JP6569319B2 - 耐摩耗鋼板およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、耐摩耗鋼板およびその製造方法に関する。
例えば、土木、鉱山用の建設機械、大型の産業機械などに用いられる部材には耐摩耗性が求められる。耐摩耗性が部材の表面硬さに強く支配されることが知られているように、耐摩耗性が要求される機械の構成部材には高硬度鋼が適用されている。
国際公開第2011/061812号(特許文献1)には、所定の化学組成を有し、焼入性指数DIと鋼の板厚t(mm)との比(DI/t)が0.5〜15.0、マルテンサイト変態開始温度Msが430以下、ミクロ組織中のマルテンサイト比率Mが70%以上、M×Cが23以下、表面硬さがブリネル硬さでHBW400〜500である高靱性耐摩耗鋼に関する発明が開示されている。
特開平10−8186号公報(特許文献2)には、鋼板の表層部がマルテンサイト組織またはマルテンサイトとベイナイトの混合組織からなり、前記鋼板の表層部のビッカース硬さが300〜550の範囲で、かつ前記鋼板の表層部と内部の境界位置のビッカース硬さHVsと前記鋼板内部の中心位置のビッカース硬さHVcおよび前記鋼板の板厚t(mm)との関係が、前記鋼板の板厚tが30mm未満では、HVs−HVc≧0.4×tであり、前記鋼板の板厚tが30mm以上では、HVs−HVc≧0.6×t−6である耐摩耗鋼板に関する発明が開示されている。
国際公開第2011/061812号 特開平10−8186号公報
特許文献1に記載の発明では、耐摩耗性、靱性および加工性が並立できる範囲に表面硬さを制御するためにC含有量を制御することとしている。しかし、表面硬さのみに着目しており、耐摩耗性および加工性の両立は困難な場合がある。
特許文献2に記載の発明では、表層位置および中心位置の硬さに着目しているものの、表層位置よりも中心位置における硬さが低いため、優れた耐磨耗性を維持するのは困難である。
このように、鋼板の表面硬さは、上昇させると、耐摩耗性を上昇させる一方で加工性を劣化させ、低下させると、加工性を上昇させる一方で耐摩耗性を劣化させる。このため、従来技術において、優れた耐摩耗性および加工性を有する鋼材を得ることはできていない。
本発明は、従来技術の問題を解決するためになされたものであり、優れた耐摩耗性および加工性を有する耐磨耗鋼板を提供することを課題としている。
本発明者らは、この課題に対し、加工性を向上させるメカニズムについて詳細に検討をし、下記の知見を得た。
(a)鋼板を加工する際、最も鋼板および加工器具に負荷がかかるのは、加工の初期段階、すなわち、鋼板の表面を加工するときである。そして、一旦加工が進めば、加工初期に比べて容易に加工を進めることができる。したがって、優れた耐摩耗性を確保するために鋼板内部の硬さを維持する一方で、鋼板の表裏面の極一部のみに加工性の高い軟質層を形成させればよい。
(b)このような軟質相を鋼板の表裏面に形成するためには、鋼板の表裏面の極一部のみに局所的に焼戻しを実施すればよく、例えば、短時間の焼戻し処理が考えられる。しかし、単に、焼戻し処理の時間を短くするだけでは、加工性を向上させるのに十分な厚さの軟質層を形成させるとともに、鋼板内部の硬さを確保することが困難となる。
そこで、本発明者らは、鋼板内部の硬さを低下させることなく、鋼板の表裏面の極一部のみに加工性の高い軟質層を設ける方法について更なる検討を重ねた結果、下記の知見を得た。
(c)熱間圧延後直接焼入れプロセスにおいて、冷却を一旦中断すると、鋼板内部の潜熱によって復熱が生じる。この複熱を利用すれば、鋼板の表裏面の極一部のみに局所的に焼戻しを実施することができ、その結果、鋼板の表裏面の極一部のみに加工性の高い軟質層を形成することができる。
(d)一方、冷却の中断時間が長すぎると、焼入れが不十分となり、鋼板内部の硬さが低下する。このため、焼入れ処理としての最低限の平均冷却速度を維持することが重要である。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の耐磨耗鋼板およびその製造方法を要旨としている。
(A)化学組成が、質量%で、
