開示された鋼中成分をベースにして更に検討を重ねてきた。その結果、上記の鋼を用い、且つ、適切な条件で溶体化処理および時効処理を行えば、熱処理後の寸法変化が一層抑えられた冷間金型用鋼が効率よく得られることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の製造方法は、先の出願に開示された発明のうち、熱処理後の寸法変化が一層抑えられた冷間金型用鋼を効率よく得るための好適な製造条件を特定したところに特徴がある。詳細には、溶体化温度および時効温度を、熱処理後の変寸抑制性に最も寄与するパラメータ(CuとCの質量比率)で規定したところに特徴がある。本発明によれば、例えば、特許文献5に記載されている「1回以上の二段階焼戻し処理」や、特許文献6に記載されているサブゼロ処理といった特別な熱処理を施さなくても、従来のように1回の焼戻し処理(時効処理)を行なうことによって、先願発明よりも、熱処理後の寸法変化が更に抑えられた冷間金型用鋼を得られるため、生産性に極めて優れている。
はじめに、先の出願から本発明に到達した経緯を説明する。
本発明者は、まず、従来のJIS SKD11やマトリックスハイスを用いた金型において、金型の表面皮膜が損傷してカジリが発生する原因を探求した。その結果、皮膜が剥離した領域には、硬質の粗大なCr系炭化物(CrやFeを主に含有する、約1〜50μm程度の炭化物)が表面に析出し、当該炭化物を起点としてクラックが発生していることがわかった。
上記の結果から、本発明者は、カジリ発生の起点は上記の粗大なCr系炭化物であり、当該炭化物の生成を出来るだけ抑制(生成させない)すれば表面皮膜の剥離を防止でき、金型の寿命を改善し得ると考えた。
上記の知見に基づき、本発明者は更に検討を重ねてきた。その結果、粗大な炭化物の生成を抑え、前述した特性の改善を図るためには、C量を適切に制御したうえで、種々の合金成分を積極的に添加し、合金の成分設計を適切に制御することが極めて重要であることを突き止めた。詳細には、所望の特性を得るためには、従来のように炭化物制御による硬度増加を図るのではなく、合金成分(特に、Al、Cu、Ni、Mo、W)を積極的に添加して合金元素の析出硬化による硬度増加を図ることが有効であり、主に、Al−Ni系金属間化合物による析出硬化や、MoやWとCとの炭化物形成による二次硬化を利用すればよいことを見出し、先の出願を行なった。
以上が、先の出願に到達した経緯である。その後も、本発明者は、熱処理後の変寸抑制性に一層優れた冷間金型用鋼を、特別な熱処理を行うことなく従来のように1回の溶体化処理・時効処理を行うだけで容易に得ることが可能な生産性の高い製造方法を提供するため、更に検討を重ねてきた。その結果、上記の鋼を用いて溶体化処理および時効処理を行うに当たり、後記する実施例に示すように、これらの温度(溶体化温度および時効温度)を、熱処理後の変寸抑制性に最も寄与する「CuとCの質量比率」との関係でうまく規定すれば所期の目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
具体的には、溶体化温度(℃)をT1、時効処理温度(℃)をT2、CuとCとの質量比率を[Cu]/[C]、下式
0.29×T1−2.63×[Cu]/[C]+225
で表される数値をTAとしたとき、T2が下式(5)
TA−10≦T2≦TA+10 ・・・(5)
を満足する範囲内(すなわち、TA±10℃)で溶体化処理および時効処理を行えば、熱処理後の平均変寸率および最大変寸率(詳細は後述する。)の両方が本発明の範囲を満足する変寸抑制性に極めて優れた鋼が得られることが判明した(実施例の表2を参照)。
本明細書における「溶体化処理」は焼入れ処理と同義であり、「時効処理」は焼戻し処理と同義である。
本明細書において、「硬度が高い」とは、後記する実施例の欄に記載の方法で硬さを測定したとき、硬さが650HV以上のものを意味する。
