特許文献2に記載のビスマス系ガラスは、選択したガラス組成によって非結晶性のガラスになったり、結晶性ガラスになる場合がある。さらに、結晶性のガラスであっても、析出結晶量が十分でなく、結晶析出後の熱処理工程でガラスが再軟化しやすい性質を有している。
一般的に、ビスマス系ガラスは、鉛硼酸系ガラスと比べて熱的安定性が乏しく、つまり高温域で失透しやすく、結晶の析出をコントロールすることが困難である。それ故、ビスマス系ガラスの結晶性を高めようとすると、封着工程で十分にガラスが流動する前に、ガラスが結晶化して、封着材料としての機能を発揮できない場合がある。
また、析出結晶の熱膨張係数が結晶化前の結晶性ビスマス系ガラスの熱膨張係数と整合していない場合、結晶性ビスマス系ガラスに結晶が析出すると、析出結晶の影響で結晶性ビスマス系ガラスの熱膨張係数が変動する。具体的には、析出結晶の熱膨張係数が結晶化前の結晶性ビスマス系ガラスの熱膨張係数より高ければ、結晶化後の結晶性ビスマス系ガラスの熱膨張係数は、結晶化前の結晶性ビスマス系ガラスの熱膨張係数より高くなる。それ故、平面表示装置等の用途に結晶性ビスマス系ガラスを用いる場合、結晶析出前の結晶性ビスマス系ガラスの熱膨張係数のみならず、結晶析出後の結晶性ビスマス系ガラスの熱膨張係数を被封着物、例えばガラス基板等と整合させる必要がある。仮に、結晶析出前後で結晶性ビスマス系ガラスの熱膨張係数が不当に上昇すれば、結晶化後にガラス基板等にクラック等が発生し、平面表示装置等の気密信頼性を確保することができなくなる。
そこで、本発明は、封着工程で良好に軟化流動した後に十分な量の結晶が析出することに加えて、結晶析出後の加熱工程、例えば真空排気工程で再流動することがなく、しかも結晶化前後の熱膨張係数の不当な上昇を抑制することができる結晶性ビスマス系ガラス組成物およびこれを用いた結晶性ビスマス系材料を得ることを技術的課題とする。
本発明者は、鋭意努力の結果、ビスマス系ガラスのガラス組成を、モル%で、Bi2O3 30〜50%、B2O3 5〜25%、ZnO+CuO 31.2〜50%、ZnO 15〜40%、CuO 0.1〜25%、Fe2O3 0〜5%、SiO2+Al2O3 0〜7%、BaO+SrO+MgO+CaO 0〜6%、Sb2O3 0〜5%、WO3 0〜5%、In2O3+Ga2O3 0〜5%に規制するとともに、実質的にPbOを含有させないことで上記課題を解決できることを見出し、本発明として提案するものである。ここで、本発明でいう「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中のPbOの含有量が1000ppm以下の場合を指す。また、本発明でいう「結晶性」とは、示差熱分析(DTA)の測定(空気中、昇温速度10℃/分、室温から測定開始)で600℃までに結晶化ピークが発現するものを指す。
本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、ガラス組成が上記のように厳密に規制されているため、結晶の析出(結晶析出のタイミング、結晶化温度等)を容易にコントロールすることができる。すなわち、本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、低温で良好な流動性を示し、低温で封着することができる。その上、軟化流動後に十分な量の結晶が析出するため、結晶化後の熱処理工程でガラスが再軟化し難く、例えば真空排気工程でガラスが再軟化し難く、平面表示装置等の気密性が損なわれることがない。
本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、Bi2O3を一定量以上含有させている。このようにすれば、ガラスの軟化点を効果的に下げることができ、500℃以下の温度で良好に封着することができる。
結晶性ビスマス系ガラスの場合、熱処理工程後に種々の結晶、具体的にはBi2O3等のBi2O3系結晶、2Bi2O3・B2O3、12Bi2O3・B2O3等のBi2O3−B2O3系結晶、Bi2O3・B2O3・ZnO等のBi2O3−B2O3−ZnO系結晶等が析出する。上述の通り、本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、ガラスを低融点化するためにガラス組成中にBi2O3を一定量以上含有させている。しかし、Bi2O3の含有量が多ければ、結晶性ビスマス系ガラスに12Bi2O3・B2O3結晶が析出しやすくなる。12Bi2O3・B2O3結晶は、熱膨張係数が約160×10-7/℃であることから、この結晶が析出すると、結晶化後に結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数が不当に上昇し、ガラス基板等の熱膨張係数と不整合が生じ、封着後にクラック等が生じやすくなり、平面表示装置等の気密性を確保し難くなる。
そこで、本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、CuOを一定量以上含有させている。ガラス組成中にCuOを一定量以上含有させると、熱処理工程でBi2O3・CuO結晶を析出させることができる。本発明者は、Bi2O3・CuO結晶を析出させると、12Bi2O3・B2O3結晶の析出を効果的に抑制できることを見出した。また、Bi2O3・CuO結晶の熱膨張係数は、約95×10-7/℃であり、結晶化後に結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数を不当に上昇させる虞もない。すなわち、本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、熱処理工程でBi2O3・CuO結晶を析出させることができるため、ガラス組成中のBi2O3含有量が多い場合であっても、結晶性ビスマス系ガラスの低融点化効果を損なうことなく、12Bi2O3・B2O3結晶の析出を抑制することができるとともに、結晶化後に結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数が不当に上昇する事態を回避し、平面表示装置等の気密性を確実に維持することができる。