C:0.12〜0.30%、
Si:0.01〜1.0%、
Mn:0.5〜2.0%、
P:0.015%以下、
S:0.005%以下、
Cr:0.3〜1.5%、
Al:0.03〜0.08%、
Ti:0.005〜0.02%、
B:0.0005〜0.003%、
N:0.005%以下、
O:0.003%以下、
Mo:0〜1.5%、
Ni:0〜1.5%、
Cu:0〜1.0%、
Nb:0〜0.1%、
V:0〜0.1%、
Ca:0〜0.01%、
Mg:0〜0.01%、
残部:Feおよび不純物である耐磨耗鋼板であって、
前記鋼板の板厚方向において、前記鋼板の少なくとも一方の表面から0.5mm位置のビッカース硬さH1と、該表面から1.5mm位置のビッカース硬さH2との差(H2−H1)が、30以上であり、
前記鋼板のそれぞれの表面から0.7mm位置のブリネル硬さが、350以上であり、
前記鋼板のそれぞれの表面から0.5mm以上0.25t(t:板厚(mm))以下の領域における金属組織が、90%以上のマルテンサイト組織である、
耐摩耗鋼板。
(B)質量%で、
Mo:1.5%以下、Ni:1.5%以下、Cu:1.0%以下、Nb:0.1%以下V:0.1%以下、Ca:0.01%以下およびMg:0.01%以下から選択される1種以上を含有する、
上記(A)の耐摩耗鋼板。
(C)質量%で、
前記鋼板のそれぞれの表面が焼戻しマルテンサイト組織である
上記(A)または(B)に記載の耐摩耗鋼板。
(D)下記(1)〜(3)の工程を備える、上記(A)〜(C)のいずれかの耐摩耗鋼板の製造方法。
(1)上記(A)〜(C)のいずれかの化学組成を備えたスラブを1000〜1200℃に加熱する加熱工程、
(2)前記スラブを熱間で圧延して鋼板を得るに際して、850℃以上の温度域におけるスラブ厚さに対する累積圧下率が50%以上であり、かつ750℃以上の温度域で圧延を完了する熱間圧延工程、および、
(3)前記鋼板を680℃以上の温度域から500℃以下の温度域まで冷却するに際して、前記鋼板のそれぞれの表面から0.25t(t:板厚(mm))位置における平均冷却速度が下記式から求められるVc(℃/s)以上であり、かつ冷却途中に少なくとも一回、前記鋼板の少なくとも一方の表面温度が300℃以下となり、その後400℃以上に複熱する熱履歴を経る焼入れ工程。
Figure 0006569319
ただし、上記式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
本発明によれば、優れた耐摩耗および加工性を兼備した耐摩耗鋼板を提供することができる。この耐摩耗鋼板は、例えば、土木、鉱山用の建設機械、大型の産業機械など耐摩耗性が求められる機械構成部材として用いるのに好適である。
以下に、本発明の構成要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
(A)鋼板の化学組成について
C:0.12〜0.30%
Cは、表面硬さの向上に最も有効であり、かつ安価な元素である。C含有量が0.12%未満の場合、他の合金元素を含有させて硬さ低下を補う必要が生じ、コスト増となる。一方、その含有量が0.30%を超えると、加工性を著しく劣化させるとともに耐遅れ破壊性が著しく阻害される。このため、C含有量は、0.12〜0.30%とする。好ましい下限は0.15%であり、好ましい上限は0.28%である。
Si:0.01〜1.0%
Siは、表面硬さおよび耐遅れ破壊性、それぞれの向上に寄与する。Si含有量が0.01%未満では上記の効果が不十分である。一方、その含有量が1.0%を超えると、加工性を著しく劣化させるとともに耐熱亀裂発生性に影響を与える靱性を劣化させる。このため、Si含有量は、0.01〜1.0%とする。好ましい下限は0.05%であり、好ましい上限は0.8%である。
Mn:0.5〜2.0%
Mnは、焼入れ性向上を通じて表面硬さを向上させる。Mn含有量が0.5%未満では、他の合金元素を含有させて硬さを補う必要が生じ、コスト増となる。一方、その含有量が2.0%を超えると、加工性を著しく劣化させるとともに耐遅れ破壊性能を著しく損なう。このため、Mn含有量は、0.5〜2.0%とする。好ましい下限は0.6%であり、好ましい上限は1.6%である。