本明細書において、「熱処理後の変寸(寸法変化率)」は、時効処理前後の厚さ(Δx)、幅(Δy)、長さ(Δz)の3方向をそれぞれ測定したとき、それらの平均値[(Δx+Δy+Δz)/3]、および、上記のΔx、Δy、Δzの最大値(絶対値)の両方で評価している。説明の便宜上、前者を「変寸率の平均値または平均変寸率」と呼び、後者を「変寸率の最大値または最大変寸率」と呼ぶ。このように、本発明では、「変寸率の平均値」および「変寸率の最大値」の両方を用いて熱処理後の変寸を評価している点で、前者(変寸率の平均値)のみを測定する特許文献2の技術と相違している。本発明者の実験結果によれば、熱処理後の変寸を充分抑えるためには、特許文献2のように変寸率の平均値を小さくするだけでは不充分であり、厚さ、幅、長さの全方向における変寸(バラツキ)を小さくすることが不可欠であり、たとえ、変寸率の平均値を抑制したとしても変寸率の差が大きくなる場合がある(その逆もある)ことを突き止めた(後記する実施例を参照)。本明細書において「熱処理後の変寸が小さい(変寸抑制性に優れる)」とは、後記する実施例の欄に記載の方法に基づいて熱処理前後の寸法変化を測定したとき、変寸率の平均値が±0.03%の範囲内であり、且つ、変寸率の最大値(絶対値)が0.05%以下であるものを意味する。
なお、上述した本発明の評価基準(方法およびそのレベル)は、以下の点で、前述した本発明者による先の出願とも相違している。
まず、先の出願でも本発明でも、熱処理後の変寸の評価基準として「変寸率の平均値」を採用しているが、合格基準を、先の出願では±0.05%としているのに対し、本発明では、先の出願よりも厳しい±0.03%と定めている。
更に、先の出願では、「変寸率の差」、すなわち、前述したΔx、Δy、Δzのうち最大値と最小値の差(絶対値)を採用しているのに対し、本発明では、上記のように「変寸率の最大値」を採用している。これは、「先の出願よりも変寸抑制性に一層優れた鋼を提供するためには、熱処理後の変寸(バラツキ)が最も大きくなる部分(最大値)をできるだけ小さくする必要がある」という認識のもと、先の出願に記載の「変寸率の差」に加えて「変寸率の最大値」を採用した次第である。後記する実施例に示すように、たとえ、先の出願で規定する「変寸率の差」を満足していても本発明で規定する「変寸率の最大値」を満足しないものもある(後記する実施例を参照)が、これは、本発明における「熱処理後の変寸抑制性に優れた鋼」とはいえない。
本発明の鋼中成分は、以下に詳述するとおりであり、析出硬化に寄与する種々の合金元素の含有量が所定範囲に制御されているだけでなく、下式(1)〜(4)に示すように、所定の元素とのバランスも適切に制御されており、これにより、上記特性の改善が図られている。後記する実施例に示すように、これらのいずれかの要件を満足しないものは、所望の特性を確保することができない。特に、本発明では、CuとNiとAlをすべて添加することが不可欠であり、例えば、前述した特許文献1や特許文献3のようにこれらのいずれか一方が含まれない成分の鋼では、所望の効果が得られないことを実験によって確認している。
特に、本発明では、熱処理後の変寸をできるだけ小さくするため、主に、前述した式(5)を構成する[Cu]と[C]の質量比率のほか、CrとCの含有量の積([Cr]×[C]の上限)、C量(上限)、Si量(上限)、Mn量(上限)、Ms点(下限)、Al量(上限)、Ni量(上限)、Cr量(上限)、[Mo]+0.5×[W](上限)を適切に制御することが重要である。本発明では、低Cを基本としているため、Ms点が高くなって残留オーステナイト量の生成がもともと少ないことに加えて、Cu、Ni、Alなどの合金成分の含有量が適切に制御されているため、特に、約400〜550℃の時効処理後や表面硬化処理後の膨張や収縮を著しく抑えることができる。これは、上記合金成分の添加により、例えば、約400〜500℃の低温域では主にε−Cuが、約450〜530℃の中間温度域では主にNi−(Al,Mo)系金属間化合物が、約500〜550℃の高温域では主にMo−V系炭化物が生成するが、これら析出物の結晶構造(FCC構造)はマトリックス(BCC構造)と相違するため、体積が収縮し、これが、熱処理後の変寸抑制に寄与していると考えられる。また、本発明では、粗大なCr系炭化物が極力析出しないような成分設計としているため、結晶構造は、いずれの方向に対しても等方的であり、大型複雑形状の金型製造においても熱処理後の変寸を有効に抑制できると考えられる。
また、本発明では、溶接補修性を高める(HAZ軟化幅を小さくする)ため、主に、[Cr]×[C]の上限、Ms点(下限)、C量(下限)、Al量(下限)、Ni量(下限)、[Cu]/[Ni](上限、下限)、[Mo]+0.5×[W](下限)、V量(上限)を適切に制御している。すなわち、HAZ軟化幅を小さくするための設計指針として、マルテンサイト生成による硬化ではなく、C量を約0.2〜0.60%程度と低Cとしたうえで、合金成分(主に、Al、Cu、Ni、Mo、W)添加による析出硬化(例えば、ε−Cu、Ni−Al系金属間化合物、Ni−Mo系金属間化合物)を利用している。これらの析出物は、マトリックス中に微細に整合析出するため、硬さが著しく増加する。