さらに、本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、ガラス組成中に実質的にPbOを含有しない。このようにすれば、近年の環境的要請を的確に満たすことができる。
第二に、本発明の結晶性ビスマス系材料は、体積%で、上記の結晶性ビスマス系ガラス粉末40〜100%、耐火性フィラー粉末0〜60%含有することに特徴付けられる。なお、本発明の結晶性ビスマス系材料は、耐火性フィラー粉末を添加することなく、上記の結晶性ビスマス系ガラス粉末のみで構成されていてもよい。
第三に、結晶性ビスマス系材料は、結晶化温度よりも20℃低い温度で20分間焼成した焼成体を試料とし、押棒式熱膨張係数測定(TMA)装置で測定したときに、ガラス転移点および屈伏点が認められないことに特徴付けられる。このようにすれば、結晶性ビスマス系材料の結晶化度を飛躍的に高めることができるとともに、結晶性ビスマス系材料が流動した後の熱処理工程でガラスが軟化変形し難くなる。なお、本発明でいう「結晶化温度」は、DTAで測定した値を指す。また、焼成体を焼成する際の昇降温速度は、10℃/分とする。
第四に、結晶性ビスマス系材料は、結晶化温度より20℃低い温度で20分間焼成した後に、Bi2O3・CuO結晶が析出することに特徴付けられる。なお、Bi2O3・CuO結晶の同定は、X線回折法を用いて行う。また、焼成体を焼成する際の昇降温速度は、10℃/分とする。
第五に、結晶性ビスマス系材料は、470℃20分間の条件で焼成した焼成体を粉末試料とし、X線回折法で測定したときに、Bi2O3・CuO結晶のピーク強度が12Bi2O3・B2O3結晶のピーク強度よりも大きいことに特徴付けられる。このようにすれば、12Bi2O3・B2O3結晶の析出を確実に抑制することができるとともに、結晶化前後で結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数が上昇し難くなる。Bi2O3・CuO結晶のピーク強度を12Bi2O3・B2O3結晶のピーク強度より大きくするには、例えば、結晶性ビスマス系ガラスのガラス組成中のCuO含有量を10モル%以上とすればよい。なお、焼成体を焼成する際の昇降温速度は、10℃/分とする。また、12Bi2O3・B2O3結晶の同定は、X線回折法を用いて行う。X線回折法による測定に際し、焼成体は、めのう乳鉢を用いて、平均粒子径D50が約5μmとなるように粉砕する。X線回折は、スキャンスピード4°/分、スキャン幅0.01°、電圧40kV、電流40mA、測定角度5〜60°とする。
第六に、結晶性ビスマス系材料は、結晶性ビスマス系材料の軟化点をT1(℃)、結晶性ビスマス系材料の結晶化温度をT2(℃)としたときに、(T2−T1)>70℃の関係を満たすことに特徴付けられる。このようにすれば、結晶性ビスマス系ガラスが結晶化する前に、結晶性ビスマス系材料が十分に軟化変形することから、結晶性ビスマス系材料の流動性を向上させることができるとともに、結晶性ビスマス系材料の封着強度を向上させることができる。なお、本発明でいう「軟化点」とは、マクロ型DTAで測定した値を指す。
第七に、本発明の結晶性ビスマス系材料は、耐火性フィラー粉末が、ZnO含有耐火性フィラー粉末であることに特徴付けられる。ZnO含有耐火性フィラー粉末を用いれば、熱膨張係数が低い結晶、例えばBi2O3・B2O3・ZnO系の結晶を析出させやすくなり、結晶性ビスマス系ガラスの結晶化後に結晶性ビスマス系材料の低膨張化を図ることができる。さらに、熱膨張係数が低い結晶を析出できれば、耐火性フィラーの含有量が少なくても、結晶化後に結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数を低下させることができるから、融材である結晶性ビスマス系ガラスの含有比率を高めることができ、結晶性ビスマス系材料の流動性を高めることができる。なお、平面表示装置等の場合、結晶性ビスマス系材料で構成される封着層に圧縮応力層を形成すれば、機械的応力や熱衝撃で封着層が破壊し難くなり、長期に亘って気密性を確保することができる。したがって、耐火性フィラー粉末として、ZnO含有耐火性フィラー粉末を用いれば、封着層に圧縮応力層を形成しやすくなり、平面表示装置等の信頼性を向上させることができる。
第八に、本発明の結晶性ビスマス系材料は、耐火性フィラー粉末が、ウイレマイト、酸化亜鉛、ガーナイト、ZnO・Al2O3・SiO2より選ばれた一種または二種以上であることに特徴付けられる。
第九に、本発明の結晶性タブレットは、結晶性ビスマス系材料を所定形状に焼結させた結晶性タブレットであって、該結晶性タブレットが上述の結晶性ビスマス系材料であることに特徴付けられる。なお、本発明の結晶性タブレットは、特に形状は限定されないが、排気管の固定を想定した場合、リング状であることが好ましい。
第十に、本発明のタブレット一体型排気管は、拡径された排気管の先端部に、上述の結晶性タブレットが取り付けられていることに特徴付けられる。ここで、本発明において、「排気管の先端部」とは、拡径化された排気管の表面部位を指し、拡径化された部分においてパネルと接する排気管底面および排気管外周側面を指す。また、結晶性タブレットは、排気管の先端部のみに接着される態様だけでなく、排気管の先端部の一部に接着される態様を含む。
第十一に、本発明のタブレット一体型排気管は、拡径された排気管の先端部に、上述の結晶性タブレットと、軟化点が520℃以上の高融点タブレットとが取り付けられており、且つ結晶性タブレットが拡径された排気管の先端部側に取り付けられ、高融点タブレットが結晶性タブレットよりも後端部側に取り付けられていることに特徴付けられる。