P:0.015%以下
Pは、鋼中に不可避的不純物として存在し、結晶粒界に偏析して鋼の耐遅れ破壊性および靱性を劣化させるため、その含有量はできるだけ低いことが望ましい。特に、P含有量が0.015%を超えると劣化が著しいため、P含有量は、0.015%以下に限定する。好ましくは0.012%以下である。
S:0.005%以下
Sは、鋼の延性および靱性を劣化させる不可避的不純物元素である。その含有量が0.005%を超えると、このような悪影響が顕在化してくることから、S含有量は0.005%以下に限定する。好ましくは0.003%以下である。
Cr:0.3〜1.5%
Crは、焼入れ性を高める働きを通じて、硬さおよび靱性の双方の向上に有効である。Cr含有量が0.3%未満の場合、上記の効果が充分ではない。一方、その含有量が1.5%を超えると、加工性を著しく劣化させるとともに靱性を著しく劣化させる。このため、Cr含有量は0.3〜1.5%とする。好ましい下限は0.5%であり、好ましい上限は1.2%である。
Al:0.03〜0.08%
Alは、スラブ加熱時にAlNを生成することにより初期オーステナイト粒の過成長を効果的に抑制する。Al含有量が0.03%未満ではその効果が少ない。一方、その含有量が0.08%を超えると、加工性を著しく劣化させるとともに靱性が著しく劣化する。このため、Al含有量は0.03〜0.08%とする。好ましい下限は0.04%であり、好ましい上限は0.07%である。なお、本発明のAl含有量とは、酸可溶Al(所謂「sol.Al」)を指す。
Ti:0.005〜0.02%
Tiは、微細なTiNとなってNを固定し、加熱時のピンニング効果を発揮し、オーステナイト粒の成長を抑制するばかりでなく、B添加時には有効Bのオーステナイト粒界への偏析を助けて、焼入れ性を高める効果を合わせ持つ。これらの効果は、その含有量が0.005%未満では得られない。一方、その含有量が0.02%を超えると、加工性を著しく劣化させるとともにTiNの粗大化が顕著化し靱性を低下させる。このため、Ti含有量は0.005〜0.02%とする。好ましい下限は0.008%であり、好ましい上限は0.016%である。
B:0.0005〜0.003%
Bは、焼入れ性を著しく向上させる極めて重要な元素である。その含有量が0.0005%未満では効果が少ない。その含有量が0.003%を超えると、加工性を著しく劣化させるとともに靱性を著しく劣化させる。このため、B含有量は0.0005〜0.003%とする。好ましい下限は0.001%であり、好ましい上限は0.002%である。
N:0.005%以下
Nは、鋼中に不可避的に含有する不純物である。多量に存在する場合にはHAZ靭性の悪化原因となる。また、N含有量が0.005%を超えると、加工性を著しく劣化させるとともに母材、HAZともに靱性が劣化するのを避けることができない。よって、N含有量は0.005%以下とする。好ましくは0.004%以下である。
O:0.003%以下
Oも、鋼中に不可避的に含有する不純物である。O含有量が増すと鋼中の非金属介在物が増し、加工性を著しく劣化させるとともに低温靱性を損なう。これを回避するために、O含有量は0.003%以下とする。
Mo:0〜1.5%、
Moは、母材の強度と靱性を向上させる効果があるので、必要に応じて含有させてもよい。その含有量が過剰な場合、特にHAZの硬さが高まり、靱性と耐SSC性を損なう。よって、Moを含有させる場合にはその含有量を1.5%以下とする。効果的に母材の強度と靭性を向上させるには、その含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Ni:0〜1.5%、
Niは固溶状態において鋼のマトリックス(生地)の靭性を高める効果があるので、必要に応じて含有させてもよい。その含有量が過剰な場合、合金コストの上昇に見合った特性の向上が得られない。よって、Niを含有させる場合にはその含有量を1.5%以下とする。効果的に母材の靭性を向上させるには、その含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Cu:0〜1.0%、