特に、Cu、Ni、Alは析出硬化元素として重要であり、HAZ軟化の抑制に大きく寄与する元素である。これら元素のいずれかを実質的に添加しない鋼は、所望のHAZ軟化抑制作用が得られないことを実験によって確認している。
更に、[Cu]/[Ni]の比([Ni]に対する[Cu]の比)は、HAZ軟化の抑制と密接な関係を有しており、上記の比率を適切に制御することによってHAZ軟化を抑制できることが分かった。
以下、本発明の鋼中成分について、説明する。
C:0.20〜0.60%
Cは、硬さおよび耐摩耗性を確保し、HAZ軟化幅の抑制にも寄与する元素である。また、金型母材の表面にVCやTiCなどの炭化物皮膜をCVD法で生成する場合、C濃度が低いと皮膜の厚さが薄くなるなどの問題もある。これらを勘案し、上記作用を有効に発揮させるためにC量の下限を0.20%とした。C量は0.22%以上であることが好ましい。ただし、過剰に添加すると、残留オーステナイトが増加し、高温の時効処理を行わないと所望の硬さが得られないほか、時効処理後に膨張するなどし、変寸が大きくなるため、上限を0.60%とした。C量は0.50%以下であることが好ましく、0.45%以下であることが好ましい。
Si:0.5〜2.00%
Siは、製鋼時の脱酸元素として有用であり、硬さの向上と被削性確保に寄与する元素である。また、Siは、マトリックスのマルテンサイトの焼戻し軟化を抑え、HAZ軟化幅の抑制に有用である。このような作用を有効に発揮させるため、Si量の下限を0.5%とした。ただし、過剰に添加すると、偏析が大きくなり、熱処理後の変寸が大きくなるほか、靭性も低下するようになるため、上限を2.00%とした。Si量の下限は、1%であることが好ましく、1.2%がより好ましく、一方、Si量の上限は1.85%であることが好ましい。
Mn:0.1〜2%
Mnは、焼入性確保に有用な元素であるが、過剰に添加すると、Ms点が顕著に低下し、残留オーステナイトが増加するため、高温の時効処理を行わないと所望の硬さが得られない。これらを勘案して、Mnの含有量を上記範囲に定めた。Mn量の下限は0.15%であることが好ましく、一方、Mn量の上限は1%であることが好ましく、0.5%がより好ましく、0.35%が更に好ましい。
Cr:3.00〜9.00%
Crは、所定の硬さを確保するために有用な元素である。Cr量が3.00%未満では、焼入性が不足してベイナイトが一部生成するため、硬さが低下し、耐摩耗性を確保することができない。Cr量は、3.5%以上あることが好ましく、4.0%以上であることがより好ましい。ただし、過剰に添加すると、粗大なCr系炭化物が多量に生成し、熱処理後に収縮し、皮膜の耐久性が低下するため、上限を9.00%とした。Cr量は、7.0%以下であることが好ましく、6.5%以下であることがより好ましく、6.0%以下であることが更に好ましい。
Al:0.3〜2.0%
Alは、NiAlなどのAl−Ni系金属間化合物の析出強化による硬さ向上を図るために必要な元素であり、HAZ軟化幅の抑制にも寄与している。また、Alは、脱酸剤としても有用である。これらを勘案して、Alの下限を0.3%とした。ただし、過剰に添加すると、偏析が大きくなり、熱処理後の寸法変化(特に、変寸率の差)が大きくなるほか、靭性の低下を招くため、その上限を2.0%とした。Al量は、0.50%以上1.8%以下であることが好ましく、0.7%以上1.6%以下であることがより好ましい。
Cu:1.00〜5%
Cuは、ε−Cuの析出強化による硬さ向上を図るために必要な元素であり、HAZ軟化幅の抑制にも寄与している。ただし、過剰に添加すると、鍛造割れが発生しやすくなるため、上限を5%とした。Cu量は、2.0%以上4.0%以下であることが好ましい。
Ni:1.00〜5%
Niは、NiAlなどのAl−Ni系金属間化合物の析出強化による硬さ向上を図るために必要な元素であり、HAZ軟化幅の抑制にも寄与している。また、Niは、Cuと併用することにより、Cuの過剰添加による熱間脆性を抑制し、鍛造時の割れを防止することもできる。ただし、過剰に添加すると、残留オーステナイトが増加して高温で時効しないと所定の硬さを確保できないほか、熱処理後に膨張してしまう。Ni量は、1.5%以上4.0%以下であることが好ましい。
Mo:0.5〜3%及び/又はW:2%以下(0%を含む)