第十二に、本発明の結晶性ビスマス系材料は、平面表示装置または電子部品の封着材料に使用することに特徴付けられる。
第十三に、本発明の平面表示装置または電子部品は、上記の結晶性ビスマス系材料で封着した平面表示装置または電子部品であって、該結晶性ビスマス系材料で形成される封着層にBi2O3・CuO結晶が析出していることに特徴付けられる。なお、Bi2O3・CuO結晶の同定は、X線回折法を用いて行う。
第十四に、本発明の結晶性ビスマス系材料は、平面表示装置または電子部品の隔壁形成材料に使用することに特徴付けられる。
第十五に、本発明の結晶性ビスマス系材料は、平面表示装置または電子部品のサイドフレーム形成材料に使用することに特徴付けられる。
本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物において、ガラス組成範囲を上記のように限定した理由は下記の通りである。なお、以下の%表示は、特に断りがある場合を除き、モル%を指す。
Bi2O3は、ガラスの軟化点を下げるための主要成分であり、また析出結晶の結晶構成成分となる。その含有量は30〜50%、好ましくは31.5〜50%、より好ましくは33〜45%、更に好ましくは35〜43%である。Bi2O3の含有量が30%より少ないと、ガラスの軟化点が上昇し、500℃以下の温度で焼成し難くなる。Bi2O3の含有量が50%より多いと、ガラスの耐失透性が悪化し、封着工程で十分にガラスが流動する前に、ガラスが結晶化して、封着材料としての機能を発揮できない虞が生じる。
B2O3は、ビスマス系ガラスのガラスネットワークを構成するために必須成分である。その含有量は5〜25%、好ましくは10〜25%、より好ましくは15〜24%である。B2O3の含有量が5%より少ないと、ガラスの耐失透性が悪化し、封着工程で十分にガラスが流動する前に、ガラスが結晶化して、封着材料としての機能を発揮できない虞が生じる。B2O3の含有量が25%より多いと、ガラスの軟化点が上昇し、500℃以下の温度で焼成し難くなる。
ZnOおよびCuOは、溶融時にガラスの失透を抑制する効果があり、またビスマス系材料に適切な結晶を析出させるために必要な成分である。その含有量は、合量(ZnO+CuO)で31.2〜50%、好ましくは32〜40%である。これらの含有量が31.2%より少ないと、熱処理工程でガラスにBi2O3・CuO結晶が析出し難くなるとともに、12Bi2O3・B2O3結晶が析出しやすくなる。また、これらの含有量が50%より多いと、ガラス組成のバランスを欠き、かえって溶融時にガラスが失透しやすくなる。
ZnOは、溶融時にガラスの失透を抑制する効果があり、また低膨張の結晶を析出させるために必須の成分である。その含有量は15〜40%、好ましくは17〜40%、より好ましくは20〜35%である。ZnOの含有量が15%より少ないと、熱処理時にビスマス系ガラスに低膨張の結晶が析出し難くなる。ZnOの含有量が40%より多いと、ガラス組成のバランスを欠き、かえって溶融時にガラスが失透しやすくなる。
CuOは、ガラス溶融時の失透を抑制する成分であるとともに、Bi2O3・CuO結晶を析出させるために必須の成分である。その含有量は0.1〜25%、好ましくは1.3〜25%、より好ましくは3〜20%、更に好ましくは5〜18%、特に好ましくは10〜18%である。CuOの含有量が0.1%より少ないと、ビスマス系ガラスにBi2O3・CuO結晶が析出し難くなる。CuOの含有量が25%より多いと、ガラス組成のバランスを欠き、かえって溶融時にガラスが失透しやすくなる。特に、CuOの含有量を10%以上とすれば、Bi2O3・CuO結晶の析出量を的確に増加させることができるとともに、12Bi2O3・B2O3結晶の析出量を的確に減少させることができる。
Fe2O3は、溶融時にガラスの失透を抑制する成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0.1〜3%である。Fe2O3の含有量が5%より多いと、逆にガラスが熱的に不安定になる傾向がある。
SiO2およびAl2O3は、ガラスの耐候性を高める効果があり、その含有量は合量(SiO2+Al2O3)で0〜7%、好ましくは0〜5%、より好ましくは0〜1%である。これらの成分の合量が7%よりも多いと、ガラスの軟化点が高くなり、500℃以下の温度で焼成しにくい傾向がある。
BaO、SrO、MgOおよびCaOは、ガラスの溶融時の失透を抑制する効果があり、その含有量は、合量(BaO+SrO+MgO+CaO)で6%以内、好ましくは5%以内、より好ましくは4%以内である。これらの成分の合量が6%よりも多いと、ガラスの軟化点が上昇し、500℃以下の低温で焼成し難くなる。
Sb2O3は、結晶の析出時期をコントロールしやすくする成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。Sb2O3の含有量が5%より多いと、ガラス組成のバランスを欠き、ガラスが失透しやすくなり、逆に結晶の析出時期をコントロールし難くなる。
WO3は、結晶の析出時期をコントロールしやすくする成分であり、その含有量は0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。WO3の含有量が5%よりも多いと、ガラス組成のバランスを欠き、ガラスの熱的安定性を悪化させる傾向があり、逆に結晶の析出時期をコントロールし難くなる。
In2O3およびGa2O3は、結晶の析出時期をコントロールしやすくする成分であり、その含有量は合量(In2O3+Ga2O3)で0〜5%、好ましくは0〜3%、より好ましくは0〜1%である。これらの成分の合量が5%より多いと、ガラス組成のバランスを欠き、ガラスが失透しやすくなり、逆に結晶の析出時期をコントロールし難くなる。