Cuは、強度をより向上させる効果があるので、必要に応じて含有させてもよい。その含有量が過剰な場合、と合金コストの上昇に見合った特性の向上が得られない。よって、Cuを含有させる場合にはその含有量を1.0%以下とする。効果的に母材の強度を向上させるには、その含有量を0.05%以上とすることが好ましい。
Nb:0〜0.1%、
Nbは、スラブ加熱時に結晶粒の粗大化を抑制する効果がある他、焼入れ時にも同様の効果を発揮し組織の微細化に有効である。さらに、焼戻し時に粒内にNb(C,N)として析出し、降伏強度向上に寄与する働きを有する。このため、必要に応じて含有させてもよい。その含有量が過剰な場合、析出物の粗大化が顕著になり靱性を低下させる。よって、Nbを含有させる場合にはその含有量を0.1%以下とする。効果的にこれらの効果を得るには、その含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
V:0〜0.1%、
Vは、鋼の焼入れ性向上効果があり、さらに焼戻し処理時の析出効果により鋼板の強度を高めることもできるので、必要に応じて含有させてもよい。その含有量が過剰な場合、析出物の粗大化が顕著になり靱性を低下させる。よって、Vを含有させる場合にはその含有量を0.1%以下とする。効果的にこれらの効果を得るには、その含有量を0.01%以上とすることが好ましい。
Ca:0〜0.01%、
Caは、含有させると非金属介在物が球状化し、低温靱性を向上させることができるので、必要に応じて含有させてもよい。その含有量が過剰な場合、CaO,CaS等の介在物が多量に生成して鋼の靱性を損なううえ、鋼の加工性を著しく劣化させる。よって、Caを含有させる場合にはその含有量を0.01%以下とする。効果的にこの効果を得るには、Ca含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
Mg:0〜0.01%、
Mgも、含有させると非金属介在物が球状化し、低温靱性を向上させることができるので、必要に応じて含有させてもよい。その含有量が過剰な場合、MgO,MgS等の介在物が多量に生成して鋼の靱性を損なううえ、鋼の加工性を著しく劣化させる。このため、Mgを含有させる場合にはその含有量を0.01%以下とする。効果的にこの効果を得るには、Mg含有量を0.001%以上とすることが好ましい。
本発明に係る耐磨耗鋼板は、上記で掲げる元素をそれぞれ適切な範囲で含有し、残部はFeおよび不純物である化学組成を有する。ここで、不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
(B)鋼板の硬さおよび組織について
(B−1)軟化層について
優れた耐摩耗および加工性を兼備した鋼板を得るためには、鋼板内部の硬さを低下させることなく、鋼板の表裏面の極一部のみに加工性の高い軟質層を設けることが有効である。ここで、通常の焼入れプロセスを採用して得た鋼板の場合、表面から0.2mm程度までの領域は、脱炭により軟化傾向はあるが、それよりも深い領域では、焼きが入った硬質組織が形成される。そして、この程度の薄い軟化層では加工性を向上させることができない。
本発明者らは、曲げ加工性を向上させるために必要な軟化層の厚さについて詳細に検討した結果、耐摩耗性を確保するには、鋼板のそれぞれの表面から1.0mm以上の領域の硬さを確保する必要がある一方で、それよりも表面側の領域に十分な厚さの軟化層を設けることが重要であることがわかった。本発明者らは、鋭意研究を重ね、前記鋼板の板厚方向において、鋼板の表面から0.5mm位置のビッカース硬さH1と、該表面から1.5mm位置のビッカース硬さH2との差(H2−H1)が、曲げ加工性と相関があり、特に、この差(H2−H1)を30以上とすることにより耐磨耗性を低下させることなく、加工性を向上できることを突き止めた。差(H2−H1)は、35以上であることが好ましく、40以上であることがより好ましい。
なお、上記の硬さについては、前記鋼板の少なくとも一方の表面がこの条件を満足しておれば、優れた加工性を備える鋼板が得られるが、鋼板の両方の表面がこの条件を満足していてもよい。