MoおよびWは、いずれも、MC型炭化物を形成するほか、NiMo系金属間化合物などを形成し、析出強化に寄与する元素である。ただし、MoやWを過剰に添加すると、上記の炭化物などが過剰に生成し、靭性の低下を招くほか、熱処理後の変寸(特に、変寸率の差)が大きくなるため、上記範囲を設定した。本発明では、Moを必須成分とし、Wは選択元素とするが、両方を併用しても構わない。Moは、0.5%以上3%以下であることが好ましく、0.7%以上2.5%以下であることがより好ましい。また、Wは、2%以下であることが好ましく、1.5%以下であることがより好ましい。
S:0.10%以下(0%を含まない)
Sは、被削性確保に有用な元素であるが、過剰に添加すると溶接割れが生じるため、上限を0.10%とした。S量は、0.07%以下であることが好ましく、0.05%以下であることがより好ましく、0.025%以下であることが更に好ましい。
更に、本発明では、下記(1)〜(4)の要件を満足していることが必要である{[ ]は、各元素の含有量(%)を意味する。}。
(1)[Cr]×[C]≦3.00
上記(1)は、粗大なCr系炭化物の生成抑制を目的として設定されたものであり、[Cr]と[C]との積が3.00を超えると、熱処理後の変寸が大きくなり、表面皮膜の耐久性が低下する。[Cr]と[C]との積は、1.80以下であることが好ましく、1.70以下であることがより好ましい。なお、その下限は、熱処理後の変寸抑制などの観点からは小さい方が良いが、CrやCの添加による上記作用を有効に発揮させることなども勘案すると、おおむね、0.8であることが好ましい。
(2)[Cu]/[Ni]:0.5〜2.2
上記(2)は、主に、ε−Cuの析出強化を利用し、HAZ軟化幅を抑制するためのパラメータとして設定されたものである(後記する実施例を参照)。このような作用を有効に発揮させるため、[Ni]に対する[Cu]の比を0.5とした。ただし、上記比が大きくなると、鍛造割れが発生するため、その上限を2.2とした。上記比は、0.7以上1.5以下であることが好ましく、0.85以上1.2以下であることがより好ましい。
(3)[Mo]+0.5×[W]:0.5〜3.0%
上記(3)を構成するMoやWは、前述したように、析出強化に寄与する元素であり、上記(3)は、主に、これらの析出強化による硬さ向上を確保するためのパラメータとして設定されたものであり、HAZ軟化幅の抑制にも有効である。上記(3)中、[W]の係数(0.5)は、Moの原子量はWの約1/2であることを考慮して定めた。これらの作用を有効に発揮させるため、上記(4)の下限を0.5%とした。ただし、MoやWの量を過剰に添加すると、上記炭化物が過剰に添加し、靭性の低下を招くほか、熱処理後の変寸(特に、変寸率の差)が大きくなるため、上記(3)の上限を3.0%とした。上記(3)の下限は1.0%であることが好ましく、1.2%がより好ましく、一方、その上限は2.8%であることが好ましい。
(4)[Cu]/[C]:4.0〜15
上記(4)は、主に、熱処理後(時効処理後)の硬さのピークをより低温側にシフトさせるためのパラメータとして位置づけられ、これにより、熱処理後の変寸抑制性を図っている。一般に時効処理(焼戻し)後の膨張変寸は、溶体化処理(焼入れ)時の残留オーステナイトの開放(分解)によって発生するといわれている(例えば、後記する図2を参照)が、上記(4)のように、時効後の硬さのピークを低温側にシフトさせる作用を有するCuと、残留オーステナイトと密接な相関関係を有するCとの質量比([Cu]/[C]の比)を適切に制御すれば、熱処理後の変寸を著しく抑制できることが分かった。
図1は、後記する実施例に記載の方法で変寸率(平均値および最大値)を測定したときの、[Cu]/[C]の比が変寸率に及ぼす影響を示すグラフである。このグラフは、後記する表2のNo.1(鋼種A)、9(鋼種C)、13(鋼種D)、27(鋼種J)、29(鋼種K)の結果をプロットしたものである。これらの鋼種は、C、Si、Mn、Cr、Al、Cu、Ni、Mo、Wをほぼ同程度含有するものである。図1に示すように、[Cu]/[C]の比は、変寸率と密接な関係を有しており、上記の比を4.0〜15の範囲内に制御することにより、変寸率を本発明に規定する範囲内(変寸率の平均値が±0.03%以下、変寸率の最大値が0.05%以下)に抑えられることが分かる。
[Cu]/[C]の比が4.0未満では、硬さがピークとなる時効温度が残留オーステナイトの分解し始める温度よりも、かなり高温になるため、時効処理後の膨張量が大きくなり、一方、上記の比が15超では、時効温度の上昇に伴う収縮(溶体化処理後の膨張との相殺)が生じなくなるため、いずれにしても、所定の耐変寸抑制性が得られない。上記の比は、5.0以上13以下であることが好ましく、6.0以上12以下であることがより好ましい。