また、本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、任意成分として、さらに種々の成分を添加させることができる。例えば、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、MoO3、La2O3、Gd2O3、Y2O5、CeO2等を10%まで添加可能である。Li2O、Na2O、K2OおよびCs2O等のアルカリ金属酸化物は、ガラスの軟化点を低くする成分である。ただし、アルカリ金属酸化物は、ガラスの失透を促進する作用を有するため、その添加量は合量で2%以下に制限するのが好ましい。La2O3、Gd2O3、Y2O5およびCeO2等の希土類酸化物は、ガラスを熱的に安定化する成分であるが、これらの成分の合量が5%より多いと、ガラスの軟化点が高くなり、500℃以下の温度で焼成しにくくなる。
以上のガラス組成を有する結晶性ビスマス系ガラス組成物は、500℃以下で良好な流動性を示す結晶性のガラスであり、30〜300℃における熱膨張係数が約90〜110×10-7/℃である。
本発明の結晶性ビスマス系材料において、結晶化温度より20℃低い温度で20分間焼成した後に、Bi2O3・CuO結晶が析出することが好ましい。このようにすれば、結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数を不当に上昇させる12Bi2O3・B2O3結晶の析出を抑制することができる。また、平面表示装置等の封着において、12Bi2O3・B2O3結晶の析出を抑制できれば、結晶化後に結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数が不当に上昇し難くなるため、被封着物のガラス基板等にクラックが生じにくくなるとともに、形成される封着層に引張応力が残留し難くなり、平面表示装置等の気密信頼性等を確保しやすくなる。
本発明の結晶性ビスマス系材料において、470℃20分間焼成した焼成体を粉末試料とし、X線回折法で測定したときに、Bi2O3・CuO結晶のピーク強度が12Bi2O3・B2O3結晶のピーク強度よりも大きいことが好ましい。このようにすれば、Bi2O3・CuO結晶の析出量に対する12Bi2O3・B2O3結晶の析出量を低減することができるため、結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数を不当に上昇させる12Bi2O3・B2O3結晶の析出を抑制することができる。また、平面表示装置等の封着において、12Bi2O3・B2O3結晶の析出を抑制できれば、結晶化後に結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数が不当に上昇し難くなるため、被封着物のガラス基板等にクラックが生じにくくなるとともに、形成される封着層に引張応力が残留し難くなり、平面表示装置等の気密信頼性等を確保しやすくなる。
本発明の結晶性ビスマス系材料において、結晶性ビスマス系材料の軟化点をT1(℃)、結晶性ビスマス系材料の結晶化温度をT2(℃)としたときに、(T2−T1)>70℃の関係を満たすことが好ましく、(T2−T1)>85℃の関係を満たすことがより好ましい。このようにすれば、結晶性ビスマス系ガラスが結晶化する前に、結晶性ビスマス系材料が十分に軟化変形することから、結晶性ビスマス系材料の流動性を向上させることができるとともに、結晶性ビスマス系材料の封着強度を向上させることができる。また、結晶性ビスマス系ガラスの軟化流動後に、適切に結晶を析出させるために、(T2−T1)<200℃の関係を満たすことが好ましく、(T2−T1)<170℃の関係を満たすことがより好ましい。なお、(T2−T1)≧200℃であっても、結晶性ビスマス系材料に結晶核を適量添加し、結晶析出温度を低下させればよい。
本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、その粒度を調整することで結晶化温度を調節することができ、二段階焼成(焼成工程が2回の場合)に対応することができる。例えば、460℃程度の低温で行う一次焼成で、ガラスの結晶化を完了させる場合には粒度を小さくすればよく、例えば平均粒子径D50を0.1〜15μm、好ましくは0.2〜100μmにすればよい。また、一次焼成で被封着物に融着させた後、二次焼成で他方の被封着物に封着しながら結晶化を完了させる場合、逆に結晶性ビスマス系ガラス組成物のガラス粉末の粒度を大きくすれば良く、例えば平均粒子径D50を10超〜100μm、好ましくは15〜100μmとすればよい。ここで、「平均粒子径D50」は、レーザー回折法で測定した値を指す。
本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物は、ガラス粉末単独でも、結晶化させることができるとともに、結晶化後に熱膨張係数を低下させることができるため、ガラス粉末単独で封着材料として使用することができる。また、ガラス基板との熱膨張係数差が適切である場合には、ガラス粉末単独で隔壁形成材料、サイドフレーム形成材料等として使用することもできる。
被封着物の熱膨張係数が低く、或いは低温で結晶化させる場合は、本発明の結晶性ビスマス系ガラス組成物からなるガラス粉末に耐火性フィラー粉末を添加し、複合材料とするのが好ましい。ガラス粉末と耐火性フィラー粉末の混合割合は、結晶性ビスマス系ガラス粉末40〜99.9体積%、耐火性フィラー粉末0.1〜60体積%であることが好ましく、結晶性ビスマス系ガラス粉末40〜99体積%、耐火性フィラー粉末1〜60体積%であることがより好ましく、結晶性ビスマス系ガラス粉末50〜95体積%、耐火性フィラー粉末5〜45体積%であることが更に好ましく、結晶性ビスマス系ガラス粉末60体積%以上90体積%未満、耐火性フィラー粉末10体積%超40体積%以下であることが特に好ましい。耐火性フィラー粉末の含有量が0.1体積%より小さいと、耐火性フィラー粉末を添加することによる効果が得難くなる。耐火性フィラー粉末の含有量が60体積%より多いと、相対的に融材であるガラス粉末の含有量が少なくなり、結晶性ビスマス系材料の流動性が損なわれる傾向がある。