このように、本発明の耐磨耗鋼板は、鋼板の少なくとも一方の表面の極一部のみに軟質層を形成しているので、各種構造部材への加工時には優れた加工性を発揮する一方で、各種構造部材として鋼板が使用されるときには、その初期段階において軟化層が消失し、その後は、良好な耐磨耗性を発揮することができる。
(B−2)鋼板内部の硬さについて
上述のように、本発明は、鋼板の少なくとも一方の表面の極一部のみに軟質層を設けることにより加工性を向上させるものであるが、優れた耐磨耗性を確保するためには、鋼板内部が十分に硬いことが重要である。特に、鋼板のそれぞれの表面から0.7mm位置における硬さが低すぎると、耐磨耗性を確保することが難しい。よって、鋼板のそれぞれの表面から0.7mm位置のブリネル硬さは、350以上であることが必要である。この位置におけるブリネル硬さは、380以上であることが好ましく、400以上であることがより好ましい。
(B−3)金属組織について
鋼板の耐磨耗性を確保するためには、鋼板内部をマルテンサイト主体の金属組織とする必要がある。具体的には、鋼板のそれぞれの表面から0.5mm以上0.25t(t:板厚(mm))以下の領域における金属組織が、90%以上のマルテンサイト組織であることが必要である。ここで、マルテンサイトには、焼戻しマルテンサイトが含まれる。マルテンサイト以外の組織(ベイナイトおよびフェライト組織)が10%を超える場合には、耐摩耗性の制御が困難となるからである。この領域における金属組織は、93%以上のマルテンサイト組織であることが好ましく、95%以上のマルテンサイト組織であることがより好ましい。
(C)鋼板の製造方法
(C−1)スラブ加熱について
まず、上記(A)で説明した化学組成を有するスラブを用意する。スラブの製造方法については通常の方法を採用すればよい。例えば、インゴット法を採用してもよいが、コスト低減の観点からは、連続鋳造法を採用することが好ましい。
スラブの加熱温度は、鋳造時に析出したTi、B等の粗大介在物を固溶させて、微細結晶温度域を拡大させるため、1000℃以上とする必要がある。一方、加熱温度が高すぎると、旧オーステナイトの粗粒化を招き、靭性が低下する。よって、スラブの加熱温度は1000〜1200℃とする。好ましい下限は1050℃であり、好ましい上限は1160℃である。
ここで、「スラブ」とは、鋼塊、ブルーム、ビレット等の総称である。スラブの厚さは問わないが、鋼板を製造する際、温度制御しながら、圧下を行うため、少なくとも仕上げ厚さの3倍以上の厚さとするのがよい。仕上げ厚の5倍以上の厚さとすることがより好ましい。また、鋼板の製造効率の観点から、スラブの厚さは仕上げ厚さの10倍以下であることが好ましい。
(C−2)熱間圧延について
鋼板内部の硬さを確保するためには、圧延時に、鋼板組織を細粒化するのが有効である。このため、再結晶域での制御圧延を実施するのがよい。なお、鋼板組織の細粒化は、靭性向上にも有効である。
本発明の耐磨耗鋼板の製造方法においては、再結晶領域である850℃以上の温度域で圧延を行う。再結晶領域における圧延は、鋼板組織を再結晶化するとともに、オーステナイト粒径を細粒化する必要がある。オーステナイト粒径を十分に細粒化するためには、スラブ厚さに対する累積圧下率を50%以上とする必要がある。この累積圧下率の上限は、特に規定しないが、最終的に得られる厚鋼板の板厚を考えれば、再結晶領域での累積圧下率の上限は75%となる。
なお、熱間圧延の温度が低すぎると、圧延荷重の増大を招くとともに、次工程である焼入れを直接焼入れによって行うことができなくなる。よって、熱間圧延の完了温度は、750℃以上とする必要がある。熱間圧延の完了温度は、800℃以上とするのが好ましい。
(C−3)焼入れについて
焼入れでは、いわゆる直接焼入れを行い、熱間圧延後の鋼板に焼きを入れる。すなわち、前工程である圧延工程を750℃以上で完了させ、そのまま680℃以上の温度域から500℃以下の温度域まで冷却を行う。焼入れ性を確保するため、さらに高温の域から焼入れを行うことが好ましく、焼入れは750℃以上の温度域から行うことが好ましい。