本発明の鋼中成分は上記のとおりであり、残部:鉄および不可避不純物である。不可避不純物としては、例えば、製造過程で不可避的に混入する元素などが挙げられ、例えば、P、N、Oなどが例示される。P量は、おおむね、0.05%以下であることが好ましく、0.03%以下がより好ましい。N量は、おおむね、350ppm以下であることが好ましく、200ppm以下がより好ましく、150ppm以下が更に好ましい。O量は、おおむね、50ppm以下であることが好ましく、30ppm以下がより好ましく、20ppm以下が更に好ましい。
本発明では、更に、他の特性改善を目的として、以下の成分を添加しても良い。
V:0.5%以下(0%を含まない)
Vは、VCなどの炭化物を形成して硬さ向上に寄与し、HAZ軟化幅の抑制に有効な元素である。また、母材表面にガス窒化、塩浴窒化、プラズマ窒化などの窒化処理を施して拡散硬化層を形成する場合に、表面硬さの向上や硬化層深さの上昇に有効な元素である。このような作用を有効に発揮させるためには、V量は、おおむね、0.05%以上添加することが好ましい。ただし、過剰に添加すると、固溶C量が低下し、母相であるマルテンサイト組織の硬さ低下を招くため、その上限を0.5%とすることが好ましい。V量は、0.4%以下であることがより好ましく、0.30%以下であることが更に好ましい。
Ti、Zr、Hf、Ta、およびNbよりなる群から選択される少なくとも一種の元素を合計で0.5%以下(0%を含まない)
これらの元素は、いずれも、窒化物形成元素であり、当該窒化物およびAlNの微細分散化および結晶粒微細化による靭性向上に寄与する元素である。このような作用を有効に発揮させるため、おおむね、Tiを0.01%以上、Zrを0.02%以上、Hfを0.04%以上、Taを0.04%以上、Nbを0.02%以上添加することが好ましい。ただし、過剰に添加すると、固溶C量が低下してマルテンサイトの硬さ低下を招くため、上記元素の合計量を0.5%とすることが好ましい。上記元素の合計量は、0.4%以下であることが好ましく、0.30%以下であることがより好ましい。なお、上記の元素は、単独で添加しても良いし、2種以上を併用しても構わない。
Co:10%以下(0%を含まない)
Coは、Ms点を高め、残留オーステナイトの低減化に有効な元素であり、これにより、硬さが向上する。上記作用を有効に発揮させるため、Co量は、おおむね、1%以上であることが好ましい。ただし、過剰に添加すると、コストなどの上昇を招くため、上限を10%とすることが好ましい。Co量の上限は5.5%であることが好ましい。
マルテンサイト変態点(Ms点)≧170℃
Ms点
=550−361×[C]−39×[Mn]−35×[V]−20×[Cr]
−17×[Ni]−10×[Cu]−5×([Mo]+[W])
+15×[Co]+30×[Al]
{式中、[ ]は、各元素の含有量(%)を表す。}
本発明において、Ms点は、主に、硬さや熱処理後の変寸抑制の指標となるものであり、Ms点が170℃未満では、残留オーステナイトが増大し、高温で時効しないと所望の硬さが得られないほか、熱処理後の膨張を招く。Ms点は高いほど良く、おおむね、230℃以上であることがより好ましいく、235℃以上であることが更に好ましく、250℃以上が更に一層好ましい。なお、その上限は、上記作用の観点からは特に限定されないが、Ms点を構成する上記元素の添加による作用効果などを勘案すると、おおむね、350℃であることが好ましく、320℃であることがより好ましい。
次に、本発明の金型用鋼を製造する方法について説明する。
本発明の製造方法は、前述した要件を満足する鋼を用意する工程と、下式(5)を満足する条件で溶体化処理および時効処理を行う工程とを包含している。
TA−10≦T2≦TA+10 ・・・(5)
式中、
TA=0.29×T1−2.63×[Cu]/[C]+225で表され、
T1は溶体化温度(℃)、
T2は時効温度(℃)をそれぞれ、意味する。
具体的には、前述した要件を満足する鋼を溶製した後、熱間鍛造してから、焼鈍(例えば、約700℃で7時間保持した後、約17℃/hrの平均冷却速度で約400℃までを炉冷した後、放冷)を行なって軟化した後、切削加工などによって所定の形状に粗加工を行ってから、上式(5)の条件で溶体化処理および時効処理を行なえばよい。