本発明のビスマス系材料において、耐火性フィラー粉末として、ウイレマイト、β−ユークリプタイト、ジルコン、酸化スズ、ムライト、石英ガラス、アルミナ等を一種または二種以上組み合わせて使用することができる。
その中でも、ZnO含有耐火性フィラー粉末を添加すれば、熱膨張係数が低い結晶の析出を促進させることができるとともに、結晶化温度をより低温側にシフト、つまり結晶化温度を低温側にコントロールすることができる。ZnO含有耐火性フィラーとしては、例えばウイレマイト(2ZnO・SiO2)、ガーナイト(ZnO・Al2O3)、ZnO・Al2O3・SiO2等を一種または二種以上組み合わせて使用すればよい。特に、ウイレマイトは、熱膨張係数が小さく、上記の効果が顕著であるため、好ましい。また、結晶核として作用する耐火性フィラー粉末、例えば酸化チタン、酸化鉄等を少量(例えば、0.1〜2%)添加すれば、結晶性ビスマス系ガラスの結晶化度を調整することができる。さらに、上記の耐火性フィラー粉末以外にも、結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数の調整、流動性の調整および機械的強度の改善のために、シリカ、ジルコニア等の耐火性フィラー粉末を添加することができる。
結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数は、被封着物に対して10〜30×10-7/℃程度低く設計することが重要である。これは、封着工程後に封着材料にかかる歪を圧縮側にして封着材料の破壊を防ぐためである。例えば、PDP用高歪点ガラス基板(熱膨張係数75〜90×10-7/℃)の場合、封着材料の好適な熱膨張係数は55〜80×10-7/℃である。また、VFD用ソーダガラス基板(熱膨張係数85〜100×10-7/℃)の場合、封着材料の好適な熱膨張係数は70〜90×10-7/℃である。
結晶性ビスマス系材料は、粉末のまま使用しても良いが、ビークルと均一に混練し、ペーストとして使用すると取り扱いやすい。ビークルは、主に有機溶媒と樹脂とからなり、樹脂はペーストの粘性を調整する目的で添加される。また、必要に応じて、界面活性剤、増粘剤等を添加することもできる。作製されたペーストは、ディスペンサーやスクリーン印刷機等の塗布機を用いて塗布される。
樹脂としては、アクリル酸エステル(アクリル樹脂)、エチルセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ニトロセルロース、ポリメチルスチレン、ポリエチレンカーボネート、メタクリル酸エステル等が使用可能である。特に、アクリル酸エステル、ニトロセルロースは、熱分解性が良好であるため、好ましい。
有機溶媒としては、N、N’-ジメチルホルムアミド(DMF)、α-ターピネオール、高級アルコール、γ-ブチルラクトン(γ-BL)、テトラリン、ブチルカルビトールアセテート、酢酸エチル、酢酸イソアミル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ベンジルアルコール、トルエン、3-メトキシ-3-メチルブタノール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレンカーボネート、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン等が使用可能である。特に、α-ターピネオールは、高粘性であり、樹脂等の溶解性も良好であるため、好ましい。
本発明の結晶性ビスマス系材料は、所定形状に焼結し、結晶性タブレットとするのが好ましい。PDP等の平面表示装置において、排気管をパネルに封着させるために、リング状に成形加工された結晶性タブレット(プレスフリット、ガラス焼結体、ガラス成形体等とも称される)が用いられている。結晶性タブレットには、排気管を挿入するための挿入孔が形成されており、この挿入孔に排気管を挿入し、排気管の先端部をパネルの排気孔の位置に合わせ、クリップ等で固定される。その後、結晶性タブレットの封着温度で焼成を行い、結晶性タブレットを軟化させることにより、排気管がパネルに取り付られる。本発明の結晶性ビスマス系材料をタブレットに加工すれば、排気管の取り付けにあたって、排気設備への接続を容易にできるとともに、排気管の傾きをパネルに対して低減することができ、すなわちパネル面に対し垂直に取り付けることができ、更には平面表示装置の発光能力を維持しつつ気密性が保たれるように取り付けることができる。特に、本発明の結晶性タブレットは、結晶化前の流動性と結晶化後の耐熱性が良好であるとともに、結晶化前後で熱膨張係数が不当に上昇し難いため、PDPの排気管の固定に好適である。
本発明の結晶性タブレットは、以下のように複数回の熱工程を別途独立に経て、製造する。まず、結晶性ビスマス系材料にバインダーや溶剤を添加し、スラリーを形成する。その後、このスラリーをスプレードライヤー等の造粒装置に投入し、顆粒を作製する。その際、顆粒は、溶剤が揮発する程度の温度(100〜200℃程度)で熱処理される。さらに、作製された顆粒は、所定の寸法に設計された金型に投入され、リング状に乾式プレス成形され、プレス体が作製される。次に、ベルト炉等の焼成炉にて、このプレス体に残存するバインダーを分解揮発させるとともに、結晶性ビスマス系ガラスの軟化点程度の温度で焼成し、結晶性タブレットが作製される。また、焼成炉での焼成は、複数回行われる場合がある。焼成を複数回行うと、結晶性タブレットの強度が向上し、結晶性タブレットの欠損、破壊等を効果的に防止できる。