このとき、鋼板のそれぞれの表面から0.25t(t:板厚(mm))位置における平均冷却速度は、下記式から求められるVc(℃/s)以上であることが必要である。このような条件で冷却することによって、鋼板のそれぞれの表面から0.5mm以上0.25t(t:板厚(mm))以下の領域における金属組織を、90%以上のマルテンサイト組織とすることが可能となる。
Figure 0006569319
ただし、上記式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
ここで、焼入れ後に、焼戻しを行う通常の熱処理によって、表層に軟化層を形成することも可能ではあるが、鋼板内部まで軟化が生じて、硬さが低減し、耐摩耗性の確保が困難となることが予想される。従って、熱間圧延後直接焼入れプロセスにおいて、冷却を一旦中断したときに生じる復熱を利用した部分的な焼戻しを行うのが有効である。
すなわち、冷却途中において、少なくとも一回、前記鋼板の少なくとも一方の表面温度が300℃以下となり、その後400℃以上に複熱する熱履歴を経ることが重要である。このような熱履歴を経た鋼板表面は、表層が軟質の焼戻しマルテンサイト組織となり、内部がマルテンサイト組織となる。その結果、上記の「(B)鋼板の硬さおよび組織について」において説明した各構成要件をする鋼板を得ることが可能となる。上記の複熱は、複数回行ってもよい。
上記の復熱の熱履歴を実現させる方法としては、直接水冷時の冷却制御が有効である。すなわち、間隔をあけて設置した水冷装置に熱間圧延鋼板を通過させて冷却する。このとき、冷却の過程において、鋼板の表面温度が一旦300℃以下となっても、鋼板内部は圧延温度に近い高温ままである。このため、鋼板の表面温度が一旦300℃以下となった後の冷却装置間で、冷却を一旦停止することで鋼板の表面の400℃以上に復熱させることが可能となる。その結果、上記の複熱を生じさせた鋼板表面は、その表層が焼戻しマルテンサイト組織となり、軟化層が形成される。複熱温度は、鋼板内部の硬さを維持するためには460℃以下に制限することが好ましい。
上記の複熱後は、再度、冷却装置による冷却を実施する。このとき、鋼板のそれぞれの表面から0.25t(t:板厚(mm))位置における平均冷却速度をVc(℃/s)以上となるように冷却することで、鋼板内部については潜熱の影響で焼き戻しされず、マルテンサイト組織となる。その結果、鋼板の極表層のみに軟化層を形成するとともに、鋼板内部の硬さを確保することが可能となる。
なお、上記の条件を満足すれば、複熱を生じさせた鋼板表面が焼戻しマルテンサイト組織となり、内部に向かってマルテンサイト組織の割合が増えていくことになる。ただし、焼入れ条件によっては、鋼板内部の金属組織が焼戻しマルテンサイトとなることもあるが、前記の(B−1)および(B−2)に掲げる硬さの条件ならびに(B−3)に掲げる金属組織の条件を満足する限り、問題がない。
表1に示す化学組成を有するスラブを得た。得られたスラブに表2に示す条件で、加熱、熱間圧延および直接焼入れを実施して鋼板を得た。得られた鋼板の性能を以下の方法で評価した。その結果を表3に示す。
<ビッカース硬さ試験>
JIS Z 2244に従って、鋼板のC方向断面について、ビッカース硬さHV(1kg)を測定した。具体的には、一方の表面から0.5mm位置のビッカース硬さH1と、該表面から1.5mm位置のビッカース硬さH2とを測定した。
<ブリネル硬さ試験>
JIS Z 2243に従って、鋼板のZ方向断面について、鋼板表面から0.7mm位置のブリネル硬さHBW(10/3000)を測定した。
<曲げ試験(加工性評価)>
鋼板の表裏面で特性の差異はほとんどないことから、鋼板の片面からのみJIS1号試験片を圧延方向と平行に採取し、曲げ試験を実施した。曲げ半径2.5t(tは板厚)で割れが生じないものを合格(○)、割れが生じたものを不合格(×)と判断した。
<マルテンサイト分率>
鋼板のL方向断面について、ナイタールにてエッチング後、500倍でミクロ組織の観察を行い、鋼板表面から0.5mm以上0.25t(t:板厚(mm))以下の領域における、マルテンサイト分率を測定した。
Figure 0006569319