前述したように、本発明では、溶体化処理時の残留オーステナイト量が少ない鋼中成分としているが、更に、上式(5)に示すように、CuとCの質量比([Cu]/[C])を溶体化温度T1および時効温度T2との関係で制御すれば、時効処理後に残留オーステナイトが分解して膨張する前に時効後の硬さがピークになるように調整されるため、熱処理後の変寸抑制と硬さとの両立を図ることができる。一般に、金型用鋼の製造に当たっては、約950〜1150℃の温度で溶体化処理→約400〜530℃の温度で時効処理を行なって所望の硬さが付与されているが、本発明者の実験結果によれば、上記の範囲で溶体化処理および時効処理を行っても、所望の硬さが得られなかったり熱処理後の変寸を充分抑えられない場合があることが判明した(後記する実施例を参照)ため、上式(5)を特定した次第である。
本発明の上記メカニズムを、前述した特許文献2(従来の高C高Cr鋼に相当)の方法と対比すると、特許文献2では、図2(特許文献2の図1に相当)に示すように、残留オーステナイトがある程度分解した時点で焼戻し時の変寸がゼロになるように焼戻し処理を行っているのに対し、本発明では、残留オーステナイトの分解が起こる前あるいは分解し始めた直後の温度にて焼戻し処理を行っている点で、両者は相違している。すなわち、本発明は、従来の高C高Cr鋼に比べ、おおむね、低い温度で時効処理をいっている(具体的には、おおむね、約500℃以下の低温度)。本発明によれば、特許文献2のように熱処理後の変寸が激しい領域(図3中、A)で時効処理を行わずに、安定な残留オーステナイトが多く生成していると推察される領域(図3中、B)で時効処理を行っているため、特許文献2に比べて変寸のバラツキが小さい鋼が得られると思料される。また、このように比較的低温度で時効処理を行った場合には、残留オーステナイトの安定性が向上し、残留オーステナイトの経時変化が小さくなるため、熱処理後の変寸の経時的変化も小さくなるといった効果も得られる。
時効温度T2は、上記で表されるTA±5℃であることが好ましい。
なお、溶体化温度T1は、金型用鋼の製造に通常採用される範囲より低い温度を採用することが可能であり、これにより熱処理変形を少なくすることができる。具体的には、おおむね、900〜1150℃の範囲内であることが好ましい。
本発明では、溶体化処理および時効処理の温度が上記のように適切に制御されていれば良いのであって、これらの時間は特に限定されず、金型用鋼の製造に通常用いられる条件で実施すれば良いが、おおむね、溶体化時間(加熱時間)を1〜5時間程度、時効時間(保持時間)を2〜8時間程度に制御すれば良い。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらは何れも本発明の技術的範囲に含まれる。
表1に記載の鋼種A〜Kを用い、真空誘導溶解炉で150kgのインゴットを溶製した後、約900〜1150℃に加熱し、40mmT×75mmW×約2000mmLの板2枚に鍛造し、その後、約60℃/hrの平均冷却速度で徐冷を行なった。100℃以下の温度まで冷却した後、再び、約850℃の温度まで加熱し、約50℃/hrの平均冷却速度で徐冷を行なった(焼鈍)。
上記のようにして得られた各焼鈍材を用い、下記(1)〜(2)の試験を行った。
(1)硬さ試験(硬さの測定)
上記の焼鈍材から、おおむね、20mmT×20mmW×15mmLサイズの試験片を切出して硬さ測定用試験片とし、これに、表2に記載の条件で溶体化処理→空冷→時効処理を行なった後、放冷した。なお、いずれにおいても、溶体化処理時間は約120分間、時効処理時間は約3時間とした。
時効処理後の硬さをビッカース硬度計(AKASHI社製の規格AVK、荷重5kg)で測定し、硬さ(HV)を調べた。本実施例では、硬さが650HV以上のものを合格(○)とした。
(2)変寸試験(変寸率の平均値および変寸率の最大値の測定)
上記の焼鈍材から、おおむね、40mmT×70mmW×100mmLの試験片を切出して変寸測定用試験片とした後、表2に条件で溶体化処理→ファン空冷→時効処理を行なった後、放冷した。次に、以下のようにして「変寸率の平均値」および「変寸率の最大値」を測定し、下記基準に従い、これらの評価がすべて○のものを、熱処理後の変寸抑制性に優れる(合格)とした。
(2−1)変寸率の平均値(平均変寸率)の測定
上記の変寸測定用試験片(焼鈍後溶体化処理前)および時効後の試験片について、厚さ、幅、長さの3方向をそれぞれ測定し、熱処理前後の厚さの差、幅の差、および長さの差を求め、これらの平均値(百分率)を「変寸率の平均値」とした。本実施例では、「変寸率の平均値」が±0.03%以内のものを合格(○)、±0.03%を超えるものを不合格(×)とした。
(2−2)変寸率の最大値(最大変寸率)の測定