本発明の結晶性タブレットは、拡径された排気管の先端部に取り付けてタブレット一体型排気管として用いることが好ましい。以上のような構成にすれば、パネル、結晶性タブレットおよび排気管の3つの部品を排気孔での中心位置合わせを同時に行う必要がなく、排気管取り付け作業を簡略化することができる。このようなタブレット一体型排気管を製造するためには、排気管の一端に結晶性タブレットを接触させた状態で焼成し、結晶性タブレットを排気管の先端部に接着させておく必要がある。このような場合、一般に排気管を治具により固定し、この状態の排気管に結晶性タブレットを挿入し焼成する方法を採用することができる。排気管を固定する治具は、結晶性タブレットが融着しない材質を用いることが好ましく、例えば、カーボン治具等が使用可能である。また、排気管と結晶性タブレットの接着は、ビスマス系ガラスの軟化点付近で5〜10分程度の短時間で行えばよい。さらに、本発明の結晶性タブレットは、結晶化前の流動性が良好であるため、被封着物と結晶性タブレットの封着強度が良好である。さらに、封着工程で結晶性タブレットが流動した後に、結晶性タブレットに十分な量の結晶が析出するため、その後の熱処理工程で結晶性タブレットが軟化変形することがない。
排気管としては、アルカリ金属酸化物を所定量含有させたSiO2−Al2O3−B2O3系ガラスが好適であり、特に日本電気硝子株式会社製の商品グレード「FE−2」が好適である。この排気管は、熱膨張係数が85×10-7/℃、耐熱温度が550℃であり、寸法が、例えば外径5mm、内径3.5mmである。また、排気管の先端部分を拡径化するのが好ましく、先端部にフレア部またはフランジ部を形成するのが好ましい。排気管の先端部分を拡径化する方法として、種々の方法を採用することができる。特に、排気管の先端部を回転させながらガスバーナーを用いて加熱し、数種類の治具を用いて所定の形状に加工する方法が量産性に優れるため好ましい。
図1にこのような構成のタブレット一体型排気管の一例を示す。図1は、タブレット一体型排気管の断面図であり、排気管1の先端部が拡径化されており、排気管のパネル側の先端部分に結晶性タブレット2が接着されている。
本発明のタブレット一体型排気管は、拡径された排気管の先端部に結晶性タブレットと、520℃以上の軟化点を有する高融点タブレットとが取り付けられており、且つ結晶性タブレットを拡径された排気管の先端部側に取り付けて、高融点タブレットを結晶性タブレットよりも後端部側に取り付けることが好ましい。タブレット一体型排気管をこのような構成にすれば、結晶性タブレットが排気管の先端部側に取り付けられているので、パネル等に排気管を取り付ける際にパネル等と接触する面積は、排気管だけの場合よりも広くなり、安定してパネル等の上に排気管を自立させることができ、パネル等に対して傾くことなく垂直に取り付けることが容易となる。また、タブレット一体型排気管をこのような構成にすれば、タブレット一体型排気管を製造する工程において、結晶性タブレットを排気管に固着させる際、治具と結晶性タブレットの間に高融点タブレットを配置させることにより、タブレット一体型排気管を製造することができ、つまりタブレット一体型排気管の製造において、特殊な治具を使用する必要がなくなり、製造工程を簡略化することができる。
上記構成のタブレット一体型排気管において、結晶性タブレットは、好ましくはガラス管の先端部の外周面に固着され、さらに好ましくはガラス管の先端部の外周面のみに固着され、ガラス管先端部の先端面、すなわちパネル等と接着する面には固着されない。このようにすれば、パネル等に形成された排気孔へガラスが流れ込む事態を容易に防止できる。また、高融点タブレットは、排気管に直接接着せず、結晶性タブレットを介して排気管に固定すれば、封着工程で高融点タブレット部分をクリップで固定した状態で排気管を加圧封着できるため、好ましい。
高融点タブレットとしては、日本電気硝子株式会社製の商品グレード「ST−4」、「FN−13」を材料として用いるのが好ましい。高融点タブレットは、上述の結晶性タブレットと同様の方法で作製することができる。また、高融点タブレットの材質として、セラミックス、金属等を用いることもできる。
図2にこのような構成のタブレット一体型排気管の一例を示す。図2は、タブレット一体型排気管の断面図であり、排気管1の先端部が拡径化されており、排気管1のフランジ部分1a外周面側の先端部分に結晶性タブレット2が接着している。一方、高融点タブレット3は排気管1の外周面側に接着していない。また、結晶性タブレット2は、フランジ部分1aの先端部側に取り付けられて、高融点タブレット3が結晶性タブレット2よりもフランジ部分1aの後端部側に取り付けられている。
本発明の結晶性ビスマス系材料は、平面表示装置の封着に使用することが好ましい。平面表示装置は、できるだけ低温で封着することができれば、それだけ製造効率が向上するとともに、蛍光体等の他部材の特性劣化を防止できる。本発明のビスマス系材料は低温で封着可能であるため、平面表示装置に好適に使用することができる。また、本発明の結晶性ビスマス系材料は、電子部品の封着に使用することが好ましい。電子部品は、高温で特性が劣化する部材を使用する場合がある。その場合、本発明の結晶性ビスマス系材料は、低温で封着可能であるため、耐熱性の乏しい部材の特性を劣化させることなく、好適に使用することができる。
本発明の結晶性ビスマス系材料は、PDPの封着に使用することが好ましい。PDPでは、封着工程の後、排気管を通してPDP内部を真空排気した後、希ガスを必要量注入して排気管を封止する。この真空排気工程は、排気効率、製造効率を上げるため、できるだけ高温で行うことが好ましい。この点、本発明のビスマス系材料は、ガラスが流動した後に結晶が多く析出するため、その後の真空排気工程で再軟化し難く、排気温度を上昇させることができる。同様の理由により、本発明の結晶性ビスマス系材料は、前面ガラス基板と背面ガラス基板の封着材料としても好適である。