Figure 0006569319
Figure 0006569319
表3に示すように、試験No.26〜32は、本発明で規定される範囲の化学組成を有するものの、製造条件が本発明で規定される範囲を外れる例である。これらの例は、マルテンサイト分率および/またはビッカース硬さの差(H2−H1)が本発明で規定される範囲を外れている。その結果、No.27、28および32は、加工性が劣化していた。また、No.26、29〜32は、ブリネル硬さが本発明で規定される範囲を外れており、特に、耐磨耗性が劣化していた。また、試験No.33〜43は、製造条件は本発明で規定される範囲内であるものの、本発明で規定される化学組成を有していない例である。これらの例では、いずれも加工性が劣化していた。
これに対して、本発明で規定される条件を全て満足する試験No.1〜25は、優れた耐摩耗性と加工性を有していた。
本発明によれば、優れた耐摩耗および加工性を兼備した耐摩耗鋼板を提供することができる。この耐摩耗鋼板は、例えば、土木、鉱山用の建設機械、大型の産業機械など耐摩耗性が求められる機械構成部材として用いるのに好適である。

Claims (4)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.12〜0.30%、
    Si:0.01〜1.0%、
    Mn:0.5〜2.0%、
    P:0.015%以下、
    S:0.005%以下、
    Cr:0.3〜1.5%、
    Al:0.03〜0.08%、
    Ti:0.005〜0.02%、
    B:0.0005〜0.003%、
    N:0.005%以下、
    O:0.003%以下、
    Mo:0〜1.5%、
    Ni:0〜1.5%、
    Cu:0〜1.0%、
    Nb:0〜0.1%、
    V:0〜0.1%、
    Ca:0〜0.01%、
    Mg:0〜0.01%、
    残部:Feおよび不純物である耐磨耗鋼板であって、
    前記鋼板の板厚方向において、前記鋼板の少なくとも一方の表面から0.5mm位置のビッカース硬さH1と、該表面から1.5mm位置のビッカース硬さH2との差(H2−H1)が、30以上であり、
    前記鋼板のそれぞれの表面から0.7mm位置のブリネル硬さが、350以上であり、
    前記鋼板のそれぞれの表面から0.5mm以上0.25t(t:板厚(mm))以下の領域における金属組織が、90%以上のマルテンサイト組織である、
    耐摩耗鋼板。
  2. 質量%で、
    Mo:1.5%以下、Ni:1.5%以下、Cu:1.0%以下、Nb:0.1%以下V:0.1%以下、Ca:0.01%以下およびMg:0.01%以下から選択される1種以上を含有する、
    請求項1に記載の耐摩耗鋼板。
  3. 前記鋼板のそれぞれの表面が焼戻しマルテンサイト組織である、
    請求項1または2に記載の耐摩耗鋼板。
  4. 下記(1)〜(3)の工程を備える、請求項1から請求項3までのいずれかに記載の耐摩耗鋼板の製造方法。
    (1)請求項1から請求項3までのいずれかに記載の化学組成を備えたスラブを1000〜1200℃に加熱する加熱工程、
    (2)前記スラブを熱間で圧延して鋼板を得るに際して、850℃以上の温度域におけるスラブ厚さに対する累積圧下率が50%以上であり、かつ750℃以上の温度域で圧延を完了する熱間圧延工程、および、
    (3)前記鋼板を680℃以上の温度域から500℃以下の温度域まで冷却するに際して、前記鋼板のそれぞれの表面から0.25t(t:板厚(mm))位置における平均冷却速度が下記式から求められるVc(℃/s)以上であり、かつ冷却途中に少なくとも一回、前記鋼板の少なくとも一方の表面温度が300℃以下となり、その後400℃以上に複熱する熱履歴を経る焼入れ工程。
    Figure 0006569319
    ただし、上記式中の各元素記号は、それぞれの元素の含有量(質量%)を意味する。
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