上記の変寸測定用試験片(焼鈍後溶体化処理前)および時効後の試験片について、厚さ、幅、長さの3方向をそれぞれ測定し、熱処理前後の厚さの差、幅の差、および長さの差を求め、これらの最大値の絶対値(百分率)を「変寸率の最大値」とした。変寸率の最大値が0.05%以下のものを合格(○)とし、0.05%を超えるものを不合格(×)とした。
(2−3)変寸率の差の測定
参考のため、先の出願に記載の「変寸率の差」も測定した。具体的には、上記の変寸測定用試験片(焼鈍後溶体化処理前)および時効後の試験片について、厚さ、幅、長さの3方向をそれぞれ測定し、熱処理前後の厚さの差、幅の差、および長さの差を求めた。これらのうち、最大値と最小値の差(百分率)を「変寸率の差」とした。変寸率の差が0.08%以下のものを合格(○)とし、0.08%を超えるものを不合格(×)とした。
これらの結果を表2に示す。
Figure 0004266384
Figure 0004266384
表2より、以下のように考察することができる。
まず、表2のNo.1〜4は、鋼中成分が本発明の要件を満足する表1の鋼種Aを用い、溶体化温度T1および時効温度T2を種々変化させたときの特性を調べたものである。
このうち、No.1およびNo.2は、時効温度T2が本発明の範囲(TA±10℃)を満足する本発明例であり、いずれも、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性(変寸率の差のみならず、平均変寸率および最大変寸率もすべて)に優れている。
これに対し、No.3は、時効温度T2が本発明の範囲を超える比較例、No.4は、時効温度T2が本発明の範囲を下回る比較例であり、いずれも、硬度が低く、且つ、熱処理後の変寸率の差は良好であるが平均変寸率および最大変寸率は低下した。
また、表2のNo.5〜8は、鋼中成分が本発明の要件を満足する表1の鋼種Bを用い、溶体化温度T1および時効温度T2を種々変化させたときの特性を調べたものである。
このうち、No.5およびNo.6は、時効温度T2が本発明の範囲(TA±10℃)を満足する本発明例であり、いずれも、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れている。
これに対し、No.7は、時効温度T2が本発明の範囲を超える比較例であり、No.8は、時効温度T2が本発明の範囲を下回る比較例であり、いずれも、熱処理後の変寸率の差は良好であるが平均変寸率および最大変寸率が低下した。また、No.8は硬度も低下した。
また、表2のNo.9〜12は、鋼中成分が本発明の要件を満足する表1の鋼種Cを用い、溶体化温度T1および時効温度T2を種々変化させたときの特性を調べたものである。
このうち、No.9およびNo.10は、時効温度T2が本発明の範囲(TA±10℃)を満足する本発明例であり、いずれも、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れている。
これに対し、No.11は、時効温度T2が本発明の範囲を超える比較例であり、No.12は、時効温度T2が本発明の範囲を下回る比較例であり、硬度の低下と熱処理後の最大変寸率の増加が見られた。また、No.11は、熱処理後の平均変寸率も増加した。
また、表2のNo.13〜15は、鋼中成分が本発明の要件を満足する表1の鋼種Dを用い、溶体化温度T1および時効温度T2を種々変化させたときの特性を調べたものである。
このうち、No.13およびNo.14は、時効温度T2が本発明の範囲(TA±10℃)を満足する本発明例であり、いずれも、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れている。
これに対し、No.15は、時効温度T2が本発明の範囲を超える比較例であり、熱処理後の最大変寸率が増加した。
また、表2のNo.16〜18は、鋼中成分が本発明の要件を満足する表1の鋼種Eを用い、溶体化温度T1および時効温度T2を種々変化させたときの特性を調べたものである。
このうち、No.16およびNo.17は、時効温度T2が本発明の範囲(TA±10℃)を満足する本発明例であり、いずれも、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れている。
これに対し、No.18は、時効温度T2が本発明の範囲を超える比較例であり、熱処理後の変寸率の差は良好であるが平均変寸率および最大変寸率は低下した。
また、表2のNo.19〜21は、鋼中成分が本発明の要件を満足する表1の鋼種Fを用い、溶体化温度T1および時効温度T2を種々変化させたときの特性を調べたものである。