本発明の平面表示装置または電子部品は、上記の結晶性ビスマス系材料で封着した平面表示装置または電子部品であって、該結晶性ビスマス系材料で形成される封着層にBi2O3・CuO結晶が析出している。封着層にBi2O3・CuO結晶が析出することによる作用効果は、既述であるため、ここでは、便宜上、その記載を省略する。
本発明の結晶性ビスマス系材料は、平面表示装置または電子部品の隔壁形成材料として使用することが好ましい。本発明の結晶性ビスマス系材料は、低温で焼結可能であることに加えて、焼結後に十分な量の結晶が析出するため、その後の熱処理工程で寸法変化が生じ難い。さらに、フィラー粉末を一定量含有させれば、隔壁の機械的強度、寸法安定性を更に高めることができる。なお、本発明の結晶性ビスマス系材料は、低温で焼結可能であるとともに結晶化後の耐熱性に優れることから、隔壁の一部を形成する目的、つまり隔壁の欠損部分を修復する目的で使用することもできる。
本発明の結晶性ビスマス系材料は、平面表示装置または電子部品のサイドフレーム(支持枠、側面スペーサー)形成材料として使用することが好ましい。このように使用すれば、ガラス基板の表面にサイドフレームを直接形成できるため、平面表示装置等のコストダウンを図ることができる。
本発明の結晶性ビスマス系材料は、結晶性ビスマス系ガラス組成物のガラス組成を上記範囲に規制していることから、サイドフレームの焼結工程後に結晶が析出する。すなわち、サイドフレーム形成の際、緻密なサイドフレームを形成することできるとともに、サイドフレームの寸法精度を容易に向上させることができる。さらに、ガラス粉末に耐火物フィラー粉末を添加させ得るため、サイドフレームの熱膨張係数の調整およびサイドフレームの機械的強度の向上を容易に図ることができる。それ故、平面表示装置の装置内部が真空状態であっても、平面表示装置を確実に支持することができるとともに、平面表示装置に機械的衝撃が与えられても、サイドフレームを起点にクラックが発生し難くなる。また、本発明の結晶性ビスマス系材料は、ガラス組成を上記範囲に規制していることから、高歪点ガラス基板の歪点以下の温度(例えば、570℃以下)で焼結させることができるとともに、高歪点ガラス基板の歪点以下の温度でサイドフレームを形成することが可能となる。更に、高歪点ガラス基板の歪点以下の温度で背面ガラス基板とサイドフレームを強固に融着させることができるとともに、その後の熱処理工程(封着工程、真空排気工程)でサイドフレームが軟化変形し、寸法変化が生じ難い。
特に、本発明の結晶性ビスマス系材料は、FEDのサイドフレームに使用することが好ましい。本発明の結晶性ビスマス系材料は、結晶の析出を制御しやすいため、サイドフレームの寸法精度を向上させることができる。その結果、前面ガラス基板と背面ガラス基板の間隔を均一にすることができ、FEDの装置内部で前面ガラス基板と背面ガラス基板の間に印加される加速電圧にばらつきが生じたり、蛍光体に衝突する電子の速度が変化したりして、FEDの輝度特性に悪影響を及ぼす事態が生じ難い。本発明でいうFEDには、各種の電子放出素子を有する各種形式のFEDがすべて含まれる点は言うまでもない。
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。
(実施例1)
表1、2は、本発明の実施例に係る結晶性ビスマス系ガラス組成物(試料a〜h)、本発明の比較例に係る結晶性ビスマス系ガラス組成物(試料i、j)を示している。
表1、2に記載の各試料は次のようにして調製した。
まず、表中に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて900〜1200℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部をステンレス製の金型に流し出し、熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点の測定用試料とした。その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより、薄片状に成形した。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き200メッシュの篩いを通過させて、平均粒径約10μmとし、軟化点、結晶化温度の測定用試料とした。
以上の試料を用いて熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点、軟化点、結晶化温度について評価した。
熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点は、TMA装置により求めた。熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲で測定した。
軟化点、結晶化温度は、マクロ型DTA装置により求めた。
表3、4は、本発明の実施例に係る結晶性ビスマス系材料(試料No.1〜10)を示しており、表5は、本発明の比較例に係る結晶性ビスマス系材料(試料No.11、12)を示している。
表3〜5に示す割合でガラス粉末と耐火性フィラー粉末を混合し、結晶性ビスマス系材料(試料No.1〜12)を作製した。
耐火物フィラーとしては、ウイレマイト、二酸化スズ(錫石)、アルミナおよびコーディエライトを用いた。ウイレマイトの平均粒子径D50は14μm、二酸化スズの平均粒子径D50は13μm、アルミナの平均粒子径D50は5μm、コーディエライトの平均粒子径D50は11.5μmであった。
以上の試料を用いて、軟化点、結晶化温度、熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点、流動径を評価した。
軟化点、結晶化温度は、マクロ型DTAにより求めた。