このうち、No.19およびNo.20は、時効温度T2が本発明の範囲(TA±10℃)を満足する本発明例であり、いずれも、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れている。
これに対し、No.21は、時効温度T2が本発明の範囲を超える比較例であり、熱処理後の変寸率の差は良好であるが平均変寸率および最大変寸率は低下した。
また、表2のNo.22〜24は、鋼中成分が本発明の要件を満足する表1の鋼種Gを用い、溶体化温度T1および時効温度T2を種々変化させたときの特性を調べたものである。
このうち、No.22およびNo.23は、時効温度T2が本発明の範囲(TA±10℃)を満足する本発明例であり、いずれも、硬度が高く、熱処理後の変寸抑制性に優れている。
これに対し、No.24は、時効温度T2が本発明の範囲を超える比較例であり、熱処理後の変寸率の差は良好であるが平均変寸率および最大変寸率は低下した。
以下のNo.は、溶体化温度および時効温度は本発明の要件を満足しているが、鋼中成分が本発明の範囲を満足しないために種々の不具合を有する比較例である。
No.25およびNo.26は、いずれも、従来の高C高Cr鋼を模擬した表1の鋼種Hおよび鋼種Iを用いた例であり、[Cr]と[C]の積が大きく、[Cu]と[C]の比が小さく、Ms点が低い鋼種を用いたため、熱処理後の平均変寸率、最大変寸率、変寸率のすべてが増加した。なお、これらの鋼種は、焼戻温度が低い場合に高い硬度が得られるため、上記鋼種を用いたときの焼戻温度は510℃とし、種々の特性を測定した。
No.27およびNo.28は、Cu量が少なく、[Cu]/[Ni]の比および[Cu]/[C]の比が小さい表1の鋼種Jを用いた例であり、硬さの低下と最大変寸率の増加が見られた。
No.29およびNo.30は、[Cu]と[C]の比が大きい表1の鋼種Kを用いた例であり、いずれも、最大変寸率が増加した。
なお、本実施例には、変寸率の経時的変化は示していないが、本発明の要件を満足する条件で溶体化処理→時効処理を行えば、高い硬度と良好な変寸特性を維持しつつ、しかも、変寸率の経時的変化も小さく抑えられると予想される。
図1は、[Cu]/[C]の比と変寸率(平均値、最大値)との関係を示すグラフである。 図2は、時効処理による硬さと寸法変化(変寸率)への影響を模式的に示す図である。 図3は、時効処理による変寸量への影響を模式的に示す図である。

Claims (4)

  1. C :0.20〜0.60%(質量%の意味、以下、同じ。)、
    Si:0.5〜2.00%、
    Mn:0.1〜2%、
    Cr:3.00〜9.00%、
    Al:0.3〜2.0%、
    Cu:1.00〜5%、
    Ni:1.00〜5%、
    Mo:0.5〜3%及び/又はW:2%以下(0%を含む)、
    S :0.10%以下(0%を含まない)、
    下記(1)〜(4){[ ]は、各元素の含有量(%)を意味する。以下、同じ。}
    (1)[Cr]×[C]≦3.00、
    (2)[Cu]/[Ni]:0.5〜2.2、
    (3)[Mo]+0.5×[W]:0.5〜3.0%、
    (4)[Cu]/[C]:4.0〜15、
    の要件を満足する鋼を用意する工程と、
    下式(5)を満足する条件で溶体化処理および時効処理を行う工程と、
    TA−10≦T2≦TA+10 ・・・(5)
    式中、
    TA=0.29×T1−2.63×[Cu]/[C]+225で表され、
    T1は溶体化温度(℃)、
    T2は時効温度(℃)をそれぞれ、意味する、
    を包含することを特徴とする冷間金型用鋼の製造方法。
  2. 前記鋼は、V:0.5%以下(0%を含まない)を含有する請求項1に記載の製造方法。
  3. 前記鋼は、Co:10%以下(0%を含まない)を含有する請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 下式で表されるマルテンサイト変態点(Ms点):
    Ms点
    =550−361×[C]−39×[Mn]−35×[V]−20×[Cr]
    −17×[Ni]−10×[Cu]−5×([Mo]+[W])
    +15×[Co]+30×[Al]
    は170℃以上である請求項1〜のいずれかに記載の製造方法。
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