熱膨張係数、ガラス転移点および屈伏点は、表3〜5中に記載の焼成温度で20分間焼成した試料を用いて、TMA装置により求めた。熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲で測定した。
流動径は、結晶性ビスマス系材料の真比重に相当する重量の粉末を金型により外径20mmのボタン状にプレスし、空気中にて10℃/分の速度で昇温した後、表4〜6に記載の焼成温度で20分間保持し、10℃/分の速度で降温したときのボタンの直径を測定し、評価した。
焼成後の本発明の結晶性ビスマス系材料(実施例No.1、焼成条件500℃20分)のTMAデータを図3に示す。図3から明らかなように、試料No.1は、焼成後にガラス転移点、屈伏点が測定できないことが分かる。同様に、試料No.2〜10についても、焼成後にガラス転移点、屈伏点が測定できなかった。
表3、4から明らかなように、試料No.1〜10の結晶性ビスマス系材料は、30〜300℃における熱膨張係数がソーダガラス基板や高歪点ガラス基板等にマッチングしており、封着材料として好適であると考えられる。また、試料No.1〜10の結晶性ビスマス系材料は、表中に示した焼成条件で19mm以上の流動径を示し、良好な流動性を有していることに加えて、軟化変形してから結晶化するため、ガラス基板等に強固に融着しており、封着性能も優れていると考えられる。さらに、試料No.1〜10の結晶性ビスマス系材料は、耐火物フィラーとしてウイレマイト、二酸化スズまたはアルミナを用いており、非結晶性のガラス材料特有の性質であるガラス転移点、屈伏点が500℃以下の温度領域で観察されなかった。それ故、試料No.1〜10の結晶性ビスマス系材料は、高密度に結晶化している(結晶化度が高い)と考えられる。
一方、表5に示す試料No.11は、耐火物フィラー粉末としてウイレマイトを使用し、ボタン表面はマット状態であったものの、ガラス転移点が確認でき、低密度に結晶化している(結晶化度が低い)と考えられる。試料No.12は、耐火物フィラー粉末としてコーディエライトを使用しているが、ボタン表面はマット状態であったものの、ガラス転移点が確認でき、低密度に結晶化している(結晶化度が低い)と考えられる。
(実施例2)
表6は本発明の実施例(試料k〜m)に係る結晶性ビスマス系ガラス組成物を示している。
表6に記載の各試料は次のようにして調製した。
まず、表中に示したガラス組成となるように各種酸化物、炭酸塩等の原料を調合したガラスバッチを準備し、これを白金坩堝に入れて900〜1200℃で1〜2時間溶融した。次に、溶融ガラスの一部をステンレス製の金型に流し出し、熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点の測定用試料とした。その他の溶融ガラスは、水冷ローラーにより、薄片状に成形した。最後に、薄片状のガラスをボールミルにて粉砕後、目開き200メッシュの篩いを通過させて、平均粒径約10μmとし、軟化点、結晶化温度の測定用試料とした。
以上の試料を用いて熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点、軟化点、結晶化温度について評価した。
熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点は、TMA装置により求めた。熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲で測定した。
軟化点、結晶化温度は、マクロ型DTA装置により求めた。
次に、表7に示す割合でガラス粉末と耐火性フィラー粉末を混合し、本発明の実施例(試料No.13〜15)に係る結晶性ビスマス系材料を作製した。
耐火物フィラーとしては、ウイレマイトを用いた。ウイレマイトの平均粒子径D50は14μmであった。
以上の試料を用いて、軟化点、結晶化温度、熱膨張係数、ガラス転移点、屈伏点、流動径を評価した。
軟化点、結晶化温度は、マクロ型DTAにより求めた。
熱膨張係数、ガラス転移点および屈伏点は、表7に記載の焼成温度で20分間焼成した試料を用いて、TMA装置により求めた。熱膨張係数は、30〜300℃の温度範囲で測定した。
流動径は、結晶性ビスマス系材料の真比重に相当する重量の粉末を金型により外径20mmのボタン状にプレスし、空気中にて10℃/分の速度で昇温した後、表7に記載の焼成温度で20分間保持し、10℃/分の速度で降温したときのボタンの直径を測定し、評価した。
試料No.13〜15の結晶性ビスマス系材料は、表中に示した焼成条件で19mm以上の流動径を示し、良好な流動性を有していることに加えて、軟化変形してから結晶化するため、ガラス基板等に強固に融着しており、封着性能も優れていると考えられる。また、試料No.13〜15の結晶性ビスマス系材料は、耐火物フィラーとしてウイレマイトを用いており、非結晶性のガラス材料特有の性質であるガラス転移点、屈伏点が500℃以下の温度領域で観察されなかった。それ故、試料No.13〜15の結晶性ビスマス系材料は、高密度に結晶化している(結晶化度が高い)と考えられる。
さらに、焼成後の試料No.13〜15について、X線回折を行った。X線回折は、株式会社島津製作所製RINT2000を用いて、スキャンスピード4°/分、スキャン幅0.01°、電圧40kV、電流40mA、測定角度5〜60°で行った。結果を図4に示す。図4(a)は、表7の試料No.15のX線回折データ、(b)は、表7の試料No.14のX線回折データ、(c)は、表7の試料No.13のX線回折データを示している。
図4から明らかなように、ガラス組成中のCuO含有量が多くなるにつれて、Bi2O3・CuO結晶の結晶化ピークが大きくなるとともに、12Bi2O3・B2O3結晶の結晶化ピークが小さくなっている。その影響で、ガラス組成中のCuO含有量が多くなるにつれて、結晶化後に結晶性ビスマス系材料の熱膨張係数が小さくなっている。